特許第6906790号(P6906790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906790
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】全反射測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20210708BHJP
   G02B 17/06 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   G01N21/552
   G02B17/06
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-98698(P2017-98698)
(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公開番号】特開2018-194444(P2018-194444A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232689
【氏名又は名称】日本分光株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】曽我 順顕
(72)【発明者】
【氏名】杉山 周巳
(72)【発明者】
【氏名】小勝負 純
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−098289(JP,A)
【文献】 特開平05−010872(JP,A)
【文献】 特開2004−093495(JP,A)
【文献】 特開2000−074823(JP,A)
【文献】 特開2001−174405(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00819932(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G02B 9/00−25/04
G02F 1/00− 7/00
G01J 3/00− 3/52
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
料に対して反射光学系を有する顕微装置に取付けられる全反射測定装置であって、
前記顕微装置からの測定光および前記顕微装置への全反射光が前記全反射測定装置の中心軸に沿うように、前記顕微装置に取付けられ、
前記中心軸に対称に配置される一対の平面鏡と、
前記一対の平面鏡のうちの測定光側の平面鏡を反射した測定光を受ける位置に設けられた測定光側の中間鏡と、
前記一対の平面鏡のうちの全反射光側の平面鏡に対向する位置で前記中心軸に対して前記測定光側の中間鏡とは反対側に設けられた全反射光側の中間鏡と、
前記測定光側の中間鏡に対向して設けられた測定光側の対物鏡としての楕円面鏡と、
前記全反射光側の中間鏡に対向して設けられた全反射光側の対物鏡としての楕円面鏡と、
前記一対の平面鏡よりも試料側の前記中心軸上に設けられたATR結晶と、を備え、
前記測定光側の楕円面鏡は、該楕円面鏡の一方の焦点が前記測定光側の中間鏡および前記測定光側の平面鏡によって前記中心軸上となり、かつ、該楕円面鏡の他方の焦点が前記測定光側の中間鏡および前記ATR結晶によって、前記一対の平面鏡よりも試料側において前記中心軸上となるように設けられ、
前記ATR結晶と試料との境界面は、前記測定光側の楕円面鏡の他方の焦点と一致し、
前記全反射光側の楕円面鏡は、該楕円面鏡の他方の焦点が前記全反射光側の中間鏡および前記ATR結晶によって、前記測定光側の楕円面鏡の他方の焦点と一致し、かつ、該楕円面鏡の一方の焦点が前記全反射光側の中間鏡および前記全反射光側の平面鏡によって、前記測定光側の楕円面鏡の一方の焦点と一致するように設けられていることを特徴とする全反射測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、前記ATR結晶は、挿抜式として退避可能に設けられていることを特徴とする全反射測定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の装置において、前記ATR結晶は、光入出射部が球面の一部で形成された半球型結晶素子であることを特徴とする全反射測定装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の装置において、前記ATR結晶は、光入出射部が平面で形成された結晶素子であることを特徴とする全反射測定装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の装置において、前記ATR結晶は、試料との境界面の周囲において、前記境界面に対して斜め方向に形成されたテーパー面を有することを特徴とする全反射測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の装置において、前記ATR結晶の代わりに、当該ATR結晶と同じ光学的光路長を有する透明平板が、前記測定光側および前記全反射光側の中間鏡から試料までの光路上において、前記中心軸に対して対称となる位置に挿入されていることを特徴とする全反射測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外光による全反射吸収スペクトル測定を可能とする装置、特に、ATRプリズムを保持可能に構成された対物鏡の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
全反射測定(ATRとも呼ぶ。)法とは、試料よりも大きい屈折率のプリズム(結晶)を試料に密着させ、その境界面で全反射が起こる入射角で測定光を入射させ、全反射光のスペクトルを検出し、試料の吸収特性を測定する手法である。光の吸収の強い物質、例えば赤外域でのスペクトル測定が難しい水溶液中の溶質の分析などに適する。特に、試料の微小部位を分析する際には、試料に対して反射光学系を有する赤外顕微分光装置が用いられる。
【0003】
特許文献1には、全反射測定を可能とする赤外顕微分光装置が開示されている。この顕微装置には、ATRプリズムを保持したカセグレン式の対物鏡が取り付けられている。対物鏡は、中央に孔の開いた凹面鏡よりなる主鏡と、この主鏡より径の小さい凸面鏡よりなる副鏡とから構成され、主鏡と副鏡が中心軸を一致させて対向配置されている。また、ATRプリズムは保持枠の先端部に取付けられ、カセグレン鏡の集光位置と一致するように配置されている。
【0004】
通常は、試料との密着部分の1点だけしか全反射測定できない。しかし、近年、ATRプリズムと試料との密着状態を動かさずに、密着状態のまま、一定の領域をマッピング測定する(いわゆるスマートマッピング)手法が広まってきた。例えば、特許文献2の全反射測定装置のように、試料とATRプリズムの密着面からの光は、カセグレン鏡によって集光され、検出側スキャンミラーへ向かう。検出側スキャンミラーの反射面の向きをある方向に固定した場合、その反射面の向きに対応した試料面上の特定箇所からの光のみが検出器側のアパーチャーを通過し、その他の部位からの光は遮断される。つまり、検出器側スキャンミラーの向きを変えることによって、アパーチャーに対する接触面上での共役位置を変更できる。このようにして、試料自体を移動させることなく密着面上の測定位置を走査させて、密着状態のまま一定の領域をマッピング測定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−147379号公報(図2
【特許文献2】特開2006−208016号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のカセグレン式の対物鏡の場合、その副鏡が凸面鏡で構成されているから、測定光の集光時、および全反射光の検出時において、光利用率がそれぞれ悪いという課題があった。
つまり、対物鏡が顕微装置の光軸上に取付けられた状態で、測定光は、カセグレンの副鏡→主鏡→プリズムの順に光路を形成する。この場合、副鏡の凸面と中心軸との交点およびその付近に入射する測定光は、副鏡を反射しても、主鏡の凹面に入射しないで主鏡の中心孔を通って逃げてしまうか、あるいは、主鏡の凹面に入射できたとしても、その反射光がプリズム以外の方向へ進んでしまうか、のいずれかになる。このように、カセグレンの副鏡には、利用されない測定光が入射する範囲を有していて、測定光の光利用率が不十分だった。
同様に、プリズムと試料の境界面からの全反射光についても、プリズム→カセグレンの主鏡→副鏡の順に光路を形成する。この場合、副鏡の凸面と中心軸との交点およびその付近は、プリズムからの全反射光の反射に寄与できない。カセグレンの副鏡には、このように全反射光の反射に寄与しない範囲を含んでおり、全反射光に関する光利用率も不十分であった。
【0007】
また、カセグレン式の対物鏡の場合、その倍率が比較的高く、対物鏡自体をコンパクトに設計できるというメリットがある一方で、高倍率であるがゆえに、上記のマッピング測定の対象領域が狭くなってしまうという課題があった。仮に、カセグレン鏡以外の構成で低倍率の対物鏡を構成すると、それだけでは対物鏡自体が大きくなってしまい、従来のカセグレン式の対物鏡との互換性が得られなくなる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、カセグレン式対物鏡よりも光利用率を改善することができ、かつ、カセグレン式対物鏡よりも低い倍率で全反射測定を可能とする全反射測定装置であって、しかも、従来の高倍率の対物鏡との互換性を維持できる大きさの全反射測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る全反射測定装置は、中心軸上に一対の平面鏡を配置して光利用率を改善し、また、楕円面鏡による低倍率の集光機能を有し、さらに中間鏡によってコンパクト化を実現したものである。
すなわち、全反射測定装置は、試料に対して反射光学系を有する顕微装置(10)に取付けられる全反射測定装置(1)であって、
前記顕微装置からの測定光および前記顕微装置への全反射光が前記全反射測定装置(1)の中心軸に沿うように、前記顕微装置(10)に取付けられ、
前記中心軸(P1)に対称に配置される一対の平面鏡と、前記一対の平面鏡のうちの測定光側の平面鏡(2a)を反射した測定光を受ける位置に設けられた測定光側の中間鏡(4a)と、前記一対の平面鏡のうちの全反射光側の平面鏡(2b)に対向する位置で前記中心軸(P1)に対して前記測定光側の中間鏡(4a)とは反対側に設けられた全反射光側の中間鏡(4b)と、前記測定光側の中間鏡(4a)に対向して設けられた測定光側の対物鏡としての楕円面鏡(6a)と、前記全反射光側の中間鏡(4b)に対向して設けられた全反射光側の対物鏡としての楕円面鏡(6b)と、前記一対の平面鏡よりも試料側の前記中心軸(P1)上に設けられたATR結晶(8)と、を備える。
【0010】
ここで、前記測定光側の楕円面鏡(6a)は、該楕円面鏡の一方の焦点が前記測定光側の中間鏡(4a)および前記測定光側の平面鏡(2a)によって前記中心軸(P1)上となり、かつ、該楕円面鏡の他方の焦点が前記測定光側の中間鏡(4a)および前記ATR結晶(8)によって、前記一対の平面鏡よりも試料側において前記中心軸(P1)上となるように設けられ、
前記ATR結晶(8)と試料との境界面は、前記測定光側の楕円面鏡の他方の焦点と一致し、
前記全反射光側の楕円面鏡(6b)は、該楕円面鏡の他方の焦点が前記全反射光側の中間鏡(4b)および前記ATR結晶(8)によって、前記測定光側の楕円面鏡(6a)の他方の焦点と一致し、かつ、該楕円面鏡の一方の焦点が前記全反射光側の中間鏡(4b)および前記全反射光側の平面鏡(2b)によって、前記測定光側の楕円面鏡の一方の焦点と一致するように設けられていることを特徴とする。
【0011】
以上の構成であれば、測定光側の楕円面鏡(6a)は、その一方の焦点の像点(C1)を通って中心軸(P1)に沿って入射された測定光を、その他方の焦点の像点(C2)であるATR結晶の境界面に集光させる。同時に、全反射光側の楕円面鏡(6b)は、境界面で生じる全反射光を、測定光側の楕円面鏡の一方の焦点の像点(C1)と同じ点に中心軸(P1)に沿って集光させる。
顕微装置の光軸上に一対の平面鏡が配置されており、入射される測定光のうちの中心軸付近の光も測定に利用できる。また、全反射光側の平面鏡のうちの中心軸付近の反射面が全反射光の集光に寄与する。従って、カセグレン式対物鏡よりも光利用率が改善される。かつ、カセグレン鏡に代えて楕円面鏡を対物鏡として利用しているので、カセグレン式対物鏡よりも低い倍率で全反射測定を実行できる。しかも、中間鏡を設けているので、低倍率化しても装置の大きさを従来の高倍率の対物鏡と同程度のスペースに納めることができる。
【0012】
また、本装置において、前記ATR結晶は、挿抜(さしぬき)式として退避可能に設けられていることが好ましい。
以上の装置であれば、ATR結晶を挿抜式として退避させることで、全反射測定から反射観察や反射測定への切り換えが可能となる。
【0013】
また、本装置において、前記ATR結晶は、光入出射部が球面の一部で形成された半球型結晶素子であることが好ましい。つまり、測定光および全反射光に対する集光作用が生じる。ここで、半球型結晶素子には、完全な半球面を有さずに、少なくとも球面の一部を含んでいるような結晶素子が含まれる。このような装置であれば、半球型のATR結晶を使用するので、ATR結晶の屈折率分だけ測定倍率を向上させることができる。
【0014】
一方、本装置において、前記ATR結晶は、光入出射部が平面で形成された結晶素子であることが好ましい。このようなATR結晶をここでは光入出射部平面型の結晶素子と呼び、例えば、三角柱型や五角柱型などの結晶素子が含まれる。以上の装置であれば、ATR結晶における測定光の入射面および全反射光の出射面が平面であることで、ATR結晶での集光作用は生じず、全反射測定においても対物鏡による低倍率の測定を維持することができる。
【0015】
ここで、前記ATR結晶は、試料との境界面の周囲において、前記境界面に対して斜め方向に形成されたテーパー面を有することが好ましい。テーパー面は多少丸みを帯びた曲面にしてもよい。ATR結晶の内部を進行する光の経路に応じて、テーパー面を形成するとよい。ATR結晶の境界面の周囲にテーパー面を積極的に設けることで、ATR結晶と試料との接触面積が必要以上に大きくならずに済み、微小量の試料での測定が可能になるなどの効果が得られる。
【0016】
また、本装置において、前記ATR結晶の代わりに、当該ATR結晶と同じ光学的光路長を有する透明平板が、測定光側および全反射光側の中間鏡から試料までの光路上において、中心軸に対して対称となる位置に挿入されていることが好ましい。このような各光学素子の配置の一例を図5に示す。図5中の符号8B,8Cが透明平板に相当する。
以上の装置であれば、光入出射部平面型のATRプリズムの代わりに同じ光学的光路長を有する透明平板を、中心軸に対して対称な位置に挿入することで、全反射測定と反射観察(または反射測定)の焦点位置が一致する。従って、全反射測定から反射観察や反射測定への切り換えをスムーズに実行できる。このような切り換えの一例を図4および図5に示す。図4中の符号8Aが光入出射部平面型のATRプリズムに相当し、これを用いて全反射測定が実行される。また、図5のように、光入出射部平面型のATRプリズムに代えて、透明平板を用いることで、全反射測定から反射観察や反射測定への切り換えが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の全反射測定装置であれば、カセグレン式対物鏡よりも光利用率が改善されるので、測定精度が向上する。かつ、カセグレン式対物鏡よりも低い倍率で全反射測定を実行することができるので、全反射および反射測定の測定領域が広くなる。しかも、低倍率化しても装置の大きさを従来の高倍率の対物鏡と同程度にすることができるので、従来の高倍率の対物鏡との互換性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態にかかる赤外顕微装置の概略構成図である。
図2図1に示すATR装置(全反射測定装置)の説明図である。
図3】前記ATR装置の別の形態を示す図である。
図4】前記ATR装置の更に別の形態を示す図である。
図5図4のATR装置を反射観察または反射測定に用いる場合の形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明を行う。図1は本発明にかかる実施形態の赤外顕微装置の概略構成図であり、いわゆるスマートマッピング機能を有するものを一例として説明する。本実施形態の赤外顕微装置10は、ATR装置(全反射測定装置)1と、赤外光源12と、光源からの赤外光に基づいて赤外干渉光(測定光)を発生させるマイケルソン干渉計14と、照射側アパーチャー16と、アパーチャー16からATR装置1へ至る光路上に設置された照射側スキャンミラー18と、ATR装置1から検出側アパーチャー22へと至る光路上に設置された検出側スキャンミラー20と、検出器26へ向う全反射光を当接面内の試料の特定部位からの光に制限する検出側アパーチャー22と、集光鏡24と、全反射光を検出するリニアアレイ検出器などの検出器26と、を備えている。
【0020】
ATR装置1は、赤外顕微装置に着脱自在に構成される。本発明において特徴的なことは、低倍率の全反射スペクトルおよび被測定物の観察と、光利用率を向上させることとを同時に行えるようにしたことであり、このために本実施形態においては、図2に拡大して示すような楕円面鏡6を対物鏡とするATR装置1を設けている。ATR装置1は、筐体3を有し、その中心軸P1が、入射される測定光および出射する全反射光の共通の光軸と一致するように赤外顕微鏡に取付けられる。中心軸P1上に、一対の平面状の鏡面2a,2bを有する平面鏡2と、この平面鏡2よりも試料側に略半球形のATRプリズム8と、が配置され、それぞれ取付部材5a,5bを介して筐体3に取り付けられている。ATRプリズム8は、その凸面を平面鏡2に向けて、その中心軸をATR装置の中心軸P1に一致させ、その半球面の中心点を以下に示す楕円面鏡6a,6bによる光収束位置に一致させて配置可能とされている。
【0021】
平面鏡2の2つの鏡面2a,2bは、ある角度を成して交わっており、共通の稜線を有する。この稜線は中心軸P1に直交し、2つの鏡面2a,2bの位置と姿勢は中心軸P1に対称となるように取り付けられている。照射側スキャンミラー18からの測定光は、測定光側の鏡面2aに入射され、同時に、ATR装置1で集光した全反射光は、全反射光側の鏡面2bを反射して、中心軸P1に沿って検出側スキャンミラー20に向けて出射するようになっている。
【0022】
また、筐体3には、一対の中間鏡4a,4bが、その位置および姿勢が中心軸P1に対して対称となるように、取付部材7a,7bを介して取り付けられている。さらに、一対の楕円面鏡6a,6bが、その位置および姿勢が中心軸P1に対して対称となるように、取付部材9a,9bを介して筐体に取り付けられている。これら一対の鏡体6a,6bは、それぞれ左右対称の形状を有する。
【0023】
まず、ATR装置1の平面鏡2からATRプリズム8までの測定光の光路を形成する光学素子について説明する。
【0024】
測定光側の中間鏡4aにおける平面状の鏡面は、平面鏡2における測定光側の鏡面2aに対向している。また、測定光側の楕円面鏡6aは、楕円体表面の一部からなる曲面状の鏡面を有し、中間鏡4aの鏡面に対向している。そして、鏡面2aを反射した測定光は、中間鏡4aを反射し、さらに楕円面鏡6aを反射し、再び、中間鏡4aに返される。ここで、測定光の光束に関して、測定光側の楕円面鏡6aの一方の焦点は、測定光側の中間鏡4aおよび測定光側の平面鏡2aによる像点の位置に形成される。その像点はちょうど中心軸P1上となる。ただし、本実施形態では、中心軸P1上に照射側スキャンミラー18が配置されているため、楕円面鏡6aの一方の焦点は、そのミラー18による像点C1の位置に形成される。そして、その像点C1の位置が照射側アパーチャー16の位置に一致する。また、測定光側の楕円面鏡6aの他方の焦点は、測定光側の中間鏡4aによる像点C2の位置に形成される。そして、ATRプリズム8と試料との境界面は、楕円面鏡の他方の焦点の像点C2と一致しているから、楕円面鏡6aから中間鏡4aに返された測定光は、中間鏡4aを反射して、ATRプリズム8に向かって進む。
【0025】
言い換えると、測定光側の楕円面鏡6aは、一方の焦点の像点C1に位置する照射側アパーチャー16を通過した測定光を、他方の焦点の像点C2に位置するATRプリズム8に集光させる。ATRプリズム8において、球面の一部からなる入射面から入射した測定光は、半球面の集光作用を受けて、その曲率半径の中心位置、つまり、試料との接触面に集光する。
【0026】
次に、ATRプリズム8で発生した全反射光が平面鏡2によってATR装置1の外部に出るまでの全反射光の光路を形成する光学素子について説明する。
【0027】
全反射光側の中間鏡4bは、中心軸P1に対して一方の中間鏡4aとは対照な位置・姿勢で取り付けられている。同様に、全反射光側の楕円面鏡6bも、中心軸P1に対して一方の楕円面鏡6aとは対照な位置・姿勢で取り付けられている。そのため、試料との当接面で発生した全反射光は、球面の一部からなる出射面による集光作用を受けて、全反射光側の中間鏡4bを反射し、さらに楕円面鏡6bを反射し、再び、中間鏡4bに返される。ここで、全反射光の光束に関して、全反射光側の楕円面鏡6bの一方の焦点は、全反射光側の中間鏡4bおよび全反射光側の平面鏡2bによる像点の位置に形成される。その像点はちょうど中心軸P1上となる。ただし、本実施形態では、中心軸P1上に検出側スキャンミラー20が配置されているため、楕円面鏡6bの一方の焦点は、そのミラー20による像点C3の位置に形成される。そして、その像点C3の位置が検出側アパーチャー22の位置に一致する。また、全反射光側の楕円面鏡6bの他方の焦点は、全反射光側の中間鏡4bによる像点の位置に形成され、この像点の位置は、測定光側の楕円面鏡6aの他方の焦点の像点C2と一致する。
【0028】
従って、全反射光側の楕円面鏡6bは、他方の焦点の像点C2で生じた全反射光を、一方の焦点の像点C3に位置する検出側アパーチャー22に集光させる。そして、アパーチャー22を通過した全反射光は、集光鏡24で集光されて、検出器26に入射する。
【0029】
なお、楕円面鏡6a,6bの曲面状の反射面は、それぞれ2つの焦点を持った楕円体の表面の一部で形成されている。楕円面鏡の反射面上の中央位置と各焦点とを結ぶ2つの線分の成す角度が、極力小さい方がよい。その角度は、楕円面鏡6a,6bの軸外し角に相当し、40度以下、好ましくは30度以下に設定するとよい。軸外し角が小さい方が、結像性能が良くなるからである。
【0030】
ATRプリズム8としては、例えば、試料との接触面と反対側の面(光の入射/出射面)が半球状であり、試料との接触面側が断面逆台形状(台形の短い片が接触面を形成する。)のものを用いてもよい。接触面に対して斜め方向に形成された面をテーパー面と呼ぶ。つまり、試料との接触部分が突き出た形状のものを用いる。また、略両凸レンズ状で、対向する二つの曲面がそれぞれ異なる曲率半径および中心を有するものを用いてもよい。ただし、本発明に用いるATRプリズムとしてはこれらの形状に限定されない。また、ATRプリズムの材質としてはGe、ZnSe、ダイヤモンドなどが一般的である。
【0031】
低倍率での全反射スペクトル測定の実現
全反射スペクトルを測定する場合には、干渉計14から得られる赤外干渉光をスキャンミラー18で反射させて入射光を形成し、ATR装置1に入射する。そして、自動ステージ42上の試料Sとの当接面にて発生した全反射光はATR装置1からの出射光となる。出射光はスキャンミラー20で反射され、アパーチャー22を通過する。そして、検出器26でその光強度が検出され、その検出信号がデータ処理回路28に供給される。この際、データ処理回路28は、別途取得するサンプリング信号に同期して、検出器26からの光強度信号を読み取り、フーリエ変換等、公知の信号処理をおこなって赤外吸収スペクトルを求める。
【0032】
以上の構成によれば、対物鏡として、小さい軸外し角を有する楕円面鏡6a,6bを採用しているので、2〜8倍程度の小さな縮小率でのスペクトル測定を実現できる。また、図1の紙面上に展開する面に、ATR装置1の光学素子群(一対の中間鏡4a,4bおよび一対の楕円面鏡6a,6b)が配置されており、図1の紙面に直交する面にリニアアレイ検出器26の複数の画素が並んでいる。このように、試料面におけるリニアアレイ検出器26の配置と直交する面に光学素子を配置することで、リニアアレイ検出器26に対する結像性の高い対物鏡を構成できる。
【0033】
また、中心軸P1上に平面鏡2を配置したことで、光利用率が高くなった。そのため、顕微光学系またはFTIR光学系の焦点位置にマルチアパーチャを配置することによって、十分な光量を保ちながら、空間分解能の向上も可能となる。また、光利用率が非常に高くなるので、TGS検出器でも良好なスペクトルの取得が行える。
【0034】
しかも、中間鏡4a,4bを設けているので、低倍率化しても装置の大きさを従来の高倍率の対物鏡と同程度のスペースに納めることができる。よって、従来の高倍率の対物鏡との互換性を維持することができる。
【0035】
図3に、図2のATR装置1の下部のプリズム用の取付部材5bを外した状態のATR装置1Aの構成を示す。ATRプリズム8を外すだけで、測定光は焦点C4に集光する。焦点C4は、プリズム8がある場合の焦点C2と同じ位置である。ATR装置1Aに取り付けられた各光学素子の位置および姿勢を微調整することにより、測定光を楕円面鏡6aの焦点C4に集光させることができるので、試料の反射測定に適用した対物鏡になる。このように、本発明のATR装置の構成であれば、低倍率の反射測定にも、低倍率のATR測定にも適用した対物鏡を提供できる。
【0036】
広い視野に対するマッピング測定の実現
本実施形態の赤外顕微装置10は、マッピング測定機能を有する。照射側スキャンミラー18の反射面の向きは、コントローラー30によって制御され、測定部位(測定光の結像位置)を様々に移動させることができる。また、ATR装置1からの全反射光は、検出側スキャンミラー20へと送られる。検出側スキャンミラー20では試料からの全反射光を反射しアパーチャー22へと送る。ここで検出側スキャンミラー20の反射面の向きも、コントローラー30によって制御され、選択された測定部位からの光のみをアパーチャー22の開口に向けることができる。アパーチャー22では測定部位以外からの反射光を遮断し、測定部位からの光のみが通過する。このように、アパーチャー22の当接面内における共役位置を変更することができる。
【0037】
従って、照射側スキャンミラー18および検出側スキャンミラー20の反射面の向きをそれぞれ変更して測定を繰り返すことにより、試料に対するATRプリズム8の当接位置を変えることなく、ATRプリズム8と試料面との当接面領域の二次元マッピング測定を行うことができる。そして、対物鏡として、小さい軸外し角を有する楕円面鏡6a,6bを採用しているので、2〜8倍程度の小さな縮小率による広い視野に対する面分析が実現し、ATRプリズム8を試料へ密着させた状態で広い領域のイメージング測定が可能となる。例えば、イメージング範囲を100μm角から2000μm角に倍増することができて、非常に画期的な拡張になる。
【0038】
更なる低倍率分析の実現
図4に、半球状のATRプリズム8に代えて、取付部材5cに保持された光入出射部平面型プリズム8Aを採用した場合のATR装置1Bの構造を示す。光入出射部平面型プリズム8Aは、平面に形成された測定光の入射面と全反射光の出射面とを有する。図2のATR装置1と同じ光学素子を使って、個々の光学素子の位置および姿勢を微調整することにより、測定光を楕円面鏡6aの焦点C5に集光させることができる。そして、光入出射部平面型プリズム8Aの試料との当接面を焦点C5に一致させることで、楕円面鏡6aの倍率(例えば4倍)の全反射測定を実行できる。
ATRプリズム8Aは、試料との境界面(当接面)の周囲において、境界面に対して斜め方向に形成されたテーパー面を有している。全体形状は、断面が5角形の角柱と言える。テーパー面は、ATRプリズム8Aの内部を進行する光の経路に応じて形成されている。ATRプリズム8Aの境界面の周囲にテーパー面を積極的に設けることで、ATRプリズム8Aと試料との接触面積が必要以上に大きくならずに済み、微小量の試料での測定が可能になるなどの効果が得られる。
【0039】
低倍率の全反射測定と反射測定とのスムーズな切換
図5に、図4の光入出射部平面型プリズムの代わりに、当該プリズムと同じ光学的光路長を有する一対の透明平板8B,8Cを取付部材5dにて取り付けた場合のATR装置の構造を示す。中間鏡4a,4bから試料までの光路上において、中心軸P1に対して対称となる位置に透明平板8B,8Cが挿入されている。
以上の装置であれば、光入出射部平面型のATRプリズム8Aの代わりに同じ光学的光路長を有する透明平板8B,8Cを挿入することで、全反射測定と反射測定の測定部位の位置(測定光の結像位置)C5が一致する。従って、全反射測定から反射測定や反射観察への切り換えをスムーズに実行できて、低倍率の反射測定と低倍率のATR測定の両立を実現できる。
【0040】
なお、本実施形態では、上記のフーリエ変換型分光器を用いた例を示したが、もちろん分散型の分光器を用いてもよい。また、光照射手段側に分光器を配置した例を示したが、光検出手段側に配置してもよい。
また、ATRプリズムは、挿抜(さしぬき)式として退避可能に設けられているとよい。ATRプリズムを挿抜式として退避させることで、全反射測定から反射観察や反射測定への切り換えが可能となる。
【0041】
レボルバーに低倍率の対物鏡と高倍率の対物鏡とを複数取り付けて、選択可能にしてもよい。レボルバーの動作により所望の対物鏡を選択できるので、非常に使い勝手がよい。
【0042】
また、本実施形態の顕微装置はマッピング測定機能を有するものであるが、本発明に係る全反射測定装置は、このような面分析に限られず、点分析用の測定装置としても有効に適用される。
【符号の説明】
【0043】
1 ATR装置(全反射測定装置)
2 平面鏡
4a,4b 中間鏡
6a,6b 楕円面鏡
8 ATRプリズム(ATR結晶)
10 赤外顕微装置
図1
図2
図3
図4
図5