特許第6908524号(P6908524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6908524建築物に区画貫通孔を形成するためのスリーブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908524
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】建築物に区画貫通孔を形成するためのスリーブ
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20210715BHJP
   F16L 5/00 20060101ALI20210715BHJP
   F16L 5/04 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   E04B1/94 F
   F16L5/00 Q
   F16L5/04
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-537343(P2017-537343)
(86)(22)【出願日】2017年6月14日
(86)【国際出願番号】JP2017022011
(87)【国際公開番号】WO2017217472
(87)【国際公開日】20171221
【審査請求日】2020年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-120443(P2016-120443)
(32)【優先日】2016年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-78972(P2017-78972)
(32)【優先日】2017年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀康
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(72)【発明者】
【氏名】五十里 要一
【審査官】 柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−274643(JP,A)
【文献】 特開2012−057320(JP,A)
【文献】 特開2004−027554(JP,A)
【文献】 特表2005−522303(JP,A)
【文献】 特開2010−065806(JP,A)
【文献】 実公平05−027756(JP,Y2)
【文献】 特開平09−105226(JP,A)
【文献】 実公昭61−007424(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
F16L 5/00
F16L 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に区画貫通孔を形成するためのスリーブであって、
本体部と、本体部と連続する拡径部を備えた第1スリーブと、
前記第1スリーブの拡径部と嵌合可能な熱膨張性の本体部を有する第2スリーブとを備え、
前記第1スリーブの本体部が非膨張性であり、
前記第1スリーブの拡径部の内周面と、前記第2スリーブの本体部の外周面とが接するように第1スリーブと第2スリーブを嵌合した状態で、第2スリーブの本体部の少なくとも一部が露出している、スリーブ。
【請求項2】
第1スリーブの本体部の膨張倍率と第2スリーブの本体部の膨張倍率の比が、
0≦(第1スリーブの本体部の膨張倍率/第2スリーブの本体部の膨張倍率)<1
である、請求項1に記載のスリーブ。
【請求項3】
第1スリーブと第2スリーブを嵌合した状態で、0<(第2スリーブの外周面の露出面積/第1スリーブの外周面の露出面積)×100≦100である、請求項1又は2のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項4】
10≦(第2スリーブの本体部の体積)/(第1スリーブの体積と第2のスリーブの体積の和)×100≦80である、請求項1〜のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項5】
第2スリーブの本体部の外径が第1スリーブの本体部の内径以上であり、請求項1〜のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項6】
(i)第1スリーブの本体部の内径が第2スリーブの本体部の内径よりも小さい、
(ii)第1スリーブの本体部の内径が第2スリーブの本体部の内径と等しい、
(iii)第1スリーブの本体部の内径が第2スリーブの本体部の内径よりも大きく、かつ第2スリーブの本体部の内径と第1スリーブの本体部の内径の差が第1スリーブの本体部の内径の8%以下である、
の(i)〜(iii)のいずれかの関係を満たす請求項1〜のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項7】
第1スリーブと第2スリーブの嵌合部を形成する第1スリーブ又は第2スリーブの端部と、該第1スリーブ又は第2スリーブの端部とスリーブの軸方向に沿って対面する第2スリーブ又は第1スリーブの面との間の隙間Lが
0<L≦(第1スリーブ長/2)
である、請求項1〜のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項8】
第1スリーブ及び/又は第2スリーブの本体部の外周面の一端に、1又は複数の取り付け部を備えた環状部材が設けられている、請求項1〜のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項9】
第1スリーブ及び/又は第2スリーブの本体部の端部から離間した位置に、本体部から突出する環状突起が設けられている、請求項1〜のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項10】
第1スリーブ又は第2スリーブに嵌合される第3スリーブをさらに備える請求項1〜のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項11】
区画貫通構造であって、
床又は壁体と、
床又は壁体に設置された請求項1〜10のいずれか一項に記載のスリーブと、
を備えた区画貫通構造。
【請求項12】
前記スリーブ内に配置された配管又は配線をさらに備える請求項11に記載の区画貫通構造。
【請求項13】
耐火充填構造であって、
請求項1〜10のいずれか一項に記載のスリーブと、
前記スリーブ内に配置された配管又は配線と、
第1スリーブに装着された固定枠と、
を備えた耐火充填構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に区画貫通孔を形成するためのスリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の各階のコンクリート打設床において、配管及び/又は配線を階上から階下又はその逆に通すためには区画貫通構造を形成する必要がある。具体的には、配管及び/又は配線を通すための区画貫通孔をコンクリート等の床又は壁体に形成するが、従来、例えば特許文献1に記載されているように、コンクリート打設前にボイド又はスリーブと呼ばれる管を床下地に設置垂直に立てて固定し、スリーブの周囲にコンクリートを流し込んでコンクリート床を造り、養生し、スリーブの内部に区画形成される開口部を区画貫通孔とし、配管及び/又は配線を通していた。そして、スリーブは一般的に樹脂、紙又は金属で出来ているため、火災時には配管及び/又は配線を通じて火が区画から隣接する区画へ伝播する。区画貫通構造に耐火性を与えるためには配管及び/又は配線後に貫通孔へ耐火材を別途設置し耐火構造を形成する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-257281
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配線及び/又は配管後に耐火材を別途設置しなくとも、建築物の区画貫通構造が耐火性を有していれば有益である。
【0005】
また、スリーブに耐火性を付与するために、スリーブの一部を熱膨張性の耐火樹脂材料から形成することが考えられるが、熱膨張性の耐火樹脂材料の部分を多くすると燃焼残渣のコンクリートとの密着性が向上するが外部衝撃に対して変形しやすくなり、熱膨張性の耐火樹脂材料の部分を少なくすると燃焼残渣のコンクリートとの密着性が低下してより多くの燃焼残渣が落下するが、外部衝撃に対してはより強くなる。
【0006】
本発明の目的は、建築物に区画貫通孔を形成するための、耐火性に優れたスリーブを提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、外部衝撃に対する強度と建築物に対する燃焼残渣の密着性とを備えた、建築物に区画貫通孔を形成するためのスリーブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、第1スリーブと、熱膨張性の本体部を有する第2スリーブとを組み合わせてスリーブを構成することで、区画貫通構造に耐火性を付与し、さらに外部衝撃に対する強度と建築物に対する密着性とを兼ね備えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば以下の態様が提供される。
[項1]建築物に区画貫通孔を形成するためのスリーブであって、本体部と、本体部と連続する拡径部又は縮径部とを備えた第1スリーブと、前記第1スリーブと嵌合可能な熱膨張性の本体部を有する中空の第2スリーブとを備え、第1スリーブと第2スリーブを嵌合した状態で、第2スリーブの本体部の少なくとも一部が露出している、スリーブ。
[項2]第1スリーブの本体部の膨張倍率と第2スリーブの本体部の膨張倍率の比が、0≦(第1スリーブの本体部の膨張倍率/第2スリーブの本体部の膨張倍率)<1 である
、項1に記載のスリーブ。
[項3]第1スリーブの本体部が非膨張性である項1又は2に記載のスリーブ。
[項4]第1スリーブと第2スリーブを嵌合した状態で、0<(第2スリーブの外周面の露出面積/第1スリーブの外周面の露出面積)×100≦100である、項1〜3のいずれかに記載のスリーブ。
[項5]10≦(第2スリーブの本体部の体積)/(第1スリーブの体積と第2のスリーブの体積の和)×100≦80である、項1〜4のいずれかに記載のスリーブ。
[項6]第2スリーブの本体部の外径が第1スリーブの本体部の内径以上であり、項1〜5のいずれか一項に記載のスリーブ。
[項7](i)第1スリーブの本体部の内径が第2スリーブの本体部の内径よりも小さい、(ii)第1スリーブの本体部の内径が第2スリーブの本体部の内径と等しい、または(iii)第1スリーブの本体部の内径が第2スリーブの本体部の内径よりも大きく、かつ第2スリーブの本体部の内径と第1スリーブの本体部の内径の差が第1スリーブの本体部の内径の8%以下である、の(i)〜(iii)のいずれかの関係を満たす項1〜6のいずれか一項に記載のスリーブ。
【0009】
[項8]第1スリーブと第2スリーブを嵌合した状態で、第1スリーブと第2スリーブの嵌合部を形成する第1スリーブ又は第2スリーブの端部と、該第1スリーブ又は第2スリーブの端部とスリーブの軸方向に沿って対面する第2スリーブ又は第1スリーブの面との間の隙間Lが
0<L≦(第1スリーブ長/2)
である、項1〜7のいずれか一項に記載のスリーブ。
[項9]第1スリーブと第2スリーブの嵌合部において、第1スリーブ及び第2スリーブの対面する周面が接触する、項1〜8のいずれか一項に記載のスリーブ。
[項10]第1スリーブ及び/又は第2スリーブの本体部の外周面の一端に、1又は複数の取り付け部を備えた環状部材が設けられている、請求項1〜9のいずれか一項に記載のスリーブ。
第1スリーブ及び/又は第2スリーブの本体部の一端に環状部材が設けられている、項1〜9のいずれか一項に記載のスリーブ。
[項11]第1スリーブ及び/又は第2スリーブの本体部の端部から離間した位置に、本体部から突出する環状突起が設けられている、項1〜9のいずれか一項に記載のスリーブ。
[項12]第1スリーブ又は第2スリーブに嵌合される第3スリーブをさらに備える項1〜11のいずれか一項に記載のスリーブ。
[項13]区画貫通構造であって、
床又は壁体と、
床又は壁体に設置された項1〜12のいずれか一項に記載のスリーブと、
を備えた区画貫通構造。
[項14]前記スリーブ内に配置された配管又は配線をさらに備える項13に記載の区画貫通構造。
[項15]耐火充填構造であって、
項1〜12のいずれか一項に記載のスリーブと、
前記スリーブ内に配置された配管又は配線と、
第1スリーブに装着された固定枠と、
を備えた耐火充填構造。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スリーブを設置すると同時に区画貫通構造に耐火性を付与することができ、区画貫通構造の施工を容易にすることができる。さらには、本発明のスリーブは、外部衝撃に対する強度と建築物の床又は壁体に対する密着性とを備えることができ、耐火性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態のスリーブの分解略斜視図。
図2】(A)第1スリーブの上面図、(B)側断面図、(C)底面図。
図3】(A)第2スリーブの上面図、(B)側断面図、(C)底面図。
図4】第2スリーブを第1スリーブに嵌合した状態の略側面図。
図5】(A)〜(D)図1のスリーブを用いた本発明の区画貫通構造の施工方法の略断面図。
図6】別例のスリーブの略断面図。
図7】別例のスリーブの略断面図。
図8】(A)、(B)第3スリーブを示す略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、スリーブに具現化した本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1には、ボイドとも称される、本発明の第一実施形態の建築物の床又は壁に区画貫通孔を形成するためのスリーブ1が示されている。具体的には、スリーブ1はコンクリートの打設前に配置される。スリーブ1は、第1スリーブ10と、第2スリーブ20とを備えている。なお明細書において、「建築物」には一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設等の建材;客船、輸送船、連絡船等の船舶;車両;等の構造物が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
図1及び図2(B)に示すように、第1スリーブ10は、中空略円筒形の本体部11と、本体部11と段差部15を介して連続する中空略円筒形の拡径部16とを備えている。本実施形態では、本体部11、段差部15、及び拡径部16は同じ非熱膨張性の材料から連続的に形成されており、第1スリーブ10は上端12から下端18まで連続している。非熱膨張性材料としては、鋼、銅、ステンレス等の金属であってもよいし、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル等の非熱膨張性の耐火樹脂材料であってもよい。
【0015】
図1及び図3(B)に示すように、第2スリーブ20は、第1スリーブ10の拡径部16内に嵌合可能な熱膨張性の中空略円筒形の本体部21と、本体部21の周囲に装着された環状部材26及び環状突部28とを備え、環状部材26は、環状部材26に取り付けられた1つ又は複数の取付部27を第2スリーブ20に装着するために、本体部21の外周面の一端(図では下端23)に装着され、該一端(図では下端23)から突出する。環状突部28は本体部21の外周面の一端(下端23)から離間した位置に設けられ、本体部21の外周面から突出し、第2スリーブ20の第1スリーブ10への嵌入を停止する停止部材として機能する。
【0016】
本体部21は熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されている。耐火樹脂材料は、樹脂成分に熱膨張性層状無機物とを含む樹脂組成物である。本体部21を含む第2スリーブ20の耐火樹脂材料からなる部材は、樹脂組成物の各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練し、公知の成形方法で成形することにより得ることができる。
【0017】
樹脂成分としては、公知の樹脂成分を広く使用でき、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0019】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
【0020】
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0021】
これらの合成樹脂及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0022】
これらの合成樹脂及び/又はゴム物質の中でも、耐寒性、耐熱性、耐油性等の特性を柔軟に調整できる性質を有しているものが好ましい。より柔軟特性で扱い易い樹脂組成物を得るためには、塩ビ系樹脂に可塑剤を加えたものが好適に用いられる。代わりに、樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
【0023】
熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものである。かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、ADT社製「ADT−351」「ADT−501」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
【0024】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を10〜350重量部の範囲で含むことが好ましい。
【0025】
熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、さらに無機充填剤を含んでもよい。無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。また、無機充填剤としては、これらの他に、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いることができるし、2種以上を併用することもできる。
【0026】
無機充填剤のうち、水酸化アルミニウムの具体例としては、粒径18μmの「ハイジライトH−31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)、炭酸カルシウムでは、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
【0027】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、無機充填剤を30〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。
【0028】
また、前記熱膨張性層状無機物及び前記無機充填剤の合計は、樹脂成分100重量部に対し、50〜600重量部の範囲が好ましい。
【0029】
さらに、熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含んでもよい。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、及び、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
【0030】
【化1】
【0031】
化学式(1)中、R1及びR3は、水素、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の
直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0032】
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
【0033】
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n−プロピルホスホン酸、n−ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0034】
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に燃焼残渣を形成することもでき、安定した耐火性能を達成することができる。
【0035】
さらに前記樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0036】
熱膨張性の耐火樹脂材料は市販品として入手可能であり、例えば、住友スリーエム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトとを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック等の熱膨張性耐火材等も挙げられる。
【0037】
前記熱膨張性耐火材は、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されない。50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍以上であると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。
【0038】
環状部材26及び環状突部28は本体部21と同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されてもよいし、鋼等の金属、硬質塩化ビニル等の非熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されてもよい。環状部材26及び環状突部28は好ましくは金属より形成される。環状部材26は環状部材26から第2スリーブ20の軸に対し垂直外方に延びる1つ又は複数の取付部27(図では4つ)を備えている。取付部27はそれぞれスリーブ1の軸2に関して約90°離間した4つの取付部で示され、各取付部27は床下地3に対して第2スリーブ20を固定するための孔27aを有する。通常有底矩形の型枠4は、コンクリート5(図5(B)参照)を収容するためのものであり、型枠4内にはコンクリート5の補強用の鉄筋Rが収容される。コンクリート5及び鉄筋Rは床下地3を構成し、床下地3は床を構成する。
【0039】
孔27aには第2スリーブ20を型枠4、鉄筋R、又はコンクリート5等に固定するために針金等の金属線、ボルト、ビス、釘等の固定用部材を通すことができ、例えば固定用部材である金属線の両端を鉄筋Rに結び付けたり、ボルト、ビス、釘等を孔27aに通してその周囲にコンクリート5を流し込むことにより、第2スリーブ20が鉄筋Rに対して固定される。
【0040】
図4に示すように、第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合した状態において、第1スリーブ10と第2スリーブ20はスリーブ1の軸9の方向(及び第1スリーブ10と第2スリーブ20の軸方向)に沿って整列される。第1スリーブ10の本体部11の内周面14と第2スリーブ20の本体部21の外周面24が嵌合した状態で接している。また、第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合した状態において、第2スリーブ20の本体部21の外周面の一部が露出している。本実施形態では、第1スリーブ10の拡径部16の一部と第2スリーブ20の一部が、第1スリーブ10と第2スリーブ20とが互いに重なり合うオーバーラップ部42を構成する。
【0041】
第2スリーブ20の本体部21を熱膨張性の耐火樹脂材料から形成することにより、第2スリーブ20とコンクリートの密着性が向上し、第2スリーブ20の燃焼残渣のコンクリートとの密着性が向上し、断熱層が崩壊しにくくなる。また、熱膨張性の耐火樹脂材料の出代が多いとスリーブ1が外部衝撃に対して変形しやすくなるが、第1スリーブ10を金属等の非熱膨張性材料で形成することにより、外部衝撃に対する強度を増大させることができる。また膨張材使用量を必要最小限に抑えることができ、適正な価格で貫通スリーブを提供できる。このように、非熱膨張性の第1スリーブ10と、熱膨張性の本体部を有する第2スリーブ20とを組み合わせてスリーブ1を構成することで、区画貫通構造に耐火性を付与し、さらには外部衝撃に対する強度とコンクリートに対する密着性とを兼ね備え、適正な価格で提供することができる。
【0042】
好ましくは、スリーブ1は、第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合した状態で、
0<(第2スリーブ20の外周面24の露出面積/第1スリーブ10の外周面13の露出面積)×100≦100 ・・・ 式(1)
を満たす。「露出」とは第1スリーブ10の軸に対して垂直な側面から観察したときに見える状態にあることを指し、打設した際にコンクリートと接する部分を意味する。図4において、第1スリーブ10の露出部はXの長さに及ぶ外周面13の部分、第2スリーブ20の露出部はYの長さに及ぶ外周面24の部分となる。
【0043】
式(1)を満たすことで、第1スリーブ10の外周面13の露出面積が第2スリーブ20の外周面24の露出面積よりも大きいため、外部衝撃(物理的、化学的)に対する耐性が強くなるという効果を奏する。
【0044】
また好ましくは、スリーブ1は、
10≦(第2スリーブの本体部の体積V2)/(第1スリーブの体積と第2のスリーブ
の体積の和V1)×100(%) ≦80 ・・・ 式(2)
(第2スリーブの本体部の体積)/(第1スリーブの体積と第2のスリーブの体積の和)×100(%)が10以上であると耐火性能が十分となる。(第2スリーブの本体部の体積)/(第1スリーブの体積と第2のスリーブの体積の和)×100(%)が80以下であると、スリーブの価格が抑えられ。また、火災時の過剰な膨張による、蓋部材30や環状部材26の押し上げといった耐火構造の破壊が防止される。
【0045】
また、第1スリーブ10の本体部11の内径A(図2(B))は、(i)第2スリーブ20の本体部21の内径B(図3(B))よりも小さい、(ii)第2スリーブ20の本体部21の内径Bと等しい、または(iii)第2スリーブ20の本体部21の内径Bよりも大きく、かつ内径Bと内径Aの差が内径Aの8%以下である、の(i)〜(iii)のいずれかの関係を満たす。この構成により、第2スリーブ20の第1スリーブ10内への移動(図4にて上方向への移動)は段差部15の周面、すなわち内周面15aにて規制される。内周面15aは、第1スリーブ10の内周面に、第1スリーブ1の軸9に対して略垂直に第2スリーブ2の本体部20よりも内方に突出するように設けられている。また、第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合した状態で第2スリーブ20が加熱により膨張したとき、第2スリーブ20の本体部21の上端22が膨張して段差部15の内周面15aに接することにより第2スリーブ20の上方向への膨張が規制される。その結果、第2スリーブ20の露出部における第2スリーブ20の軸方向に対して垂直な方向、特に軸方向に対して垂直かつ第2スリーブ20の内方への膨張が促進され、区画貫通孔7をより効果的に閉塞することができる。
【0046】
本実施形態では、第2スリーブ20が第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合すると、第1スリーブ10の下端が第2スリーブ20の環状突部28に接した位置で第2スリーブ20の第1スリーブ10への嵌入は停止する。第2スリーブ20が第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合した状態では、第1スリーブ10と第2スリーブ20の嵌合部を形成する第2スリーブ20の端部である上端22と、第2スリーブ20の上端22とスリーブ1の軸方向に沿って対面する第1スリーブ10の段差部15の内周面15aとの間の隙間Lが
0<L≦(第1スリーブ長/2) ・・・ 式(3)
である。Lが大きいと、スリーブ2が床上の方向に膨張し、上方への膨張が阻害されるが、上記式(3)を満たすと、第2スリーブ20の膨張による区画貫通孔7の閉塞効果がより量項に発揮される。
【0047】
また、第2スリーブ20の本体部21の外径C(図3(B))は第1スリーブ10の本体部11の内径Aと等しいか又は内径Aよりも大きい。この構成により、第2スリーブ20の第1スリーブ10内への移動(図4にて上方向への移動)は段差部15にてより確実に規制される。第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合した状態で第2スリーブ20が加熱により膨張したとき、第2スリーブ20の上端22が膨張して段差部15に当接することにより第2スリーブ20の上方向への膨張が規制される。その結果、第2スリーブ20の露出部における第2スリーブ20の軸方向に対して垂直な方向、特に軸方向に対して垂直かつ第2スリーブ20の内方への膨張が促進され、区画貫通孔7をより効果的に閉塞することができる。
【0048】
好ましくは、第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌合した状態で、第1スリーブ10及び第2スリーブ20の対面する周面である第1スリーブ10の拡径部16の内周面19と第2スリーブ20の本体部21の外周面24とが接触する。好ましくは、第1スリーブ10の拡径部16の内周面19と第2スリーブ20の本体部21の外周面24とは内周面19及び外周面24の周方向全周で接触する。この構成により、火災時の第1スリーブ10と第2スリーブ20の密着性が高められ、第1スリーブ10と第2スリーブ20の間の火の侵入が抑制され、耐火性が向上する。
【0049】
また、第1スリーブ10の拡径部16の内周面19もしくは第2スリーブ20の本体部21の外周面24の少なくとも一方に環状突部28を形成しておくとより好ましい。その結果、第1スリーブ10の拡径部16の内周面19と第2スリーブ20の本体部21の外周面24の接触抵抗が上がり、第1スリーブ10の脱落防止につながる。
【0050】
スリーブ1の内周面、つまり第1スリーブ10の本体部11の内周面14と第2スリーブ20の内周面25が開口部6(図4参照)を形成し、区画貫通孔7(図5(B)参照)として作用する。開口部6の大きさは配管又は配線8の外径よりも大きく、配管又は配線8を挿通できる寸法である。配管には、水道管、冷媒管、熱媒管、ガス管、吸排気管等の各種配管が含まれる。配線には、電力用ケーブル、通信用ケーブル等の各種ケーブルが含まれる。
【0051】
図1,2(A),2(B)に示すように、第1スリーブ10の上端12には、複数の配管又は配線8の周囲を覆い、かつ区画貫通孔7を塞ぐように、任意選択で蓋部材30を装着してもよい。蓋部材30には配管又は配線8を挿通するための孔31が設けられている。蓋部材30は第1スリーブ10と配管又は配線8との間のクリアランスを埋める固定枠の役割を果たす。好ましくは蓋部材30は、蓋部材30の孔31に配管又は配線8を通した状態で第1スリーブ10に装着した場合に、上記クリアランスの10〜100%を埋める。蓋部材30は金属から形成されてもよいし、非耐火性又は耐火性の樹脂組成物の成形体であってもよい。例えば、蓋部材30は可塑剤を含むか又は含まない塩化ビニル樹脂か、又はゴム等の樹脂組成物から形成されてもよいし、弾性を有するブチルゴム等の樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成されてもよい。美観を与えるために着色されていてもよい。また蓋部材30には、美観を与えるようにコーティング等の仕上層、着色がさらに施されてもよい。
【0052】
次に、図5(A)〜(D)を参照しながら、スリーブ1を用いた区画貫通構造の施工方法について説明する。
【0053】
図5(A)に示すように、スリーブ1を床下地3に固定する。スリーブ1の床下地3への固定は、例えばボルト29を第2スリーブ20の下端23の取付部27の孔27aを通って床下地3の中までねじ込むことによりなされる。型枠4の底部のスリーブ1に対応する位置には、配管又は配線8(図5(C)参照)を挿通するための穴を空けておく。次に、図5(B)に示すように、コンクリート5を床下地3へ流し込む。この図ではコンクリート5の厚みすなわち高さHは、第1スリーブ10の上端12から第2スリーブ20の下端23までの距離に等しい。このようにして、スリーブ1の内側の開口部6を残し、スリーブ1の外側周囲にコンクリート5が打設され、区画貫通構造40が完成する。スリーブ10の開口部6は区画貫通孔7として作用する。
【0054】
次に、図5(C)に示すように、コンクリート5を貫通するように、区画貫通孔7を通って1又は複数の配管又は配線8を施す。ここで、任意選択で、スリーブ1の上端12に、複数の配管又は配線8の周囲を覆い、かつ区画貫通孔7を塞ぐように、蓋部材30を装着してもよい。蓋部材30は区画貫通孔7のより多くの隙間を塞いでいることが好ましい。蓋部材30が、配管又は配線8の外周面に接し、かつスリーブ10と配管又は配線8との間の隙間の間を閉塞しているため、区画貫通構造40に耐火性をさらに付与する。また、図5(C)の区画貫通構造40を上から見たときに、蓋部材30がスリーブ1の上をカバーして配管又は配線8の周囲でスリーブ1と配管又は配線8との間の隙間を塞いでいるため、目隠しの役割を果たし、区画貫通孔7の中が見えず、視覚的にも美観が保たれる。
【0055】
次に、図5(C)において、区画貫通構造40の階下において矢印の方向から火災が発生した場合、図5(D)に示すように、第2スリーブ20が火災の熱により膨張し、コンクリート5と配管又は配線8との間の隙間を埋め、火の進路を塞ぐ。このようにして、スリーブ1は、コンクリート5の打設を容易にするのみならず、耐火性を発揮し、区画貫通構造40に耐火性を付与する。このように、スリーブ1の設置と同時に耐火材が設置されていることを確認できる。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定されず、以下のように変更可能である。
【0057】
第1スリーブ10は拡径部16を備える代わりに、図6に示すように、縮径部33を備えてもよい。この場合、第2スリーブ20内に第1スリーブ10の縮径部33が嵌合され、第1スリーブを第2スリーブに嵌合した状態で、第1スリーブの本体部の一部が露出する。この場合、本体部11は段差部34を介して縮径部33と連続し、第2スリーブ20の第1スリーブ10内への移動(図6にて上方向への移動)は段差部34の周面、つまり外周面34aにて規制される。この場合も、好ましくは第1スリーブの段差部34の外周面34aと第2スリーブの本体部の上端との間の隙間Lは、0<L≦(第1スリーブ長/2)である。本実施形態では、第1スリーブ10の縮径部33の一部と第2スリーブ20の一部が、第1スリーブ10と第2スリーブ20とが互いに重なり合うオーバーラップ部42を構成する。
【0058】
第1スリーブ10は、拡径部16又は縮径部33を備える代わりに、図7に示すように、第1スリーブ10は拡径部16又は縮径部33を備えなくてもよい。この例では、第1スリーブ10が全長にわたって径が一定の本体部11から成り、第1スリーブ10の内部に第2スリーブ20が嵌入されている。 本実施形態では、第1スリーブ10の一部と第2スリーブ20の一部が、第1スリーブ10と第2スリーブ20とが互いに重なり合うオーバーラップ部42を構成する。
【0059】
第1スリーブ10の内周面14と第2スリーブ20の外周面24の一部が互いに接触して固定され、好ましくは、第1スリーブと第2スリーブを嵌合した状態で、0<(第2スリーブの外周面の露出面積/第1スリーブの外周面の露出面積)×100≦100を満たす。また、好ましくは、10≦(第2スリーブの本体部の体積)/(第1スリーブの体積と第2のスリーブの体積の和)×100≦80を満たす。
【0060】
なお、図7の実施形態において、第1スリーブ10の内周面14と第2スリーブ20の外周面24の一部が互いに接触して固定されない場合には、第2スリーブ20の第1スリーブ10内への移動を規制するために、第1スリーブ10の内周面14に、第1スリーブ10の軸9に対して略垂直に第2スリーブ20の本体部21よりも内方に突出する内周面44を設けてもよい。この場合、第1スリーブ10と第2スリーブ20を嵌合した状態で、第1スリーブ10の上記内方に突出する内周面44と第2スリーブ20の本体部21の上端22との間の隙間Lが、0<L≦(第1スリーブ長/2)であることが好ましい。
【0061】
スリーブ1は、第1スリーブ10と第2スリーブ20に加えて、第1スリーブ10及び/又は第2スリーブ20に嵌合される、本体部37を備えた環状の(特には略円筒形)第3スリーブ36を備えていてもよい。図8(A)に示すように、第3スリーブ36は第1スリーブ10の上に嵌合されてもよいし、図8(B)に示すように、第2スリーブ20の下に嵌合されてもよい。第3スリーブ36の構成は第1スリーブ10又は第2スリーブ20と同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第3スリーブ36は、第1スリーブ10及び/又は第2スリーブ20に内嵌されてもよいし、外嵌されてもよい。
【0062】
環状突部28が第1スリーブ10に設けられてもよい。
【0063】
環状突部28が省略されてもよい。この場合も、第1スリーブ10の本体部11の内径Aが第2スリーブ20の本体部21の内径Bより小さいか、内径Bと等しいか、または内径Bよりも大きくても内径Bと内径Aの差が内径Aの8%以下とすれば、第2スリーブ20を第1スリーブ10に嵌入すると、第2スリーブ20の上端22が第1スリーブ10の段差部15の内周面15aに当接し、第2スリーブ20の第1スリーブ10内への移動は規制される。
【0064】
第1スリーブ10の本体部11、段差部15、及び拡径部16のうちの少なくとも一つは、熱膨張性の材料から形成されてもよい。特に、第1スリーブ10の本体部11は、第2スリーブ20の本体部21よりも加熱時の膨張倍率が低い材料から形成されてもよい。つまり、第1スリーブの本体部11と第2スリーブ20の本体部21膨張倍率の比が、
0≦(第1スリーブの膨張倍率/第2スリーブの膨張倍率)<1 ・・・ 式(4)である。
【0065】
上記の実施形態では、第2スリーブ20が第1スリーブ10の内側に嵌合されているが、第2スリーブ20が第1スリーブ10の外側に嵌合されてもよい。
【0066】
スリーブ1及び蓋部材30以外にも、耐火性を向上させるために、本発明の区画貫通構造には、任意の公知の耐火性充填材、耐火性樹脂組成物、耐火性シート、又は耐火性金属板等をさらに用いてもよい。
【0067】
上記実施形態では、図5(B)でコンクリート5を打設する時にスリーブ1の高さと同程度までコンクリート5を流し込んでいるが、スリーブ1の上端部が視認できるように、スリーブ1の高さが床厚よりも高くなる第1スリーブ10を使用してもよい。コンクリート5がスリーブ1の高さよりも低い高さになってもよい。
【0068】
上記実施形態では、区画貫通孔7の断面が円形である場合を想定し、スリーブ1ならびに蓋部材30が断面略円形である実施形態を示しているが、スリーブ1の形状は区画貫通孔7の形状に適合させればよく、区画貫通孔7が断面略楕円形の場合、スリーブ1及び蓋部材30は、断面略楕円形としてもよいし、区画貫通孔7が断面略矩形の場合、スリーブ1及び蓋部材30は断面矩形となるよう形成してもよい。
【0069】
耐火性能をはじめ、遮音性、漏水等実用耐久性に問題がないことが確認できれば、蓋部材30は省略することができる。また、蓋部材として蓋部材30以外の蓋部材、カバー部材、又はキャップを用いてもよい。
【0070】
上記実施形態では、スリーブ10を床上から施工する例を説明したが、本発明のスリーブ10は床下から施工することも可能である。
【0071】
本発明のスリーブは、床(相対的にコンクリート打設の床材となる階下の床のみならず、天井床も含む)や、側壁などの壁体に限定されず、任意の建築物の構成部材に適用可能である。
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0073】
以下に図面を参照しつつ実施例により本発明を詳細に説明する。なお本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0074】
実施例1〜5、比較例1〜2
第1スリーブとしてのリングカバーの主材としてポリ塩化ビニル(PVC)樹脂を用いた。リングカバーに熱膨張性を持たせる場合は熱膨張性黒鉛として東ソー社製「GREP−EG」を用いた。又、第2スリーブとしての膨張スリーブ材の熱膨張性黒鉛としてADT社製「ADT351」を用いた。コンクリート型枠用合板又は配筋に、実施例1〜5、比較例1〜2で作製した貫通スリーブをビス又は針金を用いて固定した。コンクリートを型枠に流し込み、10日間乾燥させ600×1200mm×150mm厚の中心にスリーブを設置した試験体を準備した。
【0075】
なお、比較例1のスリーブは第2スリーブのみから構成されており、比較例2のスリーブでは第2スリーブの全体が第1スリーブに覆われた構成となっている。
【0076】
PVC100のVU管(外径114mm、厚み3.1mm、JIS規格K6741)をスリーブ内を通じて配管し、床下側に300mm、床上側500mmに出した。スリーブ直径におけるスリーブと貫通管のクリアランスは34mmであった。熱膨張性黒鉛のアスペクト比と、各配合物の組成とを表1に示した。表中、「−」は含有しないことを示す。また、表中のL(mm)は図4に示されたLに該当し、第1スリーブの下端が第2スリーブの本体部の上端よりも上側にある場合を+(プラス)、下側にある場合を−(マイナス)として表記した。
(成型性)
実施例1〜5及び比較例1〜2のいずれとも、170〜190℃で表面が美麗な長尺異型成形体を射出成形でき、リングカバーと膨張スリーブを組み合わせて、成型スリーブ(最低内径148mm、高さ150mm、厚み5mm)を得た。成形した後のスクリュー及び金型への配合物の付着もなく、成形性は良好であった。
(アスペクト比)
SEM 断面写真を用いて熱膨張性黒鉛の写真のスケール長さを測定し、換算してアスペクト比を算出した。
(膨張倍率)
得られた実施例1〜5及び比較例1〜2の熱膨張性の耐火性樹脂材料の成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、破断点応力を測定した。
(残渣の形状保持性)
上記残渣硬さは膨張後の残渣の硬さの指標になるが、測定が残渣の表面部分に限られるため、残渣全体の硬さの指標にならないことがあるので、残渣全体の硬さの指標として形状保持性を測定した。残渣の形状保持性は、膨張倍率を測定した試験片の両端部を手で持って持ち上げて、その際の残渣の崩れやすさを目視して測定した。試験片が崩れることなく持ち上げられた場合を合格(PASS)と評価し、試験片が崩壊して持ち上げられない場合を不合格(FAIL)と評価した。
【0077】
(耐火試験)
スリーブ本体と配管との間の各クリアランスが10mm以上となるように配管を位置調整を行い、ISO834の加熱曲線に沿って水平炉内で2時間加熱した。床上25mmの貫通パイプ温度が、初期温度+180℃未満且つ貫通して炎出がない場合を合格(PASS)と評価し、初期温度+180℃以上又は床上パイプが貫通して炎出する場合を不合格(FAIL)と評価した。
(残渣の密着性)
耐火試験前の第2スリーブの重量と、耐火試験後に貫通部に密着して残った第2スリーブ残渣の重量を測定した。耐火試験前に対する耐火試験後の第2スリーブ重量残存率を算出し、コンクリートとの密着性の尺度とした。
(耐衝撃性)
スリーブを−10℃の環境下に1週間置き、高さ3mの位置からコンクリートの床に自然落下させ、スリーブに変形及び損傷がないかどうか確認した。N3で評価を行った。目視で明らかな変形及び損傷がない場合を合格(PASS)と評価し、1度でも変形及び損傷がある場合を不合格(FAIL)と評価した。
【0078】
実施例1〜5、比較例1〜2の膨張倍率、残渣硬さ、及び残渣の形状保持性、耐火試験の測定結果は、表1及び表2に示す通りである。実施例1〜5では、熱膨張材が十分に膨張し、膨張残渣がしっかり保持され耐火試験はPASSであったが、比較例1〜2では残渣がしっかりとは保持されずFAILであった。比較例1〜2では膨張残渣によって断熱構造が形成されず、床上パイプの温度が上昇してパイプに穴があき、炎出した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
実施例6〜10
表3に示した配合の成分を含有する配合物を、実施例1〜5及び比較例1〜2に関して上記に記載したのと同様に射出成型機に供給し、170〜190℃で筒状の熱膨張成形体であるリングカバーと膨張スリーブを組み合わせて、成型スリーブを成形した。
【0082】
樹脂成分として、実施例6ではポリ塩化ビニル樹脂(重合度1000、「PVC」と言う)、実施例7ではエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(三井・デュポンポリケミカル製エバフレックスEV360、「EVA」と言う)、実施例8ではエチレン−プロピレン−ジエンゴム(三井化学社製三井EPT3092M、「EPDM」と言う)、実施例9ではビスフェノールF型エポキシモノマー(油化シェル社製「E807」)及びジアミン系硬化剤(油化シェル社製「EKFL052」)を3:2の配合量で、他配合原料と供に混練、加熱硬化することにより得られるエポキシ樹脂、実施例10ではオレフィン系熱可塑性エラストマー(三菱化学社製サーモラン3000、「TPO」と言う)を用いた。
【0083】
実施例6〜10のいずれとも170〜190℃で表面が美麗な長尺異型成形体を射出成形でき、リングカバーと膨張スリーブを組み合わせて、成型スリーブ(内径148mm、高さ150mm、厚み5mm)を得た。成形した後のスクリュー及び金型への配合物の付着もなく、成形性は良好であった。
【0084】
また、実施例6〜10の成形体のいずれとも、実施例1〜5と同様、比較的高い膨張倍率と高い残渣硬さが発現され、耐火性能がPASSであった。
【0085】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8