【文献】
R. M. German/三浦秀士等,粉末冶金の化学,日本,株式会社内田老鶴圃,1996年 6月25日,第1版,102-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は本発明に係る金属粉末製造装置であるガスアトマイズ装置の全体構成図である。
図1のガスアトマイズ装置は、液体状の金属である溶融金属(溶湯)が蓄えられる容器である溶解槽(タンディッシュやるつぼ部とも称する)1と、溶解槽1から溶湯ノズル(後述)11を介して細粒となって流下する溶湯に対して高圧ガス(ガス流体)を吹き付けて多数の微粒子に粉砕して溶融金属を液体噴霧する金属噴霧装置200と、金属噴霧装置200に高圧ガスを供給するための噴射ガス供給管(噴射流体供給管)3と、不活性ガス雰囲気に保持された容器であって金属噴霧装置200から噴霧された微粒子状の液体金属が落下中に急冷凝固される噴霧槽4と、噴霧槽4の底部に設けられ噴霧槽4での落下中に凝固した粉末状の固体金属を回収する採集ホッパ5とを備えている。
【0013】
溶解槽1内は不活性ガス雰囲気に保持することが好ましい。噴霧槽4は、上部及び中部では同一の径を有する円筒状の容器であるが、採集ホッパ5による金属粉末の回収し易さの観点から、下部では採集ホッパ5に近づくほど径が小さくなるテーパ形状になっている。採集ホッパ5からは不活性ガスが適宜排気6として排出されている。
【0014】
<第1実施形態>
図2は第1実施形態に係るガスアトマイズ装置の金属噴霧装置200周辺の断面図であり、
図3は第1実施形態の金属噴霧装置200の斜視図である。なお、
図3では後述する第1,第2溶湯ノズル11A,11Bの図示を省略している。
【0015】
−噴霧ノズル20A,20B−
金属噴霧装置200は、噴霧槽4内に向かって溶融金属を流下させる複数の溶湯ノズル11A,11Bと、溶解槽(るつぼ部)1の下方に設置され複数のガス噴射ノズル2A,2Bからガスを噴射するガス噴射器70とを備えている。金属噴霧装置200は、ガス噴射器70の噴霧槽4内に臨む底面に、噴霧槽4内に溶融金属を液体噴霧する複数の噴霧ノズル20A,20Bを構成している。本実施形態のガスアトマイズ装置は第1噴霧ノズル20Aと第2噴霧ノズル20Bの2つの噴霧ノズルを備えている。第1,第2噴霧ノズル20A,20Bは、それぞれ、噴霧槽4内に溶融金属を流下させる溶湯ノズル11A,11Bと、溶湯ノズル11A,11Bの周囲に複数配置されたガス噴射ノズル2A,2Bを有している。すなわち各噴霧ノズル20は溶湯ノズル11とガス噴射ノズル2とを一対で有している。
【0016】
−溶湯ノズル11A,11B−
図2に示すように、溶解槽(るつぼ部)1の底部には、溶解槽1内の溶融金属を噴霧槽4内にそれぞれ流下させる第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bが溶解槽1の底面から鉛直下方に向かって突出して設けられている。第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bは、同一の形状を有しており、それぞれの内部に溶湯が流下する鉛直方向に延びた縦長の孔を有している。この縦長の孔は、溶解槽(るつぼ部)1の底部から鉛直下方に向かって溶融金属が流下する溶湯流路となる。
【0017】
図3に示すように略円柱状の外形を有するガス噴射器70には、当該円柱の軸(Cg0)と平行の軸(Cm1,Cm2)を有する2本の円柱状の貫通孔である第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bが設けられている。第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bは、第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bのそれぞれに挿入されている。溶解槽1はガス噴射器70により支持される。なお、図示は省略するが、溶解槽1とガス噴射器70の間には、溶解槽1からの熱伝導を防止する観点から断熱材を挿入することが好ましい。
【0018】
図3に示すように第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心は円筒状のガス噴射器70の中心と同一直線上に配置することができ、ガス噴射器70の中心軸Cg0から第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心軸Cm1,Cm2までの距離はそれぞれ同一になるように配置することができる。また第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心軸Cm1,Cm2は第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの孔の中心軸に一致させることができる。
【0019】
第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの下端に位置する開口端21A,21Bは、ガス噴射器70の底面から突出して噴霧槽4内の空洞に臨むようにそれぞれ配置されている。溶解槽1内の溶融金属は第1,第2溶湯ノズル11A,11Bの内部の孔を溶湯流8となって流下し開口端21A,21Bを介して噴霧槽4内に放出(流下)される。噴霧槽4内に導入される溶湯の径の大きさ(後述する流下領域27の径の大きさ)に寄与する第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの最小内径としては、例えば従前より小さい1−2mmが選択できる。
【0020】
−ガス噴射ノズル2A,2B−
ガス噴射器70は、不活性の高圧ガスで満たされる中空構造の円柱形状の外形を有しており、その内部は複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bのそれぞれの周囲にガス流を形成するガス流路50となっている。ガス流路50は、ガス噴射器70の円柱の側面に設けられたガス吸入孔(図示せず)に接続される噴射ガス供給管3から高圧ガスの供給を受ける。ガス噴射器70は、ガス流路50に供給されたその高圧ガスをガス噴射器70の底面に設けられた複数の噴射孔9を介して指向性のある噴射ガスジェット(ガス噴流)10として噴射する。複数の噴射孔9は第1溶湯ノズル挿入孔12Aの噴霧槽側開口端の周囲と第2溶湯ノズル挿入孔12Bの噴霧槽側開口端の周囲にそれぞれ円を描くように配置されており、第1溶湯ノズル挿入孔12Aの噴霧槽側開口端を取り囲む複数の噴射孔9はそれぞれ第1ガス噴射ノズル(第1ガス噴射部)2Aを、第2溶湯ノズル挿入孔12Bの噴霧槽側開口端を取り囲む複数の噴射孔9はそれぞれ第2ガス噴射ノズル(第2ガス噴射部)2Bを構成している。ガス噴射ノズル2A,2Bは、複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bごとに設けられており、溶湯ノズル挿入孔の12A,12Bの開口端よりガス噴射器70の外側に向かってガス流路50内のガスを噴射する。
【0021】
図4は各第1ガス噴射ノズル(第1ガス噴射部)2Aを構成する複数の噴射孔9のガス噴射方向と第1溶湯ノズル11Aの溶湯の流下領域27の関係図である。
【0022】
図4には複数の第1ガス噴射ノズル(第1ガス噴射部)2Aを構成する複数の噴射孔9のガス噴射方向を直線25で示しており、各噴射孔9は対応する直線25と一致する中心軸を有する貫通孔をガス噴射器70の底面に穿つことで形成されている。この複数の噴射孔9はガス噴射器70の底面において第1溶湯ノズル挿入孔12Aの中心軸Cm1と同心円上に等間隔で配置されている。
図4では複数の噴射孔9が形成するこの円を円90としている。複数の第1ガス噴射ノズル2Aを構成する全ての噴射孔9のガス噴射方向(直線25)は共通の焦点(第1焦点)26を通過している。すなわち全ての噴射孔9のガス噴射方向は一点(焦点26)に集中している。焦点26は第1溶湯ノズル11A(
図4には図示せず)から流下する溶融金属の外形によって規定される略円柱状の流下領域27内に位置している。流下領域27の径は、第1溶湯ノズル挿入孔12Aの径より小さく、第1溶湯ノズル11Aを構成する孔の最小内径に応じて適宜調整できる。流下領域27の径は例えば第1溶湯ノズル11Aの開口端21Aの径以下の値にすることもできる。
【0023】
なお、説明は省略するが、複数の第2ガス噴射ノズル2Bを構成する複数の噴射孔9も複数の第1ガス噴射ノズル2Aを構成する複数の噴射孔9と同様に形成されている。複数の第2ガス噴射ノズル2Bを構成する複数の噴射孔9に係る焦点26は第2焦点と称することがある。
【0024】
−動作・効果−
上記のように構成される金属粉末製造装置において、噴射ガス供給管3から高圧ガスを供給すると、金属噴霧装置200における複数の第1ガス噴射ノズル2A及び第2ガス噴射ノズル2Bを構成する全ての噴射孔9から噴霧槽4の内部に向かって噴射孔9ごとに予め定められた噴射方向(直線25)に従って同じ圧力の高圧ガスが噴射される。このとき、第1ガス噴射ノズル2A及び第2ガス噴射ノズル2Bでは、それぞれの焦点(第1焦点、第2焦点)26に対してガスが集中噴射され、
図4に示すような焦点26を頂点とし複数の噴射孔9が配置された円90を底面とする逆円錐状(第1の逆円錐形状,第2の逆円錐形状)の流体膜が形成される。
【0025】
一方、溶解槽1に溶融金属を投入すると、溶解槽1の底面に設けられた第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bを介して噴霧槽4の内部に対して2本の溶湯流8が流下領域27内に流下される。そして、その溶湯流8は、第1ガス噴射ノズル2A及び第2ガス噴射ノズル2Bに係る2つの焦点26の近傍で高圧ガスが形成する逆円錐状(第1の逆円錐形状,第2の逆円錐形状)の流体膜と衝突して多数の微粒子15に粉砕される。第1,第2ガス噴射ノズル2A,2Bからの噴射ガスによって液体状の微粒子(微粒子15)となった金属は、噴霧槽4内の落下中に急速冷却されて凝固して多数の金属粉として採集ホッパ5で回収される。
【0026】
本実施形態では第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bを構成する孔の最小内径として従前(例えば5mm程度)よりも小さな値(例えば1−2mm)を選択しているため、例えばガス噴射ノズル2A,2Bから従前と同じ圧力でガスを噴射しても従前よりも径の細かな金属粒子を容易に得られる。また、従前と同じ圧力でガスを噴射した場合には噴霧槽4内での金属粒子の飛距離も抑えられるので、金属粒子の変形防止の観点から径の大きな噴霧槽4への取り替える必要や噴霧槽4の設置スペースを拡大する必要もない。一方、従前よりも最小内径を縮小しているため、溶湯ノズル11A,11Bごとでみれば時間あたりの溶湯流8の流量が従前より低下して収率が低下するものの、本実施形態では1つの噴霧槽4に対して2本の溶湯ノズル11A,11B(すなわち2つの噴霧ノズル20A,20B)を有するため、時間あたりの収率を2倍にすることができる。
【0027】
また、本実施形態では2つの焦点26を溶湯流下領域27の中心にそれぞれ設定しており、かつ、噴射孔9は第1,第2溶湯ノズル挿入孔12A,12Bの中心軸Cm1,Cm2と同心円上に均等に配置されているため、噴射孔9からの高圧ガスは溶湯流8に対して360度均等に噴射される。これにより微粒子15の粒径の均一化を図ることができる。
【0028】
すなわち、本実施形態によれば噴霧槽4の体型を変えずに微細な金属粉末を効率良く製造できる。
【0029】
また、本実施形態の2つの噴霧ノズル20A,20Bはそれぞれ溶湯ノズル11とガス噴射ノズル2とを一対で有している。このように噴霧ノズル20を1組の溶湯ノズル11と噴射ノズル2で構成すると、例えば複数の溶湯ノズル11を設けてその全ての溶湯ノズル11を取り囲むように複数の噴射孔9を配置した噴霧ノズルに比して、各噴霧ノズル20から噴霧される液体金属の粒径を細やかに制御することが可能となる。例えば、後述する第5実施形態のように各ノズルの噴霧条件を変更することで金属粉末の粒度分布を細粒から粗粒の間で所望の分布とすることも可能となる。
【0030】
さらに、本実施形態に係るガス噴射器70は、複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bと、その複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bのそれぞれの周囲にガス流を形成するガス流路50とを有している。ガス流路50内のガス流は、噴射孔9から噴射される前に、溶湯流下中の溶湯ノズル11A,11Bを熱交換により冷却する機能を有する。本実施形態のガス噴射器70では複数の溶湯ノズル11A,11Bのそれぞれの周囲にガス流路50が形成される構造となっており、その流路50内のガス流との熱交換により溶湯ノズル11A,11Bはそれぞれの周囲から冷却される。これにより溶湯ノズル11A,11Bに局所的な温度上昇、すなわち不均一な温度分布が生じることを防止でき、不均一な温度分布が原因で溶湯ノズル11A,11Bが損傷する可能性を低減できる。特に本実施形態のガス噴射器70では、その中心軸Cg0を基準として対称に溶湯ノズル挿入孔12A,12B、噴射孔9、及びガス流路50が設けられているため、中心軸Cg0に直交する面におけるガス噴射器70及び溶湯ノズル11A,11Bの温度分布を均一化できる点がメリットとなる。
【0031】
なお、上記実施形態で説明した、溶融金属が蓄えられるるつぼ部(溶解槽)1と、るつぼ部1の底部から下方に向かって設けられ、るつぼ部1の底部から下方に向かって溶融金属が流下する溶湯流路を形成する溶湯ノズル11A,11Bと、を「るつぼ器」と総称することがある。
【0032】
<第2実施形態>
上記の第1実施形態では従前と同径の噴霧槽4に2つの噴霧ノズル20A,20Bを設けたため、各噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される微粒子15が噴霧槽4内で凝固前に衝突して変形するおそれがある。本実施形態はこの課題の解決を試みる実施形態の1つである。
【0033】
図5は第2実施形態の金属噴霧装置200の斜視図である。なお、
図3同様、第1,第2溶湯ノズル11A,11Bの図示を省略している。他の部分については第1実施形態と同じ構成とし説明は省略する。
【0034】
図5のガス噴射器70の底面には、隣接する2つの噴霧ノズル20A,20B(言い代えると、2つの溶湯ノズル挿入孔12A,12B)の間に直線状に所定の間隔を介して配置された複数の噴射孔31によってシールガス噴流ノズル30Aが設けられている。複数の噴射孔31が配置される直線はガス噴射器70の中心軸Cg0と交差しており、ガス噴射器70の底面の中心を通過している。各噴射孔31は略鉛直方向に延びる中心軸を有する貫通孔をガス噴射器70の底面に穿つことで形成されている。各噴射孔31には噴射孔9と同様に噴射ガス供給管3から高圧ガスが供給可能に構成されており、各噴射孔31の軸方向である鉛直下方向に高圧ガスを噴射する。これにより噴霧槽4の少なくとも上方の領域(空間)を2つに区画する膜状噴流(エアカーテン,シールガス噴流)35が形成される。
【0035】
このように形成した膜状噴流35はエアカーテンとして機能し、第1噴霧ノズル20Aから噴霧された微粒子15(溶湯ノズル11Aから流下される溶融金属)と第2噴霧ノズル20Bから噴霧された微粒子15(溶湯ノズル11Bから流下される溶融金属)が衝突することを防止する。その結果、変形した金属粒子の発生が防止され、第1実施形態よりも金属粉末の製造効率を向上できる。また、例えば従前と同径の噴霧槽4を利用した場合であっても微粒子15の衝突を防止できるので、噴霧槽4の取り替えコストや設置スペースの増大を防止することもできる。
【0036】
なお、複数の噴射孔31は、粒子同士の衝突防止の観点からは
図5に示すようにガス噴射器70の底面を横断するように配置することが好ましいが、粒子同士の衝突が頻繁に起こると予測される部分(例えば、中心軸Cg0付近)にだけ集中して配置し他の部分への配置は省略しても良い。上記の例では複数の噴射孔31を直線状に配置したが曲線状に配置しても良い。また、ガス噴射器70の内部を区画し、噴射孔31には噴射孔9とは異なる圧力や種類のガスの供給を可能にしても良い。
【0037】
<第3実施形態>
本実施形態は第2実施形態の変形例であり、次に説明するように金属噴霧装置200(ガス噴射器70)を構成しても膜状噴流35によって微粒子15同士の衝突を防止できる。
【0038】
図6は第3実施形態の金属噴霧装置200の斜視図である。なお、
図3等と同様、第1,第2溶湯ノズル11A,11Bの図示を省略している。他の部分については第1実施形態と同じ構成とし説明は省略する。
【0039】
図6のガス噴射器70の底面には、シールガス噴流ノズル30Bとして、隣接する2つの噴霧ノズル20A,20Bの間に直線状に延びる細長い隙間であるスリット32が設けられている。スリット32はガス噴射器70の中心軸Cg0と交差しており、ガス噴射器70の底面の中心を通過している。スリット32は貫通孔をガス噴射器70の底面に穿つことで形成されている。スリット32には噴射孔9と同様に噴射ガス供給管3から高圧ガスが供給可能に構成されており、スリット32から鉛直下方向に高圧ガスを噴射する。これにより噴霧槽4の少なくとも上方の領域を2つに区画する膜状噴流(エアカーテン)35が形成される。
【0040】
このように形成した膜状噴流35は、第1噴霧ノズル20Aから噴霧された微粒子15と第2噴霧ノズル20Bから噴霧された微粒子15が衝突することを防止するので、変形した金属粒子の発生が防止され、第1実施形態よりも金属粉末の製造効率を向上できる。
【0041】
なお、スリット32は、粒子同士の衝突防止の観点からは
図6に示すようにガス噴射器70の底面を横断するように配置することが好ましいが、粒子同士の衝突が頻繁に起こると予測される部分(例えば、中心軸Cg0付近)にだけ集中して配置し他の部分への配置は省略しても良い。また、ガス噴射器70の内部を区画し、スリット32には噴射孔9とは異なる圧力や種類のガスの供給を可能にしても良い。
【0042】
<第4実施形態>
本実施形態は、上記の第2,第3実施形態と同じ課題(隣接する2つの噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される凝固前の微粒子15の衝突・変形)の解決を試みる実施形態の1つであり、第1実施形態の複数のガス噴射ノズル2A,2Bを所定角度θだけチルトしたものに相当する。
【0043】
図7は第4実施形態の金属噴霧装置200の斜視図であり,
図8はガス噴射器70の中心軸Cg0と後述の2点Tc1,Tc2を含む垂直面によるガス噴射器70の模式断面図である。なお、
図7では第1,第2溶湯ノズル11A,11Bの図示を省略しており、
図8ではガス噴射器70の外形の断面形状のみを示している。先の実施形態と同じ部分の説明は適宜省略する。
【0044】
まず第1実施形態の複数の第1ガス噴射ノズル(第1ガス噴射部)2Aを構成する全ての噴射孔9が配置される円90と同じ中心を有し、複数の第1ガス噴射ノズル2Aを構成する全ての噴射孔9がその内部に含まれる径を有する第1円形面45A(
図3参照)を設定する。このとき、
図7に示した第4実施形態に係る複数の第1ガス噴射ノズル2Aにおける第1円形面46Aは、
図8に示すように、第1円形面45Aの円周上で中心軸Cg0に最も近い点に設定される点(チルト中心)Tc1を中心に上方に当該第1円形面45Aを所定角度θだけチルトしたものに相当する。複数の第2ガス噴射ノズル(第2ガス噴射部)2Bについても同様に第2円形面45B(図示せず)を設定すると、
図7の複数の第2ガス噴射ノズル2Bにおける第2円形面46Bは第2円形面45Bの円周上で中心軸Cg0に最も近い点に設定される点(チルト中心)Tc2を中心に上方に当該第2円形面45Bを所定角度θだけチルトしたものに相当する。
【0045】
また、
図7において、複数の第1ガス噴射ノズル(第1ガス噴射部)2Aと複数の第2ガス噴射ノズル(第2ガス噴射部)2Bを構成する複数の噴射孔9は第1円形面46Aと第2円形面46B上の点であって中心軸Cg0から等距離にある2点Pg1,Pg2を中心とする同一の径の円90の円周上にそれぞれ等間隔で配置されている。2点Pg1,Pg2は複数の第1,第2ガス噴射ノズル2A,2Bの噴射ガスが形成する流体膜に係る第1,第2の逆円錐形状の底面の中心点である。
【0046】
第1実施形態と異なり、逆円錐の底面の中心点Pg1は第1溶湯ノズル挿入孔12Aの中心軸Cm1から離れており、複数の噴射孔9が構成する円90の内部に位置している。同様に中心点Pg2も第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心軸Cm2から離れており、複数の噴射孔9が構成する円90の内部に位置している。より具体的には、第1溶湯ノズル挿入孔12Aの開口端と噴射孔9の開口端が重ならない範囲で(つまり、第1溶湯ノズル11Aとそれに対応する複数のガス噴射ノズル2Aが重ならない範囲で)、中心点Pg1よりもガス噴射器70の底面の径方向外側(すなわち噴霧槽4の内側面側)に中心軸Cm1が位置しており、同様に、第2溶湯ノズル挿入孔12Bの開口端と噴射孔9の開口端が重ならない範囲で(つまり、第2溶湯ノズル11Bとそれに対応する複数のガス噴射ノズル2Bが重ならない範囲で)、中心点Pg2よりもガス噴射器70の底面の径方向外側(噴霧槽4の内側面側)に中心軸Cm2が位置している。
【0047】
複数の第1ガス噴射ノズル2Aの噴射ガスが形成する流体膜に係る第1の逆円錐形状の底面(すなわち円90)の中心点Pg1とその頂点(第1焦点26)を結ぶ直線41Aと、同様に複数の第2ガス噴射ノズル2Bが形成する流体膜に係る第2の逆円錐形状の底面(すなわち円90(ただし図示せず))の中心点Pg2とその頂点(第2焦点26)を結ぶ直線41Bとを定義する。そして、2つの直線41A,41Bにおいて中心点Pg1,Pg2から第1,第2焦点26に向かう方向を焦点方向と定義し、
図7中ではその方向を矢印で示した。
【0048】
本実施形態では、直線41Aと直線41Bとが
図7に示すように逆V字を描くように、複数の第1ガス噴射ノズル2Aと複数の第2ガス噴射ノズル2Bにおけるそれぞれの複数の孔9のガス噴射方向25(すなわち噴射孔(貫通孔)9の軸方向)が
図9に示すように調整されている。ただし、直線41Aと直線41Bは中心軸Cg0を通過する同一平面上に配置されるように複数の第1ガス噴射ノズル2Aと複数の第2ガス噴射ノズル2Bを構成する複数の孔9のガス噴射方向25をそれぞれ調整することが好ましい。
【0049】
図9は
図7の複数の第1ガス噴射ノズル2Aを構成する複数の噴射孔9のガス噴射方向と第1溶湯ノズル11Aの溶湯の流下領域27の関係図である。なお、
図9では第1溶湯ノズル11Aの図示を省略している。
【0050】
この図の複数の第1ガス噴射ノズル(第1ガス噴射部)2Aを構成する複数の噴射孔9はそれぞれ図中に示した直線25と一致する中心軸を有する貫通孔をガス噴射器70の底面に穿つことで形成されている。すなわち本実施形態では複数の第1ガス噴射ノズル2Aに係る全ての噴射孔9の中心軸も
図4の状態(第1実施形態の状態)からθだけチルトしており、焦点26の方向がθだけ噴霧槽4の内側面に向かって傾いている。
【0051】
また、
図9において、第1焦点26は第1溶湯ノズル11A(
図9には図示せず)から流下する溶融金属の外形によって規定される略円柱状の流下領域27内に位置している。そして、逆円錐の底面の中心点Pg1よりもガス噴射器70の底面の径方向外側に第1焦点26が位置している。なお、説明は省略するが、複数の第2ガス噴射ノズル2Bに係る逆円錐の底面の中心点Pg1とその頂点である第2焦点26も第1ガス噴射ノズル2Aの中心点Pg1と第1焦点26と同様の位置関係で配置されている。
【0052】
−動作・効果−
上記のように構成される金属粉末製造装置において、噴射ガス供給管3から高圧ガスを供給すると、複数の第1ガス噴射ノズル2A及び第2ガス噴射ノズル2Bを構成する全ての噴射孔9から予め定められた噴射方向(直線25)に従って同じ圧力の高圧ガスが噴射される。このとき、第1ガス噴射ノズル2A及び第2ガス噴射ノズル2Bでは、それぞれの焦点(第1焦点、第2焦点)26に対してガスが集中噴射され、
図9に示すような焦点26を頂点とし複数の噴射孔9が配置された円を底面とする逆円錐状(第1の逆円錐形状,第2の逆円錐形状)の流体膜が形成される。このときの逆円錐は所定角度θだけチルトしているが、第1実施形態と同様に円錐底面の中心Pg1,Pg2と頂点を結ぶ直線41A,41Bが円錐底面と直交する直円錐となる。
【0053】
一方、第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bを介して流下する溶湯流8は、複数の第1ガス噴射ノズル2A及び第2ガス噴射ノズル2Bに係る2つの焦点26の近傍で高圧ガスが形成するチルトした逆円錐状(直円錐状)の流体膜と衝突して多数の微粒子15に粉砕される。その際、微粒子15はチルトした複数の第1ガス噴射ノズル2Aと複数の第2ガス噴射ノズル2Bによって噴霧槽4の径方向外側(噴霧槽4の内側面側)に向かう速度を付与されて
図7に示すように噴霧槽4の内側面に向かって飛散する。すなわち第1噴霧ノズル20Aから噴霧される微粒子15と第2噴霧ノズル20Bから噴霧される微粒子15は異なる方向に向かって飛散するので、噴霧槽4内の落下中に衝突して変形することが防止できる。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態よりも金属粉末の製造効率を向上できる。
【0054】
なお、第4実施形態として説明したものよりも所望の粒径の金属粉の収率は低下する可能性もあるが、第1実施形態の構成において複数の噴射孔9のガス噴射方向(中心軸の方向)を適宜変更して複数のガス噴射ノズル2A,2Bがガスで形成する流体膜を直円錐から斜円錐に代えても噴霧槽4の内側面側に向かう速度を微粒子15に付与することができるので、微粒子15同士が衝突することを防止できる。
【0055】
なお、微粒子15同士の衝突回避の観点からは、第1噴霧ノズル20Aから噴霧される微粒子15と第2噴霧ノズル20Bから噴霧される微粒子15の水平方向における飛散方向を正反対にすることが好ましく、そのためには中心軸Cg0と2つの中心点Pg1,Pg2が同一平面に位置するように複数の第1ガス噴射ノズル2Aと複数の第2ガス噴射ノズル2Bを設けることが好ましい。
【0056】
また、上記では説明を簡略化するため2つの噴霧ノズル20A,20Bに係るガス噴射ノズル2A,2Bのチルト角を一致させたが、両者のチルト角は異ならせても良い。
【0057】
<第5実施形態>
本実施形態では複数の噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件をそれぞれ異ならせることにより1基のガスアトマイズ装置(金属粉末製造装置)で製造される金属粉末の粒径分布(「粒度分布」とも称する)を制御可能としている点に特徴がある。
【0058】
上記第1−第4実施形態のように複数の噴霧ノズル20A,20Bで噴霧条件を同一にすると、通常、
図10に示すように、製造される金属粉末の粒径分布はその噴霧条件によって規定される平均粒径(平均直径)をピークとする正規分布となる。すなわち噴霧条件を同一にすると、製造される金属粉末の粒径は1つのピーク値に集中する傾向がある。しかしながら種々のユーザの希望する粒径が常に当該ピーク値に一致するとは限らず、当該ピーク値から外れた粒径(例えばμ(平均)±σ(標準偏差)の範囲(1σ区間)を外れた粒径)の粉末や、比較的広範囲(例えば1σ区間よりも広い区間)の粒径の粉末を希望するユーザも存在し得る。したがって、このようなニーズがあった場合には、金属粉末の粒度分布が1つのピークを有する正規分布となるガスアトマイズ装置(すなわち、各噴霧ノズルの噴霧条件が同一のガスアトマイズ装置)では金属粉末の収率が低下する可能性がある。
【0059】
そこで本実施形態では複数の噴霧ノズル20A,20Bのそれぞれの噴霧条件を異ならせることとした。具体的に変更可能な噴霧条件としては、例えば、(1)複数のガス噴射ノズル2から噴射されるガス流体の噴射圧、(2)複数のガス噴射ノズル2における噴射孔9の角度、(3)複数のガス噴射ノズル2における噴射孔9の径、(4)複数のガス噴射ノズル2における噴射孔9の数、(5)溶湯ノズル11の最小孔径(オリフィス径)、(6)溶湯ノズル11の先端形状がある。次にこれらの噴霧条件を実現するための構造について
図11−
図15を用いて説明する。
【0060】
噴霧条件(1):複数のガス噴射ノズル2から噴射されるガス流体の噴射圧
図11は噴霧ノズル20Aに係るガス噴射ノズル2Aと噴霧ノズル20Bに係るガス噴射ノズル2Bから噴射されるガス流体(高圧ガス)の噴射圧をそれぞれ異ならせることが可能な金属噴霧装置210周辺の断面図である。この図の金属噴霧装置210は、2つのガス噴射ノズル2A,2Bで共通のガス流路50を利用した第1実施形態と異なり、圧力の異なるガス供給源(図示せず)に接続された独立した内部流路50A,50Bを備えている。各内部流路50A,50Bには異なる噴射ガス供給管3A,3Bを介して圧力の異なるガス供給源からガス流体が供給されており、ガス噴射ノズル2A,2Bからは噴射圧の異なるガス流体が噴射される。
【0061】
例えば、内部流路50Bに相対的に高圧なガスを導入し、ガス噴射ノズル2Bからガス噴射ノズル2Aよりも高圧のガス流体を噴射すると、第2溶湯ノズル11Bから流下する溶融金属はガス噴射ノズル2Bから噴射される高圧ガスによって第1溶湯ノズル11Aから流下する溶融金属よりも細かく粉砕されるので、噴霧ノズル20Bから噴霧される金属の粒度は噴霧ノズル20Aから噴霧されるものに比べて細粒化される。すなわちガス噴射ノズル2から噴射されるガス流体の噴射圧を増加するほど金属粉末は細粒化される傾向がある。これによりガス噴射圧の異なる2つの噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される金属の粒度分布が異なることとなり、例えば
図17に示すように金属粉末の粒度分布に2つのピーク(平均粒径μ1,μ2)が現れる。
図17において仮に噴霧ノズル20Aから噴霧された金属粉末の平均粒径をμ1とすると、噴霧ノズル20Bから噴霧された金属粉末の平均粒径はμ1に比して小さいμ2となる。これにより、この場合の金属粉末の粒径分布は、2つの噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件によって規定される平均粒径μ1,μ2の異なる2つの正規分布を合成した分布となる。したがって、噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件が同一だった場合(
図10参照)に比べて広範囲の粒度を有する金属粉末を一度に製造することができる。
【0062】
図16は、基準となる噴霧ノズル(図中では「比較例」と表記しており、例えば第1実施形態の噴霧ノズル20A,20Bのいずれか)に対して、上記噴霧条件(1)−(6)のいずれかを変更した6つの実施例から得られる金属粉末の粒度の傾向を表形式でまとめた図である。
【0063】
図16の実施例1は、比較例(ここでは第1実施形態の噴霧ノズル20A)に対して上記の噴霧条件(1)を変更した
図11の噴霧ノズル20Bに相当し、ガス流路(内部流路50A,50B)の独立化によりガス噴射ノズル2の噴射ガス圧の値を比較例の1.5倍としたものである。この場合、実施例1の噴霧ノズルによる金属粉末の粒度は比較例に比して細粒となる。
【0064】
噴霧条件(2):複数のガス噴射ノズル2における噴射孔9の角度
図12は噴霧ノズル20Aに係るガス噴射ノズル2Aの噴射孔9aと噴霧ノズル20Bに係るガス噴射ノズル2Bの噴射孔9の角度(傾斜角度)をそれぞれ異ならせた金属噴霧装置220周辺の断面図である。噴射孔9(噴射孔9a)の角度は、図中に示すように、噴射孔9(噴射孔9a)の中心軸25と第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心軸Cm2(第1溶湯ノズル挿入孔12Aの中心軸Cm1)のなす角θ9(θ9a)で定義することができる(但し、θ9とθ9aは90度未満とする)。この図の金属噴霧装置220は、2つのガス噴射ノズル2A,2Bで共通した噴射孔9の角度を利用した第1実施形態と異なり、ガス噴射ノズル2Aに属する複数の噴射孔9aの角度θ9aと、ガス噴射ノズル2Bに属する複数の噴射孔9の角度θ9とを異ならせている。具体的には、ガス噴射ノズル2Aに属する複数の噴射孔9aの角度θ9aは、ガス噴射ノズル2Bに属する複数の噴射孔9の角度θ9よりも小さく設定されている。
【0065】
図12に示すようにガス噴射ノズル2B(噴霧ノズル20B)に属する複数の噴射孔9の角度θ9よりもガス噴射ノズル2A(噴霧ノズル20A)に属する複数の噴射孔9aの角度θ9aを小さくすると、噴霧ノズル20Aから噴霧される金属の粒度は噴霧ノズル20Bから噴霧されるものに比べて粗粒化される。すなわち噴射孔9,9aの角度を低減するほど金属粉末は粗粒化される傾向がある(換言すると、噴射孔9,9aの角度を増加するほど(水平に近づけるほど)金属粉末は細粒化される傾向がある)。これにより噴射孔9,9aの角度の異なる2つの噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される金属の粒度分布が異なることとなり、例えば
図17に示すように金属粉末の粒度分布に2つのピーク(平均粒径μ1,μ2)が現れる。
図17において仮に噴霧ノズル20Aから噴霧された金属粉末の平均粒径をμ1とすると、噴霧ノズル20Bから噴霧された金属粉末の平均粒径はμ1に比して小さいμ2となる。すなわち、噴霧条件(1)を変更した上記の場合と同様に、噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件が同一だった場合(
図10参照)に比べて広範囲の粒度を有する金属粉末を一度に製造することができる。
【0066】
図16の実施例2は、比較例(ここでは第1実施形態の噴霧ノズル20B)に対して上記の噴霧条件(2)を変更した
図12の噴霧ノズル20Aに相当し、噴射孔9aの角度θ9aを比較例の角度θ9から10度低減した値としたものである。この場合、実施例2の噴霧ノズル20Aによる金属粉末の粒度は比較例に比して粗粒となる。
【0067】
噴霧条件(3):複数のガス噴射ノズル2における噴射孔9の径
図13は噴霧ノズル20Aに係るガス噴射ノズル2Aの噴射孔9と噴霧ノズル20Bに係るガス噴射ノズル2Bの噴射孔9の径をそれぞれ異ならせた金属噴霧装置230周辺の断面図である。この図の金属噴霧装置230は、2つのガス噴射ノズル2A,2Bで共通した噴射孔9の径を利用した第1実施形態と異なり、ガス噴射ノズル2Aに属する複数の噴射孔9の径と、ガス噴射ノズル2Bに属する複数の噴射孔9rの径とを異ならせている。具体的には、ガス噴射ノズル2Bに属する複数の噴射孔9rの径は、ガス噴射ノズル2Aに属する複数の噴射孔9の径よりも大きく設定されている。
【0068】
図13に示すようにガス噴射ノズル2A(噴霧ノズル20A)に属する複数の噴射孔9の径よりもガス噴射ノズル2B(噴霧ノズル20B)に属する複数の噴射孔9rの径を大きくするとガス噴射ノズル2Bのガス量が増加し、噴霧ノズル20Bから噴霧される金属の粒度は噴霧ノズル20Aから噴霧されるものに比べて細粒化される。すなわち噴射孔9,9rの径を増加するほど金属粉末は細粒化される傾向がある(換言すると、噴射孔9,9rの径を低減するほど金属粉末は粗粒化される傾向がある)。これにより噴射孔9,9rの径の異なる2つの噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される金属の粒度分布が異なることとなり、例えば
図17に示すように金属粉末の粒度分布に2つのピーク(平均粒径μ1,μ2)が現れる。
図17において仮に噴霧ノズル20Aから噴霧された金属粉末の平均粒径をμ1とすると、噴霧ノズル20Bから噴霧された金属粉末の平均粒径はμ1に比して小さいμ2となる。すなわち、噴霧条件(1)を変更した上記の場合と同様に、噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件が同一だった場合(
図10参照)に比べて広範囲の粒度を有する金属粉末を一度に製造することができる。
【0069】
図16の実施例3は、比較例(ここでは第1実施形態の噴霧ノズル20A)に対して上記の噴霧条件(3)を変更した
図13の噴霧ノズル20Bに相当し、噴射孔9rの径を比較例の噴射孔9の径の2倍に増大した値としたものである。この場合、実施例3の噴霧ノズル20Bによる金属粉末の粒度は比較例に比して細粒となる。
【0070】
噴霧条件(4):複数のガス噴射ノズル2における噴射孔9の数
この噴霧条件(4)に係る金属噴霧装置(図示せず)は、2つのガス噴射ノズル2A,2Bで共通した噴射孔9の数を利用した第1実施形態と異なり、ガス噴射ノズル2Aに属する複数の噴射孔9の数と、ガス噴射ノズル2Bに属する複数の噴射孔9rの数とを異ならせている。例えば、ガス噴射ノズル2Bに属する複数の噴射孔9の数を、ガス噴射ノズル2Aに属する複数の噴射孔9の数よりも多く設定した金属噴霧装置がある。このようにガス噴射ノズル2A(噴霧ノズル20A)に属する複数の噴射孔9の数よりもガス噴射ノズル2B(噴霧ノズル20B)に属する複数の噴射孔9の数を多く設けるとガス噴射ノズル2Bのガス量が増加し、噴霧ノズル20Bから噴霧される金属の粒度は噴霧ノズル20Aから噴霧されるものに比べて細粒化される。すなわち噴射孔9の数を増加するほど金属粉末は細粒化される傾向がある(換言すると、噴射孔9の数を低減するほど金属粉末は粗粒化される傾向がある)。これにより噴射孔9の数の異なる2つの噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される金属の粒度分布が異なることとなり、例えば
図17に示すように金属粉末の粒度分布に2つのピーク(平均粒径μ1,μ2)が現れる。
図17において仮に噴霧ノズル20Aから噴霧された金属粉末の平均粒径をμ1とすると、噴霧ノズル20Bから噴霧された金属粉末の平均粒径はμ1に比して小さいμ2となる。すなわち、噴霧条件(1)を変更した上記の場合と同様に、噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件が同一だった場合(
図10参照)に比べて広範囲の粒度を有する金属粉末を一度に製造することができる。
【0071】
図16の実施例4は、比較例(ここでは第1実施形態の噴霧ノズル20A)に対して上記の噴霧条件(4)を変更した上記例における噴霧ノズル20Bに相当し、噴射孔9の数を比較例の噴射孔9の数の2倍に増大した値としたものである。この場合、実施例4の噴霧ノズル20Bによる金属粉末の粒度は比較例に比して細粒となる。
【0072】
噴霧条件(5):溶湯ノズル11の最小孔径(オリフィス径)
図14は噴霧ノズル20Aに第1溶湯ノズル11Aの最小孔径60aと噴霧ノズル20Bに係る第2溶湯ノズル11Bの最小孔径60bをそれぞれ異ならせた金属噴霧装置240周辺の断面図である。この図の金属噴霧装置240は、2つの第1溶湯ノズル11A,11Bで共通した最小孔径を利用した第1実施形態と異なり、第1溶湯ノズル11Aの最小孔径60aと、第2溶湯ノズル11Bの最小孔径60bとを異ならせている。具体的には、第1溶湯ノズル11Aの最小孔径60aは、第2溶湯ノズル11Bの最小孔径60bよりも大きく設定されている。なお、
図14の2つの溶湯ノズル11A,11Bの孔径は軸方向に沿って一定だが、孔内に他の部分よりも径の小さいオリフィスを設けることで溶湯ノズル11A,11Bの最小孔径を設定しても良く、この場合の最小孔径はオリフィス径に一致する。
【0073】
図14に示すように第2溶湯ノズル11B(噴霧ノズル20B)の最小孔径60bよりも第1溶湯ノズル11A(噴霧ノズル20A)の最小孔径60aを大きくして単位時間あたりの出湯量を増加すると、噴霧ノズル20Aから噴霧される金属の粒度は噴霧ノズル20Bから噴霧されるものに比べて粗粒化される。すなわち最小孔径60a,60bを増加するほど金属粉末は粗粒化される傾向がある(換言すると、最小孔径60a,60bを低減するほど金属粉末は細粒化される傾向がある)。これにより最小孔径60a,60bの異なる2つの噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される金属の粒度分布が異なることとなり、例えば
図17に示すように金属粉末の粒度分布に2つのピーク(平均粒径μ1,μ2)が現れる。
図17において仮に噴霧ノズル20Aから噴霧された金属粉末の平均粒径をμ1とすると、噴霧ノズル20Bから噴霧された金属粉末の平均粒径はμ1に比して小さいμ2となる。すなわち、噴霧条件(1)を変更した上記の場合と同様に、噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件が同一だった場合(
図10参照)に比べて広範囲の粒度を有する金属粉末を一度に製造することができる。
【0074】
図16の実施例5は、比較例(ここでは第1実施形態の噴霧ノズル20B)に対して上記の噴霧条件(5)を変更した
図14の噴霧ノズル20Aに相当し、最小孔径60a(オリフィス径)を比較例の値の1.5倍に増大した値としたものである。この場合、実施例5の噴霧ノズル20Aによる金属粉末の粒度は比較例に比して粗粒となる。
【0075】
噴霧条件(6):溶湯ノズル11の先端形状
図15Aは噴霧ノズル20Aに係る第1溶湯ノズル11Aの先端形状65aと噴霧ノズル20Bに係る第2溶湯ノズル11Bの先端形状65bをそれぞれ異ならせた金属噴霧装置250周辺の断面図であり、
図15Bは第1,第2溶湯ノズル11A,11Bの先端部の拡大図である。これらの図の金属噴霧装置250は、2つの第1溶湯ノズル11A,11Bで共通した先端形状を利用した第1実施形態と異なり、第1溶湯ノズル11Aの先端形状65aと、第2溶湯ノズル11Bの先端形状65bとを異ならせている。
図15Aおよび
図15Bの例では先端形状として溶湯ノズル11A,11Bの先端角度θ65a,θ65bを異ならせている。
図15Bに示すように、溶湯ノズル11A,11Bの先端角度θ65a,θ65bは、溶湯ノズル11A,11Bの先端部の軸方向断面における外形形状が溶湯ノズル11A,11Bの中心軸(溶湯ノズル挿入孔12A,12Bの中心軸Cm1,Cm2)となす角θ65a,θ65bで規定できる。
図15Aおよび
図15Bの例では、第1溶湯ノズル11Aの先端角度θ65aは略90度であり、第2溶湯ノズル11Bの先端角度θ65bよりも大きく設定されている。
【0076】
図15Aに示すように第2溶湯ノズル11B(噴霧ノズル20B)の先端角度θ65bよりも第1溶湯ノズル11A(噴霧ノズル20A)の先端角度θ65aを大きくすると、噴霧ノズル20Aから噴霧される金属の粒度は噴霧ノズル20Bから噴霧されるものに比べて粗粒化される。すなわち先端角度θ65a,θ65bを増加するほど金属粉末は粗粒化される傾向がある(換言すると、先端角度θ65a,θ65bを低減するほど金属粉末は細粒化される傾向がある)。これにより先端角度θ65a,θ65bの異なる2つの噴霧ノズル20A,20Bから噴霧される金属の粒度分布が異なることとなり、例えば
図17に示すように金属粉末の粒度分布に2つのピーク(平均粒径μ1,μ2)が現れる。
図17において仮に噴霧ノズル20Aから噴霧された金属粉末の平均粒径をμ1とすると、噴霧ノズル20Bから噴霧された金属粉末の平均粒径はμ1に比して小さいμ2となる。すなわち、噴霧条件(1)を変更した上記の場合と同様に、噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件が同一だった場合(
図10参照)に比べて広範囲の粒度を有する金属粉末を一度に製造することができる。
【0077】
図16の実施例6は、比較例(ここでは第1実施形態の噴霧ノズル20B)に対して上記の噴霧条件(6)を変更した
図15Aおよび
図15Bの噴霧ノズル20Aに相当し、先端角度θ65aを比較例の値から20度増加した値としたものである。この場合、実施例6の噴霧ノズル20Aによる金属粉末の粒度は比較例に比して粗粒となる。
【0078】
以上のように、本実施形態では、複数の噴霧ノズル20A,20Bの噴霧条件を異ならせることにより、1基のガスアトマイズ装置で製造される金属粉末の粒度分布をニーズに合わせて適宜調節することができる。すなわち、上記のように構成した本実施形態によれば、粒度分布に複数のピークを出現させることができ、一度に広範な粒度分布の金属粉末を製造できるので、幅広い顧客ニーズに柔軟に対応できる。
【0079】
なお、上記の例では、2つの噴霧ノズル20A,20Bを備えるガスアトマイズ装置を例に挙げて説明したが、3つ以上の噴霧ノズルを備えるガスアトマイズ装置においても噴霧条件を適宜変更することで粒度分布が調整可能になることはいうまでもない。例えば、噴霧ノズルを3つ以上備えるガスアトマイズ装置において各噴霧ノズルで異なる平均粒径の金属粉末を製造可能なように噴霧条件を設定すれば、
図18に示すように複数のピークが連続的に重なることで粒度分布の偏りが抑制されたフラットな分布に調節することも可能である。
【0080】
また、上記では例示した6通りの噴霧条件(1)−(6)を1つずつ変更する場合について説明したが、6通りの噴霧条件(1)−(6)のうち2つ以上を適宜組み合わせたものを1つの噴霧ノズル20の噴霧条件としても良い。すなわち、複数の噴霧ノズル20における噴霧条件は、上記(1)−(6)の噴霧条件の少なくとも1つによって異ならせることができる。すなわち、複数の溶湯ノズル11には、最小孔径及び先端形状のうち少なくとも一方が他の溶湯ノズル11と異なっている溶湯ノズル11が含まれていることがあり,複数のガス噴射ノズル2には、ガス流体の噴射圧、噴射孔の角度、噴射孔の径、及び噴射孔の数のうち少なくとも1つが他のガス噴射ノズル2と異なっているガス噴射ノズル2が含まれていることがある。
【0081】
<その他>
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0082】
上記の実施形態では1つ噴霧槽につき2つの噴霧ノズル20A,20Bを備える場合について説明したが、噴霧ノズル20A,20Bの数は3以上に増加しても構わない。
【0083】
また、ガス噴射ノズル2A,2Bから気体(ガス流体)を噴射する場合について説明したが水などの液体を噴射しても構わない。すなわち流体を噴射するノズルであれば本発明は適用できる可能性がある。