(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906581
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/02 20060101AFI20210708BHJP
F16D 43/26 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
F16D43/02
F16D43/26 D
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-189707(P2019-189707)
(22)【出願日】2019年10月16日
(65)【公開番号】特開2021-63576(P2021-63576A)
(43)【公開日】2021年4月22日
【審査請求日】2020年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】飯田 輝信
【審査官】
古▲瀬▼ 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−2046(JP,A)
【文献】
特開2013−108567(JP,A)
【文献】
特開2011−174543(JP,A)
【文献】
特開2019−173913(JP,A)
【文献】
特許第6524291(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の中心軸の回りに回転する入力部材及び出力部材を具備し、
前記入力部材及び前記出力部材は軸方向に間隔をおいて配置され、前記入力部材と前記出力部材との間には、中間板と、前記中間板に抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段と、一対のリンク部材とが設けられており、
前記入力部材には軸方向に延びる一対の枢軸が周方向に間隔をおいて設けられ、
前記出力部材は周方向に延在する係合壁を備え、前記係合壁には径方向内側に向かって開口する凹部が形成されており、前記凹部は周方向に対向する一対の係合面を有し、
前記中間板には軸方向に貫通して径方向に延びる一対のガイド溝が形成され、
前記一対のリンク部材の各々は、前記一対の枢軸の各々によって回動自在に支持されるリンク本体と、前記リンク本体に固着された係合軸とを備え、前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸は前記一対のガイド溝の一方に、前記一対のリンク部材の他方の前記係合軸は前記一対のガイド溝の他方に夫々挿入され、前記係合軸は前記ガイド溝内を移動して前記出力部材に形成された前記一対の係合面と係合可能であり、
前記入力部材が回転すると、前記入力部材の回転方向に応じて、前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸が前記ガイド溝内を径方向外側に移動して前記一対の係合面の一方と係合し、前記出力部材は前記入力部材と一体となって回転し、
前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸が前記一対の係合面の一方と係合した状態において、前記出力部材が周方向に対向する前記一対の係合面の他方から一方に向かう方向に回転すると、前記一対の係合面の他方が前記一対の係合面の一方と係合していた前記係合軸を径方向内側に強制して前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸と前記一対の係合面の一方との係合は解除され、前記出力部材は前記入力部材に対し回転可能となる、ことを特徴とする逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
周方向に対向する前記一対の係合面の各々は径方向外側に向かって周方向に相互に接近する方向に傾斜する、請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記係合壁は一対の係合壁部から構成され、前記一対の係合壁部の各々は円弧状であって直径方向に対向して配置され、前記一対の係合壁部の各々の周方向両端面に前記一対の係合面の各々が規定されている、請求項1又は2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項4】
前記係合軸が前記ガイド溝の径方向外側端に到達すると前記一対の係合面のいずれかと係合可能となる、請求項1乃至3のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項5】
前記一対のガイド溝の各々は、前記中間板の径方向外側から内側に向かって相互に周方向反対側に傾斜して延びている、請求項1乃至4のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項6】
前記入力部材、前記出力部材、前記中間板、前記抵抗トルク付与手段、及び前記一対のリンク部材の各々は何れも固定のハウジングに収納されている、請求項1乃至5のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項7】
前記抵抗トルク付与手段は、前記ハウジングとの間の摩擦によって前記中間板に抵抗トルクを付与する波ばねである、請求項6に記載の逆入力遮断クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆入力遮断クラッチ、特に、入力部材から出力部材への回転は伝達されるが、所要操作がされた後にあっては、出力部材から入力部材への回転は出力部材が空転して伝達されない逆入力遮断クラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物や家屋の扉に配設されて進退可能なデッドボルトを電気的に駆動させて施錠或いは開錠する電子錠(電気錠)が知られている。電子錠は遠隔からデッドボルトを操作することができ、セキュリティ等の観点から今後ますますの需要が予想される。かような電子錠の一例としては下記特許文献1に示すものがある。電子錠は、デッドボルトを進退させるデッドカム(通称「ダルマ」)を含むデッドボルト制御機構を含んでいる。デッドボルト制御機構は適宜の減速ギア列を介して電動モーターに連結されると共にサムターン或いはシリンダ錠にも連結され、これによって電子錠は電動モーターと、サムターン或いはシリンダ錠とのいずれであっても操作可能となっている。
【0003】
上述したような電子錠にあっては、デッドボルト制御機構を電動モーター及びシリンダ錠(サムターン)の両方に常時接続しておくと、一方が他方の動作を妨害することとなり、電子錠が作動しない。それ故に、デッドボルト制御機構は、駆動側である電動モーターからの回転は従動側であるデッドカムに伝達する一方、シリンダ錠(サムターン)による従動側のデッドカムの回転は駆動側の電動モーターに伝達しないようにするための逆入力遮断クラッチを含んでいる。
【0004】
逆入力遮断クラッチは、電動モーターの出力シャフト(駆動側)に接続される入力部材、デッドカム(従動側)に接続される出力部材、及び入力部材と出力部材とを解除自在に接続する接続手段を具備する。このような逆入力遮断クラッチを備えた電子錠にあっては、電動モーターが作動したときのみ入力部材と出力部材とが接続されて入力部材から出力部材へ回転が伝達され、電動モーターの作動が停止すると上記接続は解除され、出力部材から入力部材への回転は出力部材が空転して伝達されないようにする。そのため、電動モーターによって入力部材が回転する際には、入力部材の一方向への回転が完了した後又は入力部材の一方向への回転中に出力部材を逆入力遮断クラッチの外部に配設されたばねの如き付勢手段によって入力部材に対して一方向に更に回転(出力部材を入力部材に対して追い越し回転)させることで、入力部材の回転駆動が終了した状態において上記接続は解除されるようにする。かような逆入力遮断クラッチとして、下記特許文献1にはローラータイプのものが開示されている。
【0005】
特許文献1に開示された逆入力遮断クラッチは、軸状の入力部材と、筒状の出力部材とを具備している。入力部材は出力部材の内側に配置されており、入力部材と出力部材との間にはローラー部材が介在している。そして、入力部材が回転すると、ローラー部材が出力部材と入力部材との間で噛み合いを生じ、出力部材が入力部材と一体となって回転する。一方、入力部材の回転が完了した後又は入力部材の回転中に出力部材を入力部材に対して入力部材の回転方向と同一方向に回転させる(出力部材を入力部材に対して追い越し回転させる)ことによってローラー部材の上記噛み合いは解除され、出力部材は入力部材に対して回転可能となり、出力部材から入力部材への逆入力が遮断されることとなる。
【0006】
ところで、上述したような逆入力遮断クラッチには、リンク機構を利用したものもある。リンク機構を利用した逆入力遮断クラッチの一例としては、本願の出願人によって本願より先に出願された下記特許文献2に記載のものが存在する。これについて
図11を参照して説明する。
図11に示す逆入力遮断クラッチは、共通の中心軸oの回りに回転する入力部材I及び出力部材Oを備えている。入力部材Iは略円柱形状であると共に出力部材Oは筒形状であり、入力部材Iは出力部材Oの内側にこれと相対回転可能に挿入されている。出力部材Oの断面の外周には、周方向に等角度間隔をおいて配置された複数個の円弧面S1が規定されている。複数個の円弧面S1の夫々は共通の円周の一部をなすと共にその周方向長さは同一であって、周方向に隣接する2つの円弧面S1の間には夫々直線状のカム面S2が設けられている。出力部材Oは円筒形状のリテーナRの内側にこれと相対回転可能に挿入されており、リテーナRと出力部材Oと入力部材Iとはリンク部材Lによって接続される。リンク部材Lは径方向に延びるリンク本体Lmと、リンク本体Lmの径方向両端部において軸方向に延びる枢軸La及び係合軸Lbとを備えたコの字形状である。入力部材Iの外周面及びリテーナRの内周面には夫々軸方向に延びる溝が形成されており、リンク部材Lは、枢軸Laが入力部材Iの外周面に形成された溝に、係合軸LbがリテーナRの内周面に形成された溝に夫々挿入されて、リンク本体LMが出力部材Oの内周面と外周面とを跨いだ状態で、リテーナRと出力部材Oと入力部材Iと組み合わされる。
【0007】
そして、入力部材Iが回転すると、
図11(b)に示すとおり、リンク部材Lは、入力部材Iの外周面に形成された溝に挿入された枢軸Laが入力部材Iと一体的に移動するのに対し、リテーナRの内周面に形成された溝に挿入された係合軸Lbは、リテーナRの抵抗力や慣性等により移動が遅延するため、リンク部材Lが入力部材Iと相対的に回動して、その連結部(つまりリンク本体Lm)が半径方向に対し傾斜することとなる。そのため、係合軸Lbの回転軸からの径方向の距離が縮小し、リンク部材Lの係合軸Lbは、出力部材Oの外周面に設けられたカム面S2に当接する。入力部材Iがさらに回転すると、入力部材Iは、リンク部材Lにより出力部材Oを連れ回すように回転させ、入力部材Iの回転トルクがリンク部材Lを介して出力部材Oに伝達される。一方、入力部材Iの回転が完了した後又は入力部材Iの回転中に出力部材Oを入力部材Iに対して入力部材Iの回転方向と同一方向に回転させる(出力部材Oを入力部材Iに対して追い越し回転させる)ことによって、係合軸Lbは出力部材Oの外周面に形成された円弧面S1とカム面S2との境界S3に押されてリンク本体Lmは径方向に対して幾分起立し、係合軸Lbの回転軸からの径方向の距離が増大する。これによって、出力部材Oは入力部材Iに対して回転可能となり、出力部材Oから入力部材Iへの回転、つまり逆入力が遮断されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−183751号公報
【特許文献2】特許第6524291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1で開示された逆入力遮断クラッチにあっては、逆入力が遮断された状態、つまり出力部材が入力部材に対して回転する際には、ローラー部材は入力部材と出力部材との間で転動するため、かかる転動抵抗に起因して出力部材の回転が重くなる。また、上記特許文献1で開示された逆入力遮断クラッチは部品点数が多く構造も複雑であり、更にローラー部材を所要とおりに組み合わせるのは煩雑であることから多大な製造コストを要する。
【0010】
一方、上記特許文献2で開示された逆入力遮断クラッチにあっては、部品点数も少なく比較的簡単な構造であるため製造コストは低く、更に、リンク機構を利用したことで出力部材が入力部材に対して回転する際には何らの部材も従動しないため出力部材の回転が重くなることはないが、以下のとおりの解決すべき課題がある。即ち、上述したとおり、入力部材Iの回転が完了した後又は入力部材Iの回転中に出力部材Oを入力部材Iに対して入力部材Iの回転方向と同一方向に回転させることでリンク本体Lmは径方向に対して幾分起立して、出力部材Oは入力部材Iに対して回転可能な状態となるが、かかる状態にあっては係合軸Lbの外周面は出力部材Oのカム面S2の軌道の外周縁と接しているため、振動等の僅かな外力によってリンク本体Lmが半径方向に対して再び傾斜してしまうこととなる。このとき、
図11(c)に示すとおり、リンク本体Lmが半径方向に対して傾斜して係合軸Lbがカム面S2と当接した状態で出力部材Oが所定方向(
図11(c)に示す状態にあっては、出力部材Oが同図において反時計方向)に回転すると、境界S3が係合軸Lbを径方向外方に強制しようとすることでリンク部材Lが突っ張ってリンク部材L及びリテーナRと共に入力部材Iが回転してしまう、つまり出力部材からの逆入力が入力部材に伝達されてしまう虞がある。
【0011】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、部品点数が少なくて構造が簡単であるにも拘らず、出力部材から入力部材への回転の伝達をより一層確実に遮断することができる、新規且つ改良された逆入力遮断クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、入力部材に設けられた一対の枢軸によって一対のリンク部材を回転自在に支持して、一対のリンク部材の各々に設けられた係合軸が中間板に形成された径方向に延びる一対のガイド溝の各々に挿入されるようにし、係合軸がガイド溝内を径方向外側に移動して出力部材に形成された係合面と係合することで入力部材から出力部材に回転が伝達され、係合面と係合した係合軸がガイド溝内を径方向内側に移動して上記係合が解除されることで出力部材から入力部材への回転は出力部材が入力部材に対し回転して遮断されるようにすることで、上記主たる技術的課題を解決できることを見出した。
【0013】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成する逆入力遮断装置として、共通の中心軸の回りに回転する入力部材及び出力部材を具備し、
前記入力部材及び前記出力部材は軸方向に間隔をおいて配置され、前記入力部材と前記出力部材との間には、中間板と、前記中間板に抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段と、一対のリンク部材とが設けられており、
前記入力部材には軸方向に延びる一対の枢軸が周方向に間隔をおいて設けられ、
前記出力部材は周方向に延在する係合壁を備え、前記係合壁には径方向内側に向かって開口する凹部が形成されており、前記凹部は周方向に対向する一対の係合面を有し、
前記中間板には軸方向に貫通して径方向に延びる一対のガイド溝が形成され、
前記一対のリンク部材の各々は、前記一対の枢軸の各々によって回動自在に支持されるリンク本体と、前記リンク本体に固着された係合軸とを備え、前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸は前記一対のガイド溝の一方に、前記一対のリンク部材の他方の前記係合軸は前記一対のガイド溝の他方に夫々挿入され、前記係合軸は前記ガイド溝内を移動して前記出力部材に形成された前記一対の係合面と係合可能であり、
前記入力部材が回転すると、前記入力部材の回転方向に応じて、前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸が前記ガイド溝内を径方向外側に移動して前記一対の係合面の一方と係合し、前記出力部材は前記入力部材と一体となって回転し、
前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸が前記一対の係合面の一方と係合した状態において、前記出力部材が周方向に対向する前記一対の係合面の他方から一方に向かう方向に回転すると、前記一対の係合面の他方が前記一対の係合面の一方と係合していた前記係合軸を径方向内側に強制して前記一対のリンク部材の一方の前記係合軸と前記一対の係合面の一方との係合は解除され、前記出力部材は前記入力部材に対し回転可能となる、ことを特徴とする逆入力遮断クラッチが提供される。
【0014】
好ましくは、周方向に対向する前記一対の係合面の各々は径方向外側に向かって周方向に相互に接近する方向に傾斜する。前記係合壁は一対の係合壁部から構成され、前記一対の係合壁部の各々は円弧状であって直径方向に対向して配置され、前記一対の係合壁部の各々の周方向両端面に前記一対の係合面の各々が規定されているのが好適である。前記係合軸が前記ガイド溝の径方向外側端に到達すると前記一対の係合面のいずれかと係合可能となるのがよい。好適には、前記一対のガイド溝の各々は、前記中間板の径方向外側から内側に向かって相互に周方向反対側に傾斜して延びている。前記入力部材、前記出力部材、前記中間板、前記抵抗トルク付与手段、及び前記一対のリンク部材の各々は何れも固定のハウジングに収納されているのが好ましい。この場合には、前記抵抗トルク付与手段は、前記ハウジングとの間の摩擦によって前記中間板に抵抗トルクを付与する波ばねであるのが良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の逆入力遮断クラッチにあっては、入力部材に設けられた一対の枢軸によって一対のリンク部材が回転自在に支持され、一対のリンク部材の各々に設けられた係合軸は中間板に形成された径方向に延びる一対のガイド溝の各々に挿入されている。そして、係合軸がガイド溝内を径方向外側に移動して出力部材に形成された係合面と係合することで入力部材から出力部材への回転は伝達される一方、係合面と係合した係合軸がガイド溝内を径方向内側に移動して上記係合が解除されることで出力部材から入力部材への回転は出力部材が入力部材に対し回転して遮断されるようになる。そのため、出力部材が入力部材に対し回転する際に、係合軸が振動等によってガイド溝内を径方向外側に移動しても、係合軸が係合面と係合する位置に到達しない限り、係合軸は係合面と当接してもかかる当接によってガイド溝内を径方向内側に強制させられるだけで係合面と係合することはなく、それ故に、部品点数が少なくて構造が簡単であるにも拘らず、出力部材から入力部材への回転の伝達をより一層確実に遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの好適実施形態を示す構成図。
【
図2】
図1に示す逆入力遮断クラッチの各構成部品を分解して示す斜視図。
【
図3】
図1に示す逆入力遮断クラッチの入力部材を単体で示す図。
【
図4】
図1に示す逆入力遮断クラッチの出力部材を単体で示す図。
【
図5】
図1に示す逆入力遮断クラッチの中間板を単体で示す図。
【
図6】
図1に示す逆入力遮断クラッチのリンク部材を単体で示す図。
【
図7】
図1に示す逆入力遮断クラッチのハウジングを単体で示す図。
【
図8】
図1に示す逆入力遮断クラッチの作動を説明するための図。
【
図9】本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの変形例を示す構成図。
【
図10】
図9に示す逆入力遮断クラッチの各構成部品を分解して示す斜視図。
【
図11】従来の逆入力遮断クラッチの一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0018】
図1及び
図2を参照して説明すると、本発明に従って構成された、全体を番号2で示す逆入力遮断クラッチは、共通の中心軸oの回りに回転する入力部材4及び出力部材6を具備している。
【0019】
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明すると、入力部材4は合成樹脂製であって、軸方向に延びる入力軸部8と入力軸部8の先端に固着された入力端板10とを具備している。入力軸部8の外周面には直径方向に対向する一対の平坦面12が形成されており、かかる平坦面12を介して入力軸部8は電動モーターの如き適宜の駆動源に接続される。入力端板10は円板形状であってその中心は入力軸部8の軸と整合している(中心軸oとも整合している)。入力端板10における、入力軸部8が固着された面とは反対側の面には、軸方向に延びる一対の枢軸14a及び14bが周方向に間隔をおいて設けられている。図示の実施形態においては、一対の枢軸14a及び14bは中心軸oを中心とした共通の円周上に周方向に略80度の周方向間隔をおいて入力端板10に固着されている。一対の枢軸14a及び14bの各々には後述するリンク部材の軸穴が挿通せしめられる。入力部材4には更に、その全体を軸方向に貫通する貫通穴16が中心軸oと同軸上に設けられている。
【0020】
図1及び
図2と共に
図4を参照して説明すると、出力部材6は合成樹脂製であって、軸方向に延びる出力軸部18と出力軸部18の先端に固着された出力端板20とを具備している。出力軸部18の外周面には直径方向に対向する一対の平坦面22が形成されており、かかる平坦面22を介して出力軸部18はデッドカムの如き従動部材に接続される。出力端板20は円板形状であってその中心は出力軸部18と整合している(中心軸oとも整合している)。出力端板20における、出力軸部18が固着された面とは反対側の面には周方向に延在する係合壁24が設けられている。そして、係合壁24には径方向内側に向かって開口する凹部26が形成されており、凹部26は周方向に対向する一対の係合面28x及び28yを有している。図示の実施形態においては、係合壁24は一対の係合壁部30a及び30bから構成されている。一対の係合壁部30a及び30bの各々は円弧状であって出力端板20の外周縁に沿って相互に直径方向に対向して配置されている。一対の係合壁部30a及び30bの周方向両端面は夫々周方向に間隔をおいて相互に対向し、周方向において相互に対向する一対の係合壁30a及び30bの周方向両端面の間に凹部26は画成される。従って、図示の実施形態においては、凹部26は直径方向に対向して2つ設けられており、2つの凹部26は何れも径方向内側に向かって開口すると共に径方向外側にも開口している。2つの凹部26の周方向幅は共に等しく、後述する係合軸の外径と対応している。図示の実施形態においては、一対の係合面28x及び28yは、一対の係合壁部30a及び30bの各々の周方向両端面によって構成されている。そして、周方向に対向する一対の係合面28x及び28yの各々は径方向外側に向かって周方向に相互に接近する方向に傾斜している。出力部材6には更に、その全体を軸方向に貫通する貫通穴32が中心軸oと同軸上に設けられている。所望ならば、係合壁24を3個以上の係合壁部から構成されるようにして、上記凹部を3つ以上設けるようにしてもよい。また、係合壁24を単一の円筒壁として、かかる円筒壁の内周面に径方向内側に向かって開口する凹部を形成するようにしてもよい。換言すれば、凹部は径方向外方には開放されていなくてもよい。
【0021】
図1及び
図2に示されるとおり、入力部材4及び出力部材6は軸方向に間隔をおいて相互に対向して配置され、入力部材4と出力部材6との間には、中間板34と、この中間板34に抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段36と、一対のリンク部材38a及び38bとが設けられている。
【0022】
図1及び
図2と共に
図5を参照して説明を続けると、中間板34は合成樹脂製の円形薄板であって、これには軸方向に貫通して径方向に延びる一対のガイド溝40a及び40bが形成されている。図示の実施形態においては、一対のガイド溝40a及び40bの各々は、中間板34の径方向外側から内側に向かって相互に周方向反対側に傾斜して延びる長円形であって、各々の径方向外側端部は中心軸oを挟んで相互に直径方向反対側に位置している。本実施形態においては、一対のガイド溝40a及び40bの各々は径方向に対し25度傾斜している。一対のガイド溝40a及び40bの各々の径方向外側端部の位置については後に言及する。中間板34には更に、軸方向に貫通する貫通穴42が中心軸oと同軸上に設けられている。図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段36は金属製のウェーブワッシャーであって、後述する固定のハウジングとの摩擦によって中間板34に抵抗トルクを付与している。
【0023】
図1及び
図2と共に
図6を参照して説明を続けると、一対のリンク部材38a及び38bの各々は合成樹脂製であって、一対の枢軸14a及び14bの各々によって回動自在に支持されるリンク本体44と、リンク本体44に固着された係合軸46とを備えている。図示の実施形態においては、リンク本体44は長手方向の一方から他方に向かって幅が漸次低減する板片であって、長手方向両端部は相互に対向した円弧形状にせしめられている。リンク本体44における、上記幅の広い長手方向片端部には軸方向に貫通して一対の枢軸14a及び14bのいずれかが挿通される軸穴48が形成され、上記幅の狭い長手方向他端部には係合軸46が配置されている。係合軸46の断面形状は円形である。リンク部材38aの係合軸46は中間板34のガイド溝40aを貫通して先端部が出力部材6の係合壁24の内側に配置され、ガイド溝40a内を径方向に移動して出力部材6に形成された一対の係合面28x及び28yと係合可能となる。同様に、リンク部材38bの係合軸46は中間板34のガイド溝40bを貫通して先端部が出力部材6の係合壁24の内側に配置され、ガイド溝40b内を径方向に移動して出力部材6に形成された一対の係合面28x及び28yと係合可能となる。図示の実施形態にあっては、係合軸46はガイド溝(40a又は40b)の径方向外側端に到達することで、一対の係合面28x及び28yと係合可能となる。
図1の断面B−Bにおいては容易に理解できるように、係合壁24(一対の係合壁部30a及び30b)には薄墨を付して示している。
【0024】
図示の実施形態においては、入力部材4、出力部材6、中間板34、抵抗トルク付与手段36、及び一対のリンク部材38a及び38bの各々は何れも固定のハウジング50に収納されている。
図1及び
図2と共に
図7を参照して説明すると、ハウジング50は、
図7(a)に示すハウジング本体52と、
図7(b)に示すシールド体54とを具備している。
【0025】
図1及び
図2と共に
図7を参照して説明すると、ハウジング本体52は合成樹脂製であって、正方形の夫々の角部が切り欠かれた端板56と、端板56の外周縁から軸方向に延びる筒状の側壁58と、側壁58の先端に設けられたフランジ60とを具備している。端板56の中央には軸方向に貫通する貫通穴62が形成されており、この貫通穴62には出力部材6の出力軸部18が挿通される。側壁58の内側には、比較的小径の円柱形状である片側空間部64と、比較的大径の円柱形状である他側空間部66とが設けられている。両空間部は軸方向に隣接すると共に中心軸oと同軸上に配置されており、軸方向に見て両空間部の境界と対応する位置の側壁58には軸方向に対して実質上垂直な円環形状肩面68が形成されている。
図1のA−A断面を参照することによって理解されるとおり、ハウジング本体52の内側において抵抗トルク付与手段36は肩面68と対向して配置され、抵抗トルク付与手段36は肩面68におけるハウジング本体52との摩擦によって中間板34に抵抗トルクを付与することとなる。フランジ60は正方形であってその夫々の角部にはシールド体54に固定される際に使用される貫通穴70が形成されている。
【0026】
シールド体54は合成樹脂製であって、ハウジング本体52のフランジ60と対応する正方形の端板72を具備している。端板72の中央には軸方向に貫通する貫通穴74が形成されており、この貫通穴74には入力部材4の入力軸部8が挿通される。端板72の角部には夫々、ハウジング本体52に固定される際に使用される貫通穴76が形成されている。シールド体54には更に、端板72から軸方向に延びる円筒壁78が中心軸oと同軸上に設けられている。
図1のA−A断面を参照することによって理解されるとおり、円筒壁78の延出端面はハウジング本体52の内側において中間板34を軸方向に押圧し、これによって中間板34は抵抗トルク付与手段36から適切な抵抗トルクを得ることができる。
【0027】
続いて、
図1に示す逆入力遮断クラッチ2の作動について
図1と共に
図8を参照して説明する。
図1に示す状態にあっては、一対のリンク部材38a及び38bのいずれの係合軸46も一対の係合面28x及び28yと係合しておらず、かかる状態で出力部材6が回転しても出力部材6の回転が入力部材4に伝達されることはない。
図1に示す状態において、入力部材4が同図のA−A断面の右側から見て時計方向に回転すると、同図のB−B断面において入力端板10は時計方向に回転する。このとき、入力端板10に固着された一対の枢軸14a及び14bは共に中間板34に形成された一対のガイド溝40a及び40bに挿通されていることに起因し、入力端板10が時計方向に回転することで一対の枢軸14a及び14bを介して中間板34にも時計方向への回転トルクが伝達されることとなるが、中間板34には抵抗トルク付与手段36によって抵抗トルクが付与されているため、中間板34は時計方向に回転しない。そのため、
図8(a)に示すとおり、リンク部材38aにあっては、リンク本体44が枢軸14aを中心に反時計方向に回転しつつ係合軸46がガイド溝40a内を径方向外側に移動して出力部材6に設けられた係合壁24の係合面28yと当接する(
図1のB−B断面と
図8(a)のB−B断面とを比較参照されたい)。この際、本実施形態においては、係合軸46は凹部26に嵌入して係合面28yだけでなく係合面28xとも当接する。一方、リンク部材38bにあっては、リンク本体44が枢軸14bを中心に時計方向に回転しつつ係合軸46がガイド溝40b内を径方向内側に移動して一対の係合面28x及び28yのいずれからも離隔する。このとき、図示の実施形態においては、一対のガイド溝40a及び40bの各々は、中間板34の径方向外側から内側に向かって相互に周方向反対側に傾斜して延びていることに起因して、一対のリンク部材38a及び38bに固着された係合軸46は何れも夫々のガイド溝内で容易に移動することができる。リンク部材38aの係合軸46が係合面28y当接した状態から更に入力部材4が時計方向に回転すると、係合軸46と係合面28yとの係合によって、入力部材4及び出力部材6は中間板34、抵抗トルク付与手段36、及び一対のリンク部材38a及び38bと一体となって回転する。つまり、入力部材4の回転は出力部材6へ伝達される。
【0028】
入力部材4の時計方向への回転が終了した後又は入力部材4の回転中に出力部材6が入力部材4に対して時計方向に回転すると、
図8(a)右図において出力部材6の係合壁24が時計方向に回転することで、
図8(b)右図に示すとおり、係合壁部30aの係合面28xが、係合壁部30bの係合面28yと係合していた係合軸46を径方向内側に強制し、係合軸46と係合面28yとの係合が解除される(
図8(a)のB−B断面と
図8(b)のB−B断面とを比較参照されたい)。このとき、リンク部材38aは枢軸14aを中心に時計方向に幾分回転して、係合軸46がガイド溝40a内を径方向内側に移動する。図示の実施形態においては、周方向に対向する一対の係合面28x及び28yの各々は径方向外側に向かって周方向に相互に接近する方向に傾斜しているため、係合壁部30aの係合面28xは、係合壁部30bの係合面28yと係合する係合軸46を径方向内側に容易に強制させることができる。所望ならば、入力部材4の時計方向への回転が終了した後に、入力部材4を反時計方向に所要量だけ戻し回転し、係合壁部30aの係合面28yと係合していた係合軸46を径方向内側に移動させて、係合軸46と係合面28yとの係合が解除されるようにすることもできる。上記係合が解除された状態、つまり
図8(b)に示された状態においては、出力部材6が回転しても出力部材6の回転が入力部材4へ伝達されることはなく、出力部材6から入力部材4への逆入力は遮断される。
【0029】
上述した場合とは逆に、入力部材4が
図1のA−A断面の右側から見て反時計方向に回転した場合には、リンク部材38bの係合軸46が係合面28xと係合して入力部材4から出力部材6への反時計方向への回転が伝達される。そして、入力部材4の反時計方向への回転が終了した後又は入力部材4の反時計方向への回転中に出力部材6が入力部材4に対して反時計方向に回転することで上記係合は解除されて、出力部材6が回転しても出力部材6の回転が入力部材4へ伝達されることはなく、出力部材6から入力部材4への逆入は遮断される。
【0030】
本発明の逆入力遮断クラッチにあっては、入力部材4に設けられた一対の枢軸14a及び14bによって一対のリンク部材38a及び38bが回転自在に支持され、一対のリンク部材38a及び38bの各々に設けられた係合軸46は中間板34に形成された径方向に延びる一対のガイド溝40a及び40bの各々に挿入されている。そして、係合軸46がガイド溝40a又は40b内を径方向外側に移動して出力部材6に形成された係合面28x又は28yと係合することで入力部材4から出力部材6への回転は伝達される一方、係合面28x又は28yと係合した係合軸46がガイド溝40a又は40b内を径方向内側に移動して上記係合が解除されることで出力部材6から入力部材4への回転は出力部材6が入力部材4に対し回転して遮断されるようにする。そのため、出力部材6が入力部材4に対し回転する際に、係合軸46が振動等によってガイド溝40a又は40b内を径方向外側に移動しても、係合軸46が係合面28x又は28yと係合する位置に到達しない限り、係合軸46は係合面28x又は28yと当接してもかかる当接によってガイド溝40a又は40b内を径方向内側に強制させられるだけで係合面28x又は28yと係合することはない。それ故に、本発明の逆入力遮断クラッチにあっては、部品点数が少なくて構造が簡単であるにも拘らず、出力部材6から入力部材4への回転の伝達をより一層確実に遮断することができる。
【0031】
図9及び
図10には本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの変形例が示されている。全体を番号2´で示す本変形例の逆入力遮断クラッチにあっては、各構成部品を収納する固定のハウジングに替えて、各構成部品の中心に挿通される固定軸部材50´が設けられている。固定軸部材50´の外周面には軸方向に間隔をおいて複数個の環状溝80´が形成されており、夫々の環状溝80´に固定リング82´を嵌め合わせることで、入力部材4´、出力部材6´、及び中間板34´は固定軸部材50´に対し回転可能に保持されている。本変形例にあっては、軸方向に見て出力部材6´と中間板34´との間には固定のリング体84´が固定軸部材50´の外周面に嵌入されており、ウェーブワッシャーの如き抵抗トルク付与手段36´はリング体84´との摩擦によって中間板34´に抵抗トルクを付与している。入力部材4´及び一対のリンク部材38a´及び38b´等その他の部材の基本的な構成及び作動については上述した本発明の実施形態と同様であるため、その詳細な説明については省略する。
【0032】
以上、添付図面を参照して本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの好適実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能であることは多言を要しない。例えば、図示の実施形態においては、一対の枢軸の各々は入力端板に固着されると共に一対の枢軸の各々が一対のリンク部材の各々の軸穴に挿通されていたが、これに替えて、一対の枢軸の各々が入力端板に形成された軸穴によって構成されるようにすると共に一対のリンク部材の各々に上記軸穴に挿通される軸部を形成するようにしてもよい。また、図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段は中間板の軸方向に隣接して配置されたウェーブワッシャーであったが、これに替えて中間板の外周面に隣接して配置される板ばね等、中間板に所要の抵抗トルクを付与する形式であれば任意の形式であってよい。念のため付言しておくと、本発明の逆入力遮断クラッチは、電子錠に限定して適用されるわけではなく、車両に設けられる電動スライドドアや電動カーテンの駆動機構等にも適用されうる。
【符号の説明】
【0033】
2:逆入力遮断クラッチ
4:入力部材
6:出力部材
14a及び14b:枢軸
24:係合壁
26:凹部
28x及び28y:係合面
30a及び30b:係合壁部
34:中間板
36:抵抗トルク付与手段
38a及び38b:リンク部材
44:リンク本体
46:係合軸
50:ハウジング