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特許6906472ダイカスト装置及び加圧鋳造品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906472
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】ダイカスト装置及び加圧鋳造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/00 20060101AFI20210708BHJP
   B22D 17/22 20060101ALI20210708BHJP
   B22D 17/32 20060101ALI20210708BHJP
   B22C 9/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   B22D17/00 A
   B22D17/22 E
   B22D17/32 J
   B22C9/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-87273(P2018-87273)
(22)【出願日】2018年4月27日
(65)【公開番号】特開2019-188459(P2019-188459A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2020年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】593017670
【氏名又は名称】株式会社アルテックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 明宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慶太
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−110561(JP,A)
【文献】 特開平10−029050(JP,A)
【文献】 特開2014−151351(JP,A)
【文献】 特開平08−281409(JP,A)
【文献】 特開平09−300057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 15/00−17/32
B22C 5/00− 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換し、前記キャビティ内に充填した溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造するダイカスト装置であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記第1排出路は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記キャビティ内と連通することで前記キャビティ内のガスを排出する一方、前記スクイズピンが前記キャビティ内から後退した状態で前記キャビティ内との連通が遮断され、
前記ダイカスト装置は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段を備え
前記排出経路は、一端が前記金型内で前記第1排出路に接続され、他端が前記酸素濃度測定手段に接続された第3排出路を含み、
前記酸素濃度測定手段は、前記スクイズピンの進退によって、前記キャビティ内との連通及び遮断が切り替えられることを特徴とするダイカスト装置。
【請求項2】
金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換し、前記キャビティ内に充填した溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造するダイカスト装置であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記第1排出路は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記キャビティ内と連通することで前記キャビティ内のガスを排出する一方、前記スクイズピンが前記キャビティ内から後退した状態で前記キャビティ内との連通が遮断され、
前記ダイカスト装置は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段を備え、
前記排出経路は、前記第1排出路とは別に、前記キャビティ内と外部とを連通する第2排出路を含み、
前記ダイカスト装置は、さらに、
前記第2排出路を開放及び遮断可能な制御弁を備え、
前記第1排出路が前記キャビティ内と連通するときに、前記制御弁が前記第2排出路を遮断することを特徴とするダイカスト装置。
【請求項3】
前記キャビティ内に酸素を供給する供給時間を制御する酸素供給制御手段をさらに備え、
前記酸素供給制御手段は、前記酸素濃度測定手段によって測定された前記酸素濃度が所定の閾値以下である場合には、前記供給時間を長くし、
前記酸素濃度が前記所定の閾値よりも大きい場合には、前記供給時間を短くする請求項1又は2記載のダイカスト装置。
【請求項4】
金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換する酸素置換工程と、
前記キャビティ内に溶湯を充填し、前記溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造する鋳造工程と、を有する加圧鋳造品の製造方法であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記酸素置換工程は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記第1排出路を前記キャビティ内と連通させ、前記第1排出路を介して前記キャビティ内のガスを排出する排出工程を含み、
前記製造方法は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を酸素濃度測定手段によって測定する酸素濃度測定工程を有し
前記排出経路は、一端が前記金型内で前記第1排出路に接続され、他端が前記酸素濃度測定手段に接続された第3排出路を含み、
前記酸素濃度測定手段は、前記スクイズピンの進退によって、前記キャビティ内との連通及び遮断が切り替えられることを特徴とする加圧鋳造品の製造方法。
【請求項5】
金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換する酸素置換工程と、
前記キャビティ内に溶湯を充填し、前記溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造する鋳造工程と、を有する加圧鋳造品の製造方法であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記酸素置換工程は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記第1排出路を前記キャビティ内と連通させ、前記第1排出路を介して前記キャビティ内のガスを排出する排出工程を含み、
前記製造方法は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定工程を有し、
前記排出経路は、前記第1排出路とは別に、前記キャビティ内と外部とを連通する第2排出路を含み、
前記排出工程では、前記第2排出路を遮断することを特徴とする加圧鋳造品の製造方法。
【請求項6】
前記酸素置換工程では、前記酸素濃度測定工程において測定された前記酸素濃度が所定の閾値以下である場合には、前記キャビティ内に酸素を供給する供給時間を長くし、
前記酸素濃度が前記所定の閾値よりも大きい場合には、前記供給時間を短くする請求項4又は5記載の加圧鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイカスト装置及び加圧鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来のダイカスト装置が開示されている。このダイカスト装置は、金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介してキャビティ内のガスを外部に排出することでキャビティ内を酸素で置換し、キャビティ内に充填した溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−223610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のダイカスト装置において、キャビティは、例えば袋小路形状部のようなガスが澱み易い部分を含んでいることが多く、その澱み易い部分を酸素で置換することが不十分になる可能性がある。この場合、加圧鋳造品にガス巣が発生することを抑制し難くなるおそれがあり、ひいては、加圧鋳造品の後工程における不良率が増加するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、加圧鋳造品にガス巣が発生することを抑制でき、ひいては、加圧鋳造品の後工程における不良率の低下を実現できるダイカスト装置及び加圧鋳造品の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のダイカスト装置は、金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換し、前記キャビティ内に充填した溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造するダイカスト装置であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記第1排出路は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記キャビティ内と連通することで前記キャビティ内のガスを排出する一方、前記スクイズピンが前記キャビティ内から後退した状態で前記キャビティ内との連通が遮断され、
前記ダイカスト装置は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段を備え
前記排出経路は、一端が前記金型内で前記第1排出路に接続され、他端が前記酸素濃度測定手段に接続された第3排出路を含み、
前記酸素濃度測定手段は、前記スクイズピンの進退によって、前記キャビティ内との連通及び遮断が切り替えられていることを特徴とする。
【0007】
本発明のダイカスト装置では、スクイズピンに形成された第1排出路は、スクイズピンがキャビティ内に進入した状態で、キャビティ内と連通する。そして、キャビティ内に酸素が供給されることにより、第1排出路がキャビティ内のガスを排出する。このため、キャビティの澱み易い部分にスクイズピンを配置することで、その澱み易い部分を酸素でより一層置換できる。
【0008】
さらに、このダイカスト装置では、酸素濃度測定手段が第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する。この際、酸素濃度測定手段は、第1排出路とは異なる経路で排出されるガスの酸素濃度を測定する場合と比較して、キャビティの澱み易い部分に対応する酸素濃度を好適に測定できる。そして、酸素濃度測定手段によって測定された酸素濃度に基づいて、キャビティの澱み易い部分を酸素で置換できたか否かを判断できるので、加圧鋳造品の良否を精度良く判定できる。
【0009】
したがって、本発明のダイカスト装置では、加圧鋳造品にガス巣が発生することを抑制でき、ひいては、加圧鋳造品の後工程における不良率の低下を実現できる。
【0010】
本発明のダイカスト装置は、金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換し、前記キャビティ内に充填した溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造するダイカスト装置であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記第1排出路は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記キャビティ内と連通することで前記キャビティ内のガスを排出する一方、前記スクイズピンが前記キャビティ内から後退した状態で前記キャビティ内との連通が遮断され、
前記ダイカスト装置は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段を備え、
前記排出経路は、前記第1排出路とは別に、前記キャビティ内と外部とを連通する第2排出路を含み、
前記ダイカスト装置は、さらに、
前記第2排出路を開放及び遮断可能な制御弁を備え
前記第1排出路が前記キャビティ内と連通するときに、前記制御弁が前記第2排出路を遮断することを特徴とする。
【0011】
この場合、キャビティ内のガスが第1排出路のみを介して排出される期間を設けることができる。その結果、キャビティの澱み易い部分を酸素でより一層置換できる。
【0012】
本発明のダイカスト装置は、キャビティ内に酸素を供給する供給時間を制御する酸素供給制御手段をさらに備えていることが望ましい。そして、酸素供給制御手段は、酸素濃度測定手段によって測定された酸素濃度が所定の閾値以下である場合には、供給時間を長くし、酸素濃度が所定の閾値よりも大きい場合には、供給時間を短くすることが望ましい。
【0013】
この場合、不良品の発生を抑制しつつ、キャビティ内に酸素を供給する供給時間を短くできるので、生産性の向上を実現できる。
【0014】
本発明の加圧鋳造品の製造方法は、金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換する酸素置換工程と、
前記キャビティ内に溶湯を充填し、前記溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造する鋳造工程と、を有する加圧鋳造品の製造方法であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記酸素置換工程は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記第1排出路を前記キャビティ内と連通させ、前記第1排出路を介して前記キャビティ内のガスを排出する排出工程を含み、
前記製造方法は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を酸素濃度測定手段によって測定する酸素濃度測定工程を有し
前記排出経路は、一端が前記金型内で前記第1排出路に接続され、他端が前記酸素濃度測定手段に接続された第3排出路を含み、
前記酸素濃度測定手段は、前記スクイズピンの進退によって、前記キャビティ内との連通及び遮断が切り替えられることを特徴とする。
【0015】
本発明の加圧鋳造品の製造方法では、酸素置換工程は、スクイズピンがキャビティ内に進入した状態でスクイズピンに形成された第1排出路を介してキャビティ内のガスを排出する排出工程を含んでいる。この排出工程では、第1排出路がキャビティ内と連通し、キャビティ内に酸素が供給されることにより、第1排出路がキャビティ内のガスを排出する。このため、キャビティの澱み易い部分にスクイズピンを配置することで、その澱み易い部分を酸素でより一層置換できる。
【0016】
さらに、この加圧鋳造品の製造方法では、酸素濃度測定工程において第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する。この際、酸素濃度測定工程では、第1排出路とは異なる経路で排出されるガスの酸素濃度を測定する場合と比較して、キャビティの澱み易い部分に対応する酸素濃度を好適に測定できる。そして、酸素濃度測定工程において測定された酸素濃度に基づいて、キャビティの澱み易い部分を酸素で置換できたか否かを判断できるので、加圧鋳造品の良否を精度良く判定できる。
【0017】
したがって、本発明の加圧鋳造品の製造方法では、加圧鋳造品にガス巣が発生することを抑制でき、ひいては、加圧鋳造品の後工程における不良率の低下を実現できる。
【0018】
本発明の加圧鋳造品の製造方法は、金型のキャビティ内に酸素を供給し、排出経路を介して前記キャビティ内のガスを外部に排出することで前記キャビティ内を酸素で置換する酸素置換工程と、
前記キャビティ内に溶湯を充填し、前記溶湯をスクイズピンによって局所的に加圧して加圧鋳造品を製造する鋳造工程と、を有する加圧鋳造品の製造方法であって、
前記排出経路は、前記スクイズピンに形成された第1排出路を含み、
前記酸素置換工程は、前記スクイズピンが前記キャビティ内に進入した状態で前記第1排出路を前記キャビティ内と連通させ、前記第1排出路を介して前記キャビティ内のガスを排出する排出工程を含み、
前記製造方法は、さらに、
前記第1排出路を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定工程を有し、
前記排出経路は、前記第1排出路とは別に、前記キャビティ内と外部とを連通する前記第2排出路を含み、
前記排出工程では、前記第2排出路を遮断することを特徴とする。
【0019】
この場合、酸素置換工程において、キャビティ内のガスが第1排出路のみを介して排出される期間を設けることができる。その結果、キャビティの澱み易い部分を酸素でより一層置換できる。
【0020】
酸素置換工程では、酸素濃度測定工程において測定された酸素濃度が所定の閾値以下である場合には、キャビティ内に酸素を供給する供給時間を長くし、酸素濃度が所定の閾値よりも大きい場合には、供給時間を短くすることが望ましい。
【0021】
この場合、不良品の発生を抑制しつつ、キャビティ内に酸素を供給する供給時間を短くできるので、生産性の向上を実現できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のダイカスト装置及び加圧鋳造品の製造方法は、加圧鋳造品にガス巣が発生することを抑制でき、ひいては、加圧鋳造品の後工程における不良率の低下を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例のダイカスト装置の模式断面図であって、鋳造工程において溶湯の充填を開始する状態を示す図である。
図2図2は、実施例のダイカスト装置の部分模式断面図であって、型開きされた状態を示す図である。
図3図3は、図2と同様の部分模式断面図であって、酸素置換工程を説明する図である。
図4図4は、図2と同様の部分模式断面図であって、鋳造工程を実行する前の状態を示す図である。
図5図5は、図2と同様の部分模式断面図であって、鋳造工程において溶湯が充填された状態を示す図である。
図6図6は、図2と同様の部分模式断面図であって、鋳造工程において充填された溶湯がスクイズピンによって局所的に加圧された状態を示す図である。
図7図7は、図2と同様の部分模式断面図であって、鋳造工程の後、型開きされた状態を示す図である。
図8図8は、実施例のダイカスト装置による加圧鋳造品の製造工程を説明するフローチャートの前半を示す図である。
図9図9は、実施例のダイカスト装置による加圧鋳造品の製造工程を説明するフローチャートの後半を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(実施例)
図1に示すように、実施例のダイカスト装置1は、本発明の「ダイカスト装置」の具体的態様の一例である。また、ダイカスト装置1によって加圧鋳造品を製造する方法は、本発明の「加圧鋳造品の製造方法」の具体的態様の一例である。ダイカスト装置1によって製造される加圧鋳造品は、本実施例では、各種の機械を構成するハウジングや可動部品等のアルミダイカスト製品である。なお、本発明は、アルミニウム以外の金属を素材とする加圧鋳造品にも適用可能である。
【0026】
図1に示すように、ダイカスト装置1は、金型11、油圧シリンダ5、油圧制御回路10C、スクイズピン4、スクイズピン位置検出機20及びダイカスト制御部10を備えている。金型11の近傍には、ダイカスト装置1に連動して動作する製品取出装置50が設置されている。
【0027】
図1図7に示すように、金型11は、固定金型12と可動金型13とからなる。固定金型12と可動金型13とは、図示しない型締装置に保持されている。可動金型13は、図示しない型締装置が作動することにより、固定金型12に対して当接及び離間する。図1及び図3図6に示すように、固定金型12と可動金型13との間に、キャビティ11Aが形成される。キャビティ11Aはカップ形状となっており、そのカップ形状の中央部に、有底丸穴である袋小路形状部11Fが形成されている。
【0028】
図1等に示すように、固定金型12には、プランジャスリーブ15及び射出プランジャ16が設けられている。プランジャスリーブ15は、円筒状をなして固定金型12に接続されている。射出プランジャ16は、プランジャスリーブ15内に進退可能に収容されている。
【0029】
プランジャスリーブ15の内部空間は、ゲート15Gを介してキャビティ11Aに連通している。ゲート15Gは、キャビティ11Aのカップ形状の周縁部の下端に設けられている。プランジャスリーブ15における固定金型12から突出する部分には、注湯口15H及び酸素供給孔15Bが径方向において貫通するように形成されている。
【0030】
図3に示すように、射出プランジャ16は、プランジャスリーブ15内で後退することにより、注湯口15Hを閉じた状態でプランジャスリーブ15内と酸素供給孔15Bとを連通させる。また、図1及び図4に示すように、射出プランジャ16は、プランジャスリーブ15内でさらに後退することにより、注湯口15Hを開放する。図1に示すように、注湯口15Hが開放された状態で、ラドル15Aによって、プランジャスリーブ15内に溶湯A1が供給される。
【0031】
図1等に示すように、可動金型13には、押し出しピン13Aが進退可能に設けられている。図示は省略するが、押し出しピン13Aは、可動金型13及び固定金型12が型開きした状態で、キャビティ11A内に突出可能となっている。
【0032】
図1等に示すように、油圧シリンダ5は、固定金型12に設けられている。油圧シリンダ5は、シリンダ室5Aとピストン5Bとを有している。シリンダ室5Aにおけるキャビティ11Aとは反対側には、油圧配管5Cの一端が接続されている。シリンダ室5Aにおけるキャビティ11A側には、油圧配管5Dの一端が接続されている。油圧配管5Cの他端と油圧配管5Dの他端とは、図1に示す油圧制御回路10Cに接続されている。
【0033】
油圧制御回路10Cは、図示しない流路切替弁、油圧ポンプ及び作動油タンク等を含んで構成されている。ピストン5Bは、シリンダ室5A内に進退可能に収容されている。ピストン5Bにおけるキャビティ11A側を向く前面と、ピストン5Bにおけるキャビティ11Aとは反対側を向く背面とによって、シリンダ室5Aが2つに分割されている。
【0034】
シリンダ室5Aにおけるピストン5Bの前面と対向する面には、ストッパ5Sが形成されている。ストッパ5Sは、ピストン5Bに向かって円筒状に突出している。
【0035】
スクイズピン4は、ピストン5Bに一体に形成された略円柱軸体である。スクイズピン4は、ピストン5Bの前面からキャビティ11Aに向かって突出している。スクイズピン4は、キャビティ11A内の袋小路形状部11Fに進入可能な位置に配置されている。
【0036】
図6に示すように、ピストン5Bの背面とシリンダ室5Aとによって区画される空間に油圧配管5Cを経由して作動油が供給される一方で、ピストン5Bの前面とシリンダ室5Aとによって区画される空間から油圧配管5Dを経由して作動油が排出されることにより、スクイズピン4が前進してキャビティ11A内の袋小路形状部11Fに進入する。
【0037】
そして、図2に示すように、ピストン5Bの背面とシリンダ室5Aとによって区画される空間に作動油がさらに供給される一方で、ピストン5Bの前面とシリンダ室5Aとによって区画される空間から作動油がさらに排出されることにより、スクイズピン4がさらに前進する。そして、ピストン5Bの前面がストッパ5Sに当て止まることにより、スクイズピン4は、キャビティ11A内の袋小路形状部11Fに最も進入した状態、すなわち、前進限まで移動した状態となる。
【0038】
図3に示すスクイズピン4の状態も、キャビティ11A内の袋小路形状部11Fに最も進入した状態、すなわち、前進限まで移動した状態である。
【0039】
図4に示すように、ピストン5Bの前面とシリンダ室5Aとによって区画される空間に油圧配管5Dを経由して作動油が供給される一方で、ピストン5Bの背面とシリンダ室5Aとによって区画される空間から油圧配管5Cを経由して作動油が排出されることにより、スクイズピン4がキャビティ11A内の袋小路形状部11Fから後退する。そして、ピストン5Bの後面がシリンダ室5Aにおけるキャビティ11Aとは反対側に位置する内壁面に当て止まることにより、スクイズピン4は、キャビティ11A内の袋小路形状部11Fから最も後退した状態、すなわち、後退限まで移動した状態となる。
【0040】
図1及び図5に示すスクイズピン4の状態も、キャビティ11A内の袋小路形状部11Fから最も後退した状態、すなわち、後退限まで移動した状態である。
【0041】
図6及び図7に示すスクイズピン4の状態は、キャビティ11A内の袋小路形状部11Fに進入しているが、前進限まで移動していない状態である。
【0042】
図1に示すスクイズピン位置検出機20は、本実施例ではダイカスト制御部10とは別体の装置であって、ダイカスト制御部10との間で各種信号を送受信可能に構成されている。なお、スクイズピン位置検出機20をダイカスト制御部10の一部として構成することも可能である。
【0043】
スクイズピン位置検出機20は、スクイズピン4が図2等に示す前進限の位置にあるか否か、また、スクイズピン4が図1等に示す後端限の位置にあるか否か、を図示しない位置検出センサによって検出する。
【0044】
また、スクイズピン位置検出機20は、図1に示す流量センサ20Sによって、油圧配管5C、5D内を流通する作動油の流量に検出し、スクイズピン4が図1等に示す後端限の位置からどのくらい前進したか、また、スクイズピン4が図2等に示す前端限の位置からどのくらい後退したか、を間接的に検出する。
【0045】
スクイズピン位置検出機20によって検出されたスクイズピン4の位置情報は、ダイカスト制御部10に伝達される。
【0046】
図1に示すダイカスト制御部10は、CPU等の演算処理装置と、ROM、RAM、HDD等の記憶装置と、電動モータ、油圧ポンプ、電磁弁等を制御する制御装置とを含んで構成されている。
【0047】
ダイカスト制御部10は、図示しない型締装置の型締めや型開きの動作、射出プランジャ16の進退動作、ラドル15Aの注湯動作、及び押し出しピン13Aの進退動作等を制御する。
【0048】
また、ダイカスト制御部10は、スクイズピン位置検出機20によって検出されたスクイズピン4の位置情報を参照しつつ油圧制御回路10Cを作動させて、スクイズピン4の進退動作を制御する。
【0049】
図1に示すように、ダイカスト装置1は、さらに、酸素供給制御装置40、第1排出路71、第2排出路72、第3排出路73、酸素濃度測定機30、換気制御弁73V及び制御弁72Vを備えている。これらは、無孔性(Pore Free)ダイカスト法を実施するためのものである。
【0050】
酸素供給制御装置40は、本発明の「酸素供給制御手段」の一例である。酸素濃度測定機30は、本発明の「酸素濃度測定手段」の一例である。
【0051】
酸素供給制御装置40は、本実施例ではダイカスト制御部10とは別体の装置であって、ダイカスト制御部10との間で各種信号を送受信可能に構成されている。なお、酸素供給制御装置40をダイカスト制御部10の一部として構成することも可能である。
【0052】
酸素供給制御装置40は、CPU等の演算処理装置と、ROM、RAM、HDD等の記憶装置と、図示しない酸素供給源からの酸素の供給を制御する電磁弁とを含んで構成されている。酸素供給制御装置40は、酸素供給経路41によって、図示しない酸素供給源とプランジャスリーブ15の酸素供給孔15Bとを接続している。
【0053】
図3に示すように、酸素供給制御装置40は、射出プランジャ16が後退して注湯口15Hを閉じ、かつプランジャスリーブ15内と酸素供給孔15Bとが連通した状態で、酸素供給経路41を介してキャビティ11A内に酸素を供給する。
【0054】
第1排出路71、第2排出路72及び第3排出路73は、キャビティ11A内のガスを金型11の外部に排出する排出経路を構成している。
【0055】
第1排出路71は、複数本の直線溝71Aと、円環溝71Bとを含んでいる。各直線溝71Aは、スクイズピン4の外周面に凹設されてスクイズピン4の軸心方向に延びている。円環溝71Bは、スクイズピン4の外周面を一周するように凹設されて、各直線溝71Aと連通している。
【0056】
第1排出路71の各直線溝71Aにおけるキャビティ11A側の端部は、スクイズピン4がキャビティ11A内の袋小路形状部11Fに最も進入した状態、すなわち、前進限まで移動した状態において、キャビティ11A内と連通する。
【0057】
その一方、図1等に示すように、第1排出路71の各直線溝71Aにおけるキャビティ11A側の端部は、スクイズピン4がキャビティ11A内の袋小路形状部11Fから最も後退した状態、すなわち、後退限まで移動した状態において、キャビティ11A内との連通が遮断される。
【0058】
図示は省略するが、各直線溝71Aにおけるキャビティ11A側の端部と、キャビティ11A内との連通及び遮断の切り替えは、スクイズピン4が前進限と後退限との間で移動する途中に行われる。
【0059】
図1図7に示すように、第1排出路71の各直線溝71Aにおけるキャビティ11Aから離間した部位には、スクイズピン4の進退にかかわらず、第3排出路73の一端が接続されている。第3排出路73は、第1排出路71と直列に接続されるように金型11の内部に形成され、金型11の外部まで延びている。
【0060】
図1に示すように、酸素濃度測定機30は、第3排出路73の他端に接続されている。酸素濃度測定機30は、本実施例ではダイカスト制御部10とは別体の装置であるが、ダイカスト制御部10の一部として構成することも可能である。また、酸素濃度測定機30は、本実施例では酸素供給制御装置40とは別体の装置であるが、酸素供給制御装置40の一部として構成することも可能である。酸素濃度測定機30は、酸素供給制御装置40との間で各種信号を送受信可能に構成されている。
【0061】
酸素濃度測定機30は、第1排出路71を介して第3排出路73に排出されるガスの酸素濃度M1を測定する。酸素濃度測定機30としては、各種の測定原理によって酸素濃度を測定する複数種類の酸素センサから適宜選択することができる。それらの酸素センサの構成は周知であるので、説明は省略する。
【0062】
換気制御弁73Vは、第3排出路73の他端側に接続されている。換気制御弁73Vは、酸素供給制御装置40からの制御信号によって開閉し、第3排出路73を換気可能となっている。
【0063】
換気制御弁73Vの開閉制御は、酸素濃度測定機30による酸素濃度測定の精度向上を実現するように適宜選択される。本実施例では、換気制御弁73Vは、酸素濃度測定機30が第1排出路71を介して第3排出路73に排出されるガスの酸素濃度M1を測定する前に一時的に開いて第3排出路73を換気する。
【0064】
第2排出路72は、固定金型12と可動金型13とが型締された状態で、固定金型12と可動金型13との間に形成される通路である。第2排出路72の下端は、キャビティ11Aのカップ形状の周縁部の上端に接続している。第2排出路72は、固定金型12及び可動金型13の上端まで上向きに延びている。つまり、第2排出路72は、第1排出路71及び第3排出路73とは別に、キャビティ11A内と金型11の外部とを連通する。
【0065】
制御弁72Vは、第2排出路72の上端に接続されている。制御弁72Vは、酸素供給制御装置40からの制御信号によって、第2排出路72を開放及び遮断可能となっている。
【0066】
制御弁72Vの開閉制御は、酸素供給制御装置40がキャビティ11A内に酸素を供給するときに、キャビティ11A内の酸素置換効率の向上を実現するように適宜選択される。本実施例では、制御弁72Vは、第1排出路71がキャビティ11A内と連通する期間のうちの一部の期間において、第2排出路72を遮断する。
【0067】
このような構成であるダイカスト装置1は、図8及び図9に示すフローチャートに従って、ダイカスト制御部10及び酸素供給制御装置40が連携して制御を行うことにより、図7に示す加圧鋳造品A2の製造を行う。
【0068】
初めに、ステップS101において、酸素供給制御装置40は、無孔性ダイカスト法を実施するための初期設定を行う。具体的には、酸素供給制御装置40は、後述するステップS121で用いる酸素濃度の所定の閾値G1を設定する。また、酸素供給制御装置40は、第1供給時間T1及び第2供給時間T2を設定する。第1供給時間T1と第2供給時間T2との合計がキャビティ11A内に酸素を供給する供給時間である。本実施例では、第1供給時間T1は変動する値である。第2供給時間T2は一定値である。さらに、酸素供給制御装置40は、第1供給時間T1の下限値T1minと、第1供給時間T1の補正値Tcvとを設定する。
【0069】
次に、ステップS102に移行すると、酸素供給制御装置40は、換気制御弁73Vを一時的に開いて第3排出路73を換気する。
【0070】
次に、ステップS103に移行すると、ダイカスト制御部10は、油圧制御回路10Cを作動させてスクイズピン4を前進させる。そして、図2に示すように、ダイカスト制御部10は、スクイズピン4をキャビティ11A内の袋小路形状部11Fに最も進入した状態、すなわち、前進限まで移動した状態として、キャビティ11A内と第1排出路71とを連通させる。
【0071】
次に、ステップS104に移行すると、ダイカスト制御部10は、型開きされた固定金型12及び可動金型13に対して離型剤をスプレー塗布した後、図示しない型締装置を制御して、固定金型12及び可動金型13を型締する。
【0072】
次に、ステップS105に移行すると、図3に示すように、ダイカスト制御部10は、射出プランジャ16を後退させ、注湯口15Hを閉じ、かつプランジャスリーブ15内と酸素供給孔15Bとが連通した状態とする。これにより、酸素供給制御装置40の酸素供給経路41と、プランジャスリーブ15とが接続される。
【0073】
次に、ステップS106に移行すると、酸素供給制御装置40は、制御弁72Vを制御して、第2排出路72を遮断する。
【0074】
次のステップS111〜S116は、本発明の「酸素置換工程」及び「排出工程」の一例である。つまり、本実施例では、酸素置換工程の最初から最後まで、スクイズピン4がキャビティ11A内に進入した状態で第1排出路71をキャビティ11A内と連通させ、第1排出路71を介してキャビティ11A内のガスを排出する排出工程が実行される。
【0075】
ステップS111に移行すると、図3に示すように、酸素供給制御装置40は、キャビティ11A内への酸素供給を開始するとともに、タイマ計測を開始する。キャビティ11A内のガスは、キャビティ11A内に到達した酸素に押し出されて、第1排出路71を介して第3排出路73に排出される。
【0076】
次に、ステップS112に移行すると、酸素供給制御装置40は、タイマ計測時間が第1供給時間T1を経過したか否かを判断する。ステップS112において「No」の場合、ステップS111、S112を繰り返す。その一方、ステップS112において「Yes」の場合、タイマ計測をリセットしてステップS113に移行する。第1供給時間T1は、キャビティ11A内のガス、特に袋小路形状部11Fにおいて澱んだガスが第1排出路71のみを介して排出される時間でもある。
【0077】
ステップS113に移行すると、酸素供給制御装置40は、制御弁72Vを制御して、第2排出路72を開放する。
【0078】
次に、ステップS114に移行すると、酸素供給制御装置40は、キャビティ11A内への酸素供給を継続するとともに、タイマ計測を再び開始する。キャビティ11A内のガスは、キャビティ11A内にさらに到達した酸素に押し出されて、第1排出路71を介して第3排出路73に排出されるとともに、第2排出路72を介して金型11の外部に排出される。
【0079】
次に、ステップS115に移行すると、酸素供給制御装置40は、タイマ計測時間が第2供給時間T2を経過したか否かを判断する。ステップS115において「No」の場合、ステップS114、S115を繰り返す。その一方、ステップS115において「Yes」の場合、キャビティ11A内への酸素供給を終了するとともに、タイマ計測をリセットしてステップS116に移行する。第2供給時間T2は、キャビティ11A内のガスが第1排出路71及び第2排出路72を介して排出される時間でもある。
【0080】
ステップS116に移行すると、酸素供給制御装置40は、制御弁72Vを制御して、第2排出路72を遮断する。このようなステップS111〜S116により、キャビティ11A内のガスが酸素で置換される。
【0081】
次のステップS120は、本発明の「酸素濃度測定工程」の一例である。ステップS120に移行すると、酸素供給制御装置40は、酸素濃度測定機30に制御信号を伝達し、第1排出路71を介して第3排出路73に排出されるガスの酸素濃度M1を酸素濃度測定機30に測定させる。そして、酸素供給制御装置40は、酸素濃度測定機30によって測定された酸素濃度M1の情報を取得する。
【0082】
次にステップS121に移行すると、酸素供給制御装置40は、酸素置換工程において酸素置換を良好に実施できたか否かの判定を行う。具体的には、酸素供給制御装置40は、酸素濃度測定機30によって測定された酸素濃度M1が所定の閾値G1よりも大きいか否かを判断する。
【0083】
ステップS121において「Yes」の場合、キャビティ11A内の特に澱み易い袋小路形状部11Fの酸素置換を良好に実施できたと推測できる。この場合、酸素供給制御装置40は、酸素置換工程において酸素置換を良好に実施できたと判断し、ステップS122に移行する。
【0084】
その一方、ステップS121において「No」の場合、キャビティ11A内の特に澱み易い袋小路形状部11Fの酸素置換を良好に実施できなかったと推測できる。この場合、酸素供給制御装置40は、酸素置換工程において酸素置換を良好に実施できなかったと判断し、ステップS124に移行する。ステップS124の処理については、後で説明する。
【0085】
ステップS121からステップS122に移行すると、酸素供給制御装置40は、第1供給時間T1が下限値T1minと等しい否かを判断する。ステップS122において「No」の場合、ステップS123に移行して、第1供給時間T1から補正値Tcvを減算した後、ステップS131に移行する。これにより、次回に行われる酸素置換工程において、第1供給時間T1が短くなる。その結果、タクトタイムを短縮できる。その一方、ステップS122において「Yes」の場合、第1供給時間T1を下限値T1minに維持したまま、ステップS131に移行する。
【0086】
次のステップS131〜S136は、本発明の「鋳造工程」の一例である。ステップS131に移行すると、図4に示すように、ダイカスト制御部10は、射出プランジャ16を後退させて、注湯口15Hを開放する。
【0087】
次に、ステップS132に移行すると、ダイカスト制御部10は、油圧制御回路10Cを作動させてスクイズピン4を後退させる。そして、ダイカスト制御部10は、スクイズピン4をキャビティ11A内の袋小路形状部11Fから最も後退した状態、すなわち、後退限まで移動した状態として、キャビティ11A内と第1排出路71との連通を遮断する。
【0088】
次に、ステップS133に移行すると、酸素供給制御装置40は、制御弁72Vを制御して、第2排出路72を開放する。
【0089】
次に、ステップS134に移行すると、図1に示すように、ダイカスト制御部10は、ラドル15Aによって、注湯口15Hからプランジャスリーブ15内に溶湯A1を供給する。この際、酸素供給制御装置40は、プランジャスリーブ15内に酸素を少量吹き込む。この酸素少量吹き込みは、酸素の流量を絞った状態で溶湯A1の供給が終了するまで継続され、ステップS135に移行する際に停止される。
【0090】
次に、ステップS135に移行すると、図5に示すように、ダイカスト制御部10は、射出プランジャ16をプランジャスリーブ15内でキャビティ11Aに向かって前進させることにより、キャビティ11A内に溶湯A1を射出する。この際、ゲート15Gを通過する溶湯A1が粒状の液滴となり、その液滴がキャビティ11A内の酸素によって酸化されることにより、キャビティ11A内が減圧状態となる。その結果、キャビティ11A内に充填された溶湯A1がガス巣の原因となる気泡を抱き込むことが抑制される。
【0091】
次に、ステップS136に移行すると、図6に示すように、ダイカスト制御部10は、油圧制御回路10Cを作動させてスクイズピン4を前進させ、キャビティ11A内に充填した溶湯A1をスクイズピン4によって局所的に加圧する。この際、スクイズピン4は、キャビティ11A内の袋小路形状部11Fを特に加圧するので、袋小路形状部11Fに充填された溶湯A1が気泡を抱き込むことが一層抑制される。
【0092】
なお、ステップS136では、キャビティ11A内に充填した溶湯A1の凝固の進行状況に考慮しながらスクイズピン4を前進させることにより、溶湯A1が第1排出路71に入り込むことを抑制している。
【0093】
このようなステップS131〜S136によって、加圧鋳造品A2が製造される。本実施例では、説明を簡略化するため、酸素供給制御装置40は、ステップS121で、酸素置換工程において酸素置換を良好に実施できたと判断した場合、鋳造工程も良好に実施できたと判断する。なお、ステップS131〜S136の実施後、鋳造工程の良否についての判定を実施することもできる。
【0094】
次に、ステップS141に移行すると、酸素供給制御装置40は、製造された加圧鋳造品A2が良品であるという良品信号を製品取出装置50に発信する。その後、ステップS143に移行する。
【0095】
ステップS121からステップS124に移行すると、酸素供給制御装置40は、酸素置換工程における酸素置換の不良を解消するために第1供給時間T1に補正値Tcvを加算した後、ステップS142に移行する。これにより、次回に行われる酸素置換工程において、第1供給時間T1が長くなる。
【0096】
ステップS142に移行すると、酸素供給制御装置40は、酸素置換を良好に実施できなかったと判断した酸素置換工程に続けて鋳造工程を実施した場合に、得られる加圧鋳造品A2が不良品になると判断する。そして、酸素供給制御装置40は、鋳造工程(ステップS131〜S136)を実施することなく、不良品信号を製品取出装置50に発信する。その後、ステップS143に移行する。
【0097】
ステップS141又はステップS142からステップS143に移行すると、図7に示すように、ダイカスト制御部10は、図示しない型締装置を制御して、固定金型12及び可動金型13を型開きする。ここで、ステップS141において良品信号が製品取出装置50に発信されていれば、ダイカスト制御部10は、押し出しピン13Aをキャビティ11A内に突出させて、加圧鋳造品A2を脱型する。製品取出装置50は、脱型された加圧鋳造品A2を取り出し、受信した良品信号に基づいて良品置き場に移送する。その一方、ステップS142において不良品信号が製品取出装置50に発信されていれば、押し出しピン13A及び製品取出装置50は動作しない。
【0098】
次に、ステップS144に移行すると、ダイカスト制御部10は、鋳造を繰り返すか否かを判断する。ステップS144において「Yes」の場合、ステップS102に戻る。その一方、ステップS144において「No」の場合、加圧鋳造品A2の製造工程を終了する。
【0099】
<作用効果>
実施例のダイカスト装置1及び加圧鋳造品A2の製造方法では、酸素置換工程(ステップS111〜S116)の最初から最後まで、第1排出路71を介してキャビティ11A内のガスを排出する排出工程を実施する。より詳しくは、図3に示すように、スクイズピン4に形成された第1排出路71は、スクイズピン4がキャビティ11A内の袋小路形状部11Fに最も進入した状態で、すなわち、前進限まで移動した状態で、キャビティ11A内と連通する。そして、キャビティ11A内に酸素が供給されることにより、キャビティ11A内のガスが第1排出路71を介して第3排出路73に排出される。また、排出工程の後半に、第1排出路71及び第3排出路73に加え、制御弁72Vによって開放された第2排出路72を介して、キャビティ11A内のガスが金型11の外部に排出される。この際、キャビティ11Aの澱み易い部分、すなわち袋小路形状部11Fにスクイズピン4及び第1排出路71が配置されているので、その澱み易い袋小路形状部11Fを酸素でより一層置換できる。
【0100】
さらに、このダイカスト装置1及び加圧鋳造品A2の製造方法では、酸素濃度測定工程(ステップS120)において、酸素濃度測定機30が第1排出路71を介して排出されるガスの酸素濃度M1を測定する。この際、酸素濃度測定機30は、第1排出路71とは異なる経路、具体的には、第2排出路72を介して排出されるガスの酸素濃度を測定する場合と比較して、キャビティ11Aの澱み易い部分、すなわち袋小路形状部11Fに対応する酸素濃度M1を好適に測定できる。そして、酸素供給制御装置40は、酸素濃度測定機30によって測定された酸素濃度M1に基づいて、キャビティ11A内の特に袋小路形状部11Fを酸素で置換できたか否かを判断できるので、酸素置換工程における酸素置換の良否、ひいては、加圧鋳造品A2の良否を精度良く判定できる。
【0101】
したがって、実施例のダイカスト装置1及び加圧鋳造品A2の製造方法では、加圧鋳造品A2にガス巣が発生することを抑制でき、ひいては、加圧鋳造品A2の後工程、具体的には、凹凸形状等を形成する切削工程や表面仕上げ工程における不良率の低下を実現できる。特に本実施例では、酸素供給制御装置40は、ステップS121において、酸素置換工程(ステップS111〜S116)を良好に実施できなかったと判断した場合、鋳造工程(ステップS131〜S136)を実施することなく、ステップS142において、不良品信号を製品取出装置50に発信する。これにより、加圧鋳造品A2の製造工程における不良率の低下も実現できる。
【0102】
また、このダイカスト装置1及び加圧鋳造品A2の製造方法では、排出工程の前半(ステップS111〜S112)において、制御弁72Vが第2排出路72を遮断し、排出工程の後半(ステップS113〜S115)において、制御弁72Vが第2排出路72を開放する。つまり、制御弁72Vは、第1排出路71がキャビティ11A内と連通する期間のうちの少なくとも一部の期間において、第2排出路72を遮断する。これにより、キャビティ11A内のガスが第1排出路71のみを介して排出される期間を設けることができる。その結果、キャビティ11Aの袋小路形状部11Fを酸素でより一層置換できる。
【0103】
さらに、このダイカスト装置1及び加圧鋳造品A2の製造方法では、酸素供給制御装置40は、ステップS121において、酸素濃度測定機30によって測定された酸素濃度M1が所定の閾値G1よりも大きい場合、ステップS122〜S123において、第1供給時間T1から補正値Tcvを減算する。その結果、次回の酸素置換工程において、第1供給時間T1が短くなる。その一方、酸素供給制御装置40は、ステップS121において、酸素濃度測定機30によって測定された酸素濃度M1が所定の閾値G1以下である場合、ステップS124において、第1供給時間T1に補正値Tcvを加算する。その結果、次回の酸素置換工程において、第1供給時間T1が長くなる。これにより、このダイカスト装置1及び加圧鋳造品A2の製造方法では、加圧鋳造品A2の不良品の発生を抑制しつつ、キャビティ11A内に酸素を供給する供給時間を短くできるので、生産性の向上を実現できる。
【0104】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0105】
実施例では、第1排出路71が複数の直線溝71Aと、円環溝71Bとを含んでいるが、この構成には限定されない。例えば、第1排出路は、スライドピンの外周面に凹設された1本の溝であってもよい。また、第1排出路は、スライドピンを貫設された孔を含んでいてもよい。
【0106】
実施例では、第1排出路71を介してキャビティ11A内のガスを排出する排出工程において、第1供給時間T1が経過するまで第2排出路72を制御弁72Vによって遮断し、第1供給時間T1が経過した後、第2排出路72を制御弁72Vによって排出工程の最後まで開放するが、これには限定されない。例えば、排出工程の前半に第2排出路72を制御弁72Vによって開放し、排出工程の後半に第2排出路72を制御弁72Vによって遮断してもよい。また、排出工程の途中に一時的に第2排出路72を制御弁72Vによって遮断してもよい。さらに、制御弁72Vを無くして第2排出路72が常に開放された構成も本発明に含まれる。
【0107】
実施例では、酸素置換工程(ステップS111〜S116)の開始から終了まで、第1排出路71を介してキャビティ11A内のガスを排出する排出工程を実行するが、これには限定されない。例えば、酸素置換工程の前半に、第1排出路71を介する排出工程を実行した後、スクイズピン4を後退限まで移動させ、酸素置換工程の後半に、第2排出路72のみを介してキャビティ11A内のガスを金型11の外部に排出してもよい。また、スクイズピン4を後退限まで移動させた状態で酸素置換工程を開始し、酸素置換工程の前半に、第2排出路72のみを介してキャビティ11A内のガスを金型11の外部に排出した後、スクイズピン4を前進限まで移動させ、酸素置換工程の後半に、第1排出路71を介してキャビティ11A内のガスを排出する排出工程を実行してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明はダイカスト装置及び加圧鋳造品に利用可能である。
【符号の説明】
【0109】
1…ダイカスト装置
11…金型
11A…キャビティ
A1…溶湯
4…スクイズピン
A2…加圧鋳造品
71、72、73…排出経路(71…第1排出路、72…第2排出路、73…第3排出路)
30…酸素濃度測定手段(酸素濃度測定機)
M1…酸素濃度
72V…制御弁
T1、T2…供給時間(T1…第1供給時間、T2…第2供給時間)
40…酸素供給制御手段(酸素供給制御装置)
G1…所定の閾値
S111〜S116…酸素置換工程
S111〜S116…排出工程
S120…酸素濃度測定工程
S131〜S136…鋳造工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9