(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906544
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】ガスタービン用途におけるバナジウム腐食阻害剤
(51)【国際特許分類】
C10L 1/12 20060101AFI20210708BHJP
F02C 3/30 20060101ALI20210708BHJP
F02C 7/30 20060101ALI20210708BHJP
C10L 10/04 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
C10L1/12
F02C3/30 A
F02C7/30
C10L10/04
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-554456(P2018-554456)
(86)(22)【出願日】2017年4月10日
(65)【公表番号】特表2019-519624(P2019-519624A)
(43)【公表日】2019年7月11日
(86)【国際出願番号】US2017026770
(87)【国際公開番号】WO2017184364
(87)【国際公開日】20171026
【審査請求日】2020年4月10日
(31)【優先権主張番号】62/324,387
(32)【優先日】2016年4月19日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】316017181
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Saudi Arabian Oil Company
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】チェ,キ−ヒョク
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第02938779(US,A)
【文献】
特開2012−188542(JP,A)
【文献】
WAN NOR ROSLAM WAN ISAHAK ET AL.,,Magnesium oxide nanoparticles on green activated carbon efficient CO2 adsorbent,AIP CONFERENCE PROCEEDINGS,米国,2013年 1月 1日,882-889,XP055397641
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法であって、
燃焼燃料中に、カーボンブラック支持体粒子、および前記カーボンブラック支持体粒子に化学的に結合したマグネシウムを含む親油性腐食阻害剤を加えるステップを含み、
前記カーボンブラック支持体粒子が、40nm未満の粒径、1重量%未満の酸素含有量、および少なくとも50m2/グラムの表面積を含む、方法。
【請求項2】
前記マグネシウムが酸化マグネシウムであり、
前記親油性腐食阻害剤が、前記酸化マグネシウムの量が前記バナジウムを超過するような量で加えられる、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項3】
前記マグネシウムが0.05〜20重量パーセントの酸化マグネシウムを含む、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項4】
前記燃焼燃料が液体油を含む、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項5】
前記カーボンブラックがアセチレンブラックである、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項6】
前記カーボンブラック支持体の前記粒径が20nm未満であり、
前記カーボンブラック支持体粒子の前記表面積が50m2/グラムから100m2/グラムである、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項7】
前記カーボンブラック支持体粒子が、0.5重量パーセント未満の灰を含む、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項8】
前記親油性腐食阻害剤と前記燃焼燃料とを混合することをさらに含む、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項9】
前記親油性腐食阻害剤を液体燃料の溶媒と混合することをさらに含む、請求項1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
【請求項10】
親油性バナジウム腐食阻害剤を製造する方法であって、
カーボンブラック支持体粒子を酸化するステップと、
前記酸化されたカーボンブラック支持体をマグネシウム塩溶液と混合するステップと、
前記混合物を乾燥して、酸化されたカーボンブラック支持体とマグネシウム塩との乾燥混合物を生じさせるステップと、
前記乾燥混合物をか焼して、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性ガス気流下で前記親油性バナジウム腐食阻害剤を生成するステップと、
を含み、
前記親油性バナジウム腐食阻害剤が、前記カーボンブラック支持体粒子に化学的に結合した酸化マグネシウムを含み、前記カーボンブラック支持体粒子が、40nm未満の粒径、1重量パーセント未満の酸素含有量、0.5重量パーセント未満の灰含有量、および50m2/グラムより大きい表面積を含む、方法。
【請求項11】
前記カーボンブラック支持体粒子を酸化するステップが、酸化雰囲気中で前記カーボンブラック支持体粒子を加熱するステップを含む、請求項10に記載のバナジウム腐食阻害剤を製造する方法。
【請求項12】
前記カーボンブラック支持体粒子を酸化するステップが、酸化性溶液中に前記カーボンブラック支持体粒子を浸すステップを含む、請求項10に記載のバナジウム腐食阻害剤を製造する方法。
【請求項13】
前記マグネシウム塩溶液が、水、および、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム六水和物、硫酸マグネシウムまたはこれらの組み合わせを含む群から選択されるマグネシウム塩を含む、請求項10に記載のバナジウム腐食阻害剤を製造する方法。
【請求項14】
カーボンブラック支持体粒子および前記カーボンブラック支持体粒子に化学的に結合したマグネシウムを含む親油性バナジウム腐食阻害剤であって、
前記カーボンブラック支持体粒子が、40nm未満の粒径、1重量パーセント未満の酸素含有量、0.5重量パーセント未満の灰含有量、および少なくとも50m2/グラムの表面積を含み、かつ、
前記マグネシウムが、元素状マグネシウムおよび少なくとも20重量パーセントの酸化マグネシウムを含む、親油性バナジウム腐食阻害剤。
【請求項15】
0.05〜20重量パーセントの酸化マグネシウムを含む、請求項14に記載の親油性バナジウム腐食阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2016年4月19日に出願された米国仮特許出願シリアル番号第62/324,387号に対する優先権を主張する。該出願は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施形態は、概しては燃焼燃料添加剤に関し、具体的にはガスタービンにおけるバナジウム腐食阻害剤に関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギーを生成するための最も普及している方法の一つは、天然ガス、石油ガス、石炭、および液体炭化水素(石油の原油など)などの炭化水素の燃焼である。燃焼は、熱、蒸気、電気、およびその他の種類のエネルギーを生成する。内燃エンジンの一つであるガスタービンは、エネルギーを生成するために炭化水素を使用する代表的な機械である。ガスタービンは、燃焼室および回転タービンという2つの主要部品を有する。エネルギーは炭化水素の燃焼から生成されるが、その効率は燃焼温度に強く依存し、温度が高くなるほど効率が高くなる。現行のガスタービンは、1430℃の温度に達し得る。
【0004】
液体燃料は様々な機械において使用される一般的な炭化水素であり、ディーゼルは、その低い粘性および清潔性により、一般的な液体燃料である。需要の増大により、ディーゼルの代替として重油がより許容されている。その広い利用可能性および経済上の低い価格にもかかわらず、重油には多くの欠点がある。重油の使用は、燃焼の間に、すすおよびその他の不完全燃焼粒子、空気汚染物質、ならびにSO
xおよびNO
xなどのその他の汚染物質を生成し、空気の質に影響する。重油はまた、金属化合物を含有する。大抵の場合、それらの金属は、バナジウム、ニッケル、鉄、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属を含有する化合物である。重油中に見出される金属含有化合物は、燃焼プロセスの間にガスタービン中に腐食を引き起こし得る。バナジウム化合物は、ガスタービン中の高温に曝された時に金属層および保護層を激しく腐食させ得る。バナジウム化合物は重油中に有機金属化合物として存在し、燃焼の間に酸化バナジウム(V
2O
5)に変換される。酸化バナジウムは675℃という低い融点を持ち、このことは、ガスタービンの燃焼温度よりはるかに低い温度において酸化バナジウムは融解することを意味する。融解した酸化バナジウムは、ガスタービン中の高温表面に付着し、金属層および保護層と反応して腐食を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重油に添加剤を加えることにより、酸化バナジウムによって引き起こされる腐食を制限し、また、マグネシウム化合物は効果的な添加剤である。酸化マグネシウム(MgO)は酸化バナジウムと反応してマグネシウム−バナジウム混合酸化物化合物を形成し、これは酸化バナジウム(V
2O
5)よりはるかに高い融点を有する。マグネシウム−バナジウム混合酸化物は灰として存在し、ガスタービンの金属層および保護層に付着しないため、酸化バナジウムによって引き起こされる腐食の量を制限する。酸化マグネシウムスラリーがガスタービン中に注入され得るが、深刻な欠点は、固体状態の反応は、反応しないマグネシウム−バナジウム混合酸化物の形成に繋がり、高温においてさえ極めて遅いことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態は、燃焼燃料中に親油性腐食阻害剤を導入することによってガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法を記載し、親油性腐食阻害剤は、カーボンブラック支持体粒子、およびカーボンブラック支持体粒子に取り付けられたマグネシウムを含む。カーボンブラック支持体粒子は、40ナノメートル(nm)未満の粒径、および1重量パーセント(wt%)未満の酸素含有量、および少なくとも50平方メートル/グラム(m
2/グラム)の表面積を含む。
【0007】
一部の実施形態によれば、バナジウム腐食阻害剤を製造する方法は、カーボンブラック粒子を酸化するステップと、酸化されたカーボンブラックをマグネシウム塩溶液と混合するステップと、混合物を乾燥して、酸化されたカーボンブラックとマグネシウム塩との乾燥混合物を生じさせるステップと、次いで乾燥混合物をか焼して、バナジウム腐食阻害剤を生成するステップとを含む。バナジウム腐食阻害剤は、カーボンブラック支持体粒子に結合した酸化マグネシウムを含む。カーボンブラック支持体粒子は、40nm未満の粒径、1.0重量パーセント未満の酸素含有量、0.5重量パーセント未満の灰含有量、および50m
2/グラムより大きい表面積を含む。
【0008】
先行する段落におけるバナジウム腐食阻害剤を製造する方法は、親油性腐食阻害剤を生じる。親油性腐食阻害剤は、親油性カーボンブラック支持体粒子、およびカーボン支持体粒子に取り付けられたマグネシウムを含む。カーボンブラック支持体粒子は、40nm未満の粒径、1.0重量パーセント未満の酸素含有量、0.5重量パーセント未満の灰含有量、および少なくとも50m
2/グラムの表面積を含む。マグネシウムとしては、酸化マグネシウム、元素状マグネシウム、またはこれらの組合せが挙げられ、親油性腐食阻害剤のマグネシウム含有量は、少なくとも0.05〜20重量パーセントの酸化マグネシウムを含む。
【0009】
記載する実施形態の追加の特徴および利点は下記の詳細な説明に記載されており、また、その一部分は、その記載から当業者に容易に明らかとなるか、または、下記の詳細な説明、特許請求の範囲、および図面などに記載された実施形態を実施することによって認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、3つの試料のX線回折スペクトルを積み重ねたものを含み、試料1「(1)」および試料2「(2)」は、マグネシウムを担持したカーボンブラックを含有しない。試料3「(3)」は、カーボンブラック支持体上の酸化マグネシウムを含有する。点線は酸化バナジウム(V
2O
5)のX線回折である。
【
図2】
図2は熱重量分析のグラフであり、カーボンブラック(点線)、およびカーボンブラック支持体上の酸化マグネシウム(実線)の(正規化した)重量を温度(℃)の関数として示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減するための方法は、燃焼燃料中に親油性腐食阻害剤を加えることを含み、親油性腐食阻害剤は、カーボンブラック支持体粒子、およびカーボンブラック支持体粒子に取り付けられたマグネシウムを含む。カーボンブラック支持体粒子は、40nm未満の粒径、1.0重量%未満の酸素含有量、および少なくとも50m
2/グラムの表面積を含む。
本開示中で使用する場合、「支持体粒子」に関する「支持体」または「支持する」という用語は、支持体粒子(例えば、カーボンブラック)と支持される材料(マグネシウムなど)との間の弱い物理的相互作用または化学結合を意味する。例えば、支持体粒子と支持される材料との間に強い化学結合がある場合、水酸化シリカ(Si−OH)などの表面の基が金属化合物と反応してSi−O−Mgなどの強い化学結合を形成する。カーボンブラックについては、そのような強い化学結合は予期されない。
【0012】
カーボンブラック支持体粒子は親油性であり得るため、液体燃料と混合された時に、分散すること、溶解すること、またはその他の様式で溶液となることができる。親油性腐食阻害剤は、カーボンブラック支持体およびマグネシウムを含む。親油性腐食阻害剤は、油中に分散し得、燃焼場中に水溶液を注入する前に一般に水に溶解する疎油性マグネシウム化合物に基づく腐食阻害剤よりも容易にバナジウムと反応する。
【0013】
カーボンブラックは、制御された条件下での不完全な燃焼または気体もしくは液体炭化水素の熱分解によって生成される、コロイド粒子状の一種の元素状炭素である。カーボンブラックは黒く見え、微細に分割されたペレットまたは粉末である。1つまたは複数の実施形態によれば、ASTM D 3849による「平均粒径」として定義され得る一次粒径は、電子顕微鏡による測定で直径40nm未満または20nm未満であるべきである。カーボンブラック支持体粒子の酸素含有量は、1.0重量パーセント未満であり得、一部の実施形態では、0.5重量パーセント未満であり得る。
【0014】
1つまたは複数の実施形態では、カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、およびサーマルブラックが挙げられる。一部の実施形態では、カーボンブラックは、アセチレンブラックであり得る。アセチレンブラックは、低い灰含有量または少量の不純物を有し得る。カーボンブラック支持体粒子の灰含有量は、カーボンブラックの効果に相関し、0.5重量パーセント未満であり得る。1つまたは複数の実施形態では、カーボンブラック支持体粒子の灰含有量は0.2重量パーセント未満であり、一部の実施形態では、灰含有量は0.1重量パーセント未満である。カーボンブラックに関する「灰含有量」は、空気中において750℃で燃やした後に燃焼されずに残存する、任意の無機不純物を意味する。
【0015】
1つまたは複数の実施形態では、マグネシウムは、カーボンブラック支持体に取り付けられている。「取り付けられた」という用語は、化学結合、物理的相互作用、またはその他の接続を指し得る。カーボンブラック支持体の表面積が大きくなるほど、より多くのマグネシウムを支持体に取り付けることができ、それによってより多くの腐食性材料と反応する。カーボンブラック支持体粒子の一実施形態は、50m
2/グラムから100m
2/グラムの表面積を有する。別の実施形態では、表面積は、75m
2/グラムから100m
2/グラムである。
【0016】
親油性腐食阻害剤のマグネシウムは、元素状マグネシウム、酸化マグネシウム、または元素状マグネシウムと酸化マグネシウムの両方の組合せであり得る。一部の実施形態では、親油性腐食阻害剤のマグネシウムは、親油性腐食阻害剤の重量に基づいて少なくとも0.05〜25.0重量パーセントの酸化マグネシウムを含む。その他の実施形態では、マグネシウムの量は、親油性腐食阻害剤の重量に基づいて、酸化マグネシウムとして0.05〜20.0重量パーセントまたは0.1重量パーセントから10.0重量パーセントである。一部の実施形態では、酸化マグネシウムは0.5〜5.0重量パーセントである。
【0017】
親油性腐食阻害剤は、燃焼燃料中に加えられる。燃焼燃料は、液体油を含み得る。液体油は、腐食および凝固などの問題を引き起こすことなくガスタービン中で燃焼され得る任意の炭化水素である。液体油は、原油またはディーゼルを含み得る。燃焼燃料は、ディーゼル、ガソリン、または35℃より高い引火点を有する任意のその他の炭化水素燃料から選択され得る。先行技術において使用される酸化マグネシウムとは異なり、この親油性腐食阻害剤は、燃焼の間の酸化バナジウムの形成を減少させ、それによってガスタービンの腐食を減少させる。
【0018】
親油性バナジウム腐食阻害剤は、カーボンブラック粒子を酸化した後、酸化されたカーボンブラックをマグネシウム塩含有溶液または酸化マグネシウム水溶液と混合することによって合成される。撹拌機、超音波ミキサー、またはホモジナイザーによってカーボンブラックとマグネシウム溶液とを激しく混合する。ある特定の時間の後、混合物を濾過する。濾液を乾燥する。次いで、不活性ガス気流下の加熱によって乾燥混合物をか焼して、親油性腐食阻害剤を生成する。
先行する段落で述べたように、カーボンブラックは親油性である。アセチレンブラックは親油性であり、親水性ではないので、非処理のアセチレンブラックとマグネシウム塩水溶液との間の反応性は限られる。マグネシウムをカーボン支持体に取り付けることができる前に、カーボンブラックを酸化剤で事前処理するべきである。酸化剤は粒子表面の酸素の量を増加させ、それにより極性は増大し、カーボン材料をより親水性にさせる。酸化剤の非限定的な例としては、硝酸;過酸化水素などの無機過酸化物;硫酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸;亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸などのハロゲン化合物;次亜塩素酸;クロム酸、ジクロム酸、および三酸化クロムなどの六価クロム化合物;過マンガン酸化合物;過ホウ酸ナトリウム;および亜酸化窒素が挙げられる。
【0019】
溶液中で酸化剤によりカーボン支持体を事前処理した後、200℃〜400℃または250℃〜300℃の温度において、アルゴン、ヘリウム、または窒素などの不活性ガス気流下でそれを乾燥する。「溶液」という用語は非限定的なものであり、極性の、水性の、極性非水性の、および非極性の溶媒を包含し得る。一実施形態では、事前処理したカーボンの乾燥の容易さから、水溶液が利用される。
【0020】
カーボン支持体材料の酸化により、マグネシウム前駆物への十分な親和性が生まれる。カーボンブラック支持体を酸化する一つの方法は、先行する段落で述べたように、酸化剤を用いるか、または粒子を酸化性溶液中に浸すことであるが、カーボンブラック粒子は、酸化雰囲気中で粒子を加熱することによって酸化され得る。酸化雰囲気は、酸素およびアルゴンガスまたは酸素およびヘリウムガスを含み得るが、これら二つの例に限定されない。酸化雰囲気中でカーボンを加熱する時の十分な温度は、120℃〜800℃である。温度は、加熱下での重量減少の測定によって決定される。選択された温度は、カーボンブラックの酸化によって0.1wt%〜10wt%の減少を与えるべきである。最適温度は、熱重量分析(TGA)を使用することによって選択することができる。0.1wt%の減少は重量パーセント中では比較的小さい減少であるが、
図2のTGAグラフは、カーボンブラックは約600℃まで酸素の化学吸着のため重さを増すことを示している。そのような重量増加は、酸素の物理的吸着ではなく化学的吸着によるものであり、これはカーボンブラックが酸化マグネシウムを担持している時には起こらない。
【0021】
腐食阻害剤は、マグネシウム塩前駆物の陰イオン(例えば、硝酸マグネシウムの硝酸イオン(NO
3−))などの非酸化性化学物質を用いて調製され得る、またはそれを用いて事前処理され得る。硝酸イオンは、酸化性試薬として機能し得る。一部の実施形態では、カーボンブラック表面の酸化、および酸化された表面へのマグネシウム化合物のその後の取り付けは、同じ溶液中で起こる。
【0022】
酸化およびマグネシウムの付加の順序または方法は様々であり得る。一例では、カーボンブラックの酸化およびカーボンブラックへのマグネシウムの取り付けは一ステップで起こる。別の例は、最初にカーボンブラックを事前処理(すなわち、酸化および乾燥)した後、事前処理したカーボンブラックを、マグネシウム塩溶液中にまたはマグネシウム前駆物と混合することを伴う。マグネシウム塩溶液は、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、または別のマグネシウム塩などのマグネシウム塩を水などの好適な極性溶媒中に溶解することによって作ることができる。マグネシウム塩溶液を、事前処理したカーボン支持体と混合する。一定時間後、溶液を濾過し、アルゴン、窒素、またはヘリウムなどの不活性ガス気流下で加熱することによって濾液を乾燥する。乾燥温度は、90℃〜200℃、より具体的には110℃〜150℃である。乾燥後、化合物をか焼する。
【0023】
か焼によりマグネシウム前駆物は酸化マグネシウムに変換され、マグネシウムとの結合に消費されなかった表面の酸素は除去される。しかしながら、マグネシウムイオンおよびマグネシウムは各基の極性により酸素基と相互作用できるので、一部の酸素基は残存し得る。カーボンブラック/酸化マグネシウム複合体の親油性の性質を確実なものにするために、カーボンブラック/酸化マグネシウム複合体を不活性ガス下で加熱し、二酸化炭素(CO
2)または一酸化炭素(CO)の形態の過剰な酸素を除去することで、親油性腐食阻害剤を形成する。
【0024】
約350℃の分解温度より高い温度へ加熱することによって、親油性腐食阻害剤をか焼する。か焼温度は、担持されたマグネシウムから少なくとも20重量パーセントの酸化マグネシウムを生じるように選択し、そして一部の実施形態では、担持されたマグネシウムから約100重量%の酸化マグネシウムとなる。担持されたマグネシウムの100%を酸化マグネシウムに変換するためには非常に高い温度が必要とされ、これは例えば、200℃〜900℃、またはさらには300℃〜500℃の温度であるが、一部の実施形態では、温度は500℃〜900℃である。
【0025】
先行する段落で述べた処理は、酸化マグネシウムをカーボン支持体に付着させ、それにより親油性腐食阻害剤を生成する処理を説明する。腐食阻害剤が合成されたら、液体燃料の溶媒またはその他の可燃性燃料に親油性腐食阻害剤を加える。撹拌機、ホモジナイザー、超音波ミキサー、スタティックミキサー(茶の混合など)、または当該技術分野で公知のいずれかの物によって、親油性マグネシウム添加剤を混合することができる。バナジウムを超過する量の親油性腐食阻害剤を燃焼燃料に加える。超過する量は、V
2O
5に対するMgOの重量として2対1またはV
2O
5に対するMgOの重量として3対1から、V
2O
5に対するMgOの重量として5対1もの量であり得る。
【実施例】
【0026】
実施形態がより容易に理解され得るように、本出願において開示し記載した実施形態の実例を示す意図の以下の実施例を参照する。実施例は、決して範囲を限定するものではない。
【0027】
以下の手順でカーボンブラックを事前処理した。アセチレンブラック(Denkaより入手;粒径35nm、表面積68m
2/グラム、および灰含有量0.01重量パーセント)を室温で24時間、硝酸(2規定(N))中に浸した。次いで、カーボンブラックを濾過し、250℃の窒素ガス(N
2)気流で乾燥した。乾燥したカーボンブラックを脱イオン水(0.056マイクロジーメンス/センチメートル(μS/cm)未満の電導度を有する;ASTMの定義によればI型水)に加え、マグネシウム化合物を加える前に少なくとも6時間還流した。水に対する乾燥カーボンの重量比は1対2であった。カーボンと水の混合物(カーボンブラックスラリー(CBS)と呼ぶ)は、98グラムの乾燥カーボンブラックおよび196グラムの脱イオン水を含有していた。
【0028】
水溶液中で0.1モル濃度のマグネシウム濃度となるように硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O)を脱イオン水に溶解することによって、マグネシウム前駆物を調製した。
【0029】
マグネシウム前駆物溶液をCBSに加えた。酸化されて生じる溶液が4重量パーセントの酸化マグネシウムとなるように硝酸マグネシウム溶液の量を調整した。具体的には、1,000ミリリットル(mL)の硝酸マグネシウム六水和物溶液(0.1モルのマグネシウム;4.03グラムのMgO)を294グラムのCBSに加えた(MgO/(カーボンブラック+MgO)は4重量%を生じる)。CBSおよびマグネシウム溶液を激しく混合し、約50重量%の水をゆっくり蒸発させるために90℃に加熱した。次いで、混合物を室温に冷却した。混合物を濾過し、濾過された混合物を少なくとも6時間、N
2気流下150℃で乾燥した。乾燥混合物をN
2気流下で少なくとも6時間450℃でか焼した。
【0030】
か焼した混合物をアルミナボールを有するボールミルに加え、混合物を粉砕することによってストック溶液を調製した。ブレード型撹拌機を24時間使用することによって、粉砕した混合物を40°のAmerican Petroleum Institute(API)比重および55℃の引火点を有するディーゼルと混合して、ストック溶液を形成させた。ディーゼルに対する粉砕した混合物の重量比は1:99であった。
【0031】
数個の試料、例えば10個の試料を取ることで、マグネシウムおよびカーボンブラック支持体の分散を決定した。1グラム程度のストック溶液をトルエンに溶解した。トルエン溶液の濾過後、濾液を乾燥させ、重さを量って各試料中でマグネシウムを担持したカーボンブラックの量を決定した。各試料由来の濾液の重さの違いは、ストック溶液中でプラスまたはマイナス10%だけ変動し、よって親油性腐食阻害剤は均等に分散したことを指し示した。
【0032】
親油性腐食阻害剤が合成されたら、それを燃焼燃料に加えた。ストック溶液を液体燃料に加え、具体的には、燃料は31°のAPI比重および33重量パーツ・パー・ミリオン(ppm)のバナジウム含有量を有するArab Mediumの原油であった。液体燃料を水で事前に洗浄して、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除去した。V
2O
5に対するMgOの重量として3対1の超過となるように、液体燃料に対するストック溶液の量を調製した。
【0033】
上述の通り液体燃料へストック溶液調製物を加えることで、バナジウムの腐食効果を大きく低減した。
【0034】
図1は、3つの試料のうちの1つにおいて酸化バナジウムの存在を示すX線回折スペクトルである。酸化バナジウム(0.3134グラム、粉末、Sigma−Aldrich、<98%)と酸化マグネシウム(1.2114グラム、粉末、Fisher−Scientific、A.C.S.グレード)とを合わせることによって試料1および試料2を調製した。MgO/V
2O
5の比は3.8wt/wtであった。粉末を乳鉢および乳棒により30分間混合し、一つの色とした。試料1については混合粉末を650℃でか焼し、試料2については混合粉末を750℃でか焼した。試料3は担持したカーボンブラックであり、酸化バナジウムと組み合わさってカーボンブラック支持体上に酸化マグネシウムがあった。試料は、40mLの精製水をカーボンブラック(10.16グラム、アセチレンブラック、99.9+%、Alfa Aesar)および硝酸マグネシウム六水和物(2.822グラム、[Mg(NO
3)
2・6H
2O]、Sigma−Aldrich、A.C.S.グレード)と混合することによって調製した。本実施例では、硝酸マグネシウムの硝酸イオンは酸化性試薬として機能した。この組合せによってペーストが作られ、それを1時間混合した。水が見られなくなるまで約4時間ガラス棒を用いて混合しながら90℃の空気下でペーストを乾燥させた。乾燥試料を空気中で24時間105℃のオーブン内に置き、各試料の脱水を確実なものとした。乾燥試料をN
2気流下で6時間350℃でか焼した。か焼した試料(2.87グラム)を乳鉢および乳棒によって30分間酸化バナジウム(.04グラム)と混合した。MgO/V
2O
5の比は3.1wt/wtであった。混合試料を空気中で2時間650℃でか焼した。か焼処理後に全3つの試料を乳鉢および乳棒によって30分間すりつぶした後、試験を行った。
【0035】
図1を参照すると、このスペクトルにより、カーボンブラックに支持された酸化マグネシウム(試料3)は、支持されない酸化マグネシウム添加剤(MV−PM−2−650)よりも良好なV
2O
5に対する固体状態反応活性を有することが実証された。そのような強化された固体状態反応活性は、カーボンブラックの局所的燃焼の間の過度の熱供給に起因する。星印が指し示すようなV
2O
5シグナルの喪失により実証されるように、か焼温度の上昇は、酸化マグネシウムおよび酸化バナジウムの固体状態反応性を増加させた。このスペクトルにより、カーボンブラックに支持されたマグネシウムは650℃でのV
2O
5シグナルを除去できるが、支持されていないマグネシウムを用いて650℃で試験した場合にはV
2O
5シグナルが残ることも実証された。
【0036】
図2の熱重量(themogravimetric)分析(TGA)により、マグネシウムを担持したカーボンブラック(実線)はカーボンブラックよりはるかに低い温度で重量が減少することも示された。理論により縛られるものではないが、重量の減少は、バナジウムと反応するカーボンブラック上の酸化マグネシウムに起因する可能性が最も高いと考えられる。そのような金属がない場合、カーボンブラックは、600〜700℃より低い温度で燃焼することはより難しい。マグネシウムおよびバナジウムなどの金属は、カーボンブラックの燃焼速度を増加させるのであろう。カーボンブラックの燃焼は、局所化された区画において余分な熱を生成する可能性が最も高く、それがマグネシウム−バナジウム混合酸化物の形成を助けている可能性がある。マグネシウムおよびバナジウムは混合の金属酸化物を形成したので、マグネシウムはもはやカーボンブラックに取り付けられておらず、それによりカーボンブラックの重量が減少する。対照的に、より高い発火温度を必要とするカーボンブラック(点線で表す)は、より低い温度において一定の重量を保持した。さらに、TGAデータにより、カーボンブラックは、より低い温度で燃焼されるので、燃焼温度(1000℃より高い)においてマグネシウムがバナジウムと反応することの障害とならなかったことが示される。
【0037】
別様の定義をしない限り、使用する全ての科学技術用語は、請求項の主題が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。この記載において使用する学術用語は、特定の実施形態を説明するために過ぎず、限定することを意図するものではない。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確にそうでないと示さない限り、複数形も包含することを意図する。
【0038】
「好ましくは」、「一般に」、および「通常」といったような用語は、添付の請求項の範囲を限定するために利用したものではなく、また、ある特定の特徴が、請求項の主題の機能にとって決定的に重要な、本質的な、またはさらには重要であることを暗示するために利用したものではないことを付記する。むしろ、これらの用語は、具体的な実施形態において利用されてもよいし、または利用されなくてもよい代替的または追加的な特徴を強調することを単に意図する。
【0039】
「実質的に」および「約」という用語は、任意の定量的な比較、値、測定、またはその他の表現に帰せられ得る本来備わっている程度の不確実性を表すために利用され得ることを付記する。これらの用語はまた、問題とする主題の基本的な機能に変化を生じさせることなく、述べた基準から定量的な表現が異なり得る程度を表すためにも利用され得る。
【0040】
実施形態の主題の精神および範囲から離れることなく、記載した実施形態に様々な改良および変更が為され得ることは当業者に明らかであろう。よって、様々な記載した実施形態の改良および変更が添付の実施形態の範囲内およびそれらの均等の範囲内にある限り、本明細書はそのような改良および変更を包含することを意図する。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
ガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法であって、
燃焼燃料中に、カーボンブラック支持体粒子、および前記カーボンブラック支持体粒子に取り付けられたマグネシウムを含む親油性腐食阻害剤を加えるステップを含み、
前記カーボンブラック支持体粒子が、40nm未満の粒径、1重量%未満の酸素含有量、および少なくとも50m2/グラムの表面積を含む、方法。
実施形態2
前記マグネシウムが酸化マグネシウムである、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態3
前記マグネシウムが0.05〜20重量パーセントの酸化マグネシウムを含む、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態4
前記燃焼燃料が液体油を含む、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態5
前記カーボンブラックがアセチレンブラックである、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態6
前記カーボンブラック支持体の前記粒径が20nm未満である、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態7
前記カーボンブラック支持体粒子の前記酸素含有量が1.0重量パーセント未満である、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態8
前記カーボンブラック支持体粒子の灰含有量が0.5重量パーセント未満である、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態9
前記親油性支持体と前記腐食阻害剤とを混合することをさらに含む、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態10
前記親油性腐食阻害剤を液体燃料の溶媒と混合することをさらに含む、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態11
前記カーボンブラック支持体粒子の前記表面積が50m2/グラムから100m2/グラムである、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態12
前記親油性腐食阻害剤が、酸化マグネシウムの前記量が前記バナジウムを超過するような量で加えられる、実施形態1に記載のガスタービンにおけるバナジウム腐食を低減する方法。
実施形態13
前記バナジウム腐食阻害剤を製造する方法であって、
カーボンブラック粒子を酸化するステップと、
前記酸化されたカーボンブラックをマグネシウム塩溶液と混合するステップと、
前記混合物を乾燥して、酸化されたカーボンブラックとマグネシウム塩との乾燥混合物を生じさせるステップと、
前記乾燥混合物をか焼して、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性ガス気流下で前記バナジウム腐食阻害剤を生成するステップと、
を含み、
前記バナジウム腐食阻害剤が、前記カーボンブラック支持体粒子に取り付けられた酸化マグネシウムを含み、前記カーボンブラック支持体粒子が、40nm未満の粒径、1重量パーセント未満の酸素含有量、0.5重量パーセント未満の灰含有量、および50m2/グラムより大きい表面積を含む、方法。
実施形態14
前記カーボンブラック支持体粒子の酸化が酸化雰囲気中での加熱を伴う、実施形態13に記載のバナジウム腐食阻害剤を製造する方法。
実施形態15
前記カーボンブラック支持体粒子の酸化が酸化性溶液中に前記カーボンブラック支持体粒子を浸すことを伴う、実施形態13に記載のバナジウム腐食阻害剤を製造する方法。
実施形態16
前記マグネシウム塩溶液が、水、および、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム六水和物、または硫酸マグネシウムから選択されるマグネシウム塩を含む、実施形態13に記載のバナジウム腐食阻害剤を製造する方法。
実施形態17
親油性カーボンブラック支持体粒子および前記カーボン支持体粒子に結合したマグネシウムを含む親油性腐食阻害剤であって、
前記カーボンブラック支持体粒子が、40nm未満の粒径、1重量パーセント未満の酸素含有量、0.5重量パーセント未満の灰含有量、および少なくとも50m2/グラムの表面積を含み、かつ、
前記マグネシウムが、酸化マグネシウム、元素状マグネシウム、またはこれらの組合せを含み、前記マグネシウムが、少なくとも20重量パーセントの酸化マグネシウムを含む、親油性腐食阻害剤。
実施形態18
0.05〜20重量パーセントの酸化マグネシウムを含む、実施形態17に記載の親油性腐食阻害剤。