【文献】
Postnikoff CK. et al.,Development of a curved, stratified, in vitro model to assess ocular biocompatibility.,PLOS ONE,2014年 5月,9, 5,e96448
【文献】
Maltseva IA. et al.,Exposure of human corneal epithelial cells to contact lenses in vitro suppresses the upregulation of human β-defensin-2 in response to antigens of Pseudomonas aeruginosa.,Experimental Eye Research,2007年 4月14日,85,142-153
【文献】
Biotechnol Bioeng, 2012 Dec, vol. 109, no. 12, pp. 3189-3198
【文献】
中岡竜介 他,視力補正を目的としないおしゃれ用カラーコンタクトレンズの細胞毒性,国立医薬品食品衛生研究所報告,2007年12月18日,125,61-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コンタクトレンズの抽出液を培地中に加える方法では、眼球上に接触させて用いるコンタクトレンズの使用態様とは大きく異なる条件下での試験であるため、コンタクトレンズの影響を判定する精度が不十分となる可能性があった。セルカルチャーインサートにおける細胞が培養された膜とコンタクトレンズとを接触させる方法は、培養細胞とコンタクトレンズとが膜を介して接触し得るが、接触面積が極めて小さい。そのため、試験の判定精度を向上させるために、試験方法のさらなる改善が求められていた。また、種々の態様での試験を可能にするために、培養細胞とコンタクトレンズとを膜を介して接触させる方法の他、培養細胞とコンタクトレンズとを直接接触させる試験方法も望まれていた。また、コンタクトレンズを試験するだけでなく、コンタクトレンズと共に使用される薬剤であって、成分の少なくとも一部がコンタクトレンズと共に眼球上に持ち込まれる可能性のある薬剤(例えば、コンタクトレンズの洗浄液、消毒液、あるいは点眼薬等)についても、同様に試験することが望まれていた。また、コンタクトレンズに限らず、眼内レンズ等、人体に接触して使用される他のレンズについても、同様に試験方法の改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、人体に接触して使用されるレンズを用いた試験方法が提供される。この試験方法は、水分を吸収して膨潤する膜
であって膨潤によって軟化すると共に伸縮性を示し、面積膨潤率が1%以上である膜と、環状に形成されて前記膜の外周を支持する支持基材と、を備える膜部材を用意する工程と;前記膜部材が備える前記膜上に細胞を接着させる工程と;前記膜部材と前記レンズとを液中に浸漬させて、膨潤状態の前記膜を前記レンズの表面に沿って変形させることにより、前記細胞が接着している前記膜を前記レンズの表面に密着させる工程と;を備える。
この形態の試験方法によれば、レンズにおいて、試験に用いる細胞と接触する面積をより広く確保することができるため、レンズを用いた安全性の試験の感度を高め、試験の判定精度を高めることができる。
【0007】
(2)上記形態の試験方法において、前記細胞が接着している前記膜を前記レンズの表面に密着させる際に、前記膜における前記細胞が接着している面を、前記レンズの表面に密着させることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、レンズを人体で使用する状態により近い態様で、レンズを試験することができる。
【0008】
(3)上記形態の試験方法において、前記膜は、該膜を厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し;前記細胞が接着している前記膜を前記レンズの表面に密着させる際に、前記膜における前記細胞が接着している面の裏面を、前記レンズの表面に密着させることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、細胞とレンズとを、膜の貫通孔を介して接触させる態様の試験を行なう場合にも、レンズにおいて細胞と接触する面積をより広く確保することができる。
【0009】
(4)上記形態の試験方法において、前記液は、前記細胞を培養するための培地中の成分を含むこととしてもよい。この形態の試験方法によれば、細胞を、より良好な状態に維持して、試験を行なうことができる。
【0010】
(5)上記形態の試験方法において、前記細胞が接着している前記膜を前記レンズの表面に密着させる際に、前記レンズの凹面を、支持部によって支持することとしてもよい。この形態の試験方法によれば、レンズの変形を抑制することができ、その結果、レンズと膜との密着性を、より高めることができる。
【0011】
(6)上記形態の試験方法において、前記細胞が接着している前記膜を前記レンズの表面に密着させる際に、前記膜を、前記支持部と前記凹面との間に配置することとしてもよい。この形態の試験方法によれば、レンズを人体で使用する状態により近い態様で、レンズを試験することができる。
【0012】
(7)上記形態の試験方法において、前記細胞が接着している前記膜を前記レンズの表面に密着させる際に、前記膜を、前記レンズの凸面上に配置することとしてもよい。この形態の試験方法によれば、レンズにおいて使用時に眼球に接する側とは異なる側についても、精度良く試験を行なうことができる。
【0013】
(8)上記形態の試験方法において、さらに、前記膜を前記レンズの表面に密着させた状態で、前記レンズと共に使用される薬剤を含む試験液中で前記細胞を培養する工程を備えることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、レンズと共に使用される薬剤を、レンズを人体で使用する状態により近い態様で試験することができる。
【0014】
(9)上記形態の試験方法において、前記膜は、面積膨潤率が1%以上であることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、膜とレンズとを密着させることが容易となる。
【0015】
(10)上記形態の試験方法において、前記膜は、面積膨潤率が3%以上であることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、膜とレンズとを密着させることが、より容易となる。
【0016】
(11)上記形態の試験方法において、前記膜は、面積膨潤率が5%以上であることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、膜とレンズとを密着させることが、さらに容易となる。
【0017】
(12)上記形態の試験方法において、前記膜は、乾燥時の膜厚が1〜100μmであることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、膜とレンズとを密着させることが、より容易となる。
【0018】
(13)上記形態の試験方法において、前記膜は、ポリウレタン膜であることとしてもよい。この形態の試験方法によれば、膜とレンズとを密着させること、および、膜上で細胞を培養することが、より容易になる。
【0019】
本発明は、試験方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、人体に接触して使用されるレンズを用いた試験のための試験器具等の形態で実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のレンズを用いた試験方法によれば、レンズにおいて、試験に用いる細胞と接触する面積をより広く確保することができるため、レンズを用いた安全性の試験の感度を高め、試験の判定精度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の第1実施形態としての試験方法を表わす説明図である。
図1に示す試験方法は、人体と接触して使用されるレンズを用いた試験方法である。より具体的には、レンズと細胞とが接する状態で行なう試験方法である。人体と接触して使用されるレンズとしては、コンタクトレンズや眼内レンズを含むことができる。以下では、レンズとしてコンタクトレンズを用いる場合について説明するが、他のレンズを用いる場合にも同様に適用できる。
図1に示す試験方法は、レンズそのものを試験する他、レンズと共に使用される薬剤であって、成分の少なくとも一部がレンズと共に眼球上に持ち込まれる可能性のある薬剤(例えば、コンタクトレンズの洗浄液、消毒液、あるいは点眼薬等)についても試験することができる。以下では、コンタクトレンズを用いた試験において、コンタクトレンズを評価対象とする試験と、コンタクトレンズと共に使用される薬剤を評価対象とする試験とを併せて、コンタクトレンズ等の試験とも呼ぶ。
【0023】
本実施形態の試験方法では、まず、試験器具10を用意する(ステップS100)。試験器具10は、構成部材として、膜部材20、下部治具30、上部治具40、および容器部50を備える。以下では、本実施形態で用いる試験器具10について説明する。
【0024】
図2Aは、膜部材20を表わす斜視図であり、
図2Bは、下部治具30を表わす斜視図であり、
図2Cは、上部治具40を表わす斜視図である。
図3は、試験器具10を用いてコンタクトレンズ等の試験を行なう様子を模式的に表わす断面図である。
【0025】
膜部材20は、
図2Aに示すように、支持基材22と膜24とを備える。支持基材22は、中央部に円形の穴部を有する環状のシートとして形成されており、膜24を、平坦な状態で保持するための部材である。膜24は、細胞培養を行なう際に培養細胞の足場となる膜であり、略円形に形成されている。膜24の外周部が支持基材22に固着されることにより、支持基材22の上記穴部全体が、膜24によって塞がれている。
【0026】
膜24は、培地等の液中で水分を吸収して膨潤する性質を有している。そして、膜24は、膨潤によって軟化すると共に伸縮性を示し、後述するように、コンタクトレンズにおける曲面状の表面に沿って変形させて密着させることが可能となっている。このような性質を有する膜24の膨潤率は、例えば1%以上とすることができ、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。ここで、膨潤率とは、膜24を室温にて1時間、純水中に浸漬して、以下の(1)式により算出した面積膨潤率をいう。
【0027】
膨潤率(%)=(浸漬後面積−浸漬前面積)/浸漬前面積×100 … (1)
【0028】
膜24は、例えば、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、ポリアミド6 コポリマー、ポリアミド66 コポリマー、不飽和ポリエステル、ニトロセルロース、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ASA樹脂、PAS樹脂、ポリアミド12から選択される樹脂によって形成することができる。膨潤率を高めることができる観点から、膜24は、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、ポリアミド6 コポリマー、ポリアミド66 コポリマー、不飽和ポリエステル、ニトロセルロース、ポリウレタンから選択される樹脂により形成することが望ましい。これらの樹脂は、比較的吸水率が高く、吸水して膨潤し易いため、膜上に成形したときに、既述した膨潤率を実現することが可能となる。
【0029】
膜24は、実質的に細孔を有しない膜であってもよく、多孔質膜であってもよい。培養細胞の足場として良好に機能させることが容易であり、より高い膨潤率を実現しやすいという観点から、膜24は、多孔質膜であることが望ましい。膜24が多孔質膜である場合には、膜24における培養細胞が接着する面で開口する細孔の平均細孔径は、例えば、0.1〜100μmとすることができる。ここで、平均細孔径とは、膜24の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して求めた値である。具体的には、膜24の表面を1000倍に拡大したSEM像の特定の視野において、観察される全ての細孔の最大長を測定し、測定した値の平均値を求めたものである。なお、上記最大長とは、細孔に外接する四角形の辺の長さの最大値をいう。平均細孔径の値を上記範囲とすることで、膜24における柔軟性および強度を両立することが容易になる。ただし、膜24の表面における平均細孔径は、0.1μm未満とすることも可能であり、100μmを超えることも可能である。さらに、膜24が多孔質膜である場合には、膜24内に形成される細孔は、種々の形状とすることができ、例えば、膜厚方向に膜24を貫通する貫通孔を有することとしてもよい。
【0030】
膜24は、後述するコンタクトレンズ等の試験の際に取扱いに支障がない程度の強度を有していればよい。膜24の乾燥時の膜厚は、例えば、1〜100μmとすることができる。ただし、乾燥時の膜厚は、0.1μm未満とすることも可能であり、100μmを超えることも可能である。
【0031】
膜24の膨潤率は、膜24を構成する樹脂の組成の他、膜24の膜厚、膜24が多孔質であるか否か、多孔質である場合には細孔の形状や膜24の空隙率、樹脂の結晶化度等によって変化する。膜24は、液中で膨潤し、培養細胞の足場となることができ、後述するようにコンタクトレンズの曲面状の表面に沿って変形させて密着させることができ、取扱いに支障がない強度を有していればよい。十分な膨潤率および強度を示し、培養細胞の足場として望ましい多孔質膜とすることができるという観点から、膜24は、多孔質ポリウレタン膜とすることが特に好ましい。
【0032】
膜24として用いる多孔質ポリウレタン膜は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、ポリエーテルポリオール等のポリオールと、芳香族イソシアネート等のイソシアネートと、希釈溶剤とを含む未硬化ポリウレタン原料を用意する。その後、基板上に、用意した未硬化ポリウレタン原料の層を形成する。そして、未硬化ポリウレタン原料の層に対して水蒸気を供給しながらポリウレタン原料の層を硬化させることにより、ポリウレタン多孔質膜が得られる。
【0033】
未硬化ポリウレタン原料の層に対して水蒸気を供給する具体的な方法としては、例えば、水を入れた密閉容器内において、基板上の未硬化ポリウレタン原料の層の露出面が水に対向するように、未硬化ポリウレタン原料の層を配置する。そして、密閉容器内を所定の温度に維持して飽和蒸気圧にする。これにより、未硬化ポリウレタン原料の層の表面から水蒸気が供給されて、ポリウレタン原料中のイソシアネートと水蒸気とが反応して二酸化炭素を生じる。また、ポリオールとイソシアネートとによって硬化反応が進行する。このように、硬化途中のポリウレタンが発泡することにより、多孔質ポリウレタン膜が得られる。なお、上記した水蒸気の供給を伴う硬化反応における反応温度、反応時間、硬化時に供給する水蒸気の量、およびポリウレタン原料の組成から選択される条件を調節することにより、ポリウレタン多孔質膜の形状を制御することが可能になる。すなわち、各細孔の形状や大きさ、細孔が貫通孔であるか否か、あるいは空隙率等を制御することができる。
【0034】
支持基材22は、例えば、樹脂材料やガラスにより形成することができる。支持基材22を樹脂により形成する場合には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、シリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリメチルメタクリレート(PMMA)から選択される樹脂を用いることができる。膜部材20は、膜24上に細胞を播種して培養する際、あるいは後述する試験を行なう際に、培養細胞に影響し得る物質(例えば、金属イオン等の成分)が実質的に溶出しない材料により形成することが望ましい。
【0035】
支持基材22を熱可塑性樹脂により形成する場合には、例えば、支持基材22における膜24と接する面を昇温させて、溶融あるいは軟化させると共に、膜24を重ね合わせて押圧することで、支持基材22と膜24とを一体化することができる。また、支持基材22を、同じ大きさの2枚の環状のシートにより構成し、2枚の環状シートの対向する面をそれぞれ昇温させて溶融あるいは軟化させ、2枚の環状シートの間に膜24を挟んで押圧することにより、膜部材20を作製してもよい。あるいは、支持基材22と膜24とは、接着剤を用いて一体化してもよい。
【0036】
下部治具30は、
図2Bに示すように、略円柱状の外形を有しており、一方の端部側の面において、半球状の曲面を有する凹部32が形成されている。凹部32は、後述するように、コンタクトレンズ60の凸面に沿う形状の曲面を有している。
【0037】
上部治具40は、
図2Cに示すように、一方の端部が閉塞された円筒状に形成されている。上部治具40における上記一方の端部には、半球状の曲面を有する凸部44が形成されている。凸部44は、後述するように、コンタクトレンズ60の凹面に沿う形状の曲面を有している。凸部44は、コンタクトレンズ60を凹面で支持するための部位であり、「支持部」とも呼ぶ。また、上部治具40における開口する他方の端部には、周方向外側に向かって張り出した鍔部42が形成されている。なお、上部治具40は、円筒状ではなく、中実の円柱状に形成してもよい。
【0038】
容器部50は、横断面が円形であって上方で開口する空間(ウェル52)が形成されており、
図3に示すように、当該ウェル52内に、膜部材20、下部治具30、および上部治具40を配置して、コンタクトレンズ60等の検査を行なうための部材である。
図3では、試験器具10の中心軸を、中心軸Oとして一点鎖線で示している。試験器具10の中心軸Oは、容器部50の中心軸と一致している。中心軸Oは鉛直方向に平行であり、
図3では、鉛直方向下方を+X方向として示している。
【0039】
容器部50が有するウェル52の横断面(X方向に垂直な断面)の直径は、膜部材20、下部治具30、上部治具40、およびコンタクトレンズ60の横断面の直径よりも大きい。また、上記ウェル52の深さ(X方向の長さ)は、当該ウェル52内に膜部材20、下部治具30、上部治具40、およびコンタクトレンズ60を配置したときに、膜部材20およびコンタクトレンズ60を液15中に浸漬することができる深さであればよい。容器部50は、例えば、細胞培養用のプレートとすることができ、この場合には、細胞培養用のプレートが有する各ウェルを、上記ウェル52とすることができる。
【0040】
下部治具30、上部治具40、および容器部50は、例えば、樹脂材料やガラスにより形成することができる。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、シリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリメチルメタクリレート(PMMA)から選択される樹脂を挙げることができる。これらの部材は、培養細胞に影響し得る物質(例えば、金属イオン等の成分)が実質的に溶出しない材料により形成することが望ましい。
【0041】
図1に戻り、ステップS100で試験器具10を用意した後には、膜部材20の膜24上に細胞を接着させる(ステップS110)。具体的には、液体培地中で膜24上に細胞を播種し、その後に培養を行なうことで、膜24上に培養細胞を接着させればよい。播種する細胞に特に制限はないが、眼球上に装着して用いるコンタクトレンズ60に係る試験であるため、ヒトの眼球の細胞に近い性質を有する細胞を用いることが望ましい。例えば、SIRC(ウサギ角膜由来細胞)、HCE−T(不死化ヒト角膜上皮細胞)、あるいはヒト初代培養角膜上皮細胞を、好適に用いることができる。膜24上に細胞を播種した後の培養の工程では、用いた細胞に応じた培地を適宜選択すればよい。
【0042】
例えば細胞としてSIRC(ウサギ角膜由来細胞)を用いる場合には、培地は、10%FBS含有E−MEM培地を用いればよい。また、例えば細胞としてHCE−Tを用いる場合には、培地は、10%FBS含有D−MEM/F12培地を用いればよい。細胞に応じた培地中で細胞を膜24上に播種し、細胞に応じた適切な環境下(例えば、HCE−Tを用いる場合には、5%CO
2、37℃に設定したCO
2インキュベータ中)にて、コンフルエントになるまで細胞を培養することで、膜24上に細胞を接着させればよい。なお、膜24は、細胞の播種に先立って、水を含有する培地中に浸漬することによって膨潤させている。
【0043】
ステップS110で膜24上に細胞を接着させた後、膜部材20、下部治具30、および上部治具40を、評価対象であるコンタクトレンズ60と共に、容器部50のウェル52内の液15中に浸漬し、膜24をコンタクトレンズ60に密着させる(ステップS120)。本実施形態では、
図3に示すように、液15を入れた容器部50のウェル52内において、下部治具30、膜部材20、コンタクトレンズ60、および上部治具40を、下方よりこの順で重ねる。このとき、下部治具30は、凹部32が上方(−X方向)を向くように配置し、膜部材20は、細胞αの播種面が上方を向くように配置し、コンタクトレンズ60は、凸面が下方(+X方向)を向くように配置し、上部治具40は、凸部44が下方を向くように配置している。そして、
図3の状態から、上部治具40を下方に押し下げることにより、上部治具40の凸部44によってコンタクトレンズ60を凹面側から押圧し、その結果、コンタクトレンズ60の凸面を膜24の播種面に当接させて、膜24における播種面の裏面を、下部治具30の凹部32に当接させる。なお、
図3に示すように各部材を重ねる際には、例えば、水で膨潤させたコンタクトレンズ60は、凸部44表面に一時的に貼り付けることができるため、このように凸部44上にコンタクトレンズ60を仮留めした状態で、各部材を重ねる動作を行なえばよい。
【0044】
本実施形態の膜24は、既述したように膨潤により軟化して伸縮性を獲得しており、コンタクトレンズ60の凸面に押圧されることにより、コンタクトレンズ60の凸面に沿って変形して密着することができる。膜24は、例えば、コンタクトレンズ60の表面の80%以上を覆って密着させることが好ましく、90%以上を覆って密着させることがより好ましく、95%以上を覆って密着させることがさらに好ましい。用いる膜24の膨潤率が高いほど、コンタクトレンズ60の表面のより広い範囲にわたって膜24を密着させることが容易になる。適切な膨潤率を有する膜24を選択し、コンタクトレンズ60の凸面に対して十分に大きく膜24を形成することにより、膜24は、コンタクトレンズ60の表面全体に密着することが可能になる。
【0045】
図4は、ステップ120において、上記のように上部治具40を押し下げることにより、凸部44の凸面と、コンタクトレンズ60と、細胞αを備える膜24と、下部治具30とが重なり、細胞αがコンタクトレンズ60と接する様子を模式的に表わす断面図である。下部治具30の凹部32の表面は、コンタクトレンズ60の凸面とほぼ同じ曲率を有しており、互いにぴったりと重なる形状となっている。また、コンタクトレンズ60の凹面と上部治具40の凸部44の表面とは、ほぼ同じ曲率を有しており、互いにぴったりと重なる形状となっている。このとき、下部治具30とコンタクトレンズ60との間に挟まれる細胞αが受ける押圧力が、細胞αの生存あるいは増殖に与える影響が許容範囲となるように、細胞αが受ける押圧力を調節することが望ましい。本実施形態では、上部治具40における鍔部42から凸部44までの距離(
図3において、距離Aとして示す)を調節することにより、上部治具40の鍔部42を容器部50の上端部に係合させたときに、細胞αに加えられる押圧力を、許容範囲としている。また、本実施形態では、凹部32の直径(
図3において、長さBとして示す)を十分に大きく(例えば、コンタクトレンズ60の直径よりも2mm程度大きく)することにより、細胞αと接するコンタクトレンズ60全体を、下部治具30によって下方から支持することができる。
【0046】
図3において、液15は、例えば、用いる細胞αを培養するために適した液体培地とすることができる。また、ステップS120の後に細胞αを培養する時間が比較的短い場合には、液15は、細胞αに対して通常選択される培地よりも単純な組成の液(例えば、含有成分がより少なく、水の含有割合が大きな液)としてもよい。液15は、細胞培養用の培地の成分の少なくとも一部を含有していることが望ましい。これにより、培養細胞の状態を、より良好に維持しつつ、コンタクトレンズを用いた試験を行なうことが可能になる。液15は、細胞培養用の培地の成分として、少なくともL−グルタミンを含有することが望ましい。
【0047】
また、ステップS120において、試験器具10を構成する各部材とコンタクトレンズ60とを重ねる動作を行なった後に、ウェル52内の液を、試験目的に応じた液15に交換することとしてもよい。
【0048】
また、試験器具10を用いて、コンタクトレンズと共に使用される薬剤等(例えば、コンタクトレンズの洗浄液、消毒液、あるいは点眼薬等)の影響を試験する場合には、液15に、当該薬剤等を添加すればよい。具体的には、例えば、複数の試験器具10を用意して、各々の試験器具10が備える液15に、希釈率の異なる薬剤を等量ずつ加えればよい。そして、上記薬剤等を液15に加えた試験液中で、膜24をコンタクトレンズ60に密着させた状態で細胞αを培養し、薬剤の影響を調べればよい。
【0049】
ステップS120の後、細胞αとコンタクトレンズ60とを接触させた状態で、必要に応じて細胞αを培養し、その後、細胞毒性を評価する(ステップS130)。コンタクトレンズ60を試験する際には、予め毒性を有しないことが分かっており、評価対象のコンタクトレンズ60と同じ形状(同じ曲率、同じ厚み、同じ直径)に成形されたレンズを、ネガティブコントロールとして用いればよい。また、予め毒性を有することが分かっており、評価対象のコンタクトレンズ60と同じ形状に形成されたレンズを、ポジティブコントロールとして用いればよい。細胞毒性の評価方法は、特に限定されないが、例えば、培養後の細胞の生存率(生き残っている細胞の数の、培養前の細胞数に対する割合)あるいは増殖率(培養前に比べて増えた細胞の数の、培養前の細胞数に対する割合)を調べる方法を、挙げることができる。コンタクトレンズ60と下部治具30との間に細胞αを挟んで培養した後に、生きている細胞αの数は、例えば、MTTやWST(Water soluble Tetrazolium salts)などの各種のテトラゾリウム塩を用いて酵素活性を比色定量法により測定する方法により、求めることができる。
【0050】
以上のように構成された本実施形態の試験方法によれば、コンタクトレンズ60において、試験に用いる細胞αと接触する面積をより広く確保することができるため、コンタクトレンズを用いた安全性の試験の感度を高め、試験の判定精度を高めることができる。また、本実施形態では、コンタクトレンズ60と細胞αとが直接接触する状態で試験を行なうことができるため、コンタクトレンズ60を人体で使用する状態により近い態様で、コンタクトレンズ60を試験することができる。
【0051】
また、本実施形態の試験器具10では、コンタクトレンズ60は、コンタクトレンズ60の曲面と重なる形状の上部治具40(凸部44)によって凹面側から支持されつつ、細胞αが接着された膜24に向かって押圧される。そのため、コンタクトレンズ60を膜24に向かって押圧する際に、コンタクトレンズ60の変形を抑制することができる。その結果、コンタクトレンズ60と膜24との密着性を、より高めることができる。本実施形態の試験方法によれば、コンタクトレンズ60がソフトコンタクトレンズであってもハードコンタクトレンズであっても、同様に試験可能であるが、ソフトコンタクトレンズを用いる場合には、上記構成を採用してコンタクトレンズ60の変形を抑えることにより、膜24との密着性を高める効果を特に顕著に奏することができる。
【0052】
図13は、比較例として、セルカルチャーインサートを用いてコンタクトレンズの毒性を試験する様子を、模式的に表わす断面図である。
図13に示す試験器具910では、細胞培養用のプレート950のウェル952内にコンタクトレンズ60を配置すると共に、コンタクトレンズ60上にセルカルチャーインサート940を配置している。セルカルチャーインサート940は、筒状のハウジングの下端の開口全体を塞ぐように、貫通孔が形成された膜924が設けられている。このようなセルカルチャーインサート940は、一般に、膜924におけるハウジング内で露出する面上に細胞αを播種して、培養細胞を用いた実験に用いられる。
【0053】
従来知られるセルカルチャーインサートが備える膜は、一般に、ポリカーボネート(PC)やポリエチレンテレフタレート(PET)によって構成されている。PCやPET等の樹脂は、本実施形態の膜24を構成する望ましい樹脂として既述した樹脂に比べて吸水率が低いため、貫通孔を有する膜であっても、液中でほとんど膨潤せず、膨潤による軟化や伸縮性の獲得が起こり難い。したがって、セルカルチャーインサート940を、ウェル952内で、液15中のコンタクトレンズ60に対して上方から押し付けても、膜924は、コンタクトレンズ60の頂上部の限られた範囲としか接触しない。すなわち、本実施形態のように、コンタクトレンズ60の表面に沿って膜824を変形させて、細胞αが接着している膜をコンタクトレンズ60の表面に密着させることはできない。
【0054】
図13において、セルカルチャーインサート940を、より強くコンタクトレンズ60に押し付けて、コンタクトレンズ60との接触面積を増大させようとすると、コンタクトレンズ60が比較的柔らかい場合には、コンタクトレンズ60が変形して潰れ、膜924と密着することができなくなる。また、セルカルチャーインサート940を、より強くコンタクトレンズ60に押し付けたときに、コンタクトレンズ60が比較的硬い場合には、膜924が損傷する可能性がある。いずれの場合であっても、膨潤による軟化や伸縮性の獲得が起こり難い膜924を用いる場合には、膜924を、コンタクトレンズ60の表面の、例えば80%以上を覆って密着させることはできない。また、
図13に示す方法では、本実施形態とは異なり、細胞αを、コンタクトレンズ60に直接接触させて試験することはできない。
【0055】
以下に、本実施形態の膜24と、従来知られるセルカルチャーインサート940が備える膜924の膨潤率を調べた結果を説明する。本実施形態の膜24としては、既述したように、基板上に形成した未硬化ポリウレタン原料の層に対して水蒸気を供給しながらポリウレタン原料の層を硬化させることにより作製した、ポリウレタン多孔質膜(以下、PU膜とも呼ぶ)を用いた。なお、以下の説明では、PU膜の製造時に基板上で露出していた面を表面と呼び、基板と接していた面を裏面と呼ぶ。また、セルカルチャーインサート940が有する膜924としては、Costar トランズウェル インサート(Costarは登録商標、コーニング社製)、24ウェル用、メンブレン直径6.5mm、メンブレン孔サイズ8.0μm(以下、IS膜とも呼ぶ)を用いた。上記セルカルチャーインサート940が備えるIS膜は、ポリカーボネート製である。
【0056】
上記PU膜とIS膜の各々について、乾燥時の平均細孔径、乾燥時の空孔率、乾燥時の膜厚、および膨潤率を調べた。平均細孔径は、各々の膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEM像の特定の視野において、観察される全ての孔の最大長を測定し、測定した値の平均値を求めた。なお、上記最大長とは、孔に外接する四角形の辺の長さの最大値をいう。空孔率は、各々の膜の面をレーザ顕微鏡にて2000倍に拡大した視野において、観察される全ての細孔の面積の合計が、視野全体の面積に占める割合を算出した値である。膨潤率は、各々の膜を室温にて1時間、純水中に浸漬して、既述した(1)式により算出した面積膨潤率である。
【0057】
本実施形態に係るPU膜は、表面の平均細孔径が8.5μm、空孔率が61%であり、裏面の平均細孔径が7.0μm、空孔率が15%であった。また、PU膜の膜厚は、6.5μmであり、膨潤率は、10.5%(乾燥時の面積が113.1mm
2、純水に浸漬した後の面積が125.0mm
2)であった。
【0058】
IS膜は、いずれの面においても、平均細孔径が7.7μmであり、空孔率が15%であった。また、IS膜の膜厚は14.5μmであり、膨潤率は、−5.6%(乾燥時の面積が38.0mm
2であり、純水に浸漬した後の面積が36.0mm
2)であった。
【0059】
細胞とコンタクトレンズとを接触させて試験するために従来用いられてきたセルカルチャーインサートが備えるIS膜は、既述したように、コンタクトレンズ上で押圧しても、コンタクトレンズ表面に沿って変形させてコンタクトレンズの表面に密着させることができない。このようなIS膜は、上記のように、純水中に浸漬しても膨潤しないことが確認された。
【0060】
また、本実施形態の膜24が、試験器具10を用いることによってコンタクトレンズ60の表面全体に密着することを確認した例について、以下に説明する。ここでは、膜24として、上記膨張率の測定に用いたPU膜と同様の膜であって、直径12mmの膜を用いた。そして、細胞を備えない膜24の一方の面の全体にリコピン溶液を塗布し、塗布面とコンタクトレンズ60の凸面とが対向する向きに配置して、
図3に示す試験器具10を用いて、上記塗布面とコンタクトレンズ60とを接触させた。このような接触状態を5秒間保持した後、コンタクトレンズ60を試験器具10から外し、コンタクトレンズ60の表面を観察したところ、コンタクトレンズ60の全面がリコピンにより染色されていた。これにより、試験器具10を用いて、膜24とコンタクトレンズ60の表面全体とを密着させることが可能であることが確認された。
【0061】
B.第2実施形態:
膨潤状態の膜をコンタクトレンズの表面に沿って変形させることにより、細胞が接着している膜をコンタクトレンズの表面に密着させる際に、
図3の試験器具10とは異なる器具を用いることとしてもよい。試験器具は、コンタクトレンズの曲面に沿った互いに対応する形状の凸部または凹部をそれぞれ備える下部治具および上部治具を備えていればよい。また、試験器具は、水分を吸収して膨潤する膜と、環状に形成されて当該膜の外周を支持する支持基材と、を備える膜部材を備えていればよい。そして、膜部材が備える膜上に細胞を接着させて、当該膜を、コンタクトレンズと下部治具との間、あるいは、コンタクトレンズと上部治具との間に配置して用いることができればよい。以下に、試験器具の種々の態様について説明する。
【0062】
図5は、第2実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法で用いる試験器具110の構成を、
図3と同様にして表わす断面図である。第2実施形態において、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0063】
第2実施形態の試験器具110は、膜部材20を、コンタクトレンズ60と下部治具30との間ではなく、コンタクトレンズ60と上部治具40との間に配置する点が、第1実施形態の試験器具10とは異なっている。そして、試験器具110では、膜部材20を、第1実施形態に比べて上下反転させて用いており、上部治具40の凸部44によって膜24を押圧することにより、膜24における細胞αを備える面を、コンタクトレンズ60の凹面側に接触させている。
【0064】
このような構成としても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、第2実施形態では、細胞αを、コンタクトレンズ60の凹面側に接触させることができるため、コンタクトレンズ60を人体で使用する状態により近い態様で、コンタクトレンズ60を試験することができる。
【0065】
C.第3実施形態:
図6は、第3実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法で用いる試験器具210の構成を、
図3と同様にして表わす断面図である。第3実施形態において、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0066】
第3実施形態の試験器具210は、凹部32を有する下部治具30に代えて、凸部232を有する下部治具230を備え、凸部44を有する上部治具40に代えて、凹部244を有する上部治具240を備える。ここで、凸部232および凹部244は、コンタクトレンズ60の曲面に沿った互いに対応する形状に形成されている。そして、コンタクトレンズ60は、凸面を鉛直方向上方(−X方向)に向けつつ下部治具230上に配置している。凸部232は、コンタクトレンズ60を凹面で支持するための部位であり、「支持部」とも呼ぶ。また、膜部材20は、細胞αが接着された面をコンタクトレンズ60に対向させつつ、コンタクトレンズ60と上部治具240との間に配置されており、膜24における細胞αを備える面を、コンタクトレンズ60の凸面側に接触させて用いられる。このような構成としても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
D.第4実施形態:
図7は、第4実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法で用いる試験器具310の構成を、
図3と同様にして表わす断面図である。第4実施形態において、第3実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0068】
第4実施形態の試験器具310は、膜部材20を、コンタクトレンズ60と上部治具240との間ではなく、コンタクトレンズ60と下部治具230との間に配置する点が、第3実施形態の試験器具210とは異なっている。そして、試験器具310では、膜部材20を、第3実施形態に比べて上下反転させて用いており、下部治具230の凸部232によって膜24およびコンタクトレンズ60を下方から支持することにより、膜24における細胞αを備える面を、コンタクトレンズ60の凹面側に接触させている。
【0069】
このような構成としても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、第4実施形態では、細胞αを、コンタクトレンズ60の凹面側に接触させることができるため、コンタクトレンズ60を人体で使用する状態により近い態様で、コンタクトレンズ60を試験することができる。
【0070】
E.第5実施形態:
図8は、第5実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法で用いる試験器具410の構成を、
図3と同様にして表わす断面図である。第5実施形態において、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0071】
第5実施形態の試験器具410は、膜部材20を上下反転させて用いている点が、第1実施形態の試験器具10とは異なっている。そして、第1実施形態では、膜24が有する細孔は、細胞αとの接触面側のみで開口していてもよく、膜24を膜厚方向に貫通する貫通孔であってもよいが、第5実施形態の膜24は、貫通孔を有している点が異なっている。
【0072】
このような構成としても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。第5実施形態では、第1実施形態とは異なり、膜24上の細胞αは、膜24が有する貫通孔を介して、コンタクトレンズ60の表面と接触する。
【0073】
F.第6実施形態:
図9は、第6実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法で用いる試験器具510の構成を、
図8と同様にして表わす断面図である。第6実施形態において、第5実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0074】
第6実施形態の試験器具510は、下部治具30に代えて下部治具530を用いる点が、第5実施形態の試験器具410とは異なっている。下部治具530は、鉛直方向上方(−X方向)の端部に開口を有する円筒状に形成されている。そして、上部治具40を鉛直方向下方(+X方向)に押し下げたときには、上部治具40の凸部44と、凸部44によって凹面側から支持されるコンタクトレンズ60と、コンタクトレンズ60によって押圧されてコンタクトレンズ60の凸面に沿って変形する膜24とは、上記開口から下部治具530の内部の空間532に収納される。
【0075】
このような構成としても、第5実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、第6実施形態では、細胞αは、膜部材20に隣接する部材(下部治具530)に接することなく、当該隣接する下部治具530内の空間532において露出されている。そのため、細胞αに押圧力がかかることに起因する影響を抑えて、試験を行なうことができる。
【0076】
G.第7実施形態:
図10は、第7実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法で用いる試験器具610の構成を、
図6と同様にして表わす断面図である。第7実施形態において、第3実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0077】
第7実施形態の試験器具610は、膜部材20を上下反転させて用いている点が、第3実施形態の試験器具210とは異なっている。そして、第3実施形態では、膜24が有する細孔は、細胞αとの接触面側のみで開口していてもよく、膜24を膜厚方向に貫通する貫通孔であってもよいが、第7実施形態の膜24は、貫通孔を有している点が異なっている。
【0078】
このような構成としても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。第7実施形態では、第3実施形態とは異なり、膜24上の細胞αは、膜24が有する貫通孔を介して、コンタクトレンズ60の表面と接触する。
【0079】
H.第8実施形態:
図11は、第8実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法で用いる試験器具710の構成を、
図10と同様にして表わす断面図である。第8実施形態において、第7実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0080】
第8実施形態の試験器具710は、上部治具240に代えて上部治具740を用いる点が、第7実施形態の試験器具610とは異なっている。上部治具740は、鉛直方向下方(+X方向)の端部に開口を有する略円筒状に形成されている。そして、上部治具740を鉛直方向下方(+X方向)に押し下げたときには、下部治具230の凸部232と、凸部232によって凹面側から支持されるコンタクトレンズ60と、コンタクトレンズ60によって押圧されてコンタクトレンズ60の凸面に沿って変形する膜24とは、上記開口から上部治具740の内部の空間744に収納される。
【0081】
このような構成としても、第7実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、第8実施形態では、細胞αは、膜部材20に隣接する部材(上部治具740)に接することなく、当該隣接する上部治具740内の空間744において露出されている。そのため、細胞αに圧力がかかることに起因する影響を抑えて、試験を行なうことができる。
【0082】
I.第9実施形態:
第1〜第8実施形態では、コンタクトレンズの曲面に沿った互いに対応する形状の凸部または凹部をそれぞれ備える下部治具および上部治具を備える試験器具を用いているが、異なる態様の試験器具によって、細胞が接着している膜をコンタクトレンズの表面に密着させてもよい。以下に、一例を、第9実施形態として示す。
【0083】
図12A〜
図12Cは、第9実施形態のコンタクトレンズ等の試験方法を説明するための断面図である。第9実施形態では、試験器具810を用いており、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0084】
第9実施形態の試験器具810は、
図12Cに示すように、容器部850と、上部治具840とを備える。容器部850は、横断面が円形であって上方で開口する空間(ウェル852)が形成されており、
図12Cに示すように、当該ウェル852内に上部治具840を配置して、コンタクトレンズ60等の検査を行なうための部材である。
図12Aに示すように、容器部850では、ウェル852の底面上において、ウェル852の底面を覆うように、膜824が配置されている。膜824は、第1〜第8実施形態で用いた膜24と同様の膜である。第9実施形態では、容器部850の鉛直方向下方の端部が、膜824の外周を支持するため、容器部850は、支持基材とも呼ぶ。また、容器部850と膜824とを合わせて、膜部材とも呼ぶ。容器部850では、ウェル852の底面と膜824との間には、空隙854が設けられている。空隙854は、容器部850の側面において外部と連通する開口を有しており、この開口を介して空隙854内に空気を導入可能となっている。
【0085】
試験器具810を用いてコンタクトレンズ等の試験を行なう際には、膜824上に細胞αを播種して培養し、膜824上に細胞αを接着させる(ステップS110)。そして、空隙854内に空気を導入して空隙854を広げる。その結果、
図12Bに示すように、表面に細胞αを有する膜824は、鉛直方向上方(−X方向)に向かって凸である略半球状に膨らむ。このとき、膜824がコンタクトレンズ60に密着可能な形状に膨らむように、例えば、膜824の外周部上に、コンタクトレンズ60の直径と同等の内径を有する環状の平板を配置してもよい。膜824が上記のように半球状に膨らんだときの、空気で満たされた空隙854は、コンタクトレンズ60を凹面で支持するための部位であり、「支持部」とも呼ぶ。
【0086】
その後、ウェル852内に、コンタクトレンズ60を取り付けた上部治具840を挿入する。上部治具840は、容器部850の内径よりも小さな外径を有する略円筒状の部材であり、鉛直方向下方(+X方向)の端部に、鉛直方向上方(−X方向)に向かって凸となるようにコンタクトレンズ60を取り付け可能となっている。上部治具840へのコンタクトレンズ60の取り付けは、例えば、上部治具840に、コンタクトレンズ60の外周部が係合可能になる係合部を設けることにより行なうことができる。
図12Cの状態からさらに上部治具840を押し下げることにより、細胞αが接着された膜824とコンタクトレンズ60の凹面とを、密着させることができる。このような構成としても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
J.他の実施形態:
上記各実施形態では、コンタクトレンズ60を凹面側から支持する上部治具40の凸部44あるいは下部治具230の凸部232は、半球状の凸部としたが、異なる態様としてもよい。例えば、第1実施形態の試験器具10、第3実施形態の試験器具210、第5実施形態の試験器具410、第6実施形態の試験器具510、第7実施形態の試験器具610、第8実施形態の試験器具710のように、凸部とコンタクトレンズ60とが接する場合には、上記凸部の形状が、コンタクトレンズ60の凹面の一部とのみ接する形状であってもよい。このような構成としても、コンタクトレンズ60を膜24に押し当てることにより、コンタクトレンズ60と膜24とを密着させることが可能になる。この場合には、上記凸部におけるX方向に垂直な断面の形状を、例えば、試験器具の中心軸Oが中心を通過する十字形にするなど、コンタクトレンズ60に対してバランスよく押圧力を加えることができる形状とすることが望ましい。
【0088】
コンタクトレンズ等を試験するための試験器具では、既述したように、コンタクトレンズ60の凹面を支持部によって支持することが望ましいが、異なる構成としてもよい。例えば、コンタクトレンズ60が十分な強度を有する場合には、コンタクトレンズ60の凹面側に支持部を配置しないこととしてもよい。
【0089】
上記各実施形態では、膜部材20が備える環状の支持基材22を、シート状に形成したが、異なる構成としてもよい。例えば、支持基材22は、X方向に延びる筒状であってもよい。ただし、膨潤した膜24がコンタクトレンズ60に沿って変形する際に、当該変形が支持基材22の剛性に起因して抑えられないという観点から、環状の支持基材22は、膜24に対する拘束力がより小さくなるシート状(リング状)とすることが望ましい。
【0090】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。