特許第6907495号(P6907495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6907495-両イオン性繊維 図000006
  • 特許6907495-両イオン性繊維 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907495
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】両イオン性繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/70 20060101AFI20210708BHJP
   C08B 11/10 20060101ALI20210708BHJP
   C08B 11/14 20060101ALI20210708BHJP
   C08B 30/00 20060101ALI20210708BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20210708BHJP
   D06M 11/155 20060101ALI20210708BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20210708BHJP
   D06M 101/10 20060101ALN20210708BHJP
【FI】
   D06M11/70
   C08B11/10
   C08B11/14
   C08B30/00
   C08B37/08 A
   D06M11/155
   D06M101:06
   D06M101:10
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-193394(P2016-193394)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-53401(P2018-53401A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】本間 郁絵
(72)【発明者】
【氏名】趙 孟晨
(72)【発明者】
【氏名】轟 雄右
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−007723(JP,A)
【文献】 特開2013−122109(JP,A)
【文献】 特表2013−531749(JP,A)
【文献】 特開2002−201202(JP,A)
【文献】 特開2004−250803(JP,A)
【文献】 特開2009−209376(JP,A)
【文献】 特表2016−533435(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/024876(WO,A1)
【文献】 特開2004−225029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 11/155
D06M 11/70
C08B 1/00−37/18
D06M 101/06
D06M 101/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性官能基を有し、かつ天然高分子である第1高分子を基材として含む両イオン性繊維であって、
前記第1高分子は、前記イオン性官能基として、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有し、
前記両イオン性繊維は、前記第1高分子が有する電荷とは反対の電荷の塩基性置換基を有する第2高分子を含み、
前記第2高分子が、前記第1高分子の表面に吸着している、両イオン性繊維。
【請求項2】
イオン性官能基を有し、かつ天然高分子である第1高分子を基材として含む両イオン性繊維であって、
前記第1高分子は、塩基性置換基を有し、
前記第1高分子は、セルロース、でんぷん及びキトサンから選択される少なくとも1種であり、
前記両イオン性繊維は、前記第1高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基を有する第2高分子を含み、
前記第2高分子が、前記第1高分子の表面に吸着している、両イオン性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両イオン性繊維に関する。具体的には、本発明は、天然高分子を基材として含む両イオン性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン交換樹脂は、クロマトグラフィー用充填剤やフィルターなどの工業製品に用いられている。イオン交換樹脂としては、各種樹脂を担体としてイオン吸着官能基を有する物質を担体に担持させたものや、担体樹脂に直接イオン吸着官能基を結合させたものが知られている。例えば、特許文献1には、セルロース繊維を担体とし、リン酸基をイオン吸着官能基として有するセルロースリン酸エステルが開示されている。ここでは、天然セルロース繊維であるセルロースIにアルカリ処理を施すことでセルロースIIを得ており、セルロースIIリン酸エステルを金属吸着剤として用いることが検討されている。
【0003】
また、イオン交換樹脂としては、両性イオン交換樹脂も知られている。両性イオン交換樹脂としては、担体樹脂の上面に陰イオン性官能基と陽イオン性官能基が化学結合したものが知られている。例えば、特許文献2には、炭素−水素結合を有する重合性単量体が重合した樹脂と、両イオン性官能基導入剤を反応させることで両性イオン交換樹脂を製造する方法が開示されている。ここでは、両イオン性官能基導入剤として、1分子中に陰イオン性官能基と陽イオン性官能基を有する化合物が用いられている。
【0004】
特許文献3には、粒子状の陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂を、樹脂繊維シートに担持させた両性イオン交換体繊維シートが開示されている。ここでは、樹脂繊維シート自体はイオン吸着官能基を有していないが、イオン吸着官能基を有する各種樹脂を繊維シートに担持させることで両性イオン交換体繊維シートが構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/042587号公報
【特許文献2】特開2014−118512号公報
【特許文献3】特開2015−167876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように各種イオン交換樹脂が知られているが、天然繊維自体が両性イオン交換能を備えたものはなく、両性イオン交換能を備えた天然繊維の開発が求められていた。
そこで本発明者らは、両性イオン交換能を備えた天然繊維を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、イオン性官能基を有する天然高分子を基材として含有させることで、両性イオン交換能を備えた両イオン性繊維を得ることに成功した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1] イオン性官能基を有し、かつ天然高分子である第1高分子を基材として含む両イオン性繊維。
[2] 第1高分子は、酸性置換基又は塩基性置換基を有し、両イオン性繊維は、第1高分子高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する第2高分子を含む[1]に記載の両イオン性繊維。
[3] 第1高分子は、酸性置換基を有し、第2高分子は塩基性置換基を有する高分子である[2]に記載の両イオン性繊維。
[4] 第1高分子は、塩基性置換基を有し、第2高分子は酸性置換基を有する高分子である[2]に記載の両イオン性繊維。
[5] 第1高分子は、セルロース、でんぷん及びキトサンから選択される少なくとも1種である[1]〜[4]のいずれかに記載の両イオン性繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、両性イオン交換能を備えた天然繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、繊維原料に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシル基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(両イオン性繊維)
本発明は、イオン性官能基を有し、かつ天然高分子である第1高分子を基材として含む両イオン性繊維に関する。本発明の両イオン性繊維は、天然高分子からなる天然繊維自体が両性イオン交換能を有するものである。ここで、両性イオン交換能とは、陰イオン交換能及び陽イオン交換能の両方を言う。
【0013】
本発明の両イオン性繊維は、天然繊維と、陰イオン性官能基及び陽イオン性官能基を有する化合物と、を反応させることで得られる両イオン性繊維であってもよい。この場合、本発明の両イオン性繊維は、天然繊維が両イオン性官能基を有するものであってもよい。
また、本発明の両イオン性繊維は、陰イオン性官能基を有する高分子と、陽イオン性官能基を有する高分子を有し、少なくともいずれか一方の高分子が天然高分子である両イオン性繊維であってもよい。この場合、2種の高分子が互いに吸着(相互作用)し、繊維状となることで両イオン性繊維が形成される。
【0014】
本発明においては、陰イオン性官能基は酸性官能基(以下、酸性置換基ともいう)であることが好ましく、陽イオン性官能基は塩基性官能基(以下、塩基性置換基ともいう)であることが好ましい。そして、本発明の両イオン性繊維は、酸性置換基を有する高分子(酸性高分子)と、塩基性置換基を有する高分子(塩基性高分子)を有し、少なくともいずれか一方の高分子が天然高分子である両イオン性繊維であることが好ましい。すなわち、イオン性官能基を有し、かつ天然高分子である第1高分子は、酸性置換基又は塩基性置換基を有し、両イオン性繊維は、第1高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する第2高分子を含むものであることが好ましい。
【0015】
なお、本明細書において、第2高分子は合成高分子であってもよいが、天然高分子であってもよい。上述した第2高分子が合成高分子である場合、本発明の両イオン性繊維は、酸性置換基又は塩基性置換基を有する天然高分子(第1高分子)と、天然高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する合成高分子(第2高分子)と、を含む両イオン性繊維である。また、上述した第2高分子が天然高分子である場合、本発明の両イオン性繊維は、酸性置換基又は塩基性置換基を有する第1の天然高分子(第1高分子)と、天然高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する第2の天然高分子(第2高分子)と、を含む両イオン性繊維である。なお、第2高分子が天然高分子場合、第1高分子と第2高分子は同じ天然高分子であってもよく、互いに異なる天然高分子であってもよい。取扱い性やコストなどの観点からは第1高分子と第2高分子が同じ天然高分子であることが好ましい。
【0016】
本発明の両イオン性繊維の好ましい第1の実施態様においては、イオン性官能基を有し、かつ天然高分子である第1高分子は、酸性置換基を有し、第2高分子は塩基性置換基を有する。第1の実施態様においては、第1高分子は酸性置換基を有しており、この場合の酸性置換基は、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。また、第1の実施態様においては、第2高分子は塩基性置換基を有しており、第2高分子は合成高分子であることが好ましい。この場合の塩基性置換基は、例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基及び4級アンモニウム基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、1級アミノ基及び2級アミノ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、1級アミノ基であることがさらに好ましい。
【0017】
第1の実施態様において、第1高分子はリン酸基を有することが好ましい。リン酸基は、リン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であることが好ましい。
【0018】
また、リン酸基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0019】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1以上n以下の整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0020】
第1の実施態様において、第2高分子は合成高分子であることが好ましく、合成高分子が有し得る塩基性置換基は、1級アミノ基であることが好ましい。例えば、塩基性置換基を有する第2高分子は以下の構造を構成単位として含むことが好ましい。なお、以下の構造式においてnは2以上の整数を表す。
【化2】
【0021】
本発明の両イオン性繊維の好ましい第2の実施態様においては、第1高分子は、塩基性置換基を有し、第2高分子は酸性置換基を有する。第2の実施態様においては、第1高分子は塩基性置換基を有しており、この場合の塩基性置換基は、例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基及び4級アンモニウム基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、4級アンモニウム基であることがより好ましい。また、第2の実施態様においては、第2高分子は酸性置換基を有しており、第2高分子もまた天然高分子であることが好ましい。この場合の酸性置換基は、例えば、リン酸基、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0022】
第2の実施態様において、第1高分子が有し得る4級アンモニウム基は、下記構造式で表される基であることが好ましい。
【化3】
【0023】
上記構造式において、R1〜R3はそれぞれ独立に、有機基を表し、R4は単結合もしくは2価の連結基を表す。R1〜R3はそれぞれ独立に、アルキル基を表すことが好ましく、炭素数が1〜5のアルキル基を表すことがより好ましい。また、R4はアルキレン基を表すことが好ましく、炭素数が1〜5のアルキレン基を表すことがより好ましい。なお、X-は、有機物または無機物からなる1価の陰イオンであり、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、酢酸イオン、プロピオン酸、水酸化物イオンを表すことが好ましく、水酸化物イオンを表すことが好ましい。
【0024】
第2の実施態様において、高分子が有し得る酸性置換基は、リン酸基であることが好ましく、リン酸基としては、上述したリン酸基を好ましく例示することができる。
【0025】
本発明においては、天然高分子は、セルロース、でんぷん、キチン及びキトサンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、セルロース繊維であることがより好ましい。また、高分子は、セルロース、でんぷん、キチン及びキトサンから選択される少なくとも1種から選択される天然高分子であってもよく、合成高分子(以下、合成樹脂ともいう)であってもよい。合成樹脂としては、炭素−水素結合を有する重合性単量体が重合した樹脂を挙げることができる。炭素−水素結合を有する重合性単量体としては、例えば、アリルアミン、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。なお、塩基性置換基を有する重合性単量体としてアリルアミン、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドを挙げることができ、酸性置換基を有する重合性単量体としてアクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸を挙げることができる。少なくとも、これら重合性単量体が含まれれば良く、単独で重合させても良いし、この他の重合性単量体と共重合させてもよい。
【0026】
また、合成樹脂としては、塩基性置換基及び酸性置換基の両方を有さない合成樹脂に、塩基性置換基又は酸性置換基を導入したものを用いることもできる。この場合、塩基性置換基及び酸性置換基の両方を有さない合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、ポリエチレングリコール(PEG)樹脂等を挙げることができる。
塩基性置換基は、例えばハロゲン化に次ぐシアノ化反応の後、還元をすることで導入することができる。また、酸性置換基は、例えばオゾン酸化、ジカルボン酸無水物とのエステル化、ハロゲン化に次ぐシアノ化反応の後、加水分解をすることで導入することができる。
【0027】
両イオン性繊維が、例えば、酸性置換基を有するセルロース繊維と、塩基性置換基を有する合成樹脂を含む繊維である場合、酸性置換基を有するセルロース繊維が有する電荷と、塩基性置換基を有する合成樹脂が有する電荷が引き寄せ合うことで、1本のセルロース繊維の表面に少なくとも1分子の合成樹脂が吸着し、これにより1本の繊維状となる。なお、両イオン性繊維が、酸性置換基を有するセルロース繊維と、塩基性置換基を有するセルロース繊維を含む繊維である場合、1本の酸性置換基を有するセルロース繊維の表面に、少なくとも1本の塩基性置換基を有するセルロース繊維が交絡し、酸性置換基と塩基性置換基が吸着し合い、繊維複合体となる。
【0028】
ここで、繊維が両イオン性であることは、例えば無機塩を含む水溶液と当該繊維を接触させ、繊維と接触させる前後の無機塩を含む水溶液の電気伝導度を測定することで判定できる。例えば、第1高分子としてセルロース繊維を用い、第2高分子として合成樹脂を用いた場合であって、セルロース繊維表面への合成樹脂の吸着が不十分である場合、これらが無機塩を含む水溶液中に放出された際には、無機塩を含む水溶液の電気伝導度は少なくとも低下しない。換言すれば、無機塩水溶液を含む水溶液の電気伝導度を低下させるためには、当該繊維内に、無機塩を構成する陽イオン、陰イオンの両方がトラップされる必要があるため、繊維が両イオン性を有する必要がある。このため、無機塩を含む水溶液の電気伝導度の低下の有無を判定することで、繊維が両イオン性を有するか否かを判別できる。
【0029】
本発明の両イオン性繊維は、酸性置換基又は塩基性置換基を有する天然高分子と、天然高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する高分子を含む繊維であり、1本の繊維が両性イオン交換能を備えている。このため、両イオン性繊維は、両イオン性繊維以外の他の構成物質(例えば、イオン交換樹脂等)を含まなくとも、両性イオン交換能を発揮することができる。両イオン性繊維は、両イオン性繊維以外の他の構成物質を含む必要がないため、両イオン性繊維からシートを形成した場合は、シートの厚みを容易に調整することができる。また、表面の性状が滑らかとなり、触感を向上させることができる。さらに、本発明の両イオン性繊維においては、天然高分子と高分子は電荷による吸着をしているため、いずれか一方の置換基のみが離脱することが抑制されている。
【0030】
また、本発明においては、両イオン性繊維に含まれる酸性置換基を有するセルロース繊維と、塩基性置換基を有する合成樹脂の含有量をコントロールすることによって、イオン吸着性を調整することもできる。例えば、セルロース繊維と合成樹脂の比率は質量比で200:1〜10:1とすることが好ましい。
【0031】
本発明においては、両イオン性繊維と無機塩水溶液を接触させた場合、接触前後で、無機塩水溶液の電気伝導度の低下が見られる。これは、本発明の両イオン性繊維が陽イオン、陰イオン両方を吸着する性能を有することを意味する。本発明においては、両イオン性繊維と接触する前の無機塩水溶液の電気伝導度(μS/cm)をPとし、両イオン性繊維1質量部(絶乾質量)に対し、0.01mmol/gの無機塩水溶液を110質量部加え、3分間攪拌混合した後、ろ別により固液分離して得られるろ液の電気伝導度(μS/cm)をQとした場合、Q/Pの値は、0.95以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましく、0.85以下であることがさらに好ましい。なお、Q/Pの値の下限値は特に限定されるものではなく、0であってもよい。
【0032】
(セルロース繊維)
本発明の両イオン性繊維は基材として天然高分子を有する。天然高分子はセルロース繊維であることが好ましい。なお、高分子も天然高分子(第2の天然高分子)であってもよく、この場合はセルロース繊維であってもよい。
【0033】
セルロース繊維を得るためのセルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。
【0034】
セルロース繊維の繊維幅は特に限定されない。例えば、セルロース繊維の繊維幅は1000nmよりも大きいものであってもよく、1000nm以下であってもよい。また、繊維幅が1000nmよりも大きいセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維が混在していてもよい。なお、セルロース繊維の繊維幅が1000nm以下である場合、このようなセルロース繊維を微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0035】
ここで、セルロース繊維の繊維幅は、電子顕微鏡観察によって以下の方法で測定することができる。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下のセルロース繊維水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。この際、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0036】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0037】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。
【0038】
セルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、0.1mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。また、50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。ここで、セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS−200形)を用い、長さ加重平均繊維長を測定することにより求めることができる。また、繊維の長さに応じて走査型顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて測定することもできる。
【0039】
セルロース繊維が微細繊維状セルロースである場合、微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0040】
<リン酸基を有するセルロース繊維>
セルロース繊維がリン酸基を有するものである場合、リン酸基導入工程を経ることでセルロース繊維にリン酸基を導入することができる。リン酸基導入工程では、セルロース繊維に対し、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化剤」又は「化合物A」ともいう)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化剤は、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、セルロース繊維のスラリーにリン酸化剤の粉末や水溶液を添加してもよい。すなわち、リン酸基導入工程は、少なくとも、セルロース繊維とリン酸化剤を混合する工程を含む。
【0041】
リン酸基導入工程は、セルロース繊維にリン酸化剤を反応させることにより行うことができるが、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。
【0042】
化合物Aを化合物Bの共存下でセルロース繊維に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、セルロース繊維含有スラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。セルロース繊維の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0043】
リン酸化剤(化合物A)は、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。中でも、リン酸、リン酸のナトリウム塩、又はリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩は好ましく用いられる。
【0044】
反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率がより高くなることからリン酸化剤(化合物A)は水溶液として用いることが好ましい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、セルロース繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0045】
セルロース繊維に対するリン酸化剤(化合物A)の添加量は特に限定されないが、リン酸化剤(化合物A)の添加量をリン原子量に換算した場合、セルロース繊維(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。セルロース繊維に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、リン酸化セルロース繊維の収率をより向上させることができる。セルロース繊維に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。一方、セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0046】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
【0047】
化合物Bは化合物Aと同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。セルロース繊維(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0049】
リン酸基導入工程は、加熱をする工程(以下、加熱処理工程ともいう)を有することが好ましい。加熱処理工程を設けることで、セルロース繊維にリン酸基を効率的に導入し、さらにリン酸基又はリン酸基由来の置換基の少なくとも一部を架橋させることができる。すなわち、本発明の組成物の製造方法は、セルロース繊維とリン酸化剤と混合する工程と、セルロース繊維とリン酸化剤の混合物を加熱する工程を含むことが好ましい。
【0050】
加熱処理工程における加熱処理温度は、セルロース繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0051】
加熱処理の際、化合物Aを添加したセルロース繊維含有スラリーに水が含まれている間において、セルロース繊維を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aがセルロース繊維表面に移動する。そのため、セルロース繊維中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、セルロース繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥によるセルロース繊維中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状のセルロース繊維を用いるか、ニーダー等でセルロース繊維と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0052】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、セルロース繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することができる。
【0053】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるがパルプスラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0054】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。例えば、リン酸基導入工程を2回行うことも好ましい態様である。
【0055】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リン酸基の含有量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、後述するようにセルロース繊維が有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
【0056】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定の際には、リン酸基を完全に酸型に変換させた後、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0057】
リン酸基の酸型への変換は、得られたリン酸化セルロース繊維を、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、十分な量の1N塩酸水溶液を少しずつ添加することで行う。リン酸基の酸型への変換では、上記のセルロース繊維含有スラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、1N塩酸水溶液を添加する操作を繰り返すことにより、セルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型へ変化させることが好ましい。そして、リン酸基の酸型への変換工程の後には、得られたセルロース繊維含有スラリーを攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流すことが好ましい。
【0058】
機械処理工程(微細化工程)では、得られた脱水シートにイオン交換水を注ぎ、セルロース繊維濃度が0.3質量%のセルロース繊維含有スラリーを得て、このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス‐2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間処理する。このようにして、微細繊維状セルロース含有スラリーを得る。
【0059】
アルカリを用いた滴定では、微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示すpHの値の変化を計測する。この中和滴定では、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液)を加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点を二つ与える(増分が最大となる点と、2番目に大きくなる点)。このうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点(以下、第1終点と呼ぶ)、までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、次に得られる増分の極大点(以下、第2終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して、第1解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をセルロース繊維が有するリン酸基の含有量とする。
【0060】
図1は、中和滴定において、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液)を加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線を例示したものである。第1終点までの領域を第1領域、第2終点までの領域を第2領域という。なお、第2領域の後には第3領域がある。すなわち、3つの領域が現れる。図1において、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。
【0061】
<カルボキシル基を有するセルロース繊維>
セルロース繊維がカルボキシル基を有するものである場合、カルボキシル基導入工程を経ることでセルロース繊維にカルボキシル基を導入することができる。カルボキシル基導入工程では、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によってセルロース繊維を処理することで、セルロース繊維にカルボキシル基を導入することができる。
【0062】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0063】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0064】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0065】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0066】
カルボキシル基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。
【0067】
カルボキシル基の導入量は伝導度滴定法で測定することができる。伝導度滴定法による測定の際には、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。機械処理工程(微細化工程)は、リン酸基の導入量を測定する際に行う工程と同様である。
【0068】
伝導度滴定法では、アルカリを加えていくと、図2に示した曲線を与える。この曲線は、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでを第1領域、その後、伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。図2で示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して、カルボキシル基の導入量(mmol/g)とする。
【0069】
<塩基性置換基を有するセルロース繊維>
セルロース繊維が塩基性置換基を有するものである場合、塩基性置換基導入工程を経ることでセルロース繊維に塩基性置換基を導入することができる。塩基性置換基導入工程では、セルロース繊維にカチオン化剤及びアルカリ化合物を添加して反応させることにより、塩基性置換基を導入することができる。
【0070】
カチオン化剤としては、4級アンモニウム基を有し、かつセルロースのヒドロキシル基と反応する基を有するものを用いることが好ましい。セルロースのヒドロキシル基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライドあるいはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
【0071】
アルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩などの無機アルカリ化合物であってもよいし、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物およびその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等の有機アルカリ化合物であってもよい。塩基性置換基の導入量の測定は、例えば微量窒素分析法などの元素分析等を用いて行うことができる。
【0072】
<解繊処理>
本発明における天然高分子が、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースである場合、解繊処理工程を設けることが好ましい。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0073】
<アルカリ処理工程>
上述した解繊処理工程の前には、アルカリ処理工程を設けてもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸化セルロース繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0074】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、水系溶媒であってもよい。また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0075】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸化セルロース繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
(合成高分子)
<塩基性置換基を有する合成樹脂>
塩基性置換基を有する合成樹脂は、塩基性置換基を有する重合性単量体を重合することで得ることができる。例えば、アリルアミンやジメチルアミノプロピルアクリルアミドを重合させることで塩基性置換基を有する合成樹脂を合成してもよい。
【0077】
また、塩基性置換基を有する合成樹脂は、塩基性置換基及び酸性置換基の両方を有さない合成樹脂に、塩基性置換基を導入することで得ることもできる。この場合、塩基性置換基及び酸性置換基の両方を有さない合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、ポリエチレングリコール(PEG)樹脂等を挙げることができる。そして、このような合成樹脂に、例えばハロゲン化に次ぐシアノ化反応の後、還元をすることで塩基性置換基を導入することができる。
【0078】
<酸性置換基を有する合成樹脂>
酸性置換基を有する合成樹脂は、酸性置換基を有する重合性単量体を重合することで得ることができる。例えば、アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸を重合させることで酸性置換基を有する合成樹脂を合成してもよい。
【0079】
また、酸性置換基を有する合成樹脂は、塩基性置換基及び酸性置換基の両方を有さない合成樹脂に、酸性置換基を導入することで得ることもできる。塩基性置換基及び酸性置換基の両方を有さない合成樹脂としては、上述した樹脂を同様に挙げることができる。そして、上記合成樹脂に、例えばオゾン酸化、ジカルボン酸無水物とのエステル化、ハロゲン化に次ぐシアノ化反応の後、加水分解をすることで酸性置換基を導入することができる。
【0080】
(両イオン性繊維の製造方法)
本発明の両イオン性繊維を製造する方法は、酸性置換基又は塩基性置換基を有する天然高分子と、天然高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する高分子と、を混合する工程(混合工程)を含む。
【0081】
本発明において、天然高分子が酸性置換基を有する場合、酸性置換基の塩型をH型に変換することが好ましい。すなわち、H型変換では、酸性置換基の対イオンを水素イオンに変換する。本発明においては、このような工程を塩型変換工程と呼ぶこともできる。塩型変換工程は上記混合工程の前に設けられることが好ましい。
【0082】
上記塩型変換工程では、酸性置換基を有する天然高分子含有スラリーに、塩酸等の酸性溶液を添加する。この際、天然高分子含有スラリーのpHが2以上3以下となるように酸性溶液を添加することが好ましい。塩型変換工程の後には、天然高分子含有スラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させる工程を繰り返して天然高分子の洗浄を行うことが好ましい。また、この酸性溶液の添加、洗浄を塩型変更が十分に行われるまで繰り返すことが好ましい。
【0083】
天然高分子が塩基性置換基を有する場合、塩基性置換基の塩型をOH型に変換することが好ましい。すなわち塩基性置換基の対イオンを水酸化物イオンとすることが好ましい。本発明においては、このような工程も塩型変換工程と呼ぶ。塩型変換工程は上記混合工程の前に設けられることが好ましい。
【0084】
上記塩型変換工程では、塩基性置換基を有する天然高分子含有スラリーに、水酸化ナトリウム溶液等の塩基性溶液を添加する。この際、天然高分子含有スラリーのpHが11以上12以下となるように塩基性溶液を添加することが好ましい。塩型変換工程の後には、天然高分子含有スラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させる工程を繰り返して天然高分子の洗浄を行うことが好ましい。また、この塩基性溶液の添加、洗浄を塩型変更が十分に行われるまで繰り返すことが好ましい。
【0085】
酸性置換基又は塩基性置換基を有する天然高分子と、天然高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する高分子と、を混合する工程(混合工程)では、上記の塩型変換工程を経て得られる天然高分子を含むスラリーに、酸性置換基又は塩基性置換基を有する高分子を添加して攪拌する。なお、酸性置換基又は塩基性置換基を有する高分子を添加する際は、高分子をスラリー等の溶液の状態で添加することが好ましい。
【0086】
上記混合工程の後には、スラリーを脱水し、脱水シートを得た後、乾燥工程を設けてもよい。乾燥工程では、20℃以上100℃以下の温度で乾燥を行うことが好ましい。なお、本発明は、両イオン性繊維からなるシートに関するものであってもよい。上記の工程を経ることにより、酸性置換基又は塩基性置換基を有する天然高分子と、天然高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する高分子を含む両イオン性繊維が得られる。
【0087】
上記混合工程では、酸性置換基又は塩基性置換基を有する天然高分子と、天然高分子が有する電荷とは反対の電荷の酸性置換基又は塩基性置換基を有する高分子以外の任意成分を混合してもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、填料、安定剤、アルコール等の水と混和可能な有機溶媒、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子、樹脂(ペレット状、繊維状)等を挙げることができる。
【0088】
(用途)
本発明の両イオン性繊維は、スラリー中に分散していてもよい。また、本発明の両イオン性繊維からシート(例えば、不織布やフィルター、積層体等)や粒状物(例えば、ビーズ、顆粒等)を形成してもよい。本発明の両イオン性繊維を用いることで、イオン交換や脱塩を行うことができる。本発明の両イオン性繊維は、イオン交換繊維として有用である。
【0089】
また、本発明の両イオン性繊維を含むシートを、加熱加圧成形をすることで成形体を形成してもよい。この場合、イオン交換樹脂等の充填剤の添加をしなくてもイオン交換や脱塩を行うことができる。
【0090】
さらに、本発明の両イオン性繊維を含むシートや粒状物は、例えば、汗、尿、経血等の吸収剤(おむつ等)として用いられる他、SAP等の吸水性材料の吸水量を高めるための前処理材としても利用できる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0092】
(製造例1)
<リン酸基の導入>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量% 坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプ(リン酸化セルロース繊維)を得た。
【0093】
<リン酸化パルプの洗浄>
得られたリン酸化パルプ(絶乾質量)100質量部に対して10000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、リン酸化パルプの脱水シートAを得た。脱水シートAにおいては、後述する滴定法で求められるリン酸基の導入量が1.1mmol/gであった。
【0094】
<リン酸基導入量の測定>
リン酸基の導入量は、中和滴定法により測定した。具体的には、リン酸化パルプ(リン酸化セルロース繊維)に含まれるリン酸基を完全に酸型に変換させた後、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリー(分散液)が示すpHの変化を求めることにより、導入量を測定した。
リン酸基の酸型への変換では、得られたリン酸化セルロース繊維を、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、十分な量の1N塩酸水溶液を少しずつ添加した。次いで、このセルロース繊維含有スラリーを15分間撹拌したのち脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、1N塩酸水溶液を添加する操作を繰り返すことにより、セルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型へ変化させた。さらに、このセルロース繊維含有スラリーを攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流した。
機械処理工程では、得られた脱水シートにイオン交換水を注ぎ、セルロース繊維濃度が0.3質量%のセルロース繊維含有スラリーを得た。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス‐2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間処理した。アルカリを用いた滴定では、微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示すpHの値の変化を計測した。
【0095】
この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点を二つ与える(増分が最大となる点と、2番目に大きくなる点)。このうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点(以下、第1終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、次に得られる増分の極大点(以下、第2終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。
第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象分散液中の固形分(g)で除して、第1解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をリン酸基の導入量とした。
【0096】
<リン酸化パルプの塩型変換(H型)>
リン酸化パルプの脱水シートA(絶乾質量)100質量部に対して5000質量部のイオン交換水を加え希釈した。次いで、攪拌しながら、1N塩酸を少しずつ添加し、pHが2以上3以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流し、リン酸化パルプ(H型)を得た。
【0097】
<リン酸化パルプ(H型)への塩基性高分子吸着>
得られたリン酸化パルプ(H型)(絶乾質量)100質量部に対して5000質量部のイオン交換水を加え希釈した。次いで、攪拌しながら、パルプの100質量部(絶乾質量)に対して、ポリアリルアミン(ニットーボーメディカル株式会社製、PAA−03、重量平均分子量3000、固形分20質量%)を添加した。その際、ポリアリルアミン中の固形分量が2.5質量部(絶乾質量)となるよう少しずつ添加した。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返した。さらに、得られたパルプシートを、アセトンで十分に置換した後、40℃の防爆乾燥機にて乾燥させ、ポリアリルアミン(PAA−03)吸着リン酸化パルプ(両イオン性繊維)を得た。
【0098】
(製造例2)
ポリアリルアミン(ニットーボーメディカル株式会社製、PAA−03)の代わりに、ポリアリルアミン(ニットーボーメディカル株式会社製、PAA−08、重量平均分子量8000、固形分15質量%)を用いた以外は、製造例1と同様にして、ポリアリルアミン(PAA−08)吸着リン酸化パルプ(両イオン性繊維)を得た。
【0099】
(製造例3)
ポリアリルアミン(ニットーボーメディカル株式会社製、PAA−03)の代わりに、ポリアリルアミン(ニットーボーメディカル株式会社製、PAA−25、重量平均分子量25000、固形分10質量%)を用いた以外は、製造例1と同様にして、ポリアリルアミン(PAA−25)吸着リン酸化パルプ(両イオン性繊維)を得た。
【0100】
(製造例4)
<TEMPO酸化反応>
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプとTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル)1.25質量部と、臭化ナトリウム12.5質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が3.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上11以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0101】
<TEMPO酸化パルプの洗浄>
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られたTEMPO酸化パルプ(TEMPO酸化セルロース繊維)のカルボキシル基の導入量は1.1mmol/gであった。
【0102】
<TEMPO酸化パルプの塩型変換(H型)>
得られた脱水シート(絶乾質量)100質量部に対して、5000質量部のイオン交換水を加えて希釈した。次いで、攪拌しながら、1N塩酸を少しずつ添加し、pHが2以上3以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流し、TEMPO酸化パルプ(H型)を得た。
【0103】
<TEMPO酸化パルプ(H型)への塩基性高分子吸着>
得られたTEMPO酸化パルプ(H型)(絶乾質量)100質量部に対して5000質量部のイオン交換水を加え希釈した。次いで、攪拌しながら、パルプの100質量部(絶乾質量)に対して、ポリアリルアミン(ニットーボーメディカル株式会社製、PAA−08、重量平均分子量8000、固形分15質量%)を添加した。その際、ポリアリルアミン中の固形分量が2.5質量部(絶乾質量)となるよう少しずつ添加した。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返した。さらに、得られたパルプシートを、アセトンで十分に置換した後、40℃の防爆乾燥機にて乾燥させ、ポリアリルアミン(PAA−08)吸着TEMPO酸化パルプ(両イオン性繊維)を得た。
【0104】
(製造例5)
<パルプのフラッフィング>
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を抄き上げたシート(パルプ含有量90質量%)をハンドミキサー(大阪ケミカル製、ラボミルサーPLUS)を用い、回転数20000rpmで15秒間処理して綿状のフラッフィングパルプ(パルプ含有量90質量%)にした。
【0105】
<カチオン化反応>
次いで、カチオン化剤(カチオマスターG、四日市合成株式会社製、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、純分73.1質量%、含水率20.2質量%)100質量部と1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液70質量部とを混合したカチオン化剤混合液を、スプレーを用いて、フラッフィングパルプ100質量部に噴霧し、ポリ塩化ビニリデン製の袋の中に入れ、その袋を手で揉むことにより、カチオン化剤混合液をパルプに均一に浸透させて、反応用試料を調製した。
その後、袋内の空気を除去し、80℃で1時間反応させて、カチオン化パルプAを得た。
【0106】
<複数回カチオン化>
得られたカチオン化パルプAに、上記のカチオン化剤混合液を同様の方法で添加し、反応させることでカチオン化パルプBを得た。
【0107】
<カチオン化パルプの洗浄>
得られたカチオン化パルプB(絶乾質量)100質量部に対して、5000質量部のイオン交換水を加え、攪拌しながら洗浄した後、脱水した。その洗浄・脱水の処理を4回繰り返し、洗浄済カチオン化パルプを得た。微量窒素分析法により、洗浄済みカチオン化パルプ(カチオン化セルロース繊維)に含まれるカチオン基量を測定したところ、1.1mmol/gであった。
【0108】
<カチオン化パルプの塩型変換(OH型)>
得られた洗浄済みカチオン化パルプ(絶乾質量)100質量部に対して5000質量部のイオン交換水を加え希釈した。次いで、攪拌しながら、1NのNaOH水溶液を少しずつ加え、pH11以上12以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流し、カチオン化パルプ(OH型)を得た。
【0109】
得られたカチオン化パルプ(OH型)(絶乾質量)100質量部に対して5000質量部のイオン交換水を加え希釈した。ここに、製造例1で得られたリン酸化パルプ(H型)(絶乾質量)100質量部に5000質量部のイオン交換水を加え希釈したスラリーを、攪拌しながら少しずつ加えた。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返した。さらに、得られたパルプシートを、アセトンで十分に置換した後、40℃の防爆乾燥機にて乾燥させ、リン酸化パルプ−カチオン化パルプ複合体(両イオン性繊維)を得た。
【0110】
(実施例1〜5)
製造例1〜5で得られたパルプ1質量部(絶乾質量)に対し、0.01mmol/gの塩化カルシウム水溶液を110質量部加え、3分間攪拌混合した後、ろ別により固液分離を行った。この際、パルプと塩化カルシウム水溶液を接触させる前の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度と、接触させた後の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度を測定した。
【0111】
(比較例1)
製造例1に記載のポリアリルアミンを吸着させる前のリン酸化パルプ(H型)1質量部(絶乾質量)に対し、0.01mmol/gの塩化カルシウム水溶液を110質量部加え、3分間攪拌混合した後、ろ別により固液分離を行った。この際、パルプと塩化カルシウム水溶液を接触させる前の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度と、接触させた後の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度を測定した。
【0112】
(比較例2)
製造例4に記載のポリアリルアミンを吸着させる前のTEMPO酸化パルプ(H型)1質量部(絶乾質量)に対し、0.01mmol/gの塩化カルシウム水溶液を110質量部加え、3分間攪拌混合した後、ろ別により固液分離を行った。この際、パルプと塩化カルシウム水溶液を接触させる前の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度と、接触させた後の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度を測定した。
【0113】
(比較例3)
製造例5に記載のリン酸化セルロース繊維と複合化する前のカチオン化パルプ(OH型)1質量部(絶乾質量)に対し、0.01mmol/gの塩化カルシウム水溶液を110質量部加え、3分間攪拌混合した後、ろ別により固液分離を行った。この際、パルプと塩化カルシウム水溶液を接触させる前の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度と、接触させた後の塩化カルシウム水溶液の電気伝導度を測定した。
【0114】
【表1】
【0115】
実施例では、種々の両イオン性繊維が得られた。また、実施例では、得られた両イオン性繊維と塩化カルシウム水溶液の接触前後で、塩化カルシウム水溶液の電気伝導度が低下しており、陽イオン、陰イオン共に両イオン繊維に吸着されていることが示唆された。
図1
図2