特許第6906983号(P6906983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6906983アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物、該アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合させたポリアセチレン化合物およびその熱硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906983
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物、該アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合させたポリアセチレン化合物およびその熱硬化物
(51)【国際特許分類】
   C07D 265/16 20060101AFI20210708BHJP
   C08F 38/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   C07D265/16CSP
   C08F38/00
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-39802(P2017-39802)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-145124(P2018-145124A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(72)【発明者】
【氏名】南 昌 樹
(72)【発明者】
【氏名】三 田 文 雄
(72)【発明者】
【氏名】宮 城 雄
(72)【発明者】
【氏名】後 藤 誠 英
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−519342(JP,A)
【文献】 特表2010−509446(JP,A)
【文献】 KIM,H.J. et al,Synthesis and thermal characterization of polybenzoxazines based on acetylene-functional monomers,Polymer,1999年,Vol.40, No.23,p.6565-6573
【文献】 LIU,Y. et al,A well-defined poly(vinyl benzoxazine) obtained by selective free radical polymerization of vinyl group in bifunctional benzoxazine monomer,Polymer,2016年,Vol.82,p.32-39
【文献】 MA,H. et al,Vinyl benzoxazine: a novel heterobifunctional monomer that can undergo both free radical polymerization and cationic ring-opening polymerization,RSC Advances,2015年,Vol.5, No.124,p.102441-102447
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 265/16
C08F 38/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物:
【化1】
[式(I)中、
1は、水素、置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいアリール基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいアリール基を示す。]。
【請求項2】
前記式(I)において、R1が水素である、請求項1に記載のアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物。
【請求項3】
前記式(I)において、Rがフェニル基である、請求項1または2に記載のアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合させてなるポリアセチレン化合物。
【請求項5】
請求項4に記載のポリアセチレン化合物を含む組成物の熱硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物、該アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合させたポリアセチレン化合物、および該ポリアセチレン化合物の熱硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物とは、ベンゼン骨格とオキサジン骨格とを有するベンゾオキサジン環を含む化合物を指し、その硬化物(重合物)であるベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性、機械的強度等の物性に優れ、多方面の分野において各種用途用の高性能材料として使用されている。
【0003】
特許文献1は、特定構造のベンゾオキサジン化合物およびその製造方法を開示し、該ベンゾオキサジン化合物により高い熱伝導率を有するベンゾオキサジン樹脂硬化物を製造することが可能であることを記載している。
【0004】
特許文献2は、特定のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有するポリベンゾオキサジン樹脂の反応性末端の一部または全部を封止した熱硬化性樹脂を開示し、該熱硬化性樹脂は溶媒に溶解した際の保存安定性に優れることを記載している。
【0005】
ところで、共役系導電性高分子としてポリアセチレンが知られており、有機系の導電体であることから種々の用途に期待がされている。近年、ポリアセチレンが優れた熱伝導性を有することも報告されている(非特許文献1)。
【0006】
上記したベンゾオキサジン化合物に、アセチレン基を導入する試みもなされている。例えば、非特許文献2には、ベンゾオキサジンのオキサジン環の窒素原子にフェニル基を介してアセチレン基を導入した化合物が記載されており、このようなアセチレン官能基を有するベンゾオキサジン化合物の硬化物は、高い耐熱性を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−60407号公報
【特許文献2】特開2012−36318号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高伝導性複合高分子の開発 日本接着学会誌 43巻、325ページ(2007)
【非特許文献2】Polymer 6565、40(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した非特許文献2に記載されているベンゾオキサジン化合物は、アセチレン官能基が重合するとともに、ベンゾオキサジンが開環重合することで、架橋構造を有する硬化物が得られると考えられる。しかしながら、上記したような構造を有する硬化物は、高温環境下で熱分解が起こる際に、アニリン体の脱離に伴い、ポリアセチレンとポリベンゾオキサジンが開裂して架橋密度が低下し、その結果、硬化物の耐熱性が低下することが予想される。そして、ベンゾオキサジンのオキサジン環ではなく、ベンゼン環にアセチレン官能基を導入すれば、その硬化物の耐熱性が向上することが期待できる。
【0010】
したがって、本発明は、ガラス転移温度が高く、かつ熱分解し難い高耐熱性硬化物を得ることに加え、ポリアセチレン部を含むことで高い熱伝導性が期待できる、新規なアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の別の目的は、上記アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合させたポリアセチレン化合物、および該ポリアセチレン化合物の熱硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記したような知見に基づいて鋭意検討を行った結果、ベンゾオキサジンのオキサジン環ではなく、ベンゼン環にアセチレン官能基を導入したベンゾオキサジン化合物を開発し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)下記式(I)で示されるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物:
【化1】
[式(I)中、
1は、水素、置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいアリール基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいアリール基を示す。]。
(2)前記式(I)において、R1が水素である、(1)に記載のアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物。
(3)前記式(I)において、Rがフェニル基である、(1)または(2)に記載のアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合させてなるポリアセチレン化合物。
(5)(4)に記載のポリアセチレン化合物を含む組成物の熱硬化物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の式(I)に係るアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物は、新規な化合物である。式(I)に示す構造により、本発明のベンゾオキサジン化合物を重合させてなるポリアセチレン化合物は硬化後の耐熱性および熱伝導性が良好であるという特徴を有している。したがって、本発明のベンゾオキサジン化合物を原料として使用して熱硬化させたベンゾオキサジン樹脂は、接着剤、封止材(例えば、電子分野で使用される封止材)、積層板、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】化合物1のH−NMRスペクトルを示す。
図2】化合物2のH−NMRスペクトルを示す。
図3】化合物2の13C−NMRスペクトルを示す。
図4】化合物3のH−NMRスペクトルを示す。
図5】化合物3の13C−NMRスペクトルを示す。
図6】化合物3のFT−IRスペクトルを示す。
図7】ポリアセチレン化合物のサイズ排除クロマトグラフィーチャートを示す。
図8】ポリアセチレン化合物のラマンスペクトルを示す。
図9】ポリアセチレン化合物の加熱前後のIRスペクトルを示す。
【発明の具体的説明】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
<アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物>
本発明によるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物は、下記式(I)で示されるものである。
【化2】
上記式(I)中、Rは、水素、置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいアリール基を示す。また、Rは、置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいアリール基を示す。なお、本明細書において、「エチニル基」とは、−C≡CHに限られず、−C≡C−R(式中のRは上記で定義されるものである)で表される官能基を包含するものとする。
【0017】
式(I)のアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物は、ベンゾオキサジン環のベンゼン環上に置換されたアセチレンを結合したベンゾオキサジンである。したがって、式(I)のベンゾオキサジン化合物(以後、単に、式(I)の化合物と称する場合もある。)の具体例として、下記式(Ia)および(Ib)のベンゾオキサジン化合物群を挙げることができる。
【化3】

なお、式(Ia)および(Ib)中のRおよびRの定義は上記と同様である。
【0018】
本発明において、式(I)におけるRが示す「アルキル基」は、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは1〜6である(ただし、置換されている場合を除く)。上記アルキル基は直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。
が示すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0019】
が示すアルキル基は、置換されていてもよく、その置換基として、エーテル基、アミド基、エステル基、アリール基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも一つの基が挙げられ、好ましくは、エーテル基、アミド基、アリール基である。
が示す、置換されているアルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、アセトアミドメチル基、アセトキシメチル基等が挙げられ、好ましくは、ベンジル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、フェノキシメチル基である。
【0020】
本明細書において、式(I)におけるRが示す「アリール基」は、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは6〜10である(ただし、置換されている場合を除く)。
が示すアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、好ましくは、フェニル基である。
【0021】
が示すアリール基は、置換されていてもよく、その置換基として、アルキル基、エーテル基、アミド基、エステル基、アリール基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも一つの基が挙げられ、好ましくは、アルキル基である。
が示す、置換されているアリール基の具体例としては、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基、ジメチルナフチル基、メトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトアミドフェニル基、アセトキシフェニル基等が挙げられ、好ましくは、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基、メトキシフェニル基、フェノキシフェニル基である。
【0022】
本発明において、式(I)におけるRが示す「アルキル基」は、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは1〜6である(ただし、置換されている場合を除く)。上記アルキル基は直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。
が示すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0023】
が示すアルキル基は、置換されていてもよく、その置換基として、エーテル基、アミド基、エステル基、アリール基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも一つの基が挙げられ、好ましくは、エーテル基、アミド基、アリール基である。
が示す、置換されているアルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、アセトアミドメチル基、アセトキシメチル基等が挙げられ、好ましくは、ベンジル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、フェノキシメチル基である。
【0024】
本明細書において、式(I)におけるRが示す「アリール基」は、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは6〜10である(ただし、置換されている場合を除く)。
が示すアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、好ましくは、フェニル基である。
【0025】
が示すアリール基は、置換されていてもよく、その置換基として、アルキル基、エーテル基、アミド基、エステル基、アリール基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも一つの基が挙げられ、好ましくは、アルキル基、エーテル基、アミド基、アリール基等である。
が示す、置換されているアリール基の具体例としては、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基、ジメチルナフチル基、メトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトアミドフェニル基、アセトキシフェニル基等が挙げられ、好ましくは、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基、メトキシフェニル基、フェノキシフェニル基である。
【0026】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、Rが、水素、アルキル基、またはアリール基を示し、Rが、置換されていてもよいアリール基を示す。
【0027】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、Rが水素またはフェニル基を示し、Rがフェニル基またはナフチル基を示す。
【0028】
<アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物の製造方法>
次に、本発明によるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物の製造方法について説明する。
アセチレン含有ベンゾオキサジン化合物は、ベンゾオキサジン環合成反応によって得ることができる。具体的には、アセチレン含有フェノール誘導体と、アミン化合物と、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体とを反応させることにより、本発明によるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物を製造することができる。ベンゾオキサジン環合成反応に使用するアセチレン含有フェノール誘導体としては、下記化合物Cを用いることができる。本発明による製造方法において使用する典型的なアセチレン含有フェノール誘導体として、4−[2−(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼンを例示することができる。また、アミン化合物としては、R−NHを用いる。本発明による製造方法において使用する典型的なアミン化合物として、アニリンを例示することができる。さらに、ベンゾオキサジン環合成反応に使用するホルムアルデヒドは典型的にはホルマリンであり、ホルムアルデヒド誘導体としては、1,3,5−トリオキサン、パラホルムアルデヒド等の多量体や重合体等を例示できる。
【0029】
本発明の一実施態様として、上記式(I)においてRが水素であるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物の製造方法の具体例を以下に示すが当該方法に限定されるものではない。
【0030】
工程(ア):
まず、ハロゲン化フェノール(以下、化合物Aともいう)とアセチレンの片側が保護基Yで置換された化合物(以下、化合物Bともいう)との反応により、化合物Cを合成する。以後の各スキーム中において、Xは塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を示し、Yは保護基を示す。
【化4】
【0031】
工程(ア)において、ハロゲン化フェノール(化合物A)とアセチレンの片側が保護基Yで置換された化合物(化合物B)とを、触媒存在下で、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気中でカップリング反応することによって、化合物Cを含む反応生成物を得ることができる。
【0032】
また、上記アセチレンの片側が保護基Yで置換された化合物(化合物B)としては、トリメチルシリル−アセチレン、トリイソプロピルシリル−アセチレン等のシラン化合物等が挙げられ、その使用量は、ハロゲン化フェノール1モルに対し、例えば、0.5〜10モル、好ましくは、1〜3モルである。
【0033】
カップリング反応における上記触媒系としては、通常、炭素−炭素結合を形成し得る触媒系ならば、限定されるものではないが、薗頭カップリング反応を行うためのビス(トリフェニルホスフェン)パラジウム(II)ジクロリドおよびヨウ化銅を含む触媒系またはテトラキス(トリフェニルホスフェン)パラジウム、臭化亜鉛およびトリエチルアミンを含む触媒系を用いることが好ましい。ビス(トリフェニルホスフェン)パラジウム(II)ジクロリドの添加量としては、限定されるものではないが、例えば、化合物B 1モルに対して、0.1〜10モル%、好ましくは、2〜5モル%である。また、ヨウ化銅の添加量は、ビス(トリフェニルホスフェン)パラジウム(II)ジクロリド 1モルに対して、例えば、1〜10モル、好ましくは、2〜5モルである。
【0034】
反応に用いられる溶媒としては、限定されるものではないが、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンまたはピペリジン等の窒素化合物、テトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられる。これらの溶媒は、単独または2種以上を組み合わせて用いられる。その使用量は、原料に対して例えば、1〜100重量倍、好ましくは、2〜50重量倍であることが好ましい。また、これらの溶媒は、副反応や触媒の失活等を防ぐために、あらかじめ蒸留しておくことが好ましい。
【0035】
カップリング反応を行う際の反応温度としては、特に制限されるものではないが、反応率の観点から、例えば、20〜150℃の温度範囲であってよく、好ましくは40〜100℃の温度範囲または還流温度である。また、反応時間は、例えば10分〜48時間であってよく、好ましくは、30分〜24時間である。
【0036】
なお、スキーム1の反応においては、定法に従い、化合物Cを含む反応生成物を留去、再結晶、カラムクロマトグラフィー精製、溶剤洗浄等によって精製し、必要に応じて高純度の化合物Cとすることが好ましい。前記精製により、次工程である工程(イ)において化合物Dを高収率で得ることができる。精製用溶媒としては、水、アルコール類、炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン溶剤類、アミン類等を例示できる。
【0037】
工程(イ):
次いで、上記のようにして得られた化合物Cと、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体と、アミン化合物との反応により、化合物Dを合成する。以後の各スキーム中において、Rは式(I)に示した通りであり、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体は(CH2O)nと示す。
【化5】
【0038】
工程(イ)のベンゾオキサジン環合成反応に使用されるアミン化合物としては、例えば、一級アリールアミン、一級アルキルアミン等が挙げられる。一級アリールアミンとしては、アニリン、4−メチルアニリン、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン等が挙げられ、好ましくは、アニリン、1−ナフチルアミンである。また、アミン化合物の使用量については、化合物Cとアミン化合物との理論反応モル比は1:1である。実際の合成反応においては、アミン化合物の使用量は、高収率の観点から、化合物C 1モルに対して、アミン化合物0.3〜2モルが好ましく、0.8〜1.5モルがより好ましい。
【0039】
ベンゾオキサジン環合成反応に使用されるホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体としては、例えば、1,3,5−トリオキサン、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルマリンまたはそれらの組み合わせが挙げられ、好ましくは、1,3,5−トリオキサン、パラホルムアルデヒド、ホルマリンである。また、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体の使用量については、化合物C 1モルに対してCH2Oとして2モルが理論量である。実際の合成反応においては、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体の使用量は、高収率の観点から、化合物C 1モルに対して、CH2Oとして1.0〜6.0モルが好ましく、2.0〜4.0モルがより好ましい。したがって、ホルムアルデヒド誘導体として、1,3,5−トリオキサンを用いる場合は、その使用量は、化合物C 1モルに対して0.3〜2.0モルとすることが好ましく、0.6〜1.3モルがより好ましい。
【0040】
ベンゾオキサジン環合成反応を行う際に使用できる反応溶媒としては、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン溶剤類等を例示でき、反応物および生成物の溶解性の観点により、芳香族炭化水素類が好ましい。芳香族炭化水素類としては、トルエンがより好ましい。
【0041】
ベンゾオキサジン環合成反応の反応温度としては、特に制限されるものではないが、反応率および反応溶媒沸点の観点から、例えば、20〜150℃の温度範囲であってよく、好ましくは、20〜100℃の温度範囲である。また、反応時間は、例えば、30分〜48時間であってよく、好ましくは、1〜24時間である。
【0042】
なお、スキーム2の反応においては、定法に従い、化合物Dを含む反応生成物を留去、再結晶、カラムクロマトグラフィー精製、溶剤洗浄等によって精製し、必要に応じて高純度の化合物Dとすることが好ましい。前記精製により、次工程である工程(ウ)において化合物Eを高収率で得ることができる。精製用溶媒としては、水、アルコール類、炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン溶剤類等を例示できる。
【0043】
工程(ウ):
続いて、上記のようにして得られた化合物Dの保護基を脱保護して、化合物Eを得る。
【化6】
【0044】
スキーム3の反応において、脱保護剤は、特に限定されるものではないが、保護基がトリメチルシリル、トリイソプロピルシリル等のシリル基の場合には、塩基、フッ化物イオンが挙げられる。塩基としては、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、フッ化物イオンとしてはテトラブチルアンモニウムフルオリドが挙げられ、好ましくは、テトラブチルアンモニウムフルオリド、炭酸カルシウムである。また、酢酸等の有機酸を添加して行うこともできる。脱保護剤の使用量は、化合物E 1モルに対し、例えば、0.5〜50モルであってよく、好ましくは、5〜20モルである。
【0045】
脱保護反応を行う際の反応溶媒としては、非プロトン性極性溶媒、アルコール類が挙げられ、好ましくは非プロトン性極性溶媒である。非プロトン性極性溶媒としては、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0046】
脱保護反応を行う際の反応温度としては、特に制限されるものではないが、反応率の観点から、20〜150℃の温度範囲が好ましく、20〜100℃の温度範囲がより好ましい。また、反応時間としては、例えば、1分〜10時間であってよく、好ましくは、30分〜5時間である。
【0047】
なお、スキーム3の反応においては、定法に従い、化合物Dを含む反応生成物を再結晶、カラムクロマトグラフィー精製、溶剤洗浄等によって精製し、必要に応じて高純度の化合物Eとすることが好ましい。精製用溶媒としては、水、アルコール類、炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン溶剤類等を例示できる。
【0048】
本発明の他の実施態様として、上記式(I)においてRが置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基であるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物の製造方法の具体例を以下に示すが当該方法に限定されるものではない。
【0049】
工程(エ):
まず、ハロゲン化フェノール(化合物A)とアセチレンの片側がRで置換された化合物(以下、化合物Fともいう)との反応により、化合物Gを合成する。なお、以後の各スキーム中において、RおよびXは上述の通りである。
【化7】
【0050】
工程(エ)において、ハロゲン化フェノール(化合物A)とアセチレンの片側がRで置換された化合物(化合物F)とを、触媒存在下で、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気中でカップリング反応することによって、化合物Gを含む反応生成物を得ることができる。化合物Fの使用量は、ハロゲン化フェノール1モルに対し、例えば、0.5〜10モル、好ましくは、1〜3モルである。
【0051】
カップリング反応における触媒系は、上記したものと同様のものを使用することができる。また、カップリング反応に用いられる溶媒も、上記したものと同様のものを使用することができる。カップリング反応を行う際の反応温度としては、特に制限されるものではないが、反応率の観点から、例えば、20〜150℃の温度範囲であってよく、好ましくは、40〜100℃の温度範囲または還流温度である。また、反応時間は、例えば10分〜48時間であってよく、好ましくは、30分〜24時間である。
【0052】
スキーム4の反応においては、定法に従い、化合物Gを含む反応生成物を留去、再結晶、カラムクロマトグラフィー精製、溶剤洗浄等によって精製し、必要に応じて高純度の化合物Gとすることが好ましい。前記精製により、次工程である工程(オ)において化合物Hを高収率で得ることができる。精製用溶媒としては、水、アルコール類、炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン溶剤類、アミン類等を例示できる。
【0053】
工程(オ):
次いで、上記のようにして得られた化合物Gと、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体と、アミン化合物との反応により、化合物Hを合成する。以後の各スキーム中において、Rおよび(CH2O)nは上述の通りである。
【化8】
【0054】
工程(オ)のベンゾオキサジン環合成反応に使用されるアミン化合物はR−NHであり、上記したものと同様のものを使用することができ、その使用量についても上記と同様とすることができる。また、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体も上記したものと同様のものを使用することができ、その使用量についても上記と同様とすることができる。また、ベンゾオキサジン環合成反応の反応条件(溶媒、温度、時間)も上記と同様とすることができる。
【0055】
スキーム5の反応においては、定法に従い、化合物Hを含む反応を留去、再結晶、カラムクロマトグラフィー精製、溶剤洗浄等によって精製し、必要に応じて高純度の化合物Hとすることが好ましい。精製用溶媒としては、水、アルコール類、炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン溶剤類等を例示できる。
【0056】
本発明による上記式(I)で表されるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物は、マススペクトル、赤外分光法(IR)、プロトンNMR(HNMR)、および13CNMR等の公知の分析手段により同定することができる。マススペクトルにて、分子量が目的物と一致すること、IR測定により、特定の特徴的吸収ピークを有するスペクトルを示すこと、ならびに両NMR測定によるNMRピークの化学シフトから、各水素原子、炭素原子が合理的に帰属できること、によって化合物の同定を行うことができる。具体的同定方法については、後述の実施例の例示化合物によって説明する。
【0057】
本発明による上記式(I)で表されるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物は、例えば、Rが水素を示し、Rがフェニル基を示す場合には、マススペクトルで測定される分子イオン([M]+・)の質量、すなわち、分子量は、235である。また、IRスペクトル分析により、上記化合物の、2101cm−1のピークはエチニル基の伸縮振動を示し、3269cm−1のピークはエチニル基のCH結合の伸縮振動を示す。
【0058】
<ポリアセチレン化合物>
本発明の別の実施態様によれば、式(I)で表されるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合した、下記式(II)で表されるポリアセチレン化合物も提供される。
【化9】
【0059】
上記式(II)で表されるポリアセチレン化合物は、上記式(I)の化合物を原料としてエチニル基を重合させることにより、式(II)のポリアセチレン化合物を得ることができる。重合方法としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、溶液重合が好ましい。溶液重合は、式(I)で表されるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物を水および/または有機溶媒に溶解させた溶液を調製し、触媒の存在下で行われる。反応溶液中の式(I)の化合物の濃度は0.00001〜10M、好ましくは0.01〜0.1Mである。また、重合温度は、触媒の存在下、−50℃〜90℃、好ましくは0〜70℃の範囲である。適当な重合反応時間は、例えば0.5分間〜48時間、好ましくは30分間〜24時間である。重量平均分子量(Mw)は、例えば1000〜100万であり、好ましくは5000〜10万である。数平均分子量(Mn)は、例えば1000〜50万であり、好ましくは5000〜5万である。分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1〜10であり、好ましくは1.5〜5である。なお、重量平均分子量や分子量分布の同定は、サイズ排除クロマトグラフィーにより行うことができる。
【0060】
エチニル基の重合に使用する触媒としては、錯体を含む遷移金属触媒が挙げられる。上記触媒としては、例えば、ヘキサカルボニルモリブデン等のモリブデンを含む化合物、ヘキサカルボニルタングステンまたはヘキサクロロタングステン/テトラフェニルスズ等のタングステンを含む化合物、テトラブトキシチタン、テトラクロロチタン、ヘキサクロロチタンまたはテトラブトキシチタン/トリエチルアルミニウム等のチタンを含む化合物、2,5−ノルボルナジエン−p−トルエンスルホネートロジウム、1,5−シクロペンタジエン−p−トルエンスルホネートロジウム、[Rh(ノルボルナジエン)Cl]のようなロジウムノルボルナジエンハライド、[Rh(シクロオクタジエン)Cl]のようなロジウムシクロオクタジエンハライド、[Rh(ビス‐シクロオクタジエン)Cl]2、(nbd)Rh+-Ph 等のロジウムを含む化合物、酢酸パラジウム、ビス(テトラ−n−ブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)パラジウム(II)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド、ビス(ベンソニトリル)パラジウム(II)ジクロライド、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロライド、[1,2−ビス(ジフェニルフォスフィノ)エタン]パラジウム(II)ジクロライド、ビス(2,4−ペンタンジオネート)パラジウム(II)またはビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジアセテート等のパラジウムを含む化合物等が挙げられる。遷移金属触媒として、好ましくは、ヘキサカルボニルモリブデン、[Rh(ノルボルナジエン)Cl]、(nbd)Rh+-Ph 、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド等である。なお、ポリアセチレン化合物はアセチレン鎖がシス型、トランス型の2種の異性体が存在するが、触媒の種類によって所望の構造のポリアセチレン化合物を得ることができる。シス型かトランス型かは、赤外分光法(IR)、ラマンスペクトル等によって同定することができる。例えば、ポリアセチレン化合物のIRスペクトルにおいて、C−H面外変角振動の吸収ピークがシス型では740cm−1であり、トランス型では1014cm−1であることから、C−H面外変角振動の吸収強度によってシス型かトランス型か、またはその混合物であるかを同定することができる。また、ラマンスペクトルにおいて、C−C二重結合の伸縮振動が、シス型では1500〜1600cm−1、トランス型では1450〜1550cm−1であることからシス型かトランス型か、またはその混合物であるかを同定することができる。
【0061】
重合に使用する触媒の添加量は、例えば、式(I)の化合物 1モルに対して、0.00001〜1モルであってよく、好ましくは0.005〜0.5モルの間である。
【0062】
また、重合に用いる有機溶媒としては限定されるものではないが、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンのような芳香族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサンのような脂環式炭化水素等)、ハロゲン化炭化水素(クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、窒素化合物(アセトニトリル、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、アセトアミド、ジメチルホルムアミド等)、エーテル(ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、セロソルブ等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、脂肪酸(酢酸、無水酢酸等)、ジメチルスルホキシド等の有機スルホキシドやスルホン、エステル(酢酸エチル、乳酸エチル等)、等またはそれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、トリエチルアミン、クロロホルム、塩化メチレンまたはそれらの組み合わせである。また、上記有機溶媒のうちトリエチルアミンは助触媒として用いることができる。トリエチルアミンの添加量は、触媒として[Rh(ノルボルナジエン)Cl]等のロジウムノルボルナジエンハライドを選択した場合に、例えば、触媒1モルに対して、0.1〜100モルが挙げられ、好ましくは1〜50モルの間である。
【0063】
<熱硬化物>
本発明の別の実施態様によれば、ポリアセチレン化合物を含む組成物の熱硬化物も提供される。本発明においては、上記した式(I)で表されるアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物のエチニル基を重合して得られたポリアセチレン化合物において、ベンゾオキサジン環を開環重合することによって、耐熱性に優れる熱硬化物を得ることができる。すなわち、上記したポリアセチレン化合物を含む組成物を熱硬化性組成物として使用することができる。なお、開環重合の有無に関しては、IR測定による特定の特徴的吸収ピークの有無により確認することができる。
【0064】
上記式(II)で表されるポリアセチレン化合物の熱硬化による硬化物(硬化樹脂)は、次のように製造することができる。すなわち、公知のベンゾオキサジン化合物と同様の硬化条件にて、開環重合を行い硬化することができる。例えば、式(II)の化合物を、例えば、150〜350℃、好ましくは、180〜300℃にて、例えば、30分間〜10時間、好ましくは、1〜5時間加熱することで、硬化物を得ることができる。その際に、窒素、アルゴン等で置換した状態で行ってもよい。また、必要に応じて、開始剤を用いても良く、開始剤として、フェノール化合物、ルイス酸、スルホン酸類、カチオン発生剤、アミン化合物等が挙げられ、例えば、100〜350℃、好ましくは、150〜300℃にて、例えば、30分間〜10時間、好ましくは、1〜5時間加熱することで硬化物を得ることができる。得られた硬化物は主鎖にN,O−アセタール構造を有する重合体および/またはマンニッヒ型である重合体である。
【0065】
上記のようにして得られる熱硬化物は、ベンゾオキサジンが開環重合したものであるが、ベンゼン環に結合したポリアセチレン鎖によって架橋構造が形成されているため、耐熱性に加えて熱伝導性に優れた硬化物を実現することができる。そして、従来のポリアセチレン鎖によって架橋されたベンゾオキサジン樹脂と比較して、本発明による硬化物は、ベンゾオキサジンのオキサジン環ではなく、ベンゼン環にポリアセチレン鎖が結合しているため、硬化物が熱分解する際にも、アニリン体の脱離に伴って架橋密度が低下することがなく、耐熱性がより一層向上することが予想される。そのため、接着剤、封止材(例えば、電子分野で使用される封止材)、積層板、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の種々の分野で好適に使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、製造方法は一例であり、本発明に係るアセチレン含有ベンゾオキサジン化合物が、下記製造方法により限定されるものではない。
【0067】
各実施例の化合物の同定には以下の装置を使用し、以下の方法で行った。
・IR;FT/IR-4100 FT-IR Spectrometer (日本分光株式会社製)
試料2mgを乳鉢を用いてKBr(IR吸収測定用)20mgと馴染ませ、その混合粉末をプレス機にかけ膜を作製した後、測定を行なった。
HNMR、13CNMR;JNM-ECS Series FT NMR装置 (株式会社JEOL RESONANCE、日本電子株式会社製)
・マススペクトル;DART質量分析装置(イオン化装置DART−SVP(エーエムアール株式会社製)およびマルチ質量分析システムLC-IT-TOF(島津製作所社製))
測定サンプルは、試料2mgをメタノール 1mLに溶解させた後、10倍希釈した溶液を測定した。
・ラマンスペクトル;3D顕微レーザーラマン分光装置 Nanofiber30 (東京インスツルメンツ製)
測定は、レーザー波長 748nm、レーザー強度50mWにて測定した。
【0068】
(実施例1)
モノマー(3,4−ジヒドロ−6−エチニル−2H−3−フェニル−1,3−ベンゾオキサジン(3,4-Dihydro-6-Ethynyl-2H-3-phenyl-1,3-benzoxazine))の合成
(1)4−[2−(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン(4-[2-(trimethylsilyl)ethynyl]benzene)(化合物1)の合成
下記に示したスキームIのようにして化合物1を得た。即ち、p−ヨードフェニル(9.90g、45.0mmol)、ヨウ化銅(I)(CuI(I))(0.358g、1.8mmol)、ビス(トリフェニルホスフェン)パラジウム(II)ジクロリド(PdCl(PPh)(0.640g、0.90mmol)を入れたフラスコを脱気アルゴン(Ar)置換した後、テトラヒドロフラン(THF)(112.5mL)、トリエチルアミン(EtN)(7.5mL)を加え20分間攪拌した。その後、トリメチルシリルアセチレン(TMSA)(6.35mL、45.0mmol)を加え遮光下で21時間攪拌(還流)した。
反応終了後、溶媒を留去し、残渣にジエチルエーテルを加え、得られた有機層を純水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。無水硫酸マグネシウムをろ過して除いた後、溶媒を留去し、褐色粘性の残渣を得た。
得られた残渣をベンゼン(20mL)に溶解させ60℃まで加熱しエチレンジアミン(4mL)を加え20分間攪拌した。沈殿物を瀘別し、取り出した濾液を0.5M 塩酸水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:エチルアセトン/ヘキサン=1/4)にて精製し、褐色固体として化合物1(3.47g、収率:40.5%)を得た。化合物1の同定は、H−NMRスペクトルにて行った。なお、H−NMRスペクトルは、テトラメチルシラン(TMS)を含まない重クロロホルムに化合物1を溶解した後に測定した。
NMRの測定の結果を図1に示す。
【0069】
【化10】
【0070】
(2)3,4−ジヒドロ−2H−3−フェニル−6−[2−(トリメチルシリル)エチニル]−1,3−ベンゾオキサジン(3,4-Dihydro-2H-3-phenyl-6-[2-(trimethylsilyl)ethynyl]-1,3-benzoxazine(化合物2)の合成
下記に示したスキームIIのようにして化合物2を得た。即ち、100mLナスフラスコに、上記のようにして得られた化合物1(1.90g、10mmol)、1,3,5−トリオキサン(0.595g、6.6mmol)、アニリン(0.91mL、10mmol)、トルエン(30mL)を仕込み、90℃で5時間攪拌した。
反応終了後、溶媒を留去し、残渣にジエチルエーテルを加え、得られた有機層を1.5×10−3M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、溶媒を留去して褐色固体として化合物2(2.17g、収率:70%)を得た。
化合物2の同定は、H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルにて行った。なお、H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルはいずれも化合物2を重クロロホルムに溶解した後に測定した。
NMRの測定の結果を図2、3に示す。
【0071】
【化11】
【0072】
(3)3,4−ジヒドロ−6−エチニル−2H−3−フェニル−1,3−ベンゾオキサジン(3,4-Dihydro-6-ethynyl-2H-3-phenyl-1,3-benzoxazine)(化合物3)の合成
下記に示したスキームIIIのようにして化合物3を得た。即ち、上記のようにして得られた化合物2(0.40g、1.3mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(5mL)に溶解し、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)1mol/L THF溶液(15.6ml、TBAF15.6mmol)を加え室温で1時間攪拌した。
反応終了後、ジエチルエーテルを加え、純水で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、エバポレーターで溶媒を留去し、黄褐色粘性液体を得た。
得られた黄褐色粘性液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム)により精製し、黄白色固体として化合物3(0.20g、収率:65%)を得た。
【0073】
化合物3の同定は、H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトル、IRスペクトルおよびマススペクトルにて行った。なお、H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルはいずれも化合物3を重クロロホルムに溶解した後に測定した。
NMRの測定の結果を図4、5に、IRスペクトルの結果を図6および以下に、マススペクトルの結果を以下に示す。
【0074】
[マススペクトル]
[M]+・ 235、[M+H]+ 236、
[IRスペクトル]
3269、2918、2101(C≡C)、1599、1493、1232、939、758cm-1
【0075】
【化12】
【0076】
(実施例2)
ポリアセチレン合成
シュレンク管に[Rh(ノルボルナジエン)Cl]([(nbd)RhCl])(1.68mg,0.364×10−2mmol)を入れ、脱気アルゴン置換した後、クロロホルム(CHCl)(2.28mL)を加え5分間攪拌した。その後、EtN(0.005mL)を加え30℃まで加熱しクロロホルム(5.00mL)に溶解させた化合物3(85.7mg、0.364mmol)溶液を加えた。1時間攪拌後、黒みがかった褐色液体を得た。
重合条件:[化合物3]=50mM、[化合物3]/[Rh]=100、[EtN]/[Rh]=10。(なお、[化合物3]は反応開始時の反応溶液中の化合物3のモル濃度を示す。また、[化合物3]/[Rh]、[EtN]/[Rh]は、それぞれ反応開始時の[(nbd)RhCl]に対する化合物3のモル比、反応開始時の[(nbd)RhCl]に対するEtNのモル比を示す。)
得られた重合混合物をメタノールに投入し、沈殿した固体を濾別し、褐色固体のポリアセチレン化合物(45.0mg、収率:52.5%)を得た。ポリアセチレン化合物のサイズ排除クロマトグラフィー測定(溶離液:THF、ポリスチレン換算)の結果を図7に示す。その結果、Mn = 7,900、Mw = 22,100、Mw/Mn = 2.7であることを確認した。また、ポリアセチレン化合物のラマンスペクトルの測定結果を図8に示す。その結果、ポリアセチレンに帰属される1550cm−1のピークを確認した。
【化13】
【0077】
(実施例3)
得られたポリアセチレン化合物のクロロホルム溶液をガラスプレート上にスピンコートし(1040rpm、1分間)フィルムを作製した。乾燥後、窒素下にて250℃2時間加熱することで硬化反応を実施した。上記ポリアセチレン化合物の加熱前後のIRスペクトルを図9に示す。加熱前後のIRスペクトルより、シス型ポリアセチレンのピーク(740cm−1)の残存を確認した。また、加熱後の硬化物ではベンゾオキサジン環の開環重合が進行し、ベンゾオキサジンに帰属されるピーク(1220、930cm−1)の消失を確認した。また、加熱後の硬化物のラマンスペクトルの測定結果を図8に示す。その結果、ポリアセチレンに帰属される1550cm−1のピークが残存していることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9