(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907932
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン及び水系粘・接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20210708BHJP
C09J 193/04 20060101ALI20210708BHJP
C09J 139/00 20060101ALI20210708BHJP
C09J 157/02 20060101ALI20210708BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20210708BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J193/04
C09J139/00
C09J157/02
C09J11/08
C09J133/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-250598(P2017-250598)
(22)【出願日】2017年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-109166(P2018-109166A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-255751(P2016-255751)
(32)【優先日】2016年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 正英
(72)【発明者】
【氏名】小川 寿子
(72)【発明者】
【氏名】川端 昭寛
(72)【発明者】
【氏名】入江 俊輔
【審査官】
藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−227912(JP,A)
【文献】
米国特許第04745140(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第102010602(CN,A)
【文献】
特開2010−106259(JP,A)
【文献】
特開2015−189963(JP,A)
【文献】
特開2004−143248(JP,A)
【文献】
特開2015−178557(JP,A)
【文献】
特開2010−196077(JP,A)
【文献】
特開2005−23156(JP,A)
【文献】
特表2012−525474(JP,A)
【文献】
特開平1−074279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00− 5/10
7/00− 7/50
9/00−201/10
C08J 3/00− 3/28
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン系樹脂(a1)、石油樹脂(a2)およびテルペン系樹脂(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の被乳化物質の乳化物を含む樹脂エマルジョン(A)、並びに複素環式含窒素水溶性高分子(B)を含有し、
(A)成分100重量部に対して、(B)成分を2〜10重量部含有する水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項2】
被乳化物質の軟化点が80〜160℃である請求項1の水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項3】
(a1)成分が、ロジンエステルである請求項1又は2の水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項4】
(B)成分の重量平均分子量が3,000〜500,000である請求項1〜3のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項5】
(B)成分がポリビニルピロリドン及び/又はポリビニルイミダゾールである請求項1〜4のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョンと、アクリル系重合体エマルジョンとを含有する水系粘・接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン及び水系粘・接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境に対する配慮から、揮発性有機溶剤などの含有量が少ない粘・接着剤組成物が要求されており、例えば、自動車用途や建材用途においては、シックカー問題やシックハウスの問題から、水系エマルジョン型粘・接着剤組成物が広く用いられている。また、自動車用途においては、例えば内装部材の場合には、夏場に車内温度が上昇し、一方、建材用途においては、夏の直射日光を浴びるような環境に曝され、それぞれ高温に達する。そのため、用いる粘・接着剤組成物には、かかる高温下での耐熱保持力が要求されるが、従来の有機溶剤系粘・接着剤から水系へと変更しようとすると、その耐熱保持力が不十分になるという問題があった。
【0003】
耐熱保持力を改善する方法として、例えば、重合ロジンをアクリル酸で変性し、続いて多価アルコールでエステル化し、軟化点135〜180℃のアクリル化重合ロジンエステルを水中に分散した粘着付与樹脂エマルジョンが公知である(特許文献1参照)。係る樹脂の高軟化点化によって、耐熱保持力は向上するものの、それに伴い、分子量が急激に増加し、ベースポリマーとの相溶性が著しく低下するため、バランスの良い粘着性能を得るには不十分であった。
【0004】
さらに、ロジン系樹脂と、カルボキシル基に反応性を有する架橋剤との混合物を水中に分散した粘着付与樹脂エマルジョンが公知である(特許文献2参照)。本技術は、粘着剤製造時或いは使用時に粘着付与樹脂であるロジン系樹脂と架橋剤とを反応させることで粘着付与樹脂成分を高分子量化し、耐熱保持力を向上させる手法を提案するものであるが、酸価が5〜130、特に20を超えるロジン系樹脂を用いた場合には、粘着剤製造時或いは使用時に架橋反応させたとしても、ベースポリマーとの相溶性低下は免れず、要求される相溶性と耐熱保持力のレベルを満足させるには不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143248号公報
【特許文献2】特開2005−113016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、相溶性を低下させることなく、優れた耐熱保持力も発揮する水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の樹脂エマルジョンおよび水溶性高分子を含有する粘着付与樹脂エマルジョンが前記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明は以下の水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン及び水系粘・接着剤組成物に関する。
【0008】
1.ロジン系樹脂(a1)、石油樹脂(a2)およびテルペン系樹脂(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の被乳化物質の乳化物を含む樹脂エマルジョン(A)、並びに複素環式含窒素水溶性高分子(B)を含有する水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0009】
2.被乳化物質の軟化点が80〜160℃である前記項1の水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0010】
3.(a1)成分が、ロジンエステルである前記項1又は2の水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0011】
4.(B)成分の重量平均分子量が3,000〜500,000である前記項1〜3のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0012】
5.(B)成分がポリビニルピロリドン及び/又はポリビニルイミダゾールである前記項1〜4のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0013】
6.(A)成分100重量部に対して、(B)成分を1〜10重量部含有する前記項1〜5のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0014】
7.前記項1〜6のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物。
【0015】
8.前記項1〜6のいずれかの水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョンと、アクリル系重合体エマルジョンとを含有する水系粘・接着剤組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョンは、優れた耐熱保持力を発現し、接着力やタック等の各種粘着性能も維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン(以下、“粘着付与樹脂エマルジョン”ともいうことがある)は、ロジン系樹脂(a1)、石油樹脂(a2)およびテルペン系樹脂(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の被乳化物質の乳化物を含む樹脂エマルジョン(A)(以下、(A)成分という)、並びに複素環式含窒素水溶性高分子(B)(以下、(B)成分という)を含有するものである。
【0018】
(A)成分は、ロジン系樹脂(a1)(以下、(a1)成分という)、石油樹脂(a2)(以下、(a2)成分という)およびテルペン系樹脂(a3)(以下、(a3)成分という)からなる群より選ばれる少なくとも1種の被乳化物質の乳化物である。
【0019】
(a1)成分としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジンやフマル化ロジンなどのα,β―不飽和ジカルボン酸変性ロジン、アクリル化ロジン、水素化ロジン、不均化ロジン、またはこれらのエステル化物、ロジンフェノール樹脂等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。これらの中でも、耐熱保持力などの粘着特性の点から、ロジンエステルが好ましく、未変性ロジンエステル、重合ロジンエステル及び不飽和ジカルボン酸変性ロジンエステルから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0020】
(a2)成分としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。例えば、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等のナフサのC5留分から得られるC5系石油樹脂;インデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン等のナフサのC9留分から得られるC9系石油樹脂;前記C5留分、C9留分から得られるC5−C9共重合系石油樹脂;スチレン等を主成分として重合して得られるピュアモノマー樹脂;シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンから得られるDCPD系石油樹脂;これらの石油樹脂の水素化物等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。これらの中でも、耐熱保持力などの粘着特性の点から、C9系石油樹脂が好ましい。
【0021】
(a3)成分としては、特に限定されず、公知のテルペン類とフェノール類とを共重合させた樹脂、ポリテルペン樹脂等が挙げられる。なお、(a3)成分は水素化されたものであってもよい。これらの中でも、耐熱保持力などの粘着特性の点から、テルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0022】
以下、(a1)成分に関して、未変性ロジンエステル、重合ロジンエステル及び不飽和ジカルボン酸変性ロジンエステルについて説明する。
【0023】
未変性ロジンエステルは、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジンにアルコール類を反応させて得られる。
【0024】
未変性ロジンは、減圧留去法、水蒸気蒸留法、抽出法、再結晶法等で精製されたものを使用しても良い。
【0025】
未変性ロジンと、アルコール類との反応条件としては、未変性ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250〜280℃程度で、1〜8時間程度で行えば良い。
【0026】
アルコール類としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ステアリルアルコール等の1価のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ダイマージオール等の2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価のアルコール類、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価のアルコール類、ジペンタエリスリトールなどの6価のアルコール類等が挙げられる。これらの中でも、2つ以上の水酸基を有する多価アルコール類が好ましく、特にペンタエリスリトールが好ましい。
【0027】
(重合ロジンエステルについて)
重合ロジンエステルは、重合ロジンにアルコール類を反応させて得られる。重合ロジンとは、二量化された樹脂酸を含むロジン誘導体である。
【0028】
重合ロジンを製造する方法としては、公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、原料として、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等の未変性ロジンを硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム、四塩化チタン等の触媒を含むトルエン、キシレン等の溶媒中、温度40〜160℃程度で、1〜5時間程度反応させる方法等が挙げられる。
【0029】
重合ロジンの具体例としては、ガム系重合ロジン(例えば、商品名「重合ロジンB−140」、新洲(武平)林化有限公司製)トール油系重合ロジン(例えば、商品名「シルバタック140」、アリゾナケミカル社製)、ウッド系重合ロジン(例えば、商品名「ダイマレックス」、ハーキュレス社製)等が挙げられる。
【0030】
また、重合ロジンとしては、重合ロジンに、水素化、不均化、アクリル化などの変性や、マレイン化およびフマル化等のα,β―不飽和ジカルボン酸変性等の各種処理を施したものを使用しても良い。また各種処理も単独であっても2種以上を組み合わせても良い。
【0031】
上記重合ロジンと、アルコール類との反応条件としては、重合ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250〜280℃程度で、1〜8時間程度で行えば良い。
【0032】
重合ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は前記同様である。
【0033】
なお、重合反応とエステル化反応の順番は、上記に限定されず、エステル化反応の後に、重合反応を行ってもよい。
【0034】
(不飽和ジカルボン酸変性ロジンエステルについて)
不飽和ジカルボン酸変性ロジンエステルは、未変性ロジンをα,β−不飽和ジカルボン酸で付加反応させた変性ロジンに、更にアルコール類を反応させてエステル化させたものである。
【0035】
未変性ロジンとしては、例えば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等が挙げられる。なお、未変性ロジンとしては、減圧留去法、水蒸気蒸留法、抽出法、再結晶法等で精製されたものを使用しても良い。
【0036】
α,β−不飽和ジカルボン酸としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。具体的には、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。α,β−不飽和ジカルボン酸の使用量は、乳化性の点から、通常は、未変性ロジン100重量部に対して1〜20重量部程度、好ましくは1〜3重量部程度である。
【0037】
α,β−不飽和ジカルボン酸変性ロジンの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、加熱下で溶融させた未変性ロジンに、α,β−不飽和ジカルボン酸を加えて、温度180〜240℃程度で、1〜9時間程度で反応させることが挙げられる。また、上記反応は、密閉した反応系内に窒素等の不活性ガスを吹き込みながら行っても良い。さらに反応では、例えば、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化スズ等のルイス酸や、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のブレンステッド酸等の公知の触媒を使用してもよい。これらの触媒の使用量は、未変性ロジンに対して通常0.01〜10重量%程度である。
【0038】
得られたα,β−不飽和ジカルボン酸変性ロジンには、未変性ロジン由来の樹脂酸が含まれても良い。
【0039】
上記α,β−不飽和ジカルボン酸変性ロジンと、アルコール類との反応条件としては、特に限定されないが、例えば、加熱下で溶融させたα,β−不飽和ジカルボン酸変性ロジンに、アルコールを加えて、温度250〜280℃程度で、15〜20時間程度で反応させることが挙げられる。また、上記反応は、密閉した反応系内に窒素等の不活性ガスを吹き込みながら行っても良く、前述の触媒を使用してもよい。
【0040】
α,β−不飽和ジカルボン酸変性ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は前記同様である。
【0041】
被乳化物質の物性としては、特に限定されないが、粘着特性の点から、好ましくは80〜160℃程度である。なお、本発明において、軟化点は、環球法(JIS K 5902)により測定した値である。
【0042】
本発明の(A)成分は、特定の被乳化物質を乳化剤の存在下、乳化させてなるものであり、水系粘・接着剤用途の粘着付与樹脂に用いることができる。
【0043】
(A)成分の製造に用いる乳化剤としては、特に限定されず公知のものを使用できる。具体的には、モノマーを重合させて得られる高分子量乳化剤、低分子量アニオン性乳化剤、低分子量ノニオン性乳化剤等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、乳化性の点から、低分子量アニオン乳化剤が好ましい。
【0044】
高分子量乳化剤の製造に用いられるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー類、;(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系ビニルモノマー類、;マレイン酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸系ビニルモノマー類、;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、等のスルホン酸系ビニルモノマー類;及びこれら各種有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機塩基類の塩、;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系モノマー類;酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマー類;メチルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、炭素数6〜22のα−オレフィン、ビニルピロリドン等のその他のモノマー類等が挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせても良い。
【0045】
重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、後述する高分子量乳化剤以外の反応性乳化剤、高分子量乳化剤以外の非反応性乳化剤などを用いた乳化重合などが挙げられる。
【0046】
かくして得られた高分子量乳化剤の重量平均分子量は特に限定されないが、通常1,000〜500,000程度とすることが得られる粘着付与樹脂の粘着特性の点で好ましい。
【0047】
上記高分子量乳化剤以外の反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基などの親水基と、アルキル基、フェニル基などの疎水基を有するものであって、分子中に炭素−炭素二重結合を有するものをいう。
【0048】
上記低分子量アニオン性乳化剤としては、特に限定されず、例えば、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレントリアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0049】
低分子量ノニオン性乳化剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0050】
高分子量乳化剤以外の乳化剤は単独でも2種以上を適宜選択して使用しても良い。
【0051】
なお、乳化剤の使用量は、固形分換算で、(A)成分100重量部に対して、1〜10重量部程度、好ましくは2〜8重量部である。乳化剤の使用量を1重量部以上とすることにより、確実な乳化を行うことができ、また、10重量部以下とすることにより、粘着付与樹脂エマルジョンの高い耐水性、粘着性能を確保することができる。
【0052】
乳化方法としては、特に限定されず、高圧乳化法、転相乳化法等の公知の乳化法を採用することができる。
【0053】
上記高圧乳化法は、被乳化物質を液体状態とした上で、乳化剤と水を予備混合して、高圧乳化機を用いて微細乳化した後、必要に応じて溶剤を除去する方法である。被乳化物質を液体状態とする方法は、加熱のみでも、溶剤に溶解してから加熱しても、可塑剤等の非揮発性物質を混合して加熱してもよいが、加熱のみで行うことが好ましい。なお、溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、酢酸エチル等の被乳化物を溶解できる有機溶剤が挙げられる。
【0054】
上記転相乳化法は、被乳化物を加熱溶融した後、撹拌しながら乳化剤・水を加え、まずW/Oエマルジョンを形成させ、次いで、水の添加や温度変化等によりO/Wエマルジョンに転相させる方法である。
【0055】
このようにして得られた(A)成分の濃度は特に限定されないが、通常20〜70重量%程度となるように適宜に調整して用いる。また、得られた(A)成分の体積平均粒子径は、通常0.1〜2μm程度であり、大部分は1μm以下の粒子として均一に分散しているが、0.7μm以下とすることが、貯蔵安定性の点から好ましい。また、(A)成分は白色ないし乳白色の外観を呈し、粘度は通常10〜1,000mPa・s程度(温度25℃、濃度50重量%)である。また、pHは通常2〜10程度であるが、必要に応じて、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸;モノメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;エチルアミン、n−ブチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を適宜添加して、pHを調整しても良い。
【0056】
本発明の(B)成分は、粘着付与樹脂の粘着特性、特に耐熱保持力を向上させるために添加する成分である。
【0057】
(B)成分としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダソール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピペリジン、ポリビニルカプロラクタム等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。これらの中でも、耐熱保持力の点からポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾールが好ましく、ポリビニルピロリドンがより好ましい。
【0058】
(B)成分の重量平均分子量としては、特に限定されないが、耐熱保持力の点から、通常3,000〜1,000,000程度であり、好ましくは3,000〜500,000程度であり、より好ましくは5,000〜500,000程度である。なお、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレンオキシド換算値である。
【0059】
(B)成分の使用量としては、特に限定されないが、通常は、固形分換算で、(A)成分100重量部に対して、1〜10重量部である。1重量部を下回ると、耐熱保持力が低下しやすい。
【0060】
(A)成分及び(B)成分の混合方法は、特に限定されず、同時に混合してもよく、撹拌している(A)成分中に(B)成分を混合しても良い。
【0061】
本発明はまた上記粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物でもある。本発明の水系粘・接着剤組成物は、前記粘着付与樹脂エマルジョンおよびベースポリマーを混合することにより得ることができる。また、本発明の水系粘・接着剤組成物は水系粘・接着剤として使用することができる。
【0062】
上記ベースポリマーとして、アクリル系重合体エマルジョン、ゴム系ラテックス及び合成樹脂系エマルジョン等が挙げられ、またそれぞれを併用することもでき、さらに必要に応じて架橋剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤等を使用することもできる。また、公知の粘着付与樹脂エマルジョンを使用しても良い。これら水系粘・接着剤組成物の濃度は通常40〜70重量%程度であり、好ましくは55〜70重量%である。ベースポリマーは、少なくとも1種以上用いればよい。
【0063】
上記混合方法としては、特に限定されず、粘着付与樹脂エマルジョンをエマルジョン化して混合してもよいし、粘着付与樹脂エマルジョンをベースポリマーに添加し、高せん断回転ミキサーを使用混合してもよい。
【0064】
上記アクリル系重合体エマルジョンとしては、一般に各種のアクリル系粘・接着剤に用いられているものを使用でき、(メタ)アクリル酸エステル等のモノマーの一括仕込み重合法、モノマー逐次添加重合法、乳化モノマー逐次添加重合法、シード重合法等の公知の乳化重合法により容易に製造することができる。
【0065】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等をあげることができ、これらを単独で又は二種以上を混合して用いる。また、得られるエマルジョンに貯蔵安定性を付与するため上記(メタ)アクリル酸エステルに代えて(メタ)アクリル酸を少量使用してもよい。さらに所望により(メタ)アクリル酸エステル重合体の接着特性を損なわない程度において、たとえば、酢酸ビニル、スチレン等の共重合可能なモノマーを併用できる。なお、アクリル系重合体エマルジョンに用いられる乳化剤にはアニオン系乳化剤、部分ケン化ポリビニルアルコール等を使用でき、その使用量は重合体100重量部に対して0.1〜5重量部程度、好ましくは0.5〜3重量部程度である。
【0066】
上記アクリル系重合体エマルジョンと粘着付与樹脂エマルジョンの含有比率は、特に限定されないが、粘着付与樹脂エマルジョンによる改質の効果が十分に発現でき、かつ、過剰使用による耐熱保持力、タック等の低下を引き起こさない適当な使用範囲としては、固形分換算で、アクリル系重合体エマルジョン100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常2〜40重量部程度とするのがよい。
【0067】
また、ゴム系ラテックスとしては、水系粘・接着剤組成物に用いられる各種公知のものを使用できる。例えば天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス等が挙げられる。
【0068】
上記ゴム系ラテックスと粘着付与樹脂エマルジョンの含有比率は、特に限定されないが、粘着付与樹脂エマルジョンによる改質の効果が十分に発現でき、かつ、過剰使用による接着力、タック等の低下を引き起こさない適当な使用範囲としては、固形分換算で、ゴム系ラテックス100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常10〜150重量部程度とするのがよい。
【0069】
上記合成樹脂系エマルジョンとしては、水系接着剤組成物に用いられる各種公知のものを使用でき、例えば酢酸ビニル系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、ウレタン系エマルジョン等の合成樹脂エマルジョンが挙げられる。
【0070】
上記合成樹脂系エマルジョンと粘着付与樹脂エマルジョンの含有割合は、特に限定されないが、粘着付与樹脂エマルジョンの改質の効果が十分に発現でき、かつ、過剰使用による接着力、タック等の低下を引き起こさない適当な使用割合としては、固形分換算で、合成樹脂系エマルジョン100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常2〜40重量部程度とするのがよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は特に断りがない限り、重量基準である。
【0072】
製造例1[ベースポリマーエマルジョンの製造]
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた反応容器に、窒素ガス気流下、水43.4部及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(アニオン性乳化剤:商品名「ハイテノールLA−16」,第一工業製薬(株)製)0.92部からなる水溶液を仕込み、70℃に昇温した。次いで、アクリル酸ブチル90部、アクリル酸2−エチルヘキシル7部及びアクリル酸3部からなる混合物と、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.24部、重曹(pH調整剤)0.11部及び水8.83部からなる開始剤水溶液の1/10量を反応容器に添加し、窒素ガス気流下にて70℃、30分間予備重合反応を行った。次いで、上記混合物と上記開始剤水溶液の残りの9/10量を2時間にわたり反応容器に添加して乳化重合を行い、その後70℃で1時間保持して重合反応を完結させた。こうして得られたアクリル系重合体エマルジョンを室温まで冷却した後100メッシュ金網を用いてろ過し、固形分47.8%のアクリル系重合体エマルジョンを得た。
【0073】
製造例2−1[α,β−不飽和ジカルボン酸変性ロジンエステル]
撹拌装置、コンデンサー、温度計および窒素導入管・水蒸気導入管を備えた反応容器に、ガムロジン(酸価160mgKOH/g、軟化点70℃)100部、フマル酸1部を添加し200℃にて2時間反応させた後、ペンタエリスリトール13部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に280℃で5時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、減圧下に水分等を除去し、軟化点100℃のα,β−不飽和ジカルボン酸変性ロジンエステル(以下、“フマル化ロジンエステル”という)を得た。
【0074】
製造例2−2[ガムロジンエステルの製造]
製造例2−1と同様の反応容器に、ガムロジン(製造例2−1と同一のもの)100部、グリセリン12部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で1時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で6時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、減圧下に水分等を除去し、軟化点80℃のガムロジンエステルを得た。
【0075】
製造例2−3[重合ロジンエステルの製造]
製造例2−1と同様の反応容器に、重合ロジン100部(酸価145mgKOH/g、軟化点140℃)、ペンタエリスリトール14部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、減圧下に水分等を除去し、軟化点160℃の重合ロジンエステルを得た。
【0076】
製造例3−1[樹脂エマルジョンの調製]
製造例2−1のフマル化ロジンエステル100部を180℃にて約1時間溶融した後、150℃まで冷却した。次いでアニオン性乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を固形分換算で3部添加し、加圧条件下で120℃、60分混練りを行った。更に水105部を添加し10分間撹拌することにより、固形分50%の樹脂エマルジョン(A−1)を得た。
【0077】
製造例3−2[樹脂エマルジョンの調製]
製造例3−1において、フマル化ロジンエステルを製造例2−2のガムロジンエステルに変更した他は、同様に行い、樹脂エマルジョン(A−2)を得た。
【0078】
製造例3−3[樹脂エマルジョンの調製]
製造例2−3の重合ロジンエステル100部をトルエン70部に80℃にて3時間かけて溶解させた後、アニオン性乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を固形分換算で3部および水140部を添加し、1時間撹拌した。次いで、高圧乳化機(マントンガウリン社製)により30MPaの圧力で高圧乳化して乳化物を得た。次いで、70℃、2.93×10−2MPaの条件下に6時間減圧蒸留を行い、固形分50%の樹脂エマルジョン(A−3)を得た。
【0079】
製造例3−4[樹脂エマルジョンの調製]
製造例3−3において、重合ロジンエステルをC9石油樹脂(商品名「日石ネオポリマー120」、JXエネルギー(株)製、軟化点120℃)に変更した他は同様に行い、樹脂エマルジョン(A−4)を得た。
【0080】
製造例3−5[樹脂エマルジョンの調製]
製造例3−3において、重合ロジンエステルをテルペンフェノール樹脂(商品名「Dertophene T−115」、DRT製、軟化点125℃)に変更した他は同様に行い、樹脂エマルジョン(A−5)を得た。
【0081】
実施例1
樹脂エマルジョン(A−1)100部(固形分換算)、(B)成分として、ポリビニルピロリドン(商品名「ポリビニルピロリドン K−30、キシダ化学(株)製、重量平均分子量:22,000)を3部(固形分換算)配合し、粘着付与樹脂エマルジョン(C−1)を得た。
【0082】
実施例2〜11、比較例1〜6
表1に示す組成で粘着付与樹脂エマルジョン(C−2)〜(C−17)を得た。
【0083】
【表1】
※各成分の使用量については固形分換算で示す。
【0084】
<水溶性高分子について>
・ポリビニルピロリドン 重量平均分子量:6,000(商品名「ポリビニルピロリドン K−15」、キシダ化学(株)製)
・ポリビニルピロリドン 重量平均分子量:22,000(商品名「ポリビニルピロリドン K−30」、キシダ化学(株)製)
・ポリビニルピロリドン 重量平均分子量:370,000(商品名「ポリビニルピロリドン K−90」、キシダ化学(株)製)
・ポリビニルイミダゾール 重量平均分子量:15,000:(商品名「マルカリンカーN PVI」、丸善石油化学(株)製)
・ポリビニルアルコール 重量平均分子量:30,000(商品名「クラレポバール PVA110」、(株)クラレ製)
【0085】
(重量平均分子量)
使用した水溶性高分子の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製、商品名「HLC−8320」、カラム:東ソー(株)製、商品名「TSK−GEL GMPWXL」および「TSK−GEL G2500PWXL」を連結)により測定し、ポリエチレンオキシド換算により求めた。
【0086】
評価例1〜11、比較評価例1〜6
製造例1にて合成したアクリル樹脂エマルジョン90部(固形分換算)と粘着付与樹脂エマルジョン(C−1)10部(固形分換算)を混合し、水系粘・接着剤組成物を得た。粘着付与樹脂エマルジョン(C−2)〜(C−17)でも同様に行い、水系粘・接着剤組成物を得た。
【0087】
評価例1の水系粘・接着剤組成物をポリエステルフィルム(商品名「S−100」、三菱化学ポリエステルフィルム(株)製)厚み:38μm)に、サイコロ型アプリケーター(大佑機材(株)製)にて乾燥膜厚が35μm程度となるように塗布し、次いで105℃の循風乾燥機で5分間乾燥させて試料テープを作成した。評価例2〜11、比較評価例1〜6の水系粘・接着剤組成物についても、同様に塗布し、試料テープをそれぞれ作成した。
【0088】
(耐熱保持力)
試料テープ(25mm×25mm)をステンレス板に重ね、60℃で0.7kgの荷重を試料フィルムに加え、試料フィルムが落下するまでの時間(h)を測定した。
【0089】
(接着力)
試料テープ(長さ150mm×幅25mm)をポリエチレン板に重ね、重量2kgのロールを1往復して貼り付け、180゜剥離時の接着力(g/25mm)を測定した。なお、試験条件は温度が23℃、剥離速度が300mm/分である。
【0090】
(プローブタック)
NSプローブタックテスター(ニチバン(株)製))を用いて、プローブAA#40研磨、荷重100g/cm
2、ドエルタイム1秒で行い、試料テープのプローブタック(g/25mmφ)を測定した。
【0091】
(相溶性)
分光光度計((株)日立製作所製、商品名「U−3210形自記分光光度計」)を用い、試料テープに500nmの光を照射し、透過率を測定した。得られた透過率より相溶性を以下のように評価した。
○:透過率70%以上
△:透過率50%以上70%未満
×:透過率50%未満
【0092】
【表2】