(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906813
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】光学顕微鏡検査用の透明生物学的試料の調製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/30 20060101AFI20210708BHJP
G01N 1/34 20060101ALI20210708BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20210708BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
G01N1/30
G01N1/34
G01N1/28 F
G01N1/28 J
G01N33/48 P
【請求項の数】25
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-529167(P2019-529167)
(86)(22)【出願日】2017年12月5日
(65)【公表番号】特表2020-501141(P2020-501141A)
(43)【公表日】2020年1月16日
(86)【国際出願番号】EP2017081476
(87)【国際公開番号】WO2018104282
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2020年9月18日
(31)【優先権主張番号】102016123458.3
(32)【優先日】2016年12月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519190311
【氏名又は名称】ゲオルク−アウグスト−ウニヴェルジテート ゲッティンゲン シュティフトゥング エッフェントリヒェン レッヒツ,ウニヴェルジテーツメディツィン
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンツキ,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ワウテルス−ブント,フレッド エス.
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−533210(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/147812(WO,A1)
【文献】
特開2010−014673(JP,A)
【文献】
特表2016−538569(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0136613(US,A1)
【文献】
国際公開第2016/108359(WO,A1)
【文献】
米国特許第07273720(US,B1)
【文献】
特開2008−249543(JP,A)
【文献】
特開2010−008332(JP,A)
【文献】
R. M. GROSSFELD,A Study of the Changes in Protein Compositon of Mouse Brain during Ontogenetic Development,Journal of Neurochemistry,1971年,Vol.18,Page.2265-2277
【文献】
Sung-Yon Kim,Stochastic electrotransport selectively enhances the transport of highly electromobile molecules,PNAS,2021年05月28日,Vol.112 No.46,Page.E6274-E6283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/30
G01N 1/34
G01N 1/28
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡検査用の透明生物学試料の調製方法であって、組織をアルカリ性電気泳動水溶液(23)に浸漬し、電気泳動水溶液中で電界に曝すことにより、前記生体組織(2)を電気泳動浄化し、前記電気泳動水溶液は、5〜100mol/m3の濃度で塩基、および0.1〜10%(w/v)の濃度で界面活性剤を含む、方法において、
前記塩基は緩衝塩基であり、前記緩衝塩基のカチオンは、少なくとも50Daの分子量を有し、前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤である、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤は、以下からなる群から選択された少なくとも1つの物質から少なくとも大部分が合成されている:ツィーン20、ツィーン80、トリトンX45、トリトンX100、トリトンX102、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、オクチルフェノール、ブリッジ35およびノニデッドP40、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤は、以下からなる群から選択された少なくとも1つの物質から少なくとも大部分が合成されている:ツィーン80、トリトンX45、トリトンX102、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、ブリッジ35およびノニデッドP40、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤は、以下からなる群から選択された少なくとも1つの物質から少なくとも大部分が合成されている:ツィーン80、トリトンX102およびノニデッドP40、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電気泳動水溶液は、10〜50mol/m3または15〜25mol/m3の濃度で前記緩衝塩基を含む、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電気泳動水溶液は、0.5〜1.5%(w/v)の濃度で前記非イオン性界面活性剤を含む、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記緩衝塩基のカチオンの分子量は、少なくとも100Daである、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記緩衝塩基は、以下からなる群から選択された少なくとも1つの物質から少なくとも大部分が合成されている:トリス、ビシンおよびビストリス、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電気泳動浄化中の前記電気泳動水溶液の最大温度は、前記電気泳動水溶液の沸点以下の20から90℃の範囲に維持される、ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電気泳動浄化中の前記電気泳動溶液の最大温度は、40から60°Cの範囲に維持される、ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
電気泳動浄化中の前記電気泳動溶液のpH値は、8〜9の範囲に維持される、ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
電気泳動浄化中に、新鮮な緩衝塩基および/または新鮮な界面活性剤が前記電気泳動水溶液に添加される、ことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記電気泳動水溶液は連続的に交換される、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電気泳動水溶液およびその中に浸漬された前記組織に放出される電力が、電気泳動浄化中に制御される、ことを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも電気泳動浄化のサブ期間の間は、電力が固定値に制御される、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
電気泳動浄化中に、前記電気泳動水溶液およびその中に浸漬された前記生体組織(2)の電気抵抗が検出される、ことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
電気抵抗またはその時間的変化が所定の限界値を上回ると、および/または下回ると、電気泳動浄化の条件が変更され、および/または電気泳動浄化が終了される、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体組織(2)は、電気泳動的に浄化される前に、
・固定され、および/または
・ホルムアルデヒドにより固定され、および/または
・洗浄され、および/または
・水により洗浄され、および/または
・前記電気泳動水溶液により洗浄され、および/または
・アルカリ性水溶液中で培養される、
ことを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記アルカリ性水溶液中での前記組織の培養の際には、電気泳動的に浄化する前に、以下のパラメータの少なくとも1つが維持される;
・培養は、30から120分の間、または45から90分の間、行われる;
・培養は、20から50°Cで、または35から40°Cで行われる;
・アルカリ水溶液は、50から2000mol/m3のアルカリ濃度、または100から1000mol/m3のアルカリ濃度を有する;
・前記アルカリ水溶液は、NaOHを有する;
・前記アルカリ水溶液は、C1−6アルコールを10から70%、または40から60%(v/v)の濃度で有する;
・前記アルカリ水溶液は、エタノールを有する;
・前記アルカリ水溶液は、界面活性剤を0.1から10%、または0.5から2%(w/v)の濃度で有する;
ことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記生体組織(2)は、前記アルカリ性電気泳動水溶液中で電気泳動的に浄化される前に、または電気泳動的に浄化された後に、酸性水溶液中で培養され、それから酸性電気泳動水溶液中で電界に曝される、ことを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記酸性水溶液中での前記組織の培養の際には、以下のパラメータの少なくとも1つが維持される:
・培養は、30から120分の間、または45から90分の間、行われる;
・培養は、20から50°Cで、または35から40°Cで行われる;
・前記酸性水溶液は、50から2000mol/m3のプロトン濃度、または100から1000mol/m3のプロトン濃度を有する;
・前記酸性水溶液は、トリクロロ酢酸を有する;
・前記酸性水溶液は、C1−6アルコールを、10から70%、または40から60%(v/v)の濃度で有する;
・前記酸性水溶液は、エタノールを有する;
・前記酸性水溶液は、界面活性剤を0.1から10%、または0.5から2%(w/v)の濃度で有する;
前記酸性電気泳動水溶液は、以下のパラメータの少なくとも1つを維持する:
・前記電気泳動水溶液は、5〜100mol/m3の濃度で緩衝酸、および0.1〜10%(w/v)の濃度で前記非イオン性界面活性剤を含み、そして
・前記酸性電気泳動水溶液は、10〜50mol/m3の濃度でトリクロロ酢酸、および0.5〜2 %(w/v)の濃度で前記非イオン性界面活性剤を含む、
ことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記生体組織(2)は、電気泳動的に浄化された後に、
・抗体と共に培養され、および/または
・抗体の溶液中で電界に曝され、および/または
・色素により染色され、および/または
・色素の溶液中で電界に曝され、および/または
・有機溶剤により洗浄され、および/または
・キシロールまたはジクロロメタンにより洗浄され、および/または
・屈折率がn=1.4からn=1.6の範囲の溶液に取り込まれる、
ことを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記生体組織(2)は、電気泳動的に浄化された後に、
・屈折率がn=1.4からn=1.6の範囲の水溶液に取り込まれ、および/または
・屈折率がn=1.4からn=1.6の範囲の糖液ないしポリオール溶液に取り込まれる、ことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記生体組織(2)は、電気泳動的に浄化された後に、
・アルコール濃度の上昇するアルコール系により脱水され、および/または
・屈折率がn=1.4からn=1.6の範囲の有機溶剤に取り込まれ、および/または
・サルチル酸メチルまたは屈折率がn=1.4からn=1.6の範囲のサルチル酸メチル溶液に取り込まれる、
ことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
・前記組織は、電気泳動浄化のために反応チャンバ(4)内に配置され、前記反応チャンバは、
・縦軸(6)を中心に回転対称に構成されており、サイドカット部を有し、かつ前記電気泳動溶液が充填されるべき反応空間(5)と、
・前記サイドカット部の下方の前記反応空間(5)内にあり、かつ下方に向かって開放されたリングチャネル(17)であって、上方に案内されるガス排気チャネル(18)に接続されたリングチャネルと、
・前記リングチャネル(17)内、および/または前記リングチャネル(17)の下方の前記反応空間(5)内にある第1のリング状の電極(10)と、
・前記サイドカット部の上方の前記反応空間(5)内にある第2のリング状の電極(9)と、を有し、
・前記第1および第2の電極(9,10)は、直流電圧源(13)の2つの出力端に接続されており、
・前記組織は、前記サイドカット部にある反応空間(5)の低減された自由断面(16)内に配置されている、
ことを特徴とする請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡検査用の透明生物学的試料の調製方法に関する。とりわけ本発明は、組織をアルカリ性電気泳動水溶液に浸漬し、電気泳動水溶液中で電界に曝すことにより、生体組織を電気泳動的に浄化する方法に関し、前記電気泳動水溶液は塩基と界面活性剤を含んでいる。
【0002】
透明生物学的試料は、例えば光シート顕微鏡によって試料を3次元に結像することができるようにするために必要である。生物学的試料を透明にするために、とりわけ血液色素のヘム基、すなわちヘモグロビンと脂質を生物学的試料から除去すべきである。
【背景技術】
【0003】
米国特許出願公開第2015/0144490号明細書から、顕微鏡分析のために生物学的試料を調製する際の、CLARITY法としても知られる措置が公知である。CLARITY法では、それぞれの試料がまずヒドロゲル中で固定される。その後で初めて、試料はアルカリ性電気泳動水溶液に入れられ、この電気泳動水溶液中で電界に曝される。電気泳動水溶液は、ホウ酸、0.4%(m/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および水酸化ナトリウム(NaOH)を8.5のpH値の調整のために含む。電気泳動水溶液は、それぞれの試料が電界に曝されるチャンバ内で循環される。ここで電気泳動水溶液の温度は、37〜50℃であり、印加される電圧は10〜60Vである(この電圧が降下する区間の記述はない)。実際には電気泳動浄化は、CLARITY法によれば数日を要する。電気泳動浄化の後、試料は、屈折率が1.5の媒体に移送され、試料を付加的に、例えば抗体染色によって付加的に染色することができる。
【0004】
米国特許出願公開第2005/0130317号明細書は、生物学的分子を、2つの電極間に伸長する反応空間により平行分析するための装置を記載する。電極には、電極間に取り込まれた生物学的分子の移動を引き起こす電圧が印加される。
【0005】
この特許願の優先日以降に初めて公開された国際公開第2017/096248号から、腫瘍組織試料を、腫瘍の検出および監視のために調製および分析する方法が公知である。この方法は、ヒドロゲルサブユニットの存在中に試料を固定することと、ヒドロゲルに埋め込まれた試料を形成するためのヒドロゲルサブユニットを重合化することと、ヒドロゲルに埋め込まれた試料を浄化することと、そして浄化された、ヒドロゲルに埋め込まれた試料を、1つまたは複数の検知可能なマーカによりマーキングすることと、を有する。試料の浄化は、例えば有機溶剤に対して曝すこと、例えばサポニン、トリトンX−100およびツィーン−20のような界面活性剤に対して曝すこと、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のようなイオン性界面活性剤に対して曝すこと、およびイオン性界面活性剤、とりわけドデシル硫酸ナトリウムを有する緩衝液を使用して電気泳動することを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0144490号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0130317号明細書
【特許文献3】国際公開第2017/096248号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の基礎とする課題は、公知のCLARITY法よりも面倒ではなく、格段に迅速である、光学顕微鏡検査用の透明生物学的試料の調製方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、独立請求項1の特徴を備える方法によって解決される。従属請求項は、本発明の方法の好適な実施形態に関する。
【0009】
本発明の、光学顕微鏡検査用の透明生物学的試料の調製方法では、組織をアルカリ性電気泳動水溶液に浸漬し、電気泳動水溶液中で電界に曝すことにより、生物学的試料が電気泳動的に浄化される。電気泳動水溶液は、カチオンが少なくとも50Daの分子量を有する緩衝塩基を、5から100mol/m
3(5から100mmol/l)の濃度で含み、非イオン性界面活性剤を0.1から10%の濃度(w/v、すなわちリットル容積を基準にしたキログラム重量)で含む。
【0010】
カチオンが少なくとも50Daの分子量を有する緩衝塩基により、この緩衝塩基は、電気泳動水溶液の所望のアルカリ性を調整するが、そのカチオンは、とりわけナトリウムイオンと比較して、比較的大きく不動である。その結果、電界が、緩衝塩基のカチオンの移動の形態で電流を主に惹起するだけでなく、かなりの部分で、ヘム基および/または脂質が界面活性剤に閉じ込められたミセルからの電流も惹起する。このミセルに基づく電流は、これがミセルおよびヘム基と脂質を生体組織から外に導き出すことにより、生体組織の所望の浄化を引き起こす。
【0011】
本発明の方法では、非イオン性界面活性剤を使用することにより、印加される電界によって惹起される、界面活性剤イオンの形態の電流が発生しない。このような電流は、緩衝塩基のカチオンの電流と同様に、生体組織の得ようとする浄化に関しては寄生的でしかない。そのような寄生的なイオン電流の結果、とりわけ生体組織が加熱され、この加熱は、生体組織の浄化に結び付くことはない。寄生的電流は、電界強度の大きな電界を生体組織にわたって形成できることも阻害することになる。なぜなら、これにより惹起される大きな電流が生体組織を過度に加熱することになるからである。しかし、このような電界強度の大きな電界は、比較的大きく、相応に不動のミセルを生体組織から外に電気的に導き出すのに有利である。
【0012】
本発明の方法では、緩衝塩基のカチオンも比較的不動であり、界面活性剤は非イオン性であるから、寄生的電流が小さく維持され、それにより、流れる電流を基準にする電気泳動浄化の効率が格段に向上される。さらに、非イオン性界面活性剤が、生体組織中に残っているタンパク質と結合する傾向は、例えばSDSのようなイオン性界面活性剤よりも低い。この理由から、本発明の方法では、生体組織をヒドロゲルに固定することを簡単に省略することができる。公知のCLARITY法では、ヒドロゲルによりタンパク質がそれぞれの生体組織中に残らないことが保証される。生体組織をヒドロゲルに固定する必要性がないことは、手順的煩雑さが格段に削減されるという利点を有する他に、生体組織から印加される電界により外に導き出すべきミセルの移動性がヒドロゲルによって低下されないことも達成される。
【0013】
全体として本発明の方法により、光学顕微鏡検査用の生物学的試料を調製するための生体組織の浄化が、すでに数時間以内に規則正しく達成される。
【0014】
“非イオン性界面活性剤”の記述は、これによりイオン性がゼロである界面活性剤だけが意味されると理解すべきでない。むしろこの記述は、イオン性が顕著でない、すなわち少なくとも実質的にイオン性を有しない全ての界面活性剤に関連する。さらに好ましくは非イオン性界面活性剤は、タンパク質に対して可及的に小さな親和性を有することにしたがって選択される。当業者であれば、この基準に基づき適切な非イオン性界面活性剤を容易に選択することができる。
【0015】
本発明の方法の実地試験では、少なくとも以下の界面活性剤が非イオン性界面活性剤として適することが示された。ツィーン20、ツィーン80、トリトンX45、トリトンX100、トリトンX102、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、オクチルフェノール、ブリッジ35およびノニデッドP40。本発明において使用するのに特に好適な特性を非イオン性界面活性剤、ツィーン80、トリトンX45、トリトンX102、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、ブリッジ35およびノニデッドP40が示した。最も有利な特性を示したのは、ツィーン80、トリトン102およびノニデッドP40であった。
【0016】
本発明の方法において使用される非イオン性界面活性剤は、前記界面活性剤の2つ以上から合成することもできる。界面活性剤の混合は、電気泳動浄化の際に除去すべきそれぞれの生体組織の種々の内容物に目的どおりに整合することができる。
【0017】
電気泳動水溶液中の緩衝塩基の濃度は、好ましくは10から50mol/m
3、さらに好ましくは15から25mol/m
3、すなわち約20mol/m
3である。
【0018】
電気泳動水溶液中の非イオン性界面活性剤の濃度は、好ましくは0.5から1.5%(w/v)、すなわち約1%(w/v)である。
【0019】
緩衝塩基のカチオンの分子量は、好ましくは少なくとも100Daである。この要求を、挙げる順番で上昇的に満たす緩衝塩基は、トリス、ビシン、ビストリスである。
【0020】
電気泳動浄化中の電気泳動水溶液の最大温度は、20から90℃の範囲に維持することができる。いずれの場合でも、温度は、電気泳動水溶液の沸点より下に保つべきである。通常、電気泳動水溶液の最大温度を、電気泳動浄化中は40から60℃の範囲、すなわち約50℃に維持することが好ましい。しかし、それを超える温度により、タンパク質への抗体のための結合点を熱的にデマスキングできることがあり、これによって、これらのタンパク質を引き続き、抗体によりマーキングすることができる。
【0021】
本発明の方法では、電気エネルギーを投入することにより、この電気エネルギーが熱に変換され、生体組織の温度上昇が生じる。これは基本的に不可避である。しかし本発明の方法では、生体試料の達成された浄化が、投入された電気エネルギーを基準にして特に大きい。これにより、生体組織の温度を前記範囲内に制限することが特に容易であり、そのために、例えば電気泳動水溶液を能動的に冷却する必要はない。
【0022】
本発明の方法を実施する際には、電気泳動浄化中に電気泳動水溶液のpH値を8から9の範囲に保持することができる。電界が印加される結果として流れる電流は、典型的には、緩衝塩基がOH基に対してリザーバを提供したとしても電気泳動水溶液のpH値を低減する。したがって生体組織の浄化の効率を高く維持するために、電気泳動水溶液のpH値を前記のアルカリ性範囲に維持することが有意義である。この目的のために、電気泳動浄化中に新鮮な緩衝塩基を添加することができる。ミセルを外に導き出すことによって電界の作用下で消費される界面活性剤を、電気泳動浄化中に、新鮮な界面活性剤を電気泳動水溶液に添加することにより再び補充することができる。本発明の方法の最大効率は、電気泳動水溶液が連続的に、未使用の電気泳動水溶液と交換される場合に達成される。
【0023】
本発明の方法では、電気泳動水溶液およびその中に浸漬された組織に放出される電力を、電気泳動浄化中に制御することができる。この制御は、生体試料あるいは電気泳動水溶液の温度に依存して行うことができる。または所定の最大温度の維持を保証する一定の温度に制御することもできる。少なくとも電気泳動浄化の部分期間の間は、電力をそのような固定値に制御することができる。生体組織の浄化が十分に進行した場合、および/または電気泳動水溶液の大部分がすでに消費された場合、電力を固定値にさらに制御することはしばしば無意味である。
【0024】
生体組織の浄化の進行は、電気泳動水溶液およびその中に浸漬された生体組織の電気抵抗を検出することにより観察することができる。外に導き出すべきミセルが生体組織内に形成されると、まず電気抵抗が低下する、すなわち、導電性が上昇する。次に、電気泳動水溶液が消費され、および/または除去すべきヘム基と脂質の大部分がすでに排出されることにより、抵抗は再び増大し、導電性は再び低下する。そして、電気抵抗またはその時間的変化が所定の限界値を上回ると、および/または下回ると、本発明の方法では電気泳動浄化の条件を変更することができ、および/または電気泳動浄化を終了することができる。
【0025】
生体組織が本発明の方法により電気泳動的に浄化される前に、前もって別の処理を施すことができる。これには、例えばホルムアルデヒドにより生体組織を固定することが含まれるが、これは、固定に使用されるヒドロゲルとは異なり、ミセルの移動性を制限しない。さらに、例えば水、または後で電気泳動浄化中に使用される電気泳動水溶液による生体組織の洗浄も、本来の電気泳動浄化の前の可能な工程に含まれる。さらに生体組織を、電気泳動浄化の前に、アルカリ性水溶液中で培養することもできる。この培養の際に、以下のパラメータの少なくとも一部を保持すると有利であることが判明した。培養は、30から120分の間、好ましくは45から90分の間、行われる。培養は、20から50℃の温度、好ましくは35から40℃の温度、すなわち約37.5℃で行われる。アルカリ性水溶液は、50から2000mol/m
3のアルカリ濃度、好ましくは100から1000mol/m
3のアルカリ濃度を有する。アルカリ性水溶液は、そのアルカリ濃度を提供するためにNaOHを有する。アルカリ性水溶液は、C
1−6アルコールを、10から70%(v/v)の濃度で、または好ましくは40から60%(v/v)の濃度で有する。アルカリ性水溶液はエタノールを有し、アルカリ性水溶液は、界面活性剤を、0.1から10%(w/v)の濃度で、好ましくは0.5から2%(w/v)の濃度で有する。
【0026】
アルカリ性電気泳動水溶液中での電気泳動浄化に加えて、生体組織を酸性水溶液中で培養し、次に酸性電気泳動水溶液中で、さらなる電気泳動浄化のために電界に曝すことができる。
【0027】
酸性水溶液中での組織の培養の際には、以下のパラメータの少なくとも1つを維持することができる。培養は、30から120分の間、好ましくは45から90分の間、行われる。培養は、20から50℃で、好ましくは35から40℃で行われる。酸性水溶液は、50から2000mol/m
3のプロトン濃度、好ましくは100から1000mol/m
3のプロトン濃度を有する。酸性水溶液は、そのプロトン濃度を提供するためにトリクロロ酢酸を有する。酸性水溶液は、C
1−6アルコールを、10から70%(v/v)の濃度で、好ましくは40から60%(v/v)の濃度で有する。酸性水溶液はエタノールを有し、酸性水溶液は、界面活性剤を、0.1から10%(w/v)の濃度で、好ましくは0.5から2%(w/v)の濃度で有する。さらに酸性電気泳動水溶液は、以下のパラメータの少なくとも1つを維持することができる。酸性電気泳動水溶液は、緩衝酸を5から100mol/m
3の濃度で、非イオン性界面活性剤を0.1から10%(w/v)の濃度で含み、酸性電気泳動水溶液は、酢酸を10から50mol/m
3の濃度で、非イオン性界面活性剤を0.5から2%(w/v)の濃度で含む。
【0028】
生体組織を電気泳動的に浄化した後、光学顕微鏡検査のためにさらに調製することができる。これには以下のステップの少なくとも1つが含まれる。生体組織を、少なくとも1つの抗体と共に培養する。生体組織を、抗体の溶液中で電界に曝す。生体組織を、少なくとも1つの色素により染色する。生体組織を、色素の溶液中で電界に曝す。生体組織を、有機溶剤により洗浄する。生体組織を、キシロールまたはジクロロメタンにより洗浄する。生体組織を、屈折率がn=1.4からn=1.6の範囲の溶液に取り込む。n=1.4からn=1.6の屈折率の範囲、すなわち約n=1.5の屈折率とは、この溶液が、浄化された生体組織と同じ屈折率を有することを意味する。これにより、生体組織の境界面に、これを光学顕微鏡で検査する際に散乱が発生しない。
【0029】
具体的には、生体組織は、これが電気泳動的に浄化された後、水溶液および/または屈折率が約n=1.5の前記範囲の糖液あるいはポリオール溶液に取り込むことができる。択一的に、生体組織は、これが電気泳動的に浄化された後、アルコール濃度の上昇するアルコール系および/または有機溶剤、すなわちサルチル酸メチル、または屈折率が約n=1.5の範囲のサルチル酸メチル溶液に取り込むことができる。
【0030】
本発明の方法を具体的に実施するために、組織を電気泳動的に浄化するために、反応チャンバに配置することができる。この反応チャンバは、縦軸を中心に回転対称に構成されており、サイドカット部を有し、かつ電気泳動水溶液が充填されるべき反応空間と、前記サイドカット部の下方の反応空間内にあり、かつ下方に向かって開放されたリングチャネルであって、上方に案内されるガス排気チャネルに接続されたリングチャネルと、前記リングチャネル内、および/または前記リングチャネルの下方の反応空間内にある第1のリング状の電極と、前記サイドカット部の上方の反応空間内にある第2のリング状の電極とを有する。そして第1と第2の電極は、直流電圧源の2つの端子に接続され、これにより生体組織は電界に曝される。組織は、サイドカット部にある反応空間の低減された自由断面に配置され、ここでは近似的に均質な電界が電極間に集中する。下方の電極に形成され、そこから上昇する気泡を、ガス排気チャネルを介して排出することができ、したがって気泡は、反応空間には集まらず、電流を妨げない。さらに、気泡が加水分解により形成された水素を含んでおり、この水素が上方の電極において加水分解によって形成された酸素と混合できるような場合には、酸水素ガスの発生が阻止される。反応チャンバは、米国特許出願公開第2005/0130317号明細書から公知のようなさらなる特徴を有することができる。
【0031】
本発明の有利な発展形態は、特許請求の範囲、明細書および図面から得られる。明細書に述べた特徴および複数の特徴の組み合わせの利点は単なる例であり、択一的にまたは累積的に作用することができ、これらの利点は本発明の実施形態により必然的に達成する必要はない。これにより、添付された特許請求の範囲の対象が変更されることなく、当初の出願書類および特許の開示内容に関しては以下が当てはまる。さらなる特徴は、図面、とりわけ図示の幾何形状および複数の構成部材の互いの相対的寸法並びにそれらの相対的配置と作用接続から理解される。本発明の種々の実施形態の特徴の組み合わせ、または種々の特許請求項の特徴の組み合わせは、特許請求項の選択された引用関係から異なっても同様に可能であり、ここにおいて提案される。このことは、別個の図面に示される特徴、または図面の説明において述べられる特徴にも該当する。これらの特徴は、異なる特許請求項の特徴と組み合わせることもできる。同様に特許請求の範囲に挙げられた特徴は、本発明のさらなる実施形態に対しても当てはまる。
【0032】
特許請求の範囲および明細書に挙げた特徴は、それらの数に関して、副詞「少なくとも」を明示的に使用する必要なく、ちょうどその数であり、または前記数よりも大きい数が存在していると理解すべきである。したがって例えば界面活性剤について述べる場合、これはちょうど1つの界面活性剤、2つの界面活性剤またはそれ以上の界面活性剤が存在することであると理解すべきである。特許請求の範囲に挙げられた特徴は、別の特徴と置換することができ、またはそれぞれの方法あるいはそれぞれの方法において使用される1つの解決策を有するただ1つの特徴とすることができる。
【0033】
特許請求の範囲に含まれる参照符号は、特許請求の範囲により保護される対象の範囲を制限するものではない。参照符号は、特許請求の範囲を容易に理解する目的のためにだけ用いられる。
【0034】
以下、本発明を、図面に示された好ましい実施例に基づき更に説明し記述する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の方法を実施するための反応チャンバの分解図である。
【
図2】反応チャンバの修正実施形態の詳細を示す縦断面図である。
【
図3】本発明の方法の一実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
光学顕微鏡検査用の透明生物学試料を調製するための本発明の方法の一実施形態では、生体組織2からなる試料1が、試料ホルダ3によって反応チャンバ4内に配置される。この反応チャンバは、
図1に分解して示されている。反応チャンバ4は反応空間5を有し、この反応空間は、縦軸6を中心に回転対称に構成されている。反応空間5内では生体組織2がほぼ半分の高さに配置されており、試料ホルダ3によりサイドカット部、すなわち反応空間5の直径減少部が形成されている。ここで生体組織は、サイドカット部にある反応空間5の低減された自由断面16の領域に配置されている。反応空間5は、本発明の方法の実施の際に、少なくともアルカリ性電気泳動水溶液により充填される。本発明の方法の実施の際に生体組織2が接触する他の全ての溶液も、反応空間5に注ぐことができ、あるいは反応空間5を通して導くことができる。そのために反応空間5は、上方端子7と下方端子8を有する。これらの端子7と8は、生体組織2の処理中に、反応空間5中の溶液の組成を変化させ、またはそれどころか他の溶液と交換するために用いるだけでなく、それぞれの溶液を、反応空間5を通して循環させるためにも用いられる。この循環の際に、それぞれの溶液は、例えば熱交換器を通して案内することができ、これにより溶液を温度調整し、または溶液を、使用される成分に関して再生することができる。
【0037】
生体組織2を電気泳動浄化し、そこからとりわけヘム基および脂質を除去するために、上方電極9と下方電極10が設けられており、これらは反応空間内に存在する溶液に浸漬される。電圧を電極9と10の間に印加することにより、電界が生体組織2にわたって形成され、この電界は、駆動性の電気力を電気泳動浄化のために提供する。電圧を電極9と10の間に印加するために、接続線路11が上方電極9に、接続線路12が下方電極に設けられており、これらの接続線路により電極9と10は直流電圧源13に接続されている。電極9と10はリング状に構成されており、これによりサイドカット部の領域に、すなわち、生体組織2が配置された試料ホルダの自由断面の領域に電界を惹起する。試料ホルダ3も、試料チャンバ4の隣接する2つの部分14と15も、電気絶縁性材料から作製されていることが理解される。
【0038】
図2には、反応チャンバ4の別の一実施形態の詳細が縦断面図に示されている。この図は、試料1を備える試料ホルダ3が装着された、反応空間5の下方部分を示し、したがって生体組織2は、反応空間5のサイドカット部の自由断面16に試料ホルダ3によって配置されている。ここで反応空間にある下方端子8は、図示されていないが、
図1のように存在することができる。下方電極10は、上方に向かって閉鎖されたリングチャネル17の部分的に下方に、かつ部分的に内部に配置されており、このリングチャネルは試料チャンバへのインサート部29によって形成されている。下方に向かって開放したリングチャネル17は、上方に案内されるガス排出チャネル18に接続されており、これにより、電極10から、電圧印加の結果により上昇する、例えば加水分解により形成された水素を含む気泡19を制御して排出することができる。これにより、気泡が反応空間5に集まらず、反応空間5を通る流れが妨げられず、これにより反応空間5における酸水素ガスの形成も回避される。
【0039】
図3にブロック図で示された本発明の方法は、生体組織2を、例えばホルムアルデヒドで固定すること20により開始する。これに、例えば水による組織2の洗浄21が続く。本発明の方法を実施する間に、
図3では強調していないが、さらなる洗浄を挿入することができる。基本的に組織2は、以下で説明するように溶液中での各比較的長い処理の前に、まずこの溶液により洗浄することができる。
【0040】
アルカリ性培養22が、例えば1時間、37℃で、100mol/m
3のNaOH、50%のEtOHおよび1%(w/v)の界面活性剤の水溶液中で行われる。引き続きアルカリ性電気泳動23が、例えば45分間、50℃で、20mol/m
3のトリスと、それぞれ1%(w/v)の界面活性剤のアルカリ電気泳動水溶液中で行われる。本来の電気泳動は、電極9と10の間の最大1000Vの直流電圧によって行われ、最大電流は150mAであり、電力は10Wに制限される。これにより、例えば平均電圧は500V、平均電流は20mAになる。これに続いて、図示しない洗浄ステップを間に挟んで、酸性培養24を行うことができる。酸性培養24は、アルカリ性培養22に対応することができるが、NaOHの代わりにトリクロロ酢酸を添加して行う。同様に引き続き酸性電気泳動25では、基本的にアルカリ性電気泳動23と同じ条件が存在することができるが、トリスの代わりにトリクロロ酢酸が使用される。引き続き、または本発明の方法の適切な箇所で抗体染色26が行われる。すなわち、電気泳動浄化の後に組織2内にさらに存在する特定のタンパク質の免疫染色が行われる。その際に、このタンパク質に特異的に結合し、自身が色素を有するか、または後で色素によりマーキングされる抗体が使用される。浄化され、場合により染色された生体試料2を、水溶液中で光学的に検査すべきでない場合、脱水27が行われ、これに浄化された組織の約1.5の屈折率を有する媒体への移送28が続く。そのために適する媒体はウィンターグリーン油である。こうして組織は、例えば光シート技術を適用した光学顕微鏡検査に適するようになる。公知のCLARITY法と比較して、本発明の方法は、数時間の非常に短い全体手順時間を特徴とする。ここでは、酸性培養24と酸性電気泳動25が、生体試料2を十分に浄化するために何回も必要ではないことも考慮すべきである。
【0041】
本発明の方法を実施するための以下のプロトコルによれば、それぞれ約250mgの豚の肺組織からなる試料1が浄化された。組織2の固定20はホルムアルデヒドで行われる。組織2の洗浄21は、10分間、水により行われる。アルカリ性培養22は、1時間、37℃で、500mol/m
3のNaOH、50%(v/v)のEtOHおよび1%(w/v)の非イオン性界面活性剤の水溶液中で行われた。アルカリ性電気泳動23は、45分間、20mol/m
3のトリスとそれぞれ1%(w/v)の非イオン性界面活性剤の電気泳動水溶液中で行われた。ここで電極9と10の間には最大1000V、最大電流150mAの直流電圧が印加され、電力は10Wに制限された。脱水27は、4つの30分ステップにおいて、50%、70%、90%、そして100%エタノールにより行われた。移送28は、ウィンターグリーン油で行われた。種々の被検非イオン性界面活性剤が、このプロトコルの適用の際に種々の良好な結果をもたらした。これらの結果は、以下のように0(劣悪な浄化、黒く着色された試料)から++++(良好な透明度と無色)までの評価尺度にしたがって判定された:
0:界面活性剤なし
+:ツィーン20、トリトンX100
++:n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、ブリエ35
+++:ノニデッドP40、トリトンX45(乳液)、ツィーン80
++++:トリトンX102。
【0042】
さらなる実験において、アルカリ性電気泳動23、組織2の血液負荷および浄化結果における電気抵抗の経過の関係性が検査された。電気抵抗は、アルカリ性電気泳動23の始めに低下する。これは、ヘム基と脂質を含むミセルが可動の電荷担体として形成され、放出されることに起因するものであり、ミセルは引き続き電界によって組織2から外に導き出すことができる。組織の血液負荷が高い場合は、さらに多くのそのような電荷担体が形成されることがある。対応して電気抵抗は非常に急速に低下し、さらに小さな最小値にも達する。電荷担体を形成する電気泳動水溶液の成分が消費されるにつれ、抵抗は再び上昇する。同様に、電荷担体を形成する組織の構成成分、すなわちヘム基と脂質が、すでに実質的に組織から除去された場合にも上昇する。電気抵抗のこの経過は、アルカリ性電気泳動を目的どおりに制御するために、とりわけ、アルカリ性電気泳動が有意に終了される時点を識別するために利用することができる。さらに電気抵抗のこの経過は、本発明の基礎となる考察、すなわち、電気泳動水溶液自体の導電率を可及的に小さく保持するべきであり、そのためには、浄化のためにヘム基や脂質のような、実際に組織から除去すべき物質を含む電荷担体だけができるだけ形成されるようにすべきであるという考察の正当性に対する例証である。これらの条件の下で流れる電流は、組織2の効率的な電気泳動浄化につながる。これにより、寄生的電流による試料2の電気的加熱が回避され、このような寄生的電流が、試料にわたって形成される電界の高い電界強度の形成を実際に阻止することも回避される。これらのことは、比較的大きなヘム基および/または脂質を含むミセルに十分に大きな電気力を及ぼし、ミセルを生体組織2から外に導き出すために必要である。
【符号の説明】
【0043】
1 試料
2 生体組織
3 試料ホルダ
4 反応チャンバ
5 反応空間
6 縦軸
7 上方端子
8 下方端子
9 上方電極
10 下方電極
11 線路
12 線路
13 直流電圧源
14 反応チャンバ4の上側部分
15 反応チャンバ4の下側部分
16 自由断面
17 リングチャネル
18 ガス排気チャネル
19 気泡
20 固定
21 洗浄
22 アルカリ性培養
23 アルカリ性電気泳動
24 酸性培養
25 酸性電気泳動
26 抗体染色
27 脱水
28 移送
29 インサート部