特許第6906949号(P6906949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906949
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】アルカリシリカ反応の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/65 20060101AFI20210708BHJP
【FI】
   C04B41/65
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-253870(P2016-253870)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2017-128496(P2017-128496A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-6055(P2016-6055)
(32)【優先日】2016年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】市川 恒樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 一夫
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
(72)【発明者】
【氏名】嶌田 聖史
(72)【発明者】
【氏名】落合 昂雄
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0042516(US,A1)
【文献】 特開平02−307879(JP,A)
【文献】 特開昭62−265189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/00−41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウムの水溶液中にコンクリートを浸漬するか、若しくは該水溶液をコンクリートに塗布、散布、または内部圧入して、コンクリートのアルカリシリカ反応を抑制する、アルカリシリカ反応の抑制方法であって、
コンクリート中への亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウムの含浸量が、下記(1)式を用いて算出される量以上である、アルカリシリカ反応の抑制方法。
Ca(NO=(Naeq−x)×8.06 ・・・(1)
Naeq=NaO+KO×0.658 ・・・(2)
ただし、(1)式中の記号は以下の意味である。
Ca(NO:コンクリート1m当たりの亜硝酸カルシウおよび/または硝酸カルシウムの含浸量(mol)
Naeq:前記(2)式を用いて算出される、コンクリート1m当たりのNaOの含有量(kg)と、コンクリート1m中のKOの含有量(kg)をNaOに換算した含有量との合計量(kg)
x:骨材の反応性、コンクリートが置かれた環境、およびコンクリートの供用期間に基づき表1および表2を用いて選択される値
NaOおよびKO:それぞれコンクリート1m当たりのNaOおよびKOの含有量(kg)
[表1]
[表2]
【請求項2】
前記水溶液中の亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウムの濃度が0.5mol/L以上である、請求項1に記載のアルカリシリカ反応の抑制方法。
【請求項3】
前記水溶液中にコンクリートを浸漬する前記アルカリシリカ反応の抑制方法において、浸漬期間が3〜14日である、請求項1または2に記載のアルカリシリカ反応の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸カルシウムや亜硝酸カルシウムを用いてコンクリートのアルカリシリカ反応を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリシリカ反応は、反応性骨材中のシリカとコンクリート中のアルカリ金属イオンとが、高いpH条件下で反応してアルカリシリカゲルが生成し、このゲルが吸水により膨張して、コンクリートにひび割れが生じる現象である。そして、このアルカリシリカ反応は、コンクリートの耐久性を低下させる主因の一つとして知られている。
アルカリシリカ反応の抑制対策に関する基本的な考えは、コンクリート中の空隙水のpHを下げることである。そこで、従来、アルカリシリカ反応が生じないと判定された骨材を使用する方法、アルカリ含有量の少ないセメントを使用する方法(アルカリ総量規制)、および、アルカリを吸着する能力がある高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、およびメタカオリン等のポゾラン物質を含む混合セメントを使用する方法等の対策が採られてきた。
しかし、これらの対策を講じてもなお、アルカリシリカ反応が発生する場合があり万全とは云えない。
【0003】
さらに、アルカリシリカ反応を抑制する方法として、亜硝酸カルシウムや亜硝酸リチウム等の亜硝酸塩を用いる方法が、種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載のコンクリートの耐久仕上げ方法は、硬化コンクリートの表面に、亜硝酸カルシウム等の亜硝酸塩を含有したセメント組成物を塗布した後、未硬化状態にあるセメント組成物の表面を、エポキシ樹脂含有塗材で被覆する方法である。
また、特許文献2に記載のセメント系硬化物の劣化防止方法は、アルカリ骨材反応を起す骨材等を含有するセメント系硬化物の表面から、リチウム等のアルカリ金属またはカルシウム等のアルカリ土類金属の亜硝酸塩と有機珪素化合物とを含浸させた後に、セメント系硬化物を乾燥させる方法である。
さらに、特許文献3に記載のコンクリート構造物の劣化防止方法は、硬化したコンクリート構造物の表面に、亜硝酸カルシウム等の亜硝酸塩を含有するセメントモルタル、または亜硝酸塩を含有するポリマーセメントモルタルからなる改質材の塗布層を形成し、前記改質材の塗布層の表面に、さらに表面被覆材を層状に形成する方法である。
【0004】
しかし、前記特許文献1および3に記載の方法は、コンクリート面に亜硝酸塩等を含有するセメント組成物を塗布した後、さらに樹脂等の表面被覆材を用いてコンクリート面を被覆することから、作業が煩雑になる。また、前記特許文献2に記載の方法では、有機珪素化合物を用いるためコスト高になる。
なお、亜硝酸リチウムは、コンクリートの表層に存在するケイ酸カルシウム水和物と反応して生成したケイ酸リチウムゲルが、亜硝酸リチウムのコンクリート内への浸透を妨げるため、アルカリシリカ反応の抑制効果は低い。この点に関し、米国連邦高速道路局が発行した非特許文献1にも、アルカリシリカ反応の対策として、亜硝酸リチウムの効果は期待できない旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−012467号公報
【特許文献2】特開平02−307879号公報
【特許文献3】特開平03−285882号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Benoit Fournier,et al., Report on the Diagnosis, Prognosis, and Mitigation of Alkali-Silica Reaction (ASR) in Transportation Structures, FHWA-HIF-09-004, Federal Highway Administration, pp.43-45, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、前記文献に記載の方法とは異なり、表面被覆材や高価な薬剤(有機珪素化合物等)を用いることなく、簡易かつ低コストで既存(既成)のコンクリートのアルカリシリカ反応を確実に抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的にかなうアルカリシリカ反応の抑制方法について、鋭意検討した結果、
(i)コンクリート中の空隙水のpHは、アルカリ共存下での水酸化カルシウムの溶解平衡により決まり、アルカリイオン濃度に比例する。
(ii)可溶性カルシウム塩を加えると、水酸化カルシウムの溶解平衡が非溶解側に移動し、pHが低下する。
という知見に基づき、可溶性カルシウム塩を選定した。そして、
(iii)コンクリート中の鋼材の腐食を考慮すると、使用できる可溶性カルシウム塩は限定され、硝酸カルシウムや鉄筋の防錆効果もある亜硝酸カルシウムが好適であること、さらに、
(iv)既存のコンクリートを亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウムの水溶液に浸漬等するだけで、表面被覆材や高価な薬剤を併用しなくても、アルカリシリカ反応を抑制できること
を見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の構成を有するアルカリシリカ反応の抑制方法である。
【0009】
[1]亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウムの水溶液中にコンクリートを浸漬するか、若しくは該水溶液をコンクリートに塗布、散布、または内部圧入して、コンクリートのアルカリシリカ反応を抑制する、アルカリシリカ反応の抑制方法であって、
コンクリート中への亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウムの含浸量が、下記(1)式を用いて算出される量以上である、アルカリシリカ反応の抑制方法。
Ca(NO=(Naeq−x)×8.06 ・・・(1)
Naeq=NaO+KO×0.658 ・・・(2)
ただし、(1)式中の記号は以下の意味である。
Ca(NO:コンクリート1m当たりの亜硝酸カルシウおよび/または硝酸カルシウムの含浸量(mol)
Naeq:前記(2)式を用いて算出される、コンクリート1m当たりのNaOの含有量(kg)と、コンクリート1m中のKOの含有量(kg)をNaOに換算した含有量との合計量(kg)
x:骨材の反応性、コンクリートが置かれた環境、およびコンクリートの供用期間に基づき表1および表2を用いて選択される値
NaOおよびKO:それぞれコンクリート1m当たりのNaOおよびKOの含有量(kg)
[表1]
[表2]
[2]前記水溶液中の亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウムの濃度が0.5mol/L以上である、前記[1]に記載のアルカリシリカ反応の抑制方法。
[3]前記水溶液中にコンクリートを浸漬する前記アルカリシリカ反応の抑制方法において、浸漬期間が3〜14日である、前記[1]または[2]に記載のアルカリシリカ反応の抑制方法。
なお、アルカリシリカ反応には、反応性が高い骨材を単独で用いた場合よりも、反応性が低い骨材と混合して用いた場合に、膨張がより大きくなるペシマム現象が知られている。そして、表1では、ペシマム現象を示す骨材を急速膨張性、ペシマム現象を示さない骨材を遅延膨張性として区分している。なお、表1中のペシマム配合とは、ペシマム現象による膨張が最も大きくなる配合を意味する。
【0010】
【表1】
【0011】
【表2】
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルカリシリカ反応の抑制方法によれば、簡易かつ低コストでコンクリートのアルカリシリカ反応を抑制でき、コンクリートの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】亜硝酸カルシウム水溶液(実施例)と亜硝酸リチウム水溶液(比較例)に浸漬したモルタルの膨張率と、該モルタルの材齢との関係を示す図である。ただし、(a)は亜硝酸カルシウム水溶液中にモルタルを浸漬した場合を示し、(b)は亜硝酸リチウム水溶液中にモルタル浸漬した場合を示す。
図2】亜硝酸カルシウム水溶液に浸漬した、材齢26週におけるモルタルの膨張率と、該水溶液のモル濃度との関係を示す図である。
図3】セメント中の全アルカリ量が1.2質量%で、膨張が進行中のモルタルを亜硝酸カルシウム水溶液に浸漬した場合のモルタルの膨張率と、該モルタルの材齢との関係を示す図である。
図4】セメント中の全アルカリ量が1.5質量%で、膨張が進行中のモルタルを亜硝酸カルシウム水溶液に浸漬した場合のモルタルの膨張率と、該モルタルの材齢との関係を示す図である。
図5】セメント中の全アルカリ量が1.2質量%で、膨張が進行中のモルタルを硝酸カルシウム水溶液に浸漬した場合のモルタルの膨張率と、該モルタルの材齢との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルカリシリカ反応の抑制方法は、前記のとおり、コンクリートを亜硝酸カルシウムおよび/または硝酸カルシウム(以下、亜硝酸カルシウムと硝酸カルシウムを総称して「硝酸カルシウム類」という。)の水溶液に浸漬するか、若しくは亜硝酸カルシウム類の水溶液をコンクリートに塗布、散布、または内部圧入して、コンクリートのアルカリシリカ反応を抑制する方法である。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
1.硝酸カルシウム類の水溶液
前記水溶液中の硝酸カルシウム類の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.5mol/L以上である。該濃度が0.5mol/L未満では、コンクリート中への硝酸カルシウム類の浸透量が少ない。なお、該濃度は、より好ましくは1mol/L以上、さらに好ましくは2mol/L以上であり、該濃度の上限は、硝酸カルシウム類の飽和溶解度である。
また、前記水溶液は、さらに、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、およびポリシロキサン樹脂から選ばれる1種以上を含むポリマーディスパージョンでもよい。該ポリマーディスパージョンをコンクリートに塗布等して乾燥した後には、コンクリート表面に前記樹脂の被膜が形成され、コンクリート中に浸透した硝酸カルシウム類が、降雨等により溶出して流失することを抑制できる。
【0016】
2.硝酸カルシウム類の水溶液の使用態様
該水溶液の使用態様は、例えば、コンクリートを硝酸カルシウム類の水溶液に浸漬するか、若しくは該水溶液をコンクリートに塗布、散布、または内部圧入する態様が挙げられる。
前記浸漬する態様は小型のコンクリートに適し、例えば、コンクリートブロック等のコンクリート製品に好適に用いることができる。なお、前記水溶液の塗布や散布には、刷毛やスプレー等を用いることができる。また、内部圧入は、コンクリートにあけた小径の圧入孔を通じてコンクリート内部に、前記水溶液を圧入する方法であり、市販の油圧式圧入装置等を用いることができる。また、すでに多くの実績がある亜硝酸リチウムを用いた内部圧入工法が本発明に応用できる。
また、コンクリートを前記水溶液に浸漬する本発明の方法において、浸漬期間は、好ましくは3〜14日である。該期間が3日未満では硝酸カルシウム類の水溶液のコンクリートへの浸透が十分でなく、14日を超えると生産性が低下する。なお、該浸漬期間は、より好ましくは5〜12日間、さらに好ましくは7〜10日間である。なお、該浸漬期間は、コンクリートの厚さおよび強度を考慮して選択するとよい。
【0017】
一方、塗布、散布、または内部圧入する態様は大型のコンクリートに適し、例えば、コンクリート構造物、橋梁、および橋脚等のコンクリート部材に好適に用いることができる。また、硝酸カルシウム類の水溶液の塗布量、散布量、または圧入量(以下「含浸量」という。)は、好ましくは前記(1)式を用いて算出されるCa(NO2/3の量以上である。硝酸カルシウム類が浸透し易いように、コンクリートを予め乾燥すれば、塗布や散布をより効率的に行うことができる。また、硝酸カルシウム類の水溶液の圧入に際し、予め所定の圧入量を定めておいて、該水溶液の漏洩を防ぐためコンクリートのひび割れを埋めるなどして、該水溶液をコンクリート内部に圧入するとよい。
【0018】
次に、表1、表2、および前記(1)式について説明する。
(i)表1と表2について
世界で最も厳しいアルカリ総量規制はカナダの規格(CSA23.2―27A)であり、骨材の反応性、コンクリートが曝される環境、およびコンクリートの供用期間に基づき、アルカリ総量および混和材の種類に応じた混和材の使用量を個別に定めることとされている。
そして、カナダの規格を日本の事例に適用した下記文献Aの記載に基づき、表1中のアルカリシリカ反応が起き易い場合(すなわち、反応性の高い骨材を含み、湿潤状態に置かれ、かつアルカリの供給があるマスコンクリートが100年を超えて供用されるという条件)の抑制レベル値(xの値)は、コンクリート1m当たりNaO換算量で1.2kg(単位アルカリ量)となり、表2中の1.2の数値が求まる。表2中の他の数値も、これと同様にして求まる。表1と表2は、このように文献Aに基づき本発明者が独自に創作した表である。すなわち、抑制レベル値は、表1から選択したコンクリートの環境と規模において、アルカリシリカ反応が発生しないアルカリ総量の基準値に相当する。そして、(Naeq−x)の量のアルカリが、アルカリシリカ反応に関与するとして、該アルカリに硝酸カルシウム類を作用させれば足りると考えることができる。
文献A:中野眞木夫、「原子力用コンクリートの反応性骨材の評価方法の提案」、原子力安全基盤機構、JES−RE−2013−2050、2014
【0019】
(ii)前記(1)式の導出
下記(A)式に示すように、アルカリ1モルに対し硝酸カルシウム類0.5モルが作用して、アルカリシリカ反応を抑制する。
NaOH+0.5Ca(NO2/3→Na(NO2/3)+0.5Ca(OH) ・・・(A)
(A)式に示すように、硝酸カルシウム類は水酸化アルカリを取り除く作用を有するので、前記(Naeq−x)の量に対し、
Ca(NO2または3=(Naeq−x)×1000(g)/62(NaOの式量)×0.5=(Naeq−x)×8.06
となり、前記(1)式が得られる。
また、前記(2)式中の係数(0.658)は、NaOの式量/KOの式量=62/94.2から得られる。
【0020】
(iii)前記(1)式の適用例
日本で流通しているセメント中の全アルカリ量(Naeq)は、最大で約0.7質量%である。そして、一般のコンクリートでは、コンクリート1m当たりのセメント量(単位セメント量)は最大で約550kgであるから、単位アルカリ量(NaO換算量)は、最大で3.85kg(=550×0.007)と見込まれる。また、適用コンクリートは、きわめて反応性が高い骨材を含み、湿潤な環境にさらされる一般土木構造物を想定すると、xの値は、前記のとおり1.2となる。これらの値を前記(1)式に代入すると、硝酸カルシウム類の含浸量は、コンクリート1m当たり21.4モル(=(3.85−1.2)×8.06)となるから、該含浸量以上であれば一般のコンクリートのアルカリシリカ反応は、ほぼすべての場合において抑制できると期待される。
ただし、アルカリシリカ反応をどの程度抑制するかは、個別の骨材の反応性、湿潤条件、供用期間、およびアルカリシリカ反応による劣化の許容レベルによっても異なるため、すべての場合において、必ずしもこの硝酸カルシウム類の含浸量が必要ではない。
従来、知られているように、適用条件によっては、硝酸カルシウム類は少量でも有効な場合があるが、必ずしも十分な効果があったとは云えず、信頼性が不足していた。それは、硝酸カルシウム類の必要量が認識されていなかったため、定量的な添加量が支配因子と関連付けられ、工学的に有効な条件として規定されていなかったからである。十分かつ確実な効果を期すなら、(1)式から算出される量を含浸することが望ましい。前記(A)式の反応が進めば、コンクリート中の空隙水のpHは、水酸化カルシウムの飽和濃度のpHである12.6程度になる。硝酸カルシウム類を過剰に添加すれば、さらにpHは低下するが、薬剤コストおよびアルカリ骨材反応の抑制という点で、pHは13.0程度になれば十分である。
もっとも、硝酸カルシウム類は、カルシウムモノサルフェート系水和物や、AFmと呼ばれるセメント水和物と反応して、亜硝酸イオンや硝酸イオンの一部が水酸化物イオンとイオン交換する場合もあるから、含浸した硝酸カルシウム類の全てがpHの低下に使われるとは限らない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)亜硝酸カルシウム1水塩:試薬1級(関東化学社製)
(2)硝酸カルシウム4水塩:試薬特級(関東化学社製)
(3)亜硝酸リチウム含有水溶液:商品名 DS−400(太平洋マテリアル社製)
(4)水酸化ナトリウム:試薬1級(関東化学社製)
(5)細骨材:高いアルカリシリカ反応性を有する安山岩
(6)水:上水道水
(7)セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
ちなみに、該セメントの化学組成を表1に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
2.アルカリシリカ反応試験
(1)モルタルバー作製直後のモルタルバーの浸漬
0.8mol/L、1.9mol/L、3.1mol/L、および4.5mol/Lの亜硝酸カルシウム水溶液と、2.0mol/L、4.3mol/L、6.7mol/L、および9.4mol/Lの亜硝酸リチウム水溶液を調製した。また、JIS A 1146「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)」に準拠して、セメント中の全アルカリ量(Naeq)が1.2質量%のモルタルバーを作製した。
次に、該モルタルバーを、材齢1日から、温度20±1℃、相対湿度90%の環境下で、前記亜硝酸カルシウム水溶液および亜硝酸リチウム水溶液にそれぞれ7日間浸漬した。7日経過した後、浸漬前後におけるモルタルバーの長さ変化を測定して膨張率を算出した。
さらに続けて、温度40±1℃、相対湿度95%の環境下に前記モルタルバーを静置し、材齢2週、4週、6週、8週、13週、および26週におけるモルタルバーの長さ変化を測定して、膨張率を算出した。また、比較のため、前記水溶液に浸漬しないモルタルバーの長さ変化も、前記材齢において測定して膨張率を算出した。この結果を図1図2に示す。
図1に示すように、アルカリシリカ反応の抑制効果は、亜硝酸リチウムと比べ亜硝酸カルシウムは約2倍以上高い。また、亜硝酸カルシウムは、材齢8週までの初期における急激な膨張も抑制できる。
【0024】
(2)前記(1)式の有効性の確認
高い反応性の安山岩(火山岩の1種)をペシマム条件で用い、湿潤雰囲気で長期間供用する土木構造物を考えると、抑制レベルはEとなり、xは1.2となる。アルカリ総量を4.5kg/mとしたコンクリートを作製した。(A)式によると、26.6kg/mの亜硝酸カルシウムが必要となる。これを、空隙水の量を考慮して、空隙水中の亜硝酸カルシウム溶液の濃度に換算すると2.2mol/Lとなる。このコンクリートを模擬したモルタルを作製し、成型初期に所定の亜硝酸カルシウム溶液に浸漬し、空隙水を交換させた条件(全窒素量分析により確認)での、13週の膨張量と浸漬した亜硝酸カルシウムの濃度の関係を図2に示す。亜硝酸カルシウム濃度の増加とともに膨張は急激に抑制され、2.0mol/L以上であれば70%以上の膨張率の低減が確認され、アルカリシリカ反応による膨張を抑制でき(A)式の有効性が確認できた。表1と表2には経験に基づく種々の条件が、膨張を抑制できるアルカリ量の限界とともに記載されているが、本質的には空隙水のpH制御に関わるものであり、(A)式による有効性は、前記の実験で膨張量が有効に低下することで実証され、他の条件についても同様に有効である。
【0025】
(3)膨張が進行中のモルタルバーの浸漬
JIS A 1146「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)」に準拠して、セメント中の全アルカリ量(Naeq)が1.2質量%および1.5質量%のモルタルバーを作製した。
次に、該モルタルバーを、材齢1日から、温度40±1℃、相対湿度95%の環境下で3週間、湿空養生した後、膨張中のモルタルバーを、温度20±1℃、相対湿度90%の環境下で亜硝酸カルシウム水溶液に7日間浸漬した。この浸漬した状態で7日経過した後、温度40±1℃、相対湿度95%の環境下に、膨張中のモルタルバーを静置し、材齢3週、4週、6週、8週、13週および26週におけるモルタルバーの長さ変化を測定して、膨張率を算出した。セメント中の全アルカリ量が1.2質量%、および1.5質量%のモルタルの膨張率を、それぞれ図3および図4に示す。
図3および図4に示すように、膨張が進行中のモルタルバーであっても、亜硝酸カルシウム溶液に浸漬するだけで膨張を抑制できる。
【0026】
(4)膨張が進行中のモルタルバーに対する、硝酸カルシウムを用いた膨張抑制
JIS A 1146「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)」に準拠して、全アルカリ量(NaOeq)が1.2質量%のモルタルバーを作製した。
次に、該モルタルバーを、材齢1日から、温度40±1℃、相対湿度95%の環境下で3週間、湿空養生した後、膨張中のモルタルバーを、温度20±1℃、相対湿度90%の環境下で硝酸カルシウム水溶液に7日間浸漬した。なお、用いた硝酸カルシウム水溶液の硝酸カルシウムの濃度は、0.7mol/L、1.4mol/L、2.3mol/L、および3.2mol/Lであった。
さらに、7日経過した後、温度40±1℃、相対湿度95%の環境下に膨張が進行中のモルタルバーを静置し、材齢3週、4週、6週、8週、13週、および26週におけるモルタルバーの長さ変化を測定して、膨張率を算出した。その結果を図5に示す。
図5に示すように、膨張が進行中のモルタルバーであっても、硝酸カルシウム溶液に浸漬するだけで膨張を抑制できる。
図1
図2
図3
図4
図5