特許第6906902号(P6906902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906902
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】ガラス板の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 11/04 20060101AFI20210708BHJP
   B08B 1/00 20060101ALI20210708BHJP
   B08B 3/04 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   B08B11/04
   B08B1/00
   B08B3/04 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-104636(P2016-104636)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-209628(P2017-209628A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】516155344
【氏名又は名称】早川 篤志
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】早川 仁之
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−136109(JP,A)
【文献】 実開昭58−059036(JP,U)
【文献】 特開2002−208580(JP,A)
【文献】 特開2014−057927(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/080399(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 11/04
B08B 1/00
B08B 3/04
H01L 21/304
A47L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を洗浄槽内に供給しながら前記洗浄液中でガラス板の被洗浄面を洗浄するための洗浄方法において、
前記ガラス板を吸着盤の上面に吸着保持し、前記被洗浄面より低硬度の鉄または鉄系金属よりなる繊維を不織布状をなすように絡み合わせて円柱状に形成するとともに軸線方向の長さが前記被洗浄面の幅より長く形成した洗浄部材を支持部材に回転不能に保持させ、前記洗浄部材を前記被洗浄面上において直線的に移動させるとともに、前記被洗浄面を外れた位置において移動方向を反転させて往復させることにより、前記洗浄部材によって被洗浄面を洗浄するガラス板の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄部材を長さ方向と直交する方向に移動させて洗浄する請求項1に記載のガラス板の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄部材による被洗浄面に対する移動速度が秒速10〜20センチメートルである請求項1または2に記載のガラス板の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイアガラス等のガラス板の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス基板等のガラス板は、ガラス板の被洗浄面と直交する軸線を中心に回転されるブラシを用いて洗浄される。ところが、この洗浄方法においては、ブラシの回転中心部と外周部との間の速度差が大きいために、均一な洗浄作用を得ることができない。
【0003】
それ以外に、特許文献1〜3に開示された洗浄方法が公知になっている。
特許文献1に開示された洗浄方法は、ガラス板の被洗浄面と平行な軸線を中心に回転されるブラシを用いるものである。
【0004】
特許文献2に開示された洗浄方法は、ガラス板の被洗浄面に対し平行方向に400〜600Hz(ヘルツ)で往復振動する洗浄用ブラシ毛を前記被洗浄面に接触させるものである。
【0005】
特許文献3に開示された洗浄方法は、ガラス板の被洗浄面に対して少なくとも40〜60KPa(キロパスカル)の圧力で洗浄用ロールブラシのブラシ毛が接触されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−228449号公報
【特許文献2】特開2011−158656号公報
【特許文献3】特開2011−147879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された洗浄方法においては、ブラシがガラス板の被洗浄面と平行な軸線を中心に回転されるものであるため、ブラシ毛が被洗浄面に一方向側から接触することになる。このため、被洗浄面の凹凸が微細であっても、その凹凸においてブラシ毛の回転方向後方側には、ほとんど接触されない面,いわば洗い残し面が存在することになり、高洗浄度を達成できないものであった。
【0008】
特許文献2に開示された洗浄方法においては、洗浄用ブラシ毛が被洗浄面に対する接触状態でその被洗浄面に対して平行方向に400〜600Hzで往復振動するものであるため、被洗浄面上において洗浄用ブラシ毛の移動方向が小刻みに反転される。従って、移動方向反転部が無数に形成されて、被洗浄面上には洗浄ムラが形成されるだけではなく、移動方向反転部において被洗浄面の性状が傷つき等によって変化し、均一な性状の被洗浄面を得ることができないおそれがあった。
【0009】
また、洗浄用ブラシ毛が高い振動数で往復するため、その振動によってガラス板が割れるおそれがあるばかりでなく、ガラス板の被洗浄面が多数回擦過されて、前記と同様に、性状が変化したり、コーティングが剥離したりする場合もある。
【0010】
特許文献3に開示された洗浄方法においては、ロールブラシを100〜300rpmで回転させるとともに、ガラス板をブラシ毛の移動方向と同じ方向に移動させて洗浄を行うことが開示されている。従って、この特許文献3の洗浄方法は、前記特許文献1と同様に高洗浄度を達成することが困難である。
【0011】
本発明の目的は、ガラス板を有効に洗浄できる洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明においては、洗浄液を供給しながらガラス板の被洗浄面を洗浄するための洗浄方法において、前記被洗浄面より低硬度の繊維を集合させた洗浄部材を前記被洗浄面上において直線的に移動させるとともに、洗浄面を外れた位置において移動方向を反転させて往復させることにより、前記洗浄部材によって被洗浄面を洗浄することを特徴とするものである。ここで、直線的に移動させるということは、洗浄部材が回転されたり、特許文献2のように振動されたりすることなく、洗浄部材を一方向及びその逆方向に直線移動させることを指す。
【0013】
以上の洗浄方法によれば、ガラス板の被洗浄面は直線的に移動される洗浄部材によって一方向に洗浄されて、清浄化される。このため、被洗浄面と平行な面内において回転される洗浄部材とは異なり、被洗浄面の凹凸が微細であっても、洗浄されない部分が生じることはなく、従って、被洗浄面全体が洗浄される。また、洗浄部材が被洗浄面上で反転されたり、短時間に短い振幅で多数回振動されたりする場合とは異なり、被洗浄面の性状が変化したり、ガラス板が割れたりすることを回避できる。そして、洗浄部材を構成する繊維が適度に折れて、洗浄によって被洗浄面から除去された異物とともに、洗い流される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガラス板の被洗浄面を適切に洗浄できるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の洗浄方法が実施される洗浄装置の斜視図。
図2図1の洗浄装置の平面図。
図3】洗浄液の循環経路を示す簡略図。
図4】吸引エア発生に関する構成を示す簡略図。
図5】洗浄部材とガラス板との関係を示す断面図。
図6】洗浄部材とガラス板との関係を図5とは異なる位置で切断して示す断面図。
図7】実施形態の洗浄部材の斜視図。
図8】変更例の洗浄部材の斜視図。
図9】テストピースの分光透過率を示すグラフ。
図10】テストピースの表面応力値を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した洗浄方法の実施形態を説明する。
はじめに、洗浄方法を実施するための洗浄装置の構成を説明する。
図1図4に示すように、装置フレーム11の下部には洗浄液タンク12が、上部には洗浄槽13が設置されている。そして、洗浄液タンク12内の洗浄液L,例えばアルコール系洗浄剤よりなる洗浄液Lが洗浄槽13内に供給されて、ガラス板Gの表面の被洗浄面Fの洗浄に供された後に洗浄液タンク12内に回収される。従って、洗浄液Lが洗浄液タンク12と洗浄槽13との間において循環される。
【0017】
洗浄液タンク12内は、隔壁14により第1室15と第2室16とに区画され、第1室15内の洗浄液Lが隔壁14をオーバーフローして第2室16内に流れ落ちる。
洗浄槽13内には洗浄枠17が設置され、この洗浄枠17内には多孔質材よりなる吸着盤18が設けられている。吸着盤18の中央部には複数の吸着孔182が形成されている。この吸着盤18の上面にガラス板Gが載置されて、吸着孔182に作用する負圧によって吸着盤18の上面に吸着される。吸着孔182はガラス板Gの載置エリア内に配置されている。
【0018】
前記第2室16と洗浄枠17の上部との間には、ポンプ19とフィルタ20とを介在させた供給路21が連結されている。また、洗浄槽13の下部と第1室15との間には回収路22が連結されている。そして、洗浄液タンク12の第2室16内の洗浄液Lがポンプ19により洗浄枠17内に供給されて、ガラス板Gの洗浄に供される。洗浄枠17内の洗浄液Lは洗浄枠17の上縁から洗浄槽13内にオーバーフローされて、その洗浄槽13から回収路22を経て洗浄液タンク12の第1室15内に落下回収される。さらに、洗浄液Lは、隔壁14をオーバーフローされて第2室16に流れ落ちる。このようにして、前記のように、洗浄液Lが洗浄液タンク12と洗浄枠17内との間において循環される。
【0019】
前記吸着盤18の下部室183には上流側吸気管23の漏斗状体231が接続されている。上流側吸気管23にはトラップ24の上部が接続され、このトラップ24の上部には、下流側吸気管25が接続されている。下流側吸気管25は、ブロワ26を有する通気管27に接続されている。そして、ブロワ26の駆動によって通気管27内にエア流が生じ、そのエア流に基づくエジェクタ効果により、吸着盤18の吸着孔182から上流側吸気管23,トラップ24,下流側吸気管25及び通気管27に到る吸引エア流が生じる。この吸引エア流による吸着作用を利用して、吸着盤18の上面にガラス板Gが吸着保持される。このとき、吸引エア流に含まれる洗浄液Lがトラップ24内において分離される。
【0020】
トラップ24の下部にはドレン管28が接続され、このドレン管28の内部には、フロート弁29が設けられている。ドレン管28は、前記洗浄液タンク12の第1室15の上部位置に接続されている。そして、トラップ24内において分離された洗浄液Lは、自重によってドレン管28を介して第1室15内に落下される。このとき、トラップ24内が負圧である場合には、フロート弁29が閉じて水の逆流が阻止される。
【0021】
前記装置フレーム11の上面において前記洗浄槽13と隣接する位置には、図示しない駆動機構によって往復動される作動アーム31が設けられ、その作動アーム31の先端には支持部材32が固定されている。支持部材32の下面には凹状の支持部33が形成され、この支持部33には洗浄部材34がその下半部を突出させた状態で保持される。図7に示すように、この洗浄部材34は、軟鉄よりなる繊維を不織布状をなすように不規則に絡み合わせて、全体として円柱状にしたものであって、その太さは、直径0.02〜0.5mm(ミリメートル)程度であり、0.05〜0,1mm程度が好ましい。る。そして、駆動機構による駆動に基づいて、作動アーム31がその長さ方向に沿って往復動されて、洗浄部材34がその長さ方向と直交する方向に往復動される。なお、駆動機構は、モータによって回転されるクランク機構や、エアシリンダ等が採用される。
【0022】
次に、ガラス板Gの表面の被洗浄面Fを洗浄部材34を用いて洗浄する洗浄方法について説明する。
通常、ガラス板Gは、モース硬度で4.5〜6.5であり、軟鉄は、同じくモース硬度で4〜5である。そして、本実施形態においては、ガラス板Gがモース硬度で5であり、洗浄部材34を構成する軟鉄の繊維がモース硬度で4である。洗浄部材34の繊維は、ガラス板Gより低硬度である必要があり、モース硬度において、ガラス板Gの硬度に対して10〜30パーセント低硬度であることがよく、10〜20パーセント低硬度であることがさらによい。また、図6に示すように、洗浄部材34の軸線方向の長さは、被洗浄面Fの幅Dより長く形成されている。
【0023】
ガラス板Gは、吸着盤18の上面に吸着保持される。このとき、ガラス板Gの大きさが吸着盤18の外枠181の内法より小さい場合には、そのガラス板Gが外枠181の内法形状と同じ外形状の保持枠35内に保持される。ガラス板Gの大きさが吸着盤18の外枠181の内法と同じ形状である場合には、ガラス板Gは外枠181を用いることなく単独で吸着盤18の上面に吸着保持される。以下の洗浄方法においては、外枠181を用いるものとする。
【0024】
従って、外枠181内に保持されたガラス板Gは、その外枠181とともに吸着盤18の外枠181内に吸着保持される。
この状態で、駆動機構によって作動アームを往復動させることにより、洗浄部材34をガラス板Gの被洗浄面F上においてその被洗浄面Fと平行な面内で、かつ洗浄部材34の軸線341と直交する方向に往復動させる。そして、この場合、洗浄部材34の往復動ストロークSは、被洗浄面Fの長さ(図5の左右方向寸法)を越えるものとする。従って、洗浄部材34は、被洗浄面F上において反転されることなく、被洗浄面F外において反転される。このため、被洗浄面Fは洗浄部材34によって一方向及びその逆方向に洗浄される。また、被洗浄面Fに対する洗浄部材34の圧力は、高くする必要はなく、例えば、被洗浄面Fに対する圧力が30〜150N(ニュートン)程度でよく、40〜70N程度がさらによい。また、往復動の速度は、秒速10〜20cm(センチメートル)程度でよく、13〜16cm程度がさらによい。
【0025】
このような条件で洗浄液L中において洗浄部材34を往復動させれば、ガラス板Gの被洗浄面Fが洗浄部材34によって洗浄されて清浄化される。この場合、洗浄部材34の洗浄動作が直線的な往復動の動作であるため、被洗浄面Fの微細な凹凸は、被洗浄面Fと平行な面内において回転される洗浄部材とは異なり、洗浄されない部分が生じることなく、全体が均一に洗浄される。
【0026】
そして、洗浄部材34を構成する鉄繊維が適度に折れて、洗浄によって被洗浄面Fから除去された異物とともに、洗い流される。また、洗浄部材34の反転位置が被洗浄面F外であるため、ガラス板Gに不要な振動が生じることはなく、ガラス板Gが割れたり、被洗浄面Fに洗浄されない部分が残ったりおそれはない。さらに、被洗浄面Fに対する洗浄部材34の接触圧力が低く、かつ、洗浄部材34の移動速度が速すぎないため、被洗浄面Fの性状が変化するおそれもない。以上のように、被洗浄面Fが変質したり、ガラス板Gが割れたりすることなく、被洗浄面Fを効果的に洗浄できる。
【0027】
従って、本実施形態においては、以下の効果がある。
(1)洗浄部材34の洗浄動作が直線的な往復動であるため、特許文献1や特許文献2に記載の洗浄方法とは異なり、被洗浄面F全体が均一に洗浄され、その結果、被洗浄面F上の異物が適切に除去される。
【0028】
(2)洗浄部材34を構成する鉄繊維が適度に折れるため、被洗浄面Fに対してダメージが与えられることを抑制できるとともに、洗浄によって被洗浄面Fから除去された異物が折れた鉄繊維とともに洗い流される。
【0029】
(3)洗浄部材34の反転位置が被洗浄面F外であるため、ガラス板Gに不要な振動が生じることはなく、特許文献2に記載の洗浄方法とは異なり、ガラス板Gが割れたり、被洗浄面Fに洗浄されない部分が残ったりするおそれはない。
【0030】
(4)被洗浄面Fに対する洗浄部材34の接触圧力が低く、かつ、洗浄部材34の移動速度が速すぎないため、被洗浄面Fの性状が変化するおそれもない。
(変更例)
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような態様で具体化することができる。
【0031】
・洗浄部材34として前記実施形態とは異なる材質のものを使用すること。例えば、鉄以外の金属であるアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、銀、亜鉛、黄銅等や、硬質合成樹脂等の硬質繊維を不規則に集合させたものを用いること。
【0032】
・洗浄部材34として前記実施形態とは異なる形状のものを使用すること。例えば、図8に示すように、繊維を不規則に集合させた平板状のものを使用すること。
・洗浄部材34の往復動位置が洗浄部材34の軸線方向に移動できる洗浄装置を用いること。このような洗浄装置を用いることにより、被洗浄面F外において洗浄部材34をその軸線方向に移動させることにより、洗浄部材34の軸線方向寸法より幅の広いガラス板Gを洗浄できる。
【0033】
・ガラス板Gはコーティングを有し、洗浄はそのコーティング面に対して行なうこと。この場合、洗浄部材34を構成する繊維は、コーティング面より低硬度のものを用いること。
【0034】
(実施例)
以下に、前記実施形態の実施例及び比較例を説明する。
本実施形態は、テストピースとして3枚の強化ガラス板Gを用いた。これらの強化ガラス板Gの硬度は、モース硬度で5である。これらの各テストピースをn−ヘキサンにより前処理洗浄を行なった。
【0035】
そして、各テストピースの表面全体に対して、ゼブラ株式会社製の油性マーカー(商品名:マッキー極太)の赤色を塗布し、塗布後、常温下において24時間放置した。
その後、1枚のテストピース(以下、Aピースという)に対して、前記実施形態の洗浄方法により洗浄を行なって実施例とした。他の1枚のテストピース(以下、Bピースという)に対して、ナトリウム水により超音波洗浄を行って比較例1とした。残りの1枚のテストピース(以下、Cピースという)に対して炭化水素系洗浄剤により超音波洗浄を行なって比較例2とした。さらなる詳細は以下の通りである。
【0036】
実施例(Aピース):液温摂氏15度のアルコール系洗浄剤中において、2分間ずつ2回洗浄を行なった。洗浄部材34は、直径0.1mmの軟鉄よりなり、硬度がモース硬度4の繊維を不織布状をなすように不規則に絡み合わせて、全体として円柱状にしたものである。この洗浄部材34をAピースの表面に対して50N(ニュートン)の圧力で押し当てて、Aピースの表面に沿って秒速15cmの速度で往復移動させた。往復移動の反転位置は、Aピースの表面の端部から側方へ1mm外れた位置である。
【0037】
比較例1(Bピース):液温摂氏15度の水酸化ナトリウム25%の洗浄液中において5分間ずつ2回超音波(100ボルト,150ワット。25キロヘルツ)洗浄を行なった。
【0038】
比較例2(Cピース):液温摂氏15度のイソパラフィン系炭化水素洗浄液中において、5分間ずつ2回超音波(100ボルト,150ワット。25キロヘルツ)洗浄を行なった。
【0039】
そして、株式会社島津製作所社製の分光光度計(製品名:SolidSpec-3700DUV)を用いて、前記3枚の各ピースの分光透過率を測定した。その測定結果を図9に示す。図9から明らかなように、実施例のAピースにおいては、比較例1のBピース及び比較例2のCピースと比べると、高い分光透過率を示した。しかも、実施例の洗浄時間は、比較例1及び比較例2の洗浄時間の40%と短いが、このように短くても、前記のように高い透過率を示した。従って、実施例によれば、洗浄に要する作業時間を大幅に短縮できることを示している。
【0040】
ここで、実施例において、洗浄部材34によるAピースへの圧力が29Nに低下すると、分光透過率の低下が認められた。また、実施例において、Aピースに対する洗浄部材34の移動速度が秒速10cmを下回ると、分光透過率の低下が認められた。
【0041】
また、株式会社ルケオ社製の屈折計型ガラス表面応力計(製品名:FSM-6000LE)を用いて、実施例,比較例1及び比較例2で洗浄した各ピースの表面応力測定を行なった。その測定結果を図10に示す。図10から明らかなように、実施例,比較例1及び比較例2により洗浄された各ピースの表面応力値には、ほとんど差がなく、強度差は無視できる程度のものである。従って、軟鉄で擦過洗浄を行なって、仮に強度低下が認められたとしても、その低下は、誤差の範囲内であると思われる。
【0042】
また、実施例において、Aピースに対する前記圧力が150Nをオーバーすると、表面応力値が強度低下側に移行することが認められた。さらに、Aピースに対する洗浄部材34の移動速度が秒速20cmをオーバーすると、前記と同様に、表面応力値が強度低下側に移行することが認められた。
【0043】
(他の技術的思想)
前記実施形態から把握される技術的思想は以下の通りである。
(A)板状の被洗浄体を保持可能にした吸着盤と、硬質繊維を不規則に集合させた洗浄部材を保持する支持部材と、その洗浄部材を前記被洗浄体の外側で反転させながら直線的に往復動させて、洗浄部材によって被洗浄体の表面を洗浄させる駆動機構と、前記洗浄部材による洗浄位置に洗浄液を供給する供給機構とを有する洗浄装置。
【0044】
(B)前記洗浄液を循環させる循環路を備え、その循環路には洗浄液を濾過するフィルタを設けた前記技術的思想(A)項に記載の洗浄装置。
【符号の説明】
【0045】
34…洗浄部材、F…被洗浄面、G…ガラス板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10