特許第6907275号(P6907275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6907275多数のアバランシェフォトダイオード素子を用いた光の検出
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907275
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】多数のアバランシェフォトダイオード素子を用いた光の検出
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20210708BHJP
   H01L 31/107 20060101ALI20210708BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20210708BHJP
   G01S 17/89 20200101ALI20210708BHJP
【FI】
   G01S7/481 A
   H01L31/10 B
   H01L31/10 G
   G01S17/89
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-149043(P2019-149043)
(22)【出願日】2019年8月15日
(65)【公開番号】特開2020-42021(P2020-42021A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2019年12月4日
(31)【優先権主張番号】10 2018 120 141.9
(32)【優先日】2018年8月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サッシャ スタインコグラー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン マーラ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス クレメンス
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102014207559(DE,A1)
【文献】 特開2016−225453(JP,A)
【文献】 特開2016−145776(JP,A)
【文献】 特開2018−173379(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0180470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 − 7/51
G01S 17/00 −17/95
H01L 31/10
H01L 31/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ降伏電圧を超えるバイアス電圧でバイアスをかけることが可能であり、それによってガイガーモードで駆動可能である多数のアバランシェフォトダイオード素子(24)であって、複数のグループを形成しているアバランシェフォトダイオード素子(24)と、各グループのアバランシェフォトダイオード素子(24)の感度を変更するための制御ユニット(30)とを有する受光器(22)において、
前記制御ユニット(30)が、各グループのアバランシェフォトダイオード素子(24)の感度を該グループに割り当てられた少なくとも1つの時点において変更するように構成されており、前記複数のグループには異なる時点が割り当てられていること、及び
2つの異なるグループからそれぞれ選ばれた2つのアバランシェフォトダイオード素子(24a及び24b)が、少なくとも1つの前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)と1つの後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)を有する少なくとも二重のアバランシェフォトダイオード(124)を形成し、その前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)のアバランシェ降伏が、特に後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)のバイアス電圧の変化を生じさせることにより、該後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)の感度を変化させること、又は、その後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)のアバランシェ降伏が、特に前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)のバイアス電圧の変化を生じさせることにより、該前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)の感度を変化させること
を特徴とする受光器(22)。
【請求項2】
前記制御ユニット(30)がバイアス電圧を降伏電圧より高くすることによりアバランシェフォトダイオード素子を作動状態にする及び/又はバイアス電圧を降伏電圧より低くすることによりアバランシェフォトダイオード素子を非作動状態にするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の受光器(22)。
【請求項3】
制御ユニット(30)が、前記グループに割り当てられた、降伏電圧より高い超過電圧を通じて感度を変更するように構成されていることされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の受光器(22)。
【請求項4】
前記アバランシェフォトダイオード素子(24)の信号から光パルスの光伝播時間を測定するように構成された光伝播時間測定ユニット(28)が設けられていることを特徴とするする請求項1〜3のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項5】
前記時点がグループ毎に少なくとも1つの適応化時間窓を規定し、該適応化時間窓の始点において前記制御ユニット(30)が前記アバランシェフォトダイオード素子(24)をグループに割り当てられた感度に設定し、該適応化時間窓の終点において前記制御ユニット(30)が前記アバランシェフォトダイオード素子(24)を直前の感度に設定することを特徴とするする請求項1〜4のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項6】
前記異なるグループに割り当てられた前記時点が事象時間窓にわたって配分されていることを特徴とするする請求項1〜5のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項7】
前記事象時間窓が光パルスに応じた幅を有していることを特徴とする請求項6に記載の受光器(22)。
【請求項8】
前記時点が、その都度交互に別のグループのアバランシェフォトダイオード素子(24)が、特に周期的な繰り返しをもって、高い感度を有する状態になるように配分されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項9】
前記アバランシェフォトダイオード素子(24)がマトリックス配列を形成し、該マトリックス配列をラスタ要素(32)から成るラスタに分割したときに各グループが各ラスタ要素(32)内に少なくとも1つのアバランシェフォトダイオード素子(24)を備えていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項10】
2つのグループのアバランシェフォトダイオード素子(24)がチェス盤のパターンを形成していることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項11】
前記二重のアバランシェフォトダイオード(124)に、アバランシェ降伏の前のアイドル状態のときに前記前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)を降伏電圧より高いバイアス電圧に、前記後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)を降伏電圧より低いバイアス電圧にそれぞれ保つ又はその逆に保つ配線ユニット(V、R1、R2、34)が割り当てられており、特に該配線ユニットが電圧分割回路(R1、R2、34)を備えていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項12】
前記前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)におけるアバランシェ降伏の後、前記後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)を事前に設定可能な遅延時間の後に作動状態又は非作動状態にする又は前記後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)におけるアバランシェ降伏の後、前記前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)を事前に設定可能な遅延時間の後に作動状態又は非作動状態にする遅延回路が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の受光器(22)。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の受光器(22)を少なくとも1つ備える光電センサ(10)であって、特に該センサ(10)が光信号(14)を送出するための発光器(12)と光伝播時間測定ユニット(28)とを備える距離測定型センサであり、前記光伝播時間測定ユニット(28)が前記光信号(14)の送出と監視領域(16)から物体(18)により反射される該光信号(20)の受光との間の光伝播時間から該物体(18)の距離を測定するように構成されていることを特徴とする光電センサ(10)。
【請求項14】
多数のアバランシェフォトダイオード素子(24)を用いた光(20)の検出方法であって、前記アバランシェフォトダイオード素子(24)に降伏電圧より高いバイアス電圧が少なくとも時々印加され、それによりガイガーモードで駆動され、該アバランシェフォトダイオード素子(24)が複数のグループを形成し、各グループのアバランシェフォトダイオード素子(24)の感度が変更される方法において、
各グループのアバランシェフォトダイオード素子(24)の感度が該グループに割り当てられた少なくとも1つの時点において変更され、前記複数のグループには異なる時点が割り当てられていること、及び
2つの異なるグループからそれぞれ選ばれた2つのアバランシェフォトダイオード素子(24a及び24b)が、少なくとも1つの前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)と1つの後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)を有する少なくとも二重のアバランシェフォトダイオード(124)を形成し、その前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)のアバランシェ降伏が、特に後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)のバイアス電圧の変化を生じさせることにより、該後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)の感度を変化させること、又は、その後段アバランシェフォトダイオード素子(24b)のアバランシェ降伏が、特に前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)のバイアス電圧の変化を生じさせることにより、該前段アバランシェフォトダイオード素子(24a)の感度を変化させること
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1又は15のプレアンブルに記載の多数のアバランシェフォトダイオード素子を用いた受光器及び光の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受光器は入射する受信光から電気信号を生成する機能を有する。単純なフォトダイオードの検出感度は多くの用途で不十分である。アバランシェフォトダイオード(APD)では、入射光が、制御されたアバランシェ降伏(アバランシェ効果)を誘発する。そして、入射光子により生成された電荷担体が増倍され、光電流が生じる。この電流は受光強度に比例するが、単純なPINダイオードの場合に比べればはるかに大きい。いわゆるガイガーモードでは、アバランシェフォトダイオードに降伏電圧より高いバイアス電圧が印加され、その結果、1個の光子により解放されるわずか1個の電荷担体でもアバランシェを誘発し得る。電界強度が高いため、このアバランシェは利用可能な全ての電荷担体を取り込む。従ってアバランシェフォトダイオードは、その名前の由来であるガイガー計数管と同様、一つ一つの事象を計数する。ガイガーモードのアバランシェフォトダイオードはSPAD(シングルフォトンアバランシェダイオード)とも呼ばれる。
【0003】
このように、ガイガーモードのAPD又はSPADは半導体をベースとする非常に高速且つ高感度なフォトダイオードである。しかし、感度が高いため、有効光の光子だけでなく、外部光や光学的な混信又は暗騒音による弱い妨害事象でもアバランシェ降伏を誘発し得るという欠点がある。こうした妨害事象は受信された有効光に匹敵する比較的強い信号でもって測定結果に寄与するが、受光信号からはそれを有効光と区別することはできない。その後、APDの感度は約5〜100nsのむだ時間又は回復時間の間、大幅に低下するため、該APDはその間実質的に停止し、更なる測定ができない。そのため、複数のSPADを統計的に評価するのが普通である。SPADを用いた典型的なシリコン光電子増倍管は数千個のSPADを備えている。
【0004】
SPADを有する受光器はレーザパルスを用いた距離測定のための光伝播時間測定(飛行時間、Time of Flight、TOF)にも適している。その場合、例えば、レーザパルスの発射時点にTDC(時間デジタル変換器)をスタートさせ、目標物により反射されたレーザパルスの受光とともにそれを再び止める。前記のむだ時間の効果により、例えば受光がなく暗事象が多い高温時や、外部光の入射が多い場合に測定能力が損われる可能性がある。いずれにせよそれは受光時点の特定の際に考慮する必要がある。そうしなければ測定値が不正になるからである。これは特に、目標物により反射される光子の数が回復時間の間に画素の総数を大幅に超える場合に言える。
【0005】
しかし、従来技術はこれに対して満足できる解決策を提供していない。特許文献1はデプスマップを作成するためのSPADベースのセンサを開示している。このセンサでは、MEMSミラーにより偏向される発射光線が前景を走査する。前景のうち発射光で照らされる領域の像が結ばれるSPADだけがその都度作動状態になる。これは走査による位置分解には役立つが、探知された場所におけるその都度の距離測定を改善するものではない。
【0006】
特許文献2からガイガーモードのAPDを用いた別のセンサが知られている。その感度はバイアス電圧を通じて動的に適応化される。一実施形態では感度が最初は低めに設定され、その後は光の伝播速度に応じて高められる。このようにすると、最初は感度が低いため、遠くの物体からのエコーでも、まだアバランシェを誘発していないAPDが利用できる可能性が高まる。しかし、例えば外部光が多いといった不利な条件の場合、このような対策では不十分である。また、むだ時間の効果により測定値が不正になることは全く考慮されていないままである。
【0007】
特許文献3にはSPADベースの受光器用のいわゆる電子絞りが提案されている。特定のSPADにバイアスをかけたり読み出しの際に信号を抑制したりするという異なる適応化を受光器上で行うことにより、電子的な絞りが感度に位置分布を生じさせる。模範例として作動状態と非作動状態のSPADが交互に並んだチェス盤のパターンが提案されている。このパターンは固定されたままであり、またそのパターンにどのような有用性があるのかは別に論じられていない。
【0008】
特許文献4は、互いに時間的にずれて順に作動状態にされる複数のAPDを像点毎に有する光検出器を開示している。個々の作動状態の持続時間は回復時間より短いが、1つの像点の複数のAPDにわたる持続時間の和は回復時間よりも長いため、連続的な駆動が可能である。しかし、そのためには像点毎に多数のAPDが必要である。また、作動の順番は全ての像点に対して同じであるので、その都度作動状態にされるAPDの位置分布には柔軟性がないままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP 2 708 914 A1
【特許文献2】EP 3 270 182 A1
【特許文献3】EP 3 339 887 A1
【特許文献4】DE 10 2014 207 599 A1
【特許文献5】DE 10 2014 102 420 A1
【特許文献6】EP 3 124 992 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
故に、本発明の課題はアバランシェフォトダイオードの測定への適応化を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、請求項1又は15に記載の多数のアバランシェフォトダイオード素子を用いた受光器及び光の検出方法により解決される。降伏電圧を超えるバイアス電圧がアバランシェフォトダイオード素子に印加されると該素子はガイガーモードで作動する。アバランシェフォトダイオード素子はグループ分けされ、一つのグループのアバランシェフォトダイオード素子は受光器上に特にパターン化されて分配されている。制御ユニットがアバランシェフォトダイオード素子の感度をグループ毎に変化させることができる。
【0012】
本発明の出発点となる基本思想は、それらのグループの感度をある時間的な順序で調節するということにある。これにより、グループを利用した位置的な分布に時間的な分布が加わる。これらのグループには異なる時点が割り当てられるが、それはどの2つの時点も同じではないという完全なやり方で異なっていることが好ましい。各グループに割り当てられた時点において、該グループのアバランシェフォトダイオードがその時点及び/又はグループに割り当てられた感度に設定される。この感度は設定項目又は記憶された値であってもよいし、アバランシェフォトダイオードの配線内で抵抗値や容量等を用いた切り替えにより事前に与えられていてもよい。感度の変更は、作動又は非作動という極端な場合、特にリニアモードとガイガーモードの間で切り替えを行うという形を含むことが好ましい。それらの間には感度で10〜10倍の差があり、これは作動と非作動に等しい。
【0013】
本発明には測定上の要求に対して高い柔軟性と適応性が達成されるという利点がある。そのために、アバランシェフォトダイオードのグループが適切に面上に分配され、その感度が特定の時間的な順序で適応化される。これを、特に光伝播時間測定のために最適化することで、白黒シフトによる測定誤差を効果的及び安価に補正又は回避することができる。加えて、信号雑音比の改善と電力消費の抑制のために、暗騒音によるアバランシェの誘発が低減される。例えば交互に作動状態になっている2つのグループが場合、それは半分程度になる。
【0014】
制御ユニットはバイアス電圧を降伏電圧より高くすることによりアバランシェフォトダイオード素子を作動状態にする及び/又はバイアス電圧を降伏電圧より低くすることによりアバランシェフォトダイオード素子を非作動状態にするように構成されていることが好ましい。ここでは感度が単に段階的に変更されるだけでなく、リニアモード(APDモード)とガイガーモードの間の切り替えにより作動状態及び/又は非作動状態にされる。
【0015】
制御ユニットは、前記グループに割り当てられた、降伏電圧より高い超過電圧を通じて感度を変更するように構成されていることが好ましい。降伏電圧はガイガーモードのために最低限必要なバイアス電圧である。ただ、厳密にはこの境界値では光子検出効率(PDE)及び増幅率はまだゼロである。バイアス電圧が降伏電圧を超えて初めて入射光子が対応するガイガー電流パルスに変換される。その際、アバランシェの誘発の可能性は超過電圧とともに高まる。従って、異なる超過電圧を用いれば、各グループの感度が様々に異なる段階的な感度制御が達成される。同じグループに対し、異なる2つの時点において異なる超過電圧、従って異なる感度を付与することも考えられる。
【0016】
好ましくは、アバランシェフォトダイオード素子の信号から光パルスの光伝播時間を測定するように構成された光伝播時間測定ユニットが設けられる。そのためには、信号から導出された受光時点と、光学的又は電気的に取得された、光パルスの送出の基準時点とを例えばTDCで比較することが好ましい。ガイガーモードの個々のアバランシェフォトダイオードでは測定事象と妨害事象を区別できないため、複数のアバランシェフォトダイオードを用いた又は測定の繰り返しを通じた統計的な方法を用いることが好ましい。
【0017】
前記時点がグループ毎に少なくとも1つの適応化時間窓を規定し、該適応化時間窓の始点において制御ユニットがアバランシェフォトダイオード素子をグループに割り当てられた感度に設定し、該適応化時間窓の終点において制御ユニットがアバランシェフォトダイオード素子を直前の感度に設定することが好ましい。適応化時間窓は特に、その始点においてアバランシェフォトダイオードが作動状態にされ、その終点において非作動状態にされる作動化時間窓である。このような時間窓を複数設けてもよい。あるいは、前記時点を用いて複数のグループを単にカスケード式に作動状態にする又は所望の感度に設定すること、そしてそれらを元に戻さないこと、又はより長い時間の経過後、例えば測定の終了とともに一斉に元に戻すことも考えられる。
【0018】
異なるグループに割り当てられた前記時点は事象時間窓にわたって配分されていることが好ましい。つまり、前記時点が階段状であり、その結果、各グループに事象時間窓が好ましくは均等に分割される。この場合、いずれの瞬間にも正確に1つのグループが作動状態又は非常に感度の高い状態であることが好ましい。あるいは、予期される測定事象がある場合等に、関心のある時間を設けて、そのときに複数のグループを作動状態又は非常に感度の高い状態にすることもできる。あるいは逆に隠蔽時間窓を作り、その窓内では全てのグループが非作動状態又は感度の低い状態にすることもできる。このように隠蔽すべきものの例は光伝播時間測定の際の前面パネルの反射である。この反射は不必要にアバランシェフォトダイオード素子をむだ時間に入らせてしまうが、これは光パルスの送出の直後に非作動状態の時間を設けることで回避できる。
【0019】
事象時間窓は光パルスに応じた幅を有することが好ましい。光パルスで特に光伝播時間が測定されるが、その場合、最大でも数ナノ秒、可能な場合はピコ秒領域という非常に短い光パルスが重要となる。事象時間窓の幅は正確に光パルスと同じでなくてもよく、桁が同じであれば十分である。なぜなら、受光パルスはいずれにせよ発射パルスに完璧に一致するわけではないからである。
【0020】
あるいは、例えば一つの光パルスが光伝播時間法の射程の限界まで往復するのに必要な時間幅に応じて、事象時間窓を測定時間窓に対応させる。ただし、この場合、受光パルスは通例1つのグループのみ、せいぜい2つのグループで検出されるに過ぎないため、外部光及び暗騒音による一般的な妨害に対する対策にしかならず、受光パルスそのものに対する測定分解能はほとんど改善しない。
【0021】
前記時点の連続は周期的に繰り返されること、特に1つの事象時間窓の次に同じ方法で処理される別の事象時間窓が続くことにより繰り返されることが好ましい。このようにすれば、1つのグループが1つの特定の感度に設定される各時間窓はそれぞれ短いままにすることができ、それでも、周期的な繰り返しによって少数のグループでもより大きな時間がカバーされる。
【0022】
前記時点は、その都度交互に別のグループのアバランシェフォトダイオード素子が高い感度を有する状態になるように配分されていることが好ましい。これにより、感度を有するグループが互いに相前後して前記時点により予め与えられる順序で交互に現れる。特に、その都度正確に1つのグループが作動状態にされる一方、他のグループは非作動状態にされる。好ましくは小さな数のグループ、つまり2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ、最大で10個のグループしかないようにする。せいぜい数ナノ秒というオーダーにある光伝播時間法のための典型的なパルス幅にそれらのグループを分配したとすると、全てのグループを一通り通過してもむだ時間をしのぐにはまだほど遠い。ただし、そうなる必要もない。なぜなら、アバランシェフォトダイオードの大部分でアバランシェを誘発するのは受光された光パルスだけだからである。つまり、順序の周期的な繰り返しという好ましい操作によれば、受光パルスはむだ時間に入っていないアバランシェフォトダイオードの大部分によりまだ記録される。受光パルスが過ぎればいずれにせよ測定は終了し、測定の繰り返しまでに全てのアバランシェフォトダイオードが回復している。複数の目標物に対応できるシステムでは、少なくとももう1つのグループ群を後から来る受光パルスの検出のために用意しておいてもよい。
【0023】
アバランシェフォトダイオード素子がマトリックス配列を形成し、該マトリックス配列をラスタ要素から成るラスタに分割したときに各グループが各ラスタ要素内に少なくとも1つのアバランシェフォトダイオード素子を備えていることが好ましい。ここでは、n×m個のアバランシェフォトダイオードのマトリックス配列をi×j個のアバランシェフォトダイオードを持つ多数のラスタ要素から成るラスタに分割する。どのラスタ要素においても各グループから選ばれた少なくとも1つのアバランシェフォトダイオードが存在する。従って、受光器全体にわたって感度の比較が可能になる。
【0024】
2つのグループのアバランシェフォトダイオード素子がチェス盤のパターンを形成していることが好ましい。この場合、k個のアバランシェフォトダイオードを持つ各領域をチェス盤の同じパターン要素に所属させることにより、様々な粗さにすることが考えられる。チェス盤のパターンは、2つのグループを持つラスタ要素から成るラスタの特殊な事例と捕らえることができるが、それぞれに隣接するラスタ要素においてはアバランシェフォトダイオードの感度設定の順序が逆になるという追加の条件がある。
【0025】
2つの異なるグループからそれぞれ選ばれた2つのアバランシェフォトダイオードが、少なくとも1つの前段アバランシェフォトダイオードと1つの後段アバランシェフォトダイオード素子を有する少なくとも二重のアバランシェフォトダイオードを形成し、その前段アバランシェフォトダイオードのアバランシェ降伏が後段アバランシェフォトダイオードの感度を変化させることが好ましい。前段及び後段アバランシェフォトダイオードという概念は単に概念上区別できるようにするためのものであり、好ましい時間的な順序によりその方向を決める。実際には両方のアバランシェフォトダイオードを同じ構成にしたり、役割を入れ替えたりできる。二重のアバランシェフォトダイオードにおいて、後段アバランシェフォトダイオードが作動状態になる時点は、前段アバランシェフォトダイオードのアバランシェの誘発により自動的に制御される。特に好ましくは、前段アバランシェフォトダイオードのアバランシェ降伏が後段アバランシェフォトダイオードにかかるバイアス電圧を変化させる。その際、変化は両方向つまり上昇及び下降の両方が考えられる。この変化により、適切な超過電圧を用いて感度を段階的に調整したり、降伏電圧の閾値を横断して後段アバランシェフォトダイオードを効果的に作動状態又は非作動状態にしたりすることができる。
【0026】
少なくとも二重のアバランシェフォトダイオードの順次的な切り替えには多くの利点がある。この切り替えにより画素の混信が抑制される。誤ってアバランシェが誘発されるような欠陥のあるアバランシェフォトダイオードがある場合、欠陥のないアバランシェフォトダイオードをより高い超過電圧で駆動する一方、欠陥のあるアバランシェフォトダイオードを単なる降伏電圧で駆動することにより、後者の誤った誘発を抑制することができる。検出事象の際にアバランシェを消滅させる役割を持つ消滅抵抗を低減させて、より高い出力信号を達成することができる。特別な場合、前段及び後段アバランシェフォトダイオードの直列接続により受光器の出力容量を1/4まで低減することができる。並列接続されたn個の容量を持つn個のセルが、それぞれ半分の容量を持つn/2個の二重セルで置き換えられる。二重セルという概念をk個のアバランシェフォトダイオードのネットワークを有するk重のアバランシェフォトダイオードに拡張することも可能であり、その場合、1つのアバランシェフォトダイオード内のアバランシェがそれぞれネットワーク内の後続のアバランシェフォトダイオードの感度を変化させる。2つのアバランシェフォトダイオードの間の切り替えは電気的な妨害なしで、つまり切り替え工程の際に妨害信号を生じさせずに行うことができる。2番目のアバランシェフォトダイオードを分離して制御するための配線コストは極めて小さく、例えば単に接続抵抗があれば済む。接続抵抗と容量の選択によりむだ時間又は回復時間に影響を与えてこれを制御することができる。同時に作動状態となる隣接するアバランシェフォトダイオードの数が減ることにより電気的及び光学的な混信が低減する。
【0027】
二重のアバランシェフォトダイオードには、アバランシェ降伏の前のアイドル状態のときに前段アバランシェフォトダイオードを降伏電圧より高いバイアス電圧に、また後段アバランシェフォトダイオードを降伏電圧より低いバイアス電圧にそれぞれ保つ配線ユニットが割り当てられていることが好ましい。そのために、特に電圧分割回路を設ければ非常に簡単且つ低コストでの実装が可能である。この回路は降伏電圧の二倍のオーダーにある全電圧を非対称に分割する。アイドル状態では前段アバランシェフォトダイオードだけが降伏電圧を超える給電を受けて作動状態になる。アバランシェ降伏の際にはその抵抗が下がるため、今度は後段アバランシェフォトダイオードに高い電圧がかかり、この電圧が該アバランシェフォトダイオードを降伏電圧より高い状態つまりガイガーモードにして作動状態にする。
【0028】
あるいは、全電圧と比率が、前段及び後段アバランシェフォトダイオードに異なる超過電圧が供給され、それによりそれらの感度が段階的に異なるものとなるような全電圧と比率であり、アバランシェ降伏がその感度の比率を変化させる。更に別の実施形態では、一方のアバランシェフォトダイオードにおけるアバランシェ降伏が他方のアバランシェフォトダイオードのバイアス電圧を降伏電圧より低くして、作動状態ではなく逆に非作動状態にする。つまりアイドル状態では両方のアバランシェフォトダイオードが作動状態である。強い受光信号があると、受光側のアバランシェフォトダイオードが相手側の受光信号を抑制する。これにより過負荷が防止され、第2のアバランシェフォトダイオードは、受光側のアバランシェフォトダイオードのアバランシェ事象のすぐ後でバイアス電圧が再び降伏電圧を超えるため、充電のための回復時間がなくても更なる検出に利用できる。
【0029】
電圧分割部及びその各々の印加電圧は二重のアバランシェフォトダイオード毎に設けてもよいし、複数のアバランシェフォトダイオード、特に列又はカラムに対して並列に配線されていてもよい。分割比は回路素子により固定する又は調節可能にすることができる。
【0030】
好ましくは、前段アバランシェフォトダイオードにおけるアバランシェ降伏の後、後段アバランシェフォトダイオードを事前に設定可能な遅延時間の後に作動状態又は非作動状態にする遅延回路が設けられる。遅延時間は遅延回路の素子により固定的に設定してもよいし、制御により設定可能であってもよい。電圧分割部の比率の選択により、バイアス電圧を横断するのに必要な電圧差を通じて遅延時間に影響を与えることができる。
【0031】
有利な発展形態では、少なくとも1つの本発明に係る受光器を備える光電センサであって、距離測定のため及び/又はコードリーダとして及び/又はデータ伝送のために構成されたセンサが提供される。距離は三角測量センサやステレオカメラの場合のように三角測量で測定することができる。光電センサにおける受光器の用途としては他にもセンサにおけるコードの読み取り若しくはデータ伝送又はこれらの用途の組み合わせが挙げられるが、これらが全てではない。
【0032】
本センサが、光信号を送出するための発光器と光伝播時間測定ユニットとを備える距離測定型センサであって、前記光伝播時間測定ユニットが光信号の送出と監視領域から物体により反射される光信号の受光との間の光伝播時間から該物体の距離を測定するように構成されていれば非常に好ましい。好ましくは光信号が光パルスを有し、センサがパルス法により距離を測定する。その場合は二重パルス又はパルス符号のような複雑な形態も考えられる。パルス平均法のように、複数の光パルスを連続的に送出し、それらを受光し、それぞれの個別の結果を一緒にして統計的にパルス評価することも可能である。光伝播時間法は、光伝播時間の原理に従った一次元的な距離センサ、レーザスキャナ又は3次元カメラの画像センサにおいて利用できる。
【0033】
本発明に係る方法は、前記と同様のやり方で仕上げていくことが可能であり、それにより同様の効果を奏する。そのような効果をもたらす特徴は、例えば本願の独立請求項に続く従属請求項に模範的に記載されているが、それらに限られるものではない。
【0034】
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】ガイガーモードのアバランシェフォトダイオードを多数有する受光器を備える光電センサの概略図。
図2】むだ時間のせいで一部のみが検出された受光パルスの図。
図3】チェス盤のようなパターンでアバランシェフォトダイオード素子を時間的に交互に作動状態にする操作の概略図。
図4】相次いで作動状態にされるアバランシェフォトダイオード素子のグループにより完全に検出することができる受光パルスの図。
図5】アバランシェフォトダイオード素子のグループのラスタ分割とその連続的な作動の概略図。
図6】相次いで作動状態となったアバランシェフォトダイオード素子の他のパターンの例。
図7】一方のアバランシェフォトダイオード素子におけるアバランシェ降伏が他方のアバランシェフォトダイオード素子の感度を変化させる2つのアバランシェフォトダイオードを有する二重のアバランシェフォトダイオードの回路図。
図8図3に似たチェス盤のようなパターンで時間的に交互に作動状態にする操作を図7の二重のアバランシェフォトダイオードで行う場合を示す図。
図9】電圧分割部と並列に接続された複数の二重のアバランシェフォトダイオードの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は単一ビーム式の光センサの形態で実施された光電センサ10の概略図である。光線12(例えばLED又はレーザ光源)が監視領域16内へ光信号14を送出する。その光信号が監視領域内で物体18に当たると、その一部が拡散反射又は直反射され、反射された光信号20として受光器22に戻ってくる。この受光器22はガイガーモードのアバランシェフォトダイオード素子24又はSPADを多数備えている。各アバランシェフォトダイオード素子24の受光信号は制御及び評価ユニット26により読み出され、そこで評価される。
【0037】
図では極めて概略的に且つ純粋に機能的なレベルで制御及び評価ユニット26の2つのブロック、即ち光伝播時間測定ユニット28と制御ユニット30が強調されている。光伝播時間測定ユニット28は、光信号14の送出から反射された光信号20の受光までの光伝播時間を測定し、光の速度を用いてそれを距離に換算する。センサ10の持つ課題が光伝播時間法を用いた距離測定とは違う場合は光伝播時間測定ユニット28は設けられない。制御ユニット30はアバランシェフォトダイオード素子24の感度をグループ毎に変化させることができる。これについては後でより詳しく説明する。
【0038】
センサ10は実際の実施形態では他の要素、特に発光光学系及び受光光学系並びに接続部を備えているが、これらについては簡略化のためここでは取り上げない。図1に示した受光器22と制御及び評価ユニット26への分割は実際にも考えられるが、何よりも説明のためである。これらの要素は少なくとも部分的に、アバランシェフォトダイオード素子24の感光領域とアバランシェフォトダイオード素子24の各々又はそれらのグループに割り当てられた評価及び制御用の回路とに分かれた表面を有する共通のチップ上に集積されていることが好ましい。
【0039】
また、発光器12は受光器18の小さな一部分を隠しているが、この光学的な配置は単なる模範例に過ぎない。代わりに、ビームスプリッタと共通光学系を用いる自動コリメーション法や、2つの分離した光学系を設けて発光器と受光器を並べて配置する瞳孔分離法など、他の公知の光学的な解決策も利用可能である。
【0040】
また、図示した単一ビーム式の光センサ10全体も単なる例と理解すべきである。レーザスキャナにおいては光線を動かすことにより監視領域16を広げることができる。それは回転ミラーによってもよいし、発光器12及び/又は受光器22とともに全体が回転する測定ヘッドによってもよい。従って、複数の単一ビーム式のシステムを組み合わせることで、複数の、多くの場合平行である光線を有する光格子を構成することもできる。この光格子は特に探知型の光格子として各光線において距離測定や監視を行う。アバランシェフォトダイオード素子24を用いて個々に又はグループ毎に位置分解して測定を行うことができる。これにより3次元カメラが得られる。センサ10を移動可能に取り付けた移動式のシステムも考えられる。
【0041】
図2は強い受光パルスの領域におけるアバランシェフォトダイオード素子24の累積受光信号の時間的推移を3つの図で上下に示している。図では、アバランシェが誘発されたアバランシェフォトダイオード素子24の数が時間に対して積算されている。図2の上部は受光パルス全体、中央部はもはや受光されない後半にある残りの受光パルス、下部は受光された開始領域の受光パルスを相補的に、それぞれ示している。
【0042】
つまり、強い受光パルスの場合、既に開始領域からその光子が全ての利用可能なアバランシェフォトダイオード素子24でアバランシェを誘発するため、受光器22全体がほぼ飽和する。その後、受光パルスの後半部分の入射中には全て又はほぼ全てのアバランシェフォトダイオード素子24がむだ時間内にあり、残りの受光パルスの光子にはもはや反応できない。
【0043】
さて、実際の測定の場合、パルス形状は図2の下図に示したほどきれいに解像と切り出しが行われないため、パルス中でずれのない最大値を狙って受光時点を特定することは容易ではない。むしろ、実際的な光伝播時間測定では、例えば重心を特定することから誤ったパルスが再構成されてしまう。これは、受光パルスの強度とアバランシェフォトダイオード素子24のむだ時間に依存する伝播時間測定の誤差につながる。このシステム的な誤差は光伝播時間測定に関して長く知られている白黒シフト又は強度依存性の明暗誤差という独特の特徴である。それによると、まさに今のようなガイガーモードのアバランシェフォトダイオード素子24の場合、別の距離にある明るい物体18が暗い物体18として測定されてしまう。
【0044】
制御ユニット30を用いて時間的な順でアバランシェフォトダイオード素子24の感度をグループ毎に調整することが考えられる用途の一つは、このシステム的な誤差を回避し、強度に依存しない正確な受光パルスの再構成を可能にすることである。
【0045】
そのために、図3に示した第1の実施例ではアバランシェフォトダイオード素子24a〜bが2つにグループ分けされ、受光器22上でチェス盤のパターンで交互に並べて配置されている。図3の左側に示したように、まず第1のグループのアバランシェフォトダイオード素子24aが作動状態(黒)になり、第2のグループのアバランシェフォトダイオード素子24bが非作動状態(白)になる。所定の時間的なずれをもってこの設定が入れ替えられ、今度は図3の右側に示したように、第2のグループのアバランシェフォトダイオード素子24bが作動状態(黒)、第1のグループのアバランシェフォトダイオード素子24aが非作動状態(白)になる。この入れ替えは制御ユニット30が1回又は複数回、規則的又は不規則な順序で行うことができる。
【0046】
さて、強い受光パルスが受光器22に当たると、場合によっては現在作動状態の全てのアバランシェフォトダイオード素子24a又は24bでアバランシェが誘発され、その後のむだ時間の間は感度の低い状態になる。入れ替えが行われると、今や作動状態となり、まだむだ時間に入っていない他方のグループのアバランシェフォトダイオード素子24b又は24aが検出のために用意される。
【0047】
図3に示したチェス盤のパターンは単なる例に過ぎない。一般に受光器22のn×m個のアバランシェフォトダイオード素子24は数字の対(i,j)で一義的にアドレス指定することができる(ただし1≦i≦n、i≦j≦m)。いま、l個の時間窓Δtk(1≦k≦l)をそれぞれ任意の幅で決定し、各時間窓Δtkにおいて位置(i,j)のアバランシェフォトダイオード素子24の感度に対する係数a(i,j)のマトリックスを予め設定する。係数a(i,j)は好ましくは最小感度と最大感度の間で指定され、作動状態及び非作動状態を表すデジタル値(0,1)だけを取ってもよいし、その間の感度を表す中間的な値を取ってもよい。このような中間値はアバランシェフォトダイオード素子24の場合は降伏電圧より高い超過電圧の値を用いて設定することが好ましい。例えば値「0」が降伏電圧より低い電圧を表し、値「1」が降伏電圧より明らかに高い快適な動作電圧であって、それ以上高くしても感度がほとんど変わらない電圧を表す。0と1の間の値については超過電圧を適宜の率で設定する。
【0048】
上述のようにして各時間窓Δtk内にアバランシェフォトダイオード素子24の新しいグループが形成される。極端な場合、各グループが1個のアバランシェフォトダイオード素子24だけから成る。好ましくは、動作の見通しをより良くするために少数のグループだけを形成し、グループへの所属を全時間を通じて維持し、一つのグループのアバランシェフォトダイオード素子24の感度だけを特定の時点において変化させる。個別の制御は最大の柔軟性をもたらすものの、特に各アバランシェフォトダイオード素子24までの追加の配線にかかるコストが高く、フィルファクタが低下する。これに対し、グループへの所属を固定すれば制御部と配線を共用することができる。
【0049】
図4は別の実施例を示している。ここでも図2と同様に受光パルスが描かれている。予期される受光パルスの幅を持つ時間窓が、ここでは模範例として規則的に6個の部分領域Δt1〜Δt6に分割されている。これらの時間窓Δt1〜Δt6の各々においてアバランシェフォトダイオード素子14の6つのグループのうちそれぞれ別のグループが作動状態にされ、その結果、アバランシェがまだ誘発されておらず、むだ時間にも入っていない、検出準備のできた一群のアバランシェフォトダイオード素子24が、受光パルスの全幅にわたって利用可能になる。これにより、図2のような大きな光負荷又は高い強度勾配の場合に一緒にアバランシェが誘発されることが回避される。アバランシェフォトダイオード素子24の受光信号から再構成される電気的な受光パルスは重心にずれがなく、むしろそのパルス形状は実際のものを忠実に模しており、それにより白黒誤差が抑制される。
【0050】
図5は部分領域Δt1〜Δt6に対して形成される受光器22上のアバランシェフォトダイオード素子24のグループの好適な配分として考えられるものを示している。受光器22はラスタ要素32から成る規則的なラスタに分割されている。図5ではそれらのラスタ要素のうち1つだけが例示的に太線で強調されている。各ラスタ要素32内には各グループのアバランシェフォトダイオード素子24が少なくとも1つずつあり、これが数字1〜6で記号的に表されている。従って、部分領域Δt1においては数字1のアバランシェフォトダイオード素子24が作動状態となり、他の部分領域Δt2〜Δt6には数字2〜6のアバランシェフォトダイオード素子24が対応する。この形態から外れて、数字1〜6で記号的に示したグループの配置を複数のラスタ要素32にわたって変化させることも考えられる。なお、図5に示した実施形態は、図3に示したチェス盤のパターンを有する実施形態を一般化してグループの数を2つから6つにしたもの(そして同様に他の数にもできる)と理解することができる。
【0051】
部分領域Δt1〜Δt6の幅は好ましくは予期される受光パルスの幅にほぼ等しくなるまで加算される。個々の幅Δt1〜Δt6と順序は一定でもよいし、異ならせてもよい。時間的な一部重複も考えられる。その場合、少なくとも1つのグループがまだ作動状態である間に次のグループが既に作動状態となる。未知の受光パルスの時間的な位置をカバーするために、一連の制御を任意の周期的なパターンに従って繰り返すことが好ましい。それは光信号14の発射時点と同期させることができる。
【0052】
6つの部分領域Δt1〜Δt6又は6つのグループという数を選んだのは単なる例に過ぎない。ただし、各グループになお十分な数のアバランシェフォトダイオード素子24が含まれるようにするために、過大な数のグループを形成せず、特にせいぜい10グループにすることが有意義である。そうしなければ、遠い又は暗い物体18からの受光パルスが弱めになり、アバランシェフォトダイオード素子24が少なすぎると場合によってはもはや検出できなくなるおそれがある。とりわけ典型的には、遠方領域からの受光スポットは受光器22の小さな一部分しか照らさず、よって大部分のアバランシェフォトダイオード素子24は最高の感度でも有効光の光子を全く捕らえられない。もっとも、特許文献5等に記載されているように、遠方領域からの小さな受光スポットは均質化光学系により回避できる。これにより、できるだけ受光器22全体を距離に左右されずに均一にくまなく照らすことができる。
【0053】
特定の用途のために具体的な作動の順序とアバランシェフォトダイオード素子24の配列のグループ分けを設計する際には、光子電流、利用可能なアバランシェフォトダイオード素子24の総数、該素子の光子検出効率(PDE)及びむだ時間といったパラメータに注意を払うことが好ましい。
【0054】
図6は、このような設計に利用できるのが先に具体的に説明したラスタ化された又はチェス盤状のパターンだけではなく、原理的には任意の配置が可能であることを再度例示している。図3と同様に、観察時点において作動状態のアバランシェフォトダイオード素子24が黒、非作動状態のアバランシェフォトダイオード素子24が白で描かれている。どのグループにも属さず、常に作動状態、常に非作動状態又は常に所定の感度に設定されているアバランシェフォトダイオード素子24があってもよい。一方、そのようなアバランシェフォトダイオード素子24を特殊なものとはみなす必要は全くなく、ゼロ時点においてスイッチの投入等により所望の感度に設定される別のグループとみなせばよい。
【0055】
図7は有利な実施形態についての原理回路を示している。アバランシェフォトダイオード素子24a〜bが2つずつ接続されて二重のアバランシェフォトダイオード124になり、しかもそれは、一方のアバランシェフォトダイオード素子24a〜bにおいてアバランシェ降伏が誘発されると、選択可能な時間差とともに他方のアバランシェフォトダイオード素子b〜aの感度の変化(特に作動化又は非作動化)が結果的に生じるような接続である。図示した回路要素はいわば二重のアバランシェフォトダイオード124に完全に又は部分的に統合された制御ユニット30であり、感度を切り替える時点をアバランシェ降伏から動的に導き出すものである。有利な構成として、2つのアバランシェフォトダイオード素子24a〜bは電荷抵抗Rkを分け合っている。
【0056】
2つのアバランシェフォトダイオード素子24a〜bを前段アバランシェフォトダイオード素子24a及び後段アバランシェフォトダイオード素子24bと呼ぶこともある。ただし、これは単なる言葉の単純化であり、その方向は好ましい実施形態における時間的な順序によって決まる。他の可能な実施形態として、後段アバランシェダイオード素子24bがまず作動状態になり、それが前段アバランシェフォトダイオード素子24aを作動状態にするもの、一方のアバランシェフォトダイオード素子24a〜bが他方のアバランシェフォトダイオード素子24b〜aの作動性を一時的に抑制するもの、あるいは両方のアバランシェフォトダイオード素子24a〜bが同じ又は別の感度で同時に作動状態とされ、アバランシェ降伏の後に相手側の感度が狙いをつけて変化するものがある。
【0057】
図7の原理回路について数値例とともに説明する。降伏電圧は28Vと仮定され、共通のバイアス電圧Vとして57Vが供給されている。これが、抵抗R1及びR2により形成される電圧分割回路を通じて不均等に分配されている。即ち、前段アバランシェフォトダイオード素子24aには降伏電圧を超える30Vが、後段アバランシェフォトダイオード素子24bには降伏電圧を下回る27Vが印加されている。抵抗の好適な値としてR1=300K、R2=270Kとすることができる。
【0058】
さて、二重のアバランシェフォトダイオード124に光が当たると、降伏電圧より高いバイアス電圧がかかっている前段アバランシェフォトダイオード素子24aだけがその光に反応する。というのも、後段アバランシェフォトダイオード素子24bはガイガーモードで作動しておらず、相対的な比較では非作動状態とみなされるからである。前段アバランシェフォトダイオード素子24aでアバランシェ降伏が生じることで抵抗が下がり、それにより後段アバランシェフォトダイオード素子24bを通した電圧降下が増大し、該素子のバイアス電圧を降伏電圧より上へ押し上げて、それをガイガーモードで駆動する、又は作動状態にする。
【0059】
抵抗R1及びR2の数値つまり電圧分割比と共通の供給電圧の数値とを変えれば様々な超過電圧と感度が任意選択で得られ、それにより例えばより広いダイナミックレンジが表現される。その場合、一方のアバランシェフォトダイオード素子24a〜bでアバランシェ降伏が生じると、他方のアバランシェフォトダイオード素子24b〜aは超過電圧がより高いために感度がより高くなる。図7に示した配線を修正して、一方のアバランシェフォトダイオード素子24a〜bにアバランシェ降伏が生じると他方のアバランシェフォトダイオード素子24b〜aの感度が上がるのではなく下がる又は非作動状態にさえなるようにすることができる。このようにすると、まさに強い光が入射したときに、一方のアバランシェフォトダイオード素子24a〜bが他方のアバランシェフォトダイオード素子24b〜aのアバランシェ降伏によりいわば一時的に保護されるため、その後のむだ時間の間にも検出が可能なアバランシェフォトダイオード素子24a〜bがまだ残っている。
【0060】
図8は二重のアバランシェフォトダイオード124の模範的な、チェス盤状の配置を示している。ここではいわば2つに1つのアバランシェフォトダイオード124が逆さまになっている。そうでなければストライプ状になるが、これは代案として考えられる。なぜなら、各々の位置のずれは最大でもアバランシェフォトダイオード素子24a〜bの1個分と、ごくわずかだからである。いずれにせよ、この二重のアバランシェフォトダイオード124によるパターンの原理により外部からの制御なしで作動化に時間的な順序をつけることができるため、特に受光パルスの再構成の改善という前述の利点、そして最終的には明暗誤差の補償が、非常に簡単な方法で達成される。前段アバランシェフォトダイオード素子24aと後段アバランシェフォトダイオード素子24bはそれぞれ2つのグループの一方を成し、図3に似ているが、二重のアバランシェフォトダイオード124においては各後段アバランシェフォトダイオード素子24bがアバランシェ降伏に応じて一緒にグループとして作動状態にされるのではなく個別に作動状態にされるという違いがある。
【0061】
図8に示したパターンは単なる例に過ぎない。他にも配置があることは別として、二重ではない個別のアバランシェフォトダイオード素子24であって、特に図2〜6を参照して先に説明したようなグループを成すものとの組み合わせも考えられる。2つのアバランシェフォトダイオード素子24a〜bの二重の接続という概念はk≧3であるk重のアバランシェフォトダイオードに拡張することができる。更に別の変形として、異なる感光面積を持つ等の違いがあるアバランシェフォトダイオード素子24a〜bを接続して二重のアバランシェフォトダイオード124にすることも可能である。
【0062】
図9は複数の並列の二重のアバランシェフォトダイオード124を並列接続した例を示している。必要に応じて、図から離れて二重のアバランシェフォトダイオード124の2つに1つを逆さまにすることができる。図7とは違ってここではバイアス電圧が二重のアバランシェフォトダイオード124毎に個別にそれぞれの2つのアバランシェフォトダイオード素子24a〜bに分配されてはいない。代わりに、複数の二重のアバランシェフォトダイオード124、特に一列又はカラムの全ての二重のアバランシェフォトダイオード124が並列に接続され、共通の電圧分割部34を通じて給電される。あるいは、両方のアバランシェフォトダイオード素子24a〜bが互いに逆の順序でトリガされることで二重のアバランシェフォトダイオード124がいわば「逆さまになる」ように電圧分割部34を設計することもできる。多数の二重のアバランシェフォトダイオード124の配列にこのような「逆さまになっている」二重のアバランシェフォトダイオード124と「逆さまになっていない」ものを任意に混在させることができる。
【0063】
また好ましくは、例えば異なる複数の超過電圧と降伏電圧より低い電圧とを用いてアバランシェフォトダイオード素子24a〜bにバイアスをかけために、電圧分割比を可変とする。ここでも純粋な模範的として降伏電圧を28Vとすると、変更の範囲は26V〜35V程度又はそれ以上とすることができる。これにより所望の感度、又は、二重のアバランシェフォトダイオード124におけるアバランシェ降伏と相手側の作動との間の時間的な遅延を外部から制御することができる。電圧分割比の設定を可変に又は外部から変更可能にすることは、複数の二重のアバランシェフォトダイオード124の並列接続がなく、図7に示したような個別の二重のアバランシェフォトダイオード124だけの場合でも考えられる。
【0064】
二重のアバランシェフォトダイオード124は、例えば特許文献6に提案されているような適切な読み出し回路を用いれば、ギガヘルツ領域にまで入る高い周波数でも駆動することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9