【実施例】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係るアイドルストップ車両について詳細に説明する。
【0011】
本発明の一実施例に係るアイドルストップ車両1は、所定のアイドルストップ条件が成立した場合、自動的にエンジンを停止させるとともに、所定の再始動条件が成立した場合、エンジンを再始動させるアイドルストップ機能を備えている。
【0012】
図1において、本発明の一実施例に係るアイドルストップ車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、第1モータ3と、第2モータ4と、第1バッテリ5と、第2バッテリ6と、MCU(Motor Control Unit)7と、再始動制御部としてのECU(Electronic Control Unit)8と、を含んで構成される。
【0013】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0014】
エンジン2のクランクシャフト21は、クラッチ9を介してトランスミッション10に接続されている。トランスミッション10は、エンジン2から出力された回転を変速し、デファレンシャル機構11を介して駆動輪12を駆動するようになっている。
【0015】
クラッチ9及びトランスミッション10は、ECU8により制御された不図示のアクチュエータにより、トランスミッション10における変速段の切換えと、クラッチ9の接続及び解放とが行われるようになっている。
【0016】
デファレンシャル機構11は、トランスミッション10によって出力された動力を駆動輪12に伝達するようになっている。
【0017】
エンジン2には、第1モータ3と、第2モータ4とが連結されている。第1モータ3は、電力が供給されることにより回転することでクランクシャフト21を回転させて、エンジン2に始動時の回転力を与えるようになっている。第1モータ3は、少なくともエンジン2の初回始動時にエンジン2を始動させる。
【0018】
第2モータ4は、ベルト22などを介してエンジン2のクランクシャフト21に連結されている。第2モータ4は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を始動させる電動機の機能と、クランクシャフト21から入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。第2モータ4は、少なくともアイドリングストップ機能による停止状態からの再始動時にエンジン2を始動させる。
【0019】
第2モータ4は、電動機として機能することで、エンジン2の動力をアシストしたり、第2モータ4のみの動力でアイドルストップ車両1を駆動させたりすることができるようになっている。
【0020】
第1バッテリ5は、例えば鉛蓄電池で構成されている。この第1バッテリ5は、第1モータ3と車両電装部品14などの電気負荷と電気的に接続されている。第1バッテリ5には、第1バッテリ状態センサ51が接続されている。第1バッテリ状態センサ51は、第1バッテリ5の充放電電流、電圧及びバッテリ温度を検出する。第1バッテリ状態センサ51は、ECU8に接続されている。ECU8は、第1バッテリ状態センサ51の出力により第1バッテリ5のバッテリ電圧を検知できるようになっている。第1バッテリ5の出力電圧は、例えば、約12Vである。
【0021】
第2バッテリ6は、例えばリチウムイオン蓄電池で構成されている。この第2バッテリ6は、第2モータ4と電気的に接続されている。第2バッテリ6には、第2バッテリ状態センサ61が接続されている。第2バッテリ状態センサ61は、第2バッテリ6の充放電電流、電圧及びバッテリ温度を検出する。第2バッテリ状態センサ61は、ECU8に接続されている。ECU8は、第2バッテリ状態センサ61の出力により第2バッテリ6の充電状態や放電電流を検知できるようになっている。第2バッテリ6の出力電圧は、例えば、約48Vである。
【0022】
第1バッテリ5と、第2バッテリ6とはDC(direct current)DCコンバータ13を介して接続されている。DCDCコンバータ13は、第2モータ4で発電した電力を降圧して第1バッテリに充電することができるようになっている。
【0023】
MCU7及びECU8は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0024】
これらのコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをMCU7及びECU8としてそれぞれ機能させるためのプログラムが格納されている。
【0025】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例におけるMCU7及びECU8としてそれぞれ機能する。
【0026】
MCU7及びECU8は、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内LAN(Local Area Network)により接続され、相互に通信可能になっている。
【0027】
MCU7の出力ポートには、第2モータ4が接続されている。MCU7は、ECU8の指示により第2モータ4を制御して、エンジン2を再始動させたり、第2モータ4の出力トルクを制御したりする。
【0028】
ECU8の入力ポートには、上述の第1バッテリ状態センサ51、第2バッテリ状態センサ61に加え、エンジン水温センサ23を含む各種センサ類が接続されている。エンジン水温センサ23は、エンジン2の冷却水の温度を検出する。
【0029】
ECU8の出力ポートには、第1モータ3、クラッチ9及びトランスミッション10を制御するためのアクチュエータ、不図示のインジェクタ、点火プラグ、スロットルバルブを含む各種制御対象類が接続されている。
【0030】
ECU8は、予め設定された自動停止条件が成立するとエンジン2を自動停止させ、予め設定された再始動条件が成立するとエンジン2を再始動させるアイドルストップ制御を実行するようになっている。
【0031】
自動停止条件としては、例えば、車速が所定車速以下であること、ブレーキペダルが踏み込まれたこと、第2バッテリ6の充電容量が所定値以上であること、などの全てが成立したことを条件とする。一方、再始動条件としては、例えば、発進に適したシフト位置であること、ブレーキペダルの踏み込みがないこと、などのいずれか一つやいずれかの組み合わせの全てが成立したことを条件とする。
【0032】
ECU8は、再始動条件が成立してエンジン2を再始動させるとき、第2モータ4によりエンジン2を再始動させる。ECU8は、第2モータ4によりエンジン2を再始動させるとき、第2バッテリ6の充電容量が所定の容量以下などの場合、第2モータ4によるエンジン2の再始動を禁止する。ECU8は、第2モータ4によるエンジン2の再始動が禁止されている場合、第1モータ3によりエンジン2を再始動させる。
【0033】
ECU8は、第2モータ4によりエンジン2の再始動を行なったが、エンジン2の再始動に失敗した場合、第1モータ3によりエンジン2を再始動させる。ECU8は、例えば、第2モータ4によるエンジン2の再始動を所定回数リトライしてもエンジン2を再始動させることができなかった場合、エンジン2の再始動に失敗したと判定する。
【0034】
ECU8は、第1モータ3によるエンジン2の初回始動時に第1バッテリ5の最低電圧値が所定の再始動禁止閾値以下である場合、アイドリングストップ機能による停止状態からの再始動時に第1モータ3によるエンジン2の始動を禁止する。
【0035】
第1モータ3によるエンジン2始動時の第1バッテリ5の電圧は、
図2に示すように低下する。
図2に示すように、エンジン2始動時の第1バッテリ5の電圧の低下の最低電圧値が再始動禁止閾値以下である場合、ECU8は、アイドリングストップ機能による停止状態からの再始動時に第1モータ3によるエンジン2の始動を禁止する。
【0036】
第1バッテリ5には、車両電装部品14として被保護負荷が接続され、被保護負荷は第1バッテリ5から電力供給を受けている。エンジン2の再始動時に第1バッテリ5の電圧が著しく降下することが原因で、この被保護負荷への電力供給が不安定になることを抑制するために第1モータ3によるエンジン2の再始動の許可判定を行なっている。
【0037】
図3に示すように、第1モータ3によるエンジン2始動時の第1バッテリ5の電圧の最低電圧値が、再始動禁止閾値を超えている場合、ECU8は、アイドリングストップ機能による停止状態からの再始動時に第1モータ3によるエンジン2の始動を許可する。
【0038】
ECU8は、再始動禁止閾値を第1モータ3によるエンジン2始動時の第1バッテリ5の電圧降下と相関のあるパラメータにより変更するようにしてもよい。パラメータがエンジン2始動時の第1バッテリの電圧降下が小さいことを示している場合は再始動禁止閾値を高く(厳しめに)設定し、パラメータがエンジン2始動時の第1バッテリの電圧降下が大きいことを示している場合は再始動禁止閾値を低く(緩めに)設定する。このようにすることで、エンジン2や第1バッテリ5の状態によりエンジン2始動時に第1バッテリ5の電圧降下が大きい場合でも、電圧降下の度合いに対応して再始動禁止閾値を設定して、可能な限りエンジン2の自動再始動を担保しつつ、被保護負荷の動作を担保することができる。
【0039】
ECU8は、このパラメータとして、例えば、エンジン2の温度を示すエンジン水温を用いる。エンジン2の温度が高いほど第1モータ3によるエンジン2始動時の第1バッテリ5の電圧降下は小さくなる。ECU8は、
図4に示すように、エンジン水温が高いほど再始動禁止閾値を高くする。
【0040】
第1バッテリ5の電圧が、例えば、7Vまで降下すると被保護負荷に影響が出る場合であっても、エンジン温度が高い場合にエンジン2始動時の第1バッテリ5の電圧が7Vまで降下することと、エンジン温度が低い場合にエンジン2始動時の第1バッテリ5の電圧が7Vまで降下することと、は意味合いが異なる。
【0041】
前者の場合、再始動時も同じように7Vまで第1バッテリ5の電圧が降下する可能性が大きく、そうなると被保護不可への電力供給が不安定になる可能性がある。
【0042】
対して、後者の場合、第1バッテリ5の電圧が7Vまで降下したのは、エンジンフリクションによる影響が大きく起因しているためと考えられ、エンジン2が温まっている再始動時には第1バッテリ5の電圧は7Vまで降下しないと予測できる。
【0043】
このため、前者では、再始動禁止閾値を7.1Vに設定して第1モータ3によるエンジン2の再始動を禁止することは有効と考えられる。しかし、後者で同じように再始動禁止閾値を7.1Vに設定すると、エンジン2が温まっている再始動時には第1バッテリ5の電圧は7Vまで降下しないのにもかかわらず、初回始動時の電圧降下によって第1モータ3によるエンジン2の再始動が禁止されてしまう。
【0044】
パラメータに応じて再始動禁止閾値を変えることで、第1モータ3によるエンジン2の再始動を禁止する必要のある第1バッテリ5の状態をエンジン2の初回始動時に判定できる。
【0045】
なお、エンジンの温度を示すパラメータとしてエンジン油温を用いてもよい。エンジン油温の場合も、
図4に示すように、エンジン油温が高いほど再始動禁止閾値を高くする。
【0046】
ECU8は、
図5に示すように、第1バッテリ5の温度が高いほど再始動禁止閾値を高くするようにしてもよい。これは、第1バッテリ5は、温度が高いほど内部抵抗が小さく、電圧降下が少なくなるためである。
【0047】
ECU8は、
図6に示すように、イグニッションスイッチをオフにした時からの経過時間であるソーク時間が長いほど再始動禁止閾値を低くするようにしてもよい。これは、ソーク時間が短いほどエンジン2の温度が高いと予測されるためである。
【0048】
ECU8は、外気温が高いほど再始動禁止閾値を高くするようにしてもよい。これは、外気温が第1バッテリ5の温度に影響を与えるため、第1バッテリ5の温度と同様に、外気温が高いほど第1バッテリ5の電圧降下が少なくなるためである。
【0049】
以上のように構成された本実施例に係るアイドルストップ車両のECU8による再始動禁止判定処理について、
図7を参照して説明する。なお、以下に説明する再始動禁止判定処理は、ECU8が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0050】
ステップS1において、ECU8は、第1モータ3による初回エンジン始動か否かを判定する。初回エンジン始動でないと判定した場合、ECU8は、処理を繰り返す。
【0051】
ステップS1において初回エンジン始動であると判定した場合、ステップS2において、ECU8は、エンジン始動時の第1バッテリ5の最低電圧V
1を取得する。
【0052】
ステップS3において、ECU8は、上述のパラメータに基づいて再始動禁止閾値V
fを算出する。
【0053】
ステップS4において、ECU8は、最低電圧V
1が再始動禁止閾値V
fより大きいか否かを判定する。最低電圧V
1が再始動禁止閾値V
fより大きいと判定した場合、ステップS5において、ECU8は、第1モータ3によるエンジン2の再始動の許可を設定する。
【0054】
ステップS4において最低電圧V
1が再始動禁止閾値V
fより大きくないと判定した場合、ステップS6において、ECU8は、第1モータ3によるエンジン2の再始動の禁止を設定する。
【0055】
次に、本実施例に係るアイドルストップ車両のECU8による再始動制御処理について、
図8を参照して説明する。なお、以下に説明する再始動制御処理は、エンジン2の自動停止が行なわれると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0056】
ステップS11において、ECU8は、上述の再始動条件が成立したか否かを判定する。再始動条件が成立していないと判定した場合、ECU8は、処理を終了する。
【0057】
ステップS11において再始動条件が成立したと判定した場合、ステップS12において、ECU8は、第2モータ4でのエンジン2の再始動が許可されているか否かを判定する。第2モータ4でのエンジン2の再始動が許可されていると判定した場合、ステップS13において、ECU8は、第2モータ4によるエンジン2の再始動を行なう。
【0058】
ステップS14において、ECU8は、第2モータ4によるエンジン2の再始動が成功したか否かを判定する。エンジン2の再始動が成功したと判定した場合、ECU8は、処理を終了する。
【0059】
ステップS14においてエンジン2の再始動が成功していないと判定した場合、または、ステップS12において第2モータ4でのエンジン2の再始動が許可されていないと判定した場合、ステップS15において、ECU8は、第1モータ3によるエンジン2の再始動が許可されているか否かを判定する。第1モータ3によるエンジン2の再始動が許可されていないと判定した場合、ECU8は、処理を終了する。
【0060】
ステップS15において第1モータ3によるエンジン2の再始動が許可されていると判定した場合、ステップS16において、ECU8は、第1モータ3によりエンジン2の再始動を実施し、処理を終了する。
【0061】
このように、上述の実施例では、エンジン2の初回始動時の第1バッテリ5の最低電圧値が再始動禁止閾値以下である場合、第1モータ3によるエンジン2の再始動を禁止するECU8を備える。
【0062】
これにより、第1モータ3に電力を供給する第1バッテリ5の、エンジン2の初回始動時の最低電圧値が再始動禁止閾値以下である場合、第1モータによる再始動のみを禁止する。このため、第2モータ4による再始動が可能である場合には再始動が実行され、かつ、第1モータ3による再始動は禁止され、アイドルストップを行なう頻度を上げて燃費を向上させつつ、第1バッテリ5に接続された被保護負荷の動作を担保することができる。
【0063】
また、ECU8は、第2モータ4によるエンジン2の再始動が行なえない場合には、第1モータ3によってエンジン2を再始動させ、エンジン2の初回始動時の第1バッテリ5の最低電圧値が再始動禁止閾値以下である場合、第2モータ4による再始動が行なえない場合であっても、第1モータ3によるエンジン2の再始動を禁止する。
【0064】
これにより、第1モータ3に電力を供給する第1バッテリ5の、エンジン2の初回始動時の最低電圧値が再始動禁止閾値以下である場合、第2モータ4によるエンジン2の再始動が失敗した際の第1モータ3によるエンジン2の再始動を禁止する。このため、アイドルストップを行なう頻度を上げて燃費を向上させつつ、第1バッテリ5に接続された被保護負荷の動作を担保することができる。
【0065】
また、ECU8は、第1モータ3でエンジン2を始動させた際の第1バッテリ5の電圧降下量に相関のあるパラメータに応じて再始動禁止閾値を変更する。
【0066】
これにより、第1モータ3でエンジン2を始動させた際の第1バッテリ5の電圧降下量に相関のあるパラメータに応じて再始動禁止閾値が変更される。このため、パラメータの示す第1バッテリ5の電圧降下量の変化に対応して再起動禁止閾値を変更することができ、可能な限りエンジン2の自動再始動を担保しつつ、第1バッテリ5に接続された被保護負荷の動作を担保することができる。
【0067】
またECU8は、パラメータとして、エンジン2の水温、エンジン2の油温、第1バッテリ5の温度、ソーク時間のうち少なくとも1つを使用する。
【0068】
これにより、エンジンフリクションの変化を示すエンジン2の温度の高低に応じて、または、第1バッテリ5の内部抵抗値の変化を示す第1バッテリ5の温度の高低に応じて、または、エンジン温度の変化を示すソーク時間の長短に応じて、再始動禁止閾値を決めるため、可能な限りエンジン2の自動再始動を担保しつつ、第1バッテリ5に接続された被保護負荷の動作を担保することができる。
【0069】
なお、本実施例においては、エンジン2の初回始動時の第1バッテリ5の電圧降下に基づいて第1モータ3によるエンジン2の再始動の禁止を判定したが、エンジン2の初回始動時に限らず、任意の第1モータ3によるエンジン2の始動時の第1バッテリ5の電圧降下に基づいて判定してもかまわない。
【0070】
また、エンジン2の初回始動時の第1バッテリ5の最低電圧から、エンジン2の自動停止までの間に実施した第1バッテリ5の充電量を加味して第1モータ3によるエンジン2の再始動の禁止を判定してもよい。
【0071】
また、第2バッテリ6の出力電圧を約48Vとしたが、これに限定されるものではなく、約12Vでも同様な効果を得られる。
【0072】
また、
図8の説明の中で、ステップS14においてエンジン2の再始動が成功していないと判定した場合は、ステップS15に進むと記載したが、例えばエンジン2の再始動が成功していないと判定されても、所定回数はステップS13に戻り第2モータ4による再始動を繰り返したり、所定回数はステップS12に戻り第2モータ4による再始動が許可されているかの判定とステップS13における第2モータ4による再始動とを繰り返したりするような構成であってもよい。このような構成により、仮に第1モータ3での再始動が許可されていない場合であっても、出来る限り第2モータ4での再始動を行うため、更にエンジン2の自動再始動を担保することができる。
【0073】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。