特許第6908042号(P6908042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6908042-熱サイクル用作動媒体 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908042
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】熱サイクル用作動媒体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20210708BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   C09K5/04 C
   F25B1/00 396Z
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-529895(P2018-529895)
(86)(22)【出願日】2017年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2017026796
(87)【国際公開番号】WO2018021275
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-150264(P2016-150264)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田坂 真維
(72)【発明者】
【氏名】高木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊幸
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157763(WO,A1)
【文献】 特表2015−518898(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/080868(WO,A1)
【文献】 特表2014−530939(JP,A)
【文献】 特表2014−504675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/04、
F25B1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、不純物とを含む熱サイクル用作動媒体であって、
前記不純物は、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2−テトラフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(E)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(Z)−2−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(E)−2−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピン、Cで示されるフッ化炭化水素、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、2−クロロ−1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロペン、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロプロパン、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルムおよびヘキサンから選ばれる少なくとも1種の微量成分を含有し、
前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記微量成分の含有量の割合が合計で1.5質量%未満であり、
前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパンの含有量の割合が0.001〜0.5質量%であることを特徴とする熱サイクル用作動媒体。
【請求項2】
前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記(Z)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの含有量の割合が20質量%以上である、請求項1に記載の熱サイクル用作動媒体。
【請求項3】
さらに、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロオレフィン、および、ヒドロクロロフルオロオレフィンから選ばれる少なくとも1種(ただし、(Z)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび前記微量成分を除く)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の熱サイクル用作動媒体。
【請求項4】
前記不純物は酸分を含み、前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記酸分の含有量の割合が1質量ppm未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱サイクル用作動媒体。
【請求項5】
前記不純物は塩素イオンを含み、前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記塩素イオンの含有量の割合が3質量ppm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱サイクル用作動媒体。
【請求項6】
前記不純物は蒸発残分を含み、前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記蒸発残分の含有量の割合が15質量ppm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱サイクル用作動媒体。
【請求項7】
前記不純物は水分を含み、前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記水分の含有量の割合が20質量ppm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱サイクル用作動媒体。
【請求項8】
前記不純物は空気を含み、前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記空気の含有量の割合が15000質量ppm未満である請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱サイクル用作動媒体。
【請求項9】
前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピンの含有量の割合が0.0001〜0.1質量%である請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱サイクル用作動媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱サイクル用作動媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、冷凍機用冷媒、空調機器用冷媒、発電システム(廃熱回収発電等)用作動媒体、潜熱輸送装置(ヒートパイプ等)用作動媒体、二次冷却媒体等の熱サイクル用作動媒体としては、クロロトリフルオロメタン(CFC−13)、ジクロロジフルオロメタン(CFC−12)等のクロロフルオロカーボン(CFC)、またはクロロジフルオロメタン(HCFC−22)等のヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられてきた。しかし、CFCやHCFCは、成層圏のオゾン層への影響が指摘され、現在、規制の対象となっている。
【0003】
前述の経緯から、熱サイクル用作動媒体としては、CFCやHCFCに代わって、オゾン層への影響が少ない、すなわち、オゾン破壊係数(ODP)が低い、ジフルオロメタン(HFC−32)、テトラフルオロエタン(HFC−134)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)等のヒドロフルオロカーボン(HFC)が用いられる。例えば、ビルの冷暖房用、工業用の冷水製造プラントなどに用いられる遠心式冷凍機においては、用いる作動媒体がトリクロロフルオロメタン(CFC−11)から1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)や1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)等に転換されている。また、例えば、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の擬似共沸混合冷媒)等は、従来から広く使用されてきた冷媒である。しかし、HFCに関しても、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されているため、オゾン層への影響が少なく、地球温暖化係数(GWP)の低い熱サイクル用作動媒体の開発が急務となっている。
【0004】
最近、オゾン層への影響が少なく、かつGWPが低い作動媒体として、大気中のOHラジカルによって分解されやすい炭素−炭素二重結合を有する、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)およびクロロフルオロオレフィン(CFO)等に期待が集まっている。本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。
【0005】
なかでも、HCFOおよびCFOは、一分子中のハロゲンの割合が多いため、燃焼性が抑えられた化合物であり、環境への負荷が少なくかつ燃焼性を抑えた作動媒体として検討されている。例えば、特許文献1には1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)を用いる作動媒体が記載されている。特許文献1においては、この作動媒体のサイクル性能等を高める目的で、HCFO−1224ydに各種のHFCやHFOを組み合わせて使用することも提示されている。また、HCFO−1224ydを含む作動媒体に一般的な安定剤を添加することで、作動媒体の安定性を向上できることが記載されている。
【0006】
ここで、HCFO−1224ydは各種の方法により製造されるが、どの製造方法を採る場合にも、生成物中に不純物が存在する。そして、このような不純物を含むHCFO−1224ydをそのまま用いた場合には、作動媒体の安定性が十分でない場合があった。また、HCFO−1224ydにはZ体とE体が存在するが、HCFO−1224ydが製造される際にはHCFO−1224ydのZ体とE体が同時に製造されこれらの混合物として得られる。しかしながら、Z体とE体の混合物として得られたHCFO−1224ydを用いた作動媒体において安定性が十分でない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/157763号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)の混合物からZ体とE体を単離し、E体に比べてZ体が安定性に優れることを確認した。
【0009】
本発明は、オゾン層への影響が少なく、地球温暖化への影響が少ないうえに、サイクル性能に優れるHCFO−1224yd(Z)を用いた熱サイクル用作動媒体において、安定性が十分に確保されつつ、かつ生産性が高い熱サイクル用作動媒体を提供することを目的とする。また、本発明は、不純物を含むHCFO−1224yd(Z)(以下、粗HCFO−1224yd(Z)ともいう。)からの不純物を低減する工程を簡略化するためになされたものである。
【0010】
なお、本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、幾何異性体を有する化合物の名称およびその略称に付けられた(E)は、E体(トランス体)を示し、(Z)はZ体(シス体)を示す。該化合物の名称、略称において、E体、Z体の明記がない場合、該名称、略称は、E体、Z体、およびE体とZ体の混合物を含む総称を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(Z)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン((Z)−CF−CF=CHCl、HCFO−1224yd(Z))と、不純物とを含む熱サイクル用作動媒体であって、
前記不純物は、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(CClF−CF−CHClF、HCFC−225cb)、1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(CF−CHF−CH、HFC−254eb)、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF−CF=CCl、CFO−1214ya)、(E)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン((E)−CF−CF=CHCl、HCFO−1224yd(E))、(Z)−2−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン((Z)−CF−CCl=CHF、HCFO−1224xe(Z))、(E)−2−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン((E)−CF−CCl=CHF、HCFO−1224xe(E))、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF−CF=CH、HFO−1234yf)、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン((Z)−CF−CH=CHF、HFO−1234ze(Z))、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン((E)−CF−CH=CHF、HFO−1234ze(E))、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピン(CF−C≡CCl)、Cで示されるフッ化炭化水素、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC−244bb)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、2−クロロ−1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロペン(CFO−1215xc)、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HCFC−225ca)、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロプロパン(FC−227ca)、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルムおよびヘキサンから選ばれる少なくとも1種の微量成分を含有し、
前記熱サイクル用作動媒体の全量に対する前記微量成分の含有量の割合が合計で1.5質量%未満であることを特徴とする熱サイクル用作動媒体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、HCFO−1224yd(Z)を含有することからオゾン層への影響および地球温暖化への影響が少なく、サイクル性能に優れる。また、HCFO−1224yd(Z)の製造の際に不純物として存在する、HCFO−1224yd(Z)を含む熱サイクル用作動媒体の安定性に影響を及ぼす微量成分の含有量が、熱サイクル用作動媒体の全量に対して合計で1.5質量%未満に調整されているので、安定性が十分に確保された熱サイクル用作動媒体が得られる。また、本発明は、安定性に影響を及ぼす微量成分の含有量を合計で1.5質量%未満としているため、粗HCFO−1224yd(Z)からの不純物を低減する工程を簡略化して、生産性の高い熱サイクル用作動媒体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】冷凍サイクルシステムを示した概略構成図である。
図2図1の冷凍サイクルシステムにおける作動媒体の状態変化を、圧力−エンタルピ線図上に記載したサイクル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[作動媒体]
本発明の実施形態の熱サイクル用作動媒体(以下、作動媒体ともいう。)は、HCFO−1224yd(Z)と、不純物とを含み、該不純物は、下記微量成分(以下、微量成分(X)ともいう。)を含有し、作動媒体に対する微量成分(X)の含有量の割合が合計で1.5質量%未満である。
【0015】
作動媒体が含有する微量成分(X)は、HCFC−225cb、HFC−254eb、CFO−1214ya、HCFO−1224yd(E)、HCFO−1224xe(Z)、HCFO−1224xe(E)、HFO−1234yf、HFO−1234ze(Z)、HFO−1234ze(E)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピン、Cで示されるフッ化炭化水素、HCFC−244bb、HFC−245fa、CFO−1215xc、HCFC−225ca、FC−227ca、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルムおよびヘキサンから選ばれる少なくとも1種である。
【0016】
実施形態の作動媒体は、HCFO−1224yd(Z)と微量成分(X)の他に、後述する化合物(以下、「その他の作動媒体成分」ともいう。)をさらに含有してもよい。
【0017】
<HCFO−1224yd(Z)>
HCFO−1224yd(Z)は、燃焼性を抑えるハロゲンと、大気中のOHラジカルによって分解され易い炭素−炭素二重結合をその分子内に有する。
【0018】
HCFO−1224yd(Z)は、ODP(オゾン層保護法に示される値、またはこれに準じて測定された値)は0であり、オゾン層への影響が少ない。また、GWP(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)に示される値、または該報告書の方法に準じて測定された100年の値)が5であり、地球温暖化への影響が少ない。
【0019】
また、HCFO−1224yd(Z)は、作動媒体としての能力に優れ、特にサイクル性能(例えば、後述する方法で求められる成績係数および冷凍能力)に優れている。
【0020】
作動媒体におけるHCFO−1224yd(Z)の含有量の割合は、作動媒体がHCFO−1224yd(Z)と微量成分(X)のみからなる場合には、100質量%から微量成分(X)の含有量の割合を除いた割合(質量%)とすることができる。
【0021】
また、作動媒体が用いられる用途に応じて適宜、HCFO−1224yd(Z)とその他の作動媒体成分と組み合わせて用いてもよい。作動媒体の100質量%に対するHCFO−1224yd(Z)の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上が一層好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が最も好ましい。なお、不純物を除いた作動媒体の100質量%に対するHCFO−1224yd(Z)の含有量の割合は100質量%が好ましい。作動媒体はHCFO−1224yd(Z)のみからなるのが最も好ましい。
【0022】
すなわち、作動媒体の100質量%に対するHCFO−1224yd(Z)の含有量は、10〜100質量%が好ましく、20〜100質量%がより好ましく、40〜100質量%が一層好ましく、60〜100質量%がさらに好ましく、90〜100質量%が最も好ましい。
【0023】
例えば、作動媒体として1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)を用いるのに適した熱サイクルシステムにおいて、作動媒体としてのHFC−245faをHCFO−1224yd(Z)を含む作動媒体に置換して用いる場合、不純物を除いた作動媒体の100質量%に対するHCFO−1224yd(Z)の含有量は、40〜100質量%が好ましく、60〜100質量%がより好ましく、80〜100質量%がさらに好ましく、作動媒体はHCFO−1224yd(Z)のみからなるのが最も好ましい。
【0024】
<微量成分(X)>
微量成分(X)は、HCFO−1224yd(Z)の製造の際に副生し不純物として生成組成物中に存在する化合物もしくは、製造の際に用いられる溶媒である。微量成分(X)は、具体的には、HCFC−225cb、HFC−254eb、CFO−1214ya、HCFO−1224yd(E)、HCFO−1224xe(Z)、HCFO−1224xe(E)、HFO−1234yf、HFO−1234ze(Z)、HFO−1234ze(E)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピン、Cで示されるフッ化炭化水素、HCFC−244bb、HFC−245fa、CFO−1215xc、HCFC−225ca、FC−227ca、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルムおよびヘキサンから選ばれる少なくとも1種である。
【0025】
作動媒体が微量成分(X)を、微量成分(X)の合計で1.5質量%以上含有すると、作動媒体の安定性が損なわれる。しかし、微量成分(X)の合計含有量を作動媒体の全量に対して1.5質量%未満とした場合には、HCFO−1224yd(Z)を含む作動媒体の安定性が確保された作動媒体を得ることができる。安定性の確保の観点から、微量成分(X)の合計含有量は作動媒体の全量に対して1.0質量%以下が好ましい。
【0026】
作動媒体における微量成分(X)の含有量は、粗HCFO−1224yd(Z)を精製し不純物としての微量成分(X)を低減する工程が簡略化できるという観点から、作動媒体の全量に対して4質量ppm以上とすることが好ましく、50質量ppm以上がさらに好ましく、100質量ppm以上が最も好ましい。
【0027】
また、微量成分(X)は、化合物の種類によっては、作動媒体全量に対して1.5質量%未満の適当量を含有することで特定の機能を発揮する場合がある。例えば、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピンは、作動媒体中に1.5質量%未満で含有する場合に、HCFO−1224yd(Z)を含む作動媒体の安定性を高める化合物である。作動媒体の安定性の観点から、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピンは、作動媒体全量に対して0.0001〜0.1質量%の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、0.0001〜0.001質量%である。
【0028】
また、例えば、HCFC−244bbは、作動媒体中に1.5質量%未満で含有する場合に、HCFO−1224yd(Z)を含む作動媒体の安定性を高める化合物である。作動媒体の安定性の観点から、HCFC−244bbは、作動媒体全量に対して0.001〜0.5質量%の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.1質量%である。
【0029】
微量成分(X)は、HCFO−1224yd(Z)の製造の際に得られる粗組成物(例えば、反応器からの出口成分や出口成分が粗精製された粗精製物等の、精製組成物に比べて不純物を多く含む組成物をいう。以下同様である。)に含まれる成分(原料中の不純物、中間生成物、副生物等が含まれる。以下同様である。)であり、さらに該粗組成物を、通常の方法で精製して得られるHCFO−1224yd(Z)の精製組成物に、微量に含まれる成分や、精製の際に用いられる溶媒成分である。
【0030】
なお、HCFO−1224yd(Z)の精製組成物を作動媒体に用いる場合、該精製組成物における微量成分(X)の合計含有量は、必ずしも1.5質量%未満である必要はない。すなわち、HCFO−1224yd(Z)の精製組成物をそのまま作動媒体とする場合は、該精製組成物における微量成分(X)の合計含有量は、1.5質量%未満であるが、作動媒体が、その他の作動媒体成分を含む場合は、HCFO−1224yd(Z)の精製組成物における微量成分(X)の合計含有量が1.5質量%以上であっても、作動媒体全量に対する微量成分(X)の合計含有量が1.5質量%未満であればよい。
【0031】
ただし、その他の作動媒体成分の作動媒体への配合に際して、その他の作動媒体成分とともに微量成分(X)が不純物として持ち込まれる可能性もあることから、作動媒体に用いるHCFO−1224yd(Z)の精製組成物は、微量成分(X)の合計含有量が1.5質量%未満であることが好ましい。
【0032】
以下に、HCFO−1224yd(Z)を製造する方法と、それらの製造時に得られる粗組成物に含有される不純物および、該粗組成物から精製して得られるHCFO−1224yd(Z)の精製組成物に含まれる微量成分(X)について説明する。HCFO−1224yd(Z)を製造する方法としては、例えば、(I)1,2−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパン(CF−CClF−CHCl、HCFC−234bb)を脱塩化水素反応させる方法、および、(II)1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)を水素還元させる方法を挙げることができる。
【0033】
(I)HCFC−234bbの脱塩化水素反応
HCFC−234bbを液相中で、溶媒に溶解した塩基すなわち溶液状態の塩基と接触させ、式(1)に示すHCFC−234bbの脱塩化水素反応を行う。
【0034】
【化1】
【0035】
塩基としては、金属水酸化物、金属酸化物および金属炭酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種、溶媒としては、溶解性が高く脱塩化水素反応に対して不活性な溶媒である水が好ましい。脱塩化水素反応においては、反応の系を均一系の状態にして反応させることが好ましい。均一系とは、反応系の中に反応基質(原料、生成物等)が撹拌等により細かく分散してほぼ均一に分布している系である。なお、相関移動触媒の存在下で上記反応を行うことで、反応速度を大きくすることができ、生産性を改善することが可能である。
【0036】
式(1)によってHCFO−1224yd(Z)を製造する際に用いるHCFC−234bbは、含フッ素化合物の製造原料または中間体として知られる公知の化合物であり、公知の方法により製造できる。例えば、下式(2)に示すように、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)と塩素を溶媒中で反応させることにより、HCFC−234bbを製造できる。
【0037】
【化2】
【0038】
このようなHCFC−234bbの脱塩化水素反応においては、HCFO−1224yd(Z)を含む生成物を粗組成物として反応器より得ることができる。
なお、上記塩基の溶媒として水を用いた場合には、得られた粗生成物を静置することにより、HCFO−1224yd(Z)を含む有機層と、未反応の塩基および脱塩化水素反応で生成する塩とを含む水層に層分離するため、両者を容易に分離することが可能となる。
【0039】
上記有機層に含有されるHCFO−1224yd(Z)以外の化合物としては、未反応原料であるHCFC−234bbに加えて、HFO−1234yf、HCFO−1224xe、HCFO−1224yd(E)、CFO−1214ya、1,1,2−トリクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパン(CF−CClF−CHCl、HCFC−224ba)、1,1,1,2−テトラクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパン(CF−CClF−CCl、CFC−214bb)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピン、HCFC−244bb等が挙げられる。
【0040】
上記有機層は、その後、不純物を除去するための、蒸留、抽出、分離等の精製処理に供される。このような精製処理において、有機層から不純物が概ね除去されて、HCFO−1224yd(Z)と以下に説明する微量成分(X)からなる精製組成物が得られる。なお、製造方法(I)で得られる精製組成物における微量成分(X)を微量成分(X1)ともいう。
【0041】
上記有機層中には、脱塩化水素反応時に使用した相関移動触媒や、反応で副生する塩が残存する場合がある。これらを含有したまま蒸留等の精製処理を行うと、装置の閉塞、腐食といった問題が起こる可能性がある。こうした懸念がある場合には、精製処理の前にこれらを除去することが望ましく、具体的な方法としては、水洗(上記有機層に水を添加、混合した後に層分離して有機層を回収する方法)や、活性炭、ゼオライト等の吸着剤により吸着させる方法、またはその両者を組み合わせる方法等がある。
【0042】
また、上記有機層中には、微量の水分が含まれる場合がある。これを含有したまま蒸留等の精製処理を行うと、装置の腐食といった問題が起こる可能性がある。こうした懸念がある場合には、精製処理の前に水分を除去することが望ましく、具体的な方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。
【0043】
上記精製処理においては、上記有機層から上記不純物のうちHCFC−234bb、CFO−1214ya、HCFC−224ba、CFC−214bb等が完全に除去される。一方、HFO−1234yf、HCFO−1224xe、HCFO−1224yd(E)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピン、HCFC−244bbは、上記精製処理において完全に除去することができずに微量に、例えば、得られる精製組成物の全量に対して合計で1.5質量%未満の量で残留し微量成分(X1)となる。
【0044】
(II)CFO−1214yaを水素還元させる方法
式(3)に示すように、CFO−1214yaを触媒存在下、水素を用いて還元することでHFO−1234yfに変換され、その中間体としてHCFO−1224yd(Z)が得られる。また、この還元反応においては、HCFO−1224yd(Z)以外に多種類の含フッ素化合物が副生する。
【0045】
【化3】
【0046】
式(3)によってHCFO−1224yd(Z)を製造する際に用いるCFO−1214yaは、例えば、式(4)に示すように、HCFC−225ca等を原料として、相間移動触媒存在下にアルカリ水溶液で、またはクロム、鉄、銅、活性炭等の触媒存在下に気相反応で、脱フッ化水素反応させて製造する方法が知られている。
【0047】
【化4】
【0048】
ここで、HCFO−1224yd(Z)は、未反応原料のCFO−1214yaの大部分や最終生成物であるHFO−1234yfとは通常の蒸留により分離することができる。
【0049】
この蒸留操作により得られた留分を粗組成物として説明する。粗組成物には、HCFO−1224yd(Z)以外に前記した水素還元反応の副生物である、HFC−254eb、CFO−1215xc、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(CF−CH−CF、HFC−236fa)、HFO-1234ze、Cで示されるフッ化炭化水素、1−クロロ−1,2,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(CF−CF−CHClF、HCFC−226ca)、1−クロロ−1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(CHF−CF−CClF、HCFC−226cb)、1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF−CH=CClF、HCFO−1224zb)、1,1,2,3−テトラフルオロプロパン(HFC−254ea)、2−クロロ−1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HCFC−226ba)、HCFO−1224xe、HCFO−1224yd(E)、CFO−1214ya、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFCl−CF=CClF、CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF−CCl=CClF、CFO−1214xb)、HCFC−244bb、HFC−245fa、HCFC−225ca、FC−227ca等が不純物として含まれる。
【0050】
なお、Cで示されるフッ化炭化水素としては、例えば、1,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン(CFH−CHF−CH=CHF)、3,4,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン(CF−CHF−CH=CH)、1,1,2,3−テトラフルオロ−1−ブテン(CH−CHF−CF=CF)が挙げられる。
【0051】
粗組成物が含有する上記不純物には、HCFO−1224yd(Z)と共沸組成物ないし共沸様組成物を形成するものが含まれるため、抽出蒸留により精製する方法が精製組成物を得る精製方法として効果的である。抽出蒸留とは、複数の成分からなる組成物に別の成分を加えて、所定の成分の比揮発度を変化させることにより、蒸留分離を行い易くする方法であり、ここでいう別の成分を、抽出溶剤という。HCFO−1224yd(Z)の抽出溶剤としては、メタノール、アセトン、ヘキサン、エタノール、CFO−1214ya、クロロホルム、HCFC−225cbなどが用いられる。
【0052】
抽出蒸留による精製処理において、粗組成物から不純物が概ね除去されて、HCFO−1224yd(Z)と以下に説明する微量成分(X)からなる精製組成物が得られる。なお、製造方法(II)で得られる精製組成物における微量成分(X)を微量成分(X2)ともいう。
【0053】
上記精製処理においては、粗組成物から上記不純物のうちHFC−236fa、HCFC−226ca、HCFC−226cb、HCFO−1224zb、HFC−254ea、HCFC−226ba、CFO−1214ya、CFO−1214yb、CFO−1214xb等が完全に除去される。一方、CFO−1215xc、HFC−254eb、HFO-1234ze、Cで示されるフッ化炭化水素、HCFO−1224xe、HCFO−1224yd(E)、HCFC−244bb、HFC−245fa、HCFC−225ca、FC−227caは、上記精製処理において完全に除去することができずに微量に残留する。また、抽出溶剤として用いたメタノール、アセトン、ヘキサン、エタノール、CFO−1214ya、クロロホルム、HCFC−225cb等が微量に残留することがある。
【0054】
このように、微量成分(X2)は、CFO−1215xc、HFC−254eb、HFO-1234ze、Cで示されるフッ化炭化水素、HCFO−1224xe、HCFO−1224yd(E)、HCFC−244bb、HFC−245fa、HCFC−225ca、FC−227ca、メタノール、アセトン、ヘキサン、エタノール、CFO−1214ya、クロロホルム、HCFC−225cb等で構成され得る。精製組成物における微量成分(X2)の含有量は、1.5質量%未満である。
【0055】
抽出溶剤として用いたメタノール、アセトン、ヘキサン、エタノール、CFO−1214ya、クロロホルム、HCFC−225cb等は、抽出蒸留後の組成物において、1.5質量%以上残存する場合がある。その場合、これらの抽出溶剤の含有量を、得られる精製組成物における微量成分(X2)の合計量として、含有量が1.5質量%未満となるように、適当な方法で低減させる。例えば、抽出蒸留後の組成物において、メタノールが1.5質量%以上残存する場合には、水と混合後に二層分離することにより、メタノールの含有量を上記範囲に低減することができる。
【0056】
<その他の作動媒体成分>
本発明の作動媒体は、HCFO−1224yd(Z)および不純物以外に、その他の作動媒体成分をさらに含むことができる。その他の作動媒体成分としては、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、および、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)(ただし、HCFO−1224yd(Z)および微量成分(X)を除く)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0057】
オゾン層への影響が少なく、かつサイクル性能に優れる点から、微量成分(X)以外のHFCとしては、ジフルオロメタン(HFC−32)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、およびペンタフルオロエタン(HFC−125)が挙げられる。これらのHFCは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
HFOとしては、オゾン層への影響が少なくサイクル特性に優れる点から、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)、(Z)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO−1336mzz(Z))、(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO−1336mzz(E))等が挙げられる。これらのHFOは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
HCFOとしては、1−クロロ−2,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)、1,2−ジクロロフルオロエチレン(HCFO−1121)、1−クロロ−2−フルオロエチレン(HCFO−1131)、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)が挙げられる。これらのHCFOは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本発明の作動媒体におけるその他の作動媒体成分の合計含有量は、100質量%からHCFO−1224yd(Z)と不純物の合計含有量を除いた量とすることができる。具体的には、その他の作動媒体成分の合計含有量は、作動媒体全量に対して、0〜90質量%とすることができる。
【0061】
<その他の不純物>
作動媒体に上記の微量成分(X)以外の以下に説明する不純物(その他の不純物)が含まれると、熱サイクルシステムに適用された場合に問題となることがある。これらの不純物は、熱サイクルシステムにおいて作動媒体とともに用いられる後述の潤滑油からも持ち込まれる、または、熱サイクルシステム稼働時に外部から侵入する可能性もあることから、作動媒体において、極力含有量を減少させることが望まれる成分である。
【0062】
(酸分)
熱サイクルシステム内に酸分が存在すると、作動媒体や潤滑油の分解等、悪影響を及ぼす。作動媒体における酸分は酸アルカリ滴定法による濃度として、1質量ppm未満が好ましく、0.8質量ppm以下が特に好ましい。なお、作動媒体における所定の成分の濃度とは、作動媒体の全量に対する該成分の含有量の質量割合を意味する。
【0063】
(塩素イオン)
熱サイクルシステム内に塩素が存在すると、金属との反応による堆積物の生成、軸受け部の磨耗、作動媒体や潤滑油の分解等、悪影響を及ぼす。作動媒体において塩素は塩素イオンとして存在する。作動媒体における塩素イオン濃度は、硝酸銀比濁法で測定される塩素イオン濃度として、3質量ppm以下が好ましく、1質量ppm以下が特に好ましい。
【0064】
(蒸発残分)
作動媒体を蒸発させた後に残留する蒸発残分は、作動媒体を熱サイクルシステムに用いた際に、配管部の閉塞等の点で問題である。作動媒体の蒸発残分は、作動媒体の100gを40℃で60分間処理した後に残留する蒸発残分の量として、作動媒体の全量に対して、15質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下が特に好ましい。
【0065】
(水分)
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や潤滑油の加水分解、システム内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。作動媒体における水分含有量はカールフィッシャー電量滴定法により測定される水分含有量として、作動媒体の全量に対して、20質量ppm以下が好ましく、15質量ppm以下が特に好ましい。
【0066】
(空気)
熱サイクルシステム内に空気(窒素:約80体積%、酸素:約20体積%)が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響を及ぼすため、空気の混入を極力抑制する必要がある。特に、空気中の酸素は、作動媒体や潤滑油と反応し、その分解を促進する。作動媒体における空気濃度はガスクロマトグラムにより測定される空気濃度として、15000質量ppm未満が好ましく、8000質量ppm以下が特に好ましい。
【0067】
[熱サイクルシステムへの適用]
本発明の作動媒体は、オゾン層への影響および地球温暖化への影響が少なく、サイクル性能に優れるうえに、安定性が確保された熱サイクルシステム用の作動媒体として有用である。
【0068】
<熱サイクルシステム用組成物>
本発明の作動媒体は、熱サイクルシステムへの適用に際して、通常、潤滑油と混合して熱サイクルシステム用組成物として使用することができる。本発明の作動媒体と潤滑油を含む熱サイクルシステム用組成物は、これら以外にさらに、安定剤、漏れ検出物質等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0069】
(潤滑油)
熱サイクルシステムでは、前記した作動媒体を潤滑油と混合して使用してもよい。潤滑油としては、熱サイクルシステムに用いられる公知の潤滑油を採用できる。潤滑油は、熱サイクルシステム用組成物に上記作動媒体とともに含有され熱サイクルシステム内を循環し、該熱サイクルシステム内の特に圧縮機において潤滑油として機能する。熱サイクルシステムにおいて、潤滑油は、潤滑性や圧縮機の密閉性を確保しつつ、低温条件下で作動媒体に対して相溶性が充分あるものが好ましい。このような観点から、潤滑油の40℃における動粘度は1〜750mm/sが好ましく、1〜400mm/sがより好ましい。また、100℃における動粘度は1〜100mm/sが好ましく、1〜50mm/sであることがより好ましい。
【0070】
潤滑油としては、エステル系潤滑油、エーテル系潤滑油、フッ素系潤滑油、炭化水素系合成油、鉱物油等が挙げられる。
【0071】
エステル系潤滑油は、分子内にエステル結合を有する油状の、好ましくは上記動粘度を有するエステル化合物である。エステル系潤滑油としては、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、ポリオール炭酸エステル等が挙げられる。
【0072】
二塩基酸エステルとしては、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖アルキル基または分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、2−エチルヘキサノール、イソデシルアルコール、3−エチル−3−ヘキサノール等)とのエステルが好ましい。具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチル3−ヘキシル)等が挙げられる。
【0073】
ポリオールエステルとは、多価アルコールと脂肪酸(カルボン酸)とから合成されるエステルである。
【0074】
ポリオールエステルとしては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,12−ドデカンジオール等)または水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等)と、炭素数6〜20の脂肪酸(ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸等の直鎖または分枝の脂肪酸、もしくはα炭素原子が4級である脂肪酸等)とのエステルが好ましい。ポリオールエステルは、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0075】
ポリオールエステルとしては、ヒンダードアルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスルトール等)のエステル(トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート等)がより好ましい。
【0076】
コンプレックスエステルとは、数種のエステルを組み合わせた(コンプレックス化)ものである。コンプレックスエステル油は、脂肪酸および二塩基酸から選ばれる少なくとも1種とポリオールとのオリゴエステルである。脂肪酸、二塩基酸、ポリオールとしては、例えば、二塩基酸エステル、ポリオールエステルで挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0077】
ポリオール炭酸エステルとは、炭酸とポリオールとのエステルまたは環状アルキレンカーボネートの開環重合体である。ポリオールとしては、上記ポリオールエステルで挙げたものと同様のジオールやポリオール等が挙げられる。
【0078】
エーテル系潤滑油とは、分子内にエーテル結合を有する油状の、好ましくは上記動粘度を有するエーテル化合物である。エーテル系潤滑油としては、ポリアルキレングリコールやポリビニルエーテル等が挙げられる。
【0079】
ポリアルキレングリコールとは、オキシアルキレン単位を複数有する化合物、言い換えればアルキレンオキシドの重合体あるいは共重合体である。
【0080】
ポリアルキレングリコールとしては、炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を、水、アルカンモノオール、上記ジオール、上記ポリオール等を開始剤として重合させる方法等により得られたポリアルキレンポリオールおよびそれらの水酸基の一部または全部をアルキルエーテル化したもの等が挙げられる。
【0081】
ポリアルキレングリコール1分子中のオキシアルキレン単位は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。ポリアルキレングリコールとしては、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれるものが好ましく、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールのジアルキルエーテルがより好ましい。
【0082】
ポリビニルエーテルとは、少なくともビニルエーテルモノマーに由来する重合単位を有する重合体である。
【0083】
ポリビニルエーテルとしては、ビニルエーテルモノマーの重合体、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとの共重合体、ビニルエーテルモノマーとオキシアルキレン単位を複数有するビニルエーテルモノマーとの共重合体等が挙げられる。オキシアルキレン単位を構成するアルキレンオキシドとしては、ポリアルキレングリコールで例示されたものが好ましい。これらの重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0084】
ビニルエーテルモノマーとしてはアルキルビニルエーテルが好ましく、そのアルキル基としては炭素数6以下のアルキル基が好ましい。また、ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α−メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等が挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
フッ素系潤滑油とは、分子内にフッ素原子を有する油状の、好ましくは上記動粘度を有する含フッ素化合物である。
【0086】
フッ素系潤滑油としては、後述の鉱物油や炭化水素系合成油(例えば、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等)の水素原子をフッ素原子に置換した化合物、ペルフルオロポリエーテル油、フッ素化シリコーン油等が挙げられる。
【0087】
鉱物油とは、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、精製処理(溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理等)を適宜組み合わせて精製したものである。鉱物油としては、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油等が挙げられる。
【0088】
炭化水素系合成油とは、分子が炭素原子と水素原子のみで構成される合成された油状の、好ましくは上記動粘度を有する化合物である。炭化水素系合成油としては、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
【0089】
潤滑油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
作動媒体と潤滑油を混合して用いる場合、潤滑油の使用量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、用途、圧縮機の形式等によって適宜決定すればよい。熱サイクルシステム用組成物における潤滑油の総質量の割合は、作動媒体の総質量100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0091】
(安定剤)
安定剤は、熱および酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が挙げられる。
【0092】
耐酸化性向上剤は、作動媒体が熱サイクルシステムにおいて繰り返し圧縮・加熱される条件において、主に酸素による作動媒体の分解を抑制することで作動媒体を安定化させる安定剤である。
【0093】
耐酸化性向上剤としては、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミン、ジ−2−ナフチルアミン、N−アルキルフェノチアジン、6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。耐酸化性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
耐熱性向上剤は、作動媒体が熱サイクルシステムにおいて繰り返し圧縮・加熱される条件において、主に熱による作動媒体の分解を抑制することで作動媒体を安定化させる安定剤である。耐熱性向上剤としては、耐酸化性向上剤と同様のものが挙げられる。耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
金属不活性剤は、作動媒体および潤滑油に熱サイクルシステム内の金属材料が悪影響を及ぼさないように、あるいは作動媒体および潤滑油から該金属材料を保護する目的で用いられる。具体的には、金属材料の表面に被膜を形成する薬剤等が挙げられる。
【0096】
金属不活性剤としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、2,5−ジメルカプトチアジアゾール、サリシリジン−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、2−メチルベンズイミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、メチレンビス−ベンゾトリアゾール、有機酸またはそれらのエステル、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、有機酸または無機酸のアミン塩、複素環式窒素含有化合物、アルキル酸ホスフェートのアミン塩またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0097】
熱サイクルシステム用組成物における作動媒体の総質量(100質量%)に対する安定剤の総質量の割合は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0098】
(漏れ検出物質等の公知の添加剤)
漏れ検出物質とは、熱サイクルシステムから作動媒体等が漏れた場合に、臭いや蛍光等で検出しやすいようにする目的で添加される物質一般をいう。
【0099】
漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0100】
臭いマスキング剤とは、芳香が好ましくない作動媒体や潤滑油、後述する可溶化剤について、それ自体の特性を維持しつつ芳香を改善する目的で添加される化合物や香料などの物質一般をいう。臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、公知の香料が挙げられる。
【0101】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0102】
熱サイクルシステム用組成物における作動媒体の総質量(100質量%)に対する漏れ検出物質の総質量の割合は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、2質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0103】
<熱サイクルシステム>
本発明の作動媒体が適用される熱サイクルシステムは、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。本発明の熱サイクルシステムは、フラデッドエバポレーター式であってもよく、直接膨張式であってもよい。本発明の熱サイクルシステムにおいて、作動媒体との間で熱交換される作動媒体以外の他の物質は水または空気が好ましい。
【0104】
本発明の作動媒体が適用される熱サイクルシステムを、冷凍サイクルシステムを例に図面を参照しながら以下に説明する。冷凍サイクルシステムは、蒸発器において作動媒体が負荷流体より熱エネルギーを除去することにより、負荷流体を冷却し、より低い温度に冷却するシステムである。
【0105】
図1に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0106】
冷凍サイクルシステム10においては、以下のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される。
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される。
【0107】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、図2に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0108】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、図2においてAB線で示される。
【0109】
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、図2においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tが凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点Tが凝縮沸点温度である。
【0110】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、図2においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(以下、必要に応じて「SC」で示す。)となる。
【0111】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、図2においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tは蒸発温度である。作動媒体蒸気Aの温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(以下、必要に応じて「SH」で示す。)となる。なお、Tは作動媒体Dの温度を示す。
【0112】
ここで、作動媒体のサイクル性能は、例えば、作動媒体の冷凍能力(以下、必要に応じて「Q」で示す。)と成績係数(以下、必要に応じて「COP」で示す。)で評価できる。作動媒体のQとCOPは、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h、h、h、hを用いると、下式(A)、(B)からそれぞれ求められる。
【0113】
Q=h−h …(A)
COP=Q/圧縮仕事=(h−h)/(h−h) …(B)
【0114】
なお、COPは冷凍サイクルシステムにおける効率を意味しており、COPの値が高いほど少ない入力、例えば圧縮機を運転するために必要とされる電力量、により大きな出力、例えば、Qを得ることができることを表している。
【0115】
一方、Qは負荷流体を冷却する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味している。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表しており、システムの小型化が可能となる。
【0116】
熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本発明の作動媒体が適用される熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも安定してサイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器として用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器として用いられることも好ましい。
【0117】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50〜200℃程度の中〜高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0118】
また、熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス−ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0119】
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0120】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、熱源機器チリングユニット、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
【0121】
熱源機器チリングユニットとしては、例えば、容積圧縮式冷凍機、遠心式冷凍機が挙げられるが、次に説明する遠心式冷凍機は作動媒体の充填量が多いので、本発明の効果をより顕著に得ることができるため好ましい。
【0122】
ここで、遠心式冷凍機は、遠心圧縮機を用いた冷凍機である。遠心式冷凍機は、蒸気圧縮式の冷凍機の一種であり、通常、ターボ冷凍機とも言われる。遠心圧縮機は、羽根車を備えており、回転する羽根車で作動媒体を外周部へ吐き出すことで圧縮を行う。遠心式冷凍機は、オフィスビル、地域冷暖房、病院での冷暖房の他、半導体工場、石油化学工業での冷水製造プラント等に用いられている。
【0123】
遠心式冷凍機としては、低圧型、高圧型のいずれであってもよいが、低圧型の遠心冷凍機であることが好ましい。なお、低圧型とは、例えば、トリクロロフルオロメタン(CFC−11)、2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン(HCFC−123)、HFC−245faのような高圧ガス保安法の適用を受けない作動媒体、すなわち、「常用の温度において、圧力0.2MPa以上となる液化ガスで現にその圧力が0.2MPa以上であるもの、または圧力が0.2MPa以上となる場合の温度が35℃以下である液化ガス」に該当しない作動媒体を用いた遠心式冷凍機をいう。
【0124】
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0125】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、上記のような問題の発生が懸念され、特に低温で使用される際に問題が生じ易い。特に、潤滑油がポリアルキレングリコール、ポリオールエステル等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、潤滑油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、潤滑油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0126】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の熱サイクルシステム用組成物と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器の出口、または蒸発器の入口に乾燥剤を配置して、熱サイクルシステム用組成物と接触させることが好ましい。
【0127】
乾燥剤としては、乾燥剤と熱サイクルシステム用組成物との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0128】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系潤滑油に比べて吸湿量の高い潤滑油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(C)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
2/nO・Al・xSiO・yHO …(C)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0129】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体等の各種成分(以下、「作動媒体等」)の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体等が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体等と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0130】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。細孔径は10オングストローム以下が好ましく、特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体等の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体等を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体等の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0131】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、粒度の代表値として約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0132】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等。)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等。)を併用してもよい。
【0133】
熱サイクルシステム内に塩素が存在すると、上記作動媒体において記載したのと同様に、金属との反応による堆積物の生成、軸受け部の磨耗、作動媒体や潤滑油の分解等、悪影響を及ぼす。熱サイクルシステム内の塩素濃度は、作動媒体に対する質量割合で100ppm以下が好ましく、50ppm以下が特に好ましい。
【0134】
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、上記作動媒体において記載したのと同様に、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や潤滑油と反応し、分解を促進する。熱サイクルシステムでは、不凝縮性気体濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
【実施例】
【0135】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。例1〜4、7〜16が実施例であり、例5、6が比較例である。
【0136】
[例1〜16]
HCFO−1224yd(Z)および微量成分(X1)または微量成分(X2)を表1に示す割合で含有し、さらにその他の不純物を表1に示す割合で含有する作動媒体1〜16を調製した。なお、微量成分(X1)および微量成分(X2)に共通する成分については、(X1)、(X2)共通として表中に示した。
【0137】
例1、3、5は、上記(I)HCFC−234bbの脱塩化水素反応により得られた粗組成物を蒸留により精製して得られた作動媒体である。
【0138】
微量成分(X1)には、HFO−1234yf、HCFO−1224xe、HCFO−1224yd(E)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピンおよびHCFC−244bbが含まれる。
【0139】
例2、4、6は、上記(II)CFO−1214yaを水素還元させて得られた粗組成物を、メタノールを用いた抽出蒸留により精製して得られた作動媒体である。
【0140】
例2、4、6における微量成分(X2)には、HFC−254eb、HFO-1234ze(Z)、Cで示されるフッ化炭化水素、HCFC−244bb、HFC−245fa、CFO−1215xc、FC−227ca、HCFO−1224xe、HCFO−1224yd(E)およびメタノールが含まれる。
【0141】
なお、例1〜6の作動媒体については特にその他の不純物を配合せずにそのまま作動媒体とした。例7〜16については、例1または例2の作動媒体に、酸分、塩素イオン源、蒸発残分としての金属粉、空気、水の少なくとも1種を配合して作動媒体とした。作動媒体中に含まれる酸分は酸アルカリ滴定法、塩素イオンは硝酸銀比濁法、蒸発残分(金属粉)は試料を蒸発させた後の質量測定法にて分析を行った。さらに、水分含有量はカールフィッシャー電量滴定法により、空気の含有量は、ガスクロマトグラムより測定した。
【0142】
酸分としてはHFを、塩素イオン源としてはHClを、作動媒体の質量に対して所定濃度となる量をシリンジで秤量して添加した。水分は作動媒体の質量に対して所定濃度の水分をシリンジで秤量して添加した。蒸発残分としての金属粉は作動媒体の質量に対して所定濃度となる量を秤量して添加した。また、空気を配合する場合は、窒素濃度が80体積%、および酸素濃度が20体積%になるように調整した空気を、作動媒体の質量に対して所定濃度入れて密閉した。
【0143】
[熱安定性試験]
例1〜16に示す作動媒体と、辺の長さ;20mm×30mm、厚さ;2mmのSS400、Cu、Al製の各金属片の1枚ずつ、合計3枚を、200mLのステンレス製の耐圧容器に入れた。ここで、作動媒体の配合量は50gである。
【0144】
次いで、密閉した耐圧容器を恒温槽(パーフェクトオーブンPHH−202、エスペック株式会社製)中に175℃で14日間保存し熱安定性試験とした。試験後の作動媒体について、次のように酸分量の分析を行った。
【0145】
(酸分量の測定)
上記試験後の耐圧容器を室温になるまで静置した。
吸収瓶4本にそれぞれ純水を100ml入れ、導管で直列に連結したものを準備した。
室温になった耐圧容器に、純水を加えた吸収瓶を連結したものをつなぎ、徐々に耐圧容器の弁を開放して、作動媒体ガスを吸収瓶の水中に導入し、作動媒体ガスに含まれる酸分を抽出した。
【0146】
抽出後の吸収瓶の水は、1本目と2本目を合わせて指示薬(BTB:ブロモチモールブルー)を1滴加え、1/100N−NaOHアルカリ標準液を用いて滴定した。同時に、吸収瓶の3本目および4本目の水を合わせて同様に滴定し、測定ブランクとした。これら測定値と測定ブランクの値から、試験後の作動媒体に含まれる酸分をHCl濃度として求めた。
【0147】
評価は、以下の基準によって行った。
○;酸分が2ppm未満である。
△;酸分が2ppm以上10ppm未満である。
×;酸分が10ppm以上である。
【0148】
結果を表1に示す。なお、表1において「<0.0001」は、検出限界(0.0001質量%)未満であることを示す。微量成分(X)の合計は、検出限界の成分を含む合計量(質量%)を小数点以下2桁で示した数字である。
【0149】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、冷凍・冷蔵機器(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等)、空調機器(ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等)、発電システム(廃熱回収発電等)、熱輸送装置(ヒートパイプ等)に利用可能である。
【符号の説明】
【0151】
10…冷凍サイクルシステム、11…圧縮機、12…凝縮器、13…膨張弁、14…蒸発器、15,16…ポンプ。
図1
図2