【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、天然レスベラトロールを用いるよりも顕著に高いバイオアベイラビリティーが確認されたことに基づき、ミセル型のレスベラトロール製剤を提供する。本発明は、医薬品として使用される、レスベラトロールと、ポリソルベート80及びポリソルベート20の混合物と、少なくとも1つの中鎖トリグリセリドと、トコフェロールとからなる可溶化製品を提供する。
【0012】
本発明による製剤は、可溶化製品を用いることで、レスベラトロールを充填させたミセルを生成する。
【0013】
驚くべきことに、ポリソルベート80単独又はポリソルベート20単独の使用では、胃内に存在する強酸性条件下であっても安定したままであるため、小腸壁を介したものよりも早くレスベラトロールを生体(organism)に放出することのない所望の安定したミセルは得られないことが示されている。少なくとも1つの中鎖トリグリセリド及びトコフェロール、特に混合トコフェロールと合わせて2種の乳化剤を使用するだけで、上記の安定したミセルを有する可溶化製品を作製することが可能となった。
【0014】
中鎖トリグリセリド(MCT)は、中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドである。中鎖脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、及びラウリン酸が挙げられる。これらの酸は、飽和脂肪酸であり、ココナッツオイル及びパーム核油等の熱帯植物脂肪に存在する。この物質は、乳脂肪にも僅かながら存在する。純粋なMCT油は、天然には存在しないが、合成により得ることができる。本発明の範囲内にて、個々のMCT又は種々のMCTの混合物を中鎖トリグリセリドとして使用することができる。
【0015】
本発明は、ミセルを開裂させることなく、また水で希釈した際に沈殿物(sediment)としてレスベラトロールを放出することなく、ミセル内に高充填量のレスベラトロールを含むレスベラトロール製剤を実現する機会をもたらす。
【0016】
本発明の範囲内にて、本発明による可溶化製品におけるレスベラトロールの含量は、ミセルを不安定にすることなく、非常に高い値まで変えることができる。好ましい実施の形態の可溶化製品におけるレスベラトロールの含量は、3重量%〜15重量%の範囲、特に好ましくは5重量%〜10重量%の範囲、特に10重量%である。
【0017】
本発明による可溶化製品におけるポリソルベート20及びポリソルベート80で構成される乳化剤混合物の量は、およそ65重量%〜およそ95重量%の範囲、特におよそ70重量%〜およそ92重量%の範囲である。乳化剤混合物の割合はおよそ71.8重量%であるのが特に好ましい。
【0018】
有益な改良形態では、可溶化製品中の上記少なくとも1つの中鎖トリグリセリドの量が、少なくともおよそ2重量%〜およそ8重量%の範囲、特におよそ3重量%〜およそ5重量%の範囲であり、上記少なくとも1つの中鎖トリグリセリドの割合(MCTの割合)が、好ましくはおよそ4.5重量%である。
【0019】
本発明の別の有益な実施の形態では、可溶化製品におけるトコフェロール、特に混合トコフェロールの量は、およそ10重量%までの範囲である。特に、本発明による可溶化製品中の上記トコフェロールの含量が、およそ3重量%〜およそ6重量%の範囲であり、好ましくは上記トコフェロールの割合がおよそ5.25重量%である。
【0020】
特定の適用分野に応じて、本発明の範囲内にて、α−トコフェロール及び/又はβ−トコフェロール及び/又はγ−トコフェロール及び/又はδ−トコフェロールを用いて、又はα−トコフェロールと、β−トコフェロールと、γ−トコフェロールと、δ−トコフェロールとからなる混合トコフェロールを用いて、可溶化製品を作製することができる。
【0021】
例えばα−トコフェロール単独の使用に比べて、同量の混合トコフェロールを使用することで、より大きな抗酸化能が本発明による可溶化製品に付与されることが明らかになっている。
【0022】
本発明による可溶化製品ではミセルが特に小さいことから、清澄でかつ永続的に透明な製品が得られる。pH 7及び室温、すなわちおよそ18℃〜およそ22℃の範囲の温度でのミセルの直径の分布が僅かおよそ1nm〜およそ25nmの範囲であることから、この狭い粒度分布は別の寄与因子である。特に、平均しておよそ69.45体積%±0.55体積%の粒子が3.22nm±0.06nmよりも大きく、平均しておよそ30.55体積%±0.55体積%の粒子が12.74nm±1.04nmより大きい。
【0023】
pH 1及び37℃の温度では、ミセルの直径の分布は、およそ2nm〜およそ900nmの範囲である。特に、平均しておよそ60.35体積%±1.25体積%の粒子が10.33nm±0.43nmより大きく、平均しておよそ31.75体積%±9.15体積%の粒子が161.85nm±4.25nmより大きい。
【0024】
粒度が小さいことから、特にヒトの眼で知覚される有益な清澄な液体の形成が達成される。
【0025】
上記のように特徴付けられるミセルの粒度分布を、780nmの波長のレーザー光を用いた動的光散乱の原理に基づき測定した。粒度測定は、ParticleMetrix社のNANOFLEX後方散乱粒子分析計を用いて行った。測定原理は、180度のヘテロダイン後方散乱配置での動的光散乱(DLS)に基づくものである。この配置では、レーザービームの一部が散乱光に混合する(ヘテロダイン法)。試料における光路が200マイクロメートル〜300マイクロメートルと短いことから、後方散乱は、吸収及び強く濃縮した試料に有益である。ヘテロダイン法には、シグナル/ノイズ比及び100nm未満の範囲の感度に対する増幅効果がある。
【0026】
レーザー光を光ファイバーのYフォークに接続する。レーザー光が試料チャンバーのサファイアウインドウで部分的に反射され、試料により後方散乱された光が同じファイバーに戻る。Yフォークの第二分岐における検出器が相互干渉シグナルを記録する。高速フーリエ変換分析によって、変動する散乱光部分が周波数に依存するいわゆる「パワースペクトル」に分解される。各周波数成分は、ブラウン拡散定数であるため、粒度に割り当てることができる。粒度分布への変換にはストークス−アインシュタインの式を用いる:
【数1】
【0027】
この式は、拡散定数Dと、ボルツマン定数kと、温度Tと、媒質の動粘度ηと、粒子の直径d
Pとを結び付けるものである。温度センサーはサファイアウインドウの近くの試料に近接した測定デバイスに取り付ける。
【0028】
一旦、各試料を完全に脱イオンした水で10倍希釈した。このために、可溶化製品を撹拌しながら水に溶解した。可溶化製品が水に完全に溶解し、清澄な溶液となる。この溶液は安定しており、透明である。続いて、NANOFLEXを用いて、30秒間で3回測定を行い、測定値の平均を算出した。
【0029】
加えて、試料をpH 1に調整した後、37℃にてそれ以外の条件は変えずに再度測定した。これは、可溶化医薬品の胃通過についての生理学的状態を模するものであった。
【0030】
可溶化製品の清澄度(clarity)は、その低濁度からも明らかとなり得る。
【0031】
このために、下記の作業仮説を用いる:可溶化がより良好であれば、すなわちpH値1.1及び37℃の温度では、レスベラトロールの可溶化製品又は他の製剤の水希釈液はより清澄となる。可溶化がより良好であれば、医薬品及び/又はそのレスベラトロール剤のバイオアベイラビリティーも良好となる。
【0032】
このことは、バイオアベイラビリティーについての特徴的なパラメーターの一種であると理解され得る可溶化製品の特に低い濁度から既に明らかである。本発明による可溶化製品の濁度は、上記可溶化製品の50倍希釈水にてISO 7027規格の規定に従って赤外光を用いた散乱光測定法により測定した場合、50FNU未満である。
【0033】
本発明による可溶化製品は、21℃及びpH 7での24時間の保管後、及び37℃及びpH 1.1での1時間の保管後、すなわち水希釈液中の室温での保管条件下、及び胃を通過している間の条件下であっても低濁度を保持する。したがって、レスベラトロールは、胃を通過している間も安定した非常に小さいミセル形態で本発明による可溶化製品中に存在しているため、後の消化管にて非常に良好に取り込むことができるというのが本発明者の現時点での理解である。
【0034】
濁度の実験的決定のために、標準懸濁液を用いて濁度測定器を較正する。そのため、このディスプレイ(display:表示値)は、測定される光強度ではなく、較正懸濁液の濃度を示す。したがって、任意の懸濁液を測定することで、このディスプレイにより、対応する液体が、示される濃度の標準懸濁液と同じ光散乱を生じさせることが示される。ホルマジンは、濁度について国際的に規定された参照標準である。「FNU」、すなわち「ホルマジン濁度単位」は、最も一般的な単位の1つである。この単位は、例えばISO 7072規格の規定に従った90℃での測定のための水処理に用いられる単位である。
【0035】
本発明による透明で完全に安定した水溶性レスベラトロール製剤は、上記で指定された賦形剤なしで、安定した透明性、更にはゼラチンフリーカプセル(ハード及び/又はソフト)内及び液体の水性最終品中にてpH非依存的に顕著に改善されたバイオアベイラビリティーを備える。上記透明性及び水溶性だけでなく、特にレスベラトロール製剤のこの高いレベルのバイオアベイラビリティーを備える製品が、革新的な製品のためのカプセル充填物として関連産業にて強く望まれている。これらの要件を満たすレスベラトロール製剤は、本発明者の知る限りにおいては未だ存在していない。
【0036】
特別な製剤を用いることで、本発明にて、天然形態のレスベラトロールに比べてバイオアベイラビリティーを顕著に増大させようとした。
【0037】
任意の治療効果を達成するのに非常に高い、主に1日2gを超える用量が必要であるという共通項を有する天然形態のレスベラトロールを幾つかのヒト臨床試験にて試験した。この高用量では、腹痛及び下痢等の不所望の胃腸副作用が生じることが明らかに示されている(Yiu et al, J Neurol 2015 may; 262(5): 1344-53. doi: 10.1007/s00415-015-7719-2. Epub 2015 Apr 7)。
【0038】
アルツハイマー病におけるレスベラトロールの用量漸増研究により正の結果が示されたが、これは2000mg/日の高用量のみであった(A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of resveratrol for Alzheimer disease R. Scott Turner, Ronald G. Thomas, Suzanne Craft, et al. Neurology(2015年9月11日にオンラインで公開) DOI 10.1212/WNL.0000000000002035)。2000mg/日の用量は、安全に投与できる最高用量であると考えられた。GI忍容性は、この研究で報告された最も一般的なAEであったが、これによる過度な患者ドロップアウトは起こらなかった。
【0039】
忍容性及び安全性に関する投与制限は、任意の疾患の治療にて世界中で臨床的に承認されたレスベラトロール製品が存在しない主な理由であると考えられる。
【0040】
非常に小さく、安定した胃液耐性ミセルを有する可溶化製品における本発明の製剤に起因して、本発明により、限定するものではないが、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調症及び他の運動失調症関連疾患若しくは神経学的障害、リソソーム病、癌、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心疾患、関節炎、及び/又は自己免疫疾患の治療に使用されるレスベラトロール可溶化製品が生み出される。
【0041】
記載の製剤におけるレスベラトロールの循環血漿レベルは、マウス及びラットで試験された場合に、懸濁液として送達された天然レスベラトロール、又は懸濁液として送達された微粒子化レスベラトロールAPIに比べて驚くべき高レベルの循環レスベラトロールを示していた。例えば、5%レスベラトロールの可溶化製品ベースの配合物(formula)は、同じ供給源由来のレスベラトロールAPI、別の供給源由来の微粒子化レスベラトロールよりも高い最大血漿薬物レベル(「Cmax」)を示す。また、この製剤は、より高い総吸収量(「AUC」)を示した。驚くほど高い10%用量を充填したラットの研究から、レスベラトロールの同様に高い血漿レベルが示された。これらの試験結果を下記にまとめる。
【0042】
マウスにて、種々の製剤由来の経口投与されたレスベラトロールの相対血漿バイオアベイラビリティーを調べた。5%用量を充填した可溶化製品として送達された50mg/kgのレスベラトロールでは、Cmax(血漿中の平均最大濃度)は、非配合APIよりも17倍高く、微粒子化巨大レスベラトロールよりも10倍超高かった。微粒子化レスベラトロールは、標準APIよりも僅かに高い吸収を示した。25mg/kgで処理した場合、可溶化製品群は、50mg/kg用量の可溶化製品の半分に満たないレスベラトロール吸収を示したが、50mg/kgの標準懸濁液処理のものとは広く類似していた。
【0043】
AUC(50mg/kgにて投薬後4時間)は、微粒子化巨大レスベラトロールよりも可溶化製品で4倍高かった。
【0044】
ラットでは、50mg/kgで投与された10%用量を充填した可溶化製品は、微粒子化レスベラトロールにて観察されたレベルよりも7倍高いCmaxを示し、AUC(投薬後24時間)は、微粒子化巨大レスベラトロールよりも可溶化製品で2.5倍高かった。
【0045】
可溶化製品由来のレスベラトロール又は微粒子化巨大レスベラトロールの最終排出率は同じであったが、これは文献と一致しており、レスベラトロールが血漿中に存在するようになってからは、可溶化製品の配合物はレスベラトロールの代謝を変えないことを意味する。
【0046】
そのため要するに、経口投与されるレスベラトロールの可溶化製品形態は、標準形態に比べて優れた吸収特性をもたらす。レスベラトロール可溶化製品の配合物は、非ミセル投薬形態よりも明らかに効率が良い。種間用量スケーリングは予想されるものと一致し、可溶化製品を利用した用量減少がヒトにて達成可能であることが示唆される。
【0047】
天然形態に比べての本発明による可溶化製品におけるレスベラトロールのバイオアベイラビリティーの顕著な増大に起因して、患者が経口投与にて1日に摂取するレスベラトロールの量を減らすことができる。したがって、例えば、本発明による可溶化製品における200mgのレスベラトロールの投与は、1日用量3500mgの天然レスベラトロールの効果を達成するのに十分であることが明らかである。したがって、本発明は、限定するものではないが、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調症及び他の運動失調症関連疾患、リソソーム病、癌、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心疾患、関節炎、及び/又は自己免疫疾患の治療方法にも適用される上記のレスベラトロール可溶化製品であって、1日当たり少なくとも200mgのレスベラトロールに相当する量で投与される、特に経口投与される、可溶化製品を提供する。1日当たりおよそ200mgのレスベラトロールに相当する量の可溶化製品を投与するのが好ましい。
【0048】
原則として、可溶化製品を、皮膚、爪、及び/又は髪への塗布による外用、又は身体への取り込みによる内服の両方で薬剤的に使用することができる。医薬品のための全ての適用形態は、可溶化製品の使用、特に可溶化製品又は可溶化製品を含む流体の経口、皮膚、静脈内、又は吸入投与にも利用可能であるとされる。
【0049】
本発明による可溶化製品は、カプセルに影響を与える(attack)ことがないことから、経口取り込みのためにカプセルの形態で容易に提供することができることが有益であることも明らかになっている。したがって、本発明は、可溶化製品を充填させたカプセルであって、ソフトゼラチンカプセル若しくはハードゼラチンカプセルとして、又はソフトゼラチンフリーカプセル若しくはハードゼラチンフリーカプセルとして提供することができる、カプセルも提供する。
【0050】
医薬品である、本発明による可溶化製品を含有する流体が別の剤形である。特に、この流体は、可溶化製品の水希釈液を含み得る。本発明による可溶化製品の流体の有用性は、粘度とは関連せず、この可溶化製品を親水性かつ親油性の媒質に組み込むこともできる。
【0051】
したがって、本発明により、限定するものではないが、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調症及び他の運動失調症関連疾患、リソソーム病、癌、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心疾患、関節炎、及び/又は自己免疫疾患の治療のための治療法が可能となり、本発明による可溶化製品は、患者に特に経口投与により投与される。本発明を用いて達成することができる天然形態に比べてのバイオアベイラビリティーの増大に起因して、天然レスベラトロールの経口投与に比べて有益に1日用量を著しく減少させることができる。
【0052】
本発明による可溶化製品の例示的な実施形態を下記で説明する。