特許第6906522号(P6906522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906522
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】全固体リチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20210708BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20210708BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210708BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20210708BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20210708BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210708BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210708BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20210708BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M4/131
   H01M4/525
   H01M4/70 A
   H01M4/66 A
   H01M10/052
   H01M10/0562
   H01M10/0565
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-531804(P2018-531804)
(86)(22)【出願日】2017年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2017025258
(87)【国際公開番号】WO2018025594
(87)【国際公開日】20180208
【審査請求日】2020年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-152278(P2016-152278)
(32)【優先日】2016年8月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-100866(P2017-100866)
(32)【優先日】2017年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】新村 美香子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千織
(72)【発明者】
【氏名】由良 幸信
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/029289(WO,A1)
【文献】 特開2003−132887(JP,A)
【文献】 特開2005−243371(JP,A)
【文献】 特開2016−033880(JP,A)
【文献】 特開2009−181871(JP,A)
【文献】 特開2011−009103(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/175993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/13− 4/1399
H01M 4/36− 4/62
H01M 4/64− 4/84
C04B 35/01−35/499
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
The ECS Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向焼結体で構成される厚さ30μm以上の配向正極板であって、前記配向焼結体が層状岩塩構造を有するコバルト酸リチウムで構成される複数の一次粒子で構成され、前記複数の一次粒子が前記配向正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極板と、
前記配向正極板上に設けられ、リチウムイオン伝導材料で構成される固体電解質層と、
前記固体電解質層上に設けられ、リチウムと合金化可能な金属を含む、厚さ0.001〜1μmの中間層と、
を備えた、全固体リチウム電池。
【請求項2】
前記中間層上に、リチウムを含む負極層をさらに備えた、請求項1に記載の全固体リチウム電池。
【請求項3】
前記リチウムと合金化可能な金属が、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Cd(カドミウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Pb(鉛)、及びBi(ビスマス)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の全固体リチウム電池。
【請求項4】
前記リチウムと合金化可能な金属が、Au(金)、Si(シリコン)、Sn(スズ)、Al(アルミニウム)、及びBi(ビスマス)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項5】
前記配向正極板の厚さが30〜100μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項6】
前記配向焼結体は、前記配向正極板の板面に垂直な断面を電子線後方散乱回折法(EBSD)により解析した場合に、解析された前記断面に含まれる一次粒子のうち前記配向正極板の板面に対する配向角度が0°超30°以下である一次粒子の合計面積が、前記断面に含まれる一次粒子の総面積に対して70%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項7】
前記配向焼結体は、前記配向正極板の板面に垂直な断面を電子線後方散乱回折法(EBSD)により解析した場合に、解析された前記断面に含まれる一次粒子のうちアスペクト比が4以上である一次粒子の合計面積が、前記断面に含まれる一次粒子の総面積に対して70%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項8】
前記複数の一次粒子の平均粒径が5μm以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項9】
前記配向焼結体の緻密度が90%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項10】
前記配向正極板の前記固体電解質層と反対側の面に、厚さ5μm以上30μm以下の金属箔である正極集電体をさらに備えた、請求項1〜のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項11】
前記配向正極板、前記固体電解質層及び存在する場合には前記負極層を含む積層体が外装材で包装又は封止されており、前記正極集電体が前記外装材の一部を構成し、前記外装材で包装又は封止される前記積層体の収容空間が減圧されている、請求項10に記載の全固体リチウム電池。
【請求項12】
前記固体電解質層を構成する前記リチウムイオン伝導材料が、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、リン酸系セラミックス材料、硫化物系セラミックス材料、リチウム−塩化物系材料、又は高分子系材料で構成されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【請求項13】
前記固体電解質層を構成する前記リチウムイオン伝導材料が、Li−La−Zr−O系セラミックス材料及び/又はリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料で構成される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の全固体リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウム電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器といったような用途に用いられる電池においては、イオンを移動させる媒体として、リチウム塩を可燃性の有機溶媒へ溶解させた、液体の電解質(電解液)が従来使用されている。このような電解液を用いた電池においては、電解液の漏液や、発火、爆発等の問題を生ずる可能性がある。このような問題を解消すべく、本質的な安全性確保のために、液体の電解質に代えて固体電解質を使用するとともに、その他の要素の全てを固体で構成した全固体リチウム電池の開発が進められている。このような全固体リチウム電池は、電解質が固体であることから、発火の心配が少なく、漏液せず、また、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難い。
【0003】
例えば、特許文献1(国際公開第2017/006591号公報)には、コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物で構成される配向正極板と、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質(LiPON)等のリチウムイオン伝導材料で構成される固体電解質層と、リチウム金属で構成される負極層とを備えた、全固体リチウム電池が開示されている。また、この文献には、固体電解質層と負極層の間にリチウムと合金化可能な金属を含む中間層を介在させることにより、リフローはんだ付けプロセスに伴う内部短絡や負極層の剥離を防止できることも記載されている。
【0004】
ところで、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される正極活物質は、その内部でのリチウムイオンの拡散が(003)面の面内方向(すなわち(003)面と平行な平面内の任意の方向)で行われ、(003)面以外の結晶面(例えば(101)面や(104)面)でリチウムイオンの出入りが生じることが知られている。そこで、この種の正極活物質において、リチウムイオンの出入りが良好に行われる結晶面((003)面以外の面、例えば(101)面や(104)面))をより多く電解質と接触する表面に露出させることで、リチウム二次電池の電池特性を向上させる試みがなされている。実際、上述した特許文献1においても、(003)面が配向正極板の板面と交差するようにリチウム遷移金属酸化物粒子が配向されることで、(003)面以外の面(例えば(101)面や(104)面)の表面への露出を多くした配向正極板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/006591号
【発明の概要】
【0006】
本発明者らの知るかぎり、特許文献1に開示されるような従来の配向正極板は、概して、(003)面が板面に対して45〜75°傾斜するように一次粒子が配向されたものである。すなわち、従来の配向正極板は、リチウムイオンの出入り面(例えば(101)面や(104)面)をできるだけ多く表面に露出させた方が良いとのコンセプトに従って設計されたものである。しかしながら、このような従来の配向正極板を採用した特許文献1に開示されるような全固体リチウム電池は、長期的にサイクル試験を行った場合又は高温で動作させた場合に、局所的な短絡が生じてしまい、サイクル性能が劣化することがある。これは、上述したような角度で一次粒子が配向する配向正極板は充放電時の膨張収縮が配向正極板の板面と平行方向に起こりやすく、それ故、固定電解質層との界面に応力を発生させやすいためである。この界面応力は、固体電解質層に欠陥を生じさせて時には局所的な短絡を引き起こし、その結果、サイクル性能の劣化や電池の破壊をもたらしうる。
【0007】
本発明者らは、今般、複数の一次粒子が配向正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向した配向正極板を採用し、かつ、固体電解質層の配向正極板と反対側の面(すなわち負極側の面)に所定の中間層を設けることにより、充放電を繰り返した際のサイクル性能が大幅に改善した全固体リチウム電池を提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、充放電を繰り返した際のサイクル性能が大幅に改善した全固体リチウム電池を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、配向焼結体で構成される厚さ30μm以上の配向正極板であって、前記配向焼結体が層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、前記複数の一次粒子が前記配向正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極板と、
前記配向正極板上に設けられ、リチウムイオン伝導材料で構成される固体電解質層と、
前記固体電解質層上に設けられ、リチウムと合金化可能な金属を含む、厚さ0.001〜1μmの中間層と、
を備えた、全固体リチウム電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の全固体リチウム電池の一例を示す模式断面図である。
図2図1に示される全固体リチウム電池の模式上面図である。
図3】本発明の全固体リチウム電池の他の一例を示す模式断面図である。
図4】本発明の全固体リチウム電池の更に他の一例を示す模式断面図である。
図5】本発明の配向正極板に含まれるリチウム複合酸化物一次粒子のリチウムイオン伝導方向と膨張収縮方法とを概念的に説明するための模式断面図である。
図6】従来の配向正極板の一例におけるリチウムイオン伝導方向と膨張収縮方法とを概念的に説明するための模式断面図である。
図7図7に示されるような本発明に用いられる配向正極板におけるリチウムイオン伝導方向と膨張収縮方法とを概念的に説明するための模式断面図である。
図8】配向正極板の板面に垂直な断面の一例を示すSEM像である。
図9図8に示される配向正極板の断面におけるEBSD像である。
図10図9のEBSD像における一次粒子の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
全固体リチウム電池
図1及び2に本発明による全固体リチウム電池の一例を模式的に示す。図1及び2に示される全固体リチウム電池10は、配向正極板12、固体電解質層14、中間層15、及び所望により負極層16を備える。図1に示される全固体リチウム電池10は、配向正極板12、中間層13、固体電解質層14、中間層15、負極層16、及び正極集電体20で構成される2個の単位電池を負極集電体24を介して上下対称に並列積層した構成を有している。もっとも、これに限らず、図3に模式的に示されるように1つの単位電池10’からなる構成であってもよいし、2つ以上の単位電池を並列又は直列に積層した構成であってもよい。配向正極板12は、配向焼結体で構成される厚さ30μm以上の板であって、配向焼結体は層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含む。これらの複数の一次粒子は配向正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している。平均配向角度とは各一次粒子の(003)面が板面方向に対して成す傾斜角度の平均値である。固体電解質層14は、リチウムイオン伝導材料で構成され、配向正極板12上に設けられる。中間層15は、リチウムと合金化可能な金属を含む、厚さ0.001〜1μmの層であり、固体電解質層14上に設けられる。このように、(i)複数の一次粒子が配向正極板12の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向した配向正極板12を採用し、かつ、(ii)固体電解質層14の配向正極板12と反対側の面(すなわち負極側の面)に所定の中間層を介在させることにより、充放電を繰り返した際のサイクル性能が大幅に改善した全固体リチウム電池を提供することができる。このことは以下のように説明することができる。
【0012】
(i)平均配向角度0°超30°以下の配向正極板による短絡の低減
本発明の全固体リチウム電池10では、複数の一次粒子が配向正極板12の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向した配向正極板12を採用することで、固定電解質層との界面に発生しうる応力を低減させ、短絡不良を無くすことができる。具体的には以下のように考えられる。一次粒子を構成する層状岩塩構造のリチウム複合酸化物は、リチウムイオンが抜けるのに伴い、層間距離が広がる性質がある。すなわち、図5に概念的に示されるようにリチウム複合酸化物の一次粒子11は(003)面と平行にリチウムイオン移動方向LiDを有するとともに、(003)面と垂直に膨張収縮方向ECDを有している。したがって、図6に示されるように、(003)面が板面に対して45〜75°傾斜するように一次粒子が配向した従来の配向正極板12’においては、複数個の一次粒子11の膨張収縮が、全体として配向正極板12’の板面と平行方向の膨張収縮をもたらす、すなわち膨張収縮方向ECDが板面と平行となる。これに対し、本発明で採用される配向正極板12は、図7に概念的に描かれるように、一次粒子の平均配向角度、すなわちその(003)面の平均配向角度が0°超30°以下となることで、リチウムイオンが抜けることに伴う配向正極板12の面方向の膨張が小さくなる。このため、充放電時における配向正極板12の膨張収縮による固体電解質層14への引張応力が低減され、固体電解質層14の破損や剥がれ、クラック発生等による電気的なショートや抵抗増加を防止することができ、サイクル特性の向上につながる。
【0013】
(ii)中間層による抵抗均質化によるサイクル性能の改善
しかしながら、平均配向角度0°超30°以下の配向正極板を採用した場合、面内位置による抵抗値のバラつきが生じやすいとの別の問題が起こりうる。そして、この抵抗値のバラつきは、特に高速で充放電した際に固体電解質層14の配向正極板12と反対側の面(すなわち負極側の面)においてリチウムが析出しやすい箇所とリチウムが析出しにくい箇所とが生じさせ、(特に高レートで)充放電を繰り返した際のサイクル性能を低下させうる。これは、平均配向角度0°超30°以下の配向正極板は、図7からも理解されるように、リチウムイオンの出入り面(例えば(101)面や(104)面)のみならず、リチウムイオンが出入りしない(003)面が固体電解質層14の負極側表面に顕著に露出するためである。すなわち、リチウムイオンの出入り面(例えば(101)面や(104)面)の露出表面ではリチウムが析出しやすい一方、リチウムイオンが出入りしない(003)面の露出箇所ではリチウムが析出しにくい。特に、本発明のように厚さ30μm以上の配向正極板を採用してエネルギー密度を高めた全固体リチウム電池においては、リチウムの絶対量が多いため、上記問題がより顕著となる。この点、本発明の全固体リチウム電池10では、固体電解質層14上に、リチウムと合金化可能な金属を含む、厚さ0.001〜1μmの中間層15を設けることで、上記問題を解消して、(特に高レートで)充放電を繰り返した際のサイクル性能が大幅に改善することができる。これは、中間層15がリチウム析出に影響を与える固体電解質層14の抵抗を面内方向に均質化することによるものと考えられる。
【0014】
配向正極板
配向正極板12は、配向焼結体で構成される厚さ30μm以上の板である。配向焼結体は、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が配向正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している。図8に配向正極板12の板面に垂直な断面SEM像の一例を示す一方、図9に配向正極板12の板面に垂直な断面における電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)像を示す。また、図10に、図9のEBSD像における一次粒子11の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムを示す。図9に示されるEBSD像では、結晶方位の不連続性を観測することができる。図9では、各一次粒子11の配向角度が色の濃淡で示されており、色が濃いほど配向角度が小さいことを示している。配向角度とは、各一次粒子11の(003)面が板面方向に対して成す傾斜角度である。なお、図8及び9において、配向正極板12の内部で黒表示されている箇所は気孔である。
【0015】
配向正極板12は、互いに結合された複数の一次粒子11で構成された配向焼結体である。各一次粒子11は、主に板状であるが、直方体状、立方体状及び球状などに形成されたものが含まれていてもよい。各一次粒子11の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、或いはこれら以外の複雑形状であってもよい。
【0016】
各一次粒子11はリチウム複合酸化物で構成される。リチウム複合酸化物とは、LiMO(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にはCo、Ni及びMnの1種以上を含む)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的にはα−NaFeO型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。リチウム複合酸化物の例としては、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiMnO(マンガン酸リチウム)、LiNiMnO(ニッケル・マンガン酸リチウム)、LiNiCoO(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LiCoNiMnO(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LiCoMnO(コバルト・マンガン酸リチウム)等が挙げられ、特に好ましくはLiCoO(コバルト酸リチウム、典型的にはLiCoO)である。リチウム複合酸化物には、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y,Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Bi、及びWから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。
【0017】
図9及び10に示されるように、各一次粒子11の配向角度の平均値、すなわち平均配向角度は0°超30°以下である。これにより、以下の様々な利点がもたらされる。第一に、各一次粒子11が厚み方向に対して傾斜した向きに寝た状態になるため、各一次粒子同士の密着性を向上させることができる。その結果、ある一次粒子11と当該一次粒子11の長手方向両側に隣接する他の一次粒子11との間におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるため、レート特性を向上させることができる。第二に、図4及び5を参照しつつ前述したとおり、サイクル特性を向上させることができる。すなわち、リチウムイオンの出入りに応じて(003)面と垂直な方向に各一次粒子11が伸縮するところ、板面方向に対する(003)面の傾斜角度を小さくすることによって、板面方向における配向正極板12の膨張収縮量が低減されて、配向正極板12と固体電解質層14との間に応力が生じることを抑制できる。第三に、レート特性をより向上させることができる。これは、上述のとおり、リチウムイオンの出入りに際して、配向正極板12では、板面方向よりも厚み方向における膨張収縮が優勢となるため、配向正極板12の膨張収縮がスムーズになるところ、それに伴ってリチウムイオンの出入りもスムーズになるからである。
【0018】
一次粒子11の平均配向角度は、以下の手法によって得られる。まず、図9に示されるような、95μm×125μmの矩形領域を1000倍の倍率で観察したEBSD像において、配向正極板12を厚み方向に四等分する3本の横線と、配向正極板12を板面方向に四等分する3本の縦線とを引く。次に、3本の横線と3本の縦線のうち少なくとも1本の線と交差する一次粒子11すべての配向角度を算術平均することによって、一次粒子11の平均配向角度を得る。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、30°以下が好ましく、より好ましくは25°以下である。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、2°以上が好ましく、より好ましくは5°以上である。
【0019】
図10に示されるように、各一次粒子11の配向角度は、0°から90°まで広く分布していてもよいが、その大部分は0°超30°以下の領域に分布していることが好ましい。すなわち、配向正極板12を構成する配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうち配向正極板12の板面に対する配向角度が0°超30°以下である一次粒子11(以下、低角一次粒子という)の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。これにより、相互密着性の高い一次粒子11の割合を増加させることができるため、レート特性をより向上させることができる。また、低角一次粒子のうち配向角度が20°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して50%以上であることがより好ましい。さらに、低角一次粒子のうち配向角度が10°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して15%以上であることがより好ましい。
【0020】
各一次粒子11は、主に板状であるため、図8及び9に示されるように、各一次粒子11の断面はそれぞれ所定方向に延びており、典型的には略矩形状となる。すなわち、配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうちアスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。具体的には、図9に示されるようなEBSD像において、これにより、一次粒子11同士の相互密着性をより向上することができ、その結果、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11のアスペクト比は、一次粒子11の最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径は、断面観察した際のEBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離である。最小フェレー径は、EBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。
【0021】
配向焼結体を構成する複数の一次粒子の平均粒径が5μm以上であるのが好ましい。具体的には、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の平均粒径が、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは12μm以上である。これにより、リチウムイオンが伝導する方向における一次粒子11同士の粒界数が少なくなって全体としてのリチウムイオン伝導性が向上するため、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11の平均粒径は、各一次粒子11の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各一次粒子11と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0022】
配向正極板12を構成する配向焼結体の緻密度は70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。これにより、一次粒子11同士の相互密着性をより向上できるため、レート特性をより向上させることができる。配向焼結体の緻密度は、正極板の断面をCP(クロスセクションポリッシャ)研磨にて研磨した後に1000倍率でSEM観察して、得られたSEM画像を2値化することで算出される。配向焼結体の内部に形成される各気孔の平均円相当径は特に制限されないが、好ましくは8μm以下である。各気孔の平均円相当径が小さいほど、一次粒子11同士の相互密着性をさらに向上することができ、その結果、レート特性をさらに向上させることができる。気孔の平均円相当径は、EBSD像上の10個の気孔の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各気孔と同じ面積を有する円の直径のことである。配向焼結体の内部に形成される各気孔は、配向正極板12の外部につながる開気孔であってもよいが、配向正極板12を貫通していないことが好ましい。なお、各気孔は閉気孔であってもよい。
【0023】
配向正極板12の厚さは、単位面積当りの活物質容量を高めて全固体リチウム電池10のエネルギー密度を向上する観点から、30μm以上であり、好ましくは40μm以上、特に好ましくは50μm以上、最も好ましくは55μm以上である。厚さの上限値は特に限定されないが、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制する観点から、配向正極板12の厚さは200μm未満が好ましく、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下、特に好ましくは100μm以下、最も好ましくは90μm以下、80μm以下又は70μm以下である。また、配向正極板のサイズは、好ましくは5mm×5mm平方以上、より好ましくは10mm×10mm〜200mm×200mm平方であり、さらに好ましくは10mm×10mm〜100mm×100mm平方であり、別の表現をすれば、好ましくは25mm以上、より好ましくは100〜40000mmであり、さらに好ましくは100〜10000mmである。
【0024】
配向正極板12は、固体電解質層14と反対側の面(すなわち正極集電体20側の面)に、厚さ0.01μm以上5μm未満の導電膜12aを備えていてもよい。こうすることで、正極集電体20と配向正極板12との電子伝導性を高め、界面における接触抵抗をより一層低減することができる。導電膜12aは金属及び/又はカーボンで構成されるのが好ましい。導電膜12aは、金属で構成される場合、正極集電体20及び配向正極板12との電子伝導抵抗が低く、しかも配向正極板12の特性への悪影響の無い金属からなる層であれば特に限定されないが、好ましい例としてはAuスパッタ層及びSiスパッタ層が挙げられる。また、Auスパッタ層等の金属製導電膜の代わりにカーボン層を用いてもよい。導電膜12aの厚さは0.01μm以上5μm未満であり、好ましくは0.02μm以上2μm以下、より好ましくは0.02μm以上1μm以下、さらに好ましくは0.04μm以上1μm以下である。
【0025】
固体電解質層
固体電解質層14を構成するリチウムイオン伝導材料は、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、リン酸系セラミックス材料、硫化物系セラミックス材料、リチウム−塩化物系材料、又は高分子系材料で構成されるのが好ましく、より好ましくは、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、及びリン酸系セラミックス材料からなる群から選択される少なくとも一種である。ガーネット系セラミックス材料の例としては、Li−La−Zr−O系材料(具体的には、LiLaZr12など)、Li−La−Ta−O系材料(具体的には、LiLaTa12など)が挙げられる。窒化物系セラミックス材料の例としては、LiN。ペロブスカイト系セラミックス材料の例としては、Li−La−Zr−O系材料(具体的には、LiLa1−xTi(0.04≦x≦0.14)など)が挙げられる。リン酸系セラミックス材料の例としては、リン酸リチウム、窒素置換リン酸リチウム(LiPON)、Li−Al−Ti−P−O、Li−Al−Ge−P−O、及びLi−Al−Ti−Si−P−O(具体的には、Li1+x+yAlTi2−xSi3−y12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)など)が挙げられる。
【0026】
固体電解質層14を構成するリチウムイオン伝導材料が、Li−La−Zr−O系セラミックス材料及び/又はリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料で構成されるのが特に好ましい。Li−La−Zr−O系材料は、Li、La、Zr及びOを含んで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物焼結体であり、具体的には、LiLaZr12などのガーネット系セラミックス材料であり、その詳細は例えば特許文献1に開示されている。また、リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料も好ましい。LiPONは、Li2.9PO3.30.46の組成によって代表されるような化合物群であり、例えばLiPO(式中、aは2〜4、bは3〜5、cは0.1〜0.9である)で表される化合物群である。
【0027】
固体電解質層14の寸法は特に限定されないが、厚さは充放電レート特性と機械的強度の観点から、0.0005mm〜0.1mmが好ましく、より好ましくは0.001mm〜0.05mm、さらに好ましくは0.002〜0.02mm、特に好ましくは0.003〜0.01mmである。
【0028】
固体電解質層14の形成方法としては、各種パーティクルジェットコーティング法、固相法、溶液法、気相法を用いることができる。パーティクルジェットコーティング法の例としては、エアロゾルデポジション(AD)法、ガスデポジション(GD)法、パウダージェットデポジション(PJD)法、コールドスプレー(CS)法、溶射法等がある。中でも、エアロゾルデポジション(AD)法は、常温成膜が可能であることから、プロセス中の組成ズレや、配向正極板との反応による高抵抗層の形成がなく特に好ましい。固相法の例としては、テープ積層法、印刷法等がある。中でも、テープ積層法は固体電解質層14を薄く形成することが可能であり、また、厚さの制御が容易であることから好ましい。溶液法の例としては、ソルボサーマル法、水熱合成法、ゾルゲル法、沈殿法、マイクロエマルション法、溶媒蒸発法等がある。これらの方法の中でも、水熱合成法は、低温で結晶性の高い結晶粒を得やすい点で特に好ましい。また、これらの方法を用いて合成した微結晶を、正極上に堆積させてもよいし、正極上に直接析出させてもよい。気相法の例としては、レーザー堆積(PLD)法、スパッタリング法、蒸発凝縮(PVD)法、気相反応法(CVD)法、真空蒸着法、分子線エピタキシ(MBE)法等がある。この中でも、スパッタリング法は組成ズレが少なく、比較的密着性の高い膜を得られやすく特に好ましい。
【0029】
配向正極板12と固体電解質層14の間の界面には界面抵抗を下げるための処理が施されていてもよい。例えば、そのような処理は、ニオブ酸化物、チタン酸化物、タングステン酸化物、タンタル酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・チタン複合酸化物、リチウム・ニオブ化合物、リチウム・タンタル化合物、リチウム・タングステン化合物、リチウム・チタン化合物、及びこれらの任意の組み合わせ若しくは複合酸化物で配向正極板12の表面及び/又は固体電解質層14の表面を被覆することにより行うことができる。このような処理によって配向正極板12と固体電解質層14の間の界面には被膜が存在しうることになるが、その被膜の厚さは例えば20nm以下といったような極めて薄いものである。
【0030】
中間層
中間層15は、リチウムと合金化可能な金属を含む厚さ0.001〜1μmの層であり固体電解質層14の配向正極板12と反対側の面(すなわち負極側の面)に設けられる。リチウムと合金化可能な金属は、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Cd(カドミウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Pb(鉛)、及びBi(ビスマス)からなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましく、より好ましくはAu(金)、Si(シリコン)、Sn(スズ)、Al(アルミニウム)、及びBi(ビスマス)からなる群から選択される少なくとも1種を含む。中間層の形成は、エアロゾルデポジション(AD)法、パルスレーザー堆積(PLD)法、スパッタリング法、蒸着法等の公知の方法により行えばよい。中間層の寸法は特に限定されないが、厚さは抵抗の均質化の観点から、0.001〜1μmであり、好ましくは0.001〜0.5μm、さらに好ましくは0.001〜0.1μm、特に好ましくは0.003〜0.03μmである。
【0031】
負極層
全固体リチウム電池10は中間層15上に負極層16をさらに備えるのが典型的である。もっとも、本発明の全固体リチウム電池10は負極層16を有しなくても作動可能である。これは、充電時に中間層15上に析出するリチウム金属も負極活物質として利用できるためである。負極層16はリチウムを含む層であり、典型的にはリチウム金属により構成される。負極層16は、中間層15又は負極集電体24上に箔形態のリチウム金属を載置することにより作製してもよいし、あるいは中間層15又は負極集電体24上にリチウム金属の薄膜を真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等で形成してリチウム金属の層を形成することにより作製してもよい。負極層16の寸法は特に限定されないが、厚さは、厚い配向正極板12の採用に伴い全固体リチウム電池10におけるリチウム総量を多く確保する観点から、10μm以上が好ましく、より好ましくは50〜10μm、さらに好ましくは40〜10μm、特に好ましくは20〜10μmである。
【0032】
端部絶縁部
所望により、端部絶縁部18が固体電解質層14の端部を絶縁被覆するように設けられてもよい。端部絶縁部18は、固体電解質層14と接着又は密着可能な有機高分子材料を含むのが好ましい。端部絶縁部18がそのような有機高分子材料を含むことで、配向正極板12と負極層16との短絡防止をより効果的に実現することができる。有機高分子材料は、バインダー、熱溶融樹脂及び接着剤からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。バインダーの好ましい例としては、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、及びその組合せが挙げられる。熱融着樹脂の好ましい例としては、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。熱溶融樹脂は後述するように熱融着フィルムの形態で供されるのが好ましい。接着剤の好ましい例としてはエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を用いた熱硬化型接着剤が挙げられる。したがって、有機高分子材料は、特許文献1に開示されるように、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましいといえる。
【0033】
端部絶縁部18の形成は、有機高分子材料(好ましくはバインダー)及び所望によりフィラー等を含む液体又はスラリーの塗布により行うのが好ましい。液体又はスラリーの塗布方法の好ましい例としては、ディスペンス法、スクリーン印刷法、スプレー法、スタンピング法等が挙げられる。
【0034】
正極集電体
全固体リチウム電池10は配向正極板12の固体電解質層14と反対側の面に正極集電体20をさらに備えるのが好ましい。正極集電体20は金属箔である。金属箔の厚さは5〜30μmであり、好ましくは5〜25μm、より好ましくは10〜25μm、さらに好ましくは10〜20μmである。このように厚くすることで十分な集電機能を確保することができる。また、上記のように極めて薄い金属箔であると柔軟性に富むため、配向正極板12の表面に全面的に均一に密着させやすくなる。正極集電体20を構成する金属は、配向正極板12と反応しないものであれば特に限定されず、合金であってもよい。そのような金属の好ましい例としては、ステンレス、アルミニウム、銅、白金、ニッケルが挙げられ、より好ましくはステンレス及びニッケルが挙げられる。
【0035】
正極集電体20は、配向正極板12の固体電解質層14と反対側の面に、接着剤を含まない非接着状態で全面的に接触されるのが好ましい。こうすることで、配向正極板12と正極集電体20の間での界面応力が発生せず、それ故界面剥離等の劣化要因を排除することができ、長期的な信頼性を改善することができる。すなわち、配向正極板12が充放電で膨張収縮することに起因する界面剥離及びそれによる接触抵抗の増大を有意に抑制することができ、長期的な信頼性を改善することができる。
【0036】
正極集電体20は、配向正極板12の外側を被覆する正極外装材を兼ねているのが好ましい。例えば、図1に示されるように2個の単位電池を1枚の負極集電体24を介して上下対称に並列積層して正極集電体20を全固体リチウム電池10の外側に露出させた構成としてもよい。このような並列積層型電池に構成される場合、負極集電体24を隣り合う2個の単位電池に共通の集電体として機能させることができる。
【0037】
正極集電体20は、配向正極板12に対して押圧されているのが好ましい。正極集電体20である金属箔は柔軟性のある薄い導電性材料であるため、押圧により正極集電体20と配向正極板12との接触点を多く確保することができ、配向正極板12の表面に全面的により均一に密着させることができる。それによって、接着剤フリーの非接着状態の場合であっても望ましい集電効果を得ることができる。押圧する手法は特に限定されず、例えば、正極集電体20を損傷しないような柔軟な押圧部材(例えば発泡金属)を用いて正極集電体20の外側から配向正極板12に向かって押し当てる手法、正極集電体20の内外気圧差を用いる手法等が採用可能である。特に、正極集電体20の配向正極板12に対する押圧が、正極集電体20の内外気圧差によってもたらされているのが好ましい。すなわち、正極集電体20の配向正極板12側が減圧されているか、又は正極集電体20の配向正極板12と反対側が加圧されていればよい。いずれにしても、正極集電体20の内外気圧差を用いた押圧によれば、正極集電体20である金属箔は柔軟性のある薄い導電性材料であるため、配向正極板12の表面により一層多くの接触点で密着させることができ、集電効果を更に高めることができる。正極集電体20と配向正極板12が非接着状態ということは、正極集電体20と配向正極板12が部分的に(例えば配向正極板12の外周部の一部)、粘着性の樹脂等で固定されていることを排除するものではない。このような樹脂は、電池を組み立てる際、配向正極板の位置ズレを防止する仮接着の目的で使用される。
【0038】
本発明の特に好ましい態様によれば、配向正極板12、固体電解質層14、中間層15、及び(存在する場合には)負極層16を含む積層体が外装材で包装又は封止される。この態様において、正極集電体20が外装材の一部を構成し、かかる外装材で包装又は封止される積層体の収容空間が減圧されているのが好ましい。収容空間の減圧は、例えば、減圧下にて外装材での包装又は封止を行う、又は外装材の包装又は封止を行った後に収容空間を脱気することにより行うことができる。上述のとおり、正極集電体20である金属箔は柔軟性のある薄い導電性材料であるため、収容空間の減圧により、正極集電体20を配向正極板12の表面により一層多くの接触点で密着させることができる。しかも、外装材で気密に包装又は封止していれば、積層体の収容空間の減圧を長期間にわたって維持することができるので、高度な密着性及びそれによるい良好な集電効果を長期間にわたって発揮させることができる。減圧度は、金属の柔軟性と、積層体の強度等から適宜設定すればよい。
【0039】
負極集電体
負極層16の外側(負極層16が無い場合には中間層15の外側)には負極集電体24が設けられるのが好ましい。負極集電体24は負極の外側を被覆する負極外装材を兼ねていてもよい。例えば、図4に示されるように、図1に示される構成とは逆に、2個の単位電池を1枚の正極集電体20を介して上下対称に並列積層して負極集電体24を全固体リチウム電池の外側に露出させた構成としてもよい。このような並列積層型電池に構成される場合、正極集電体20を隣り合う2個の単位電池に共通の集電体として機能させることができる。
【0040】
負極集電体24は正極集電体20と同種又は異種の材料で構成されてよいが、好ましくは同種の材料で構成される。負極集電体24を構成する金属は、負極層16と反応しないものであれば特に限定されず、合金であってもよい。そのような金属の好ましい例としては、ステンレス、アルミニウム、銅、白金、ニッケルが挙げられ、より好ましくはステンレス、及びニッケルである。負極集電体24は金属板又は金属箔であるのが好ましく、より好ましくは金属箔である。したがって、最も好ましい集電体はステンレス箔又はニッケル箔であるといえる。金属箔の好ましい厚さは1〜30μmであり、より好ましくは5〜25μm、さらに好ましくは10〜20μmである。
【0041】
端部封止部
全固体リチウム電池10には、正極集電体20及び負極集電体24で被覆されていない、配向正極板12、固体電解質層14、中間層15、負極層16及び(存在する場合には)端部絶縁部18の露出部分を封止する、封着材で構成される端部封止部26がさらに設けられるのが好ましい。端部封止部26を設けて、正極集電体20及び負極集電体24で被覆されていない、配向正極板12、固体電解質層14、中間層15、負極層16及び端部絶縁部18の露出部分を封止することで、優れた耐湿性(望ましくは高温における耐湿性)を確保することができる。端部封止部26は封着材で構成される。封着材は、正極集電体20、負極集電体24及び端部絶縁部18で被覆されていない上記露出部分を封止して優れた耐湿性(望ましくは高温における耐湿性)を確保可能なものであれば特に限定されない。もっとも、封着材は正極集電体20と負極集電体24の間の電気的絶縁性を確保することが望まれるのはいうまでもない。その意味で、封着材は1×10Ωcm以上の抵抗率を有するのが好ましく、より好ましくは1×10Ωcm以上であり、さらに好ましくは1×10Ωcm以上である。封着材は、樹脂を含む樹脂系封着材であるのが好ましく、樹脂系封着材は樹脂(好ましくは絶縁性樹脂)と無機材料の混合物からなるものであってもよい。あるいは、封着材は、ガラスを含むガラス系封着材であってもよい。これらの封着剤は特許文献1に開示されるような公知のものが利用可能である。
【0042】
電池厚さ
全固体リチウム電池は、単位電池1個を備えた構成の場合、60〜5000μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは、70〜4000μm、さらに好ましくは、80〜3000μm、特に好ましくは、90〜2000μm、最も好ましくは、100〜1000μmである。本発明によれば、配向正極板を比較的厚くできる一方、集電体で外装材を兼用するため電池全体の厚さを比較的薄く構成することができる。
【0043】
コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法
本発明の全固体リチウム電池に用いられる配向正極板ないし配向焼結板は、いかなる製法によって製造されてもよいが、好ましくは、以下に例示されるように、(1)LiCoOテンプレート粒子の作製、(2)マトリックス粒子の作製、(3)グリーンシートの作製、及び(4)配向焼結板の作製を経て製造される。
【0044】
(1)LiCoOテンプレート粒子の作製
Co原料粉末とLiCO原料粉末とを混合する。得られた混合粉末を500〜900℃で1〜20時間焼成して、LiCoO粉末を合成する。得られたLiCoO粉末をポットミルにて体積基準D50粒径0.1〜10μmに粉砕して、板面と平行にリチウムイオンを伝導可能な板状のLiCoO粒子を得る。得られたLiCoO粒子は、劈開面に沿って劈開しやすい状態となっている。LiCoO粒子を解砕によって劈開させることで、LiCoOテンプレート粒子を作製する。このようなLiCoO粒子は、LiCoO粉末スラリーを用いたグリーンシートを粒成長させた後に解砕する手法や、フラックス法や水熱合成、融液を用いた単結晶育成、ゾルゲル法など板状結晶を合成する手法によっても得ることができる。
【0045】
本工程では、以下のとおり、配向正極板12を構成する一次粒子11のプロファイルを制御することができる。
‐ LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比及び粒径の少なくとも一方を調整することによって、配向角度が0°超30°以下である低角一次粒子の合計面積割合を制御することができる。具体的には、LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比を大きくするほど、また、LiCoOテンプレート粒子の粒径を大きくするほど、低角一次粒子の合計面積割合を高めることができる。LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比と粒径は、それぞれ、Co原料粉末及びLiCO原料粉末の粒径、粉砕時の粉砕条件(粉砕時間、粉砕エネルギー、粉砕手法等)、並びに粉砕後の分級のうち少なくとも1つを調整することによって制御することができる。
‐ LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比を調整することによって、アスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積割合を制御することができる。具体的には、LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比を大きくするほど、アスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積割合を高めることができる。LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比の調整手法は上述のとおりである。
‐ LiCoOテンプレート粒子の粒径を調整することによって、一次粒子11の平均粒径を制御することができる。
‐ LiCoOテンプレート粒子の粒径を調整することによって、配向正極板12の緻密度を制御することができる。具体的には、LiCoOテンプレート粒子の粒径を小さくするほど、配向正極板12の緻密度を高めることができる。
【0046】
(2)マトリックス粒子の作製
Co原料粉末をマトリックス粒子として用いる。Co原料粉末の体積基準D50粒径は特に制限されず、例えば0.1〜1.0μmとすることができるが、LiCoOテンプレート粒子の体積基準D50粒径より小さいことが好ましい。このマトリックス粒子は、Co(OH)原料を500〜800℃で1〜10時間熱処理を行なうことによっても得ることができる。また、マトリックス粒子には、Coの他、Co(OH)粒子を用いてもよいし、LiCoO粒子を用いてもよい。
【0047】
本工程では、以下のとおり、配向正極板12を構成する一次粒子11のプロファイルを制御することができる。
‐ LiCoOテンプレート粒子の粒径に対するマトリックス粒子の粒径の比(以下、「マトリックス/テンプレート粒径比」という。)を調整することによって、配向角度が0°超30°以下である低角一次粒子の合計面積割合を制御することができる。具体的には、マトリックス/テンプレート粒径比を小さくするほど、すなわちマトリックス粒子の粒径が小さいほど、後述する焼成工程においてマトリックス粒子がLiCoOテンプレート粒子に取り込まれやすくなるため、低角一次粒子の合計面積割合を高めることができる。
‐ マトリックス/テンプレート粒径比を調整することによって、アスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積割合を制御することができる。具体的には、マトリックス/テンプレート粒径比を小さくするほど、すなわちマトリックス粒子の粒径が小さいほど、アスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積割合を高めることができる。
‐ マトリックス/テンプレート粒径比を調整することによって、配向正極板12の緻密度を制御することができる。具体的には、マトリックス/テンプレート粒径比を小さくするほど、すなわち、マトリックス粒子の粒径が小さいほど、配向正極板12の緻密度を高めることができる。
【0048】
(3)グリーンシートの作製
LiCoOテンプレート粒子とマトリックス粒子を100:3〜3:97に混合して混合粉末を得る。この混合粉末、分散媒、バインダー、可塑剤及び分散剤を混合しながら、減圧下で撹拌して脱泡し且つ所望の粘度に調整してスラリーとする。次に、LiCoOテンプレート粒子にせん断力を印加可能な成形手法を用いて、調製したスラリーを成形することによって成形体を形成する。こうして、各一次粒子11の平均配向角度を0°超30°以下とすることができる。LiCoOテンプレート粒子にせん断力を印加可能な成形手法としては、ドクターブレード法が好適である。ドクターブレード法を用いる場合には、調製したスラリーをPETフィルムの上に成形することによって、成形体としてのグリーンシートが形成される。
【0049】
本工程では、以下のとおり、配向正極板12を構成する一次粒子11のプロファイルを制御することができる。
‐ 成形速度を調整することによって、配向角度が0°超30°以下である低角一次粒子の合計面積割合を制御することができる。具体的には、成形速度が速いほど、低角一次粒子の合計面積割合を高めることができる。
‐ 成形体の密度を調整することによって、一次粒子11の平均粒径を制御することができる。具体的には、成形体の密度を大きくするほど、一次粒子11の平均粒径を大きくすることができる。
‐ LiCoOテンプレート粒子とマトリックス粒子との混合比を調整することによっても、配向正極板12の緻密度を制御することができる。具体的には、LiCoOテンプレート粒子を多くするほど、配向正極板12の緻密度を下げることができる。
【0050】
(4)配向焼結板の作製
スラリーの成形体をジルコニア製セッターに載置し、500〜900℃で1〜10時間て加熱処理(一次焼成)して、中間体としての焼結板を得る。この焼結板をリチウムシート(例えばLiCO含有シート)で上下挟み込んだ状態でジルコニアセッター上に載置して二次焼成することで、LiCoO焼結板を得る。具体的には、リチウムシートで挟み込まれた焼結板が載置されたセッターをアルミナ鞘に入れ、大気中にて700〜850℃で1〜20時間焼成した後、この焼結板をさらにリチウムシートで上下挟み込んで750〜900℃で1〜40時間焼成して、LiCoO焼結板を得る。この焼成工程は、2度に分けて行ってもよいし、1度に行なってもよい。2度に分けて焼成する場合には、1度目の焼成温度が2度目の焼成温度より低いことが好ましい。なお、二次焼成におけるリチウムシートの総使用量はグリーンシート中のCo量に対する、グリーンシート及びリチウムシート中のLi量のモル比であるLi/Co比が1.0になるようにすればよい。
【0051】
本工程では、以下のとおり、配向正極板12を構成する一次粒子11のプロファイルを制御することができる。
‐ 焼成時の昇温速度を調整することによって、配向角度が0°超30°以下である低角一次粒子の合計面積割合を制御することができる。具体的には、昇温速度を速くするほど、マトリックス粒子同士の焼結が抑えられて、低角一次粒子の合計面積割合を高めることができる。
‐ 中間体の加熱処理温度を調整することによっても、配向角度が0°超30°以下である低角一次粒子の合計面積割合を制御することができる。具体的には、中間体の加熱処理温度を低くするほど、マトリックス粒子同士の焼結が抑えられて、低角一次粒子の合計面積割合を高めることができる。
‐ 焼成時の昇温速度及び中間体の加熱処理温度の少なくとも一方を調整することによって、一次粒子11の平均粒径を制御することができる。具体的には、昇温速度を速くするほど、また、中間体の加熱処理温度を低くするほど、一次粒子11の平均粒径を大きくすることができる。
‐ 焼成時のLi(例えば、LiCO)量及び焼結助剤(例えば、ホウ酸や酸化ビスマス)量の少なくとも一方を調整することによっても、一次粒子11の平均粒径を制御することができる。具体的には、Li量多くするほど、また、焼結助剤量を多くするほど、一次粒子11の平均粒径を大きくすることができる。
‐ 焼成時のプロファイルを調整することによって、配向正極板12の緻密度を制御することができる。具体的には、焼成温度を遅くするほど、また、焼成時間を長くするほど、配向正極板12の緻密度を高めることができる。
【実施例】
【0052】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0053】
例A1〜A8
(1)配向正極板の作製
(1a)LCOテンプレート粒子の作製
Co原料粉末(体積基準D50粒径0.8μm、正同化学工業株式会社製)とLiCO原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル株式会社製)を混合し、800℃〜900℃で5時間焼成することでLiCoO原料粉末を合成した。得られたLiCoO粉末を粉砕することによって板状LiCoO粒子(以下、LCOテンプレート粒子という)を得た。LCOテンプレート粒子の体積基準D50粒径を0.5μmに調整した。
【0054】
(1b)Coマトリックス粒子の作製
Co原料粉末(正同化学工業株式会社製)をマトリックス粒子として用意した。マトリックス粒子の体積基準D50粒径は0.3μmとした。
【0055】
(1c)LCO/Coグリーンシートの作製
LCOテンプレート粒子とCoマトリックス粒子を混合した。LCOテンプレート粒子とCoマトリックス粒子の重量比は、50:50とした。この混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2−ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに粘度を4000cPに調整することによってスラリーを調製した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが48μmとなるように、成形速度100m/hでシート状に成形してLCO/Coグリーンシートを得た。
【0056】
(1d)リチウムシートの作製
LiCO原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル株式会社製)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)5重量部と、可塑剤(DOP:フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、黒金化成株式会社製)2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LiCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。調製されたLiCOスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LiCOグリーンシート(以下、リチウムシートという)を形成した。
【0057】
(1e)配向焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたLCO/Coグリーンシートをジルコニア製セッターに載置して900℃で5時間一次焼成することで、中間体としての焼結板を得た。この焼結板をリチウムシートで上下挟み込んだ状態でジルコニアセッター上に載置して二次焼成することで、LiCoO焼結板を得た。具体的には、リチウムシートで挟み込まれた焼結板が載置されたジルコニアセッターを90mm角のアルミナ鞘に入れて大気中にて800℃で5時間保持した後、この焼結板をさらにリチウムシートで上下挟み込んで900℃で20時間焼成した。こうして厚さ40μmのLiCoO焼結板を配向正極板として得た。なお、二次焼成におけるリチウムシートの総使用量は、LCO/Coグリーンシート中のCo量に対する、LCO/Coグリーンシート及びリチウムシート中のLi量のモル比であるLi/Co比が1.05になるような量とした。
【0058】
(2)固体電解質層の作製
縦5インチ(約12.7cm)×横15インチ(約38.1cm)のリン酸リチウム焼結体ターゲットを準備し、スパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製、ILC−702)を用いてRFマグネトロン方式にてガス種Nを0.4Pa、出力1.2kWにて膜厚3μmとなるようにスパッタリングを行った。こうして、厚さ3μmのLiPON系固体電解質層を配向正極板上に形成した。
【0059】
(3)電池端部の絶縁処理
電池端部の絶縁性を確保すべく、LiPON系固体電解質層の外周に沿った幅250±100μmの領域をポリイミド樹脂で覆った。
【0060】
(4)中間層の作製
LiPON系固体電解質層上に表1に示される組成及び厚さの中間層を以下のとおり形成した。
【0061】
Au中間層(例A1)の場合は、イオンスパッタリング装置(日本電子株式会社製、JFC−1500)を用いたスパッタリングにより、固体電解質層上に厚さ20nmのAu膜を形成した。このとき、マスクを用いて中間層のサイズを10mm角として、中間層が10.5mm角の正極領域内に収まるようにした。
【0062】
Sn中間層(例A2〜A4)、Si中間層(例A5)、Bi中間層(例A6)及びAl中間層(例A7及びA8)の場合は、直径4インチ(約10cm)のSnターゲット、Siターゲット、Biターゲット又はAlターゲットを準備し、スパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製、SPF−210HS)を用いてRFマグネトロン方式にてガス種Arを1Pa、出力0.1kWにて表1に示される膜厚となるようにスパッタリングを行った。こうして、固体電解質層上に表1に示される組成及び厚さの中間層を形成した。このとき、マスクを用いて中間層のサイズを10mm角として、中間層が10.5mm角の正極領域内に収まるようにした。
【0063】
(5)負極層の作製
例A1〜A7においては、以下のようにして中間層上に負極層を形成した。まず、リチウム金属を載せたタングステンボートを準備した。真空蒸着装置(サンユー電子株式会社製、カーボンコーターSVC−700)を用いて、抵抗加熱によりLiを蒸発させながら蒸着により中間層の表面にLi薄膜を形成した。このとき、マスクを用いて負極層のサイズを10mm角として、負極層が10.5mm角の正極領域内に収まるようにした。こうして、固体電解質層上に膜厚10μmのLi蒸着膜を負極層として形成した単電池を作製した。
【0064】
例A8においては、充電時に析出するLiを負極活物質として利用すべく、負極層の形成は行わなかった。こうして、固体電解質層上に負極層を有しない単電池を作製した。
【0065】
(6)電池の組立
厚さ20μmのNi箔と厚さ15μmのナイロン樹脂を貼り合せた積層シートを13mm角に切り出して集電板とした。外縁形状が12.8mm角でその内側に11mm角の孔が打ち抜かれた、0.9mm幅の枠状のポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(厚さ50μm)を集電板のNi箔側に貼り付けて端部封止部を形成した。こうして得られた複合部材を集電板のNi箔側を上にして置き、端部封止部で囲まれた領域内に上記(5)で得られた単電池を負極が下になるように載置した。載置した単電池の正極上には集電板をNi箔側が下になるように載置し、パルスヒート式加熱装置(日本アビオニクス株式会社製、HT−13X13(40)NTN)を用いて、減圧下、端部封止部に対して荷重3kgを加えながら420℃で加熱した。こうして単電池の外周全体を覆うように端部封止部と上下2枚の集電板とを貼り合せて封止することで、封止形態の全固体リチウム電池を得た。
【0066】
(7)各種評価
得られた全固体リチウム電池について以下の評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0067】
(平均配向角度)
後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡(日本電子社製、型式JSM−7800M)を用いて、正極の板面に垂直な断面におけるEBSD像を取得した。一次粒子の平均配向角度を以下の手順で測定した。まず、95μm×125μmの矩形領域を1000倍の倍率で観察したEBSD像において、正極を厚み方向に四等分する3本の横線と、正極を板面方向に四等分する3本の縦線とを引いた。次に、3本の横線と3本の縦線のうち少なくとも1本の線と交差する一次粒子すべての配向角度を算術平均することによって、一次粒子の平均配向角度を得た。
【0068】
(サイクル容量維持率)
リチウムイオン電池を0.2mAの定電流で充電電圧値4.0Vまで充電した後、4.0Vの定電圧で電流が0.04mAになるまで充電した。そして、0.2mAの定電流でカットオフ電圧値3.0Vまで放電し、放電容量Wを測定した。この測定を50回繰り返し、50回目の放電容量W50を測定した。W50をWで除して100を乗じた値をサイクル容量維持率(%)として評価した。
【0069】
例A9(比較)
中間層を形成しなかったこと以外は例A1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0070】
例A10(比較)
Au中間層の代わりに厚さ20nmのCu中間層を形成したこと以外は、例A1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。Cu中間層の形成は、直径4インチ(約10cm)のCuターゲットを準備し、スパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製、SPF−430H)を用いてDCマグネトロン方式にてガス種Arを0.3Pa、電流0.5Aにて膜厚20nmとなるようにスパッタリングを実施することにより行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0071】
例A11(比較)
配向正極板の作製を以下のとおり行ったこと以外は、例A2と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0072】
(配向正極板の作製)
Co原料粉末(体積基準D50粒径0.3μm、正同化学工業株式会社製)に5wt%の割合でBi(体積基準D50粒径0.3μm、太陽鉱工株式会社製)を添加して混合粉末を得た。この混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに、4000cPの粘度に調整した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの上に、乾燥後の厚さが45μmとなるように、シート状に成形してグリーンシートを作製した。PETフィルムから剥がしたグリーンシートを、切り出し、突起の高さが300μmのエンボス加工が施されたジルコニア製セッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置し、1300℃で5時間焼成後、降温速度50℃/hにて降温した。セッターに溶着していない部分をCo配向焼成板として取り出した。Co配向焼成板にLi/Co=1.3になるようにLiCOシートを載置し、大気中にて840℃で10時間加熱処理してCo配向焼成板にリチウムを導入した。こうして、厚さ40μmのLiCoO配向焼結板を配向正極板として得た。
【0073】
【表1】
【0074】
例B1〜B8
(1)配向正極板の作製
(1a)LCOテンプレート粒子の作製
Co原料粉末(体積基準D50粒径0.8μm、正同化学工業株式会社製)とLiCO原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル製)を混合し、800℃で5時間焼成することでLiCoO原料粉末を合成した。この際、焼成温度や焼成時間を調整することによって、LiCoO原料粉末の体積基準D50粒径を表2に示される値に調整した。得られたLiCoO粉末を粉砕することによって板状LiCoO粒子(LCOテンプレート粒子)を得た。例B1、B2及びB4〜B8ではポットミルを用い、例B3では湿式ジェットミルを用いた。この際、粉砕時間を調整することによって、LCOテンプレート粒子の体積基準D50粒径を表2に示される値に調整した。また、LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比は表2に示されるとおりであった。LiCoOテンプレート粒子のアスペクト比は得られたテンプレート粒子をSEM観察することで測定した。
【0075】
(1b)Coマトリックス粒子の作製
Co原料粉末(正同化学工業株式会社製)をマトリックス粒子として用意した。マトリックス粒子の体積基準D50粒径は表2に示されるとおりとした。ただし、例B4ではマトリックス粒子を用いなかった。
【0076】
(1c)LCO/Coグリーンシートの作製
LCOテンプレート粒子とCoマトリックス粒子を混合した。LCOテンプレート粒子とCoマトリックス粒子の重量比は、表2に示されるとおりとした。ただし、例B4ではマトリックス粒子を用いなかったため、重量比は100:0である。この混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2−ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに粘度を4000cPに調整することによってスラリーを調製した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが40μmとなるように、成形速度100m/hでシート状に成形してグリーンシートを得た。
【0077】
(1d)配向焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたグリーンシートをジルコニア製セッターに載置して900℃で5時間(例B1〜B6及びB8)又は800℃で5時間(例B7)一次焼成することによって中間体としての焼結板を得た。この焼結板をリチウムシートで上下挟み込んだ状態でジルコニアセッター上に載せて二次焼成することで、LiCoO焼結板を得た。具体的には、リチウムシートで挟み込まれた焼結板が載置されたジルコニアセッターを90mm角のアルミナ鞘に入れ、大気中にて800℃で5時間保持した後、この焼結板をさらにリチウムシートで上下挟み込んで900℃で20時間焼成した。なお、二次焼成におけるリチウムシートの総使用量は、LCO/Coグリーンシート中のCo量に対する、LCO/Coグリーンシート及びリチウムシート中のLi量のモル比であるLi/Co比が表2に示される値になるような量とした。
【0078】
(2)固体電解質層の作製
直径4インチ(約10cm)のリン酸リチウム焼結体ターゲットを準備し、スパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製、SPF−430H)を用いてRFマグネトロン方式にてガス種Nを0.2Pa、出力0.2kWにて膜厚2μmとなるようにスパッタリングを行なった。こうして、厚さ2μmのLiPON系固体電解質スパッタ膜をLiCoO焼結板上に形成した。
【0079】
(3)中間層の作製
イオンスパッタリング装置(日本電子株式会社製、JFC−1500)を用いたスパッタリングにより、固体電解質層上に厚さ500ÅのAu膜を中間層として形成した。
【0080】
(4)負極層の作製
リチウム金属を載せたタングステンボートを準備した。真空蒸着装置(サンユー電子株式会社製、カーボンコーターSVC−700)を用いて、抵抗加熱によりLiを蒸発させて上記中間層の表面に薄膜を設ける蒸着を行った。このとき、マスクを用いて負極層のサイズを9.5mm角として、負極層が10mm角の正極領域内に収まるようにした。こうして、固体電解質層上に膜厚10μmのLi蒸着膜を負極層として形成した単電池を作製した。
【0081】
(5)電池の組立
厚さ20μmのステンレス箔を13mm角に切り出して正極集電板とした。また、外縁形状が13mm角で、その内側に11mm角の孔が打ち抜かれた、1mm幅の枠状の変性ポリプロピレン樹脂フィルム(厚さ100μm)を用意した。この枠状の樹脂フィルムを正極集電板上の外周部に積層し、加熱圧着して端部封止部を形成した。正極集電板上の端部封止部で囲まれた領域内に上記単電池を載置した。載置した単電池の負極側にも上記同様に厚さ20μmのステンレス箔を載置し、端部封止部に対して荷重を加えながら、減圧下、200℃で加熱した。こうして外周全体にわたって端部封止部と上下2枚のステンレス箔とを貼り合せて単電池を封止した。こうして、封止形態の全固体リチウム電池を得た。
【0082】
(6)各種評価
得られた全固体リチウム電池について以下の評価を行った。結果は表3に示されるとおりであった。
(正極を構成する一次粒子の観察)
後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡(日本電子社製、型式JSM−7800M)を用いて、正極の板面に垂直な断面におけるEBSD像を取得し、以下のとおり各種パラメータの算出を行った。
‐ EBSD像上において任意に選択した30個の一次粒子の配向角度を算術平均することによって、一次粒子の平均配向角度を算出した。
‐ EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子の総面積に対する、配向角度が0°超30°以下である一次粒子の合計面積の割合(%)を算出した。
‐ EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子の平均粒径を算出した。具体的には、30個の一次粒子それぞれの円相当径の算術平均値を一次粒子の平均粒径とした。
‐ EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子の平均アスペクト比を算出した。具体的には、30個の一次粒子それぞれの最大フェレー径を最小フェレー径で除した値の算術平均値を一次粒子の平均アスペクト比とした。
‐ EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子のうちアスペクト比が4以上である一次粒子の面積割合を算出した。
【0083】
(配向正極板の緻密度)
CP(クロスセクションポリッシャ)研磨した配向正極板の断面における1000倍率のSEM画像を2値化した。そして、2値化画像上において、固相と気相の合計面積に対する固相の面積割合を緻密度として算出した。
【0084】
(レート性能)
リチウムイオン電池を0.1mAの定電流で4.2Vまで充電した後、定電圧で電流が0.05mAになるまで充電した。そして、0.2mAの定電流で3.0Vまで放電し、放電容量Wを測定した。また、0.1mAの定電流で4.2Vまで充電した後、定電圧で電流が0.05mAになるまで充電し、そして、2.0mA定電流で3.0Vまで放電し、放電容量Wを測定した。WをWで除して100を乗じることでレート性能を評価した。
【0085】
(サイクル容量維持率)
リチウムイオン電池を0.1mAの定電流で4.2Vまで充電した後、定電圧で電流が0.05mAになるまで充電した。そして、0.2mA定電流で3.0Vまで放電し、放電容量Wを測定した。この測定を30回繰り返し、30回目の放電容量W30を測定した。W30をWで除して100を乗じることでサイクル容量維持率を評価した。
【0086】
例B9(比較)
LiCoO粉末を粉砕せずに、そのままLCOテンプレート粒子として用いたこと以外は、例B1〜B8と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表3に示されるとおりであった。
【0087】
例B10(比較)
Coマトリックス粒子の体積基準D50粒径を例B1〜B8よりも大きくしたこと以外は、例B1〜B8と同様にして、電池の作製及び評価を行った。本例のマトリックス粒子の体積基準D50粒径は3.0μmであり、Coマトリックス粒子に対するLCOテンプレート粒子の粒径比は0.2であった。結果は表3に示されるとおりであった。
【0088】
例B11(比較)
LCOテンプレート粒子を用いず、Coマトリックス粒子のみを用いたスラリーでグリーンシートを作製したこと以外は、例B1〜B8と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表3に示されるとおりであった。
【0089】
例B12(比較)
一次焼成の焼成温度を1200℃としたこと以外は、例B1〜B8と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表3に示されるとおりであった。
【0090】
例B13(比較)
正極板の作製を以下のように行ったこと以外は、例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表3に示されるとおりであった。
【0091】
(正極板の作製)
例B1で準備したスラリーをシート状に成形せずに、そのまま乾燥させた。乾燥物を例B1と同様に焼成した後に、#1200のSiC製研磨紙を用いて厚み40μmまで研磨して正極板を得た。
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10