(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に関して、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.樹脂組成物
1−1.構成
1−2.製造方法
1−3.作用および効果
2.樹脂シート
2−1.構成
2−2.製造方法
2−3.作用および効果
3.樹脂硬化物
3−1.構成
3−2.製造方法
3−3.作用および効果
4.樹脂基板
4−1.構成
4−2.製造方法
4−3.作用および効果
【0019】
以下で説明する本発明の一実施形態は、その本発明を説明するための例示である。このため、本発明は、ここで説明する一実施形態だけに限定されない。本発明の一実施形態は、その本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の実施形態に変更可能である。
【0020】
<1.樹脂組成物>
まず、本発明の一実施形態の樹脂組成物に関して説明する。
【0021】
樹脂組成物は、後述する樹脂シート、樹脂硬化物および樹脂基板などを製造するために用いられる。ただし、樹脂組成物の用途は、他の用途でもよい。
【0022】
<1−1.構成>
この樹脂組成物は、エポキシ化合物と、下記の式(1)で表される第1トリナフチルベンゼン化合物と、下記の式(2)で表される第2トリナフチルベンゼン化合物とを含んでいる。
【0023】
【化3】
(R1〜R21のそれぞれは、水素基および水酸基のうちのいずれかである。ただし、R1〜R21のうちの少なくとも1つは、水酸基である。)
【0024】
【化4】
(R31〜R51のそれぞれは、水素基、水酸基およびアルコキシ基のうちのいずれかである。ただし、R31〜R51のうちの少なくとも1つは、水酸基であると共に、R31〜R51のうちの少なくとも1つは、アルコキシ基である。)
【0025】
ここで説明する樹脂組成物は、上記したように、樹脂シートなどの中間生成物を製造すると共に、樹脂基板などの最終生成物(樹脂硬化物)を製造するために用いられる。この「中間生成物」とは、後述するように、樹脂組成物の硬化反応(架橋反応)が実質的に完了していない状態の物質を意味している。また、「最終生成物」とは、後述するように、樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了した状態の物質を意味している。
【0026】
熱硬化性樹脂であるエポキシ化合物は、いわゆる主剤である。一方、エポキシ化合物と一緒に用いられると共に反応基(水酸基)を含む第1トリナフチルベンゼン化合物は、上記したように、反応基を用いてエポキシ化合物の架橋反応を進行させるための第1硬化剤である。また、エポキシ化合物と一緒に用いられると共に反応基(水酸基)および反応調整基(アルコキシ基)を含む第2トリナフチルベンゼン化合物は、上記したように、反応基を用いてエポキシ化合物の架橋反応を進行させつつ、反応調整基を用いてエポキシ化合物の架橋反応の速度を調整する(架橋反応の速度を意図的に遅くする)ための第2硬化剤である。
【0027】
樹脂組成物がエポキシ化合物と共に第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物を含んでいるのは、樹脂硬化物の熱伝導性を確保しつつ、その樹脂硬化物の成形性が改善されるからである。
【0028】
詳細には、優れた熱伝導性を有する骨格(1,3,5−トリナフチルベンゼン)と架橋反応を進行させる反応基とを含む第1トリナフチルベンゼン化合物を用いることで、樹脂組成物を用いて樹脂硬化物が製造されると共に、その樹脂硬化物の熱伝導性が向上する。
【0029】
この場合には、上記した第1トリナフチルベンゼン化合物と一緒に、架橋反応を進行させる反応基とその架橋反応の速度を調整する反応調整基とを含む第2トリナフチルベンゼン化合物を用いることで、反応点(架橋点)の数が多くなりすぎないように抑えられる。この場合には、硬化反応時において硬化反応速度が速くなりすぎないように抑えられるため、樹脂組成物の溶融粘度も低下する。これにより、硬化反応時においても樹脂組成物の流動状態が維持されやすくなるため、その樹脂硬化物を成形しやすくなる。
【0030】
特に、第2トリナフチルベンゼン化合物は、第1トリナフチルベンゼン化合物の骨格と同様の骨格(1,3,5−トリナフチルベンゼン)を含んでいる。この場合には、第2トリナフチルベンゼン化合物に含まれている骨格においても、第1トリナフチルベンゼン化合物に含まれている骨格と同様に、優れた熱伝導性が得られる。よって、第1トリナフチルベンゼン化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物とを併用しても、熱伝導性を低下させずに、樹脂硬化物の成形性が向上する。
【0031】
ただし、下記の数式(A)で表される割合M(mol%)は、0.2mol%〜16.4mol%である。
【0032】
M(mol%)=(M1/M2)×100 ・・・(A)
M1:第2トリナフチルベンゼン化合物に含まれているアルコキシ基のモル数(mol)
M2:第1トリナフチルベンゼン化合物に含まれている水酸基のモル数(mol)と第2トリナフチルベンゼン化合物に含まれている水酸基のモル数(mol)と第2トリナフチルベンゼン化合物に含まれているアルコキシ基のモル数(mol)との和
【0033】
割合M、すなわち反応基(水酸基)の総モル数と反応調整基(アルコキシ基)の総モル数との和(M2)に対する反応調整基の総モル数(M1)の割合が上記した範囲内であるのは、架橋反応を進行させる水酸基の数と架橋反応の速度を調整する反応調整基の数とのバランスが適正化されるからである。これにより、上記したように、硬化反応速度が適度に抑えられると共に樹脂組成物の溶融粘度が低下するため、硬化反応時においても樹脂組成物の流動状態が維持されると共に、その硬化反応を利用して樹脂硬化物を製造できる。
【0034】
詳細には、割合Mが0.2mol%よりも小さいと、反応調整基の数が少なすぎるため、反応調整基を含む第2トリナフチルベンゼン化合物を用いているにもかかわらず、硬化反応時において架橋反応の速度が十分に遅くならない。この場合には、樹脂組成物の溶融粘度が十分に低下しないため、硬化反応時において樹脂組成物の流動状態が十分に維持されない。よって、熱伝導性は向上するが、成形性は不十分である。
【0035】
また、割合Mが16.4mol%よりも大きいと、反応調整基の数が多すぎるため、反応基を含む第1トリナフチルベンゼン化合物と反応基を含む第2トリナフチルベンゼン化合物を用いているにもかかわらず、硬化反応時において架橋反応が十分に進行しない。よって、樹脂組成物が十分に硬化反応しないため、樹脂硬化物を製造することが困難である。
【0036】
これに対して、割合Mが0.2mol%〜16.4mol%であると、硬化反応時において架橋反応が十分に進行すると共に、その架橋反応の速度が速くなりすぎないように抑えられる。この場合には、樹脂組成物の溶融粘度が十分に低下しつつ、その樹脂組成物が十分に硬化反応する。よって、熱伝導性の向上と成形性の確保とが両立される。
【0037】
中でも、割合Mは、0.2mol%〜5.1mol%であることが好ましい。架橋反応を進行させる水酸基の数と架橋反応の速度を調整する反応調整基の数とのバランスがより適正化されるからである。これにより、成形性を確保しながら、熱伝導性がより向上する。
【0038】
ここで、割合Mを求める手順は、例えば、以下の通りである。
【0039】
割合Mを求めるためには、上記した中間生成物である樹脂シートなどを用いてもよいし、上記した最終生成物である樹脂硬化物(樹脂基板など)を用いてもよい。樹脂シートの種類は、後述する樹脂シート10,20,30のうちのいずれでもよいと共に、樹脂基板の種類は、後述する樹脂基板40,50,60,70のうちのいずれでもよい。以下では、樹脂硬化物を例に挙げて説明する。
【0040】
(手順1)
最初に、硬化剤として第1トリナフチルベンゼン化合物だけを用いて樹脂硬化物を製造したのち、その樹脂硬化物に反応試薬を添加する。続いて、熱分解装置(日本分析工業株式会社製キュリーポイントパイロライザJHP−5)を用いて、樹脂硬化物を急速加熱(温度=445℃,時間=6秒間)した。これにより、樹脂硬化物が熱分解したため、熱分解反応生成物が得られた。この熱分解反応生成物は、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物との反応物が解離した化合物である。続いて、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製GCMS−QP5050A)を用いて、熱分解反応生成物を質量分析した。この場合には、10℃/分の昇温速度でカラム温度を40℃から320℃まで昇温させたのち、そのカラム温度を320℃のままで15分間保持した。これにより、第1トリナフチルベンゼン化合物に由来する反応生成物の保持時間が確認される。
【0041】
(手順2)
次に、硬化剤として第1トリナフチルベンゼン化合物に代えて第2トリナフチルベンゼン化合物を用いたことを除き、上記した手順1と同様の手順により、樹脂硬化物を製造すると共に、第2トリナフチルベンゼン化合物に由来する反応生成物の保持時間を確認する。
【0042】
(手順3)
次に、硬化剤として第1トリナフチルベンゼン化合物だけを用いて、その第1トリナフチルベンゼン化合物の含有量が異なる複数の樹脂硬化物を製造する。続いて、複数の樹脂硬化物を用いることを除き、上記した手順1と同様の手順により、第1トリナフチルベンゼン化合物に由来する反応生成物の保持時間を確認する。この確認結果に基づいて、反応生成物のピーク面積に関する検量線を作成する。
【0043】
(手順4)
次に、硬化剤として第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物を用いることを除き、上記した手順1と同様の手順により、樹脂硬化物を製造したのち、第1トリナフチルベンゼン化合物に由来する反応生成物の保持時間を確認すると共に、第2トリナフチルベンゼン化合物に由来する反応生成物の保持時間を確認する。ここで作製される樹脂硬化物は、割合Mが求められる試料(以下、単に「試料」という。)である。
【0044】
続いて、手順1において確認された保持時間におけるピーク面積と、手順2において確認された保持時間におけるピーク面積と、手順4において確認された保持時間におけるピーク面積との比率から、試料中における第1トリナフチルベンゼン化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物との存在比率を算出する。
【0045】
続いて、手順3において作成された検量線を用いて、試料中における第1トリナフチルベンゼン化合物の含有量を算出する。続いて、第1トリナフチルベンゼン化合物に含まれる水酸基の個数と、第2トリナフチルベンゼン化合物に含まれる水酸基の個数およびアルコキシ基の個数と、第1トリナフチルベンゼン化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物との存在比率と、試料中における第1トリナフチルベンゼン化合物の含有量とに基づいて、第1トリナフチルベンゼン化合物に含まれている水酸基のモル数(mol)と、第2トリナフチルベンゼン化合物に含まれている水酸基のモル数(mol)およびアルコキシ基のモル数(mol)とを算出したのち、それらのモル数の和M2(mol)を求める。
【0046】
(手順5)
最後に、第2トリナフチルベンゼン化合物に含まれているアルコキシ基のモル数M1(mol)と、上記したモル数の和M2(mol)とに基づいて、数式(A)を用いて割合M(mol%)を算出する。
【0047】
この樹脂組成物は、粉体状および塊状などの固体状でもよいし、液体状でもよいし、双方が混在する状態でもよい。この樹脂組成物の状態は、用途などに応じて適宜決定される。
【0048】
なお、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物との混合比は、特に限定されない。ただし、エポキシ基を含むエポキシ化合物と反応基を含む第1トリナフチルベンゼン化合物とが架橋反応する場合には、一般的に、1つのエポキシ基と反応基中の1つの活性水素とが反応する。このように1つのエポキシ基と反応基中の1つの活性水素とが反応することは、反応基を含む第2トリナフチルベンゼン化合物に関しても同様である。よって、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物との反応効率を高くするためには、エポキシ化合物に含まれているエポキシ基の総数と、第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物のそれぞれに含まれている活性水素の総数とが1:1となるように、混合比を設定することが好ましい。
【0049】
[エポキシ化合物]
主剤であるエポキシ化合物は、1つの分子の中に1つ以上のエポキシ基(−C
3 H
5 O)を含む化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上である。中でも、エポキシ化合物は、1つの分子の中に2つ以上のエポキシ基を含んでいることが好ましい。エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物とが反応しやすくなると共に、エポキシ化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物とが反応しやすくなるからである。
【0050】
エポキシ化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、環状脂肪族型エポキシ化合物および長鎖脂肪族型エポキシ化合物などである。
【0051】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物およびビスフェノールF型エポキシ化合物などである。ノボラック型エポキシ化合物は、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ化合物およびフェノールノボラック型エポキシ化合物などである。この他、エポキシ化合物の種類は、例えば、難燃性エポキシ化合物、ヒダントイン系エポキシ樹脂およびイソシアヌレート系エポキシ化合物などでもよい。
【0052】
なお、グリシジルエーテル型エポキシ化合物の具体例は、グリシジルエーテル型の構造(基)を含んでいる化合物であれば、特に限定されない。このように特定の構造を含んでいれば種類が限定されないことは、グリシジルエステル型エポキシ化合物などの他のエポキシ化合物の具体例に関しても同様である。
【0053】
中でも、エポキシ化合物は、1つの分子の中にメソゲン骨格を含んでいることが好ましい。その理由は、以下の通りである。
【0054】
第1に、エポキシ化合物の分子同士において、ベンゼン環同士が重なりやすくなるため、そのベンゼン環間の距離が小さくなる。これにより、樹脂組成物では、エポキシ化合物の密度が向上する。また、樹脂硬化物では、分子の格子振動が散乱しにくくなるため、高い熱伝導率が得られる。
【0055】
特に、上記した分子の格子振動の散乱現象は、熱伝導率を低下させる大きな要因であるため、その分子の格子振動の散乱現象が抑制されることで、熱伝導率の低下が著しく抑制される。
【0056】
第2に、エポキシ化合物および第1トリナフチルベンゼン化合物において、エポキシ化合物のメソゲン骨格に含まれているベンゼン環と、第1トリナフチルベンゼン化合物の骨格(1,3,5−トリナフチルベンゼン)に含まれているベンゼン環とが重なりやすくなる。このようにベンゼン環同士が重なりやすくなることは、エポキシ化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物に関しても同様である。よって、上記したエポキシ化合物の分子同士においてベンゼン環同士が重なりやすくなる場合と同様の理由により、高い熱伝導率が得られる。
【0057】
この「メソゲン骨格」とは、2つ以上の芳香環を含むと共に剛直性および配向性を有する原子団の総称である。具体的には、メソゲン骨格は、例えば、2つ以上のベンゼン環を含むと共にベンゼン環同士が単結合および非単結合のうちのいずれかを介して結合された骨格である。
【0058】
なお、3つ以上のベンゼン環が結合される場合、その結合の方向性は、特に限定されない。すなわち、3つ以上のベンゼン環は、直線状となるように結合されてもよいし、途中で1回以上折れ曲がるように結合されてもよいし、2つ以上の方向に分岐するように結合されてもよい。
【0059】
「非単結合」とは、1または2以上の構成元素を含むと共に1または2以上の多重結合を含む2価の基の総称である。具体的には、非単結合は、例えば、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)および水素(H)などの構成元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。また、非単結合は、多重結合として、二重結合および三重結合のうちの一方または双方を含んでいる。
【0060】
メソゲン骨格は、ベンゼン環同士の結合の種類として、単結合だけを含んでいてもよいし、非単結合だけを含んでいてもよいし、単結合および非単結合の双方を含んでいてもよい。また、非単結合の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0061】
非単結合の具体例は、下記の式(3−1)〜式(3−10)のそれぞれで表される結合などである。なお、式(3−6)および式(3−10)のそれぞれに示した矢印は、配位結合を表している。
【0063】
メソゲン骨格の具体例は、ビフェニルおよびターフェニルなどである。なお、ターフェニルは、o−ターフェニルでもよいし、m−ターフェニルでもよいし、p−ターフェニルでもよい。
【0064】
[第1トリナフチルベンゼン化合物]
第1硬化剤である第1トリナフチルベンゼン化合物は、骨格(1,3,5−トリナフチルベンゼン)と反応基(水酸基)とを含む化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上である。すなわち、第1トリナフチルベンゼン化合物では、1つの分子の中に骨格として1,3,5−トリナフチルベンゼンが含まれていると共に、その骨格に水酸基が導入されている。
【0065】
この骨格(1,3,5−トリナフチルベンゼン)は、中心に位置する1つのベンゼン環(中心ベンゼン環)と、その中心ベンゼン環の周囲に位置する3つのナフタレン環(周辺ナフタレン環)とを含んでいる。
【0066】
以下では、R1〜R7が導入されている周辺ナフタレン環を「第1周辺ナフタレン環」、R8〜R14が導入されている周辺ナフタレン環を「第2周辺ナフタレン環」、R15〜R21が導入されている周辺ナフタレン環を「第3周辺ナフタレン環」とする。このことは、後述する第2トリナフチルベンゼン化合物に関しても同様である。
【0067】
R1〜R21のそれぞれの種類は、水素基および水酸基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。すなわち、R1〜R21のそれぞれは、水素基でもよいし、水酸基でもよい。
【0068】
ただし、R1〜R21のうちの1つ以上は、水酸基である。第1トリナフチルベンゼン化合物が反応基(水酸基)を用いて架橋反応を進行させるためには、その第1トリナフチルベンゼン化合物が1つ以上の水酸基を含んでいなければならないからである。この条件が満たされていれば、水酸基の数および導入位置などは、特に限定されない。中でも、R1〜R21のうちの2つ以上は、水酸基であることが好ましい。エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物とが反応しやすくなるからである。
【0069】
特に、R1〜R21の種類に関しては、さらに、以下の条件のうちの一方または双方が満たされていることが好ましい。
【0070】
第1条件として、R1〜R7のうちの1つ以上は水酸基であり、R8〜R14のうちの1つ以上は水酸基であり、R15〜R21のうちの1つ以上は水酸基であることが好ましい。水酸基の総数が3つ以上でも、その3つ以上の水酸基の導入位置が第1〜第3周辺ナフタレン環のそれぞれに分散されるため、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物とが反応しやすくなるからである。
【0071】
この場合において、R1〜R7のうちの1つ以上が水酸基であれば、その1つ以上の水酸基が第1周辺ナフタレン環に導入される位置は、特に限定されない。このように、水酸基の数が1つ以上である場合において、その1つ以上の水酸基の導入位置が限定されないことは、第2周辺ナフタレン環に導入される1つ以上の水酸基の位置に関しても同様であると共に、第3周辺ナフタレン環に導入される1つ以上の水酸基の位置に関しても同様である。
【0072】
第2条件として、R1〜R7のうちの1つは水酸基であり、R8〜R14のうちの1つは水酸基であり、R15〜R21のうちの1つは水酸基であることが好ましい。水酸基の総数が3つである場合において、その3つの水酸基の導入位置が第1〜第3周辺ナフタレン環のそれぞれに分散されるため、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物とが反応しやすくなるからである。
【0073】
この場合において、R1〜R7のうちの1つが水酸基であれば、その1つの水酸基が第1周辺ナフタレン環に導入される位置は、特に限定されない。このように、水酸基の数が1つである場合において、その1つの水酸基の導入位置が限定されないことは、第2周辺ナフタレン環に導入される1つの水酸基の位置に関しても同様であると共に、第3周辺ナフタレン環に導入される1つの水酸基の位置に関しても同様である。
【0074】
第1トリナフチルベンゼン化合物の具体例は、下記の式(1−1)および式(1−2)のそれぞれで表される化合物などである。式(1−1)に示した化合物において、水酸基の数は3つであると共に、式(1−2)に示した化合物において、水酸基の数は6つである。
【0076】
中でも、式(1−1)に示した化合物が好ましい。上記した第1および第2条件が満たされているからである。
【0077】
[第2トリナフチルベンゼン化合物]
第2硬化剤である第2トリナフチルベンゼン化合物は、骨格(1,3,5−トリナフチルベンゼン)と反応基(水酸基)および反応調整基(アルコキシ基)とを含む化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上である。すなわち、第2トリナフチルベンゼン化合物では、1つの分子の中に骨格として1,3,5−トリナフチルベンゼンが含まれていると共に、その骨格に水酸基およびアルコキシ基が導入されている。
【0078】
上記したように、第1トリナフチルベンゼン化合物は、反応基(水酸基)を含んでいるが、反応調整基(アルコキシ基)を含んでいない。これに対して、第2トリナフチルベンゼン化合物は、反応基(水酸基)を含んでいると共に、反応調整基(アルコキシ基)も含んでいる。
【0079】
R31〜R51のそれぞれの種類は、水素基、水酸基およびアルコキシ基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。すなわち、R31〜R51のそれぞれは、水素基でもよいし、水酸基でもよいし、アルコキシ基でもよい。なお、第2トリナフチルベンゼン化合物が複数のアルコキシ基を含んでいる場合、その複数のアルコキシ基の種類は、同じでもよいし、異なってもよい。もちろん、複数のアルコキシ基のうちの一部が同じ種類でもよい。
【0080】
この反応調整基であるアルコキシ基は、上記したように、硬化反応時において、架橋の反応が速くなりすぎることを防止するために、反応点(架橋点)の数を多くなりすぎないように抑える機能を果たす。
【0081】
アルコキシ基の具体例は、メトキシ基(−OCH
3)、エトキシ基(−OC
2H
5)およびプロポキシ基(−OC
3H
7)などであり、それら以外の他の基でもよい。中でも、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。第2トリナフチルベンゼン化合物を容易に合成可能であると共に、反応調整基が十分な機能を発揮できるからである。なお、プロポキシ基中のプロピル基(−C
3H
7)は、ノルマルプロピル基(−CH
2CH
2CH
3)でもよいし、イソプロピル基(−CH(CH
3)
2)でもよい。
【0082】
ただし、R31〜R51のうちの1つ以上は、水酸基である。第2トリナフチルベンゼン化合物が水酸基を用いて架橋反応を進行させるためには、その第2トリナフチルベンゼン化合物は1つ以上の水酸基を含んでいなければならないからである。この条件が満たされていれば、水酸基の数および導入位置などは、特に限定されない。
【0083】
また、R31〜R51のうちの1つ以上は、アルコキシ基である。第2トリナフチルベンゼン化合物がアルコキシ基を用いて架橋反応の速度を調整するためには、その第2トリナフチルベンゼン化合物は1つ以上のアルコキシ基を含んでいなければならないからである。この条件が満たされていれば、アルコキシ基の数および導入位置などは、特に限定されない。
【0084】
特に、R31〜R51の種類に関しては、以下の3つの条件のうちの1つまたは2つ以上が満たされていることが好ましい。
【0085】
第3条件として、R31〜R37のうちの1つはアルコキシ基であり、R38〜R51のそれぞれは水素基および水酸基であることが好ましい。すなわち、第1〜第3周辺ナフタレン環のうち、1つの周辺ナフタレン環にアルコキシ基が導入されていると共に、残りの2つの周辺ナフタレン環にアルコキシ基が導入されていないことが好ましい。最低限の数のアルコキシ基が利用されるため、架橋反応の速度が低下しすぎないからである。
【0086】
第4条件として、R31〜R37のうちの1つはアルコキシ基であり、R38〜R44のうちの1つはアルコキシ基であり、R45〜R51のそれぞれは水素基および水酸基のうちのいずれかであることが好ましい。すなわち、第1〜第3周辺ナフタレン環のうち、2つの周辺ナフタレン環のそれぞれにアルコキシ基が1つずつ導入されていると共に、残りの1つの周辺ナフタレン環にアルコキシ基が導入されていないことが好ましい。アルコキシ基の数が2つである場合において、その2つのアルコキシ基の導入位置が2つの周辺ベンゼン環に分散されるため、アルコキシ基の立体障害が発生しにくくなるからである。しかも、水酸基の数が多すぎないため、第2トリナフチルベンゼン化合物の含有量が少なくても、架橋反応の速度が十分に遅くなるからである。
【0087】
第5条件として、第2トリナフチルベンゼン化合物(1つの分子)において、水酸基の数とアルコキシ基の数との和は、3であることが好ましい。すなわち、水酸基の数は1つ以上であると共にアルコキシ基の数は1つ以上であるため、水酸基の数は1つであると共にアルコキシ基の数は2つであるか、水酸基の数は2つであると共にアルコキシ基の数は1つであることが好ましい。架橋反応の進行とその架橋反応の速度調整とを両立させる上で、最低限の数の水酸基と最低限の数のアルコキシ基とが確保されるからである。
【0088】
第2トリナフチルベンゼン化合物の具体例は、下記の式(2−1)〜式(2−6)のそれぞれで表される化合物などである。式(2−1)、式(2−3)および式(2−5)のそれぞれに示した化合物では、上記した第3および第5条件が満たされているからである。また、式(2−2)、式(2−4)および式(2−6)のそれぞれに示した化合物では、上記した第4および第5条件が満たされているからである。なお、式(2−1)、式(2−3)および式(2−5)のそれぞれに示した化合物において、アルコキシ基の数は1つである。式(2−2)、式(2−4)および式(2−6)のそれぞれに示した化合物において、アルコキシ基の数は2つである。
【0090】
なお、式(2−1)〜式(2−6)のそれぞれでは、各周辺ナフタレン環において、水酸基およびアルコキシ基のそれぞれが6位に導入されている場合を示している。しかしながら、水酸基およびアルコキシ基のそれぞれが各周辺ナフタレン環に導入される位置は、6位に限らず、その他の置換位置でもよい。
【0091】
[他の材料]
この樹脂組成物は、上記したエポキシ化合物、第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物と一緒に、他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0092】
他の材料の種類は、特に限定されないが、例えば、添加剤、溶媒、他の硬化剤および無機粒子などである
【0093】
添加剤は、例えば、硬化触媒およびカップリング剤などである。硬化触媒の具体例は、ホスフィン、イミダゾールおよびそれらの誘導体などであり、そのイミダゾールの誘導体は、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどである。カップリング剤の具体例は、シランカップリング剤およびチタネートカップリング剤などである。
【0094】
溶媒は、液体状の樹脂組成物において、エポキシ化合物、第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物を分散または溶解させるために用いられる。この溶媒は、有機溶剤などのうちのいずれか1種類または2種類以上であり、その有機溶剤の具体例は、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、アセトン、1,3−ジオキソラン、N−メチルピロリドンおよびγ−ブチロラクトンなどである。
【0095】
他の硬化剤は、骨格として1,3,5−トリナフチルベンゼンを含んでいないが、1つ以上の反応基を含んでいる化合物であり、ここで説明する反応基は、例えば、水酸基およびアミノ基のうちの一方または双方である。この他の硬化剤の具体例は、フェノール、アミンおよび酸無水物などである。
【0096】
なお、効果の観点から、1,3,5−トリナフチルベンゼンを含む硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基の数に対して、1,3,5−トリナフチルベンゼンを含む硬化剤の活性水素の数が少なくとも50%以上となるように含まれることが好ましい。
【0097】
無機粒子は、粒子状の無機材料のうちのいずれか1種類または2種類以上である。この無機粒子の具体例は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al
2 O
3 )および窒化ホウ素(BN)などである。
【0098】
<1−2.製造方法>
この樹脂組成物は、例えば、以下の手順により製造される。
【0099】
固体状の樹脂組成物を得る場合には、エポキシ化合物と、第1トリナフチルベンゼン化合物と、第2トリナフチルベンゼン化合物とを混合する。塊状などのエポキシ化合物を用いる場合には、混合前にエポキシ化合物を粉砕してもよい。このように混合前に粉砕してもよいことは、第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物に関しても同様である。これにより、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物とを含む固体状の樹脂組成物が得られる。
【0100】
なお、固体状の樹脂組成物を得たのち、必要に応じて、金型などを用いて樹脂組成物を成形してもよい。
【0101】
液体状の樹脂組成物を得る場合には、上記したエポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物との混合物に溶媒を加えたのち、ミキサなどの撹拌装置を用いて溶媒を撹拌する。これにより、溶媒中にエポキシ化合物、第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物が分散または溶解される。よって、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物とを含む液体状の樹脂組成物が得られる。
【0102】
この他、液体状の樹脂組成物を得る場合には、固体状の樹脂組成物を加熱して、その樹脂組成物を溶融させてよい。この場合には、必要に応じて、金型などを用いて樹脂組成物の溶融物を成形したのち、その溶融物を冷却してもよい。
【0103】
なお、エポキシ化合物としては、粉体状および塊状などの固体状の化合物を用いてもよいし、液体状の化合物を用いてもよいし、双方を併用してもよい。同様に、第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物などの硬化剤としては、粉体状および塊状などの固体状の化合物を用いてもよいし、液体状の化合物を用いてもよいし、双方を併用してもよい。ここで説明したことは、上記した他の材料に関しても同様である。
【0104】
<1−3.作用および効果>
この樹脂組成物によれば、エポキシ化合物と、式(1)に示した第1トリナフチルベンゼン化合物と、式(2)に示した第2トリナフチルベンゼン化合物とを含んでいると共に、割合Mが0.2mol%〜16.4mol%である。この場合には、上記したように、樹脂硬化物の熱伝導性などを確保しつつ、その樹脂硬化物の成形性が改善される。よって、優れた熱的特性を得ることができる。
【0105】
特に、割合Mが0.2mol%〜5.1mol%であれば、成形性を確保しつつ熱伝導性がより向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0106】
また、式(1)において、R1〜R7のうちの1つ以上が水酸基であり、R8〜R14のうちの1つ以上が水酸基であり、R15〜R21のうちの1つ以上が水酸基であれば、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物とが反応しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。この場合には、R1〜R7のうちの1つが水酸基であり、R8〜R14のうちの1つが水酸基であり、R15〜R21のうちの1つが水酸基であれば、さらに高い効果を得ることができる。
【0107】
また、第1トリナフチルベンゼン化合物は、式(1−1)に示した化合物を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0108】
また、式(2)において、R31〜R37のうちの1つがアルコキシ基であり、R38〜R51のそれぞれが水素基および水酸基のうちのいずれかであれば、エポキシ化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物とが反応しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0109】
また、R31〜R37のうちの1つがアルコキシ基であり、R38〜R44のうちの1つがアルコキシ基であり、R45〜R51のそれぞれが水素基および水酸基のうちのいずれかであれば、第2トリナフチルベンゼン化合物の含有量が少なくても架橋反応の速度が十分に遅くなるため、特に成形性の観点においてより高い効果を得ることができる。
【0110】
また、第2トリナフチルベンゼン化合物(1つの分子)において、水酸基の数とアルコキシ基の数との和が3であれば、より高い効果を得ることができる。
【0111】
また、第2トリナフチルベンゼン化合物が式(2−1)〜式(2−6)のそれぞれに示した化合物のうちの1種類または2種類以上を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0112】
なお、反応調整基の種類は、上記したアルコキシ基に限られず、硬化反応時において反応点(架橋点)の数を多くなりすぎないように抑えることが可能な基であり、すなわち架橋反応の速度を速くなりすぎないように抑えることが可能な基であれば、特に限定されない。この反応調整基は、架橋反応に関与しない基、すなわちエポキシ化合物と第2トリナフチルベンゼン化合物との反応に用いられない基でもよい。
【0113】
<2.樹脂シート>
次に、本発明の一実施形態の樹脂シートに関して説明する。以下では、既に説明した樹脂組成物を「本発明の樹脂組成物」という。
【0114】
樹脂シートは、本発明の樹脂組成物を含んでいる。この樹脂シートの構成は、本発明の樹脂組成物を含んでいれば、特に限定されない。すなわち、樹脂シートは、樹脂組成物と一緒に他の構成要素を備えていなくてもよいし、その樹脂組成物と一緒に他の構成要素を備えていてもよい。
【0115】
<2−1.構成>
図1は、樹脂シート10の断面構成を表している。この樹脂シート10は、シート状に成形された樹脂組成物(樹脂組成物層1)であり、より具体的には、1つの樹脂組成物層1からなる単層体である。樹脂シート10の厚さなどは、特に限定されない。樹脂組成物層1の構成は、シート状に成形されていることを除き、本発明の樹脂組成物の構成と同様である。
【0116】
図2は、樹脂シート20の断面構成を表している。この樹脂シート20は、複数の樹脂組成物層1が積層された積層体である。樹脂シート20において、樹脂組成物層1が積層される数(積層数)は、2層以上であれば、特に限定されない。
図2では、例えば、樹脂組成物層1の積層数が3層である場合を示している。なお、樹脂シート20において、各樹脂組成物層1の構成は、特に限定されない。すなわち、各樹脂組成物層1における樹脂組成物の構成は、同じでもよいし、異なってもよい。もちろん、複数の樹脂組成物層1のうち、一部の樹脂組成物層1における樹脂組成物の構成が同じでもよい。
【0117】
図3は、樹脂シート30の断面構成を表している。この樹脂シート30は、シート状に成形された樹脂組成物(樹脂組成物層1)と一緒に芯材2を備えており、例えば、2つの樹脂組成物層1により芯材2が挟まれた3層構造を有している。
【0118】
芯材2は、例えば、繊維状物質および非繊維状物質などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、シート状に成形されている。繊維状物質は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、天然繊維および合成繊維などであり、シート状に成形された繊維状物質は、例えば、織布および不織布などである。合成繊維の具体例は、ポリエステル繊維およびポリアミド繊維などである。非繊維状物質は、例えば、高分子化合物などであり、シート状に成形された非繊維状物質は、例えば、高分子フィルムなどである。高分子化合物の具体例は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などである。
【0119】
芯材2の厚さは、特に限定されないが、機械的強度および寸法安定性などの観点から、例えば、0.03mm〜0.2mmであることが好ましい。
【0120】
なお、樹脂シート30に用いられる樹脂組成物層1は、1層だけでもよいし、2層以上でもよい。このように1層でも2層以上でもよいことは、芯材2に関しても同様である。
【0121】
また、樹脂シート30は、2つの樹脂組成物層1により芯材2が挟まれた3層構造に限らず、樹脂組成物層1と芯材2とが積層された2層構造を有していてもよい。なお、2つ以上の樹脂シート30が積層されていてもよい。
【0122】
<2−2.製造方法>
樹脂シート10を製造する場合には、例えば、本発明の樹脂組成物の製造方法と同様の手順を用いる。
【0123】
具体的には、固体状の樹脂組成物を用いる場合には、シート状となるように樹脂組成物を成形して、樹脂組成物層1を形成する。この場合には、固体状の樹脂組成物をそのまま成形してもよいし、固体状の樹脂組成物の溶融物を成形してもよい。溶融物を成形する場合には、まず、固体状の樹脂組成物を加熱して、その樹脂組成物を溶融させる。続いて、樹脂組成物の溶融物を成形したのち、その成形物を冷却する。
【0124】
液体状の樹脂組成物を用いる場合には、高分子フィルムなどの支持体の表面に液体状の樹脂組成物を塗布したのち、その液体状の樹脂組成物を乾燥させる。これにより、液体状の樹脂組成物に含まれていた溶媒が揮発するため、支持体の表面において樹脂組成物がシート状に成形される。すなわち、支持体の表面において樹脂組成物が膜化する。よって、樹脂組成物層1が形成される。こののち、支持体から樹脂組成物層1を剥離する。
【0125】
樹脂シート20を製造する場合には、上記した樹脂組成物層1の形成手順を繰り返して、複数の樹脂組成物層1を積層させる。この場合には、複数の樹脂組成物層1が積層された積層体を形成したのち、必要に応じて加熱しながら、積層体を加圧してもよい。これにより、樹脂組成物層1同士が密着する。
【0126】
3層構造を有する樹脂シート30を製造する場合には、例えば、液体状の樹脂組成物を芯材2の両面に塗布したのち、その液体状の樹脂組成物を乾燥させる。これにより、芯材2を挟むように2つの樹脂組成物層1が形成される。この液体状の樹脂組成物の塗布工程では、芯材2が繊維状物質を含んでいる場合には、その液体状の樹脂組成物により芯材2の表面が被覆されると共に、その液体状の樹脂組成物の一部が芯材2の内部に含浸する。または、芯材2が非繊維状物質を含んでいる場合には、その液体状の樹脂組成物により芯材2の表面が被覆される。
【0127】
もちろん、2層構造を有する樹脂シート30を製造する場合には、液体状の樹脂組成物を芯材2の片面だけに塗布すればよい。
【0128】
なお、樹脂シート30を製造する場合には、例えば、固体状の樹脂組成物を加熱して、その樹脂組成物を溶融させたのち、その溶融物中に芯材2を浸漬させてもよい。この場合には、溶融物中から芯材2を取り出したのち、その芯材2を冷却する。これにより、芯材2の両面に樹脂組成物層1が形成される。
【0129】
ここで、樹脂シート10,20,30を製造するために液体状の樹脂組成物を用いる場合には、上記したように、乾燥工程において液体状の樹脂組成物が膜化(固体化)する。ただし、ここで説明する「膜化(固体化)」とは、流動性を有する状態(液体状態)の物質が自立可能な状態(固体状態)に変化することを意味しており、いわゆる半硬化状態も含む。すなわち、液体状の樹脂組成物が膜化する場合には、硬化反応が実質的に完了していないため、その樹脂組成物が実質的に未硬化の状態にある。このため、液体状の樹脂組成物を膜化させる際の乾燥条件は、硬化反応を実質的に完了させない条件であることが好ましい。具体的には、乾燥温度は60℃〜150℃であると共に乾燥時間は1分間〜120分間であることが好ましく、乾燥温度は70℃〜120℃であると共に乾燥時間は3分間〜90分間であることがより好ましい。
【0130】
このように硬化反応を実質的に完了させない条件が好ましいことは、樹脂シート10,20,30を製造するために固体状の樹脂組成物の溶融物を用いる場合に関しても同様である。すなわち、固体状の樹脂組成物を溶融させる際の加熱条件(加熱温度および加熱時間)は、硬化反応を実質的に完了させない条件であることが好ましい。
【0131】
<2−3.作用および効果>
この樹脂シートによれば、上記した本発明の樹脂組成物を含んでいるので、その樹脂組成物と同様の理由により、優れた熱的特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、本発明の樹脂組成物と同様である。
【0132】
<3.樹脂硬化物>
次に、本発明の一実施形態の樹脂硬化物に関して説明する。
【0133】
<3−1.構成>
樹脂硬化物は、上記した本発明の樹脂組成物の硬化反応物を含んでおり、より具体的には、エポキシ化合物と第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物との硬化反応物を含んでいる。この硬化反応物では、エポキシ化合物に含まれているエポキシ基と、第1トリナフチルベンゼン化合物および第2トリナフチルベンゼン化合物のそれぞれに含まれている水酸基とが架橋反応しているため、いわゆる架橋ネットワークが形成されている。
【0134】
なお、樹脂硬化物の形状は、特に限定されない。具体的には、樹脂硬化物は、所望の形状となるように成型されていてもよし、成型されていなくてもよい。
【0135】
また、樹脂硬化物の物性は、特に限定されない。具体的には、樹脂硬化物は、外力に応じて変形しにくい性質(剛性)を有していてもよいし、外力に応じて変形しやすい性質(可撓性または柔軟性)を有していてもよい。
【0136】
<3−2.製造方法>
この樹脂硬化物を製造する場合には、樹脂組成物を加熱する。これにより、樹脂組成物が硬化反応するため、硬化反応物である樹脂硬化物が得られる。
【0137】
加熱温度および加熱時間などの加熱条件は、特に限定されないが、上記した樹脂シートの製造方法とは異なり、硬化反応を実質的に進行させる条件であることが好ましい。
【0138】
<3−3.作用および効果>
この樹脂硬化物によれば、上記した本発明の樹脂組成物の硬化反応物を含んでいるので、その樹脂組成物と同様の理由により、優れた熱的特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、本発明の樹脂組成物と同様である。
【0139】
<4.樹脂基板>
次に、本発明の一実施形態の樹脂基板に関して説明する。以下では、既に説明した樹脂シートを「本発明の樹脂シート」、樹脂硬化物を「本発明の樹脂硬化物」とそれぞれ呼称する。
【0140】
樹脂基板は、上記した本発明の樹脂硬化物の適用例の1つであり、その本発明の樹脂硬化物を含んでいる。ここで説明する樹脂基板は、例えば、本発明の樹脂シートの硬化反応物を含んでおり、その樹脂基板の構成は、本発明の樹脂シートの硬化反応物を含んでいれば、特に限定されない。
【0141】
なお、樹脂硬化物の物性(剛性の有無)に関して説明したことは、樹脂基板の物性に関しても同様である。
【0142】
すなわち、樹脂基板は、剛性を有していてもよいし、可撓性または柔軟性を有していてもよい。このため、ここで説明する樹脂基板には、例えば、樹脂シートの硬化反応物であれば、剛性を有する硬化反応物だけでなく、可撓性または柔軟性を有する硬化反応物も含まれる。この可撓性または柔軟性を有する硬化反応物は、例えば、シート状の接着剤である接着テープなどである。
【0143】
また、樹脂基板が含んでいる樹脂シートの硬化反応物の数は、特に限定されない。すなわち、樹脂シートの硬化反応物の数は、1つだけでもよいし、2つ以上でもよい。なお、樹脂シートの硬化反応物の数が2つ以上である場合、その2つ以上の樹脂シートの硬化反応物は、積層されていてもよい。
【0144】
<4−1.構成>
図4は、樹脂基板40の断面構成を表している。この樹脂基板40は、
図1に示した樹脂シート10の硬化反応物である。すなわち、樹脂基板40は、樹脂組成物層1の硬化反応物(樹脂硬化物層3)であり、より具体的には、1つの樹脂硬化物層3からなる単層体である。
【0145】
図5は、樹脂基板50の断面構成を表している。この樹脂基板50は、
図2に示した樹脂シート20の硬化反応物であり、より具体的には、複数の樹脂組成物層1の硬化反応物(樹脂硬化物層3)が積層された積層体である。樹脂硬化物層3が積層される数(積層数)は、2層以上であれば、特に限定されない。
図5では、例えば、樹脂硬化物層3の積層数が3層である場合を示している。
【0146】
図6は、樹脂基板60の断面構成を表している。この樹脂基板60は、
図3に示した樹脂シート30の硬化反応物であり、より具体的には、2つの樹脂硬化物層3により1つの芯材2が挟まれた3層構造を有している。
【0147】
図7は、樹脂基板70の断面構成を表している。この樹脂基板70では、2つ以上の樹脂シート30の硬化反応物が積層されている。ここでは、例えば、3つの樹脂シート30の硬化反応物が積層されている。すなわち、2つの樹脂硬化物層3により1つの芯材2が挟まれた3層構造が形成されており、その3層構造が3段重ねられている。
【0148】
なお、上記した3層構造が重ねられる数(段数)は、3段に限らず、2段でもよいし、4段以上でもよい。この段数は、樹脂基板70の厚さおよび強度などの条件に基づいて適宜設定可能である。
【0149】
ここでは図示していないが、樹脂基板70は、金属層を備えていてもよい。この金属層は、例えば、最上層の樹脂硬化物層3の表面に設けられると共に、最下層の樹脂硬化物層3の表面に設けられる。
【0150】
金属層は、例えば、銅、ニッケルおよびアルミニウムなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。また、金属層は、例えば、金属箔および金属板などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、単層でもよいし、多層でもよい。金属層の厚さは、特に限定されないが、例えば、3μm〜150μmである。この金属層を備えた樹脂基板70は、いわゆる金属張り基板である。
【0151】
なお、金属層は、最上層の樹脂硬化物層3の表面だけに設けられてもよいし、最下層の樹脂硬化物層3の表面だけに設けられてもよい。
【0152】
この金属層を備えた樹脂基板70には、必要に応じて、エッチング処理および穴開け処理などの各種処理のうちのいずれか1種類または2種類以上が施されていてもよい。この場合には、樹脂基板70と、上記した各種処理が施された金属層と、樹脂シート10,20,30のうちのいずれか1種類または2種類以上とを重ねることで、多層基板としてもよい。
【0153】
このように、金属層を設けてもよいと共に、多層基板としてもよいことは、樹脂基板70に限らず、上記した樹脂基板40,50,60に関しても同様である。
【0154】
<4−2.製造方法>
樹脂基板40を製造する場合には、樹脂シート10を加熱する。これにより、上記したように、樹脂組成物層1中において樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了するため、
図4に示したように、樹脂組成物層1の硬化反応物である樹脂硬化物層3が形成される。
【0155】
樹脂基板50を製造する場合には、樹脂シート20を加熱する。これにより、上記したように、各樹脂組成物層1中において樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了するため、
図5に示したように、複数の樹脂組成物層1の硬化反応物である複数の樹脂硬化物層3が形成される。
【0156】
樹脂基板60を製造する場合には、樹脂シート30を加熱する。これにより、上記したように、各樹脂組成物層1中において樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了するため、
図6に示したように、芯材2の両面に樹脂組成物層1の硬化反応物である樹脂硬化物層3が形成される。
【0157】
図8は、樹脂基板70の製造方法を説明するために、
図7に対応する断面構成を表している。この樹脂基板70を製造する場合には、まず、
図8に示したように、3つの樹脂シート30を積層させる。これにより、3つの樹脂シート30の積層体が得られる。こののち、積層体を加熱する。これにより、各樹脂シート30では、各樹脂組成物層1中において樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了するため、
図7に示したように、各芯材2の両面に、樹脂組成物層1の硬化反応物である樹脂硬化物層3が形成される。
【0158】
ここで、樹脂シート10,20,30を製造するために樹脂組成物の溶融物を用いる場合には、上記したように、樹脂組成物の溶融時において硬化反応が実質的に完了することを回避する。このため、樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了する温度よりも、溶融物を得るために樹脂組成物を加熱する温度を低くすることが好ましい。言い替えれば、樹脂組成物の溶融温度は、その樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了する温度よりも低いことが好ましい。
【0159】
一例を挙げると、金型を用いた成形工程では、一般的に、成形時の加熱温度の最高値(最高温度)が250℃程度になる。このため、樹脂組成物の溶融温度は、250℃よりも低い温度であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。
【0160】
ここで説明する「溶融温度」とは、樹脂組成物の硬化反応が実質的に完了することを回避しつつ、その樹脂組成物が固体状態から流動(溶融)状態に変化する温度である。この溶融温度を特定するためには、例えば、ホットプレートなどの加熱器具を用いて樹脂組成物を加熱しながら、その樹脂組成物の状態を目視で観察する。この場合には、へらなどを用いて樹脂組成物を混ぜ合わせながら、加熱温度を次第に上昇させる。これにより、樹脂組成物が溶融し始めた温度を溶融温度とする。
【0161】
上記したように、成形時の最高温度が250℃程度である場合には、例えば、その成形時の加熱温度を樹脂組成物の溶融温度よりも50℃以上高い温度、具体的には100℃〜250℃とすると共に、加熱時間を1分間〜300分間程度とする。これにより、硬化反応が実質的に完了する温度において樹脂組成物が十分に加熱されるため、その硬化反応が均一に進行する。
【0162】
なお、金型を用いた成形工程では、必要に応じて、プレス機などを用いて樹脂組成物を加圧してもよいし、その樹脂組成物が存在する環境中の圧力を増減してもよい。
【0163】
特に、樹脂基板70を製造する場合には、樹脂シート30の積層方向において積層体を加圧しながら、その積層体を加熱することが好ましい。樹脂シート30同士の密着性などが向上するからである。この場合の加熱条件および加圧条件は、特に限定されない。一例を挙げると、加熱温度は100℃〜250℃、加熱時間は1分間〜300分間であると共に、加圧圧力は0.5MPa〜8MPaである。
【0164】
<4−3.作用および効果>
この樹脂基板によれば、本発明の樹脂硬化物を含んでいるので、その樹脂硬化物と同様の理由により、優れた熱的特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、本発明の樹脂硬化物と同様である。
【実施例】
【0165】
本発明の実施例に関して、詳細に説明する。
【0166】
(実施例1〜10、比較例1〜4)
以下で説明する手順により、
図5に示したように、複数の樹脂硬化物層3が積層された積層体からなる樹脂基板50を製造した。なお、以下で説明する含有量(質量部)は、固形分に換算した値である。
【0167】
樹脂基板50を製造する場合には、最初に、エポキシ化合物と、第1硬化剤と、第2硬化剤と、添加剤(硬化触媒)とを混合した。この場合には、エポキシ化合物に含まれているエポキシ基の数と、第1硬化剤および第2硬化剤のそれぞれに含まれている活性水素の数との比が1:1になるように、エポキシ化合物と第1硬化剤と第2硬化剤との混合比を調整した。
【0168】
エポキシ化合物、第1硬化剤および第2硬化剤のそれぞれの有無、種類および混合物中の含有量(質量部)は、表1に示した通りである。エポキシ化合物として、ビフェニル型エポキシ樹脂(YL6121H:三菱化学株式会社製)を用いた。第1硬化剤として、式(1−1)に示した化合物、及び、1,5−ジアミノナフタレン(東京化成株式会社製)を用いた。第2硬化剤として、式(2−1)および式(2−2)、式(2−3)、式(2−5)のそれぞれに示した化合物を用いた。表1に示した「TNB骨格」の有無は、第1硬化剤が骨格として1,3,5−トリナフチルベンゼンを含んでいるか否かを表している。硬化触媒として、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ:四国化成株式会社製)を用いると共に、その硬化触媒の添加量は、エポキシ化合物と硬化剤との合計に対して1質量%とした。
【0169】
この場合には、第1硬化剤および第2硬化剤のそれぞれの種類および含有量などを変更して、割合M(mol%)を調整した。割合M(mol%)は、表1に示した通りである。
【0170】
続いて、溶媒(メチルエチルケトン)に混合物を投入したのち、その溶媒を撹拌した。この硬化触媒の添加量は、エポキシ化合物と硬化剤との合計に対して1質量%とした。これにより、溶媒中においてエポキシ化合物、第1硬化剤および第2硬化剤が溶解されたため、液体状の樹脂組成物が得られた。この場合には、固形分(エポキシ化合物、第1硬化剤および第2硬化剤)の濃度を65質量%とした。
【0171】
続いて、支持体(PETフィルム,厚さ=0.05mm)の表面に液体状の樹脂組成物を塗布したのち、その液体状の樹脂組成物を乾燥(温度=100℃)した。これにより、支持体の表面に樹脂組成物層1が形成されたため、
図1に示した単層体である樹脂シート10(厚さ=0.1mm)が得られた。こののち、支持体から樹脂シート10を剥離した。
【0172】
続いて、10枚の樹脂シート10を重ねて、
図2に示した積層体である樹脂シート20(樹脂組成物層1の積層数=10層)を作製した。最後に、平板プレス機を用いて積層体を加熱(温度=170℃)および加圧(圧力=1MPa,時間=20分間)したのち、さらに積層体を加熱(温度=200℃)および加圧(圧力=4MPa,時間=1時間)した。この加熱工程では、各樹脂組成物層1中において樹脂組成物の反応が実質的に完了したため、その樹脂組成物の硬化反応物を含む樹脂硬化物層3が形成された。これにより、樹脂基板50(樹脂硬化物層3の積層数=10層,厚さ=0.9mm)が完成した。
【0173】
この樹脂組成物、樹脂シート20(樹脂組成物層1)および樹脂基板50(樹脂硬化物層3)のそれぞれの熱的特性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。ここでは、樹脂組成物および樹脂シート20の成形性を調べると共に、樹脂基板50の熱伝導性を調べた。
【0174】
成形性を調べる場合には、粘弾性測定装置を用いて樹脂シート20の最低溶融粘度(mPa・s)を測定した。この場合には、樹脂シート20を成形して、円形状の測定用試料(直径=20mm,厚さ=1.8mm)を作製した。こののち、粘弾性測定装置(サーモサイエンティフィック株式会社製のRheo Stress 6000)を用いて、開始温度=100℃、昇温速度=2.5℃/分および周波数=1Hzの条件において測定用試料を加熱して、最低溶融粘度を測定した。この場合には、測定用試料の溶融に応じて粘度が低下したのち、硬化反応の進行に応じて粘度が上昇したため、下向き凸型の粘度カーブが得られた。この粘度カーブの最低値を最低溶融粘度とした。
【0175】
熱伝導性を調べる場合には、樹脂基板50の熱伝導率(W/(m・K))を測定した。具体的には、最初に、樹脂基板50を切断して、円形状の測定用試料(直径=10mm,厚さ=0.9mm)を作製した。続いて、熱伝導率測定装置(アドバンス理工株式会社(旧アルバック理工株式会社)製のTCシリーズ)を用いて測定用試料を分析して、熱拡散係数α(m
2 /s)を測定した。また、サファイアを標準試料として、示差走査熱量分析(DSC)を用いて測定用試料の比熱Cpを測定した。さらに、アルキメデス法を用いて測定用試料の密度rを測定した。最後に、下記の数式(B)に基づいて、熱伝導率λ(W/(m・K))を算出した。
【0176】
λ=α×Cp×r ・・・(B)
(λは熱伝導率(W/(m・K))、αは熱拡散率(m
2 /s)、Cpは比熱(J/kg・K)、rは密度(kg/m
3 )である。)
【0177】
【表1】
【0178】
最低溶融粘度および熱伝導率は、TNB骨格の有無、及び割合Mに応じて大きく変動した。
【0179】
詳細には、第1硬化剤がTNB骨格を含んでいると共に、割合Mが0.2mol%以上16.4mol%以下であった場合(実施例1〜10)には、高い熱伝導率を維持しつつ、最低溶融粘度が十分に低くなった。
【0180】
特に、割合Mが0.2mol%以上5.1mol%以下であると(実施例1〜3、9、10)、最低溶融粘度が十分に低いまま、より高い熱伝導率が得られた。
【0181】
これに対して、割合Mが0.2mol%より小さい場合(比較例1,2)には、十分な熱伝導率は得られたが、最低溶融粘度は著しく高くなった。また、割合Mが16.4mol%よりも大きい場合(比較例3)には、最低溶融粘度は十分に低かったが、熱伝導率が低下した。
【0182】
また、第一硬化剤にTNBが含有されていない場合(比較例4)は、熱伝導率は低下し、また、最低溶融粘度も著しく高くなった。
【0183】
この結果は、樹脂組成物が第1硬化剤と第2硬化剤とを一緒に含んでいる場合において割合Mが適正化されると、熱伝導性に関与する熱伝導率の向上と成形性に関与する最低溶融粘度の改善とが両立されることを表している。
【0184】
表1に示した結果から、樹脂組成物がエポキシ化合物と式(1)に示した第1トリナフチルベンゼン化合物と式(2)に示した第2トリナフチルベンゼン化合物とを含んでいると共に、割合Mが適正な範囲内であると、熱伝導性と成形性とが両立された。よって、優れた熱的特性が得られた。
【0185】
以上、実施形態および実施例を挙げながら本発明を説明したが、本発明は実施形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。