特許第6908501号(P6908501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908501
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機用押圧装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20210715BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20210715BHJP
【FI】
   F16H15/38
   F16H57/04 J
   F16H57/04 K
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-220900(P2017-220900)
(22)【出願日】2017年11月16日
(65)【公開番号】特開2019-90505(P2019-90505A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜多 昌大
(72)【発明者】
【氏名】松田 吉平
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙一郎
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第6176806(US,B1)
【文献】 特開平6−147283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向片側面に断面円弧形のトロイド曲面を有し、かつ、軸方向他側面に円周方向に関する凹凸面である第1のカム面を有するディスクと、
筒状部と、該筒状部の軸方向他端部から径方向外方に折れ曲がり、かつ、前記第1のカム面に対向する軸方向片側面に、円周方向に関する凹凸面である第2のカム面を有する外向フランジ部とからなるカム板と、
前記第1のカム面と前記第2のカム面との間に挟持された複数個の転動体とを備え、
前記筒状部が、円筒部と、軸方向他方を向いた段差面を有し、かつ、前記円筒部の軸方向片端部内周面から径方向内方に突出するように設けられた突条と、前記筒状部を径方向に貫通する給油通路とを有し、
前記給油通路の径方向内側開口部の少なくとも一部が、前記円筒部の内周面のうち、前記段差面よりも軸方向他側に位置する部分に開口している、
トロイダル型無段変速機用押圧装置。
【請求項2】
前記給油通路が、前記円筒部の外周面と内周面とを連通する通油孔と、該通油孔と径方向に連続するように、かつ、前記段差面に軸方向片方に凹むように設けられた通油溝とから構成されている、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機用押圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空機などで使用される発電機用、または、ポンプなどの各種産業機械用の自動変速装置などとして利用する、トロイダル型無段変速機に組み込んで使用する押圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トロイダル型無段変速機は、互いに同軸に、かつ、相対回転可能に配置された入力ディスクと出力ディスクとの間に複数個のパワーローラを挟持してなる。このようなトロイダル型無段変速機では、前記パワーローラを介して、前記入力ディスクから前記出力ディスクに動力が伝達される。また、前記パワーローラの傾斜角度を変えることにより、前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間の変速比が調節可能となっている。トロイダル型無段変速機の運転時に、前記入力ディスクおよび前記出力ディスクの軸方向側面と、前記パワーローラの周面との転がり接触部であるトラクション部には、トラクションオイルの油膜が形成される。エンジンなどの駆動源から前記入力ディスクに入力された動力は、前記油膜を介して、前記出力ディスクに伝達される。トロイダル型無段変速機では、このような油膜を介しての動力伝達が確実に行われるようにするため、すなわち、前記トラクション部でグロススリップと呼ばれる過大な滑りが生じることを防止するため、押圧装置により、前記入力ディスクと前記出力ディスクを互いに近づく方向に押圧している。
【0003】
実開昭62−71465号公報には、伝達トルクの大きさに比例した押圧力を機械的に発生するローディングカム式の押圧装置が記載されている。実開昭62−71465号公報に記載された押圧装置は、ディスクの軸方向側面に形成された第1のカム面と、該第1のカム面に対向するカム板の軸方向側面に形成された第2のカム面との間に、複数個のローラを挟持することにより構成されている。
【0004】
ローディングカム式の押圧装置の作動時には、前記ローラが、前記第1のカム面および第2のカム面を構成する凸部に乗り上げることにより、前記第1のカム面と前記第2のカム面との軸方向間隔が拡がる。これにより、前記第1のカム面が形成された一方のディスクが、該一方のディスクに対向する他方のディスクに向けて押圧され、前記トラクション部の面圧が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−71465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ローディングカム式の押圧装置の作動時、すなわち、押圧力の発生時には、前記ローラの転動面は、前記第1のカム面と前記第2のカム面との間で強い力で挟持される。また、トロイダル型無段変速機が一定の変速比で運転されている間は、前記第1のカム面および前記第2のカム面を構成する凸部に対する前記ローラの乗り上げ量が一定となり、該ローラは転動しない。したがって、前記ローラの転動面と、前記第1のカム面および前記第2のカム面との間で微小な滑りが生じると、前記ローラの転動面、並びに前記第1のカム面および前記第2のカム面で、フレッチング摩耗が発生する可能性がある。このようなフレッチング摩耗の発生を防止するためには、前記ローラの転動面と、前記第1のカム面および前記第2のカム面との接触部に、十分量の潤滑油を供給することが重要になる。
【0007】
前記ローラの転動面と、前記第1のカム面および前記第2のカム面との接触部に十分量の潤滑油を供給するためには、カム板の形状やレイアウトなどによっては、該カム板に潤滑油を通過させるための給油通路を設ける必要がある。前記ディスクや前記カム板を支持する回転軸の内部に設けられた潤滑油流路から供給された潤滑油は、前記給油通路を通じて前記接触部に供給される。
【0008】
しかしながら、前記カム板に、外周面と内周面とを連通するように給油通路を設けると、前記カム板に肉厚が小さい薄肉部が形成されてしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、カム板に給油通路を設けた場合でも、該カム板に肉厚が小さい薄肉部が形成されることを防止できる構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトロイダル型無段変速機は、ディスクと、カム板と、複数個の転動体とを備える。
前記ディスクは、軸方向片側面に断面円弧形のトロイド曲面を有し、かつ、軸方向他側面に円周方向に関する凹凸面である第1のカム面を有する。
前記カム板は、筒状部と、該筒状部の軸方向他端部から径方向外方に折れ曲がり、かつ、前記第1のカム面に対向する軸方向片側面に、円周方向に関する凹凸面である第2のカム面を有する外向フランジ部とから構成される。
前記複数個の転動体は、前記第1のカム面と前記第2のカム面との間に挟持されている。
前記筒状部は、円筒部と、軸方向他方を向いた段差面を有し、かつ、前記円筒部の軸方向片端部内周面から径方向内方に突出するように設けられた突条と、前記筒状部を径方向に貫通する給油通路とを有する。
前記給油通路の径方向内側開口部の少なくとも一部が、前記円筒部の内周面のうち、前記段差面よりも軸方向他側に位置する部分に開口している。
【0011】
本発明を実施する場合、前記給油通路を、前記円筒部の外周面と内周面とを連通する通油孔と、該通油孔と径方向に連続するように、かつ、前記段差面に軸方向片方に凹むように設けられた通油溝とから構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
上述のような本発明のトロイダル型無段変速機によれば、カム板に給油通路を設けた場合でも、該カム板に肉厚が小さい薄肉部が形成されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例を示す、トロイダル型無段変速機の略断面図である。
図2図2は、図1のX部に相当する部分の具体的な構造を示す図である。
図3図3は、本発明の比較例の構造を示す、図2と同様の図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の第2例を示す、図2と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態の第1例]
図1および図2は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のトロイダル型無段変速機1は、回転軸2と、それぞれが入力ディスクである1対の外側ディスク3a、3bと、出力ディスクである内側ディスク4と、複数個のパワーローラ(図示省略)と、押圧装置5とを備える、ダブルキャビティ型である。
【0015】
回転軸2は、中心部を軸方向に貫通する潤滑油流路6と、回転軸2の外周面と潤滑油流路6とを連通する吐出口7とを有する。すなわち、油源から潤滑油流路6内に供給された潤滑油は、吐出口7から吐出され、後述する給油通路19と分岐孔を通じて、ローラ12の転動面と、第1のカム面13および第2のカム面15との接触部に供給される。なお、吐出口7は、回転軸2の円周方向1箇所にのみ設けることもできるし、円周方向複数箇所に設けることもできる。また、図示の例では、潤滑油流路6の開口部は、蓋体8により塞がれている。
【0016】
1対の外側ディスク3a、3bは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である軸方向側面同士を互いに対向させた状態で、回転軸2の軸方向両側部に、それぞれボールスプライン9を介して支持されている。したがって、1対の外側ディスク3a、3bは、互いに遠近動可能であり、かつ、回転軸2と同期して回転する。
【0017】
内側ディスク4は、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である軸方向両側面を、1対の外側ディスク3a、3bの軸方向側面に対向させた状態で、回転軸2の軸方向中間部に、回転軸2に対する相対回転を可能に支持されている。また、内側ディスク4は、外周面に歯車10を有する。
【0018】
それぞれのパワーローラは、球状凸面である周面を、1対の外側ディスク3a、3bの軸方向側面と内側ディスク4の軸方向両側面とに転がり接触させた状態で、1対の外側ディスク3a、3bの軸方向側面と内側ディスク4の軸方向両側面との間に挟持されている。なお、それぞれのパワーローラは、回転軸2に対し捩れの位置にある枢軸を中心とする揺動を可能に支持された支持部材に、回転可能に支持されている。
【0019】
押圧装置5は、1対の外側ディスク3a、3bのうちの一方であって、被押圧ディスクである第1の外側ディスク3aを、他方である第2の外側ディスク3bに向けて押圧するためのものである。本例では、押圧装置5は、第1の外側ディスク3aと、カム板11と、それぞれが転動体である複数個のローラ12と、保持器29とを備える、ローディングカム式である。
【0020】
第1の外側ディスク3aは、軸方向片側面(図1および図2の左側面)に、断面円弧形のトロイド曲面を有し、かつ、軸方向他側面(図1および図2の右側面)に、円周方向に関する凹凸面である第1のカム面13を有する。このような第1の外側ディスク3aは、回転軸2の周囲に、ボールスプライン9を介して、回転軸2に対する軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転軸2と同期して回転するように支持されている。
【0021】
カム板11は、断面略L字形で、筒状部14と、該筒状部14の軸方向他端部から径方向外方に折れ曲がり、かつ、第1のカム面13に対向する軸方向片側面に第2のカム面15を有する外向フランジ部16とを備える。
【0022】
筒状部14は、円筒部17と、突条18と、給油通路19とを備える。突条18は、円筒部17の軸方向片端部内周面から径方向内方に突出するように、全周にわたって設けられている。このような突条18の軸方向他側面は、軸方向他方を向いた段差面38となっている。換言すれば、円筒部17の軸方向中間部内周面と突条18の内周面とは、段差面38により接続されている。また、突条18は、軸方向片端部に、軸方向他側に隣接する部分よりも径方向内方に突出した内向フランジ部20を有する。なお、このような突条18を、必ずしも全周にわたって設ける必要はない。すなわち、突条を、不連続部を有する構成としたり、円周方向複数箇所に設けられた突片から構成することもできる。
【0023】
給油通路19は、筒状部14の軸方向中間部の円周方向の少なくとも1箇所(好ましくは複数箇所)に、筒状部14を径方向に貫通するように、放射状に設けられている。給油通路19のそれぞれは、円筒部17の外周面と内周面とを連通する通油孔21と、該通油孔21と径方向に連続するように、かつ、段差面38に軸方向片方に凹むように設けられた通油溝22とから構成される。本例では、それぞれの給油通路19を構成する通油孔21と通油溝22とが、同一円筒面上に存在している。すなわち、通油孔21を円孔とするとともに、通油溝22を断面円弧形としている。
【0024】
なお、給油通路は、上述のような構成に限らず、種々の構成を採用することができる。具体的には、例えば、給油通路を構成する通油孔と通油溝とを、径方向外方に向かうほど内径が大きくなる同一円すい面上に存在させることもできる。あるいは、例えば、給油通路を構成する通油孔を矩形孔とし、通油溝を断面矩形とすることもできる。また、本例では、給油通路19を、径方向に設けているが、給油通路を、径方向外方に向かうほど軸方向片方または他方に向かう方向に傾斜する方向に設けることもできる。
【0025】
カム板11は、回転軸2の端部に、サポート軸受23を介して、回転軸2に対する回転を可能に支持されている。本例では、サポート軸受23は、アンギュラ型で、回転軸2の端部外周面に形成された内輪軌道24と、外輪25の内周面に形成された外輪軌道26との間に、複数個の玉27を転動自在に配置してなる。外輪25は、カム板11を構成する筒状部14の軸方向他端部に、動力伝達および軸方向の相対変位を可能に外嵌されている。具体的には、例えば、外輪25の内周面と、筒状部14の軸方向他端部外周面とをスプライン係合させている。
【0026】
また、外輪25の軸方向片側面と、突条18の軸方向他側面との間には、皿ばね28およびスペーサ39が挟持されている。そして、皿ばね28により、カム板11、ローラ12および第1の外側ディスク3aを軸方向片方に向けて押圧すると同時に、回転軸2および第2の外側ディスク3bを軸方向他方に向けて引っ張っている。このような構成により、回転軸2の停止時にも、パワーローラの周面と、1対の外側ディスク3a、3bの軸方向片側面および内側ディスク4の軸方向両側面との転がり接触部であるトラクション部の面圧が、必要最低限だけは確保できるようにしている。このため、トラクション部は、トロイダル型無段変速機1の運転開始直後から、過大な滑りを生じることなく、動力伝達を開始することができる。
【0027】
それぞれのローラ12は、直径寸法に比べて軸方向寸法が短い短円柱状である。それぞれのローラ12は、外周面である転動面を、第1のカム面13と第2のカム面15とに転がり接触させており、第1のカム面13と第2のカム面15との間に挟持されている。本例では、ローラ12は、複数個ずつ(図示の例では3個ずつ)、それぞれ直列に組み合わされた状態で、保持器29の円周方向複数箇所に配置されたポケット30内に、転動自在に配置されている。直列に組み合わせされたローラ12のそれぞれは、独立して回転することができるため、第1のカム面13および第2のカム面15の内径側と外径側との速度差を吸収することができる。
【0028】
保持器29は、全体が円輪状で、互いに同軸に配置されたそれぞれが円環状の1対のリム部31a、31bと、該1対のリム部31a、31b同士の間にかけ渡された複数本の柱部32とを備える。そして、1対のリム部31a、31bと、円周方向に隣り合う1対の柱部32とにより四周を囲まれる部分のそれぞれを、ローラ12を転動自在に保持するためのポケット30としている。
【0029】
1対のリム部31a、31bのうちの外径側のリム部31aは、柱部32よりも軸方向片側に向け全周にわたって突出した突出部33aを有する。これに対し、1対のリム部31a、31bのうちの内径側のリム部31bは、柱部32よりも軸方向他側に向け全周にわたって突出した突出部33bと、柱部32よりも軸方向片側に向け全周にわたって突出した張り出し部40とを有する。本例では、外径側の突出部33aを第1のカム面13に係合させるとともに、内径側の突出部33bを第2のカム面15に係合させることにより、保持器29の軸方向に関する位置決めが図られている。一方、内径側のリム部31bを、カム板11を構成する筒状部14に隙間嵌で外嵌し、内径側のリム部31bの内周面と、筒状部14の外周面とを近接対向させることにより、保持器29の径方向に関する位置決めが図られている。
【0030】
また、内径側のリム部31bは、外径側の保油凹部34と、複数個の供給孔35a、35bとを備える。外径側の保油凹部34は、内径側リム部31bのうち、柱部32の内径側に存在する軸方向中間部から張り出し部40にかけての部分の内周面に、円筒部17の外周面に開口した通油孔21の外径側開口に対向するように、全周にわたり設けられている。なお、外径側の保油凹部34は、ローラ12の第1のカム面13および第2のカム面15への乗り上げ位置にかかわらず、通油孔21の外径側開口と常に径方向に対向できるだけの幅寸法を有している。
【0031】
それぞれの供給孔35a、35bは、内径側のリム部31bのうちで、円周方向に関する位相がポケット30と一致する部分に、1対ずつ形成されている。1対ずつの供給孔35a、35bのうち、それぞれの一方の供給孔35aは、径方向外方に向かうほど軸方向片方に向かう方向に形成されており、内径側開口が外径側の保油凹部34の底面に開口し、かつ、外径側開口が、張り出し部40の外周面に開口している。これに対し、それぞれの他方の供給孔35bは、径方向外方に向かうほど軸方向他方に向かう方向に形成されており、内径側開口が外径側の保油凹部34の底面に開口し、かつ、外径側開口が、内径側の突出部33bの外周面に開口している。
【0032】
以上のような構成を有するトロイダル型無段変速機1の運転時に、押圧装置5を構成するカム板11は、エンジンやモータなどの駆動源により、駆動軸36を介して回転駆動される。カム板11が回転駆動されると、それぞれのローラ12は、第1のカム面13および第2のカム面15を構成する凸部に乗り上げることにより、第1のカム面13と第2のカム面15との間で強く挟持される。また、カム板11の回転は、それぞれのローラ12の転動面と、第1のカム面13および第2のカム面15との係合部を介して第1の外側ディスク3aに伝達される。この結果、1対の外側ディスク3a、3bが、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。1対の外側ディスク3a、3bの回転は、それぞれのパワーローラを介して内側ディスク4に伝達され、この内側ディスク4の回転が、歯車10から取り出される。
【0033】
なお、1対の外側ディスク3a、3bと内側ディスク4との間の変速比を変更する場合には、それぞれのパワーローラを支持する支持部材を枢軸の軸方向に変位させる。これにより、トラクション部に作用する接線方向の力の向きを変化させる。トラクション部に作用する接線方向の力の向きが変化すると、支持部材が枢軸を中心に揺動し、パワーローラの周面と、1対の外側ディスク3a、3bの軸方向片側面および内側ディスク4の軸方向両側面との接触位置が変化する。本例では、それぞれのパワーローラの周面を、1対の外側ディスク3a、3bの径方向外側部と、内側ディスク4の径方向内側部とに転がり接触させた場合、トロイダル型無段変速機1の変速比が増速側となる。これに対して、それぞれのパワーローラの周面を、1対の外側ディスク3a、3bの径方向内側部と、内側ディスク4の径方向外側部とに転がり接触させた場合、トロイダル型無段変速機1の変速比が減速側となる。
【0034】
また、回転軸2の潤滑油流路6内に供給された潤滑油は、回転軸2の回転に伴う遠心力により、吐出口7から吐出される。吐出口7から吐出された潤滑油は、突条18の軸方向他側部内周面と、内向フランジ部20の軸方向他側面と、皿ばね28の軸方向片側面とにより画成された内径側の保油凹部37内に保持される。内径側の保油凹部37内の潤滑油は、通油溝22から給油通路19内に取り込まれ、通油孔21の外径側開口から保持器29の外径側の保油凹部34に向け吐出されて、外径側の保油凹部34内に保持される。そして、外径側の保油凹部34内の潤滑油は、供給孔35a、35bを介して、ローラ12の転動面と、第1のカム面13および第2のカム面15との接触部に向けて吐出され、それぞれの接触部を潤滑する。これにより、ローラ12の転動面、並びに、第1のカム面13および第2のカム面15での、フレッチング摩耗の発生が防止される。
【0035】
本例のトロイダル型無段変速機1では、カム板11に形成された給油通路19のそれぞれを、円筒部17の外周面と内周面とを連通する通油孔21と、該通油孔21と径方向に連続するように、かつ、段差面38に軸方向片方に凹むように設けられた通油溝22とから構成し、給油通路19を設けることに伴って、カム板11に肉厚が小さい薄肉部が存在しないようにしている。これに対し、図3に示す比較例では、給油通路19aを、径方向内端部が突条18の内周面に開口し、かつ、径方向外端部が円筒部17の外周面に開口する通孔としている。このため、カム板11を構成する突条18のうちで、給油通路19aよりも軸方向他側に存在する部分は、肉厚が小さい薄肉部41となっている。本例では、カム板11に、肉厚が小さい薄肉部が存在しないようにしているため、カム板11の強度を、図3に示す比較例の構造と比べて高くすることができる。
【0036】
なお、本例では、1対の外側ディスク3a、3bを、駆動源により回転駆動される入力ディスクとし、内側ディスク4を、出力ディスクとした場合について説明したが、本発明を実施する場合には、内側ディスクを入力ディスクとし、1対の外側ディスクを出力ディスクとすることもできる。また、本発明の押圧装置を組み込むトロイダル型無段変速機は、ハーフトロイダル型とフルトロイダル型との何れの構造も採用することができる。さらに、本発明の押圧装置を組み込むトロイダル型無段変速機は、ダブルキャビティ型に限らず、シングルキャビティ型とすることもできる。
【0037】
[実施の形態の第2例]
図4は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例では、給油通路19bの径方向内側開口部全体を、筒状部14の円筒部17のうち、段差面38よりも軸方向他側(図4の右側)に位置する部分に開口させている。すなわち、給油通路19bは、円筒部17のうち、段差面38よりも軸方向他側に位置する部分を径方向に貫通するように設けられている。本例の場合も、カム板11に肉厚が小さい薄肉部が存在しないようにできて、カム板11の強度を、図3に示す比較例の構造と比べて高くすることができる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【符号の説明】
【0038】
1 トロイダル型無段変速機
2 回転軸
3a、3b 外側ディスク
4 内側ディスク
5 押圧装置
6 潤滑油流路
7 吐出口
8 蓋体
9 ボールスプライン
10 歯車
11 カム板
12 ローラ
13 第1のカム面
14 筒状部
15 第2のカム面
16 外向フランジ部
17 円筒部
18 突条
19、19a、19b 給油通路
20 内向フランジ部
21 通油孔
22 通油溝
23 サポート軸受
24 内輪軌道
25 外輪
26 外輪軌道
27 玉
28 皿ばね
29 保持器
30 ポケット
31a、31b リム部
32 柱部
33a、33b 突出部
34 外径側の保油凹部
35a、35b 供給孔
36 駆動軸
37 内径側の保油凹部
38 段差面
39 スペーサ
40 張り出し部
41 薄肉部
図1
図2
図3
図4