【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年6月1日に株式会社土木工学社発行の日本トンネル技術協会誌「トンネルと地下」,第49巻第6号,第463−469頁にて発表
【文献】
西弘明・今野久志・岡田慎哉・佐藤京・澤松俊寿・横山博之・中村直久・高玉波夫・宮本修司,既設トンネル不可視覆工の劣化推定・評価技術の開発,土木研究所研究成果報告書,日本,2013年
【文献】
須藤敦史・近野正彦・丸山収・佐藤京・西弘明,寒冷地トンネルの覆工における劣化過程の同定と長期予測,土木学会論文集F1(トンネル工学)特集号,日本,2010年11月,Vol.66,No.1
【文献】
塩崎正人・河村圭・西山哲・村上慧季・宮地立,デジタル画像を用いたひび割れ抽出へのフラクタルの適用,土木学会中国支部第69回研究発表会講演集,日本,2017年 5月
【文献】
高陽・蒋宇静・李博・杉本知史・吉田慎平,固有振動特性に基づくトンネル覆工の健全性評価に関する研究,土木学会第67回年次学術講演会講演集,日本,2012年 9月
【文献】
蒋宇静・谷川征嗣・山内淑人・安田享・田近宏則,常時微動測定に基づくトンネル覆工の健全度評価手法の提案,トンネル工学報告集第20巻,日本,2010年11月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2ステップは、前記既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の加速度のデータのノイズ処理を行った後に前記フーリエスペクトル解析して振幅および周波数特性を算出するとともに、前記既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の解析結果をベクトル合成した値を算出することを特徴とする請求項5または6に記載の既設トンネルの健全性診断方法。
前記第5ステップは、前記覆工コンクリートのひび割れ分布の展開図を所定幅の格子状に分割し、各格子中に少なくとも1本のひび割れが含まれるような正方形の数を計上することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の既設トンネルの健全性診断方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の実施の形態における既設トンネルの健全性診断方法のフロー図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態における既設トンネルの健全性診断方法は以下のステップからなる。
(第1ステップ)既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動計測
(第2ステップ)常時微動計測により得られた加速度のフーリエスペクトル解析
(第3ステップ)覆工コンクリートの表面画像の取得
(第4ステップ)覆工コンクリートの表面画像解析
(第5ステップ)フラクタル次元の算出(ひび割れ分布の定量化)
(第6ステップ)健全性判定
【0015】
上記本発明の実施の形態における既設トンネルの健全性診断方法は、例えば、
図2に示す既設トンネルの健全性診断システムにより実施される。
図2は本発明の実施の形態における既設トンネルの健全性診断システムのブロック図である。
【0016】
図2に示すように、本発明の実施の形態における既設トンネルの健全性診断システムは、健全性診断装置1と、常時微動計測手段2と、覆工表面画像取得手段3とから構成される。常時微動計測手段2は、既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動を計測するものである。覆工表面画像取得手段3は、既設トンネルの覆工コンクリートの表面画像を取得し、この取得した表面画像を解析して覆工コンクリートのひび割れ分布を図面化するものである。
【0017】
健全性診断装置1は、フーリエスペクトル解析手段4と、ひび割れ分布解析手段としてのフラクタル次元解析手段5と、健全性判定手段6とから構成される。フーリエスペクトル解析手段4は、既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動を計測することにより得られた加速度をフーリエ解析するものである。フラクタル次元解析手段5は、図面化された覆工コンクリートのひび割れ分布を定量化するものである。健全性判定手段6は、フーリエスペクトル解析の結果に基づく既設トンネルの振動特性と覆工コンクリートのひび割れ分布を定量化したデータとの比較から既設トンネルの健全性を判定するものである。
【0018】
健全性診断装置1は、例えば、コンピュータをフーリエスペクトル解析手段4と、フラクタル次元解析手段5と、健全性判定手段6として機能させるための既設トンネルの健全性診断プログラムを、コンピュータで実行することにより実現される。
【0019】
以下、本発明の実施の形態における既設トンネルの健全性診断方法および健全性診断システムについて、
図1のフロー図の流れに従って詳細に説明する。
【0020】
(第1ステップ)既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動計測
第1ステップでは、既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動を計測する。常時微動とは、地盤中を伝搬する人工的または自然現象による様々な振動のうち、特定の振動源から直接的に影響を受けない状態で励起される微小な地盤振動のことである。常時微動の計測は、
図2に示す常時微動計測手段2により行う。常時微動計測手段2は、加速度計、コントローラ、データレコーダやコンピュータ等により構成される。
【0021】
常時微動計測は、覆工コンクリート1打設長(以下、「スパン」と称す。)ごとに3台の加速度計をトンネルの軸(進行)方向(HOR−1)、接線方向(HOR−2)、法線方向(VER)の振動方向になるように天端付近の覆工コンクリートの表面へ接着剤で設置して、既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の加速度を計測することにより行う。加速度計の設置状況を
図3に示す。常時微動計測は、例えば0.001秒間隔で180秒間行い、計測結果からスパイクノイズを取り除き、10秒間の加速度データを6個作成する。
【0022】
(第2ステップ)常時微動計測により得られた加速度のフーリエスペクトル解析
第2ステップでは、第1ステップの常時微動の計測により得られた加速度の波形をフーリエスペクトル解析することによりフーリエスペクトルを算出する。フーリエスペクトル解析は、
図2に示すフーリエスペクトル解析手段4により行う。フーリエスペクトル解析手段4としては、例えば、建築研究所のソフトウェア「View Wave」を使用することができる。
【0023】
フーリエスペクトル解析手段4では、既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の加速度のデータのノイズ処理を行った後にフーリエスペクトル解析して振幅および周波数特性を算出するとともに、既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の解析結果をベクトル合成した値を算出する。
【0024】
1個あたりのフーリエスペクトルの代表値は、例えば使用する加速度計の計測周波数範囲のうち信頼性がある範囲である50Hzから200Hzまでの平均値とする。1スパンあたりの代表値は、例えば6個のフーリエスペクトルの最小値を採用する。また、3方向合成のフーリエスペクトルは次式により算出する。
【0025】
【数1】
ここに、AF:軸方向フーリエスペクトル
TF:接線方向フーリエスペクトル
NF:法線方向フーリエスペクトル
【0026】
図4は整理後の加速度波形の例を、
図5はフーリエスペクトル解析結果の例を示している。
【0027】
(第3ステップ)覆工コンクリートの表面画像の取得
第3ステップでは、覆工コンクリートの表面画像を取得する。覆工コンクリートの表面画像の取得は、
図2に示す覆工表面画像取得手段3により行う。覆工表面画像取得手段3は、覆工表面画像撮影システム、覆工表面画像作成ソフトウェアおよびひび割れ自動抽出ソフトウェアで構成される。これらのうち、第3ステップでは、覆工表面画像撮影システムおよび覆工表面画像作成ソフトウェアにより覆工コンクリートの表面画像を取得する。
【0028】
覆工表面画像撮影システムは、走行しながら覆工表面を撮影するものである。例えば、
図6に示すように、2車線トンネルの場合、左右の車線をそれぞれ走行し、複数のカメラ(図示例では7台のカメラ)でトンネル半周ずつ分割撮影する。覆工表面画像作成ソフトウェアは、この複数台のカメラにより撮影したそれぞれの画像の輝度補正、歪み補正や、隣り合う撮影画像の位置合わせなどを行うことにより、撮影画像を合成してトンネル全体の覆工表面画像を作成するものである。
【0029】
(第4ステップ)覆工コンクリートの表面画像解析
第4ステップでは、覆工コンクリートの表面画像を解析して覆工コンクリートのひび割れ分布を図面化する。覆工コンクリートの表面画像解析は、前述の覆工表面画像取得手段3のひび割れ自動抽出ソフトウェアにより行う。ひび割れ自動抽出ソフトウェアでは、トンネル全体の覆工表面画像を解析してひび割れを自動抽出する。
【0030】
例えば、ひび割れ自動抽出ソフトウェアは、
図7に示す覆工表面画像(入力画像)を以下に示す手順(1)〜(6)により解析して、覆工表面画像に写るひび割れを自動的に抽出し、図面化する。
(1)画像の輝度平均を計算し、指定した輝度値に変換する。
(2)輝度平均値以上の領域を検出し、平均値で埋める処理を行い、チョーキングを排除する。
(3)ひび割れの輪郭フィルターカーネルによるフィルタリングを行い、細線の縦方向成分を検出する。
(4)画像を回転させながら(3)の処理を行うことで、全方位の細線を検出する。
(5)全方向細線検出画像から、距離センサデータおよび直線検出アルゴリズムなどを用いて、トンネル内施設物、型わく跡などの人為的な線を除去したうえで細線を接続し、長さが短い線分をノイズとして除去する。
(6)接続した細線を、ひび割れ図として見やすくするために線幅を拡大する。
【0031】
すなわち、覆工表面画像取得手段3では、トンネル内を走行しながら覆工表面を撮影し、得られた覆工表面画像からひび割れを自動的に抽出し、図面化する。
【0032】
(第5ステップ)フラクタル次元の算出(ひび割れ分布の定量化)
第5ステップでは、第4ステップで図面化された覆工コンクリートのひび割れ分布をフラクタル次元により数値化することによって定量化する。フラクタル次元の算出は、
図2に示すフラクタル次元解析手段5により行う。フラクタル次元解析は、あいまいな図形から規則性を見出し、フラクタル次元という尺度により複雑な形状に対して数学的なモデルを与えることであり、これにより形状、密度、粗さなどを算出することが可能である。フラクタル次元解析の手法は、例えば、様々な図形に対して適用できる汎用性と、コンピュータを利用した解析方法として一般的なボックスカウンティング法を採用することができる。
【0033】
図8はボックスカウンティング法の模式図を示している。本手法で、ひび割れ展開図を幅rの格子状に分割し、その格子中に少なくとも1本のひび割れが含まれるような正方形の数を計上する。フラクタル次元算出式を次式に示す。
【0034】
【数2】
ここに、D:フラクタル次元
N(r):正方形の数
r:分割幅
【0035】
(第6ステップ)健全性判定
第6ステップでは、フーリエスペクトル解析の結果に基づくトンネルの振動特性と覆工コンクリートのひび割れ分布のフラクタル次元との比較から既設トンネルの健全性を判定する。健全性の判定は、
図2に示す健全性判定手段6により行う。
図9はトンネルの入口から出口までの各スパンにおけるフーリエスペクトル解析の結果とフラクタル次元を示す図である。
【0036】
図9に示す基準スパンは、フラクタル次元とフーリエスペクトルとの両方が低い箇所であり、健全性が高く、補修および補強を検討する必要はない。一方、要注意スパン(1)は、ひび割れの分布が多く(フラクタル次元が高く)、フーリエスペクトルが低い箇所である。このような要注意スパン(1)では、ひび割れの分布状況により補修および補強の必要性が判定され、基本的に補修工法(例えば、シート系工法によるひび割れ補修)が摘要される。
【0037】
また、要注意スパン(2)は、ひび割れの分布が少なく(フラクタル次元が低く)、フーリエスペクトルが高い箇所である。このような要注意スパン(2)では、外観は良好である(ひび割れの分布が少ない)が、フーリエスペクトルが高い(覆工コンクリートが揺れやすく、健全性が要注意スパン(1)に比べて劣る)ため、基本的に補強工法が必要となる。
【0038】
そして、補強工法の設計では、コンクリート厚、地質や背面空洞などの他の調査結果を組み合わせて、基本スパンと要注意スパン(2)とのひび割れ分布状況とフーリエスペクトルの再現を数値解析により求め、基準スパンに対する要注意スパン(2)の剛性の低下程度と応力分布を求める。補強工法は、剛性を復元し、応力上の弱点を補完する設計を行う。
【0039】
以上のように、本実施形態における既設トンネルの健全性診断方法によれば、既設トンネルの外観で判断できない脆弱性が高いスパンを選定することができるため、既設トンネルの健全性を容易かつ速やかに診断することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、覆工コンクリートの表面画像を解析することにより図面化されたひび割れ分布を定量化するひび割れ分布解析手段として、フラクタル次元解析手段5を用いた例について説明したが、覆工コンクリートのひび割れ分布を定量化する手法として、ひび割れ指数TCI(Tunnel−lining Crack Index)(例えば、「ひび割れ指数TCIを援用した既設トンネルのメンテナンス優先度箇所判定」(北村彩絵・森本真吾・進士正人,トンネル工学報告集,第27巻,I−1,土木学会 トンネル工学委員会,2017年11月)参照。)を用いることも可能である。
【実施例】
【0041】
[1]フラクタル次元の適用検証
[1−1]検証手順
ひび割れ分布の定量化について、フラクタル次元の適用可能性を検証した。検証の着目点は、(1)ひび割れ開口面積、(2)ひび割れの本数、(3)ひび割れの幅、(4)ひび割れ同士の交差である。検証手順は次のとおりである。
【0042】
<手順1>ひび割れ開口面積率0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%に相当するひび割れ図を作成する。
図10にひび割れ開口面積率モデル図を示す。
<手順2>現地覆工の幅1mmのひび割れを2本抽出、図面化する。
<手順3>図面化した2本のひび割れを、4本、8本、16本、32本、48本、64本に複写、図面化する。
図11にひび割れ本数別ひび割れモデル図を示す。
<手順4>手順3で図面化した4本のひび割れを幅0.2mm、0.5mm、0.7mm、1.0mm、1.4mm、2.0mmに変化させて図面化する。
図12にひび割れ幅別ひび割れモデル図を示す。
<手順5>幅0.5mm2本、幅1.0mm2本のひび割れの交差個所数を、0か所、1か所、2か所、3か所、4か所、5か所に設定して図面化する。
図13にひび割れ交差個所数別ひび割れモデル図を示す。
<手順6>手順1、手順3、手順4および手順5のひび割れ展開図についてフラクタル次元解析を行う。解析プログラムはMathworks社のMATLABを使用する。
<手順7>フラクタル次元(D)とひび割れ開口面積率、ひび割れ本数、幅、交差個所数の相関性を検証する。
【0043】
[1−2]検証結果
<1>ひび割れ開口面積率とフラクタル次元の相関性検証
ひび割れ開口面積率とは、フラクタル次元解析を行う面積に対するひび割れ開口面積の割合のことをいう。ひび割れ開口面積率が示すひび割れ分布の目安を
図14に示す。
ひび割れ開口面積率とフラクタル次元の相関性検証結果を
図15に示す。ひび割れ開口面積率0.1%から0.5%への変化に対してフラクタル次元は1.0439から1.234まで変化し、相関係数0.92と相関関係があることが判明した。これにより、フラクタル次元はひび割れの面積の変化を表現できる可能性がある。
【0044】
<2>ひび割れ本数とフラクタル次元の相関性検証
ひび割れ本数とフラクタル次元の相関性検証結果を
図16に示す。ひび割れ本数4本から64本への変化に対してフラクタル次元は1.2745から1.5899へ変化し、相関係数0.99と相関関係があることが判明した。これによりフラクタル次元は、ひび割れの本数を表現できる可能性がある。
【0045】
<3>ひび割れ幅とフラクタル次元の相関性検証
ひび割れ幅とフラクタル次元の相関性検証結果を
図17に示す。ひび割れ幅が0.2mmから2.0mmへの変化に対してフラクタル次元は1.0338から1.3857へ変化し、相関係数0.93と相関関係があることが判明した。これによりフラクタル次元は、ひび割れ幅の変化を表現できる可能性がある。
【0046】
<4>ひび割れ交差個所数とフラクタル次元の相関性検証
ひび割れ交差個所数とフラクタル次元の相関性検証結果を
図18に示す。ひび割れ幅が0か所から5か所への変化に対してフラクタル次元は1.2467から1.3376へ変化し、相関係数0.98と相関関係があることが判明した。これによりフラクタル次元は、ひび割れ交差個所数の変化を表現できる可能性がある。
【0047】
図16と
図17を比較して考察する。幅1mmのひび割れ4本の場合、フラクタル次元は1.2745である。4本のひび割れのひび割れ幅が2mmのときのフラクタル次元は1.3857であり、幅1mmのひび割れ本数19本程度に相当する。4本のひび割れのひび割れ幅が1mmから2mmに変化した場合、ひび割れ開口面積が2倍に変化する一方で、幅1mmのひび割れの本数が4本から19本に変化した場合のひび割れ開口面積は、4.75倍と大きく変化する。このことから、フラクタル次元はひび割れ幅の変化に対して鋭敏に変化することが分かった。これは、外力の作用などによりひび割れ幅が変化することを鋭敏に捉えられる可能性があると考えられる。
【0048】
図18では、ひび割れ交差個所数が増加するとひび割れ開口面積は微減するが、フラクタル次元は微少ながら増加している。これは、フラクタル次元がひび割れ交差個所数の増によりコンクリート片のはく落の危険性や、覆工コンクリートのブロック化による剛性の低下を表現できる可能性があると推測する。
【0049】
[1−3]まとめ
フラクタル次元解析は、ひび割れの面積、ひび割れ本数、ひび割れ幅、ひび割れ交差個所数の変化を表現できることが明らかとなった。実際の運用では、高解像度の覆工表面画像からひび割れを自動抽出してフラクタル次元解析を行うことが可能であるため、効率的かつ正確なひび割れ分布状況の定量データ化が期待できる。
【0050】
[2]現地覆工のフーリエスペクトルとフラクタル次元との相関
表1に
図5に対応するフーリエスペクトルとフラクタル次元の一覧を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
現地覆工のフーリエスペクトルとフラクタル次元との相関性について、トンネル軸方向、接線方向、法線方向および3方向合成の4種類で検証を実施した。ここで、相関係数の検定値を次式に基づいて求めて相関関係の有無を判断した。計算の結果、相関係数の検定値r0を0.58とした。
【0053】
【数3】
ここに、r0:相関係数の検定値
n:データ数(スパン数10)
【0054】
<1>軸方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証
軸方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を
図19に示す。検証の結果、フラクタル次元が1.0072から1.2906まで変化するのに対し、軸方向フーリエスペクトルの変化は7.389から7.983までと、直線的な関係になった。相関係数は0.74と正の相関関係であることが分かった。
【0055】
<2>接線方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証
接線方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を
図20に示す。検証の結果、フラクタル次元が1.0072から1.2906まで変化するのに対し、接線方向フーリエスペクトルの変化は7.071から8.771までと、直線的な関係になった。相関係数は0.75と正の相関関係であることが分かった。
【0056】
<3>法線方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証
法線方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を
図21に示す。検証の結果、データのバラつきが大きく相関係数は0.34と相関関係を示さなかった。
【0057】
<4>3方向合成フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証
3方向合成フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を
図22に示す。検証の結果、フラクタル次元が1.0072から1.2906まで変化するのに対し、軸方向フーリエスペクトルの変化は12.757から14.393までと、直線的な関係になった。相関係数は0.74と正の相関関係であることが分かった。
【0058】
[3]推定覆工厚、推定覆工背面空洞量、岩質とフーリエスペクトルとの関連
過去の覆工背面空洞調査および背面空洞注入工事の結果から、選定スパンにおける推定覆工厚、推定覆工背面空洞量(以下、「推定空洞量」という)および岩質を表2のとおり整理した。なお推定空洞量は、すでに背面空洞注入工が施工されているが、注入材料の強度が1.5N/mm
2と覆工コンクリートおよび地山より強度が著しく低いため背面空洞として取り扱った。
【0059】
【表2】
【0060】
図23に加速度計設置位置と覆工背面空洞調査位置および背面空洞注入工の位置関係を示す。また、
図24、
図25、
図26、
図27にそれぞれ選定スパンにおける軸方向フーリエスペクトル、接線方向フーリエスペクトル、法線方向フーリエスペクトル、3方向合成スペクトルを推定覆工厚、推定空洞量、岩質とともに整理した結果を示す。岩質については、軟質岩である凝灰岩を「1」、中硬質岩である玄武岩を「2」、硬質岩である砂岩を「3」と表現した.横軸はフラクタル次元を昇順に表示している。
【0061】
各フーリエスペクトルが関連する因子を把握するため、フラクタル次元、推定覆工厚、推定空洞量、岩質を重回帰分析の説明変数の候補に選定した。表3に各方向フーリエスペクトルと説明変数の候補との相関関係を示す。説明変数の選定にあたっては、相関係数が|0.1|未満の候補は相関関係がないと判断して対象外とした。説明変数の選定結果を表3の太枠に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
各方向フーリエスペクトルと説明変数との重回帰分析結果を表4に示す。重相関係数はいずれも1に近くあてはまりの良い回帰式であるといえる。また自由度修正済決定係数を比較すると、3方向フーリエスペクトルにおいて最も大きな値を示したことから、当該回帰式が本重回帰分析の中では最も適する回帰式と判断できる。
【0064】
【表4】
【0065】
3方向合成フーリエスペクトルと説明変数の相関係数および|t|値を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
3方向合成フーリエスペクトルの影響度を示す|t|値に着目すると、岩質が最も影響度が大きく推定覆工厚が最も小さい結果となった。推定覆工厚が最も小さくなった要因は、常時微動が地中を伝搬する過程において、覆工厚の変化は振動特性を変化させるほどの大きな変化とならなかったのではないかと推測する。また相関係数に着目すると、推定空洞量が最も低い結果となった。この要因については、背面空洞注入材料が圧縮強度1.5N/mm
2と低強度のため空洞とみなしたことが誤りで、背面空洞が充填されている状態を示しているのではないかと推測した。既往研究においても、背面空洞により振動特性が変化することが示されていることから同様の推測ができる。
【0068】
[4]まとめ
本研究の結果、フラクタル次元とフーリエスペクトルの相関性は、トンネル軸方向と接線方向のフーリエスペクトルおよび、3方向合成フーリエスペクトルでフラクタル次元と正の相関性があることを明らかにすることができた。また、フラクタル次元、推定覆工厚、推定空洞量、地質をフーリエスペクトルの説明変数に設定して重回帰分析を行った結果、3方向合成フーリエスペクトルにおいて、本説明変数のうちフラクタル次元と岩質が関連因子である可能性があることが明らかとなった。