【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
(不織布の製造)
炭素繊維束を開繊した平均繊維長48mmのPAN系炭素繊維(東レ製)40質量%と、平均繊維長51mm、融点168℃のポリプロピレン(ダイワボウ製)60質量%を市販のブレンダー機で混綿した後、市販のカード機によりカーディングすることにより、シート化、及び積層化して不織布を作製した。
【0039】
(加熱・加圧処理)
上記で得られた不織布を市販のベルトプレス機に送り、市販の赤外線加熱炉にて処理することによりプリプレグシートを得た。得られたプリプレグシートを本発明品とした。該プリプレグシートの目付重量は250g/m
2、厚みは1.3mmであった。なお、加熱温度は240℃、加熱時間は90秒、加圧力は1MPaである。
【0040】
上記不織布の製造において、シート化、及び積層化したものを市販のニードルパンチ機を用いて不織布の表裏面に対して、それぞれ針密度(不織布単位面積当たりのニードルパンチ機の針が突き刺す本数)を30本/cm
2として繊維交絡を施すこと以外は、本発明品と同様の方法で得られたプリプレグシートを比較品とした。
【0041】
(プレ成型処理)
上記の方法で得られたプリプレグシートを市販の赤外線加熱炉にて処理することにより行なった。加熱温度は240℃(ポリプロピレンの融点+72℃)、加熱時間は90秒である。なお、プレ成型処理したプリプレグシート単位面積当たりのニードルパンチ機による痕跡の数を目視により算出した。本発明品、及び比較品のプリプレグシートの痕跡の数は、それぞれ、0個/cm
2、及び30個/cm
2であった。
【0042】
(プレ成型処理前後における断面観察)
上記の方法で得られたプリプレグシートのプレ成型処理前後における断面の様子を光学顕微鏡(KEYENCE製VHX−900)により観察し、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との繊維交絡の状態を調べた。
【0043】
図3に本発明品のプリプレグシートの断面写真、
図4に比較品のプリプレグシートの断面写真を示す。(a)はプレ成型処理前、(b)はプレ成型処理後を示す。また、
図5に、本発明品のプリプレグシートのプレ成型処理後の拡大断面写真(レンズ倍率:30倍、視野面積:3mm×5mm)、
図6に、比較品のプリプレグシートのプレ成型処理後の拡大断面写真(レンズ倍率:30倍、視野面積:3mm×5mm)を示す。
【0044】
図3、
図5より、本発明品のプリプレグシートの断面は、プレ成型処理前後に関わらず、厚み方向への繊維交絡が存在しないことがわかる。一方、
図4、
図6より、比較品のプリプレグシートの断面は、プレ成型処理前に施したニードルパンチにより、炭素繊維の一部と他部が厚み方向に1mm以上変位する炭素繊維(
図6の矢印の箇所を参照)が存在し、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の繊維交絡が起こり、プレ成型処理後においても繊維交絡の状態が維持されていることがわかる。
【0045】
(プレ成型処理前後における見かけ厚み変化率の測定)
本発明品、及び比較品について、プレ成型処理前後の見かけ厚みを市販の厚みゲージにより測定し、見かけ厚み変化率(厚さ膨張率)を求めた。表1にその結果を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1より、本発明品(No.1〜6)のプリプレグシートは、プレ成型処理後における厚さ膨張率が176.6〜226.4%であり、比較品(No.7〜10)と比べて小さな膨張に抑えられていることがわかる。一方、比較品(No.7〜10)のプリプレグシートの断面は、プレ成型処理後における厚さ膨張率が452.5〜727.7%であり、プレ成型処理後の膨張を抑えることができていないことがわかる。
【0048】
(針密度の検討)
上記不織布の製造において、シート化、及び積層化したものを市販のニードルパンチ機にて針密度を変化させること以外は、本発明品と同様の方法でプリプレグシートを作製した。これにより、針密度によるプリプレグシートの厚さ膨張率への影響を検討した。なお、針密度については、所定のニードルパンチを施したプリプレグシートをカッターナイフにて切り出し、上記プレ成型処理前後における断面観察と同様に光学顕微鏡で観察することにより、当該シートの断面における炭素繊維の一部と他部が厚み方向に1mm以上変位しているものの本数を目視にてカウントし、1cm
2当たりの本数を算出した。
【0049】
図7に針密度を変化させた場合の厚さ膨張率の結果を示す。
図7より、単位面積(1cm
2)当たりのニードルパンチ機の突き刺す本数(針密度)が0本から5本程度までは、厚さ膨張率が250%以下であり、プレ成型処理後の膨張を抑えることが可能であることがわかった。一方、当該突き刺す本数が5本を超える場合、当該厚さ膨張率は250%を超えており、プレ成型処理後の膨張を抑えることができないことがわかった。これらの結果は、ニードルパンチ機による痕跡の数が5個/cm
2以下の場合、厚さ膨張率が250%以下となり、プレ成型処理後のプリプレグシートの膨張を抑えることができることを示している。なお、実際のプレ成型処理したプリプレグシートの断面において、炭素繊維の一部と他部が厚み方向に1mm以上変位しているものの本数が80本/cm
2程度までは、厚さ膨張率が250%以下であり、プレ成型処理後の膨張を抑えることが可能であることを確認した。
【0050】
(厚みの検討)
上記不織布の製造において、厚み1.3mmを変更する(目付重量は一定)こと以外は、本発明品と同様の方法でプリプレグシートを作製した。これにより、プリプレグシートの厚みの違いによる厚さ膨張率への影響を検討した。
図8にその結果を示す。
図8より、プリプレグシートの厚みを0.5〜2.0mmに変化させると厚さ膨張率が低下する傾向にあるが、いずれの場合においても、厚さ膨張率は250%以下の値を示し、プレ成型処理後の膨張を抑えることが可能であることがわかった。
【0051】
(炭素繊維の繊維長の検討)
上記不織布の製造において、炭素繊維の平均繊維長48mmを変更すること以外は、本発明品と同様の方法でプリプレグシートを作製した。これにより、炭素繊維の繊維長の違いによる厚さ膨張率への影響を検討した。
図9にその結果を示す。
図9より、炭素繊維の繊維長が24、48、70mmのいずれの場合においても、厚さ膨張率は250%以下の値を示し、プレ成型処理後の膨張を抑えることが可能であることがわかった。
【0052】
(熱可塑性樹脂繊維種の検討)
上記不織布の製造において、熱可塑性樹脂繊維のポリプロピレンをポリアミドに変えること以外は、本発明品と同様の方法でプリプレグシートを作製した。これにより、熱可塑性樹脂繊維の違いによる厚さ膨張率への影響を検討した。
図10にその結果を示す。
図10より、熱可塑性樹脂繊維がポリアミドを用いた場合においても、厚み膨張率はポリプロピレンを用いた場合とほぼ同等の250%以下の値を示し、プレ成型処理後の膨張を抑えることが可能であることがわかった。
【0053】
(炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の質量比の検討)
上記不織布の製造において、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維のポリプロピレンの質量比を種々変えること以外は、本発明品と同様の方法でプリプレグシートを作製した。これにより、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の質量比による厚さ膨張率への影響を検討した。
図11にその結果を示す。
図11より、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の質量比が20/80〜80/20の範囲において、厚さ膨張率は250%以下の値を示し、プレ成型処理後の膨張を抑えることが可能であることがわかった。
【0054】
以上の結果より、本発明品のプリプレグシートは成型時に加熱しても厚み方向への膨張が抑えられることから、該プリプレグシートの金型へのスムーズなインサートを可能にして、自動車用途等の所望の成型品を得ることができる。