(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ディスクに対するパワーローラのローラ位置をアクチュエータにより変化させることでパワーローラの傾転角を変化させて変速比を変化させるトロイダル無段変速機の変速制御装置であって、
前記変速比の実値を取得する実変速比取得器と、
前記変速比の指令値と前記変速比の前記実値との偏差を減らすように閉ループ制御により前記ローラ位置の目標値を算出する目標位置演算器と、
第1回転速度域と前記第1回転速度域よりも速い第2回転速度域とにおいて、前記ディスクの回転速度の変化に応じて前記閉ループ制御のゲインを調整するゲイン設定器と、を備え、
前記ゲイン設定器は、
前記第1回転速度域では、前記回転速度の増加に伴って前記閉ループ制御の感度が低下するように前記ゲインを変化させ、
前記第2回転速度域では、前記回転速度の増加に伴う前記閉ループ制御の感度の低下率が前記第1回転速度域よりも小さくなるように前記ゲインを変化させる、トロイダル無段変速機の変速制御装置。
前記ゲイン設定器は、前記第2回転速度域において前記感度の低下率が前記回転速度の増加に伴って連続的に小さくなるように前記ゲインを変化させる、請求項1に記載のトロイダル無段変速機の変速制御装置。
前記ゲイン設定器は、前記回転速度の増加に伴う前記ゲインの変化が、前記回転速度の増加に伴う前記パワーローラの傾転感度の変化と逆相関になるように、前記ゲインを変化させる、請求項1又は2に記載のトロイダル無段変速機の変速制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0017】
図1は、実施形態に係る駆動機構一体型発電装置1のスケルトン図である。
図1に示すように、駆動機構一体型発電装置1(Integrated Drive Generator,以下「IDG」)は、航空機の交流電源として用いられる。IDG1は、航空機のエンジンに取り付けられるケーシング2を備え、ケーシング2には、発電機3が定速駆動装置(Constant Speed Drive,以下「CSD」)4と共に収容される。CSD4は、航空機のエンジン回転軸(図示せず)の回転動力を発電機3に伝達する動力伝達経路を形成し、トロイダル無段変速機10(以下「トロイダルCVT」)がその一部を構成する。エンジン回転軸の回転動力は、CSD4の入力経路5を介してトロイダルCVT10に入力され、トロイダルCVT10で変速され、CSD4の出力経路6を介して発電機軸7に出力される。発電機軸7が回転すると、発電機3は発電機軸7の回転速度に比例した周波数で交流電力を発生する。トロイダルCVT10の変速比SRは、エンジン回転軸の回転速度の変動に関わらず発電機軸7の回転速度を適値(航空機内の電装品が安定動作する周波数と対応する値)に保つように連続的に変更される。これにより、発電機3で発生される交流電力の周波数が適値に保たれ、航空機内の電装品が安定動作する。
【0018】
トロイダルCVT10では、CVT入力軸11及びCVT出力軸12がCVT軸線A1上で同軸状に配置される。入力ディスク13がCVT入力軸11上に一体回転可能に設けられ、出力ディスク14がCVT出力軸12上に一体回転可能に設けられる。入力ディスク13及び出力ディスク14は、互いに対向して円環状のキャビティ15を形成する。本実施形態では、トロイダルCVT10は、ダブルキャビティ型であり、同構造の2組の入力ディスク13A,13B及び出力ディスク14A,14Bを備え、2つのキャビティ15A,15BがCVT軸線A1方向に並ぶ。2つのパワーローラ16(対象物)が1つのキャビティ15内に配置され、各パワーローラ16が転動軸線A3周りに回転可能にトラニオン17に支持される。トラニオン17は、パワーローラ16と一対一で対応し、傾転軸線A2の延在方向に変位可能且つ傾転軸線A2周りに回転可能にケーシング2に支持される。
【0019】
パワーローラ16は、トラクションオイルの供給を受け、且つクランプ機構18により発生されるクランプ力でディスク13,14に押し付けられる。クランプ機構18は、カム式(ローディングカム機構と称される場合もある)でも油圧式でもよい。これにより、高粘度油膜が入力側接触部(パワーローラ16と入力ディスク13との接触界面)と出力側接触部(パワーローラ16と出力ディスク14との接触界面)とに形成される。CVT入力軸11は入力経路5から入力された回転動力で回転駆動される。CVT入力軸11が回転すると、入力ディスク13が一体回転し、パワーローラ16が入力側接触部で生じる油膜の剪断抵抗で転動軸線A3周りに回転駆動される。パワーローラ16が転動軸線A3周りに回転すると、出力ディスク14が出力側接触部で生じる油膜の剪断抵抗で回転駆動され、CVT出力軸12が一体回転する。CVT出力軸12の回転動力は出力経路6に出力される。
【0020】
変速比SRはローラ位置X(パワーローラ16の傾転軸線A2の延在方向における位置)に応じて連続的に変更される。変速比SRは、トロイダルCVT10の入力回転速度(CVT入力軸11の回転速度)N1に対する出力回転速度(CVT出力軸12の回転速度)N2の比として定義され、半径比と等しい(SR=N2/N1=r
in/r
out)。半径比は、出力側接触半径r
out(CVT軸線A1から出力側接触部までの距離)に対する入力側接触半径r
in(CVT軸線A1から入力側接触部までの距離)の比である。ローラ位置Xが変更されると、パワーローラ16がサイドスリップを解消するまで傾転軸線A2周りに回転し、傾転角φ(パワーローラ16の傾転軸線A2周りの回転角)が変更される。傾転角φが変化すると、入力側接触部及び出力側接触部が変位し、それにより入力側接触半径r
in及び出力側接触半径r
outが連続的に変更される。したがって、半径比すなわち変速比SRが連続的に変更される。
【0021】
図2は、
図1に示す駆動機構一体型発電装置1の油圧回路図である。
図2に示すように、ローラ位置Xは油圧アクチュエータ20によって変更される。油圧アクチュエータ20は複数の油圧シリンダ21を含む。油圧シリンダ21は、パワーローラ16及びトラニオン17と一対一で対応する。油圧シリンダ21は、ボディ21a、ピストン21b及びロッド21cを含む。油圧シリンダ21は複動式であり、ボディ21aの内部はピストン21bで増速室22と減速室23とに仕切られる。ロッド21cは、傾転軸線A2と同軸状に配置され、ピストン21bをトラニオン17に連結し、トラニオン17及びこれに支持されたパワーローラ16と共に傾転軸線A2の延在方向に移動する。
【0022】
増速室22に油が供給され減速室23から油が排出されると、ローラ位置Xが、傾転軸線A2の延在方向における増速側へ変更される。油がその逆に流れると、ローラ位置Xが、傾転軸線A2の延在方向における増速側とは反対側である減速側へ変更される。1つのキャビティ15内に配置された2つのパワーローラ16は、ローラ位置Xの変更時に半径比を互いに同値で保つため、傾転軸線A2の延在方向において互いに逆向きに変位する。
【0023】
ローラ位置Xが増速側へ変更されると、その位置変化量(オフセット量)に応じた傾転速度で傾転角φが大きくなり変速比SRが上昇し、ローラ位置Xを中立点X
nに戻すことで、その増速された変速比SRが維持される。ローラ位置Xが減速側へ変更されると、その位置変化量(オフセット量)に応じた傾転速度で傾転角φが小さくなり変速比SRが低下し、ローラ位置Xを中立点X
nに戻すことで、その減速された変速比SRが維持される。中立角φ
nは傾転許容範囲の中央値と概略等しく、最小変速比SR
minは最大変速比SR
maxの逆数と概略等しい。
【0024】
油圧アクチュエータ20は、制御弁25を更に含む。油圧シリンダ21がパワーローラ16に一対一で対応するのに対し、制御弁25は例えば複数のパワーローラ16に対して単一である。制御弁25は4方向切換弁であり、供給ポートPS、戻りポートPT、増速用制御ポートCA及び減速用制御ポートCBを有する。油タンク26から油を吸い出す油圧ポンプ27は、供給ポートPSに接続され、戻りポートPTは、油タンク26に接続されている。増速用制御ポートCAは、増速室22に接続され、減速室23は、減速用制御ポートCBに接続されている。制御弁25はスプール弁であり、ポートの接続状態がスプール28の位置に応じて切り換わる。制御弁25は3位置切換弁であり、スプール28は遮断領域(
図2で中央位置)、増速領域(
図2で左位置)又は減速領域(
図2で右位置)に位置付けられる。
【0025】
遮断領域では、制御ポートCA,CBが供給ポートPS及び戻りポートPTから遮断される。このとき、増速室22及び減速室23に対する油の給排が止まり、変速比が維持される。増速領域では、増速用制御ポートCAが供給ポートPSと接続されて減速用制御ポートCBが戻りポートPTと接続される。このとき、油が増速室22に供給されて減速室23から排出され、変速比が上昇する。減速領域では、増速用制御ポートCAが戻りポートPTと接続されて減速用制御ポートCBが供給ポートPSと接続される。このとき、油が減速室23に供給されて増速室22から排出され、変速比が低下する。スプール28が増速領域又は減速領域に位置する際、供給ポートPS及び戻りポートPTの開度は当該領域内でのスプール位置に応じて可変的に設定される。
【0026】
制御弁25は、スプール28を駆動してスプール位置及び開度を制御する駆動部29を有する。制御弁25は、例えばノズルフラッパ型サーボ弁である。駆動部29により増速室22及び減速室23に対して給排される油の流量及び圧力が調整される。制御弁25は電動弁であり、駆動部29は、変速制御装置40から駆動信号が入力され、駆動信号の出力値I(電流値)に応じてスプール位置及び開度を制御する。
【0027】
油圧アクチュエータ20は、駆動信号が所定条件を満たすとローラ位置Xを所定位置で強制的に保持するバイアス機構(図示せず)を備える。例えば、当該バイアス機構は、出力値Iが零値I
zであるという条件を満たせばローラ位置Xを下限点X
minに強制的に戻し、変速比SRを安全側となる最小変速比SR
minで保持する。なお、出力値Iが負値であるという条件を満たしたときも、ローラ位置Xが下限点X
minに強制的に戻される。出力値Iが零値I
zであれば、スプール28が遮断領域内の中立位置SP
nではなく減速領域内のバイアス位置に位置付けられる。
【0028】
出力値Iが零値I
zとなりスプール28がバイアス位置で維持されれば、ローラ位置X、傾転角φ及び変速比SRは、それぞれ下限点X
min、最小傾転角φ
min及び最小変速比SR
minに達し、そこで保持される。逆に、スプール28を遮断領域内の中立位置SP
nに位置付けてローラ位置Xを維持するためには、中立位置SP
nを得るための駆動信号の出力値I(中立値I
n)を設定し、その駆動信号を駆動部29に出力し続ける。
【0029】
図3は、
図1に示す駆動機構一体型発電装置1の変速制御装置40のブロック図である。
図3に示すように、変速制御装置40は、傾転角の実値を推定した値である推定値φ
estを求める傾転角推定器41、ローラ位置の実値を推定した値である推定値X
estを求める位置推定器42(位置取得器)、及び、ローラ位置の目標値X
refと推定値X
estの偏差ΔXを解消するように油圧アクチュエータ20の動作指令値I
refを求める位置制御器43を備える。傾転角推定器41は、傾転角を直接的に検出するセンサに依らずに、演算によって傾転角の推定値φ
estを求める。動作指令値I
refは、例えば、油圧アクチュエータ20の制御弁25に与えられる駆動信号の出力値(電流値)である。
【0030】
傾転角推定器41は、実変速比SRを求める実変速比演算器44(実変速比取得器)、及び実変速比SRを傾転角の推定値φ
estに換算する換算器45を備える。実変速比演算器44は、トロイダルCVT10の入力回転速度N1(エンジンEの回転速度)とトロイダルCVT10の出力回転速度N2との比に応じて実変速比SRを求める。なお、入力回転速度N1及び出力回転速度N2は、それぞれ入力回転速度センサ及び出力回転速度センサにより検出される。
【0031】
換算器45は、傾転角φの実変速比SRに対する関数の逆関数(φ=f
−1(SR))に従い、実変速比SRに応じて傾転角を推定した値である推定値φ
estを求める。換算器45は、実際に逆関数を算術演算してもよいが、演算負荷軽減のため逆関数に従ったテーブルを予め作成してこれを変速制御装置40に記憶させておき、テーブル処理によって推定値φ
estを求めてもよい。
【0032】
変速制御装置40は、変速比の指令値SR
refを求める目標変速比演算器46を備える。目標変速比演算器46は、入力回転速度センサで検出された入力回転速度N1と予め記憶されている出力回転速度の指令値N2
refとの比に応じて変速比の指令値SR
refを算出する。本実施形態では、出力回転速度の指令値N2
refは、航空機内の電装品の作動に適した周波数と対応する一定値に設定される。例えば、目標周波数f
refを400Hz、発電機3の極数を2、出力回転速度センサの検出対象を発電機軸7の回転速度とする場合、指令値N2
refは24,000rpmの一定値である。
【0033】
変速制御装置40は、変速比の指令値SR
refと実変速比SRとの偏差ΔSRを求める変速比減算器47を備える(ΔSR=SR
ref−SR)。変速制御装置40は、変速比の偏差ΔSRを減らすようにローラ位置の目標値X
refを算出する目標位置演算器48を備える。即ち、目標位置演算器48は、メジャー閉ループ制御LP1(第1閉ループ制御;フィードバック制御)により、偏差ΔSRをゼロに近づけるようにローラ位置の目標値X
refを所定の算出ゲインG
1で算出する。目標位置演算器42は、トロイダルCVT10の入力ディスク13又は出力ディスク14の回転速度(例えば、本実施形態では出力回転速度N2)に応じて目標値X
refの算出ゲインG
1を変化させるゲイン調整を行う。具体的には、目標位置演算器48は、回転速度センサ35で検出された出力回転速度N2に応じてゲイン設定器60で決定される算出ゲインG
1に基づいて目標値X
refを算出する。即ち、ゲイン設定器60は、メジャー閉ループ制御LP1のゲインとしての目標位置演算器48の算出ゲインG
1を回転速度N2の変化に応じて調整する。算出ゲインG
1については、後述する。
【0034】
変速制御装置40は、ローラ位置の目標値X
refと推定値X
estとの偏差ΔXを求める位置減算器49を備える(ΔX=X
ref−X
est)。位置制御器43は、偏差ΔXを減らすように油圧アクチュエータ20の動作指令値I
refを算出する。即ち、位置制御器43は、マイナー閉ループ制御LP2(第2閉ループ制御;フィードバック制御)により、偏差ΔXをゼロに近づけるように動作指令値I
refを所定の算出ゲインG
2で算出する。本実施形態では、算出ゲインG
2は一定である。
【0035】
位置減算器49に帰還するマイナー閉ループ制御LP2は、変速比減算器47に帰還するメジャー閉ループ制御LP1に包含されたループである。油圧アクチュエータ20の制御弁25が動作指令値I
refで示される駆動信号を与えられることで、実ローラ位置は目標値X
refに近づけられる。そして、実変速比SRが指令値SR
refに近づけられ、出力回転速度N2が指令値N2
refに近づけられる。
【0036】
図4は、
図3に示す位置推定器42の内部モデルのブロック図である。
図4に示すように、位置推定器42は、傾転角φのモデルと油圧アクチュエータ20のモデルとを用いて作成されたオブザーバであり、ローラ位置Xを推定する。傾転角φのモデルは数式(1)で表され、油圧アクチュエータ20のモデルは数式(2)で表される。
【0039】
ここで、K
1は第1比例ゲイン、K
2は第2比例ゲイン、T
2は時定数、sはラプラス演算子である。
【0040】
数式(1)(2)により、オブザーバを設計するためのモデルが数式(3)で表される。
【0042】
ここで、K=K
1K
2、T
2≒0である。
【0043】
次に、状態空間表現された行列A,Bが、数式(4)〜(6)のとおり分割される。
【0047】
ここで、xは状態変数である。このとき、数式(7)(8)が成り立つ。
【0050】
したがって、A
11=A
21=A
22=B
1=0、A
12=K
1、B
2=K
2が成り立つ。
【0051】
次に、行列式の設計パラメータLが数式(9)のとおり導入され、オブザーバの極(推定行列^Aの固有値)が安定になるように調整される。
【0053】
他のパラメータ(推定行列^B、行列G、推定行列^C及び推定行列^D)は、設計パラメータLを用いて数式(10)〜(13)に従って求められる。
【0058】
以上から、傾転角φのモデル(数式(1)参照)及び油圧アクチュエータ20のモデル(数式(2)参照)から、数式(14)(15)で示される最小次元オブザーバが得られる。
【0061】
ここで、ωは最小次元オブザーバの状態である。
【0062】
位置推定器42は、数式(14)(15)に従った演算を行うことで、ローラ位置の推定値X
est(数式(15)参照)を求める。位置推定器42では、傾転角の推定値φ
estが、傾転角推定器41から行列Gを有する演算回路51に与えられ、G
φest(数式(14)を参照)が演算回路51から加算器52に与えられる。油圧アクチュエータ20の動作指令値I
refが、位置制御器43から推定行列^Bの演算回路53に与えられ、^BI
ref(数式(14)を参照)が演算回路53から加算器52に与えられる。加算器52の出力は、伝達関数1/sを有する積分回路54に与えられ、状態ωが積分回路54から出力される。状態ωは、推定行列^Aを有する演算回路55に与えられ、^Aω(数式(14)参照)が演算回路55から加算器52に与えられる。加算器52は、^Aω、^BI
ref及びG
φestを加算することで状態ωの微分値dω/dtを導出し(数式(14)参照)、これを積分回路54に与えている。
【0063】
状態ωは、推定行列^Cの演算回路56にも与えられ、^Cω(数式(15)参照)が演算回路56から加算器57に与えられる。傾転角の推定値φ
estは、傾転角推定器41から推定行列^Dの演算回路58にも与えられ、^D
φest(数式(15)参照)が演算回路58から加算器57に与えられる。加算器57は、^Cω及び^D
φestを加算することでローラ位置の推定値X
estを導出し(数式(15)参照)、これを位置減算器49に出力する。
【0064】
行列Gを有する演算回路51及び推定行列^Dの演算回路58は、回転速度センサ35で検出された出力回転速度N2に応じてゲイン設定器61で決定される内部ゲインK
Bに基づき行列G^及び^Dを導出する。このようにして、位置推定器42は、傾転角の推定値φ
estと油圧アクチュエータ20の動作指令値I
refと回転速度N2とに基づいてローラ位置の推定値X
estを求める。内部ゲインK
Bについては、後述する。
【0065】
図5は、
図1に示すパワーローラ16の傾転感度とディスク回転速度N2との関係を示すグラフである。
図5の破線に示すように、従来の理論では、パワーローラ16の傾転感度は、ディスク回転速度N2が増加するにつれて比例的に高感度になるものと考えられていた。なお、「傾転感度」とは、パワーローラ16のローラ位置X(中立点X
nからのオフセット量)に対するパワーローラ16の傾転角速度の割合を意味する。
【0066】
しかし、
図5の実線に示すように、本発明者らは、低速域においては、ディスク回転速度N2が増加するにつれてパワーローラ16の傾転感度が比例的に高くなる傾向を有するが、高速域においては、低速域のように傾転感度が比例的に高くなるのではなく、ディスク回転速度N2が増加するにつれてパワーローラ16の傾転感度の増加率が低下することを発見した。
図5の実線の例では、ディスク回転速度N2が所定の回転速度Naよりも小さい低速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴い傾転感度が比例的に高くなるが、ディスク回転速度N2が所定の回転速度Naよりも大きい高速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴う傾転感度の増加率が連続的に低下していく。そして、所定の回転速度Nbで傾転感度が最大値を示し、ディスク回転速度N2がその回転速度Nb(Nb>Na)より大きくなると、傾転感度の増加率がマイナスに転じる。このような知見に基づき、以下のように目標位置演算器48の算出ゲインG
1と位置推定器42の内部ゲインK
Bとがディスク回転速度N2に応じて調整される。
【0067】
図6は、
図3に示す目標位置演算器48の算出ゲインG
1とディスク回転速度N2との関係を示すグラフである。
図6に示すように、低速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴ってメジャー閉ループ制御LP1の感度が低下するように算出ゲインG
1が減少させられる。他方、高速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴うメジャー閉ループ制御LP1の感度の低下率が、低速域におけるメジャー閉ループ制御LP1の感度の低下率よりも小さくなる。
【0068】
具体的には、低速域ではディスク回転速度N2の増加に伴い算出ゲインG
1が比例的に減少するが、高速域ではディスク回転速度N2の増加に伴う算出ゲインG
1の減少率が連続的に低下していく。そして、所定の回転速度Nbで算出ゲインG
1が最小値を示し、ディスク回転速度N2がその回転速度Nbより大きくなると、算出ゲインG
1の減少率がプラスに転じる。即ち、ゲイン設定器60(
図3)は、ディスク回転速度N2の増加に伴う算出ゲインG
1の変化が、ディスク回転速度N2の増加に伴うパワーローラ16の傾転感度の変化と逆相関になるように算出ゲインG
1を変化させる。
【0069】
このようにすれば、低速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴ってメジャー閉ループ制御LP1の感度が低下するため、変速制御が不安定化(発散)することが防止される。高速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴うメジャー閉ループ制御LP1の感度の低下率が低速域よりも小さくなるため、制御応答性の低下が防止される。よって、高速域においても制御安定性及び制御応答性を両立させることができ、トロイダルCVT10のディスク回転速度N2の使用可能域を拡げることができる。
【0070】
図7は、
図4に示す位置推定器42の内部ゲインK
Bとディスク回転速度N2との関係を示すグラフである。
図7に示すように、低速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴って位置推定器42の位置推定感度が高くなるように内部ゲインK
Bが増加させられる。他方、高速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴って内部ゲインK
Bの増加率が、低速域における内部ゲインK
Bが増加率よりも小さくなる。即ち、高速域では、ディスク回転速度N2の増加に伴う内部ゲインK
Bの増加率が連続的に低下していく。そして、所定の回転速度Nbで内部ゲインK
Bが最大値を示し、ディスク回転速度N2がその回転速度Nbより大きくなると、内部ゲインK
Bの増加率がマイナスに転じる。即ち、ゲイン設定器61(
図4)は、ディスク回転速度N2の増加に伴う内部ゲインK
Bの変化が、ディスク回転速度N2の増加に伴うパワーローラ16の傾転感度の変化と正相関になるように内部ゲインK
Bを変化させる。
【0071】
このようにすれば、低速域及び高速域の何れにおいても、ディスク回転速度N2の増減に応じたパワーローラ16の傾転感度の増減に合わせるように位置推定器42の内部モデルの感度も増減するため、ディスク回転速度N2の変化に伴うローラ位置X
estの推定精度の低下を防止できる。
【0072】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。例えば、位置推定器42の内部モデルの感度はディスク回転速度に関わらず一定としてもよい。また、
図5〜7の横軸は出力回転速度N2としたが、入力回転速度N
1としてもよい。トロイダル無段変速機10は、発電機を駆動せずに別のものを駆動してもよい。