(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907583
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20210708BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/04 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-29624(P2017-29624)
(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-137078(P2018-137078A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 三紀夫
(72)【発明者】
【氏名】三野 孝之
【審査官】
星野 昌幸
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/092839(WO,A1)
【文献】
特開2013−201358(JP,A)
【文献】
特開2016−177941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/04
G01R 31/36
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して互いに対向する正極及び負極を含む積層体と、
前記積層体及び電解液を収容する袋状のラミネートフィルムと、
前記ラミネートフィルムに固定された金属フィルムと、
前記正極に接続された第1の端子電極と、
前記負極に接続された第2の端子電極と、
前記金属フィルムに接続された第3の端子電極と、
前記第1及び第2の端子電極の少なくとも一方と前記第3の端子電極との間の静電容量を検出する検出回路と、を備え、
前記金属フィルムは、袋状である前記ラミネートフィルムの内側面に接着されており、前記積層体と前記ラミネートフィルムとの間には絶縁膜が設けられていることを特徴とする蓄電池。
【請求項2】
前記積層体と前記ラミネートフィルムは、通常状態において密着していることを特徴とする請求項1に記載の蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電池に関し、特に、正極及び負極を含む積層体と電解液がラミネートフィルムに収容されてなる蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車などに用いられる電源として、リチウムイオン電池などの蓄電池が広く用いられている。リチウムイオン電池は、セパレータを介して対向する正極及び負極を有しており、電解液に含まれるリチウムイオンがセパレータを介して正極から負極へ、或いは、負極から正極に移動することにより充放電が実現される。正極、負極及びセパレータからなる積層体は、電解液とともに袋状のラミネートフィルムに収容される。
【0003】
リチウムイオン電池は、過充電や内部短絡などによって温度が上昇すると、電解液からガスが発生し、内圧が高くなることがある。特許文献1には、蓄電池の表面に強度の弱い膜体を設け、内圧の上昇によって膜体が切断されると充電を停止する機構を備えた蓄電池が開示されている。特許文献2には、内圧が上昇すると分離する電極を設け、これによって内圧の上昇を検出可能な蓄電池が開示されている。特許文献3には、筐体と金属ケースとの間の静電容量を監視することによって、内圧の上昇を検知可能な蓄電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−162527号公報
【特許文献2】特開2011−096664号公報
【特許文献3】特開2009−076265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された蓄電池の内圧監視機構は、いわゆるヒューズ方式であり、内圧の異常な上昇を検知すると内圧監視機構が破壊されるため、その後の検知はできなくなる。また、内圧がある程度上昇しても、電極が切断又は分離されるまではこれを検出することができないという問題もあった。
【0006】
これに対し、特許文献3に記載された蓄電池は、筐体と金属ケースとの間の静電容量を監視していることから、内圧の上昇をリアルタイムに検出できるという利点を有している。しかしながら、特許文献3に記載された方式では、内圧が上昇しても変形しない筐体を用いる必要があるだけでなく、通常時には筐体と金属ケースとの間に所定の隙間を確保する必要があることから、蓄電池全体のサイズが大型化するという問題があった。
【0007】
したがって、本発明は、サイズの大型化を最小限に抑えつつ、内圧の上昇をリアルタイムに検出可能な蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による蓄電池は、セパレータを介して互いに対向する正極及び負極を含む積層体と、前記積層体及び電解液を収容する袋状のラミネートフィルムと、前記ラミネートフィルムに固定された金属フィルムと、前記正極に接続された第1の端子電極と、前記負極に接続された第2の端子電極と、前記金属フィルムに接続された第3の端子電極とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、内圧の上昇による正極又は負極と金属フィルムとの間の距離の変化を第1又は第2の端子電極と第3の端子電極との間の静電容量の変化として検出することができる。これにより、サイズの大型化を最小限に抑えつつ、内圧の上昇をリアルタイムに検出することが可能となる。
【0010】
本発明において、前記金属フィルムは、袋状である前記ラミネートフィルムの外側面に接着された構成であっても構わないし、袋状である前記ラミネートフィルムの内側面に接着され、前記積層体と前記ラミネートフィルムとの間に絶縁膜が設けられた構成であっても構わない。前者によれば、ラミネートフィルムに金属フィルムを貼り付けるだけでよいことから、製造コストの上昇を最小限に抑えることができる。一方、後者によれば、金属フィルムが外部に露出しないことから、金属フィルムと他の部材との接触に起因するショート不良を防止することができる。
【0011】
前記積層体と前記ラミネートフィルムは、通常状態において密着していることが好ましい。これによれば、通常の充放電に伴って積層体が膨張及び収縮しても、第1又は第2の端子電極と第3の端子電極との間の静電容量が変化しないため、ガスの発生による内圧の上昇を正しく検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明による蓄電池は、サイズの大型化を最小限に抑えつつ、内圧の上昇をリアルタイムに検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態による蓄電池10の外観を示す略斜視図である。
【
図4】
図4は、ラミネートフィルム30の略断面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すC−C線に沿った略断面図であり、通常状態における蓄電池10の形状を示している。
【
図7】
図7は、
図1に示すC−C線に沿った略断面図であり、ガスが発生した状態における蓄電池10の形状を示している。
【
図8】
図8は、蓄電池10に検出回路50を接続した状態を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、第1の変形例による蓄電池10Aの外観を示す略斜視図である。
【
図10】
図10は、第2の変形例による蓄電池10Bの外観を示す略斜視図である。
【
図11】
図11は、第3の変形例による蓄電池10Cの外観を示す略分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の好ましい実施形態による蓄電池10の外観を示す略斜視図である。また、
図2は蓄電池10の略分解斜視図であり、
図3は
図2に示すA−A線に沿った略断面図である。
【0016】
本実施形態による蓄電池10はリチウムイオン電池であり、積層体20と、図示しない電解液とともに積層体20を収容する袋状のラミネートフィルム30と、ラミネートフィルム30の外側面に貼り付けられた金属フィルム40とを備える。ラミネートフィルム30からは、第1及び第2の端子電極E1,E2が導出され、金属フィルム40には第3の端子電極E3が接続されている。積層体20は、複数の正極21と複数の負極22がセパレータ23を介して積層された構造を有している。セパレータ23は、電解液に含まれるリチウムイオンを透過する微少な孔が形成された絶縁膜である。
【0017】
正極21は、正極集電体の表面に正極活物質が形成された構造を有しており、正極集電体の一部がラミネートフィルム30から導出されて第1の端子電極E1を構成している。第1の端子電極E1は、正極集電体に接続された別の金属体であっても構わない。正極集電体は例えばアルミニウム(Al)からなり、正極活物質は例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2など、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な材料からなる。
【0018】
負極22は、負極集電体の表面に負極集電体が形成された構造を有しており、負極集電体の一部がラミネートフィルム30から導出されて第2の端子電極E2を構成している。第2の端子電極E2は、負極集電体に接続された別の金属体であっても構わない。負極集電体は例えば銅(Cu)からなり、負極活物質は例えば活性炭からなる。
【0019】
このような構造を有する積層体20は、電解液とともに袋状のラミネートフィルム30に収容される。
図4に示すように、ラミネートフィルム30は、金属フィルム31の両面に絶縁フィルム32が積層された構造を有しており、袋状に加工することによって積層体20及び電解液が密閉される。ラミネートフィルム30を袋状に加工する方法としては、1枚のラミネートフィルム30を2つに折り畳んだ後、重なった3辺を加熱することによって、上側の絶縁フィルム32の端部と下側の絶縁フィルム32の端部を接着しても構わないし、2枚のラミネートフィルム30を重ねた後、4辺を加熱することによって、上側の絶縁フィルム32の端部と下側の絶縁フィルム32の端部を接着しても構わない。
【0020】
図2に示す符号Bは積層体20と重なる領域を示し、その外側の3辺又は4辺を加熱することによって、上下の絶縁フィルム32が接着され、袋状に密閉されたラミネートフィルム30が形成される。そして、本実施形態においては、ラミネートフィルム30の外側面に金属フィルム40が貼り付けられ、その一部が第3の端子電極E3として用いられる。金属フィルム40の貼り付けは、接着剤などを用いて行うことができる。第3の端子電極E3は、金属フィルム40に接続された別の金属体であっても構わない。
【0021】
図5は、
図1に示すC−C線に沿った略断面図であり、通常状態における蓄電池10の形状を示している。
【0022】
図5に示すように、通常状態においては、積層体20とラミネートフィルム30が密着しており、両者間にはほとんど隙間が存在しない。そして、ラミネートフィルム30の外側面には金属フィルム40が貼り付けられているため、金属フィルム40と正極21及び負極22との間には静電容量が生じる。つまり、
図6に示すように、第1の端子電極E1と第3の端子電極E3との間には静電容量C1が生じ、第2の端子電極E2と第3の端子電極E3との間には静電容量C2が生じる。
【0023】
そして、過充電や内部短絡などによって温度が上昇すると、ラミネートフィルム30に封入されている電解液からガスが発生し、内圧が高くなる。
図7は、ラミネートフィルム30によって形成された内部空間にガスGが充満した状態を示している。このような状態になると、積層体20とラミネートフィルム30との間にガスGによる隙間が生じ、静電容量C1及びC2が減少する。
【0024】
このような静電容量C1又はC2の変化は、
図8に示すように、第1〜第3の端子電極E1〜E3を検出回路50に接続することによって検出することができる。検出回路50は、静電容量C1又はC2をリアルタイム或いは定期的に監視する回路であり、静電容量C1又はC2の値が所定のしきい値未満に低下したことに応答して検出信号Sを発生させる。したがって、外部の制御機器は、検出信号Sを監視することによって蓄電池10に異常が生じているか否かを知ることが可能となる。
【0025】
尚、ガスGの発生による静電容量C1と静電容量C2の変化はほぼ均等に生じるため、静電容量C1,C2の両方を監視することは必須でなく、いずれか一方のみを監視するだけであっても構わない。
【0026】
以上説明したように、本実施形態による蓄電池10は、ラミネートフィルム30の外側面に金属フィルム40が貼り付けられ、且つ、金属フィルム40が第3の端子電極E3に接続されていることから、第1又は第2の端子電極E1,E2と第3の端子電極E3との間の静電容量を監視することによって、ガスGの発生による内圧の上昇を検知することが可能となる。しかも、本実施形態においては、ラミネートフィルム30の外側面に金属フィルム40を貼り付けるだけであることから、部品点数や全体サイズの増大を最小限に抑えることが可能となる。また、正極21、負極22、ラミネートフィルム30など、一般的なラミネートセル型蓄電池の構成要素に対する加工などが不要であることから、高い信頼性を確保することも可能となる。
【0027】
また、リチウムイオン電池においては、通常状態においても充放電に伴って積層体20が僅かに膨張又は収縮することがあるが、積層体20自体が膨張又は収縮しても、積層体20とラミネートフィルム30が密着した状態が保たれることから、静電容量C1,C2は変化しない。したがって、通常状態における積層体20の膨張又は収縮はノイズとはならない。
【0028】
図9は、第1の変形例による蓄電池10Aの外観を示す略斜視図である。
【0029】
図9に示す蓄電池10Aは、第3の端子電極E3が第1及び第2の端子電極E1,E2とは反対側の辺から導出されている点において、
図1に示した蓄電池10と相違している。このような構成によれば、第1及び第2の端子電極E1,E2と第3の端子電極E3のショートを防止することが可能となり、信頼性が高められる。
【0030】
図10は、第2の変形例による蓄電池10Bの外観を示す略斜視図である。
【0031】
図10に示す蓄電池10Bは、ラミネートフィルム30の互いに反対側に位置する外側面にそれぞれ金属フィルム40が貼り付けられており、これら金属フィルム40からそれぞれ第3及び第4の端子電極E3,E4が導出されている点において、
図1に示した蓄電池10と相違している。つまり、袋状のラミネートフィルム30が2つの金属フィルム40によって挟まれた構成を有している。このような構成によれば、ガスGの発生によって生じるラミネートフィルム30の膨らみが片側だけに生じている場合であっても、これを正しく検出することが可能となる。
【0032】
図11は、第3の変形例による蓄電池10Cの外観を示す略分解斜視図である。
【0033】
図11に示す蓄電池10Cは、金属フィルム40が袋状であるラミネートフィルム30の内側面に貼り付けられているとともに、金属フィルム40と積層体20との間に絶縁膜41が設けられている点において、
図1に示した蓄電池10と相違している。絶縁膜41は、積層体20を構成する正極21又は負極22と金属フィルム40が接触しないよう、両者間を絶縁するために設けられる。このような構成によれば、金属フィルム40が外部に露出しないことから、金属フィルム40と他の部材との接触に起因するショート不良を防止することができる。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0035】
例えば、上記実施形態では、本発明をリチウムイオン電池に適用した場合を例に説明したが、本発明の対象がリチウムイオン電池に限定されるものではなく、他の種類の蓄電池に適用することも可能である。
【0036】
また、上記実施形態では、セパレータ23を介して複数の正極21と複数の負極22を交互に積層したタイプの蓄電池を例に説明したが、本発明がこれに限定されるものではなく、セパレータを介して正極と負極を巻回したタイプの蓄電池に本発明を適用することも可能である。
【0037】
さらに、上記実施形態では、金属フィルム31の両面に絶縁フィルム32が積層されたラミネートフィルム30を用いているが、ラミネートフィルム30が金属フィルム31を含むことは必須でない。
【符号の説明】
【0038】
10,10A,10B,10C 蓄電池
20 積層体
21 正極
22 負極
23 セパレータ
30 ラミネートフィルム
31 金属フィルム
32 絶縁フィルム
40 金属フィルム
41 絶縁膜
50 検出回路
C1,C2 静電容量
E1 第1の端子電極
E2 第2の端子電極
E3 第3の端子電極
E4 第4の端子電極
G ガス
S 検出信号