特許第6908067号(P6908067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6908067信号処理回路、位置検出装置および磁気センサシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908067
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】信号処理回路、位置検出装置および磁気センサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20210708BHJP
   G01D 5/244 20060101ALI20210708BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   G01B7/00 103M
   G01D5/244 B
   G01D5/245 R
【請求項の数】11
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2019-49339(P2019-49339)
(22)【出願日】2019年3月18日
(65)【公開番号】特開2020-153665(P2020-153665A)
(43)【公開日】2020年9月24日
【審査請求日】2020年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿木 俊司
(72)【発明者】
【氏名】望月 慎一郎
【審査官】 仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−139715(JP,A)
【文献】 特開2009−245421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00−7/34
G01R 33/00−33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準位置における磁界の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有する第1の検出信号、第2の検出信号および第3の検出信号を生成する磁気センサ装置から出力される前記第1ないし第3の検出信号を処理する信号処理回路であって、
あるタイミングにおける前記第1ないし第3の検出信号の値の組を測定データとし、前記第1ないし第3の検出信号の値を表すための3つの軸によって定義された直交座標系において前記測定データを表す座標を測定点としたときに、異なるタイミングにおける4つ以上の測定データを用いて、複数のタイミングにおける複数の測定点の分布を近似した球面を有する仮想の球体の中心座標を求める第1の処理と、
前記第1の処理に用いられる測定データの候補となる4つ以上の測定データの集合を候補データ集合とし、前記候補データ集合を構成する4つ以上の測定データの全部または一部である4つ以上の測定データの集合を判定用データ集合としたときに、前記判定用データ集合を用いて、前記候補データ集合が前記第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定する第2の処理とを行い、
前記第2の処理は、前記直交座標系において前記判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が、それらが1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していることを表す所定の判定基準を満たす場合には、前記候補データ集合が前記第1の処理に用いるのに適していないと判定し、それ以外の場合には、前記候補データ集合が前記第1の処理に用いるのに適していると判定し、
前記判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データは、所定の時間間隔を開けて取得された時系列データであることを特徴とする信号処理回路。
【請求項2】
更に、オフセット補正処理を行い、
前記オフセット補正処理は、前記第1ないし第3の検出信号と、前記第1の処理によって求められた前記中心座標とを用いて、前記第1ないし第3の検出信号のオフセットを補正して、第1ないし第3の補正後信号を生成することを特徴とする請求項1記載の信号処理回路。
【請求項3】
前記第2の処理は、前記候補データ集合を用いた前記第1の処理と並行して行われ、
前記第1の処理は、前記第2の処理によって前記候補データ集合が前記第1の処理に用いるのに適していると判定された場合にのみ、求めた中心座標を、適正な中心座標として出力することを特徴とする請求項1または2記載の信号処理回路。
【請求項4】
前記第1の処理は、前記第2の処理によって前記第1の処理に用いるのに適していると判定された候補データ集合を用いて行われることを特徴とする請求項1または2記載の信号処理回路。
【請求項5】
前記候補データ集合を構成する測定データの数は5つ以上であり、前記判定用データ集合を構成する測定データの数は、前記候補データ集合を構成する測定データの数よりも少ないことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の信号処理回路。
【請求項6】
前記判定用データ集合を構成する測定データの数は、前記候補データ集合を構成する測定データの数と等しいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の信号処理回路。
【請求項7】
前記第2の処理は、最小二乗法を用いて前記直交座標系において前記判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点の分布を近似した近似平面を決定する処理を含み、
前記判定基準は、前記近似平面を決定する際に得られる残差二乗和が所定の閾値以下であるというものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の信号処理回路。
【請求項8】
前記第1の検出信号の値を第1の変数とし、前記第2の検出信号の値を第2の変数とし、前記第3の検出信号の値を第3の変数としたときに、前記第2の処理は、前記判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに関して、前記第1の変数と前記第2の変数についての第1の相関係数と、前記第2の変数と前記第3の変数についての第2の相関係数と、前記第1の変数と前記第3の変数についての第3の相関係数とを求める処理を含み、
前記判定基準は、前記第1ないし第3の相関係数のうちの少なくとも1つの絶対値が所定の閾値以上であるというものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の信号処理回路。
【請求項9】
前記判定用データ集合を構成する測定データの数は4つであり、
前記第2の処理は、前記直交座標系において前記判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点を4つの頂点とする四面体の体積を求める処理を含み、
前記判定基準は、前記四面体の体積が所定の閾値以下であるというものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の信号処理回路。
【請求項10】
所定の磁界を発生する磁界発生器と、
磁気センサ装置と、
請求項1ないし9のいずれかに記載の信号処理回路とを備えた位置検出装置であって、
前記磁界発生器は、前記磁気センサ装置に対する相対的な位置が所定の球面に沿って変化可能であり、
前記磁気センサ装置は、前記第1ないし第3の検出信号を生成することを特徴とする位置検出装置。
【請求項11】
磁気センサ装置と、請求項1ないし9のいずれかに記載の信号処理回路とを備え、
前記磁気センサ装置は、前記第1の検出信号を生成する第1の磁気センサと、前記第2の検出信号を生成する第2の磁気センサと、前記第3の検出信号を生成する第3の磁気センサとを含むことを特徴とする磁気センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ装置から出力され、磁気センサ装置に印加される磁界の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有する3つの検出信号を処理する信号処理回路、ならびにこの信号処理回路を含む位置検出装置および磁気センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の用途で、印加される磁界の複数の方向の成分を検出する磁気センサ装置が用いられている。この磁気センサ装置の用途の1つとしては、特許文献1、2に記載されているような、3次元的に移動可能な磁石の位置を検出する磁気式の位置検出装置がある。
【0003】
磁気式の位置検出装置は、例えば、磁気センサ装置と、この磁気センサ装置を中心とする所定の球面に沿って移動可能な磁石と、信号処理回路とを備えている。磁気センサ装置は、磁石によって発生されて磁気センサ装置に印加される磁界の互いに直交する3つの方向の3成分を検出し、この3成分に対応する3つの検出信号を生成する。信号処理回路は、3つの検出信号に基づいて磁石の位置を表す位置情報を生成する。
【0004】
このような磁気式の位置検出装置では、磁石が発生する磁界以外の外乱磁界が磁気センサ装置に印加されたり、磁気センサ装置と磁石との位置関係が所望の位置関係からずれたりすると、3つの検出信号にオフセットが生じ、その結果、位置情報が不正確になる場合がある。
【0005】
3つの検出信号に生じたオフセットを補正する方法は、従来から知られている。その一般的な方法では、あるタイミングにおける3つの検出信号の値の組を測定データとし、三次元の直交座標系において、測定データを表す座標を測定点としたときに、複数のタイミングにおける複数の測定点の分布を近似した球面を有する仮想の球体の中心座標を求め、この中心座標を用いてオフセットを補正する。
【0006】
特許文献3には、3次元磁気センサから順次出力される、3成分を有する複数の磁気データを入力する入力手段と、入力された複数の磁気データから、予め決められた4点選抜条件を満たす4つの磁気データを選抜する選抜手段と、選抜された4つの磁気データを成分とする4点から等距離にある点である中心点を算出する算出手段と、中心点の成分を磁気データのオフセットとして設定する設定手段とを備えた磁気センサ制御装置が記載されている。また、特許文献3には、4点を、4点を通る球面上で広い範囲で満遍なく分散するように選抜することが重要である旨が記載されている。特許文献3における中心点は、前述の仮想の球体の中心座標に対応する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−245421号公報
【特許文献2】特開2018−189512号公報
【特許文献3】特開2007−139715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下、磁気センサ装置と磁石と信号処理回路とを備えた前述の磁気式の位置検出装置において、信号処理回路によって、オフセットの補正に用いられる仮想の球体の中心座標を求める処理を行う場合における問題点について説明する。仮想の球体の中心座標を求めるためには、4つ以上の測定データが必要である。以下、仮想の球体の中心座標を求めるために用いられる測定データの候補となる4つ以上の測定データの集合を候補データ集合と言う。
【0009】
位置検出装置では、信号処理回路に入力された候補データ集合が、仮想の球体の中心座標を決定するのに適さないものである場合が起こり得る。仮想の球体の中心座標を決定するのに適さない候補データ集合とは、例えば、前述の三次元の直交座標系において、1つの円上に位置するか1つの円の近傍に分布する4つ以上の測定点に対応する4つ以上の測定データの集合である。候補データ集合が、1つの円上に位置する4つ以上の測定点に対応する4つ以上の測定データの集合である場合には、この候補データ集合を用いて、仮想の球体の中心座標を決定することはできない。また、候補データ集合が、1つの円の近傍に分布する4つ以上の測定点に対応する4つ以上の測定データの集合である場合には、この候補データ集合を用いて仮想の球体の中心座標を決定すると、その中心座標は精度の悪いものになる可能性がある。このような問題は、例えば、特許文献1、2に記載されているようなジョイスティックに適用された位置検出装置において顕著に発生する。
【0010】
特許文献3に記載された技術によれば、中心点すなわち仮想の球体の中心座標を決定するのに適した4つの磁気データを選抜することができる。しかし、特許文献3に記載された技術では、4点選抜条件を満たす4つの磁気データが得られるまでに時間が掛かったり、所定の期間内に4点選抜条件を満たす4つの磁気データが得られなかったりする場合があるという問題点がある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、信号処理回路に与えられた候補データ集合が、オフセットの補正に用いられる仮想の球体の中心座標を決定するのに適しているか否かを判定できるようにした信号処理回路、位置検出装置および磁気センサシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の信号処理回路は、基準位置における磁界の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有する第1の検出信号、第2の検出信号および第3の検出信号を生成する磁気センサ装置から出力される第1ないし第3の検出信号を処理する回路である。
【0013】
本発明の信号処理回路は、第1の処理と第2の処理とを行う。第1の処理は、あるタイミングにおける第1ないし第3の検出信号の値の組を測定データとし、第1ないし第3の検出信号の値を表すための3つの軸によって定義された直交座標系において測定データを表す座標を測定点としたときに、異なるタイミングにおける4つ以上の測定データを用いて、複数のタイミングにおける複数の測定点の分布を近似した球面を有する仮想の球体の中心座標を求める。
【0014】
第2の処理は、第1の処理に用いられる測定データの候補となる4つ以上の測定データの集合を候補データ集合とし、候補データ集合を構成する4つ以上の測定データの全部または一部である4つ以上の測定データの集合を判定用データ集合としたときに、判定用データ集合を用いて、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定する。また、第2の処理は、直交座標系において判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が、それらが1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していることを表す所定の判定基準を満たす場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定し、それ以外の場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定する。
【0015】
本発明の信号処理回路は、更に、オフセット補正処理を行ってもよい。オフセット補正処理は、第1ないし第3の検出信号と、第1の処理によって求められた中心座標とを用いて、第1ないし第3の検出信号のオフセットを補正して、第1ないし第3の補正後信号を生成してもよい。
【0016】
また、本発明の信号処理回路において、第2の処理は、候補データ集合を用いた第1の処理と並行して行われてもよい。この場合、第1の処理は、第2の処理によって候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定された場合にのみ、求めた中心座標を、適正な中心座標として出力してもよい。
【0017】
また、本発明の信号処理回路において、第1の処理は、第2の処理によって第1の処理に用いるのに適していると判定された候補データ集合を用いて行われてもよい。
【0018】
また、本発明の信号処理回路において、候補データ集合を構成する測定データの数は5つ以上であってもよい。この場合、判定用データ集合を構成する測定データの数は、候補データ集合を構成する測定データの数よりも少なくてもよい。あるいは、判定用データ集合を構成する測定データの数は、候補データ集合を構成する測定データの数と等しくてもよい。
【0019】
また、本発明の信号処理回路において、第2の処理は、最小二乗法を用いて直交座標系において判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点の分布を近似した近似平面を決定する処理を含んでいてもよい。この場合、判定基準は、近似平面を決定する際に得られる残差二乗和が所定の閾値以下であるというものであってもよい。
【0020】
また、本発明の信号処理回路において、第1の検出信号の値を第1の変数とし、第2の検出信号の値を第2の変数とし、第3の検出信号の値を第3の変数としたときに、第2の処理は、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに関して、第1の変数と第2の変数についての第1の相関係数と、第2の変数と第3の変数についての第2の相関係数と、第1の変数と第3の変数についての第3の相関係数とを求める処理を含んでいてもよい。この場合、判定基準は、第1ないし第3の相関係数のうちの少なくとも1つの絶対値が所定の閾値以上であるというものであってもよい。
【0021】
また、本発明の信号処理回路において、判定用データ集合を構成する測定データの数は4つであってもよい。この場合、第2の処理は、直交座標系において判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点を4つの頂点とする四面体の体積を求める処理を含んでいてもよい。また、判定基準は、四面体の体積が所定の閾値以下であるというものであってもよい。
【0022】
本発明の位置検出装置は、所定の磁界を発生する磁界発生器と、磁気センサ装置と、本発明の信号処理回路とを備えている。磁界発生器は、磁気センサ装置に対する相対的な位置が所定の球面に沿って変化可能である。磁気センサ装置は、第1ないし第3の検出信号を生成する。
【0023】
本発明の磁気センサシステムは、磁気センサ装置と、本発明の信号処理回路とを備えている。磁気センサ装置は、第1の検出信号を生成する第1の磁気センサと、第2の検出信号を生成する第2の磁気センサと、第3の検出信号を生成する第3の磁気センサとを含んでいる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の信号処理回路、位置検出装置および磁気センサシステムによれば、信号処理回路が第2の処理を行うことにより、信号処理回路に与えられた候補データ集合が、オフセットの補正に用いられる仮想の球体の中心座標を決定するのに適しているか否かを判定することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る位置検出装置を含む関節機構の概略の構成を示す斜視図である。
図2図1に示した関節機構の概略の構成を示す断面図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る位置検出装置における基準座標系を説明するため説明図である。
図4】本発明の第1の実施の形態に係る磁気センサシステムの構成を示す機能ブロック図である。
図5】本発明の第1の実施の形態における磁気センサ組立体を示す斜視図である。
図6】本発明の第1の実施の形態における磁気センサ装置を示す平面図である。
図7】本発明の第1の実施の形態における磁気センサ装置の構成を示す説明図である。
図8】本発明の第1の実施の形態における磁気センサ装置の回路構成の一例を示す回路図である。
図9】本発明の第1の実施の形態における磁気抵抗効果素子を示す斜視図である。
図10】本発明の第1の実施の形態における1つの抵抗部の一部を示す斜視図である。
図11】本発明の第1の実施の形態における磁界変換部と第3の磁気センサの構成を示す説明図である。
図12】本発明の第1の実施の形態における第1ないし第3の磁気センサと軟磁性構造体のそれぞれの一部を示す断面図である。
図13】本発明の第1の実施の形態における第1の処理を示すフローチャートである。
図14】本発明の第1の実施の形態における第2の処理を示すフローチャートである。
図15】本発明の第2の実施の形態における第2の処理を示すフローチャートである。
図16】本発明の第3の実施の形態における第2の処理を示すフローチャートである。
図17】本発明の第4の実施の形態に係る磁気センサシステムの構成を示す機能ブロック図である。
図18】本発明の第4の実施の形態における第2のプロセッサの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、本発明の第1の実施の形態に係る位置検出装置1が適用された関節機構300について説明する。関節機構300は、関節を含む機構である。図1は、関節機構300の概略の構成を示す斜視図である。図2は、関節機構300の概略の構成を示す断面図である。図3は、位置検出装置1における基準座標系を説明するための説明図である。図4は、本実施の形態に係る磁気センサシステムの構成を示す機能ブロック図である。
【0027】
図1および図2に示したように、関節機構300は、第1の部材310と、第2の部材320と、位置検出装置1を含んでいる。
【0028】
第1の部材310は、軸部311と、この軸部311の長手方向の一端に連結された球状部312とを含んでいる。球状部312は、凸面312aを有している。凸面312aは、第1の球面の一部によって構成されている。第1の球面のうち、凸面312aに含まれない部分は、軸部311と球状部312の境界部分である。
【0029】
第2の部材320は、軸部321と、この軸部321の長手方向の一端に連結された受け部322とを含んでいる。受け部322は、凹面322aを有している。凹面322aは、第2の球面の一部によって構成されている。凹面322aは、第2の球面のうちの半分または半分に近い部分によって構成されていてもよい。
【0030】
第1の部材310と第2の部材320は、球状部312が受け部322に嵌り込んだ姿勢で、互いの位置関係が変化可能に連結されている。第2の球面の半径は、第1の球面の半径と等しいか、それよりもわずかに大きい。凸面312aと凹面322aは、接触していてもよいし、潤滑剤を介して対向していてもよい。第2の球面の中心は、第1の球面の中心と一致しているか、ほぼ一致している。第1の部材310と第2の部材320の連結部分が関節である。本実施の形態では特に、この関節は球関節である。
【0031】
位置検出装置1は、磁界発生器2と磁気センサ装置4とを備えている。位置検出装置1は、更に、図4に示した、本実施の形態に係る信号処理回路5を備えている。図4に示したように、磁気センサ装置4と信号処理回路5は、本実施の形態に係る磁気センサシステム3を構成している。従って、位置検出装置1は、磁界発生器2と磁気センサシステム3とを備えていると言える。
【0032】
磁界発生器2は、磁気センサ装置4に対する相対的な位置が所定の球面に沿って変化可能である。位置検出装置1は、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置を検出するための装置である。
【0033】
磁界発生器2は、所定の磁界を発生する。磁界発生器2は、例えば磁石である。磁気センサ装置4は、基準位置における磁界の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有する第1の検出信号、第2の検出信号および第3の検出信号を生成する。基準位置については、後で詳しく説明する。
【0034】
信号処理回路5は、第1ないし第3の検出信号を処理して、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置を表す位置情報を生成する。
【0035】
図1および図2に示したように、磁界発生器2は、凹面322aから突出しないように受け部322に埋め込まれている。磁気センサ装置4は、球状部312の内部に配置されている。以下、第1の球面の中心の位置を基準位置と言う。磁気センサ装置4は、基準位置における磁界を検出するように構成されている。
【0036】
以下、磁界発生器2によって発生された磁界のうちの基準位置における磁界を対象磁界と言う。対象磁界の方向は、例えば、基準位置と磁界発生器2とを通過する仮想の直線に平行である。図2に示した例では、磁界発生器2は、上記の仮想の直線に沿って並ぶN極とS極を有する磁石である。S極は、N極よりも基準位置により近い。図2に示した矢印付きの複数の破線は、磁界発生器2が発生する磁界に対応する磁力線を表している。
【0037】
図1および図2に示した関節機構300では、球状部312が受け部322に嵌り込んだ姿勢で、第1の部材310に対する第2の部材320の相対的位置が変化可能である。これにより、磁界発生器2は、磁気センサ装置4に対する相対的な位置が、前述の所定の球面に沿って変化可能である。本実施の形態では、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置を、磁界発生器2のうちの基準位置に最も近い点の位置とする。所定の球面の中心は、第1の球面の中心と一致しているか、ほぼ一致している。所定の球面の半径は、第1の球面の半径以上である。所定の球面の半径は、第1の球面の半径または第2の球面の半径と一致していてもよい。
【0038】
ここで、図3を参照して、本実施の形態における基準座標系について説明する。基準座標系は、磁気センサ装置4を基準とした座標系であって、第1ないし第3の検出信号の値を表すための3つの軸によって定義された直交座標系である。基準座標系では、X方向、Y方向、Z方向が定義されている。図3に示したように、X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。また、X方向とは反対の方向を−X方向とし、Y方向とは反対の方向を−Y方向とし、Z方向とは反対の方向を−Z方向とする。
【0039】
前述の通り、磁気センサ装置4は、基準位置における磁界の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有する第1の検出信号、第2の検出信号および第3の検出信号を生成する。本実施の形態では特に、上記の互いに異なる3つの方向は、X方向に平行な方向と、Y方向に平行な方向と、Z方向に平行な方向である。基準座標系を定義する3つの軸は、X方向に平行な軸と、Y方向に平行な軸と、Z方向に平行な軸である。
【0040】
基準座標系における磁気センサ装置4の位置は変化しない。磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置が変化すると、基準座標系における磁界発生器2の位置は、前述の所定の球面に沿って変化する。図3において、符号9は、所定の球面を示している。基準座標系における磁界発生器2の位置は、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置を表している。以下、基準座標系における磁界発生器2の位置を、単に磁界発生器2の位置と言う。また、基準位置を含むXY平面を基準平面と言う。
【0041】
位置検出装置1を含む関節機構300では、位置検出装置1によって、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置を検出することによって、第1の部材310に対する第2の部材320の相対的位置を検出することができる。関節機構300は、ロボット、産業機器、医療機器、アミューズメント機器等に利用される。
【0042】
位置検出装置1は、関節機構300の他に、ジョイスティックや、トラックボールにも適用することができる。
【0043】
ジョイスティックは、例えば、レバーと、このレバーを揺動可能に支持する支持部とを含んでいる。位置検出装置1を、ジョイスティックに適用する場合には、例えば、レバーの揺動に伴って、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置が所定の球面に沿って変化するように、支持部の内部に磁界発生器2を設け、レバーの内部に磁気センサ装置4を設ける。
【0044】
トラックボールは、例えば、ボールと、このボールを回転可能に支持する支持部とを含んでいる。位置検出装置1を、トラックボールに適用する場合には、例えば、ボールの回転に伴って、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置が所定の球面に沿って変化するように、支持部の内部に磁界発生器2を設け、ボールの内部に磁気センサ装置4を設ける。
【0045】
次に、図4を参照して、磁気センサ装置4と信号処理回路5の構成について説明する。磁気センサ装置4は、対象磁界の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有する第1の検出信号Sx、第2の検出信号Syおよび第3の検出信号Szを生成する。本実施の形態では、第1の検出信号Sxは、対象磁界の、第1の感磁方向の成分である第1の成分と対応関係を有する。第2の検出信号Syは、対象磁界の、第2の感磁方向の成分である第2の成分と対応関係を有する。第3の検出信号Szは、対象磁界の、第3の感磁方向の成分である第3の成分と対応関係を有する。
【0046】
本実施の形態では、磁気センサ装置4は、第1の検出信号Sxを生成する第1の磁気センサ10と、第2の検出信号Syを生成する第2の磁気センサ20と、第3の検出信号Szを生成する第3の磁気センサ30とを備えている。第1ないし第3の磁気センサ10,20,30の各々は、少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。
【0047】
信号処理回路5は、第1のプロセッサ7と第2のプロセッサ8とを備えている。本実施の形態では、第1のプロセッサ7を構成するハードウェアは、第2のプロセッサ8を構成するハードウェアとは異なっている。第1のプロセッサ7は、例えば特定用途向け集積回路(ASIC)によって構成されている。第2のプロセッサ8は、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。
【0048】
次に、磁気センサ装置4と第1のプロセッサ7の構成について説明する。本実施の形態では、磁気センサ装置4は、第1のチップの形態を有している。また、第1のプロセッサ7は、第1のチップとは異なる第2のチップの形態を有している。第1のプロセッサ7は、磁気センサ装置4と一体化されていてもよい。第2のプロセッサ8は、磁気センサ装置4および第1のプロセッサ7とは別体であってもよい。本実施の形態では、一体化された磁気センサ装置4および第1のプロセッサ7を、磁気センサ組立体200と言う。
【0049】
図5は、磁気センサ組立体200を示す斜視図である。図5に示したように、磁気センサ装置4および第1のプロセッサ7は、いずれも直方体形状を有している。また、磁気センサ装置4および第1のプロセッサ7は、いずれも外面を有している。
【0050】
磁気センサ装置4の外面は、互いに反対側に位置する上面4aおよび下面4bと、上面4aと下面4bを接続する4つの側面を含んでいる。第1のプロセッサ7の外面は、互いに反対側に位置する上面7aおよび下面7bと、上面7aと下面7bを接続する4つの側面を含んでいる。磁気センサ装置4は、下面4bが第1のプロセッサ7の上面7aに対向する姿勢で、上面7a上に実装されている。
【0051】
磁気センサ装置4は、上面4aに設けられた端子群を備えている。第1のプロセッサ7は、上面7aに設けられた端子群を備えている。磁気センサ装置4の端子群は、例えば複数のボンディングワイヤによって、第1のプロセッサ7の端子群に接続されている。
【0052】
次に、図6を参照して、第1ないし第3の磁気センサ10,20,30の配置について説明する。図6は、磁気センサ装置4を示す平面図である。図6に示したように、磁気センサ装置4は、前述の第1ないし第3の磁気センサ10,20,30と、第1ないし第3の磁気センサ10,20,30を支持する基板51と、端子群とを備えている。基板51は、上面51aと下面51bを有している。なお、下面51bは、後で説明する図12に示されている。
【0053】
ここで、図6を参照して、基準座標系および基準平面と磁気センサ装置4の構成要素との関係について説明する。前述のように、基準座標系では、X方向、Y方向、Z方向、−X方向、−Y方向、−Z方向が定義されている。X方向とY方向は基板51の上面51aに平行な方向である。Z方向は、基板51の上面51aに垂直な方向であって、基板51の下面51bから上面51aに向かう方向である。以下、基準の位置に対してZ方向の先にある位置を「上方」と言い、基準の位置に対して「上方」とは反対側にある位置を「下方」と言う。また、磁気センサ装置4の構成要素に関して、Z方向の端に位置する面を「上面」と言い、−Z方向の端に位置する面を「下面」と言う。
【0054】
本実施の形態では、基板51の上面51aが基準平面である。以下、基準平面を記号RPで表す。基準平面RPは、互いに異なる第1の領域A10と第2の領域A20と第3の領域A30を含んでいる。第1の領域A10は、基準平面RPに第1の磁気センサ10を垂直投影してできる領域である。第2の領域A20は、基準平面RPに第2の磁気センサ20を垂直投影してできる領域である。第3の領域A30は、基準平面RPに第3の磁気センサ30を垂直投影してできる領域である。
【0055】
ここで、基準平面RP内に位置して、第3の領域A30の重心C30を通り、Z方向に垂直で且つ互いに直交する2つの直線を第1の直線L1と第2の直線L2とする。本実施の形態では特に、第1の直線L1はX方向に平行であり、第2の直線L2はY方向に平行である。
【0056】
本実施の形態では、第1の磁気センサ10は、X方向の互いに異なる位置に配置された第1の部分11と第2の部分12を含んでいる。第1の領域A10は、基準平面RPに第1の磁気センサ10の第1の部分11を垂直投影してできる第1の部分領域A11と、基準平面RPに第1の磁気センサ10の第2の部分12を垂直投影してできる第2の部分領域A12を含んでいる。第1および第2の部分領域A11,A12は、第1の直線L1に平行な方向における第3の領域A30の両側に位置している。
【0057】
また、第2の磁気センサ20は、Y方向の互いに異なる位置に配置された第1の部分21と第2の部分22を含んでいる。第2の領域A20は、基準平面RPに第2の磁気センサ20の第1の部分21を垂直投影してできる第3の部分領域A21と、基準平面RPに第2の磁気センサ20の第2の部分22を垂直投影してできる第4の部分領域A22を含んでいる。第3および第4の部分領域A21,A22は、第2の直線L2に平行な方向における第3の領域A30の両側に位置している。
【0058】
本実施の形態では、第1および第2の部分領域A11,A12は、いずれも第1の直線L1と交差する位置にある。また、第3および第4の部分領域A21,A22は、いずれも第2の直線L2と交差する位置にある。
【0059】
第1の領域A10のいかなる部分も第2の直線L2とは交差しないことが好ましい。同様に、第2の領域A20のいかなる部分も第1の直線L1とは交差しないことが好ましい。
【0060】
本実施の形態では特に、第1の領域A10と第2の領域A20は、上方から見て、第3の領域A30の重心C30を中心として第1の領域A10を90°回転すると第2の領域A20に重なる位置関係である。図6において、重心C30を中心として反時計回り方向に第1および第2の部分領域A11,A12を90°回転すると、第1および第2の部分領域A11,A12はそれぞれ第3および第4の部分領域A21,A22に重なる。
【0061】
次に、図7および図8を参照して、磁気センサ装置4の構成の一例について説明する。図7は、磁気センサ装置4の構成を示す説明図である。図8は、磁気センサ装置4の回路構成の一例を示す回路図である。
【0062】
前述のように、第1の磁気センサ10は、対象磁界の、第1の感磁方向の成分である第1の成分と対応関係を有する第1の検出信号Sxを生成する。第2の磁気センサ20は、対象磁界の、第2の感磁方向の成分である第2の成分と対応関係を有する第2の検出信号Syを生成する。第3の磁気センサ30は、対象磁界の、第3の感磁方向の成分である第3の成分と対応関係を有する第3の検出信号Szを生成する。
【0063】
本実施の形態では特に、第1の感磁方向は、X方向に平行な方向である。第1の感磁方向は、X方向と−X方向とを含む。第2の感磁方向は、Y方向に平行な方向である。第2の感磁方向は、Y方向と−Y方向とを含む。第3の感磁方向は、Z方向に平行な方向である。第3の感磁方向は、Z方向と−Z方向とを含む。
【0064】
また、図7に示したように、磁気センサ装置4の端子群は、第1の磁気センサ10に対応する電源端子Vxおよび出力端子Vx+,Vx−と、第2の磁気センサ20に対応する電源端子Vyおよび出力端子Vy+,Vy−と、第3の磁気センサ30に対応する電源端子Vzおよび出力端子Vz+,Vz−と、第1ないし第3の磁気センサ10,20,30で共通に使用されるグランド端子Gとを含んでいる。
【0065】
図8に示した例では、第1の磁気センサ10は、ホイートストンブリッジ回路を構成する4つの抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4を含んでいる。抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4の各々は、対象磁界の第1の成分に応じて変化する抵抗値を有する。抵抗部Rx1は、電源端子Vxと出力端子Vx+との間に設けられている。抵抗部Rx2は、出力端子Vx+とグランド端子Gとの間に設けられている。抵抗部Rx3は、電源端子Vxと出力端子Vx−との間に設けられている。抵抗部Rx4は、出力端子Vx−とグランド端子Gとの間に設けられている。
【0066】
第2の磁気センサ20は、ホイートストンブリッジ回路を構成する4つの抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4を含んでいる。抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の各々は、対象磁界の第2の成分に応じて変化する抵抗値を有する。抵抗部Ry1は、電源端子Vyと出力端子Vy+との間に設けられている。抵抗部Ry2は、出力端子Vy+とグランド端子Gとの間に設けられている。抵抗部Ry3は、電源端子Vyと出力端子Vy−との間に設けられている。抵抗部Ry4は、出力端子Vy−とグランド端子Gとの間に設けられている。
【0067】
第3の磁気センサ30は、ホイートストンブリッジ回路を構成する4つの抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4を含んでいる。抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の各々は、後述する磁界変換部から出力される出力磁界成分に応じて変化する抵抗値を有する。抵抗部Rz1は、電源端子Vzと出力端子Vz+との間に設けられている。抵抗部Rz2は、出力端子Vz+とグランド端子Gとの間に設けられている。抵抗部Rz3は、電源端子Vzと出力端子Vz−との間に設けられている。抵抗部Rz4は、出力端子Vz−とグランド端子Gとの間に設けられている。
【0068】
以下、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4,Ry1,Ry2,Ry3,Ry4,Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のうちの任意の1つを抵抗部Rと言う。抵抗部Rは、少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。本実施の形態では特に、少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子である。以下、磁気抵抗効果素子をMR素子と記す。
【0069】
本実施の形態では特に、MR素子は、スピンバルブ型のMR素子である。このスピンバルブ型のMR素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、印加磁界の方向に応じて方向が変化可能な磁化を有する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置されたギャップ層とを有している。スピンバルブ型のMR素子は、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子でもよいし、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子でもよい。TMR素子では、ギャップ層はトンネルバリア層である。GMR素子では、ギャップ層は非磁性導電層である。スピンバルブ型のMR素子では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。各MR素子において、自由層は、磁化容易軸方向が、磁化固定層の磁化の方向に直交する方向となる形状異方性を有している。
【0070】
図8において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表している。図8に示した例では、抵抗部Rx1,Rx4の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向は、X方向である。抵抗部Rx2,Rx3の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向は、−X方向である。
【0071】
また、抵抗部Ry1,Ry4の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向は、Y方向である。抵抗部Ry2,Ry3の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向は、−Y方向である。抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向については、後で説明する。
【0072】
出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差は、対象磁界の第1の成分と対応関係を有する。第1の磁気センサ10は、出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差に対応する第1の検出信号Sxを生成する。第1の検出信号Sxは、出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差に対して振幅やオフセットの調整を施したものであってもよい。
【0073】
出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差は、対象磁界の第2の成分と対応関係を有する。第2の磁気センサ20は、出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差に対応する第2の検出信号Syを生成する。第2の検出信号Syは、出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差に対して振幅やオフセットの調整を施したものであってもよい。
【0074】
出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差は、対象磁界の第3の成分と対応関係を有する。第3の磁気センサ30は、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差に対応する第3の検出信号Szを生成する。第3の検出信号Szは、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差に対して振幅やオフセットの調整を施したものであってもよい。
【0075】
ここで、図7を参照して、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4,Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の配置の一例について説明する。この例では、第1の磁気センサ10の第1の部分11は抵抗部Rx1,Rx4を含み、第1の磁気センサ10の第2の部分12は抵抗部Rx2,Rx3を含んでいる。また、第2の磁気センサ20の第1の部分21は抵抗部Ry1,Ry4を含み、第2の磁気センサ20の第2の部分22は抵抗部Ry2,Ry3を含んでいる。
【0076】
図7において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表している。図7に示した例では、第1の磁気センサ10の第1の部分11と、第1の磁気センサ10の第2の部分12と、第2の磁気センサ20の第1の部分21と、第2の磁気センサ20の第2の部分22の各々において、そこに含まれる複数のMR素子の磁化固定層の磁化の方向が同じ方向になる。そのため、この例によれば、複数のMR素子の磁化固定層の磁化の方向の設定が容易になる。
【0077】
次に、図9を参照して、MR素子の構成の一例について説明する。図9に示したMR素子100は、基板51側から順に積層された反強磁性層101、磁化固定層102、ギャップ層103および自由層104を含んでいる。反強磁性層101は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層102との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層102の磁化の方向を固定する。
【0078】
なお、MR素子100における層101〜104の配置は、図9に示した配置とは上下が反対でもよい。また、磁化固定層102は、単一の強磁性層ではなく、2つの強磁性層とこの2つの強磁性層の間に配置された非磁性金属層とを含む人工反強磁性構造であってもよい。また、MR素子100は、反強磁性層101を含まない構成であってもよい。また、磁気検出素子は、ホール素子、磁気インピーダンス素子等、MR素子以外の磁界を検出する素子であってもよい。
【0079】
次に、図10を参照して、抵抗部Rの構成の一例について説明する。この例では、抵抗部Rは、直列に接続された複数のMR素子100を含んでいる。抵抗部Rは、更に、複数のMR素子100が直列に接続されるように、回路構成上隣接する2つのMR素子100を電気的に接続する1つ以上の接続層を含んでいる。図10に示した例では、抵抗部Rは、1つ以上の接続層として、1つ以上の下部接続層111と、1つ以上の上部接続層112とを含んでいる。下部接続層111は、回路構成上隣接する2つのMR素子100の下面に接し、この2つのMR素子100を電気的に接続する。上部接続層112は、回路構成上隣接する2つのMR素子100の上面に接し、この2つのMR素子100を電気的に接続する。
【0080】
次に、図11を参照して、第3の磁気センサ30の構成の一例について説明する。第3の磁気センサ30は、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の他に、軟磁性材料よりなる軟磁性構造体40を含んでいる。軟磁性構造体40は、磁界変換部42と、少なくとも1つの軟磁性層を含んでいる。磁界変換部42は、対象磁界の第3の成分を受けて第3の感磁方向に垂直な方向の出力磁界成分を出力する。出力磁界成分の強度は、対象磁界の第3の成分の強度と対応関係を有する。第3の磁気センサ30は、出力磁界成分の強度を検出することによって、対象磁界の第3の成分の強度を検出する。
【0081】
図11に示した例では、磁界変換部42は、抵抗部Rz1に対応する下部ヨーク42B1および上部ヨーク42T1と、抵抗部Rz2に対応する下部ヨーク42B2および上部ヨーク42T2と、抵抗部Rz3に対応する下部ヨーク42B3および上部ヨーク42T3と、抵抗部Rz4に対応する下部ヨーク42B4および上部ヨーク42T4とを含んでいる。
【0082】
下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4および上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4の各々は、Z方向に垂直な方向に長い直方体形状を有している。
【0083】
下部ヨーク42B1および上部ヨーク42T1は、抵抗部Rz1の近傍に配置されている。下部ヨーク42B1は、抵抗部Rz1よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T1は、抵抗部Rz1よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz1は、下部ヨーク42B1と上部ヨーク42T1の間に位置している。
【0084】
下部ヨーク42B2および上部ヨーク42T2は、抵抗部Rz2の近傍に配置されている。下部ヨーク42B2は、抵抗部Rz2よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T2は、抵抗部Rz2よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz2は、下部ヨーク42B2と上部ヨーク42T2の間に位置している。
【0085】
下部ヨーク42B3および上部ヨーク42T3は、抵抗部Rz3の近傍に配置されている。下部ヨーク42B3は、抵抗部Rz3よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T3は、抵抗部Rz3よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz3は、下部ヨーク42B3と上部ヨーク42T3の間に位置している。
【0086】
下部ヨーク42B4および上部ヨーク42T4は、抵抗部Rz4の近傍に配置されている。下部ヨーク42B4は、抵抗部Rz4よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T4は、抵抗部Rz4よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz4は、下部ヨーク42B4と上部ヨーク42T4の間に位置している。
【0087】
磁界変換部42が出力する出力磁界成分は、下部ヨーク42B1および上部ヨーク42T1によって生成されて抵抗部Rz1に印加される磁界成分と、下部ヨーク42B2および上部ヨーク42T2によって生成されて抵抗部Rz2に印加される磁界成分と、下部ヨーク42B3および上部ヨーク42T3によって生成されて抵抗部Rz3に印加される磁界成分と、下部ヨーク42B4および上部ヨーク42T4によって生成されて抵抗部Rz4に印加される磁界成分を含んでいる。
【0088】
図11において、4つの白抜きの矢印は、それぞれ、対象磁界の第3の成分の方向がZ方向であるときに、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4に印加される磁界成分の方向を表している。また、図11において、4つの塗りつぶした矢印は、それぞれ、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のMR素子100の磁化固定層102の磁化の方向を表している。抵抗部Rz1,Rz4のMR素子100の磁化固定層102の磁化の方向は、それぞれ、対象磁界の第3の成分の方向がZ方向であるときに抵抗部Rz1,Rz4に印加される磁界成分の方向と同じ方向である。抵抗部Rz2,Rz3のMR素子100の磁化固定層102の磁化の方向は、それぞれ、対象磁界の第3の成分の方向がZ方向であるときに抵抗部Rz2,Rz3に印加される磁界成分の方向とは反対方向である。
【0089】
ここで、第3の磁気センサ30の作用について説明する。対象磁界の第3の成分が存在しない状態では、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のMR素子100の自由層104の磁化の方向は、磁化固定層102の磁化の方向に対して垂直である。
【0090】
対象磁界の第3の成分の方向がZ方向であるときには、抵抗部Rz1,Rz4のMR素子100では、自由層104の磁化の方向は、磁化固定層102の磁化の方向に対して垂直な方向から、磁化固定層102の磁化の方向に向かって傾く。このとき、抵抗部Rz2,Rz3のMR素子100では、自由層104の磁化の方向は、磁化固定層102の磁化の方向に対して垂直な方向から、磁化固定層102の磁化の方向とは反対方向に向かって傾く。その結果、対象磁界の第3の成分が存在しない状態と比べて、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値は減少し、抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値は増加する。
【0091】
対象磁界の第3の成分の方向が−Z方向の場合は、上述の場合とは逆に、対象磁界の第3の成分が存在しない状態と比べて、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値は増加し、抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値は減少する。
【0092】
抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の抵抗値の変化量は、第3の成分の強度に依存する。
【0093】
対象磁界の第3の成分の方向と強度が変化すると、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のそれぞれの抵抗値は、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値が増加すると共に抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値が減少するか、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値が減少すると共に抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値が増加するように変化する。これにより、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差が変化する。従って、この電位差に基づいて、対象磁界の第3の成分を検出することができる。第3の磁気センサ30は、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差に対応する第3の検出信号Szを生成する。第3の検出信号Szは、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差に対して振幅やオフセットの調整を施したものであってもよい。
【0094】
次に、図12を参照して、第1ないし第3の磁気センサ10,20,30の構造の一例について説明する。図12は、第1ないし第3の磁気センサ10,20,30のそれぞれの一部を示している。この例では、第1ないし第3の磁気センサ10,20,30は、基板51の上に配置されている。基板51は、上面51aと下面51bを有している。
【0095】
第1の磁気センサ10は、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4の他に、それぞれ絶縁材料よりなる絶縁層66A,67A,68Aを含んでいる。絶縁層66Aは、基板51の上面51aの上に配置されている。抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4は、絶縁層66Aの上に配置されている。図12には、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4に含まれる複数のMR素子100のうちの1つと、それに接続された下部接続層111および上部接続層112を示している。絶縁層67Aは、絶縁層66Aの上面の上において抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4の周囲に配置されている。絶縁層68Aは、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4および絶縁層67Aを覆っている。
【0096】
第2の磁気センサ20の構造は、第1の磁気センサ10と同様である。すなわち、第2の磁気センサ20は、抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の他に、それぞれ絶縁材料よりなる絶縁層66B,67B,68Bを含んでいる。絶縁層66Bは、基板51の上面51aの上に配置されている。抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4は、絶縁層66Bの上に配置されている。図12には、抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4に含まれる複数のMR素子100のうちの1つと、それに接続された下部接続層111および上部接続層112を示している。絶縁層67Bは、絶縁層66Bの上面の上において抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の周囲に配置されている。絶縁層68Bは、抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4および絶縁層67Bを覆っている。
【0097】
第3の磁気センサ30は、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4および軟磁性構造体40の他に、それぞれ絶縁材料よりなる絶縁層61,62,63,64を含んでいる。図12に示した例では、軟磁性構造体40は、磁界変換部42と、2つの軟磁性層41,43を含んでいる。
【0098】
磁界変換部42は、図11に示した下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4および上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4を含んでいる。図12では、下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4のうちの1つを符号42Bで示し、それに対応する上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4のうちの1つを符号42Tで示している。
【0099】
軟磁性層41は、基板51の上面51aの上に配置されている。下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4は、軟磁性層41の上に配置されている。絶縁層61は、軟磁性層41の上において下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4の周囲に配置されている。
【0100】
抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4は、絶縁層61の上に配置されている。図12には、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4に含まれる複数のMR素子100のうちの1つと、それに接続された下部接続層111および上部接続層112を示している。絶縁層62は、下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4および絶縁層61の上において抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の周囲に配置されている。
【0101】
上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4は、絶縁層62の上に配置されている。絶縁層63は、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4および絶縁層62の上において上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4の周囲に配置されている。
【0102】
軟磁性層43は、上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4および絶縁層63の上に配置されている。絶縁層64は、軟磁性層43を覆っている。
【0103】
上方から見たときに、軟磁性層41,43は、第3の磁気センサ30の全域またはほぼ全域にわたって存在する。言い換えると、基準平面RPに軟磁性層41を垂直投影してできる領域と、基準平面RPに軟磁性層43を垂直投影してできる領域は、いずれも、第3の領域A30と一致するかほぼ一致する。
【0104】
図12に示した例では、第1ないし第3の磁気センサ10,20,30に含まれる全ての磁気検出素子すなわちMR素子100は、基板51の上面51aすなわち基準平面RPから等しい距離の位置に配置されている。
【0105】
なお、磁界変換部42は、下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4と、上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4の一方のみを含んでいてもよい。また、軟磁性構造体40は、軟磁性層41,43の一方のみを含んでいてもよい。
【0106】
次に、図4を参照して、信号処理回路5が行う処理の内容と信号処理回路5の構成について説明する。信号処理回路5は、第1の処理と、第2の処理と、オフセット補正処理と、位置情報生成処理とを行う。前述の通り、信号処理回路5は、第1のプロセッサ7と第2のプロセッサ8とを備えている。第1のプロセッサ7は、アナログ−デジタル変換器(以下、A/D変換器と記す。)70A,70B,70Cを含んでいる。第2のプロセッサ8は、第1の処理を行う球体情報生成部81と、第2の処理を行う判定部82と、オフセット補正処理を行うオフセット補正部83と、位置情報生成処理を行う位置情報生成部84とを含んでいる。球体情報生成部81、判定部82、オフセット補正部83および位置情報生成部84は、それぞれ上述の処理を行う機能ブロックである。
【0107】
A/D変換器70A,70B,70Cは、それぞれ、第1ないし第3の検出信号Sx,Sy,Szをデジタル信号に変換する。デジタル信号に変換された第1ないし第3の検出信号Sx,Sy,Szは、球体情報生成部81、判定部82およびオフセット補正部83に入力される。
【0108】
第1の処理、第2の処理、オフセット補正処理および位置情報生成処理は、それぞれ、位置検出装置1の使用時に、繰り返し実行される。
【0109】
ここで、あるタイミングにおける第1ないし第3の検出信号Sx,Sy,Szの値の組を測定データとし、前述の基準座標系において測定データを表す座標(Sx,Sy,Sz)を測定点とする。前述のように、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置が変化すると、基準座標系における磁界発生器2の位置は、所定の球面に沿って変化する。従って、複数のタイミングにおける複数の測定点を取得し、複数の測定点を基準座標系にプロットすると、複数の測定点の分布は、球面で近似することができる。本実施の形態では、この複数の測定点の分布を近似した球面を近似球面と言う。複数の測定点は、近似球面上または近似球面の近傍に分布する。
【0110】
球体情報生成部81による第1の処理は、異なるタイミングにおける4つ以上の測定データを用いて、近似球面を有する仮想の球体の中心座標を求める。以下、第1の処理に用いられる測定データの候補となる4つ以上の測定データの集合を候補データ集合と言う。第1の処理は、候補データ集合を用いて行われるとも言える。
【0111】
第1の処理は、更に、候補データ集合を用いて仮想の球体の半径を求めてもよい。以下、仮想の球体の中心座標および半径のデータを含む情報を、球体情報と言う。仮想の球体の中心座標および半径は、例えば、4つの測定データと球面の方程式を用いて、4つの測定点を含む近似球面を決定することによって求めてもよい。あるいは、仮想の球体の中心座標および半径は、5つ以上の測定データと球面の方程式と最小二乗法とを用いて、5つ以上の測定点に最も近い近似球面を決定することによって求めてもよい。
【0112】
判定部82による第2の処理は、候補データ集合を構成する4つ以上の測定データの全部または一部である4つ以上の測定データを用いて、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定する。以下、第2の処理に用いられる4つ以上の測定データの集合を、判定用データ集合と言う。第2の処理は、判定用データ集合を用いて行われるとも言える。
【0113】
本実施の形態では、第2の処理は、候補データ集合を用いた第1の処理と並行して行われる。第1の処理は、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適しているか否かに関わらずに、候補データ集合を用いて仮想の球体の中心座標を求める処理を開始する。本実施の形態では、第2の処理は、第1の処理よりも短時間で完了する。そのため、第1の処理によって仮想の球体の中心座標が求まる前に、第2の処理による判定が完了する。以下、第1の処理に用いるのに適していると判定された候補データ集合を用いて、第1の処理によって求められた中心座標は、適正な中心座標である。第1の処理は、適正な中心座標を保持すると共に、新たな適正な中心座標が得られるたびに、保持している適正な中心座標を更新する。
【0114】
判定部82は、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定した場合には、中止指令を球体情報生成部81に対して出力する。判定部82は、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定した場合には、中止指令を出力しない。
【0115】
球体情報生成部81は、中止指令を受信したら、第1の処理を中止する。球体情報生成部81は、仮想の球体の中心座標が求まるまでに中止指令を受信しなかった場合には、求めた中心座標を、適正な中心座標として保持する。また、球体情報生成部81は、保持している適正な中心座標を、オフセット補正部83に対して出力する。このようにして、第1の処理は、第2の処理によって候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定された場合にのみ、求めた中心座標を、適正な中心座標としてオフセット補正部83に対して出力する。本実施の形態では、球体情報生成部81および第1の処理によって保持および出力される中心座標は、適正な中心座標である。
【0116】
球体情報生成部81は、第1の処理を中止した場合と、適正な中心座標を更新した場合のいずれにおいても、直ちに、あるいは所定のタイミングで、新たな候補データ集合を用いて仮想の球体の中心座標を求める処理を開始する。
【0117】
候補データ集合を構成する測定データの数は5つ以上であってもよい。この場合、判定用データ集合を構成する測定データの数は、候補データ集合を構成する測定データの数よりも少なくてもよいし、候補データ集合を構成する測定データの数と等しくてもよい。候補データ集合を構成する測定データの数が4つの場合は、判定用データ集合を構成する測定データの数は、候補データ集合を構成する測定データの数と等しく、4つである。
【0118】
球体情報生成部81は、候補データ集合を構成する4つ以上の測定データを時系列データとして取得する。判定用データ集合を構成する測定データの数が、候補データ集合を構成する測定データの数よりも少ない場合には、判定部82は、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データとして、球体情報生成部81が候補データ集合を取得する期間のうちの一部の期間における4つ以上の測定データを間引くことなく取得してもよい。あるいは、判定部82は、球体情報生成部81が取得する時系列的データの一部を所定の時間間隔を開けて取得して、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データとしてもよい。
【0119】
オフセット補正部83によるオフセット補正処理は、第1ないし第3の検出信号Sx,Sy,Szと、球体情報生成部81が保持および出力する適正な中心座標とを用いて、第1ないし第3の検出信号Sx,Sy,Szのオフセットを補正して、第1ないし第3の補正後信号を生成し、第1ないし第3の補正後信号を位置情報生成部84に対して出力する。
【0120】
なお、球体情報生成部81は、初期球体情報を保持していてもよい。初期球体情報は、前記の仮想の球体の中心座標の初期値および半径の初期値のデータを含んでいる。中心座標の初期値および半径の初期値のデータは、例えば、位置検出装置1が適用される関節機構300の構成に基づいて、関節機構300を含む機器の出荷前に決定される。中心座標の初期値も、適正な中心座標である。
【0121】
位置情報生成部84における位置情報生成処理は、第1ないし第3の補正後信号に基づいて、磁気センサ装置4に対する磁界発生器2の相対的な位置を表す位置情報を生成する。
【0122】
次に、判定部82による第2の処理について具体的に説明する。第2の処理は、基準座標系において判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が、それらが1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していることを表す所定の判定基準を満たす場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定し、それ以外の場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定する。
【0123】
本実施の形態では、第2の処理は、最小二乗法を用いて近似平面を決定する処理を含んでいる。近似平面は、基準座標系において判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点の分布を近似した平面である。ここで、第1の検出信号Sxの値を第1の変数xとし、第2の検出信号Syの値を第2の変数yとし、第3の検出信号Szの値を第3の変数zとすると、近似平面は、例えば、下記の式(1)で表される。なお、式(1)におけるa,b,cは、定数である。
【0124】
z=a・x+b・y+c …(1)
【0125】
ここで、N個(Nは4以上の整数)の測定点を、1番目ないしN番目の測定点と呼ぶ。そして、i番目(iは、1以上N以下の任意の整数)の測定点を、(Sxi,Syi,Szi)と表す。最小二乗法では、例えば、式(1)のx,yにSxi,Syiを代入して得られるzの値とSziとの残差の二乗の総和である残差二乗和RSSを求める。そして、残差二乗和RSSが最小になるa,b,cを求めることによって、近似平面を決定する。残差二乗和RSSは、下記の式(2)によって算出される。なお、式(2)における“Σ”は、1からNまでのiについて総和を表す。
【0126】
RSS=Σ(a・Sxi+b・Syi+c−Szi)2 …(2)
【0127】
N個の測定点が近似平面上およびその近傍の範囲内に分布している場合には、残差二乗和RSSは小さくなる。特に、N個の測定点の全てが近似平面上に位置している場合には、残差二乗和RSSは0になる。本実施の形態では、第2の処理は、残差二乗和RSSの上記の性質を利用して、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定する。本実施の形態における判定基準は、上述のように最小二乗法を用いて近似平面を決定する際に得られる残差二乗和RSSが所定の閾値TH1以下であるというものである。
【0128】
閾値TH1が0である場合には、判定基準は、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が1つの平面上に位置していることを表すものとなる。閾値TH1が0よりも大きい場合には、判定基準は、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していることを表すものとなる。
【0129】
第2の処理は、残差二乗和RSSが閾値TH1以下の場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定し、それ以外の場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定する。
【0130】
ここで、閾値TH1の例について説明する。残差二乗和RSSのディメンションは、長さの二乗である。そのため、閾値TH1のディメンションも、長さの二乗である。前述のように、球体情報生成部81が初期球体情報を保持している場合、閾値TH1は、例えば、仮想の球体の半径の初期値の二乗に比例する値であってもよい。ここで、仮想の球体の半径の初期値を記号R0で表す。閾値TH1は、例えば、初期値R0の二乗と、測定点の数Nと、閾値調整値C1の積C1・N・R02であってもよい。残差二乗和RSSは0以上であることから、閾値TH1も0以上である必要がある。NとR02は正の値であることから、閾値調整値C1は0以上である必要がある。
【0131】
残差二乗和RSSを測定点の数Nで割った値RSS/Nは、残差の二乗の平均値である。閾値TH1がC1・N・R02である場合、判定基準は、残差の二乗の平均値RSS/Nが、C1・R02以下であることを表している。本実施の形態における判定基準は、残差の二乗の平均値RSS/Nが、半径の初期値R0の二乗に比べて、十分に小さいことを表している。
【0132】
閾値調整値C1は、閾値TH1を調整するための値である。閾値調整値C1が小さいほど閾値TH1も小さくなる。閾値調整値C1は、0.5よりも小さいことが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。例えば、閾値調整値C1が0である場合には、閾値TH1も0である。この場合には、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点の全てが近似平面上に位置している場合にのみ、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定される。閾値調整値C1が0よりも大きいが、1よりも十分に小さい値である場合には、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が近似平面上およびその近傍の範囲内に分布している場合に、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定される。
【0133】
次に、オフセット補正部83によるオフセット補正処理と位置情報生成部84による位置情報生成処理について具体的に説明する。以下の説明では、第1の補正後信号を記号CSxで表し、第2の補正後信号を記号CSyで表し、第3の補正後信号を記号CSzで表し、仮想の球体の中心座標を(cx,cy,cz)と表す。
【0134】
前述のように、基準座標系における磁界発生器2の位置は、所定の球面に沿って変化し、複数の測定点は、近似球面上または近似球面の近傍に分布する。また、所定の球面の中心は、第1の球面の中心すなわち基準位置と一致しているか、ほぼ一致している。従って、オフセットが生じていなければ、近似球面を有する仮想の球体の中心座標(cx,cy,cz)は、基準位置と一致するか、ほぼ一致する。しかし、オフセットが生じると、仮想の球体の中心座標(cx,cy,cz)は、基準位置からずれてしまう。
【0135】
基準座標系の原点は、基準位置であってもよい。この場合、オフセット補正処理は、例えば、球体情報生成処理において算出した仮想の球体の中心座標(cx,cy,cz)が基準座標系の原点(0,0,0)になるように、測定点(Sx,Sy,Sz)を点(Sx−cx,Sy−cy,Sz−cz)に変換する処理であってもよい。この場合、第1ないし第3の補正後信号CSx,CSy,CSzは、それぞれ下記の式(3)〜(5)で表される。
【0136】
CSx=Sx−cx …(3)
CSy=Sy−cy …(4)
CSz=Sz−cz …(5)
【0137】
基準座標系における点(CSx,CSy,CSz)は、基準座標系における磁界発生器2の座標と対応関係を有している。位置情報生成処理は、例えば、点(CSx,CSy,CSz)の各成分すなわち第1ないし第3の補正後信号CSx,CSy,CSzを補正して、基準座標系における磁界発生器2の座標を求める処理であってもよい。第1ないし第3の補正後信号CSx,CSy,CSzの補正は、例えば、基準座標系における原点から点(CSx,CSy,CSz)までの距離が、磁気センサ装置4から磁界発生器2までの実際の距離と等しくなるように、第1ないし第3の補正後信号CSx,CSy,CSzの各々に所定の補正係数を乗算することによって行われる。
【0138】
次に、図13を参照して、第1の処理について説明する。図13は、第1の処理を示すフローチャートである。第1の処理は、位置検出装置1の使用時に、繰り返し実行される。
【0139】
第1の処理では、まず、前述のように取得した候補データ集合を用いて、仮想の球体の中心座標を求める処理を開始する(ステップS1)。
【0140】
第1の処理では、次に、判定部82から中止指令が来たか否かを確認する(ステップS2)。ステップS2において中止指令が来ていない場合(NO)には、仮想の球体の中心座標を求める処理が完了したか否かを判断する(ステップS3)。ステップS3において処理が完了していないと判断された場合(NO)には、ステップS2に戻る。
【0141】
ステップS3において処理が完了したと判断された場合(YES)には、第2の処理において、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定され、且つ第1の処理において、適正な中心座標が得られたことになる。この場合には、得られた中心座標で、保持している適正な中心座標を更新して(ステップS4)、1回の第1の処理を終了する。
【0142】
ステップS2において中止指令が来た場合(YES)には、仮想の球体の中心座標を求める処理を中止して(ステップS5)、1回の第1の処理を終了する。
【0143】
次に、図14を参照して、第2の処理について説明する。図14は、第2の処理を示すフローチャートである。第2の処理は、位置検出装置1の使用時に、繰り返し実行される。
【0144】
第2の処理では、まず、前述のように取得した判定用データ集合を用いて、最小二乗法を用いて近似平面を決定する処理を実行する(ステップS11)。次に、ステップS11において得られた残差二乗和RSSが閾値TH1以下であるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12において残差二乗和RSSが閾値TH1以下である場合(YES)には、中止指令を球体情報生成部81に対して出力して(ステップS13)、1回の第2の処理を終了する。ステップS12において残差二乗和RSSが閾値TH1以下ではない場合(NO)には、中止指令を出力することなく、1回の第2の処理を終了する。次回の第2の処理は、次回の第1の処理と同時に開始される。
【0145】
以下、本実施の形態に係る位置検出装置1、信号処理回路5および磁気センサシステム3による効果について説明する。
【0146】
基準座標系において候補データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が1つの平面上に位置している場合には、この4つ以上の測定点を用いて仮想の球体の中心座標を決定することはできない。また、この4つ以上の測定点が1つの平面の近傍に分布している場合には、この4つ以上の測定点を用いて仮想の球体の中心座標を決定すると、その中心座標は精度の悪いものになる可能性がある。従って、このような候補データ集合は、仮想の球体の中心座標を決定するのに適さないものである。
【0147】
本実施の形態では、信号処理回路5は、候補データ集合を用いて仮想の球体の中心座標を決定する第1の処理と、判定用データ集合を用いて、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定する第2の処理とを行う。本実施の形態によれば、信号処理回路5が第2の処理を行うことにより、信号処理回路5に与えられた候補データ集合が、近似球面を有する仮想の球体の中心座標を求める第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定することができる。判定用データ集合は、候補データ集合を構成する4つ以上の測定データの全部または一部である4つ以上の測定データの集合である。判定用データ集合を用いた第2の処理によって、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定された場合には、実際に、候補データ集合が仮想の球体の中心座標を決定するのに適さないものである可能性がある。
【0148】
また、第1の処理では、第1の処理に用いるのに適していると判定された候補データ集合を用いて求められた適正な中心座標を保持する。オフセット補正処理は、この適正な中心座標を用いて、オフセットの補正を行う。そのため、本実施の形態によれば、オフセットの補正に用いられる仮想の球体の中心座標の信頼性を高めることができ、その結果、オフセットの補正の信頼性を高めることができる。
【0149】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態では、判定部82による第2の処理の内容が、第1の実施の形態と異なっている。以下、本実施の形態における第2の処理について具体的に説明する。
【0150】
ここで、複数の測定点を、基準座標系におけるXY平面、YZ平面およびXZ平面に投影することを考える。以下、これらの平面に投影した測定点を、投影点と言う。もし、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布している場合には、XY平面、YZ平面およびXZ平面のうちの少なくとも1つにおいて、4つ以上の測定点に対応する4つ以上の投影点は、1つの直線上およびその近傍の範囲内に分布する可能性が高い。逆に、XY平面、YZ平面およびXZ平面のうちの少なくとも1つにおいて、4つ以上の測定点に対応する4つ以上の投影点が1つの直線上およびその近傍の範囲内に分布している場合には、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点は、1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布している可能性が高い。
【0151】
XY平面において4つ以上の投影点が1つの直線上およびその近傍の範囲内に分布するということは、第1の検出信号Sxと第2の検出信号Syの相関関係が強いことを意味する。同様に、YZ平面において4つ以上の投影点が1つの直線上およびその近傍の範囲内に分布するということは、第2の検出信号Syと第3の検出信号Szの相関関係が強いことを意味する。同様に、XZ平面において4つ以上の投影点が1つの直線上およびその近傍の範囲内に分布するということは、第1の検出信号Sxと第3の検出信号Szの相関関係が強いことを意味する。相関関係が強いというのは、具体的には、相関係数の絶対値が1であるか1に近いということである。
【0152】
ここで、第1の検出信号Sxの値を第1の変数xとし、第2の検出信号Syの値を第2の変数yとし、第3の検出信号Szの値を第3の変数zとする。第1の変数xと第2の変数yについての第1の相関係数rxyは、下記の式(6)によって求められる。式(6)において、sxyは第1の変数xと第2の変数yの共分散であり、sxは第1の変数xの標準偏差であり、syは第2の変数yの標準偏差である。
【0153】
xy=sxy/(sx・sy) …(6)
【0154】
第2の変数yと第3の変数zについての第2の相関係数ryzは、下記の式(7)によって求められる。式(7)において、syzは第2の変数yと第3の変数zの共分散であり、szは第3の変数zの標準偏差である。
【0155】
yz=syz/(sy・sz) …(7)
【0156】
第1の変数xと第3の変数zについての第3の相関係数rxzは、下記の式(8)によって求められる。式(8)において、sxzは第1の変数xと第3の変数zの共分散である。
【0157】
xz=sxz/(sx・sz) …(8)
【0158】
本実施の形態では、第2の処理は、第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzを利用して、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定する。具体的には、本実施の形態では、第2の処理は、第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzを求める処理を含んでいる。第2の処理における判定基準は、第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が所定の閾値TH2以上であるというものである。第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が大きければ、XY平面、YZ平面およびXZ平面のうちの少なくとも1つにおいて、4つ以上の測定点に対応する4つ以上の投影点が1つの直線上およびその近傍の範囲内に分布していることになる。従って、第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が大きければ、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が、1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していると言える。そのため、本実施の形態における判定基準は、第1の実施の形態における判定基準と同様に、基準座標系において判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データに対応する4つ以上の測定点が、それらが1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していることを表すものである。
【0159】
第2の処理は、第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が閾値TH2以上である場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定し、それ以外の場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定する。
【0160】
相関係数の絶対値は、0以上1以下である。閾値TH2は、1以下である。閾値TH2は、0.5よりも大きいことが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。閾値TH2が1である場合には、判定基準は、XY平面、YZ平面およびXZ平面のうちの少なくとも1つにおいて、4つ以上の測定点に対応する4つ以上の投影点が1つの直線上に位置し、4つ以上の測定点が1つの平面上に位置していることを表すものとなる。閾値TH2が1よりも小さいが、0よりも十分に大きい場合には、判定基準は、4つ以上の測定点が1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していることを表すものとなる。
【0161】
次に、図15を参照して、本実施の形態における第2の処理について説明する。図15は、第2の処理を示すフローチャートである。第2の処理は、位置検出装置1の使用時に、繰り返し実行される。
【0162】
第2の処理では、まず、判定用データ集合を用いて、第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzを求める処理を実行する(ステップS21)。次に、ステップS21において得られた第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が閾値TH2以上であるか否かを判定する(ステップS22)。ステップS22において第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が閾値TH2以上である場合(YES)には、中止指令を球体情報生成部81に対して出力して(ステップS23)、1回の第2の処理を終了する。ステップS22において第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が閾値TH2以上ではない場合(NO)には、中止指令を出力することなく、1回の第2の処理を終了する。次回の第2の処理は、次回の第1の処理と同時に開始される。
【0163】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0164】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態では、判定部82による第2の処理の内容が、第1の実施の形態と異なっている。以下、本実施の形態における第2の処理について具体的に説明する。
【0165】
本実施の形態では、判定用データ集合を構成する測定データの数は4つである。ここで、基準座標系において、判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点を4つの頂点とする四面体を考える。4つの頂点が、1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布している場合には、上記の四面体の体積Vは0または0に近い値になる。特に、4つの頂点が1つの平面上に位置している場合には、体積Vは0になる。
【0166】
本実施の形態では、第2の処理は、四面体の体積Vを利用して、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適しているか否かを判定する。具体的には、本実施の形態では、第2の処理は、四面体の体積Vを求める処理を含んでいる。第2の処理における判定基準は、四面体の体積Vが所定の閾値TH3以下であるというものである。第2の処理は、四面体の体積Vが閾値TH3以下である場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定し、それ以外の場合には、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定する。
【0167】
ここで、判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点を、(Sx1,Sy1,Sz1)、(Sx2,Sy2,Sz2)、(Sx3,Sy3,Sz3)、(Sx4,Sy4,Sz4)と表す。この4つの測定点に関して、下記の式(9)で表される行列式Dを定義する。

【0168】
【数1】
【0169】
4つの測定点(Sx1,Sy1,Sz1)、(Sx2,Sy2,Sz2)、(Sx3,Sy3,Sz3)、(Sx4,Sy4,Sz4)を4つの頂点とする四面体の体積Vは、行列式Dを用いて、下記の式(10)によって算出される。
【0170】
V=|D|/6 …(10)
【0171】
四面体の体積Vが小さければ、判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点が、1つの平面上およびその近傍に分布していることになる。特に、四面体の体積Vが0であれば、判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点が、1つの平面上に位置していることになる。そのため、本実施の形態における判定基準は、基準座標系において判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点が、それらが1つの平面上に位置しているか、あるいは1つの平面上およびその近傍の範囲内に分布していることを表すものである。
【0172】
ここで、閾値TH3の例について説明する。四面体の体積Vのディメンションは、長さの三乗である。そのため、閾値TH3のディメンションも、長さの三乗である。前述のように、球体情報生成部81が初期球体情報を保持している場合、閾値TH3は、例えば、半径の初期値R0を半径とする仮想の球体に内接する正四面体の体積V0に比例する値であってもよい。閾値TH3は、例えば、正四面体の体積V0と、閾値調整値C3の積C3・V0であってもよい。
【0173】
正四面体の体積V0は、以下のように、半径の初期値R0を用いて求めることができる。半径の初期値R0を半径とする仮想の球体に内接する正四面体の1辺の長さa0は、半径の初期値R0を用いて、下記の式(11)で表される。
【0174】
0=2・√(6)・R0/3 …(11)
【0175】
また、正四面体の体積V0は、長さa0を用いて、下記の式(12)で表される。
【0176】
0=√(2)・a03/12 …(12)
【0177】
式(12)に式(11)を代入すると、半径の初期値R0を用いて正四面体の体積V0を求める式(13)が得られる。
【0178】
0=√(2)・(2・√(6)・R0/3)3/12
=8・√(3)・R03/27 …(13)
【0179】
閾値調整値C3は、閾値TH3を調整するための値である。閾値調整値C3は、0以上1以下の値に限られる。閾値調整値C3が小さいほど閾値TH3も小さくなる。閾値調整値C3は、0.5よりも小さいことが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。例えば、閾値調整値C3が0である場合には、閾値TH3も0である。この場合には、判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点の全てが1つの平面上に位置している場合にのみ、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定される。閾値調整値C3が0よりも大きいが、1よりも十分に小さい値である場合には、判定用データ集合を構成する4つの測定データに対応する4つの測定点が近似平面上およびその近傍の範囲内に分布している場合に、候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していないと判定される。
【0180】
次に、図16を参照して、本実施の形態における第2の処理について説明する。図16は、第2の処理を示すフローチャートである。第2の処理は、位置検出装置1の使用時に、繰り返し実行される。
【0181】
第2の処理では、まず、判定用データ集合を用いて、四面体の体積Vを求める処理を実行する(ステップS31)。次に、ステップS31において得られた四面体の体積Vが閾値TH3以下であるか否かを判定する(ステップS32)。ステップS32において四面体の体積Vが閾値TH3以下である場合(YES)には、中止指令を球体情報生成部81に対して出力して(ステップS33)、1回の第2の処理を終了する。ステップS32において四面体の体積Vが閾値TH3以下ではない場合(NO)には、中止指令を出力することなく、1回の第2の処理を終了する。次回の第2の処理は、次回の第1の処理と同時に開始される。
【0182】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0183】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。始めに、図17を参照して、本実施の形態に係る信号処理回路5が第1の実施の形態と異なる点について説明する。図17は、本実施の形態に係る磁気センサシステム3の構成を示す機能ブロック図である。
【0184】
本実施の形態に係る信号処理回路5の第2のプロセッサ8は、第1の実施の形態で説明した球体情報生成部81、判定部82、オフセット補正部83および位置情報生成部84に加えて、記憶部85を含んでいる。本実施の形態では、信号処理回路5の第1のプロセッサ7のA/D変換器70A,70B,70Cによってデジタル信号に変換された第1ないし第3の検出信号Sx,Sy,Szは、オフセット補正部83と記憶部85に入力される。
【0185】
記憶部85は、4つ以上の測定データの集合である候補データ集合を記憶する。本実施の形態では、判定部82による第2の処理は、判定用データ集合を構成する4つ以上の測定データを記憶部85から取得する。
【0186】
第2の処理の内容は、第1の実施の形態における第2の処理と同じ内容であってもよいし、第2の実施の形態における第2の処理と同じ内容であってもよいし、第3の実施の形態における第2の処理と同じ内容であってもよい。
【0187】
本実施の形態では、球体情報生成部81による第1の処理は、第2の処理によって第1の処理に用いるのに適していると判定された候補データ集合を用いて行われる。具体的には、球体情報生成部81は、第2の処理によって、記憶部85に記憶された候補データ集合が第1の処理に用いるのに適していると判定された場合にのみ、記憶部85から候補データ集合を取得して、これを用いて第1の処理を行う。
【0188】
次に、図18を参照して、第1および第2の処理に関する第2のプロセッサ8の動作について説明する。図18は、第2のプロセッサ8の動作を示すフローチャートである。図18に示した動作は、位置検出装置1の使用時に、繰り返し実行される。ここでは、第2の処理の内容が、第1の実施の形態における第2の処理と同じ内容である場合を例にとって説明する。
【0189】
図18に示した動作では、まず、記憶部85が、候補データ集合を記憶する(ステップS41)。次に、判定部82が、前述のように記憶部85から判定用データ集合を取得して、取得した判定用データ集合を用いて、最小二乗法を用いて近似平面を決定する処理を実行する(ステップS42)。次に、判定部82は、ステップS42において得られた残差二乗和RSSが閾値TH1以下であるか否かを判定する(ステップS43)。ステップS43において残差二乗和RSSが閾値TH1以下ではない場合(NO)には、球体情報生成部81が、記憶部85から候補データ集合を取得して、取得した候補データ集合を用いて第1の処理を実行して(ステップS44)、1回の動作を終了する。ステップS43において残差二乗和RSSが閾値TH1以下である場合(YES)には、第1の処理を実行することなく、1回の動作を終了する。
【0190】
図18に示した動作では、ステップS42,S43が、第2の処理に対応する。本実施の形態における第2の処理の内容が、第2の実施の形態における第2の処理と同じ内容である場合には、図18に示したステップS41を実行した後、判定部82が第1のステップと第2のステップを順に実行する。第1のステップでは、判定用データ集合を用いて、第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzを求める。第2のステップでは、第1のステップにおいて得られた第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が閾値TH2以上であるか否かを判定する。第2のステップにおいて第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が閾値TH2以上ではない場合には、次に、図18に示したステップS44を実行して、1回の動作を終了する。第2のステップにおいて第1ないし第3の相関係数rxy,ryz,rxzのうちの少なくとも1つの絶対値が閾値TH2以上である場合には、第1の処理を実行することなく、1回の動作を終了する。
【0191】
また、本実施の形態における第2の処理の内容が、第3の実施の形態における第2の処理と同じ内容である場合には、図18に示したステップS41を実行した後、判定部82が、第3のステップと第4のステップを順に実行する。第3のステップでは、判定用データ集合を用いて、四面体の体積Vを求める。第4のステップでは、第3のステップにおいて得られた四面体の体積Vが閾値TH3以下であるか否かを判定する。第4のステップにおいて四面体の体積Vが閾値TH3以下ではない場合には、次に、図18に示したステップS44を実行して、1回の動作を終了する。第4のステップにおいて四面体の体積Vが閾値TH3以下である場合には、第1の処理を実行することなく、1回の動作を終了する。
【0192】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第3の実施の形態のいずれかと同様である。
【0193】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明の信号処理回路および磁気センサシステムは、磁気センサ装置に対する磁界発生器の相対的な位置を検出する場合に限らず、所定の磁界の中で回転可能に構成された磁気センサ装置の姿勢を検出する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0194】
1…位置検出装置、2…磁界発生器、3…磁気センサシステム、4…磁気センサ装置、5…信号処理回路、7…第1のプロセッサ、8…第2のプロセッサ、10…第1の磁気センサ、20…第2の磁気センサ、30…第3の磁気センサ、81…球体情報生成部、82…判定部、83…オフセット補正部、84…位置情報生成部、200…磁気センサ組立体、300…関節機構。
図1
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