(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記密閉カバーもしくは前記樹脂含浸槽に、乾燥空気又は不活性ガスを噴出する噴出ノズルを接続し、前記密閉カバーと前記樹脂含浸槽の表層との空隙に乾燥空気又は不活性ガスを噴出させる請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックは高強度、高弾性率などの優れた機械的特性を有しているため、自動車など一般産業用途などに広く使用されており、その成形方法も様々に開発されている。その中でもフィラメントワインディング成形法や引き抜き成形法などの樹脂を含浸させた連続した繊維を引きそろえて使用する成形方法は高強度の成形品を得るのに適している。
【0003】
これらの成形方法において、製造開始時は、繊維束と液状の樹脂とが別々に用意され、製造過程で一体化した後、所望の形状に成形することが一般的である。この製造工程において、エポキシ樹脂と硬化剤を主成分とする液状の樹脂を樹脂含浸槽等の槽内に貯え、樹脂含浸ローラ等を用いて繊維束に含浸させ、その後樹脂を硬化させる。その際、樹脂含浸槽に貯えられた硬化剤成分としてアミン系硬化剤が用いられる場合がある。アミン系硬化剤として例えば、アミンやジアミンを基本とした脂肪族アミンを使用すると、水との接触により反応し、アミンブラッシュと呼ばれる固形物を析出する白化現象を生じる場合がある。そうすると含浸ローラ表面に固形物が付着して、含浸ローラ等を用いて繊維束に含浸させる際、均一な樹脂含浸を阻害し、樹脂含浸ムラを生じてしまう場合がある。
【0004】
特許文献1(特開2004−162024号公報)では、「溶融混練された熱可塑性樹脂が連続した繊維束に含浸される工程を含み、溶融混練工程において熱可塑性樹脂と不活性ガスとが、可塑化装置の材料供給口から、一定量の不活性ガスとともに熱可塑性樹脂が供給される長繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法」が記載され、「熱可塑性樹脂とともに同伴される酸素を抑制し、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の劣化を抑える」効果が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1の構成は、熱可塑性樹脂と不活性ガスとを共に供給することで酸素の同伴を回避することで樹脂劣化を抑制することができるが、加熱溶融される樹脂の酸素劣化を抑制することを目的とするものであり、繊維束に樹脂を含浸させる際の不活性ガスの導入方法についてはなんら触れられていない。
【0006】
また、特許文献2(特許第2662853号公報)では、「繊維束に前記熱可塑性樹脂を含浸させる工程と、前記スクイズバーにより余分な樹脂を絞り取る工程とを、不活性ガス雰囲気下に行う」方法が記載され、「溶融した熱可塑性樹脂は酸化劣化を防止することができる」」効果が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献2の構成では、不活性ガス雰囲気槽は、熱可塑性樹脂中に繊維束を通過させて樹脂を含浸させる工程全体を不活性ガスで覆うため、不活性ガス雰囲気空間の大型化とその不活性ガス雰囲気状態を維持させるため大きな噴出力、さらには基材への損傷の問題が残る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について図面を用いながら説明する。なお、図面に示した実施態様は本発明を示す一例であって、本発明はこれら図面の態様に限定されるものではない。
【0015】
本発明は、連続して送り出される樹脂未含浸の繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸繊維束の製造方法であって、含浸される樹脂を貯えた樹脂含浸槽と、前記樹脂含浸槽内の樹脂中に樹脂含浸ローラの一部を浸漬させた樹脂含浸設備を備え、送り出された前記繊維束に前記樹脂を含浸させる樹脂含浸工程を少なくとも有し、前記樹脂含浸工程において、前記樹脂含浸槽の表層周辺における水分を削減する削減手段を有する構成からなる。
【0016】
本発明の実施形態に係る樹脂含浸繊維束の製造方法を用いた製造フロー1の一例を
図1に示す。製造フロー1は、主として、繊維束送出工程を担う繊維束送出部100、送り出された繊維束を案内する案内工程を担う繊維束案内部200、繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程を担う樹脂含浸部400、および樹脂を含浸させた繊維束を巻き付ける巻付工程を担う繊維束巻付部300が、この順で配置されている。
【0017】
本発明において、アミンブラッシュが発生し樹脂含浸ムラを引き起こす樹脂含浸工程において、水分を削減する削減手段を有することが重要である。削減手段を設ける樹脂含浸部400について、
図2を用いて説明する。樹脂未含浸の繊維束103は、繊維束送りローラ403により一定の張力が付与されて、樹脂含浸ローラ402に送られ、繊維束103が樹脂含浸ローラ402と接触する。樹脂含浸ローラ402はその一部が、含浸される樹脂405を貯えた樹脂含浸槽内401の樹脂中に浸漬している。樹脂含浸ローラ402は繊維束103の搬送方向407と同方向の矢印406方向に回転する。樹脂が付着した回転する樹脂含浸ローラ402と繊維束103が接触することにより、樹脂405が繊維束103に含浸する。
【0018】
ここで、本発明で使用する繊維束や樹脂について説明する。
【0019】
本発明において用いられる繊維束としては、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維等が挙げられる。これらの強化繊維を2種以上混合して用いることも可能である。より高強度の成形品を得るために、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0020】
用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、高強度を有する成形品を得られることからJIS R 7601(1986)に記載の方法によるストランド引張試験における引張弾性率が3〜8GPaの炭素繊維が好ましい。
【0021】
強化繊維の形態はボビンから引き出すことができれば、特に限定されるものではなく、クロスやロービングが用いられる。特に、高強度が要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられたロービングを使用することが特に好ましい。
【0022】
本発明で使用する樹脂としては、エポキシ樹脂[A]と、アミン系硬化剤[B]とを含むエポキシ樹脂組成物であることが好ましい。また、硬化時間を短縮させるために、硬化触媒[C]を適宜加えることも可能である。
【0023】
エポキシ樹脂[A]は、分子中にエポキシ基を含む化合物をいう。かかるエポキシ樹脂としては、水酸基を複数有するフェノールから得られる芳香族グリシジルエーテル、水酸基を複数有するアルコールから得られる脂肪族グリシジルエーテル、アミンから得られるグリシジルアミン、カルボキシル基を複数有するカルボン酸から得られるグリシジルエステル、ジフェニルメタン骨格を有するビスフェノール、オキシラン環を有するエポキシ樹脂などがあげられる。
【0024】
また、アミン系硬化剤[B]は、エポキシ樹脂を硬化させるために必要な成分である。アミン系硬化剤とは分子中に窒素原子を含み、エポキシ基と反応して硬化させる化合物をいう。かかる硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、イミダゾールまたはその誘導体、カルボン酸ヒドラジド類、3級アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミドまたはその誘導体等が挙げられる。また、酸無水物系硬化剤を使用しても良い。酸無水物系硬化剤ではアミンブラッシュは起こらないものの、水分との反応で劣化することが知られている。
【0025】
本発明における、エポキシ樹脂と硬化剤の硬化反応を促進する硬化触媒[C]としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸触媒、有機リン化合物、三級アミン化合物およびそれらの塩類などなどが挙げられる。
【0026】
上記のような成分を備えた樹脂を繊維束に含浸させて成形しようとする際、硬化剤成分であるアミン系硬化剤[B]として、例えばアミンやジアミンを基本とした脂肪族アミンを使用すると、水との接触により反応し、アミンブラッシュと呼ばれる白化現象を生じる場合がある。白化現象が生じた場合、樹脂含浸槽に蓄積した固形物が含浸ローラ表面に付着して、含浸ローラ等を用いて繊維束に含浸させる際、均一な含浸を阻害し、樹脂含浸ムラを生じてしまう場合がある。したがって、樹脂含浸ムラの原因となる樹脂含浸槽での固形物蓄積を防止するために、樹脂含浸工程に水分を削減する削減手段を有することが重要となる。
【0027】
具体的な削減手段としては、樹脂含浸槽の表層周辺に乾燥空気又は不活性ガスを供給する、または水を吸着する物質を配置することが好ましい。
【0028】
最初に、乾燥空気又は不活性ガスを供給する方法について説明する。
【0029】
乾燥空気又は不活性ガスを供給する具体的な方法としては、樹脂槽含浸の表層に向けて乾燥空気又は不活性ガスを噴出する構成を備えることが好ましい。乾燥空気又は不活性ガスを直接樹脂槽含浸の表層に向けて樹脂噴出させることで、樹脂と、水分とが接触反応することを回避することができる。
【0030】
乾燥空気又は不活性ガスを直接樹脂含浸槽の表層に向けて噴出させる態様の一例を
図3に示す。
【0031】
噴出ポンプ408に接続された噴出ノズル409から、樹脂含浸槽の表層412の方向に向けて乾燥空気または不活性ガスを噴出させる。噴出方向410は噴出ノズル409の先端から樹脂含浸ローラ402の回転中心軸を通る水平線414に向かう方向に対して、樹脂含浸槽401内の樹脂405の液層の表層412に向けて噴出していることが好ましい。特に、噴出方向410を略鉛直方向に向けると、より効果的に水分を削減することができる。さらに、噴出ノズル409は、樹脂含浸ローラ402の一部が浸漬することで区切られた樹脂含浸槽401内の樹脂405の液層の表層412それぞれ(
図3中では樹脂含浸ローラ402の左右それぞれ)に設けてもよい。
【0032】
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が好ましく用いられる。乾燥空気は大気中の水分を吸着剤による除去、過熱/冷却サイクルによる除去などの方法を用いて作ることができる。
【0033】
本発明における乾燥空気はTetens式を活用した(1)式で算出した水蒸気量が18.0g/m
3以下であることが好ましい。水蒸気量が18.0g/m
3以上だと、アミンブラッシュの抑制効果が少ない。
水蒸気量(g/m
3)=217×e/(t(乾燥空気温度(℃)+273.15)×RH(乾燥空気の相対湿度(%))/100 ・・・(1)
e=6.11×10^(7.5×t(乾燥空気温度(℃)/(237.3+t(乾燥空気温度(℃)))
【0034】
噴出ノズル409の形態は特に限定されるものではなく、種々の形態を採用することができる。例えば、噴出ノズル409が樹脂含浸ローラ402の回転軸方向に沿って複数ライン状に配置させておくと、樹脂含浸槽401の表層412全体にわたって、均一に水分削除することができ好ましい。また、1つの噴出ノズル409に複数列の噴出口を設けてもよい。以下、
図4〜
図7に、噴出ノズル409の各種態様を例示する。
【0035】
図4に示すミストヘッダーエアノズルは、ガス供給ライン501に送られた乾燥空気又は不活性ガスが、ライン状に並べられたミストヘッダーエアノズル502からミスト状に噴出(503)される。乾燥空気又は不活性ガスは樹脂一定の帯状の領域504に拡散させることができる。
【0036】
また、
図5に示すフルコーン型エアーノズルは、乾燥空気又は不活性ガスがフルコーン型エアーノズル505から円錐状に噴出(506)される。乾燥空気又は不活性ガスは樹脂一定の円状の領域507に拡散する。フルコーン型エアーノズルをライン状に複数並べると、広面積に乾燥空気又は不活性ガスを拡散させることができる。
【0037】
さらに、
図6に示すフラットエアーノズルは、乾燥空気又は不活性ガスがフラットエアーノズル508から三角状の狭い範囲に噴出(509)される。乾燥空気又は不活性ガスは樹脂一定の帯状の領域510に拡散する。拡散領域が狭いため、フラットエアーノズルをライン状に複数並べると、広面積に乾燥空気又は不活性ガスを拡散させることができる。
【0038】
またさらに、
図7に示すナイフジェットエアーノズルは、乾燥空気又は不活性ガスが、ナイフジェットエアーノズル511からナイフ状に噴出(512)される。乾燥空気又は不活性ガスは樹脂一定の帯状の領域513に拡散する。拡散領域が狭いため、ナイフジェットエアーノズルをライン状に複数並べると、広面積に乾燥空気又は不活性ガスを拡散させることができる。
【0039】
フラットエアーノズル508やナイフジェットエアーノズル511は、乾燥空気又は不活性ガスが容易に拡散しない分、乾燥空気又は不活性ガスの噴出力を高めることができる。その結果、樹脂含浸槽401の表層周辺における水分を確実に削減する樹脂ことができる。
【0040】
乾燥空気又は不活性ガスを直接樹脂含浸槽401の表層412に向けて噴出させる態様以外にも、
図8に示すように、樹脂含浸槽401内の表層412と略平行に乾燥空気又は不活性ガスを噴出させて、表層412への水分を含む大気の流入を抑制するエアーカーテンを形成させる構成も好ましい態様である。この場合、噴出方向410は、噴出ノズル409の先端から樹脂含浸ローラ402の回転中心軸を通る水平線414に向かう方向に対して、略並行方向に向いていることが好ましい。噴出方向410を略並行方向に向けることにより効果的にエアーカーテンを形成することができる。
図8では樹脂含浸ローラ402を挟んで一対の噴出ノズル409を対向配置しているが、これに限定されるものではなく、複数の噴出ノズル409を配置してもよい。
【0041】
また、樹脂含浸槽401の上部に密閉カバー411を配置することも好ましい態様である。密閉カバー411は、
図9に示すように、樹脂含浸槽401内の表層412との間に一定の空隙415を設けるとともに、樹脂含浸ローラ402と一定の間隙413を設けて配置する構成が好ましい。
【0042】
樹脂含浸槽401の上部に密閉カバー411を配置することで、樹脂含浸槽401の密閉性を向上させることができ、樹脂含浸槽401の周囲にある水分を含んだ大気の流入を少なくできる。ここで、密閉カバー411の端部と樹脂含浸ローラ402とは、一定の間隙413を設けて配置することが好ましい。一定の間隙413を設けておくと、樹脂含浸ローラ402に塗布された樹脂405が接触せず、また、後述するように外部から樹脂含浸槽401内へ噴出ノズルから出す乾燥空気又は不活性ガスを噴出させる入口を確保することができる。一定の間隙413は5〜70mmが好ましい。5mmm未満であると樹脂含浸ローラ402に塗布された樹脂405と接触する場合があり、70mmを超えると樹脂含浸槽401の内部の密閉性を確保することが困難になることがある。
【0043】
またさらに、密閉カバー411は樹脂含浸ローラ402の回転中心軸を通る水平線414よりも下方に配置することが好ましい。このような配置が可能になると、繊維束送りローラ403を、より下方に配置することができ、繊維束103の樹脂含浸ローラ402への巻き付け角度を広げ、繊維束103と樹脂405の接触時間を長く確保することができる。その結果、安定的に繊維束103に樹脂405を付着させることができる。また、密閉カバー411にも繊維束103の通過孔を設ける必要がなくなり、通過孔周辺の密閉構造を新たに設けることが不要となり、繊維束103との接触による糸切れも防止できる。
【0044】
また、
図10に示すように、密閉カバー411と樹脂含浸ローラ402との間に設けた一定の間隙413から、乾燥空気又は不活性ガスを樹脂含浸槽401内へ噴出させることも好ましい態様である。
【0045】
樹脂含浸槽401を密閉カバー411で密閉させた状態で、乾燥空気又は不活性ガスを、密閉カバー411と樹脂含浸槽401内の表層412との間の一定の空隙415へ噴出させることで、一定の空隙415内に存在する水分をより効果的に削減することができる。
【0046】
一定の空隙415へ乾燥空気又は不活性ガスを噴出する方法は特に限定されるものではなく、種々の形態を採用することができる。
図10に示すように、噴出ポンプ408から噴出ノズル409に送られた乾燥空気または不活性ガスを、一定の間隙413から樹脂含浸槽401に向けて噴出させることができる。
【0047】
この時、噴出方向410は噴出ノズル409の先端から一定の間隙413の方向に向いていることが好ましい。直接的に一定の間隙413に乾燥空気または不活性ガスを噴出することにより、水分を効果的に削減できることができる。
【0048】
また、乾燥空気又は不活性ガスを、一定の空隙415へ直接噴出させる構成も好ましい。この構成によると一定の空隙415内の水分をより効果的に削減することができる。例えば、
図11に示すように、一定の空隙415の領域に直接接続可能な樹脂含浸槽401の側面に噴出ノズル409を接続することもできるし、噴出ノズル409を密閉カバー411に接続しても良い。
【0049】
また、密閉カバー411と樹脂含浸槽401内の表層412との間の一定の空隙415を減圧状態にすることも好ましい態様である。減圧状態とすることにより、一定の空隙415から水分を削減することができる。
【0050】
ここで減圧状態とは、周囲の大気圧よりも小さい圧力に低下させることをいう。減圧状態は0〜912hPa(684mmHg)の範囲であることが好ましい。より好ましくは、真空(0〜102hPa)である。減圧手段は特に限定されるものではないが、
図12に示すように、真空ポンプ等の減圧装置416を密閉カバー411に接続して、一定の空隙415を減圧状態にし、水分を削減することができる。また、減圧装置416は樹脂含浸槽401に接続していても良い。
【0051】
さらに、
図13に示すように、密閉カバー411と樹脂含浸槽401内の樹脂405の液層の表層412との間の一定の空隙415を減圧にした状態で、乾燥空気又は不活性ガスを供給することも好ましい態様である。減圧状態とした一定の空隙415に乾燥空気又は不活性ガスを供給することで、より効果的に一定の空隙415から水分を削減することができる。
【0052】
以上説明したような、噴出ノズル409や密閉カバー411、減圧状態とすることを組み合わせることにより、水分の削減範囲が樹脂含浸槽401の表層412付近を均一かつ効率的に水分を削減可能とすることができ、樹脂含浸槽を含めた樹脂含浸繊維束の製造設備の小型化が達成できる。
【0053】
次に、水を吸着する物質を配置する方法について説明する。
【0054】
水を吸着する物質としては、シリカゲル若しくはゼオライトを用いることが好ましい。シリカゲルやゼオライトは多孔質構造を有することで、水分子の吸着効果が期待できる。特に、水分子を強く吸着するモレキュラーシーブを用いることが好ましい。
【0055】
また、本発明において、水を吸着する物質を配置する場所は、密閉カバー411と樹脂含浸槽401内の表層412との間の一定の空隙415内であれば良い。樹脂405への混入防止を考慮すると、表層412と面する密閉カバー411の裏面に取り付けるのが好ましい。水を吸着する物質の密閉カバー411への固定方法は特に限定されるものではなく、水を吸着する物質の形態に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって、本発明の一体化成形体およびその製造方法について具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0057】
(1)エポキシ樹脂組成物
<液状ビスフェノール型エポキシ樹脂[A]>
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂とブタンジオールジグリシジルエーテルの混合物、(“ARALDITE(登録商標)”LT1564 SP CI、ハンツマンジャパン(株)製)
<アミン系硬化剤[B]>
・シクロヘキシルアミン(“ARADUR(登録商標)”2954、ハンツマンジャパン(株)製)
【0058】
(2)エポキシ樹脂組成物の調製
20℃で、エポキシ樹脂[A]、アミン系硬化剤[B]を100:35の重量比で混合し、樹脂組成物を得た。
【0059】
(3)成形品の作製
フィラメントワインディング成形装置に、外径170mm、全長500mmの円筒のマンドレルを設置し、当該マンドレルに、強化繊維として東レ(株)製炭素繊維“トレカ(登録商標)”T700SC−12Kの糸束1本を引き揃え、それに上記樹脂組成物の入った樹脂を含浸させながら給糸した。マンドレルの軸方向に対して、±88°の巻き角度で幅300mmの範囲に厚さ15mmで積層した。成形にかかった時間は60分であった。
【0060】
(4)樹脂含浸槽の構造
幅150mm、長さ200mm、深さ50mmの樹脂含浸槽に幅100mm、外径100mmの樹脂含浸ローラをセットした。この含浸ローラに対して10mmの間隔を確保し樹脂含浸槽の全面を覆う密閉カバーを設置した。そして、樹脂含浸槽の側面に内部ガスを充填するノズルを1ライン取り付けた。また、内部の温度と湿度は樹脂含浸槽内に設置した温湿度計(“オンドトリ(登録商標)”TR−71wf、(株)ティアンドティ製)で常時監視した。
【0061】
(5)水蒸気量の計算
温湿度計(“オンドトリ(登録商標)”TR−71wf、(株)ティアンドティ製)で得た温度、湿度を、前述した(1)式から水蒸気量を算出した。
【0062】
(6)判定方法
以下の2つを満足した場合、アミンブラッシュが発生し樹脂含浸ムラが発生したと判断した。
1.成形中に樹脂含浸ローラ上に析出物および析出物由来のスジを目視で確認する。
2.樹脂付着量が5%以上減少した場合(具体的な測定方法は後述)。
【0063】
前記アミンブラッシュが発生した後、成形品の作製を中断した。次いで、樹脂を含浸させた繊維束を20m巻取った時の重量と、あらかじめ取得した樹脂を含浸させていない繊維束の重量を用いて、以下(2)式に基づいて樹脂付着量を算出した。
樹脂付着量(%)=(樹脂が付着した繊維束重量(g)−繊維束重量(g))/樹脂が付着した繊維束重量(g)×100・・・(2)
【0064】
(7)評価
以下の実施例1〜5、比較例1、2を実施した。
【0065】
(実施例1)
密閉カバーをセットし、密閉カバーと樹脂含浸槽の表層との間の一定の空隙に、露点0℃以下の乾燥空気を流量0.5L/minを流し続け、樹脂含浸槽内の水蒸気量を5.2g/m
3以下に保ち続けた。その結果、成形中にアミンブラッシュは確認できなかった。
【0066】
(実施例2)
実施例1で使用した乾燥空気の代わりに窒素ガス(純度99.5%)を使用し、密閉カバーをセットした一定の空隙に窒素ガスを流量0.3L/minを流し続け、水蒸気量を4.2g/m
3以下に保ち続けた以外は、実施例1と同様の条件で成形を行った。その結果、成形中にアミンブラッシュは確認できなかった。
【0067】
(実施例3)
以下に示す樹脂を使用した以外は実施例1と同様の条件で成形を行った。その結果、成形中にアミンブラッシュは確認できなかった。
(1)エポキシ樹脂組成物
<液状ビスフェノール型エポキシ樹脂[A]>
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”828、三菱化学(株)製)
<アミン系硬化剤[B]>
・ポリ(プロピレングリコール)ジアミン、イソホロンジアミン等の混合物(“ARADUR(登録商標)”3486BD、ハンツマンジャパン(株)製)
(2)エポキシ樹脂組成物の調製
20℃で、エポキシ樹脂[A]、アミン系硬化剤[B]を100:32の重量比で混合し、樹脂組成物を得た。
【0068】
(実施例4)
実施例2で使用した窒素ガスを、実施例2と同じ条件で供給した以外は、実施例3と同様の条件で成形を行った。その結果、成形中にアミンブラッシュは確認できなかった。
【0069】
(実施例5)
以下に示す樹脂含浸槽を用いて樹脂含浸槽内の水蒸気量を3.8g/m
3以外に保ち続けた以外は実施例1と同様の条件で成形を行った。その結果、成形中にアミンブラッシュは確認できなかった。
<樹脂含浸槽の構造>
幅150mm、長さ200mm、深さ50mmの樹脂含浸槽に幅100mm、外径100mmの樹脂含浸ローラをセットし、樹脂含浸槽の全面を覆う密閉カバーの樹脂側に50gシリカゲル(アズワン(株)製、型番AS0005)を両面テープを用いて貼りつけた後、樹脂含浸ローラに対して10mmの間隔を確保し、樹脂含浸槽の全面を覆うように密閉カバーを設置した。また、内部の温度と湿度は、樹脂含浸槽内に設置した温湿度計(“オンドトリ(登録商標)”TR−71wf、(株)ティアンドティ製)で常時監視した。
【0070】
(比較例1)
密閉カバーをとり、乾燥空気を注入しなかった以外は実施例1と同様にした。試験片作製中の水蒸気量の最大値は18.5g/m
3であった。成形開始から10分後にアミンブラッシュが発生した。次いで、樹脂付着量を測定したところ成形品の作製前の58%に対して、50%となり樹脂付着量が低下した。
【0071】
(比較例2)
密閉カバーをとり、乾燥空気を注入しなかった以外は実施例3と同様にした。試験片作製中の水蒸気量の最大値は18.3g/m
3であった。成形開始から20分後にアミンブラッシュが発生した。次いで、樹脂付着量を測定したところ成形品の作製前の59%に対して、52%となり樹脂付着量が低下した。