【文献】
後藤 康友 ほか,メソポーラス有機シリカを用いたレーザー脱離イオン化質量分析,日本化学会春季年会講演予稿集,2011年,40, 789,ROMBUNNO 2E7-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
照射レーザー光を吸収可能な有機基を骨格に有し、平均細孔径が5〜50nmの細孔を有し、かつ、表面開口率が33〜70%である有機シリカ多孔膜に対して、測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該膜の試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行うことを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析法。
レーザー光を吸収可能な有機基を骨格に有し、平均細孔径が5〜50nmの細孔を有し、かつ、表面開口率が33〜70%である有機シリカ多孔膜を含むことを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用の有機シリカ多孔膜基板。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
[レーザー脱離イオン化質量分析法]
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法は、照射レーザー光を吸収可能な有機基を骨格に有し、平均細孔径が5〜50nmの細孔を有し、かつ、表面開口率が33〜70%である有機シリカ多孔膜に対して、測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該膜の試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行うことを特徴とする方法である。
【0016】
〈有機シリカ多孔膜〉
本発明において質量分析に利用する有機シリカ多孔膜は、照射レーザー光を吸収可能な有機基を骨格に有し、平均細孔径が5〜50nmの細孔を有し、かつ、表面開口率が33〜70%である有機シリカ多孔膜である。
【0017】
このような有機シリカ多孔膜は、照射レーザー光を吸収可能な有機基を骨格に有するものである。ここで、本発明において「照射レーザー光を吸収可能な有機基」は、質量分析の際に利用するレーザー光を吸収することが可能な構造部分を有する有機基であればよく、特に制限されず、例えば、使用するレーザー光の波長にもよるが、レーザー光を吸収することが可能な構造部分として芳香環を有する有機基(例えばトリフェニルアミン、フルオレン、アクリドン、メチルアクリドン、クアテルフェニル、アントラセン等)が挙げられ、中でも、後述の一般式(1)中のXとして説明する有機基を好適に利用することができる。
【0018】
また、このような照射レーザー光を吸収可能な有機基としては、200〜600nm(より好ましくは250〜450nm、更に好ましくは300〜400nm)の範囲に吸収極大波長を有する基であることが好ましい。前記有機基の吸収極大波長が前記下限未満ではそのような波長のレーザー光を照射した場合に測定対象物及び有機シリカ多孔膜中の有機基が分解されてしまい、結果的に効率よく質量分析することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとイオン化に必要な光エネルギーを得ることが困難となる傾向にある。このように、前記有機基が上記波長範囲に吸収極大波長を有することで、質量分析に利用する波長域のレーザー光をより効率よく吸収することが可能となる。なお、このような200〜600nmの範囲に吸収極大波長を有する有機基としては、例えば、それぞれ置換基を有していてもよい、トリフェニルアミン、スチリルベンゼン、フルオレン、アクリドン、メチルアクリドン、クアテルフェニル、アントラセン等が挙げられる。
【0019】
さらに、このような照射レーザー光を吸収可能な有機基としては、芳香族環を一つ以上有する基であること(芳香族有機基であること)が好ましい。また、このような有機基としては、4個以上の炭素を含む芳香族有機基であることがより好ましい。このような芳香族有機基によれば、より効率よくレーザー光を吸収することが可能となる。このような芳香族有機基としては、例えば、それぞれ置換基を有していてもよい、トリフェニルアミン、スチリルベンゼン、フルオレン、アクリドン、メチルアクリドン、クアテルフェニル、アントラセン、ピレン、スチリルベンゼン、アクリジン、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、フェニルピリジン、ジチエニルベンゾチアジアゾール等が挙げられる。また、前記有機シリカ多孔膜は、有機基として1種の有機基を単独で有するものであっても、あるいは、複数種の有機基を組み合わせて有するものであってもよい。なお、このような有機基としては、光照射による酸化・還元活性を示し、安定であるといった観点から、トリフェニルアミンを含むこと(前記有機基の少なくとも1種がトリフェニルアミンであること)が好ましい。
【0020】
また、本発明において「有機基を骨格に有する」とは、シリカ多孔膜のシリカ骨格を形成するケイ素(Si)に、直接又は間接的に(他の元素を介して)結合された前記有機基が存在していることを意味する。なお、このような有機シリカ多孔膜としては、シロキサン構造(式:−(Si−O)
n−構造)を形成するケイ素原子同士が有機基により架橋された構造(架橋構造)を有することにより、骨格に有機基が導入されていることが好ましい。
【0021】
また、このような有機シリカ多孔膜としては、例えば、照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物の重合体(縮合体)である有機シリカ多孔膜;照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物とその他の有機ケイ素化合物との重合体である有機シリカ多孔膜;照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物とシリカ、アルミナ、チタニアからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物との重合体である有機シリカ多孔膜;シリカ多孔膜(照射レーザー光を吸収可能な有機基を有していてもよくあるいは有していなくてもよく、例えば、公知のポーラスシリコンからなる膜であってよい)の表面を、照射レーザー光を吸収可能な有機基を有するシランカップリング剤(例えば照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物)で処理してシリカ多孔膜の表面に有機基を修飾した、シリカ多孔膜の表面修飾物である有機シリカ多孔膜;等を適宜利用することができる。
【0022】
このような照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物としては、特に制限されず、公知の有機ケイ素化合物(例えば、特開2008−084836号公報に記載されている有機ケイ素化合物、特開2009−049346号公報に記載されている有機ケイ素化合物、特開2010−196019号公報に記載されている有機シリカ系材料、特開2010−116512号公報に記載されている有機シラン化合物、特開2008−214496号公報に記載されている有機ケイ素化合物、特開2011−241330公報に記載されている有機シリカ系材料、特開2011−241331号公報に記載されている有機シリカ系材料等)の中から、使用するレーザー光の波長に応じて好適な材料を適宜選択して利用してもよい。
【0023】
また、このような照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1−i)〜(1−iii):
【0025】
[式(1−i)〜(1−iii)中、Xは照射レーザー光を吸収可能な有機基であってm価の有機基を示し、R
1は、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜5のアルコキシ基)、ヒドロキシル基(−OH)、アリル基(CH
2=CH−CH
2−)、エステル基(好ましくは炭素数1〜5のエステル基)及びハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子)からなる群から選択される少なくとも一つを示し、R
2は、アルキル基及び水素原子からなる群から選択される少なくとも一つを示し、n及び(3−n)はそれぞれケイ素原子(Si)に結合しているR
1及びR
2の数を示し、nは1〜3の整数を示し、mは1〜4の整数を示す。]
で表される有機ケイ素化合物(照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物)が好ましい。
【0026】
さらに、このような有機シリカ多孔膜としては、上記一般式(1−i)〜(1−iii)で表される有機ケイ素化合物(照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物)の中から選択される少なくとも1種の重合体;又は、上記一般式(1−i)〜(1−iii)で表される有機ケイ素化合物の中から選択される少なくとも1種と他の有機ケイ素化合物との重合体(共重合体);からなる有機シリカ多孔膜が好ましく、上記一般式(1−i)〜(1−iii)で表される有機ケイ素化合物(照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物)の中から選択される少なくとも1種の重合体からなる有機シリカ多孔膜がより好ましい。このような一般式(1−i)〜(1−iii)で表される有機ケイ素化合物の中から選択される少なくとも1種の重合体からなる有機シリカ多孔膜においては、いわゆる光捕集アンテナ機能をより効率よく発現させることが可能な傾向にあり、これにより、より効率よく測定対象分子をイオン化することが可能となる傾向にある。なお、ここにいう「光捕集アンテナ機能」とは、光を照射した場合に光エネルギーを吸収して励起したエネルギーを細孔の内部に集約する機能をいい、かかる機能を利用すれば、吸収したレーザー光の光エネルギーを細孔の内部に担持された測定対象分子により効率よく移動させることが可能となる傾向にある。なお、このような「光捕集アンテナ機能」の定義は特開2008−084836号公報に記載されている定義と同様である。
【0027】
また、このような一般式(1−i)〜(1−iii)で表される有機ケイ素化合物の中から選択される少なくとも1種の重合体は、シロキサン構造(式:−(Si−O)
y−で表される構造)を形成するケイ素原子同士が有機基により架橋された構造(架橋構造)を有するものとなり、これにより骨格に前記有機基を有する構造のものとなる(いわゆる「架橋型有機シリカ多孔膜」となる)。ここで、上記一般式(1−i)で表されかつ式中のR
1がエトキシ基、nが3、mが2である有機ケイ素化合物の重合反応を一例として、かかる架橋構造について説明すると、下記一般式(2):
【0029】
[式中、Xは前記有機基(照射レーザー光を吸収可能な有機基であってm価の有機基)を示し、pは繰り返し単位の数に相当する整数を示す。]
で表されるような反応により、重合後に得られる有機シリカ多孔膜は、有機基(X)によりシロキサン構造(式:−(Si−O)
y−で表される構造)を形成するケイ素原子が架橋された構造の繰り返し単位を有するものとなる(なお、pの数は特に制限されないが、一般的には10〜1000程度の範囲であることが好ましい。)。なお、このような架橋構造が形成された場合(有機シリカ多孔膜が前記架橋型有機シリカ多孔膜となる場合)には、照射レーザー光をより効率よく吸収し、有機シリカ多孔膜の細孔内に担持された測定対象分子に対して、より効率良く励起エネルギーを移動できる傾向にある。
【0030】
また、上記一般式(1−i)〜(1−iii)におけるR
1としては、縮合反応(重合反応)を制御し易いという観点からアルコキシ基及び/又はヒドロキシル基が好ましい。なお、同一分子中に複数のR
1が存在する場合、R
1は同一でも異なっていてもよい。このような一般式(1)におけるR
2として選択され得るアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。なお、同一分子中に複数のR
2が存在する場合、R
2は同一でも異なっていてもよい。
【0031】
上記一般式(1−i)〜(1−iii)において、式中のn及び(3−n)は、それぞれケイ素原子(Si)に結合しているR
1及びR
2の数を示す。ここにおいて、nは1〜3の整数を示すが、縮合した後の構造をより安定なものとすることが可能であるという点から、nが3であることが特に好ましい。
【0032】
さらに、上記一般式(1−i)〜(1−iii)中のmは、前記有機基(X)に直接又は間接的に結合しているケイ素原子(Si)の数を示す。このようなmは1〜4の整数を示す。
【0033】
また、上記一般式(1−i)〜(1−iii)中のXは、照射レーザー光を吸収可能な有機基であって、m価の有機基を示す。また、このような有機基(上記一般式(1)中のX)としては、前述のように、4個以上の炭素を含む芳香族有機基であることがより好ましく、中でも、下記一般式(101)〜(132):
【0038】
[上記一般式(101)〜(132)中、記号*は、かかる記号を付した結合手が上記式(1−i)〜(1−iii)中のXに結合する結合手であることを示し、R
aは水素原子及び炭素数1〜18のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を示し、R
bはそれぞれ独立に、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基及びウレタン基からなる群から選択される少なくとも1種の基を含む2価の脂肪族有機基;アルキレン基;又は、単結合;を示す。]
で表される有機基が特に好ましい。なお、このような一般式(101)〜(132)で表される有機基において、記号*で表される結合手は直接ケイ素に結合していることがより好ましい。そのため、有機ケイ素化合物としては、上記一般式(1−i)で表される化合物であることがより好ましい。また、上記一般式中のR
aとして選択され得るアルキル基は炭素数が1〜18(より好ましくは1〜12)のものである。このような炭素数が前記上限を超えると多孔膜としての構造形成が困難となる傾向にある。このようなR
aとしてはメチル基が特に好ましい。
【0039】
また、上記一般式中のR
bは、それぞれ独立にエーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基およびウレタン基からなる群から選択される少なくとも1種の基を含む2価の脂肪族有機基;アルキレン基;又は、単結合;を表す。前記アルキレン基の炭素数は1〜12であることが好ましく、1〜6であることがより好ましい。このような炭素数が前記上限を超えると多孔膜としての構造形成が困難となる傾向にある。また、このようなアルキレン基としては、中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基が特に好ましく、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が最も好ましい。また、前記2価の脂肪族有機基は、さらに、炭素数1〜12(より好ましくは1〜6)の2価の炭化水素基を含むものであることが好ましく、前記2価の炭化水素基としてはアルキレン基が好ましい。このような炭素数が前記上限を超えると多孔膜としての構造形成が困難となる傾向にある。
【0040】
また、このような有機基(式(1)中のX)の中でも、上記一般式(103)、(105)、(108)、(111)、(112)、(113)、(114)、(115)、(116)、(117)、(118)、(120)、(126)、(127)、(128)、(130)、(132)で表される有機基がより好ましく、上記一般式(116)、(117)、(118)、(126)、(130)、(132)で表される有機基が更に好ましく、上記一般式(126)で表される有機基(トリフェニルアミン)が特に好ましい。また、このような有機基を骨格に有する有機シリカ多孔膜としては、1種の有機基を単独で含有するものであってもよく、あるいは、2種以上の有機基を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、2種以上の有機基を組み合わせて含有する有機シリカ多孔膜としては、上記一般式(1−i)〜(1−iii)のうちのいずれかで表され且つXの種類が異なる、複数種の有機ケイ素化合物の重合体等が挙げられる。
【0041】
また、有機シリカ多孔膜を、照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物と、その他の有機ケイ素化合物との重合体からなるものとする場合、その他の有機ケイ素化合物としては、特に制限されず、照射レーザー光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物以外の公知の有機ケイ素化合物を適宜利用でき、例えば、下記一般式(A1)及び(A2):
【0043】
[一般式(A1)中、R
21はそれぞれ異なっていてもよい炭化水素基であり、R
22はそれぞれ異なっていてもよい、炭素原子を少なくとも1つ有しケイ素原子と結合する1価の有機基であり、mは0〜4の整数であり、nは0〜4の整数であり、mとnはm+n=4という条件を満たし、
一般式(A2)中、Xはそれぞれ異なっていてもよいハロゲン基であり、R
23はそれぞれ異なっていてもよい、炭素原子を少なくとも1つ有しケイ素原子と結合する1価の有機基であり、mは1以上3以下の整数であり、nは1以上3以下の整数であり、mとnはm+n=4という条件を満たす。]
で示される化合物が挙げられる。このような他の有機ケイ素化合物としては、公知のものを適宜利用できるが、中でも、入手の容易性、加水分解反応の容易性等の観点から、Si(OR
21)
4[R
21は炭化水素基(より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、更に好ましくはメチル基又はエチル基)を示す。]で表されるケイ素化合物がより好ましい。
【0044】
また、本発明にかかる有機シリカ多孔膜は、平均細孔径が5〜50nmである。このような平均細孔径が前記下限未満では、測定対象分子を細孔内に分散させて担持させ、質量分析を効率よく行うことが困難となり、他方、前記上限を超えると測定対象分子に近接する有機シリカ多孔膜中の有機基が減少し、質量分析を効率よく行うことが困難となる。また、同様の観点から、前記平均細孔径としては、7〜40nmであることがより好ましく、10〜30nmであることが更に好ましい。このような平均細孔径(細孔直径の平均値)は多孔膜の断面及び/又は表面を走査型顕微鏡(SEM:例えば日立ハイテクノロジーズ社製の高分解能電解放射形走査電子顕微鏡:商品名「SEM S−5500」)により測定して、得られるSEM像から、任意の100個以上の細孔の細孔直径を測定して平均化することにより求めることができる。このような平均細孔径の測定方法としては、例えば、走査型顕微鏡により、多孔膜について、任意の4点以上の断面を測定して、得られた4点以上の断面SEM像ごとに、任意の25個以上の細孔の細孔直径を測定することにより、合計で100個以上の任意の細孔の細孔直径を測定して求め、その平均値(100個以上の細孔の細孔直径の平均値)を算出することにより、平均細孔径を求める方法を採用してもよく、任意の100個以上の細孔の細孔直径を測定して平均化することが可能な方法であれば適宜採用することができる。なお、細孔の直径を測定する際には、SEM像における細孔の形状(断面形状)が真円状ではない場合には、その最大の外接円と最小の外接円の直径の平均値を細孔の直径(細孔直径)として測定する。また、SEM像から細孔の細孔直径を測定する際には、一つ一つの細孔の直径の大きさを定規などで測定して、SEMの測定倍率等から細孔の直径の値を算出してもよい。
【0045】
さらに、本発明にかかる有機シリカ多孔膜は、表面開口率が33〜70%である。このような表面開口率が前記下限未満では、測定対象分子を有機シリカ多孔膜の細孔の内部に十分に導入することが困難となり、測定対象分子を担持させる際に表面近傍に残留する傾向にあり、レーザーを照射しても有機シリカ多孔膜が吸収した光エネルギーを測定対象分子に対して効率よく移行させることが困難となって、該膜に担持した測定対象分子をより高度な水準でイオン化脱離させることが困難となり、質量分析の際の検出感度をより向上させることが困難となる。これに対して、表面の33%(約3分の1)以上の領域が細孔の開口部となるような本発明にかかる有機シリカ多孔膜においては、測定対象分子をより効率よく細孔内部に導入することが可能である。また、前記表面開口率が前記上限を超えると測定対象分子に接する有機シリカ多孔膜の有機基(壁)の量が不十分となり、効率よく質量分析することが困難となる傾向にある。また、同様の観点から、前記表面開口率は、35〜67%であることがより好ましく、37〜65%であることが更に好ましく、39〜60%であることが特に好ましい。このような表面開口率が前記範囲にある場合には、有機シリカ多孔膜の有するイオン化脱離性能(測定対象分子をイオン化させて脱離させる性能)がより向上する傾向にある。なお、膜の「表面開口率が33〜70%である」とは、そのような開口率の平均値(平均開口率)を有する表面を少なくとも1部の面に備えていることを意味し、すべての表面の平均開口率が前記範囲にあることを意図するものではない。すなわち、膜の「表面開口率が33〜70%である」とは、開口率の平均値が33〜70%となる表面を有すると同様の意味である。なお、ここにいう「開口率の平均値(平均開口率)」とは、後述の各測定領域の開口率の平均値をいう。
【0046】
このような「表面開口率」としては、以下のようにして測定される値を採用する。すなわち、先ず、測定装置として走査型プローブ顕微鏡(SPM/AFM:日立ハイテクサイエンス製の商品名「NanoNavi E−sweep」)を利用し、有機シリカ多孔膜の表面の1μm×1μmの大きさの任意の4点以上の測定領域において、カンチレバーとしてシリコン製のマイクロカンチレバー(日立ハイテクサイエンス社製のシリコンカンチレバー:商品名「SI−DF20」)を用い、ダイナミックフォースモードにて、表面状態を縦(X):256ピクセル、横(Y):256ピクセルの走査条件で解析し、原子間力顕微鏡(AFM)像をそれぞれ得る(任意の4点以上の1μm角の測定領域のAFM像をそれぞれ得る)。なお、得られるAFM像は、走査条件からも明らかなように総計65536(256×256)個のピクセルで構成されており、それぞれのピクセルには縦(X)、横(Y)、高さ(Z)の情報、すなわち、(X、Y、Z)の位置データが記録されることとなる。また、ここにいう高さ(Z)は、測定面(多孔膜の表面)に対して垂直な方向(水平面に対して垂直な方向:高さ方向)の位置情報であり、また、高さの値の基準面としては、高さ(Z)の位置データが測定面からもっとも最も遠い位置(測定面からの垂直方向の距離が最も長い位置:測定面からの深さで考えた場合に最も深い位置)にあるピクセル(画素:点)を含む水平面(地上からの高さが最も低いピクセルを含む水平面)を採用して、その基準面からの垂直な方向の距離(差)を高さ(Z)の値(単位:nm)とする。このように、前記基準面の高さ(Z)の値を0nmとして、該基準面からの高さ方向の距離を各ピクセルの高さ(Z)の値(単位:nm)として採用する。次に、前述のようにして得られたAFM像より、各ピクセルでの高さ(Z)の値を縦軸とし、全ピクセル数に対する特定の高さを有するピクセルの数の割合(特定の高さの値(同一の高さの値)を有するピクセルの存在率[単位:%]、以下、単に「度数」と称する)を横軸とするグラフ(高さの度数分布曲線のグラフ)を求める。なお、ここにいう度数(単位:%)は、例えば、高さ(Z)が10nmとなるピクセルの数が500個である場合、総ピクセル数が65536個であるため、0.76%[計算式:(500/65536)×100]となる。そして、このようにして得られる高さの分布(高さの度数分布曲線のグラフ)から、最大の度数(最大度数)を有する高さの値(かかる高さの値を便宜上「H1」と称する:なお、高さ(Z)の値が「H1」となるピクセルの数が最も多いこととなる)よりも低い高さの値を有し、かつ、最大度数の2分の1(0.5倍)の度数を有する高さの値(かかる高さの値を便宜上「H2」と称する)を求める。そして、かかる最大度数の2分の1の高さの値(H2)を閾値として、AFM像を二値化する。このような二値化により、高さ(Z)の値がH2以上となるピクセル(画素)の部分と、高さの値がH2未満となるピクセル(画素)の部分とで二色に色分けした画像が得られる。そして、このような二値化した画像から、本発明においては、高さの値がH2以上となるピクセルの部分(領域)を多孔膜の骨格部分(膜の表面を形成する有機シリカ部分)と判断し、高さの値がH2未満となるピクセルの部分(領域)を細孔の開口部分(細孔に基づく空隙部分)と判断する。このようにして、任意の4点以上の測定領域(1μm角)のAFM像から、それぞれ二値化した画像(膜の表面を形成する有機シリカ部分(膜の骨格部分)と細孔の開口部分とで2色に色分けした画像)を求め、かかる画像に基づいて、各測定領域の開口率(各測定領域の表面画像に占める細孔の開口部分の割合:各測定領域の表面画像に占める高さの値がH2未満となるピクセルの部分(領域)の割合(計算式:([細孔の開口部分の面積(高さの値がH2未満となるピクセルの数)]/[測定領域の総面積(総ピクセル数)])×100[単位:%])をそれぞれ算出し、求めた各測定領域の開口率を平均化することにより、「表面開口率(任意の4点以上の測定領域の開口率の平均値)」を求めることができる。
【0047】
以下、このような表面開口率の測定方法を、
図1を参照しながら説明する。
図1において、(a)は多孔膜の表面上の任意の1μm角の領域のAFM像であり、(b)は前記AFM像のデータから求められる高さの度数分布曲線を示すものであり、(c)は前記AFM像を二値化した画像である。このようなAFM像(
図1(a))は、上述のように(X、Y、Z)のデータが記録されたものであり、かかるAFM像の各ピクセル(総ピクセル数:65536個)のデータから、高さの度数分布曲線(高さの分布を示すグラフ:
図1(b))を求めることができる。そして、最大の度数を有する高さ(
図1(b)中のH1の位置の高さ)よりも低い高さの値を有し、かつ、最大度数の1/2の度数を有する高さ(
図1(b)中のH2の位置の高さ)の値を求め、かかる高さの値(H2)を閾値としてAFM像を二値化する。このようにしてAFM像から二値化した画像(高さの値がH2以上となるピクセルの部分と、高さの値がH2未満となるピクセルの部分とで色分けした画像:
図1(c))を得る。なお、
図1(c)においては黒く塗りつぶされた部分が細孔の開口部分(細孔の空隙部分:高さの値がH2未満となるピクセルの部分)である。そして、かかる画像から、細孔の開口部分の面積を求め、細孔の開口部分の面積の測定領域の総面積に対する割合([細孔の開口部分の面積]/[測定領域の総面積])×100[単位:%])を算出する。そして、本発明においては、このような細孔の開口部分の面積の測定領域の総面積に対する割合を、有機シリカ多孔体の表面の1μm角の任意の4点以上の測定領域のそれぞれに対して算出し、これを平均化することにより、表面開口率(任意の4点以上の測定領域の開口率の平均値)を求めることができる。以上、表面開口率の測定方法を説明したが、上述のような表面開口率や前記平均細孔径の条件を満たす有機シリカ多孔膜を調製するための方法については後述する。
【0048】
さらに、このような有機シリカ多孔膜の厚みとしては特に制限されるものではないが、20〜500nmであることが好ましく、40〜300nmであることがより好ましい。このような膜の厚みが前記下限未満では有機シリカ多孔膜のレーザー光の吸収効率が低下し、該膜にレーザー光を十分に吸収させて、該膜から測定対象分子にエネルギーを効率よく移動させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると細孔内部に導入した測定対象分子が脱離し難くなる傾向にある。
【0049】
なお、このような本発明にかかる有機シリカ多孔膜を調製するために好適に利用可能な方法は特に制限されないが、例えば、前記重合体(例えば、上記一般式(1−i)〜(1−iii)で表される有機ケイ素化合物の中から選択される少なくとも1種の重合体)からなりかつ平均細孔径が5〜50nmの細孔を有する薄膜(有機シリカ多孔膜前駆体)を調製した後、表面開口率が33〜70%となるように前記薄膜の表面をエッチングすることにより、上記本発明にかかる有機シリカ多孔膜を得る方法(以下、便宜上、単に「方法(A)」と称する)を採用することができる。
【0050】
このような方法(A)においては、先ず、前記重合体からなりかつ平均細孔径が5〜50nmの細孔を有する薄膜を調製する。このような薄膜の調製方法は特に制限されず、公知の方法(例えば特開2008−084836号公報に記載の方法等)を適宜利用でき、例えば、鋳型となる界面活性剤の存在下において、前記有機ケイ素化合物(例えば、上記一般式(1−i)〜(1−iii)で表される有機ケイ素化合物の中から選択される少なくとも1種の化合物等)を重合させた後、鋳型となる該界面活性剤を除去することで、前記有機ケイ素化合物の重合体からなりかつ平均細孔径が5〜50nmである薄膜を得る方法を好適に採用できる。
【0051】
このような界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルトリエチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物あるいは水酸化物;脂肪酸塩;アルキルスルホン酸塩;アルキルリン酸塩;ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤(例えば、ポリスチレン−ポリエチレンオキシドジブロックポリマー等);一級アルキルアミン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で又は二種以上を混合して用いられる。
【0052】
また、重合体を薄膜形状とするとの観点からは、前記方法(A)において、例えば、有機溶媒(例えばアルコール等)と、前記界面活性剤と、前記有機ケイ素化合物とを混合して得られた混合物を、基材上に塗布(例えばスピンコート法などにより塗布)し、塗膜を得た後、これを重合する方法を採用することが好ましい。なお、前記基材としては、例えば、シリコン基材(Si基板)、ITO基材、FTO基材、石英基材、ガラス基材、各種金属基材等のようなシリカ多孔膜を製造する際に利用することが可能な公知の基材を適宜利用できる。
【0053】
また、前記有機ケイ素化合物の重合後に界面活性剤を除去する方法としては、特に制限されないが、例えば、(i)界面活性剤に対する溶解度が高い有機溶媒(例えば、エタノール、トルエン等)中に前記薄膜を浸漬して界面活性剤を除去する方法、(ii)前記薄膜を200〜400℃で焼成して界面活性剤を除去する方法、(iii)前記薄膜を酸性溶液に浸漬して加熱し、界面活性剤を水素イオンに交換せしめるイオン交換法、等を挙げることができる。このようにして界面活性剤を除去することで、界面活性剤の種類に応じて、効率よく平均細孔径が5〜50nmである前記有機ケイ素化合物の重合体からなる薄膜(有機シリカ多孔膜前駆体)を形成できる。
【0054】
また、前記方法(A)においては、前記薄膜(有機シリカ多孔膜前駆体)を調製した後、表面開口率が33〜70%となるように前記薄膜の表面をエッチングする。なお、一般に、有機シリカ化合物を利用して薄膜(有機シリカ多孔膜前駆体)を調製する場合、成膜時に有機シリカ部分(有機基を有するシリカ骨格部分)が気相界面近傍に集まり易く、これに起因して開口率が低い膜が形成される傾向がある。そのため、表面の33%(約3分の1)以上という広い範囲を占める領域が細孔の開口部となるような有機シリカ多孔膜を得るためには、すなわち、表面開口率が33〜70%となるような本発明にかかる有機シリカ多孔膜を得るためには、薄膜の最表面をエッチング等により切除して、内部の細孔が露出されるようにする処理を施すこと(表面開口部の割合を高くすること)が好ましい。
【0055】
このようなエッチングの方法は特に制限されないが、薄膜の最表面を切除して内部の細孔が露出されるように、より効率よくエッチングすることが可能であることから、反応性イオンエッチング(RIE)処理を採用することが好ましい。このような反応性イオンエッチング(RIE)処理は、エッチングガスを供給した後、プラズマを発生させてエッチングするドライエッチング法である。このようなエッチングガスとしては、特に制限されず、公知のエッチングガスを適宜利用できるが、シリカのエッチングに汎用的に使用されており、有効であるといった観点から、四フッ化炭素(CF
4)等のフッ素系ガスを利用することが好ましい。なお、このようなエッチングガスとしては、フッ素系ガスと他のガス(例えば酸素)の混合物を利用してもよい。また、エッチングの際に採用する条件は特に制限されず、薄膜を形成する有機シリカの種類等に応じて、表面開口率が33〜70%となるように、最適な条件を適宜設定すればよい。なお、このようなエッチングに際しては、例えば、雰囲気圧は5〜30Pa(より好ましくは10〜20Pa)とすることが好ましく、RF電源の出力(RF出力)は5〜200W(より好ましくは10〜50W)とすることが好ましく、エッチングガスの流量を50〜200sccmとすることが好ましい。また、このような反応性イオンエッチング処理に用いることが可能な装置は特に制限されず、市販品(例えば、サムコ社製の「RIE−10NR」等)を適宜利用してもよい。
【0056】
このように、薄膜の最表面をエッチングにより切除して内部の細孔が露出されるようにすることで、表面の開口部をより多くすることができ、これにより表面開口率が33〜70%となるような有機シリカ多孔膜を効率よく得ることができる。なお、上記方法(A)では、表面開口率を33〜70%とする方法としてエッチング法を採用しているが、表面開口率を33〜70%とする方法は特に制限されず、前記薄膜を得た後に、細孔を露出することが可能な方法を適宜利用できる。
【0057】
また、本発明においては、質量分析の際に、上記有機シリカ多孔膜はいわゆる質量分析用の基板として利用される。このような質量分析用の基板として利用する際の形態(質量分析の際に使用する有機シリカ多孔膜の形態)は特に制限されず、例えば、上記有機シリカ多孔膜のみからなるものを利用してもよく、あるいは、前記有機シリカ多孔膜を支持体に積層した形態(例えば、表面開口率が33〜70%である面が露出された状態となるようにして前記基材(製造時に利用する基材)上に前記有機シリカ多孔膜が積層された積層体等)として利用してよい。また、本発明にかかる有機シリカ多孔膜の使用形態としては、その調製の容易さ等の観点からは、表面開口率が33〜70%である表面が露出された状態となるようにして前記基材上に前記有機シリカ多孔膜が積層された積層体の形態であること(例えば、前記基材上に有機シリカ多孔膜を形成してそのまま利用すること)が好ましい。
【0058】
〈試料〉
本発明にかかる試料は、測定対象分子を含むものである。このような測定対象分子としては特に制限されないが、本発明により、より高い検出感度で測定することが可能となることから、生体由来の分子又は生体試料中の分子であることが好ましい。このような生体由来の分子又は生体試料中の分子としては、糖、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、核酸、糖脂質等がより好ましく、これらの分子に対しては、本発明の効果をより高度なものとすることが可能となる傾向にある。また、このような測定対象分子としては、天然物から調製されるもの、天然物を化学的又は酵素学的に一部改変して調製されるものの他、化学的又は酵素学的に調製されるものであってもよい。また、生体に含まれる分子の部分構造を有するものや生体に含まれる分子を模倣して作製されたものであってもよい。
【0059】
また、本発明にかかる試料(測定対象分子を含む試料)としては、測定対象分子そのものであってもよいし、あるいは、測定対象分子を含むもの(例えば、生体の組織、細胞、体液や分泌物(例えば、血液、血清、尿、精液、唾液、涙液、汗、糞便等)等)であってもよい。このように、本発明にかかる試料(測定対象分子を含む試料)としては、直接生体試料を用いてもよい。また、試料の前駆体(測定対象分子の前駆体等)を有機シリカ多孔膜に担持させた後に酵素処理等を行なって、測定対象分子を調製してもよい。この場合には、前記試料前駆体を有機シリカ多孔膜に担持させた後に処理を行なうことで、結果的に試料を有機シリカ多孔膜上に担持することとなる。
【0060】
また、本発明において「測定対象分子」としては、上記試料に含有されている分子であって、その化学構造を決定したい分子そのものであってもよく、あるいは、上記試料に含有されている分子であって、その化学構造を決定したい分子を誘導体化した分子(例えば、いわゆる標識分子を化学構造を決定したい分子に結合させることにより得られる質量分析に供される分子)であってもよい。このように、「測定対象分子」は、誘導化していない分子であってもよく、あるいは、標識分子により誘導化した分子であってもよい。なお、誘導化の有無は特に制限されず、利用する有機シリカ多孔膜の有機基の種類や、化学構造を決定したい分子の種類等に応じて適宜決定すればよい。このように、化学構造を決定したい分子によっては必ずしも誘導化を行なう必要はない。なお、このような測定対象分子の分子量については特に限定はないが、他の測定方法での正確な測定が困難であり本発明の特徴をより発揮し易いことから、160以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1000以上であることが特に好ましい。
【0061】
また、前記測定対象分子として、化学構造を決定したい分子を誘導体化した分子を利用する場合、その誘導体化は、前記有機基が吸収した光エネルギー(前記有機シリカ多孔膜が吸収した光エネルギー)を受容可能にする標識分子、好ましくは、上記有機シリカ多孔膜の発光スペクトルとスペクトルの重なりを有する吸収帯を有する標識分子と共有結合させることにより行うことが好ましい。
【0062】
このような標識分子は、有機シリカ多孔膜から供与されるエネルギーの受容体としての効果を有するものであれば特に限定されないが、蛍光標識試薬として市販されている分子を利用してもよい。このような標識分子としては、例えば、ピレン誘導体、fluorescein誘導体、rhodamine誘導体、シアニン色素、Alexa Fluor(登録商標)、2−アミノアクリドン、6−アミノキノリン等が挙げられる。
【0063】
また、エネルギー供与体である有機シリカ多孔膜とエネルギー受容体である標識分子の組合せは、エネルギー移動の効率、有機シリカ多孔膜の発光スペクトルと測定対象分子の吸収スペクトルとの重なり、相互作用の強度等の点から適宜決定される。例えば、有機シリカ多孔膜としてトリフェニルアミン基を有する架橋型有機シリカ多孔膜を利用する場合は、標識分子として、2−アミノアクリドン等を好適に利用でき、また、有機シリカ多孔膜としてメチルアクリドン基を有する架橋型有機シリカ多孔膜を利用する場合は、標識分子として、4−Fluoro−7−nitrobenzofurazan、4−Fluoro−7−sulfobenzofurazan、3−Chlorocarbonyl−6,7−dimethoxy−1−methyl−2(1H)−quinoxalinone等を好適に利用できる。このような標識分子は、対象分子と化学結合し易い官能基を有することが好ましく、誘導体化は別の容器で行ってから使用してもよいし、有機シリカ多孔膜上で行ってもよい。
【0064】
なお、本発明において、前記有機シリカ多孔膜によって測定対象分子をより効率よくイオン化することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明にかかる有機シリカ多孔膜に対してレーザー光を照射すると、該膜中の有機基によりレーザー光が吸収される。このようにしてレーザー光を吸収させることで、前記有機シリカ多孔膜に吸収された光エネルギーを測定対象分子(エネルギー受容体)に移動させることが可能となる。このように、本発明にかかる有機シリカ多孔膜は、レーザー光を照射すると、光エネルギーを測定対象分子(エネルギー受容体)に移動させるエネルギー供与体として作用する。なお、このような有機シリカ多孔膜(エネルギー供与体)から測定対象分子(エネルギー受容体)へのエネルギー移動としては、発光を経由しないエネルギー移動(例えば分子間の励起エネルギー移動や電子移動)、及び、発光を経由するエネルギー移動(例えばレーザー光を吸収した有機シリカ多孔膜の有機基から発せられた光を測定対象分子が吸収するエネルギー移動(発光再吸収によるエネルギー移動)が考えられる。そして、このようなエネルギー移動により、レーザー光を利用してより効率よく測定対象分子をイオン化することが可能となるものと本発明者らは推察する。なお、本発明においては、測定対象分子を含む試料を有機シリカ多孔膜の表面に接触せしめると、前記有機シリカ多孔膜が表面開口率の高いものであるため、効率よく前記試料を細孔内に導入して担持することができ、その結果、測定対象分子を有機シリカ多孔膜(特に、有機シリカ多孔膜の細孔内壁)に対して、より大きな接触面積をもって接するようになるものと本発明者らは推察する。このように、上記表面開口率を有する多孔膜を利用するため、測定対象分子が有機シリカ多孔膜に対して、より大きな接触面積をもって接するものとなるため、発光を経由していてもあるいは発光を経由していなくても、分子間のエネルギー移動がより容易に引き起こされて、上記した効果が発揮されるものと本発明者らは推察する。
【0065】
また、本発明においては、このようなエネルギー移動により、レーザー光を利用してより効率よく測定対象分子をイオン化することを可能とするものであると考えられることから、測定対象分子と有機基は以下の関係を満たすようにして選択することが好ましい。すなわち、前記エネルギー移動(有機シリカ多孔膜(エネルギー供与体)から測定対象分子(エネルギー受容体)へのエネルギー移動)がどのようなものであっても、より効率よくエネルギー移動させることが可能となるといった観点からは、上記有機シリカ多孔膜中の前記有機基により照射レーザー光を吸収した後に、該有機シリカ多孔膜の有機基から発せられる光のスペクトル(有機基からの発光スペクトル)と、前記測定対象分子の吸収スペクトルとが少なくともある1つの波長において重なるようにして、有機基及び測定対象分子を選択することがより好ましい。このように、前記有機基からの発光スペクトルと前記測定対象分子の吸収スペクトルとがなくともある1つの波長において重なっている場合には、有機シリカ多孔膜が吸収した光エネルギー又は有機シリカ多孔膜の励起エネルギーが測定対象分子により効率よく移動する傾向にある。特に、発光を経由してエネルギー移動する場合、上記有機シリカ多孔膜が照射レーザー光を吸収して発光するものであり、かつ、該有機シリカ多孔膜の発光スペクトル(有機基からの発光スペクトル)と、上記測定対象分子の吸収スペクトルとが、少なくともある1つの波長において重なっていることがより好ましい。このような発光により有機シリカ多孔膜から出た光エネルギーが測定対象分子に効率よく移動する傾向にあるためである。
【0066】
また、エネルギー移動の形式がどのようなものであっても(発光を経由する場合であっても、発光を経由しない場合であっても)、上記有機シリカ多孔膜の発光スペクトルの短波長端の方が、上記測定対象分子の吸収スペクトルの長波長端より短波長側にあることによって、該有機シリカ多孔膜の発光スペクトルと、該測定対象分子の吸収スペクトルとが、少なくともある1つの波長において重なっていることがより好ましい。このような場合には、有機シリカ多孔膜が吸収した光エネルギーが、光エネルギー又は励起エネルギーとして測定対象分子に対して、より効率よく移動する傾向にある。
【0067】
〈試料の担持方法〉
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法においては、質量分析に際して、先ず、上記有機シリカ多孔膜に対して、測定対象分子を含む試料を担持せしめる。このような試料の担持方法としては特に制限されないが、例えば、上記有機シリカ多孔膜の上記表面開口率(33〜70%の表面開口率)を有する表面に対して試料を載置することにより、該膜に試料を担持する方法を採用することが好ましい。このようにして、試料を有機シリカ多孔膜の上記表面開口率を有する表面上に載置することで試料は細孔の内部に容易に侵入して行き、これにより前記有機シリカ多孔膜に効率よく試料を担持することが可能となる。例えば、測定対象分子を含む水溶液を準備し、該水溶液を前記有機シリカ多孔膜の上記表面開口率を有する表面上に滴下することによって前記有機シリカ多孔膜上に試料前駆体(水溶液)を載置した後、溶媒である水を乾燥除去することで、前記膜に試料を担持することができる(この例では、水を除去した後に残る測定対象分子そのものが前記有機シリカ多孔膜に担持される試料となる)。また、前述のように、試料前駆体(酵素処理前の分子)を有機シリカ多孔膜に担持した後に酵素処理を行なって、該膜上で測定対象分子(酵素処理物)を調製することにより、結果的に前記有機シリカ多孔膜上に測定対象分子(酵素処理物)を含む試料を担持してもよい。このように、前記有機シリカ多孔膜上に最終的に測定対象分子を含む試料(測定対象分子そのもの、測定対象分子の誘導化物、測定対象分子と標準物質との混合物等)を担持することが可能であれば、試料を担持する方法は特に制限されない。
【0068】
〈質量分析の方法〉
本発明においては、上述のように前記有機シリカ多孔膜に対して測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該膜の試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行う。
【0069】
このような質量分析に用いるレーザー光源としては、特に制限されず、例えば、窒素レーザー(337nm)、YAGレーザー3倍波(355nm)、NdYAGレーザー(256nm)、炭酸ガスレーザー(9400nm、10600nm)等のレーザー光源が挙げられるが、有機シリカ多孔膜が効率的に光を吸収できる波長のレーザー光源であるという観点から、窒素レーザー又はYAGレーザー3倍波のレーザー光源が好ましい。
【0070】
また、本発明においては、前記レーザー光源(例えば窒素レーザーの光源)を用いて、レーザー光を前記有機シリカ多孔膜の試料担持部位に照射する。このようにしてレーザー光を試料担持部位に照射することで、前記測定対象分子をイオン化することが可能となる。なお、イオン化のメカニズムは、既に説明した通り、レーザーの照射部位に存在する前記有機基により照射レーザーが吸収され、吸収された光エネルギーが効率よく測定対象分子に移動することにより生じるものであると本発明者らは推察する。また、本発明においては、表面開口率が上記条件を満たす有機シリカ多孔膜を利用し、該膜の前記表面開口率を有する表面に試料を担持するため、例えば、試料を滴下して担持させる場合等においては、滴下した測定対象分子が薄膜内部に効率よく導入され、有機シリカ多孔膜の有機基が吸収した光エネルギーをより受け取り易い状態で膜に担持されることとなるため、レーザーの照射により、イオン化脱離がより促進され、従来よりも、より高い検出感度で質量分析を行なうことが可能となるものと本発明者らは推察する。
【0071】
なお、レーザー光の照射条件(照射強度、照射時間等)は特に制限されず、測定対象分子に応じて、公知の質量分析の条件の中から最適となる条件を適宜選択して設定すればよい。
【0072】
また、質量分析のためのイオンの分離検出方法は特に限定されず、二重収束法、四重極集束法(四重極(Q)フィルター法)、タンデム型四重極(QQ)法、イオントラップ法、飛行時間(TOF)法等を適宜採用でき、これによりイオン化した分子を質量/電荷比(m/z)に従って分離し検出することが可能である。なお、このようなイオンの分離検出には、市販の装置を適宜利用でき、例えば、ブルカー・ダルトニクス社製の質量分析計(商品名「autoflex」等)、Shimadzu社製のイオントラップ飛行時間型質量分析計(商品名「AXIMA−QIT等」)等を適宜利用してもよい。このようにして、イオン化された測定対象分子の質量分析を行うことができる。
【0073】
以上、本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法について説明したが、以下、本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用の有機シリカ多孔膜基板について説明する。
【0074】
[レーザー脱離イオン化質量分析用の有機シリカ多孔膜基板]
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用の有機シリカ多孔膜基板は、レーザー光を吸収可能な有機基を骨格に有し、平均細孔径が5〜50nmの細孔を有し、かつ、表面開口率が33〜70%である有機シリカ多孔膜を含むことを特徴とするものである。
【0075】
このような有機シリカ多孔膜は、上記本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法において説明したものと同様のものである(かかる膜の好適な条件や調製するための方法なども同様である)。なお、本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用の有機シリカ多孔膜基板において、レーザー光とは該基板を用いてレーザー脱離イオン化質量分析を行う際に利用するレーザー光をいい、前記レーザー光を吸収可能な有機基は、その測定に利用するレーザー光に応じて適宜選択すればよい。また、このようなレーザー脱離イオン化質量分析用の有機シリカ多孔膜基板は、前記有機シリカ多孔膜を含むものであればよく、その構成は特に制限されず、例えば、特定の支持体に積層させた構成としてもよい。また、このようなレーザー脱離イオン化質量分析用の有機シリカ多孔膜基板としては、調製の容易さ等の観点から、上記方法(A)において説明した基材(例えば、シリコン基材(Si基板)、ITO基材、FTO基材、石英基材、ガラス基材、各種金属基材等のようなシリカ多孔膜を製造する際に利用することが可能な公知の基材)上に有機シリカ多孔膜を積層した積層体とすることが好ましい。また、このような有機シリカ多孔膜基板を用いる質量分析の方法としては、上記本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法を採用することが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
〈有機シリカ多孔膜前駆体の調製工程〉
ポリスチレン−ポリエチレンオキシドジブックポリマー(polymer source社製の「20kPS−b−14kPEO」:界面活性剤)30mgと、トリエトキシシリルトリフェニルアミン(TPA有機シラン:上記一般式(1−i)で表される有機シラン化合物[式中、mは3であり、nは3であり、R
1はエトキシ基であり、かつ、Xは上記一般式(126)で表される有機基である。])を8.17質量%の割合で含有するエタノール溶液(TPA有機シラン/EtOH溶液、含有割合:0.089g/g)337mgと、テトラヒドロフラン(THF)1mLと、エタノール(EtOH)0.611mLとを混合して溶解液を得た後、該溶解液にイオン交換水6mLと2mol/L(2M)のHCl2mLを滴下し、室温(25℃程度)で24時間撹拌してゾルを得た。次いで、得られたゾルをシリコン基板(Si基板:SUMCO社製、P型で面方位[100]、抵抗率:0〜0.02Ωcm以下)にスピンコート(回転数:2000rpm、回転時間:30秒)して、Si基板上に塗膜を形成して積層体を得た。次いで、得られた積層体を室温(25℃程度)で一晩(15時間程度)静置することにより乾燥させた。乾燥後の積層体をアンモニア蒸気に60℃で12時間曝露させた後、ホットプレート上、100℃で1時間加熱して、塗膜中においてTPA有機シランの縮合反応(重合反応)を進行させて、Si基板上にTPA有機シランの重合体からなる薄膜を得た。次いで、前記薄膜が形成されたSi基板をトルエンに浸漬し、トルエン中で110℃の温度条件で24時間加熱する処理を3回繰り返し行うことで、薄膜中に導入された界面活性剤を除去して、Si基板上に有機シリカ多孔膜前駆体(TPA−PMO薄膜)を調製した。
【0078】
〈反応性イオンエッチング(RIE)処理〉
上述のようにして得られた有機シリカ多孔膜前駆体(TPA−PMO薄膜)の表面に対して、エッチング装置としてサムコ社製の商品名「RIE−10NR」を用いて、エッチングガスとしてCF
4とO
2とを含むガス(CF
4/O
2混合ガス)を利用し、該混合ガスの組成が59/10(CF
4/O
2)となるようにエッチングガスを59sccm/10sccm(CF
4/O
2)の流量で用い、雰囲気圧を10Paとし、RF電源の出力(RF出力)を30Wとし、処理時間を10秒とする条件で反応性イオンエッチング(RIE)処理を施した。このようにしてRIE処理を行なった後の膜を備えるSi基板をトルエンに浸漬させて、110℃で24時間加熱処理した後、真空乾燥して、RIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜を得た。このようにして、Si基板上にRIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜が積層された質量分析用の基板を得た。
【0079】
(実施例2)
反応性イオンエッチング(RIE)処理の際に、エッチングガスを前記CF
4/O
2混合ガスからCF
4のみからなるガスに変更し、エッチングガスの流量を60sccm(エッチングガスはCF
4のみであり、O
2は0sccm)とし、RF出力を30Wから25Wに変更し、処理時間を10秒から15秒に変更した以外は実施例1と同様にして、RIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜を得た。このようにして、Si基板上にRIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜が積層された質量分析用の基板を得た。なお、処理条件がより明確となるように、実施例1及び実施例2において採用した反応性イオンエッチング(RIE)の処理条件を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
(比較例1)
反応性イオンエッチング(RIE)処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、Si基板上にTPA−PMO薄膜を調製し、そのまま比較のための質量分析用の基板とした。このように、比較のための質量分析用の基板として、Si基板上にRIE未処理の有機シリカ多孔膜(TPA−PMO薄膜)が積層されたものを調製した。なお、かかる質量分析用の基板が備えるRIE未処理の有機シリカ多孔膜は、実施例1に記載の「有機シリカ多孔膜前駆体(TPA−PMO薄膜)」と同様のものである。
【0082】
[実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の特性の評価]
〈SEM測定(有機シリカ多孔膜の平均細孔径、厚み等の測定)〉
実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の断面をそれぞれ、走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製:高分解能電解放射形走査電子顕微鏡 SEM S−5500)を用いて、加速電圧10kVの条件で測定することにより、有機シリカ多孔膜の平均細孔径及び厚みを測定し、更に、膜の表面状態や細孔の状態を確認した。
【0083】
このような有機シリカ多孔膜の平均細孔径の測定に際しては、先ず、質量分析用の基板ごとに、上記走査電子顕微鏡により、基板の任意の4点の断面をそれぞれ測定した。次いで、測定された各断面SEM像を用いて、質量分析用の基板ごとに有機シリカ多孔膜中の任意の100個以上(合計数)の細孔の細孔直径を測定し、その平均値を求めることにより、各基板に形成された有機シリカ多孔膜の平均細孔直径(任意の100個以上の細孔の細孔直径の平均値)をそれぞれ求めた。なお、このような有機シリカ多孔膜の平均細孔径の測定に際しては、質量分析用の基板ごとに、各断面SEM像から、それぞれ任意の25個以上の細孔の細孔直径を測定して、測定した任意の細孔の合計数が100個以上(実施例1:151個、実施例2:137個、比較例1:124個)となるようにした。さらに、細孔直径の大きさは各断面SEM像から定規により測定した。
【0084】
また、このような有機シリカ多孔膜の膜の厚みは基板の任意の断面のSEM像から定規により測定した。
【0085】
このような走査電子顕微鏡による測定の結果として、実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜の断面SEM像をそれぞれ
図2(実施例1)、
図3(実施例2)、
図4(比較例1)に示す。このような測定の結果、実施例1及び2で得られたRIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜並びに比較例1で得られた有機シリカ多孔膜(RIE未処理)は、平均細孔直径がそれぞれ25nm(実施例1)、27nm(実施例2)、24nm(比較例1)であることが分かった。また、
図2〜4に示す結果から、実施例1で得られたRIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜は厚みが100nmであり、実施例2で得られたRIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜は厚みが90nmであり、比較例1で得られた有機シリカ多孔膜(RIE未処理)は厚みが120nmであることが確認された。このような結果から、RIE処理により表面の20〜30nm程度が削られていることが確認できた。また、
図2〜4を比較した結果から、RIE処理により有機シリカ多孔膜の表面の開口部がより増加していることが確認できた。なお、
図2〜4に示す断面SEM像からは、実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板中の多孔膜にはいずれも球状の細孔が形成されていることも確認できた。
【0086】
〈有機シリカ多孔膜の表面開口率の測定〉
実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜の表面の開口率(表面開口率)を以下のようにして測定した。すなわち、先ず、測定装置として走査型プローブ顕微鏡(SPM/AFM:日立ハイテクサイエンス社製のNanoNavi E−sweep)を利用し、質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜の表面上の1μm角(1μm×1μm)の大きさの任意の4点の測定領域に対して、カンチレバーとしてシリコン製のマイクロカンチレバー(日立ハイテクサイエンス社製の商品名「SI−DF20」)を用いて、ダイナミックフォースモードにて、縦(X):256ピクセル、横(Y):256ピクセルの走査条件で表面状態を解析して、原子間力顕微鏡(AFM)像を得た。このようにして得られたAFM像(256ピクセル×256ピクセル)に記録されている各ピクセル(画素)の縦(X)、横(Y)、高さ(Z)の位置情報から、高さ(Z)(前述の基準面からの垂直方向の距離[単位:nm])の値を縦軸とし、度数(全ピクセル数に対する特定の高さを有するピクセルの数の割合:特定の高さの値を有するピクセルの存在率[単位:%])を横軸とするグラフ(高さの度数分布曲線のグラフ)を求めた。そして、得られた高さの度数分布曲線のグラフから、最大の度数(最大度数)を有する高さの値(H1)よりも低い高さの値を有しかつ最大度数の1/2の度数を有する高さの値(H2)を求めた。次いで、かかる最大度数の1/2の度数を有する高さの値(H2)を閾値として、AFM像を二値化した。このような二値化により、任意の4点の測定領域ごとに、高さの値がH2以上となるピクセルの部分と、高さの値がH2未満となるピクセルの部分とにおいて色分けされた画像(AFM像を二値化した画像)をそれぞれ得た。そして、このような二値化した画像に基づいて、画像中の高さの値がH2以上となるピクセルの部分(領域)が有機シリカ多孔膜の骨格部分(多孔膜の表面を形成する有機シリカ部分)であるものと判断し、高さの値がH2未満となる部分(領域)が有機シリカ多孔膜の表面の細孔の開口部分(細孔に基づく空隙部分)であるものと判断して、測定領域ごとに開口率(各測定領域の表面画像に占める細孔の開口部分の割合、計算式:([細孔の開口部分の面積]/[測定領域の総面積])×100[単位:%]))をそれぞれ算出し、それらの平均値を求めることにより表面開口率(任意の4点の測定領域の開口率の平均値)を求めた。
【0087】
このような測定の結果、実施例1及び2で得られたRIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜並びに比較例1で得られた有機シリカ多孔膜(RIE未処理)は、表面開口率がそれぞれ41%(実施例1)、40%(実施例2)、7%(比較例1)であることが確認された。このような結果から、RIE処理を施すことにより、有機シリカ多孔膜の表面開口率をより高いものとすることができることが分かった。
【0088】
なお、実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜の表面のAFM像をそれぞれ
図5(実施例1)、
図6(実施例2)、
図7(比較例1)に示す(なお、各図中の(b)で示すAFM像は、(a)で示すAFM像の一部の拡大画像である)。このような
図5〜7に示す結果を直接対比することによっても、RIE処理した表面を有する有機シリカ多孔膜(実施例1〜2)においては、表面に露出している細孔(黒いコントラスト部分)が、比較例1で得られた有機シリカ多孔膜(RIE未処理)よりも大幅に増加していることが分かった。このように、RIE処理を施すことにより、有機シリカ多孔膜の表面開口率をより高いものとすることができることが分かった。
【0089】
〈吸収スペクトルの測定〉
実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜中の有機基の吸収スペクトルを求めるため、以下のような測定を行なった。すなわち、先ず、シリコン基板(Si基板)の代わりに石英基板(朝日テクニグラス社製の商品名「合成石英基板」)を用いた以外は、実施例1で採用している有機シリカ多孔膜前駆体の調製工程と同様の工程を採用して、石英基板上にTPA−PMO薄膜を形成し、測定用サンプルを得た。そして、かかる測定用サンプル(石英基板上にTPA−PMO薄膜を積層したもの)を用い、測定装置として日本分光社製の紫外可視分光光度計JASCO−V670を用いて、TPA−PMO薄膜の吸収スペクトルを測定した。なお、このようにして求められる吸収スペクトルは、TPA−PMO薄膜の骨格を考慮すれば、骨格内の有機基の吸収スペクトルであることは明らかである。このような測定により得られた吸収スペクトルを
図8に示す。
【0090】
図8に示す吸収スペクトルのグラフからも明らかなように、TPA有機シランの重合体からなるTPA−PMO薄膜は、吸収極大波長が310nmにあることが確認された。すなわち、TPA有機シランの重合体からなるTPA−PMO薄膜においては、その有機基(トリフェニルアミン)の吸収極大波長が310nmにあることが分かり、更に、その吸収スペクトルから波長が300〜400nmのレーザー光を効率よく吸収することが可能なものであることが分かった。
【0091】
なお、実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜はいずれも、TPA有機シランの重合体からなるものであり、基板の種類、表面処理の有無及び表面処理の条件が異なる以外は、上記測定用サンプルと同様の方法を採用して製造されたものであることから、上記測定用サンプル中の薄膜と、実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜は基本的に同一の有機基が骨格に導入されたものとなることが明らかである。そのため、実施例1〜2及び比較例1で得られた質量分析用の基板の有機シリカ多孔膜も同様に、有機基(トリフェニルアミン)の吸収極大波長が310nmでありかつ前記吸収スペクトルのグラフから波長300〜400nmのレーザー光を効率よく吸収することが可能なものであることも分かった。
【0092】
〈各有機シリカ多孔膜の特性について〉
上記測定結果より、実施例1〜2で得られた質量分析用の基板は、300〜400nmのレーザー光を吸収可能な有機基(トリフェニルアミン)を骨格に有し、平均細孔径が5〜50nmの細孔を有し、かつ、表面開口率が33〜70%である有機シリカ多孔膜を備えるものであることが分かった。他方、RIE処理を施さなかった有機シリカ多孔膜(RIE未処理膜)を備える比較例1で得られた質量分析用の基板は有機シリカ多孔膜の表面開口率(表面の平均開口率)が7%となっていることが分かった。このような結果から、前記TPA有機シランを利用した場合、これを単に重合して有機シリカ多孔膜を調製するのみでは平均細孔径が5〜50nmといった微細な細孔を有しつつ表面開口率が33%以上となるような多孔膜を形成することができなかったのに対して(比較例1)、前記TPA有機シランを重合して薄膜を形成した後にRIE等のエッチング処理を施すことによって(実施例1〜2)、表面開口率が33%以上となるような開口率が十分に増大された有機シリカ多孔膜を調製することが可能となることが分かった。
【0093】
(実施例3:質量分析)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用い、分析装置としてブルカー・ダルトニクス社製の商品名「autoflex」を用いて、以下のようにして質量分析を行なった。すなわち、先ず、前記質量分析用の基板中の有機シリカ多孔膜の表面(表面開口率が41%となっている表面)上に、測定対象分子である標準ペプチドを4pmol含む水溶液を1μL滴下し、自然乾燥させることにより、前記有機シリカ多孔膜に標準ペプチド(測定対象分子)を担持した。次いで、前記標準ペプチド(測定対象分子)を担持した膜を備える基板を、上記分析装置のカートリッジプレートに装着した後、上記分析装置におけるレーザー強度(Laser Power:LP)の設定が35%となるようにして、前記膜の試料(標準ペプチド)を担持(滴下)した箇所(試料の担持部位)に対して波長337nmのレーザー光を照射することにより、標準ペプチド(測定対象分子)をイオン化して質量分析を行った。なお、標準ペプチドとしては、ブルカー・ダルトニクス社製の製品番号8206195(Bruker #8206195)[Angiotensin II(M1:1046.5),Angiotensin I(M2:1296.7),Substance P(M3:1347.7),
Bombesin(M4:1619.8),ACTH clip 1-17(M5:2093.1),ACTH clip 18-39(M6:2465.2),Somatostatin 28(M7:3147.5),前記括弧()の内部に記載された数値はH+体の分子量]を用いた。
【0094】
(比較例2:質量分析)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用いる代わりに比較例1で得られた質量分析用の基板を用いた以外は実施例3と同様にして質量分析を行なった。なお、測定対象分子は有機シリカ多孔膜の表面(表面開口率が7%となっている表面)上に担持した。
【0095】
(実施例4:質量分析)
上記分析装置におけるレーザー強度(Laser Power)の設定を35%から30%に変更した以外は実施例3と同様にして質量分析を行なった。
【0096】
(実施例5:質量分析)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用いる代わりに実施例2で得られた質量分析用の基板を用いた以外は実施例4と同様にして質量分析を行なった。なお、測定対象分子は有機シリカ多孔膜の表面(表面開口率が40%となっている表面)上に担持した。
【0097】
(比較例3:質量分析)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用いる代わりに比較例1で得られた質量分析用の基板を用い、かつ、上記分析装置におけるレーザー強度(Laser Power)の設定を30%から40%に変更した以外は実施例4と同様にして質量分析を行なった。なお、測定対象分子は有機シリカ多孔膜の表面(表面開口率が7%となっている表面)上に担持した。
【0098】
(比較例4:質量分析)
レーザー強度(Laser Power)の設定を40%から30%に変更した以外は比較例3と同様にして質量分析を行なったところ(実施例4及び5と同様のレーザー強度で、比較例1で得られた質量分析用の基板を用いて質量分析を行なったところ)、マススペクトルのシグナルが確認できなかった(ペプチドの検出ができなかった)。
【0099】
[実施例3〜5及び比較例2〜4の質量分析の結果について]
実施例3及び比較例2の質量分析の結果として、実施例3で得られたマススペクトルのグラフと、比較例2で得られたマススペクトルのグラフとを
図9に示す。なお、実施例3と比較例2とは同じ強度でレーザー光を照射して質量分析しており、測定されたマススペクトルのグラフ中のピーク横の括弧内()内の数値はシグナル強度を示す。
【0100】
また、実施例4〜5及び比較例3の質量分析の結果として、実施例4で得られたマススペクトルのグラフと、実施例5で得られたマススペクトルのグラフと、比較例3で得られたマススペクトルのグラフとを
図10に示す。なお、実施例4〜5及び比較例3においてはそれぞれ検出感度がより高くなるように最適な強度でレーザー光を照射して質量分析しており、測定されたマススペクトルのグラフ中のピーク横の括弧内()内の数値はシグナル強度を示す。
【0101】
図9及び10に示す結果からも明らかなように、実施例3〜5及び比較例2〜3においてはいずれもSubstance P(M3)と、
Bombesin(M4)とをマトリックスを用いることなく検出することが可能であることが分かった。また、同じレーザー強度(LP=35%)での質量分析の結果(
図9に示す結果)から、実施例3及び比較例2で利用した各質量分析用の基板の性能を比較すると、RIE処理した有機シリカ多孔膜を利用した基板(実施例1で得られた質量分析用の基板)を利用した場合のマススペクトル(実施例3で測定されたマススペクトル)のシグナルが、RIE未処理の有機シリカ多孔膜を利用した基板(比較例1で得られた質量分析用の基板)を利用した場合のマススペクトル(比較例2で測定されたマススペクトル)のシグナルと比較して、シグナルの強度がより強くなっており、検出感度が一桁向上したことが分かった(なお、[M3+Na
+]及び[M4+Na
+]のシグナル強度は10倍以上となっていた)。
【0102】
さらに、
図10に示す結果からも明らかなように、実施例4〜5においては質量分析に際してレーザー強度を30%に下げてもペプチドをイオン化して十分に検出できていた。なお、比較例1で得られた質量分析用の基板を用いて実施例4〜5と同様にレーザー強度を30%として質量分析を行なった場合(比較例4)にはペプチドのシグナルが確認できなかったことから、実施例1〜2で得られた質量分析用の基板を利用することで、より検出感度が高くなり、より低いレーザー強度で、より効率よく質量分析できることも分かった。また、
図10に示す結果から、実施例4〜5で測定されたマススペクトルと比較例3で測定されたマススペクトルとを比較すると、比較例1で得られた質量分析用の基板を利用して質量分析を行なった場合(比較例3)に検出できなかったAngiotensin II(M1)とAngiotensin I(M2)が、実施例1〜2で得られた質量分析用の基板を利用して質量分析を行なった場合(実施例4〜5)には検出できていることが確認され、かかる結果からも、実施例1〜2で得られた質量分析用の基板を利用することで、より検出感度が高くなることが分かった。
【0103】
(実施例6:質量分析)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用い、分析装置としてShimadzu社製のAXIMA−QITを用いて、以下のようにして質量分析を行なった。すなわち、先ず、前記質量分析用の基板中の有機シリカ多孔膜の表面(表面開口率が41%となっている表面)上に、下記式:
【0104】
【化8】
【0105】
[化学式中のAで示す部分に存在する成分は糖鎖であり、Bで示す部分に存在する成分は標識分子(2−アミノアクリドン))に由来する成分(糖鎖に固定(結合)させた標識分子)である。]
で表される標識分子(標識色素)を固定した糖(AMAC−NA2)を10pmol含む水溶液を1μL滴下し、自然乾燥させることにより、前記有機シリカ多孔膜にAMAC−NA2(測定対象分子)を担持した。次いで、前記AMAC−NA2(測定対象分子)を担持した膜を備える基板を、上記分析装置のカートリッジプレートに装着した後、前記膜の試料(AMAC−NA2)を担持(滴下)した箇所に対して波長337nmのレーザー光を照射することにより、AMAC−NA2をイオン化して質量分析を行った。なお、測定は分析装置の正イオンモードにて行い、測定回ごとにレーザーの照射位置を変えて測定を3回行なった(3箇所に対して質量分析を行なった)。このような3回分の質量分析の測定結果としてマススペクトルのグラフを
図11に示す(なお、測定回ごとに結果を(a)、(b)、(c)と分けて記載する)。なお、
図11(a)、(b)、(c)のそれぞれにおいて(各回ごとに測定されたマススペクトルのそれぞれのグラフにおいて)、最大ピークにおけるシグナル強度はそれぞれ20mV、24mV、28mVであった。
【0106】
(実施例7:質量分析)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用いる代わりに実施例2で得られた質量分析用の基板を用いた以外は実施例6と同様にして質量分析を行なった。なお、測定対象分子は有機シリカ多孔膜の表面(表面開口率が40%となっている表面)上に担持した。このような質量分析(3回分)の測定結果としてマススペクトルのグラフを
図12に示す(なお、測定回ごとに結果を(a)、(b)、(c)と分けて記載する)。なお、
図12(a)、(b)、(c)のそれぞれにおいて(各回ごとに測定されたマススペクトルのそれぞれのグラフにおいて)、最大ピークにおけるシグナル強度はそれぞれ46mV、44mV、45mVであった。
【0107】
(比較例5:質量分析)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用いる代わりに比較例1で得られた質量分析用の基板を用いた以外は実施例6と同様にして質量分析を行なった。なお、測定対象分子は有機シリカ多孔膜の表面(表面開口率が7%となっている表面)上に担持した。このような質量分析(3回分)の測定結果としてマススペクトルのグラフを
図13に示す(なお、測定回ごとに、結果を(a)、(b)、(c)と分けて記載する)。なお、
図13(a)、(b)、(c)のそれぞれにおいて(各回ごとに測定されたマススペクトルのそれぞれのグラフにおいて)、最大ピークにおけるシグナル強度はそれぞれ1.5mV、0.6mV、1.1mVであった。
【0108】
[実施例6〜7及び比較例5の質量分析の結果について]
図11〜13に示す結果からも明らかなように、標識色素を固定した糖(AMAC−NA2、10pmol)に対して同条件でレーザーを照射して質量分析を行なった場合(実施例6〜7及び比較例5)には、RIE未処理の有機シリカ多孔膜を備える質量分析用の基板(比較例1で得られた質量分析用の基板)を用いた場合に測定されたマススペクトルの最大ピークのシグナル強度が0.6〜1.5mVであるのに対して(
図13:比較例5)、RIE処理を施した有機シリカ多孔膜を備える質量分析用の基板(実施例1で得られた質量分析用の基板及び実施例2で得られた質量分析用の基板)をそれぞれ利用した場合に測定されたマススペクトルのピークのシグナル強度がそれぞれ20〜28mV(
図11:実施例6)、44〜46mV(
図12:実施例7)となっており、表面開口率がより高い実施例1及び2で得られた質量分析用の基板を利用することで、測定されるマススペクトルのシグナル強度を大幅に向上させることが可能となり、検出感度を一桁も向上させることが可能であることが分かった。このような結果から、実施例1〜2で得られた質量分析用の基板を利用することで、マトリックスを用いることなく質量分析することが可能であるとともに、その検出感度をより高いものとすることが可能であることが確認された。
【0109】
(実施例8:質量分析)
標識分子(標識色素)を固定した糖(AMAC−NA2)を10pmol含む水溶液を用いる代わりに、AMAC−NA2を1pmol含む水溶液を用い、かつ、測定回数を3回から2回に変更した以外は、実施例6と同様にして、質量分析(実施例1で得られた質量分析用の基板を用いた質量分析)を行なった。このような2回分の質量分析の測定結果としてマススペクトルのグラフを
図14に示す(なお、測定回ごとに結果を(a)、(b)と分けて記載する)。なお、
図14(a)、(b)のそれぞれにおいて(各回ごとに測定されたマススペクトルのそれぞれのグラフにおいて)、最大ピークにおけるシグナル強度はそれぞれ16mV、15mVであった。
【0110】
(比較例6)
実施例1で得られた質量分析用の基板を用いる代わりに比較例1で得られた質量分析用の基板を用いた以外は実施例8と同様にして質量分析を行なったところ、マススペクトルのシグナルが確認できなかった(AMAC−NA2の検出ができなかった)。
【0111】
[実施例8及び比較例5〜6の質量分析の結果について]
図14に示す結果からも明らかなように、AMAC−NA2担持量が1pmolである場合においても、RIE処理を施した有機シリカ多孔膜を備える質量分析用の基板(実施例1で得られた質量分析用の基板)を利用した場合(実施例8の場合)においては、測定ごとにマススペクトルのピークのシグナル強度(16mV、15mV)が確認された。これに対して、RIE未処理の有機シリカ多孔膜を備える質量分析用の基板(比較例1で得られた質量分析用の基板)を用いた場合(比較例6の場合)には、AMAC−NA2担持量が1pmolという条件下においてはマススペクトルのシグナルが確認できなかった。なお、AMAC−NA2の担持量が10pmolである比較例5の質量分析により測定されるマススペクトルのシグナル強度と、AMAC−NA2担持量が1pmolである実施例8の質量分析により測定されるマススペクトルのシグナル強度を比較した場合においても、実施例8の質量分析により、シグナル強度が大幅に向上されていることが確認された。このような対比から、比較例5と実施例8とでは測定対象分子(AMAC−NA2)の担持量に違いがあり、実施例8の質量分析では測定対象分子(AMAC−NA2)の担持量が少ないにもかかわらず、比較例5の質量分析と比較して検出感度が向上してることが分かった。このような結果から、本発明の質量分析用の基板(実施例1)を利用した場合には、検出感度をより高いものとすることが可能であり、測定対象分子の量が少ない場合においても十分に効率よく質量分析することが可能であることが分かった。