(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906784
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】表面増強ラマン分光法用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20210708BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20210708BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20210708BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20210708BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N21/64 G
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-24502(P2017-24502)
(22)【出願日】2017年2月13日
(65)【公開番号】特開2018-132339(P2018-132339A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100101063
【弁理士】
【氏名又は名称】松丸 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100108394
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 健一
(72)【発明者】
【氏名】竹井 弘之
(72)【発明者】
【氏名】藤木 啓
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−190836(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0093217(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0158724(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0362486(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0029002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面増強ラマン分光法用基板の製造方法であって、
第1の基板上に、ナノ粒子を配置するステップと、
エラストマーからなる基材と前記基材の少なくとも一面に設けられた粘着層とを有している第2の基板を、前記第1の基板の表面と対向させながら近づけていき、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を当接させた後に、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を離していくステップと、
前記第2の基板上のナノ構造に、貴金属層を堆積させるステップと、
を有することを特徴とする表面増強ラマン分光法用基板の製造方法。
【請求項2】
表面増強ラマン分光法用基板の製造方法であって、
第1の基板上にナノ粒子を配置するステップと、
エラストマーからなる基材と前記基材の少なくとも一面に設けられた粘着層とを有している第2の基板を、前記第1の基板の表面と前記一面とを対向させながら近づけていき、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を当接させた後に、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を離していくステップと、
前記第2の基板上のナノ構造に、貴金属層を堆積させるステップと、
を有することを特徴とする表面増強ラマン分光法用基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の基板における粘着力が前記第1の基板における結合力よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面増強ラマン分光法用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面増強ラマン分光法用基板等に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質の同定に広く用いられている分析方法の一つとしてラマン分光法が挙げられる。ラマン分光法を用い収束されたレーザー光を光源として用いることにより微小領域の分析が可能であるが、散乱断面積、すなわち散乱光強度が極めて低いといった欠点を有する。そこで、貴金属ナノ粒子による表面増強ラマン効果(Surface Enhanced Raman Spectroscopy: SERS)を用いた測定技術が研究されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、凹凸を有する固体表面に吸着した物質のラマンスペクトルを定性的に測定することができるラマン分光測定法及びラマン分光測定器に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−190836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、弾性体からなる基板の表面にナノ粒子が形成されたラマン分光基板を用いる。そして、固体に吸着した被検体と前記ナノ粒子が対向するように前記ラマン分光基板を配置する。前記ナノ粒子が形成された領域全体に所定の圧力を加えて前記ラマン分光基板を前記固体に押し付けながら、又は、前記ラマン分光基板を前記固体に押し付けた後に表面ラマン増強分光測定を行う。
【0006】
ところで、従来から、被検体の特性を表面ラマン増強分光法により、その場で測定したいという要請がある。例えば、被検体である農作物の表面の残留農薬を測定する場合などがある。但し、被検体等は、これに限定されるものではない。
また、被検体の表面形状も様々である。従って、被検体の表面形状に依存しない測定技術が望まれている。
本発明は、その場測定に適した表面増強ラマン分光法測定技術を提供することを目的とする。また、被検体の表面形状に依存しない表面ラマン増強分光測定技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、エラストマーからなる基材と、前記基材の少なくとも一面に設けられた粘着層と、前記粘着層上に形成されたナノ構造であって、多数のナノ粒子と、その上を覆うように設けられたSERS効果を有する貴金属層と、を有するナノ構造とを有する表面増強ラマン分光法用基板が提供される。
低粘度のエラストマーからなる基材を用いると、固体表面(検出体)に押付けた際に、その表面の形状に追随して前記基材表面が変形することによりナノ粒子を均一に接触させることができる。
【0008】
前記粘着層上に形成されたナノ構造は、0.1N/cm
2以上の圧力を層方向に加えながら、前記基材と前記粘着層とからなる基板を面内方向にずらしても前記ナノ粒子が剥離しない構造であることが好ましい。層方向とは、基材と粘着層との界面に垂直な方向である。面内方向とは、基材と粘着層との界面に水平な方向である。
【0009】
前記貴金属層は、前記粘着層上の一部領域のみを覆うように形成されることでSERS効果を有するSERS効果領域と粘着性を有する粘着性領域とを有しており、前記粘着性領域を用いて前記SERS効果領域を測定対象表面に保持することが好ましい。
前記基材表面にナノ粒子を吸着させない領域を部分的に形成することにより、測定対象(被検体)に吸着する機能を持たせることができる。
【0010】
すなわち、全面をナノ粒子で被覆すると、粘着性が完全に失われるため、測定時には継続的に加圧する必要がある。そこで、部分的に粘着性領域を残しておくことで、そこの粘着性を利用することができるため、測定時に継続的に加圧する必要がなくなる。
【0011】
本発明の他の観点によれば、表面増強ラマン分光法用測定用基板の製造方法であって、第1の基板上に、ナノ粒子を配置するステップと、エラストマーからなる基材と前記基材の少なくとも一面に設けられた粘着層とを有している第2の基板を、前記第1の基板の表面と対向させながら近づけていき、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を当接させた後に、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を離していくステップと、を有することを特徴とする表面増強ラマン分光法用測定用基板の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明は、表面増強ラマン分光法用測定用基板の製造方法であって、第1の基板上にナノ粒子を配置するステップと、エラストマーからなる基材と前記基材の少なくとも一面に設けられた粘着層とを有している第2の基板を、前記第1の基板の表面と前記一面とを対向させながら近づけていき、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を当接させた後に、前記第1の基板と前記第2の基板との表面を離していくステップと、を有することを特徴とする表面増強ラマン分光法用測定用基板の製造方法である。
上記の製造方法において、前記第2の基板における粘着力が前記第1の基板における結合力(吸着、付着、結合力)よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、その場測定に適した表面増強ラマン分光法測定が可能である。また、被検体の表面形状に依存しない表面ラマン増強分光測定技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1の実施の形態による表面増強ラマン分光法測定具の側面図であり、
図1(b)は、上面から見た平面図である。
【
図2】
図2(a)は、表面増強ラマン分光法測定具の先端に設けられている表面増強ラマン分光法測定用の基板の一構成例を示す断面図である。
図2(b)は、その平面図である。
【
図3A】本発明の第1の実施の形態による表面増強ラマン分光法測定用基板の製造方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)までは、表面増強ラマン分光法測定具により、被検体の特性を測定する様子を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態による表面増強ラマン分光法測定用基板の製造方法の一例を示す図である。
【
図7】回動可能に固定する回動部材により垂直方向に対してある程度自由に角度を変化させることができるような機構を有する表面増強ラマン分光法測定具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態による表面増強ラマン分光法測定用基板について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施の形態による表面増強ラマン分光法測定用基板を備えた測定具の側面図であり、
図1(b)は、上面から見た平面図である。
図2(a)は、表面増強ラマン分光法測定具の先端に設けられている表面増強ラマン分光法測定用の基板の一構成例を示す断面図である。
図2(b)は、その平面図である。
【0017】
本実施の形態による表面増強ラマン分光法測定具Aは、表面増強ラマン分光法測定用の基板Bと、表面増強ラマン分光法測定用の基板Bが取り付けられた例えば傘状の支持体11と、支持体11を把持するために基板Bとは反対側の方向に延びる例えば棒状の把持部21と、を有している。傘状の支持体11、棒状の把持部21は、ともに粘着層1a側のみでも良い。
【0018】
一方側の粘着層1a上には、ナノ構造(微細構造体)が形成されている。ナノ構造は、例えば、粒径が30nmから1μm程度までの略球状の多数のナノ粒子3と、その上を覆うように設けられた、厚さ5nmから500nm程度の貴金属層7とにより構成されている。ナノ粒子3の材料としては、例えば、SiO
2(シリカ)、TiO
2、ポリスチレンなどを用いることができる。
また、貴金属層7の材料としては、例えば、Au、Agなどを用いることができる。
【0019】
図3A、
図3Bは、基板Bの製造方法の一例を示す図である。
図4は、スライドグラスの平面図である。
図3A(a)に示すように、例えばスライドグラスなどの基板31上に、多数のナノ粒子3を配置する。ナノ粒子3は、例えば、
図4に示すようなスライドグラスなどの基板31上に仮固定されている。
接着面の粘着層1aの原料としては、例えば、アクリル樹脂系接着剤もしくは天然ゴム系接着剤を用いることができる。
【0020】
尚、第1の基板(基板31)としては、シランカップリング処理を施したガラス基板を用いた。シリカ粒子は共有結合によりガラス基板表面に固相化されている。従って、第1基板(基板31)は結合力を有する。
また、ナノ粒子懸濁液を第1の基板(基板31)上に滴下して液体を蒸発させると、ナノ粒子3の単層を形成することができる。この場合、ナノ粒子3はファンデルワールス力もしくは静電気力で基板に結合されている。
【0021】
次いで、
図3A(b)に示すように、例えば低粘度のエラストマーなどからなる基材1と基材1の両面に設けられた例えばアクリル系の粘着層1a、1bとを有している基板Bを、基材1の表面と対向させながら近づけていく。
図3A(c)に示すように、最終的に、基板Bと基板31との表面が当接する。ここで、アクリル系の粘着層1aの粘着力が、基板31の表面の粘着力よりも大きくなるように設計しておく。テープの粘着性は、実質的に1N/cm以上が好ましい。この粘着力であれば、基材1に0.1N/cm
2以上の圧力を層方向に加えながら(例えば、面積1cm
2の基材1に約100gの錘を載せながら)、基材1と粘着層1aとからなる基板Bを面内方向にずらしてもナノ粒子3が剥離しない構造となり好ましい。粘着層1a、1bを有する基材1としては粘着テープを用いても良い。
低粘度のエラストマーとしては、ヤング率が0.1〜1000MPaの間であることが好ましく、1〜100MPaであることがより好ましい。
【0022】
尚、エラストマーの粘度は、被検体41に依存する。例えば、平坦で堅い被検体であれば、エラストマーの粘度を高くしても良い。また、凹凸が存在する被検体や、柔らかい被検体であれば、エラストマーの粘度を低くすることで、接触面内での被検体との密着性をよくすることができる。
【0023】
すると、
図3B(d)に示すように、基板31と基板Bとの表面を離していくことで、多数のナノ粒子3を、基材1の表面側から基板Bの表面側(5a)へと転写することができる。従って、基板B上にナノ構造が形成される。
【0024】
図3B(e)に示すように、基板B上のナノ構造に、Agなどの貴金属層7を例えば真空蒸着法などにより堆積させることにより、
図3B(f)に示すように、表面増強ラマン分光法に適した表面構造を有するSERS基板Bを形成することができる。
例えば、表面増強ラマン分光法に適した表面構造を有するSERS基板Bの裏面側を、傘状の支持体11の頂上に貼り付けることで、表面増強ラマン分光法測定具Aを作製することができる。
【0025】
図5は、表面増強ラマン分光法測定具Aにより、被検体41の特性を測定する様子を示す図である。
図5(a)、(b)に示すように、SERS基板Bのナノ粒子3を表面に有する微細構造体により、SERS効果を発揮させることができる。従って、被検体41を分子レベルで構造解析することができる。
すなわち、表面増強ラマン分光法測定具Aの先端側のSERS基板Bのナノ構造を、被検体41に面接触させ、励起光61を照射することでラマン分光法(符号61)により、例えば、被検体41の分子レベルの構造を解析することができる。
【0026】
図5(c)は、被検体41が平坦でない形状である場合の例を示す図である。
図5(c)に示すように、SERS基板Bの表面を例えば湾曲した(平坦ではない)被検体41の表面に押付けた際に、低粘度のエラストマーを支持基板1として用いると、例えば、被検体41の湾曲した表面の形状であっても、その形状に追随して基材1の表面が湾曲するように変形することによりナノ粒子が均一に接触させることができる。
従って、被検体41の表面形状に依存せずに、精度良く表面増強ラマン分光法測定を行うことができる。
【0027】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態による基板Bの製造方法の一例を示す図であり、
図3A、
図3Bに対応する図である。
図6(a)に示すように、エラストマー(粘着テープ)を支持基板(基材)1とする基板Bとスライドグラスなどの基板31とを近づける。この際、本実施の形態では、粘着テープ(粘着層)1aの表面にナノ粒子3などの粒子を吸着させない領域(第1の領域AR1)、すなわち、粘着阻害粒子などを表面に形成した非粘着層1cが覆う第1の領域AR1を部分的に形成しておく。第1の領域AR1以外の第2の領域AR2は、第1の実施の形態の粘着領域に相当する。
【0028】
図6(b)に示すように、基板Bと基板31とを当椄させる。粘着テープ1aが測定対象物に貼り付いた
図6(b)の状態でSERS測定を行う。第2の領域AR2は基板31との接合に使われ、第1の領域AR1でSERS測定を行う。
このように、本実施の形態によれば、粘着テープ1a表面にナノ粒子3を吸着させない領域を部分的に形成することにより、測定対象(被検体41)に吸着する機能を持たせることができる。これにより、加圧しなくとも測定対象に吸着する粘着テープ1aを備えたSERS基板Bを構成することができる。
【0029】
すなわち、全面をナノ粒子で被覆すると、粘着性が完全に失われるため、測定時には被検体に基板を継続的に押しつける(加圧する)必要がある。そこで、部分的に粘着性領域を残しておくことで、そこの粘着性を利用することができるため、測定時に被検体に基板を継続的に押しつける(加圧する)必要がなく被検体との間の接触を保つことができる。
このように、本実施の形態によれば、被検体の表面形状に依存しない表面ラマン増強分光測定技術を提供することができる。
【0030】
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0031】
尚、本実施の形態によれば、その場測定に適した表面増強ラマン分光法用測定用基板及び測定具を提供することができる。基板の支持体を傘状にすることで、横方向から見やすくしている。
例えば、棒状の把持部21と傘状の支持体11とを垂直方向に固定しても良いが、棒状の把持部21に対して、傘状の支持体11とを、
図7に示すように、回動可能に固定する回動部材11a、21aにより垂直方向に対してある程度任意に角度動作可能とする周知の機構を持たせても良い。
このようにすれば、被検体の表面が完全には平坦でなくても、表面増強ラマン分光法測定具Aを用いてラマン分析を精度良く行うことができる。但し、用途を限定するものではない。
【0032】
本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、表面増強ラマン分光法用測定具に利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
A…表面増強ラマン分光法測定具
B…表面増強ラマン分光法測定用の基板(SERS基板)
1…基材
1a、1b…粘着層
1c…非粘着層
3…ナノ粒子
7…貴金属層
11…支持体
11a、21a…回動部材
21…把持部
31…基板
41…被検体