(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1(A)は本発明の一実施形態に係るゴルフクラブ1の外観図である。ゴルフクラブ1は、ヘッド2と、グリップ3と、シャフト4とを含む。
図1のゴルフクラブ1は、ドライバー等のウッド型ゴルフクラブであるが、本発明はアイアン型ゴルフクラブや、ユーティリティー型(ハイブリッド型)ゴルフクラブ等、他の種類のゴルフクラブにも適用可能である。
【0010】
シャフト4は先端4aと、後端4bと有する円筒状の軸であり、先端4aから後端4bへ向かって外径が増加している。シャフト4の全長(先端4aから後端4bまでの長さ)は例えば800mm〜1150mmである。先端4aはヘッド2の装着側の端である。ヘッド2はホゼル部2aを含み、シャフト4は、先端4aからホゼル部2aに挿入される。シャフト4とホゼル部2aとは例えば接着剤により固定される。後端4bはグリップ3の装着側の端である。
【0011】
重心Gはゴルフクラブ1の重心の位置を示している。ゴルフクラブ1のグリップ3側の端部から重心Gまでの距離(重心距離と呼ぶ)をL(cm)、ゴルフクラブ1の総重量をWc(g)とする。グリップ3側の端部を中心としたゴルフクラブ1の一次モーメントMc(
kg・cm)は
Mc=L×Wc
で表される。
【0012】
シャフト4の硬度について説明する。シャフト4の硬度はセンターフレックス計により計測することができる。市販のセンターフレックス計としては例えばGeotech社の剛性測定器、アクト社のCenterFlex等を挙げることができる。
図1(B)はセンターフレックス計によるシャフト4の硬度の計測方法を模式的に示している。
【0013】
センターフレックス計のシャフト突き当て板11にシャフト4の先端4aを当てながらシャフト4の先端4a側を固定し、突き当て板11から445mmの位置にロードセル等の荷重計10が配置され、シャフト4に一定量の曲げが生じるようにシャフト4の後端4b側に荷重計10側へ荷重が印加される。荷重計10により計測された荷重がシャフト4の硬度値DF(kg)となる。シャフト4が硬い程、硬度値DFが大きくなる。
【0014】
ヘッドスピードの向上を目的とした場合、ヘッド2の重量を軽くすることが有効な方策の一つである。しかし、単にヘッド2の重量を軽くするだけではスイングバランスや一次モーメントが小さくなり、ゴルファが振り難さを感じる場合がある。本実施形態では、シャフト4の重心位置が、より先端4a側に位置する構造を採用することでヘッド2の重量を軽くしつつ、スイングバランスや一次モーメントが小さくなることを抑制する。
【0015】
ヘッド2を軽くしてもシャフト4の先端4a側が重くなることで、クラブのバット側(グリップ3側)からの重心位置が、ヘッド2を軽くしない場合と大きく変わらずスイングバランスが維持される。スイングバランスや、一次モーメントがヘッド2を軽くしない場合と大きく変わらないことで、スイングの切返し時に適度な負荷を感じてスイングできるため、ゴルファが大きな力を発揮することができる。結果としてヘッドスピードをあげることができる。
【0016】
図2は、シャフト4を構成する積層シートの展開図である。シャフト4は複数のプリプレグ41a〜41e(以下、総称してプリプレグ41と呼ぶ場合がある)と、複数のプリプレグ42a、42b(以下、総称してプリプレグ42と呼ぶ場合がある)と、複数のプリプレグ43a〜43c(以下、総称してプリプレグ43と呼ぶ場合がある)とを含む複数のシートの積層体である。複数のシートにはプリプレグ以外に弾性シートを含むことができる。図中の各距離(全長の50%、400mm)はこれらを成型してシャフト形状とした後の先端4aからの距離を意味する。
【0017】
シャフト4は、例えば、シートワインディング法により製造することができる。シートワインディング法は、複数のプリプレグ41〜43を含む複数のシートを芯金に巻き付けて加熱硬化させ、その後に芯金を抜くことでシャフト4を製造できる。
【0018】
各プリプレグ41〜43は、例えば、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させたシートであり、芯金に一又は複数回巻き回される。各プリプレグ41の図中の細線は繊維方向を例示している。強化繊維としては、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維、金属繊維、アラミド繊維、炭化けい素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維等の1種以上を挙げることができる。また、マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の1種以上を挙げることができる。さらに、添加剤として硬化剤、硬化促進剤、充填材、離型剤、顔料、金属粉末などを用いることができる。
【0019】
各プリプレグ41は先端4aから後端4bに渡ってシャフト4を構成する(全長層)。
図2の例では、五枚のプリプレグ41a〜41eが用いられているが、枚数はこれに限られない。各プリプレグ42、43は全長方向でシャフト4の一部の領域を形成する(補強層)。
図2の例では、五枚のプリプレグ42a、42b、43a〜43cが用いられているが、枚数はこれに限られない。
【0020】
本実施形態の場合、各プリプレグ42、43は先端4aから一定の領域を形成しており、シャフト4の先端4a側の補強を主目的としている。しかし、先端4aから離れた領域を形成するプリプレグ42、43が含まれてもよいし、後端4bに接する領域を形成するプリプレグ42、43が含まれてもよい。
【0021】
プリプレグ42、43の数や位置によってシャフト4の重心位置を設計することが可能である。補強層としてのプリプレグは、一般に、折損を防ぐ目的でシャフト4の最内層と最外層とに設けられることが多い。本実施形態の場合、プリプレグ42aが最内層に位置し、プリプレグ42bが最外層に位置している。プリプレグ43(以下、中間プリプレグ43と呼ぶ場合がある)の巻回数や材料の比重、シャフト4の全長の方向におけるシートの長さや配置により、シャフト4の重心位置を意図する位置に設計することができる。
【0022】
先端4aからシャフト4の全長の50%の長さの範囲内に複数の中間プリプレグ43を配置することで、シャフト4の重心位置が、より先端4a側に位置する。本実施形態の場合、プリプレグ43a、43bおよび43cの三枚の中間プリプレグ43が設けられているが、四枚以上であってもよい。本実施形態の場合、プリプレグ43a、43bおよび43cの配置領域は先端4aから開始されているため、シャフト4の重心位置が先端4a側に位置することに寄与している。
【0023】
複数の中間プリプレグ43の一つは先端4aから全長方向で400mm以上の長さを有していてもよい。本実施形態の場合、プリプレグ43aは先端4aから全長方向で400mm以上の長さを有している。このプリプレグ43aはシャフト4の重心位置が先端4a側に位置することに寄与すると共にシャフト4の中間領域の補強にも寄与する。
【0024】
補強層を構成するプリプレグ42および43の数が増えるとシャフト4の重量が増加する。シャフト4の重量の評価指標としては、シャフト4の初期長さの重量を挙げることができる。一般的な男性のゴルファのドライバー用として使用されるゴルフクラブシャフトは46inchの長さで製造され、その後、ゴルフクラブの種類に対応した長さに切断される。そこで、初期長さ46inchでのシャフト4の重量を評価指標としてシャフト4の重量を評価することができる。または、初期長さ46inchでのシャフト4の重量を46inchすなわち1168mmで除算することで得た単位長さ(mm)あたりの重量(Wsav(g/mm))を評価指標としてもよい。
【実施例】
【0025】
ゴルフクラブの試作品を作成し、ヘッドスピードおよび振り感の評価テストを行った。
図3(A)は試作品の仕様を示し、
図3(B)はテスト結果を示す。
【0026】
ゴルフクラブ#1〜#5はいずれも
図1(A)に示した構成のドライバーである。既に説明したパラメータ以外のパラメータについて説明すると、ヘッド重量Whはヘッド2の重量(g)である。関係式1はヘッド重量Whと一次モーメントMcとの関係を数値化する式である。詳細は後述する。
【0027】
シャフト重量Wsは、初期長さ1168mmでのシャフト4の重量(g)であり、ゴルフクラブ#1〜#5はシャフト4を所定のクラブの長さになるようカットして使用している。シャフト単位重量Wsavは、1mmあたりのシャフトの重量(g/mm)であり、ゴルフクラブ#1〜#5の順に0.048、0.048、0.051、0.046、0.040である。
【0028】
関係式2はシャフト硬度値DFとクラブ総重量Wcとの関係を数値化する式である。詳細は後述する。層数は補強層の数を示し、層数の”〇”は、先端4aからシャフト4の全長の50%の長さの範囲内に中間プリプレグが二枚以上ある場合を示す。補強層(400mm以上)の”〇”は、先端4aから全長方向で400mm以上の長さを有する中間プリプレグがある場合を示す。
【0029】
評価テストは、ヘッドスピードが43m/s〜45m/sの範囲内である複数のテスタが各試作品のゴルフクラブで実際にゴルフボールを複数回打撃して行った。
図3(B)のヘッドスピードは全員の平均のヘッドスピードを示す。振り感は打撃後に複数のテスタが話し合って5段階で評価した。”5”が最も振り感が良く、”1”が最も振り感が悪かった。
【0030】
ヘッドスピードに着目すると、ゴルフクラブ#1、#2および#5で良好な結果が出ている。振り感に着目すると、ゴルフクラブ#1、#2および#3で良好な結果が出ている。ヘッドスピードと振り感の双方の結果がよかったのはゴルフクラブ#1および#2である。
【0031】
これらの結果とゴルフクラブ#1〜#5の仕様値との関係から以下の関係を導出することができる。
【0032】
まず、単一のパラメータで検討する。ヘッド重量Whに着目すると、ヘッドスピードについて比較的良好な結果が出たゴルフクラブ#1、#2および#5はヘッド重量Whがゴルフクラブ#3および#4よりも軽い。ヘッドスピードとヘッド重量Whとの関係に着目するとWh<195(g)であることが好ましい。
【0033】
クラブ総重量Wcに着目すると、振り感の結果が悪かったゴルフクラブ#5はクラブ総重量Wcが他の四つのゴルフクラブに比べて軽すぎる。一般的なドライバーのクラブ総重量の範囲の点で、290(g)≦Wc≦310(g)が好ましく、290(g)≦Wc≦300(g)がより好ましく、290(g)≦Wc≦296(g)がさらに好ましい。
【0034】
シャフト重量Wsについて着目すると、一般的に、シャフトが重くなるとヘッドスピードは下がる傾向にあるので、ヘッドスピードの観点から初期長さ1168mmのシャフト重量Wsは、Ws<60gであることが好ましい。より好ましくはWs<59g、さらに好ましくはWs<58gである。
【0035】
次に、
図4(A)〜
図5(B)を参照して複数のパラメータで検討する。
図4(A)〜
図5(B)の例はいずれも、ヘッドスピードまたは振り感に影響するパラメータを組み合わせたものである。
【0036】
図4(A)はヘッド重量Whと一次モーメントMcとの関係を示す。ヘッドスピードと振り感の総合評価の指標となる。ヘッドスピードと振り感の双方の結果がよかったのはゴルフクラブ#1および#2である。一点鎖線で示すMc=0.1×Wh+7.0の線がゴルフクラブ#1および#2とゴルフクラブ#3〜#5を区別する。つまり、Mc≧0.1×Wh+7.0の領域が好ましい範囲となる。同図の網掛け領域は、Mc≧0.1×Wh+7.0で、Wh<195(g)の領域を示しており、好ましい領域を示している。
【0037】
図4(B)はクラブ総重量Wcとヘッド重量Whとの関係を示す。振り感の指標となる。振り感の結果が比較的よかったのはゴルフクラブ#1〜#3である。同図の網掛け領域は、290(g)≦Wc≦310(g)で、Wh<195(g)の領域を示しており、振り感に関して比較的好ましい領域を示している。
【0038】
図5(A)はシャフト硬度値DFとシャフト重量Wsとの関係を示す。振り感の指標となる。振り感の結果が比較的よかったのはゴルフクラブ#1〜#3である。同図の網掛け領域は、Ws<60(g)でDF≧6.0(kg)の領域を示しており、振り感に関して比較的好ましい領域を示している。
【0039】
図5(B)はシャフト硬度値DFとクラブ総重量Wcとの関係を示す。振り感の指標となる。振り感の結果が比較的よかったのはゴルフクラブ#1〜#3である。一点鎖線で示すDF=0.025×Wc−1.5の線がゴルフクラブ#1〜#3とゴルフクラブ#4および#5を区別する。つまり、DF≧0.025×Wc−1.5の領域が好ましい範囲となる。同図の網掛け領域は、DF≧0.025×Wc−1.5で、290(g)≦Wc≦310(g)の領域を示しており、好ましい領域を示している。
【0040】
以上の結果から、ヘッドスピードと振り感の双方の結果がよかったゴルフクラブ#1および#2の仕様に着目すると、ヘッドスピードと振り感の双方で良好な結果が得られる仕様としては、Wh<195(g)、290(g)≦Wc≦310(g)、Mc≧0.1×Wh+7.0、を満たすことを挙げることができる。また、振り感の向上の点で、Wsav<0.052g/mm、DF≧0.025×Wc−1.5、を満たすことを挙げることができる。