(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
RF電池において、電力系統の停電時に自力で運転を再開できることが望まれている。
【0009】
RF電池は、隔膜を挟んで正極電極と負極電極とが対向するように配置されたセル内に電解液をポンプにより循環させて充放電を行う。一般に、RF電池では、外部の電力系統からポンプに電力を供給してポンプを駆動している。そのため、電力系統が停電すると、ポンプが停止して電解液の流通が停止することから、RF電池から電力系統に放電したくても放電することができない。そこで、電力系統の停電時にRF電池の運転を自力で再開できるようにするため、セル(又はセルスタック)からポンプの起動に必要な電力を供給することが求められている。
【0010】
RF電池では、電力系統の停電時にポンプが停止しても、セル内に電解液が残存することになるため、セル内の正負の電極間の電解液の放電による電力を利用してポンプを起動することが可能である。しかしながら、従来のRF電池におけるセルは、通常、正負の両電極の面積が同等で、且つ、両電極の全面が隔膜を挟んで互いに重複するように配置されているため、両電極の全面で電池反応が生じる。そのため、従来のセルでは、例えばRF電池の放電時に電力系統の停電が起きた場合、放電反応に伴いセル内における電解液が放電した状態になっているため、セル内に残存する電解液によってポンプを起動するために必要な電力を十分に確保できない場合がある。また、両電極間で電解液の自己放電が進行し易く、ポンプの停止中にセル内の電解液に蓄えられた電力が自己放電により消費され易いため、電力系統の停電によりポンプが停止してからポンプを起動するまでの時間的制約が厳しい。
【0011】
そこで、本開示は、電力系統の停電時にポンプを起動する電力を供給することが可能なレドックスフロー電池セル及びレドックスフロー電池セルスタックを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、電力系統の停電時に自力で運転を再開することが可能なレドックスフロー電池を提供することを目的の一つとする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示によれば、電力系統の停電時にポンプを起動する電力を供給することが可能なレドックスフロー電池セル及びレドックスフロー電池セルスタックを提供できる。また、本開示によれば、電力系統の停電時に自力で運転を再開することが可能なレドックスフロー電池を提供できる。
【0013】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0014】
(1)実施形態に係るレドックスフロー電池セルは、
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備えるレドックスフロー電池セルであって、
前記正極電極と前記負極電極とが前記隔膜を介して重なり合う重複領域と、前記正極電極と前記負極電極の少なくとも一方において前記隔膜を介して重なり合わない非重複領域とを有し、
前記非重複領域の合計面積が、前記重複領域の面積の0.1%以上20%以下である。
【0015】
上記レドックスフロー電池セルは、正極電極と負極電極との重複領域と非重複領域とを有するように両電極が配置されており、両電極における非重複領域の合計面積が重複領域の面積の0.1%以上20%以下である。「重複領域」とは、正極電極及び負極電極を一方側から透視して見た場合に、正極電極及び負極電極が互いに重なり合う領域のことである。一方、「非重複領域」とは、重複領域を除く、互いに重なり合わない領域のことである。重複領域は両電極間で電池反応に寄与する部分であり、非重複領域は両電極間で電池反応に寄与しない部分である。
【0016】
上記レドックスフロー電池セルによれば、正極電極と負極電極の少なくとも一方において、非重複領域を有している。非重複領域では電池反応に寄与しないため、非重複領域には電池反応していない未反応の電解液が存在することになる。つまり、電力系統の停電時にポンプが停止して電解液の流通が停止した場合、セル内に未反応の電解液が一部に残存した状態になる。そして、ポンプの停止中、非重複領域に存在する未反応の電解液が重複領域に拡散することで、両電極間での放電により、セルからポンプの起動に必要な電力を供給することが可能となる。そのため、例えば、RF電池の放電時に電力系統の停電が起きてポンプが停止したとしても、セル内における非重複領域に存在する放電反応していない電解液によってポンプを起動するために必要な電力を確保できる。また、ポンプの停止中に、両電極間の重複領域で電解液の自己放電が進行しても、非重複領域に存在する未反応の電解液が重複領域に拡散することにより、未反応の電解液に蓄えられた電力を長時間に亘って放電可能となる。よって、電力系統の停電によりポンプが停止してからポンプを起動するまでの時間的制約を緩和できる。したがって、上記レドックスフロー電池セルは、電力系統の停電時にポンプを起動する電力を供給することが可能であり、外部からポンプに電力供給がない状態であっても、ポンプを起動することが可能となる。
【0017】
上記レドックスフロー電池セルでは、非重複領域の合計面積が重複領域の面積の0.1%以上であることで、非重複領域に流れる電解液の量を確保して、電力系統の停電時にポンプの起動に必要な電力を確保し易い。一方で、非重複領域の面積比率が大きいほど、非重複領域を流れる電解液の比率が大きくなり、重複領域に流れる電解液の量が減ることになる。非重複領域の合計面積が重複領域の面積の20%以下であることで、電池反応に寄与する重複領域を確保して、充放電時の出力の低下を抑制できる。
【0018】
(2)上記レドックスフロー電池セルの一形態として、前記正極電極と前記負極電極との双方が前記非重複領域を有することが挙げられる。
【0019】
正極電極と負極電極との双方が非重複領域を有することで、各電極の非重複領域に未反応の電解液が存在することになる。そのため、両電極間で電解液の放電を確実に起こさせることができ、電力系統の停電時にポンプの起動に必要な電力を供給して、ポンプを確実に起動することが可能となる。
【0020】
(3)上記レドックスフロー電池セルの一形態として、前記正極電極と前記負極電極との面積が同等であることが挙げられる。
【0021】
正極電極と負極電極との面積が同等である場合、正極電極と負極電極との双方に同じ面積の非重複領域が形成され、各電極の非重複領域に流れる電解液の量が等しくなる。そのため、両電極間で電解液の放電を十分に起こさせることができ、電力系統の停電時にポンプの起動に必要な電力を十分に供給することが可能となる。「正極電極と負極電極との面積が同等」とは、両電極の面積が実質的に同じであることを意味し、例えば、両電極の面積の差が各々の面積の0.01%以下である場合は同等の面積とみなす。ここで、正極電極と負極電極の各面積は、各電極の互いに対向する面の平面面積である。
【0022】
(4)上記レドックスフロー電池セルの一形態として、前記正極電極及び前記負極電極の厚さが0.05mm以上であることが挙げられる。
【0023】
両電極の厚さが0.05mm以上であることで、非重複領域に流れる電解液の量を十分に確保し易い。よって、電力系統の停電時にポンプの起動に必要な電力を十分に確保し易い。ここで、正極電極と負極電極の各厚さは、セル内に配置された状態での各電極の厚さであり、電極が圧縮された状態でセル内に収納されている場合は圧縮状態における厚さである。
【0024】
(5)上記レドックスフロー電池セルの一形態として、前記正極電極及び前記負極電極の面積が250cm
2以上であることが挙げられる。
【0025】
両電極の面積が250cm
2以上であることで、重複領域及び非重複領域のそれぞれの面積を十分に確保し易く、各領域に流れる電解液の量を十分に確保し易い。よって、充放電時の出力を確保すると共に、電力系統の停電時にポンプの起動に必要な電力を十分に確保し易い。
【0026】
(6)実施形態に係るレドックスフロー電池セルスタックは、
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載のレドックスフロー電池セルを複数積層して備える。
【0027】
上記レドックスフロー電池セルスタックは、上記した実施形態に係るレドックスフロー電池セルを備えることで、電力系統の停電時にポンプを起動する電力を供給することが可能である。上記レドックスフロー電池セルスタックでは、複数のセルを備えており、各セル内における非重複領域に存在する未反応の電解液によってポンプを起動するために必要な電力を確保できる。よって、セルスタックからポンプの起動に必要な電力を十分に供給することが可能となる。
【0028】
(7)実施形態に係るレドックスフロー電池は、
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載のレドックスフロー電池セル、又は、上記(6)に記載のレドックスフロー電池セルスタックを備える。
【0029】
上記レドックスフロー電池は、上記した実施形態に係るレドックスフロー電池セル又はレドックスフロー電池セルスタックを備えることで、電力系統の停電時にセル又はセルスタックからポンプの起動に必要な電力を供給することが可能であり、ポンプを起動することが可能となる。したがって、上記レドックスフロー電池によれば、電力系統の停電時に自力で運転を再開することが可能である。
【0030】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明の実施形態に係るレドックスフロー電池セル(以下、単に「セル」と呼ぶ場合がある)、レドックスフロー電池セルスタック(以下、単に「セルスタック」と呼ぶ場合がある)及びレドックスフロー電池(RF電池)の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。なお、本願発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0031】
《RF電池》
図1〜
図5を参照して、実施形態に係るRF電池1、並びに、RF電池1に備えるセル100及びセルスタック2の一例を説明する。
図1、
図2に示すRF電池1は、正極電解液及び負極電解液に酸化還元により価数が変化する金属イオンを活物質として含有する電解液を使用し、正極電解液に含まれるイオンの酸化還元電位と、負極電解液に含まれるイオンの酸化還元電位との差を利用して充放電を行う電池である。
図1では、RF電池1の一例として、正極電解液及び負極電解液に活物質となるVイオンを含有するバナジウム電解液を使用したバナジウム系RF電池を示す。
図1中のセル100内の実線矢印は充電反応を、破線矢印は放電反応をそれぞれ示している。RF電池1は、交流/直流変換器Cを介して電力系統Lに接続され、例えば、負荷平準化用途、瞬低補償や非常用電源などの用途、大量導入が進められている太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーの出力平滑化用途などに利用される。
【0032】
《セル》
RF電池1には、正極電極104と、負極電極105と、正極電極104と負極電極105との間に介在される隔膜101とを備えるセル100を備える(
図1参照)。この例に示すセル100の構造は、水素イオンを透過させる隔膜101で正極セル102と負極セル103とに分離され、正極セル102に正極電極104が、負極セル103に負極電極105がそれぞれ内蔵されている。正極セル102には、正極電解液を貯留する正極電解液用タンク106が導管108、110を介して接続されている。導管108には、正極電解液を正極電解液用タンク106から正極セル102に循環させるポンプ112が設けられており、これらの部材106、108、110、112によって正極電解液を循環させる正極用循環機構100Pが構成されている。同様に、負極セル103には、負極電解液を貯留する負極電解液用タンク107が導管109、111を介して接続されている。導管109には、負極電解液を負極電解液用タンク107から負極セル103に循環させるポンプ113が設けられており、これらの部材107、109、111、113によって負極電解液を循環させる負極用循環機構100Nが構成されている。充放電を行う運転時には、ポンプ112、113が駆動して、セル100(正極セル102及び負極セル103)内に正負の各電解液が流通し、充放電を行わない待機時には、ポンプ112、113が停止して、各電解液の流通が停止する。この例では、通常の運転時は、電力系統Lからポンプ112、113に電力を供給してポンプ112、113を駆動する。
【0033】
《セルスタック》
この例に示すRF電池1では、
図2、
図3に示すように、セル100を複数積層して備えるセルスタック2を備える。セルスタック2は、サブスタック200(
図3参照)と呼ばれる積層体をその両側から2枚のエンドプレート220で挟み込み、両側のエンドプレート220を締付機構230で締め付けることで構成されている(
図3に例示する構成では、複数のサブスタック200を備える)。サブスタック200は、セルフレーム3、正極電極104、隔膜101、及び負極電極105を複数積層してなり、その積層体の両端に給排板210(
図3の下図参照、
図2では省略)が配置された構成である。セルスタック2におけるセル100の積層数は、例えば5以上、50以上、更に100以上であることが挙げられる。セル100の積層数の上限は、特に限定されないが、例えば200以下である。
【0034】
《セルフレーム》
セルフレーム3は、
図2、
図3に示すように、正極電極104と負極電極105との間に配置される双極板31と、双極板31の周囲に設けられる枠体32とを有する。双極板31の一面側には、正極電極104が接触するように配置され、双極板31の他面側には、負極電極105が接触するように配置される。枠体32の内側には、双極板31が設けられ、双極板31と枠体32により凹部32oが形成される(
図4も参照)。凹部32oは、双極板31の両側(
図4において紙面の手前側及び奥側)にそれぞれ形成され、各凹部32oに正極電極104及び負極電極105が双極板31を挟んで収納される。サブスタック200(セルスタック2)では、隣接する各セルフレーム3の枠体32の一面側と他面側とが互いに対向して突き合わされ、隣接する各セルフレーム3の双極板31の間にそれぞれ1つのセル100が形成されることになる。
【0035】
双極板31は、例えば、プラスチックカーボンなどで形成され、枠体32は、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などのプラスチックで形成されている。双極板31は、例えば、射出成型、プレス成型、真空成型などの公知の方法によって成形されている。この例に示すセルフレーム3は、双極板31の周囲に枠体32が射出成型などにより一体化されている。この例では、双極板31の平面形状(平面視したときの形状)が矩形状であり、枠体32の形状が矩形枠状である。
【0036】
セル100への電解液の流通は、給排板210(
図3の下図参照)を介して、
図3に示すセルフレーム3の枠体32に貫通して設けられた給液マニホールド33、34及び排液マニホールド35、36と、枠体32に形成された給液スリット33s、34s及び排液スリット35s、36sにより行われる(
図4も併せて参照)。この例に示すセルフレーム3(枠体32)の場合、正極電解液は、枠体32の下部に設けられた給液マニホールド33から枠体32の一面側(
図4の紙面手前側)に形成された給液スリット33sを介して正極電極104に供給され、枠体32の上部に形成された排液スリット35sを介して排液マニホールド35に排出される。同様に、負極電解液は、枠体32の下部に設けられた給液マニホールド34から枠体32の他面側(
図4の紙面奥側)に形成された給液スリット34sを介して負極電極105に供給され、枠体32の上部に形成された排液スリット36sを介して排液マニホールド36に排出される。双極板31が設けられる枠体32の内側の下縁部及び上縁部には、縁部に沿って整流部(図示せず)が形成されていてもよい。整流部は、給液スリット33s、34sから供給される各電解液を各電極104、105の下縁部に沿って拡散させたり、各電極104、105の上縁部から排出される各電解液を排液スリット35s、36sへ集約する機能を有する。
【0037】
この例に示すセル100では、正極電極104及び負極電極105の下側からそれぞれ電解液が供給され、各電極104、105の上側から電解液が排出されるようになっており、各電極104、105の下縁部から上縁部に向かって電解液が流れる(
図4中、紙面左側の太線矢印は、電解液の全体的な電解液の流通方向を示す)。双極板31の各電極104、105と接する表面には、電解液の流通方向に沿って複数の溝部(図示せず)が形成されていてもよい。これにより、電解液の流通抵抗を小さくでき、電解液の圧力損失を低減できる。溝部の断面形状(電解液の流通方向に直交する断面の形状)は、特に限定されず、例えば、矩形状、三角形状(V字状)、台形状、半円形状や半楕円形状などが挙げられる。
【0038】
その他、各セルフレーム3の枠体32の間には、電解液の漏洩を抑制するため、Oリングや平パッキンなどの環状のシール部材37(
図2、
図3参照)が配置されている。枠体32には、シール部材37を配置するためのシール溝38(
図4参照)が形成されている。
【0039】
実施形態に係るセル100の特徴の一つは、隔膜101を挟んで互いに対向して配置される正極電極104と負極電極105の配置形態にある。具体的には、正極電極104と負極電極105とが隔膜101を介して重なり合う重複領域OAと、正極電極104と負極電極105の少なくとも一方において隔膜101を介して重なり合わない非重複領域SAとを有する(
図5参照)。以下、
図5を主に参照して、セル100における正極電極104と負極電極105の配置形態について説明する。
図5では、隔膜を省略している。
【0040】
《正極電極及び負極電極》
正極電極104及び負極電極105は、電解液に含まれる活物質(イオン)が電池反応を行う反応場である。各電極104、105は、公知の材料で形成することができ、例えば、カーボンファイバからなる不織布(カーボンフェルト)又は織布(カーボンクロス)や、紙(カーボンペーパ)などで形成されている。この例では、各電極104、105の平面形状が矩形状である。
【0041】
各電極104、105の厚さは、特に限定されないが、例えば0.05mm以上、更に0.2mm以上であることが挙げられる。各電極104、105の厚さが0.05mm以上であることで、各電極104、105に流れる電解液の量を確保して、充放電時の出力を確保し易い。ここでいう各電極104、105の厚さは、セル100(
図3参照)が組み立てられた状態での厚さであり、セル100内(セルフレーム3の凹部32o)に各電極104、105が厚さ方向に圧縮された状態で収納されている場合は圧縮状態での厚さである。この場合、凹部32oの深さが各電極104、105の厚さに相当する。各電極104、105の厚さの上限は、例えば3.0mm以下である。
【0042】
各電極104、105の面積は、特に限定されないが、例えば250cm
2以上、更に500cm
2以上であることが挙げられる。各電極104、105の面積が250cm
2以上であることで、各電極104、105に流れる電解液の量を確保して、充放電時の出力を確保し易い。ここでいう各電極104、105の面積は、互いに対向する面の平面面積である。両電極104、105の面積は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。この例では、両電極104、105の面積が同等である。各電極104、105の面積の上限は、例えば8000cm
2程度である。
【0043】
〈電極の配置形態〉
本実施形態では、
図5に示すように、平面視において、正極電極104と負極電極105との重複領域OAと非重複領域SAとを有するように両電極104、105が配置されている。
図5は、セル100における正極電極104及び負極電極105を正極電極104側から透視して見た場合の電極の配置状態を示しており、
図5に示す電極の配置形態の例では、正極電極104と負極電極105とが互いに斜め方向にずれて配置されている。具体的には、正極電極104及び負極電極105のそれぞれ中心が一致するように重なり合う状態から、正極電極104が左斜め上方向、負極電極105が右斜め下方向にずれるように配置されている。この例では、正極電極104と負極電極105との面積が同等であり、正極電極104と負極電極105との双方が非重複領域SAを有する。また、正極電極104の非重複領域SAと負極電極105の非重複領域SAとが同じ面積である。
図5では、分かり易くするため、正極電極104と負極電極105との重複領域OAをダブルハッチングで示し、正極電極104の非重複領域SAを右上がりのハッチング、負極電極105の非重複領域SAを右下がりのハッチングでそれぞれ示している。
【0044】
図5に示す例では、正極電極104と負極電極105とが互いに斜め方向にずれて配置されている場合を例示しているが、正極電極104と負極電極105とが互いに上下方向(縦方向)にずれて配置されていてもよいし、左右方向(横方向)にずれて配置されていてもよい。
【0045】
また、正極電極104と負極電極105との面積が異なっていてもよく、その場合、面積が大きい一方の電極に対して面積が小さい他方の電極の全体が重なるように配置することが挙げられる。この場合、正極電極104及び負極電極105のうち、面積の大きい一方の電極にのみ非重複領域SAが形成され、面積が小さい他方の電極には重複領域OAのみ有することになる。その他、正極電極104と負極電極105との面積が異なる場合において、面積が大きい一方の電極に対して面積が小さい他方の電極の一部がはみ出るように配置することも可能である。この場合、面積が小さい他方の電極にも非重複領域SAを有することができる。
【0046】
各電極104、105が収納されるセルフレーム3の凹部32o(
図3参照)に対して電極のサイズが小さい場合、電極を位置決めするため、枠体32の内周面に電極側に突出する突起部(図示せず)を形成したり、電極の外周面に枠体32側に突出する突起部(図示せず)を形成してもよい。突起部のサイズは電極を支持できる程度であればよく、電極の外周面に突起部を設ける場合は、重複領域が増え過ぎないように、できるだけ小さく形成するとよい。或いは、枠体32の内周面と各電極104、105の外周面との間に別体の位置決め片(図示せず)を挿入して、電極を位置決めすることも可能である。位置決め片は、適度な柔軟性と電解液に対する耐性(耐電解液性)を有する材料、例えば、ゴムやスポンジゴム、又は樹脂などの材料で形成することが挙げられる。位置決め片を形成する樹脂としては、例えば、発泡ポリエチレン、発泡ウレタン、発泡ポリスチレンなどが挙げられる。
【0047】
図5に示すように、正極電極104と負極電極105の少なくとも一方(この例では両方)に非重複領域SAを有する場合、非重複領域SAには電池反応していない未反応の電解液が存在することになる。これは、非重複領域SAは両電極104、105間で電池反応に寄与しない部分であるため、非重複領域SAには電解液が未反応の状態で流れるからである。つまり、電力系統Lの停電時にポンプ112、113が停止して電解液の流通が停止した場合(
図1や
図2参照)、セル100内に未反応の電解液が一部に残存した状態になる。そして、非重複領域SAに存在する未反応の電解液が重複領域OAに拡散することで、両電極104、105間で電池反応を起こさせることにより、停電時にセル100(セルスタック2)からポンプ112、113の起動に必要な電力を供給することが可能となる。この例では、正極電極104と負極電極105との双方に非重複領域SAを有することから、それぞれの非重複領域SAに未反応の電解液が存在することになるため、両電極104、105間で電池反応を確実に起こさせることができる。また、正極電極104及び負極電極105における非重複領域SAの面積が同じであり、それぞれの非重複領域SAに流れる電解液の量が等しくなるため、両電極104、105間で電池反応を十分に起こさせることができる。
【0048】
〈重複領域と非重複領域の面積比率〉
本実施形態では、正極電極104及び負極電極105における非重複領域SAの合計面積が重複領域OAの面積の0.1%以上20%以下である。非重複領域SAの合計面積が重複領域OAの面積の0.1%以上であることで、非重複領域SAに流れる電解液の量を確保して、停電時にポンプ112、113の起動に必要な電力を確保し易い。一方で、非重複領域SAの面積比率(非重複領域SAの合計面積/重複領域OAの面積)が大きいほど、非重複領域SAを流れる電解液の比率が大きくなり、重複領域OAに流れる電解液の量が減ることになる。非重複領域SAの合計面積が重複領域OAの面積の20%以下であることで、電池反応に寄与する重複領域OAを確保して、充放電時の出力の低下を抑制できる。非重複領域SAの合計面積は、重複領域OAの面積の例えば0.2%以上15%以下が好ましい。
【0049】
{実施形態の効果}
実施形態に係るセル100、セルスタック2及びRF電池1は、次の作用効果を奏する。
【0050】
《セル》
実施形態に係るセル100によれば、正極電極104と負極電極105の少なくとも一方に非重複領域SAを有している。これにより、電力系統Lの停電時にポンプ112、113が停止した場合、非重複領域SAに存在する未反応の電解液が重複領域OAに拡散することで、両電極104、105間での放電により、ポンプ112、113の起動に必要な電力を放電することが可能である。したがって、実施形態のセル100は、電力系統Lの停電時にポンプ112、113を起動する電力を供給することが可能である。
【0051】
セル100を備えるRF電池1は、外部からポンプ112、113に電力供給がない状態であっても、セル100からポンプ112、113に電力を供給することで、ポンプ112、113を起動することが可能となる。例えば、RF電池1の放電時に電力系統Lの停電が起きてポンプ112、113が停止したとしても、セル100内における非重複領域SAに存在する放電反応していない電解液によってポンプ112、113を起動するために必要な電力を確保できる。また、ポンプ112、113の停止中に、両電極104、105間の重複領域OAで電解液の自己放電が進行しても、非重複領域SAに存在する未反応の電解液が重複領域OAに拡散することにより、未反応の電解液に蓄えられた電力を長時間に亘って放電可能となる。そのため、停電によりポンプ112、113が停止してからポンプ112、113を起動するまでの時間的制約を緩和できる。
【0052】
非重複領域SAの合計面積が重複領域OAの面積の0.1%以上20%以下であることで、非重複領域SA及び重複領域OAの各領域に流れる電解液の量を適度に確保し易く、停電時におけるポンプ112、113の起動に必要な電力を確保すると共に、通常運転時における充放電時の出力を確保し易い。
【0053】
実施形態のセル100のように、正極電極104と負極電極105との双方が非重複領域SAを有する場合、各電極104、105の非重複領域SAに未反応の電解液が存在することになる。そのため、両電極104、105間で電解液の放電を確実に起こさせることができ、停電時にポンプ112、113の起動に必要な電力を供給して、ポンプ112、113を確実に起動することが可能となる。また、正極電極104と負極電極105との面積が同等である場合、正極電極104と負極電極105との双方に同じ面積の非重複領域SAが形成されることになる。そのため、両電極104、105間で電解液の放電を十分に起こさせることができ、停電時にポンプ112、113の起動に必要な電力を十分に供給することが可能となる。
【0054】
更に、正極電極104及び負極電極105の厚さが0.05mm以上であることで、非重複領域SAに流れる電解液の量を十分に確保し易い。よって、停電時にポンプ112、113の起動に必要な電力を十分に確保し易い。正極電極104及び負極電極105の面積が250cm
2以上であることで、重複領域OA及び非重複領域SAのそれぞれの面積を十分に確保し易く、各領域に流れる電解液の量を十分に確保し易い。よって、充放電時の出力を確保すると共に、停電時にポンプ112、113の起動に必要な電力を十分に確保し易い。
【0055】
《セルスタック》
実施形態に係るセルスタック2によれば、上述した実施形態のセル100を備えることで、電力系統Lの停電時にポンプ112、113を起動する電力を供給することが可能である。セルスタック2は、複数のセル100を備えており、各セル100内における非重複領域SAに存在する未反応の電解液によってポンプ112、113を起動するために必要な電力を確保することが容易である。よって、セルスタック2からポンプ112、113の起動に必要な電力を十分に供給することが可能となる。
【0056】
《RF電池》
実施形態に係るRF電池1によれば、上述した実施形態のセル100又はセルスタック2を備えることで、電力系統Lの停電時にセル100又はセルスタック2からポンプ112、113の起動に必要な電力を供給することが可能であり、ポンプ112、113を起動することが可能となる。したがって、実施形態のRF電池1は、電力系統Lの停電時に自力で運転を再開することが可能である。
【0057】
[試験例1]
セルにおける正極電極と負極電極の配置形態が異なるRF電池(試験体A〜C)をそれぞれ組み立て、各RF電池を用いてポンプの起動試験を行った。
【0058】
セルフレーム、正極電極、隔膜、及び負極電極を順に複数積層して積層体を構成し、セルスタックを作製した。正極電極及び負極電極には、同じ形状・サイズのカーボンフェルト製の電極を使用した。使用した正極電極及び負極電極は、平面形状が矩形状で、面積及び厚さが同じであり、面積が250cm
2、厚さが0.3mmである。セルスタックにおけるセルの積層数は5とした。
【0059】
この試験では、セルスタックを構成する各セルにおいて、正極電極及び負極電極における非重複領域の合計面積が重複領域の面積の0.1%、20%、0.05%、0%となるように電極を配置した3種類のセルスタックを作製した。そして、それぞれのセルスタックに電解液を循環させる循環機構を取り付けて、RF電池の試験体A〜Cを組み立てた。ここで、非重複領域の合計面積が重複領域の面積の0%とは、両電極の全面が互いに重複することを意味する。
【0060】
試験方法は、各試験体のRF電池を充電した後に放電を行い、放電時にポンプを停止し、ポンプの停止中にセルスタックからポンプに電力を供給して、ポンプが起動するかを調べた。ポンプの起動の可否を表1に示す。使用したポンプの起動時に必要な電力は5Wである。表1では、ポンプを起動できた場合を「A」、ポンプを起動できなかった場合を「B」として示す。
【0062】
表1の結果から、非重複領域の合計面積が重複領域の面積の0.1%以上であれば、ポンプを起動する電力を供給可能であることが確認できた。
【0063】
{実施形態の用途}
実施形態に係るレドックスフロー電池セル及びレドックスフロー電池セルスタックは、レドックスフロー電池に好適に利用可能である。