【文献】
平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック −原理とノウハウ−,丸善株式会社,2008年 7月25日,p.57−84
【文献】
ORGANIC PROCESS RESEARCH & DEVELOPMENT,2000年,Vol.4,No.5,p.427−435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、化学的に安定で、かつ医薬原薬として適した[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸の結晶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的で鋭意研究した結果、[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸 L−リシン塩(以下、「化合物(I)」とも表記する。)は結晶化が可能であること、および少なくとも2種類の結晶多形体が存在することを見出した。さらに、得られた結晶は、塩を形成していない[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸のフリー体(以下、単に「フリー体」とも表記する。その融点は141℃である。)に比べて融点が高く、熱的安定性および物理的性質に優れ、医薬原薬として極めて有用であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1][8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸 L−リシン(L−lysine)塩の結晶;
[2]A晶である、[1]に記載の結晶;
[3]粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=6.0°、10.0°、10.7°、12.1°、18.4°、19.2°、および20.1°にピークを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[4]粉末X線回折スペクトルが、
図1に示すパターンを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[5]赤外吸収スペクトルにおいて、波数673cm
−1、810cm
−1、872cm
−1、1010cm
−1、1051cm
−1、1413cm
−1、および1568cm
−1に吸収ピークを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[6]赤外吸収スペクトルが、
図3に示すパターンを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[7]固体
13C−NMRスペクトルにおいて、化学シフト107.1ppm、115.9ppm、127.5ppm、136.5ppm、145.7ppm、152.7ppm、153.8ppm、165.8ppm、175.8ppm、177.3ppm、および179.5ppmにピークを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[8]固体
13C−NMRスペクトルが、
図5に示すパターンを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[9]固体
19F−NMRスペクトルにおいて、化学シフト−77.0ppmおよび−72.3ppmにピークを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[10]固体
19F−NMRスペクトルが、
図6に示すパターンを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[11]固体
15N−NMRスペクトルにおいて、化学シフト−347.2ppmにピークを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[12]固体
15N−NMRスペクトルが、
図7に示すパターンを有する、[1]に記載の結晶(A晶);
[13]B晶である、[1]に記載の結晶;
[14]粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=6.0°、11.7°、12.4°、15.2°、16.4°、20.3°、および22.6°にピークを有する、[1]に記載の結晶(B晶);
[15]粉末X線回折スペクトルが、
図2に示すパターンを有する、[1]に記載の結晶(B晶);
[16]赤外吸収スペクトルにおいて、波数667cm
−1、803cm
−1、885cm
−1、1012cm
−1、1032cm
−1、1402cm
−1、および1597cm
−1に吸収ピークを有する、[1]に記載の結晶(B晶);
[17]赤外吸収スペクトルが、
図4に示すパターンを有する、[1]に記載の結晶(B晶);
[18][1]〜[17]のいずれか一つに記載の結晶、および製薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物;
[19][1]〜[17]のいずれか一つに記載の結晶を有効成分として含有する、CRTH2拮抗薬;
[20][1]〜[17]のいずれか一つに記載の結晶を有効成分として含有する、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、気管支炎、嚢胞性線維症、通年性アレルギー性鼻炎、季節性アレルギー性鼻炎、好酸球性慢性副鼻腔炎、および非好酸球性慢性副鼻腔炎からなる群より選ばれる一つ以上の疾患の治療薬または予防薬;
[21][1]〜[17]のいずれか一つに記載の結晶を有効成分として含有する、乾癬、アトピー性および非アトピー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、クローン病、潰瘍性大腸炎、好酸球性消化器疾患、ならびに過敏性腸疾患からなる群より選ばれる一つ以上の疾患の治療薬または予防薬;
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化学的に安定で、かつ熱的安定性および物理的性質に優れ、医薬原薬として適した[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸 L−リシン塩の結晶が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の結晶は、粉末X線回折スペクトル、赤外吸収スペクトル、固体NMRスペクトルのいずれかまたはそれら手段の組合せによって特徴付けられる。これらの結晶の粉末X線回折(XRD)スペクトル、赤外吸収スペクトル、固体NMRスペクトルは固有のパターンを示す。
【0012】
本発明の化合物(I)のA晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=6.0°、10.0°、10.7°、12.1°、18.4°、19.2°、および20.1°にピークを有する。また、本発明の化合物(I)のA晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、
図1に示すパターンを有する。
【0013】
本発明の化合物(I)のA晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、波数673cm
−1、810cm
−1、872cm
−1、1010cm
−1、1051cm
−1、1413cm
−1、および1568cm
−1に吸収ピークを有する。また、本発明の化合物(I)のA晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、
図3に示すパターンを有する。
【0014】
本発明の化合物(I)のA晶は、固体
13C−NMRスペクトルにおいて、化学シフト107.1ppm、115.9ppm、127.5ppm、136.5ppm、145.7ppm、152.7ppm、153.8ppm、165.8ppm、175.8ppm、177.3ppm、および179.5ppmにピークを有する。また、本発明の化合物(I)のA晶は、固体
13C−NMRスペクトルにおいて、
図5に示すパターンを有する。
【0015】
本発明の化合物(I)のA晶は、固体
19F−NMRスペクトルにおいて、化学シフト−77.0ppmおよび−72.3ppmにピークを有する。また、本発明の化合物(I)のA晶は、固体
19F−NMRスペクトルにおいて、
図6に示すパターンを有する。
【0016】
本発明の化合物(I)のA晶は、固体
15N−NMRスペクトルにおいて、化学シフト−347.2ppmにピークを有する。また、本発明の化合物(I)のA晶は、固体
15N−NMRスペクトルにおいて、
図7に示すパターンを有する。
【0017】
さらに、本発明の化合物(I)のA晶の融点は200℃である。
【0018】
本発明の化合物(I)のB晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=6.0°、11.7°、12.4°、15.2°、16.4°、20.3°、および22.6°にピークを有する。また、本発明の化合物(I)のB晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、
図2に示すパターンを有する。
【0019】
本発明の化合物(I)のB晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、波数667cm
−1、803cm
−1、885cm
−1、1012cm
−1、1032cm
−1、1402cm
−1、および1597cm
−1に吸収ピークを有する。また、本発明の化合物(I)のB晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、
図4に示すパターンを有する。
【0020】
なお、試料の純度が高い場合や用いる測定機器の性能が高い場合など、測定条件が良いときには、本発明の化合物(I)のA晶およびB晶の粉末X線回折スペクトル、赤外吸収スペクトル、および/または固体NMRスペクトルには、上記したピークに加え、他の固有のピークも確認できる場合がある。
【0021】
例えば、本発明の化合物(I)のA晶については、粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=9.1°、21.1°、24.5°、および28.4°のうちの一つまたは複数のピークも同時に観察できる場合があるし、本発明の化合物(I)のB晶については、粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=24.4°のピークも観察できる場合がある。
【0022】
逆に、試料の純度が低い場合など測定条件が十分でないときには、本発明の化合物(I)のA晶およびB晶の粉末X線回折スペクトル、赤外吸収スペクトル、および/または固体NMRスペクトルには、上記したピークの全部は観察できない場合もありうる。そのような場合でも、確認できた複数のピークが上記したピーク値に一致する場合、当業者は全体的な考察により、その試料に本発明の化合物(I)のA晶またはB晶が含まれていると認定しうる場合がある。いいかえれば、被疑侵害物と本発明の化合物(I)のA晶またはB晶との同一性は、粉末X線回折スペクトル、赤外吸収スペクトル、または固体NMRスペクトルにおける全ピークの一致ではなく、全体的なパターンの一致により、終局的には「結晶として同一か否か」により論じられる。
【0023】
粉末X線回折スペクトルにおける回折角2θのピークの値は、機器の測定誤差や、測定試料の状態などの測定条件によって多少変動しうるものであるため、2θ値がわずかに異なる場合であっても、適宜スペクトル全体のパターンを参照して結晶形の同一性は認定されるべきであり、かかる誤差の範囲の結晶も本発明に含まれる。2θ値の誤差としては、±0.5°が考えられる。すなわち、上記回折角で特定される結晶には、±0.5°の範囲で一致するものも含まれる。もっとも、第十六改正日本薬局方によれば、粉末X線回折法におけるピークの同一性は、±0.2°以内であれば同一と判断し得るとされており、これを当業者の技術常識とみることもできる。
【0024】
例えば、一般的な測定条件下で得られた粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θの値が、6.0±0.5°である5.5°ないし6.5°の範囲にあるとき、「回折角2θの値が6.0°にピークを有する」といえるが、特に厳格に管理された測定条件下で得られた粉末X線回折スペクトルにおいては、回折角2θの値が5.8°ないし6.2°の範囲にあるときにかぎり、「回折角2θの値が6.0°にピークを有する」といえることになる。他のピークも同様である。
【0025】
なお、後述する実施例でもこうした誤差範囲内の測定値が得られている。
【0026】
同様に、粉末X線回折スペクトルにおける回折角2θの相対強度も測定に用いる機器の測定誤差や、測定試料の結晶粒子の大きさ、形状、配向、粉砕による結晶性低下などの影響によって多少変動しうるものであるため、得られた粉末X線回折スペクトルにおけるピークの相対強度が
図1や
図2のものと多少異なっていても、当業者がピーク位置を中心に総合判断することで、本発明の化合物(I)のA晶またはB晶のスペクトルであると認定できる場合もある。
【0027】
図3および
図4の赤外吸収スペクトルは、全反射法(ATR法)により測定したものである。全反射法では一般的に、透過法や拡散反射法(透過法等という。これらの測定方法ではしばしば試料をKBr粉末で希釈して測定する)に比べて、低波数側の吸収強度が大きくなる特徴、および吸収ピークが数cm
−1から数10cm
−1にわたって低波数側へシフトする特徴を有することが知られている。吸収ピークのシフトに対応するために全反射測定装置は、全反射法と透過法等とで比較した多くのデータを基にして全反射法測定結果を透過法等測定結果に変換する機能、いわゆる「ATR補正」機能を備えていることが多い。吸収ピークの値の違いが大きいので、「ATR補正」を実施した結果か、実施していない結果か、について注意する必要がある。
図3および
図4の赤外吸収スペクトルでは、「ATR補正」を実施していない。
【0028】
赤外吸収スペクトルにおいては、一般的に、同一の測定方法であっても(全反射測定法においてはATR補正実施したか否かの点で同一であっても)吸収ピークに誤差が生じ得るものである。かかる誤差としては、±5cm
−1の範囲内が通常である。すなわち、上記波数で特定される結晶形は、±5cm
−1の範囲で一致するものも含まれる。
【0029】
一般に、固体NMRスペクトルにおける化学シフトも、誤差が生じ得るものである。かかる誤差としては、±0.5ppmの範囲内が通常であるが、固体試料の状態よっては、さらに±0.5ppmの追加的な誤差を生じる可能性がある。すなわち、上記化学シフトで特定される結晶形は、±0.5ppmないし±1.0ppmの範囲で一致するものも含まれる。
【0030】
[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸は、例えば前記した特許文献1に記載の製造方法で製造することができる。化合物(I)は、[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸と溶媒との混合液に、L−リシンを添加することなどで得られる。
【0031】
本明細書における融点は、示差走査熱量測定計により測定したものである。一般に、医薬原薬は、打錠時の高温高圧や長期保存において安定なものが求められており、このため、融点が高く、熱的安定性に優れた結晶が求められている。
【0032】
本発明の化合物(I)の結晶は、種々の製造方法で取得することができるが、その典型的な例を以下に示す。
【0033】
化合物(I)の結晶は、化合物(I)を溶媒に溶解もしくは懸濁するか、または[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸およびL−リシンを溶媒に溶解もしくは懸濁し、濃縮、冷却、もしくは貧溶媒添加によって結晶化することで取得することができる。
【0034】
より詳細には、溶媒の種類、濃度、温度などの条件によって、不飽和溶液であれば、化合物(I)が溶解状態で得られ、過飽和溶液であれば、直ちに結晶として析出する場合もあるし、溶液状態を維持する場合もある。過飽和や不飽和状態は、当業者であれば、溶媒、濃度、または温度などの条件を選択することによって、適宜なしうるものである。溶液状態の場合は、これを濃縮する、冷却する、あるいは貧溶媒を添加するなどの方法によって、化合物(I)を結晶として析出させることができる。懸濁状態の場合、上述に加えて溶媒媒介転移、すなわち、その溶媒組成や温度において最も安定な結晶形に転移する原理を用いて安定晶を取得することができる。
【0035】
用いる溶媒としては、N,N−ジメチルホルアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、エタノール、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、ネオペンチルアルコール、2−エトキシメタノール、2−エトキシエタノール、2,2,2−トリフルオロジエチルエーテル、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、アセトン、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロヘキサノン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、テトラリン、トルエン、キシレン、水、またはこれらより選ばれる2種以上の混合溶媒を挙げることができる。経済的観点や工業的観点からより好ましい溶媒としては、アセトニトリル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、2−ブタノン、ヘキサン、ヘプタン、水、またはこれらより選ばれる2種以上の混合溶媒を挙げることができる。
【0036】
用いる溶媒の量は特に限定されないが、5〜100倍量が好ましく、50倍量以下がより好ましく、さらには20倍量以下が好ましい。これ以降、1倍量とは、1gの[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸もしくは化合物(I)に対して1mLの溶媒量をいう。溶媒量を少なくする目的で好ましく用いられる溶媒としては、[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸に対する溶解性の高い溶媒であり、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンを挙げることができる。
【0037】
結晶化が開始した後の温度条件、撹拌条件、濾別までの時間は特に限定されないが、それらの条件が結晶の収率、化学純度、粒度などに影響することがあるので、目的に応じて条件の適切な組み合わせを設定することが好ましい。
【0038】
溶液からの結晶化により取得する場合、目的の結晶と同じ結晶形の種晶を添加することが有効である。その量は通常、原料[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸もしくは化合物(I)の0.01重量%から20重量%程度、好ましくは0.1重量%から10重量%の範囲であり、あらかじめ粉砕しておくことが好ましい。添加する際は、取得しようとする結晶の過飽和領域であることが望ましいが、添加する際に既に過飽和になっている必要はなく、添加した結晶がすべて溶解しない状態であることが重要である。
【0039】
本発明の化合物(I)のA晶は比較的取得しやすく、上述の製造方法の、幅広い条件(多様な溶媒の組み合わせ)にて結晶化させることができる。得られた懸濁液から結晶を濾取、乾燥してA晶の結晶を得る。濾取は通常の方法、例えば自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、または遠心分離を用いることができる。乾燥は通常の方法、例えば自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥を用いることができる。
【0040】
本発明の化合物(I)のB晶は水和物晶であり、水を含有する溶媒の組み合わせにて取得することができる。水と組み合わせる溶媒としては、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール類が好ましい。例えば、エタノールと水との1:1混合溶媒(80倍量)に化合物(I)を溶解し、濃縮し、さらに乾燥することで取得できる。乾燥は自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥を用いることができる。減圧加熱乾燥において、80℃でも結晶水は失われないことが確認されているが、さらに高温の場合は注意が必要である。
【0041】
本発明の化合物(I)の結晶は、医薬の有効成分として用いることができる。また、単独の結晶のみならず、2種以上の結晶形の混合物として用いることもできる。
【0042】
本発明の化合物(I)の結晶は、結晶でないものに比べ、製造時の取り扱いやすさ、再現性、安定性、また保存安定性などの点において有利となる。
【0043】
さらに、本発明の化合物(I)の結晶において、それらがL−リシン塩の結晶であることは、フリー体の結晶に比べ、保存安定性の点で優れる。
【0044】
本発明の化合物(I)の結晶は、医薬上許容される担体を用いて医薬組成物とすることができる。
【0045】
本発明の化合物(I)の結晶を含有する製剤は、通常製剤化に用いられる添加剤を用いて調製される。それら添加剤としては、固形製剤の場合、乳糖、白糖、ブドウ糖、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、およびリン酸水素カルシウム等の賦形剤;結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびポリビニルピロリドン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、およびカルボキシメチルスターチナトリム等の崩壊剤;タルクおよびステアリン酸類等の滑沢剤;ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびエチルセルロース等のコーティング剤;ならびに着色剤が挙げられる。半固形製剤の場合、白色ワセリン等の基剤が挙げられ、液状製剤の場合、エタノール等の溶剤、エタノール等の溶解補助剤、パラオキシ安息香酸エステル類等の保存剤、ブドウ糖等の等張化剤、クエン酸類等の緩衝剤、L−アスコルビン酸等の抗酸化剤、EDTA等のキレート剤、およびポリソルベート80等の懸濁化剤・乳化剤、等を挙げることができる。
【0046】
本発明の化合物(I)の結晶は、固形製剤、半固形製剤、および液状製剤等のいずれの剤形、経口剤および非経口剤(注射剤、経皮剤、点眼剤、坐剤、経鼻剤、および吸入剤等)のいずれの適用製剤であっても使用することができる。
【0047】
本発明の化合物(I)の結晶を有効成分として含有する医薬組成物は、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、気管支炎、嚢胞性線維症、通年性アレルギー性鼻炎、季節性アレルギー性鼻炎、好酸球性慢性副鼻腔炎、非好酸球性慢性副鼻腔炎、乾癬、アトピー性および非アトピー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、クローン病、潰瘍性大腸炎、好酸球性消化器疾患、ならびに過敏性腸疾患等、CRTH2受容体の関与する疾患の治療薬または予防薬として用いることができる。ここで、「予防」とは、未だ罹患または発症をしていない個体において、罹患または発症を未然に防ぐことであり、「治療」とは既に罹患または発症した個体において、疾患や症状を治癒、抑制、または改善させることをいう。
【実施例】
【0048】
[粉末X線回折の測定方法]
本発明の結晶の粉末X線回折は、以下の条件で測定した。
測定装置:島津製作所製
測定条件:線源Cu−Kα、40kV−40mA、スキャン5〜40°、スキャン時間35秒
[赤外吸収の測定方法]
本発明の結晶の赤外吸収スペクトルは、日本薬局方の一般試験法に記載された赤外吸収スペクトル測定法のATR法に従い、以下の条件で測定した。
条件1
測定装置:パーキンエルマー製 Spectrum Two
測定条件:4000〜400cm
−1、分解能4cm
−1、積算64回
条件2
測定装置:ブルカー・オプティクス製 ALPHA
測定条件:4000〜400cm
−1、分解能4cm
−1、積算24回
[固体
13C−NMRの測定方法]
本発明の結晶の
13C固体NMRは、以下の条件で測定した。
測定装置:ブルカー製 AVANCE III HD400
測定条件:パルスモードCP/MAS測定、パルス繰り返し時間20秒、化学シフト基準ヘキサメチルベンゼン(外部標準17.35ppm)
[固体
19F−NMRの測定方法]
本発明の結晶の
19F固体NMRは以下の条件で測定した。
測定装置:ブルカー製 AVANCE III HD400
測定条件:パルスモードCP/MAS測定、パルス繰り返し時間55秒、化学シフト基準ヘキサフルオロベンゼン(外部標準:−163.0ppm)
[固体
15N−NMRの測定方法]
本発明の結晶の
15N固体NMRは以下の条件で測定した。
測定装置:ブルカー製 AVANCE400
測定条件:パルスモードCP/MAS測定、パルス繰り返し時間15秒、化学シフト基準塩化アンモニウム(外部標準:−341.2ppm)
[融点の測定方法]
本発明の結晶の融点は、以下の条件で測定した。
測定装置:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製 Q2000
測定条件:測定範囲30〜320℃、昇温速度20℃/分、On Set値
[溶液NMRの測定方法]
溶液
1H−NMRスペクトル(400MHz、DMSO−d
6またはCDCl
3)を測定したものについては、その化学シフト(δ:ppm)およびカップリング定数(J:Hz)を示す。以下の略号はそれぞれ次のものを表す。
s=singlet、d=doublet、t=triplet、q=quartet、brs=broad singlet、m=multiplet
測定装置:ブルカー・バイオスピン製AV−400M
[実施例1]
8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸 L−リシン塩のA晶の製造
[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸8.0gを2−プロパノール96mLに45℃で溶解し、L−リシン2.6gの水24mL水溶液を加え、45℃で1時間撹拌した。2時間かけて15℃に冷却し、結晶を濾取して2−プロパノール24mLで洗浄した。結晶を40℃で減圧乾燥し、8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸 L−リシン塩の結晶9.0gを得た。得られた結晶の粉末XRDを
図1に示す。回折角2θ=6.0°、10.0°、10.7°、12.1°、18.4°、19.2°、および20.1°にピークが観測された。得られた結晶の条件1による赤外吸収スペクトルを
図3に示す。波数673cm
−1、810cm
−1、872cm
−1、1010cm
−1、1051cm
−1、1413cm
−1、および1568cm
−1にピークが観測された。
【0049】
得られた結晶の固体
13C−NMRスペクトルを
図5に示す。化学シフト107.1ppm、115.9ppm、127.5ppm、136.5ppm、145.7ppm、152.7ppm、153.8ppm、165.8ppm、175.8ppm、177.3ppm、および179.5ppmにピークが観測された。
【0050】
得られた結晶の固体
19F−NMRスペクトルを
図6に示す。化学シフト−77.0ppmおよび−72.3ppmにピークが観測された。
【0051】
得られた結晶の固体
15N−NMRスペクトルを
図7に示す。化学シフト−347.2ppmにピークが観測された。
【0052】
また、融点は200℃であった。
【0053】
溶液
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6)δ:1.21(3H,t,J=7.4Hz),1.25−1.75(6H,m),2.73(2H,t,J=7.2Hz),2.83(2H,q,J=7.3Hz),3.17(1H,t,J=6.0Hz),4.32(2H,s),4.46(2H,s),6.89(1H,d,J=8.8Hz),7.12(1H,d,J=8.8Hz),7.33(1H,d,J=8.8Hz),7.81(1H,d,J=8.8Hz)
[実施例2]
[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸 L−リシン塩のB晶の製造
化合物(I)のA晶4.8gをエタノール/水=1/1の混合溶液420mLに室温で溶解し、40℃で減圧濃縮した。得られた濃縮物を65℃で減圧乾燥し、8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸 L−リシン塩の結晶4.8gを得た。得られた結晶の粉末XRDを
図2に示す。回折角2θ=6.0°、11.7°、12.4°、15.2°、16.4°、20.3°、および22.6°にピークが観測された。得られた結晶の条件2による赤外吸収スペクトルを
図4に示す。波数667cm
−1、803cm
−1、885cm
−1、1012cm
−1、1032cm
−1、1402cm
−1、および1597cm
−1にピークが観測された。
【0054】
溶液
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6)δ:1.21(3H,t,J=7.4Hz),1.25−1.75(6H,m),2.73(2H,t,J=7.2Hz),2.83(2H,q,J=7.3Hz),3.22(1H,t,J=6.0Hz),4.32(2H,s),4.50(2H,s),6.90(1H,d,J=8.8Hz),7.11(1H,d,J=8.4Hz),7.33(1H,d,J=8.4Hz),7.80(1H,d,J=8.4Hz)
[比較例1]
[
8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]
酢酸 のフリー体結晶の製造
国際公開WO2007/036743の実施例39調製39cに記載の方法によって得られた[8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸メチルエステル(100g)のメタノール(2000mL)溶液に、水酸化ナトリウム(14g)を水(350mL)に溶解した水溶液を加え、35℃で1時間撹拌した。これを室温まで冷却し、2000mLの水を加えて撹拌し、希塩酸と水酸化ナトリウム水溶液でpHを4に調整した。析出した結晶をろ過し、42℃で減圧乾燥して、8−クロロ−3−(4−クロロベンジル)−4−ジフルオロメトキシ−2−エチルキノリン−5−イルオキシ]酢酸のフリー体結晶95gを得た。得られた結晶の融点は141℃であった。
[実施例3]
実施例1で得られた化合物(I)のA晶の保存安定性を、比較例1で得られたフリー体の結晶と比較した。
【0055】
それぞれの結晶をガラス容器に入れて密栓し、40℃、相対湿度75%の条件で3か月間保存し、それぞれの保存前後の類縁物質量を液体クロマトグラフィー法により測定した結果を表1に示す。値は0.03%以上観測された、生じた不純物である類縁物質の総量である。
【0056】
【表1】
化合物(I)のA晶は、フリー体の結晶に比べ、保存安定性に優れることが示された。