(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0014】
[第一実施形態]
図1及び
図2に本発明の第一実施形態に係る振動トランスデューサ1を示す。当該振動トランスデューサ1は、環状の支持体Sによって裏面外周部が保持されており、表面に入射する音波振動を電気信号に変換するマイクロフォン又は電気信号を音波振動に変換して表面側に出射するスピーカーとして使用することができる。なお、「音波振動」とは、可聴域の振動に限られず、非可聴域の低周波振動や超音波振動であってもよい。
【0015】
当該振動トランスデューサ1は、シート状の圧電素子2と、この圧電素子2の温度を調節する熱効果素子3とを備える。
【0016】
本実施形態の振動トランスデューサ1において、熱効果素子3は、圧電素子2の裏面に面するよう配置されている。より詳しくは、熱効果素子3は、圧電素子2の裏面側に絶縁膜4を介して積層されている。
【0017】
<圧電素子>
圧電素子2は、シート状乃至膜状の圧電体5と、この圧電体の表裏に積層されるシート状乃至膜状の一対の電極6,7とを有する。
【0018】
(圧電体)
圧電体5は、圧力を電圧に変換する圧電材料から形成することができる。この圧電体5を形成する圧電材料としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛等の無機材料であってもよいが、可撓性を有する高分子圧電材料であることが好ましい。
【0019】
前記高分子圧電材料としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体(P(VDF/TrFE))、シアン化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体(P(VDCN/VAc))等を挙げることができる。
【0020】
また、圧電体5として、圧電特性を有しない例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等に多数の扁平な気孔を形成し、例えばコロナ放電等によって扁平な気孔の対向面を分極して帯電させることによって圧電特性を付与したものを使用することもできる。
【0021】
圧電体5の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、50μmがより好ましい。一方、圧電体5の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、200μmがより好ましい。圧電体5の平均厚さが前記下限に満たない場合、圧電体5の強度が不十分となるおそれがある。逆に、圧電体5の平均厚さが前記上限を超える場合、圧電体5の変形能が小さくなることで当該振動トランスデューサ1の利得が不十分となるおそれがある。
【0022】
(電極)
電極6,7は、圧電体5の両面に積層され、圧電体5の表裏の電位差を検出又は圧電体5の表裏に電位差を与えるために用いられる。このため、電極6,7には、電気信号を出力又は入力するための配線(不図示)が接続される。
【0023】
電極6,7の材質としては、導電性を有するものであればよく、例えばアルミニウム、銅、ニッケル等の金属や、カーボン等を挙げることができる。
【0024】
電極6,7の平均厚さとしては、特に限定されず、積層方法にもよるが、例えば0.1μm以上30μm以下とすることができる。電極6,7の平均厚さが前記下限に満たない場合、電極6,7の強度が不十分となるおそれがある。逆に、電極6,7の平均厚さが前記上限を超える場合、圧電体5への振動の伝達を阻害するおそれがある。
【0025】
電極6,7の圧電体5への積層方法としては、特に限定されず、例えば金属の蒸着、カーボン導電インクの印刷、銀ペーストの塗布乾燥等が挙げられる。
【0026】
<熱効果素子>
本実施形態における熱効果素子3としては、発熱素子が用いられている。具体的には、熱効果素子3は、発熱抵抗体とすることができ、温度に応じて抵抗値が変化することで温度を一定の範囲内に保つことができる自己制御型ヒータとしてもよい。
【0027】
このように、熱効果素子3として発熱素子を用いる場合、圧電素子2の目標温度範囲を想定される環境温度の上限以上とすることで、圧電素子2の温度を目標温度範囲内に保持することができる。
【0028】
具体例として、熱効果素子3は、
図2に示すように、蛇行する線状に形成された発熱抵抗体とすることができる。このような発熱抵抗体は、例えばカーボンペースト等を印刷して形成される印刷抵抗とすることができる。
【0029】
この熱効果素子3には、熱効果素子3を発熱させる電力を供給するための配線(不図示)が接続される。
【0030】
<絶縁膜>
絶縁膜4としては、圧電素子2と熱効果素子3とを電気的に絶縁できるものであればよく、例えばプリント基板用カバーレイ、ソルダレジスト等を用いることができる。
【0031】
<利点>
当該振動トランスデューサ1は、圧電素子2の温度を調節する熱効果素子3を備えるため、環境温度に拘わらず圧電素子2の温度を一定の範囲内に保持することができる。これにより、当該振動トランスデューサ1は、環境温度が変化しても、利得が略一定で比較的リニアな出力が得られる。
【0032】
[第二実施形態]
図3に本発明の第二実施形態に係る振動トランスデューサ1aを示す。当該振動トランスデューサ1aは、環状の支持体Sによって裏面外周部が保持されており、表面に入射する音波振動を電気信号に変換するマイクロフォン又は電気信号を音波振動に変換して表面側に出射するスピーカーとして使用することができる。
【0033】
本実施形態の振動トランスデューサ1aは、シート状の圧電素子2と、この圧電素子2の温度を調節する熱効果素子3aとを備える。
図3の振動トランスデューサ1aにおける圧電素子2の構成は、
図1の振動トランスデューサ1における圧電素子2の構成と同様とすることができる。このため、
図3の振動トランスデューサ1aについて、
図1の振動トランスデューサ1と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0034】
<熱効果素子>
本実施形態における熱効果素子3aとしては、圧電素子2の裏面の外縁近傍領域に積層される発熱素子が用いられている。具体的には、熱効果素子3aとしては、例えば円環板状のモールドヒータ等を使用することができる。モールドヒータ等の絶縁性の被覆を有する熱効果素子3aを用いることで、圧電素子2の電極7に直接熱効果素子3aを積層することができる。
【0035】
<利点>
当該振動トランスデューサ1aは、圧電素子2の温度を調節する熱効果素子3aが、圧電素子2の外周近傍領域にのみ積層されているため、圧電素子2の中央部が比較的自由に撓むことができる。このため、当該振動トランスデューサ1aは、環境温度が変化しても利得が略一定で比較的リニアな出力が得られると共に、比較的大きな利得が得られる。
【0036】
[第三実施形態]
図4に本発明の第三実施形態に係る振動トランスデューサ1bを示す。当該振動トランスデューサ1bは、表面に入射する音波振動を電気信号に変換するマイクロフォン又は電気信号を音波振動に変換して表面側に出射するスピーカーとして使用することができる。
【0037】
本実施形態の振動トランスデューサ1bは、シート状の圧電素子2と、この圧電素子2の温度を調節する熱効果素子3bと、圧電素子2の温度を検出する温度センサ8と、温度センサ8の出力に基づいて熱効果素子3bの出力を調節する制御回路9とを備える。また、本実施形態の振動トランスデューサ1bは、熱効果素子3b及び制御回路9を実装したプリント基板10と、圧電素子2及びプリント基板10間に介在して圧電素子2及びプリント基板10間の間隔を定めるスペーサ11とをさらに備える。
【0038】
本実施形態の振動トランスデューサ1bは、プリント基板10を不図示の支持体に固定して使用することができる。
【0039】
図4の振動トランスデューサ1bにおける圧電素子2の構成は、
図1の振動トランスデューサ1における圧電素子2の構成と同様とすることができる。このため、
図4の振動トランスデューサ1bについて、
図1の振動トランスデューサ1と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0040】
<熱効果素子>
本実施形態における熱効果素子3bは、圧電素子2を非接触で加熱する発熱素子である。このような発熱素子としては、例えばニクロム線ヒータ、白熱電球、赤外線発光ダイオード等を用いることができる。当該振動トランスデューサ1bは、1又は複数の熱効果素子3bを有していてもよい。
【0041】
このように、熱効果素子3bが圧電素子2を非接触で加熱することで、圧電素子2のお温度を略一定に保持して温度変化による圧電素子2の利得の変化を抑制すると共に、圧電素子2の温度ムラを抑制して圧電素子2の出力特性を比較的リニアに維持することができる。
【0042】
<温度センサ>
温度センサ8は、圧電素子2の雰囲気温度を検出してもよいが、圧電素子2の温度を検出するよう圧電素子2に付設されることが好ましい。また、温度センサ8は、出力信号を制御回路9に入力できるよう、制御回路9と配線によって接続される。
【0043】
温度センサ8としては、例えば熱電対、サーミスタ等を用いることができる。また、温度センサ8は、圧電素子2の変形を阻害しないよう、微小且つ軽量のものを使用することが好ましい。
【0044】
<制御回路>
制御回路9は、温度センサ8による検出温度が予め設定される範囲内となるよう、熱効果素子3bに入力される電流を制御する。
【0045】
制御回路9は、ICによって構成されてもよく、プリント基板10の配線パターンと実装部品とによって構成されてもよい。
【0046】
制御回路9による制御方法は、例えば比例制御、オンオフ制御、PID制御等が挙げられるが、比較的構成が簡単な比例制御又はオンオフ制御が好適に採用される。
【0047】
<プリント基板>
プリント基板10は、絶縁性の基材層と、この基材層の表面に形成される導電パターンとを有する。このプリント基板10は、熱効果素子3bを圧電素子2に対向して保持すると共に、熱効果素子3bに電流を印加するための電路を提供する。
【0048】
プリント基板10の基材層の材質としては、熱容量及び熱伝導率が小さいものが好ましく、具体的には、例えばポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂、例えば紙エポキシ等の複合材料などを挙げることができる。
【0049】
プリント基板10の導電パターンの材質としては、例えば銅、ニッケル、アルミニウム、金等の金属を挙げることができる。
【0050】
<スペーサ>
スペーサ11は、熱効果素子3bの上方に圧電素子2を保持する。具体的には、スペーサ11は、円環板状乃至短い円筒状に形成され、圧電素子2の裏面の外縁近傍領域を保持する。
【0051】
スペーサ11の材質としては、熱容量及び熱伝導率が比較的小さいものが好ましく、例えばポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の樹脂、例えばセラミックス等の無機物など用いることができる。また、スペーサ11は、熱容量及び熱伝導率をより小さくできるよう、多孔性の材料から形成されてもよい。
【0052】
<利点>
当該振動トランスデューサ1bは、熱効果素子3bが圧電素子2を非接触で加熱することで、温度変化による利得の変化を抑制すると共に、圧電素子2の温度ムラを抑制して圧電素子2の出力特性を比較的リニアに維持することができる。
【0053】
[第四実施形態]
図5に本発明の第四実施形態に係る振動トランスデューサ1cを示す。当該振動トランスデューサ1cは、表面に入射する音波振動を電気信号に変換するマイクロフォン又は電気信号を音波振動に変換して表面側に出射するスピーカーとして使用することができる。
【0054】
本実施形態の振動トランスデューサ1cは、シート状の圧電素子2と、この圧電素子2の裏面に積層されるプリント基板12と、このプリント基板12の裏面側に実装される第1熱効果素子13、第2熱効果素子14、温度センサ8及び制御回路9とを備える。当該振動トランスデューサ1cは、1又は複数の第1熱効果素子13と1又は複数の第2熱効果素子14とを有してもよく、平面視で複数の第1熱効果素子13と複数の第2熱効果素子14とが偏りなく分散して配置されていることが好ましい。
【0055】
図5の振動トランスデューサ1cにおける圧電素子2、温度センサ8及び制御回路9の構成は、
図1の振動トランスデューサ1における圧電素子2、温度センサ8及び制御回路9の構成と同様とすることができる。このため、
図5の振動トランスデューサ1cについて、
図1の振動トランスデューサ1と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0056】
<プリント基板>
プリント基板12は、絶縁性及び熱伝導性を有する基材層と、この基材層の裏面に形成される導電パターンとを有する。また、絶縁性基板の熱容量を比較的大きくすることによって、圧電素子2の温度変化を緩やかにすることができる。
【0057】
本実施形態の振動トランスデューサ1cにおいて、プリント基板12の温度は、圧電素子2の温度と同視することができる。換言すると、本実施形態の振動トランスデューサ1cにおいて、第1熱効果素子13、第2熱効果素子14及び温度センサ8は、プリント基板12を介して圧電素子2と熱を授受する。
【0058】
プリント基板12の基材層としては、例えば薄い樹脂フィルム、熱伝導性フィラーを含む樹脂シート、金属系材料板等を用いることができる。
【0059】
プリント基板12の基材層は、圧電素子2の曲げを阻害しないよう十分な可撓性を有するものとしてもよく、圧電素子2の裏面の変形を防止するよう十分な剛性を有するものとしてもよい。プリント基板12の基材層が可撓性を有する場合、圧電素子2は曲げ歪みを検出する。一方、プリント基板12の基材層が剛性を有する場合、圧電素子2は厚さ方向の圧縮歪みを検出する。
【0060】
プリント基板12の導電パターンの材質としては、例えば銅、ニッケル、アルミニウム、金等の金属を挙げることができる。
【0061】
<第1熱効果素子>
本実施形態の振動トランスデューサ1cにおいて、第1熱効果素子13は、例えば発熱抵抗体等の発熱素子である。この第1熱効果素子13は、プリント基板12を加熱することによって圧電素子2の温度を上昇させる。
【0062】
<第2熱効果素子>
本実施形態の振動トランスデューサ1cにおいて、第2熱効果素子14は、例えばペルチェ素子等の吸熱素子(表面側の熱を奪って裏面側に放出する素子)である。この第2熱効果素子14は、プリント基板12を冷却することによって圧電素子2の温度を低下させる。
【0063】
第2熱効果素子14を構成するペルチェ素子としては、プリント基板12の導電パターン上にp型半導体及びn型半導体のブロックを平面視で並べて形成し、プリント基板12側でn型半導体からp型半導体に電流が流れるように接続したものとすることができる。第2熱効果素子14は、p型半導体及びn型半導体のブロックが多数配列されたアレイ構造を有してもよい。
【0064】
<利点>
本実施形態の振動トランスデューサ1cは、発熱素子である第1熱効果素子13と、吸熱素子である第2熱効果素子14とを備えるため、圧電素子2の温度を任意の温度帯に保持することができる。また、当該振動トランスデューサ1cは、環境温度が通常の温度帯である場合には第1熱効果素子13及び第2熱効果素子14を使用せず、環境温度が特に低い場合にのみ第1熱効果素子13を使用し、環境温度が特に高い場合にのみ第2熱効果素子14を使用することでエネルギー消費を抑制することができる。
【0065】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0066】
当該振動トランスデューサにおいて、熱効果素子や温度センサが圧電素子の表面側に配置されていてもよい。
【0067】
当該振動トランスデューサにおいて、発熱素子の平面パターンは例えばストライプ状、メッシュ状等、任意の形状とすることができる。
【0068】
当該振動トランスデューサは、物体表面に接触して配置され、物体の振動を検出する振動センサや、電気信号を振動に変換して物体を加振する加振デバイスとして使用してもよい。また、当該振動トランスデューサは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出するものに用いてもよい。例えば人、動物等の生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出するために用いることができる。その際、振動トランスデューサが生体の温度の影響を受けるおそれがあるため、生体内部の振動を検出しやすい温度となるように当該振動トランスデューサの温度の調整を行うようにすればよい。