特許第6906738号(P6906738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906738
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/027 20120101AFI20210708BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   F16H57/027
   F16J15/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-181171(P2017-181171)
(22)【出願日】2017年9月21日
(65)【公開番号】特開2019-56423(P2019-56423A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩鶴 優児
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 辰昭
(72)【発明者】
【氏名】本池 一利
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−142461(JP,U)
【文献】 実開平02−031947(JP,U)
【文献】 特開2005−315393(JP,A)
【文献】 特開2008−303972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/027
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機と、前記変速機から動力が伝達されるギヤ機構と、前記変速機および前記ギヤ機構を収容するケースと、前記ケースの内部を外気に連通させるブリーザプラグとを含む動力伝達装置において、
前記ケースに形成され、前記ブリーザプラグの通気路に連通する凹部と、
前記凹部を覆ってブリーザ室を画成するように前記ケースに固定されると共に、前記ブリーザ室と前記ケースの前記内部とを連通させる通気孔を有する金属製のプレートと、
前記ケースおよび前記プレートの少なくとも何れか一方に設けられ、前記ギヤ機構に含まれるギヤにより掻き上げられた油が前記ケースと前記プレートとの隙間を介して前記ブリーザ室に流入するのを規制するシール部と、
を備え
前記シール部は、前記プレートに固定されると共に前記ケースの一部に当接するシール部材を含み、前記シール部材は、弾性変形可能なゴム材または樹脂により形成されている動力伝達装置。
【請求項2】
請求項に記載の動力伝達装置において、
前記ケースは、前記変速機のシャフトを支持する筒状のシャフト支持部を有し、
前記ギヤは、前記シャフト支持部の側方に配置されると共に、該ギヤと前記シャフト支持部との間に油を掻き上げ、
前記シール部材の端部は、前記ギヤにより掻き上げられた油と対向するように延在して前記シャフト支持部に当接する動力伝達装置。
【請求項3】
請求項に記載の動力伝達装置において、
前記プレートは、該プレートの厚み方向に窪んだ窪み部を有し、
前記凹部を画成する前記ケースの壁部と前記プレートの前記窪み部との間には、前記ブリーザ室と前記ケースの前記内部とを連通させるドレン孔が形成され、
前記シール部材は、前記ギヤにより掻き上げられた油の前記ドレン孔への流入を規制するように前記プレートに固定される動力伝達装置。
【請求項4】
請求項に記載の動力伝達装置において、
前記凹部を画成する前記壁部は、前記シャフト支持部から上方に延在し、
前記凹部は、前記シャフト支持部の上方に位置するように前記ケースに形成され、
前記プレートは、前記壁部と間隔をおいて対向するように形成された延出部を有し、
前記シール部材は、前記シャフト支持部に当接するように前記延出部に固定される動力伝達装置。
【請求項5】
請求項からの何れか一項に記載の動力伝達装置において、
前記変速機は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに巻き掛けられるベルトとを有する無段変速機であり、
前記シャフトは、前記セカンダリプーリが設けられたセカンダリシャフトである動力伝達装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変速機およびギヤ機構を収容するケースと、当該ケース内の空間を外気に連通させるブリーザプラグとを含む動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速機を収納する変速機ケースと、変速機ケースの内外を貫通するブリーザパイプを有し、当該変速機ケースの内圧が所定値以上になったときに変速機ケースの外部に空気を開放するブリーザプラグとを有する動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この動力伝達装置では、変速機ケースを構成する第1および第2ケースの間に介設されるパッキンに板部材が一体に形成されている。板部材の第1ケース側に隣接する部分には、変速機ケースの内部の空気を導入する導入側ブリーザ室と、ブリーザプラグへ空気を導出する導出側ブリーザ室とが形成され、板部材の第2ケース側に隣接する部分には、中間ブリーザ室が形成される。更に、板部材は、導入側ブリーザ室と中間ブリーザ室とを連通する第1連通路と、中間ブリーザ室と導出側ブリーザ室とを連通する第2連通路とを有する。これにより、変速機ケースの内部からの空気は、ブリーザプラグに到達するまでの過程で、導入側ブリーザ室、中間ブリーザ室および導出側ブリーザ室を順番に通過する。すなわち、この動力伝達装置では、変速機ケースの内部の空気が互いに対向する第1および第2ケースとの間を交互に流れるようにすることにより空気と油とを分離させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−133171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、変速機や変速機ケースの構造によっては、変速機ケースの内部からの空気が互いに対向する第1および第2ケースとの間を交互に流れるように複数のブリーザ室を形成し得ないことがある。そして、板部材と変速機ケースとによりブリーザプラグに連通する単一のブリーザ室を構成した場合、変速機ケースからブリーザ室内に流入した空気から油を分離し得なくなり、ブリーザプラグを介して油が空気と共に変速機ケース外に排出されてしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、動力伝達装置のケースと当該ケースに固定されるプレートとにより画成されるブリーザ室を介してケース内の油が空気と共にブリーザプラグから排出されてしまうのを良好に抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の動力伝達装置は、変速機と、前記変速機から動力が伝達されるギヤ機構と、前記変速機および前記ギヤ機構を収容するケースと、前記ケースの内部を外気に連通させるブリーザプラグとを含む動力伝達装置において、前記ケースに形成され、前記ブリーザプラグの通気路に連通する凹部と、前記凹部を覆ってブリーザ室を画成するように前記ケースに固定されると共に、前記ブリーザ室と前記ケースの前記内部とを連通させる通気孔を有するプレートと、前記ケースおよび前記プレートの少なくとも何れか一方に設けられ、前記ギヤ機構に含まれるギヤにより掻き上げられた油が前記ケースと前記プレートとの隙間を介して前記ブリーザ室に流入するのを規制するシール部とを備えるものである。
【0007】
この動力伝達装置では、ケースに形成された凹部と当該凹部を覆うようにケースに固定されるプレートとによってブリーザプラグの通気路に連通するブリーザ室が画成される。また、ブリーザ室は、プレートに形成された通気孔を介してケースの内部に連通する。更に、この動力伝達装置には、ケースに収容されるギヤ機構のギヤにより掻き上げられた油がケースとプレートとの隙間を介してブリーザ室に流入するのを規制するシール部が設けられている。これにより、シール部によってケースの内部からブリーザ室内に入り込む油の量を減らすことができるので、ケース内の油がブリーザ室を介して空気と共にブリーザプラグから排出されてしまうのを良好に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の動力伝達装置を示す概略構成図である。
図2】本開示の動力伝達装置の要部を示す拡大図である。
図3図2のIII−III線に沿った断面図である。
図4】本開示の動力伝達装置の要部を示す拡大斜視図である。
図5】本開示の他の動力伝達装置の要部を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示の動力伝達装置20を示す概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、前輪駆動車両に搭載されるものであり、クランクシャフトと図示しない駆動輪に接続される左右のドライブシャフト59とが略平行をなすように横置きに配置されたエンジン(原動機)に連結されるトランスアクスルとして構成されている。図示するように、動力伝達装置20は、一体に結合されるハウジング(第1ケース)22aおよびケース(第2ケース)22bを有するトランスミッションケース22や、それぞれトランスミッションケース22の内部に収容される発進装置23、オイルポンプ30、前後進切換機構35、エンジンからの動力が伝達されるインプットシャフト41を有する変速機としてのベルト式無段変速機(以下、「CVT」という。)40、CVT40から動力が伝達されるギヤ機構50およびデファレンシャルギヤ(差動機構)57等を含む。
【0011】
発進装置23は、トランスミッションケース22のハウジング22aの内部に収容される。図1に示すように、発進装置23は、入力部材としてのフロントカバー21を介してエンジンのクランクシャフトに接続されるポンプインペラ23pや、当該ポンプインペラ23pと同軸に延在するCVT40のインプットシャフト41に固定されるタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油(ATF)の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ダンパ機構24、ロックアップクラッチ25等を有する。
【0012】
ポンプインペラ23p、タービンランナ23tおよびステータ23sは、ポンプインペラ23pとタービンランナ23tとの回転速度差が大きいときにはステータ23sの作用によりトルク増幅機能を有するトルクコンバータとして機能し、両者の回転速度差が小さくなると流体継手として機能する。ただし、発進装置23において、ステータ23sやワンウェイクラッチ23oを省略し、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tを流体継手のみとして機能させてもよい。
【0013】
ダンパ機構24は、例えば、ロックアップクラッチ25に連結される入力要素や、タービンランナ23tに連結される出力要素、入力要素と出力要素との間に配置された複数の弾性体等を有する。ロックアップクラッチ25は、フロントカバー21とCVT40のインプットシャフト41とを機械的に(ダンパ機構24を介して)連結するロックアップおよび当該ロックアップの解除を選択的に実行するものである。ロックアップクラッチ25は、図示するような単板油圧式の摩擦クラッチであってもよく、多板油圧式の摩擦クラッチであってもよい。
【0014】
オイルポンプ30は、ハウジング22aおよびケース22bによりCVT40のインプットシャフト41の下方に画成される作動油貯留部(図示省略)内の作動油に少なくとも一部が浸漬するように当該インプットシャフト41とは別軸に配置される。本実施形態において、オイルポンプ30は、巻掛け伝動機構300を介して発進装置23のポンプインペラ23pに連結されており、エンジンからの動力により駆動される。オイルポンプ30は、エンジンにより駆動されて図示しないストレーナを介して作動油貯留部に貯留されている作動油を吸引し、油圧制御装置(図示省略)へと圧送する。
【0015】
前後進切換機構35は、ケース22bの内部に収容され、ダブルピニオン式の遊星歯車36と、油圧式摩擦係合要素としてのブレーキB1およびクラッチC1とを有する。遊星歯車36は、CVT40のインプットシャフト41に固定されるサンギヤと、リングギヤと、サンギヤに噛合するピニオンギヤおよびリングギヤに噛合するピニオンギヤを支持すると共にCVT40のプライマリシャフト42に連結されるキャリヤとを有する。ブレーキB1は、上記油圧制御装置から係合油圧が供給された際に遊星歯車36のリングギヤをケース22bに対して回転不能に固定し、係合油圧の供給停止に応じて当該リングギヤをケース22bに対して回転自在に解放する。また、クラッチC1は、油圧制御装置から係合油圧が供給された際に遊星歯車36のキャリヤをインプットシャフト41(サンギヤ)に接続し、係合油圧の供給停止に応じて当該キャリヤとインプットシャフト41との接続を解除する。
【0016】
これにより、ブレーキB1を解放すると共にクラッチC1を係合させれば、インプットシャフト41に伝達された動力をそのままCVT40のプライマリシャフト42に伝達して車両を前進させることができる。また、ブレーキB1を係合させると共にクラッチC1を解放すれば、インプットシャフト41の回転を逆方向に変換してCVT40のプライマリシャフト42に伝達し、車両を後進させることができる。更に、ブレーキB1およびクラッチC1を解放すれば、インプットシャフト41とプライマリシャフト42との接続を解除することができる。
【0017】
CVT40は、駆動側回転軸としてのプライマリシャフト(第1軸)42に設けられたプライマリプーリ43と、プライマリシャフト42と平行に配置された従動側回転軸としてのセカンダリシャフト(第2軸)44に設けられたセカンダリプーリ45と、プライマリプーリ43のプーリ溝とセカンダリプーリ45のプーリ溝とに巻き掛けられる伝動ベルト46と、プライマリプーリ43の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるプライマリシリンダ47と、セカンダリプーリ45の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるセカンダリシリンダ48とを有する。プライマリプーリ43は、プライマリシャフト42と一体に形成された固定シーブ43aと、プライマリシャフト42にスプラインを介して軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ43bとを含む。また、セカンダリプーリ45は、セカンダリシャフト44と一体に形成された固定シーブ45aと、セカンダリシャフト44にスプラインを介して軸方向に摺動自在に支持されると共に圧縮ばねであるリターンスプリング49により軸方向に付勢される可動シーブ45bとを含む。
【0018】
プライマリシリンダ47は、プライマリプーリ43の可動シーブ43bの背後に形成され、セカンダリシリンダ48は、セカンダリプーリ45の可動シーブ45bの背後に形成される。プライマリシリンダ47とセカンダリシリンダ48とには、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ45との溝幅を変化させるべく油圧制御装置から油圧が供給される。これにより、エンジンから発進装置23および前後進切換機構35を介してプライマリシャフト42に伝達された動力を無段階に変速してセカンダリシャフト44に伝達することが可能となる。そして、セカンダリシャフト44に伝達された動力は、ギヤ機構50、デファレンシャルギヤ57およびドライブシャフトを介して左右の駆動輪に伝達されることになる。
【0019】
ギヤ機構50は、セカンダリシャフト44と一体に回転するカウンタドライブギヤ51と、セカンダリシャフト44やドライブシャフト59と平行に延在すると共に軸受を介してトランスミッションケース22により回転自在に支持されるカウンタシャフト(第3軸)52と、当該カウンタシャフト52に固定されると共にカウンタドライブギヤ51に噛合するカウンタドリブンギヤ53と、カウンタシャフト52と一体に成形されるか、あるいは当該カウンタシャフト52に固定されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)54と、ドライブピニオンギヤ54に噛合すると共にデファレンシャルギヤ57に連結されるデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)55とを有する。
【0020】
図2は、動力伝達装置20の要部を示す拡大図であり、図3は、図2のIII−III線に沿った断面図であり、図4は、動力伝達装置20の要部を示す拡大斜視図である。
【0021】
図2および図3に示すように、動力伝達装置20では、トランスミッションケース22の内部を外気に連通させて当該トランスミッションケース22内の圧力を調整するためのブリーザプラグ60がケース22bに装着されている。ブリーザプラグ60は、一端が大気解放される通気路60a(図3参照)を内部に有し、ケース22bの外壁22wを貫通するように当該ケース22bの上部に取り付けられる。また、ブリーザプラグ60の通気路60aの他端は、トランスミッションケース22のケース22bの上部に形成された有底の凹部220に連通する。
【0022】
本実施形態において、ケース22bは、図2および図4に示すように、外壁22wから延出されたサポート部に形成されると共に図示しない軸受を介してCVT40の出力軸であるセカンダリシャフト44を支持する短尺略円筒状のシャフト支持部221を有しており、凹部220は、シャフト支持部221の上方に形成される。より詳細には、凹部220は、ケース22bの外壁22wと、シャフト支持部221の外周面と、シャフト支持部221の外周面から上側の外壁22wの内周面まで上方に延びる壁部としてのリブL1,L2と、上記サポート部の表面とにより画成される。なお、シャフト支持部221の側方には、ケース22bに形成された第2のシャフト支持部222により支持されるカウンタシャフト52と一体に回転するドライブピニオンギヤ54が配置される(図2では図示省略)。
【0023】
また、ケース22bには、凹部220を覆うように通気孔71を有するプレート70が固定される。プレート70は、例えば金属をプレス加工することにより形成されており、シャフト支持部221の外周面や当該シャフト支持部221の上方に位置する外壁22wの内周面に沿った平面形状を有する。そして、プレート70は、シャフト支持部221の端面、リブL1,L2の端面、およびシャフト支持部221の上方に位置する外壁22wに形成された図示しない段部に当接して凹部220の全体を覆い、リブL1およびL2に形成されたボルト孔に螺合される複数のボルトを介してケース22bに固定される。
【0024】
これにより、動力伝達装置20では、プレート70と凹部220とによって、ブリーザプラグ60の通気路60aを介してトランスミッションケース22の外部すなわち外気に連通すると共に通気孔71を介してトランスミッションケース22の内部に連通するブリーザ室BCが画成される。また、図5に示すように、プレート70の凹部220側とは反対側の表面には、プレート70に向けて飛散する作動油の通気孔71への流入を抑制するために、通気孔71を包囲する短尺の筒状部が形成されている。
【0025】
更に、プレート70は、図2および図4に示すように、当該プレート70の厚み方向に沿って凹部220から離間するように窪む窪み部72と、当該プレート70の一端部を略直角に折り曲げることにより形成された延出部77とを有する。窪み部72は、プレート70がケース22bに固定された際に、CVT40の軸方向からみてリブL1の端面と重なり合うと共に凹部220側からカウンタシャフト52側に向けて斜め下方に延在するように当該プレート70に形成されている。これにより、窪み部72とリブL1の端面との間には、図2および図3に示すように、ブリーザ室BCとトランスミッションケース22の内部とを連通させるドレン孔75が形成される。
【0026】
また、延出部77は、プレート70がケース22bに固定された際に、リブL1の側面と間隔をおいて対向すると共にシャフト支持部221の外周面付近からケース22bの外壁22wに向けて斜め上方に延在するようにプレート70に形成される(図2参照)。更に、プレート70がケース22bに固定された際、延出部77の端面とケース22b(サポート部)の表面との間には隙間が形成される。これにより、リブL1とプレート70の延出部77との間には、図2に示すように、上記ドレン孔75およびトランスミッションケース22の内部に連通する空間Xが画成される。そして、延出部77には、弾性変形可能なゴム材により形成された板状のシール部材80が固定される。
【0027】
本実施形態において、シール部材80は、金属板に加硫接着され、当該金属板をプレート70にリベットを介して固定することで当該プレート70に固定される。図2および図4に示すように、プレート70がケース22bに固定された際、シール部材80の遊端部80aは、延出部77からシャフト支持部221に向けてドライブピニオンギヤ54の回転方向(図2中反時計方向、図中二点鎖線で示す矢印参照)とは逆方向に延在して当該シャフト支持部221の外周面に密に当接する。これにより、延出部77の端部とシャフト支持部221の外周面との隙間がシール部としてのシール部材80の遊端部80aによって塞がれる。なお、シール部材80が加硫接着された金属板は、プレート70に溶接されてもよい。また、シール部材80は、接着剤やリベット、凹凸係合部等を介してプレート70に直接固定されてもよい。更に、シール部材80は、弾性変形可能な樹脂により形成されてもよい。
【0028】
上述のように構成される動力伝達装置20を搭載した車両が前進走行する際、ギヤ機構50のデフリングギヤ55は、図2における時計方向に回転してトランスミッションケース22内の下部に滞留した作動油を掻き上げる。デフリングギヤ55により掻き上げられた作動油は、図2中点線矢印で示すように、ケース22bの外壁22wに沿ってブリーザ室BCに向けて上方に飛散する。また、デフリングギヤ55により掻き上げられた作動油の一部は、当該デフリングギヤ55とドライブピニオンギヤ54との噛合部に流入すると共に図2中反時計方向に回転するドライブピニオンギヤ54により掻き上げられる。ドライブピニオンギヤ54により掻き上げられた作動油は、図2中実線矢印で示すように、ケース22bのシャフト支持部221とドライブピニオンギヤ54との間からブリーザ室BCに向けて飛散する。
【0029】
このようにしてブリーザ室BCに向けて飛散する作動油は、シール部材80やプレート70の延出部77に衝突し、それにより延出部77とリブL1との間の空間Xおよびブリーザ室BCへの当該作動油の流入が規制される。また、動力伝達装置20では、シール部材80の遊端部80aが、ドライブピニオンギヤ54により当該ドライブピニオンギヤ54とシャフト支持部221との間に掻き上げられた油と対向するように延在してシャフト支持部220に当接する。これにより、ドライブピニオンギヤ54により掻き上げられた作動油(図2中実線矢印参照)の空間Xおよびブリーザ室BCへの流入をシール部材80の遊端部80aによって極めて良好に規制することが可能となる。従って、動力伝達装置20では、シール部材80によってトランスミッションケース22の内部からケース22bとプレート70との隙間を介してブリーザ室BC内に入り込む油の量を減らすことができる。この結果、ブリーザ室BC内で作動油を空気から良好に分離させることが可能となり、トランスミッションケース22内の作動油がブリーザ室BCを介して空気と共にブリーザプラグ60から排出されてしまうのを良好に抑制しつつ、トランスミッションケース22内の圧力を調整することができる。
【0030】
また、凹部220を画成するケース22bのリブL1とプレート70の窪み部72との間には、ブリーザ室BCとトランスミッションケース22の内部とを連通させるドレン孔75が形成される。そして、動力伝達装置20において、シール部材80は、プレート70の延出部77とシャフト支持部221との隙間を塞ぐように当該延出部77に固定され、ドライブピニオンギヤ54により掻き上げられた作動油のドレン孔75への流入を規制する。これにより、シール部材80によりブリーザ室BCにトランスミッションケース22の内部から作動油が流入するのを良好に規制しつつ、ブリーザ室BCに入り込んだ作動油をドレン通路として機能する窪み部72、ドレン孔75および空間Xを介してトランスミッションケース22の内部に流出させることが可能となる。
【0031】
更に、プレート70の延出部は、ケース22bのリブL1の側面と間隔をおいて対向するように形成され、シール部材80は、シャフト支持部221に当接するように延出部77に固定される。これにより、ケース22bのリブL1とプレート70の延出部77とが、リブL1とプレート70との隙間の手前にバッファゾーンとなる空間Xを画成することから、ドライブピニオンギヤ54等により掻き上げられた油がブリーザ室BCに入り込むのを極めて良好に抑制することが可能となる。加えて、シール部材80を用いることで、ケース22bのシャフト支持部221とプレート70の延出部77との隙間にバラつきが生じたとしても、当該隙間をシール部材80によって良好に塞ぐことができるので、動力伝達装置20におけるプレート70ひいてはブリーザ室BCの設置の自由度をより向上させることができる。
【0032】
図5は、本開示の他の動力伝達装置20Bの要部を示す拡大斜視図である。なお、動力伝達装置20Bの構成要素のうち、上述の動力伝達装置20と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0033】
図5に示す動力伝達装置20Bでは、ブリーザ室BCを画成するプレート70Bからシール部材80が省略されており、当該シール部材80の代わりに、ケース22bに突出部225が形成されている。突出部225は、図示するように、プレート70Bの延出部77のシャフト支持部221側の端部と間隔をおいて対向するように当該シャフト支持部221から延出されている。かかる動力伝達装置20Bでは、プレート70Bの延出部77とケース22bの突出部225とがラビリンスシールを形成することになるので、当該延出部77および突出部225によってギヤ機構50のドライブピニオンギヤ54等により掻き上げられた油がケース22bとプレート70との隙間を介してブリーザ室BCに流入するのを良好に規制することが可能となる。更に、動力伝達装置20Bにおいても、ケース22bのリブL1とプレート70Bの延出部77とが、リブL1とプレート70Bとの隙間の手前にバッファゾーンとなる空間を画成することから、ドライブピニオンギヤ54等により掻き上げられた油がブリーザ室BCに入り込むのを極めて良好に抑制することができる。
【0034】
なお、上述のプレート70,70Bは、樹脂により形成されてもよい。また、動力伝達装置20,20Bでは、筒状のシャフト支持部221の上方のスペースを有効に利用してブリーザ室BC用の凹部220を容易に確保することができるが、トランスミッションケース22の上部であれば、ブリーザ室BC用の凹部は、シャフト支持部221の上方以外の箇所に形成されてもよい。更に、動力伝達装置20,20Bの変速機は、CVT40に限られるものではなく、少なくとも1つの遊星歯車を有する有段変速機(AT)や、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)、ハイブリッドトランスミッションであってもよいことはいうまでもない。
【0035】
以上説明したように、本開示の動力伝達装置は、変速機(40)と、前記変速機(40)から動力が伝達されるギヤ機構(50)と、前記変速機(40)および前記ギヤ機構(50)を収容するケース(22)と、前記ケース(22)の内部を外気に連通させるブリーザプラグ(60)とを含む動力伝達装置(20,20B)において、前記ケース(22,22b)に形成され、前記ブリーザプラグ(60)の通気路(60a)に連通する凹部(220)と、前記凹部(220)を覆ってブリーザ室(BC)を画成するように前記ケース(22,22b)に固定されると共に、前記ブリーザ室(BC)と前記ケース(22)の前記内部とを連通させる通気孔(71)を有するプレート(70)と、前記ケース(22,22b)および前記プレート(70)の少なくとも何れか一方に設けられ、前記ギヤ機構(50)に含まれるギヤ(54,55)により掻き上げられた油が前記ケース(22,22b)と前記プレート(70)との隙間を介して前記ブリーザ室(BC)に流入するのを規制するシール部(80,77,225)とを備えるものである。
【0036】
この動力伝達装置では、ケースに形成された凹部と当該凹部を覆うようにケースに固定されるプレートとによってブリーザプラグの通気路に連通するブリーザ室が画成される。また、ブリーザ室は、プレートに形成された通気孔を介してケースの内部に連通する。更に、この動力伝達装置には、ケースに収容されるギヤ機構のギヤにより掻き上げられた油がケースとプレートとの隙間を介してブリーザ室に流入するのを規制するシール部が設けられている。これにより、シール部によってケースの内部からブリーザ室内に入り込む油の量を減らすことができるので、ケース内の油がブリーザ室を介して空気と共にブリーザプラグから排出されてしまうのを良好に抑制することが可能となる。
【0037】
また、前記シール部は、前記プレート(70)に固定されると共に前記ケース(22,22b)の一部(221)に当接するシール部材(80)を含むものであってもよい。これにより、ギヤ機構のギヤにより掻き上げられた油がケースとプレートとの隙間を介してブリーザ室に流入するのをシール部材によって良好に規制することが可能となる。加えて、シール部材を用いることで、上記ケースの一部とプレートとの隙間にバラつきが生じたとしても、当該隙間をシール部材によって良好に塞ぐことができるので、動力伝達装置におけるプレートひいてはブリーザ室の設置の自由度をより向上させることが可能となる。
【0038】
更に、前記ケース(22,22b)は、前記変速機(40)のシャフト(44)を支持する筒状のシャフト支持部(221)を有してもよく、前記ギヤ(54)は、前記シャフト支持部(221)の側方に配置されると共に、該ギヤ(54)と前記シャフト支持部(221)との間に油を掻き上げてもよく、前記シール部材(80)の端部(80a)は、前記ギヤ(54)により掻き上げられた油と対向するように延在して前記シャフト支持部(221)に当接してもよい。これにより、シャフト支持部221の側方に配置されるギヤ機構のギヤにより掻き上げられた油が、ケースとプレートとの隙間を介してブリーザ室に流入するのをシール部材によって極めて良好に規制することが可能となる。
【0039】
また、前記プレート(70)は、該プレート(70)の厚み方向に窪んだ窪み部(72)を有してもよく、前記凹部(220)を画成する前記ケース(22,22b)の壁部(L1)と前記窪み部(72)との間には、前記ブリーザ室(BC)と前記ケース(22)の前記内部とを連通させるドレン孔(75)が形成されてもよく、前記シール部材(80)は、前記ギヤ(54,55)により掻き上げられた油の前記ドレン孔(75)への流入を規制するように前記プレート(70)に固定されてもよい。これにより、シール部材によってブリーザ室にケースの内部から油が流入するのを良好に規制しつつ、ブリーザ室に入り込んだ油を窪み部およびドレン孔を介してケースの内部に流出させることが可能となる。
【0040】
更に、前記ケース(20)は、前記凹部(220)を画成する前記壁部(L1)は、前記シャフト支持部(221)から上方に延在してもよく、前記凹部(220)は、前記シャフト支持部(221)の上方に位置するように前記ケース(22,22b)に形成されてもよく、前記プレート(70)は、前記壁部(L1)と間隔をおいて対向するように形成された延出部(77)を有してもよく、前記シール部材(80)は、前記シャフト支持部(221)に当接するように前記延出部(77)に固定されてもよい。かかる動力伝達装置では、筒状のシャフト支持部の上方のスペースを有効に利用してブリーザ室用の凹部を容易に確保することができる。更に、ケースのシャフト支持部とプレートの延出部との隙間にバラつきが生じたとしても、シール部材によって当該隙間を良好に塞ぐことが可能となる。加えて、ケースの壁部とプレートの延出部とは、当該壁部とプレートとの隙間の手前にバッファゾーンとなる空間を画成する。この結果、ギヤ機構のギヤにより掻き上げられた油がブリーザ室に入り込むのを極めて良好に抑制することが可能となる。
【0041】
また、前記シール部材(80)は、弾性変形可能なゴム材または樹脂により形成されてもよい。
【0042】
更に、前記シール部は、前記凹部(220)を画成する前記ケース(22,22b)の壁部(L1)と間隔をおいて対向するように前記プレート(70B)に形成された延出部(77)と、前記プレート(70B)の前記延出部(77)の少なくとも一部と間隔をおいて対向するように前記ケース(22,22b)の一部(221)から突出する突出部(225)とを含むものであってもよい。かかる動力伝達装置では、プレートの延出部とケースの突出部とがラビリンスシールを形成する。加えて、ケースの壁部とプレートの延出部とは、当該壁部とプレートとの隙間の手前にバッファゾーンとなる空間を画成する。これにより、ギヤ機構のギヤにより掻き上げられた油がケースとプレートとの隙間を介してブリーザ室に流入するのを良好に規制することが可能となる。
【0043】
また、前記ケース(22,22b)は、前記変速機(40)のシャフト(44)を支持する筒状のシャフト支持部(221)を有してもよく、前記凹部(220)を画成する前記壁部(L1)は、前記シャフト支持部(221)から上方に延在してもよく、前記凹部(220)は、前記シャフト支持部(221)の上方に位置するように前記ケース(22,22b)に形成されてもよく、前記プレート(70B)は、該プレート(70B)の厚み方向に窪んだ窪み部(72)を有してもよく、前記壁部(L1)と前記窪み部(72)との間には、前記ブリーザ室(BC)と、前記壁部(L1)と前記延出部(77)との間の空間とを連通させるドレン孔(75)が形成されてもよく、前記突出部(225)は、前記シャフト支持部(221)から突出してもよい。
【0044】
更に、前記変速機は、プライマリプーリ(43)と、セカンダリプーリ(45)と、前記プライマリプーリ(43)および前記セカンダリプーリ(45)に巻き掛けられるベルト(46)とを有する無段変速機(40)であってもよく、前記シャフトは、前記セカンダリプーリ(45)が設けられたセカンダリシャフト(44)であってもよい。ただし、前記変速機は、無段変速機以外の変速機であってもよい。
【0045】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示の発明は、無段変速機の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
20,20B 動力伝達装置、21 フロントカバー、22 トランスミッションケース、22a ハウジング、22b ケース、22w 外壁、220 凹部、221,222 シャフト支持部、225 突出部、23 発進装置、23o ワンウェイクラッチ、23p ポンプインペラ、23s ステータ、23t タービンランナ、24 ダンパ機構、25 ロックアップクラッチ、30 オイルポンプ、300 巻き掛け伝動機構、35 前後進切換機構、36 遊星歯車、40 CVT、41 インプットシャフト、42 プライマリシャフト、43 プライマリプーリ、43a 固定シーブ、43b 可動シーブ、44 セカンダリシャフト、45 セカンダリプーリ、45a 固定シーブ、45b 可動シーブ、46 伝動ベルト、47 プライマリシリンダ、48 セカンダリシリンダ、49 リターンスプリング、50 ギヤ機構、51 カウンタドライブギヤ、52 カウンタシャフト、53 カウンタドリブンギヤ、54 ドライブピニオンギヤ、55 デフリングギヤ、57 デファレンシャルギヤ、59 ドライブシャフト、60 ブリーザプラグ、60a 通気路、70,70B プレート、71 通気孔、72 窪み部、75 ドレン孔、77 延出部、80 シール部材、B1 ブレーキ、BC ブリーザ室、C1 クラッチ、L1,L2(壁部) リブ。
図1
図2
図3
図4
図5