特許第6907560号(P6907560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907560
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/147 20120101AFI20210708BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20210708BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20210708BHJP
【FI】
   D04H3/147
   D04H3/16
   D04H3/007
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-12872(P2017-12872)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119247(P2018-119247A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 結香
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓史
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−325060(JP,A)
【文献】 特開2006−291389(JP,A)
【文献】 特開2007−284859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
D01F 1/00− 9/04
A61F 13/15−13/84
A61L 15/16−15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が23以上50以下の脂肪酸アミド化合物を含有するポリオレフィン系樹脂からなり、単繊維繊維径が6.5μm以上16.3μm以下の芯鞘型繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記芯鞘型繊維の鞘成分のみに脂肪酸アミドを含有することを特徴とするスパンボンド不織布。
【請求項2】
脂肪酸アミド化合物が、エチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項1記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
脂肪酸アミド化合物の添加量が、0.01〜5.0質量%であることを特徴とする請求項1または2記載のスパンボンド不織布。
【請求項4】
摩擦係数が0.1〜0.3であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【請求項5】
剛軟度が65mm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【請求項6】
紙おむつのバックシート用である、請求項1〜5のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工安定性に優れ、かつ柔軟なスパンボンド不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料に用いられる不織布には、風合い、肌触りおよび柔軟性に優れ、また高い生産性に適した加工安定性が求められる。
【0003】
スパンボンド不織布などの長繊維不織布は、その引張強度、通気性および剛軟度等の特性や、生産性の高さから、様々な用途に用いられている。その原料としては、ポリエステルやポリオレフィン等様々な樹脂が用いられるが、特に衛生材料用途には、コストと加工性に優れる点で有利なポリオレフィン樹脂が多用されている。
【0004】
従来、このようなポリオレフィン樹脂からなる繊維で構成されるスパンボンド不織布の風合いなどを改良する方法について、様々な提案がなされている。
【0005】
例えば、ポリオレフィン樹脂に滑剤を添加したポリオレフィン繊維からなるスパンボンド不織布としては、ポリオレフィン樹脂、特にポリプロピレン系樹脂からなり、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミド化合物を含む、静摩擦係数が0.1〜0.4のポリオレフィン繊維からなるスパンボンド不織布が提案されている(特許文献1参照。)。
【0006】
また、滑剤として、脂肪酸アミド化合物、特にエルカ酸アミドを含有させたポリオレフィン繊維からなる不織布が提案されている(特許文献2参照。)。
【0007】
しかしながら、これらの提案のように、エルカ酸アミドを滑剤として用いる場合、柔軟性が不十分であり、また不織布製造時に滑り性が過度に向上して、シート加工性や衛生材料への加工性に劣るという課題があった。
【0008】
また別に、プロピレン・エチレンランダム共重合体を原料に、これに脂肪酸アミドを配合した繊維からなる不織布が開示されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案では、共重合原料を使用しているため紡糸性に劣り、また繊維が太繊度であるため比表面積が小さく、手触りと柔軟性に劣るという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−226865号公報
【特許文献2】特開2002−69820号公報
【特許文献3】特許第4212764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の目的は、上記の課題に鑑み、紡糸性に優れたポリオレフィン繊維からなり、加工安定性に優れ、かつ柔軟なスパンボンド不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のスパンボンド不織布は、炭素数が23以上50以下の脂肪酸アミド化合物を含有するポリオレフィン系樹脂からなり、単繊維繊維径が6.5μm以上16.3μm以下の芯鞘型繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記芯鞘型繊維の鞘成分のみに脂肪酸アミドを含有することを特徴とするスパンボンド不織布である。
【0012】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記の脂肪酸アミド化合物は、エチレンビスステアリン酸アミドである。
【0014】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記の脂肪酸アミド化合物の添加量は0.01〜5.0質量%である。
【0015】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記のスパンボンド不織布の摩擦係数は0.1〜0.3である。
【0016】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記のスパンボンド不織布の剛軟度は65mm以下である。
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記のスパンボンド不織布は紙おむつのバックシート用である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紡糸性に優れたポリオレフィン繊維からなり、適度な滑り性を有することによりスパンボンド不織布の高速生産において加工安定性に優れ、かつ柔軟なスパンボンド不織布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のスパンボンド不織布は、炭素数が23以上50以下の脂肪酸アミド化合物を含有するポリオレフィン系樹脂からなり、単繊維繊維径が6.5μm以上16.3μm以下のポリオレフィン繊維からなるスパンボンド不織布である。
【0019】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維の原料となるポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレンの単独重合体もしくはプロピレンと各種α-オレフィンの共重合体、またポリエチレン系樹脂としてはエチレンの単独重合体もしくはエチレンと各種α-オレフィンの共重合体などが挙げられるが、紡糸性や強度の特性から、特にポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
本発明のスパンボンド不織布に用いられるポリオレフィン系樹脂の融点は、80〜200℃であることが好ましく、より好ましくは100〜180℃である。融点を80℃以上、より好ましくは100℃以上とすることにより、実用に耐え得る耐熱性が得られやすくなる。また、融点を200℃以下、より好ましくは180℃以下とすることにより、口金から吐出された糸条を冷却しやすくなり、繊維同士の融着を抑制し安定した紡糸が行いやすくなる。
【0021】
本発明のスパンボンド不織布に用いられるポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと記載する場合がある;ASTM D−1238 荷重;2160g、温度;230℃)は、1〜1000g/10分であることが好ましく、より好ましくは10〜500g/10分であり、さらに好ましくは20〜200g/10分である。メルトフローレートを、1〜1000g/10分の範囲とすることにより、安定して紡糸がしやすく、高い強度の繊維が得られやすくなる。
【0022】
また、これらのポリオレフィン系樹脂は、2種以上の混合物であってもよく、その他のオレフィン系樹脂や熱可塑性エラストマー等を含有する樹脂組成物を用いることもできる。
【0023】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、および顔料等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0024】
本発明のスパンボンド不織布については、ポリオレフィン系樹脂に炭素数が23以上50以下の脂肪酸アミド化合物が含まれていることが重要である。脂肪酸アミド化合物の炭素数は、脂肪酸アミド化合物の繊維表面への移動速度が変わることが知られており、脂肪酸アミド化合物の炭素数を23以上、好ましくは30以上とすることにより、脂肪酸アミド化合物が過度に繊維表面に出ることを抑制し、紡糸性と加工安定性に優れ、高い生産性を保持することができる。また、脂肪酸アミド化合物の炭素数を50以下、好ましくは42以下とすることにより、脂肪酸アミド化合物が繊維表面に出やすくなり、スパンボンド不織布の高速生産に適した滑り性と柔軟性を付与することができる。
【0025】
本発明で使用される炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物としては、飽和脂肪酸モノアミド化合物、飽和脂肪酸ジアミド化合物、不飽和脂肪酸モノアミド化合物、および不飽和脂肪酸ジアミド化合物などが挙げられる。具体的には、テトラドコサン酸アミド、ヘキサドコサン酸アミド、オクタドコサン酸アミド、ネルボン酸アミド、テトラコサエンタペン酸アミド、ニシン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、およびヘキサメチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられ、これらを複数組み合わせて用いることもできる。
【0026】
本発明では、これらの脂肪酸アミド化合物の中でも、特に飽和脂肪酸ジアミド化合物であるエチレンビスステアリン酸アミドが好ましく用いられる。エチレンビスステアリン酸アミドは、熱安定性に優れているため溶融紡糸が可能であり、高い生産性を保持しながら、柔軟性に優れたスパンボンド不織布を得ることができる。
【0027】
本発明で用いられる脂肪酸アミド化合物の添加量は、0.01〜5.0質量%であることが好ましい。脂肪酸アミド化合物の添加量を、好ましくは0.01〜5.0質量%、より好ましくは0.1〜3.0質量%、さらに好ましくは0.1〜1.0質量%とすることにより、紡糸性を維持しながら適度な滑り性と柔軟性を付与することができる。
【0028】
ここでいう添加量とは、本発明のスパンボンド不織布のポリオレフィン繊維を構成するポリオレフィン系樹脂全体に対して添加された、脂肪酸アミド化合物の質量パーセントを言う。例えば、芯鞘型繊維の鞘部のみに脂肪酸アミド化合物を添加する場合でも、芯鞘全体量に対する添加割合を算出している。
【0029】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維については、単繊維繊維径が6.5μm以上16.3μm以下であることが重要である。単繊維繊維径を、16.3μm以下、好ましくは14.5μm以下、より好ましくは11.8μm以下とすることにより、脂肪酸アミド化合物が繊維表面に出やすくなり、かつ、繊維の比表面積が増えるため、滑り性と柔軟性に優れたスパンボンド不織布を得やすくすることができる。また、単繊維繊維径を、6.5μm以上、好ましくは7.5μm以上、より好ましくは8.4μm以上とすることにより、脂肪酸アミド化合物が過度に繊維表面に出て滑り性が上がりすぎることが抑えられ、高い加工安定性を保持しやすくなる。
【0030】
本発明におけるスパンボンド不織布は、芯鞘型繊維で構成され、かつその芯鞘型繊維の鞘成分のみに脂肪酸アミド化合物を含有することが好ましい態様である。芯鞘型繊維の鞘成分のみに脂肪酸アミド化合物を含有させることにより、脂肪酸アミド化合物の移動距離が短くなり脂肪酸アミド化合物が繊維表面に出やすくなるため、脂肪酸アミド化合物の添加量を繊維全体へ添加する場合よりも少量に抑えながら、適度な滑り性と柔軟性を付与することができる。
【0031】
本発明のスパンボンド不織布の摩擦係数は、0.1〜0.3であることが好ましい。摩擦係数が好ましくは0.1〜0.3、より好ましくは0.1〜0.2であることにより、適度な滑り性で加工安定性に優れ、かつ高い柔軟性の不織布を得ることができる。
【0032】
本発明のスパンボンド不織布の剛軟度は、65mm以下であることが好ましい。剛軟度が、好ましくは65mm以下、より好ましくは63mm以下、さらに好ましくは60mm以下であることにより、特に衛生材料用の不織布として用いる場合に、優れた柔軟性を得ることができる。剛軟度の下限については、あまりに低い剛軟度になると不織布の取り扱い性に劣る場合があるため、10mm以上であることが好ましい。
【0033】
本発明のスパンボンド不織布の目付は、10〜100g/mであることが好ましい。目付を好ましくは10g/m以上、より好ましくは13g/m以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度の不織布を得ることができる。一方、不織布を衛材用途で使用する場合には、目付を好ましくは100g/m以下、より好ましくは50g/m以下、さらに好ましくは30g/m以下とすることにより、適度な柔軟性を有するスパンボンド不織布が得られる。
【0034】
本発明のスパンボンド不織布における単位目付当たりの引張強度は、1.8N/5cm/(g/m)以上であることが好ましい。単位目付当たりの引張強度を、好ましくは1.8N/5cm/(g/m)以上、より好ましくは2.0N/5cm以上、さらに好ましくは2.2N/5cm以上とすることにより、紙おむつ等を製造する際の工程通過性や製品としての使用に耐えうるものとなる。
【0035】
次に、本発明のスパンボンド不織布を製造する方法についての好ましい態様について、具体的に説明する。
【0036】
スパンボンド不織布の製造に用いられるスパンボンド法は、樹脂を溶融し、紡糸口金から紡糸した後、冷却固化して得られた糸条に対し、エジェクターで牽引し延伸して、移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブ化した後、熱接着する工程を要する製造方法である。
【0037】
紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくい点から矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせを用いることが好ましい態様である。
【0038】
樹脂を溶融し紡糸する際の紡糸温度は、200〜270℃であることが好ましく、より好ましくは210〜260℃であり、さらに好ましくは220〜250℃である。紡糸温度を上記の範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0039】
ポリオレフィン系樹脂を押出機によって溶融し計量して、紡糸口金へと供給し、長繊維として紡出する。
【0040】
紡出された長繊維の糸条を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度にて自然冷却する方法、紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法、またはこれらを組み合わせる方法等を採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度および雰囲気温度等を考慮して適宜調整し、採用することができる。
【0041】
次に、冷却固化された糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。
【0042】
紡糸速度は、3,500〜6,500m/分であることが好ましく、より好ましくは4,000〜6,500m/分であり、さらに好ましくは4,500〜6,500m/分である。紡糸速度を3,500〜6,500m/分とすることにより、高い生産性を有することになり、また繊維の配向結晶化が進み高い強度の長繊維を得ることができる。
【0043】
続いて、得られた不織繊維ウェブを、熱接着により一体化することにより、不織布を得ることができる。
【0044】
上記の熱接着により不織繊維ウェブを一体化する方法としては、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールにより熱接着する方法が挙げられる。
【0045】
熱接着時のエンボス接着面積率は、5〜30%であることが好ましい。接着面積を好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上とすることにより、不織布として実用に供しうる強度を得ることができる。一方、接着面積を好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下とすることにより、特に衛生材料用の不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0046】
ここでいう接着面積とは、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織繊維ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことを言う。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織繊維ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことを言う。
【0047】
熱エンボスロールに施される彫刻の形状としては、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などを用いることができる。
【0048】
熱ロールの表面温度は、使用しているポリオレフィン系樹脂の融点に対し−50〜−15℃とすることが好ましい態様である。熱ロールの表面温度を、ポリオレフィン系樹脂の融点に対して好ましくは−50℃以上、より好ましくは−45℃以上とすることにより、適度に熱接着させ不織布形態を保持することができる。また、熱ロールの表面温度を、ポリオレフィン系樹脂の融点に対して好ましくは−15℃以下、より好ましくは−20℃以下とすることにより、過度な熱接着を抑制し、特に衛生材料用の不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0049】
熱接着時の熱エンボスロールの線圧は、5〜50N/cmであることが好ましい。ロールの線圧を、好ましくは5N/cm以上、より好ましくは10N/cm以上、さらに好ましくは15N/cm以上とすることにより、十分に熱接着させ不織布として実用に供しうる強度を得ることができる。一方、ロールの線圧を、好ましくは50N/cm以下、より好ましくは40N/cm以下、さらに好ましくは30N/cm以下とすることにより、特に衛生材料用の不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0050】
本発明のスパンボンド不織布は、優れた柔軟性を有することから、紙おむつや生理用ナプキンなどの各種衛生材料、医療用材料、衣料用材料、および包装用材料として好適に利用することができる。衛生材料のなかでも、特に紙おむつのバックシートに好適に利用することができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例に基づき本発明のスパンボンド不織布について具体的に説明する。なお、以降「実施例1」、「実施例3」と記載されている箇所は、表1の中も含め、それぞれ「参考例1」、「参考例3」と読み替えることとする。
【0052】
(1)単繊維繊維径(μm):
エジェクターで牽引し、延伸した後、ネット上に捕集した不織繊維ウェブから、ランダムに小片サンプル10個を採取し、マイクロスコープで500〜1000倍の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の幅を測定し、平均値から単繊維繊維径(μm)を算出した。
(2)紡糸速度(m/分):
上記の単繊維繊維径と使用する樹脂の固形密度から長さ10,000m当たりの質量を単繊維繊度として、小数点以下第二位を四捨五入して算出した。単繊維繊度(dtex)と各条件で設定した紡糸口金単孔から吐出される樹脂の吐出量(以下、単孔吐出量と略記する。)(g/分)から、次の式に基づき、紡糸速度を算出した。
・紡糸速度=(10000×単孔吐出量)/単繊維繊度。
【0053】
(3)目付:
JIS L1913(2010年)6.2「単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0054】
(4)単位目付当たりの引張強度:
JIS L1913(2010年)の6.3.1に準じ、サンプルサイズ5cm×30cm、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/分の条件でMD、CD方向の各3点の引張試験を行い、サンプルが破断したときの強度を引張強度(N/5cm)とし、平均値について小数点以下第二位を四捨五入して算出した。続いて、算出した引張強度(N/5cm)を、上記(3)で求めた目付(g/m)から、次の式より小数点以下第二位を四捨五入して単位目付当たりの引張強度を算出した。
・単位目付当たりの引張強度=引張強度(N/5cm)/目付(g/m)。
【0055】
(5)剛軟度:
JIS L1913(2010年)の6.7.3項に準拠して、幅25mm×150mmの試験片を5枚採取し、45°の斜面をもつ水平台の上に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置く。手動により試験片を斜面の方向に滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したとき、他端の位置の移動長さをスケールによって読む。5枚の裏表について測定し、平均値を算出した。
【0056】
(6)摩擦係数:
カトーテック(株)製の自動化表面試験機 KES−FB4 AUTO−Aを用いて、試験片の100mm×100mmの範囲をピアノ線で巻かれた10mm×10mmの端子に50gの荷重をかけて、1.0mm/secの速さで滑らせた。各水準2点について測定し、その平均摩擦係数を算出した。
【0057】
(実施例1)
MFRが62g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が156℃であるポリプロピレン樹脂を用い、脂肪酸アミド化合物として炭素数38のエチレンビスステアリン酸アミド1.0質量%を添加し押出機で溶融し、紡糸温度を235℃として、孔径がφ0.30mmの矩形口金から単孔吐出量0.32g/分で紡出した。口金から紡出された糸条を、冷却固化した後、矩形エジェクターによってエジェクター圧力を0.25MPaとした圧縮エアによって、牽引し延伸して、移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブ化した。得られた長繊維の特性は、単繊維繊維径が10.6μmであり、これから換算した紡糸速度は4,153m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において、糸切れ0回と良好であった。
【0058】
引き続き、得られた不織繊維ウェブを、上ロールが金属製で水玉柄の彫刻がなされた接着面積率16%のエンボスロールで、下ロールが金属製フラットロールで構成される上下一対の熱エンボスロールを用い、線圧30N/cm、熱接着温度130℃で熱接着し、目付が18g/mのスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について、単位目付当たりの引張強度、剛軟度および摩擦係数を測定して評価した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
芯鞘型繊維の芯鞘両成分共にMFRが62g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が156℃であるポリプロピレン樹脂を用い、芯鞘型繊維の鞘成分のみにエチレンビスステアリン酸アミドを全体の質量に対し0.5質量%となるように添加し、芯鞘質量比が80/20になるように計量して、孔径がφ0.30mmの矩形芯鞘口金から紡糸したこと以外は、実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。得られた芯鞘複合長繊維の特性は、単繊維繊維径が10.6μmであり、これから換算した紡糸速度は4,225m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、単位目付当たりの引張強度、剛軟度および摩擦係数を測定して評価した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
MFRが170g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が156℃のポリプロピレン樹脂を用い、エジェクター圧力を0.35MPaにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。得られた長繊維の特性は、単繊維繊維径が9.9μmであり、これから換算した紡糸速度は4,680m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、単位目付当たりの引張強度、剛軟度および摩擦係数を測定して評価した。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
単孔吐出量を0.56g/分、エジェクター圧力を0.15MPaとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。得られた長繊維の特性は、単繊維繊維径は16.7μmであり、これから換算した紡糸速度は2,680m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、単位目付当たりの引張強度、剛軟度および摩擦係数を測定して評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例2)
滑材をエチレンビスステアリン酸アミドから、炭素数22のエルカ酸アミドに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。得られた長繊維の特性は、単繊維繊維径は10.6μmあり、これから換算した紡糸速度は4,223m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸にて糸切れ5回と不良であった。得られた不織布について、単位目付当たりの引張強度、剛軟度および摩擦係数を測定して評価した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1〜3では、高い紡糸速度でも紡糸性が良好であり、高い生産性と安定性を有する結果であった。また、実施例1〜3は、エチレンビスステアリン酸アミドの添加により剛軟度と摩擦係数が十分低く、優れた柔軟性を有する結果であった。
【0065】
一方、比較例1では、低い紡糸速度で比較的単繊維繊維径が太いため剛軟度と摩擦係数が高く柔軟性に劣る結果であった。また、比較例2で炭素数22のエルカ酸アミドを用いた場合には剛軟度が高く、十分な柔軟性が得られない結果であった。