【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(9)が、工程(8)により得られた複数のシートをパラフィンから作られた基板上に配列する操作を含み、かつ、工程(9)の後に、該複数のシート及び基板を加熱してこれらを融合させる工程を含む、請求項2に記載の製造方法。
中空針が0.5〜5.0mmの内径を有する円形又は0.5〜5.0mmの長辺及び短辺を有する四角形又は多角形の中空形状を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体組織の検査や解析には、基板上に組織片を配列した組織アレイチップが用いられている。組織アレイチップは、被検物質を特異的に染色する染色液を塗布等することにより、病変組織の有無の検査、遺伝子や蛋白質の解析、スクリーニングなどに用いられる。
【0003】
この組織アレイチップは、次のように作製される。
図11は、従来の組織アレイチップ作製方法を説明する説明図である。(a)生体組織をブロック化した組織ブロックをパンチングしてコアを採取する。(b)採取したコアを、基体ブロックにアレイ状に設けられた空孔に挿入する。(c)各空孔にコアが挿入された基体ブロックの表面を数μmの厚みでスライスし、組織片が配列する組織アレイシートを作製する。(d)組織アレイシートを基板にマウントして組織アレイチップを作製する。さらに(c)及び(d)は繰り返し行われて複数枚の組織アレイチップが作製される。
【0004】
組織アレイチップの作製に用いられる組織アレイブロックは、パンチング機構を備える装置により作製される。特許文献1及び2には、基体ブロック用のパンチと組織ブロック用のパンチを備え、基体ブロック用のパンチで基体ブロックに空孔を形成し、組織ブロック用のパンチで組織ブロックをパンチングしてコアを採取し、採取したコアを基体ブロックの空孔に挿入する装置が開示されている。
【0005】
特許文献1及び2は、いずれも組織ブロックに穴を開けてコアを抜き取り、レシピエントブロックに移植する組織アレイの作製方法である。これらのコアリングの方法では作製することが出来ない以下のような場合が多く想定される。(1)コアリングした部位は、再度、組織を観察することが出来ない。これを理由に倫理委員会などで承認されない場合がある。(2)組織ブロックの外部への持ち出しを禁じている施設があり、こういった施設では、多施設共同研究などでアレイを作製することが出来ない。(3)興味深い症例や、貴重な症例の組織ブロックは重要であり、穴を開けることが極めて困難である。(4)コアの抜き取りは、ある程度の厚みのある組織ブロックに限定される。(5)腫瘍などのターゲットにする病変が飛び飛びに有る場合、通常のコアでは病変部を全切片に網羅することは困難である。(6)厚みの違う組織ブロックを使うので、コア欠けが生じる。
上記の問題を解決する手段として、本発明者らは、ロール状に形成した薄切組織片から組織アレイブロック及び組織アレイシートを作製する技術(スパイラル組織アレイ)を開発した(特許文献3)。また、本発明者らは、組織ブロックよりスライスした薄切組織片から組織アレイブロック及び組織アレイシートを作製する技術(パイルアップ組織アレイ)を開発した(特許文献4)。
また、スライドガラス1枚当たり最大約10000組織を搭載する組織アレイを作製する技術も知られている(特許文献5、非特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スパイラル組織アレイは、パンチングにより作製される従来の組織アレイの欠点をほぼクリアーした優れた技術である。しかし、スパイラル組織アレイでは、薄切組織片をロール状に形成するため、巻きつきによりコアの径が大きくなる。一方、組織アレイチップはスライドガラス(2.5cm×7.5cm)に載せ観察するため、通常2cm×3cmの大きさである。そのため、スパイラル組織アレイでは、1枚のシートに載る組織数は、数十個程度と制限されている。パイルアップ組織アレイでは、従来のパンチングにより作製される組織アレイチップに載る組織数と同等の組織数で1枚のシートを作製することができるが、さらなる組織数の集積により網羅的かつハイスループットアッセイに供することのできる組織アレイが求められている。そこで、本発明はこのような実情に鑑みて、新たな組織アレイブロック作製方法及び組織アレイチップを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、スライドガラス上に超高密度に組織を搭載する手段について鋭意検討した結果、組織を水平方向にアレイしたH−ブロックを作製し、H−ブロックから供給されるV−セグメントを垂直方向にアレイして重積するV−ブロックを作製することによって、三次元に効率よく組織を集積することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下のものを提供する。
〔1〕 (1)組織ブロックよりスライスした組織片から中空針で一部分をくり抜き採取し、H−セグメントを準備する工程と、
(2)当該H−セグメントを中空内に保持する当該中空針で、H−セグメントの結合剤からなるシートをくり抜き採取し、結合剤切片を準備する工程と、
(3)工程(1)と(2)を繰り返して、当該中空針内でH−セグメントと結合剤切片とを交互に縦方向に積層する積層工程と、
(4)中空針から積層物を取り出し、加熱して融合させ、H−ブロックを作製する工程と、
(5)当該H−ブロックを横方向に向かせて包埋する工程と、
(6)当該包埋H−ブロックをミクロトームで水平方向にスライスしてV−セグメントを作製する工程と、
(7)当該V−セグメントを長辺の一辺を揃えて積層し、V−ブロックを作製する工程と、
(8)当該V−ブロックを全ての組織が上面に出る方向に向かせて包埋し、V−セグメントの積層方向にスライスして超高密度組織アレイシートを作製する工程とを含む、
超高密度組織アレイシートの製造方法。
〔2〕 (1)組織ブロックよりスライスした組織片から中空針で一部分をくり抜き採取し、H−セグメントを準備する工程と、
(2)当該H−セグメントを中空内に保持する当該中空針で、H−セグメントの結合剤からなるシートをくり抜き採取し、結合剤切片を準備する工程と、
(3)工程(1)と(2)を繰り返して、当該中空針内でH−セグメントと結合剤切片とを交互に縦方向に積層する積層工程と、
(4)中空針から積層物を取り出し、加熱して融合させ、H−ブロックを作製する工程と、
(5)当該H−ブロックを横方向に向かせて包埋する工程と、
(6)当該包埋H−ブロックをミクロトームで水平方向にスライスしてV−セグメントを作製する工程と、
(7)当該V−セグメントを長辺の一辺を揃えて積層し、V−ブロックを作製する工程と、
(8)当該V−ブロックを全ての組織が上面に出る方向に向かせて包埋し、V−セグメントの積層方向にスライスして超高密度組織アレイシートを作製する工程と、
(9)当該シートを基板上に配列する工程とを含む、
超高密度組織アレイチップの製造方法。
〔3〕 工程(9)が、工程(8)により得られた複数のシートをパラフィンから作られた基板上に配列する操作を含み、かつ、工程(9)の後に、該複数のシート及び基板を加熱してこれらを融合させる工程を含む、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 H−セグメントの厚さが50μm以上400μm未満である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の製造方法。
〔5〕 結合剤切片の厚さが40μm〜400μmである、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕 結合剤がパラフィンである、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
〔7〕 中空針が円形、四角形又は多角形の中空形状を有する、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の製造方法。
〔8〕 中空針が0.5〜5.0mmの内径を有する円形又は0.5〜5.0mmの長辺及び短辺を有する四角形又は多角形の中空形状を有する、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組織アレイシートの製造方法及び組織アレイチップは、以下のスパイラル組織アレイの利点:
(1)組織ブロックに穴を開けずに組織アレイを作製可能である、(2)病変部のみを選択することが可能であり、ターゲットの病変部位(関心部位)を網羅的にアレイに取り込むことができる、(3)組織の不均一性を観察しながらコアリングできるので、不均一性も網羅的に取り込むことができる、(4)薄切組織片にてアレイ作製可能なため、多施設間の共同研究が容易となる、点に加えて、
(5)基板に搭載された超高密度組織アレイは、24000検体前後の組織を集積することができる。
本発明によれば、全身の主要な腫瘍を網羅した超高密度組織アレイチップを提供することができる。かかるチップを用いて、分子標的薬の候補分子、候補シグナルの発現を網羅的に解析することが可能である。また、本発明によれば、同一の組織から理論上100万枚を超える切片が採取可能となり、極めて高いバンキング機能を発揮することができる。NGS(next-generation sequencing)などで発見される候補分子の組織での発現を、同一チップ上で全身横断的及び網羅的に検討することができる。本発明によれば、組織のみでなく細胞株などからも同様に超高密度アレイを実現することができ、約24000細胞株における目的分子の発現情報を一気に取得することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本発明において「組織ブロック」とは、超高密度組織アレイに供する生体由来の組織をいう。組織ブロックはパラフィン包埋組織ブロックが代表的であるが、凍結組織ブロックであってもよい。また、組織ブロックは、細胞株を二次元または三次元で培養することにより得られた細胞集塊(細胞ブロックとも呼ぶ)であってもよい。細胞ブロックの場合、使用される細胞は、常法により固定してパラフィン包埋したものであってもよく、また、常法により凍結したものであってもよい。
【0014】
本発明において「超高密度組織アレイブロック」とは、本発明の製造方法の工程(1)〜(7)に従って、前記組織ブロックから作製され、高密度に整列させた組織のブロックをいい、V−ブロックとも称する。
【0015】
本発明において「超高密度組織アレイシート」とは、前記「超高密度組織アレイブロック(V−ブロック)」をスライスしてシート状にしたものをいい、単にセクションとも称する。
【0016】
本発明において「超高密度組織アレイチップ」とは、前記「超高密度組織アレイシート」の1又は複数を基板上に搭載したものをいう。
【0017】
本発明において「基板」とは、前記「超高密度組織アレイチップ」の土台となる材料をいう。基板としては、スライドガラスが代表例として挙げられるが、プラスチック板や紙素材のものであってもよい。また、後述するように、パラフィン材料の基板を用いることも好ましく、この場合、パラフィン上で組織片のアッセンブリを行うことができる。
【0018】
本発明において、「超高密度組織アレイ」と「超高密度組織マイクロアレイ」とは互換的に使用される。
【0019】
本発明の超高密度組織アレイチップの製造方法の概念を
図1に示す。
【0020】
超高密度組織アレイシートの製造方法(製造方法1)
本発明の超高密度組織アレイシートの製造方法は、以下の工程(1)〜(8)を含む。
(1)組織ブロックよりスライスした組織片から中空針で一部分をくり抜き採取して、H−セグメントを準備する工程
(2)当該H−セグメントを中空内に保持する当該中空針で、H−セグメントの結合剤からなるシートをくり抜き採取し、結合剤切片を準備する工程と、
(3)工程(1)と(2)を繰り返して、当該中空針内でH−セグメントと結合剤切片とを交互に縦方向に積層する積層工程
(4)中空針から積層物を取り出し、加熱して融合させ、H−ブロックを作製する工程
(5)当該H−ブロックを横方向に向かせて包埋する工程
(6)当該包埋H−ブロックをミクロトームで水平方向にスライスしてV−セグメントを作製する工程
(7)当該V−セグメントを長辺の一辺を揃えて積層し、V−ブロックを作製する工程
(8)当該V−ブロックを全ての組織が上面に出る方向に向かせて包埋し、V−セグメントの積層方向にスライスして超高密度組織アレイシート(セクション)を作製する工程
【0021】
製造方法1を、
図2〜
図6を参照しながら説明する。
図2〜
図6は、製法の一例である。図中及び下記工程の説明において、セグメント間の接着、仕切り、セグメント表面の保護のための結合剤としてパラフィンが使用されている。パラフィンとは、パラフィン単独又はポリエチレンなどの合成ポリマーの添加剤を含有するパラフィンを意味する。本発明における結合剤は、パラフィンに限定されるものではなく、シアノアクリレート、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなども挙げられる。
【0022】
(1) H−セグメントを準備する工程(
図2)
組織マイクロアレイ(TMA)作製に供される症例(検体)のパラフィン包埋組織ブロックAから、ミクロトームを用いて組織片1を作製する。組織片の厚さは、通常50μm-400μm、好ましくは50μm-250μm、より好ましくは150μm-200μmである。ここで、200μm程度で薄切りする場合は、組織ブロックAをあらかじめ35-40℃のふらん器で保温するか、同程度の温度の温浴槽に30秒ほどひたして保温すると、切片がひび割れずにきれいに薄切りできる。
組織片内でTMAに搭載する区画を顕微鏡観察等であらかじめ決めておき、中空針を備えた組織アレイヤーを用いて、当該組織片1の一部分(図中、1の●区画)をくり抜き採取して、H−セグメント2を作製する。中空針で組織片1からH−セグメント2をくり抜く操作は、組織片1を加温しながら行う。加温の温度は、組織ブロックAで使用されているパラフィンの融点を超えない温度が望ましい。
中空針の中空は、H−セグメントの形状を規定するものであり、その形状としては、円形、四角形、五角形、六角形などがあげられる。好ましくは、円形または四角形の中空形状の針が望ましく、より好ましくは、四角形の中空形状の針である。中空針は、通常金属製であるが、工程(4)での加熱条件に耐性であれば、金属製に限定されるものではない。また、中空針の長さは、通常1-5cmである。
図2においては、中空が円形の中空針を使用している。
中空針の中空が円形の場合、0.5〜5.0mmの内径を有することが好ましい。中空針の中空が四角形の場合、0.5〜5.0mmの長辺及び短辺を有することが好ましい。ここで、長辺及び短辺は、同一の長さであってもよい。中空が五角形、六角形などの多角形の場合、円形の内径に準じてその大きさを適宜設定すればよい。
1つのH−セグメントは、厚さ(高さ)が通常50μm-400μmであり、好ましくは50μm-250μmであり、より好ましくは150μm-200μmであり、その形状は、直径が0.5〜5.0mmの円柱又は0.5〜5.0mmの長辺及び短辺の底面を有する四角柱であり、好ましくは一辺が0.5〜5.0mmの底面を有する四角柱である。
【0023】
(2) 当該H−セグメントを中空内に保持する当該中空針で、H−セグメントの結合剤からなるシートをくり抜き採取し、結合剤切片を準備する工程(
図2)
結合剤として使用するパラフィンその他の材料を、シート状とする。この場合、結合剤からなる薄切されたシートが利用できる場合は、そのまま本工程に供してもよい。結合剤がブロックとして利用できる場合は、工程(1)における組織ブロックからの組織片の作製方法に準じて、ミクロトームを用いて結合剤からなるシートを準備する。
結合剤としてパラフィンを使用する場合、パラフィンのブロックBを作製し、ミクロトームを用いてパラフィンシート3を作製する。
パラフィンその他の結合剤からなるシートは、組織片の厚さの0.2-2.0倍、好ましくは0.5倍の厚さに設定する。例えば、200μm の組織片に対して、パラフィンシートの厚さは、40-400μm、好ましくは150-250μmである。
工程(1)で使用した、H-セグメントを中空内に保持する中空針を備えた組織アレイヤーを用いて、結合剤からなるシート3をくり抜き採取して、結合剤切片4を作製する。結合剤としてパラフィンを使用した場合、中空針でシート3から結合剤切片4をくり抜く操作は、シート3を加温しながら行う。加温の温度は、結合剤として使用したパラフィンの融点を超えない温度が望ましい。
【0024】
(3) 工程(1)と(2)を繰り返して、当該中空針内でH−セグメントと結合剤切片とを交互に縦方向に積層する積層工程(
図3)
本工程で、複数のH−セグメント2と結合剤切片4とを交互に縦方向に積層する。そのためには、前記工程(1)と(2)を繰り返す。結合剤切片4は、H−セグメント2の組織表面を保護する作用も有するため、工程(2)→工程(1)→工程(2)→工程(1)・・・→工程(2)のように、繰り返し工程は、工程(2)から開始して工程(2)で終了することが望ましい。
超高密度のアレイを目的とするため、H−セグメント2は、通常5-50枚、好ましくは10-30枚積層する。結合剤切片4は、H−セグメントの枚数と同じであってもよいが、H−セグメントの枚数よりも1枚多い数を積層することが望ましい。
【0025】
(4) 中空針から積層物を取り出し、加熱して融合させ、H−ブロックを作製する工程(
図3)
工程(3)で、所望の枚数のH−セグメント2が縦方向に積層され、当該セグメント間に結合剤切片4が挟まれた積層物(柱状体)が得られる。積層体の上部と下部のいずれか一方又は両方は、結合剤切片4から構成される。
中空針から積層物を取り出し、結合剤として使用される材料の融点以下の温度で積層物周囲を加熱し、その後、冷却することで積層物を融合させる。これによりH−ブロック5が作製される。例えば、20枚の組織片2(厚さ200μm)と20枚のパラフィン切片4(厚さ100μm)を直径3mmの中空針を用いて作製したH−ブロックは、直径3mm、高さ6mmの円柱となる。中空針から取り出した積層物の加熱温度及び加熱時間は、当該技術分野の技術常識に従って、適宜設定することができる。結合剤としてパラフィンを使用した場合、40-60℃で積層物周囲を加熱する。加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定することができるが、通常5-120分、好ましくは、10-90分である。
【0026】
(5) 当該H−ブロックを横方向に向かせて包埋する工程(
図3)
H−ブロック5を、パラフィンで横方向に包埋する。包埋は、当該技術分野で通常使用されている組織のパラフィン包埋方法と同様に行う。
【0027】
(6) 当該包埋H−ブロックをミクロトームで水平方向にスライスしてV−セグメントを作製する工程(
図4)
次いで、パラフィンで包埋したH−ブロック5を、水平方向にミクロトームで薄切りする。円柱のH−ブロックは、薄切りの前に、面出し(C1)により大きさを揃えることが望ましい。また、H−ブロック5のサイズに合わせて両面テープ6をカットしておく。
両面テープ6を、必要により面出ししたH−ブロック5’の組織上に貼り付け、貼り付け面と平行の下方の位置(C2)で、ミクロトームで薄切りし、V−セグメント7を作製する。V−セグメント7の厚さは、H−セグメント2の厚さと同等に設定する。好ましいV−セグメントの厚さは、50μm-400μm、好ましくは50μm-250μm、より好ましくは150μm-200μmである。
V−セグメント切除後の残存するH−ブロック5’の組織上に別の両面テープ6を貼り付け、貼り付け面と平行の下方の位置(C2)で、ミクロトームで薄切りし、次のV−セグメント7を作製する。この操作を繰り返し、所定の枚数のV−セグメントが得られる。
あるいは、本工程は両面テープを用いずに行ってもよい。その場合、工程(7)におけるV−セグメント7面の相互接着は、例えば、後述するように加熱を伴う接着により行うことができる。
【0028】
(7) 当該V−セグメントを長辺の一辺を揃えて積層し、V−ブロックを作製する工程(
図5)
得られるV−セグメントの数は、H−ブロックの大きさとV−セグメントの厚さから決定することができる。そのうち、V−ブロックを作製するために使用する枚数は、最終目標の超高密度組織アレイの搭載数に合わせて設定される。例えば、20枚のH−セグメントと100枚のV−セグメントから構成されるV−ブロックから、基板に搭載するセクションを供給する場合、1セクションに2000の検体が整列し、最大12セクションを1枚の基板に搭載できることから、24000検体の組織マイクロアレイが完成する。24000検体は、本発明の超高密度組織アレイの目標であり、本発明の目的を達成するためには、H−セグメントの数とV−セグメントの数の積が約2000となるように、セグメントの数を設定すればよい。なお、前記積は、組織マイクロアレイの使用目的に照らして、2000未満の数であっても、2000を超える数であってもよい。
得られたV−セグメント7は、組織上に貼り付けられた両面テープによりV−セグメント面を相互に接着させる。あるいは、V−セグメント7面の相互接着は、加熱を伴う方法により行うこともできる。即ち、V−セグメント7の積層物の周囲を加熱し、積層物に含まれる結合剤(例えば、パラフィン)を少なくとも部分的に融解させる。加熱温度及び加熱時間などの条件はH−ブロック5の作製(工程(4))と同様のものであってよい。加熱処理により結合剤が少なくとも部分的に融解したV−セグメント7を互いに接触させ(好ましくは圧着させ)、その状態で結合剤を再度固化させることによりV−セグメント7面を相互に接着させる。このように加熱・接着操作を行うことにより、結合剤同士の接着又は圧着力を保持することが可能となる。
上記の作業は、実体顕微鏡で確認しながら行う。円柱のH−ブロックからV−セグメントを作製した場合など、セグメントの短辺の長さが揃わないときは、少なくともV−セグメントの長辺の片方の辺で一致させるようにしてV−セグメントを積層していく。このようにして、所定の枚数のV−セグメント7が積層されたV−ブロック8を作製することができる。
【0029】
(8) 当該V−ブロックを全ての組織が上面に出る方向に向かせて包埋し、V−セグメントの積層方向にスライスして超高密度組織アレイシート(セクション)を作製する工程(
図6)
V−ブロック8は、V−セグメントの長辺の片方の辺で一致させた面を上にして包埋することで、全ての組織が上面に出る。包埋は、当該技術分野で通常使用されている組織のパラフィン包埋方法と同様に行う。当該上面を覆う大きさのテープ9を貼り付け、貼り付け面と平行の下方の所定の位置(C3)で、ミクロトームで薄切りし、セクション10を作製する。したがって、V−ブロックの切断方向は、V−セグメントの積層方向である。
ここで使用するテープとしては、プロテクトシール、スライドガラス用ティシュー・プロテクターS(株式会社パソロジー研究所)、組織バンク用のトランスファーシール(BioBank KIT、株式会社パソロジー研究所)などが挙げられる。テープを使用せずとも均一の厚さで薄切できる技術を有する場合は、テープを使用せずに同様のセクションが作製される。
セクションの厚さは、顕微鏡観察に適した厚さに設定することができる。通常、1μm-20μm、好ましくは1μm-10μmであり、より好ましくは、4μm-6μmである。
上記操作を繰り返すことにより、所望の枚数のセクションを得ることができる。
【0030】
超高密度組織アレイチップの製造方法(製造方法2)
本発明の製造方法2は、上記工程(1)〜(8)に加えて、下記工程(9)を含む。
【0031】
(9) 工程(8)で得られた超高密度組織アレイシート(セクション)を基板上に配列する工程(
図6)
工程(8)で得られた、テープが付着しているセクション10を基板に配列させて、組織をテープから基板に移行させる。
基板は、スライドガラス11が好適に用いられる。一般的なスライドガラスは、2.5cm×7.5cmの形状であり、通常2cm×6cmの区画内にセクションを配列する。組織をテープから基板に移行させる方法としては、セクションを水に浸漬してぬらし、基板上に軽く押さえて組織を貼り付ける方法が挙げられる。
このようにして、超高密度組織アレイチップを作製することができる。
【0032】
追加的又は代替的には、工程(9)は、下記の通り加熱を伴う方法により行うこともできる。
工程(8)で得られた複数の超高密度組織アレイシート(セクション)を加熱及び互いに接着させる。即ち、例えば基板上に配置された複数のセクション10を加熱し、各セクション10に含まれる結合剤(例えば、パラフィン)を少なくとも部分的に融解させる。加熱温度及び加熱時間などの条件はH−ブロック5の作製(工程(4))と同様のものであってよい。加熱処理により結合剤が少なくとも部分的に融解したセクション10を水平方向に互いに接触させ(好ましくは圧着させ)、その状態で結合剤を再度固化させることによりセクション10を相互に接着させる。このような加熱工程と接着工程を行うことにより、結合剤同士の接着力を制御することができるので、作製されるアレイチップにおいて、コア(セクション)間の隙間の発生を防止することができ、かつ、複数のコアを同一のブロック上に手軽に搭載することも可能となる。
好ましい実施形態において、上記複数のセクション10をパラフィン基板上に所定の配列で予め配置した後、上記の加熱及び接着処理を行うことにより、セクション10間の融合、およびセクション10とパラフィン基板との融合を行う。これにより、パラフィン上でアッセンブリを行うことが可能となり、かつ、組織をパラフィン基板上に簡便に移行させることができる。パラフィン基板としては、工程(8)に関して上述した基板と同様の形状及び大きさのものを用いることができる。このようにして、パラフィン上の高密度組織アレイチップを作製することができる。
以上の加熱・接着操作は、例えば、ホットプレートステージを備えた実体顕微鏡上で行うことができる。
【0033】
本発明の超高密度組織アレイチップは、当該技術分野で周知の組織細胞化学法に供することができる。その場合、脱パラフィン処理を行うが、必要に応じて脱パラフィン処理に使用するキシレン内にチップを静置することでテープをはがすことができ、その後に、ヘマトキシリンエオシン染色、種々の免疫染色等により、チップ上に配列した組織を顕微鏡観察することができる。染色写真の一例を
図7−9に示す。
【0034】
図8及び
図9のアレイは、24000検体が搭載されたアレイであり、24000人分の検体から作られたものであるが、例えば、1症例について6視野ずつ、4000症例分の検体を使用することで、24000検体が搭載されたアレイを製造することもできる。この場合、1症例当たり複数の視野を確認することができる。
超高密度組織アレイは、相対的に検体1個当たりの面積が小さくなり、顕微鏡観察での視野が狭くなるが、1症例当たり複数の検体を搭載することで、視野の狭さをカバーすることができる。さらに、同一組織の離れた部分を多数搭載することにより、組織内における不均一性の比較を容易にするという利点もある。
【0035】
上記の加熱及び接着操作の有り又は無しで作製された超高密度組織アレイチップの違いを
図10に示す。
図10(a)は加熱・接着操作無しで作製されたスライドガラス上のアレイチップである。図中、パラフィンを青色染色しており、黒い部分(矢印)が示すように、隙間が生じており、また、複数の列を同一のブロック上に搭載できなかった。一方、
図10(b)は加熱・接着操作を行って作製されたパラフィン上のアレイチップである。当該操作を行うことで、コア間の隙間が解消され、かつ複数のコアを同一のブロック上に搭載できたことが分かる。この実施例では、パラフィン上に2万の組織片を載せることができた。これによりほぼ同一視野で10-20種類の免疫染色を多数同時に行うことが容易になった。また、スライドガラス上でアッセンブリをする必要がなくなり、パラフィン上でアッセンブリを行うことが可能となったため、最終工程以外のそれぞれでも薄切り切片化することによって、組織切片としてのサンプル化が可能となった。
【0036】
本実施の形態では、組織ブロックはパラフィン包埋の組織ブロックを例に説明したが、これに限られず、例えば組織を凍結させた凍結組織ブロックを用いても良い。この場合、パラフィンに代えてコンパウンドと称される包埋剤を用いる。組織をコンパウンドに埋め込んだ状態にて凍結し、凍結状態を維持可能な冷却環境にて上記各工程を実施することが好ましい。この場合、加熱は行わないか、又は温度や加熱時間を調整して適度に柔軟な状態とする。その他、本発明の目的の範囲内で適宜変更可能である。