特許第6908082号(P6908082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社富士通ゼネラルの特許一覧

<>
  • 特許6908082-冷凍サイクル装置 図000002
  • 特許6908082-冷凍サイクル装置 図000003
  • 特許6908082-冷凍サイクル装置 図000004
  • 特許6908082-冷凍サイクル装置 図000005
  • 特許6908082-冷凍サイクル装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908082
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20210708BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20210708BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20210708BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20210708BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20210708BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20210708BHJP
【FI】
   F25B1/00 396B
   F25B1/00 311A
   F25B1/00 331E
   C10M105/38
   C09K5/04 E
   C09K5/04 C
   C10N20:02
   C10N30:06
   C10N40:30
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-177588(P2019-177588)
(22)【出願日】2019年9月27日
(65)【公開番号】特開2021-55877(P2021-55877A)
(43)【公開日】2021年4月8日
【審査請求日】2020年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 将弘
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 充紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】星野 修平
【審査官】 関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6545338(JP,B1)
【文献】 特表2004−515600(JP,A)
【文献】 特開2002−174462(JP,A)
【文献】 特開2010−276239(JP,A)
【文献】 特開2017−161193(JP,A)
【文献】 特開2018−040517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
C09K 5/04
C10M 105/38
C10N 20/02
C10N 30/06
C10N 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒としてR466Aを備え、前記冷媒を圧縮する圧縮機と、
ポリオールエステル(POE)を含む基油を含有し、前記圧縮機を潤滑する冷凍機油と
前記圧縮機により圧縮された吐出冷媒を放熱させる凝縮器と、
前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合させるインジェクション回路と、
前記インジェクション回路に設けられ、開閉可能なインジェクション膨張弁と、
前記冷凍機油に前記冷媒が溶解しているときの前記冷凍機油の溶解粘度に関する物理量を測定するセンサと、
前記溶解粘度が4.0mPa・sを超えると前記物理量に基づいて判定されたときに、前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合させるように、前記インジェクション膨張弁を開放制御する制御部とを備え、
前記冷凍機油の40℃における動粘度は、冷媒としてR410Aを備えた冷凍サイクル装置において、前記R410Aが前記圧縮機により圧縮されるときに前記圧縮機を適切に潤滑する、ポリオールエステル(POE)を含む基油を含有した他の冷凍機油の40℃における動粘度の1.05倍以上であり、かつ、1.50倍以下であり、
前記冷凍機油の粘度グレードは、VG85以上であり、かつ、VG100以下である
冷凍サイクル装置。
【請求項2】
冷媒としてR466Aを備え、前記冷媒を圧縮する圧縮機と、
ポリオールエステル(POE)を含む基油を含有し、前記圧縮機を潤滑する冷凍機油と、
前記圧縮機により圧縮された吐出冷媒を放熱させる凝縮器と、
前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合させるインジェクション回路と、
前記インジェクション回路に設けられ、開閉可能なインジェクション膨張弁と、
前記冷凍機油に前記冷媒が溶解しているときの前記冷凍機油の溶解粘度に関する物理量を測定するセンサと、
前記溶解粘度が4.0mPa・sを超えると前記物理量に基づいて判定されたときに、前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合させるように、前記インジェクション膨張弁を開放制御する制御部とを備え、
前記冷凍機油の40℃における動粘度は、冷媒としてR410Aを備えた冷凍サイクル装置において、前記R410Aが前記圧縮機により圧縮されるときに前記圧縮機を適切に潤滑する、ポリオールエステル(POE)を含む基油を含有した他の冷凍機油の40℃における動粘度の1.05倍以上であり、かつ、1.50倍以下である
冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記センサは、
前記圧縮機から吐出される吐出冷媒の吐出温度を測定する温度センサと、
前記圧縮機が前記冷媒を圧縮する圧縮比を測定するセンサとを含み、
前記制御部は、予め定められた低圧縮比範囲に前記圧縮比が含まれ、かつ、予め定められた低吐出温度範囲に前記吐出温度が含まれるときに、前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合されるように、前記インジェクション膨張弁を開放制御する
請求項または請求項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記制御部は、さらに、前記低吐出温度範囲と異なる高吐出温度範囲に前記吐出温度が含まれるときに、前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合させるように、前記インジェクション膨張弁を開放制御する
請求項に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機、冷蔵機器、給湯器等に設けられる冷凍サイクル装置が知られている。冷凍サイクル装置は、圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮器で放熱させ、膨張弁で減圧された冷媒を蒸発器で吸熱させる。冷凍サイクル装置で使用される冷媒は、GWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)がより低い冷媒へ切り替えることが求められている。R410Aの代替冷媒候補であるR466Aは、低毒性、且つ、不燃性であり、R466AのGWP(=733)は、R410AのGWP(=2088)より小さい。また、R466Aは、POE(ポリオールエステル)を含む基油を含有した冷凍機油(POE油)との相互溶解性が高い。POE油は、従来使用されていた冷媒であるR410Aを用いた冷凍サイクル装置でも使用されている。冷凍機油は、冷凍サイクル装置に注入され、圧縮機の摺動部の焼き付きが防止されるように、圧縮機の摺動部を潤滑する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/157764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧縮機の内部の冷凍機油は、温度が高い条件下では、大量の冷媒が冷凍機油に溶解し、希釈されることで粘度が小さくなることがある。冷凍機油の粘度が小さいと、圧縮機の摺動部の潤滑に必要な油膜が保持されず、圧縮機の摺動部が適切に潤滑されなくなるという問題がある。そのため、冷凍機油の粘度は、温度が高い条件下でも摺動部の潤滑に必要な油膜が保持される様に、適切な粘度を有している。しかし、冷媒が溶解している冷凍機油の粘度は、例えば温度が低い条件では粘度が大きくなる。冷凍機油の粘度が大きくなると、摺動面での摩擦を増加させ、摺動負荷を増加させる。その結果、圧縮機5の電力消費量(入力量)を増加させてしまう。
【0005】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、圧縮機の摺動部を適切に潤滑する冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による冷凍サイクル装置は、冷媒としてR466Aを備え、前記冷媒を圧縮する圧縮機と、POEを含む基油を含有し、前記圧縮機を潤滑する冷凍機油と、前記圧縮機により圧縮された吐出冷媒を放熱させる凝縮器と、前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合させるインジェクション回路と、前記インジェクション回路に設けられ、開閉可能なインジェクション膨張弁と、前記冷凍機油に前記冷媒が溶解しているときの前記冷凍機油の溶解粘度に関する物理量を測定するセンサと、前記溶解粘度が4.0mPa・sを超えると前記物理量に基づいて判定されたときに、前記凝縮器により放熱された放熱冷媒のうちの一部の冷媒を、前記圧縮機に吸入される冷媒に混合させるように、前記インジェクション膨張弁を開放制御する制御部とを備えている。前記冷凍機油の40℃における動粘度は、冷媒としてR410Aを備えた冷凍サイクル装置において、冷媒が前記圧縮機により圧縮されるときに前記圧縮機を適切に潤滑する他の冷凍機油の40℃における動粘度の1.05倍以上であり、かつ、1.50倍以下であ
【発明の効果】
【0007】
開示の冷凍サイクル装置は、適切に圧縮機の摺動部の潤滑に必要な油膜が保持される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1の冷凍サイクル装置が設けられた空気調和装置1を示す冷媒回路図である。
図2図2は、インジェクション回路制御を示すフローチャートである。
図3図3は、R466Aが溶解された冷凍機油の溶解粘度と、R410Aが溶解された冷凍機油の溶解粘度とを示すグラフである。
図4図4は、複数の条件において、冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度と溶解粘度とを示すグラフである。
図5図5は、複数の条件において、冷凍機油の粘度グレードと圧縮機入力増加量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願が開示する実施形態にかかる冷凍サイクル装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の記載により本開示の技術が限定されるものではない。また、以下の記載においては、同一の構成要素に同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
[冷凍サイクル装置]
図1は、実施例1の冷凍サイクル装置が設けられた空気調和装置1を示す冷媒回路図である。冷凍サイクル装置は、冷媒配管を介して複数の要素が相互に接続されている冷媒回路を備える。空気調和装置1は、シングルタイプであり、室内機2と室外機3とを備えている。室内機2は、空気調和装置1により冷暖房される部屋の内部に配置されている。室外機3は、その部屋の外部に配置されている。室外機3は、冷媒回路を構成する圧縮機5と四方弁6と室外熱交換器7と膨張弁8とを備え、制御装置10を備えている。室内機2は、冷媒回路を構成する室内熱交換器12を備えている。
【0011】
圧縮機5は、吸入管14に接続される図示されていない吸入口と、吐出管15に接続される図示されていない吐出口とを備え、図示されていないシャフトとモータ部と圧縮部とを備えている。モータ部は、制御装置10に制御されることにより、シャフトを回転させる。圧縮部は、シャフトの回転に伴って、吸入管14から冷媒を吸入し、吸入された冷媒を圧縮して吐出管15に吐出する。四方弁6は、圧縮機5の吸入管14と吐出管15とに接続され、冷媒配管を介して室外熱交換器7と室内熱交換器12とに接続されている。四方弁6は、制御装置10に制御されることにより、冷媒回路を暖房サイクルまたは冷房サイクルのどちらかに切り替える。四方弁6は、冷房モードに切り替えられたときに、吐出管15を室外熱交換器7へ繋がる冷媒配管に接続し、室内熱交換器12へ繋がる冷媒配管を吸入管14に接続する。四方弁6は、暖房モードに切り替えられたときに、吐出管15を室内熱交換器12へ繋がる冷媒配管に接続し、室外熱交換器7へ繋がる冷媒配管を吸入管14に接続する。
【0012】
室外熱交換器7は、冷媒配管を介して冷媒間熱交換器19に接続されている。冷媒間熱交換器19は、冷媒配管を介して膨張弁8に接続されている。膨張弁8は、冷媒配管を介して室内熱交換器12に接続されている。
【0013】
空気調和装置1は、インジェクション回路16をさらに備えている。インジェクション回路16は、分岐部17とインジェクション膨張弁18と冷媒間熱交換器19と混合部20とを備えている。分岐部17は、冷媒配管のうちの膨張弁8と室内熱交換器12との間から分岐された部分であり、インジェクション膨張弁18に接続されている。インジェクション膨張弁18は、冷媒間熱交換器19に接続されている。インジェクション膨張弁18は、制御装置10に制御されることにより、開閉及び開度調節される。冷媒間熱交換器19は、混合部20に接続されている。冷媒間熱交換器19は、インジェクション膨張弁18を通過した冷媒と、膨張弁8と室外熱交換器7との間の冷媒配管を流れる冷媒との間で熱交換させる。混合部20は、圧縮機5の吸入管14の途中に接続されている。
【0014】
空気調和装置1は、冷媒と冷凍機油とをさらに備えている。冷媒は、R466Aである。R466Aは、混合冷媒であり、R32とR125とR13I1(トリフルオロヨードメタンCFI)とを含有している。R466Aは、低毒性、且つ、不燃性であり、さらに、R466AのGWP(=733)は、R410AのGWP(=2088)より小さい。
【0015】
冷凍機油は、基油と添加剤とが含有されている。基油は、ポリオールエステル(polyolester、POE)から形成されている。本実施例の冷凍機油(以下、単に冷凍機油とも言う)の40℃における動粘度は、他の冷凍機油であるR410A用冷凍機油の動粘度の1.05倍以上1.50倍以下である。R410A用冷凍機油は、R410Aとともに圧縮機5で利用される冷凍機油であり、R410Aが圧縮機5により圧縮されるときに、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができる冷凍機油である。たとえば、R410A用冷凍機油に含有される冷凍機油の粘度グレードは、VG68であり、このとき、空気調和装置1で利用される冷凍機油の粘度グレードは、VG85以上であり、かつ、VG100以下である。なお、粘度グレードとは、ISOで定められた冷凍機油の粘度の等級である。粘度グレードは、数値が高いほど粘度が高いものである。粘度グレードは、末尾の数値毎に動粘度範囲が定められており、当該数値が動粘度(mm/s)の中心値を示している。
【0016】
冷凍機油は、圧縮機5の内部に貯留され、圧縮機5の摺動部を潤滑する。冷凍機油は、R466Aと相溶性を有している。冷凍機油とR466Aとの相溶性は、他の冷凍機油とR410Aとの相溶性に比較して、高い。圧縮機5は、冷媒を圧縮するときに、吐出管15を介して冷凍機油を冷媒とともに吐出する。空気調和装置1は、冷凍機油が冷媒と相溶性を有していることにより、冷凍機油が冷媒とともに圧縮機5から吐出された場合でも、冷媒回路のうちの圧縮機5を除く部分から冷凍機油を圧縮機5に戻し易くすることができる。空気調和装置1は、冷凍機油が圧縮機5に戻されることにより、圧縮機5の内部の冷凍機油が減少することを防止することができ、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができる。
【0017】
空気調和装置1は、室内温度センサ21と吐出温度センサ22と吸入冷媒圧力センサ23と吐出冷媒圧力センサ24とをさらに備えている。室内温度センサ21は、室内機2に設けられ、室内機2が配置される部屋の室温を測定する。吐出温度センサ22は、吐出管15を流れる冷媒の温度を測定する。吸入冷媒圧力センサ23は、吸入管14を流れる冷媒の圧力を測定する。吐出冷媒圧力センサ24は、吐出管15を流れる冷媒の圧力を測定する。
【0018】
制御装置10は、暖房運転または冷房運転のうちのユーザにより設定される運転を行うように、四方弁6を制御して、冷媒回路を暖房サイクルまたは冷房サイクルのどちらかに切り替える。制御装置10は、室内温度センサ21により測定された室温と、ユーザにより設定される設定温度(室温の目標温度)との温度差に基づいて算出される回転数でシャフトが回転するように、圧縮機5を制御する。制御装置10は、吐出温度センサ22により測定された吐出温度があらかじめ定められた目標値となるように、膨張弁8を制御する。
【0019】
制御装置10は、吸入冷媒圧力センサ23により測定された吸入圧力と、吐出冷媒圧力センサ24により測定された吐出圧力とに基づいて、圧縮比を算出する。圧縮比は、吐出圧力を吸入圧力で除算した値に等しい。制御装置10は、算出された圧縮比と、吐出温度センサ22により測定された吐出温度とに基づいて、インジェクション膨張弁18を制御する。
【0020】
[空気調和装置1の動作]
空気調和装置1の動作は、冷暖房運転と保護運転制御とインジェクション回路制御とを備えている。
【0021】
冷暖房運転は、冷房運転と暖房運転とを備えている。制御装置10は、冷房運転が行われるときに、四方弁6を制御することにより、冷媒回路を冷房サイクルに切り替える。制御装置10は、さらに、ユーザにより設定される設定温度と、室内温度センサ21により測定された室温との温度差に基づいて回転数を算出し、圧縮機5を制御することにより、その算出された回転数でシャフトを回転させる。圧縮機5は、シャフトが回転することにより、吸入管14に供給された低圧気相冷媒を圧縮して過熱状態の高圧気相冷媒にし、吐出管15に吐出する。四方弁6は、冷房モードに切り替えられていることにより、圧縮機5により圧縮された高圧気相冷媒を吐出管15から室外熱交換器7に供給する。
【0022】
室外熱交換器7は、冷房運転が行われるときに、凝縮器として機能する。すなわち、室外熱交換器7は、高圧気相冷媒と外気との間で熱交換させることにより、高圧気相冷媒の圧力が一定のまま高圧気相冷媒を放熱させ、高圧気相冷媒の乾き度を下げ高圧液相冷媒に相変化させる。制御装置10は、吐出温度センサ22により測定される吐出温度が、予め定められた目標値に等しくなるように、膨張弁8を制御することにより、膨張弁8の開度を調節する。膨張弁8は、高圧液相冷媒を膨張させ、高圧液相冷媒を液リッチ状態の低圧二相冷媒にする。
【0023】
室内熱交換器12は、冷房運転が行われるときに、蒸発器として機能する。すなわち、室内熱交換器12は、低圧二相冷媒と室内の空気との間で熱交換させることにより吸熱して、室内の空気を冷却し、低圧二相冷媒を圧力が一定のまま乾き度を上げ、過熱状態の低圧気相冷媒にする。低圧気相冷媒は、四方弁6を介して圧縮機5の吸入管14へ供給される。すなわち、空気調和装置1は、冷房運転が行われるときに、冷凍サイクル装置の冷媒回路に冷媒を循環させることにより、室内機2が配置される部屋を冷房する。
【0024】
制御装置10は、暖房運転が行われるときに、四方弁6を制御することにより、冷媒回路を暖房サイクルに切り替える。制御装置10は、さらに、ユーザにより設定される設定温度と、室内温度センサ21により測定された室温との温度差に基づいて回転数を算出し、圧縮機5を制御することにより、その算出された回転数でシャフトを回転させる。圧縮機5は、シャフトが回転することにより、吸入管14に供給された低圧気相冷媒を圧縮して過熱状態の高圧気相冷媒にし、吐出管15に吐出する。四方弁6は、暖房モードに切り替えられていることにより、圧縮機5により圧縮された高圧気相冷媒を吐出管15から室内熱交換器12に供給する。
【0025】
室内熱交換器12は、暖房運転が行われるときに、凝縮器として機能する。すなわち、室内熱交換器12は、高圧気相冷媒と室内の空気とを熱交換することにより、室内の空気を加熱し、高圧気相冷媒の圧力が一定のまま高圧気相冷媒を放熱させ、高圧気相冷媒の乾き度を下げ高圧液相冷媒に相変化させる。制御装置10は、吐出温度センサ22により測定される吐出温度が、予め定められた目標値に等しくなるように、膨張弁8を制御することにより、膨張弁8の開度を調節する。膨張弁8は、高圧液相冷媒を膨張させ、高圧液相冷媒から液リッチ状態の低圧二相冷媒を生成する。
【0026】
室外熱交換器7は、暖房運転が行われるときに、蒸発器として機能する。すなわち、室外熱交換器7は、低圧二相冷媒と室内の空気との間で熱交換させることにより吸熱して、低圧二相冷媒を圧力が一定のまま乾き度を上げ、過熱状態の低圧気相冷媒にする。低圧気相冷媒は、四方弁6を介して圧縮機5の吸入管14に供給される。すなわち、空気調和装置1は、暖房運転が行われるときに、冷凍サイクル装置の冷媒回路に冷媒を循環させることにより、室内機2が配置される部屋を暖房する。
【0027】
圧縮機5は、空気調和装置1が冷暖房運転を実行しているときに、定格負荷程度を想定した標準的負荷、負荷が高い過負荷、負荷が低い低負荷で冷媒を圧縮することがある。過負荷時において、冷媒を圧縮するときに圧縮機5が消費する電力は、定格負荷時より大きい。低負荷時において、冷媒を圧縮するときに圧縮機5が消費する電力は、定格負荷時より小さい。
【0028】
[保護運転制御]
保護運転制御は、冷暖房運転が実行されている最中に実行されている。制御装置10は、冷暖房運転が実行されている最中に、吐出温度センサ22により測定される吐出温度を監視する。制御装置10は、吐出温度が予め定められた第1閾値温度を超えたときに、圧縮機5を制御することにより、圧縮機5のシャフトの回転を停止させる保護運転が実行される。圧縮機5の内部の温度は、シャフトの回転が停止することにより、下降する。制御装置10は、保護運転が実行されている最中で、吐出温度が予め定められた第2閾値温度を下回ったときに、圧縮機5を制御することにより、圧縮機5のシャフトの回転を再開させる。第2閾値温度は、第1閾値温度より低い温度である。空気調和装置1は、圧縮機5の内部の温度を下降させることにより、圧縮機5の内部の温度が異常高温になることを防止することができる。
【0029】
図2は、インジェクション回路制御を示すフローチャートである。インジェクション回路制御は、冷暖房運転が実行されている最中に実行される。制御装置10は、吐出温度センサ22により測定される吐出温度が、予め定められた高吐出温度範囲に含まれるか否かを判定する(ステップS1)。高吐出温度範囲は、第1閾値温度より低く、例えば、100℃以上であり、かつ、120℃以下である。制御装置10は、吐出温度が高吐出温度範囲に含まれるときに(ステップS1、Yes)、インジェクション回路16を制御することにより、圧縮機5にインジェクション回路16を流れる冷媒を吸入させる(ステップS2)。すなわち、制御装置10は、インジェクション膨張弁18を開方向に制御する。
【0030】
インジェクション膨張弁18が開方向に制御されることにより、吸入管14を流れる低圧気相冷媒はインジェクション回路16を流れる冷媒と混合する。すなわち、インジェクション膨張弁18が開放されることにより、冷媒配管のうちの膨張弁8と室内熱交換器12との間を流れる、乾き度が比較的低い冷媒の一部の冷媒は、分岐部17を介してインジェクション膨張弁18に供給される。インジェクション膨張弁18は、その一部の冷媒を膨張させて減圧し、その一部の冷媒を低温の二相冷媒にする。冷媒間熱交換器19は、インジェクション膨張弁18を通過した低温の二相冷媒と、膨張弁8と室外熱交換器7との間の冷媒配管を流れる冷媒との間で熱交換させ、低温の二相冷媒を加熱する。インジェクション回路16を流れる冷媒は、混合部20を介して吸入管14の途中に供給され、吸入管14を流れる低圧気相冷媒と混合する。
【0031】
低圧気相冷媒にインジェクション回路16を流れる冷媒が混合されることにより、低圧気相冷媒の温度は下降する。吐出温度は、低圧気相冷媒の温度が下降することにより、下降する。空気調和装置1は、吐出温度が下降することにより、吐出温度が第1閾値温度を超えることを防止し、保護運転制御で保護運転の実行を抑制することができる。空気調和装置1は、保護運転の実行を抑制されることにより、冷暖房運転を適切に実行させることができる。
【0032】
制御装置10は、吐出温度が高吐出温度範囲に含まれないときに(ステップS1、No)、圧縮機5の内部の冷凍機油の溶解粘度(液相冷媒を含んだ状態の冷凍機油の動粘度)が4.0mPa・sを超えているか否かを判定する(ステップS3)。たとえば、制御装置10は、吸入冷媒圧力センサ23により測定された吸入冷媒圧力と、吐出冷媒圧力センサ24により測定された吐出冷媒圧力とに基づいて圧縮比を算出する。圧縮比は、吐出冷媒圧力を吸入冷媒圧力で除算した値に等しい。制御装置10は、予め定められた低圧縮比範囲に圧縮比が含まれるか否かを判定し、予め定められた低吐出温度範囲に吐出温度が含まれるか否かを判定する。たとえば、低圧縮比範囲は、2以上であり、かつ、2.5以下である。低吐出温度範囲は、高吐出温度範囲の下限より低く、たとえば、50℃以上であり、かつ、90℃以下である。制御装置10は、低圧縮比範囲に圧縮比が含まれ、かつ、低吐出温度範囲に吐出温度が含まれるときに、圧縮機5の内部の冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えていると判定する。制御装置10は、低圧縮比範囲に圧縮比が含まれないときに、または、低吐出温度範囲に吐出温度が含まれないときに、圧縮機5の内部の冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えていないと判定する。なお、基準としている溶解粘度の4.0mPa・sという数値については、後述する。
【0033】
制御装置10は、圧縮機5の内部の冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えていないと判定されたときに(ステップS3、No)、インジェクション回路16を制御することにより、インジェクション膨張弁18を閉鎖する(ステップS4)。制御装置10は、圧縮機5の内部の冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えていると判定されたときに(ステップS3、Yes)ステップS2に進み、インジェクション回路16を制御することにより、インジェクション膨張弁18を開放する(ステップS2)。インジェクション膨張弁18が開放されることにより、吸入管14を流れる低圧気相冷媒はインジェクション回路16を流れる冷媒と混合する。
【0034】
R466Aが溶解している冷凍機油の溶解粘度は、低圧縮比範囲に圧縮比が含まれ、かつ、低吐出温度範囲に吐出温度が含まれるときに、4.0mPa・sを超えることがある。溶解粘度が4.0mPa・sを超える冷凍機油は、摺動部の油膜保持は可能だが、摺動面での摩擦を増加させ、負荷を増加させる。その結果、圧縮機5の電力消費量(入力量)を増加させる。これに対し、インジェクション膨張弁18を開放させて低圧気相冷媒にインジェクション冷媒が混合されることで、圧縮機5の内部の単位量の冷凍機油に溶解されるR466Aの量は増加させる。冷凍機油の溶解粘度は、単位量の冷凍機油に溶解されるR466Aの量が増加することにより、低減する。このため、空気調和装置1は、冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えることを防止することができる。空気調和装置1は、冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えることが防止されることにより、圧縮機5の消費電力の増加を抑制することができる。
【0035】
制御装置10は、ステップS2の処理またはステップS4の処理が実行されたタイミングから予め定められた時間が経過したか否かを判定する(ステップS5)。制御装置10は、ステップS2の処理またはステップS4の処理が実行されたタイミングから予め定められた時間が経過したと判定されたときに(ステップS5、Yes)、ステップS1〜ステップS4の処理を再度実行する。すなわち、空気調和装置1は、ステップS1〜ステップS4の処理を、予め定められた時間ごとに繰り返し実行する。予め定められた時間は、制御実行に伴う冷凍サイクルの状態変化に必要な時間(例えば、30秒)である。制御実行に伴う冷凍サイクルの状態変化に必要な時間は、冷媒循環量が少ないほど長くなるため、予め定められた時間は、最小冷媒循環量時を基準として設定される。
【0036】
図3は、R466Aが溶解した冷凍機油の溶解粘度と、R410Aが溶解した冷凍機油の溶解粘度とを示すグラフである。図3では、VG68冷凍機油(R410A用冷凍機油)と、VG85冷凍機油と、VG100冷凍機油との3種類の冷凍機油が例示されている。これらの冷凍機油は、全てPOE(ポリオールエステル)を含む基油を含有する点で共通し、添加剤によってそれぞれの動粘度となるように調整されたものである。折れ線31は、粘度グレードがVG68であるR410A用冷凍機油にR410Aが溶解したときのR410A用冷凍機油の溶解粘度を示している。R410A用冷凍機油は、圧縮機5でR410Aとともに利用されるときに、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができる。折れ線32は、R410A用冷凍機油と同じ粘度グレードがVG68であるVG68冷凍機油にR466Aが溶解されたときのVG68冷凍機油の溶解粘度を示している。折れ線31と折れ線32とは、概ね89℃〜102℃の温度範囲で、R466Aが溶解したVG68冷凍機油の溶解粘度が、R410Aが溶解したR410A用冷凍機油の溶解粘度より小さいことを示している。
【0037】
折れ線33は、粘度グレードがVG85であるVG85冷凍機油にR466Aが溶解されたときのVG85冷凍機油の溶解粘度を示している。折れ線34は、粘度グレードがVG100であるVG100冷凍機油にR466Aが溶解したときのVG100冷凍機油の溶解粘度を示している。折れ線31と折れ線33と折れ線34とは、概ね89℃〜102℃の温度範囲で、VG85冷凍機油の溶解粘度とVG100冷凍機油の溶解粘度とがR410A用冷凍機油の溶解粘度と同等であることを示している。このため、粘度グレードがVG85以上であり、かつ、VG100以下である冷凍機油は、圧縮機5でR466Aとともに利用されるときに、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができ、圧縮機5の消費電力の増加を抑制することができる。
【0038】
粘度グレードがVG85以上であり、かつ、VG100以下である冷凍機油の動粘度は、粘度グレードがVG68である冷凍機油の動粘度の1.05倍以上であり、かつ、1.50倍以下である。すなわち、空気調和装置1は、R410A用冷凍機油の動粘度の1.05倍〜1.50倍の動粘度を有する冷凍機油を用いて、R466Aを冷媒として利用するときに、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができ、圧縮機5の消費電力の増加を抑制することができる。
【0039】
図4は、複数の条件において、冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度と溶解粘度とを示すグラフである。複数の点41は、冷房運転における定格負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度と溶解粘度とを示している。複数の点41は、冷房定格負荷条件で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときに、冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えることがあることを示している。
【0040】
複数の点42は、冷房運転における低負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度と溶解粘度とを示している。複数の点42は、冷房運転における低負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときに、冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えることがあることを示している。複数の点41と複数の点42とは、冷房運転における低負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度が、冷房運転における定格負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度より低いことを示している。
【0041】
複数の点43は、暖房運転における定格負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度と溶解粘度とを示している。複数の点43は、暖房運転における定格負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときに、冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えることがあることを示している。複数の点44は、暖房運転における低負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度と溶解粘度とを示している。複数の点44は、暖房運転における低負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときに、冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超えることがあることを示している。
【0042】
複数の点43と複数の点44とは、暖房運転における低負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度が、暖房運転における定格負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度より低いことを示している。複数の点41と複数の点42と複数の点43と複数の点44とは、暖房運転における低負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度が、暖房運転における定格負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度より低いことを示している。
【0043】
複数の点45は、過負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度と溶解粘度とを示している。複数の点45は、過負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときに、冷凍機油の溶解粘度が4.0mPa・sを超え難いことを示している。複数の点41と複数の点43と複数の点45とは、過負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度が、定格負荷時で圧縮機5により冷媒が圧縮されたときの冷凍機油の温度より高いことを示している。さらに、複数の点41と複数の点42と複数の点43と複数の点44と複数の点45とは、冷凍機油の温度が低いほど、冷凍機油の溶解粘度が大きくなることを示している。
【0044】
図5は、複数の条件において、冷凍機油の粘度グレードと圧縮機入力増加量との関係を示すグラフである。圧縮機入力増加量は、ある条件で対象の冷凍機油が利用されたときの圧縮機5の電力消費量を、粘度グレードがVG68である基準冷凍機油(図3における折れ線32)がその条件で利用されたときの圧縮機5の電力消費量で除算した割合を示している。折れ線51は、冷房運転における定格負荷時の粘度グレードと圧縮機入力増加量との関係を示している。折れ線51は、冷房運転における定格負荷時において冷凍機油の粘度グレードが大きいほど、圧縮機入力増加量が大きくなることを示している。すなわち、折れ線51は、冷房運転における定格負荷時において冷凍機油の粘度が大きいほど、圧縮機5の電力消費量が大きくなることを示している。折れ線52は、冷房運転における低負荷時の粘度グレードと圧縮機入力増加量との関係を示している。折れ線52は、冷房運転における低負荷時において冷凍機油の粘度グレードが大きいほど、圧縮機入力増加量が大きくなることを示している。すなわち、折れ線52は、冷房運転における低負荷時において冷凍機油の粘度が大きいほど、圧縮機5の電力消費量が大きくなることを示している。
【0045】
折れ線53は、暖房運転における定格負荷時の粘度グレードと圧縮機入力増加量との関係を示している。折れ線53は、暖房運転における定格負荷時において冷凍機油の粘度グレードが大きいほど、圧縮機入力増加量が大きくなることを示している。すなわち、折れ線53は、暖房運転における定格負荷時において冷凍機油の粘度が大きいほど、圧縮機5の電力消費量が大きくなることを示している。折れ線54は、暖房運転における低負荷時の粘度グレードと圧縮機入力増加量との関係を示している。折れ線54は、暖房運転における低負荷時において冷凍機油の粘度グレードが大きいほど、圧縮機入力増加量が大きくなることを示している。すなわち、折れ線54は、暖房運転における低負荷時において冷凍機油の粘度が大きいほど、圧縮機5の電力消費量が大きくなることを示している。
【0046】
折れ線55は、過負荷時における粘度グレードと圧縮機入力増加量との関係を示している。折れ線55は、過負荷時において冷凍機油の粘度グレードが変化しても、圧縮機入力増加量が大きく変動しないことを示している。すなわち、折れ線55は、過負荷時において冷凍機油の粘度が変化しても、圧縮機5の電力消費量が大きく変動しないことを示している。したがって、図5は、圧縮機5が定格負荷時または低負荷時で冷媒を圧縮する場合で、冷凍機油の粘度が大きいときに、圧縮機5の電力消費量が増加することを示している。
【0047】
[実施例1の冷凍サイクル装置の効果]
実施例1の冷凍サイクル装置は、R466A冷媒を圧縮する圧縮機5と、POEを含む基油を含有して圧縮機5を潤滑する冷凍機油とを備えている。冷凍機油の40℃における動粘度は、R410Aから形成される他の冷媒が圧縮機5により圧縮されるときに圧縮機5を適切に潤滑する他の冷凍機油の40℃における他の動粘度の1.05倍以上であり、かつ、他の動粘度の1.50倍以下である。
【0048】
POE(ポリオールエステル)は、R466Aとの相溶性が高い。このため、冷凍サイクル装置は、冷媒とともにサイクル内に送り出されてしまった冷凍機油が圧縮機5に戻り易くなり、圧縮機5の内部に貯留される潤滑油の不足による圧縮機5の摺動部分の焼付き等を適切に防止することができる。さらに、検証した結果、POEとR466Aとの相溶性は、POEとR410Aとの相溶性に比較して、大きいことがわかった。このため、R466Aとともに利用されるときの冷凍機油(POEが基油)の溶解粘度は、R410Aとともに利用されるときの冷凍機油(POEが基油)の溶解粘度より小さい。冷凍サイクル装置は、冷凍機油の動粘度が、R410Aとともに利用される他の冷凍機油の動粘度より高いことにより、R466Aが冷媒として用いられる場合でも、冷凍機油の溶解粘度を確保することができる。冷凍サイクル装置は、冷凍機油の溶解粘度が確保されることにより、摺動部の潤滑に必要な油膜が保持され、圧縮機5の摺動部分を適切に潤滑することができる。具体的には、粘度グレードは、VG85以上であり、かつ、VG100以下である。
【0049】
また、実施例1の冷凍サイクル装置は、室外熱交換器7と室内熱交換器12とインジェクション回路16とセンサと制御装置10とをさらに備えている。室外熱交換器7は、圧縮機5により圧縮された高圧気相冷媒を放熱させる。室外熱交換器7により乾き度が下がった冷媒のうちの一部の冷媒は、インジェクション回路16を介して吸入管14を流れる低圧気相冷媒と混合する。そのセンサは、冷凍機油に冷媒が溶解しているときの冷凍機油の溶解粘度に関する物理量を測定する。制御装置10は、溶解粘度が4.0mPa・sを超えると物理量に基づいて判定されたときに、インジェクション回路16を流れる冷媒が、吸入管14を流れる低圧気相冷媒に混合されるように、インジェクション膨張弁18を制御する。このとき、インジェクション回路16を流れる冷媒が吸入管14を流れる低圧気相冷媒に混合されることにより、冷媒が冷凍機油に溶解する濃度は、大きくなり、冷凍機油の溶解粘度は、小さくなる。このため、冷凍サイクル装置は、冷凍機油の溶解粘度が大きくなり過ぎることを防止することができ、圧縮機5の消費電力の増加を抑制することができるため、圧縮機5の効率の低下を抑制することができる。
【0050】
また、実施例1の冷凍サイクル装置は、吐出温度センサ22と吸入冷媒圧力センサ23と吐出冷媒圧力センサ24とをさらに備えている。吐出温度センサ22は、圧縮機5から吐出される高圧気相冷媒の吐出温度を測定する。吸入冷媒圧力センサ23は、圧縮機5に吸入される低圧気相冷媒の圧力を測定する。吐出冷媒圧力センサ24は、圧縮機5から吐出される高圧気相冷媒の圧力を測定する。制御装置10は、冷媒が圧縮される圧縮比が、予め定められた低圧縮比範囲に含まれ、かつ、予め定められた低吐出温度範囲に吐出温度が含まれるときに、インジェクション回路16を流れる冷媒が吸入管14を流れる冷媒に混合されるように、インジェクション膨張弁18を制御する。冷凍サイクル装置は、冷凍機油の溶解粘度が大きくなり過ぎることを防止することができ、冷凍機油の溶解粘度が大きいことによる圧縮機5の効率の低下を抑制することができる。
【0051】
また、実施例1の冷凍サイクル装置の制御装置10は、さらに、低吐出温度範囲と異なる高吐出温度範囲に吐出温度が含まれるときに、インジェクション回路16を流れる冷媒が吸入管14を流れる冷媒に混合されるように、インジェクション膨張弁18を制御する。冷凍サイクル装置は、吐出温度が予め定められた閾値温度より高いときに、圧縮機5の運転を停止する保護運転を実行し、圧縮機5の内部を冷却することがある。冷凍サイクル装置は、高吐出温度範囲に吐出温度が含まれるときに、インジェクション回路16を流れる冷媒が吸入管14を流れる冷媒に混合されることにより、吐出温度が閾値温度より高くなることを防止し、保護運転の実行を抑制することができる。冷凍サイクル装置は、吐出温度が高くなることを防止するためのインジェクション回路16を用いて、冷凍機油の溶解粘度を下げることができる。このため、冷凍サイクル装置は、冷凍機油の溶解粘度を下げる以外の目的であっても、インジェクション回路が設けられていれば、特別な要素を追加することなく本発明を適用することができる。
【0052】
なお、実施例1の冷凍サイクル装置は、分岐部17を冷房運転時における膨張弁8の上流側に配置しているが、分岐部17を暖房運転時における膨張弁8の上流側に配置してもよい。また、実施例1の空気調和装置1は、室内機2と室外機3が一対一で接続されたシングルタイプだが、一台の室外機3に複数台の室内機2が接続されたマルチタイプでもよい。マルチタイプの空気調和装置には、圧力損失を低減させるため、常時インジェクション回路に冷媒を流すものがある。その場合、図2のインジェクション回路制御において、ステップS4の「インジェクション膨張弁18を閉鎖」を「閉方向に制御」に読み替える。
【実施例2】
【0053】
実施例2の冷凍サイクル装置は、既述の実施例1の冷凍サイクル装置の混合部20が他の混合部に置換され、他の部分は、既述の実施例1の冷凍サイクル装置と同じである。混合部は、圧縮機5の圧縮室に接続されている。インジェクション膨張弁18が開放されるとき、インジェクション回路16を流れる冷媒は、混合部20を介して圧縮室に供給され、圧縮室に吸入された低圧気相冷媒と混合する。
【0054】
実施例2の冷凍サイクル装置は、既述の実施例1の冷凍サイクル装置と同様に、冷凍機油の動粘度がR410A用冷凍機油の動粘度より高いことにより、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができる。実施例2の冷凍サイクル装置は、既述の実施例1の冷凍サイクル装置と同様に、インジェクション回路制御が実行されることにより、保護運転の実行を抑制することができ、冷凍機油の溶解粘度が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【0055】
ところで、既述の実施例の冷凍サイクルは、吐出温度センサ22により測定される吐出温度に基づいてインジェクション回路制御が実行されているが、吐出温度と異なる他の温度に基づいてインジェクション回路制御が実行されてもよい。その温度としては、圧縮機5のシャフトとモータ部と圧縮部とを格納する密閉容器の温度が例示される。冷凍サイクルは、このような温度に基づいてインジェクション回路制御が実行された場合でも、保護運転の実行を抑制することができ、冷凍機油の溶解粘度が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【0056】
ところで、既述の実施例の冷凍サイクルの制御装置10は、吸入冷媒圧力センサ23により測定された圧力と吐出冷媒圧力センサ24により測定された圧力とに基づいて圧縮比を算出しているが、他の物理量から圧縮比を算出してもよい。たとえば、制御装置10は、圧縮機5のシャフトの回転数に基づいて圧縮比を算出してもよい。冷凍サイクルは、このように算出された圧縮比に基づいてインジェクション回路制御が実行された場合でも、保護運転の実行を抑制することができ、冷凍機油の溶解粘度が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【実施例3】
【0057】
実施例3の冷凍サイクル装置は、既述の実施例1の冷凍サイクル装置からインジェクション回路16が省略され、他の部分は、既述の実施例1の冷凍サイクル装置と同じである。実施例3の冷凍サイクル装置は、既述の実施例1の冷凍サイクル装置と同様に、冷暖房運転と保護運転制御とが実行される。実施例3の冷凍サイクル装置は、インジェクション回路16が省略された場合でも、冷凍機油の動粘度がR410A用冷凍機油の動粘度より高いことにより、実施例1の冷凍サイクル装置と同様に、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができ、圧縮機5の消費電力の増加を抑制することができる。
【0058】
なお、既述の冷凍サイクル装置は、シングルタイプの空気調和装置1に設けられているが、マルチタイプの空気調和装置に設けられてもよい。冷凍サイクル装置は、マルチタイプの空気調和装置に設けられた場合でも、冷凍機油の基油の動粘度がR410A用冷凍機油の動粘度より高いことにより、圧縮機5の摺動部を適切に潤滑することができ、圧縮機5の消費電力の増加を抑制することができる。
【0059】
以上、実施例を説明したが、上述した内容により実施例が限定されるものではない。また、上述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、上述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1 :空気調和装置
5 :圧縮機
7 :室外熱交換器
8 :膨張弁
10:制御装置
12:室内熱交換器
16:インジェクション回路
22:吐出温度センサ
23:吸入冷媒圧力センサ
24:吐出冷媒圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5