特許第6907599号(P6907599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6907599-タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907599
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20210708BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20210708BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20210708BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20210708BHJP
   C08C 19/00 20060101ALI20210708BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08K5/548
   C08K3/36
   C08L15/00
   C08C19/00
   B60C1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-38905(P2017-38905)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-145233(P2018-145233A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】芦浦 誠
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
(72)【発明者】
【氏名】新家 雄
【審査官】 岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−270247(JP,A)
【文献】 特開2008−069347(JP,A)
【文献】 特開昭49−067986(JP,A)
【文献】 特開2006−137897(JP,A)
【文献】 特開2014−185343(JP,A)
【文献】 特開2015−196759(JP,A)
【文献】 特開2014−185339(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0168367(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 −13/08
C08L 1/00 −101/16
C08C 19/00
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、シリカと、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを含有し、
前記ジエン系ゴムが、芳香族ビニルと共役ジエンとの共重合体である芳香族ビニル−共役ジエン共重合体を10〜50質量%含み、平均ガラス転移温度が−50℃以上であり、
前記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体が、芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量が18質量%以上であり、ガラス転移温度が−60℃以下であり、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、ビニル構造の割合が8モル%以下であり、1,4−トランス構造の割合が75モル%以下であり、1,4−シス構造の割合が17〜90モル%であり、
前記シリカの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、30〜80質量部であり、
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量が、前記シリカの含有量に対して、2.0〜20質量%である、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記1,4−トランス構造の割合が70モル%以下であり、前記1,4−シス構造の割合が30モル%以上である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
メルカプト基を有するシランカップリング剤が、下記式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンである、請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(A)(B)(C)(D)(RSiO(4−2a−b−c−d−e)/2 (1)
(式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表す。Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表す。Cは加水分解性基を表す。Dはメルカプト基を含有する有機基を表す。Rは炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表す。a〜eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。)
【請求項4】
前記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体は、末端が、ハロゲン化チタン、ハロゲン化錫、環状シラザン、アルコキシシラン、エポキシド、アミン、ケトン及び下記式(N)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の変性剤で変性された芳香族ビニル−共役ジエン共重合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

式(N)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Rはアルキレン基を表す。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物をキャップトレッドに配置した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの転がり抵抗を低減するためにタイヤ用ゴム組成物にシリカを配合する技術が知られている。
一方、シリカはジエン系ゴムとの親和性が低く、また、シリカ同士の凝集性が高いため、ジエン系ゴムに単にシリカを配合してもシリカが分散せず、タイヤの転がり抵抗を低減する効果が十分に得られないという問題があった。
【0003】
このような問題を解決する手段として、本出願人は、特許文献1において、「ジエン系ゴム100重量部に、シリカを5〜100重量部配合すると共に、特定のメルカプトシラン(1)を上記シリカ配合量の0.5〜4.0重量%と、特定のメルカプトシラン(2)を上記シリカ配合量の0.5〜10重量%とを配合し、温度145〜185℃で混合するようにしたタイヤ用ゴム組成物の製造方法」を提案している([請求項1])。
特許文献1には、上記方法により製造したタイヤ用ゴム組成物を用いることで、タイヤのヒステリシスロスを小さくし、転がり抵抗を十分に低減できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−270247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、環境問題などの観点から、燃費の向上が求められ、それに伴い、タイヤの転がり抵抗のさらなる低減(低転がり抵抗性のさらなる向上)が求められている。また、近年、自動車の安全に対する要求が高まるなか、タイヤの耐摩耗性のさらなる向上、及び、靭性のさらなる向上(抗張積のさらなる増大)が望まれている。また、製造効率の観点から、加工性のさらなる向上(粘度のさらなる低減、スコーチタイムのさらなる延長)も求められている。
このようななか、本発明者らが特許文献1を参考にタイヤ用ゴム組成物を調製し、タイヤを製造したところ、将来の要求レベルの向上を考慮すると、その耐摩耗性及び靭性はさらに改善する必要があることが明らかになった。
【0006】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、加工性に優れ、且つ、タイヤにしたときにWET性能、低転がり抵抗性、耐摩耗性及び靭性に優れるタイヤ用ゴム組成物、並びに、上記タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量、共役ジエンに由来する繰り返し単位の各ミクロ構造(ビニル構造、1,4−シス構造、1,4−トランス構造)の割合、及び、ガラス転移温度を特定の範囲にした芳香族ビニル−共役ジエン共重合体と、シリカと、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを特定の量で配合することで上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
(1) ジエン系ゴムと、シリカと、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを含有し、
上記ジエン系ゴムが、芳香族ビニルと共役ジエンとの共重合体である芳香族ビニル−共役ジエン共重合体を10〜50質量%含み、平均ガラス転移温度が−50℃以上であり、
上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体が、芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量が18質量%以上であり、ガラス転移温度が−60℃以下であり、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、ビニル構造の割合が8モル%以下であり、1,4−トランス構造の割合が75モル%以下であり、1,4−シス構造の割合が17〜90モル%であり、
上記シリカの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、30〜80質量部であり、
上記メルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量が、上記シリカの含有量に対して、2.0〜20質量%である、タイヤ用ゴム組成物。
(2) 上記1,4−トランス構造の割合が70モル%以下であり、上記1,4−シス構造の割合が、30モル%以上である、上記(1)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(3) メルカプト基を有するシランカップリング剤が、後述する式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンである、上記(1)又は(2)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(4) 上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体は、末端が、ハロゲン化チタン、ハロゲン化錫、環状シラザン、アルコキシシラン、エポキシド、アミン、ケトン及び下記式(N)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の変性剤で変性された芳香族ビニル−共役ジエン共重合体である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をキャップトレッドに配置した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
以下に示すように、本発明によれば、加工性に優れ、且つ、タイヤにしたときにWET性能、低転がり抵抗性、耐摩耗性及び靭性に優れるタイヤ用ゴム組成物、並びに、上記タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のタイヤ用ゴム組成物及び上記タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤについて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[I]タイヤ用ゴム組成物
本発明のタイヤ用ゴム組成物(以下、「本発明の組成物」とも言う)は、ジエン系ゴムと、シリカと、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを含有する。
ここで、上記ジエン系ゴムは、芳香族ビニルと共役ジエンとの共重合体である芳香族ビニル−共役ジエン共重合体を10〜50質量%含み、平均ガラス転移温度は−50℃以上である。
また、上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体は、芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量が18質量%以上であり、ガラス転移温度が−60℃以下であり、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、ビニル構造の割合が8モル%以下であり、1,4−トランス構造の割合が75モル%以下であり、1,4−シス構造の割合が17〜90モル%である。
また、上記シリカの含有量は上記ジエン系ゴム100質量部に対して30〜80質量部であり、上記メルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量は上記シリカの含有量に対して2.0〜20質量%である。
【0013】
最初に、本発明の特徴について説明する。
本発明では、特定の芳香族ビニル−共役ジエン共重合体(芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量が高く、ビニル構造の割合が低く、且つ、1,4−シス構造の割合が高い芳香族ビニル−共役ジエン共重合体)を使用する点に大きな特徴があると考えられる。
まず、上述した特定の芳香族ビニル−共役ジエン共重合体は芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量が高いため、このことがタイヤの靭性に繋がると考えられる。
また、本発明の組成物にはシリカとともにメルカプト基を有するシランカップリング剤(以下、「メルカプト系シランカップリング剤」とも言う)が含有されるため、組成物中のシリカの分散性が高く、タイヤにしたときに優れたWET性能及び低転がり抵抗性を示すものと考えられる。一方で、メルカプト系シランカップリング剤はメルカプト基の反応性の高さが故にビニル基と反応して加工性を低下させる傾向があるところ、本発明の組成物に含有される上述した特定の芳香族ビニル−共役ジエン共重合体はビニル構造の割合が低いため、そのような加工性の低下がほとんど生じない。
また、上述した特定の芳香族ビニル−共役ジエン共重合体は1,4−シス構造の割合が高いために柔軟な構造を維持し、タイヤにしたときに優れた耐摩耗性も示すものと考えらえる。
結果として、本発明の組成物は、加工性に優れ、且つ、タイヤにしたときにWET性能、低転がり抵抗性、耐摩耗性及び靭性に優れるものと推測される。
【0014】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0015】
[1]ジエン系ゴム
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴムは、後述する芳香族ビニルと共役ジエンとの共重合体である特定の芳香族ビニル−共役ジエン共重合体(特定共重合体)を10〜50質量%含む。
【0016】
[特定共重合体]
ジエン系ゴムに含有される特定の芳香族ビニル−共役ジエン共重合体(以下、「特定共重合体」とも言う)は、芳香族ビニルと共役ジエンとの共重合体である。ここで、上記芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量は18質量%以上である。また、上記共役ジエンに由来する繰り返し単位の各ミクロ構造の割合は特定の範囲である。具体的には、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、ビニル構造の割合は8モル%以下であり、1,4−トランス構造の割合は75モル%以下であり、1,4−シス構造の割合は17〜60モル%である。また、ガラス転移温度は−60℃以下である。特定共重合体は、本発明の効果がより優れる理由から、溶液重合型共重合体(特に、溶液重合型SBR)であることが好ましい。
【0017】
〔モノマー〕
特定共重合体は、芳香族ビニルと共役ジエンとの共重合体である。すなわち、特定共重合体は、芳香族ビニルと共役ジエンとを共重合した共重合体である。特定共重合体は、芳香族ビニル及び共役ジエンに加え、さらに別のモノマーを共重合した共重合体であってもよい。
【0018】
(1)芳香族ビニル
上記芳香族ビニルは特に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、本発明の効果がより優れる理由から、スチレン、α−メチルスチレン、および4−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらの芳香族ビニルは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
特定共重合体における、芳香族ビニルに由来する繰り返し単位の含有量(以下、「芳香族ビニル含有量」とも言う)は、18質量%以上である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
(2)共役ジエン
共役ジエンは特に制限されないが、例えば、ブタジエン(例えば、1,3−ブタジエン)、イソプレン、クロロプレンなどが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、1,3−ブタジエン、イソプレンであるのが好ましい。これらの共役ジエンは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
特定共重合体における、共役ジエンに由来する繰り返し単位の含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、82質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。また、下限は、本発明の効果がより優れる理由から、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
(3)その他のモノマー
上述のとおり、特定共重合体は、芳香族ビニル及び共役ジエンに加え、さらに別のモノマーを共重合した共重合体であってもよい。そのようなモノマーとしては、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5−ヘキサジエン、1,6−へプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、および5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンなどを挙げることができる。
【0023】
〔ミクロ構造〕
(1)ビニル構造
特定共重合体において、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、ビニル構造の割合は8モル%以下である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、5モル%以下であることが好ましい。下限は特に制限されず、0モル%である。
ここで、ビニル構造の割合とは、共役ジエンに由来する全繰り返し単位のうち、ビニル構造(例えば、共役ジエンが1,3−ブタジエンである場合は1,2−ビニル構造)を有する繰り返し単位が占める割合(モル%)を言う。
【0024】
(2)1,4−トランス構造
特定共重合体において、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、1,4−トランス構造の割合は75モル%以下である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、70モル%以下であることが好ましく、70モル%未満であることがより好ましく、60モル%以下であることがさらに好ましい。下限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがさらに好ましい。
ここで、1,4−トランス構造の割合とは、共役ジエンに由来する全繰り返し単位のうち、1,4−トランス構造を有する繰り返し単位が占める割合(モル%)を言う。
【0025】
(3)1,4−シス構造
特定共重合体において、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、1,4−シス構造の割合は17〜90モル%である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、20〜88モル%であることが好ましく、25〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましく、40〜75モル%であることが特に好ましい。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、40〜55モル%であることが好ましい。
ここで、1,4−シス構造の割合とは、共役ジエンに由来する全繰り返し単位のうち、1,4−シス構造を有する繰り返し単位が占める割合(モル%)を言う。
【0026】
なお、以下、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち「ビニル構造の割合(モル%)、1,4−トランス構造の割合(モル%)、1,4−シス構造の割合(モル%)」を「ビニル/トランス/シス」とも表す。
また、共役ジエンに由来する繰り返し単位は、ビニル構造、1,4−トランス構造及び1,4−シス構造からなるため、各構造の割合(モル%)の合計は100モル%である。
【0027】
〔ガラス転移温度〕
特定共重合体のガラス転移温度(Tg)は−60℃以下である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、−70℃以下であることが好ましく、−80℃以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、−100℃以上であることが好ましく、−90℃以上であることがより好ましい。
なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で測定し、中点法にて算出したものとする。
【0028】
〔分子量〕
特定共重合体の分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、重量平均分子量(Mw)で1,000〜10,000,000であることが好ましく、2,000〜5,000,000であることがより好ましく、3,000〜2,000,000であることがさらに好ましい。また、本発明の効果がより優れる理由から、数平均分子量(Mn)で500〜5,000,000であることが好ましく、1,000〜2,500,000であることがより好ましく、1,500〜1,000,000であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値とする。
・溶媒:テトラヒドロフラン
・検出器:RI検出器
【0029】
〔好適な態様〕
特定共重合体の好適な態様としては、例えば、末端が、ハロゲン化チタン、ハロゲン化錫、環状シラザン、アルコキシシラン、エポキシド、アミン、ケトン及び後述する式(N)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の変性剤(以下、「特定変性剤」とも言う)で変性された態様が挙げられる。上記態様の場合、本発明の効果がより優れる。
なお、特定変性剤がハロゲン化チタン、ハロゲン化錫または後述する式(N)で表される化合物である場合、特定共重合体の末端はカーボンブラックと相互作用すると推測され、特定変性剤が環状シラザン、アルコキシシランまたはアミンである場合、特定共重合体の末端はシリカと相互作用すると推測され、特定変性剤がエポキシドまたはケトンである場合、特定共重合体の末端はシリカまたはカーボンブラックと相互作用すると推測される。
本発明の効果がより優れる理由から、特定変性剤は、環状シラザン、アルコキシシラン、又は、後述する式(N)で表される化合物であることが好ましく、アルコキシシランであることがより好ましい。
【0030】
<特定変性剤>
以下、各特定変性剤について説明する。
【0031】
(1)ハロゲン化チタン
ハロゲン化チタンは特に制限されないが、例えば、TiCl、TiBr、Ti(OC)Cl、Ti(OC)Cl、TiCl、Ti(OC)Cl、Ti(OC)Cl等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、TiCl(トリクロロチタン)、TiCl(テトラクロロチタン)が好ましく、テトラクロロチタンがより好ましい。
【0032】
(2)ハロゲン化錫
ハロゲン化錫は特に制限されないが、例えば、フッ化錫、塩化錫、臭化錫、ヨウ化錫、アスタチン化錫などが挙げられる。
【0033】
(3)環状シラザン
環状シラザンは環状のシラザンであれば特に制限されない。
ここで、シラザンとは、ケイ素原子と窒素原子とが直接結合した構造を有する化合物(Si−N結合を有する化合物)を意図する。
環状シラザンは、本発明の効果がより優れる理由から、下記式(S)で表される化合物であることが好ましい。
【0034】
【化1】
【0035】
上記式(S)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。置換基の具体例は、後述する式(P)中のRと同じである。
は、本発明の効果がより優れる理由から、アルキル基(好ましくは、炭素数1〜10)、アルキルシリル基(好ましくは、炭素数1〜10)、芳香族炭化水素基(好ましくは、炭素数6〜18)であることが好ましい。
は、本発明の効果がより優れる理由から、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜10)であることが好ましい。
上記式(S)中、Lは、2価の有機基を表す。
2価の有機基としては、例えば、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキレン基。好ましくは炭素数1〜8)、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基(例えば、アリーレン基。好ましくは炭素数6〜12)、−O−、−S−、−SO−、−N(R)−(R:アルキル基)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−、またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基(−C2mO−:mは正の整数)、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。
Lは、本発明の効果がより優れる理由から、アルキレン基(好ましくは、炭素数1〜10)であることが好ましい。
【0036】
上記式(S)で表される化合物としては、例えば、N−n−ブチル−1,1−ジメトキシ−2−アザシラシクロペンタン、N−フェニル−1,1−ジメトキシ−2−アザシラシクロペンタン、N−トリメチルシリル−1,1−ジメトキシ−2−アザシラシクロペンタン、N−トリメチルシリル−1,1−ジエトキシ−2−アザシラシクロペンタンなどが挙げられる。
なお、環状シラザンのケイ素原子は求電子性を示すと考えられる。
【0037】
(4)アルコキシシラン
アルコキシシランは、アルコキシシリル基を有する化合物であれば特に制限されないが、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビストリメチルシリル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビストリメチルシリル−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
アルコキシシリル基中のアルコキシ基の数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、2個以上であることが好ましい。
なお、アルコキシシランのケイ素原子は求電子性を示すものと考えられる。
【0038】
(5)エポキシド
エポキシドは、オキサシクロプロパン(オキシラン)構造を有する化合物であれば特に制限されない。
エポキシドの具体例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、1−フェニルプロピレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグルシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、1−メトキシ−2−メチルプロピレンオキシド、アリルグリシジルエーテル、2−エチルオキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ラウリルアルコールグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、カプリルグリシジルエーテルおよびカプロイルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0039】
(6)アミン
アミンは、アミノ基(−NR:Rは水素原子又は炭化水素基を表す。2つのRは同一であっても異なっていてもよい。)を有する化合物であれば特に制限されない。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、アジリジンであることが好ましい。アジリジンとしては、例えば、N−メチルアジリジン、N−エチルアジリジン、N−イソプロピルアジリジン、N−フェニルアジリジン、N−(4−メチルフェニル)アジリジン、N−メチル−2−メチルアジリジンなどが挙げられる。
【0040】
(7)ケトン
ケトンは、ケトン基(−CO−)を有する化合物であれば特に制限されない。
ケトンの具体的としては、アセトン、ベンゾフェノン、および、これらの誘導体などが挙げられる。
ベンゾフェノンの誘導体としては、N,N,N’,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、N,N,N’,N’−テトラエチル(4,4’−ジアミノ)−ベンゾフェノン、N,N−ジメチル−1−アミノベンゾキノン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノベンゾキノン、N,N−ジメチル−1−アミノアントラキノン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ジアミノアントラキノン、4,4’−ジアセチルベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0041】
(8)式(N)で表される化合物
以下、下記式(N)で表される化合物について説明する。
【0042】
【化2】
【0043】
上記式(N)中、Rは水素原子またはアルキル基(好ましくは、炭素数1〜10)を表し、Rはアルキレン基(好ましくは、炭素数2〜10)を表す。
【0044】
上記式(N)で表される化合物の具体例としては、N−メチルピロリドン(上記式(N)中、Rがメチル基、Rがプロピレン基)などが挙げられる。
【0045】
上述のとおり、ジエン系ゴム中の特定共重合体の含有量は、10〜50質量%である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、15〜30質量%であることが好ましい。
【0046】
[特定共重合体の製造方法]
上述した特定共重合体を製造する方法は特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。芳香族ビニル含有量、ミクロ構造の割合、及び、ガラス転移温度を特定の範囲にする方法は特に制限されないが、例えば、重合するモノマーの種類、モノマーの量比、開始剤の種類、開始剤の量比、反応温度などを調整することで、芳香族ビニル含有量、ミクロ構造の割合、及び、ガラス転移温度を特定の範囲にすることができる。
【0047】
〔好適な態様〕
特定共重合体を製造する方法の好適な態様としては、例えば、有機リチウム化合物、アルキルアルミニウム及び金属アルコラートを用いて調製された開始剤(以下、「特定開始剤」とも言う)を用いて芳香族ビニル及びジエンを含むモノマーを共重合する方法(以下、「本発明の方法」とも言う)が挙げられる。上記方法を用いた場合、得られる特定共重合体を含有する本発明の組成物はタイヤにしたときにより優れた機械的特性及び耐摩耗性を示す。
【0048】
<特定開始剤>
上述のとおり、本発明の方法では、有機リチウム化合物、アルキルアルミニウムおよび金属アルコラートを用いて調製された開始剤(特定開始剤)が使用される。本発明の方法では特定開始剤が使用されるため、得られる特定重合体において、ジエンに由来する繰り返し単位のうちビニル構造が占める割合が抑えられる(例えば、8モル%以下)ものと考えられる。
【0049】
特定開始剤は、本発明の効果がより優れる理由から、さらに芳香族ジビニルを用いたものであることが好ましい。すなわち、有機リチウム化合物、アルキルアルミニウム、金属アルコラートおよび芳香族ジビニルを用いて調製されたものであることが好ましい。芳香族ジビニルを用いることで、得られる共重合体が分岐状になり、分子量が上がり、タイヤにしたときに機械的特性および耐摩耗性がより向上する。
【0050】
(1)有機リチウム化合物
有機リチウム化合物としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−プロピルリチウム、iso−プロピルリチウム、ベンジルリチウム等のモノ有機リチウム化合物;1,4−ジリチオブタン、1,5−ジリチオペンタン、1,6−ジリチオヘキサン、1,10−ジリチオデカン、1,1−ジリチオジフェニレン、ジリチオポリブタジエン、ジリチオポリイソプレン、1,4−ジリチオベンゼン、1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルエタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン、1,3,5−トリリチオ−2,4,6−トリエチルベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物が挙げられる。特に、本発明の効果がより優れる理由から、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムのモノ有機リチウム化合物が好ましい。
【0051】
特定開始剤の調製に使用される有機リチウム化合物の量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、重合するモノマーに対して、0.001〜10モル%であることが好ましい。
【0052】
(2)アルキルアルミニウム
アルキルアルミニウムは、アルミニウム原子(Al)にアルキル基(鎖状、分岐状、環状)が結合した化合物であれば特に制限されない。アルキル基の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。アルキルアルミニウムの具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ペンチルジエチルアルミニウム、2−メチルペンチル−ジエチルアルミニウム、ジシクロヘキシルエチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ(2−エチルヘキシル)アルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロペンチルアルミニウム、トリ(2,2,4−トリメチルペンチル)アルミニウム、トリドデシルアルミニウム、トリ(2−メチルペンチル)アルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジプロピルアルミニウムハイドライド、プロピルアルミニウムジハイドライド、イソブチルアルミニウムジハイドライドなどが挙げられ、なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、トリオクチルアルミニウムが好ましい。
【0053】
特定開始剤の調製に使用される有機リチウム化合物に対するアルキルアルミニウムの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.1〜50モル当量であることが好ましく、0.5〜10モル当量であることがより好ましい。ここで1モル当量とは、有機リチウム化合物を1モル用いた場合に、アルキルアルミニウムを1モル添加するときの量を示している。つまり、特定開始剤の調製に使用される有機リチウム化合物に対するアルキルアルミニウムの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10〜5000モル%であることが好ましく、50〜1000モル%であることがより好ましい。
【0054】
(3)金属アルコラート
金属アルコラート(金属アルコキシド)は、アルコールのヒドロキシ基の水素を金属で置換した化合物であれば特に制限されない。
上記金属としては特に制限されないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属(3〜11族の金属)、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、アンチモンなどが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、アルカリ土類金属が好ましく、バリウムであることがより好ましい。
上記アルコールは、鎖状、分岐状または環状の炭化水素の水素原子をヒドロキシ基で置換した化合物であれば特に制限されない。アルコールの炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。
【0055】
金属アルコラートは、本発明の効果がより優れる理由から、バリウムアルコラート(バリウムアルコキシド)であることが好ましい。バリウムアルコキシドとしては、例えば、バリウムジメトキシド、バリウムジエトキシド、バリウムジプロポキシド、バリウムジブトキシド、バリウムビス(2−エチルヘキソキシド)などが挙げられる。
【0056】
特定開始剤の調製に使用される有機リチウム化合物に対する金属アルコラートの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.01〜5モル当量であることが好ましく、0.1〜3モル当量であることがより好ましい。ここで1モル当量とは、有機リチウム化合物を1モル用いた場合に、金属アルコラートを1モル添加するときの量を示している。つまり、特定開始剤の調製に使用される有機リチウム化合物に対する金属アルコラートの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1〜500モル%であることが好ましく、10〜300モル%であることがより好ましい。
【0057】
(4)芳香族ジビニル
芳香族ジビニルは、ビニル基を2つ有する芳香族化合物であれば特に制限されない。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、ジビニルベンゼンが好ましい。
【0058】
特定開始剤の調製に使用される有機リチウム化合物に対する芳香族ジビニルの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.1〜5モル当量であることが好ましく、0.3〜3モル当量であることがより好ましい。ここで1モル当量とは、有機リチウム化合物を1モル用いた場合に、芳香族ジビニルを1モル添加するときの量を示している。つまり、特定開始剤の調製に使用される有機リチウム化合物に対する芳香族ジビニルの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10〜500モル%であることが好ましく、30〜300モル%であることがより好ましい。
【0059】
(特定開始剤の調製方法)
特定開始剤の調製方法は特に制限されないが、上述した有機リチウム化合物、アルキルアルミニウムおよび金属アルコラート等を、溶媒に溶解させる方法などが挙げられる。
溶媒の種類は特に制限されず、例えば、有機溶剤などを使用することができるが、本発明の効果がより優れる理由から、アルコール以外であることが好ましい。
【0060】
<モノマー>
モノマー(混合物)は芳香族ビニル及びジエンを含む。芳香族ビニル及びジエンの具体例及び好適な態様は上述のとおりである。
モノマー中の芳香族ビニルの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、18質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
また、モノマー中のジエンの割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、82質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。また、下限は、本発明の効果がより優れる理由から、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。
モノマーは、芳香族ビニル及びジエンに加え、さらに別のモノマーを含んでいてもよい。そのようなモノマーの具体例は、上述した「その他のモノマー」と同じである。
【0061】
<モノマーの共重合>
上述のとおり、本発明の方法では、特定開始剤を用いて芳香族ビニル及びジエンを含むモノマーを共重合する。特定開始剤およびモノマーについては上述のとおりである。
【0062】
モノマーの共重合方法は特定に制限されないが、上述した特定開始剤を含有する有機溶媒溶液に上述したモノマーを加え、0〜120℃(好ましくは30〜100℃)の温度範囲で撹拌する方法などが挙げられる。
【0063】
モノマーに対する特定開始剤中の有機リチウム化合物の割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.001〜10モル%であることが好ましい。
【0064】
モノマーを共重合する際に、共重合系(例えば、上述した特定開始剤を含有する有機溶媒溶液)にフェノール化合物やアミン化合物を添加してもよい。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、フェノール化合物が好ましい。フェノール化合物を添加すると、得られる芳香族ビニル−ジエン共重合体において、ジエンに由来する繰り返し単位のうち1,4−シス構造の割合が増える。
ここで、フェノール化合物とは、フェノール性水酸基またはその金属塩を有する化合物を意図する。また、アミン化合物とはアミノ基(−NH、−NHR、−NR)を有する化合物を意図する。ここで、Rは置換基を表す。置換基の具体例および好適な態様は、後述する式(P)中のRと同じである。−NRの2つのRは同一であっても、異なっていてもよい。
フェノール化合物としては、例えば、下記式(P)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
【化3】
【0066】
上記式(P)中、Xは、水素原子または金属原子を表す。金属原子としては、ナトリウム原子、カリウム原子などが挙げられる。
上記式(P)中、Rは、水素原子または置換基を表す。複数あるRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記置換基としては、1価の置換基であれば特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アミノ基、メルカプト基、アシル基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、シリル基、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基などが挙げられる。
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
上記ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基のヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子などが挙げられる。
上記ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(特に、炭素数1〜30)、直鎖状または分岐状のアルケニル基(特に、炭素数2〜30)、直鎖状または分岐状のアルキニル基(特に、炭素数2〜30)などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの炭素数6〜18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
上記式(P)中、Xは、水素原子、−OX基または置換基を表す。Xについては上述のとおりである。また、置換基の具体例は、上述した式(P)中のRと同じである。
【0067】
添加するフェノール化合物の量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上記有機リチウム化合物に対して0.01〜90モル%であることが好ましく、0.1〜80モル%であることがより好ましい。
【0068】
重合を停止する方法は特に制限されないが、重合溶液にアルコール(特にメタノール)を添加する方法などが挙げられる。
重合を停止する方法は、本発明の効果がより優れる理由から、ハロゲン化チタン、ハロゲン化錫、環状シラザン、アルコキシシラン、エポキシド、アミン、ケトンおよび下記式(N)で表される化合物から選ばれる求電子剤(以下、「特定求電子剤」とも言う)を用いて重合を停止する方法が好ましい。
すなわち、本発明の方法は、特定開始剤を用いて芳香族ビニル及びジエンを含むモノマーを共重合し、その後、特定求電子剤を用いて重合を停止する方法が好ましい。
特定求電子剤の定義、具体例及び好適な態様は、上述した特定変性剤と同じである。
特定求電子剤を用いて重合を停止することで、末端が特定求電子剤(特定変性剤)で変性された共重合体が得られる。
特定開始剤に対する特定求電子剤の量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、有機リチウム化合物に対する求電子剤の割合(特定求電子剤/有機リチウム化合物)はモル比で、0.1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
本発明の効果がより優れる理由から、アルキルアルミニウム(アルキルAl)に対する特定求電子剤の割合(特定求電子剤/アルキルAl)はモル比で、0.1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
本発明の効果がより優れる理由から、金属アルコラートに対する求電子剤の割合(求電子剤/金属アルコラート)はモル比で、0.1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
【0069】
[その他のゴム成分]
上記ジエン系ゴムは特定共重合体以外のその他のゴム成分を含有していてもよい。そのようなその他のゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、特定共重合体以外のスチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、特定共重合体以外のスチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
【0070】
[平均ガラス転移温度]
ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度(平均Tg)は−50℃以上である。上限は特に制限されないが、0℃以下であることが好ましい。
なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で測定し、中点法にて算出したものとする。ジエン系ゴムが油展品であるときは、ガラス転移温度は、油展成分(オイル)を含まない状態におけるジエン系ゴムのガラス転移温度とする。また、平均ガラス転移温度とは、各ジエン系ゴムのガラス転移温度に各ジエン系ゴムの質量分率を乗じた合計(ガラス転移温度の加重平均値)であり、すべてのジエン系ゴムの質量分率の合計を1とする。
【0071】
[2]シリカ
本発明の組成物に含有されるシリカは特に制限されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカとしては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。上記シリカは、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
【0072】
本発明の組成物において、シリカの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して30〜80質量部である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、50〜75質量部であることが好ましい。
【0073】
[3]メルカプト系シランカップリング剤
本発明の組成物に含有されるメルカプト基を有するシランカップリング剤(メルカプト系シランカップリング剤)は、加水分解性基およびメルカプト基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。
上記加水分解性基は特に制限されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、アルコキシ基であることが好ましい。加水分解性基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、1〜16であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0074】
メルカプト系シランカップリング剤はメルカプト基以外の有機官能基を有していてもよい。そのような有機官能基は特に制限されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であることが好ましく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基などが挙げられる。
メルカプト系シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
メルカプト系シランカップリング剤の具体例としては、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
上記メルカプト系シランカップリング剤の好適な態様としては、例えば、ポリエーテル鎖を有するメルカプト系シランカップリング剤が挙げられる。
ここで、ポリエーテル鎖とは、エーテル結合を2以上有する側鎖であり、例えば、構造単位−Ra−O−Rb−を合計して2個以上有する側鎖が挙げられる。ここで、上記構造単位中、RaおよびRbは、それぞれ独立して、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、直鎖状もしくは分岐状のアルケニレン基、直鎖状もしくは分岐状のアルキニレン基、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。なかでも、直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0077】
上記ポリエーテル鎖を有するメルカプト系シランカップリング剤の好適な態様としては、例えば、下記式(11)で表される化合物が挙げられる。
【0078】
【化4】
【0079】
上記式(11)中、R11は、炭素数1〜8のアルコキシ基を表し、なかでも、炭素数1〜3のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜3のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。なお、lが2である場合の複数あるR11はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記式(11)中、R12は、炭素数4〜30の直鎖状のポリエーテル基を表す。ポリエーテル基とは、エーテル結合を2以上有する基であり、その具体例としては、例えば、構造単位−Ra−O−Rb−を合計して2個以上有する基が挙げられる。RaおよびRbの定義および好適な態様は、上述したRaおよびRbと同じである。なお、mが2である場合の複数あるR12はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
炭素数4〜30の直鎖状のポリエーテル基の好適な態様としては、例えば、下記式(12)で表される基が挙げられる。
【0080】
【化5】
【0081】
上記式(12)中、R21は、直鎖状のアルキル基、直鎖状のアルケニル基、または、直鎖状のアルキニル基を表し、なかでも直鎖状のアルキル基が好ましい。上記直鎖状のアルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数8〜15の直鎖状のアルキル基がより好ましい。炭素数8〜15の直鎖状のアルキル基の具体例としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基などが挙げられ、なかでもトリデシル基が好ましい。
上記式(12)中、R22は、直鎖状のアルキレン基、直鎖状のアルケニレン基、または、直鎖状のアルキニレン基を表し、なかでも直鎖状のアルキレン基が好ましい。上記直鎖状のアルキレン基としては、炭素数1〜2の直鎖状のアルキレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
上記式(12)中、pは、1〜10の整数を表し、3〜7であることが好ましい。
上記式(12)中、*は、結合位置を示す。
【0082】
上記式(11)中、R13は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。
上記式(11)中、R14は炭素数1〜30のアルキレン基を表し、なかでも炭素数1〜12のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜5のアルキレン基がより好ましい。炭素数1〜5のアルキレン基の具体例としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。
上記式(11)中、lは1〜2の整数を表し、1であることが好ましい。上記式(11)中、mは1〜2の整数を表し、2であることが好ましい。上記式(11)中、nは0〜1の整数を表し、0であることが好ましい。l、mおよびnはl+m+n=3の関係式を満たす。
【0083】
上記メルカプト系シランカップリング剤の別の好適な態様としては、例えば、ポリシロキサン構造を有するメルカプト系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、下記式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン(特定ポリシロキサン)であるのが好ましい。
(A)(B)(C)(D)(RSiO(4−2a−b−c−d−e)/2 (1)
【0084】
上記式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表す。Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表す。Cは加水分解性基を表す。Dはメルカプト基を含有する有機基を表す。Rは炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表す。a〜eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。
【0085】
式(1)は、ポリシロキサンの平均組成を表す。すなわち、ポリシロキサンのSi原子に直接結合する基の種類、及び、各基の平均の数を表す。
式(1)中のSiはポリシロキサンのSi原子を表す。また、式(1)中のOはポリシロキサンのO原子を表す。なお、O原子は2価の基であり、必ず2つのSi原子(ポリシロキサンのSi原子)に結合する。式(1)中の(4−2a−b−c−d−e)/2は、ポリシロキサンのSi原子にポリシロキサンのO原子が結合する平均の数を表す。
式(1)中のA、B、C、D及びRはいずれもポリシロキサンのSi原子に結合する基を表す。なお、Aは2価の基であり、必ず2つのSi原子(ポリシロキサンのSi原子)に結合する。式(1)中のa、b、c、d及びeはそれぞれポリシロキサンのSi原子に結合するA、B、C、D及びRの平均の数を表す。
ポリシロキサンのSi原子に直接結合する各基の合計(a×2+b+c+d+e+((4−2a−b−c−d−e)/2)×2)が4(Si原子の価数)になることから分かるように、ポリシロキサンのSi原子には、A、B、C、D、R及びO以外の基は直接結合しない。なお、上記合計の計算において、a及び(4−2a−b−c−d−e)/2)を2倍にするのは、A及びOが2価の基であるからである。
【0086】
上記式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基(以下、「スルフィド基含有有機基」とも言う)を表す。なかでも、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
−(CH2n−Sx−(CH2n (2)
上記式(2)中、nは1〜10の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、xは1〜6の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、*は、結合位置を示す。
上記式(2)で表される基の具体例としては、例えば、−CH2−S2−CH2−C24−S2−C24−C36−S2−C36−C48−S2−C48−CH2−S4−CH2−C24−S4−C24−C36−S4−C36−C48−S4−C48などが挙げられる。
本発明の効果がより優れる理由から、Aに含有されるスルフィド基はテトラスルフィド基(−S−)であることが好ましい。
【0087】
上記式(1)中、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、その具体例としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。
【0088】
上記式(1)中、Cは加水分解性基を表し、その具体例としては、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、下記式(3)で表される基であることが好ましい。
−OR2 (3)
上記式(3)中、R2は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアラルキル基(アリールアルキル基)または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられる。上記炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロぺニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(3)中、*は、結合位置を示す。
【0089】
上記式(1)中、Dはメルカプト基を含有する有機基を表す。なかでも、下記式(4)で表される基であることが好ましい。
−(CH2m−SH (4)
上記式(4)中、mは1〜10の整数を表し、なかでも、1〜5の整数であることが好ましい。
上記式(4)中、*は、結合位置を示す。
上記式(4)で表される基の具体例としては、−CH2SH、−C24SH、−C36SH、−C48SH、−C510SH、−C612SH、−C714SH、−C816SH、−C918SH、−C1020SHが挙げられる。
【0090】
上記式(1)中、Eは炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表す。
【0091】
上記式(1)中、a〜eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。
【0092】
上記特定ポリシロキサンは、本発明の効果がより優れる理由から、aが0よりも大きい(0<a)ことが好ましい。すなわち、スルフィド基含有有機基を有することが好ましい。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、0<a≦0.50であることが好ましい。
【0093】
上記式(1)中、bは、本発明の効果がより優れる理由から、0.10≦b≦0.89であることが好ましい。
上記式(1)中、cは、本発明の効果がより優れる理由から、1.2≦c≦2.0であることが好ましい。
上記式(1)中、dは、本発明の効果がより優れる理由から、0.1≦d≦0.8であることが好ましい。
【0094】
上記特定ポリシロキサンは、本発明の効果がより優れる理由から、上記式(1)中、Aが上記式(2)で表される基であり、上記式(1)中のCが上記式(3)で表される基であり、上記式(1)中のDが上記式(4)で表される基であるポリシロキサンであることが好ましい。
【0095】
上記特定ポリシロキサンの重量平均分子量は、本発明の効果がより優れる理由から、500〜2300であるのが好ましく、600〜1500であるのがより好ましい。本願における特定ポリシロキサンの分子量は、トルエンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で求めたものである。
上記特定ポリシロキサンの酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によるメルカプト当量は、加硫反応性に優れるという観点から、550〜700g/molであるのが好ましく、600〜650g/molであるのがより好ましい。
【0096】
上記特定ポリシロキサンは、本発明の効果がより優れる理由から、シロキサン単位(−Si−O−)を2〜50個有するものであることが好ましい。
【0097】
なお、上記特定ポリシロキサンの骨格には、ケイ素原子以外の金属(例えば、Sn、Ti、Al)は存在しない。
【0098】
上記特定ポリシロキサンを製造する方法は特に限定されないが、第1の好適な態様としては、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。また、第2の好適な態様としては、下記式(5)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。また、第3の好適な態様としては、下記式(5)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(8)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。
なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、上記第2の好適な態様であることが好ましい。
【0099】
【化6】
【0100】
上記式(5)中、R51は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(5)中、R52は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。上記炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例は上記R51と同じである。
上記式(5)中、nの定義および好適な態様は、上記nと同じである。
上記式(5)中、xの定義および好適な態様は、上記xと同じである。
上記式(5)中、yは1〜3の整数を表す。
【0101】
上記式(5)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。
【0102】
【化7】
【0103】
上記式(6)中、R61の定義、具体例および好適な態様は、上記R51と同じである。
上記式(6)中、R62の定義、具体例および好適な態様は、上記R52と同じである。
上記式(6)中、zの定義は、上記yと同じである。
上記式(6)中、pは5〜10の整数を表す。
【0104】
上記式(6)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルメチルジメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルメチルジメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0105】
【化8】
【0106】
上記式(7)中、R71の定義、具体例および好適な態様は、上記R51と同じである。
上記式(7)中、R72の定義、具体例および好適な態様は、上記R52と同じである。
上記式(7)中、mの定義および好適な態様は、上記mと同じである。
上記式(7)中、wの定義は、上記yと同じである。
【0107】
上記式(7)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、α−メルカプトメチルトリメトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、α−メルカプトメチルトリエトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0108】
【化9】
【0109】
上記式(8)中、R81の定義、具体例および好適な態様は、上記R51と同じである。
上記式(8)中、R82の定義、具体例および好適な態様は、上記R52と同じである。
上記式(8)中、vの定義は、上記yと同じである。
上記式(8)中、qは1〜4の整数を表す。
【0110】
上記式(8)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0111】
上記特定ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては特に限定されないが、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。
【0112】
上記特定ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、塩酸、酢酸などの酸性触媒、アンモニウムフルオリドなどのルイス酸触媒、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどのアミン化合物などが挙げられる。
上記触媒は、金属としてSn、TiまたはAlを含有する有機金属化合物でないことが好ましい。このような有機金属化合物を使用した場合、ポリシロキサン骨格に金属が導入されて、上記特定ポリシロキサン(骨格には、ケイ素原子以外の金属(例えば、Sn、Ti、Al)は存在しない)が得られないことがある。
【0113】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]及びスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤[例えば、式(6)や式(8)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤とスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤との混合比(モル比)(メルカプト基を有するシランカップリング剤/スルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤)は、本発明の効果がより優れる理由から、1.1/8.9〜6.7/3.3であるのが好ましく、1.4/8.6〜5.0/5.0であるのがより好ましい。
【0114】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]及びスルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤とスルフィド基を有するシランカップリング剤との混合比(モル比)(メルカプト基を有するシランカップリング剤/スルフィド基を有するシランカップリング剤)は、本発明の効果がより優れる理由から、2.0/8.0〜8.9/1.1であるのが好ましく、2.5/7.5〜8.0/2.0であるのがより好ましい。
【0115】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]、スルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)および/またはで表される有機ケイ素化合物]、及びスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤[例えば、式(6)や式(8)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤の量は、前3者の合計量(モル)中の10.0〜73.0%であるのが好ましい。スルフィド基を有するシランカップリング剤の量は、前3者の合計量中の5.0〜67.0%であるのが好ましい。スルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤の量は、前3者の合計量中の16.0〜85.0%であるのが好ましい。
【0116】
本発明の組成物において、メルカプト系シランカップリング剤の含有量は、上記シリカの含有量に対して、2〜20質量%である。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、5〜15質量%であることが好ましい。
【0117】
[4]任意成分
本発明の組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに他の成分(任意成分)を含有することができる。
上記任意成分としては、例えば、カーボンブラック、メルカプト系シランカップリング剤以外のシランカップリング剤、テルペン樹脂(好ましくは、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、充填剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、オイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0118】
〔カーボンブラック〕
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、カーボンブラックを含有するのが好ましい。
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、50〜200m/gであることが好ましく、70〜150m/gであることがより好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(NSA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
【0119】
上記カーボンブラックの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上記ジエン系ゴム100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがより好ましい。
【0120】
〔テルペン樹脂〕
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、テルペン樹脂を含有するのが好ましく、なかでも、芳香族変性テルペン樹脂を含有するのが好ましい。テルペン樹脂の軟化点は、本発明の効果がより優れる理由から、60〜150℃であるのが好ましく、70〜140℃であることがより好ましい。
ここで、軟化点は、JIS K7206:1999に準拠して測定されたビカット軟化点である。
本発明の組成物において、上記芳香族変性テルペン樹脂の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、2〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましい。
【0121】
〔シランカップリング剤〕
本発明の組成物は、メルカプト系シランカップリング剤以外のシランカップリング剤を含有していてもよい。そのようなシランカップリング剤の具体例としては、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド等が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
[5]タイヤ用ゴム組成物の調製方法
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄または加硫促進剤を含有する場合は、硫黄および加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは100〜160℃)で混合し、冷却してから、硫黄または加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0123】
[II]空気入りタイヤ
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物を用いた空気入りタイヤである。なかでも、本発明の組成物をキャップトレッドに用いた(配置した)空気入りタイヤであることが好ましい。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは図1に示す態様に限定されるものではない。
【0124】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
なお、タイヤトレッド部3は上述した本発明の組成物により形成されている。
【0125】
本発明の空気入りタイヤは、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、トラック、バス、建設用車両、産業用車両等の種々の車両に有用である。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0127】
〔合成例〕
以下のとおり、特定共重合体及び特定ポリシロキサンを合成した。
【0128】
<特定共重合体1(未変性SBR)>
n−BuLi(関東化学製:1.60mol/L(ヘキサン溶液),18mL,28.8mmol)、バリウムビス(2−エチルヘキソキシド)(Ba(OCHCH(C)CHCHCHCH)(STREM製:1M(トルエン/ヘキサン溶液)7.5mL)、トリオクチルアルミニウム(Aldrich製:25wt%(ヘキサン溶液),45mL)及びシクロヘキサン(関東化学製:10mL)を用いて調製された開始剤溶液(上述した特定開始剤に相当)のうち、60mLを、1,3−ブタジエン(708g,13098mmol)とスチレン(関東化学製:300g,2883mmol)と4−tert−butylpyrocatechol(4.79g,28.8mmol)の混合物のシクロヘキサン(4.24kg)溶液に加えて、60℃で14時間攪拌した。室温に冷却後、メタノール(関東化学製:3.44g)を投入し、重合を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(5L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。その結果、スチレン−ブタジエン共重合体(未変性SBR)(895g,Mn=360,000,Mw=500,000,PDI=1.4)を88%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=3/62/35と見積もられた。また、芳香族ビニル含有量(スチレンに由来する繰り返し単位の含有量)は31質量%、ガラス転移温度は−84℃であった。
【0129】
<特定共重合体2(アルコキシシラン末端変性SBR)>
n−BuLi(関東化学製:1.60mol/L(ヘキサン溶液),18mL,28.8mmol)、バリウムビス(2−エチルヘキソキシド)(Ba(OCHCH(C)CHCHCHCH)(STREM製:1M(トルエン/ヘキサン溶液)7.5mL)、トリオクチルアルミニウム(Aldrich製:25wt%(ヘキサン溶液),45mL)及びシクロヘキサン(関東化学製:10mL)を用いて調製された開始剤溶液(上述した特定開始剤に相当)のうち、60mLを、1,3−ブタジエン(721g,13330mmol)とスチレン(関東化学製:300g,2883mmol)と4−tert−butylpyrocatechol(4.79g,28.8mmol)の混合物のシクロヘキサン(4.24kg)溶液に加えて、60℃で14時間攪拌した。室温に冷却後、N,N−ビストリメチルシリル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(22.4g)及びリチウムジイソプロピルアミド(アルドリッチ製(2M溶液):10mL)のシクロヘキサン(10mL)混合溶液を投入し、重合を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(5L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。その結果、末端がアルコキシシランで変性されたスチレン−ブタジエン共重合体(アルコキシシラン末端変性SBR)(827g,Mn=350,000,Mw=490,000,PDI=1.4)を81%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=4/61/35と見積もられた。また、芳香族ビニル含有量(スチレンに由来する繰り返し単位の含有量)は26質量%、ガラス転移温度は−85℃であった。
【0130】
<特定ポリシロキサン>
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業製 KBE−846)107.8g(0.2mol)、γ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール190.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸37.8g(2.1mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液17.0gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで褐色透明液体のポリシロキサン480.1gを得た。GPCにより測定した結果、平均分子量は840であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によりメルカプト当量を測定した結果、730g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、下記平均組成式で示される。
(−C−S−C−)0.071(−C170.571(−OC1.50(−CSH)0.286SiO0.75
得られたポリシロキサンを特定ポリシロキサンとする。
【0131】
〔タイヤ用ゴム組成物の調製〕
下記表1に示される成分を、下記表1に示される割合(質量部)で配合した。具体的には、150℃のバンバリーミキサーで2分間混合した。次に、ロールを用いて、硫黄及び加硫促進剤を混合し、タイヤ用ゴム組成物を得た。
【0132】
〔評価〕
得られたタイヤ用ゴム組成物について下記のとおり評価を行った。
【0133】
<WET性能>
得られたタイヤ用ゴム組成物を所定の金型中で、160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。そして、得られた加硫ゴム試験片について、JIS K6394:2007に準じ、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件でtanδ(0℃)を測定した。
結果を表1に示す。結果は標準例を100とする指数で表した。指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きく、タイヤにしたときにWET性能に優れる。
【0134】
<転がり抵抗>
温度0℃の条件で測定する代わりに、温度60℃の条件で測定した以外は上述したWET性能と同様の手順にしたがって、加硫ゴム試験片のtanδ(60℃)を測定した。
結果を表1に示す。結果は標準例を100とする指数で表した。指数が小さいほどtanδ(60℃)が小さく、タイヤにしたときに低転がり抵抗性に優れる。
【0135】
<耐摩耗性>
WET性能の評価と同様の手順に従って、加硫ゴム試験片を作製した。
得られた加硫ゴム試験片について、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を用いて、JIS K6264−2:2005に準拠し、付加力4.0kg/cm3(=39N)、スリップ率30%、摩耗試験時間4分、試験温度を室温の条件で摩耗試験を行い、摩耗質量を測定した。そして、下記のとおり指数を算出した。結果を表1に示す。指数が大きいほど摩耗量が少なく、タイヤにしたときに耐摩耗性に優れる。
指数=(標準例の試験片の摩耗質量/各例の摩耗質量)×100
【0136】
<抗張積>
WET性能の評価と同様の手順に従って、加硫ゴム試験片を作製した。
得られた加硫ゴム試験片について、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で破断時強度(破断時の応力)及び破断時伸び(=破断時の伸び率)を測定した。そして、抗張積(=破断時強度×破断時伸び)を求めた。結果を表1に示す。結果は標準例を100とする指数で表した。指数が大きいほど抗張積が大きく、タイヤにしたときに靭性に優れる。
【0137】
<粘度>
得られたタイヤ用ゴム組成物について、JIS K6300−1:2013に準じ、L形ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、試験温度100℃の条件で、ムーニー粘度を測定した。結果を表1に示す。結果は標準例を100とする指数で表した。指数が小さいほど粘度が小さく、加工性に優れる。
【0138】
<スコーチ>
得られたタイヤ用ゴム組成物について、JIS K6300−1:2013に準じ、L形ロータを使用し、試験温度125℃の条件で、スコーチタイムを測定した。結果を表1に示す。結果は標準例を100とする指数で表した。指数が大きいほどスコーチタイムが長く、加工性に優れる。
【0139】
【表1】
【0140】
上記表1に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・SBR:E580(溶液重合SBR、芳香族ビニル含有量(スチレンに由来する繰り返し単位の含有量):37質量%、ビニル構造の割合:43モル%、油展品(油展量:37.5質量%)、旭化成社製)
・特定共重合体1(未変性SBR):上述のとおり合成した特定共重合体1(未変性SBR)
・特定共重合体2(アルコキシシラン末端変性SBR):上述のとおり合成した特定共重合体2(アルコキシシラン末端変性SBR)
・比較共重合体:Tufdene1000(SBR、芳香族ビニル含有量(スチレンに由来する繰り返し単位の含有量):18質量%、ビニル/トランス/シス=13/51/36、ガラス転移温度:−78℃、旭化成社製)
・BR:Nipol1220(ブタジエンゴム、日本ゼオン社製)
・シリカ:ZEOSIL 1165MP(ローディア社製)
・カーボンブラック:ショウブラックN339(キャボットジャパン社製)
・比較シランカップリング剤:Si69(ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド)
・メルカプト系シランカップリング剤1:Si363(上記式(11)で表される化合物。ここで、R11:−OC、R12:−O(CO)−C1327、R14:−(CH−、l=1、m=2、n=0。)(Evonik社製)
・メルカプト系シランカップリング剤2:上述のとおり合成した特定ポリシロキサン
・テルペン樹脂:YSレジン TO−125(軟化点:125±5℃、ヤスハラケミカル社製)
・オイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
【0141】
表1中、「ジエン系ゴムの平均Tg」は、上述した「ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度」を表す。
【0142】
表1から分かるように、特定共重合体とシリカとメルカプト系シランカップリング剤とを含有する本願実施例は、優れた加工性を示し、且つ、タイヤにしたときに優れたWET性能、低転がり抵抗性、耐摩耗性及び靭性を示した。
また、実施例1と2との対比(特定共重合体1を含有し、テルペン樹脂を含有しない態様同士の対比)から、ジエン系ゴム中の特定共重合体の含有量が15質量%以上である実施例1は、より優れた低転がり抵抗性、耐摩耗性、靭性及び加工性を示した。
また、実施例1と4との対比(ジエン系ゴム中の特定共重合体の含有量が20質量%である態様同士の対比)から、特定共重合体が、末端が特定変性剤で変性された実施例4は、より優れたWET性能、低転がり抵抗性、耐摩耗性、靭性及び加工性を示した。
また、実施例4と5との対比(ジエン系ゴム中の特定共重合体2の含有量が20質量%である態様同士の対比)から、メルカプト系シランカップリング剤が上述した特定ポリシロキサンである実施例5は、より優れたWET性能、低転がり抵抗性、耐摩耗性、靭性及び加工性を示した。
【0143】
一方、特定共重合体を含有しない標準例及び比較例9、特定共重合体を含有するがジエン系ゴム中の特定共重合体の含有量が10質量%に満たない比較例2、特定共重合体を含有するがジエン系ゴム中の特定共重合体の含有量が50質量%を超える比較例3、特定共重合体を含有するがメルカプト系シランカップリング剤を含有しない比較例1、特定共重合体とメルカプト系シランカップリング剤とを含有するがシリカの含有量がジエン系ゴム100質量部に対して30質量部に満たない比較例6、特定共重合体とメルカプト系シランカップリング剤とを含有するがシリカの含有量がジエン系ゴム100質量部に対して80質量部を超える比較例7、特定共重合体とシリカとメルカプト系シランカップリング剤を含有するがメルカプト系シランカップリング剤の含有量がシリカの含有量に対して2.0質量%に満たない比較例4、特定共重合体とシリカとメルカプト系シランカップリング剤を含有するがメルカプト系シランカップリング剤の含有量がシリカの含有量に対して20質量%を超える比較例5、並びに、ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が−50℃に満たない比較例8は、加工性、低転がり抵抗性、耐摩耗性及び靭性の少なくとも1つが不十分であった。
【符号の説明】
【0144】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 タイヤトレッド部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション
図1