(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転停止手段は、前記一方または他方の可変容量型ポンプモータにおける前記作動油の出入りを禁止することで、前記一方または他方の可変容量型ポンプモータの回転を停止させる、
請求項1に記載の変速機。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は一例であり、本発明はこの実施形態により限定されるものではない。
【0011】
まず、
図1を参照して、本実施形態に係る油圧機械式変速機を搭載した車両1の全体構成について説明する。
図1には、車両1の前後方向が描かれている。以下の説明では、車両前側を単に「前」、車両後側を単に「後」と呼ぶことがある。
【0012】
車両1は、駆動源10と、ダンパ20と、差動機構30と、油圧変速部40と、有段変速部50と、制御装置80とを備えている。そして、有段変速部50の出力側に、プロペラシャフト61、デファレンシャル62およびドライブシャフト63を介して、駆動輪64が動力伝達可能に連結されている。なお、以下の説明において、差動機構30、油圧変速部40および有段変速部50を合わせて「変速機2」と呼ぶことがある。
【0013】
駆動源10は、例えばディーゼルエンジンである。なお、駆動源10は、ガソリンエンジン、電動機等でも構わない。駆動源10の出力軸11には、ダンパ20の入力側部材21が接続されている。なお、以下において、駆動源10はディーゼルエンジンであるとして説明を行う。
【0014】
ダンパ20は、入力側部材21と、出力側部材22と、入力側部材21と出力側部材22とを弾性的に連結する弾性連結部材23とを備える。ダンパ20の出力側部材22は、差動機構30の入力軸31と接続されている。ダンパ20は、駆動源10の発生する回転振動が差動機構30に伝達されるのを抑制する機能を有する。ダンパ20の構造は一般的なダンパの構造と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0015】
差動機構30は、円周方向に等配に設けられた複数のベベルギヤ32、第1差動出力ギヤ33および第2差動出力ギヤ34を備えている。ベベルギヤ32は、
図1に示すように、入力軸31に相対回転可能に軸支されている。第1差動出力ギヤ33は、第1ポンプモータ41の第1入出力軸41aの前端に設けられている。第2差動出力ギヤ34は、差動出力軸35の前端に設けられている。
【0016】
差動出力軸35は、第1入出力軸41aと同軸かつ第1入出力軸41aの外周側に設けられた円筒状の部材である。差動出力軸35の後端には、第1ギヤ36が設けられている。差動出力軸35は、不図示の軸受を介して、第1入出力軸41aに軸支されている。第1ギヤ36は、第2ポンプモータ42の第2入出力軸42aの前端に設けられた第2ギヤ37と噛合している。
【0017】
なお、本実施形態では、第1差動出力ギヤ33の歯数は、第2差動出力ギヤ34の歯数と同一である。また、第1ギヤ36の歯数は、第2ギヤ37の歯数と同一である。差動機構30の構造は一般的なベベルギヤ型差動機構の構造と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0018】
油圧変速部40は、第1ポンプモータ41と、第2ポンプモータ42と、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42を油圧接続する閉回路43とからなる。なお、閉回路43の構成については一般的なHST閉回路と同様であるため、
図1では、閉回路43における構成部品(チャージポンプ、チャージ油路、リリーフ油路、バイパス油路等)を省略している。
【0019】
第1ポンプモータ41は、押し除け容積をゼロから正負の両方向に変化させることのできる、いわゆる両振り型のポンプモータである。第1ポンプモータ41としては、アキシャルピストン型、ラジアルピストン型等、各種の形式のものを採用することができる。第1ポンプモータ41の第1入出力軸41aは、第1ポンプモータ41を前から後へ貫通している。なお、第1ポンプモータ41は、本発明の「他方の可変容量型ポンプモータ」に相当する。
【0020】
第2ポンプモータ42は、押し除け容積をゼロから正負の両方向に変化させることのできる、いわゆる両振り型のポンプモータである。第2ポンプモータ42の第2入出力軸42aは、第2ポンプモータ42を前から後へ貫通している。なお、第2ポンプモータ42は、本発明の「一方の可変容量型ポンプモータ」に相当する。
【0021】
なお、本実施形態では、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42は同形式のものを用いている。また、第1ポンプモータ41の最大押し除け容積は、第2ポンプモータ42の最大押し除け容積と等しい。
【0022】
有段変速部50は、第1入出力軸41aと、第1入出力軸41aと平行に配置された第2入出力軸42aと、副軸51と、出力軸52とを備えている。なお、第1入出力軸41aは、本発明の「他方の可変容量型ポンプモータの入出力軸」に相当する。また、第2入出力軸42aは、本発明の「一方の可変容量型ポンプモータの入出力軸」に相当する。
【0023】
第1入出力軸41aの前端には、上述のとおり、差動機構30の第1差動出力ギヤ33が設けられている。また、第1入出力軸41aの後端には、第1入力ハブ41bが、第1入出力軸41aと一体回転するように設けられている。
【0024】
第1入力ギヤ41cは、第1入出力軸41aの外周側に、第1入出力軸41aに対して相対回転可能に設けられている。第1入力ギヤ41cは、副軸51と第1入力ハブ41bとの間に設けられている。
【0025】
第2入出力軸42aの前端には、上述のとおり、差動機構30の第2ギヤ37が設けられている。また、第2入出力軸42aの後端には、第2入力ハブ42bが、第2入出力軸42aと一体回転するように設けられている。
【0026】
第2入力ギヤ42cは、第2入出力軸42aと一体回転するように設けられている。第2入力ギヤ42cは、第2ポンプモータ42と第2入力ハブ42bとの間に設けられている。第2入力ギヤ42cは、第1副ギヤ51a(後述する)と噛合している。
【0027】
副軸51は、第1入出力軸41aと同軸かつ第1入出力軸41aの外周側に設けられた円筒状の部材である。副軸51の前端には第1副ギヤ51aが設けられ、副軸51の後端には第2副ギヤ51bが設けられている。
【0028】
出力軸52の前端には、出力ハブ52aが、出力軸52と一体回転するように設けられている。
【0029】
第1出力ギヤ52bは、出力軸52の外周側に、出力軸52に対して相対回転可能に設けられている。第1出力ギヤ52bは、出力ハブ52aの後側に設けられている。第1出力ギヤ52bは、第2副ギヤ51bと噛合している。
【0030】
第2出力ギヤ52cは、出力軸52と一体回転するように設けられている。第2出力ギヤ52cは、第1出力ギヤ52bの後側に設けられている。第2出力ギヤ52cは、第1入力ギヤ41cと噛合している。
【0031】
有段変速部50には、第1入出力軸41aと第1入力ギヤ41c、または、第1入出力軸41aとハウジング3とを、選択的に連結する第1連結機構71が設けられている。第1連結機構71は、第1入力ハブ41bと、第1入力ギヤ41cと一体に設けられた入力クラッチギヤ41dと、ハウジング3に固定されたドグブレーキ41eと、第1スリーブ72とを備えている。
【0032】
第1スリーブ72は、第1入力ハブ41bの外周側に、第1入力ハブ41bと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第1スリーブ72が
図1に示す中央位置の場合、第1入出力軸41aと第1入力ギヤ41cとは相対回転可能である。また、第1スリーブ72が
図1に示す中央位置の場合、第1入出力軸41aはハウジング3に対して固定されない。
【0033】
第1スリーブ72を前位置とすることで、第1入力ギヤ41cは、第1入出力軸41aと一体に回転する。また、第1スリーブ72を後位置とすることで、第1入出力軸41aは、ハウジング3に対して固定される。
【0034】
本実施形態では、第1連結機構71として一般的なシンクロナイザ方式のものを使用している。シンクロナイザ方式の連結機構は公知であるため、詳細な説明は省略する。なお、第1連結機構71は、本発明の「第2の係合機構」に相当する。
【0035】
有段変速部50には、第2入出力軸42aと出力軸52、または、第1出力ギヤ52bと出力軸52とを、選択的に一体回転可能に連結する第2連結機構73が設けられている。第2連結機構73は、第2入力ハブ42bと、出力ハブ52aと、第1出力ギヤ52bと一体に設けられた出力クラッチギヤ52dと、第2スリーブ74とを備えている。
【0036】
第2スリーブ74は、出力ハブ52aの外周側に、出力ハブ52aと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第2スリーブ74が
図1に示す中央位置の場合、第2入出力軸42aと出力軸52とは相対回転可能である。また、第2スリーブ74が
図1に示す中央位置の場合、第1出力ギヤ52bと出力軸52とは相対回転可能である。
【0037】
第2スリーブ74を前位置とすることで、出力軸52は、第2入出力軸42aと一体に回転する。また、第2スリーブ74を後位置とすることで、出力軸52は、第1出力ギヤ52bと一体に回転する。なお、第2連結機構73は、本発明の「第1の係合機構」に相当する。
【0038】
制御装置80は、駆動源10、油圧変速部40(第1ポンプモータ41、第2ポンプモータ42)、有段変速部50(第1スリーブ72、第2スリーブ74)の制御を行う。
【0039】
次に、
図2を参照して、有段変速部50の動作について説明する。
図2は、有段変速部50の状態と、第1スリーブ72および第2スリーブ74の動作状態との関係を示す図表である。
【0040】
第1スリーブ72が中央位置とされ、第2スリーブ74が後位置とされる状態を、「第1伝動状態」という。第1伝動状態では、第2入出力軸42aの回転が、第2入力ギヤ42c、第1副ギヤ51a、第2副ギヤ51bおよび第1出力ギヤ52bを経由して出力軸52へ伝達される。
【0041】
第1スリーブ72が前位置とされ、第2スリーブ74が中央位置とされる状態を、「第2伝動状態」という。第2伝動状態では、第1入出力軸41aの回転が、第1入力ギヤ41cおよび第2出力ギヤ52cを経由して出力軸52へ伝達される。
【0042】
第1スリーブ72が中央位置とされ、第2スリーブ74が前位置とされる状態を、「第3伝動状態」または「直結状態」という。第3伝動状態では、第2入出力軸42aの回転が出力軸52へ直接伝達される。
【0043】
第2入力ギヤ42c、第1副ギヤ51a、第2副ギヤ51bおよび第1出力ギヤ52bの歯数は、第1伝動状態において、第2入出力軸42aの回転を減速して出力軸52に伝達するように、設定されている。また、第1入力ギヤ41cおよび第2出力ギヤ52cの歯数は、第2伝動状態において、第1入出力軸41aの回転を減速して出力軸52に伝達するように、設定されている。
【0044】
本実施形態では、第1伝動状態における変速比(第2入出力軸42aの回転数/出力軸52の回転数)をα1、第2伝動状態における変速比(第1入出力軸41aの回転数/出力軸52の回転数)をα2とすると、α1>α2>1(直結)である。
【0045】
さらに、本実施形態では、有段変速部50は、上述の各変速状態の他に、以下に示すオーバードライブ状態を取る。オーバードライブ状態では、第1スリーブ72が後位置とされ、第2スリーブ74が前位置とされる。オーバードライブ状態では、第1入出力軸41aがハウジング3に対して固定されることにともない、差動機構30の作用により、第2入出力軸42aの回転数が駆動源10の回転数よりも高くなる。そして、第2入出力軸42aの回転が、出力軸52へ直接伝達される。
【0046】
また、オーバードライブ状態では、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の押し除け容積が調整され、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42が仕事をしないようにされる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1連結機構71によって第1入出力軸41aをハウジング3に対して固定するとともに、第2連結機構73によって第2入出力軸42aを出力軸52と直結することで、オーバードライブ状態を作り出すようにした。
【0048】
これにより、オーバードライブ状態では、駆動源10からの動力を増速し、さらに機械式伝達経路のみを経由して出力軸52へ伝達する。そのため、駆動源10からの動力を、効率良く出力軸52へ伝達することができる。
【0049】
また、オーバードライブ状態を作り出すために新たなギヤ対を設ける必要がないため、変速機のサイズの巨大化を抑制しつつ、多段化することができる。
【0050】
また、第1入出力軸41aを例えば摩擦ブレーキを用いてハウジング3に対して固定するのに比べて、第1入出力軸41aを固定するのに要するエネルギーを低減することができる。そのため、これによっても効率を高めることができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、オーバードライブ状態において、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42が仕事をしないようにした。そのため、これによっても効率を高めることができる。
【0052】
なお、上述の実施形態では、第1入出力軸41aをハウジング3に対して固定する際に、第2入出力軸42aを出力軸52と直結するようにしたが、これに限定されない。例えば、第2スリーブ74を後位置として、第2入出力軸42aの回転を減速して出力軸52へ伝達するようにしてもよい。
【0053】
また、上述の実施形態では、第1入出力軸41aをハウジング3に対して固定するようにしたが、これに限定されない。例えば、第2入出力軸42aをハウジング3に対して固定するとともに、第1スリーブ72を前位置として、第1入出力軸41aの回転を減速して出力軸52へ伝達するようにしてもよい。
【0054】
また、上述の実施形態では、第1入出力軸41aの回転を停止させるために、第1入出力軸41aをハウジング3に対して固定するようにしたが、第1入出力軸41aの回転を停止させる方法はこれに限定されない。
【0055】
例えば、第1ポンプモータ41と閉回路43との間の作動油の出入りをシャットオフ弁等により禁止して、第1ポンプモータ41を油圧ロック状態とすることで、第1入出力軸41aの回転を停止させてもよい。
【0056】
また、上述の実施形態では、差動機構を、ベベルギヤ型の差動機構としたが、これに限定されない。差動機構としては、公知の構造を適宜採用し得る。例えば、差動機構を遊星歯車機構としてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態では、有段変速部を計5段としたが、これに限定されず、さらに多段化してもよい。