特許第6906629号(P6906629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6906629金属基板上に耐食被膜を製造するためのゾル−ゲル方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906629
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】金属基板上に耐食被膜を製造するためのゾル−ゲル方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/12 20060101AFI20210708BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   C23C18/12
   G21D1/00 W
   G21D1/00 X
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-555717(P2019-555717)
(86)(22)【出願日】2017年12月20日
(65)【公表番号】特表2020-503462(P2020-503462A)
(43)【公表日】2020年1月30日
(86)【国際出願番号】EP2017083957
(87)【国際公開番号】WO2018115207
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年7月3日
(31)【優先権主張番号】1663250
(32)【優先日】2016年12月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504462489
【氏名又は名称】エレクトリシテ・ドゥ・フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】519226908
【氏名又は名称】コレージュ・ド・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アデル・アストール
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・クローズ
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・ニコル
(72)【発明者】
【氏名】クレマン・サンチェス
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−024275(JP,A)
【文献】 特開平06−101067(JP,A)
【文献】 特開2000−016812(JP,A)
【文献】 特開2011−256452(JP,A)
【文献】 特開平11−156214(JP,A)
【文献】 特開昭49−048529(JP,A)
【文献】 特開平05−247657(JP,A)
【文献】 特開平06−157033(JP,A)
【文献】 国際公開第95/016060(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00 − 18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板(10)上に、酸化物の少なくとも一つの層(31、32)からなる耐食被膜を製造するための、ゾル−ゲル方法であって、
a)前記酸化物の前駆体の非水性溶液(1)を調製する工程(S1);
b)少なくとも、前記金属基板の一つの表面(11)上に、前記非水性溶液を付着させ、前記酸化物の前駆体を含むフィルム(20)で、少なくとも部分的に、前記金属基板の前記表面を被覆する工程(S2);及び
c)湿気雰囲気への前記フィルムの暴露によって、前記酸化物の前駆体の加水分解−縮合を行い、フィルム内に酸化物ネットワークを形成する工程(S3);
d)前記基板の表面上に、前記フィルムを安定化させるための処理を行う工程(S4);
e)前記金属基板の表面の加熱処理を行い、酸化物のネットワークを結晶化させ、前記耐食被膜を形成する工程(S5)
を連続的に含み、
工程d)の前記処理が、前記フィルムの、室温より高く200℃未満の温度で供給されるガス流への暴露、前記フィルムの、紫外線への暴露、マイクロ波によって促進されるフィルムの処理、又は室温より高く200℃未満の温度での、誘導加熱によるフィルムの処理によって行われる、方法。
【請求項2】
工程b)からd)が繰り返され、前記金属基板上に、1超の層を付着させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化物の前記前駆体が、チタンの前駆体、ジルコニウムの前駆体、クロムの前駆体、イットリウムの前駆体、セリウムの前駆体、及びアルミニウムの前駆体から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化物の前記前駆体が、
チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンs−ブトキシド、チタンn−ブトキシド、チタンt−ブトキシド、チタンイソブトキシド、チタンイソプロポキシド、テトラブチルオルトチタネート、テトラtert−ブチルオルトチタネート、ポリ(ジブチルチタネート)、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウム2−メトキシメチル−2−プロポキシド、ジルコニウム2−メチル−2−ブトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムn−ブトキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルヘプタンジオネート)、チタン2,4−ペンタンジオネート、ジイソプロポキシ−ビス(エチルアセトアセテート)チタネート、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタン2−エチルヘクソキシド、チタンオキシドビス(アセチルアセトネート)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)オキソチタン、チタンビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド、ジルコニウムビス(ジエチルシトレート)ジプロポキシド、ジルコニルプロピオネート、クロムアセテート、セリウムt−ブトキシド、セリウムメトキシエトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムブトキシド、イットリウムアセチルアセトネート、イットリウム2−メトキシエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、セリウムイソプロポキシド
から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化物の前駆体の前記溶液が、1モルの前記酸化物の前駆体に対して、0から2モルの錯化剤、及び10から50モルのエタノールを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化物の前駆体の前記溶液が、1モルの前記酸化物の前駆体に対して、0.2モルまでの界面活性剤を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)が、
引き上げが0.5mm/秒から20mm/秒の間の速度で行われる、前記溶液中の前記表面の浸漬−引き上げ技術;
前記表面に関して、制御された噴霧流速、及び制御された噴霧の相対移動速度で、前記表面上に溶液を噴霧する技術;
前記表面を含む容器内で、制御された温度及び圧力の下で、溶液を蒸発させる技術
から選択される技術により実行される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)が、溶液を含浸させた多孔質部品と前記表面を接触させること、及び毛細管現象を通じて、前記表面上に溶液を拡散することによって行われる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)が、
少なくとも部分的に、密封された膜(44)により閉じ込められた所定の体積の溶液と前記表面を接触させ、
前記密封された膜が、表面と平行移動でスライドすることができ、
前記密封された膜の制御された移動で、前記表面上に制御された厚さのフィルムを形成することを可能にする
ことにより行われる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記表面が、円筒形の基板の内側の表面であり、前記密封された膜が円筒形の基板の軸(45)に沿って移動する可動性である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
工程b)からe)が、
前記表面上に前記溶液の付着を行うよう配置された活発なモジュール(61〜66)に関して、金属基板の相対移動を行い、
湿気雰囲気に前記フィルムを暴露し、
前記フィルムを安定化させるための処理に暴露し、及び
前記フィルムを熱処理に暴露する、
製造ラインにおいて実行される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱処理が300℃から500℃の間の温度で行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属基板の腐食に対しての保護の分野に関する。本発明は、例えば原子力発電所の一次又は二次の流体回路において、又は航空学、若しくは海流のタービンあるいは風のタービンなどの海岸における設備の保護の分野において、耐食被膜を製造するために実行される。より広くは、本発明は一般の腐食、孔食又は応力腐食に対して、金属又は金属合金を保護することを必要とする任意の分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
腐食から金属基板を保護することは、多くの分野で起こる。それは、例えば、建築、土木工学、運輸などの産業において起こり、熱又は原子力発電所などの産業設備に影響を与え得る。
【0003】
原子力産業において、一次、二次及び三次の熱回路は、それらの回路内で流体の循環によって、腐食にさらされる。これらの回路を形成する材料は一般に、反応容器及びパイプを被覆するためのステンレス鋼合金、又は蒸気発生器のための、ニッケルベースの合金である。腐食に対する良好な耐性にも関わらず、一次回路は腐食に対して最適な耐性を必要とする。確かに、腐食生産物は、中性子束下で活性化し、回路内に再付着し、設備内の放射性物質の危険性を上昇させる。三次回路は環境に開かれており、望ましくない汚染を上昇させる可能性がある。この回路の真鍮から作られる、コンデンサの腐食は、例えば、銅の望ましくない放電を上昇させる可能性がある。真鍮の代替品として、ステンレス鋼の使用は、病原性の微生物の成長に影響を与え得る。
【0004】
これらの設備のステンレス合金は、しばしば金属基板の表面上の保護フィルムを形成する不動酸化物のフィルムによって保護される。しかしながら、このフィルムは、環境の化学的性質が変化した場合、不安定であり、全体的又は局所的な基板の腐食を引き起こす。孔食、隙間腐食、粒界腐食、又は応力腐食は、次に基板中の伝播する亀裂を引き起こす。
【0005】
クロム、モリブデン、チタン、アルミニウム又はケイ素などのフィルム形成性元素を加えることによって、不動態のフィルムを安定化させることが提案されてきた。この解決法はしかしながら高価であり、材料の冶金学的構造及び機械特性を変更する。
【0006】
別の解決法は、不動態フィルムの分解を抑制するために、腐食媒体の化学的性質を制御することにある。この解決法はしかしながら、実用的でなく、高い操作制約を強いる。
【0007】
また、腐食から金属基板を保護するために、金属基板上に付着された外側の被膜を使用することも提案されている。
【0008】
従って、Al、TiO、SiO又は粘土などの酸化物のナノ粒子と関連する有機−無機ハイブリッド被覆を使用することが可能であり、それらは有機基とグラフト結合する。しかしながら、この解決法は温度に敏感という欠点があり、200℃を超える温度により有機化合物が分解される発電所において、使用することができない。
【0009】
また、環境に腐食防止剤を次第に放出する被膜を使用することも可能である。この解決法は、しかしながら、特に熱又は原子力設備において、産業の制約と常に両立しない、基板の化学的性質を変更する欠点を有する。
【0010】
別の可能性は、例えばTiO,ZrO,Al,CeOのナノフィルムなどの、金属基板上に酸化物のナノフィルムを形成し、腐食環境中で化学的に安定であり、産業設備中の温度に耐性のある被膜を製造することにある。
【0011】
FR 13 62541公報は、金属酸化物のフィルムの付着によって金属基板を処理するためのゾル−ゲル方法を提案している。「溶液−ゲル化」法とも呼ばれる、ゾルゲル法の使用は、大きなサイズの基板で使用されることが可能という利点を有する。それは、更に、低い温度で実行され、実行するのに高価でなく、典型的に約10から100ナノメートルの間の厚さで、及び制御された組成物で、薄いフィルムの製造を可能にする。
【0012】
FR 13 62541の公報のゾル−ゲル法においては、直径数ナノメートルのオリゴマーのコロイド懸濁液が、水の存在下で加水分解縮合工程の間に変化し、「ゲル」と呼ばれる粘性のあるネットワークを形成する。この溶液は、[M(OR)のアルコキシドの形態で金属酸化物の前駆体を含み、Mはz価の金属であり、Rは有機化合物であり、及びnはポリマー又はオリゴマーの形態の前駆体を有する可能性を表す(nは0ではない)。この溶液は更に、非水性溶媒、水を含み、反応抑制剤又は触媒などの添加剤を含み得る。基板上への溶液の付着の前に、好ましくは、撹拌しながら数時間続く熟成工程の間に、加水分解縮合工程は液体の水を加えることによって溶液中で行われる。
【0013】
金属基板上の耐食被膜を付着するためのゾル−ゲル法のこのタイプは、しかしながら、熟成工程の間に溶液の均一化を必要とする欠点を有し、加水分解縮合により形成される酸化物のネットワーク内に現れる不均一がみられる可能性がある。更に、この熟成工程は加水分解溶液に、限られた寿命を与え、付着を行うために、もはや使用できなくなる。前述の理由によって、熟成は付着を行う溶液の使用に時間の制約を与え、使用しない溶液が廃棄され又はリサイクルされる場合、運転コストの増加を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】FR 13 62541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
得られた被膜の質及び均一性のより良好な制御を提供する、耐食被膜を製造するための方法が、それ故求められる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した問題にこたえるため、本発明は、金属基板上に、少なくとも一層の酸化物からなる耐食被膜を製造するためのゾル−ゲル方法、
a)酸化物の前駆体の非水性溶液を調製する工程;
b)少なくとも金属基板の一つの表面上に、非水性溶液を付着させ、酸化物の前駆体を含むフィルムで、少なくとも部分的に、金属基板の前記表面を被覆する工程;及び
c)湿気雰囲気へフィルムの暴露によって、酸化物の前駆体の加水分解−縮合を行い、フィルム内に酸化物ネットワークを形成する工程;
d)基板の表面上にフィルムを安定化させるための処理を行う工程;
e)金属基板の表面の加熱処理を行い、酸化物のネットワークを結晶化させ、耐食被膜を形成する工程
を連続して含む方法を提案する。
【0017】
本発明のゾル−ゲル方法は、より微細及びより正確な制御、及び加水分解縮合工程を可能にし、後者は非水性溶液の付着の後、金属基板上に直接その場(in situ)で行われる。加水分解はサンプルに溶液を付着した後にのみ行われるために、この方法は、非加水分解状態で維持された溶液の使用の継続時間を相当増やすことを、特に、可能にする。
【0018】
確かに、酸化物の前駆体を含むフィルムを、湿気雰囲気に接触させることは、より均一な湿度の分配をもたらし、金属基板に薄いフィルムを通して拡散し、不均一な加水分解縮合を起こし得る、水の部分的な蓄積を抑制する。この方法は、公報FR 13 62541で提案された、関連する熟成工程とは相当異なる。確かに、加水分解が液体溶液中に水を加えることによって開始された場合、水の部分的な蓄積が不均一な加水分解縮合を引き起こし、不均一な密度の酸化物ネットワークを引き起こす。本発明において提案される方法は、酸化物ネットワークのより良好な均一性、及びそれ故、製造される耐食被膜中のより高い質を確かにする。
【0019】
更に、湿気雰囲気の使用は、加水分解縮合の広がりのより精細な制御を可能にする。水分含有量、及び湿気雰囲気にフィルムを暴露する継続時間などのパラメーターが、この化学反応の広がりに影響し得る。湿気雰囲気に接触させることは、更に、溶液中の成分の反応性における差異に関連する欠点を克服することを可能にする。確かに、前駆体は溶液中で同じ反応速度で、すべてが反応しない。溶液に水を加えることによる熟成の場合は、これらの反応速度の差異を制御できないが、薄いフィルムの湿気雰囲気への暴露は、約百ナノメートルの厚さで、前駆体の反応性による、水分含有量、及び暴露の継続時間を調整することを可能にする。
【0020】
本発明の方法は、直接その場で加水分解反応を開始し、湿気雰囲気に接触させることにより、特に熟成工程を取り除く利点を提案し、それは数時間によるその方法の実行の継続時間を減少させる。
【0021】
本発明は更に、酸化物ネットワークを含むフィルムを安定化させるための処理の、中間工程を提供することによって、製造される耐食被膜の特性について、より良好な制御を可能にする。安定化のためのこの処理は、フィルム中に存在する可能性のある、任意の有機材料を除去することを可能にし、また特に紫外線処理の場合において、フィルムの多孔性を減少させることに使用され得る。この中間工程の存在は、フィルムの圧密化により、後半のフィルムの加熱処理の段階の間の亀裂又は貫入の出現を特に、抑制し得る。
【0022】
一実施態様によると、工程b)からd)は繰り返され、金属基板上に一層より多い層が付着される。
【0023】
工程b)からd)を繰り返すことによって、一若しくは複数の酸化物の複数の層を付着させて、腐食に対するより良好な保護を提供することが可能である。酸化物の複数層の堆積を使用することは、特に、孔食に対するより良好な保護を保証し得る。更に、複数層の堆積は、低い被膜における、亀裂又は隙間などの欠陥も除去し得る。
【0024】
一実施態様によると、安定化のための処理は、フィルムの、室温より高く200℃未満の温度で供給されるガス流への暴露を含み得る。
【0025】
これらの温度にフィルムを加熱することによって、フィルムが付着した金属基板の形状に関係なく、フィルム中に存在し得る有機材料が蒸発し得る。
【0026】
一実施形態によると、安定化のための処理は、フィルムの紫外線放射への暴露を含み得る。
【0027】
紫外線へのフィルムの暴露は、例えば、錯化剤、アルコラート、又は界面活性剤などの、フィルム中に存在する任意の有機化合物を、例えば、酸化チタンなどの、使用される酸化物前駆体の光触媒特性を利用して、分解することを可能にする。更に、特にこの工程が、酸化物前駆体の縮合がまだ完了していないが、実行される場合に、使用する放射の照度及びスペクトルを制御することが、フィルムの多孔性を減少させることを可能にする。(典型的に315nmから400nmの間の波長を有する)UVa、及び(典型的に280nmから315nmの間の波長を有する)UVbを含む放射で225mW/cmの典型的な放射照度が、フィルムの多孔性を減少させるのに、特に適切である。更に、紫外線照射の下、有機化合物の分解は湿気雰囲気の下で拡大される。
【0028】
一実施形態によると、安定化させるための処理が、マイクロ波によって補助されるフィルムの処理、及び室温より高く200℃未満の温度での、誘導によるフィルムの処理から選択され得る。
【0029】
マイクロ波の使用は、フィルムが付着した金属基板の任意の形状に対して、フィルム中に存在する可能性のある、任意の有機材料を効果的に、蒸発させることを可能にする。更に、マイクロ波は酸化物の縮合及び結晶化に都合がよい。
【0030】
一実施態様によると、酸化物の前駆体は、チタンの前駆体、ジルコニウムの前駆体、クロムの前駆体、イットリウムの前駆体、セリウムの前駆体及びアルミニウムの前駆体から選択され得る。
【0031】
特に、酸化物の前駆体は、
チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンs−ブトキシド、チタンn−ブトキシド、チタンt−ブトキシド、チタンイソブトキシド、チタンイソプロポキシド、テトラブチルオルトチタネート、テトラ−tert−ブチルオルトチタネート、ポリ(ジブチルチタネート)、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウム2−メトキシメチル−2−プロポキシド、ジルコニウム2−メチル−2−ブトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムn−ブトキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルヘプタンジオネート)、チタン2,4−ペンタンジオネート、ジイソプロポキシ−ビス(エチルアセトアセテート)チタネート、チタンジ−n−ブトキシド(ビス2,4−ペンタンジオネート)、チタン2−エチルヘクソキシド、チタンオキシドビス(アセチルアセトネート)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)オキソチタン、チタンビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド、ジルコニウムビス(ジエチルシトレート)ジプロポキシド、ジルコニルプロピオネート、クロムアセテート、セリウムt−ブトキシド、セリウムメトキシエトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムブトキシド、イットリウムアセチルアセトネート、イットリウム2−メトキシエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、セリウムイソプロポキシド
:から選択され得る。
【0032】
これらの化合物は、特に、原子力又は熱の発電所の一次及び三次回路、及び航空学、又は風のタービン若しくは海流のタービンなどの海岸の設備における適用に、特に適している。
【0033】
一実施形態によると、酸化物の前駆体の溶液は、1モルの酸化物の前駆体に対して、0から2モルの錯化剤及び10から50モルのエタノールを含み得る。
【0034】
そのような組成物は、50nmから150nmの間の厚さの耐食被膜の製造に非常に適している。溶液の組成物の制御は、厚さを調整できるパラメーターである。確かに、エタノール含有量が多くなるほど、得られる被膜の厚さは薄くなり、それは付着される溶液の同じ量に対して、酸化物の前駆体の分子がより少なくなるためである。溶液中の錯化剤の量は溶液の様々な成分の反応性を調節することを可能にする。特に、これらの錯化剤は、付着の間の加水分解縮合工程をより精密に制御し、溶液を、時間と共に、より安定、及びより均一にすることを可能にする。更に、錯化剤の存在は被膜の微孔構造、特に直径2nm未満の穴の量を、相当変更することを可能にする。
【0035】
一実施形態によると、酸化物の前駆体の溶液は、1モルの酸化物の前駆体に対して、0.2モルまでの界面活性剤を更に含み得る。
【0036】
溶液中の界面活性剤の存在と相対量は、被膜の多孔性を調製することを可能にする。溶液中の界面活性剤が多くなるほど、被膜の多孔性はより多くなる。1モルの酸化物の前駆体に対する、開示された界面活性剤の量は、被膜の40から50体積%を典型的に表す多孔性を得ることを可能にする。この比率は、次の、フィルムに紫外線照射を適用することによる、安定化のための処理の手段によって減少され得る。フィルム中の穴の出現は、耐食被膜に、より機械耐性を付与し、特に、それをより柔軟にして、金属基板と耐食被膜間の熱膨張性の差異による、亀裂の出現の危険性を減少させることに貢献し得る。更に、穴の存在は、腐食生産物をより効果的に制限し、基板を形成する金属元素の移動を減少させることを可能にもする。
【0037】
一実施形態によると、工程b)は、
引き上げが0.5mm/秒から20mm/秒の間の速度で行われる、溶液中の表面の浸漬−引き上げ技術;
表面に関して、制御された噴霧流速、及び制御された噴霧の相対移動速度で、表面上に溶液を噴霧する技術;
表面を含む容器内で、かつ制御された温度及び圧力の下で、溶液を蒸発させる技術
:から選択される技術により実行され得る。
【0038】
浸漬−引き上げ(浸漬−被覆と呼ばれる)は、単純な技術で、平面の部品などの単純な形状の金属基板に適している。被覆の厚さが、溶液からの金属基板の引き上げ速度により制御され得る。本発明によると、浸漬−引き上げタイプの方法で、非水性溶液の付着は、毛細管現象よりは、「Landau Levich」と呼ばれる方法に従った、脱液を通じて行われる。この付着の様式において、引き上げ速度が速いほど、得られるフィルムが厚くなる。
金属基板の表面上の溶液の噴霧は、例えば、湾曲した円筒状の導管などの複雑な形状の金属基板により適している。噴霧の移動スピード、及び流速が、得られる被膜の厚さを調製することを可能にする。
【0039】
一実施形態によると、工程b)は、溶液を含浸させた多孔質部品と表面を接触させること、及び毛細管現象を通じて、表面上に溶液を拡散することによって行われ得る。
多孔質部品による溶液の拡散は、表面上の溶液の付着を可能にする。
【0040】
一実施形態によると、工程b)が、少なくとも部分的に、密封された膜により閉じ込められた所定の体積の溶液と表面を接触させて、密封された膜が、表面と平行移動でスライドすることができ、密封された膜の制御された移動で、前記表面上に制御された厚さのフィルムを形成することを可能にすることにより行われ得る。
【0041】
金属基板上への溶液の付着のそのような方法は、特に、付着された溶液の量の精密な制御を可能にすること、及び金属基板表面に沿って進む最も良好な利点を提案する。そして、付着されたフィルムの厚さが、密閉された膜の移動速度に実質的に依存する。更に、付着のためのこの方法は、表面上の、前駆体のフィルムの付着に必要な溶液の量を減少させる。
【0042】
特に、表面が、円筒状の基板の内部表面である場合、密閉された膜は円筒状の基板の軸方向に沿った移動での可動性であり得る。
【0043】
一実施形態によると、工程b)からe)は、表面の溶液の付着を行うよう配置された活発なモジュールに関して、金属基板の相対移動を行い、湿気雰囲気にフィルムを暴露し、フィルムを安定化させるための処理に暴露し、及びフィルムを熱処理に暴露する製造ラインにおいて実行される。
【0044】
耐食被膜を製造する方法のための様々な工程が、同じ製造ラインで行われ、上記の様々な作用が、製造ラインによって金属基板にもたらされる、モジュールによって行われる。そのような製造ラインにおいて、それぞれのモジュールは、上記の工程に従って、金属基板への作用を実行し得る。
【0045】
一実施態様によると、加熱処理は300から500℃の間の温度で行われる。
【0046】
これらの温度は、約30分間適用され、金属酸化物を結晶化させ、耐食被膜の合成を完結させる。
【0047】
本発明は、また、上記の方法の実行により、得られた耐食被膜を含む金属基板に関する。
【0048】
制限はしないが、情報の目的で表される下記の実施形態の記載及び下記図の所見を読む際に、本発明の方法の目的がより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明による耐食被膜の製造のための方法の5段階を示すフローチャートである;
図2図2a及び図2bは、基板の表面上の酸化物の前駆体のフィルムを付着させるため、非水性溶液中に金属基板の浸漬−引き上げの方法を、図式的に示す;
図3】制御された温度及び圧力の下、容器中の溶液の蒸発により、金属基板の表面上に非水性溶液を付着させるための方法を、図式的に示す;
図4】基板の軸に沿っての移動での可動性の膜による、円筒上の金属基板の内側表面における、酸化物前駆体の非水性溶液の付着を図式的に示す;
図5】その表面内部の耐食被膜を含む、流体回路のパイプ型の円筒状の金属基板を図式的に示す;
図6】金属基板上に耐食被膜を製造するための方法を適用する、モジュールを巻く、製造ラインを図示的に示す;
図7図7a及び7bは、被覆なしの基板、酸化チタン被膜を含む基板、及び酸化ジルコニウム被膜を含む基板の、室温で、塩素イオンが豊富な腐食環境において、分極曲線の形態(図7a)及びBode図の形態(図7b)での電気化学測定結果をそれぞれ示すグラフである。 明確にするため、これらの図に示される様々な要素の寸法は、実際の寸法割合である必要がない。図内の、同一の参照は、同一の要素に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、金属基板上に酸化物の少なくとも一層からなる、耐食被膜を製造するための方法を提案する。本発明の可能な適用は、熱又は原子力発電所の、一次、二次及び三次回路の導管の保護である。この特定の状況において、最適な保護が、放射性物質の危険性又は環境への影響を高める、腐食の後の分解を防ぐために、探索される。
【0051】
別の適用は、例えば、航空産業でのモーター、海岸の設備(湿気及び塩素の環境にさらされる、風のタービン、海流のタービン)などの腐食環境にさらされる設備の保護に属する。
【0052】
本発明は、実行に単純な方法からなり、それは、任意の形の金属基板の大きな表面に、適用され得る。更に、得られた被覆の質は、金属基板の腐食に対して、100から1000倍の保護を改善することを可能にし、金属基板の耐用年数を延長する。
【0053】
図1は、本発明の方法の5工程を説明するフローチャートを示す。この方法は、ゾル−ゲル方法であり、金属基板上に被膜を形成するための、酸化物の前駆体を含むゾル−ゲル溶液を準備する、第一工程S1、金属基板の表面上に溶液を付着して、酸化物の前駆体のフィルムを形成する第二工程S2、フィルムを湿気雰囲気に暴露することによって、加水分解縮合を開始し、フィルム内に酸化物のネットワークを作る第三工程S3、フィルム中に存在する可能性のある任意の有機化合物を蒸発させ、有機化合物を取り除くことを可能にする縮合反応に助力する狙いの安定化のための処理の第四工程S4、最後に、耐食被膜を形成するため、酸化物のネットワークの結晶化の熱処理に対応する工程S5を実行する。
【0054】
第一工程S1において、酸化物の前駆体を含む非水性溶液が準備される。酸化物の前駆体は典型的に、一般式[M(OR)のアルコキシドタイプの遷移金属の酸化物前駆体であり、Mは価数zの金属、Rが有機化合物である。例えば、ジルコニウムオキシド前駆体及びチタンオキシド前駆体を含む混合物の、いくつかのの異なる酸化物前駆体を含む組成物を製造することも可能である。
【0055】
酸化物前駆体は典型的に、チタンオキシド又はジルコニウムオキシドの前駆体であり、それらは、原子力設備における被膜としての使用に特に適している。ジルコニウムオキシドは更に、高い膨張係数を有する利点があり、300℃から500℃の間の温度で実行される、金属基板上の酸化物ネットワークの結晶化工程の間の、亀裂の出現からそれを自然に保護する。
【0056】
他の酸化物前駆体は、クロム又はイットリウム前駆体として使用され得る。イットリウムは、特に立方相内においてジルコニウムの安定化に使用され得る。
【0057】
R基は一般に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基またはt−ブチル基などの、1から4個の炭素原子を好ましくは含む、アルキル基である。
【0058】
特に、前駆体は、例えば、下記化合物から選択され得る:チタンエトキシドTi(OC、チタンプロポキシドTi(OC、チタンイソプロポキシドTi[OCH(CH、チタンブトキシドTi(OCHCHCHCH、ジルコニウムブトキシドZr(OC、ジルコニウムプロポキシドZr(OCHCHCH、クロムアセチルアセトネートCr(C、イットリウムブトキシドY(OC、イットリウムイソプロポキシドY(OCH(CH
【0059】
更に、前駆体は、チタンイソブトキシド、ポリ(ジブチルチタネート)、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウム2−メトキシメチル−2−プロポキシド、ジルコニウム2−メチル−2−ブトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド:から選択され得る。
【0060】
非水性溶液は典型的に、金属酸化物前駆体1モルに対して、10から50モルのエタノール(非水性溶媒)及び、有利には0から2モルの錯化剤を加えた混合物を含む。
【0061】
錯化剤は、溶液内で前駆体を安定化することを可能にし、アルコキシドが非常に反応性が高く、溶液の加水分解縮合の間に得られる、酸化物ネットワークの質を決定する添加剤である。
【0062】
錯化剤の存在下で、金属酸化物前駆体は一般化学式L[M(OR)n−xを有し、Lは、酢酸、β−ジケトンのなどのC1−C18、好ましくは、アセトアセトン、ジベンゾイルメタン、β−ケトエステルなどのC5−C20、好ましくは、メチルアセトアセテート、β−ケトアミドなどのC5−C20、好ましくは、N−メチルアセトアセタミド、α−又はβ−ヒドロキシ酸などのC5−C20、好ましくは、乳酸又はサリチル酸、アラニンなどのアミノ酸、ジエチレントリアミン(DETA)などのポリアミンなどのC3−C20などの、カルボン酸などの単座又は多座の配位子である。
【0063】
配位子を組み込む化合物は、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルヘプタンジオネート)、チタン2,4−ペンタンジオネート、ジイソプロポキシ−ビス(エチルアセトアセテート)チタネート、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタン2−エチルヘクソキシド、チタンオキシドビス(アセチルアセトネート)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)オキソチタネート、チタンビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド、ジルコニウムビス(ジエチルシトレート)ジプロポキシド、ジルコニルプロピオネート、クロムアセテート:から特に選択され得る。
【0064】
錯化剤の存在は、溶液を安定化するために作用するだけでなく、典型的に、約2nm未満のサイズの穴で、酸化物前駆体フィルム中に現れる微孔構造を引き起こすことも可能にすることを意味することに適している。
【0065】
非水性溶液は、特に更に界面活性剤成分を含み、得られる金属酸化物のフィルムの多孔性の変性に使用される。界面活性剤は、酸化物前駆体1モルに対して、0.2モルまでの界面活性剤の比で溶液中に存在する。
【0066】
界面活性剤は典型的に、非イオン性の両親媒性の界面活性剤から選択される。これらは両親媒性分子、又はポリマーなどの高分子であり得る。
【0067】
非イオン性両親媒性界面活性剤の分子は、例えば、2から30のエチレンオキシド単位を含む、C12−C22のエトキシル化直鎖アルコール、又は12から22個の炭素原子を含む脂肪酸のエステル、及びソルビタンであり得る。例えば、Brij(登録商標)、Span(登録商標)及びTween(登録商標)の名前で利用できる、界面活性剤が使用され得る。
【0068】
ポリマーのノンイオン性の両親媒性界面活性剤は、親水性及び疎水性の両方を有する任意の両親媒性ポリマーであり得る。例として、これらの界面活性剤は、2ブロック、A−B−A又はA−B−C型の3ブロック又は4ブロックを含むブロックコポリマーで、CH−[CH−CH−CH−CH−O]n−CO−R(R=C又はC17)などのフッ素化されたコポリマーから選択され得る。
【0069】
本発明に特に適した界面活性剤のうち、下記化合物が記憶される:ポリ((メタ)アクリル酸)ベースのコポリマー、ポリジエンベースのコポリマー、水素添加されたジエンベースのコポリマー、ポリ(プロピレンオキシド)ベースのコポリマー、ポリ(エチレンオキシドベースのコポリマー、ポリイソブチレンベースのコポリマー、ポリスチレンベースのコポリマー、ポリ(2−ビニルナフタレン)ベースのコポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)ベースのコポリマー、及びそれぞれのブロックがポリ(アルキレンオキシド)鎖から形成され、それぞれの鎖により、異なる数の炭素原子を含むアルキレンである、ポリ(アルキレンオキシド)の鎖から形成されるブロックコポリマー。
【0070】
親水基と疎水基の両者の存在を保証するため、2ブロックの一つは親水性のポリ(アルキレンオキシド)鎖を含む一方、他のブロックは疎水性のポリ(アルキレンオキシド)鎖を含み得る。トリブロックについては、ブロックの二つが、親水性である一方、二つの親水性のブロックの間に位置する、他のブロックが疎水性であり得る。好ましくは、トリブロックコポリマーの場合、親水性のポリ(アルキレンオキシド)鎖が、(POE)及び(POE)として表される、ポリ(エチレンオキシド)鎖であり、疎水性のポリ(アルキレンオキシド)鎖が(POP)として表される、ポリ(プロピレンオキシド)鎖、又はポリ(ブチレンオキシド)鎖、又はそれぞれの鎖がアルキレンオキシドのいくつかのモノマーの混合物である混合鎖である。トリブロックコポリマーの場合、式(POE)−(POP)−(POE)(5<u<106、33<v<70及び5<w<106)の化合物の使用が可能である。Pluronic(登録商標)P123 (u=w=20 and v=70) 又はPluronic(登録商標)F127 (u=w=106 and v=70)などの商業的な化合物が好まれる。
【0071】
非水性溶液中の界面活性剤のモル比は、酸化物前駆体のフィルム中の、穴の質を制御することを可能にする。典型的に、1モルの酸化物の前駆体に対して、0.2モルまでの界面活性剤であるような比での界面活性剤の添加は、2nmから10nmの厚さの平均穴サイズである、耐食被膜中の、体積で50%に達する多孔性を引き起こし得る。
【0072】
錯化剤及び界面活性剤の存在は、また、耐食被膜をより多孔質にしながら、耐食被膜の厚さを上昇させることにも貢献し得る。
【0073】
非水性溶液1は更に、チタンオキシド又はジルコニウムオキシドのナノ粒子も含み得る。これらのナノ粒子は、種結晶として使用され、後半の熱処理工程の間の、耐食被膜の結晶化に都合がよい。ナノ粒子の添加は、耐食被膜の密度を高くし、亀裂の形成を制限することにも貢献し得る。
【0074】
第二工程S2は、この金属基板上の酸化物の前駆体を含むフィルムを形成するために、少なくとも金属基板の一つの表面上に、非水性溶液を付着させることにある。この工程は特に図2a、2b、3及び4中で開示されるように、異なる方法で実行され得る。
【0075】
図2aに開示するように、金属基板10の表面11に非水性溶液1を付着するための方法は、浸漬−引き上げ(又は浸漬−被覆)を行うことにある。図2aにおいて、この工程は溶液内へ金属基板を突っ込み、次に、図2bに開示されるように、溶液から金属基板を取り除くことによって行われる。酸化物の前駆体を含むフィルムの厚さは、図2bの引き上げ工程のスピードに特に依存する。典型的に、50nmから150nmの間の厚さを有するフィルムを得るために、0.5mm/秒から20mm/秒の間の引き上げスピードを与えることが適している。これらのスピードでの浸漬−引き上げは、毛細管現象ではなく、脱液によって行われる。それ故、引き上げ速度が速いほど、得られるフィルムが厚くなる。
【0076】
得られるフィルムの厚さに影響する他のパラメーターは、非水性溶液1中のエタノールのモル比である。確かに、溶液中のエタノールが多くなるほど、溶液中の単位体積当たりの酸化物前駆体が少なくなり、付着フィルムが薄くなる。
【0077】
図2a及び2bは浸漬−引き上げ工程を示し、基板が溶液中で移動される間に、溶液は固定された位置を維持するが、溶液に関して基板の相対移動を可能にする、代替構造も実行され得る。非水性溶液1は例えば、金属基板10の表面11を被覆するまで、最初に移動され、制御された速度で、次に再び移動され、非水性溶液1の金属基板10を開放する。
【0078】
浸漬−引き上げ工程は、単純な形状の金属基板に溶液を付着させるための方法である。しかしながら、より複雑な表面が、噴霧などのより適切な方法から恩恵を受け得る。
【0079】
噴霧は、金属基板10に関して可動の噴霧器の手段に代わる方法で行われ、移動速度、及び放出流速度が制御され、望ましい厚さのフィルム20を得ることができる。
【0080】
図3は、制御された温度及び圧力の下で、表面11を含む容器中に溶液を蒸発させることによって、金属基板10上に非水性溶液1の付着例を、図示的に示す。キャリアガス注入2は、溶液を運び、金属基板10の表面11上に、それをもたらすことに貢献し得る。
【0081】
金属基板10上に付着されたフィルム20の厚さの微細な制御に特に適した、別の代替法によると、図4に示されるように、金属基板に関して、密閉された可動性の膜を使用することが可能である。
【0082】
図4は、円筒導管のような金属基板20を含む、円筒タンク100を示す。密閉された膜44が、円筒タンク100の軸45に固定されている。膜の上側に位置した部分412は非水性溶液1の所定量の体積を含む。膜44は、金属基板10の壁に密閉して接触したままで、軸45に沿って平行移動でスライドする。密閉された膜44の移動は、密閉された膜44に接続されたけん引輪43により、特にもたらされ得る。けん引輪43の質量、及び部分41内の溶液の体積が、金属基板10上に付着されるフィルム20の厚さを制御することを可能にするパラメーターである。部分41の上側に位置する部分40は、非水性溶液1がないが、フィルム20ですでに被覆されている。部分41の下側に位置する部分42は、密閉された膜44がその濃度まで移動された場合に、フィルム20の付着によって処理される。
【0083】
非水性溶液1の過剰量は、寸法が膜44の上部の非水性溶液の所定量の体積の維持に適合する、中心の構成要素46で与えられる開口によって取り除かれる。
【0084】
もちろん、密閉された膜の移動の使用は、非円筒状の、金属基板10の他の形状に対しても行われ、その場合、上記の様々な要素の準備が適用される。
【0085】
金属基板10の表面11上に、非水性溶液1の付着を行うための別の可能性は、非水性溶液1を含浸させた多孔質成分の使用、及び表面11上に毛細管現象を通じて溶液を付着させながらの拡散にある。
【0086】
耐食被膜を製造するための方法の、第三工程S3は、湿気雰囲気に気体状態で存在する水に、フィルムを暴露することによって、フィルム20中の酸化物前駆体の加水分解の開始にある。本発明の独創性は、工程S3が、フィルム20の粘度を上昇させ、フィルム20中の酸化物ネットワークを形成することを可能にし、フィルム20が、工程S2中に金属基板10の表面11に付着された後に、この工程S3が行われるという事実にある。それ故、気体状態での水の拡散は、加水分解、及び続く縮合の間に不均一な酸化物ネットワークを製造し得る、大量の水の局所的な出現を妨げる。本発明はまた、既存技術の方法の長い工程である、非水性溶液中の熟成工程に頼ることを除外する。更に、湿気雰囲気下での気体方法での加水分解開始は、漸進的な酸化物前駆体に暴露、及びフィルム20の厚さを経由して拡散される水分に対して、制御された方法により、酸化物前駆体の高い反応性を弱めることを可能にする。更に、湿気雰囲気への暴露による加水分解の開始は、方法内に介在するフィルム20の、約100nmの、厚さに起因して、特に効果があり、フィルム20を通じて水の浸透を促進する。
【0087】
雰囲気の水分含有量は制御され、有利には20%から80%の間であることを留意することに適している。高い濃度の湿度は、望まれない、フィルム20上の縮合の形成を引き起こし得る。環境湿度に対応する水分含有量の範囲は、典型的には、40%から70%の間が好ましい。
【0088】
この湿気雰囲気に暴露する継続時間は、典型的には、特に高い湿度には、30秒、及び特に低い水分量には、5分の間であり得る。
【0089】
工程S3の間の温度は、加水分解−縮合の反応速度に影響を与えるパラメーターである。温度は15℃から35℃の間が好ましい。
【0090】
図1の工程S4においては、酸化物ネットワークを含むフィルム20が、フィルム中に残存している、任意の有機組成物の除去を引き起こす、縮合反応に有利に働き、及びその後工程の熱処理S5の間に、フィルム内に亀裂の出現を防ぐことを可能にする安定化のための処理にさらされる。
【0091】
工程S4の安定化処理は、異なる方法で行われ得る。
【0092】
例えば、この処理は、オーブン内で、室温より高く、有利には200℃未満の温度での単純な暴露の方法により行われ得る。そのような方法は、例えば、長さが10mに及ぶ湾曲した導管などの、複雑な形の金属基板の場合に、均一な安定化のための処理に特に適している。
【0093】
別の方法は、金属基板10の周囲に、室温より高く、有利には200℃未満の温度をもたらす循環ガスにある。
【0094】
別の代替法によると、酸化物ネットワークの無機部分を強化するための、このフィルムの安定化は、マイクロ波の適用、又は室温より高く、200℃未満の温度での、誘導により行われ得る。
【0095】
別の代替法によると、フィルムの圧密化は、紫外線照射の適用により行われ得る。この解決法は、フィルムの多孔性の減少、及びそれ故、酸化物ネットワークを含むフィルム20の密度を可能にする、更なる利点を有する。放射照度約225mW/cmで、波長280nmから400nmの間の照射(UVa及びUVbの照射を表す)に30秒から10分の間の継続時間の暴露が、約100nmの厚さのフィルム20の安定化に特に効果的である。
【0096】
工程S4は、工程S3がまだ行われているが、少なくとも部分的に行われ得る。
【0097】
孔食に対して良好な保護を確かにするための特に有利な、二層以上の保護が行われる場合、存在している被膜上に、先行した工程を繰り返すことが可能である。更に、この方法は、被膜のそれぞれ層の付着の間に、なお、全体に繰り返される(工程S1からS5)。一層と他の層が異なる遷移金属酸化物のいくつかのタイプの付着が特に可能である。図5は、上面図として、流体回路のチューブ3の部分を図示的に示す。金属基板10は、チューブ3の内側の表面上に、異なる金属酸化物の2層31、32によって被覆されている。耐食被膜に、単層のみを供給することも可能であり、耐食被膜に過剰な厚さを防ぎ、基板のすべての処理に必要な時間とコストを減らすことに有利であり得る。
【0098】
工程S5は、安定化した酸化物ネットワークを含むフィルム20に、典型的に300℃から500℃の間の温度で加熱処理を適用することにある。この工程は、被膜の結晶化度を乱す基板の酸化を抑制するために、好ましくは制御された雰囲気で行われる。この工程の結果、フィルム20の酸化ネットワークは結晶化し、最終の耐食被膜を形成する。
【0099】
上記の方法は、湿気雰囲気で気相中の加水分解縮合の結果、非水性溶液1の熟成の長い工程に頼ることを除外する。本発明は、図6に図示的に示されるような、産業製造ラインにおいて、特に実行され得る。
【0100】
図6は、固定された位置で金属基板10を置き、金属基板10の方向にライン60により活発にさせたモジュールを巻くことを提案する。それ故、最初のモジュール61は、例えば、処理の準備のため、表面11を研磨することに使用され得る。この準備は、例えば、機械的剥離、機械的研磨、又は化学的剥離であり得る。モジュール62は、次に、例えばすすぎによる、研磨された表面11の洗浄に進み得る。モジュール63は、例えば上記方法の一つにより、ゾル−ゲル溶液の付着を行う。図6ではこの付着は多孔質成分によって行われている。モジュール64は、表面11のフィルム20を湿気雰囲気に暴露する。モジュール65は安定化のための処理に進み(例えば、紫外線への暴露)、次にモジュール66は耐食被膜を結晶化させるための処理を行う。
【0101】
図6の例において、ライン60は金属基板10へ様々なモジュールを移動するために使用され、様々なモジュールを除去するため、例えば、水、電気、非水性溶液のための注入を含み得る。
【0102】
代替法として、固定されたモジュールを含むライン60に沿った金属基板10の移動を提供することも可能である。
【0103】
上記方法の結果、得られた耐食被膜を提供される、金属基板は、そのような被膜なしの金属基板より、100から1000大きい腐食耐性を有する。
【0104】
特に、耐食被膜を含む金属基板の腐食電流は、任意の耐食被膜を含まない金属基板の腐食電流より、少なくとも10倍少ない。
【実施例】
【0105】
比較の測定は、耐食被膜なし、並びにTiO及びZrOでの耐食被膜のインコネル690の金属基板を、塩素イオンを含む腐食環境の存在の下、比較した。図7aは、0.05mol/Lの濃度でのNaClを含む溶液中での、これらの3サンプルに対する分極曲線を示す。図7aにおいて、カソードターフェル領域は、図の左部分に見られ、アノードターフェル領域は図の右部分に見られる。ターフェル直線法は、、図7a内で、Icorrの名前でそれぞれのサンプルに示唆される、腐食電流密度を決定することを可能にする。これらの曲線は、耐食被膜の存在下で、明らかに低い、腐食電流密度及び腐食潜在力を明らかにし、上記方法の効果を裏付ける。特に、腐食電流密度は、チタンオキシド及びジルコニウムオキシド被膜の存在で10から100倍小さい。
【0106】
図7bは、これらの同じサンプルを用いた、インピーダンス分光法測定を示す。腐食に関する被膜の効果は、低周波数でのインピーダンスZ係数の増加によって、特に、明らかになる。
【0107】
他の測定は、示していないが、孔食を減少させるため、いくつか重ねあわされた層の被膜を用いた効果を確認する。酸性媒体で行われる追加試験により、図7a及び7bの結果を確認する。
【符号の説明】
【0108】
1 ・・・非水性溶液
2 ・・・キャリアガス注入
3 ・・・チューブ
10 ・・・金属基板
11 ・・・表面
20 ・・・フィルム
31 ・・・層
32 ・・・層
40 ・・・部分
41 ・・・部分
42 ・・・部分
43 ・・・けん引輪
44 ・・・膜
45 ・・・軸
46 ・・・中心の構成要素
60 ・・・ライン
61 ・・・モジュール
62 ・・・モジュール
63 ・・・モジュール
64 ・・・モジュール
65 ・・・モジュール
66 ・・・モジュール
100 ・・・円筒タンク
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7