特許第6908185号(P6908185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6908185有機物分解用担持触媒および有機物分解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908185
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】有機物分解用担持触媒および有機物分解装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/889 20060101AFI20210708BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20210708BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20210708BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   B01J23/889 AZAB
   B01J23/34 A
   B01J23/78 A
   B01D53/86 150
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-518161(P2020-518161)
(86)(22)【出願日】2019年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2019008592
(87)【国際公開番号】WO2019216009
(87)【国際公開日】20191114
【審査請求日】2020年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2018-92386(P2018-92386)
(32)【優先日】2018年5月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 均
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】呉竹 悟志
(72)【発明者】
【氏名】菅原 成雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 健太郎
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−080310(JP,A)
【文献】 特開2006−346603(JP,A)
【文献】 特開2013−244479(JP,A)
【文献】 GALLUCCI Katia, et al.,Catalytic combustion of methane on BaZr(1-x)MexO3 perovskites synthesised by a modified citrate method,Catalysis Today,2012年,197(1),pp. 236-242,特に2.1 Materials and methods, 2.3 Catalytic activity tests, Table 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、
前記担体に担持された触媒粒子と、
を備える有機物分解用担持触媒であって、
前記触媒粒子は、一般式Axyzwで表されるペロブスカイト型複合酸化物を含み、Aは、BaおよびSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Bは、Zrを含み、Mは、Mn、Co、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、x、y、およびzは、y+z=1、x>1、z<0.4の関係を満たし、wは、電気的中性を満足する正の値であり、
前記有機物分解用担持触媒を950℃で48時間、熱処理した後の有機物分解率は、熱処理前を1としたときに0.97より大きく、
前記有機物分解用担持触媒を、水中で28kHz、220Wの条件で15分間超音波処理したときの前記触媒粒子の剥離量は、前記触媒粒子の担持量に対して1重量%未満であることを特徴とする有機物分解用担持触媒。
【請求項2】
前記xおよび前記zはそれぞれ、
1.001≦x≦1.05
0.05≦z≦0.2
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の有機物分解用担持触媒。
【請求項3】
前記xは、x≧1.005の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の有機物分解用担持触媒。
【請求項4】
前記担体に担持されている前記触媒粒子からなる触媒担持膜の膜厚は、5μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機物分解用担持触媒。
【請求項5】
前記担体は、直径が0.3μm以上50μm以下の気孔を複数含む多孔質構造体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機物分解用担持触媒。
【請求項6】
前記担体は、コージェライトを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機物分解用担持触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の有機物分解用担持触媒を備えることを特徴とする有機物分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を分解するために用いられる有機物分解用担持触媒、および、有機物分解用担持触媒を含む有機物分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物を分解する有機物分解用触媒が知られている。
【0003】
特許文献1には、貴金属および希土類元素を使用せず、800℃で100時間熱処理しても劣化が少ない有機物分解用触媒が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、排気ガス浄化用三元触媒を耐熱性担体に担持させた排気ガス浄化用触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6303834号公報
【特許文献2】特許第3406001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載の有機物分解用触媒を、特許文献2に記載の方法のように、無機ゾルを混合して600℃程度の低温で焼成することによって担体に担持させると、触媒の耐熱性が低くなることが分かった。これは、無機ゾルと触媒とが化学的に反応して、元来の触媒活性点が機能しなくなることや、無機ゾルによる焼結促進作用により、触媒の比表面積が低下することが理由と考えられる。
【0007】
一方、無機ゾルを使用せずに有機物分解用触媒を担体に担持させると、触媒の密着性が低くなって、触媒の剥離率が高くなることが分かった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、担体に担持された触媒粒子の剥離を抑制し、かつ、高温での熱処理による劣化を抑制することができる有機物分解用担持触媒、および、そのような有機物分解用担持触媒を備えた有機物分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機物分解用担持触媒は、
担体と、
前記担体に担持された触媒粒子と、
を備える有機物分解用担持触媒であって、
前記触媒粒子は、一般式Axyzwで表されるペロブスカイト型複合酸化物を含み、Aは、BaおよびSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Bは、Zrを含み、Mは、Mn、Co、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、x、y、およびzは、y+z=1、x>1、z<0.4の関係を満たし、wは、電気的中性を満足する正の値であり、
前記有機物分解用担持触媒を950℃で48時間、熱処理した後の有機物分解率は、熱処理前を1としたときに0.97より大きく、
前記有機物分解用担持触媒を、水中で28kHz、220Wの条件で15分間超音波処理したときの前記触媒粒子の剥離量は、前記触媒粒子の担持量に対して1重量%未満であることを特徴とする。
【0010】
前記xおよび前記zはそれぞれ、
1.001≦x≦1.05
0.05≦z≦0.2
の関係を満たしていてもよい。
【0011】
また、前記xは、x≧1.005の関係を満たしていてもよい。
【0012】
前記担体に担持されている前記触媒粒子からなる触媒担持膜の膜厚は、5μm以上であってもよい。
【0013】
前記担体は、直径が0.3μm以上50μm以下の気孔を複数含む多孔質構造体であってもよい。
【0014】
前記担体は、コージェライトを含んでいてもよい。
【0015】
本発明の有機物分解装置は、上述した有機物分解用担持触媒を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有機物分解用担持触媒によれば、担体に担持された触媒粒子の剥離を抑制し、かつ、高温での熱処理による劣化を抑制することができる。
【0017】
また、本発明の有機物分解装置は、担体に担持された触媒粒子の剥離を抑制し、かつ、高温での熱処理による劣化を抑制することができる有機物分解用担持触媒を備えているので、有機物分解特性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ハニカムセラミックスの外観形状を示す斜視図である。
図2図1のハニカムセラミックスをZ軸方向に見たときの部分拡大模式図である。
図3】担持ハニカムサンプルの外観形状を示す斜視図である。
図4】有機物分解用担持触媒の有機物分解性能を評価するための試験に用いた試験装置の概略構成を示す図である。
図5】管の内部への担持ハニカムサンプルの配置方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0020】
本発明による有機物分解用担持触媒は、下記の要件(以下、本発明の要件と呼ぶ)を満たす。すなわち、本発明による有機物分解用担持触媒は、担体と、担体に担持された触媒粒子とを備え、触媒粒子は、一般式Axyzwで表されるペロブスカイト型複合酸化物を含み、Aは、BaおよびSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Bは、Zrを含み、Mは、Mn、Co、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、x、y、およびzは、y+z=1、x>1、z<0.4の関係を満たし、wは、電気的中性を満足する正の値であり、有機物分解用担持触媒を950℃で48時間、熱処理した後の有機物分解率は、熱処理前を1としたときに0.97より大きく、有機物分解用担持触媒を、水中で28kHz、220Wの条件で15分間超音波処理したときの触媒粒子の剥離量は、担持量に対して1重量%未満である。
【0021】
上記本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒は、後述するように、担体に担持された触媒粒子の剥離を抑制し、かつ、高温での熱処理による劣化を抑制することができる。この有機物分解用担持触媒は、工場や自動車からの排ガスの浄化など、有機物を分解するための種々の用途に用いることができる。その場合、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒を備えた有機物分解装置として構成することができる。
【0022】
(実施例1)
高純度のBaCO3、ZrO2、および、MnCO3の粉末を、表1の組成となるように秤量し、純水を加えて、ZrO2製の玉石とともに湿式混合し、スラリーを得た。このスラリーを乾燥機にて120℃で乾燥させた後、得られた粉を1100℃、2時間の条件で熱処理を行うことにより、目的のペロブスカイト型複合酸化物を得た。
【0023】
続いて、担持用の触媒スラリーを得るため、表1に示すように、ペロブスカイト型化合物450gに対して純水320gを加え、さらに有機分散剤と消泡剤とを適量加えて、ZrO2製の玉石とともに2時間湿式混合して、触媒スラリーを得た。触媒スラリーを作製する際に、無機ゾルは使用していない。
【0024】
得られた触媒スラリーに対して、担体となるハニカムセラミックスを1分間浸漬した。ハニカムセラミックスは、コージェライトを含む。本実施形態では、ハニカムセラミックスは、多孔体コージェライトからなる。
【0025】
図1は、ハニカムセラミックス10の外観形状を示す斜視図である。また、図2は、図1のハニカムセラミックス10をZ軸方向に見たときの部分拡大模式図である。
【0026】
ハニカムセラミックス10のサイズは、図1のX軸方向の寸法が約40mm、Y軸方向の寸法が約40mm、Z軸方向の寸法が約50mmである。ハニカムセラミックス10には、複数のセル11が設けられている。Z軸方向における平面視でのセルの大きさは約1.5mm×約1.5mmであり、1インチ2あたりのセル数は、約200である。
【0027】
図2に示すように、ハニカムセラミックス10のセル11以外の部分には、多数の気孔12が設けられている。すなわち、ハニカムセラミックス10は、複数の気孔12を含む多孔質構造体である。気孔12は、ハニカムセラミックス10に触媒スラリーを塗工したときに、触媒スラリーに含まれる水分を多孔体コージェライトに吸収させる機能を有する。すなわち、気孔12の毛管吸引力によって、触媒スラリーに含まれる水分が多孔体コージェライトに吸収されて触媒粒子の濃度が増加し、セルの内壁に触媒粒子が密着した触媒担持膜を形成することができる。
【0028】
本実施形態において、担体であるハニカムセラミックスの気孔12の直径は、例えば0.3μm以上50μm以下であり、平均直径は3μm、体積気孔率は約50%である。気孔12の直径は、円相当径である。上述した気孔12の直径等は、水銀接触角130°、水銀表面張力485mN/m、測定圧力範囲3.45kPa〜414MPaの条件にて水銀圧入法により求めた値である。
【0029】
なお、本発明において、担体がハニカムセラミックスに限定されることはないし、担体の気孔12の直径、平均直径、および、体積気孔率が上記数値に限定されることもない。
【0030】
触媒スラリーへの浸漬後、ハニカムセラミックスに残った余分な触媒スラリーを空気流で吹き払ってから、乾燥機にて120℃で12時間乾燥させた。その後、電気炉で、空気中、500℃以上1150℃以下の所定の焼成温度(表1参照)でハニカムセラミックスを3時間焼成し、有機物分解用担持触媒である焼成物を得た。この焼成物では、担体であるハニカムセラミックスのセルの内壁に触媒粒子が担持されている。
【0031】
続いて、得られた焼成物を、2セル分のスティック状に切り出した後、外周部に付着している余分な触媒をサンドペーパーで削り落として、担持ハニカムサンプルとした。図3は、担持ハニカムサンプル20の外観形状を示す斜視図である。担持ハニカムサンプル20のX軸方向の寸法は約2mm、Y軸方向の寸法は約4mm、Z軸方向の寸法は約50mmである。
【0032】
また、高温での熱処理を行った後の特性を調べるため、担持ハニカムサンプル20の一部について、さらに電気炉で950℃、48時間の追加熱処理を行った。
【0033】
上述した方法により、追加熱処理前および追加熱処理後の活性評価用の担持ハニカムサンプルを得た。
【0034】
<活性評価方法>
担持ハニカムサンプルの活性評価方法について説明する。
【0035】
(1)試験装置
図4は、有機物分解用担持触媒の有機物分解性能を評価するための試験に用いた試験装置40の概略構成を示す図である。この試験装置40は、有機物が流通する管41と、管41を流通する有機物を加熱するための加熱部42と、加熱部42を制御する制御部43とを備える。
【0036】
管41の内部の、加熱部42によって加熱される領域には、上述した方法により作製された担持ハニカムサンプルが配置される。
【0037】
図5は、管41の内部への担持ハニカムサンプル20の配置方法を説明するための断面図である。1/4インチサイズの反応管51の内部に、担持ハニカムサンプル20を全長の約半分まで挿入し、その状態で耐熱性無機接着剤52を用いて固定・封止した。そして、担持ハニカムサンプル20を挿入した反応管51ごと、1/2インチサイズの管41の内部に挿入した。
【0038】
なお、管41と反応管51は二重管構造になっており、管41に供給される被処理ガスは、担持ハニカムサンプル20の内部のみを通過して、後述するガス排出管45へと排出される。
【0039】
管41の上流側には、ガス供給管44が接続されている。ガス供給管44には、トルエン(有機物)を供給するためのトルエン供給ライン46と、窒素(N2)を供給するための窒素供給ライン47と、酸素(O2)を供給するための酸素供給ライン48が接続されている。すなわち、管41には、ガス供給管44を介して、トルエン、窒素、および酸素を含む被処理ガスが供給される。
【0040】
管41の下流側には、管41の内部に配置された担持ハニカムサンプル20で有機物が分解された後の処理済みガスを系外に排出するためのガス排出管45が接続されている。ガス排出管45には、処理済みガスをサンプリングするためのサンプリングライン49が接続されており、処理済みガス中のトルエンの濃度をガスクロマトグラフにより分析することができるように構成されている。
【0041】
制御部43は、加熱部42によって加熱される領域の温度が制御可能なように構成されている。
【0042】
(2)試験方法
上述した試験装置40を用いて、トルエンと窒素と酸素とを含む被処理ガスを管41に連続的に供給し、トルエンを分解させる試験を行った。被処理ガスの組成は、トルエン(C78):50ppm、窒素(N2):80vol%、酸素(O2):20vol%とし、測定時の空間速度SVは30000(/h)、触媒温度は400℃とした。
【0043】
サンプリングライン49の出口で処理済みガスをサンプリングし、トルエン濃度をガスクロマトグラフによる分析により定量した。そして、次式(1)に基づいて、トルエン分解率を求めた。
トルエン分解率(%)=100−100×(トルエン濃度/50) …(1)
【0044】
また、追加熱処理前の担持ハニカムサンプル20を用いた場合のトルエン分解率をC1、追加熱処理後の担持ハニカムサンプル20を用いた場合のトルエン分解率をC2としたときの、追加熱処理によるトルエン分解率の劣化率を次式(2)より算出した。
劣化率(%)=100−100×(C2/C1) …(2)
【0045】
続いて、触媒粒子の密着性の評価方法について説明する。
【0046】
まず、上記と同様の方法により、有機物分解用担持触媒である焼成物を得た後、触媒担持前のハニカムセラミックスと、触媒担持後の焼成物との重量差を求めることによって、触媒粒子の担持量W0を求める。
【0047】
次に、焼成物をステンレス容器内に設置して純水で水没させた状態で、28kHz、220Wの条件で15分間の超音波処理を行う。その後、焼成物を純水から取り出して水をよく切った後、乾燥機にて120℃で12時間の乾燥処理を行う。そして、乾燥処理後の焼成物の重量を測定し、触媒担持前のハニカムセラミックスの重量との差を求めることによって、触媒粒子の残存量W1を求める。
【0048】
上述した方法により求めた触媒粒子の担持量W0と触媒粒子の残存量W1とに基づいて、次式(3)より、触媒粒子の剥離率を求めた。
剥離率(%)=100−100×(W1/W0) …(3)
【0049】
続いて、ハニカムセラミックスに担持されている触媒粒子からなる触媒担持膜の膜厚の測定方法について説明する。
【0050】
上記と同様の方法により作製したスティック状の担持ハニカムサンプルについて、Y軸方向およびZ軸方向で規定される面を、#400のサンドペーパーで約1mm程度研磨する。研磨後の担持ハニカムサンプルを、光学顕微鏡で研磨面と直交する方向から観察し、二点間計測機能を用いて、セルの内壁に付着している触媒担持膜の膜厚を計測する。膜厚は、Z軸方向に沿った等間隔の5箇所で測定し、その平均値を求めた。
【0051】
表1に、作製した試料番号1〜21の有機物分解用担持触媒の特性を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1では、触媒の組成、担持用の触媒スラリーを得るために用いたペロブスカイト型化合物と純水の量、焼成温度、追加熱処理前の有機物分解用担持触媒における触媒担持量、分解率および剥離率、追加熱処理後の有機物分解用担持触媒の分解率および劣化率をそれぞれ示している。触媒担持量のうち、g/Lで示される数値は、触媒粒子の質量(g)を担体の体積(L)、より詳しくは、ハニカムセラミックスのセルおよびセル内の空洞を含む全体積で規格化した量である。
【0054】
表1において、試料番号に*が付されている試料は、上述した本発明の要件を満たしていない試料であり、試料番号に*が付されていない試料は、上述した本発明の要件を満たす試料である。
【0055】
ここで、本発明の要件のうち、「有機物分解用担持触媒を950℃で48時間、熱処理した後の有機物分解率は、熱処理前を1としたときに0.97より大きい」という要件は、表1に示す追加熱処理後の劣化率が3.0%未満であることと同等である。また、「有機物分解用担持触媒を、水中で28kHz、220Wの条件で15分間超音波処理したときの触媒粒子の剥離量は、触媒粒子の担持量に対して1重量%未満である」という要件は、表1に示す追加熱処理前の剥離率が1重量%未満であることと同等である。
【0056】
試料番号1〜3の有機物分解用担持触媒は、一般式Axyzwで表されるペロブスカイト型複合酸化物の組成xが1.000であり、本発明の要件を満たしていない。焼成温度が500℃の試料番号1の有機物分解用担持触媒、および、焼成温度が800℃の試料番号2の有機物分解用担持触媒は、剥離率が1重量%より大幅に大きくなったが、焼成温度が950℃の試料番号3の有機物分解用担持触媒は、剥離率が1重量%未満となった。ただし、試料番号1〜3の有機物分解用担持触媒は全て、950℃で48時間の追加熱処理を行った後のトルエン分解率の劣化率が3.8%以上となり、高温熱処理後の劣化率が大きくなった。
【0057】
試料番号4〜8の有機物分解用担持触媒は、組成xを1.010とし、焼成温度を500℃以上1150℃以下の範囲で変えた試料である。本発明の要件を満たさない試料番号4、5、および、8の有機物分解用担持触媒は、剥離率または追加熱処理後の劣化率の数値が悪くなった。
【0058】
すなわち、焼成温度が500℃である試料番号4の有機物分解用担持触媒の剥離率は21重量%、焼成温度が800℃である試料番号5の有機物分解用担持触媒の剥離率は8重量%と、剥離率が1重量%を超えた。
【0059】
また、焼成温度が1150℃である試料番号8の有機物分解用担持触媒は、追加熱処理後の劣化率が9.1%と高くなった。これは、焼成温度が1150℃と高すぎたため、触媒の比表面積が低下し、焼成時に担体との間で化学反応が生じて触媒が劣化したものと推定される。
【0060】
これに対して、本発明の要件を満たす試料番号6および7の有機物分解用担持触媒は、分解率が97.9%以上、剥離率は1重量%未満、追加熱処理後の劣化率が0.3%未満となった。すなわち、本発明の要件を満たす試料番号6および7の有機物分解用担持触媒は、有機物の分解率が高く、担体に担持された触媒粒子の剥離が抑制され、かつ、高温での熱処理による劣化が抑制されている。
【0061】
試料番号9〜13の有機物分解用担持触媒は、焼成温度が950℃であり、組成xを0.995以上1.100以下の範囲で変更した試料である。試料番号9〜13の有機物分解用担持触媒の剥離率は全て、1重量%未満となった。
【0062】
組成xが0.995であり、本発明の要件を満たしていない試料番号9の有機物分解用担持触媒は、追加熱処理後の劣化率が8.0%と、高い数値になった。
【0063】
一方、本発明の要件を満たす試料番号10〜13の有機物分解用担持触媒の劣化率は、1.3%以下となった。すなわち、本発明の要件を満たす試料番号10〜13の有機物分解用担持触媒は、触媒粒子の剥離率が低く、かつ、高温での熱処理による劣化が少ない。
【0064】
試料番号14〜21の有機物分解用担持触媒は、焼成温度が950℃であり、組成xが1.001または1.050で、組成zを0.020以上0.400以下の範囲で変更した試料である。試料番号14〜21の有機物分解用担持触媒の剥離率は全て、1重量%未満となった。
【0065】
組成zが0.400であり、本発明の要件を満たさない試料番号17および21の有機物分解用担持触媒は、追加熱処理後の劣化率がそれぞれ5.6%および3.1%と、高い数値になった。
【0066】
一方、本発明の要件を満たす試料番号14〜16、18〜20の有機物分解用担持触媒の劣化率は、1.6%以下となった。すなわち、本発明の要件を満たす試料番号14〜16、18〜20の有機物分解用担持触媒は、触媒粒子の剥離率が低く、かつ、高温での熱処理による劣化が少ない。
【0067】
また、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒のうち、組成xが1.001≦x≦1.05の関係を満たし、かつ、組成zが0.05≦z≦0.2の関係を満たす試料番号6、7、10〜12、15、16、19、20の有機物分解用担持触媒は、トルエンの分解率が90%以上となった。一方、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒のうち、組成xと組成zのうちの少なくとも一方が上記関係(1.001≦x≦1.05、0.05≦z≦0.2)を満たしていない試料番号13、14、および、18の有機物分解用担持触媒は、トルエンの分解率が90%未満となった。
【0068】
したがって、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒はさらに、組成xが1.001≦x≦1.05の関係を満たし、かつ、組成zが0.05≦z≦0.2の関係を満たしていることが好ましい。
【0069】
また、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒のうち、組成xがx≧1.005の関係を満たす試料番号6、7、11〜13、18〜20の有機物分解用担持触媒は、追加熱処理後の劣化率が0.7%以下となった。一方、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒のうち、組成xがx≧1.005の関係を満たしていない試料番号10、14〜16の有機物分解用担持触媒は、追加熱処理後の劣化率が1.2%以上となった。
【0070】
したがって、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒はさらに、組成xがx≧1.005の関係を満たしていることが好ましい。
【0071】
ここで、結合剤として一般的に用いられる無機ゾルを使用した場合の特性も確認するため、表2の試料番号22〜27の有機物分解用担持触媒を作製した。試料番号に*が付されているこれらの有機物分解用担持触媒は、本発明の要件を満たしていない試料である。
【0072】
表2の試料番号22および25の有機物分解用担持触媒は、無機ゾルとしてSiO2ゾルを、試料番号23および26の有機物分解用担持触媒は、Al23ゾルを、試料番号24および27の有機物分解用担持触媒は、ジルコニアゾルを用いて、担持用の触媒スラリーを作製した。SiO2ゾルは、固形分が40重量%、pHが9.0、平均粒子径が20nmである。Al23ゾルは、固形分が20重量%、pHが8.0、平均粒子径が20nmである。ジルコニアゾルは、固形分が40重量%、pHが9.5、平均粒子径が90nmである。
【0073】
担持用の触媒スラリーを作製する際のそれぞれの無機ゾルの含有量は、表2に示す通りである。表2に示すように、試料番号22〜24の有機物分解用担持触媒の触媒組成は、試料番号1の有機物分解用担持触媒の触媒組成と同じである。また、試料番号25〜27の有機物分解用担持触媒の触媒組成は、試料番号4の有機物分解用担持触媒の触媒組成と同じである。無機ゾルを用いた以外は、試料番号1および4の有機物分解用担持触媒と同様の方法で各試料の作製および評価を行った。なお、焼成温度は、いずれの試料でも500℃と低温である。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、無機ゾルを使用せずに触媒スラリーを作製した試料番号1の有機物分解用担持触媒は、剥離率が22重量%となった。これに対して、試料番号1の有機物分解用担持触媒と組成が同じであるが、無機ゾルを使用して触媒スラリーを作製した試料番号22〜24の有機物分解用担持触媒は、剥離率が1重量%未満となった。ただし、試料番号22〜24の有機物分解用担持触媒では、追加熱処理後の劣化率が8.8%以上と高い数値になった。
【0076】
また、表2に示すように、無機ゾルを使用せずに触媒スラリーを作製した試料番号4の有機物分解用担持触媒は、剥離率が21重量%となった。これに対して、試料番号4の有機物分解用担持触媒と組成が同じであるが、無機ゾルを使用して触媒スラリーを作製した試料番号25〜27の有機物分解用担持触媒は、剥離率が1重量%未満となった。ただし、試料番号25〜27の有機物分解用担持触媒では、追加熱処理後の劣化率が8.1%以上と高い数値になった。
【0077】
すなわち、無機ゾルを使用して触媒スラリーを作製した場合には、950℃で48時間の追加熱処理を行った後のトルエン分解率の劣化率が3%以上となり、高温での熱処理による劣化が大きくなった。
【0078】
続いて、触媒担持量を変化させた場合の特性を確認する目的で、表3に示す試料番号28〜32の有機物分解用担持触媒を作製した。試料番号に*が付されている試料番号28の有機物分解用担持触媒は、本発明の要件を満たさない試料であり、試料番号に*が付されていない試料番号29〜32の有機物分解用担持触媒は、本発明の要件を満たす試料である。
【0079】
表3に示すように、試料番号28〜32の有機物分解用担持触媒の触媒組成は、試料番号6の有機物分解用担持触媒の触媒組成と同じである。担持用の触媒スラリーを作製する際のペロブスカイト型化合物の混合量を変更した以外は、試料番号6の有機物分解用担持触媒と同様の方法で各試料の作製および評価を行った。なお、焼成温度は、いずれの試料でも950℃である。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示すように、試料番号28、29、30、6、31、32の順に、触媒担持膜の膜厚が厚い。これらの有機物分解用担持触媒の剥離率は、全て1重量%未満となった。
【0082】
表3に示すように、本発明の要件を満たさない試料番号28の有機物分解用担持触媒は、触媒担持膜の膜厚が1μmであり、追加熱処理後の劣化率が20.6%と高い数値になった。
【0083】
一方、触媒担持膜の膜厚が5μm以上であり、本発明の要件を満たしている試料番号6、29〜32の有機物分解用担持触媒は、追加熱処理後の劣化率が0.5%以下となった。
【0084】
すなわち、触媒担持膜の膜厚が5μm以上の有機物分解用担持触媒は、剥離率が1重量%未満で、かつ、950℃で48時間の追加熱処理後の劣化率が3%未満、より詳しくは0.5%以下となる。したがって、触媒担持膜の膜厚は5μm以上であることが好ましい。
【0085】
続いて、触媒の組成を変えた場合の特性を確認する目的で、表4に示す試料番号33〜52の有機物分解用担持触媒を作製した。ここでは、表1の試料番号1〜21の有機物分解用担持触媒を作製する際に用いた原料粉末の他に、高純度のSrCO3粉末、CO34粉末、NiO粉末、および、Fe23粉末を用意し、表4の組成となるようにペロブスカイト型複合酸化物を作製した。
【0086】
また、担持用の触媒スラリーを作製する過程において、ペロブスカイト型化合物と純水の量も、組成に応じて、表4に示す量に変更した。作製した有機物分解用担持触媒の評価方法は、上述した評価方法と同じである。
【0087】
【表4】
【0088】
表4において、試料番号に*が付されている有機物分解用担持触媒は、上述した本発明の要件を満たしていない試料であり、試料番号に*が付されていない有機物分解用担持触媒は、上述した本発明の要件を満たす試料である。
【0089】
表4に示すように、本発明の要件を満たす試料番号34〜36、39〜41、44〜46、および、49〜51の有機物分解用担持触媒は、触媒粒子の剥離率が1重量%未満であり、追加熱処理後の劣化率が2.4%以下となった。
【0090】
これに対して、本発明の要件を満たさない試料番号33、37、38、42、43、47、48、52の有機物分解用担持触媒は、触媒粒子の剥離率が1重量%未満であるが、追加熱処理後の劣化率が3.1%以上となった。
【0091】
以上、表1〜表4に示すように、本発明の要件を満たす有機物分解用担持触媒は、担体に担持された触媒粒子の剥離を抑制し、かつ、高温での熱処理による劣化を抑制することができる。
【0092】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
10 ハニカムセラミックス
11 セル
12 気孔
20 担持ハニカムサンプル
40 試験装置
41 管
42 加熱部
43 制御部
44 ガス供給管
45 ガス排出管
46 トルエン供給ライン
47 窒素供給ライン
48 酸素供給ライン
49 サンプリングライン
51 反応管
図1
図2
図3
図4
図5