(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906503
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】活性炭から調製されて、プロピレン−プロパン分離に有用なカーボンモレキュラーシーブ吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20210708BHJP
C01B 37/00 20060101ALI20210708BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20210708BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20210708BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
B01J20/30
C01B37/00
C01B32/05
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-513323(P2018-513323)
(86)(22)【出願日】2016年9月8日
(65)【公表番号】特表2018-537262(P2018-537262A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(86)【国際出願番号】US2016050695
(87)【国際公開番号】WO2017058486
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年8月26日
(31)【優先権主張番号】62/234,701
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ジュンチアン・リュー
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ジャネット・エム・ゴス
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・エム・カルバーリー
【審査官】
瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−221518(JP,A)
【文献】
特開平07−299357(JP,A)
【文献】
特開2008−094710(JP,A)
【文献】
特開昭53−131989(JP,A)
【文献】
特開昭59−183828(JP,A)
【文献】
特開昭59−064514(JP,A)
【文献】
特開2000−313610(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/130338(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C01B 32/00−32/991、33/20−39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を調製する方法であって、
全体として6オングストローム超の有効な微細孔サイズを有する微細孔を含む活性炭上にポリマーを堆積させることであって、前記ポリマーが前記微細孔中または前記微細孔周辺に堆積し、前記堆積が、
(1)前記活性炭を少なくとも1つのモノマーに含浸させ、その後、前記ポリマーが形成されるように前記少なくとも1つのモノマーを重合させること、または
(2)前記活性炭を少なくとも1つの部分的に重合したモノマーに含浸させ、前記ポリマーが形成されるように含浸後に前記少なくとも1つの部分的に重合したモノマーの重合の完了を許容もしくは促進すること、のいずれかによって実行される、堆積させることと、
前記活性炭及び前記堆積したポリマーを一緒に400℃〜1000℃の温度で炭化して、全体として4.3オングストローム超〜6オングストロームの範囲の有効な微細孔サイズを有する微細孔を有する改質活性炭を形成することと、
不活性雰囲気下及び1000℃〜1500℃の範囲のアニール温度で前記改質活性炭をアニールして、
4.0オングストローム〜4.3オングストロームの有効な微細孔サイズを有する前記カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を形成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記モノマーが、フルフリルアルコール、ホルマリン、ジビニルベンゼン、フェノール、アルデヒド、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド、ポリジビニルベンゼン、フェノール樹脂、及びそれらの組み合わせのポリマーからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記活性炭が、少なくとも500m2/gの表面積を有し、前記改質活性炭が、少なくとも200m2/gの表面積を有し、いずれも窒素Brunauer−Emmett−Teller法によって測定されたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アニール温度が、1100℃〜1300℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物が、(1)0.4MPa圧の圧力及び35℃の温度で1重量%以上のプロピレン容量、(2)10分未満の平衡プロピレン吸着の50%に達するまでの時間、または(3)(1)及び(2)の両方からなる群から選択される特性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年9月30日に出願され、参照により本明細書にその全体が組み込まれている、米国特許仮出願第62/234,701号に対する優先権を主張する。
【0002】
背景
本発明は、カーボンモレキュラーシーブ吸着剤の分野に関する。より詳細には、本発明は、改質活性炭をアニールして、プロピレン及びプロパンを分離するために好適である吸着剤を調製することを含む、カーボンモレキュラーシーブ吸着剤を調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
研究者らは、長年にわたって、出発原料として、または生成物として使用するためにガス混合物を分離する手段を求めてきた。このような分離の手段として特に興味深かった材料がカーボンモレキュラーシーブ(CMS)であった。これらのCMSは、様々な樹脂から調製されてもよく、種々の温度及び/または種々の条件下で熱分解される。熱分解は、樹脂を純粋炭素に還元するが、微細孔の形態で、熱分解された生成物中に少なくともいくらかの多孔性を維持する。いくつかの条件下で、熱分解が微細孔を所望のサイズに縮小し得ることが知られている。その後、このように形成されたCMSは、従来のガス分離装置、例えば充填床、カラムなどにおいて用いられてもよく、微細孔サイズがガス混合物中のどのガスが吸着され、どのガスが吸着されないかを決定する。例えば、従来の圧力スイングまたは温度スイング吸着法に従って、吸着及び脱着法を交互にして、分離を行ってもよい。
【0004】
しかしながら、ある特定の分離のための正確なサイズの微細孔を有するCMSを調製することは、当技術分野において特定の課題が存在する。分離を達成するためのCMSの使用は、微細孔が、微細孔に入る特定の分子と少なくとも同じ、またはそれを超える大きさであると仮定するため、分子の「サイズ」を知ることが必要である。研究者らは、その分子サイズを決定する異なる方法を見出した。1つの一般的に用いられる手法は、所与の分子の「動力学的直径」を決定することであった。ゼオライト用途におけるそれらの使用に基づくこれらの様々な動力学的直径を列挙する参照は、D.W.Breck,Zeolite Molecular Sieves:Structure,Chemistry and Use,John Wiley & Sons,Inc.(New York 1974)、636であり、これらの決定は、スリット状の細孔を有することが既知である非ゼオライトのカーボンモレキュラーシーブに対してさえも多用されている。その後、上記及びこの目的からみて、4.3オングストローム(Å)であるプロパンC
3H
8に対する代表的な分子直径として、上述されたBreck参照から得た動力学的直径が本明細書において使用される。しかしながら、プロピレンに対してその中で付与される動力学的直径は、CMS材料それ自体について不正確であると少なくとも一部の研究者らによって考えられていることから、Breck動力学的直径の代わりに、4.0ÅであるプロパンC
3H
6に対して、Lennard−Jones衝突直径が本明細書において使用される。さらに考察するために、例えば、Staudt−Bickel C.,Koros W.J.,「Olefin/paraffin gas separations with 6FDA−based polyimide membranes,」J.Membr.Sci.(2000)170(2),205−214を参照されたい。動力学的直径及びLennard−Jones衝突直径は、ともに「代表的な分子直径」と呼ばれる。
【0005】
多くの人に興味深い市販用途のための特定の分離は、プロパン(C
3H
8)及びプロピレン(C
3H
6)の分離である。C
3H
8の代表的な分子直径が4.3Åであり、C
3H
6の代表的な分子直径が4.0Åであるため、これらの2つのガスの混合物に対する好適な分離CMSの平均微細孔サイズは、4.0Å〜4.3Åの範囲内のどこかに入ることが望ましい。本明細書において使用する場合、「平均微細孔サイズ」は、可能性のある実際の全体的な微細孔の構成にかかわらず、平均微細孔開口、すなわち、理論上の一次元のスリット細孔の幅を指す。
【0006】
SARAN型ポリマーならびに他のポリマー及びコポリマーなどの出発原料の熱分解に基づく多種多様なCMS吸着剤が調製されている。このようなものとしては、例えば、Lamond T.G.,et al.,「6Å molecular sieve properties of SARAN−type carbons,」Carbon(1965)3,59−63が挙げられる。この論文は、ネオペンタン(6.0Å)分子を拒絶するが、より小さい分子、例えば、非限定的な例において、非選択的にCO
2、ブタン、及びイソブタンを吸着するポリ塩化ビニリデン(PVDC)コポリマーからのCMSの調製を記載する。このことから、その論文の著者は、それらのCMSが6Åの微細孔を有すると結論付けた。
【0007】
別の例は、Fuertes,A.B.,et al.,「Molecular sieve gas separation membranes based on poly(vinylidene chloride−co−vinyl chloride),」Carbon(2000)38,1067−1073において開示されている。この論文は、上記材料を使用する複合炭素膜の調製について記載している。膜は、高分子フィルムの熱分解によって得られ、マクロ多孔性炭素基材(細孔サイズ1μm、マクロ多孔率30パーセント、%)の上に支持された薄い微孔性炭素層(0.8マイクロメートル、μmの厚さ)で形成される。単一ガス透過実験は、ヘリウム(He)、CO
2、酸素(O
2)、窒素(N
2)、及びメタン(CH
4)を含む。選択性は、O
2/N
2システムに対して特に高い、すなわち、摂氏25度(℃)で約14の選択性と記載されている。この情報から、微細孔サイズがO
2(3.46Å)の代表的な分子直径からN
2(3.64Å)の代表的な分子直径の範囲のどこかに入ると推定することができる。
【0008】
Walker,P.L.;Lamond,T.G.and Metcalfe,J.K.,「The Preparation of 4A and 5A Carbon Molecular Sieves,」Carbon Molecular Sieves,Proc.2nd Conf.Ind.Carbon and Graphite,(London 1966)7−14は、活性粒状炭素を部分的に重合した溶液で被覆することによってモレキュラーシーブを形成し、続いてポリマー被覆の硬化及び炭化させるために、一般に、20Å超の平均細孔直径を有する活性炭の使用に関する1960年代の研究を開示している。これらの新規の材料は、「複合カーボンモレキュラーシーブ」と呼ばれた。それらは、微孔性炭素の層によって被覆された活性炭からなり、後者は、モレキュラーシーブとして作用し、前者は、本体の吸着容量の多くを供給している。しかしながら、著者は、吸着のすべてが細孔壁単層の形成を介して、または細孔内の可逆性の毛管凝縮を介してであるかどうかに関して、いくつかの不確定性を表した。これらは、いわゆるポリマーカーボンシーブ(P.C.S.)に優る有意な利点を有すると考えられ、それは熱硬化性または熱可塑性ポリマーを単独で熱分解することによって誘導される炭素であった。使用されたポリマーは、ポリフルフリルアルコール(塩化亜鉛)炭素、ポリフルフリルアルコール(リン酸)炭素、フルフリルアルコールホルムアルデヒド炭素、ジビニルベンゼン炭素、及びフェノールホルムアルデヒド炭素であった。活性炭は、適切なモノマーと組み合わされ、その結果500℃〜850℃の範囲の温度(表IIIを参照)で炭化されて、CO
2、ブタン、イソブテン、またはネオペンタンの吸着を決定する。同じポリマーの選択を使用するための(前炭化)充填剤として異なる活性炭(表IVを参照)の効果を例証するための実験も行われた。また、吸着容量についてブタン、イソブタン、ネオペンタン、ベンゼン、及びシクロヘキサンが試験された。試験は、追加のコーティングとして熱硬化性有機ポリマーとの活性炭の使用が、有効なカーボンモレキュラーシーブを作製したと結論付けた。
【0009】
米国特許第4,261,709号(Itoga,et al.)は、臭素が吸着された4Å〜6Åの範囲の直径を有する微細孔を有するカーボンモレキュラーシーブについて記載した。伝えられるところによると、モレキュラーシーブは、失活傾向を低減しながら、低分子量有機ガス、例えば、エチレン、アセチレン、メチルスルフィド、アセトアルデヒドなどを、それらを含有する空気及び他のガスから選択的に除去することができる。
【0010】
上記からみて、プロパン及びプロピレンを分離する能力を有して、比較的高い選択性、吸着容量、及び拡散速度が望ましい有効なカーボンモレキュラーシーブの必要性が依然として存在することが明らかである。
【発明の概要】
【0011】
一実施形態において、カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を調製するためのプロセスは、全体として6オングストローム超の有効な微細孔サイズを有する微細孔を含む活性炭上にポリマーを堆積させることであって、ポリマーが微細孔中または微細孔周辺に堆積し、堆積が、(1)活性炭を少なくとも1つのモノマーに含浸させ、その後、ポリマーが形成されるように少なくとも1つのモノマーを重合させること、または(2)活性炭を少なくとも1つの部分的に重合したモノマーに含浸させ、ポリマーが形成されるように含浸後に少なくとも1つの部分的に重合したモノマーの重合の完了を許容もしくは促進すること、のいずれかによって実行される、堆積させることを含む。本プロセスは、活性炭及び堆積したポリマーを一緒に炭化して、全体として4.3オングストローム超〜6オングストロームの範囲の有効な微細孔サイズを有する微細孔を有する改質活性炭を形成することと、有効な微細孔サイズが4.0オングストローム〜4.3オングストロームの範囲に減少するような条件下で、不活性雰囲気下及び1000℃〜1500℃の範囲の温度で改質活性炭を加熱することによって、カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を形成することとをさらに含む。
【0012】
別の実施形態において、カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物は、全体として6オングストローム超の有効な微細孔サイズを有する微細孔を含む活性炭上にポリマーを堆積させることであって、ポリマーが微細孔中または微細孔周辺に堆積し、堆積が、(1)活性炭を少なくとも1つのモノマーに含浸させ、その後、ポリマーが形成されるように少なくとも1つのモノマーを重合させること、または(2)活性炭を少なくとも1つの部分的に重合したモノマーに含浸させ、ポリマーが形成されるように含浸後に少なくとも1つの部分的に重合したモノマーの重合の完了を許容もしくは促進すること、のいずれかによって実行される、堆積させることを含むプロセスによって調製され得る。本プロセスは、活性炭及び堆積したポリマーを一緒に炭化して、全体として4.3オングストローム超〜6オングストロームの範囲の有効な微細孔サイズを有する微細孔を有する改質活性炭を形成することと、有効な微細孔サイズが4.0オングストローム〜4.3オングストロームの範囲に減少するような条件下で、不活性雰囲気下及び1000℃〜1500℃の範囲の温度で改質活性炭を加熱することによって、カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を形成することとをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】密度関数理論(DFT)モデルを使用して決定する場合、0℃でのCO
2吸着に基づく実施例及び比較例の改質活性炭素前駆体の微細孔サイズ分布を示す図である。
【
図2】過渡吸着法を使用して決定された実施例及び比較例の改質活性炭素前駆体の有効な微細孔サイズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、4.0Å〜4.3Åの範囲の有効な微細孔サイズを有するカーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を調製するための比較的単純、便利、及び安価なプロセスを提供することによって、1つの分子がこの範囲内に入り、1つの分子がこの範囲外に外れる分子の対を分離するのに好適である生成物をもたらす。特に有用な例は、いくつかの他の手段、例えば、極低音蒸留によって分離するのが比較的困難なことが既知である、プロパン及びプロピレンの分離であり、これは、それらの沸点が近い(プロパンの沸点は−43℃であり、プロピレンの沸点は、−47.7℃である)ためであるが、例えば、圧力スイングまたは温度スイングプロセスなどの用途において本発明のカーボンモレキュラーシーブ吸着剤を使用することによって、容易に分離することができる。
【0015】
本明細書において使用する場合、「有効な微細孔サイズ」という用語は、例えば、別のガスのものと比較して十分に減少された速度で所与のガスの過渡吸着を可能にするような微細孔幅及び微細孔分布の組み合わせを有する微細孔を有する粒子の集合体を指し、その結果、このような集合体を通過させることによってガスを容易に互いから実質的に分離することができる。あるいは、この過渡吸着は、動力学的吸着と呼ばれてもよい。したがって、「有効な微細孔サイズ」が微細孔の平均、中間、最大、または最小サイズを必ずしも指すわけではないことが理解されるであろう。有効な微細孔サイズは、以下により詳細に記載される高スループット(HTR)法によって、簡便に決定されてもよい。本明細書において使用する「全体として」という語句は、検討中の全試料を指す。
【0016】
本発明は、原材料、及び可能性のある出発原料、活性化された(または代替的に「活性」)炭素吸着剤として使用する。この材料は、「活性木炭」、「活性石炭」、「活性炭」、または「ACフィルタ」と代替的に称され、吸着に対して(または他の化学反応に対して)利用可能な表面を増加させる小さな微細孔を有するように加工された炭素の粒状形態である。その広範な微多孔性のため、活性炭は、典型的に、窒素Brunauer−Emmett−Teller(BET)法(標準的なガス吸着法)によって測定される、500平方メートル/グラム(m
2/g)を超える表面積を有する。場合によっては、表面積は、最大1500m
2/gまたはそれ以上の範囲になり得る。高表面積のみで、ある特定の用途に対するその有用性を確実にするのに十分であり得るが、場合によっては、さらなる化学処理が、強化された吸着特性をさらにもたらす。
【0017】
活性炭は、木炭、すなわち、石炭、亜炭、及び石油ピッチを含む熱分解された炭素質の原料物質から、または高多孔性バイオ炭から調製されてもよく、高多孔性バイオ炭は、バイオマス、例えば、堅果殻、ココナッツ外皮、泥炭、木、コイア、及び他の植物または植物系材料の熱分解及び活性化によって得られる。一般に、一実施形態において、それは、原料物質をまず高温ガスに曝し、次いで、ガスを燃焼させるために空気を導入し、段階的に遮蔽、及び脱じんされた活性炭の形態をつくる物理的再活性化を介して調製されてもよい。これは、通常、アルゴンもしくは窒素などの不活性雰囲気において、600℃〜1000℃の温度で選択された原料物質を熱分解することを典型的に伴う炭化によって、達成することができるか、または通常、600℃〜1000℃の範囲において、250℃超の温度で、空気もしくは蒸気などの酸化雰囲気に原材料もしくはすでに炭化された材料を曝すことを伴う、活性化/酸化を介して達成されてもよい。
【0018】
別の実施形態において、活性炭は、化学的活性化を介して調製されてもよい。この方法では、炭化の前に、原材料に酸、強塩基、または塩、例えば、リン酸、水酸化カリウム、塩化カルシウム、または塩化亜鉛などの化学薬品を含浸させる。その後、原料は、より低温、典型的に450℃〜900℃で炭化される。化学的活性化は、活性を達成することを必要とする場合において、より低い温度及びより短い時間になり得る点で、物理的活性化より好ましくなり得る。
【0019】
あるいは、活性炭は、多種多様な商業的供給業者から簡便に得てもよい。供給業者としては、例えば、CALGON(商標)CORPORATION,Pittsburgh,Pennsylvania、CABOT NORIT(商標)ACTIVATED CARBON,Marshall,Texasなどが挙げられる。
【0020】
商業用充填床用途のための顆粒/造粒活性炭は、最も典型的には、50(U.S.)メッシュスクリーン(0.297mm)上に保持される。80(U.S.)メッシュシーブ(0.177mm)の通過を可能にするように十分に粉砕または摩砕されるより小さい材料は、「PAC」と分類される。PACは、「粉末活性炭」を指す。一般に、吸着剤の有効な微細孔サイズを調節することが鍵となるため、顆粒/ペレットサイズは、本発明において重要ではない。しかしながら、充填床用途を考慮すると、本発明において有用な活性炭は、供給原料が充填床を移動する際の圧力低下を適切に管理するために、少なくとも0.5mmの平均粒径を有することが望ましい。
【0021】
活性炭は、6Å超、好ましくは6Å〜好ましくは10Å、より好ましくは、8Åの有効な微細孔を有することが特に重要である。
【0022】
活性炭が選択され、調製されまたは得られたら、それを少なくとも1つのモノマー及び好適な重合触媒と混合することによって接触させる。モノマーは、フルフリルアルコール、ホルマリン、ジビニルベンゼン、フェノール(非限定的な例において、フェノール、クレゾール、キシレノールなど)、アルデヒド(非限定的な例において、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどに)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。これらのモノマーは、それぞれ、フルフリルアルコールのポリマー、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒドのポリマー、ポリジビニル−ベンゼンのポリマー、フェノール樹脂のポリマー、それらの組み合わせを調製するのに好適である。これらのモノマー及びそれらの得られたポリマーは、最初に6Å超の有効な微細孔サイズを有する、活性炭の微細孔を含浸させるために、それらの適合性を考慮して選択され、それにより、有効な微細孔サイズは、含浸によって、4.3Å〜6Åの範囲に減少される。最終的なカーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を全体的に確実に炭素質にするために、含浸後、熱分解によってポリマーを炭素のみの材料に変換することができ、変換されることも重要である。このため、上に列挙されたポリマーは、分子サイズ、熱分解後の組成、及び熱分解の結果としての有効な微細孔サイズの減少に関して、比較的限定的な要件を満たすことが既知である。
【0023】
本質的に、任意の好適な重合触媒を使用してもよい。例えば、このようなものは、アルカリ触媒、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化亜鉛、リン酸、水酸化カルシウム、アンモニアなど、または酸触媒、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、シュウ酸、琥珀酸などから選択されてもよい。このような触媒は、フェノールポリマー、例えば、少なくともフェノールをモノマーとして含み、またホルムアルデヒドを含み得るポリマーを調製するのに特に好適であり、そのためにアルカリ触媒が好ましい。対照的に、酸及び/または酸性塩、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、シュウ酸、琥珀酸、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化マグネシウムなどは、選択されたモノマーがフランポリマー、例えばフルフリルアルコール系ホモポリマーもしくはコポリマー、またはフルフリルアルコール−ホルムアルデヒドコポリマーの形成を予定されるときに重合触媒として用いてもよい。
【0024】
好ましく選択された触媒の量はまた、選択されたモノマーに応じて変化する。例えば、フェノール系ポリマーを形成することが望ましい場合、組み合わされた触媒及びすべてのモノマーの重量に基づいて、1重量パーセント(重量%)〜10重量%の量のアルカリ触媒を使用することが好ましい。しかしながら、酸触媒が同じフェノール系ポリマーを形成するために選択される場合、それは、同じ基準で2重量%〜30重量%の量で使用されることが好ましい。対照的に、フラン系ポリマーを調製する場合、酸触媒が好ましくは選択されて、組み合わされた触媒及びすべてのモノマーの重量に基づいて、0.1重量%〜1.0重量%、好ましくは、0.5重量%〜1.0重量%の範囲で用いられてもよい。
【0025】
活性炭において含浸剤として用いられる炭素形成ポリマー及び/またはモノマーの量(グラム)の決定は、窒素Brunauer−Emmett−Teller(BET)法によって測定される、前駆体活性炭において300Åよりも小さい微細孔の体積に基づく算出によって達成されてもよい。ポリマーの熱分解によって形成されるカーボンの量(含浸させる場合、または含浸させたモノマーから重合させる場合)は、望ましくは、前駆体活性炭において300Å未満の直径を有する微細孔の体積に基づいて、0.1g/cm
3、好ましくは、0.3g/cm
3〜1.0g/cm
3、好ましくは、0.7g/cm
3の範囲内である。これを達成するために、300Å未満の直径を有する活性炭における微細孔の堆積に基づいて、0.1g/cm
3、好ましくは0.3g/cm
3〜2.0g/cm
3、好ましくは、1.5g/cm
3の開始モノマーを用いることが望ましい。
【0026】
含浸が、活性炭の微細孔のすべてが被覆または満たされることを必ずしも意味するわけではなく、形成されたポリマーの存在の全体的な効果が、試料の有効な微細孔サイズが、全体として、規定の範囲内に入るように減少されるようなものであることを特に留意する。いくつかの実施形態において、これは、微細孔のかなりの部分が満たされるまたはサイズが減少することを意味し、他の実施形態において、微細孔のより小さい部分は、開始活性炭、微細孔のサイズ及び分布、モノマー及び得られるポリマーの分子サイズ、重合の条件などに応じて影響を受ける。当業者は、通常の実験を介して、所与の活性炭に影響を及ぼすものとして各タイプのポリマー及び重合を介して得られる有効なミクロ細孔サイズを容易に決定し、そのようなもののより詳細な説明は、本出願の要求を越えるものである。
【0027】
重合の達成において、当業者に既知の任意の効果的なプロセスが選ばれてもよい。これらは、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、または沈殿重合から選択されてもよく、得られたポリマーは、既知の添加または縮合反応を介して、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。本明細書において光重合も想到される。一実施形態において、便宜上、溶液を調製するために、フェノールまたはフランモノマーを好適な溶媒、例えば、水、メタノール、ベンゼン、クレオソート油などに導入することが望ましい。その後、活性炭は、含浸を継続するために、溶液を噴霧されるか、溶液中に浸漬されるか、または溶液と混合される。あるいは、開始モノマー及び/または部分的に重合したポリマーは、気相において、活性炭に吸着されて、支持されてもよい。
【0028】
選択された活性炭、モノマー、及び重合触媒を接触させる条件としては、50℃〜350℃、好ましくは50℃〜250℃、より好ましくは、50℃〜150℃、最も好ましくは、50℃〜100℃の範囲の温度が挙げられ得る。含浸及び重合のための圧力は、重要ではないが、0.1メガパスカル(MPa)〜10MPa(1気圧、atm〜100atm)の範囲であり得る。含浸及び重合ステップに必要な時間は、モノマーの種類、触媒、及び温度に依存する。0.1時間(h)〜10時間の範囲の時間は、重合条件を調節することにより、プロセスの制御及び経済性を容易にするために好ましい。一般に、含浸は、前駆体活性炭の充填床にモノマー溶液を導入することにより、バッチプロセスとして行われる。シングルパスまたはマルチパスバッチプロセスは、この含浸/重合ステップに対して使用することができる。
【0029】
次いで、ポリマーで被覆された活性炭を加熱して、含浸ポリマーを400℃〜1000℃の温度範囲で炭化させる。これは、典型的に、真空下で、不活性ガス、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などの流れにおいて、または代替的な実施形態において行われる。当業者は、この炭化を達成するための手段及び方法をよく知っているが、必要に応じて、追加の詳細は、例えば、米国特許第4,261,709号から探してもよい。
【0030】
選択された活性炭の含浸/重合/炭化処理後、ここで「改質活性炭」と呼ばれる得られた生成物は、4.3Å超、好ましくは、4.5Å〜6Å、好ましくは、5.5Åの範囲内に入るように減少された有効な微細孔サイズを有する。改質活性炭は、少なくとも200m
2/g、より好ましくは、少なくとも300m
2/g、最も好ましくは、少なくとも500m
2/gの窒素BET表面積を有することが好ましい。
【0031】
上述したような含浸/重合/炭化処理を介して、好適に改質された形態で利用可能な活性炭の非限定的な例としては、およそ5.50Åの有効な微細孔サイズを有するX2M4/6、及びおよそ4.65Åの有効な微細孔サイズを有するMSC−4Kが挙げられる。これらはいずれも、JAPAN ENVIROCHEMICALS(商標)LTD,Osaka,Japanから市販されている。
【0032】
この時点で、改質活性炭は、アニールして、不活性雰囲気下での加熱として定義される最終的なプロセスステップのための準備ができている。このアニールは、利便性及びコストの理由で、好ましくは窒素またはアルゴンの雰囲気下で1000℃〜1500℃の範囲の温度で改質活性炭を加熱することによって行われるが、代替的な実施形態において、ヘリウム、二酸化炭素、または代替として真空下であってもよい。所与の温度範囲内のアニールは、任意の好適な時間にわたって、任意の他の好適な条件下、例えば、4.0Å〜4.3Åの範囲内に有効な微細孔サイズを減少するのに効果的である圧力下で行われてもよい。好ましい実施形態において、このサイズ範囲内の有効な微細孔サイズの実現は、望ましくは高いプロピレン/プロパン選択性、及びさらに望ましくは高い吸着容量を有する、最終的、及び発明のCMS吸着剤組成物をもたらす。当業者は、本発明の組成物が、望ましくは、(1)4.0Å〜4.3Åの有効な微細孔サイズ、(2)10以上のプロピレン/プロパン選択性、(3)0.4MPa(4atm)の圧力及び35℃の温度で1重量%以上のプロピレン吸着容量、(4)組成物が10分以下における平衡プロピレン吸着の50%に達することができるような吸着速度、(5)それらの組み合わせから選択された少なくとも1つの特定の特性を呈するまたはもたらすという事実を認識し、本発明の組成物がプロピレン/プロパン分離における使用に対して極めて望ましくなり得る手段であることを認識するであろう。さらに、当業者は、本明細書におけるさらなる指示なしに、そのような用途が所望される場合には、これらの特性の1つ以上をさらに最適化する手段及び方法を知っているであろう。
【0033】
例えば、ある特定の実施形態において、1000℃、好ましくは、1050℃〜1200℃、好ましくは、1150℃、より好ましくは、およそ1100℃の温度、窒素雰囲気下、及び0.1MPa(1atm)の圧力で、およそ0.25時間の期間、JAPAN ENVIROCHEMICALS(商標)LTD.,Osaka,Japanから入手可能なMSC−4K改質活性炭のアニールは、望ましくは高いプロピレン/プロパン選択性、高いプロピレン容量、及びさらに望ましくはプロピレンの高い吸着速度を有する本発明のCMS吸着剤組成物を作製するのに好適であるということを見出した。他の実施形態において、1200℃、好ましくは、1250℃〜1400℃、好ましくは、1350℃、より好ましくは、およそ1300℃の温度、窒素雰囲気下、及び0.1MPa(1atm)の圧力で、約0.25時間にわたって、JAPAN ENVIROCHEMICALS(商標)LTD.から同様に入手可能な改質活性炭X2M4/6材料のアニールはまた、本発明のCMS吸着剤組成物を作製するのに好適である。しかしながら、アニールされたMSC−4KとアニールされたCMS組成物とを比較すると、X2M4/6とアニールされたCMS吸着剤組成物の全体的な性能は、以下の実施例/比較例の項にさらに詳細に示されるように、いくらか減少され得る。
【0034】
本発明のCMS吸着剤組成物は、プロパン及びプロピレンの分離が所望される様々な用途に好適である。例えば、このようなものは、温度スイングまたは圧力スイング原理に基づくプロセスにおいて、固定床中で用いられてもよい。
【0035】
実施例1及び2ならびに比較例A及びB
以下の商業用活性炭/ポリマー組成物が得られる:
●実施例1:JAPAN ENVIROCHEMICALS(商標)LTD.,Osaka,Japanから入手可能な、4.65Åの有効な微細孔サイズを有する改質活性炭素前駆体であるMSC−4K。
●実施例2:JAPAN ENVIROCHEMICALS(商標)LTD.,Osaka,Japanから入手可能な、5.50Åの有効な微細孔サイズを有する改質活性炭素前駆体であるX2M4/6。
●比較例A:JAPAN ENVIROCHEMICALS(商標)LTD.,Osaka,Japanから入手可能な、3.74Åの有効な微細孔サイズを有する改質活性炭素前駆体であるMSC 3R−172。
●比較例B:CALGON(商標)CARBON CORPORATION,Pittsburgh,Pennsylvaniaから入手可能な、改質されていない活性炭素のみであるCALGON(商標)X−TRUSORB(商標)700。
【0036】
上記材料のそれぞれをグラファイト炉中で高温アニールに供する。これは、グラファイトボート(4インチ×4インチ×0.5インチ)に約20グラム(g)の各サンプルをまず装入することによって達成される。各試料を含有するボートは、10リットル/分(L/min)の窒素パージ(12分ごとに1体積ターンオーバー)によって、同じ傾斜率(10℃/分)及び保持時間(15分)で、これらの6つの最終的なピーク温度(1000、1100、1200、1300、1400、及び1500℃)に従って加熱される。アニール後、炉を450℃まで10℃/分で冷却して、次いで、熱伝達限界のため、炉を450℃から周囲温度までより遅い速度で冷却させる。アニールは、本発明のアニールされた改質活性炭の製造を完了させる。
【0037】
従来の平衡吸着法、例えば、密度関数理論(DFT)モデルを使用するCO
2吸着は、各組成物の分子ふるい性を制御する、約7Åよりも小さい微細孔をプローブするのに効果的ではない。
図1は、0℃で用いた場合、劇的に異なる分子ふるい特性を有するという事実にもかかわらず、本方法に基づく3つの商業用CMSの微細孔サイズ分布における類似性を例示する。このことから、有効な微細孔サイズを決定するために、吸着速度を考慮することによって、より正確である、過渡吸着に基づく方法が代わりに用いられ得ることが勧められる。例えば、9つのプローブ分子を用いる高スループットの過渡吸着法は、有効な微細孔サイズを得るために特に有用である。さらなる考察のために、例えば、Liu,J.,et al.に記載される方法を参照する。多くのガス分離のための1つのカーボンモレキュラーシーブの高いスループット開発。微孔性メソポーラス材料2015、(206)、207−216。
【0038】
高スループット過渡吸着法は、一般に、3重のドライボックスに取り付けられたHigh Throughput Reactor(HTR)システムで行われる。HTRシステムは、48個の並列の14ミリリットル(mL)リザーバの配列からなる。オーバーヘッドにおけるガス拡散抵抗が吸着剤内部のものと比較してごくわずかであると考えられるため、任意選択の撹拌能力は除去される。反応器セルごとの温度及びガス圧は、個別に監視され、制御される。吸着質のガスが制御された圧力及び温度で各セルに注入される。動力学的吸着測定は、以下の順番において実行される:(1)1.00±0.05gの吸着剤粉末を14mLの高スループットセルへ装入する、(2)半連続的に、N
2パージによって12時間、150℃で脱ガスする、(3)N
2ガスを150ポンド/平方インチゲージ(psig、1.13MPa)に導入して、吸着のために35℃で4時間、圧力低下をモニタする、(4)脱着のためにN
2パージ下で12時間、150℃に加熱する、(5)順番に8つの他のガス(初期圧力で):CO
2(150psig、1.13MPa)、CH
4(150psig、1.13MPa)、C
2H
4(45psig、0.41MPa)、C
3H
6(45psig、0.41MPa)、C
2H
6(45psig、0.41MPa)、C
3H
8(45psig、0.41MPa)、i−C
4H
10(15psig、0.20MPa)、及びSF6(六フッ化硫黄)(45psig、0.41MPa)を使用して、吸着ステップ3及び脱着ステップ4を繰り返す。
【0039】
理想的な気体法則を仮定すると、吸着容量(w)は、式(1)(式中、ΔPは、細胞圧力の変化であり、Vは、吸着セル体積であり、mは、吸着剤の重量であり、Mは、吸着剤ガスの分子量であり、Rは、理想的な気体定数であり、Tは、温度である)を使用して算出することができる。
【0041】
吸着速度の半減時間(t0.5)は、圧力低下の50%が、吸着プロセス中に発生する時間である。フィックの拡散を仮定すると、拡散率は、t0.5値に反比例する。ガス対A及びB(アルファA−B)についての選択性は、式(2)で示されるように容量比(wA/wB)と2つの分子の吸着速度比(t0.5B/t0.5A)との積である。
【0043】
これらの実施例及び比較例において生成された吸着剤の有効な微細孔サイズは、吸着剤ごとにすべてのガス対(9つのプローブ分子間)の選択性を検討することによって、推定される。各吸着剤の効果的な微細孔サイズを推定するために、まず、10以上の選択性を有するすべての対のプローブガスが吸着剤ごとに決定される。10以上の選択性を有するガス対のうち、拒絶された最小の分子及び吸着された最大の分子が、規定の分子対として選択される。次いで、この規定の分子対の代表的な分子直径の平均は、その特定の吸着剤の有効な微細孔サイズに等しいと考えられる。例えば、MSC−4K吸着剤によって拒絶され受け入れられる最小及び最大のガス分子は、それぞれ、i−C
4H
10(5.0Å)及びC
3H
8(4.3Å)である。したがって、この特定の吸着剤の有効な微細孔サイズは、4.65Åであると推定される。
【0044】
表1は、試験された吸着剤(実施例1、MSC−4K及び実施例2、X2M4/6)、ならびにMSC 3R−172と命名された改質活性炭(比較例A(Comparative Example A)または比較例A(Comp A))及びCALGON(商標)X−TRUSORB(商標)700と命名された改質活性炭前駆体(比較例B(Comparative Example B)または比較例B(Comp B))のすべてにおける規定のガス対の過渡吸着を示す。測定分解能は、吸着質分子の代表的な分子直径によって限定される。最も大きな直径を有するプローブ分子、SF
6(W
SF6>2重量%、t0.5 SF
6<5分)であっても吸着するように、微細孔が十分に大きいとき、本明細書において試験されている吸着剤分子により大きなものが存在しないため、有効な微細孔サイズは、その分子の分子直径、すなわち、SF
6または5.5Åと定義される。
【0047】
図2は、種々の温度でアニールして試験された4つの吸着剤における効果的な微細孔サイズの変化を示す。すべての4つの場合において、活性炭が800℃の加熱を経たと仮定され、それは商業用の活性炭製造プロセスのための典型的な温度である。
【0048】
比較例A、MSC 3R−172生成物、改質活性炭において、それがO
2/N
2分離用に商業的に使用されるので、3.72Åの有効な微細孔サイズを有することが既知である。表1に示すように、1000℃〜1500℃の範囲の所与の温度のすべてでのMSC 3R−172のアニールは、効果的な微細孔サイズを3.72Å〜3.47Åに減少させる結果となる。これは、MSC 3R−172がプロピレン/プロパン分離のための4.0Åの所望の最小限の有効な微細孔サイズ未満であるプレアニールの有効な微細孔サイズを有し、もっともなことだが、アニールは、細孔サイズを所望の範囲に増大しないからである。しかしながら、その既知の3.72Åの細孔サイズにもかかわらず、受け入れたままのMSC 3R−172材料は、驚くべきことに、プロピレン/プロパンに対して比較的選択的であるが、比較的低いプロピレン吸着容量及び極めて遅いプロピレン吸着速度(t0.5 C
3H
6の大きい値で示すように)を有する。しかしながら、所与の温度範囲内でMSC 3R−172吸着剤をアニールすることが改善されず、むしろ試料の吸着容量及び速度をさらに低下させる。その結果、アニールされたMSC 3R−172が発明のアニールされた改質活性炭組成物、すなわち、本発明のCMS吸着剤組成物を形成せず、プロピレン/プロパン分離に好適ではないと結論付けられる。
【0049】
対照的に、実施例1のMSC−4K改質活性炭は、4.65Åのプレアニールの有効な微細孔サイズを有し、窒素雰囲気下で約1000℃〜約1200℃の範囲の温度でのアニールは、それが4.0Å〜4.3Åの範囲内に入るように、有効な微細孔サイズの縮小に成功する。表2はまた、プレアニールMSC−4Kがプロピレン/プロパン(アルファは、9である)に対してわずかに選択的なだけであることを示す。しかしながら、1100℃でのアニール後、MSC−4Kの材料は、83の比較的高いプロピレン/プロパン選択性を有する。さらに、プロピレン吸着容量は高いままであり、高いプロピレン吸着速度が維持される。高い選択性、高容量、高い吸着速度は、1100℃でアニールされ、特に、プロピレン/プロパン分離に好適なMSC−4K CMS吸着剤を作製する。
【0050】
同様に、実施例2において改質活性炭X2M4/6は、5.5Åのプレアニールの有効な微細孔サイズを有し、約1200℃〜約1400℃の範囲の温度でのアニールは、それが4.0Å〜4.3Åの範囲内に入るように、有効な微細孔サイズの縮小に成功する。表2は、受け入れたままのX2M4/6前駆体(アニールなし)が、プロピレン/プロパンに対して全く選択的ではないことをさらに例証する。しかしながら、1300℃でのアニール後、X2M4/6系CMS吸着剤は、50の比較的高いプロピレン/プロパン選択性を有する。しかしながら、X2M4/6系CMS吸着剤は、比較的高い吸着容量(1.88重量%)を維持するが、このアニールは、1100℃でアニールされたMSC−4K CMS吸着剤の吸着容量よりも低いことに留意する。1300℃のアニールは、MSC−4KのCMSの吸着速度をほぼ半分(t0.5は3.0分〜6.8分に増加する)に減少させ、プロピレンがX2M4/6CMS吸着剤よりも1100℃でアニールされたMSC−4K CMS吸着剤により急速に吸着するという結果となる、しかしながら、X2M4/6CMSは、プロピレン/プロパン分離が極めて可能なままであり、結果として本発明の一例であることも注目すべきである。
【0051】
最後に、比較例Bは、アニール処理が未改質活性炭CALGON(商標)X−TRUSORB(商標)700の試料のための有効な微細孔サイズを調整するのに有効ではないことを示す。効果的な微細孔サイズは、1000℃〜1500℃の規定された範囲内の任意の温度で加熱することによって5.5A未満に減少させることはできない。さらに、プロピレン/プロパン(アルファは、1である)に対するその選択性は、プロセスのアニール部分によって改善されない。
【0053】
【表2-2】
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[請求項1]
カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を調製する方法であって、
全体として6オングストローム超の有効な微細孔サイズを有する微細孔を含む活性炭上にポリマーを堆積させることであって、前記ポリマーが前記微細孔中または前記微細孔周辺に堆積し、前記堆積が、
(1)前記活性炭を少なくとも1つのモノマーに含浸させ、その後、前記ポリマーが形成されるように前記少なくとも1つのモノマーを重合させること、または
(2)前記活性炭を少なくとも1つの部分的に重合したモノマーに含浸させ、前記ポリマーが形成されるように含浸後に前記少なくとも1つの部分的に重合したモノマーの重合の完了を許容もしくは促進すること、のいずれかによって実行される、堆積させることと、
前記活性炭及び前記堆積したポリマーを一緒に炭化して、全体として4.3オングストローム超〜6オングストロームの範囲の有効な微細孔サイズを有する微細孔を有する改質活性炭を形成することと、
前記有効な微細孔サイズが4.0オングストローム〜4.3オングストロームの範囲に減少するような条件下で、不活性雰囲気下及び1000℃〜1500℃の範囲の温度で前記改質活性炭を加熱することによって、前記カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を形成することと、を含む、方法。
[請求項2]
前記モノマーが、フルフリルアルコール、ホルマリン、ジビニルベンゼン、フェノール、アルデヒド、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
[請求項3]
前記ポリマーが、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド、ポリジビニルベンゼン、フェノール樹脂、及びそれらの組み合わせのポリマーからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
[請求項4]
前記活性炭が、少なくとも500m2/gの表面積を有し、前記改質活性炭が、少なくとも200m2/gの表面積を有し、いずれも窒素Brunauer−Emmett−Teller法によって測定されたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[請求項5]
前記加熱温度が、1100℃〜1300℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[請求項6]
前記カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物が、(1)10以上のプロピレン/プロパン選択性、(2)0.4MPa圧の圧力及び35℃の温度で1重量%以上のプロピレン容量、(3)10分未満の平衡プロピレン吸着の50%に達するまでの時間、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される特性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
[請求項7]
カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物であって、
全体として6オングストローム超の有効な微細孔サイズを有する微細孔を含む活性炭上にポリマーを堆積させることであって、前記ポリマーが前記微細孔中または前記微細孔周辺に堆積し、前記堆積が、
(1)前記活性炭を少なくとも1つのモノマーに含浸させ、その後、前記ポリマーが形成されるように前記少なくとも1つのモノマーを重合させること、または
(2)前記活性炭を少なくとも1つの部分的に重合したモノマーに含浸させ、前記ポリマーが形成されるように含浸後に前記少なくとも1つの部分的に重合したモノマーの重合の完了を許容もしくは促進すること、のいずれかによって実行される、堆積させることと、
前記活性炭及び前記堆積したポリマーを一緒に炭化させ、全体として4.3オングストローム超〜6オングストロームの範囲の有効な微細孔サイズを有する微細孔を有する改質活性炭を形成することと、
前記有効な微細孔サイズが4.0オングストローム〜4.3オングストロームの範囲に減少するような条件下で、不活性雰囲気下及び1000℃〜1500℃の範囲の温度で前記改質活性炭を加熱することによって、前記カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物を形成することと、を含む方法によって調製される、カーボンモレキュラーシーブ吸着剤組成物。