特許第6906944号(P6906944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906944
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】版胴及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20210708BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20210708BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20210708BHJP
   B81C 1/00 20060101ALN20210708BHJP
【FI】
   H01L21/30 502D
   B29C59/02 B
   B29C33/38
   !B81C1/00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-247646(P2016-247646)
(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公開番号】特開2018-101715(P2018-101715A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直人
【審査官】 今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−086388(JP,A)
【文献】 特開平04−070891(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140648(WO,A1)
【文献】 特開2008−073902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
G03F 7/20−7/24、9/00−9/02
B29C 59/00−59/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが5μm以上である円筒状のシリコンからなり、外周面に溝で形成されたパターンを有する円筒版と、
該円筒版の回転軸を有する芯金と、
融点が600℃以下の金属を含み、前記芯金と前記円筒版とを接着する導電性の接着層と、を備え、
前記円筒版と前記回転軸との間に導電性を有する、
版胴。
【請求項2】
前記芯金が、冷媒通過用の流路を有する、
請求項に記載の版胴。
【請求項3】
前記シリコンが、単結晶シリコンである、
請求項1又は2に記載の版胴。
【請求項4】
シリコンインゴットを中抜きして厚さが5μm以上である円筒状のシリコンを得る中抜き工程と、
該中抜き工程により得られた前記シリコンの内面側、及び、芯金の外面側、の少なくともいずれか一方に融点が600℃以下の金属を含む導電性の接着層を塗布する接着層形成工程と、
前記シリコンの円筒内に前記芯金を嵌合する嵌合工程と、
前記芯金をアースに電気的に接続し、電子ビーム露光によって、前記円筒状のシリコンの外周面にパターンを描画するパターン形成工程と、を有する、
版胴の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、版胴及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LEDやLDなどの光学デバイスの表面、あるいは内部に光の波長程度の周期構造をつくることによって光学デバイスの特性を制御する、あるいは改良することが行われている。このような目的の周期構造はいろいろな微細加工によってつくられるが、その中でも現在もっとも有力視されている技術の1つにナノインプリント技術がある。ナノインプリントの押し型転写に使われるモールド(押し型)は、一般に光学的な露光装置によって作製されている。
【0003】
ここで、押し型転写に使われるモールドとしては、平板プレスに用いられる平板状のモールドの他、回転しながらフィルムに連続転写することが可能なローラー状のモールド(版胴)が開発されている。従来、版胴は、例えば金属薄膜などの可撓性材料をロールに貼り付けることによって作製されているが、この場合には貼り付けるモールドに切れ目があるため、ロールの1回転でパターンに継ぎ目が残る場合がある。この点、電子ビーム露光用ロールを回転させながら、ロール表面に塗布されたレジストに露光してパターンを描画する手法によれば、このような問題を回避することが可能である。具体的には、非磁性母材の表面にアモルファスメッキ層を設けた電子ビーム露光用ロールが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−135443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、版胴はその表面に溝パターンが形成されるものであり、押し型転写用途においては、溝パターンの深さが転写されるパターンの高さとなる。そのため、高さの高いパターンを形成したい場合には、溝パターンを深くすることが要求される。しかしながら、深い溝パターンを版胴表面に形成するにはいくつかの技術的な課題が存在する。例えば、深い溝パターンを形成するにはメッキにより作製する層の厚みを厚くすることが必要となるが、メッキにより作製する層の厚みを無理に厚くしようとすれば、温度変化による熱膨張でメッキ層が割れたり、メッキ層の膜質が劣化したりすることが懸念され、メッキにより作製可能な層の厚みには限界がある。したがって、より深い溝形状のパターンが要求される場合には、メッキによらない手法を新たに検討する必要がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、深い溝形状のパターンを形成することのできる版胴及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
厚さが5μm以上である円筒状のシリコンからなり、外周面に溝で形成されたパターンを有する円筒版と、
該円筒版の回転軸を有する芯金と、
融点が600℃以下の金属を含み、前記芯金と前記円筒版とを接着する導電性の接着層と、を備え、
前記円筒版と前記回転軸との間に導電性を有する、
版胴。
〔2〕
前記芯金が、冷媒通過用の流路を有する、
〔1〕に記載の版胴。
〔3〕
前記シリコンが、単結晶シリコンである、
〔1〕又は〔2〕に記載の版胴。
〔4〕
シリコンインゴットを中抜きして厚さが5μm以上である円筒状のシリコンを得る中抜き工程と、
該中抜き工程により得られた前記シリコンの内面側、及び、芯金の外面側、の少なくともいずれか一方に融点が600℃以下の金属を含む導電性の接着層を塗布する接着層形成工程と、
前記シリコンの円筒内に前記芯金を嵌合する嵌合工程と、
前記芯金をアースに電気的に接続し、電子ビーム露光によって、前記円筒状のシリコンの外周面にパターンを描画するパターン形成工程と、を有する、
版胴の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、深い溝形状のパターンを形成することのできる版胴及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の版胴を回転軸に直角な方向から見た図
図2】本実施形態の版胴の回転軸を通る縦断面図
図3】本実施形態の版胴を回転軸方向から見た図
図4】芯金に設けられる流路を表す概略図
図5】本実施形態の版胴の押し型転写用の版胴としての使用態様を表す概略図
図6】本実施形態の版胴の反転印刷用の版胴としての使用態様を表す概略図
図7】本実施形態の版胴の製造方法の工程に沿って円筒版と芯金との関係を示すチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0011】
〔版胴〕
本実施形態の版胴は、厚さが5μm以上である円筒状のシリコンからなる円筒版と、該円筒版の回転軸となる芯金と、を有する。
【0012】
上記のように、メッキ層を有する従来の版胴に対して版胴表面に深い溝形状のパターンを成形しようとする場合には、版胴表面のメッキ層の厚さをその溝の深さよりも厚くすることが必要となる。しかしながら、蒸着法やスパッタ法等のメッキ処理により作製するメッキ層の厚みを無理に厚くしようとすれば、温度変化による熱膨張でメッキ層が割れたり、メッキ層の膜質が劣化したりするという問題がある。そのため、メッキ処理によりロール母体上に作製可能なメッキ層の厚みには限界がある。また、厚いメッキ層の作製には時間がかかりコストの観点からも問題がある。さらに、ロール母体上に均一な膜厚で成形することも困難である。
【0013】
これに対して、本実施形態の版胴は、メッキ層を形成する代わりに、後述するように単結晶シリコンインゴットを中空状にくり貫いて形成された円筒版に対して、芯金を嵌合することにより得られるものである。そのため、メッキ処理を経ることなく、5μm以上の厚さを有する円筒版を容易に形成することが可能となる。このように本実施形態の版胴はメッキ層を設けないものであるため、上述したようなメッキ層の割れや膜質劣化という問題が生じない。また、溝パターンが形成される版胴表面の層(円筒版)の厚さも、円筒版を作製する段階で容易に調整することが可能となる。
【0014】
本発明の版胴の一態様として、図1に版胴を回転軸に直角な方向から見た図を示し、図2に版胴の回転軸を通る縦断面図を示し、図3に版胴を回転軸方向から見た図を示す。本実施形態の版胴10は、溝形状のパターンが形成される円筒版1と、該円筒版1の回転軸となる芯金2と、を有する。芯金2は、円筒版1に嵌合されており、円筒版1の回転軸として働く。
【0015】
円筒版1は、厚さWが5μm以上である円筒状のシリコンからなる。円筒版1の厚さWは、5μm以上であり、好ましくは10μmであり、より好ましくは15μmであり、さらに好ましくは1mm以上である。厚さWが5μm以上であることにより、より深い溝パターンを形成することが可能となる。また、厚さWが1mm以上であることにより、円筒版1を作製する際に、円筒版1の割れや変形がより抑制される傾向にある。また、円筒版1の厚さWの上限は、特に限定されないが、好ましくは20mm以下であり、より好ましくは15mm以下であり、さらに好ましくは10mm以下である。
【0016】
このような厚さを有する円筒版1の材質は、単結晶シリコンであっても、多結晶シリコンであってもよい。また、円筒版1を構成する材料としては、中空状のシリコンインゴットが挙げられ、中空状の単結晶シリコンインゴットがより好ましい。円筒版1の材質としてシリコンを用いることにより、半導体プロセスを応用して溝パターンを形成し易くなるため、円筒版1の外周面により容易にパターンを形成することが可能となる。
【0017】
円筒版1は、その外周面に溝で形成されたパターンを有していてもよい。パターンの形成方法としては、特に限定されないが、例えば、電子ビーム露光により描画する方法、シリコンである円筒版1の表面にエッチングマスクを形成し、シリコン表面をエッチングする方法等が挙げられる。
【0018】
芯金2の材質としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス、鉄、アルミニウム等の金属が挙げられる。
【0019】
芯金2と、円筒版1とは、接着層3を介して接着されていても、接着層3を介さずに直接嵌合されていてもよい。接着層3は、円筒版1と芯金2との間に電気伝導性及び熱伝導性を付与する観点から、金属を含む層であることが好ましく、低融点金属を主成分として含む層であることがさらに好ましい。円筒版1と芯金2との間に電気伝導性を付与することにより、円筒版1の表面に電子ビーム露光をする際に芯金2をアースとして電子を逃がすことや、スパッタにより円筒版1の表面にエッチングマスクを形成する際に版胴10を電極として用いることが可能となる。また、円筒版1と芯金2との間に熱伝導性を付与することにより、円筒版1の表面を研磨する工程や、研磨後の円筒版1の表面にパターンを成形する工程において、熱の影響による円筒版1の割れがより抑制される傾向にある。また、後述するように芯金2が冷媒通過用の流路を有する場合、円筒版1と芯金2との間に熱伝導性を付与することにより、芯金2の冷却と併せて円筒版1を冷却することができる。
【0020】
また、接着層3を形成させるために一時的に接着層3を構成する金属を加熱溶融する際に、金属は加熱冷却により膨張収縮するが、低融点金属を用いることにより、加熱温度を低くすることが可能となるため、接着層3を形成する際に付与する熱により円筒版1が割れたり破損したりすることをより抑制できる傾向にある。なお、低融点金属の融点は、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは300℃以下であり、さらに好ましくは250℃以下である。このような低融点金属としては、特に限定されないが、例えば、インジウム、インジウムと亜鉛の混合物等が挙げられる。また、本実施形態において「主成分」とは、接着層の90質量%以上を占める成分をいうものとする。
【0021】
芯金2が、冷媒通過用の流路を有していてもよい。これにより、芯金2の温度を調整することが可能となり、また、芯金2を介して円筒版1の温度を調整することが可能となる。そのため、接着層形成工程やパターン形成工程において加熱をした際に、熱に起因して円筒版1が割れたり破損することをより抑制できる傾向にある。芯金2に設けられる流路4の模式図を図4に示す。
【0022】
〔版胴の使用方法〕
本実施形態の版胴は、押し型転写用の版胴(以下、「ローラーモールド」ともいう。)や反転印刷用の版胴として用いることができるが、本実施形態の版胴の使用用途はこれらに限定されない。以下、ローラーモールドや反転印刷の版胴としての使用方法を示す。
【0023】
〔ローラーモールド〕
本実施形態の版胴をローラーモールドとして使用する場合には、版胴10を、基材21上のインク22に接触させる。これにより、基材21上のインク22に、版胴の外周面に形成されたパターンを転写(型押し)することができる(図5参照)。本実施形態の版胴は、パターンを形成することができる円筒版1の厚さが厚いため、従来のローラーモールドと比較してより深いパターンを形成することが可能となる。
【0024】
なお、インク22に含まれる成分としては、特に限定されないが、例えば、金属粒子、溶剤、及び界面活性剤が挙げられる。溶剤及び界面活性剤は、金属粒子を分散可能であり、かつ焼結の際に残留しにくいよう構成されていれば特に制限されない。
【0025】
〔反転印刷〕
本実施形態の版胴を反転印刷の版胴として使用する場合には、版胴10を、基材21(ブランケット)上のインク22に接触させる。これにより、基材21上に、版胴の外周面に形成されたパターンを転写することができる。基材21上にパターンを形成後、形成されたパターンを、被印刷物上に転写する(図6参照)。本実施形態の版胴は、パターンを形成することができる円筒版1の厚さが厚いため、より深いパターンを形成することが可能となる。より深いパターンを形成することで、表面積及びパターンの断面積が増大するため、抵抗値が低下する傾向にある。
【0026】
〔版胴の製造方法〕
本実施形態の版胴の製造方法は、シリコンインゴットを中抜きして厚さが5μm以上である円筒状のシリコン(円筒版1)を得る中抜き工程と、該中抜き工程により得られた前記シリコンの円筒内に芯金2を嵌合する嵌合工程Aと、を有する。図7に、本実施形態の版胴の製造方法の工程に沿って円筒版と芯金との関係を表すチャートを例示する。
【0027】
〔接着層形成工程〕
別の態様として、版胴の製造方法は、嵌合工程の前に、中抜き工程により得られた円筒版1の内面側、又は、芯金2の外面側に、接着層3となる低融点金属を塗布する工程と、嵌合工程の後に、低融点金属を溶融させて接着層3を形成する工程Bと、を有していてもよい。
【0028】
〔研削/研磨工程〕
また別の態様として、本実施形態の版胴の製造方法は、中抜き工程の前又は中抜き工程の後のシリコンインゴットの外周面を研削又は研磨する工程、及び/又は、芯金2に嵌合した後の円筒版1の外周面を研削又は研磨する工程Cを有していてもよい。
【0029】
〔パターン形成工程〕
さらに、本実施形態の版胴の製造方法は、円筒版1の外周面にパターンを形成するパターン形成工程Dを有していてもよい。パターン形成方法としては、特に限定されないが、例えば、電子ビーム露光により描画する方法、シリコンである円筒版1の表面にエッチングマスクを形成し、シリコン表面をエッチングする方法等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の版胴は、各種印刷用途において、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0031】
1…円筒版
2…芯金
3…接着層
10…版胴
21…基材
22…インク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7