特許第6907295号(P6907295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化学工業株式会社の特許一覧

特許6907295改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、負熱膨張フィラー及び高分子組成物
<>
  • 特許6907295-改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、負熱膨張フィラー及び高分子組成物 図000007
  • 特許6907295-改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、負熱膨張フィラー及び高分子組成物 図000008
  • 特許6907295-改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、負熱膨張フィラー及び高分子組成物 図000009
  • 特許6907295-改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、負熱膨張フィラー及び高分子組成物 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907295
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、負熱膨張フィラー及び高分子組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/37 20060101AFI20210708BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210708BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   C01B25/37 Z
   C08L101/00
   C08K3/24
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-228647(P2019-228647)
(22)【出願日】2019年12月18日
(65)【公開番号】特開2020-147486(P2020-147486A)
(43)【公開日】2020年9月17日
【審査請求日】2021年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2019-41281(P2019-41281)
(32)【優先日】2019年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】 須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−137635(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/061403(WO,A1)
【文献】 特開2016−175796(JP,A)
【文献】 特開2017−105659(JP,A)
【文献】 特開2012−171813(JP,A)
【文献】 特開2017−088642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00−25/46
C08K 3/00−3/40
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面が、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素(M)を1種又は2種以上含有する無機化合物で被覆されている、改質リン酸タングステン酸ジルコニウムであって、
前記改質リン酸タングステン酸ジルコニウム1gを85℃の水70mLで1時間加熱処理し、次いで25℃に冷却して24時間静置したときに溶出するリンイオン量が、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム1g当たり、100μg以下である、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム
【請求項2】
前記粒子のBET比表面積が0.1m/g〜50m/gである、請求項1に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項3】
前記粒子の平均粒子径が0.02μm〜50μmである、請求項1又は2に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項4】
前記粒子は副成分元素を更に含有する、請求項1ないし3の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項5】
前記無機化合物の被覆量が、前記粒子に対して無機化合物に含まれる元素(M)として、0.1質量%〜10質量%である、請求項1ないし4の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項6】
前記無機化合物が、元素(M)を含む酸化物及び/又は水酸化物である請求項1ないし5の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項7】
前記元素(M)が、Znである請求項6に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項8】
更に、粒子表面がカップリング剤で被覆されている、請求項1ないし7の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項9】
前記カップリング剤が、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤である請求項8に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムからなる負熱膨張フィラー。
【請求項11】
請求項10に記載の負熱膨張フィラーと、高分子化合物とを含有する高分子組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、それを用いた負熱膨張フィラー及び高分子組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、物質は、温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大する性質を有する。一方で、熱の付与によって逆に体積が小さくなる性質を有する負の熱膨張を示す材料(以下、「負熱膨張材」ということもある。)が知られている。負の熱膨張を示す材料は、例えば他の材料とともに用いて、温度変化による材料の熱膨張による体積変化を抑制するために用いられる。
【0003】
負の熱膨張を示す材料としては、例えば、β−ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(ZrWO(PO)、ZnCd1−x(CN)、マンガン窒化物、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物等が知られている。
【0004】
リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の線膨張係数は、0〜400℃の温度範囲で−3.4〜−3.0ppm/℃であり、負熱膨張性が大きいことが知られている。このリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、正の熱膨張を示す材料(以下「正熱膨張材」ということもある。)とを併用することで、低熱膨張の材料を製造することができる(特許文献1〜3参照)。また、正熱膨張材である樹脂等の高分子化合物と負熱膨張材とを併用することも提案されている(特許文献4〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−35840号公報
【特許文献2】特開2015−10006号公報
【特許文献3】国際公開第2017/61403号パンフレット
【特許文献4】特開2015−38197号公報
【特許文献5】特開2016−113608号公報
【0006】
しかし、リン酸タングステン酸ジルコニウムは、水に接触すると、構造中のリン等がイオンとして溶出してしまい、これに起因する負熱膨張材としての性能の低下、樹脂等の材料と混合して樹脂成型品とした場合の電気信頼性の低下、及び樹脂成形品と接する金属製部品の腐食等の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、リン酸タングステン酸ジルコニウム中のリンイオンの水への溶出を抑制し、高分子化合物に含有させた負熱膨張フィラーとして好適に使用することができる改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、それを用いた負熱膨張フィラー及び高分子組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面を、特定の元素を含有する無機化合物で被覆して改質することによって、水に接触した場合においても、リンイオンの溶出を効果的に抑制できることを見出した。また、改質したリン酸タングステン酸ジルコニウムは、樹脂等の高分子化合物中に分散させて、負熱膨張フィラーを含む低熱膨張性材料を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面が、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素(M)を1種又は2種以上含有する無機化合物で被覆されている、改質リン酸タングステン酸ジルコニウムを提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記改質リン酸タングステン酸ジルコニウムからなる負熱膨張フィラーを提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記負熱膨張フィラーと、高分子化合物とを含有する高分子組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムによれば、水に接触した場合においても、リンイオンの溶出を効果的に抑制し、負熱膨張材としての優れた性能を発現させることができる。また、本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムは、樹脂等の高分子化合物に分散させることができ、負熱膨張フィラーを含む低熱膨張性材料を首尾よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子試料1の形状を示す走査型電子顕微鏡像である。
図2図2は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子試料2の形状を示す走査型電子顕微鏡像である。
図3図3は、硝酸亜鉛六水和物のTG曲線である。
図4図4は、クエン酸亜鉛二水和物のTG曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム(以下、これを「改質ZWP」ともいう。)は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(以下、これを「ZWP粒子」ともいう。)の表面が、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素(M)を1種又は2種以上含有する無機化合物(以下、これを「無機化合物」ということがある)で被覆されているものである。つまり、本発明の改質ZWPは、ZWP粒子を芯材として、該粒子の表面に無機化合物からなる層が形成されている粒子からなる。以下の説明では、「N1〜N2」(N1及びN2はそれぞれ任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「N1以上N2以下」を意味する。
【0015】
改質ZWPに含まれる無機化合物は、ZWP粒子の表面全体を満遍なく連続して被覆していてもよく、或いは該粒子表面の一部のみを被覆していてもよい。前者の場合、改質ZWPは、ZWP粒子の表面全域が無機化合物によって完全に被覆されて、該粒子の表面が露出していない状態になっている。後者の場合、改質ZWPは、その表面が下地であるリン酸タングステン酸ジルコニウムからなる部位と、無機化合物からなる部位とから構成される。無機化合物がZWP粒子の表面の一部のみを被覆している場合、被覆部位が連続していてもよく、海島状に不連続に被覆していてもよく、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0016】
本発明におけるZWP粒子を構成するリン酸タングステン酸ジルコニウムは、下記一般式(1)で表されるものである。
Zr(WO(PO・・・(1)
(式中、xは、1.7≦x≦2.3、好ましくは1.8≦x≦2.2であり、yは、0.85≦y≦1.15、好ましくは0.90≦y≦1.10であり、zは、1.7≦z≦2.3、好ましくは1.8≦z≦2.2である。)
【0017】
本発明に用いられるZWP粒子を被覆する無機化合物は、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素(M)を1種又は2種以上含有する無機化合物である。該無機化合物としては、元素(M)を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、珪酸塩等が挙げられ、これらの無機化合物は1種又は2種以上で用いることができる。これらのうち、元素(M)を含む酸化物又は水酸化物が特に水に対して不溶であり、溶出するリンイオンの抑制効果が高くなる観点から好ましい。
また、前記元素(M)としては、これらのうち、Zn、Al、Ca、Baが好ましく、特にZnを含有する無機化合物が好ましい。Znを含有する化合物の被膜は、ZWPと水分との接触を効果的に抑制し、更にリンイオンの吸着性能にも優れているのでZWPから溶出するリンイオンを被膜中のZnを含む化合物により吸着して改質ZWPからのリンイオンの溶出を効果的に抑制するためである。
無機化合物は、元素(M)を2種以上含む複合酸化物、複合水酸化物或いは複合塩であってもよい。
【0018】
本発明の改質ZWPは、前記無機化合物の被覆量(存在量)が、ZWP粒子に対し、無機化合物に含まれる元素(M)として、好ましくは0.1質量%〜10質量%、より好ましくは0.3質量%〜5.0質量%、更に好ましくは0.5質量%〜3.0質量%である。被覆量がこのような範囲であることによって、改質ZWPからのリンイオンの溶出を効果的に抑制し、負熱膨張材としての性能を高めることができ、負熱膨張フィラーとして用いたときに、樹脂等の正熱膨張材への分散性が良好となる。
無機化合物の被覆量は、元素(M)がZn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co又はFeである場合は、これらの元素がZWP粒子に含まれていないことを前提に、硝酸や塩酸などで溶解させた溶液をICP発光分光分析し、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Feから選ばれる元素の量を測定することで求めることができる。ZWP粒子中に含まれる副成分元素と、ZWP粒子を被覆する無機元素とは、SEM−EDX、EPMA等の方法を用いて区別して定量することができる。
【0019】
正熱膨張材に対する分散性や充填特性を向上させる観点から、原料となるZWP粒子には、前記一般式(1)に含まれる元素であるP、W、Zr及びO以外の元素(以下、これを「副成分元素」ともいう。)が含有されていることが好ましい。
【0020】
副成分元素としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属元素、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb等の希土類元素、Al、Zn、Ga、Cd、In、Sn、Pb、Bi等の遷移金属以外の他の金属元素、B、Si、Ge、Sb、Te等の半金属元素、S等の非金属元素、F、Cl、Br、I等のハロゲン元素等が挙げられる。これらの元素は、前記粒子中に1種又は2種以上含まれていてもよい。これらのうち、正熱膨張材に対する分散性や充填特性を一層向上させる観点から、前記粒子は、Mg、Al及びVの少なくとも1種の副成分元素を含むことが好ましい。
【0021】
優れた負熱膨張性を有し、且つ正熱膨張材への分散性及び充填特性に優れたものとする観点から、ZWP粒子における副成分元素の含有量は、ZWP粒子に対して、好ましくは0.1質量%〜3質量%であり、更に好ましくは0.2質量%〜2質量%である。副成分元素が2種類以上含まれる場合は、副成分元素の含有量は、副成分元素の合計質量に基づいて算出する。また、改質ZWPにおける副成分元素の含有量は、上述と同様の範囲とすることができる。副成分元素の含有量は、例えば蛍光X線分析装置等の測定装置を用いて、粉末プレス法、溶融ガラスビード法等の方法で測定することができる。
【0022】
改質ZWPの粒子形状は、特に制限されるものではなく、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、1若しくは2以上の稜線を有する不規則な砕石状(以下、これを「破砕状」ともいう。)、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0023】
リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面をZn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素(M)を1種又は2種以上含有する無機化合物で被覆した本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムによれば、水に接触した場合であっても、リン酸タングステン酸ジルコニウムからのリンがイオンとして溶出することを効果的に抑制することができ、負熱膨張材としての優れた性能を発現させることができる。また、本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムは、樹脂等の高分子化合物に均一に分散させることができ、その結果、低熱膨張性の材料を首尾よく製造することができる。
【0024】
以下に、本発明の改質ZWPの好適な製造方法を説明する。改質ZWPの製造方法は、ジルコニウム源、タングステン源及びリン源を反応させてZWP粒子を得る工程、及び得られたZWP粒子の表面を無機化合物で被覆処理する工程の2つに大別される。
【0025】
まず、ジルコニウム源、タングステン源及びリン源を反応させてZWP粒子を得る。本発明に用いられるZWP粒子の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば、(i)リン酸ジルコニウム、酸化タングステン及びMgO等の反応促進剤を湿式ボールミルで混合して得られた混合物を焼成する方法(例えば、特開2005−35840号公報参照)、(ii)塩化ジルコニウム等のジルコニウム源、タングステン酸アンモニウム等のタングステン源及びリン酸アンモニウム等のリン源を湿式混合し、得られた混合物を焼成する方法(例えば、特開2015−10006号公報参照)、(iii)酸化ジルコニウム、酸化タングステン及びリン酸二水素アンモニウムを含む混合物を焼成する方法(例えば、MaterialsResearch Bulletin、44(2009)、p.2045−2049参照)、或いは、(iv)タングステン化合物と、リンとジルコニウムとを含む無定形の化合物との混合物を反応前駆体として、該反応前駆体を焼成する方法(例えば、国際公開第2017/061402号パンフレット参照)等が挙げられる。
【0026】
改質ZWPを正熱膨張材に対するフィラーとして用いる際の取扱いを容易にする観点から、ZWP粒子のBET比表面積は、好ましくは0.1m/g〜50m/g、更に好ましくは0.1m/g〜20m/gである。また、改質ZWPのBET比表面積は、上述と同様の範囲とすることができる。BET比表面積は、BET1点法にて測定し、例えばBET比表面積測定装置(カンタクロームインスツルメンツ株式会社製、AUTOSORB−1)を用いて測定することができる。
【0027】
同様の観点から、ZWP粒子の平均粒子径は、好ましくは0.02μm〜50μm、更に好ましくは0.5μm〜30μmである。また、改質ZWPの平均粒子径は、上述と同様の範囲とすることができる。平均粒子径は、任意の100個の粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、走査型電子顕微鏡像における粒子の最大長さの算術平均値として求めることができる。ここでいう最大長さとは、粒子の像を横断する線分のうち最も長い線分の長さをいう。観察倍率としては、1視野に入る粒子数が100〜200個となるように調整することが好ましい。
【0028】
ZWP粒子の粒子形状は、特に制限されるものではなく、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、破砕状、又はこれらの組み合わせであってもよい。ZWP粒子は造粒顆粒であっても、造粒していない粉末であってもよい。
【0029】
上述した粒子径や比表面積、粒子形状等の諸特性を工業的に有利な方法で制御しやすく、且つ負熱膨張性に優れた改質ZWPを得る観点から、ZWP粒子の製造方法として、前記方法(iv)で製造されたZWP粒子を用いることが好ましい。
【0030】
次いで、上述の方法で得られたZWP粒子の表面を無機化合物で被覆処理する。本工程は、湿式法又は乾式法で行うことができる。
【0031】
無機化合物の被覆処理を湿式法によって行う場合、例えば前記無機化合物を所望の濃度で含む分散液(溶解液も含む)にZWP粒子を含有させてスラリーとし、該スラリーを噴霧乾燥するか、又は該スラリーを固液分離して、得られた固形分を乾燥することによって、目的とする改質ZWPを得ることができる。分散液(溶解液も含む)における前記無機化合物の含有量は、改質ZWPにおける無機化合物の被覆量が上述した範囲となるように適宜調整すればよい。分散液(溶解液も含む)における前記無機化合物の濃度は、作業性を考慮して適宜調整すればよい。
【0032】
無機化合物の被覆処理を乾式法によって行う場合、例えばZWP粒子と、固体の前記無機化合物とを、ヘンシェルミキサー、気流式粉砕機等の混合装置を用いて混合するか、又は、ZWP粒子と、前記無機化合物を溶剤で希釈した希釈液とを混合し、その後、必要に応じて加熱乾燥することによって、目的とする改質ZWPを得ることができる。乾式法においては、ZWP粒子と、前記無機化合物との混合物をそのまま用いて改質ZWPを製造するので、前記無機化合物の仕込み量と、被覆量とは、略一致する。
【0033】
前記乾式法又は湿式法での被覆処理方法は、無機化合物の前駆体となる元素(M)を含有する有機化合物又は無機塩を用い、後述する加熱処理で、該有機化合物又は無機塩の分解温度以上に加熱処理して有機化合物又は無機塩を酸化物に転換する方法であってもよい。該有機化合物としては、加熱処理により酸化物に転換できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、元素(M)のカルボン酸塩や、元素(M)のアルコキシド等が挙げられる。例えばカルボン酸塩のカルボン酸としては、一価カルボン酸及び多価カルボン酸のいずれであってもよく、酢酸、クエン酸、グルコン酸、ギ酸、乳酸等が挙げられ
る。無機塩としては、例えば、元素(M)の硝酸塩や炭酸塩等が挙げられる。なお、有機化合物や無機塩の使用量は、改質ZWPにおける無機化合物の被覆量が上述した範囲となるように適宜調整すればよい。
【0034】
また、無機化合物の被覆処理を湿式法によって行う場合、ZWP粒子を水に分散させたスラリーに、元素(M)を含有する水溶性の無機塩及びアルカリ剤を添加してpHを6〜10に調製し、ZWP粒子の粒子表面に元素(M)を含有する水酸化物を析出させて被覆する方法であってもよい。なお、スラリーにおける元素(M)を含有する水溶性の無機塩の含有量は、改質ZWPにおける無機化合物の被覆量が上述した範囲となるように適宜調整すればよい。
【0035】
このように製造された本発明の改質ZWPは、水の存在下であっても、改質ZWPからのリンイオン溶出が抑制され、負熱膨張材として好適に用いられるものである。本発明の改質ZWPは、1gの改質ZWPを85℃の水70mLで1時間加熱処理し、次いで25℃まで冷却して24時間静置したときに溶出するリンイオン量が、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム1g当たり、100μg以下、好ましくは70μg以下である。リンイオン量は、上記のように24時間静置して得られた溶出液中に存在する全リン量として測定され、例えばICP発光分光装置を用いて測定することができる。
【0036】
湿式法及び乾式法のいずれの方法で被覆処理を行った場合であっても、被覆処理後に更に加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理の温度は、好ましくは250℃〜600℃、更に好ましくは300℃〜450℃であり、加熱処理する時間は、好ましくは30分以上、更に好ましくは1時間〜10時間である。また、加熱処理における雰囲気は、真空、不活性ガス雰囲気或いは大気雰囲気のいずれであってもよい。加熱処理を施すことによって、ZWP粒子の表面に存在する前記無機化合物は、緻密な構造となり、水の存在下での改質ZWPからのリンイオン溶出が一層抑制される。その結果、負熱膨張性に優れた改質Z
WPを得ることができる。
前記無機化合物の前駆体となる元素(M)を含有する有機化合物及び元素(M)の無機塩は、この加熱処理により、元素(M)の酸化物に転換することができる。ZWP粒子の表面に存在する転換された元素(M)の酸化物は、緻密な構造となり、水の存在下での改質ZWPからのリンイオン溶出が一層抑制される。その結果、負熱膨張性に優れた改質ZWPを得ることができる。
【0037】
加熱処理を行う場合、加熱処理の温度は、元素(M)を含有する無機化合物として、酸化物及び水酸化物以外のものや、元素(M)を含有する有機化合物を使用する場合、これらの化合物の分解温度より高い温度であることが特に好ましい。なお、含水塩の場合は、分解温度とは酸化物になる温度をいう。このような温度で加熱処理することによって、ZWP粒子の表面に存在する被覆層の元素(M)を含有する化合物を元素(M)の酸化物に転換し、これに伴いZWP粒子の表面に存在する被覆層が一層緻密な構造となり、該水の存在下での改質ZWPからのリンイオン溶出がより一層抑制される。
【0038】
また、本発明の改質ZWPは、ZWPからのリンイオン溶出を更に抑制し、高分子化合物に対する分散性や密着性を一層向上させることを目的として、並びにリンイオン溶出に起因する樹脂成型品の電気信頼性の低下及び金属製部品の腐食の防止を目的として、該改質ZWPの粒子表面を疎水性の化合物で、更に表面処理することができる。該疎水性の化合物としては、カップリング剤、高級脂肪酸又は高級脂肪酸の金属塩等が挙げられ、これらのうち、ZWPからのリンイオン溶出を一層低減することができ、また、高分子化合物に対する分散性や密着性を一層向上させる効果も高い点で、カップリング剤が好ましい。
なお、以下、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面が、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素(M)を1種又は2種以上含有する無機化合物で被覆されている、改質リン酸タングステン酸ジルコニウムを便宜上「改質ZWP(1)」ということがある。
また、以下、改質ZWP(1)の粒子表面を、更にカップリング剤で被覆されているものを「改質ZWP(2)」ということがある。
【0039】
改質ZWP(2)に用いることができるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤及びジルコネート系カップリング剤が挙げられ、これらカップリング剤は1種又は2種以上用いることができる。
【0040】
シラン系カップリング剤としては、例えばヘキサメチルジシラザン等のシラザン類、トリメチルシラン等のヒドロシラン類、トリメチルクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン等のハロシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシラン類、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のメタクリロイル基含有アルコキシシラン類、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン類、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン類、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ユレイドプロピルトリエトトキシシラン、アミノフッ素シラン等が挙げられる。
【0041】
アルミニウム系カップリング剤としては、例えばエチルアセトアセテートアルミニウム ジイソプロピレート、メチルアセトアセテートアルミニウム ジイソプロピレート、エチルアセテートアルミニウム ジブチレート、アルキルアセトアセテートアルミニウム ジイソプロピレート等のアルミニウムアルコレート類、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)等のアルミニウムキレート類等を挙げることができる。
【0042】
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイホスフェート)チタネート、テトライソプロピル(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等のアルコキシチタニウムエステル類等が挙げられる。
【0043】
ジルコネート系カップリング剤としては、例えばステアリン酸エトキシジルコニウム等のジルコニウムアルコキシド類、ジルコニウムテトラアセチルアセトネートやα−ヒドロキシカルボン酸ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物、ジルコニウム石けん類、酢酸ジルコニウム等を挙げることができる。
【0044】
本発明においては、これらカップリング剤の中でも、得られる改質ZWP(2)を負熱膨張材フィラーとして用いた場合に、高分子化合物に対する分散性や密着性が優れ、ZWPからのリンイオン溶出を一層低減する効果が高い観点から、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤が好ましい。
【0045】
改質ZWP(2)におけるカップリング剤の被覆量は、改質ZWP(1)に対して、好ましくは0.05〜30質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である。被覆量がこのような範囲であることによって、改質ZWPからのジルコニウムイオン、タングステンイオン及びリンイオンの溶出を効果的に抑制し、負熱膨張材としての性能を高めることができる。
【0046】
改質ZWP(2)の粒子表面をカップリング剤で被覆処理する方法としては、湿式法又は乾式法で行うことができる。
【0047】
カップリング剤の被覆処理を湿式法によって行う場合は、例えば前記カップリング剤を所望の濃度で含む分散液(溶解液も含む)に、改質ZWP(1)を浸漬してスラリーとし、該スラリーを噴霧乾燥するか、或いは該スラリーを固液分離して固形分を乾燥して、カップリング剤を加水分解及び縮合させる。これによって、目的とする改質ZWP(2)を得ることができる。分散液におけるカップリング剤の濃度は、改質ZWP(2)における被覆量が上述した範囲となるように適宜調整すればよい。
【0048】
カップリング剤の被覆処理を乾式法によって行う場合、例えば改質ZWP(1)と、カップリング剤とを、ヘンシェルミキサー、気流式粉砕機等の混合装置を用いて混合するか、又は、改質ZWP(1)と、カップリング剤を溶剤で希釈した希釈液とを混合し、その後、必要に応じて上述した条件で加熱処理して、カップリング剤を加水分解及び縮合させる。これによって、目的とする改質ZWP(2)を得ることができる。乾式法においては、改質ZWP(1)と、カップリング剤との混合物をそのまま用いて改質ZWP(2)を製造するので、カップリング剤の被覆量は、カップリング剤の仕込み量から理論的に算出された値と略一致する。
【0049】
以上の工程を経て得られた本発明の改質ZWPは、これをそのまま粉末等の乾燥状態で、又は該粉末を溶媒に分散させた湿潤状態で、低熱膨張性材料を製造するための負熱膨張フィラーとして好適に用いることができる。
【0050】
本発明の負熱膨張フィラーは前記改質ZWPからなるものであり、該負熱膨張フィラーと高分子化合物とを混合することによって、高分子組成物を製造することができる。この高分子組成物は、改質ZWPが備える高い負熱膨張性に起因して、熱膨張率が抑制された材料となる。
【0051】
本発明の高分子組成物に用いられる高分子化合物としては、特に制限されるものではないが、好ましくは正熱膨張性を有する樹脂等である。このような樹脂としては、例えばゴム、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)及びポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることが
できる。
【0052】
高分子組成物中の負熱膨張フィラーの含有量は、用いる高分子化合物の種類や、製造する材料の用途や目的に応じて適宜変更することができるが、高分子組成物に対して、好ましくは1体積%〜90体積%である。同様に、高分子組成物中の高分子化合物の含有量は、高分子組成物に対して、好ましくは10体積%〜99体積%である。
【0053】
高分子組成物は、負熱膨張フィラー及び高分子化合物に加えて、添加剤を更に含有させることができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離剤、染料、顔料を含む着色剤、難燃剤、架橋剤、軟化剤、分散剤、硬化剤、重合開始剤、無機充填剤等が挙げられる。添加物の含有量は、高分子組成物に対して、好ましくは10体積%〜90体積%である。
【0054】
本発明の高分子組成物は、公知の方法によって製造することができる。例えば、高分子化合物として硬化性樹脂を用いる場合、負熱膨張フィラー、硬化性樹脂(或いはプレポリマー)及び必要に応じて添加物を同時に混合して、成形体とする方法や、樹脂成分の1種にあらかじめ負熱膨張フィラー及び必要に応じて添加剤と混合して混合物とし、次いで、該混合物を硬化性樹脂(或いはプレポリマー)と混合して成形体とする方法等が挙げられる。
【0055】
また、高分子化合物として熱可塑性樹脂を用いる場合、負熱膨張フィラーと熱可塑性樹脂とをエクストルーダーで溶融混合して成形体とする方法や、負熱膨張フィラーと熱可塑性樹脂とを固体状態で混合した混合物を、射出成形機を用いて成形体とする方法等が挙げられる。
【0056】
このように製造された本発明の高分子組成物は、負熱膨張フィラーとして用いられる改質ZWPが備える高い負熱膨張性によって、熱膨張率が効果的に抑制され、熱による変形が生じづらい材料となる。また、負熱膨張フィラーとして用いられる改質ZWPからのイオンの溶出が少ないので、特に、電子部品の封止材料等の、精密機器の材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(ZWP粒子)の調製>
(1.ZWP粒子試料1)
市販の三酸化タングステン(WO;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水84質量部を添加し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1質量部添加し、分散液とした。この分散液を室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて120分間撹拌して、三酸化タングステンを含む15質量%スラリーを調製した。スラリー中の固形分の平均粒子径は1.2μmであった。
【0059】
次いで、スラリー中のZr:W:Pのモル比が2.00:1.00:2.00となるように、水酸化ジルコニウムと85質量%リン酸水溶液とを室温(25℃)でスラリーに添加し、反応液とした。この反応液を用いて、室温(25℃)で2時間、撹拌下で反応させた。反応終了後の反応液の全量を、200℃で24時間、大気下で乾燥を行って、反応前駆体を得た。得られた反応前駆体についてX線回折分析を行った結果、三酸化タングステンの回折ピークのみが観察された。
【0060】
続いて、得られた反応前駆体を950℃で2時間、大気中で焼成を行い、焼成品として白色のZWP粒子試料1を得た。得られたZWP粒子試料1についてX線回折分析を行ったところ、該試料1は、単相のZr(WO)(POであった。ZWP粒子試料1の平均粒子径及びBET比表面積を表1に示す。また、走査型電子顕微鏡観察を行った結果、得られたZWP粒子試料1の粒子形状は、図1に示すように破砕状であった。
【0061】
(2.ZWP粒子試料2)
市販の三酸化タングステン(WO;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水84質量部を添加し、分散液とした。この分散液を室温(25℃)で120分間撹拌して、三酸化タングステンを含む15質量%スラリーを調製した。スラリー中の固形分の平均粒子径は1.2μmであった。
【0062】
次いで、スラリー中のZr:W:P:Mgのモル比が2.00:1.00:2.00:0.1となるように、水酸化ジルコニウムと、85質量%リン酸水溶液と、水酸化マグネシウムとを室温(25℃)でスラリーに添加し、反応液とした。この反応液を80℃に昇温して4時間撹拌下に反応を行った。その後、反応終了後の反応液に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1質量部添加し、これを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズをメディア攪拌型ビーズミル(アシザワファインテック製、LMZ2)に供給し、2000rpmで15分間湿式粉砕を行った。湿式粉砕後の反応液中の固形分の平均粒子径は0.3μmであった。
【0063】
続いて、湿式粉砕後の反応液を、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度で供給し、反応前駆体を得た。得られた反応前駆体についてX線回折分析を行った結果、三酸化タングステンの回折ピークのみが観察された。
【0064】
最後に、得られた反応前駆体を960℃で2時間、大気中で焼成し、焼成品として白色のZWP粒子試料2を得た。得られたZWP粒子試料2をX線回折分析したところ、該試料2は単相のZr(WO)(POであった。ZWP粒子試料2の平均粒子径及びBET比表面積を表1に示す。また、走査型電子顕微鏡観察を行った結果、得られたZWP粒子試料2の粒子形状は、図2に示すように球状であった。
【0065】
【表1】
【0066】
(実施例1)
50gのZWP粒子試料1と、硝酸亜鉛六水和物を用いて調製した40質量%の硝酸亜鉛水溶液3.5gとを、気流式粉砕機(セイシン企業製、A−Oジェットミル)で粉砕混合して粉体混合物とし、該混合物を400℃にて大気雰囲気中で1時間加熱処理して、ZWP粒子の表面が酸化亜鉛で被覆された改質ZWPを得た。この改質ZWPは、破砕状の粒子であった。気流式粉砕機の条件は、粉体供給速度:3g/分、プッシャー圧:0.6MPa、ジェット圧:0.6MPaとした。
用いた硝酸亜鉛六水和物について以下の方法で測定したTG曲線を図3に示す。図3のTG曲線に示すように、硝酸亜鉛六水和物(分子量297.49)は310℃で分解されて酸化亜鉛(分子量81.40)となることが分かる。
従って、ZWP粒子の表面に存在する硝酸亜鉛は400℃での加熱処理で酸化亜鉛に転換されることが分かる。
<TG曲線の測定方法>
大気雰囲気下、25℃から700℃まで10℃/分で昇温したときのTG曲線を求めた。サンプル量は5.6mgとした。
【0067】
(実施例2)
40質量%の硝酸亜鉛水溶液3.5gに代えてクエン酸亜鉛二水和物粉末1.63gを用い、粉体混合物の加熱処理の温度を430℃とした以外は、実施例1と同様の方法で行い、ZWP粒子の表面が酸化亜鉛で被覆された改質ZWPを得た。この改質ZWPは、破砕状の粒子であった。
用いたクエン酸亜鉛二水和物について上記の方法で測定したTG曲線を図4に示す。図4のTG曲線に示すように、クエン酸亜鉛二水和物(分子量610.43)は430℃で分解されて酸化亜鉛(分子量81.40)となることが分かる。
従って、ZWP粒子の表面に存在するクエン酸亜鉛二水和物は430℃での加熱処理で酸化亜鉛に転換されることが分かる。
【0068】
(実施例3)
50gのZWP粒子試料2と、クエン酸亜鉛二水和物粉末1.63gとを加えて、20000rpmで1分間、混合機(ラボ用ミキサー:Labo Milser)で混合して粉体混合物とし、該混合物を大気雰囲気中で430℃で30分加熱処理して、ZWP粒子の表面が酸化亜鉛で被覆された改質ZWPを得た。この改質ZWPは、球状の粒子であった。
【0069】
(比較例1及び2)
ZWP粒子試料1のみを比較例1とし、ZWP粒子試料2のみを比較例2とした。つまり、各比較例は、ZWP粒子のみを用いており、該粒子表面が亜鉛化合物で被覆されていないものである。
【0070】
<物性の評価>
(粉体の熱膨張係数の評価)
実施例及び比較例で得られた粒子について、昇温機能が付いたXRD装置(リガク製 Ultima IV)にて、昇温速度20℃/分で、25℃から目標温度を100℃として昇温させ、目標温度に到達してから10分後に、試料のa軸、b軸、c軸に対する格子定数を測定した。次いで、目標温度を200℃、300℃、及び400℃として順次昇温させ、上述した方法と同様に、それぞれの温度における試料のa軸、b軸、c軸に対する格子定数を測定した。得られた格子体積変化(直方体)を線換算して、熱膨張係数(ppm/℃)を求めた(J.Mat.Sci.,(2000)35、p.2451−2454参照)。その結果を表2に示す。
【0071】
(溶出Pイオン量の評価)
実施例及び比較例で得られた粒子1gを純水70mLに添加して試験液とし、該試験液を85℃で1時間加熱処理した後、室温(25℃)まで冷却し、純水で試験液が100mLになるように調整した。この試験液を25℃で24時間静置後、該試験液をろ過により固液分離し、ろ液中の総Pイオン量をICP発光分光装置で測定し、改質ZWP1g当たりに溶出した総Pイオン量に換算し、その結果を表2に示す。
【0072】

【表2】
【0073】
表2に示すように、各実施例の改質ZWPは、比較例の粒子と比較して、同じレベルの負の熱膨張係数を有しつつ、粒子からのイオン溶出が抑制されていることが判る。
【0074】
(実施例4ないし6)
実施例1ないし3で得られた改質ZWPを負熱膨張フィラーとして用い、高分子組成物を製造した。詳細には、5.8gの負熱膨張フィラーと、高分子化合物として4.2gのエポキシ樹脂(三菱化学製 jER807、エポキシ当量160〜175)とを、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV−310)を用いて、回転速度2000rpmで混合して、30体積%のペーストを作製した。
【0075】
次いで、前記ペーストに硬化剤(四国化成製 キュアゾール)を100μL加えて、前記真空ミキサーを用いて、回転速度1500rpmで混合して、150℃で1時間にわたり硬化させて、目的とする高分子組成物を得た。得られた高分子組成物の断面を走査型電子顕微鏡像で観察したところ、いずれの実施例も、負熱膨張フィラーである改質ZWPが高分子組成物中に均一に分散していることが確認できた。
【0076】
(参考例1)
5.8gの改質ZWPに代えて、3.3gの球状溶融シリカ(平均粒子径10μm、線膨張係数5×10−7/℃)を負熱膨張フィラーとして用いて、30体積%のペーストを作製したほかは、実施例6と同様の方法で、目的とする高分子組成物を得た。得られた高分子組成物の断面を走査型電子顕微鏡像で観察したところ、球状溶融シリカ粒子が高分子組成物中に均一に分散していることが確認できた。
【0077】
<組成物の熱膨張係数の評価>
実施例及び参考例で得られた高分子組成物を5mm×5mm×10mmの直方体状に切り出し、測定サンプルとした。この測定サンプルを熱機械分析装置(TMA;NETZSCH社製、4000SE)を用いて、昇温速度1℃/分で30℃〜120℃の線膨張係数を測定した。その結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示すように、本発明の改質ZWPを負熱膨張フィラーとして用いた各実施例の高分子組成物は、線膨張係数が低く、熱による変形が起こりにくい材料であることが判る。
【0080】
(実施例7)
実施例1で得られた改質ZWP(改質ZWP(1))50gに対して、チタネート系カップリング剤(イソプロピルトリイソステアロイルチタネート)0.75gを加えて、気流式粉砕機(セイシン企業製、A−Oジェットミル)で粉砕混合して粉体混合物とし、該混合物を110℃で大気雰囲気中で4時間加熱処理して、改質ZWP粒子の表面がチタネート系カップリング剤で被覆された改質ZWP(2)試料を得た。この改質ZWP(2)試料は、破砕状の粒子であった。気流式粉砕機の条件は、粉体供給速度:3g/分、プッシャー圧:0.6MPa、ジェット圧:0.6MPaとした。
また、実施例1〜3と同様にして、得られた改質ZWP(2)試料から溶出するPイオン量を測定した。その結果を表4に示す。
【0081】
(実施例8)
実施例1で得られた改質ZWP(改質ZWP(1))50gに対して、シラン系カップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.75gを加えて、気流式粉砕機(セイシン企業製、A−Oジェットミル)で粉砕混合して粉体混合物とし、該混合物を110℃で大気雰囲気中で4時間加熱処理して、改質ZWP粒子の表面がシラン系カップリング剤で被覆された改質ZWP(2)試料を得た。この改質ZWP(2)試料は、破砕状の粒子であった。気流式粉砕機の条件は、粉体供給速度:3g/分、プッシャー圧:0.6MPa、ジェット圧:0.6MPaとした。
また、実施例1〜3と同様にして、得られた改質ZWP(2)試料から溶出するPイオン量を測定した。その結果を表4に示す。
【0082】

【表4】
【0083】
表4に示すように、更にカップリング剤処理を行った改質ZWP(2)は、より粒子からのイオン溶出が抑制されていることが判る。
【0084】
(実施例9及び10)
実施例7及び8で得られた改質ZWP(2)試料を負熱膨張フィラーとして用い、高分子組成物を製造した。詳細には、5.8gの負熱膨張フィラーと、高分子化合物として4.2gのエポキシ樹脂(三菱化学製 jER807、エポキシ当量160〜175)とを、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV−310)を用いて、回転速度2000rpmで混合して、30体積%のペーストを作製した。
【0085】
次いで、前記ペーストに硬化剤(四国化成製 キュアゾール)を100μL加えて、前記真空ミキサーを用いて、回転速度1500rpmで混合して、150℃で1時間にわたり硬化させて、目的とする高分子組成物を得た。得られた高分子組成物の断面を走査型電子顕微鏡像で観察したところ、いずれの実施例も、負熱膨張フィラーである改質ZWP(2)試料が高分子組成物中に均一に分散していることが確認できた。
【0086】
<組成物の熱膨張係数の評価>
実施例9及び10で得られた高分子組成物を5mm×5mm×10mmの直方体状に切り出し、測定サンプルとした。この測定サンプルを熱機械分析装置(TMA;NETZSCH社製、4000SE)を用いて、昇温速度1℃/分で30℃〜120℃の線膨張係数を測定した。その結果を表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
表5に示すように、本発明の改質ZWP(2)を負熱膨張フィラーとして用いた各実施例の高分子組成物は、線膨張係数が低く、熱による変形が起こりにくい材料であることが判る。


図1
図2
図3
図4