(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906513
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】ポリマー組成物のための疎水性表面改変アルミナおよびそれらの製法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/02 20060101AFI20210708BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20210708BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20210708BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20210708BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
C01F7/02 E
C08L101/00
C08L91/06
C08K3/22
C08K9/04
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-521902(P2018-521902)
(86)(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公表番号】特表2018-535179(P2018-535179A)
(43)【公表日】2018年11月29日
(86)【国際出願番号】US2016059294
(87)【国際公開番号】WO2017075333
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2019年8月9日
(31)【優先権主張番号】62/248,962
(32)【優先日】2015年10月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516380050
【氏名又は名称】サソール(ユーエスエイ)コーポレーシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラバイオリ,マリア・ロベルタ
(72)【発明者】
【氏名】ロスカトバ,ライアン
【審査官】
佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2007/0098990(US,A1)
【文献】
特開2014−193795(JP,A)
【文献】
特表2010−512297(JP,A)
【文献】
特開2009−227485(JP,A)
【文献】
特開昭57−115434(JP,A)
【文献】
SAIEN, J. et al.,Journal of Chemical & Engineering Data,米国,2013年 1月 2日,Vol.58,pp.436-440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00 − 17/38
C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)アルミナ化合物を含み、7.0〜10.0のpHをもつスラリーを提供し、
ii)12〜24の炭素鎖長をもつ炭化水素鎖をもつカルボン酸を含む有機組成物をスラリーと混合して酸改変スラリーを形成し、
iii)酸改変スラリーを熱水状態調節して熱水老化スラリーを形成し、そして
iv)熱水老化スラリーを乾燥する:
工程を含む、疎水性アルミナを製造する方法。
【請求項2】
アルミナ化合物が酸化水酸化アルミニウム(AlOOH)、ベーマイトまたは擬ベーマイトを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
スラリーまたは酸改変スラリーのpHが7以上のpHに留まることを確保するために、スラリーまたは酸改変スラリーに塩基を添加する工程を含む、請求項1〜2のいずれか1項の方法。
【請求項4】
有機組成物が14〜18の炭化水素鎖をもつカルボン酸を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
熱水状態調節が1〜6時間の期間、90℃〜200℃の温度で実施される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
熱水老化スラリーが200℃を超える入口温度をもつ噴霧乾燥機内で乾燥される、請求項1〜5のいずれか1項の方法。
【請求項7】
アルミナ化合物が酸化水酸化アルミニウム(AlOOH)、ベーマイトまたは擬ベーマイトを含む、請求項1〜6のいずれかの方法に従って調製される疎水性アルミナ。
【請求項8】
疎水性アルミナが2.00%未満の最終自由水を含む、請求項7の疎水性アルミナ。
【請求項9】
疎水性アルミナが1.00%未満の最終自由水を含む、請求項8の疎水性アルミナ。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項の疎水性アルミナ、および基質を含む組成物であって、その疎水性アルミナが基質中に分散されている、組成物。
【請求項11】
基質がポリマーまたはパラフィンである、請求項10の組成物。
【請求項12】
ポリマーが低分子量ポリマーまたはワックスを含む請求項11の組成物。
【請求項13】
疎水性アルミナの粒子が、3.5ナノメーター〜1000ナノメーターの粒度に、基質中に分散されている、請求項10〜12のいずれかの組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、その開示がすべての目的のための参照により本明細書に引用されていることとされる、2015年10月30日出願の米国特許出願第62/248,962号に対する優先権を請求する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、疎水性アルミナを製造するための新規方法、新規疎水性アルミナ並びに新規疎水性アルミナおよび基質(substrate)を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリマーは、例えば繊維、フィルムまたは様々な塗料(coating materials)を製造するための幾つかの適用のために広範に使用される。熱可塑性樹脂は産業でもっとも広範に使用される。ポリマーはしばしば、遮断層、例えばフィルム、接着剤、等として、またはそれらの中に使用されて、様々な材料の特性および性能を改善する。
【0004】
遮断ポリマーの分野において、分子の浸透(molecular permeation)に対する抵抗を達成するために、エネルギーに関しては特に効率的ではない複雑な工程(process)および技術が適用される(例えば、多層フィルムまたはポリマーのブレンドが使用される)(非特許文献1参照)。
【0005】
高い酸素遮断性のポリマーおよび感水性(water sensitive)遮断層(エチレンビニルアルコールコポリマー)を、少なくとも2層の、比較的高い疎水性のポリマー(ポリエチレン、「PE」)と組み合わせることにより、広い湿度範囲にわたり超高度の酸素遮断性(barrier properties)をもつ材料が得られる。1種または複数のブレンドは単層ポリマーでは得られない特性を達成することができるので、ポリマーのブレンドもまた遮断ポリマーの分野に使用することができる。
【0006】
様々な特性を改善するための、重合体物質(polymer material)中への無機粒子の使用は当該技術分野で周知である。例えば、粘土はポリマーの充填剤として、強化剤として、そして遮断材としてかなり研究されてきた。試験された多種多様な方法は、材料の最終的物理特性および性能が、厳密に、製造技術、調製法、および充填材を剥離する可能性に左右される事実を立証する。しかし、単一粒子に剥離または分散された採掘粘土(mined clay)の使用が、主たる技術的課題になってきた(非特許文献2〜5参照)。
【0007】
採掘粘土の使用は幾つかの欠点を有する。これは、それらがかなりの量の湿気を吸着する鉱物を含む可能性があるためである。大部分の場合、高温加熱することによる湿気除去後ですら、湿気は室温で容易に再度獲得されて、このような粘土の使用を更に複雑にさせる。十分に分散された単一粒子形態を形成するための、小板(platelets)の効率的な剥離は、粘土粒子が親水性であり、かつ多数の興味深いポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート「PET」、ポリエチレン「PE」、ポリプロピレン「PP」、等)が疎水性である事実により妨げられる可能性がある(非特許文献1参照)。
【0008】
文献中に、ポリマー中への粘土の処理(processing)を可能にするための第四アンモニウム界面活性剤による改善および粒子処理についての多数の報告がある。これらの材料は静電気の相互作用の機序により粘土粒子の親水性を改変し、そしてホストポリマー(host polymer)における分散性および湿潤性を改善することができる
。そうすることにより、それらは、場合により、架橋により強化を与えることができる。しかし、更に、このようなアンモニウムの界面活性剤は、ポリマーの耐久性の観点に不都合な影響を伴って、比較的高温における溶融物中での処理中に分解する可能性があることも報告されている(非特許文献2、3参照)。
【0009】
粘土改変ポリマーの調製はしばしば、相溶化剤(compatibilizers)(マレイン酸無水物のような)および/または撥水性の特性をもつ短鎖金属ステアレートの存在下で実施される。しかし、金属ステアレートは潤滑剤として働き、そして特定の化学結合を形成せずに粒子を単に取り囲む。金属ステアレートおよびシランは溶融物の粘度にごく僅かな上昇を伴って粘土粒子を懸濁する補助をする。しかし、ナノサイズの粒子の場合は、凝集物(agglomerate)のみが、低い分散によりポリマーマトリックス中に取り込まれ、その材料は従来の充填剤として働く(非特許文献4参照)。
【0010】
どんな特定の表面の改変をも伴わない粒子を取り込むための機械的技法の使用もまた、先行技術に記載されている。これらの処理はめったに使用されない。一例は、表面を改変することができないカオリンである。該先行技術は、クラッシャー(crusher)を通して調製される板構造のカオリンが標準のラテックス塗料(coatings)を超えて遮断能を改善することができることを教示している(非特許文献5参照)。塗料支持体の走査電子顕微鏡(SEM)写真は、所望の特性を達成するためには、粒子が高濃度で存在しなければならないことを示す。大型カオリン結晶を含む採掘(mined)鉱物は、選択的に採掘され、ミクロンサイズの板様粒子に粉砕されると報告されている。粒子の厚さを調節するために達成される限界は約100nmの規模にあり、他方、その粒径は500nmを超え(有効であるためには大き過ぎる)、従って使用される体積分率(volume fraction)に関しては極めて非効率的である。充填剤の高い体積分率は遮断性を高めると期待されるが、反対にポリマーの機械的特性(mechanical characteristics)を劣化させる。
【0011】
文献に、その表面の改変を伴わない水和アルミナのポリマーのための使用が報告されている(特許文献1参照)。該出願は遮断性のために粒状物中に包埋されている(embedded)ポリアミド樹脂に関する。本方法においては、高温における加熱焼成法(thermal calcination)により、遷移(transitional)酸化アルミニウムが得られ、該焼成法は400℃を超える温度で実施される。最高焼成温度は1050℃または1100℃未満であることができる。これらの温度は通常、実質的な割合のガンマおよびテータ相のアルミナをもたらす。これらの材料の調製法は、時々結晶の成長を調節するために使用される種子(seeds)を使用する。この材料の特性は遷移アルミナによるベーマイトの変更から誘導される(粒子の、硬い、密な集合体形成を回避するために)と主張される。しかし、該製品の調製は、焼成法、次の、ポリマー中への添加の前の、材料の再度の更なる乾燥、の必要により更に複雑にされることが論じられる可能性がある。例として、一般にこのアルミナの特性を表わす50nmを超える(または「少なくとも75nm、少なくとも100nm、または少なくとも約135nmのような」)最小の結晶サイズをもつ粒子が示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Timothy V.Duncan,Applications of nanotechnology in food packaging and food safety:Barrier materials,antimicrobials and sensors,Journal of Colloid and Interface Science 363(2011)1−24
【非特許文献2】M.D.Sanchez−Garcia,Novel PET Nanocomposites of Interest in Food Packaging Applications and Comparative Barrier Performance With Biopolyester Nanocomposites,JOURNAL OF PLASTIC FILM & SHEETING,VOL.23−APRIL 2007.
【非特許文献3】Dintcheva,N.Tz.;Al−Malaika,S.;La Mantia,F.P.,Effect of extrusion and photo−oxidation on polyethylene/clay nanocomposites,Polymer Degradation and Stability(2009),94(9),1571−1588.
【非特許文献4】Gupta,Kernmel and Kin,Polymer Nanocomposites handbook,CRC Press.
【非特許文献5】IMERYS TECHNICAL GUIDE,Barrisurf TM.
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】D.O.Yener,O.Guiselin,R.Bauer,米国特許第8575255号明細書,Saint−Gobain Ceramics and Plastics,2007.
【0014】
背景の非特許文献1〜5および特許文献1は、すべての目的に対する参照により本明細書に引用されたこととされる。
【発明の概要】
【0015】
本発明は簡単な工程(process)により、低湿気含量および極小のナノ粒子を特徴としてもつ表面改変構造物をもつ新規疎水性アルミナを製造することを目的とする。これらの新規疎水性アルミナは、基質(substrate)、例えばポリマー中に均一に分散されることができる。
【0016】
本発明の第1のアスペクトに従うと、
i)アルミナ化合物を含み、5.5を超えるpHをもつスラリーを提供し、
ii)長い炭化水素鎖をもつカルボン酸を含む有機組成物をスラリーと混合して酸改変スラリーを形成し、
iii)酸改変スラリーを熱水状態調節(hydrothermally conditioning)して熱水老化(hydrothermally aged)スラリーを形成し、そして
iv)熱水老化スラリーを乾燥する:
工程を含む、疎水性アルミナを製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
アルミナ化合物は酸化水酸化アルミニウム(AlOOH)、ベーマイトまたは擬ベーマイト、好適にはベーマイトを含む。酸化水酸化アルミニウムはアルミニウムアルコキシドの加水分解(water hydrolysis)から、またはアルミン酸ナトリウム源、ミョウバン(alum)源のような他のアルミナ源あるいは多数の他のバリエーションから誘導されることができる。
【0018】
より具体的には、本発明の方法に適するアルミナ化合物はアルミニウムアルコキシドの加水分解から得ることができる。
【0019】
酸化水酸化アルミニウムは六面体、平板様(tablet−like)、ブロック様、
板様(plate−like)構造物またはそれらの組み合わせを含む異なる形状の結晶で構成される。それは好適には、板様またはブロック様構造物またはそれらの組み合わせを有する。
【0020】
スラリーは好適には水性(aqueous)スラリーである。本発明のより好適な実施態様において、アルミナ化合物を含む水性スラリーはアルミニウムアルコキシドの加水分解からのAlOOHのチーグラー工業生産の中間流(intermediate stream)である。
【0021】
水性スラリーは好適には、5.5超のpH、好適には7.0〜10.0のpH、より好適には8.0〜10.0のpHを有する。
【0022】
該有機組成物は長鎖脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸、不飽和もしくは飽和多酸(例えば、クエン酸)、前記化合物の相互結合鎖およびエステルのマトリックスを含む。該有機組成物はアルミナ化合物の表面に結合する長い炭化水素鎖をもつカルボン酸官能基を有する。
【0023】
該有機組成物は10を超える炭素鎖長、好適には12〜24の炭素鎖長(carbon
chain length)、より好適には12〜20、そして最も好適には14〜18の炭素鎖長をもつ炭化水素鎖をもつカルボン酸を含む。
【0024】
先行技術における高分子材料(polymeric material)中に無機化合物を分散する方法は一般に、押出し法および他の機械的高剪断法により達成される。本発明の有効な効果をもたらすためには、このような高い機械的エネルギーを利用することは必要とされない。小規模においては、請求される方法は低先端速度で作動することができるアンカー(anchor)タイプの羽根車(impeller)の付いた容器中で適用することができる。大規模に対しては、該方法は、適切な制御先端速度における機械的羽根車の付いた、そして適切な内部の分配機の付いた容器中で実施することができる。
【0025】
有機組成物が溶解するように、有機組成物は最初に、アルミナ化合物を含む水性スラリーと混合されて、酸改変スラリーを形成するので、本発明の方法の工程は重要である。この次に、有機組成物がアルミナ化合物の粒子で確実に有効に乳化される熱水状態調節工程または老化工程が続き、かくして微細に細分された(sub−divided)アルミナ粒子を含む熱水老化スラリーが得られる。
【0026】
水性スラリーおよび酸改変スラリーは7以上のpHをもつことが好適である。特定の場合には、選択されるスラリーのpHおよびこのようなスラリーに添加される有機組成物の量のおかげで、7以上のpHが維持される。例えば、有機組成物がアルミニウムアルコキシドの加水分解からのAlOOHのチーグラー工業生産の中間流のスラリーに必要量を添加される場合、酸改変スラリーのpHは7超に留まるであろう。他の場合には、酸改変スラリーのpHが確実に7以上に維持されるために、本発明の方法は酸改変スラリーに塩基性溶液、例えばNH
4OHを添加する工程を含むことができる。あるいはまた、有機組成物の添加の前にその塩基をスラリーに添加することができる。
【0027】
発明の一態様に従うことにより、アルミナ化合物は水性懸濁液(aqueous suspension)、例えば、水に添加されて、室温のスラリーを形成する。室温のスラリーは容器中に導入され、本発明により規定される通りの炭化水素鎖をもつカルボン酸を含む、前以て決められた量の有機組成物がスラリーに添加される。有機組成物はスラリーが加熱される前にスラリーに添加することができる。他方、スラリーを最初に、外界温度を超えて約200℃の温度まで加熱し、次に有機組成物と混合することができる。当業者はまた、試薬を混合するための代りの適切な方法を見出すことができる。例えば、バッチ
法において、有機組成物を予熱された容器に添加し、その後にスラリーを添加するか、または有機組成物をスラリーと同時に添加することができる。水性スラリーおよび酸改変スラリーは7以上のpHをもつことが好適である。酸改変スラリーはその後、熱水状態調節処理を受けて、熱水老化スラリーを形成する。
【0028】
熱水状態調節処理は90℃〜200℃間の温度で実施される。熱は外部源(例えば、電気的または外部ジャケット内の循環油による)により、あるいは高圧蒸気の直接注入により供給されることができる。
【0029】
生成される熱水老化スラリーは、主として温度および撹拌次第である(depends on)期間にわたり、熱水状態調節の温度で維持される。一般的に、このような熱水老化の期間は1時間〜6時間の間であることができる。熱水老化期間中にアルミナの結晶粒子の相伴う(concomitant)成長が起って、特有の形態を提供する。
【0030】
熱水状態調節または老化の最後に、熱水老化スラリーは乾燥室内に入り、そこで熱水老化スラリーは乾燥され、疎水性アルミナ粉が得られる。
【0031】
熱水老化スラリーは、窒素または空気で作動する噴霧乾燥機または接触乾燥機中で乾燥されることができるが、適切な温度で作動することができる他の乾燥機を使用することができる。乾燥が噴霧乾燥機内で実施される場合は、噴霧器の入り口温度は約200℃を超え、また噴霧器の出口温度は約95℃〜140℃、好適には100℃〜110℃である。熱交換が乾燥機の外部の循環油により実施される接触乾燥機を使用する場合は、油の温度は約220℃〜230℃であり、他方、窒素の出口温度は100℃を超え、例えば約112〜116℃である。
【0032】
当該技術分野で知られるように、該粉末の粒度(particle size)分布およびかさ密度(bulk density)は、与えられた乾燥法に対してかなり一定である。その密度は最低0.2g/ccから最大1.0g/ccまで多様である可能性がある。
【0033】
乾燥後に、有機組成物がAl−カルボキシレート化合物によりアルミナ表面に固定されている疎水性アルミナ粉末が得られる。これは拡散反射赤外線フーリエ変換(DRIFT)スペクトルから、1580cm
-1における帯の出現により確認された。
【0034】
このような疎水性粉末の製造は、ヒドロキシル基の反応および表面の水の除去によるアルミナ結晶粒子の表面上における疎水性Al−カルボキシレート種(species)の形成により起る。処理工程後のアルミナ表面の親油性の特徴により、乾燥は、実質的に低い湿気からゼロ湿気含量の粉末をもたらす。
【0035】
表面処理の方法により、共有結合された有機分子は、アルミナのナノ結晶粒子の上に、未処理の極性アルミナの表面に比較して異なる特性をもつ表面を形成する。該表面は低い表面エネルギー材料である、低い表面エネルギーのポリマー系の表面に匹敵する。その利点は、粒子の凝集力(agglomerate strength)がポリマーのものに類似し、従って凝集物を容易に破壊し、そしてポリマー中に単一のナノ結晶粒子の均一な分散を達成することができる点である。
【0036】
本発明の方法により製造される疎水性アルミナ粉末は実質的に低い湿気を含有する。とりわけ、該疎水性アルミナ粉末は3%未満の自由水、好適には2%未満の自由水、より好適には1%未満の自由水、更により好適には0.5%未満の自由水、そして最も好適には0.4%未満の自由水を有する。自由水は双方とも本発明の当業者に知られているカール
・フィッシャー(Karl Fischer)法または熱重量分析(TGA)法により測定される。
【0037】
疎水性アルミナ粉末は、有機分子により被覆された、水または極性分子による湿潤性が顕著に低く、有意に均等な表面をもつことが認められ、これが順次、水の再水和を妨げる際に劇的な影響を有する。
【0038】
乾燥工程の温度が高いほど、結晶粒子はAl−カルボキシレート種でより多量に被覆され、また最終粉末の湿気が低いほど、粒子はより疎水性である。
【0039】
本発明の第2のアスペクトに従うと、本発明の方法に従って調製される疎水性アルミナが提供される。
【0040】
これらの新規疎水性アルミナは特定の縦横比(aspect ratios)をもつことができる。このような利点は、熱伝導率、機械的特性(特にポリマー中に実質的に凝集物を含まない分散物の場合)または難燃性(flame retardancy)に関する高い体積%の配合量(loadings)における利点を与えることができる。反対に、より低い体積%の配合量においてはポリマーおよびこれらの疎水性アルミナの組成物は、好都合な物理的および機械的特性をまだ保持しながら、このようなポリマーを、フィルムおよび/または接着剤層における遮断性の利点のために、特にガス透過性に対して抵抗性にさせる。
【0041】
これらの特徴は本明細書で以後に説明される、性能およびより高い効率双方に関して、ポリマーに利点を与えることができる。
【0042】
疎水性アルミナは六面体、平板様、板様、ブロック様構造物またはそれらの組み合わせを含むことができる。疎水性アルミナは好適には、板様またはブロック様構造物またはそれらの組み合わせを有する。
【0043】
これらの結晶粒子の構造はX−線回折により測定される。結晶の構造はシェラー(Scherrer)の式を使用することによりX−線回折像の面に垂直な線に沿う方向に導かれるサイズ(derived size)により説明される。
【0044】
例えば、疎水性アルミナの晶癖(crystal habit)を説明するための結晶サイズ(crystal size)の情報は面(200)、(020)および(002)のX−線回折ピークから供給される。サイズは測定された回折面に垂直な方向に導かれる。
【0045】
図6は結晶粒子の理想化図である。面(020)は(200)、(020)および(002)のサイズと一緒に示される。
【0046】
(020)のサイズは結晶の平均厚さの直接的表示と解釈される。縦横比(aspect ratio)は(002)および(020)面内で導かれることができる。
【0047】
ブロック様結晶に対しては、縦横比は実質的に1.5:1〜1:1であり、板結晶粒子は1.5:1を超える縦横比から約5:1の縦横比を特徴としてもつことができ、超小型板は約3〜4nmの厚さをもつ。
【0048】
これらの微結晶の固形物の微細構造はまた、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscopy)(TEM)によっても研究される。T
EMからの情報はx−線実験の結果と併せて、(020)ライン上のシェラーの相関を使用して異方性(anisotropy)の比較を与える。
【0049】
結晶の成長は、結晶の形態を操作するために、例えばアルミナ化合物の表面に結合する、10を超える特定の鎖長をもつ脂肪族カルボン酸炭化水素を含む有機組成物の使用により変更することができる。ベーマイト結晶粒子は、それらの表面上にヒドロキシル基を担持し、従って、カルボン酸と結合を形成する傾向をもつことは知られている。有機組成物は高度に疎水性の分子で特徴付けられ、またカルボン酸部分(carboxylic moiety)を介してベーマイト結晶粒子の表面上のヒドロキシル基に結合することにより、結晶を立体的に安定化させる傾向をもつ。この処理はとりわけ結晶の基底面(020)を改変することを目的とし、それはこれらの表面が有機分子の集合に対して与える立体的妨害がより少ないためである。本方法の背後の化学および機序は、新規微結晶(crystallite)の形態を獲得することである。本発明の方法は、基底面の表面に結合するリガンドで結晶の粒度を変え、従って界面(interfacial)エネルギーおよび水による湿潤性を改変することを可能にする。
【0050】
本方法は、適当に制御されると、特定の形態を獲得するために使用することができる。成長条件を特定の方向に、より好都合にさせる疎水性リガンドで、アルミナの表面を改変することは本発明の方法の利点である。
【0051】
合成工程の期間中、優先的に100℃を超える温度におけるスラリーの熱水処理条件により、結晶の幅および長さが、厚さに対して増加し、その結果それらの最終的疎水性を保持する、増加した板様微結晶が形成されると考えられる。
【0052】
これらの新規疎水性アルミナは、ポリマー、特に非極性ポリマーと呼ばれるもの、のような基質とともに組成物を形成するために特に好都合であることができる。
【0053】
本発明の第3のアスペクトに従うと、本発明の方法に従って調製される疎水性アルミナおよび基質を含む組成物が提供され、該疎水性アルミナは基質中に分散されている。
【0054】
基質はポリマー、パラフィンまたは油、より好適にはポリマーまたはパラフィンを含む。
【0055】
ポリマーは低分子量のポリマーまたはワックスを含むことができる。
【0056】
疎水性アルミナの粒子は、3.5ナノメーター〜1000ナノメーターに、より好適には3.5ナノメーター〜600ナノメーター、そして最も好適には3.5ナノメーター〜75ナノメーターに、基質中に分散されることができ、そこで単一結晶の粒度は好適には3.5nm〜75nmの範囲にある。粒子(particle)は、単一の結晶および/または単一結晶の凝結体(aggregate)のいずれかを意味し、例えば2個の4nmの単一結晶は8nmの凝結体を形成する。この分散性は固形物、例えばポリマーに対してはSEM法により、そして液体、例えば油に対しては動的光散乱法により測定される。
【0057】
本発明の新組成物は熱伝導率、機械的特性(特にポリマー中に実質的に凝集物を含まない(agglomerate−free)分散物の場合)または難燃性(flame retardancy)に関して、高い体積%の配合量(loadings)において利点を与えることができる。反対に、より低い体積%の配合量においては、ポリマーおよびこれらの疎水性アルミナの組成物は、好都合な物理的および機械的特性をまだ保持しながら、このようなポリマーを、フィルムおよび/または接着剤層における遮断性の利点のためにガス透過性に対して特に抵抗性にさせる。
【0058】
疎水性アルミナは溶融物配合工程に使用することができ、それはこれらの方法に使用される典型的な温度で熱的に安定であるからである。それは、低分子量ポリマー、ワックスまたは鉱油のようなキャリア中に使用されることができ、それがこれらの系に分散されることができるからである。適切なポリマーまたはキャリアの例は、高密度ポリエチレン「HDPE」、低密度ポリエチレン「LDPE」、ポリプロピレン「PP」、「PET」およびワックス、例えばFisher Tropsch“FT”ワックスである。
【0059】
疎水性アルミナは劣化しないので、低温で分解し(例えば、幾つかのシラン)、そして高分子加工(polymer processing)において明瞭でない(not obvious)他の改変剤(modifiers)よりも好都合である。本発明の製品は広範な配合条件下で熱的に安定である。
【0060】
本発明に関連する分散物(dispersion)は「固形物、液体または気体中に懸濁された分散粒子の系」あるいは「流動体中に分配された小粒子」である。
【0061】
今度は本発明を以下の図面および限定されない実施例を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】
図1は、実施例1に従う新疎水性アルミナのTGA/DTA分析である。
【
図2】
図2は、特徴的Al−カルボキシレート表示(signal)をもつ、実施例1における疎水性アルミナのDRIFTスペクトルである。
【
図3】
図3は、単一結晶粒子に匹敵するディメンションに分散された、実施例1の疎水性アルミナを含むHDPE(高密度ポリエチレン)フィルムの構造を示すSEMである。
【
図4】
図4は、未改変電力に対する実施例1の疎水性アルミナの表面エネルギーを示すグラフである。
【
図5】
図5は、未改変アルミナに対する実施例1の疎水性アルミナの湿潤性(wettability)を示すグラフである。
【0063】
好適な実施態様の詳細な説明
【実施例1】
【0064】
本実施例は、18の炭素鎖を有するカルボン酸を含む有機組成物を使用する本発明の疎水性アルミナ、具体的には疎水性ベーマイトの調製である。約9のpH値におけるアルミニウムアルコキシド[295 lbs(133.8kg)]の加水分解工程からの熱水処理ベーマイトのスラリーを、18の炭素鎖をもつカルボン酸(17重量%)を含む有機組成物4.1 lb(1.86kg)と混合して酸改変スラリーを形成した。酸改変スラリーを低撹拌下で105℃において2時間、熱水処理した。2時間の混合後に、微細に準粉砕された粒子を含む低粘度の熱水処理スラリーを得た。熱水処理スラリー(7〜7.5間のpHをもつ)を冷却し、そして240℃で作動する外部循環油のジャケットをもつ、窒素下で作動する接触乾燥機に室温でポンプ注入し、その乾燥機を流出するガス温度は115℃であった。
【0065】
0.86g/ccのかさ密度(bulk density)をもつ疎水性アルミナを得た。
【0066】
該疎水性アルミナはアルミナの結晶粒子の表面上に長い疎水性カルボキシレート分子を含んだ。これは疎水性ポリマーとの改善した相容性(compatibility)を示す。
【0067】
図1は疎水性アルミナ粉末のTGA/DTA分析である。
図1は疎水性アルミナ粉末上に0.5%未満の自由水があることを示す。
図2においては、X−線による結晶粒子は35nmの厚さ(020)および37nmの長さ(002)を特徴として示す。
【0068】
疎水性アルミナの粒子を45ナノメーターの粒度に、HDPE中に分散させた。粒度はSEMにより検知され、それは本質的にX−線回折により決定された単一結晶のディメンションと一致する。HDPEを、Brabenderミキサー中で、150℃、60rpmで15分間にわたり、実施例1の疎水性アルミナ粉末と混合した。
図3は、単一の結晶粒子に匹敵するディメンションに均一に分散されたベーマイト結晶粒子でできた疎水性アルミナを含むHDPEフィルムの構造を示すSEMである。
【0069】
次に逆ガスクロマトグラフィー法を適用して粉末の表面エネルギー(
図4)および疎水性アルミナ粉末の湿潤性(
図5)を研究した。
【0070】
研究された粉末をクロマトグラフィーのカラムに入れた。既知の物理化学的特性をもつ、注意して選択されたプローブ分子(probe molecules)をカラムに注入した。得られた保持値(retention data)が表面特性を表わす値の計算を可能にした。総表面エネルギーを2つの構成要素(components)の寄与(contribution)により評価した:
γ
T = + γ
D + γ
AB
γ
D は表面の非極性特性に関する分散の構成要素であり、γ
AB は表面の極性寄与物である。
【0071】
総表面エネルギーの分散の構成要素は、増加するC−鎖長をもつアルカンのプローブ分子:ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびノナンによる吸着を測定することにより得た。
【0072】
総表面エネルギーの極性の構成要素は、極性のプローブ分子:アセトニトリル、アセトン、エタノール、エチルアセテートおよびジクロロメタンの使用により得た。
【0073】
総表面エネルギーで割った極性構成要素、γ
AB /γ
T を採用することにより、サンプルの湿潤性プロファイルを決定した。表面の非極性の性質(non−polar nature)は、低い湿潤性プロファイルにより説明される。
【0074】
カラム中に異なる量のプローブ分子を通すことにより、分析を実施して、異なる表面の検査を達成した。
【0075】
疎水性アルミナ粉末を未処理ベーマイトに比較することにより、実施例1の有機改変剤で改変された疎水性アルミナが、表面エネルギーにおいて、有意に、より低いことが見出され、改変が有意な効果(impact)を有することを確証した。低い表面エネルギー値はまた、極性物質に対する、より低い親和性を確証する。これはまた、より低い湿潤性プロファイルにより強調され、従ってこのサンプルが非極性の系と相容性であることを示す。疎水性アルミナの親油性の特徴は、典型的な非極性液、20℃で19cPの粘度をもつ脂肪族の鉱油中で証明される。粉末を90phrの油と、10phrで混合した。生成
された分散物を遠心分離し、ヘキサン中ですすぎ、110℃で乾燥した後に、遠心分離管の底部の固形残留物を秤量した。粉末総量に対する偏差(difference)により計算された分散粒子の重量%は96重量%であった。
【0076】
8に等しい炭素鎖をもつ脂肪酸組成物を使用する比較例を実施した。約9のpH値におけるアルミニウムアルコキシドの加水分解法からの2500グラムのベーマイト溶液を、180グラムの水と混合した。その後、18グラムのオクタン酸を導入して実施例1において適用された化合物の範囲の、ベーマイト上のモル数を得た。次に9.5グラムに等しい量の30〜33重量%のアンモニア溶液を撹拌下で添加した。生成されたスラリーを105℃で2時間、一定の撹拌下で保持した。熱水老化スラリーを室温で冷却し、熱水老化スラリーのpH値は8.6であった。熱水老化スラリーをN
2流で作動するスプレー噴霧機中にポンプで注入し、乾燥粉末を得た。粉末を実施例1と同様な条件下で脂肪族の油に添加した。混合期間中、系が流れを示さなくなるまで、粘度はかなり増加する。粉末が油中に分散しなくなった時に試験を停止した。
【0077】
本明細書においては本発明の特定の実施態様をある程度詳細に説明してきたが、これは単に、発明の様々なアスペクトを説明する目的のために実施してき、そして以下の請求の範囲中に規定される発明の範囲を限定する意図はない。示されそして記載された実施態様が説明のためのものであり、そして本発明の実行において、その範囲から逸脱せずに、それらに限定はされないが本明細書で特別に考察されたこれらの企画の代替物を含む様々な他の置き換え、変更および改変を実施することができることが、当業者により理解されると考えられる。