特許第6908504号(P6908504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908504
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】ランタノイド含有無機材料微粒子
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20210715BHJP
   C09K 11/77 20060101ALI20210715BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20210715BHJP
   C09C 1/62 20060101ALI20210715BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20210715BHJP
【FI】
   C09K11/08 G
   C09K11/77
   C09C3/06
   C09C1/62
   C09D11/037
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-224688(P2017-224688)
(22)【出願日】2017年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-87328(P2018-87328A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2020年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-226769(P2016-226769)
(32)【優先日】2016年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−178602(JP,A)
【文献】 特表2009−526089(JP,A)
【文献】 特開2000−204368(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/016893(WO,A1)
【文献】 特開2012−149139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
H01L 33/50
C09C
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長波長光から短波長光への波長変換機能を有するランタノイド含有無機材料微粒子であって、コア粒子、及び、シェル層を有し、前記コア粒子は、光吸収機能を有するランタノイドと光発光機能を有するランタノイドとを含有し、前記シェル層は、バンドギャップが3.0〜4.5eVである金属酸化物を含有することを特徴とするランタノイド含有無機材料微粒子。
【請求項2】
前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化セリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のランタノイド含有無機材料微粒子。
【請求項3】
平均粒子径が10〜300nmであることを特徴とする請求項1又は2記載のランタノイド含有無機材料微粒子。
【請求項4】
前記コア粒子の平均粒子径が5〜250nmであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のランタノイド含有無機材料微粒子。
【請求項5】
前記シェル層の厚みが2〜20nmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のランタノイド含有無機材料微粒子。
【請求項6】
前記コア粒子の平均粒子径と前記シェル層の厚みとの比が2〜50であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のランタノイド含有無機材料微粒子。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載のランタノイド含有無機材料微粒子及び溶媒を含有することを特徴とする波長変換インク。
【請求項8】
セキュリティインクであることを特徴とする請求項7記載の波長変換インク。
【請求項9】
請求項7又は8記載の波長変換インクと基材とを有することを特徴とする塗工物。
【請求項10】
請求項9記載の塗工物に赤外線を照射する照射手段と、赤外線の照射によって生じる発光スペクトル及び前記波長変換インクの印刷パターンを検出する検出手段とを有することを特徴とする判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線による劣化を抑制することができるとともに、耐湿性にも優れ、長期間にわたって安定した波長変換機能を発揮することが可能なランタノイド含有無機材料微粒子に関する。また、本発明は、波長変換時の高い発光強度を長期間維持することができ、分散媒の極性に関わらず作製することが可能な波長変換インク、該波長変換インクを有する塗工物及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線等の長波長の光を、可視光や紫外線等の短波長の光へと変換する「アップコンバージョン」機能を有する無機微粒子は、バイオマーカー等の医療用途への応用が期待されている。また、このような無機微粒子をマトリックス材料中に分散させることにより、アップコンバージョン機能を付与した高機能化材料が近年注目されている。
【0003】
アップコンバージョン機能を有する無機微粒子としては、主にランタノイド元素を含有するものが知られており、これら元素のエネルギー準位差による「多光子励起」という現象を利用している。
アップコンバージョン機能を有する無機微粒子のホスト材料にはランタノイド元素の光吸収、エネルギー移動、光放出過程を阻害しないよう、低フォノンエネルギーで且つ化学的安定性の高い材料が求められており、それらを満たす材料として酸化物材料やフッ化物材料が知られている。
【0004】
また、特許文献1では、アップコンバージョン機能を有する無機微粒子を含有させた偽造防止材料が提案されている。このような偽造防止材料では、アップコンバージョン機能を有する無機材料微粒子を含有する赤外線蛍光インクが用いられている。このような赤外線蛍光インクは、可視光に対しては透明であるため、印刷物に可視光で視認可能な情報に加えて、第2情報を追加可能であるため、偽造防止や情報漏えいの防止等のセキュリティ用途等に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−149139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の紫外線蛍光インクでは紫外線の照射によって被印刷物が劣化するという問題があったが、赤外線を用いることで被印刷物の劣化を抑制することができる等の利点を有している。
【0007】
一方で、偽造防止や情報漏えいの防止のために赤外線蛍光インクが塗工された被印刷物は第2情報の確認のためには紫外線照射は不要であるものの、例えば、紙幣等のように長期間使用される場合には、紫外線による劣化によってアップコンバージョン機能が低下し、第2情報の確認が困難となるという問題があった。
このような紫外線劣化を防止する方法としては、紫外線保護膜を形成することも考えられるが、このような保護膜を形成した場合であっても、長期間の使用によって保護膜自体が剥がれてしまい、アップコンバージョン機能の低下を充分に防ぐことができないという問題があった。
【0008】
更に、アップコンバージョン機能を有する無機微粒子は耐水性が低く、赤外線蛍光インクに用いた場合、環境中の水分によって無機微粒子が劣化して発光挙動が継時的に変化したり、被印刷物が水分に触れることで無機微粒子が溶出したり、アップコンバージョン機能が低下する等の問題があった。そのため、無機微粒子としては、疎水性の材料を用いた微粒子や疎水性の材料で表面処理された微粒子を用いられているが、このような微粒子を用いた赤外線蛍光インクは溶媒として非極性のものしか用いることができず、被印刷物の種類により印刷できなくなったり、印刷不良が生じたりするという問題があった。
【0009】
本発明は、紫外線による劣化を抑制することができるとともに、耐湿性にも優れ、長期間にわたって安定した波長変換機能を発揮することが可能なランタノイド含有無機材料微粒子を提供することを目的とする。また、本発明は、波長変換時の高い発光強度を長期間維持することができ、分散媒の極性に関わらず作製することが可能な波長変換インク、該波長変換インクを有する塗工物及び判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、長波長光から短波長光への波長変換機能を有するランタノイド含有無機材料微粒子であって、コア粒子、及び、シェル層を有し、前記コア粒子は、光吸収機能を有するランタノイドと光発光機能を有するランタノイドとを含有し、前記シェル層は、バンドギャップが3.0〜4.5eVである金属酸化物を含有するランタノイド含有無機材料微粒子である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、コア粒子の外側にバンドギャップが所定の範囲内である金属酸化物を含有するシェル層を形成することによって、紫外線による劣化の抑制できるとともに、耐湿性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のランタノイド含有無機材料微粒子は、光吸収機能を有するランタノイドと光発光機能を有するランタノイドとを含有するコア粒子を有する。
上記光吸収機能を有するランタノイドと上記光発光機能を有するランタノイドとを有することにより、赤外線等の長波長の光を吸収するとともに、吸収した光のエネルギーを可視光や紫外線等の短波長の光へと変換する「アップコンバージョン機能」を発揮させることができる。
【0013】
上記コア粒子を構成する光吸収機能を有するランタノイドとしては、赤外線等の長波長の光を吸収することができるランタノイドであれば特に限定されないが、例えば、イッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)等が挙げられる。特に、近赤外線の光を吸収させる光として用いる際には10000cm−1付近に強い吸収を有することから、イッテルビウムが好ましい。これらのランタノイドは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0014】
上記コア粒子を構成する光発光機能を有するランタノイドとしては、光吸収機能を有するランタノイドからのエネルギーにより励起されて発光することが可能なランタノイドであれば特に限定されないが、例えば、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)等が挙げられる。特に、その得られる波長が可視光域や紫外光域であるエルビウム、ホルミウム及びツリウムが好ましい。これらのランタノイドは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0015】
上記コア粒子を構成する上記光吸収機能を有するランタノイドと上記光発光機能を有するランタノイドとの組み合わせは特に限定されない。10000cm−1付近に強い吸収を有するイッテルビウムと、イッテルビウムからのエネルギー移動を受けて発光し、その得られる光の波長が可視光域や紫外光域であるエルビウム、ホルミウム又はツリウムとの組み合わせが赤外線等の長波長の光を吸収し可視光や紫外線等の短波長の光へと変換する際に好ましい。
【0016】
上記コア粒子は、上記光吸収機能を有するランタノイド及び上記光発光機能を有するランタノイドを含有するものであれば特に限定されないが、例えば、上記光吸収機能を有するランタノイド及び上記光発光機能を有するランタノイドの酸化物、ハロゲン化物等を含有するものが挙げられる。上記ハロゲン化物としては、フッ化物が好ましい。
【0017】
また、上記コア粒子は、上記光吸収機能を有するランタノイド及び上記光発光機能を有するランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素又はその化合物を含有することが好ましい。上記光吸収機能を有するランタノイド及び上記光発光機能を有するランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素としては、上記ランタノイド以外の希土類元素が挙げられ、その化合物としては上記ランタノイド以外の希土類元素の酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。上記ハロゲン化物としては、フッ化物が好ましく、アルカリ金属及び希土類元素を含むフッ化物、又は、酸素、アルカリ金属及び希土類元素を含むフッ化物が好ましい。
上記ランタノイド以外の希土類元素としては、例えば、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、スカンジウム(Sc)等が挙げられる。上記ランタノイド以外の希土類元素の化合物としては、例えば、イットリウム、ガドリニウム及びスカンジウムの酸化物又はハロゲン化物等が挙げられる。
なかでも、ランタノイド間のエネルギー移動に関して高い効率が期待でき、発光効率の向上が期待できることから、上記コア粒子には、イットリウム、イットリウムの酸化物又はイットリウムのハロゲン化物を含むことが好ましい。イットリウムの酸化物としてはYが好ましく、イットリウムのハロゲン化物としては、NaYFが好ましい。
【0018】
上記コア粒子は、上記光吸収機能を有するランタノイド及び上記光発光機能を有するランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の化合物として、Y又はNaYFを含有することが好ましい。また、上記光吸収機能を有するランタノイドとしてイッテルビウム、上記光発光機能を有するランタノイドとしてエルビウム、ホルミウム及びツリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有することが好ましい。
【0019】
上記コア粒子における上記光吸収機能を有するランタノイドの含有量は、上記コア粒子に含まれるランタノイドと上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素との合計に対し、好ましい下限が2モル%、より好ましい下限が2.5モル%、好ましい上限が50モル%、より好ましい上限が25モル%である。上記光吸収機能を有するランタノイドの含有量が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、コア粒子に到達した光のエネルギーを効率よく吸収することができる。
上記コア粒子を構成するランタノイドの含有量は、例えば、蛍光X線分析装置(島津製作所社製、EDX−800HS)を用いて測定することができる。
【0020】
上記コア粒子における上記光発光機能を有するランタノイドの含有量は、上記コア粒子に含まれるランタノイドと上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素との合計に対し、好ましい下限が0.005モル%、より好ましい下限が0.01モル%、好ましい上限が20モル%、より好ましい上限が10モル%である。上記光発光機能を有するランタノイドの含有量が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、吸収したエネルギーを受けて、効率よく発光機能を発揮させることができる。
【0021】
上記コア粒子を構成する上記光吸収機能を有するランタノイド及び上記光発光機能を有するランタノイドとの合計含有量は、上記コア粒子に含まれるランタノイドと上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素との合計に対し、好ましい下限が2モル%、好ましい上限が50モル%である。また、より好ましい下限が2.5モル%、より好ましい上限が25モル%である。上記コア粒子を構成するランタノイドの含有量の合計が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、上記コア粒子におけるランタノイドが、ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素によって構成される結晶構造を崩すことなく置換及びドープできる。そのため、ランタノイド含有無機材料微粒子内におけるエネルギー移動の効率を損なうことなく保持することができる。
【0022】
上記コア粒子において、上記光吸収機能を有するランタノイドの含有量と上記光発光機能を有するランタノイドの含有量との比率(光吸収機能を有するランタノイドの含有量/光発光機能を有するランタノイドの含有量)は、モル比で好ましい下限が2、より好ましい下限が5、好ましい上限が100、より好ましい上限が75である。
上記比率が好ましい下限以上、且つ、好ましい上限以下であることにより、光吸収機能を有するランタノイドにより吸収されたエネルギーを過不足なく均一に光発光機能を有するランタノイドに移動できるため、得られる波長変換機能の効率を高くすることができる。
【0023】
上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の含有量は、上記コア粒子に含まれる希土類元素の合計に対し、好ましい下限が5モル%、より好ましい下限が10モル%、好ましい上限が98モル%、より好ましい上限が80モル%である。上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の含有量が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、上記ランタノイドをドープするホスト材料として結晶構造の規則配列構造を形成でき、ランタノイド含有無機材料微粒子内におけるエネルギー移動の効率を高くすることができ、発光効率が向上する。
上記コア粒子を構成するランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の含有量は、例えば、蛍光X線分析装置(島津製作所社製、EDX−800HS)を用いて測定することができる。
【0024】
上記コア粒子の平均粒子径は、好ましい下限が5nm、より好ましい下限が7.5nm、好ましい上限が250nm、より好ましい上限が200nmである。上記コア粒子の平均粒子径が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、例えば他の材料(透明性バインダー)と複合化して用いる場合に分散性と光学的な透過性とを両立することができる。上記コア粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡を用いてコア粒子の粒子径を測定することにより求めることができる。
【0025】
本発明のランタノイド含有無機材料微粒子は、更に、シェル層を有する。上記シェル層を有することにより、上記コア粒子の紫外線による劣化を抑制することができ、また、耐湿性をも向上させることができる。
【0026】
上記シェル層は、金属酸化物を含有する。上記シェル層が金属酸化物を含有することで、得られるランタノイド含有無機材料微粒子は、極性溶媒及び非極性溶媒のどちらにも分散しやすく、また、シランカップリング剤等の分散剤との反応性を高めることができ、得られる波長変化インクの印刷性を向上させることができる。
上記金属酸化物は、バンドギャップの下限が3.0eV、上限が4.5eVである。
上記金属酸化物のバンドギャップが上記下限以上、且つ、上記上限以下であると、得られるシェル層の紫外線透過率を低下させることができるとともに、可視光や赤外線の透過率を充分に高いものとすることができ、コア粒子の劣化の抑制と高い発光強度を両立させることができる。
【0027】
上記金属酸化物としては、例えば、酸化チタン(バンドギャップ:3.2eV)、酸化亜鉛(バンドギャップ:3.37eV)、酸化セリウム(バンドギャップ:3.1eV)、等が挙げられる。
【0028】
また、本発明のランタノイド含有無機材料微粒子において、上記シェル層に含まれる上記金属酸化物の含有量は、好ましい下限が25モル%、好ましい上限が100モル%である。上記シェル層における上記金属酸化物の含有量が、上記好ましい下限以上であることにより、シェル層での紫外線透過を充分に抑制することができる。
【0029】
上記シェル層の厚みは、好ましい下限が2nm、好ましい上限が20nmである。上記シェル層の厚みが、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、赤外線等の長波長の光が光吸収機能を有するコア粒子に到達することを阻害することがなく、また発光時のロスを少なくすることができる。また、紫外線の透過を充分に抑制して、コア粒子の波長変換機能の低下を抑制することができる。上記シェル層の厚みは、より好ましい下限が2.5nm、より好ましい上限が10nmである。なお、上記シェル層の厚みは、電子顕微鏡を用いて上記コア粒子の表面に上記シェル層が形成された微粒子の粒子径を測定し上記コア粒子の平均粒子径との差を算出することにより測定することができる。
【0030】
上記コア粒子の平均粒子径と上記シェル層の厚みとの比(上記コア粒子の平均粒子径/上記シェル層の厚み)は、好ましい下限が2、より好ましい下限が2.5、好ましい上限が50、より好ましい上限が25である。上記厚みとの比が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、コア粒子への光の到達を阻害せずエネルギーのロスを少なくすることができる。また、発光時のエネルギーのロスをより少なくすることができる。更に、紫外線の透過を抑制して、コア粒子の波長変換機能の低下を充分に抑制することができる。
【0031】
本発明のランタノイド含有無機材料微粒子の平均粒子径は、好ましい下限が10nm、より好ましい下限が15nm、好ましい上限が300nm、より好ましい上限が200nmである。上記コア粒子の平均粒子径が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、例えば他の材料(透明性バインダー)と複合化して用いる場合に分散性と光学的な透過性とを両立することができる。上記ランタノイド含有無機材料微粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡を用いてランタノイド含有無機材料微粒子の粒子径を測定することにより求めることができる。
【0032】
本発明のランタノイド含有無機材料微粒子を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、光吸収機能を有するランタノイドと光発光機能を有するランタノイドとを含有するコア粒子を作製した後、更に、コア粒子の表面にシェル層を形成する方法等が考えられる。
【0033】
上記光吸収機能を有するランタノイドと光発光機能を有するランタノイドとを含有するコア粒子を作製する方法としては、特に限定されない。例えば、光吸収機能を有するランタノイドを含有する金属塩、光発光機能を有するランタノイドを含有する金属塩、ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素を含有する金属塩、アルカリ溶液、及び、フッ化物溶液を有機化合物からなる溶媒中に溶解して金属イオン含有溶液を調製する。更に、得られた金属イオン含有溶液を高温で加熱することによってフッ化物からなるコア粒子を析出させる方法が挙げられる。
【0034】
上記光吸収機能を有するランタノイドを含有する金属塩及び光発光機能を有するランタノイドを含有する金属塩としては、例えば、ランタノイドの硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩等の酸素酸塩等が挙げられる。また、ランタノイドの酢酸塩等のカルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩等の有機酸塩、ランタノイドの塩化物等が挙げられる。なかでも、酢酸塩等のカルボン酸塩が好ましい。
【0035】
上記金属イオン含有溶液に用いられる溶媒としては、例えば、脂肪酸、有機リン化合物、有機硫黄化合物、アミン化合物からなる群より選ばれる有機化合物のうち少なくとも2種の有機化合物を含む混合溶媒であることが好ましい。上記混合溶媒を用いることにより、無機材料微粒子表面に強固に配位することで、得られるコア粒子の表面における酸化等による汚染を効果的に抑制することができる。
上記混合溶媒は、更に、オクタデセン等の希釈を目的とした有機溶媒を含有することが好ましい。
【0036】
上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素を含有する金属塩としては、上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩等の酸素酸塩、酢酸塩等のカルボン酸塩等が挙げられる。また、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩等の有機酸塩、塩化物等が挙げられる。なかでも、酢酸塩等のカルボン酸塩が好ましい。
【0037】
上記アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、フッ化アンモニウム等を含むものが挙げられる。
また、上記アルカリ溶液の添加量は、上記金属イオン含有溶液の種類、濃度によって適宜選択することができる。
【0038】
上記フッ化物溶液としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム等を含むものが挙げられる。また、上記フッ化物溶液の添加量は、上記金属イオン含有溶液の種類、濃度によって適宜選択することができる。
【0039】
上記コア粒子に、更に上記シェル層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、分散媒に界面活性剤とコア粒子を加えて得られた溶液に、アルカリ水溶液、金属アルコキシド等の金属酸化物前駆体等を加えてコア粒子の表面に金属酸化物を含有するシェル層を形成する方法を用いることができる。
【0040】
上記分散媒としては、シクロヘキサン、ベンゼンなどの炭化水素、ヘキサノールなどの直鎖アルコール、アセトンなどのケトン類が挙げられる。
【0041】
上記界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(5)ノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル系界面活性剤等が挙げられる。また、ポリオキシエチレン(7)セチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等のポリオキシエチレンソルビタン系界面活性剤等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、ジ−2−エチレンヘキシルスルフォ琥珀酸ナトリウム等が挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロライドやセチルトリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0042】
上記アルカリ水溶液としては、アンモニア水等が挙げられる。
【0043】
上記金属アルコキシドとしては、上記金属酸化物の担体となるものであればよく、チタン、亜鉛、セリウム、等のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等が挙げられる。
具体的には、チタンテトライソプロポキシド、亜鉛ジプロポキシド、セリウムトリイソプロポキシド等が挙げられる。
【0044】
本発明のランタノイド含有無機材料微粒子は、例えば、バイオマーカー等の医療用途や、色素増感太陽電池等の太陽電池、セキュリティインク等の波長変換インクに用いることができる。
本発明のランタノイド含有無機材料微粒子を含有する波長変換インクもまた、本発明の1つである。
【0045】
本発明の波長変換インクは、本発明のランタノイド含有無機材料微粒子及び溶媒を含有する。
本発明の波長変換インクは、本発明のランタノイド含有無機材料微粒子を含有することにより、被印刷物に印刷した際に、長波長光を照射されることで読み取り可能な強い発光強度を長期間維持することができる。また、本発明の波長変換インクを印刷した塗工物が水に濡れた際にも、波長変換インクが水を弾くため、ランタノイド含有無機材料微粒子が溶出したり、インクが塗工された部分が崩壊したりすることを抑制して、印刷パターンを良好な状態に保持することができる。
【0046】
本発明の波長変換インクにおける上記ランタノイド含有無機材料微粒子の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は75重量%である。
【0047】
上記溶媒としては、ランタノイド含有無機材料微粒子が分散しやすければ特に制限されないが、例えば、エタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、トルエン、へキサン、シクロヘキサン、ヘプタン 、シクロヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、トリメチルペンタン、ベンゼン、キシレン等があげられる。
【0048】
本発明の波長変換インクにおける上記溶媒の含有量の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は99.99重量%である。
【0049】
本発明の波長変換インクは、更に、バインダー、分散剤、粘度調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の波長変換インクの用途は特に限定されない。可視光に対して透明であり、赤外線等の長波長の光を照射されることによって発光する第2情報を被印刷物に付与でき、また、波長変換インクを構成するランタノイド含有無機材料微粒子の組成によって発光スペクトルを調整可能であることから、偽造防止を目的としたセキュリティインクとして特に有用である。
【0051】
本発明の波長変換インクを製造する方法は特に限定されず、例えば、上記ランタノイド含有無機材料微粒子、及び、必要に応じて配合されるバインダー等の添加剤を、超音波分散機等を用いて上記溶媒に分散及び溶解させてインクとする方法等が挙げられる。
【0052】
本発明の波長変換インクを基材に塗工することで、可視光に対しては透明であり、赤外線等の長波長の光によって発光するパターンを印刷することができる。
本発明の波長変換インクが印刷された塗工物もまた本発明の1つである。
【0053】
本発明の塗工物は、本発明の波長変換インクと基材とを有する。
上記基材としては、特に限定されないが、パルプ、コットン、及び、その他植物繊維を使用した紙等や、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスティックフィルム等が挙げられる。
【0054】
上記基材上に本発明の波長変換インクを印刷する方法は特に限定されず、従来公知の印刷方法を用いることができる。
【0055】
本発明の塗工物に印刷された波長変換インクの印刷パターンは、赤外線を照射することによって確認することができる。本発明の波長変換インクは、波長変換機能を有するため、赤外線を照射することにより、可視光を発して印刷パターンを視認することが可能となる。また、本発明の塗工物に印刷された波長変換インクの発光スペクトルと印刷パターンを判定することにより、基材上に印刷された情報の真正性を詳細に分析することができる。
本発明の塗工物に印刷された波長変換インクの発光スペクトルと印刷パターンを判定する判定装置もまた本発明の1つである。
【0056】
本発明の判定装置は、本発明の塗工物に赤外線を照射する照射手段と、赤外線の照射によって生じる発光スペクトル及び波長変換インクの印刷パターンを検出する検出手段とを有する。
【0057】
本発明の判定装置を構成する照射手段としては、本発明の波長変換インクに含まれるランタノイド含有無機材料微粒子を発光させることが可能な赤外線を照射できるものであれば特に限定されず、従来公知の赤外線照射装置を用いることができる。
【0058】
本発明の判定装置を構成する検出手段としては、本発明の波長変換インクに含まれるランタノイド含有無機材料微粒子が発する発光スペクトル、色座標等を検出する機能及び波長変換インクの印刷パターンを検出する機能を有していればよい。
上記検出手段としては、発光パターンの検出及び印刷パターンの検出を行う装置を単独で用いてもよく、発光スペクトルを検出する装置と印刷パターンを検出する装置とを組み合わせて用いてもよい。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、紫外線による劣化を抑制することができるとともに、耐湿性にも優れ、長期間にわたって安定した波長変換機能を発揮することが可能なランタノイド含有無機材料微粒子を提供することができる。また、本発明によれば、波長変換時の高い発光強度を長期間維持することができ、分散媒の極性に関わらず作製することが可能な波長変換インク、該波長変換インクを有する塗工物及び判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】実施例1で得られたランタノイド含有無機材料微粒子を撮影した電子顕微鏡写真である。
図2】発光強度の測定において、実施例1で得られたランタノイド含有無機材料微粒子の980nm入射光に対する劣化試験前の蛍光発光ピーク(実線)及び劣化試験後の蛍光発光ピーク(破線)を示すグラフである。
図3】発光強度の測定において、比較例1で得られたランタノイド含有無機材料微粒子の980nm入射光に対する劣化試験前の蛍光発光ピーク(実線)及び劣化試験後の蛍光発光ピーク(破線)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
(コア粒子の作製)
オレイン酸11.13g、トリオクチルホスフィン10.39g、オクタデセン46.03gの混合溶媒中に酢酸イットリウム0.40g、酢酸イッテルビウム0.13g、酢酸エルビウム0.013gを溶解することで金属イオン含有溶液を作製した。また、メタノール15g中に水酸化ナトリウム0.15g、フッ化アンモニウム0.39gを溶解し得られた溶液を、作製後すぐに金属イオン含有溶液に投入することによって反応前駆体溶液を作製した。
真空下において50℃で15分間撹拌しながら加熱することによって反応前駆体溶液からメタノールを揮発除去し、その後、窒素雰囲気下において更に317℃で90分間撹拌しながら加熱することによって溶液中に微粒子を析出させた。
更に、室温まで冷却後、エタノール25gを加え微粒子を沈降させ、遠心分離機を用いて微粒子を回収した。回収した微粒子をトルエン25g中に再分散させた後、再度エタノール25gを加えて再凝集させ、遠心分離器による回収を行う洗浄を数回繰り返すことでコア粒子を得た。
得られたコア粒子に含まれる光吸収機能を有するランタノイド、光発光機能を有するランタノイド及びランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の含有量を蛍光X線分析装置(島津製作所社製、EDX−800HS)を用いて測定した。
【0063】
(シェル層の作製)
得られたコア粒子0.125gと非イオン性界面活性剤としてIGEPAL:CO−520(ポリオキシエチレン(5)ノニルフェニルエーテル)0.3gをシクロヘキサン10g中で混合した。次いで、10%アンモニア水0.01g、チタンテトライソプロポキシド0.05gを順に加え、1日攪拌して、コア粒子表面に二酸化チタンからなるシェル層が形成されたランタノイド含有無機材料微粒子を得た。
【0064】
(実施例2)
(シェル層の作製)において、チタンテトライソプロポキシドに代えて、亜鉛ジイソプロポキシドを用いて酸化亜鉛からなるシェル層を形成した以外は実施例1と同様にしてランタノイド含有無機材料微粒子を得た。
【0065】
(実施例3)
(シェル層の作製)において、チタンテトライソプロポキシドに代えて、セリウムテトライソプロポキシドを用いて酸化セリウムからなるシェル層を形成した以外は実施例1と同様にしてランタノイド含有無機材料微粒子を得た。
【0066】
(比較例1)
シェル層を形成しなかった以外は実施例1と同様にしてランタノイド含有無機材料微粒子を得た。
【0067】
(比較例2)
(シェル層の作製)において、チタンテトライソプロポキシドに代えて、テトラエトキシシランを用いて二酸化ケイ素からなるシェル層を形成した以外は実施例1と同様にしてランタノイド含有無機材料微粒子を得た。
【0068】
(評価)
実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(1)シェル層の光学特性評価
チタンテトライソプロポキシド0.05gとエタノール9.95gとを混合した溶液を作製し、得られた溶液を石英ガラス基板上にスピンコーターを用いて塗工し、その後大気中にて1時間放置することで二酸化チタンからなる薄膜(膜厚:250nmとなるように塗工回数を調整)が形成された光学測定用ガラス基板を作製した。得られた光学測定用ガラス基板の透過率スペクトルを測定することにより、実施例1のシェル層の光学特性を評価した。なお、透過率スペクトルは、分光光度計(島津製作所社製、UV−2700)を用いて波長365nmの紫外線、波長550nmの可視光、波長1000nmの赤外線を照射した際の透過率を算出することにより測定した。
また、チタンテトライソプロポキシドに代えて、亜鉛ジプロポキシド、セリウムテトライソプロポキシド、テトラエトキシシランを用いて光学測定用ガラス基板を作製し、同様にして、実施例2、3及び比較例2のシェル層の光学特性を評価した。
【0070】
(2)平均粒子径及びシェル層の膜厚の測定
各実施例、比較例について、得られたコア粒子及びランタノイド含有無機材料微粒子を、それぞれ透過型電子顕微鏡を用いて観察し、得られた像における粒子300個の粒子径の平均を算出することにより、それぞれの粒子の平均粒子径を測定した。また、シェル層を形成前のコア粒子の平均粒子径とシェル層形成後のランタノイド含有無機材料微粒子の平均粒子径の差を求めることにより、シェル層の膜厚を測定した。
なお、実施例1において得られたランタノイド含有無機材料微粒子の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0071】
(3)発光強度の測定
各実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子に外部光源として赤外線発生装置(THORLABS社製、L980P300J)を用いて波長980nm、出力300mWの条件で赤外光を照射し、得られた蛍光発光のスペクトルを蛍光分光光度計(日立ハイテク社製、U−2700)を用いて測定した。なお、比較例1におけるスペクトルの最大強度を1.00として、各実施例及び比較例の蛍光発光のスペクトルの最大強度の相対値を算出して、発光強度を評価した。
なお、実施例1及び比較例1において得られたランタノイド含有無機材料微粒子の980nm入射光に対する蛍光発光ピークを示すグラフを図2及び図3に示す。
【0072】
(4)紫外線耐候性評価
各実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子に紫外線ランプ(朝日分光株式会社製、REX−250)を照射したまま1000時間放置して劣化試験を行った。劣化試験後のランタノイド含有無機材料微粒子の発光強度を(3)発光強度の測定と同様にして測定し、劣化試験前の発光強度を100%として発光強度保持率を算出することにより紫外線耐候性を評価した。
【0073】
(5)耐湿性
各実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子を85℃、85%RHの環境下に500時間暴露して高温高湿試験を行った。高温高湿試験後の発光強度を(3)発光強度の測定と同様にして測定し、高温高湿試験前の発光強度を100%として発光強度保持率を算出することにより耐湿性を評価した。
【0074】
(6)インク分散性評価
各実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子1gをトルエン99g中に添加して、超音波分散機(エスエムテー社製、UH−600)を用いて波長変換インクを作製した。
また、各実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子1gをメチルエチルケトン99g中に添加して、同様にして波長変換インクを作製した。
得られた波長変換インクを30日間静置し、以下の基準で分散性を評価した。
〇:沈降がなく、分散状態を維持していた。
×:沈降しており、堆積層が確認された。
【0075】
(7)塗工物均一性評価
各実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子0.5g、トルエン40g、ポリジメチルシロキサン9.5gを混合し、波長変換インクを作製した。得られた波長変換インクをガラス基板上に乾燥後の厚みが100μmとなるように塗布し、乾燥により溶媒を除去して塗工物を作製した。
また各実施例及び比較例で得られたランタノイド含有無機材料微粒子0.5g、トルエン20g、メチルエチルケトン20g、ポリジメチルシロキサン9.5gを混合し、同様に波長変換インクを作製した。この波長変換インクをガラス基板上に乾燥後の厚みが100μmとなるように塗布し、乾燥により溶媒を除去して塗工物を作製した。
得られた塗工物について、レーザー顕微鏡(オリンパス社製、LEXTOLS4100)を用いて表面粗さを測定し、得られた表面粗さから塗工物の均一性を以下の基準で評価した。
◎:表面粗さ(Sa)が15μm以下であった。
〇:表面粗さ(Sa)が15μmを超え、25μm以下であった。
×:表面粗さ(Sa)が25μmを超えていた。
【0076】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、紫外線による劣化を抑制することができるとともに、耐湿性にも優れ、長期間にわたって安定した波長変換機能を発揮することが可能なランタノイド含有無機材料微粒子を提供することができる。また、本発明によれば、波長変換時の高い発光強度を長期間維持することができ、分散媒の極性に関わらず作製することが可能な波長変換インク、該波長変換インクを有する塗工物及び判定装置を提供することができる。
図1
図2
図3