(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分子の構成元素として、窒素原子、又は、硫黄原子の少なくとも一方を有する熱可塑性樹脂からなる、少なくとも2層以上の積層構成を有する積層フィルムであって、該フィルムの最表層の少なくとも1層は無機粒子を含有し、かつボイドを含有する層(I)であり、
前記層(I)が無機粒子を10質量%以上40質量%以下含み、
前記層(I)に含有されるボイドの平均径が5μm以上であり、
層(I)に含まれる無機粒子の1μm以下の粒径の粒子の含有率が25体積%未満であることを特徴とする、積層フィルム。
積層フィルムを構成する層(I)と、(I)とは異なる組成および/または組成比によって形成されるその他の層を層(II)とした場合、各層に含まれるボイド比率が下記式(1)を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
層(I)のボイド比率>層(II)のボイド比率 ・・・(1)
前記熱可塑性樹脂が、ポリスルホン樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
分子の構成元素として、窒素原子、又は、硫黄原子の少なくとも一方を有する熱可塑性樹脂からなる、少なくとも3層以上の積層構成を有する積層フィルムであって、積層フィルムを構成する層のうち少なくとも1層は無機粒子を含有しかつボイドを有する層(III)であり、
前記層(III)は内層に位置する層であり、
前記層(III)に含有されるボイドの平均径が5μm以上であることを特徴とする積層フィルム。
両表層に層(III)とは異なる組成および/または組成比によって形成されるその他の層(II)が積層されていることを特徴とする、請求項8〜13のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層フィルムは分子の構成元素として、窒素原子、又は、硫黄原子の少なくとも一方を有する熱可塑性樹脂からなる。
上記の熱可塑性樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリアミドイミド樹脂、芳香族含有ビニル樹脂(ABS等)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイドなど)からなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。中でもポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂のいずれかより選択された少なくとも1種であることが耐熱性・絶縁性の観点から好ましく、ポリアリーレンスルフィド樹脂であることが加工性・生産性の観点から最も好ましい。
【0010】
本発明の積層フィルムに用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するコポリマーを指す。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される単位があげられる。
【0012】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
繰り返し単位としては、上記の式(1)で表されるp−アリーレンスルフィド単位が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンなどが挙げられ、特に好ましいp−アリーレンスルフィド単位としては、フィルム物性と経済性の観点から、p−フェニレンスルフィド単位が好ましく例示される。
【0013】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を全繰り返し単位の80モル%以上99.9モル%以下で構成されていることが好ましい。上記の組成とすることで、優れた耐熱性、耐薬品性を発現せしめることができる。
【0015】
また、繰り返し単位の0.01モル%以上20モル%以下の範囲で共重合単位と共重合することもできる。
【0020】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO
2単位を示す。)
【0023】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、特に好ましい共重合単位は、m−フェニレンスルフィド単位である。
【0024】
共重合成分との共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0025】
本発明の積層フィルムは、無機粒子を含み、ボイドを含有する層(I)または後述する層(III)と、層(I)または(III)とは異なる組成および/または組成比によって形成されるその他の層(II)で構成される。
本発明の積層フィルムの層(I)または(III)にボイドを形成する手法としては、工程を簡略化でき生産性に優れることから乾式法(樹脂を溶融し、シート状に押出したものを延伸により多孔化する方法)を用いることが出来る。また、乾式法の中でも滞留安定性と生産性を考慮して無機粒子を添加して延伸することで、粒子の周囲にボイドを形成させ多孔化する手法が好適に用いられる。
【0026】
本発明の積層フィルムは、層(I)または層(III)に無機粒子を含むことで、効率よくボイドを形成することができる。
【0027】
本発明の積層フィルムの無機粒子を含む層(I)に含まれる粒子の濃度は、ポリアリーレンスルフィドやその他の添加物からなる当該層の原料組成を100質量%とした際に、5質量%以上であることが好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。粒子濃度を上記の範囲とすることで効率よくボイドを形成することができ、かつ、最表層からの粒子の脱落を抑制することができる。粒子濃度が5質量%未満であると、後述するフィルム製造時に粒子濃度が低いためボイドが形成されにくい場合がある。また粒子濃度が40質量%を上回ると表層に含まれる粒子が後述する積層フィルム製造時に表層に押し上げられ、表面に露出し脱落(粉落ち)する場合がある。
本発明の積層フィルムを構成するその他の層(II)は無機粒子を含んでもよいし、含まなくてもよい。
本発明の積層フィルムの層(II)に粒子が含まれる場合、その粒子の濃度は0.01〜10質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。上記の濃度とすることで、フィルムを延伸する際に層(II)の支持体としての機能が発現できる。層(II)に含まれる粒子の濃度が10質量%を上回ると、延伸時にフィルムにかかる応力に対してフィルムが耐えることができず破断しやすくなり、製膜安定性が損なわれる場合がある。
本発明の積層フィルムを構成する層(III)は、粒子を含有しかつボイドを有する層であり、積層フィルムの表層および/または内層に位置する層である。
本発明の積層フィルムの層(III)に含まれる粒子の濃度は、ポリアリーレンスルフィドやその他の添加物からなる当該層の原料組成を100質量%とした際に、30〜70質量%であることが好ましい。粒子の濃度を上記の範囲とすることでフィルムの生産性を確保すると共に、効率的に多孔化することができる。粒子の含有濃度は好ましくは30〜60質量%、より好ましくは40〜55質量%である。粒子の濃度が30%より少ないと延伸の際に形成される粒子周辺のボイドが少なく空孔率が低下する場合がある。また、濃度が70%より多いと、製膜の際の溶融押出時に樹脂の見かけの粘度が上昇し、安定した押出しが困難になる場合や、延伸の際にフィルム破れが発生しやすくなり生産性が低下する場合がある。
【0028】
本発明の積層フィルムは、最表層の少なくとも1層がボイドを含有することを特徴とする。ボイドとはフィルム中に含まれる空孔を指す。このボイドを含有することで表層部に微細な層状構造を形成できる。これにより表面形状(粗さ)の制御や、表層の傷つきを抑制でき、モーターのスロット挿入などの加工性を向上することができる。後述する手法を用いて積層フィルムを作製することで最表層の少なくとも1層にボイドを含有させることができる。
【0029】
本発明の積層フィルムが層(I)および層(II)の2層以上で構成される場合、フィルムを構成する各層に含まれるボイドの比率が下記式(1)を満足することが好ましい。
層(I)のボイド比率>層(II)のボイド比率 ・・・(1)
式(1)を満たすことで、積層フィルムとしての絶縁性を高めると共に、層(II)が延伸時に支持体の役割を果たすことができる。各層に含まれるボイドの有無および比率は後述するようにフィルムの断面観察および画像処理により確認できる。
【0030】
本発明の積層フィルムの層(I)〜(III)に用いる粒子として、使用可能な粒子としてはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックスや窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等のなどの無機化合物があげられる。用いる粒子は1種でもよく、複数種を混合して用いてもかまわない。上記の中でも分散性の観点から炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタニアが好ましく、低コストの観点から炭酸カルシウムが最も好ましい。
【0031】
本発明の積層フィルムの層(I)または層(III)に用いる無機粒子は、積層フィルムの物性を損なわない範囲で表面処理を施すことができる。
【0032】
本発明の積層フィルムの層(I)または(III)に用いる粒子の体積平均粒径は2〜20μmであることが好ましく、3〜20μmであることがより好ましく、5〜18μmであることがさらに好ましく、5〜13μmであることが特に好ましい。上記の体積平均粒径の粒子を用いることで、粒子を高濃度で配合した際に発生しやすくなる粒子同士の凝集を抑制し、延伸した際に粒子の周囲に応力が集中するため、層(I)または(III)中に効率よくボイドを形成させることができる。粒子の体積平均粒径が2μm未満であると、延伸時にボイドの形成しにくくなったり、ボイドが小さくなるため空孔率が低下したり、粒子の表面積が増えるため凝集を起こしやすくなり、製膜安定性が低下する場合がある。また、体積平均粒径が20μmより大きいと粒子の突き抜けにより延伸の際にフィルム破れが発生しやすくなり生産性が低下する場合がある。
本発明の積層フィルムを構成するその他の層(II)に無機粒子が含まれる場合、その体積平均粒径は0.01〜20μmであることが好ましく、0.1〜18μmであることが製膜安定性の観点からより好ましい。
【0033】
本発明の積層フィルムの層(I)または(III)に用いる粒子は、1μm以下の粒径の粒子の含有率が25体積%未満であることが好ましく、20体積%未満であることがより好ましく、15%体積未満であることが特に好ましい。無機粒子の表面は一般的に親水基に覆われており、通常熱可塑性樹脂に分散させようとすると、疎水基を有する熱可塑性樹脂との接触界面を減らそうと粒子同士が凝集する。しかし、上記の粒子を用いることで熱可塑性樹脂中に粒子を分散させた際に表面積を少なくすることができ凝集を抑制できる。これにより、積層フィルムを製造する際に、粒子の凝集に起因するフィルター昇圧や粗大物の混入を抑制でき安定生産が可能となる。1μm以下の粒径の粒子の含有率が25体積%より大きいと、表面状態が不安定な粒子同士が凝集し、積層フィルムを製造する際にフィルターが詰まり昇圧を引き起こしたり、凝集した粒子が粗大物となり製膜安定性や品位が低下したりする場合がある。
【0034】
本発明の積層フィルムの層(I)または(III)に用いる粒子は、50μmより大きい粒径の粒子の含有率が3体積%以下であることが好ましく、1体積%以下であることがより好ましい。50μm以上の粒子を含むと、溶融押出時に昇圧要因になる場合や、延伸時にフィルム破断の原因となり生産性が低下する場合がある。
【0035】
無機粒子を含む層(I)〜(III)に含まれる粒子の体積平均粒径および粒度分布、濃度は、フィルムから表層の無機粒子を含む層(I)をナイフやマイクロプレーンを用いて削りとり、500℃で灰化させて熱可塑性樹脂を除去した後に、その炭の粒度分布を積層フィルムに含まれる無機粒子の粒度分布として確認することができる。上記の粒度分布の粒子は、合成または天然採掘した粒子を粉砕後に所望の分布になるまで篩を用いて分級することにとって得ることができる。
【0036】
本発明の積層フィルムに用いる粒子は積層フィルムの物性を損なわない範囲で表面処理を施すことができる。
本発明の積層フィルムの厚みは、生産性の観点から層(I)および層(II)で構成される場合は、10〜200μmが好ましく、25〜150μmがより好ましい。また層(III)および層(II)で構成される場合は10〜500μmが好ましく、15〜400μmがより好ましく、15〜350μmがより好ましい。フィルム厚みおよび層厚みは未延伸シートを得る際に原料の供給量を調整することで制御できる。またフィルム厚みおよび層厚みは後述する手法にて評価できる。
【0037】
本発明の積層フィルムは、いずれの層構成においても200℃/1000時間処理後のフィルム長手方向および幅方向の強度保持率の平均値が70%以上であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましい。強度保持率を上記の範囲とすることで、高温下で長時間使用した際の積層フィルムの機械特性、電気特性を維持することができる。強度保持率が70%未満であると長期耐熱性に劣り、高温化で長時間使用した際に劣化によりクラックが入ったり、電気特性が低下したりする場合がある。強度保持率を上記の範囲とするためには、前述の熱可塑性樹脂を用いて後述する延伸方法にて作製することで達成できる。強度保持率は後述する手法にて評価することができる。
【0038】
本発明の積層フィルムが層(I)および層(II)の2層以上で構成される場合、フィルム走行試験時の摩擦係数μkの変化率Δμkは10.0未満であることが好ましい。摩擦係数μkはテープ走行性試験機でフィルムを走行させ、得られた測定値を用いて下記式(2)より算出する。
μk=2/πln(T2/T1) (2)
ここで、T1は入側張力、T2は出側張力である。摩擦係数μkの変化率Δμkはフィルム走行1回目と50回目の摩擦係数μkを下記式(3)より算出する。
【0039】
Δμk=μk(50回目)/μk(1回目)
Δμkが10.0以上になると、フィルム走行時に粒子脱落が生じ、フィルム表面に傷やフィルム表面のけずれによる白粉(粉落ち)が発生し、積層フィルムの使用時に工程汚染や異物による不具合を引き起こす場合がある。Δμkは好ましくは5.0未満、さらに好ましくは2.0未満である。
【0040】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤を配合して使用することも可能である。かかる添加剤の具体例としては有機化合物、熱分解防止剤、熱安定剤、光安定剤および酸化防止剤などが挙げられる。
【0041】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でポリアリーレンスルフィド樹脂以外の樹脂を配合して使用することも可能である。かかる樹脂の具体例としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂などが挙げられるがこれに限定されない。
【0042】
本発明の積層フィルムは、積層フィルムを構成する少なくとも1層に粒子を含有し、かつボイドを有する層(III)および層(II)を有する構成とすることもできる。本構成を有することで、フィルムの断熱性と製膜安定性を格段に向上することができる。
本発明の積層フィルムの層(I)または(III)に含まれるボイドの平均径は5μm以上であり、より好ましくは5〜40μmであり、さらに好ましくは8〜30μmである。平均径を上記の範囲とすることで、フィルム中の空孔率が向上し、層(I)を有する構成では優れた加工性を、層(III)を有する構成では優れた断熱性を発現することができる。ボイドの平均径が5μmより小さいと、空孔率が低下し加工性や断熱性が低下する場合がある。また、ボイドの平均径40μmを上回ると、延伸工程においてフィルムが破れやすくなり、製膜安定性が損なわれる場合がある。ボイドの平均径を上記の範囲とするには前述の粒径の粒子を用いることで達成できる。ボイドの平均径は後述する手法にて確認できる。
本発明の積層フィルムの層(III)は貫通孔を有する層を少なくとも1層有することが好ましい。本発明において貫通孔とは、当該層の表裏を貫通し、透気性を有する孔を意味する。貫通孔を有することで空孔率が高くなり、優れた断熱性を発現しすることができる。層(III)に貫通孔を形成する手法としては、層(III)に含まれる粒子の濃度を調整することで達成できる。フィルム中に形成された孔の貫通性(貫通孔の有無)は後述する手法にて確認することが出来る。
本発明において積層フィルムの層構成としては、積層フィルムが層(I)および(II)からなる場合は、層(I)をA、層(II)をBとした場合、A/Bの2層、A/B/A、やA/B/A/B、A/B/A/B/Aなど表層の少なくとも1層が層(I)である、2層以上の構成をとる。また、積層フィルムが層(III)および(II)からなる場合、層(III)をC、層(II)をBとした場合、C/Bの2層、C/B/C、B/C/BやC/B/C/B、C/B/C/B/Cなどの多層構造のいずれでも良いが製膜安定性の観点から2層以上の層構成が好ましい。また、(I)〜(III)とは異なる組成からなる層をさらに追加した層構成にすることもできる。
本発明の積層フィルムの絶縁破壊電圧は110kv/mm以上であることが好ましく、120kV/mm以上であることがより好ましく、130kV/mmであることがさらに好ましい。なお、絶縁破壊電圧は高いほど好ましいため上限は特にないが、実現可能な範囲を考慮するとその上限は、250kV/mm以下である。絶縁破壊電圧とは絶縁破壊が生じるまで印加電圧を上げた際の限界電圧値であり、JIS C2151(2006)に基づいて測定することができる。絶縁破壊電圧が110kV/mmより小さくなると積層体を絶縁材として使用した際に十分な絶縁性を発現できず使用に耐えない場合がある。絶縁破壊電圧を上記の範囲とするには、前述する層構成および層構造を有することで達成することができる。
本発明の積層フィルムが層(III)および(II)からなる場合、積層フィルムの熱伝導率は、0.25J/(s・m・K)以下であることが好ましく、 0.20J/(s・m・K)以下であることがより好ましい。熱伝導率が上記の値を上回ると、フィルムを断熱性能が不充分となる場合がある。なお、熱伝導率は低いほど好ましいため下限は特にないが、その下限は、は0.01J/(s・m・K)以上であることが好ましい。熱伝導率を上記の範囲とするには層(III)の空孔率を後述の範囲とすることで達成できる。熱伝導率は後述する手法にて測定することが出来る。
本発明の積層フィルムが層(III)および(II)からなる場合、層(III)の空孔率は30〜80%であることが好ましく、30〜70%であることがより好ましく、40〜70%であることがさらに好ましい。空孔率を上記の範囲とすることで製膜安定性を維持しつつ、熱伝導率を低減することができる。空孔率が30%未満であると、断熱効果を発現するボイドが少なくなるため熱伝導率が上昇する場合がある。また、空孔率が80%を越えると、樹脂比率が低下しフィルムの靭性が損なわれ、延伸性および製膜安定性が低下する場合がある。空孔率は前述の粒子を前述の配合比を用いてブレンドすることで制御可能である。また、空孔率は後述の手法にて評価できる。
本発明の積層フィルムの製造法を本発明の好ましい態様である熱可塑性樹脂にポリアリーレンスルフィド樹脂を用いた場合を例に説明する。
【0043】
本発明の積層フィルムに好ましく用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を説明する。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、m−ジクロロベンゼンやトリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜290℃で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、湿潤状態の粒状ポリマーを得る。この粒状ポリマーにアミド系極性溶媒を加えて30〜100℃の温度で攪拌処理して洗浄し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄し、酢酸カルシウムなどの金属塩水溶液で数回洗浄した後、乾燥してポリアリーレンスルフィド樹脂の粒状ポリマーを得る。この粒状ポリマーと無機粒子を任意の割合で混合し300〜350℃に設定したベント付き押出機に投入してストランド状に溶融押出し、温度25℃の水で冷却した後、カッティングしてチップを作製し、無機粒子を含む層(I)の原料とする。このとき無機粒子の添加濃度は粒状ポリマー100質量部に対して1〜65質量部が好ましく、5〜65質量部がより好ましい。
【0044】
また、上記の粒状ポリマーのみ、または粒状ポリマーと無機粒子や添加剤などを任意の割合で混合し、300〜350℃に設定したベント付き押出機に投入してストランド状に溶融押出し、温度25℃の水で冷却した後、カッティングしてチップを作製してA層とは異なる組成からなるその他の層(II)の原料とする。このとき無機粒子を添加する場合は粒子濃度が(I)の粒子濃度>(II)の粒子濃度となるように調整する。
【0045】
この2種のチップを、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が300〜350℃に設定されたフルフライトの単軸押出機2台にそれぞれ供給し、フィルターに通過させた後、溶融状態で口金上部にある積層装置で3層(積層構成は、(I)/(II)/(I)、積層比は(I):(II):(I)=1:8:1)になるように導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に静電荷を印加させながら密着させて急冷固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得る。
【0046】
次いで、二軸延伸する場合は、上記で得られた未延伸フィルムを、ポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移点(Tg)以上冷結晶化温度(Tcc)以下の範囲で、逐次二軸延伸機または同時二軸延伸機により二軸延伸した後、150〜280℃の範囲の温度で1段もしくは多段熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を例示する。未延伸フィルムを加熱ロール群で加熱し、長手方向(MD方向)に2.8〜5.0倍、より好ましくは3.0〜4.5倍、さらに好ましくは3.0〜4.2倍、1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg〜Tcc、好ましくは(Tg+5)〜(Tcc−10)℃の範囲である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0047】
MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg〜Tccが好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tcc−10)℃の範囲である。延伸倍率はフィルムの平面性の観点から2.8〜5.0倍、好ましくは3.0〜4.5倍が好ましい。
【0048】
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する操作(熱固定処理)を行う。熱固定処理の温度は熱処理ゾーンの始終で、同一温度で加熱処理を行うか、1段熱固定または熱処理ゾーンの前半と後半で異なる温度で加熱処理を行う多段熱固定の何れかで処理を行う。1段熱固定を行う場合、熱固定温度は160〜280℃が好ましい。また、多段熱固定で熱処理を行う場合、1段目(前半)の熱固定温度は150℃〜220℃が好ましく、より好ましくは150℃〜210℃である。1段目熱固定温度を前記範囲とすることで、フィルムの平面性を保持したまま、面積倍率を低下することが可能となる。2段目(後半)の熱固定温度は220〜280℃が好ましく、より好ましくは230〜275℃である。ここで、2段目熱固定温度が220℃未満の場合、フィルムの熱寸法安定性が悪化する場合があり、280℃を超えるとフィルムを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の融解温度に近づく、もしくは超えるため、製膜の際にフィルムの両端を固定するクリップに融着し、延伸装置からフィルムを採取することが困難となる場合がある。熱固定処理後は、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、二軸延伸された積層フィルムを得る。
【0049】
本発明の積層フィルムは耐熱性、電気絶縁性および/または断熱性に優れることから、自動車用、電気・電子材料の各種部品、とくに各種モーター用の絶縁紙や断熱材、回路基盤用基材、印刷用トナー攪拌子用フィルムとして好適に用いることができる。
【0050】
[特性の測定方法]
(1)積層フィルムおよび積層フィルムを構成する各層の層厚みと層構成
走査型電子顕微鏡の試料台に固定した積層フィルムを、スパッタリング装置を用いて減圧度10
−3Torr、電圧0.25KV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施して断面を切削した後、同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率3,000倍にて観察した。
【0051】
観察により得られた画像より積層フィルムの厚みおよび積層フィルムを構成する層の厚みを計測した。厚みの測定に用いるサンプルは任意の場所の合計10箇所を選定し、10サンプルの計測値の平均をそのサンプルのフィルム厚みおよびフィルムを構成する層の厚みとした。
【0052】
(2)各層に含まれるボイドの有無、層(I)または層(III)のボイドの平均径および各層のボイド比率
a.ボイドの有無
(1)で作製した断面サンプルを走査型電子顕微鏡で倍率5000倍観察し、ボイドの有無を観察画像より確認し、下記基準で評価した。
A:ボイド有
B:ボイド無
b.層(I)または層(III)のボイドの平均径
aで得られた断面観察像について、画像解析装置を用いて、無作為にボイドを抽出し、フィルム長手方向の径(α(μm))とフィルムの厚み方向の径(β(μm))を読み取って下記式に挿入し、抽出したボイドのボイド径を求めた。
ボイド径(μm)=(α+β)/2
ボイド径は無作為抽出した200個について評価し、得られた平均値をそのサンプルのボイドの平均径(μm)とした。
c.各層のボイド比率
aで得られた観察像について、画像解析装置を用いてボイド部分の面積とフィルムの断面積を算出し、下記式より各層のボイド比率を求めた。
ボイド比率=(観察画像中の層(I)または層(II)に含まれるボイド面積[mm
2])/(観察画像中の(I)または層(II)の面積[mm
2])
(3)無機粒子の含有量および体積平均粒径・粒度分布(1μm以下の粒子の含有率)
a.無機粒子含有量
(1)の方法を用いて積層フィルムおよび各層の厚みを確認したのち、マイクロプレーンを用いて積層フィルムの表層を表層の厚さを超えない範囲で削り取る。削り取ったサンプルを秤量したるつぼに入れた後再度秤量し、サンプルの加熱前の重量を秤量する。次にサンプルが入ったるつぼをマッフル炉(ヤマト科学社製)にて500℃/6hで加熱しサンプルを灰化さる。るつぼを冷却した後に秤量し、加熱後の重量をはかりとり、加熱前後の重量を下記式に挿入し、フィルムに含まれる無機粒子の含有量を算出した。試料量は残存物の質量が100〜200mgの範囲となるように調整した。
無機粒子の含有量(質量%)=加熱後の重量(mg)/加熱前の重量(mg)×100
b.体積平均粒径・粒度分布
a.で得られた残存物を精製水と混合し、透過率が90%前後になるように調整した。この分散液をレーザー光回折散乱粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3000、日機装製)をもちいて、レーザー光波長780nm、測定温度25℃の条件にて、測定前に超音波処理を4分間行なったのちJIS Z8825−1:2001に準じて測定し、サンプルの粒度分布を求めた。得られた粒度分布から下記式を用いて体積平均粒径を算出した。
体積平均粒径(μm)=Σ(vd)/Σv
d:各粒径チャンネルの代表値、v:各粒径チャンネルごとの粒子の含有量(体積%)のパーセント
また、上記の粒度分布測定結果より、1μm以下の粒径の粒子の含有率(体積%)を算出した。
【0053】
(4)電気絶縁性(絶縁破壊電圧)
JIS C2151に準じ、交流絶縁破壊試験器(春日電機株式会社製、AC30kV)を用いて測定した。試験片のサイズは25cm×25cmの正方形とし、23℃、65%RHの環境下で調湿したものを用い、周波数60Hz、昇圧速度1000V/secで測定し、得られた絶対値をそのサンプルの厚みで割り返した値を絶縁破壊電圧とした。用いた電極の形状は、台座となる下電極がφ75mm、高さ15mmの円柱形であり、上電極がφ25mm、高さ25mmの円柱形である。いずれの電極も、試験片を挟む側の面はR3mmで面取りされたものを用いた。測定は各サンプルにつき10回ずつ測定し、その平均値をそのサンプルの絶縁破壊電圧(kV/mm)とした。
【0054】
(5)耐熱性
積層フィルムをMD方向およびTD方向それぞれで幅10mm、長さ250mmに切削して試験片とし、200℃の温度に設定した熱風オーブン中で1000時間の加熱処理を行い、加熱処理前後での破断強度を測定し、下記の式から強度保持率を算出し、下記の判定基準にて評価した。破断強度は、JIS−C2151に規定された方法に従って、テンシロン引張試験機を用いて、幅10mmのサンプル片をチャック間長さ100mmとなるようセットし、引張速度300mm/minで引張試験を行う。この条件でMDおよびTD方向にそれぞれ10回測定し、その平均値を求めた。
【0055】
強度保持率(%)=Y/Y0×100
Y0:加熱処理前の破断強度(MPa)
Y:加熱処理後の破断強度(MPa)
長期耐熱性
A:強度保持率が80%以上
B:強度保持率が70%以上、80%未満
C:強度保持率が70%未満
(6)製膜安定性
実施例および比較例に記載の製膜を10時間連続して行い、フィルム破れ(縦延伸時の破断および横延伸、熱固定処理時のいずれも含む)の発生回数を以下の基準で判定をした。
【0056】
A:破れ発生なし(製膜安定性良好)
B:破れの発生頻度が1〜2回(製膜安定性にやや劣る)
C:破れの発生頻度が3回以上(製膜安定性に難あり)
(7)押出安定性
実施例および比較例に記載のA層用の原料を準備し、単軸押出機(スクリュー径25mm、L/D=28、シングルフルフライト型スクリュー)とダイの間の樹脂流路に樹脂圧計および50μmカットの焼結フィルターを順に設置した押出装置を用いて、回転数100rpm、吐出2kg/hr、シリンダー温度320℃で溶融樹脂の押出および濾過を5時間実施する。試験開始直後の樹脂圧と試験終了時の樹脂圧を下記式に当てはめ、樹脂圧変動量ΔPを求めてその値を生産安定性の目安とし下記基準で評価した。
【0057】
樹脂圧変動量(ΔP)=試験終了時の樹脂圧[MPa]―試験開始直後の樹脂圧[MPa]
A:ΔPが0.5MPa以下
B:ΔPが0.5MPaよりも大きく1.0MPa以下
C:ΔPが1.0MPaよりも大きい
(8)摩擦係数の変化率(Δμk)
フィルムを幅1cmのテープ状にスリットしたものをテープ走行性試験機TBT−300((株)横浜システム研究所製)を使用し、23℃、50%RH雰囲気で走行させ、摩擦係数μkを求めた。ガイド径は6mmφであり、ガイド材質はSUS27(表面粗度0.2S)、巻き付け角は90°走行速度は3.3cm/秒、繰り返し1〜50回とした。この測定によって得られた繰り返し回数1回目と繰り返し回数50回目の摩擦係数μkより算出した摩擦係数の変化率Δμkから繰り返し試験によるフィルム走行性を次のように評価した。
摩擦係数μkはテープ走行性試験機でフィルムを走行させ、得られた測定値を用いて下記式より算出する。
μk=2/πln(T2/T1)
ここで、T1は入側張力、T2は出側張力である。摩擦係数μkの変化率Δμkはフィルム走行1回目と50回目の摩擦係数μkを下記式より算出する。
【0058】
Δμk=μk(50回目)/μk(1回目)
A:変化率2.0未満
B:変化率2.0以上5.0未満
C:変化率5.0以上10.0未満
(9)加工性
モータースロット加工機(小田原エンジニアリング社製)を用い、試料を、幅24mm、長さ39mmのスロットに加工速度2ヶ/秒で加工し、目視で試料の変形または破損が発生したものを不良品とし、不良品発生率を次の基準で評価した。なお、加工個数は各試料100個ずつとする。
A:不良率の発生が20%未満
B:不良率の発生が20%以上25%未満
C:不良率の発生が25%以上。
【0059】
(10)空孔率
走査型電子顕微鏡の試料台に固定したフィルムを、フィルム長手方向の断面がみえるようにスパッタリング装置を用いて減圧度10
−3Torr、電圧0.25KV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施して断面を切削した後、同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率5000倍にて観察した。得られた観察像のうち、所望の層Xについて、画像解析装置を用いて空隙部分の面積A(μm
2)と同観察像の内の該層の全面積B(μm
2)を算出し、下記式に当てはめて層Xの空孔率C(%)を求めた。上記の操作で10点の観察像の撮影および空孔率の算出を行い、10点の平均を、層Xの空孔率(%)とした。
層Xの空孔率C(%)=層中の空隙部分の面積A(μm
2)/層全面積B(μm
2)×100
(11)熱伝導率
a.比熱容量Cp
示差走査熱量計(DSC−7、Perkin Elmer社製)を用い、JISK7123−1987に準じて、標準物質にサファイアを使用し、25℃での比熱容量(J/(kg・K))を測定した。測定はn=5で行い、その平均値をそのサンプルの比熱容量Cp(J/(kg・K))とした。
b.熱拡散率α
ai−Phase Mobile 1u(株式会社アイフェイズ製熱伝導率測定システム)を用いて、熱拡散率(m
2/S)測定した。測定はn=5で行い、その平均値をそのサンプルの熱拡散率α(m
2/S)とした。
c.密度ρ
フィルムを50mm×40mmの大きさに切り、比重測定キット(AD−1653−BM、エーアンドディー(株)製)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気でアルキメデス法にて密度の測定を行った。測定はn=3で行い、その平均値をサンプルの密度ρ(kg/m
3)とした。
d.熱伝導率λ
a〜cで求めた測定値を下記式に挿入し、熱伝導率λ(J/(s・m・k)を求めた。
熱伝導率λ(J/(s・m・k)=
比熱容量Cp(J/(kg・K))×熱拡散率α(m
2/S)×密度ρ(kg/m
3)
(12)貫通孔の有無
層(III)が表面に露出している積層構成の場合はフィルムをそのまま用いる。層(IIIが表面に露出していない積層構成の場合は、クロスカット用間隔スペーサー(コーテック株式会社製:型番CROSS CUT GUIDE1.0)およびカッターナイフを用い、評価用試験体にタテ方向11回、ヨコ方向11回の切り込みを1mm間隔で入れる(本操作により、10×10=100マスの格子が作製される)。この格子上に透明感圧付着テープ(日東電工株式会社製:型番31B)を圧着し、圧着したテープを約60度の方向に引き剥がし、その他の層(II)を除去した。
【0060】
層(III)を表面に露出させたサンプルの表面にスポイトを用いてアセトンを滴下した後、1分放置する。次にサンプル表面に付着したアセトンをウェスでふき取った後、サンプルをライトボックス(フジカラーLEDビュアープロ、富士フィルム(株)製)上に置き、光を透かした際にフィルムの層内に含まれるアセトンの黒い影の有無を観察し、下記基準にて評価した。
A:フィルム層内にアセトンが浸透し、黒い影が確認できる(貫通孔を有する)。
B:フィルム層内にアセトンが浸透しておらず、黒い影が確認できない(貫通孔を有さない)。
【0061】
(13)フィルム中の窒素原子、硫黄原子の検出方法
フィルムを約1mg精秤し、微量窒素硫黄分析計(アステック株式会社製、機種「ANTEK7000」)を用いて元素分析を行い、窒素原子・硫黄原子の含有の有無を確認した。
【実施例】
【0062】
以下、実施例3、6、15〜18は、参考実施例3、6、15〜18と読み替えるものとする。
(参考例1)ポリフェニレンスルフィド樹脂(顆粒)の製造方法
オートクレ−ブ(最高使用圧力:14MPa)に100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして100モルのp−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cm
2で加圧封入後、昇温し、270℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマーを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマーを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマーを90℃の蒸留水により2回洗浄した後、酢酸ナトリウム水溶液で3回洗浄した後、蒸留水により1回洗浄し、減圧下120℃の温度にて乾燥して融点が280℃のポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂の顆粒を得た。
【0063】
(参考例2)フィルム用原料(PPS0)の製造方法
参考例1で作製したPPS樹脂の顆粒を、320℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数150回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてチップを作製し、フィルム用原料(PPS0)とした。
【0064】
(参考例3)フィルム用原料(PPS1)の製造方法
炭酸カルシウム(CaCO
3、白石カルシウム社製、P―50)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径15μm、1μm以下の粒子の含有率が10質量%、50μm以下の粒子の含有率が0質量%になるように調整した。
次に参考例1で作製したPPS樹脂の顆粒99.5質量%と、上記の炭酸カルシウム0.5質量%を、320℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数150回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてチップを作製し、フィルム用原料(PPS1)とした。
【0065】
(参考例4)フィルム用原料(PPS2)の製造方法
PPS樹脂の顆粒60質量%、炭酸カルシウム40質量%とした以外は参考例3と同様にして、フィルム用原料(PPS2)を得た。
【0066】
(参考例5)フィルム用原料(PPS3)の製造方法
PPS樹脂の顆粒75質量%、炭酸カルシウム25質量%とした以外は参考例3と同様にして、フィルム用原料(PPS3)を得た。
【0067】
(参考例6)フィルム用原料(PPS4)の製造方法
PPS樹脂の顆粒97質量%、炭酸カルシウム3質量%とした以外は参考例3と同様にして、フィルム用原料(PPS4)を得た。
【0068】
(参考例7)フィルム用原料(PPS5)の製造方法
炭酸カルシウム(CaCO
3、白石カルシウム社製、P―50)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径15μm、1μm以下の粒子の含有率が18体積%、50μm以下の粒子の含有率が0体積%になるように調整した以外は参考例5と同様にして、フィルム用原料(PPS5)を得た。
【0069】
(参考例8)フィルム用原料(PPS6)の製造方法
炭酸カルシウム(CaCO
3、白石カルシウム社製、P―50)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径8μm、1μm以下の粒子の含有率が30体積%、50μm以下の粒子の含有率が0体積%になるように調整した以外は参考例5と同様にして、フィルム用原料(PPS6)を得た。
【0070】
(参考例11)フィルム用原料(PPS7)の製造方法
炭酸カルシウム(CaCO
3、白石カルシウム社製、P―10)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径2μm、1μm以下の粒子の含有率が24体積%、50μm以下の粒子の含有率が0体積%になるように調整した以外は参考例5と同様にして、フィルム用原料(PPS7)を得た。
【0071】
(参考例12)フィルム用原料(PPS8)の製造方法
炭酸カルシウム(CaCO
3、白石カルシウム社製、P―40)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径10μm、1μm以下の粒子の含有率が10体積%、50μm以下の粒子の含有率が0体積%になるように調整した。この炭酸カルシウムを用いて、PPS樹脂の顆粒80質量%、炭酸カルシウム20質量%とした以外は参考例3と同様にして、フィルム用原料(PPS8)を得た。
【0072】
(参考例13)フィルム用原料(PPS9)の製造方法
PPS樹脂の顆粒70質量%、炭酸カルシウム30質量%とした以外は参考例12と同様にして、フィルム用原料(PPS9)を得た。
(参考例14)フィルム用原料(PPS10)の製造方法
PPS樹脂の顆粒50質量%、炭酸カルシウム50質量%とした以外は参考例12と同様にして、フィルム用原料(PPS10)を得た。
【0073】
(参考例15)フィルム用原料(PPS11)の製造方法
PPS樹脂の顆粒40質量%、炭酸カルシウム60質量%とした以外は参考例12と同様にして、フィルム用原料(PPS11)を得た。
【0074】
(参考例16)フィルム用原料(PPS12)の製造方法
炭酸カルシウム(CaCO
3、白石カルシウム社製、P―40)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径10μm、1μm以下の粒子の含有率が18体積%、50μm以下の粒子の含有率が0体積%になるように調整した以外は参考例14と同様にして、フィルム用原料(PPS12)を得た。
【0075】
(参考例17)フィルム用原料(PPS13)の製造方法
参考例11で用いた炭酸カルシウムを使用した以外は参考例13と同様にして、フィルム用原料(PPS13)を得た。
【0076】
(参考例18)フィルム用原料(PPS14)の製造方法
酸化チタン(TiO
2、石原産業(株)製、R−38L)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径0.4μm、1μm以下の粒子の含有率が90体積%、50μm以下の粒子の含有率が0体積%になるように調整した以外は参考例13と同様にして、フィルム用原料(PPS14)を得た。
(参考例19)フィルム用原料(PPS15)の製造方法
酸カルシウム(CaCO
3、白石カルシウム社製、P―70)をふるい振とう器(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、AS200)にかけて、体積平均粒径26μm、1μm以下の粒子の含有率が5体積%、50μm以下の粒子の含有率が1体積%になるように調整した以外は参考例13と同様にして、フィルム用原料(PPS15)を得た。
【0077】
(参考例20)フィルム用原料(PPS16)の製造方法
PPS樹脂の顆粒25質量%、炭酸カルシウム75質量%とした以外は参考例12と同様にして、フィルム用原料(PPS16)を得た。
【0078】
(実施例1〜7)
参考例2〜7、11で得られたチップをそれぞれ180℃で3時間、真空乾燥した後、表1に示す組み合わせで2台の押出機に別々に供給し、溶融状態で口金上部にある積層装置で3層(積層構成は、(I)/(II)/(I)、積層比は(I):(II):(I)=1:8:1)になるように導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させて、950μmの未延伸の積層シートを得た。次いで、得られた未延伸の積層シートを、表面温度90℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度100℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.5倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に95℃の温度で3.5倍に延伸し、続いて270℃で熱処理し引き続き270℃の弛緩処理ゾーンでTD方向に5%の弛緩処理を行った後室温まで冷却し、厚み100μmの積層フィルムを得た。
【0079】
(実施例8〜14、比較例6)
参考例2および参考例12〜19で得られたチップをそれぞれ180℃で3時間、真空乾燥した後、表1に示す組み合わせで2台の押出機に別々に供給し、溶融状態で口金上部にある積層装置で3層(積層構成は、(II)/(III)/(II)、積層比は(II)/(III)/(II)=1:2:1)になるように導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させて、1400μmの未延伸の積層シートを得た。次いで、得られた未延伸の積層シートを、表面温度90℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度100℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.5倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に95℃の温度で3.3倍に延伸し、続いて270℃で熱処理し引き続き270℃の弛緩処理ゾーンでTD方向に5%の弛緩処理を行った後室温まで冷却し、厚み150μmの積層フィルムを得た。
【0080】
(実施例15〜18)
参考例2および参考例13〜16で得られたチップをそれぞれ180℃で3時間、真空乾燥した後、表1に示す組み合わせで2台の押出機に別々に供給し、溶融状態で口金上部にある積層装置で2層(積層構成は(III)/(II)、積層比は(III)/(II)=4:1になるように導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、溶融押出し、実施例導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させて、950μmの未延伸の積層シートを得た。次いで、得られた未延伸の積層シートを、表面温度90℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度100℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.5倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に95℃の温度で3.3倍に延伸し、続いて270℃で熱処理し引き続き270℃の弛緩処理ゾーンでTD方向に5%の弛緩処理を行った後室温まで冷却し、厚み100μmの積層フィルムを得た。
【0081】
(比較例1)
参考例2で得られたチップを180℃で3時間、真空乾燥した後、押出機に供給し、Tダイ型口金から吐出させ、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させて、950μmの未延伸のシートを得た。ついで実施例1と同様にして延伸・熱処理を行い、厚み100μmのフィルムを得た。
【0082】
(比較例2)
参考例2で得られたチップを180℃で3時間、真空乾燥した後、押出機に供給し、Tダイ型口金から吐出させ、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させて、650μmの未延伸のシートを得た。ついで実施例1と同様にして延伸・熱処理を行い、厚み60μmのフィルムを得た。
N−メチルピロリドンに62.4gに無機粒子として参考例1で使用した炭酸カルシウムを7.5gを混合し無機粒子を分散させた。ついでポリエーテルスルホン(PES:BASF社製、ULTRASON E2010)30gを上記に加えて攪拌し調整液(PES)を得た。これを上記のフィルムの両面に乾燥後の片面の厚みが20μmになるようにバーコーターを用いて塗工し、230℃で1時間乾燥させ、積層フィルムを作製した。
【0083】
(比較例3)
参考例3および5で得られたチップをそれぞれ180℃で3時間、真空乾燥した後、表1に示す層構成になるように2台の押出機に別々に供給し、溶融状態で口金上部にある積層装置で3層(積層構成は、(I)/(II)/(I)、積層比は(I):(II):(I)=1:8:1)になるように導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、吐出量とキャスティング速度を調整し、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させて、厚み100μmの未延伸の積層フィルムを得た。
【0084】
(比較例4)
参考例2で得られたチップを180℃で3時間、真空乾燥した後、2台の押出機それぞれに供給した以外は実施例16と同様にして、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0085】
(比較例5)
参考例2で得られたチップを180℃で3時間、真空乾燥した後、2台の押出機それぞれに供給した以外は実施例8と同様にして、厚み150μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0086】
(参考例9、10)
参考例5および8で得られたチップを用いた以外は実施例1と同様にして950μmの未延伸の積層シートを得た。次いで、得られた未延伸の積層シートを、表面温度90℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度100℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.5倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に95℃の温度で3.5倍に延伸を試みたが、延伸途中でフィルム破れが発生し積層フィルムを作製することができなかった。
【0087】
(参考例21)
参考例2および参考例20で得られたチップを用いた以外は実施例8と同様にして1400μmの未延伸の積層シートを得た。ついで実施例8と同様にして二軸延伸を試みたが、延伸途中でフィルム破れが発生し積層フィルムを作製することができなかった。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】