【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した問題にこたえるため、本発明は、金属基板上に、少なくとも一層の酸化物からなる耐食被膜を製造するためのゾル−ゲル方法、
a)酸化物の前駆体の非水性溶液を調製する工程;
b)少なくとも金属基板の一つの表面上に、非水性溶液を付着させ、酸化物の前駆体を含むフィルムで、少なくとも部分的に、金属基板の前記表面を被覆する工程;及び
c)湿気雰囲気へフィルムの暴露によって、酸化物の前駆体の加水分解−縮合を行い、フィルム内に酸化物ネットワークを形成する工程;
d)基板の表面上にフィルムを安定化させるための処理を行う工程;
e)金属基板の表面の加熱処理を行い、酸化物のネットワークを結晶化させ、耐食被膜を形成する工程
を連続して含む方法を提案する。
【0017】
本発明のゾル−ゲル方法は、より微細及びより正確な制御、及び加水分解縮合工程を可能にし、後者は非水性溶液の付着の後、金属基板上に直接その場(in situ)で行われる。加水分解はサンプルに溶液を付着した後にのみ行われるために、この方法は、非加水分解状態で維持された溶液の使用の継続時間を相当増やすことを、特に、可能にする。
【0018】
確かに、酸化物の前駆体を含むフィルムを、湿気雰囲気に接触させることは、より均一な湿度の分配をもたらし、金属基板に薄いフィルムを通して拡散し、不均一な加水分解縮合を起こし得る、水の部分的な蓄積を抑制する。この方法は、公報FR 13 62541で提案された、関連する熟成工程とは相当異なる。確かに、加水分解が液体溶液中に水を加えることによって開始された場合、水の部分的な蓄積が不均一な加水分解縮合を引き起こし、不均一な密度の酸化物ネットワークを引き起こす。本発明において提案される方法は、酸化物ネットワークのより良好な均一性、及びそれ故、製造される耐食被膜中のより高い質を確かにする。
【0019】
更に、湿気雰囲気の使用は、加水分解縮合の広がりのより精細な制御を可能にする。水分含有量、及び湿気雰囲気にフィルムを暴露する継続時間などのパラメーターが、この化学反応の広がりに影響し得る。湿気雰囲気に接触させることは、更に、溶液中の成分の反応性における差異に関連する欠点を克服することを可能にする。確かに、前駆体は溶液中で同じ反応速度で、すべてが反応しない。溶液に水を加えることによる熟成の場合は、これらの反応速度の差異を制御できないが、薄いフィルムの湿気雰囲気への暴露は、約百ナノメートルの厚さで、前駆体の反応性による、水分含有量、及び暴露の継続時間を調整することを可能にする。
【0020】
本発明の方法は、直接その場で加水分解反応を開始し、湿気雰囲気に接触させることにより、特に熟成工程を取り除く利点を提案し、それは数時間によるその方法の実行の継続時間を減少させる。
【0021】
本発明は更に、酸化物ネットワークを含むフィルムを安定化させるための処理の、中間工程を提供することによって、製造される耐食被膜の特性について、より良好な制御を可能にする。安定化のためのこの処理は、フィルム中に存在する可能性のある、任意の有機材料を除去することを可能にし、また特に紫外線処理の場合において、フィルムの多孔性を減少させることに使用され得る。この中間工程の存在は、フィルムの圧密化により、後半のフィルムの加熱処理の段階の間の亀裂又は貫入の出現を特に、抑制し得る。
【0022】
一実施態様によると、工程b)からd)は繰り返され、金属基板上に一層より多い層が付着される。
【0023】
工程b)からd)を繰り返すことによって、一若しくは複数の酸化物の複数の層を付着させて、腐食に対するより良好な保護を提供することが可能である。酸化物の複数層の堆積を使用することは、特に、孔食に対するより良好な保護を保証し得る。更に、複数層の堆積は、低い被膜における、亀裂又は隙間などの欠陥も除去し得る。
【0024】
一実施態様によると、安定化のための処理は、フィルムの、室温より高く200℃未満の温度で供給されるガス流への暴露を含み得る。
【0025】
これらの温度にフィルムを加熱することによって、フィルムが付着した金属基板の形状に関係なく、フィルム中に存在し得る有機材料が蒸発し得る。
【0026】
一実施形態によると、安定化のための処理は、フィルムの紫外線放射への暴露を含み得る。
【0027】
紫外線へのフィルムの暴露は、例えば、錯化剤、アルコラート、又は界面活性剤などの、フィルム中に存在する任意の有機化合物を、例えば、酸化チタンなどの、使用される酸化物前駆体の光触媒特性を利用して、分解することを可能にする。更に、特にこの工程が、酸化物前駆体の縮合がまだ完了していないが、実行される場合に、使用する放射の照度及びスペクトルを制御することが、フィルムの多孔性を減少させることを可能にする。(典型的に315nmから400nmの間の波長を有する)UVa、及び(典型的に280nmから315nmの間の波長を有する)UVbを含む放射で225mW/cm
2の典型的な放射照度が、フィルムの多孔性を減少させるのに、特に適切である。更に、紫外線照射の下、有機化合物の分解は湿気雰囲気の下で拡大される。
【0028】
一実施形態によると、安定化させるための処理が、マイクロ波によって補助されるフィルムの処理、及び室温より高く200℃未満の温度での、誘導によるフィルムの処理から選択され得る。
【0029】
マイクロ波の使用は、フィルムが付着した金属基板の任意の形状に対して、フィルム中に存在する可能性のある、任意の有機材料を効果的に、蒸発させることを可能にする。更に、マイクロ波は酸化物の縮合及び結晶化に都合がよい。
【0030】
一実施態様によると、酸化物の前駆体は、チタンの前駆体、ジルコニウムの前駆体、クロムの前駆体、イットリウムの前駆体、セリウムの前駆体及びアルミニウムの前駆体から選択され得る。
【0031】
特に、酸化物の前駆体は、
チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンs−ブトキシド、チタンn−ブトキシド、チタンt−ブトキシド、チタンイソブトキシド、チタンイソプロポキシド、テトラブチルオルトチタネート、テトラ−tert−ブチルオルトチタネート、ポリ(ジブチルチタネート)、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウム2−メトキシメチル−2−プロポキシド、ジルコニウム2−メチル−2−ブトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムn−ブトキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルヘプタンジオネート)、チタン2,4−ペンタンジオネート、ジイソプロポキシ−ビス(エチルアセトアセテート)チタネート、チタンジ−n−ブトキシド(ビス2,4−ペンタンジオネート)、チタン2−エチルヘクソキシド、チタンオキシドビス(アセチルアセトネート)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)オキソチタン、チタンビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド、ジルコニウムビス(ジエチルシトレート)ジプロポキシド、ジルコニルプロピオネート、クロムアセテート、セリウムt−ブトキシド、セリウムメトキシエトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムブトキシド、イットリウムアセチルアセトネート、イットリウム2−メトキシエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、セリウムイソプロポキシド
:から選択され得る。
【0032】
これらの化合物は、特に、原子力又は熱の発電所の一次及び三次回路、及び航空学、又は風のタービン若しくは海流のタービンなどの海岸の設備における適用に、特に適している。
【0033】
一実施形態によると、酸化物の前駆体の溶液は、1モルの酸化物の前駆体に対して、0から2モルの錯化剤及び10から50モルのエタノールを含み得る。
【0034】
そのような組成物は、50nmから150nmの間の厚さの耐食被膜の製造に非常に適している。溶液の組成物の制御は、厚さを調整できるパラメーターである。確かに、エタノール含有量が多くなるほど、得られる被膜の厚さは薄くなり、それは付着される溶液の同じ量に対して、酸化物の前駆体の分子がより少なくなるためである。溶液中の錯化剤の量は溶液の様々な成分の反応性を調節することを可能にする。特に、これらの錯化剤は、付着の間の加水分解縮合工程をより精密に制御し、溶液を、時間と共に、より安定、及びより均一にすることを可能にする。更に、錯化剤の存在は被膜の微孔構造、特に直径2nm未満の穴の量を、相当変更することを可能にする。
【0035】
一実施形態によると、酸化物の前駆体の溶液は、1モルの酸化物の前駆体に対して、0.2モルまでの界面活性剤を更に含み得る。
【0036】
溶液中の界面活性剤の存在と相対量は、被膜の多孔性を調製することを可能にする。溶液中の界面活性剤が多くなるほど、被膜の多孔性はより多くなる。1モルの酸化物の前駆体に対する、開示された界面活性剤の量は、被膜の40から50体積%を典型的に表す多孔性を得ることを可能にする。この比率は、次の、フィルムに紫外線照射を適用することによる、安定化のための処理の手段によって減少され得る。フィルム中の穴の出現は、耐食被膜に、より機械耐性を付与し、特に、それをより柔軟にして、金属基板と耐食被膜間の熱膨張性の差異による、亀裂の出現の危険性を減少させることに貢献し得る。更に、穴の存在は、腐食生産物をより効果的に制限し、基板を形成する金属元素の移動を減少させることを可能にもする。
【0037】
一実施形態によると、工程b)は、
引き上げが0.5mm/秒から20mm/秒の間の速度で行われる、溶液中の表面の浸漬−引き上げ技術;
表面に関して、制御された噴霧流速、及び制御された噴霧の相対
移動速度で、表面上に溶液を噴霧する技術;
表面を含む容器内で、かつ制御された温度及び圧力の下で、溶液を蒸発させる技術
:から選択される技術により実行され得る。
【0038】
浸漬−引き上げ(浸漬−被覆と呼ばれる)は、単純な技術で、平面の部品などの単純な形状の金属基板に適している。被覆の厚さが、溶液からの金属基板の引き上げ速度により制御され得る。本発明によると、浸漬−引き上げタイプの方法で、非水性溶液の付着は、毛細管現象よりは、「Landau Levich」と呼ばれる方法に従った、脱液を通じて行われる。この付着の様式において、引き上げ速度が速いほど、得られるフィルムが厚くなる。
金属基板の表面上の溶液の噴霧は、例えば、湾曲した円筒状の導管などの複雑な形状の金属基板により適している。噴霧の
移動スピード、及び流速が、得られる被膜の厚さを調製することを可能にする。
【0039】
一実施形態によると、工程b)は、溶液を含浸させた多孔質部品と表面を接触させること、及び毛細管現象を通じて、表面上に溶液を拡散することによって行われ得る。
多孔質部品による溶液の拡散は、表面上の溶液の付着を可能にする。
【0040】
一実施形態によると、工程b)が、少なくとも部分的に、密封された膜により閉じ込められた所定の体積の溶液と表面を接触させて、密封された膜が、表面と平行移動でスライドすることができ、密封された膜の制御された
移動で、前記表面上に制御された厚さのフィルムを形成することを可能にすることにより行われ得る。
【0041】
金属基板上への溶液の付着のそのような方法は、特に、付着された溶液の量の精密な制御を可能にすること、及び金属基板表面に沿って進む最も良好な利点を提案する。そして、付着されたフィルムの厚さが、密閉された膜の移動速度に実質的に依存する。更に、付着のためのこの方法は、表面上の、前駆体のフィルムの付着に必要な溶液の量を減少させる。
【0042】
特に、表面が、円筒状の基板の内部表面である場合、密閉された膜は円筒状の基板の軸方向に沿った移動での可動性であり得る。
【0043】
一実施形態によると、工程b)からe)は、表面の溶液の付着を行うよう配置された活発なモジュールに関して、金属基板の相対
移動を行い、湿気雰囲気にフィルムを暴露し、フィルムを安定化させるための処理に暴露し、及びフィルムを熱処理に暴露する製造ラインにおいて実行される。
【0044】
耐食被膜を製造する方法のための様々な工程が、同じ製造ラインで行われ、上記の様々な作用が、製造ラインによって金属基板にもたらされる、モジュールによって行われる。そのような製造ラインにおいて、それぞれのモジュールは、上記の工程に従って、金属基板への作用を実行し得る。
【0045】
一実施態様によると、加熱処理は300から500℃の間の温度で行われる。
【0046】
これらの温度は、約30分間適用され、金属酸化物を結晶化させ、耐食被膜の合成を完結させる。
【0047】
本発明は、また、上記の方法の実行により、得られた耐食被膜を含む金属基板に関する。
【0048】
制限はしないが、情報の目的で表される下記の実施形態の記載及び下記図の所見を読む際に、本発明の方法の目的がより良好に理解される。