(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を用いて、本発明の車両用内装部品の製造方法を具体的に説明する。なお、実施の形態は、本発明を具体的に説明するための1つの形態を示すものであり、本発明が以下の実施の形態のみに限定されるものではない。
【0011】
[実施形態1]
本形態の車両用内装部品の製造方法は、まず、表面摩擦係数が1.0以下のフィルムを成形型のキャビティ面に密着させる。続いて、この状態で、溶融した樹脂をキャビティに充填し、60MPa以下で保圧しつつ樹脂を冷却・固化させて成形する。本形態の製造方法によると、樹脂の表面にフィルムが一体に形成された内装部品を製造できる。
【0012】
本形態の製造方法では、まず、表面摩擦係数が1.0以下のフィルムを成形型のキャビティ面に密着させる。フィルムの表面は、成形型のキャビティ面に密着する。フィルムの表面の表面摩擦係数は、上述の方法で測定できる。フィルムの表面摩擦係数が1.0以下となることで、フィルムの表面が成形型のキャビティ面に密着した状態で、キャビティ面に沿ってフィルムが変位(移動)し易くなる。フィルムの表面摩擦係数は、小さいほど好ましい。フィルムの表面摩擦係数は、0.78以下であることがより好ましい。
【0013】
フィルムは、その表面粗さ(Rz)が0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。表面粗さ(Rz)は、JIS B 0601:2001に規定され、表面粗さ測定器を用いて測定できる。表面粗さ(Rz)は、フィルム表面の微細な凹凸の最大高さを示すものであり、表面摩擦係数とも相関性を有する。表面粗さ(Rz)が所定の値以上となることで、より確実に表面摩擦係数が所定の範囲となる。フィルムの表面粗さ(Rz)は、1.9μm以上であることがより好ましく、2.5μm以上であることがさらに好ましい。
本形態において、フィルムは、表面摩擦係数及び表面粗さ(Rz)が調節された表面がキャビティ面に密着する。フィルムの裏面における表面摩擦係数や表面粗さ(Rz)は限定されない。
フィルムは、表面摩擦係数が所定の値以下であること以外は限定されない。例えば、フィルムの厚さは限定されない。
フィルムは、表面摩擦係数が所定の値以下のものであれば、従来の車両用内装部品で表面を形成するために用いられているフィルムを用いてもよい。
【0014】
フィルムは、成形型のキャビティ面に密着可能でありかつ成形性を有する熱可塑性樹脂からなるものを用いることができる。
【0015】
フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、ポリビニルブチラール等のビニル重合体、ポリスチレン、アクリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂、酢酸セルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体、ポリアリレート等のポリエステル系樹脂、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム等のゴム系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂、ウレタン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート等の樹脂を挙げることができる。フィルムは、これらの樹脂の単層体や複数層が積層してなる積層体を用いることができる。
【0016】
フィルムの表面摩擦係数及び表面粗さ(Rz)は、樹脂(すなわち、熱可塑性樹脂)に無機粒子を含有させることで調節できる。樹脂に無機粒子を含有させると、樹脂(熱可塑性樹脂)の表面に微細な凹凸を形成することができる。無機粒子の含有量を調節することで表面の微細な凹凸を制御することができ、フィルムの表面摩擦係数及び表面粗さ(Rz)を所定の値以下に調節できる。含有させる無機粒子の平均粒子径(D50)や含有割合等は、目的とする表面摩擦係数や表面粗さ(Rz)により適宜選択できる。無機粒子は、その材料が限定されず、従来の樹脂フィルムで無機フィラーとして使用されている粒子を用いることができる。無機粒子は、シリカ粒子、アルミナ粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子等の粒子を挙げることができる。無機粒子は、シリカ粒子であることが好ましい。
【0017】
フィルムは、表面摩擦係数及び表面粗さ(Rz)を調節する加工を施すことで、表面摩擦係数を所定の値以下としてもよい。表面摩擦係数及び表面粗さ(Rz)を調節する加工としては、フィルム表面に加工治具を押しつけて凹凸を形成する加工や、フィルム表面にブラスト処理を施す加工を挙げることができる。加工治具は、例えば、凹凸面を有する表面成形用の型を挙げることができる。
本形態では、所定の表面摩擦係数及び表面粗さ(Rz)を有する市販のフィルムが用いられた。この市販のフィルムは、無機粒子を含有した熱可塑性樹脂よりなる。
【0018】
フィルムは、内装部品の表面を形成するものであることから、装飾処理が施されていてもよい。
フィルムに施される装飾処理としては、顔料や染料の練込によるフィルム自身の着色、絵柄や金属薄膜層からなる装飾層の形成、凹凸模様形成等の処理を挙げることができる。また、装飾効果として透明塗装感を成形品に付与する場合には、無色又は有色の透明樹脂フィルム単体をフィルムとして用いてもよい。
【0019】
顔料等のフィルムへの練込による装飾としては、着色透明若しくは着色不透明、又は無色不透明等とする装飾処理を挙げることができる。顔料としては、チタン白、カーボンブラック、群青、ベンガラ、黄鉛等の無機顔料、キナクリドン、イソインドリノン、フタロシアニンブルー、アニリンブラック等の有機顔料を挙げることができる。また、顔料に替えて染料を用いてもよい。さらに、必要に応じて上記した無機粒子(すなわち、表面摩擦係数の調節に用いる無機粒子)を適宜添加してもよい。
【0020】
絵柄印刷による装飾層形成の印刷法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷、シルクスクリーン印刷等の通常の印刷手段を挙げることができる。さらに、描絵でもよい。絵柄の模様は、例えば、木目模様、石目模様、文字や図形等の幾何学模様等と任意に選択できる。なお、絵柄印刷による装飾層(インク層)は、フィルム表面側や裏面側に形成する形態や、あるいは2層のフィルムの間に形成する形態等を適用できる。絵柄印刷に用いるインキは、樹脂バインダに顔料ないしは染料などの着色剤を添加して形成することができる。樹脂バインダとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等公知のものを用いることができる。また、顔料や染料としては、フィルムへの練り込み用として列挙した、公知のものが用いられる。
【0021】
装飾層を金属薄膜層として形成するには、アルミニウム、クロム等の金属を真空蒸着する等の処理を行えばよい。金属薄膜層は、フィルムの全面に形成してもよく、前記したような模様が得られるようにパターン状に形成してもよい。パターン状に形成するには、金属薄膜層不要部分に水溶性インクにより除去層を所望のパターンで設けてから、フィルムの全面に金属薄膜層を蒸着形成し、その後水洗して上記除去層とともにその直上の金属薄膜層を除去する等の公知の手法を用いることができる。
【0022】
フィルムは、その裏面に、成形品との接着性向上のため、コロナ放電処理、公知の各種プライマー塗工等の易接着処理が施されたものや、感熱型の接着剤層が形成されたものであってもよい。この接着剤層の形成には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アイオノマー等の樹脂を用いることができる。具体的には、エチルセルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体、ポリスチレン、ポリα−メチルスレチン等のスチレン樹脂又はスチレン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルブチラール等のビニル重合体、ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、重合ロジン等のロジンエステル樹脂、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム等のゴム系樹脂、クマロン樹脂、ビニルトルエン樹脂、ポリアミド、ポリ塩素化オレフィン等の、天然又は合成樹脂、各種アイオノマー等の1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0023】
フィルムが密着する成形型は、所定の形状(すなわち、内装部品の形状)のキャビティを有する。そして、成形型の例えば内装部品の意匠面を成形するキャビティ面(以下、適宜意匠面成形用キャビティ面と称する)にフィルム(フィルムの表面)が密着される。成形型は、従来の金属製(具体的には、鋼製)の成形型を用いることができる。成形型は、複数部に分割可能に形成されていてもよい。
【0024】
本形態において、成形型は、意匠面成形用キャビティ面が鏡面をなしている。意匠面成形用キャビティ面が鏡面をなすとは、意匠面成形用キャビティ面が鏡面研磨加工を施されて鏡のように平滑となっている状態であることを示す。すなわち、成形型は、意匠面成形用キャビティ面に鏡面研磨加工を施す加工が施されている。意匠面成形用キャビティ面は、例えば、表面摩擦係数が1.0以上、表面粗さ(Rz)が0.05μm以下である。
【0025】
フィルムを成形型の意匠面成形用キャビティ面に密着させる方法は限定されない。従来と同様の方法を用いることができる。たとえば、予め意匠面成形用キャビティ面に密着可能な形状に成形しておき、意匠面成形用キャビティ面に配することで密着させる方法や、フィルムを加熱軟化さておき、冷却固化前に成形型へセットし、 真空圧や圧縮空気で最終形状に成形して意匠面成形用キャビティ面に配することで密着させる方法を挙げることができる。フィルムを成形型の意匠面成形用キャビティ面に密着させる方法では、必要に応じて、トリミングする工程を施す。
【0026】
フィルムの表面を意匠面成形用キャビティ面に密着させた後、成形型を型締めする。型締め後の成形型には、フィルムの裏面側にキャビティが形成される。
そして、溶融した樹脂をこのキャビティに充填し、60MPa以下で保圧して成形する。すなわち、フィルムを成形型の意匠面成形用キャビティ面に密着させた状態で、樹脂をキャビティに充填して成形する(射出成形する)。そうすると、フィルムと樹脂とが一体をなす成形品(すなわち、車両用内装部品)が製造できる。
【0027】
キャビティに充填される樹脂は、その具体的な種類が限定されない。製造される内装部品に要求される物性やコスト等によって適宜選択できる。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂や、これらの熱可塑性樹脂に別の樹脂を混合してなるポリマーアロイ等の樹脂を挙げることができる。ポリマーアロイとしては、ABS樹脂とポリカーボネート(PC)とが混合したPC/ABSアロイ、ABS樹脂とポリブチレンテレフタレート(PBT)とが混合したPBT/ABSアロイ、ABS樹脂とポリアミド(PA)とが混合したPA/ABSアロイ、ポリスチレン(PS)とポリカーボネート(PC)とが混合したPC/PSアロイ等を挙げることができる。また、ポリウレタン(PUR)、ポリスチレン(PS)、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))、フェノール樹脂(PF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ユリア樹脂(UF)、シリコーン(SI)、ポリイミド(PI)、メラミン樹脂(MF)などの樹脂あるいはポリマーアロイを発泡した発泡樹脂を挙げることができる。
樹脂は、キャビティに充填される。キャビティへの樹脂の充填方法は限定されず、樹脂をキャビティに射出して充填することができる。樹脂の充填(射出)は、樹脂が加熱溶融した状態で行われる。
【0028】
樹脂は、フィルムの軟化温度以上の温度でキャビティに充填されることが好ましい。樹脂がフィルムの軟化温度以上の温度でキャビティに充填して樹脂の熱がフィルムの表面側に伝達しても、フィルムの表面が密着する意匠面成形用キャビティ面に伝熱する。すなわち、成形型に伝熱して放熱するため、フィルムの表面側(車両用内装部品の意匠面となる表面側)が溶融することはなくなり、フィルムの形態が維持される。成形型は、フィルムの軟化温度未満の温度であることが好ましい。そして、フィルムの裏面側のみが部分的に溶融する。具体的には、フィルムの軟化温度以上の温度で充填された樹脂は、フィルムの裏面に接触したら、フィルムの裏面を部分的に軟化(あるいは溶融)する。そして、充填時(射出時)の圧力により樹脂とフィルムの裏面とが絡み合った界面を形成し、この状態で固化(硬化)して樹脂とフィルムが強固に接合する。あるいは、フィルムと樹脂とが反応を生じる。この結果、フィルムと樹脂とが強固に接合した車両用内装部品を製造できる。フィルムと樹脂とが強固に接合しているため、車両用内装部品として使用したときに、乗員が車両用内装部品の表面を押してへこませたとしても、両者の接合界面での剥離が生じない。
【0029】
樹脂の温度は、例えば、フィルムがPMMAよりなり、樹脂がABS系樹脂(具体的には、ABSやPC/ABSアロイ)よりなる場合、フィルムの軟化温度は約90℃であり、樹脂の温度(すなわち、成形温度、射出時の温度)は240〜260℃とすることができる。樹脂の温度は、射出成形機のシリンダーの設定温度とすることができる。樹脂を射出成形で充填するときの他の射出条件(例えば、射出速度、射出圧力等の条件)は、限定されるものではなく、適宜、選択できる。
【0030】
樹脂がキャビティに充填された後、60MPa以下で保圧される。保圧は、キャビティの全体に樹脂が充填された後に、ゲートから樹脂が逆流しないように一定の圧力でゲートシール(ゲートが固化すること)するまでの間に加圧している圧力を示す。保圧が所定の圧力以下となると、キャビティに充填された樹脂に力が加わらず、内装部品が軟質樹脂となる。すなわち、本形態の製造方法で製造される車両用内装部品が柔軟性を持つものとなり、触感に優れたものとなる。特に、樹脂が発泡樹脂である場合は、保圧が所定の圧力以下となることで、樹脂が発泡して体積膨張することが規制されなくなり、所望の気孔率をもつ発泡樹脂を製造できる。すなわち、より触感に優れた車両用内装部品を製造することができる。
【0031】
樹脂がキャビティに充填された後に行われる保圧の圧力は、例えば、樹脂がABS樹脂である場合には60MPa以下であることが好ましい。樹脂がPPである場合には60MPa以下であることが好ましい。
キャビティに充填した樹脂が十分に硬化(固化)したら、成形品を成形型から取り出す。
以上により、本形態の製造方法で、車両用内装部品が製造できる。
【0032】
(本形態の効果)
本形態の製造方法は、所定の値以下の表面摩擦係数をもつフィルムの表面を成形型の意匠面成形用キャビティ面に密着させる。意匠面成形用キャビティ面は、鏡面をなしている。そして、この状態で、樹脂をキャビティに充填し、所定の条件で保圧して成形する。
【0033】
本形態の製造方法では、フィルムの表面と意匠面成形用キャビティ面とが密着し、両面の一方であるフィルムの表面が所定の値以下の表面摩擦係数を有するものとなっている。両面の他方である意匠面成形用キャビティ面が鏡面をなしている。この構成によると、フィルム(すなわち、車両用内装部品の表面)にへこみが生じない車両用内装部品を製造することができる。
【0034】
具体的には、フィルムは、その表面摩擦係数が所定の値以下となっている。表面摩擦係数が小さいため、フィルムの表面が意匠面成形用キャビティ面に密着した状態でも、フィルムが意匠面成形用キャビティ面に沿って動くことができる。そうすると、キャビティに充填した樹脂の熱でフィルムが熱膨張したときに、フィルムが意匠面成形用キャビティ面に沿って伸びること(滑るように伸びること)ができる。この結果、熱膨張時にフィルムのへこみ(座屈)が発生しない。そして、キャビティに充填した樹脂が硬化(固化)して収縮しても、同様にフィルムが縮む(意匠面成形用キャビティ面に沿って動く)ことで、フィルムにへこみが生じない。
【0035】
そして、本形態では意匠面成形用キャビティ面が鏡面をなしている(すなわち、平滑な表面をなしている)ことから、上記したフィルムが意匠面成形用キャビティ面に沿って伸びる(滑るように伸びる)ときに、フィルムの表面と意匠面成形用キャビティ面との間の摩擦力が小さい。摩擦力が小さいことから、フィルムが伸びた場合に、その伸びる力が小さな摩擦力より大きくなる(摩擦力が伸びを抑えることができない)。このため、意匠面成形用キャビティ面に沿ったフィルムの動きがより確実に生じることとなり、フィルムのへこみの発生がより確実に抑えられる。
さらに、フィルムの表面粗さ(Rz)が所定の範囲以上となると、フィルムが意匠面成形用キャビティ面に沿って伸びる(滑るように伸びる)ときに、フィルムの表面と意匠面成形用キャビティ面との間の摩擦力がより小さくなる。このことは、キャビティに充填した樹脂が冷却・硬化して体積収縮を生じたときにも生じる。すなわち、加熱・冷却によりフィルムの伸び・縮みを生じたときに、フィルムの変形がより規制されなくなり、フィルムのへこみの発生がより確実に抑えられる。
【0036】
対して、フィルムの表面摩擦係数が所定の値を超えて大きくなると、樹脂を充填した場合にフィルムにへこみが発生する。すなわち、成形不良が発生する。
具体的には、フィルムの表面の表面摩擦係数が大きい場合、フィルムの表面と意匠面成形用キャビティ面との間には、大きな摩擦力が発生する。そして、両表面の間に発生する摩擦力によりフィルムが意匠面成形用キャビティ面に沿って動くことが規制される。そうすると、キャビティに充填した樹脂の熱でフィルムが熱膨張したときに、フィルムが意匠面成形用キャビティ面に沿って伸びることが規制され、部分的にフィルムが意匠面成形用キャビティ面から離反するように変形する。すなわち、フィルムにへこみ(フィルムの座屈)が発生する。
【0037】
より具体的には、フィルムが意匠面成形用キャビティ面に密着した状態では、摩擦力により界面の複数箇所で固定された状態となる。この状態でフィルムが熱膨張すると、固定された部分の間に位置するフィルムは、その伸びを吸収することができず、意匠面成形用キャビティ面から離反する方向に湾曲する。すなわち、フィルムに変形(へこみ、座屈)が発生する。
【0038】
そして、熱膨張時にフィルムにへこみが発生している場合、キャビティに充填した樹脂が硬化(固化)して収縮すると、フィルムに生じたへこみが更に成長する。この結果、フィルムの表面摩擦係数が所定の値を超えて大きい従来の製造方法では、フィルム(すなわち、表面)にへこみが生じていた。
以上に説明したように、本形態の製造方法によると、フィルム(すなわち、表面)にへこみが生じない車両用内装部品を製造することができる。
この効果は、樹脂をキャビティに充填した後の保圧の圧力が低い場合、特に発泡樹脂を充填した場合により発揮する。
【0039】
なお、本形態の製造方法では、キャビティに充填した樹脂の熱がフィルムを介して成形型にすばやく伝導し、放熱される。この放熱により、フィルムが樹脂の高熱にさらされる時間が短く、フィルムが全体で軟化しない。このため、製造される車両用内装部品は、フィルムの表面の状態(表面摩擦係数が所定の値以下の状態)が十分に維持される。
【0040】
[実施形態1の変形形態]
実施形態1ではフィルムの表面摩擦係数が所定の値より小さく、かつ成形型の意匠面成形用キャビティ面が鏡面をなした形態を示しているが、逆の形態であっても良い。
【0041】
すなわち、成形型の意匠面成形用キャビティ面の表面摩擦係数が所定の値以下であり、かつフィルムの表面が鏡面をなした形態であってもよい。この構成であっても、熱膨張時にフィルムが意匠面成形用キャビティ面に沿って伸び易くなっており、実施形態1と同様な効果を発揮する。
【0042】
[実施形態2]
本形態は、成形型の構成が異なること以外は、実施形態1と同様な製造方法である。
本形態における成形型3は、
図2に断面図を示すように、金属よりなる型本体部30と、型本体部30の意匠面成形用キャビティ面側に設けられたガラスよりなる表面部31と、を有する。
型本体部30は、実施形態1の成形型と同様の金属よりなる。
【0043】
表面部31は、型本体部30の表面に設けられた板状のガラスよりなる。表面部31の表面31a(フィルム4が密着する表面、意匠面成形用キャビティ面に相当)は、鏡面をなしている。表面部31を形成するガラスは、型本体部30を形成する金属(具体的には、鋼)よりも熱伝導率が低い。例えば、鋼の熱伝導率は403W/(m・K)、ガラスの熱伝導率は0.65W/(m・K)である。
本形態では、型本体部30と表面部31は、全面で密着した状態で一体となるように形成されている。型本体部30と表面部31は、接着により一体化している。
【0044】
(本形態の効果)
本形態によると、実施形態1と同様に、フィルム4の表面4a(すなわち、車両用内装部品の表面)にへこみが生じない車両用内装部品を製造することができる。
さらに、本形態により製造される車両用内装部品は、フィルム4の表面4aが表面部31の表面31aに対応した平滑な表面となっている。
【0045】
具体的には、本形態では、成形型3の意匠面成形用キャビティ面31aを形成する表面部31が、熱伝導率の小さい(すなわち、熱の伝わりにくい)ガラスにより形成されている。この構成によると、樹脂5をキャビティに充填した場合、樹脂5が硬化(固化)するまでの時間が実施形態1の場合と比較して長くなる。より具体的には、キャビティに充填した樹脂5の熱は、フィルム4を介して成形型3に伝導する。本形態では、成形型3の表面部31の熱伝導率が低いため、放熱されにくくなっている。そうすると、フィルム4が樹脂5の高熱にさらされる時間が長くなり、フィルム4が全体で軟化する。そして、
図3に示すように、キャビティに充填した樹脂5の圧力により、フィルム4は意匠面成形用キャビティ面である表面31aに押しつけられている。この結果、フィルム4の表面4aが意匠面成形用キャビティ面である表面31aの鏡面に対応した平滑な表面となる。
【0046】
[実施形態2の変形形態]
実施形態2では、表面部をガラスにより形成しているが、ガラスに限定されない。例えば、セラミックス皮膜(熱伝導率:150W/(m・K))等の無機材料により表面部31を形成しても良い。表面部31は、ガラスやこれらの無機材料の単層体だけでなく、複数層が積層してなる積層体を用いてもよい。
【0047】
[その他の変形形態]
上記の各形態では、表面摩擦係数が所定の値のフィルムを成形型のキャビティ面に密着させた状態で配しているが、この構成に限定されない。
例えば、フィルムを成形型のキャビティ面に密着させた状態で配し、フィルムとキャビティ面との間を減圧して密着させてもよい。具体的には、フィルムをキャビティ面に密着させ、フィルムとキャビティ面の間の空気を吸引(真空引き)して、よりフィルムを密着させる方法や、フィルムとキャビティ面の間の空気を、キャビティ面に開口した吸引口を介して吸引(真空引き)してフィルムをより密着させる方法を挙げることができる。
【0048】
この場合、フィルムとキャビティ面の間の空気を吸引し続けてもよいし、溶融した樹脂をキャビティに充填する時に吸引を停止してもよい。
この構成によると、フィルムと成形型(キャビティ面)との間のエアかみ込みによるフィルムへこみを抑えることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
[実施例1]
本例は、実施形態1を具体的に実施した例である。
フィルムは、アクリル樹脂よりなり、表面摩擦係数:0.60、表面粗さ(Rz):5.1μm、厚さ:0.125mm、軟化温度:90℃の樹脂フィルムを用いた。
成形型は、高炭素鋼より形成されている。成形型は、意匠面成形用キャビティ面が鏡面をなしている。すなわち、意匠面成形用キャビティ面は、平滑な表面となっている。
樹脂は、ABS樹脂を用いた。この樹脂は、射出時の温度(設定温度):240℃、射出速度:70mm/s、充填後の保圧の圧力:51.6MPaの条件でキャビティに充填された。
【0050】
[比較例1]
本例は、フィルムの表面摩擦係数が異なること以外は実施例1と同様な例である。
本例のフィルムは、表面摩擦係数が7.99、表面粗さ(Rz)が0.05μmである。
【0051】
[比較例2]
本例は、フィルムの表面摩擦係数が異なること以外は実施例1と同様な例である。
本例のフィルムは、表面摩擦係数が2.0、表面粗さ(Rz)が2.4μmである。
[評価]
実施例1及び比較例1〜2において製造された車両用内装部品の表面(フィルム表面)を確認した。評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、実施例1で製造された車両用内装部品では、表面にへこみは見られなかった。一方、比較例1〜2で製造された車両用内装部品では、表面にへこみが確認された。すなわち、表面摩擦係数が所定の値より小さい実施例1では、フィルム(すなわち、表面)にへこみが生じない車両用内装部品を製造できた。対して、表面摩擦係数が所定の値より大きい比較例1〜2では、フィルム(すなわち、表面)にへこみが生じた。このことから、フィルムの表面摩擦係数が2.00以上となるとフィルム(内装部品の表面)にへこみが発生し、所定の値(0.60)以下となるとフィルム(内装部品の表面)にへこみの生じない車両用内装部品を製造することができることがわかった。
【0054】
[実施例2]
本例は、実施形態2を具体的に実施した例である。フィルム及び樹脂には、実施例1と同様なものを用いた。
成形型3には、高炭素鋼より形成された型本体部30と、ガラスよりなる表面部31と、を有するものが用いられた。表面部31のガラスは、型本体部30の表面を覆うように形成された均一な厚さの板状(具体的には、2.0mm)のシリカガラスよりなる。表面部31のガラスの表面31a(意匠面成形用キャビティ面)は、鏡面をなしている。すなわち、意匠面成形用キャビティ面は、平滑な表面となっている。
成形型3は、型本体部30の熱伝導率が37W/(m・K)であり、表面部31の熱伝導率が0.65W/(m・K)である。
樹脂は、ABS樹脂を用いた。この樹脂は、射出温度:240℃、射出速度:70mm/s、充填後の保圧の圧力:15.5MPaの条件でキャビティに充填された。
【0055】
[評価]
実施例1〜2において製造された車両用内装部品の表面(フィルム表面)を観察した。また、表面粗さ(Rz)を測定した。評価結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、実施例1〜2で製造された車両用内装部品では、いずれの例においても表面にへこみは見られなかった。
【0058】
さらに、実施例1の内装部品の表面は、フィルムの表面の微細な凹凸が残っているマット状となっていることが確認できた。実施例1の内装部品の表面粗さ(Rz)を測定したところ、Rz3.3μmであった。このように、実施例1にて製造された内装部品は、表面に微細な凹凸が残存したマット状(光沢を低下させた、つや消しされた状態)の表面を備えている。
【0059】
一方、実施例2の内装部品の表面は、フィルムの表面の微細な凹凸が消滅した平滑面をなしていることが確認できた。実施例2の内装部品の表面粗さ(Rz)を測定したところ、Rz0.05μmであった。このように、実施例2にて製造された内装部品は、平滑な表面(表面が光沢を有する状態)となっている。
このように、実施例2の製造方法によると、さらに平滑な表面の車両用内装部品を製造することができる。