(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)スルホキシド化合物及びアミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる担持工程と、
を有する電極触媒の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明において製造の対象となる電極触媒は、担体の表面に触媒が担持された構造を有している。担体としては、導電性を有する金属酸化物が好適に用いられる。本発明において「導電性を有する」とは金属酸化物の57MPaの圧力下における体積抵抗率が1×10
4Ω・cm以下であることを言う。担体の表面に担持される触媒としては、白金と遷移金属との白金合金が好適に用いられる。本発明の方法によって製造された電極触媒は、各種の燃料電池の触媒として好適に用いられる。そのような燃料電池としては、例えば固体高分子形燃料電池が典型的なものとして挙げられる。
【0011】
本発明の製造方法は、(i)スルホキシド化合物及びアミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒と、(ii)金属酸化物の触媒担体粉と、(iii)白金化合物と、(iv)遷移金属化合物と、を混合して分散液を作製する分散液作製工程と、前記分散液を加熱して、前記触媒担体粉の表面に白金と遷移金属との白金合金を担持させる担持工程と、を有するものである。
【0012】
上述したように特許文献1に記載の方法で白金と遷移金属の白金合金を金属酸化物担体に担持させようとすると、所望の触媒活性を有する電極触媒が得られない。本発明者がこの原因について検討したところ、特許文献1に記載の方法では、白金中に遷移金属を固溶させることを目的として、白金化合物及び遷移金属化合物が金属酸化物に担持された試料に対し還元雰囲気下にて例えば200℃以上の高温で熱処理を行う必要があり、この熱処理の際に、白金が遷移金属のみならず担体を構成する金属酸化物中の金属と合金化してしまうことが原因であることを知見した。
更に本発明者は鋭意検討し、本発明の製造方法によれば触媒性能に優れた電極触媒を得ることができることを知見した。この理由について、本発明者は、本発明の製造方法では分散液を加熱することで、前記溶媒の還元作用により、一層低温で白金化合物及び遷移金属化合物が還元されるので一層低温で両者の合金を生成でき、白金と触媒担体を構成する金属酸化物の当該金属元素との合金化を抑制できるからであると考えている。
【0013】
本発明の製造方法は、(イ)分散液作製工程と、(ロ)担持工程とに大別される。以下それぞれの工程について詳述する。
【0014】
(イ)の分散液作製工程において、分散液は、その構成成分として以下の(i)−(iv)を混合することで作製される。
(i)スルホキシド化合物及びアミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒。
(ii)金属酸化物の触媒担体粉。
(iii)白金化合物。
(iv)遷移金属化合物。
【0015】
(i)−(iv)は例えばこれらを一括して容器等に投入し、混合することができる。あるいは、(i)に、(ii)−(iv)を添加し、混合することができる。添加の順序は本発明において臨界的ではなく、各成分の性状や配合比率に応じて添加の順序を適宜決定することができる。
【0016】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の全質量に対して、(i)のスルホキシド化合物及びアミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒の割合が、好ましくは30質量%以上99.9質量%以下、更に好ましくは40質量%以上99.7質量%以下、一層好ましくは50質量%以上99質量%以下となるように、該溶媒を添加することが好ましい。尚、分散液中には、本発明の効果を奏する程度において、上記溶媒以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0017】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、(ii)の金属酸化物の触媒担体粉の割合が、好ましくは0.1g/L以上500g/L以下、更に好ましくは1g/L以上150g/L
以下、一層好ましくは2g/L以上100g/L以下となるように、該担体粉を添加することが好ましい。
【0018】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、(iii)の白金化合物の割合が、好ましくは2.5×10
−4mol/L以上1.2mol/L以下、更に好ましくは6.0×10
−4mol/L以上8.0×10
−1mol/L以下、一層好ましくは1.5×10
−3mol/L以上8.0×10
−2mol/L以下となるように、該白金化合物を添加することが好ましい。
【0019】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、(iv)の遷移金属化合物の割合が、好ましくは4.0×10
−4mol/L以上2.0×10
−1mol/L以下、更に好ましくは6.0×10
−4mol/L以上1.2×10
−1mol/L以下、一層好ましくは2.0×10
−3mol/L以上6.0×10
−2mol/L以下となるように、該遷移金属化合物を添加することが好ましい。
【0020】
分散液作製工程においては、上述の成分に加えてカルボキシル基を含む芳香族化合物を更に混合してもよい。分散液中にカルボキシル基を含む芳香族化合物が含まれていることによって、(ロ)の担持工程において、白金及び遷移金属の還元が一層首尾よく行われ、そのことに起因して合金の固溶状態が一層均一になる。その結果、目的とする電極触媒の触媒性能が一層向上する。
【0021】
分散液作製工程においては、目的とする分散液の溶媒体積に対して、前記のカルボキシル基を含む芳香族化合物の割合が、好ましくは4.0×10
−4mol/L以上4.0mol/L以下、更に好ましくは2.0×10
−2mol/L以上3.0mol/L以下、一層好ましくは4.0×10
−2mol/L以上2.0mol/L以下となるように、該芳香族化合物を添加することが好ましい。
【0022】
分散液作製工程において、(i)のスルホキシド化合物及びアミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒は、(iii)の白金化合物や(iv)の遷移金属化合物を溶解する溶媒として用いられる。また(iii)の白金化合物や(iv)の遷移金属化合物を還元する還元剤としても用いられる。これらの観点から、(i)のスルホキシド化合物の溶媒としては、例えばジメチルスルホキシドなどが挙げられ、アミド化合物の溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン及びN−ヒドロキシエチル−2−ピロリドンなどのラクタム化合物(分子内環状アミド化合物)や、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの中でも、活性支配電流密度などの触媒性能に優れた電極触媒を容易に形成するためには、アミド化合物の一種としてのホルムアミド基を有する有機化合物の溶媒である、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−エチルホルムアミドなどが好ましい。これらの溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
分散液作製工程において、(ii)の金属酸化物の触媒担体粉は、金属酸化物の担体の粒子(以下「担体粒子」とも言う。)の集合体からなる。担体粒子としては、導電性を有する金属酸化物の粒子を用いることができる。導電性を有する金属酸化物としては、例えばインジウム系酸化物、スズ系酸化物、チタン系酸化物、ジルコニウム系酸化物、セレン系酸化物、タングステン系酸化物、亜鉛系酸化物、バナジウム系酸化物、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物及びレニウム系酸化物が挙げられる。更に好ましい無機酸化物としては、例えばスズ酸化物に、フッ素及び塩素などのハロゲン、ニオブ、タンタル、アンチモン並びにタングステンのうち1種以上の元素が含まれているものが挙げられる。具体的には、スズ含有インジウム酸化物や、チタン含有スズ酸化物、アンチモン含有スズ酸化物、フッ素含有スズ酸化物、タンタル含有スズ酸化物、アンチモン及びタンタル含有スズ酸化物、タングステン含有スズ酸化物、フッ素及びタングステン含有スズ酸化物及びニオブ含有スズ酸化物のような金属ないし非金属含有(ドープ)スズ酸化物などが挙げられる。特に担体粒子は、酸化スズを含むセラミックス材料であることが、固体高分子形燃料電池の発電環境下における物質の安定性の点から好ましい。スズの酸化物には、例えば四価のスズの酸化物であるSnO
2や、二価のスズの酸化物であるSnOなどが挙げられる。特にスズの酸化物はSnO
2を主体とすることが、耐酸性を高める観点から好ましい。「SnO
2を主体とする」とは、スズの酸化物に含まれるスズのうちの50モル%以上がSnO
2からなることをいう。
【0024】
導電性を有する金属酸化物からなる担体粒子は種々の方法で製造することができる。製造方法は湿式法及び乾式法に大別される。微粒の担体粒子を製造する観点からは、湿式法を採用することが有利である。湿式法の一例として、ハロゲンを含有する酸化スズからなる担体粒子を製造するには、以下の方法を採用することが好ましい。この製造方法の詳細は、例えばWO2016/098399に記載されている。
【0025】
金属酸化物が酸化スズであり、且つ酸化スズからなる担体粒子がNb、Ta、Sb及びWから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する場合、その含有率は、前記の元素がタングステン(W)の場合を例にとると、W(mol)/(Sn(mol)+W(mol))×100で表して、好ましくは0.1mol%以上30mol%以下であることが酸化スズの導電性を十分に且つ効率よく高める点から好ましく、1mol%以上10mol%以下がより好ましい。前記の元素がNb、Ta、Sb及びWから選ばれる2種以上である場合は、その合計量が、前記の範囲であることが好ましい。この含有率は、電極触媒を適当な方法で溶解して溶液となし、ICP質量分析によりこの溶液を分析し、スズの濃度及び添加元素の濃度を測定することにより算出する。ICP質量分析に代えて、蛍光X線(XRF)分析を用いることもできる。
【0026】
また金属酸化物が酸化スズであり、且つ酸化スズがフッ素や塩素などのハロゲン原子を含有する場合、その含有率は、前記の元素がフッ素(F)の場合を例にとると、F(mol)/(Sn(mol)+F(mol))×100で表して、好ましくは0.07mol%以上5.70mol%以下であることが酸化スズの導電性を十分に且つ効率よく高める点から好ましく、1.50mol%以上5.30mol%以下がより好ましい。前記の元素がハロゲン原子から選ばれる2種以上である場合は、その合計量が、前記の範囲であることが好ましい。ハロゲン原子の含有量は燃焼―イオンクロマトグラフィー(例えば三菱化学アナリテック社製自動試料燃焼装置(AQF−2100H))を用いて測定できる。
【0027】
担体粒子は、その一次粒子が個々に独立した分散状態になっていてもよい。あるいは複数の一次粒子が凝集した凝集体からなる二次粒子になっていてもよい。凝集体になっている場合、該粒子はその不定数が不規則に集合した不定形の形状をしていてもよい。あるいは、複数個の該粒子が数珠状に連なった鎖状構造部位を有していてもよい。また一次粒子の形状に特に制限はなく、例えば球状、多面体状、板状若しくは紡錘状、又はこれらの混合など、種々の形状を採用することができる。特に球状であることが好ましい。担体粒子を構成する一次粒子、すなわち外見上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体の粒径は、電極触媒の担体の比表面積を大きくし得る点から、5nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上100nm以下であることが更に好ましく、5nm以上50nm以下であることが一層好ましい。担体の一次粒子径は、電子顕微鏡像や小角X線散乱から測定される担体の一次粒子径の平均値により得ることができる。
【0028】
分散液作製工程において、(iii)の白金化合物としては、(i)のスルホキシド化合物及びアミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解可能なものを用いることが好ましいが、それに限られない。(iii)の白金化合物としては、例えば白金錯体や白金塩を用いることができる。白金化合物の具体例としては、白金錯体の一種であるビス(アセチルアセトナト)白金(II)や、ヘキサクロリド白金(IV)酸、テトラクロリド白金(II)酸、ジニトロジアンミン白金(II)、ジクロロテトラアンミン白金(II)水和物、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸などが挙げられる。
【0029】
分散液作製工程において、(iv)の遷移金属化合物としては、(i)のスルホキシド化合物及びアミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解可能なものを用いることが好ましいが、それに限られない。(iv)の遷移金属化合物としては、例えば遷移金属錯体や遷移金属塩を用いることができる。遷移金属の例としては、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、チタン、バナジウム、マンガン、銅、亜鉛、スカンジウムなどが挙げられるが、これらに限られない。また、遷移金属化合物は1種を単独で用いることもでき、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。以上の遷移金属のうち、白金との合金の触媒活性が高い点から、ニッケル、コバルト、鉄又はクロムの化合物を用いることが好ましい。以下では遷移金属を単に「M」と記載することもある。
【0030】
遷移金属化合物としては、例えばニッケル錯体の一種であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(II)が挙げられるほか、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ニッケル(II)、酢酸ニッケルなどが挙げられる。
【0031】
分散液作製工程において、付加的に用いられる前記のカルボキシル基を含む芳香族化合物は、芳香族環を少なくとも1個有し、且つ芳香族環に直接に、又は結合基を介して間接的に結合したカルボキシル基を少なくとも1個有する化合物である。芳香族環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環などが挙げられる。また、窒素や酸素を少なくとも1個含み、且つ芳香族性を有するヘテロ環も芳香族環の範疇に含まれる。カルボキシル基を含む芳香族化合物の具体例としては、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸などが挙げられる。これらの芳香族化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
付加的に用いられる前記のカルボキシル基を含む芳香族化合物が分散液中に含まれていることによって、(ロ)の担持工程において、白金及び遷移金属の還元が一層首尾よく行われ、そのことに起因して合金の固溶状態が一層均一になる。その結果、目的とする電極触媒の触媒性能が一層向上する。
【0033】
以上の各成分を用いて調製された分散液を(ロ)の担持工程に付して、触媒担体粉の粒子の表面に白金と遷移金属との白金合金からなる触媒を担持させる。触媒の担持は、分散液を加熱することで達成される。すなわち、担持工程においては、分散液を加熱することで、分散液中に含まれている白金化合物及び遷移金属化合物が熱分解するとともに、白金及び遷移金属が還元されて両者の合金が生成する。生成した白金合金は担体粒子の表面に付着して、目的とする電極触媒が得られる。
【0034】
担持工程における分散液の加熱に先立ち、分散液中に含まれている各成分を十分に均一分散させておくことが、触媒を担体粒子の表面に均一に担持させ得る点から好ましい。この目的のために、担持工程における分散液の加熱に先立ち、分散液に超音波を印加する分散処理を行うことが好ましい。超音波による分散処理は非加熱下で行うことが好ましく、例えば15℃以上25℃以下で行うことが好ましい。
【0035】
担持工程において、分散液の加熱は、大気圧に開放下に行うことができ、あるいは密閉下に行うこともできる。大気圧に開放下に加熱を行う場合には、揮発成分を還流させながら加熱してもよい。また、分散液の加熱は、各種の雰囲気下で行うことができる。例えば大気下などの含酸素雰囲気下や、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。担体粒子に担持される触媒の活性を極力低下させないようにする観点からは、不活性ガス雰囲気下で分散液を加熱することが好ましい。
【0036】
担持工程において、分散液の加熱温度は、金属酸化物の当該金属元素の融点未満とすることが、金属酸化物の凝集を防止しやすく好ましい。例えば金属酸化物が酸化スズである場合には、分散液の加熱温度をスズの融点である231.9℃未満とすることが好ましい。この理由としては、この温度以下であることにより、白金が、触媒担体を構成する酸化スズのスズと合金化することを一層効果的に抑制できるためであると考えられる。
【0037】
また、分散液の加熱温度は、電極触媒の触媒性能を一層向上させる観点から、120℃以上160℃未満とすることが特に好ましい。
電極触媒の触媒性能が向上する理由としては、白金と遷移金属との合金化を促進するためには高温で還元させることが一般的であるものの、本発明の製造方法においては、分散液の加熱温度を160℃未満とすることにより、白金の還元析出速度と遷移金属の還元析出速度との差が減少することにより、白金へ遷移金属が却って取り込まれ易くなり、合金の固溶状態がより一層均一になるためであると考えている。また、分散液の加熱温度を120℃以上とすることにより、白金及び遷移金属の還元が促進されるため、触媒担体への白金合金の担持率を高めることができ、その結果電極触媒の触媒性能が向上すると考えられる。これらの観点から、120℃以上145℃以下とすることが更に好ましい。
この加熱温度を条件として、加熱時間は3時間以上100時間以下であることが好ましく、6時間以上100時間以下であることが更に好ましく、12時間以上72時間以下であることが一層好ましい。
【0038】
担持工程においては、触媒である白金合金の担持量が、電極触媒の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、更に好ましくは1質量%以上30質量%以下となるように触媒を担持する。触媒の担持量の調整は、分散液作製工程において金属酸化物の触媒担体粉、白金化合物及び遷移金属化合物の濃度を適切に調整するとともに、担持工程において、例えば加熱温度と加熱時間をコントロールすることで達成される。
【0039】
(ロ)の担持工程において担体粒子の表面に触媒が担持されたら、引き続き固液分離工程を行う。本工程においては、担持工程後の分散液から、分散質である電極触媒を分離する。この工程によって、触媒担体粉に、白金と遷移金属との白金合金が担持された触媒粉である電極触媒が得られる。固液分離工程には、公知の各種の固液分離手段を特に制限なく用いることができる。例えばフィルターを用いた濾過、遠心分離及びデカンテーションなどが挙げられる。
【0040】
以上のとおりの方法によって、活性支配電流密度などの触媒性能に優れた電極触媒を容易に製造することができる。電極触媒の性状としては、例えば粉末状が挙げられる。このようにして得られた電極触媒は、金属酸化物からなる担体に白金と遷移金属との白金合金(以下、「Pt−M合金」と記載することもある)が担持された構造を有している。担体表面におけるPt−M合金の存在は、透過型電子顕微鏡(TEM)などで確認できる。なお、「Pt−M合金」は、Pt−M合金に更に別の金属が固溶した合金、例えば、触媒担体を構成する金属酸化物が酸化スズである場合には、白金が遷移金属のみならず酸化スズ中のスズと合金化したPt−M−Sn合金を含むことがある。
【0041】
本発明者らは、金属酸化物として酸化スズを用いた担体にPt−M合金が担持された従来の製造方法で製造された電極触媒の触媒活性について鋭意検討した。その結果、酸化スズにPt−M合金を担持させると、担持の途中で酸化スズの一部が還元されて金属スズが生成し、この金属スズがPt−M合金に取り込まれ、そのことに起因してPt−M合金の触媒活性が低下することを見出した。そして、金属酸化物として酸化スズを用いる場合、担体由来の金属スズとPt−M合金との固溶を極力減らすことにより、触媒の活性を高めることができることが判明した。更に研究を進めたところ、電極触媒表面及びその近傍の分析領域における下記(式1)で定義されるSnの金属化率(%)(全Sn元素に対する金属としてのSnの占有率)を特定値(5%)以下とすることにより、触媒活性の向上を効果的に実現できることを知見した。このような電極触媒を得るためには電極触媒を本発明の製造方法で製造すればよい。
【0042】
従って、酸化スズの担体に白金と遷移金属との白金合金が担持された電極触媒は、X線光電子分光分析法により測定される電極触媒の表面及びその近傍の分析領域における、下記式(1)で定義されるSnの金属化率が5%以下であることが好ましく、3%以下であることが更に好ましい。
Snの金属化率(%)=R
Sn−metal/(R
Sn−metal+R
Sn−oxide)×100 (1)
式中、R
Sn−metalは、X線光電子分光分析法により測定されたSn3d
5/2軌道由来のスペクトルにおけるSn金属の占める面積を表す。
R
Sn−oxideはX線光電子分光分析法により測定されたSn3d
5/2軌道由来のスペクトルにおけるSn酸化物の占める面積を表す。
ここでいう表面及びその近傍の分析領域とは、電極触媒をX線光電子分光分析法(XPS)による測定に供した際に分析対象となる深さ方向にわたる領域をいう。XPSによる深さ方向の測定距離、すなわち表面及びその近傍の分析領域は一般に、表面から深さ方向に向けた0nm〜5nmの領域である。スズの金属化率(%)は、具体的にはSn3d
5/2の全スペクトルの面積のうち、Sn金属に由来するスペクトルの面積の割合として求められる。
【0043】
本発明において、XPSは好ましくは以下の(A1)〜(A5)の条件で測定される。
(A1)X線源:AlのKα(hν=1486.6eV)
(A2)試料と検出器の角度:θ=45°
(A3)検出器の校正:Cu2pとAu4fを用いて実施
(A4)分析領域:直径0.1mmの円
(A5)分析時のチャンバ圧力:10
−7〜10
−6Paのオーダー
【0044】
また酸化スズの担体に白金と遷移金属との白金合金が担持された電極触媒においては、該電極触媒をX線回折測定して得られる回折パターンにおいて、白金合金の(200)面のピークの回折角2θが特定範囲(46.5°以上48.0°以下)であることが好ましい。電極触媒は、担体にPt−M(Mは遷移金属を表す)合金が担持されていることを反映して、該電極触媒をX線回折測定して得られる回折パターンにおいて、白金合金の(200)面のピークの回折角2θが白金単体の46.2°から高角度側にシフトしている。具体的には、前記回折パターンにおける前記の白金合金のピークの回折角2θは、46.5°以上であることが好ましく、これにより、合金化による触媒活性の向上効果を得ることができる。また、前記の白金合金のピークの回折角2θは48.0°以下であることが好ましい。48.0°より高角度側では遷移金属のPtへの固溶が過度に進行し(遷移金属がNiである場合、合金に占めるNiのモル濃度が50%を超える)、触媒活性が低下する。したがって、48.0°以下にすることにより、高い触媒活性を保持できるという利点がある。これらの点から、前記の白金合金のピークの回折角2θは46.5°以上、48.0°以下であることが好ましく、46.8°以上47.7°以下がより好ましい。前記の白金合金のピークの回折角2θを前記の値とするためには、上述した電極触媒の製造方法において、担持工程における加熱温度の制御を行うとともに白金化合物及び遷移金属化合物の添加量を調整すればよい。ピークのシフトの程度を、(200)面を対象として評価した理由は、担体である酸化スズによる回折ピークとの重なりを避けることができ、解析が容易であるためである。
【0045】
電極触媒における白金(Pt)と遷移金属(M)とのモル比Pt/Mは、1以上であることが、触媒活性を高める点から好ましい。このモル比Pt/Mは、10以下であることが、白金合金の合金化率を高めて触媒活性を高める点から好ましい。これらの点から、モル比Pt/Mは1以上10以下が好ましく、1以上7以下がより好ましい。触媒活性を高める点から触媒である白金と遷移金属との白金合金の合計担持量は、電極触媒の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、更に好ましくは1質量%以上30質量%以下である。白金及び遷移金属の担持量は、電極触媒を適当な方法で溶解して溶液となし、ICP質量分析によりこの溶液を分析することで求めることができ、白金と遷移金属との白金合金の担持量は、白金の担持量及び遷移金属の担持量の合計値として求めることができる。
【0046】
Pt−M合金は、微粒子の形態で担体の表面に担持されていることが有利である。Pt−M合金の粒子の粒径は、例えば1nm以上20nm以下とすることが好ましく、1nm以上10nm以下とすることがより好ましく、1nm以上5nm以下とすることが更に好ましい。この範囲の粒径を有するPt−M合金を担持させることで、電極反応の進行中における合金の溶出を効果的に防止することができ、また合金の比表面積の低下も効果的に防止することができるという利点がある。Pt−M合金の粒径は、電子顕微鏡像や小角X線散乱から測定されるPt−M合金の粒子径の平均値により得ることができる。
【0047】
Pt−M合金は、その担持量に応じて担体の表面全域を満遍なく被覆していてもよく、担体の表面の一部が露出するように被覆していてもよい。例えば表面の一部が露出するように被覆する場合は、表面の一か所のみを被覆していてもよいが、酸素還元反応において酸素拡散量に対して合金属触媒の反応面積が多すぎると酸素拡散律速となり本来の触媒活性を十分に発揮できない原因と成り得るため、適切な距離を保ち担体の表面が露出するように不連続に被覆している方がよい。
【0048】
本発明の製造方法で得られた電極触媒及び本発明の電極触媒は、例えば固体高分子電解質膜の一方の面に配置された酸素極及び他方の面に配置された燃料極を有する膜電極接合体における酸素極又は燃料極の少なくとも一方に含有させて用いることができる。電極触媒は、好適には酸素極及び燃料極の双方に含有させることができる。
【0049】
特に、酸素極及び燃料極は、本発明の電極触媒を含む触媒層と、ガス拡散層とを含んでいることが好ましい。電極反応を円滑に進行させるために、電極触媒は固体高分子電解質膜に接していることが好ましい。ガス拡散層は、集電機能を有する支持集電体として機能するものである。更に、電極触媒にガスを十分に供給する機能を有するものである。ガス拡散層としては、この種の技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えば多孔質材料であるカーボンペーパー、カーボンクロスを用いることができる。具体的には、例えば表面をポリ四フッ化エチレンでコーティングした炭素繊維と、当該コーティングがなされていない炭素繊維とを所定の割合とした糸で織成したカーボンクロスにより形成することができる。
【0050】
固体高分子電解質としては、この種の技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン伝導体膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。
【0051】
前記膜電極接合体は、その各面にセパレータが配されて固体高分子形燃料電池となされる。セパレータとしては、例えばガス拡散層との対向面に、一方向に延びる複数個の凸部(リブ)が所定間隔をおいて形成されているものを用いることができる。隣り合う凸部間は、断面が矩形の溝部となっている。この溝部は、燃料ガス及び空気などの酸化剤ガスの供給排出用流路として用いられる。燃料ガス及び酸化剤ガスは、燃料ガス供給手段及び酸化剤ガス供給手段からそれぞれ供給される。膜電極接合体の各面に配されるそれぞれのセパレータは、それに形成されている溝部が互いに直交するように配置されることが好ましい。以上の構成が燃料電池の最小単位を構成しており、この構成を数十個〜数百個並設してなるセルスタックから燃料電池を構成することができる。
【0052】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、本発明の方法で製造された電極触媒を、固体高分子電解質形燃料電池の電極触媒として用いた例を中心に説明したが、本発明の方法で製造された電極触媒を、固体高分子電解質形燃料電池以外の燃料電池、例えばアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池、直接メタノール形燃料電池などの各種燃料電池における電極触媒として用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。なお、以下に記載の担体の一次粒子径や担体中のW、Fの割合は上述した方法で測定したものである。
【0054】
〔実施例1〕
(1)担体の製造工程
WO2016/098399に記載の実施例1に基づいて一次粒子径が20nmであるフッ素及びタングステン含有酸化スズ粒子を得た。この粒子におけるスズ酸化物は、SnO
2を主体とするものであった。このフッ素及びタングステン含有酸化スズ粒子中、前記方法で算出したF(mol)/(Sn(mol)+F(mol)+W(mol))×100で表されるフッ素の含有率は3.8mol%であり、前記方法で算出したW(mol)/(Sn(mol)+F(mol)+W(mol))×100で表されるタングステンの含有率は2.5mol%であった。
【0055】
(2)分散液作製工程
容量500mLのメスフラスコに、337mLのN,N−ジメチルホルムアミド(略記:DMF、049−32363、和光純薬工業社製)、9.87×10
−3mol/L
−DMFのビス(アセチルアセトナト)白金(II)(Pt(acac)
2、028−16853、和光純薬工業社製)、7.40×10
−3mol/L
−DMFのビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(II)(Ni(acac)
2、283657−25G、シグマアルドリッチ社製)、2.49×10
−1mol/L
−DMFの安息香酸(204−00985、和光純薬工業社製)を加えるとともに(1)で得られた担体を10g/L
−DMFの濃度で加えた。その後、各成分が混合されてなる液を、室温(25℃)で30分間超音波分散器を用いて分散させて分散液となした。なお「mol/L
−DMF」又は「g/L
−DMF」を単位とする上記の各値は、分散液の液媒であるDMFに対する割合を意味する。
【0056】
(3)担持工程
前記分散液が入ったメスフラスコをアルゴンガスでパージした状態を保った状態で、室温のオイル中に沈ませて、オイル昇温速度5℃/分で分散液を120℃へ昇温した。オイルバス中のオイル温度を120℃に制御したまま、48時間加熱還流した。
(4)固液分離工程
その後オイルバスを外して室温まで冷却した後、濾過を行った。次いで、アセトンとエタノールの混合溶媒(体積比で1:1の混合溶媒)で5回、水とエタノールの混合溶媒(体積比で1:1の混合溶媒)で1回洗浄を行った後乾燥して、白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0057】
〔実施例2〜4〕
実施例1において、(3)担持工程でのオイル温度及び/又は保持時間を表1に示した値に変更した以外は実施例1と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0058】
〔実施例5及び6〕
実施例1において、(3)担持工程でのオイル温度及び保持時間並びにビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(II)の添加濃度を表1に示した値に変更した以外は実施例1と同様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
【0059】
〔比較例1〕
本比較例は、特許文献1の記載に準じ、白金担持電極触媒を製造した例である。
(1)担体の製造工程
実施例1と同様に行った。
(2)電極触媒の製造工程
5mlのH
2PtCl
6溶液(Pt1gに相当)と蒸留水295mLとを混合、溶解させ、15.3gのNaHSO
3により還元後、1400mLの蒸留水で希釈した。NaOH5%水溶液を加えて、pHを約5に調整しながら35%過酸化水素(120mL)を滴下し白金のコロイドを含む液を得た。このとき、NaOH5%水溶液を適宜加えて液のpHを約5に維持した。前記の手順で調製して得られたコロイド液は1g分の白金を含んでいる。その後、前記(1)で得られた5.67gの担体を添加し、90℃で3時間混合した。その後、液を冷却し、更に固液分離した。固液分離により得られた含水した粉体中から塩化物イオンを除去するために、1500mLの蒸留水で再び希釈し90℃で1時間煮沸を行い、液を冷却し固液分離した。この洗浄作業を4回実施した。最後に、固液分離後、大気下にて60℃で12時間にわたり乾燥させた。これによって、担体の表面に不定比の貴金属酸化物を含む白金を担持させた。次いで、この担体を窒素で希釈した4vol%水素雰囲気下にて80℃で2時間にわたり熱処理した。この様にして白金担持電極触媒を得た。
【0060】
〔比較例2〕
本比較例は、特許文献1の記載に準じ、白金ニッケル合金担持電極触媒を製造した例である。
(1)担体の製造工程
実施例1と同様に行った。
【0061】
(2)電極触媒の製造工程
5mlのH
2PtCl
6溶液(Pt1gに相当)と蒸留水295mLとを混合、溶解させ、15.3gのNaHSO
3により還元後、1400mLの蒸留水で希釈した。NaOH5%水溶液を加えて、pHを約5に調整をしながら35%過酸化水素(120mL)を滴下し白金のコロイドを含む液を得た。このとき、NaOH5%水溶液を適宜加えて液のpHを約5に維持した。前記の手順で調製して得られたコロイド液は1g分の白金を含んでいる。これに硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O)を添加した。添加量はPtとNiのモル比であるPt/Niが1となるよう1.49gとした。その後、前記(1)で得られた8.7gの担体を添加し、90℃で3時間混合した。その後、液を冷却し、更に固液分離した。固液分離により得られた含水した粉体中から塩化物イオンを除去するために、1500mLの蒸留水で再び希釈し90℃で1時間煮沸を行い、液を冷却し固液分離した。この洗浄作業を4回実施した。最後に、固液分離後、大気下にて60℃で12時間にわたり乾燥させた。これによって、担体の表面に不定比の酸化物を含む白金及び不定比の酸化物を含むニッケルを担持させた。次いで、この担体を窒素で希釈した4vol%水素雰囲気下にて200℃で2時間にわたり熱処理した。この様にして白金ニッケル合金担持電極触媒を得た。
なお、比較例1及び2のように、白金を含有するコロイドを含む液に担体を分散し、該コロイドを白金含有の微粒子として該担体に担持させる方法のことを、コロイド法という。
【0062】
〔評価〕
<白金又は白金合金の(200)面のピークの回折角2θ>
実施例及び比較例で得られた電極触媒について、粉末X線回折測定(XRD)を行い、白金又は白金合金の(200)面のピークの回折角2θを求めた。回折角2θの値を、表1及び表2に示す。
XRDはリガク社製 RINT-TTR IIIを用い、X線源としてCu Kα(0.15406nm、50kV、300mA)を用いて測定した。
【0063】
<Snの金属化率>
実施例及び比較例で得られた電極触媒について、XPS測定を行い、Snの金属化率を求めた。Snの金属化率の値を、表1及び表2に示す。
XPS測定はアルバック・ファイ社製Versa Probe IIを用い、X線源はAlのKαの単色光(hν=1486.6eV)、Pass Energy 55.0eV、エネルギーステップ0.1eV、試料と検出器の角度は45°、試料の分析領域は直径0.1mmの円で実施した。解析ソフトはMultipakを用いた。
Sn3d
5/2軌道由来のスペクトルにおけるメインピーク(スズ酸化物の結合エネルギー)のピークトップ位置を486.7eVとして帯電補正を行った。Snの金属化率は、Sn3d
5/2軌道由来のスペクトルを波形分離することで求めた。Sn元素の金属結合状態を示すピークは、結合エネルギーが484.5eVを超えて485.2eV未満であるピークとし、その他をSnの酸化物状態を示すピークとして分離し、それらの面積を計測した。これらを用い、Snの金属化率は、下記の式(1)に従い計算から求めた。
Snの金属化率(%)=R
Sn−metal/(R
Sn−metal+R
Sn−oxide)×100 (1)
【0064】
<Pt担持率(質量%)、Ni担持率(質量%)、PtとNiのモル比[Pt/Ni]>
実施例及び比較例で得られた電極触媒について、ICP質量分析装置(ICP−MS)によって測定を行い、Pt担持率(質量%)、Ni担持率(質量%)、PtとNiのモル比[Pt/Ni]を求めた。得られた値を表1及び表2に示す。
【0065】
<活性支配電流密度j
k(mA/cm
2−Pt)>
実施例及び比較例で得られた電極触媒について、回転ディスク電極を用いたサイクリックボルタンメトリー(CV:Cyclic Voltammetry)及び対流ボルタンメトリー(LSV:Linear Sweep Voltammetry)を行い、活性支配電流密度j
k(mA/cm
2−Pt)を求めた。具体的には、以下の「電極作製」、「CV測定」及び「ORR活性評価」の順で操作を行った。得られた活性支配電流密度j
k(mA/cm
2−Pt)の値を表1及び表2に示す。
【0066】
電極作製
直径5mmのグラッシーカーボン(GC)ディスク電極を0.05μmのアルミナペーストを用いて研磨し、その後純水を用いて超音波洗浄を行った。白金ニッケル合金を担持した試料を90vol%エタノール水溶液に加え、超音波ホモジナイザーにて分散させた。これをGCディスク上へ、当該ディスクの面積当たりPt金属量が12μg
−Pt/cm
2−GCとなる密度で塗布し、常温で乾燥させた。乾燥後、GCディスク上の触媒に5%Nafion(登録商標)溶液(274704−100ML、シグマアルドリッチ社製)を膜厚が50nmになるように滴下し、常温で乾燥させた。
【0067】
CV測定
測定は北斗電工(株)製の電気化学測定システムHZ−7000を用いて実施した。0.1mol/LのHClO
4水溶液にN
2を1時間以上パージした後、参照極に銀−塩化銀電極(Ag/AgCl)を用い、電位範囲−0.25〜0.742V(VS.Ag/AgCl)、掃引速度0.5V/sで300回クリーニングを実施した。その後、CV測定を電位範囲−0.25〜0.74Vで実施し本測定とした。電気化学的活性表面積(ECSA:Electrochemical Surface Area)の解析は0.4V以下に見られる水素の吸着波を用いて実施した。
【0068】
ORR活性評価
CV測定で用いた前記電解液(HClO
4水溶液)に酸素ガスを1時間以上パージした後、LSVを行った。温度25℃、電位範囲−0.20〜1.00V(VS.Ag/AgCl)、掃引速度10mV/sで回転数は400rpmから2500rpmまで、計6条件のデータを取得した。得られた結果をKoutecky−Levichプロットを用いて解析し、0.64V(VS.Ag/AgCl)における活性支配電流密度j
k(mA/cm
2)の値を得た。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、本発明の製造方法で製造した実施例1〜6の電極触媒は、前記XRDにおける白金合金のピークの回折角2θが46.5°〜48.0°の範囲内であり、Snの金属化率が5%以下であり、また活性支配電流密度j
kが高いものとなっていることが判る。これに対し、コロイド法によりニッケル非含有の白金粒子を担体に担持させた比較例1の電極触媒は、Sn金属化率は5%以下であるが、ニッケルを含有していないためXRDにおける回折角2θが46.5°未満となっており、活性支配電流密度j
kが低いものとなっている。またコロイド法により白金−ニッケル合金を担体に担持させた比較例2の電極触媒は、前記白金合金のピークの回折角2θが46.5〜48.0°の範囲内であるが、Snの金属化率が5%超であり、活性支配電流密度j
kが実施例に比べて低いものとなっている。