特許第6908722号(P6908722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908722
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】抗PD−1抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20210715BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20210715BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20210715BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210715BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20210715BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20210715BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210715BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210715BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20210715BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20210715BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   C12N15/13ZNA
   C07K16/28
   C12N15/62 Z
   C12N15/63 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C07K16/46
   A61K39/395 T
   A61K39/395 U
   A61P31/00
   A61P31/12
   A61P31/04
   A61P33/00
   A61P31/14
   A61P31/20
   A61P31/18
   A61P35/00
   A61P37/04
   A61P43/00 111
【請求項の数】18
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-555527(P2019-555527)
(86)(22)【出願日】2017年7月6日
(65)【公表番号】特表2020-504627(P2020-504627A)
(43)【公表日】2020年2月13日
(86)【国際出願番号】CN2017092026
(87)【国際公開番号】WO2018113258
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年6月27日
(31)【優先権主張番号】201611198440.8
(32)【優先日】2016年12月22日
(33)【優先権主張国】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519228566
【氏名又は名称】アンプソース・バイオファーマ・シャンハイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AMPSOURCE BIOPHARMA SHANGHAI INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】リ、キャン
(72)【発明者】
【氏名】ツェン、ユンチェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ル
(72)【発明者】
【氏名】マ、シンル
(72)【発明者】
【氏名】リ、ユアンリ
【審査官】 山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/014688(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0008369(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3配列を含む重鎖可変領域と、
CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3配列を含む軽鎖可変領域とを含む、PD−1に結合する単離モノクローナル抗体であって、
(i)重鎖可変領域は、SEQ ID NO:1で表されるCDR−H1配列と、SEQ ID NO:3で表されるCDR−H2配列と、SEQ ID NO:5で表されるCDR−H3配列と、を含み、
(II)軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:7で表されるCDR−L1配列と、SEQ ID NO:9で表されるCDR−L2配列と、SEQ ID NO:11で表されるCDR−L3配列と、を含む、PD−1に結合する単離モノクローナル抗体。
【請求項2】
前記抗体は、マウスまたはキメラであり、重鎖可変領域がマウスIgG1、IgG2、IgG3またはその変異体の重鎖FR領域を含み、軽鎖可変領域がマウスκ、λ鎖またはその変異体の軽鎖FR領域を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
重鎖可変領域がSEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:14のアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体は、ヒト型化である、ことを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
重鎖可変領域がSEQ ID NOs:17、19、21、23、25、27および29から選ばれるもので表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NOs:18、20、22、24、26、28および30から選ばれるもので表されるアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
(a)重鎖可変領域がSEQ ID NO:17で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:18で表されるアミノ酸配列を含み、又は
(b)重鎖可変領域がSEQ ID NO:19で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:20で表されるアミノ酸配列を含み、又は
(c)重鎖可変領域がSEQ ID NO:21で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:22で表されるアミノ酸配列を含み、又は
(d)重鎖可変領域がSEQ ID NO:23で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:24で表されるアミノ酸配列を含み、又は
(e)重鎖可変領域がSEQ ID NO:25で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:26で表されるアミノ酸配列を含み、又は
(f)重鎖可変領域がSEQ ID NO:27で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:28で表されるアミノ酸配列を含み、又は
(g)重鎖可変領域がSEQ ID NO:29で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:30で表されるアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体は、ヒトIgG4またはIgG1の重鎖定常領域とヒトκの軽鎖定常領域を含む全長抗体であり、或いは、FabまたはFab’2またはScFvだけを含む抗原結合断片である、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体は、グリコシル化修飾を含有する、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体は、1nMまたはより低いKDでPD−1に結合する、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体は、1pMまたはより低いKDでPD−1に結合する、ことを特徴とする請求項に記載の抗体。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体をコードする、DNA分子であって、
前記DNA分子は、前記抗体重鎖可変領域をコードする第1の核酸配列と、前記抗体軽鎖可変領域をコードする第2の核酸分子とを含み、
(a)重鎖可変領域DNA分子がSEQ ID NO:37で表され、軽鎖可変領域DNA分子がSEQ ID NO:38で表され、又は、
(b)重鎖可変領域DNA分子がSEQ ID NO:39で表され、軽鎖可変領域DNA分子がSEQ ID NO:40で表され、又は、
(c)重鎖可変領域DNA分子がSEQ ID NO:41で表され、軽鎖可変領域DNA分子がSEQ ID NO:42で表される、ことを特徴とする、DNA分子。
【請求項12】
請求項11に記載のDNA分子を含む、発現ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の発現ベクターにより形質転換された宿主細胞であって、CHO細胞である、宿主細胞。
【請求項14】
請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体を含む二重特異性分子であって、前記二重特異性分子は、VEGF、EGFR、Her2/neu、VEGF受容体または他の成長因子受容体、CD20、CD40、CTLA−4、OX−40、4−1−BBおよびICOSから選択される分子に対する抗体を含む、二重特異性分子。
【請求項15】
請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体を含む免疫抱合体であって、治療剤を更に含み、治療剤は、毒素、放射性同位体、医薬または細胞毒剤である、免疫抱合体。
【請求項16】
請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体および薬用可能賦形剤、ベクターまたは希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項17】
請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体を調製する方法であって、前記抗体の産生を許容する条件で、請求項13に記載の宿主細胞を培養し、産生した前記抗体を回収し単離することを含む、方法。
【請求項18】
疾患または病症は、PD−L1発現の高い癌又は感染性疾患であり、前記癌は、肺がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膀胱がん、大腸がん、乳がん、神経膠腫、腎臓がん、胃がん、食道がん、口腔扁平上皮がん、もしくは頭頸部がんを含み、前記感染性疾患は慢性ウイルス感染、細菌感染もしくは寄生虫感染疾患を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の抗体または請求項14に記載の二重特異性分子または請求項15に記載の免疫抱合体または請求項16に記載の医薬組成物の、PD−1媒介の疾患または病症を治療するための医薬の調製における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療性モノクローナル抗体の分野に属し、さらに具体的には、本発明は、プログラム死受容体(PD−1)に対する抗体に関し、さらに前記抗体が多種の疾患(癌、感染性疾患、および炎症性疾患を含む)を治療するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プログラム死受容体−1(Programmed Death−1、PD−1)は、CD28ファミリーメンバーで、活性化T細胞とB細胞表面で発現される免疫阻害性受容体(Yao Zhuら編、Nat Rev Drug Discov、2013;12(2):130−146)であり、初めてアポトーシスのT細胞ハイブリドーマ中にハイブリダイゼーション削減技術を用いて得るものである。PD−1は、主に、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK−T細胞、B細胞および活性化した単核細胞の表面で発現され、T細胞受容体(TCR)またはB細胞受容体(BCR)シグナルにより誘導発現される。TNFαは、PD−1のこれらの細胞表面での発現(Francisco LMら編、Immunol Rev、2010;236:219−242)を強化可能である。PD−1分子は、細胞外領域、膜貫通領域および細胞内領域からなる。細胞外領域は免疫グロブリン可変領域IgV構造ドメインを1つ含有し、細胞内領域は2つのチロシンに基づくシグナル転換モチーフITIM(免疫受容体チロシン抑制作用モチーフ)とITSM(免疫受容体チロシン転換作用モチーフ)を含有する。T細胞が活性化された後、PD−1は主にITSMモチーフによってチロシンホスホリパーゼSHP2を集合して、CD3ζ、PKCθおよびZAP70などを含む効果型分子の脱リン酸化を引き起こす。PD−1配位子には、PD−L1とPD−L2がある。PD−L1は、B7H1またはCD274と呼ばれ、PD−L2はB7DCまたはCD273とも呼ばれる。PD−L1とPD−L2は、異なる細胞群(Shimauchi、Kabashimaら編、Int J Cancer、2007;121(12):2585−2590)に発現される。そのうち、PD−L2発現は比較的に限られ、主に活性化したマクロファージ、樹状細胞および少数腫瘍細胞にある。PD−L1は、活性化したT細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞および腫瘍細胞に広く発現されながら、生体のある免疫遮蔽部位、例えば、胎盤、眼およびその上皮、筋肉、肝臓および血管内皮などの組織に発現される。
【0003】
PD−1は、配位子(Programmed Death−1 Ligands、PD−Ls)PD−L1及びPD−L2と相互作用し、細胞内のシグナル転換経路によってCD3とCD28媒介のT細胞の活性化および細胞因子の産生を著しく抑制することができるため、T細胞反応を調節する重要な免疫関門である。正常の場合、PD−1/PD−Lsシグナル経路は、外周組織の免疫耐性を誘導し維持することができ、組織の過度炎症反応の防止および自身免疫性疾患の発生に対して積極的な作用を有する(Latchman Yら編、Nat Immunol、2001;2:261−268)。病理の場合、PD−1は、配位子PD−L1、PD−L2と相互作用し、例えばIFN−γ、IL−2およびTNF−αの分泌およびサバイビンなどのT細胞の免疫刺激性細胞因子の発現を下げ、免疫阻害性細胞因子IL−10の分泌を促進することで、T細胞の免疫反応を抑制する(Hamidoら編、Expert Opin Biol Ther、2013;13(6):847−861)。研究によれば、PD−1は、抑制シグナルを協力して人類の多種の疾患の発生と密に関連し、疾患治療のターゲット分子とすることができることが表明されている(Okazaki Tら編、J Immunol.2007;19:813−824)。
【0004】
PD−1/PD−L1のシグナル経路が腫瘍の発展と密接に関係している。腫瘍患者の体内に、PD−L1高発現が腫瘍の転移能力を強化して患者の死亡率の向上を引き起こすと共に、患者の予後不良と関連する可能性がある。研究によれば、肺がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膀胱がん、大腸がん、乳がん、神経膠腫、腎臓がん、胃がん、食道がん、口腔扁平上皮がん、および頭頸部がんなどの人類の腫瘍組織においてPD−L1高発現タンパク質が検出されたことが表明されている。また、腫瘍細胞が多種の細胞因子の誘導下でPD−L1を高く発現するという現象は、腫瘍の免疫エスケープに関連する。それと同時に、腫瘍部位の浸潤性CD8+T細胞が腫瘍の微小環境にも影響され、PD−1発現も外周血液におけるT細胞よりも高く、それが腫瘍細胞表面PD−L1と作用し、T細胞の活性化および増殖を抑制する。腫瘍細胞は、この手段で細胞毒性Tリンパ細胞(cytotoxic lymphocyte、CTL)の殺傷作用を回避し、生体の抗腫瘍免疫応答を弱めることができる。遮断型抗PD−1モノクローナル抗体でPD−1/PD−L1のシグナルを遮断し、IFN−γ、IL−2、IL−10の分泌を上げることにより、CD4+およびCD8T細胞の増殖抑制を効果的に逆転させながら、T細胞の活性化程度と殺傷能力を著しく向上させることができる(Dong HDら編、Nat Med、2002;8:793−800)。
【0005】
多種の慢性および急性ウイルス感染もPD−1/PD−Lsのシグナルによってヒト体の免疫監視を回避する。生体外周ウイルス特異性CD4+、CD8+T細胞がPD−1を高く発現して機能不全または無力を招き、直ちに感染したウイルスを効果的に除去することができない(Narasimhan Jら編、J Virol、2008;376:140−153)。最近、大量の研究によれば、特異性モノクローナル抗体でPD−1/PD−Lsを遮断する抑制手段によってHIV、HBVおよびHCVなどのウイルス特異性CD4+、CD8+Tを効果的に活性化して増殖させ、IFN−γ、TNF−αおよび粒子酵素Bなどの殺傷因子を産生し、免疫細胞の特異性抗ウイルス機能を回復させることが表明されている(Barber DLら編、Nature、2006;439:682−687)。
【0006】
従って、特異性抗PD−1モノクローナル抗体を調製し、PD−1/PD−L1のシグナルを特異的に遮断して当該抑制手段の作用を閉鎖し、CTLの腫瘍細胞を殺傷する機能を強化し、腫瘍の形成および成長を効果的に抑制することができる。現在、2種類のPD−1阻害剤抗腫瘍抗体薬が発売され、それぞれPembrolizumab(商品名:Keytruda、メルク公司製)とNivolumab(商品名:Opdivo、小野製薬/ブリストル・マイヤーズスクイブ製)である。CureTech公司製のPidilizumabが第II相臨床研究段階にあり、MedImmune社製のAMP−224、AMP−514が第I相臨床研究段階にある。多種の抗PD−1、PD−L1およびCTLA4などの免疫関門としてのモノクローナル抗体が臨床に使用されたものの、これらの抗体が単薬として用いられる応答率が低く、平均15−20%だけである。そのため、新型の抗PD−1モノクローナル抗体は、より高い特異性、より低い毒副作用、及びより良い臨床効果を有し、癌または感染性患者に対してより多くの投薬選択を提供することができる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、PD−1分子に対して高い親和力を有する抗PD−1モノクローナル抗体を提供することを目的とする。
【0008】
1態様において、本発明は、
CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3配列を含む重鎖可変領域と、
CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3配列を含む軽鎖可変領域とを含む、PD−1に結合する単離モノクローナル抗体であって、
(i)重鎖可変領域がSEQ ID NOs:1および2で表されるCDR−H1配列と、SEQ ID NOs:3および4で表されるCDR−H2配列と、SEQ ID NOs:5および6で表されるCDR−H3配列と、を含み、
(II)軽鎖可変領域がSEQ ID NOs:7および8で表されるCDR−L1配列と、SEQ ID NOs:9および10で表されるCDR−L2配列と、SEQ ID NOs:11および12で表されるCDR−L3配列と、を含む、PD−1に結合する単離モノクローナル抗体を提供する。
【0009】
本発明の好ましい実施例において、前記抗体の重鎖可変領域がSEQ ID NO:1で表されるCDR−H1配列と、SEQ ID NO:3で表されるCDR−H2配列と、SEQ ID NO:5で表されるCDR−H3配列とを含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:7で表されるCDR−L1配列と、SEQ ID NO:9で表されるCDR−L2配列と、SEQ ID NO:11で表されるCDR−L3配列と、を含む。
【0010】
他の好ましい実施例において、前記抗体の重鎖可変領域がSEQ ID NO:2で表されるCDR−H1配列と、SEQ ID NO:4で表されるCDR−H2配列と、SEQ ID NO:6で表されるCDR−H3配列とを含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:8で表されるCDR−L1配列と、SEQ ID NO:10で表されるCDR−L2配列と、 SEQ ID NO:12で表されるCDR−L3配列とを含む。
【0011】
さらに、上記CDR配列を含む抗体は、マウス、キメラまたはヒト型化である。
【0012】
例えば、前記抗体はマウスまたはキメラである、その重鎖可変領域がマウスIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはその変異体の重鎖FR領域を更に含み、その軽鎖可変領域がマウスκ、λ鎖またはその変異体の軽鎖FR領域を含む。
【0013】
より好ましくは、上記マウスまたはキメラ抗体は、
(a)SEQ ID NO:15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、
(b)SEQ ID NO:16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0014】
例えば、本発明の好ましい実施例において、マウス抗体AB12N1とキメラ抗体AB12N2は、重鎖可変領域がSEQ ID NO:15で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:16で表されるアミノ酸配列を含む。
【0015】
さらに好ましくは、上記マウスまたはキメラ抗体は、
(a)SEQ ID NO:13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、
(b)SEQ ID NO:14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0016】
例えば、本発明の好ましい実施例においてマウス抗体AB12M1とキメラ抗体AB12M2は、重鎖可変領域がSEQ ID NO:13で表されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域がSEQ ID NO:14で表されるアミノ酸配列を含む。
【0017】
例えば、前記抗体はヒト型化である。ヒト型化抗体の生産方法は当業者にとって公知である。例えば、本発明に係るCDR配列をヒト型化抗体可変領域に転移することによって本発明に係るヒト型化抗PD−1抗体を調製することができる。前記ヒト型化抗体は、抗抗体反応(AAR)とヒト抗マウス抗体反応(HAMA)を生じず、抗抗体に中和されることにより快速に除去されない。
【0018】
本発明の好ましい実施例において、上記マウス抗体AB12M1に対してCDR移植(CDR−grafting)によってヒト型化改良を行う。より好ましくは、これによる前記ヒト型化抗体は、その重鎖可変領域がSEQ ID NOs:17、19、21、23、25、27および29から選ばれるもので表されるアミノ酸配列を含み、その軽鎖可変領域がSEQ ID NOs:18、20、22、24、26、28および30から選ばれるもので表されるアミノ酸配列を含む。更に好ましくは、これによる前記ヒト型化抗体AB12M3、AB12M4、AB12M5、AB12M6、AB12M7、AB12M8およびAB12M9は、その重鎖可変領域がそれぞれSEQ ID NO:17、19、21、23、25、27および29で表されるアミノ酸配列を含み、その軽鎖可変領域がそれぞれSEQ ID NO:18、20、22、24、26、28および30で表されるアミノ酸配列を含む。
【0019】
本発明の他の好ましい実施例において、上記マウス抗体AB12N1に対してCDR移植(CDR−grafting)によってヒト型化改良を行い。より好ましくは、これによる前記ヒト型化抗体は、その重鎖可変領域がSEQ ID NOs:31、33および35から選ばれるもので表されるアミノ酸配列を含み、その軽鎖可変領域がSEQ ID NOs:32、34および36から選ばれるもので表されるアミノ酸配列を含む。更に好ましくは、これによる前記ヒト型化抗体AB12N3、AB12N4およびAB12N5は、その重鎖可変領域がそれぞれSEQ ID NO:31、33および35で表されるアミノ酸配列を含み、その軽鎖可変領域がそれぞれSEQ ID NO:32、34および36で表されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
抗体の活性を実質的に影響しない前提で、当業者にとっては本発明に係る抗体の配列に対して1つまたは複数(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9または10または複数)のアミノ酸の置換、添加および/または欠失を行うことにより、前記抗体の配列の変異体を取得することができる。これらは、本発明の保護範囲に含まれると見なされる。例えば、可変領域において類似する性質を有するアミノ酸を置換する。本発明に係る変異体の配列は、その由来配列と少なくとも80%の同一性がある。更に好ましくは、本発明に係る変異体の配列は、その由来配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性がある。
【0021】
本発明の抗体は、全長抗体であってもよく、例えば、ある好ましい実施形態において、本発明のヒト抗PD−1抗体は、ヒトIgG4またはIgG1の重鎖定常領域およびヒトκの軽鎖定常領域を更に含み、或いは、前記抗体は、FabまたはFab’断片、または単鎖抗体ScFvなどの抗原結合断片だけを含んでもよい。
【0022】
上記いずれの実施例において、本発明に係る抗体は、約1nMまたはより低いKDでPD−1に結合することができる。より好ましい実施例において、前記抗体またはその抗原結合は、約100pMまたはより低いKDでPD−1に結合することができる。更に好ましい実施例において、前記抗体は約10pMまたはより低いKDでPD−1に結合することができる。最も好ましい実施例において前記抗体は約1pMまたはより低いKDでPD−1を結合することができる。
【0023】
本発明の他の態様において、上述した抗体をコードするDNA分子が提供されている。
【0024】
例えば、本発明の好ましいキメラ抗体AB12M2の重鎖可変領域をコードするDNA分子は、SEQ ID NO:37で表され、軽鎖可変領域をコードするDNA分子はSEQ ID NO:38で表される。
【0025】
また、例えば、本発明の好ましいヒト型化抗体AB12M3の重鎖可変領域をコードするDNA分子はSEQ ID NO:39で表され、軽鎖可変領域配列をコードするDNA分子はSEQ ID NO:40で表される。
【0026】
更に例えば、本発明の別の好ましいヒト型化抗体AB12M4の重鎖可変領域をコードするDNA分子はSEQ ID NO:41で表され、軽鎖可変領域をコードするDNA分子はSEQ ID NO:42で表される。
【0027】
本発明の他の態様において、上述したDNA分子を含む発現ベクターが提供されている。
【0028】
本発明の他の態様において、上述した発現ベクターにより形質転換される宿主細胞が提供されている。宿主細胞は、CHO細胞であることが好ましい。
【0029】
本発明の他の態様において、治療剤と抱合した本発明に係る抗体を含む免疫抱合体が提供されている。前記治療剤は、毒素、放射性同位体、医薬または細胞毒剤であることが好ましい。
【0030】
本発明の他の態様において、本発明に係る抗体のいずれか1種を含む二重特異性分子がさらに提供されている。例えば、上記PD−1抗体を、他の1種の抗原結合特性を有する抗体または抗体断片と機能的に連結して二重特異性抗体を構成してもよい。例えば、前記二重特異性抗体は、VEGF、EGFR、Her2/neu、VEGF受容体または他の成長因子受容体、CD20、CD40、CTLA−4、OX−40、4−IBBおよびICOSという分子に対する抗体を含んだがそれに限定されない。
【0031】
本発明の他の態様において、本発明に係る抗体および薬用可能賦形剤、ベクターまたは希釈剤を含む医薬組成物が更に提供されている。
【0032】
本発明のもう1態様において、本発明に係る抗体を調製する方法であって、(a)前記抗体の生産を許容する条件で、本発明に係る上記宿主細胞を培養することと、(b)調製した前記抗体を回収し単離することと、を含む方法が更に提供されている。
【0033】
本発明のさらなる1態様において、さらに、本発明に係るPD−1に結合する抗体、またはそれを含む医薬組成物、またはそれを含む免疫抱合体、またはそれを含む二重特異性分子のPD−1媒介の疾患または病症を治療するための医薬の調製における使用に関する。
【0034】
そのうち、前記疾患は癌であることが好ましく、PD−L1高発現の癌であることが更に好ましく、前記癌は、肺がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膀胱がん、大腸がん、乳がん、神経膠腫、腎臓がん、胃がん、食道がん、口腔扁平上皮がん、および頭頸部がんを含んだがそれに限定されず、乳がん、肺がん、胃がん、腸がん、腎臓がん、およびメラノーマであることが好ましく、非小細胞肺がん、メラノーマ、および腎臓がんであることが最も好ましい。
【0035】
そのうち、前記疾患は、例えば、慢性ウイルス感染、細菌感染または寄生虫感染疾患などの感染性疾患であることが好ましい。前記感染性疾患は、HIV、HBVおよびHCVであることが更に好ましい。
【0036】
好ましくは、癌または感染性疾患を治療する医薬の調製において、キメラ、ヒト型化の抗PD−1抗体を用いてもよく、より好ましくは、ヒト型化のものを用いる。
【0037】
そのうち、本発明に係る抗体は、単独で用いられてもよいし、他の治療剤または治療方法と組み合わせて用いられてもよい。例えば、抗腫瘍薬または免疫原(例えば、腫瘍抗原)、抗原提示細胞(例えば、腫瘍由来の抗原または核酸で刺激される樹状細胞)、免疫刺激細胞因子(例えばIL−2、IFNa2、GM−CSF)および免疫刺激細胞因子(例えば、GM−CSFに限らず)をコードする遺伝子でトランスフェクションした細胞、標準癌の治療(例えば、化学療法、放射線療法または手術)、または他の抗体(VEGF、EGFR、Her2/neu、VEGF受容体またはその成長因子受容体、CD20、CD40、CTLA−4、OX−40、4−IBBおよびICOSという分子に対する抗体を含んだがそれに限定されない)である。
【0038】
本発明により調製した抗PD−1ヒト型化抗体は、臨床で用いたKeytrudaとOpdivoに対してより高い結合親和力を有し、親和力定数KD値が1pM未満で、且つ極めて強い特異性を有する。体内の抗腫瘍研究データから、本発明に係るヒト型化抗体は、トランスジェニックマウス移植腫瘍の成長を著しく抑制し、ひいては一部のマウスの腫瘍が完全に消失することができる。また、本発明に係る抗体は、CHO細胞で発現され、産出量が高く、活性が高く、精製プロセスがシンプルであり、調製コストが低いという優勢がある。
詳細の説明
【0039】
省略形および定義
hPD−1 ヒトPD−1タンパク質
CDR Kabat番号システムで定義した免疫グロブリン可変領域における相補性決定領域
EC50 50%の効果または結合を発生させる濃度
ELISA 酵素結合免疫吸着測定
FR 抗体フレームワーク領域:CDR領域以外の免疫グロブリン可変領域
HRP 西洋ワサビペルオキシダーゼ
IL−2 インターロイキン2
IFN インターフェロン
IC50 50%阻害を発生させる濃度
IgG 免疫グロブリンG
Kabat Elvin A Kabatにより提唱する免疫グロブリン照合および番号システム
mAb モノクローナル抗体
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
V領域 異なる抗体間に配列可変のIgG鎖セグメント。軽鎖に延びる109番目のKabat残基および重鎖の113番目の残基。
VH 免疫グロブリン重鎖可変領域
VK 免疫グロブリンκ軽鎖可変領域
平衡解離定数
ka 結合速度定数
Kd 解離速度定数
【0040】
本発明で用いられる専門用語「抗体」は、全長抗体(例えば、IgG1またはIgG4抗体)、その各種の機能的な断片(例えば、Fab、F(ab’)2またはscFv断片などの抗原結合部分だけを含んでもよい)、及び修飾された抗体(例えば、ヒト型化、グリコシル化など)を含む。本発明は、グリコシル化修飾を有する抗PD−1抗体を更に含む。ある適用において、望ましくないグリコシル化サイトを除去するように修飾が行われ、例えば、オリゴ糖鎖においてフコース除去修飾を行って抗体の依存性細胞毒性(ADCC)機能を強化させる。他のある適用において、補体依存性細胞毒性(CDC)を変更するように、ガラクトシル化の修飾が行われてもよい。
【0041】
専門用語「モノクローナル抗体またはmAb」とは、単一のクローン細胞株から得られる抗体を指し、前記細胞株は、真核、原核またはファージのクローン細胞株に限定されない。モノクローナル抗体または抗原結合断片は、ハイブリドーマ技術、組換え技術、ファージ展示技術、合成技術(例えば、CDR−grafting)、または他の従来技術を用い組換えを行って得てもよい。
【0042】
「抗体断片」および「抗原結合断片」とは、抗体の抗原結合断片および抗体類似物を意味する。それは、通常、少なくとも一部の母体(parental antibody)の抗原結合領域または可変領域(例えば、1つまたは複数のCDR)を含む。抗体断片は、母体の少なくともある結合特異性を保有する。通常、モルに基づいて活性を示す場合、抗体断片は、少なくとも10%の母体結合活性を保有する。好ましくは、抗体断片は、少なくとも20%、50%、70%、80%5、90%、95%または100%またはより多くの母体のターゲットに対する結合親和力を保有する。抗体断片の実例は、Fab、Fab′、F(ab′)2およびFv断片、二重抗体、線形抗体(linear antibody)、単鎖抗体分子、例えばScFv、モノクローナル抗体(技術がGenmab由来である)、ナノメータ抗体(技術がDomantis由来である)、構造ドメイン抗体(技術がAblynx由来である)、並びに抗体断片から形成される多重特異性抗体を含んだがそれに限定されない。工程改良された抗体変異体については、Holligerなど、2005、Nat Biotechnol、23:1126−1136に総括的に述べられている。
【0043】
「Fab断片」は、1本の軽鎖と1本の重鎖のCH1、および可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、他の重鎖分子とジスルフィド結合を形成不可能である。
【0044】
「Fc」領域は、抗体のCH1およびCH2構造ドメインを含む2つの重鎖断片を含む。2つの重鎖断片は、2つまたは複数のジスルフィド結合でCH3構造ドメインの疎水作用によって一緒に保持される。
【0045】
「Fab′断片」は、1本の軽鎖と1本の重鎖のVH構造ドメイン、CH1構造ドメイン、ならびにCH1およびCH2構造ドメイン間の定常領域部分を含有するため、2つのFab′断片の2本の重鎖間で鎖間ジスルフィド結合を形成してF(ab′)2分子を形成することができる。
【0046】
「F(ab′)2断片」は、2本の軽鎖と2本の重鎖のVH構造ドメイン、CH1構造ドメイン、ならびにCH1およびCH2構造ドメイン間の定常領域部分を含有するため、2本の重鎖間で鎖間ジスルフィド結合を形成する。そのため、F(ab′)2断片は、2本の重鎖間のジスルフィド結合によって一緒に保持された2つのFab′断片からなる。
【0047】
「Fv領域」は、重鎖と軽鎖の両者からの可変領域を含んだが、定常領域を欠失する。
【0048】
「単鎖Fv抗体」(または「scFv抗体」)とは、抗体のVH和VL構造ドメインを含む抗体断片を指し、そのうち、これらの構造ドメインが単一のペプチド鎖に存在する。scFvについては、Pluckthun(1994) The Pharmacology of Monoclonal Antibodies (モノクローナル抗体薬理学)、第113巻、RosenburgとMoore編、Springer−Verlag、New York、第269−315頁をご参照ください。国際特許出願公開番号WO88/01649、米国特許第4946778号および第5260203号公報を更にご参照ください。
【0049】
「抗原結合断片」とは、重鎖可変領域または軽鎖可変領域鎖だけを含む免疫学機能を有する免疫グロブリン断片を指す。
【0050】
本文で用いられる専門用語「超可変領域」とは、抗原結合を担当する抗体アミノ酸残基を指す。超可変領域は、配列照合により定義される「相補性决定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基、例えば、軽鎖可変構造ドメインの24−34(L1)、50−56(L2)および89−97(L3)番目の残基、並びに重鎖可変構造ドメインの31−35(H1)、50−65(H2)および95−102(H3)番目の残基(Kabatなど、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest(免疫ターゲットのタンパク質配列)、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.を参照)、および/または構造により定義される「超可変リング」(HVL)からの残基、例えば、軽鎖可変構造ドメインの26−32(L1)、50−52(L2)および91−96(L3)番目の残基、並びに重鎖可変構造ドメインの26−32(H1)、53−55(H2)および96−101(H3)番目の残基(ChothiaおよびLeskl、1987、J.Mol.Biol.196:901−917を参照)などのアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」残基または「FR」残基は、本文に定義される超可変領域残基以外の可変構造ドメイン残基である。
【0051】
専門用語「キメラ抗体(Chimeric antibody)」とは、マウス抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域を融合した抗体であり、マウス抗体により誘導された免疫応答反応を軽減させることができる。キメラ抗体を構築することは、マウス特異性モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを選択した後、マウスハイブリドーマ細胞から可変領域遺伝子をクローンし、そして必要に応じてヒト抗体のヒト抗体的定常領域遺伝子をクローンし、マウス可変領域遺伝子とヒト定常領域遺伝子をキメラ遺伝子に連結した後にベクターに挿入し、最後に真核発現システムまたは原核発現システムにおいてキメラ抗体分子を発現する。本発明の好ましい実施態様において、前記PD−1キメラ抗体の抗体軽鎖可変領域は、マウスκ、λ鎖またはその変異体の軽鎖FR領域を更に含む。前記PD−1キメラ抗体の抗体重鎖可変領域は、マウスIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4またはその変異体の重鎖FR領域を更に含む。ヒト抗体の定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4またはその変異体の重鎖定常領域から選ばれてもよく、ヒトIgG2またはIgG4の重鎖定常領域を含み、或いはアミノ酸変異後のADCC(抗体が依存する細胞媒介の細胞毒作用)毒性がないIgG1を用いることが好ましい。
【0052】
専門用語「二重特異性分子」とは、本発明に係る抗PD−1抗体またはその抗原結合断片が誘導体化を行うか、或いは他の機能性分子、例えば、他の1種のペプチドまたはタンパク質(例えば、腫瘍関連抗原、細胞因子および細胞表面受容体)に連結して、少なくとも2種の異なる結合サイトまたはターゲット分子に結合する二重特異性分子を産生する。本発明に係る二重特異性分子を構築するために、本発明に係る抗体を、機能的(例えば、化学カップリング、遺伝子融合、非共有結合または他の形態)で1種または多種の他の結合分子、例えば他の1種の抗体、抗体断片、ペプチドまたは結合模擬物に連結されることで、二重特異性分子を産生することができる。例えば、「二重特異性抗体」とは、2つの可変構造ドメインまたはScFv単位を含み、得た抗体に2種の異なる抗原を識別させることを指す。
【0053】
本文で用いられる専門用語「免疫結合」および「免疫結合性質」とは、非共有相互作用を指し、免疫グロブリン分子と抗原(当該抗原に対して免疫グロブリンが特異的なものである)との間に発生する。免疫結合相互作用の強度または親和力は、平衡解離定数(K)で示されてもよく、そのうち、K値が小さいほど、親和力が高い。選択したペプチドの免疫結合性質は、公知の方法で測量することができる。抗原結合サイト/抗原複合体の形成・解離速度を測量する方法に関する。「結合速度定数」(KaまたはKon)と「解離速度定数」(KdまたはKoff)の両者は、濃度および結合と解離の実際速度によって算出されてもよい。(編、Nature、1993、361:186−187を参照)。Kd/Kaの比率は、解離定数K(通常、Daviesら編、Annual Rev Biochem、1990;59:439−473を参照)と等しい。いずれかの有効な方法でK、kaおよびkd値を測量することができる。好ましい実施態様において、生物発光干渉法(例えば、実施例3.4に記載されるForteBio Octet法)で解離定数を測量することができる。他の好ましい実施態様において、表面プラズモン共鳴技術(例えば、Biacore)またはKinexaで解離定数を測量することができる。平衡結合定数(K)は≦10μMであり、≦100nMであることが好ましく、≦10nMであることが更に好ましく、≦100pM〜約1pMであることが最も好ましい場合、本発明に係る抗体がPD−1エピトープに特異的に結合すると考えられる。
【0054】
ホモ抗体
もう1態様において、本発明に係る抗体が含んだ重鎖および軽鎖可変領域に含まれたアミノ酸配列が、本文に記載される好ましい抗体のアミノ酸配列と同一性があり、且つそのうち、前記抗体は、本発明に係る抗PD−1抗体の望ましい機能特性を保有する。
【0055】
例えば、本発明は、ヒト型化のPD−1結合の抗体またはその抗原結合断片を提供する。それは、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、そのうち、(a)前記重鎖可変領域はSEQ ID NOs:17、19、21、23、25、27および29から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性があるアミノ酸配列を含み、さらに好ましくは、前記重鎖可変領域はSEQ ID NOs:17、19、21、23、25、27および29から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性があるアミノ酸配列を含み、(b)前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NOs:18、20、22、24、26、28および30から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性があるアミノ酸配列を含み、更に好ましくは、前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NOs:18、20、22、24、26、28および30から選ばれる アミノ酸配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性があるアミノ酸配列を含む。
【0056】
保存的修飾を有する抗体
専門用語「保存的修飾」とは、アミノ酸修飾が当該アミノ酸配列を含有する抗体の結合特徴を著しく影響/変更することができないことを意味する。このような保存的修飾は、アミノ酸の置換、添加および欠失を含む。修飾は、既知の標準技術、例えば部位特異的突然変異誘発法およびPCR媒介の利点によって本発明に係る抗体に導入されてもよい。保存的アミノ酸の置換とは、アミノ酸残基を、類似側鎖を有するアミノ酸残基で置換することを指す。本分野において、類似側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーについて詳細に説明した。これらのファミリーは、アルカリ性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β−分岐側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。そのため、同一の側鎖ファミリー由来の他のアミノ酸残基で本発明に係る抗体CDR領域における1つまたは複数のアミノ酸残基を置換することができる。
【0057】
ある実施形態において、本発明に係る抗体はCDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3配列を含有する重鎖可変領域と、CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3配列を含有する軽鎖可変領域とを含み、そのうち、これらのCDR配列のうちの1つまたは複数は、本文に記載される好ましい抗体(例えばAB12M1またはAB12N1)に基づく特定のアミノ酸配列またはその保存的修飾を含み、且つ、そのうち、前記抗体は本発明に係る抗PD−1抗体の望ましい機能特性を保有する。そのため、本発明は、PD−1に結合する単離された抗体またはその抗原結合部分を提供し、CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3配列を含有する重鎖可変領域と、CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3配列を含有する軽鎖可変領域とを含み、そのうち、(a)前記重鎖可変領域CDR−H1配列は、SEQ ID NOs:1および2で表されるアミノ酸配列及びその保存的修飾されたアミノ酸配列を含み、および/または前記重鎖可変領域CDR−H2配列は、SEQ ID NOs:3および4で表されるアミノ酸配列及びその保存的修飾されたアミノ酸配列を含み、および/または前記重鎖可変領域CDR−H3配列は、SEQ ID NOs:5および6で表されるアミノ酸配列及びその保存的修飾されたアミノ酸配列を含み、および/または(b)前記軽鎖可変領域CDR−L1配列は、SEQ ID NOs:7および8で表されるアミノ酸配列及びその保存的修飾されたアミノ酸配列を含みおよび/または(b)前記軽鎖可変領域CDR−L2配列は、SEQ ID NOs:9および10で表されるアミノ酸配列及びその保存的修飾されたアミノ酸配列を含み、および/または(b)前記軽鎖可変領域CDR−L3配列は、SEQ ID NOs:11および12で表されるアミノ酸配列及びその保存的修飾されたアミノ酸配列を含む。
【0058】
抗PD−L1抗体の治療における使用
【0059】
本発明に係る抗体(二重特異性、多重クローン、モノクローナル、ヒト型化抗体を含む)を治療剤とすることができる。これらの薬剤は、通常、被験者の中で、癌を治療/予防したり、ワクチン効果を向上したり、天然免疫応答を向上したりするために用いられてもよい。
【0060】
本発明に係るPD−1タンパク質に特異的に結合する抗体またはその断片は、医薬組成物として投与され、癌または慢性感染の治療に用いられることができる。
【0061】
本発明に係る抗体の治療上の有効量は、通常、目標の治療を実現するために必要となる量に関する。以上のように、抗体とそのターゲット抗原との結合相互作用であってもよい。また、投与量は、抗体がその特異性抗原に対する結合親和力に決められ、抗体の被験者体内における医薬動態特性にも決められる。本発明に係る抗体または抗体断片の治療上の有効的な投薬量のよく用いられる範囲(実例を限定しない形態で)は、約0.1mg/kg体重〜約50mg/kg体重であってもよい。よく用いられる投薬頻度は、例えば、2回/日〜1回/週の範囲である。
【0062】
抗体断片を使用する場合、ターゲットタンパク質に特異的に結合する結合構造ドメインの最小の阻害性断片が好ましい。例えば、抗体の可変領域配列に基づき、それはターゲットタンパク質配列に結合する能力を維持する。このようなペプチドは、化学合成および/または組換えDNA技術によって調製されてもよい。(例えば、Marascoら編、Proc Natl Acad Sci USA、1993、90:7889−7893を参照)。製剤は、治療の特定の適応症の必要に応じて1種以上の活性化合物を含有してもよく、互いに不利な影響がない相補性活性を有するものが好ましい。オプションとして、或いはまた、組成物は、細胞毒性剤、細胞因子、化学治療剤または成長阻害剤などのそれらの機能を強化する作用剤を含んでもよい。
【0063】

本発明に係る抗体または抗原結合断片は、癌を治療する(即ち、腫瘍細胞の成長/生存を阻害する)ために用いられる。本発明に係る抗体でその成長を抑制可能な好ましい癌は、通常、免疫治療法に対して反応がある癌を含む。治療用の好ましい癌の非限定的な実例は、メラノーマ(例えば、悪性転移性メラノーマ)、腎臓がん(例えば、透明細胞がん)、前立腺がん(例えば、ホルモンで抑制にくい前立腺がん)、膵臓がん、乳がん、大腸がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、食道がん、頭頸部扁平上皮がん、肝がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽細胞腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫および他の悪性腫瘍を含む。
【0064】
感染性疾患
本発明に係る抗体または抗体断片は、さらに、感染および感染性疾患を防止/治療するために用いられてもよい。病原体、毒素および自体抗原に対する免疫応答を刺激するように、抗体または抗体断片は、単独で用いられてもよいし、ワクチンと組み合わせて用いられてもよい。抗体またはその抗原結合断片は、感染者の病原性ウイルスに対する免疫応答を刺激することができ、これらのウイルスの病原性ウイルスを含んだがそれに限定されないある実例は、HIV、肝炎(A型、B型またはC型)ウイルス(hepatitis(A、B、or C))、ヘルペスウイルス(herpes virus)(例えば、VZV、HSV−1、HAV−6、HSV−IIおよびCMV、エッバウイルス(Epstein Barr virus))、アデノウイルス (adenovirus)、インフルエンザウイルス(influenza virus)、フラビウイルス(flaviviruses)、エコウイルス(echovirus)、ライノウイルス(rhinovirus)、コクサッキーウイルス(coxsackie virus)、コロナウイルス(cornovirus)、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)、ムンプスウイルス(mumps virus)、ロタウイルス(rotavirus)、麻疹ウイルス(measles virus)、風疹ウイルス(rubella virus)、パルボウイルス(parvovirus)、ワクシニアウイルス(vaccinia virus)、HTLVウイルス、デングウイルス(dengue virus)、パピローマウイルス(papillomavirus)、軟属腫ウイルス(molluscum virus)、ポリオウイルス(poliovirus)、狂犬病ウイルス(rabies virus)、JCウイルスおよびアルボウイルス脳炎ウイルス(arboviral encephalitis virus)を含む。抗体またはその抗原結合断片は、さらに、細菌または真菌寄生虫及び他の病原体による感染に対する免疫応答を刺激するために用いられてもよい。
【0065】
免疫アジュバント
本発明に係る抗体または抗体断片は、これらのタンパク質に対する免疫応答(即ち、接種案にある)を向上させるように、他の組換えタンパク質および/またはペプチド(例えば腫瘍抗原または癌細胞)と組み合わせて用いられてもよい。
【0066】
例えば、抗PD−1抗体とターゲット抗原(例えばワクチン)を共同に投与することにより、抗PD−1抗体およびその抗体断片を抗原の特異性免疫応答の刺激に用いることができる。そのため、本発明は、別の態様で被験者の抗原に対する免疫応答を強化する方法を提供する。前記方法は、(i)抗原、および(II)本発明に係る抗PD−1抗体またはその抗原結合部分を被験者に投薬して被験者の抗原に対する免疫応答を向上させることを更に含む。例えば、抗原は、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原または病原体由来の抗原である。前記抗原の非限定的な実例には、腫瘍抗原またはウイルス、細菌または他の病原体由来の抗原が含まれるがそれに限定されない。
【0067】
本発明に係る抗体および抗体断片の非治療的使用
非治療的に適用される抗PD−1抗体製品が既に存在した。例えば、eBioscience of San Diego、California、USAが販売したJ116およびJ105モノクローナル抗hPD−1抗体は、フローサイトメトリー分析、免疫組織化学および体外機能分析に用いられる。R&D Systems of Minneapolis、MN、USAが販売したMab1086モノクローナル抗hPD−1抗体は、フローサイトメトリー、ウエスタンブロットおよびELISAに用いられる。本発明に係る抗体は、現在J116、J105および/またはMab1086が提供したいずれの非治療的目的に用いられてもよい。
【0068】
本発明に係る抗体は、親和精製試料として用いられてもよい。
【0069】
前記抗体は、診断測定にも用いられてもよく、例えば、PD−1の特定の細胞、組織または血清における発現を検出するために用いられる。診断使用のために、通常、検出可能な部分で(直接的または間接的に)抗体をマークする。様々な標記物を使用することができ、一般的に、ビオチン、蛍光染料、放射性ヌクレオチド、酵素、ヨウ素および生物合成標記物に分けられる。
【0070】
本発明に係る抗体は、競合結合測定法、直接・間接サンドイッチ測定法、及び免疫沈澱測定法などのいずれの既知の測定法に用いられてもよい。Zola、Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques(モノクローナル抗体:技術マニュアル)、第147−158頁(CRC Press、Inc. 1987)。
【0071】
抗体は、さらに体内診断測定に用いられてもよい。一般的に放射性核種(例えば111In、99Tc、4C、31I、125I、3H、32P、35Sまたは18F)で抗体をマークして、免疫現像(immunoscintiography)または陽電子イメージング法で抗原や抗体を発現する細胞を位置決めすることができる。
【0072】
モノクローナル抗体の調製
本発明に係るモノクローナル抗体(mAb)は、多種の技術で調製されてもよく、従来のモノクローナル抗体法、例えば、Kohler和Milstein、 Nature、 1975; 256:495に記載されている標準な体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む多種の技術で調製されてもよい。ハイブリダイゼーションプロトコールであることが好ましいが、原則上に、例えば、Bリンパ細胞のウイルスまたは発がん性形質転換などのモノクローナル抗体を調製する他の方法を用いることもできる。
【0073】
ハイブリドーマを調製するための好ましい動物系は、マウス科動物系であることが好ましい。マウスの中でハイブリドーマを調製することは、非常に完全なプロトコルである。融合用の免疫された脾臓細胞を単離する免疫案および技術は、本分野において既知である。融合パートナー(例えば、マウス骨髄腫細胞)および融合プロトコルも既知である。
【0074】
抗体またはその抗体断片を発現するために、標準分子生物学技術(例えば、PCR増幅またはターゲット抗体を発現するハイブリドーマを使用するcDNAクローン)によってコード部分または全長軽鎖および重鎖のDNAを取得すると共に、DNAを発現ベクターに挿入することができることで、ターゲット遺伝子を転写・翻訳調節配列と操作可能に連結させ、トランスフェクション宿主細胞を発現し、発現宿主は、真核発現ベクターであることが好ましく、CHOおよびその誘導細胞系などの哺乳動物細胞であることが更に好ましい。
【0075】
抗体は、公知の技術、例えばプロテインAまたはプロテインGを用いる親和クロマトグラフィーによって精製される。その後、或いはオプションとして、特異性抗原またはそのエピトープをコラムに固定して免疫親和クロマトグラフィーによって免疫特異性抗体を精製する。免疫グロブリンの精製は、例えば、D. Wilkinsonにより述べられている(The Scientist、The Scientist、Inc.、Philadelphia PA、Vol.14、No.8(2000年4月17日)、25−28頁に記載されている)。
【0076】
本発明に係るキメラまたはヒト型化抗体は、上記調製したマウスモノクローナル抗体の配列に基づいて調製されてもよい。重鎖および軽鎖免疫グロブリンをコードするDNAターゲットマウスハイブリドーマから取得されると共に、標準分子生物学技術で工程改良を行って非マウス(例えば、ヒト)免疫グロブリン配列を含めることができる。例えば、キメラ抗体を構築するために、当業界で既知の方法で、マウス可変領域をヒト定常領域に連結することができる(例えば、Cabillyら編の米国特許No.4816567を参照)。VHをコードするDNAを重鎖定常領域(CH1、CH2およびCH3)をコードする他のDNA分子に連結することによってVH領域をコードする単離されたDNAを全長重鎖遺伝子に形質転換することができる。ヒト重鎖定常領域遺伝子の配列は当業界で既知であり(例えば、Kabat、E.A.ら編(1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest、Fifth Edition、U.S.Department of Health and Human Services、NIH Publication No.91−3242を参照)、これらの領域を含むDNA断片は、標準PCR増幅により取得されてもよい。重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgMまたはIgD定常領域であってもよいが、IgG1またはIgG4定常領域であることが最も好ましい。
【0077】
ヒト型化抗体を構築するために、当業界で既知の方法でマウスCDR領域をヒトフレームワーク配列に挿入することができる(Winterの米国特許No.5225539およびQueenなどの米国特許Nos.5530101、5585089、5693762および6180370を参照)。更に、トランスジェニック動物、例えば、HuMAbマウス(Medarex、Inc.)が再組換えされていないヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座(miniloci)を含有することに加えて、内源μおよびκ鎖遺伝子座を不活性化させるターゲット変異(例えば、Lonbergら編、(1994) Nature 368(6474):856−859を参照)を含有し、或いは、ヒト重鎖トランスジェニックおよびヒト軽鎖トランスフェクション染色体を携帯する「KMマウスTM」(特許WO02/43478を参照)を用いて抗体のヒト型化改良を行うことができる。他の抗体のヒト型化改良の方法は、ファージ展示技術を含む。
【0078】
以下の実施例によって本発明を更に説明し、前記実施例は更に限定すると解釈されるべきではない。ここで、明細書全文に援用されるすべての図面、参照文献、特許文献および公開公報が明確に参照として本文に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】ELISAでAB12N1およびAB12M1とヒトPD−1との結合を測定する図である。
図2-1】ELISAでAB12N1およびAB12M1とカニクイザルPD−1およびヒトICOSとの交差反応を測定する図である。
図2-2】ELISAでAB12N1およびAB12M1とヒトCTLA4との交差反応を測定する図である。
図2-3】ELISAでAB12N1およびAB12M1とヒトCD28との交差反応を測定する図である。
図3】競合ELISAでAB12N1およびAB12M1がヒトPD−1およびPD−L1の結合を遮断する能力を測定する図である。
図4】SDS−PAGEでAB12N1およびAB12M1に対して還元電気泳動定性分析を行う図である。
図5】ELISAでAB12M2、AB12M3およびAB12M4の力価および特異性を測定する図である。
図6】ELISAでAB12M2、AB12M3およびAB12M4とマウスPD−1との交差反応を測定する図である。
図7】競合ELISAでAB12M2、AB12M3およびAB12M4とKeytrudaとの相対親和力を測定する図である。
図8】競合ELISAでAB12M2、AB12M3およびAB12M4とOpdivoとの相対親和力を測定する図である。
図9】AB12M3およびAB12M4とPD−1過剰発現のCHO細胞との結合を示す図である。
図10】AB12M3およびAB12M4と活性化ヒトT細胞との結合を示す図である。
図11】AB12M3およびAB12M4が濃度依存形態でT細胞の増殖を促進することを示す図である。
図12】AB12M3およびAB12M4が濃度依存形態でIFN−γ分泌を促進することを示す図である。
図13】AB12M3およびAB12M4がT細胞のIL−2分泌を促進することを示す図である。
図14】AB12M4がマウス腫瘍体積の向上に対する阻害作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
実施例1、抗PD−1マウスモノクローナル抗体の調製
ヒトPD−1細胞外セグメント精製抗原50μg(北京義翹神州生物技術有限公司から購入)を、完全フロイントアジュバントで十分に乳化させた後、多点免疫方式で雄Balb/Cマウスに対して免疫を行い、免疫周期は、1回/3週である。3回目の免疫を行った10日後に、眼窩採血によって、ELISAで血漿抗ヒトPD−1抗体の力価を測定してマウス免疫応答程度を監視する。そして、融合の3日前に、抗ヒトPD−1抗体の力価が最も高いマウスに対して強化免疫を1回行う。3日後、マウスを殺して当該マウスの脾臓を取り出し、マウス骨髄腫Sp2/0細胞株と融合させる。2×10Sp2/0細胞と2×10脾細胞を混合してポリエチレングリコール(分子量1450)50%とジメチルスルホキシド(DMSO)5%の溶液で融合させる。Iscove培地(10%ウシ胎仔血清、ペニシリン100単位/mL、ストレプトマイシン100μg/ml、ヒポキサンチン0.1mM、アミノプテリン0.4μMおよびチミジン16μgを含有する)で脾細胞数を5×105/mLに調整し、96穴プレートのウェル内に0.3ml添加し、37℃、5%のCOインキュベーターに置く。10日培養した後、実施例3.2におけるELISAで、それぞれ、上清液中の抗体とビオチンでマークしたヒトPD−L1−FcがPD−1に競合的に結合する能力を検出し、8個の競合性が強い陽性ハイブリドーマ細胞株を選別し鑑定し、それぞれサブクローニングし、上清液において精製したマウス抗体に対して選別および鑑定を行い、2個の陽性ハイブリドーマモノクローナル細胞株#22および#32を得た。
【0081】
実施例2、ELISAで抗PD−1マウス抗体の力価を測定する
ELISAで、ハイブリドーマ細胞株#22(分泌した抗体がAB12N1と命名される)および#32(分泌した抗体がAB12M1と命名される)を用いて上清液において精製したマウスモノクローナル抗体を培養する力価を測定する。PBS緩衝液でPD−1(北京義翹神州生物技術有限公司から購入)を0.1μg/mlまでに希釈し、100μl/ウェルの体積で、96穴プレートに添加し、4℃で16−20h置く。96穴プレートにおけるPBS緩衝液を抽出し、PBST(pH7.4、PBSは0.05%tween20を含有する)緩衝液でプレートを1回洗浄した後、200μl/ウェルでPBST/1%脱脂粉乳を添加し、室温で1hインキュベートして封入する。封入液を除去し、PBST緩衝液でプレートを3回洗浄した後、PBST/1%脱脂粉乳で適当な濃度までに希釈した測定待ちのPD−1マウス抗体を添加し、100μl/ウェル、室温で、1.5hインキュベートする。反応系を除去し、PBSTでプレートを3回洗浄した後、50μl/ウェルで、PBST/1%脱脂粉乳で(希釈割合1:4000)HRPでマークした羊抗マウスIgG二次抗体(The Jackson Laboratoryから購入)を添加し、室温で1hインキュベートする。PBSTでプレートを3回洗浄した後、100μl/ウェルのTMBを添加し、室温で10−30minインキュベートし顕色を行う。50μl/ウェル、0.2M硫酸を添加して反応を終了する。マイクロプレートリーダーで二重波長450/620nm箇所で吸光度値(O.D.)を検出し、EC50を算出する。
【0082】
図1から分かるように、ハイブリドーマクローン#22で発現されたマウスモノクローナル抗体AB12N1および#32ハイブリドーマクローンで発現されたマウスモノクローナル抗体AB12M1は、いずれもPD−1に結合することができる。AB12M1と抗原結合活性のEC50値が約0.002μg/mlであるが、AB12N1のEC50値が約0.1μg/mlである。
【0083】
実施例3、抗PD−1マウスモノクローナル抗体の選別および鑑定
【0084】
3.1、マウス抗体の結合特異性の測定
PD−1抗体がPD−1の同一のファミリーの他のプロテインに対する特異的な結合活性を検出するために、ヒトCTLA4、ヒトCD28およびヒトICOSが結合検出に用いられる。それと同時に、PD−1抗体がヒト以外の異なる種属に対する差異性を検出するために、マウスおよびカニクイザルのPD−1に対しても結合検出を行う。
【0085】
PBS緩衝液で、ヒトPD−1/His、ヒトICOS/Fc、ヒトCTLA4/His、ヒトCD28/Fc、カニクイザルPD−1/FcおよびマウスPD−1/His(いずれも北京義翹神州生物技術有限公司から購入)を、0.1μg/mlまでに希釈し、100μl/ウェルの体積で96穴プレートに添加し、4℃で16〜20h置く。96穴プレートにおけるPBS緩衝液を抽出し、PBST(pH7.4、PBSは0.05%tween20を含有する)緩衝液でプレートを1回洗浄した後、200μl/ウェルPBST/1%脱脂粉乳を添加し、室温で1hインキュベートして封入する。封入液を除去し、PBST緩衝液でプレートを3回洗浄した後、測定待ちのPD−1抗体を添加し、100μl/ウェル、室温で1.5hインキュベートする。反応系を除去し、PBSTでプレートを3回に洗浄した後、50μl/ウェルで1:4000希釈したHRPでマークした羊抗マウスIgG二次抗体(The Jackson Laboratoryから購入)を添加し、室温で1hインキュベートする。PBSTでプレートを3回洗浄した後、100μl/ウェルTMBを添加し、室温で5−10 minインキュベートする。50μl/ウェル0.2M硫酸を添加して反応を終了する。マイクロプレートリーダーは、二重波長450/620nm箇所で吸光度値を読み出す。
【0086】
図2−1〜図2−3に示すように、AB12N1およびAB12M1は、PD−1ファミリーの他の3種のプロテインに対して特異的な結合能力がない。それと同時に、AB12N1およびAB12M1はマウスPD−1と種属の交差反応がないが、AB12M1はカニクイザルのPD−1に特異的に結合することができ、AB12N1はカニクイザルのPD−1に特異的に結合しない。
【0087】
3.2、マウス抗体がPD−1とPD−L1との結合を遮断する実験
【0088】
ビオチンでマークしたヒトPD−L1を試料とする。PBS緩衝液でPD−1(北京義翹神州生物技術有限公司から購入)を2.0μg/mlまでに希釈し、100μl/ウェルの体積で96穴プレートに添加し、室温で一晩越した。被覆溶液を除去し、200μl/ウェルPBST/1%脱脂粉乳を添加し、室温で1hインキュベートし封入する。封入液を除去し、PBST緩衝液でプレートを3回除去した後、50μl/ウェルの希釈したマウスモノクローナル抗体AB12N1とAB12M1を添加して50μlのビオチンでマークしたヒトPD−L1と混合し、十分にインキュベートした後、PBSTで結合していない抗体およびビオチンでマークしたPD−L1を除去し、そして、100μl/ウェルのHRPでマークしたアビジンを添加し、十分にインキュベートした後、PBSTで結合していないHRPでマークしたアビジンを洗浄し、100μl/ウェルのTMB顕色液を添加し、顕色を30分行う。0.2M硫酸で反応を終止し、マイクロプレートリーダーで二重波長450/620nm箇所で吸光度値を読み出す。図3に示すように、マウス抗体AB12N1およびAB12M1はいずれもPD−1とPD−L1との結合を特異的に遮断することができる。AB12M1のPD−L1とPD−1との結合能力が明らかにAB12N1よりも優れる。
【0089】
3.3、精製したマウス抗体SDS−PAGE分析およびWestern−Blot鑑定
SDS−PAGE電気泳動およびウェスタンブロット(Western−Blot)で精製したマウスモノクローナル抗体AB12N1およびAB12M1に対して定性、半定量分析を行う。ゲル調製方法で12%濃度のPAGEゲルを調製し、各電気泳動経路にそれぞれ4μgの抗体AB12N1、AB12M1、Keytruda及びOpdivoを添加する。染料までに電気泳動して単離ゲルの底部に到達し、電源を切り、ゲルイメージングシステムで電気泳動結果を観察する。図4に示すように、マウス抗体AB12N1およびAB12M1の還元性SDS−PAGE電気泳動結果がいずれもはっきりに示され、均一な2本のバンドは、それぞれ約50KD重鎖および約25KD軽鎖である(そのうち、各電気泳動経路でのサンプルは、1.Marker、2.AB12N1、3.AB12N1、4.AB12M1、5.AB12M1、6.Keytruda、7.Opdivoである)。
【0090】
ゲル調製方法で15%濃度の非還元PAGEゲルを調製し、ヒトPD−1のサンプルアプライ量が5μgであり、染料までに電気泳動して単離ゲルの底部に到達し、電源を切る。ゲルを取り出し、サイズが一致するNC膜に平らに置き、ゲル面積に応じて1mA/cmで電源を添加し、100mAで2〜4h電気転移する。封入液に浸入させ、4℃で一晩封入し、PBST緩衝液で膜を10min/回で3回洗浄する。そして過量のAB12N1およびAB12M1抗体を添加して1hインキュベートし、PBST緩衝液で膜を10min/回で3回洗浄する。1:5000で希釈したHRP−羊抗マウスIgG Fc二次抗体を検出抗体として、1hインキュベートし、PBST緩衝液で膜を3回洗浄する。DAB顕色液に暗所で顕色を15min行い、バンドが現れた後、直ちに水で洗浄して顕色反応を終止し、写真を撮った後、定量、定性分析を行う。
【0091】
Western−Blot結果から、約34KDのPD−1のバンドが現れ、AB12N1およびAB12M1はいずれもヒトPD−1に特異的に結合することができることが表明されている。
【0092】
3.4、抗PD−1マウス抗体の親和力測定および動力学分析
生物薄膜干渉技術(BLI)で、精製したマウスモノクローナル抗体のキャラクタリゼーション親和力および結合動力学を測定する。Octet分子相互作用計(ForteBio Octet RED&QKシステム、PALL公司製)の標準操作方法で測定し、照合抗体がKeytrudaおよびOpidivoとなる。多重経路平行定量分析濃度の勾配を、3.125、6.25、12.5、25、50および100nMとし、Human PD−1−His(北京義翹神州生物技術有限公司)をNi−NTAセンサにカップリングする。抗原−抗体結合動力学および解離動力学を追跡する。得たデータを分析し、この方法で測定したka(kon)、kd(koff)とKD値を表1に示した。マウスモノクローナル抗体AB12M1とヒトPD−1の平衡解離定数KD値<1×10−12Mであり、照合抗体KeytrudaおよびOpidivoとの結合親和力が相当である。AB12N1のKD値が3.508×10−10Mであり、キャラクタリゼーション親和力が照合抗体KeytrudaおよびOpidivoよりも低い。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例4、抗PD−1マウスモノクローナル抗体サブタイプの鑑定および可変領域の増幅
【0095】
抗体サブタイプの鑑定
ハイブリドーマ細胞培養上清液を取り、IsoStripTMマウスモノクローナル抗体サブタイプ鑑定キット(Santa Cruz Biotechnology、ロット番号sc−24958)で抗体サブタイプを鑑定する。モノクローナル抗体AB12N1サブタイプはIgG1(Kappa)と鑑定され、モノクローナル抗体AB12M1サブタイプはIgG2b(Kappa)と鑑定される。
【0096】
抗体可変領域の増幅
候補ハイブリドーマ細胞#22および#32をそれぞれ総数10個の細胞に培養し、1000rpmで10分遠心して細胞を収集し、Trizolキット(Invitrogen)で総RNAを抽出し、逆転写キットSMARTer RACEで第1鎖cDNAを合成し、第1鎖cDNAで後続テンプレートにハイブリドーマ細胞が対応する抗体可変領域DNA配列を増幅する。サブタイプの鑑定結果から、当該抗体サブタイプの重鎖および軽鎖定常領域配列を取得し、特異的な巣式PCRプライマーを設計し、当該増幅反応において用いられるプライマー配列が抗体可変領域の第1フレーム領域および定常領域と相補性がある。従来のPCR方法で、目的遺伝子を増幅させ、増幅産出物に対して配列決定を行った後、ハイブリドーマクローン#22分泌抗体AB12N1の重鎖可変領域配列SEQ ID NO:15および軽鎖可変領域配列SEQ ID NO:16を得た。当該抗体の重鎖CDR(CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3)のアミノ酸配列がSEQ ID NO:2、4および6で表され、その軽鎖CDR(CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3)のアミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:8、10および12で表される。ハイブリドーマクローン#32分泌抗体AB12M1の重鎖可変領域配列SEQ ID NO:13および軽鎖可変領域配列SEQ ID NO:14である。当該抗体の重鎖CDR(CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3)のアミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:1、3および5で表され、その軽鎖CDR(CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3)のアミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:7、9および11で表される。
【0097】
実施例5、抗PD−1マウス抗体のヒト型化
上記得たAB12N1およびAB12M1抗体可変領域配列によれば、コンピュータ補助抗体三次元モデリングおよび構造分析を用いて抗体のヒト型化改良を行う。CDR移植(CDR−Grafting)はよく用いられる抗体のヒト型化方法であり、ヒト抗体のFRでマウス抗体のFRを置換して活性を保持し、免疫原性を低下させる目的を達成する。Discovery Studio分析工具を結び付けてCDR移植を行う抗体のヒト型化改良方法は、主に(1)抗体三次元構造モデリング、(2)重要残基分析、(3)ヒトテンプレートの選択、及び(4)重要残基分析における逆方向接木に基づき、ヒト型化抗体配列を得ることを含む。分子結合で可変領域およびその周辺のフレームアミノ酸配列を分析し、その空間立体結合形態を観察してCDR領域の立体配座の維持に対して重要な重要残基を確定し、主に下記の3種類がある。1、2つの構造ドメインの折り畳みに対して重要な作用を果たすVLとVHの結合界面にある残基、2、CDR領域に近寄ってプロテイン内部に埋め込まれる残基、3、CDR領域と直接的に相互作用する残基相互作用は、疎水相互作用/水素結合/塩橋を含む。ヒトテンプレートの選択は、まず、各ハイブリドーマ細胞が分泌する抗体アミノ酸配列をヒト胚胎系抗体アミノ酸配列と照合し、同一性が高い配列を探し出し、次に、そのうちのMHC II (HLA−DR)と親和力が低いヒト胚胎系(germline)抗体フレーム配列を選択してその免疫原性を低下させるという2つの条件を同時に満たさなければならない。重要残基分析における逆方向接木に基づき、ヒト型化抗体配列を得た。
【0098】
そのうち、マウス抗体AB12M1は、ヒトV3−23重鎖可変領域およびヒトV3D−11軽鎖可変領域をテンプレート配列として、合計7個のヒト型化抗体を得、それぞれAB12M3、AB12M4、AB12M5、AB12M6、AB12M7、AB12M8およびAB12M9である。それと同時に、その1株のヒトマウスキメラ抗体AB12M2を構築し、マウス抗体の重鎖可変領域配列をヒトIgG1重鎖定常領域に接木し、マウス抗体の軽鎖可変領域配列をヒトKappa軽鎖定常領域に接木して得た。上記ヒト型化抗体の可変領域アミノ酸配列は表2で示される。
【0099】
マウス抗体AB12N1は、ヒトV3−33重鎖可変領域およびヒトV3−11軽鎖可変領域をテンプレート配列として、合計3個のヒト型化抗体を得、それぞれAB12N3、AB12N4およびAB12N5である。それと同時に、その1株のヒトマウスキメラ抗体AB12N2を構築し、マウス抗体の重鎖可変領域配列をヒトIgG1重鎖定常領域に接木し、マウス抗体の軽鎖可変領域配列をヒトKappa軽鎖定常領域に接木して得た。上記ヒト型化抗体の可変領域アミノ酸配列は表2で示される。
【0100】
表3における各ヒト型化抗体の親和力定数および動力学のパラメータから分かるように、AB12M3、AB12M4、AB12M5、AB12M6、AB12M7、AB12M8およびAB12M9は、マウス抗体AB12M1およびキメラ抗体AB12M2と比べ、ヒト型化程度が95%以上であるが、親和力が明らかに損失しなく、KD値がいずれも1×10−12M未満であり、親マウスモノクローナル抗体の親和力および特異性を保有し、その免疫原性を大幅に低下させる。
【0101】
他の群のヒト型化抗体AB12N3、AB12N4およびAB12N5は、マウス抗体AB12N1およびキメラ抗体AB12N2と比べ、ヒト型化程度も95%以上であり、親和力も明らかに降下せず、KD値がいずれも10−10Mレベルである。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
実施例6、抗PD−1ヒト型化抗体機能の鑑定
【0105】
6.1、間接法ELISAでヒト型化抗体の力価および結合特異性を測定する
間接法ELISAでヒト型化抗体AB12M3およびAB12M4並びにキメラ抗体AB12M2と抗原PD−1との結合特性を測定する。KeytrudaおよびOpdivoを照合抗体として、培地を陰性照合とする。HRPでマークした羊抗ヒトIgG抗体を検出抗体(The Jackson Laboratoryから購入)とする。具体的な方法は実施例2と同様である。同様な方法は、ヒト型化抗体AB12M3およびAB12M4並びにキメラ抗体AB12M2がマウスPD−1(北京義翹神州生物技術有限公司から購入)に対して交差反応の有無を検出するために用いられ、同様にしてKeytrudaおよびOpdivoを照合抗体とし、培地を陰性照合とする。
【0106】
図5に示すように、ヒト型化抗体AB12M3およびAB12M4並びにキメラ抗体AB12M2はいずれもヒトPD−1に特異的に結合することができ、且つこれらと抗原結合活性のEC50値はいずれも照合抗体KeytrudaおよびOpdivoよりも低く、約0.001〜0.01μg/mlである。これは、本発明において構築した抗PD−1ヒト型化抗体AB12M3およびAB12M4並びにキメラ抗体AB12M2とPD−1との結合能力は、ヒト型化改良により削減されていなく、依然としてマウス親抗体の高親和力を保有する。且つ、これらはいずれもマウスPD−1に結合せず、強い種属特異性を有する(図6を参照)。
【0107】
6.2、PD−1ヒト型化抗体の相対親和力の測定
西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)でマークしたKeytrudaおよびOpdivoを試料とする。PBS緩衝液でPD−1(北京義翹神州生物技術有限公司から購入)を0.1μg/mlまでに希釈し、100μl/ウェルの体積で96穴プレートに添加し、室温で一晩置く。被覆溶液を除去し、200μl/ウェルのPBST/1%脱脂粉乳を添加し、室温で1hインキュベートして封入する。封入液を除去し、PBST緩衝液でプレートを3回を洗浄した後、50μl/ウェルで成長培地(DMEM+5%FBS)と50μLHRPでマークしたKeytrudaまたはOpdivo抗体の混合液を添加し、PBSで結合していないHRPでマークしたKeytrudaまたはOpdivo抗体を洗浄した。そして抗体AB12M2、AB12M3およびAB12M4を添加し、マークしていないKeytrudaまたはOpdivoを陽性照合とする。十分にインキュベートした後、PBSで結合していないHRPでマークしたKeytrudaまたはOpdivo抗体を洗浄し、マイクロプレートリーダーで二重波長450/620nm箇所で吸光度値を読み出す。
【0108】
図7および図8に示すように、抗体AB12M2、AB12M3およびAB12M4はいずれも競合的にKeytrudaまたはOpdivoとPD−1との結合を競合的に遮断することができ、且つこれらとKeytruda−HRPまたはOpdivo−HRPとがPD−1に競合的に結合するEC50値はKeytrudaおよびOpdivoよりも低いが、いずれも0.1〜1μg/mlである。そのため、抗体AB12M2、AB12M3およびAB12M4とKeytrudaおよびOpdivoとの親和力の大きさが相当であると判断することができる。
【0109】
6.3、PD−1ヒト型化抗体のPD−1とPD−L1との結合に対する体外遮断実験
Hisラベル付きのPD−1プロテイン細胞外領域断片を96穴プレートに被覆した後、封入し、プレートを洗浄し、測定待ちのPD−1抗体を添加しながら、ビオチンでマークしたPD−L1−Fcを添加し、インキュベートして反応する。プレートを洗浄した後、ビオチンでマークしたPD−L1/Fc結合分を検出し、PD−1抗体の配位子PD−L1に対する結合遮断のIC50値を算出する。
【0110】
pH7.2のPBS緩衝液でPD1/Hisを2μg/mlまでに希釈し、100μl/ウェルの体積で96穴プレートに添加し、室温で1h振動しながらインキュベートする。96穴プレートにおけるPBS緩衝液を除去し、200μl/ウェルのPBST(pH7.2 PBSは0.05%tween−20を含有する)/1%脱脂粉乳を添加し、室温で1hインキュベートして封入する。PBSTでプレートを3回洗浄し、50μl/ウェルの封入液で適当な濃度に希釈した測定待ちのPD−1抗体を添加しながら、50μl/ウェルの封入液で200ng/mlまでに希釈したビオチンでマークしたPD−L1/Fcを添加し、室温で1hインキュベートし、PBSTでプレートを3回洗浄し、100μl/ウェルの封入液で1:250に希釈したSA−Avidin−HRP(HRPでマークしたストレプトアビジン)を添加し、室温で1hインキュベートする。PBSTでプレートを3回洗浄し、100μl/ウェルTMBを添加し、室温で5−10分インキュベートする。50μl/ウェルの0.2M硫酸を添加して反応を終了する。マイクロプレートリーダーで450nm箇所で吸光度値を読み出し、PD−1抗体の配位子PD−L1に対する結合遮断のIC50値を算出する。
【0111】
表4における実験結果から分かるように、AB12M3およびAB12M4抗体は、いずれもPD−L1とPD−1との結合を効果的に遮断することができ、Keytruda、とOpdivoの結果が類似する。
【0112】
【表4】
【0113】
6.4、抗PD−1ヒト型化抗体の体外細胞結合実験
FACS(蛍光活性化セルソータ)は、プロテインと細胞との結合を検出する実験方法である。本実験は、本発明に係るPD−1ヒト型化抗体と、細胞表面発現天然PD−1との結合活性を検出するために用いられる。本実験で用いられる細胞は、PD−1過剰発現のCHO細胞である。3×10個のCHO細胞と一連の濃度勾配測定待ちの的AB12M3またはAB12M4(一次抗体)を30分インキュベートし、洗浄した後、FITCでマークした羊抗ヒトIgG二次抗体(BD Biosciences公司から購入)を添加して30分結合し、フローサイトメトリーでFITCシグナルを検出する。その結果が図9で示され、AB12M3およびAB12M4は、CHO細胞表面で過剰発現PD−1に特異的に結合することができる。
【0114】
6.5、抗PD−1ヒト型化抗体と活性化ヒトT細胞との特異性結合実験
密度勾配遠心法(Lymphoprep(登録商標)、ヒトリンパ細胞単離液、STEMCELL公司製)でヒト外周血から新鮮な単一のコア細胞を取得し、T細胞選別試料(STEMCELL公司製)を用いて高純度のTリンパ細胞を得た。5μg/mlの抗CD3抗体で48h刺激し、250IU/mlのヒトIL−2を添加して7日培養して大量の活性化Tリンパ細胞を得た。3×10個のTリンパ細胞と一連の濃度勾配のAB12M3またはAB12M4(一次抗体)を30分インキュベートし、洗浄した後、FITCでマークした羊抗ヒトIgG二次抗体(BD Biosciences公司製)を添加し、フローサイトメトリーでFITCシグナルを検出する。その結果が図10で示され、AB12M3およびAB12M4は、活性化ヒトT細胞表面発現PD−1受容体に特異的に結合することができる。
【0115】
実施例7、抗ヒトPD−1ヒト型化抗体の生物学活性の測定
【0116】
7.1、抗PD−1ヒト型化抗体が混合リンパ細胞反応において細胞増殖と細胞因子分泌に対する影響
混合リンパ細胞反応によれば、PD−1/PD−L1の遮断方法がリンパ効果細胞に対する影響を証明する。PD−1抗体または同型IgG照合抗体が混合リンパ細胞反応においてT細胞増殖およびIFN−γ分泌に対する影響を測定する。
【0117】
新鮮な単離されたヒトPBMC調整細胞の密度が2.0×10個/mlであり、付着法で単核細胞を取得する。100ng/mlのGM−CSFと100ng/mlのIL−4を添加して5日培養し、100ng/mlのTNF−αを追加添加してDC細胞を誘導成熟させる。CD4+T細胞正選キット(STEMCELL公司製)で新鮮なヒトPBMCからCD4+T細胞を単離する。96穴プレートにおいて、250μl/ウェルの培養液に10個の単離されたT細胞、10個の誘導成熟したDC細胞および一連の列濃度勾配のAB12M3またはAB12M4を含有する。同型IgG照合抗体を陰性照合とする。混合リンパ細胞を、37℃で、5%のCO細胞インキュベーターに6日培養した後、96穴プレートから100μl/ウェル培養上清液を取り出してIFN−γ測定を行う。IFN−γは、OptEIA ELISAキット(BD Biosciences公司製)により測定される。96穴プレートにおける残りの細胞に対して、Cell Titer Gloキット(Promega公司製)で細胞増殖の状況を測定する。その結果、AB12M3およびAB12M4は濃度依存形態でT細胞増殖(図11)およびIFN−γ(図12)分泌を促進する。
【0118】
7.2、抗PD−1ヒト型化抗体が超抗原でヒトPBMC細胞を刺激誘導して細胞因子を分泌することに対する影響
新鮮に調製したヒトPBMC細胞を、20μg/mlのAB12M3、AB12M4または同型IgG照合抗体を含有するRPMI1640培地(10%の不活化FBSを含有する)で10/ml再懸濁し、100μl/ウェルで96穴プレートに接種する。超抗原SEBの最高濃度が2500ng/mlであり、10倍で4つの勾配希釈し、96穴プレートに添加し、3ウェルを設置する。72h培養し、上清液を取り、OptEIA ELISAキット(BD Biosciences公司製)でIL−2濃度を測定する。その結果が図13で示され、AB12M3およびAB12M4はT細胞のIL−2分泌を促進することができる。
【0119】
7.3、抗PD−1ヒト型化抗体がT細胞を刺激して腫瘍細胞を殺傷する効果を体外で測定する
PD−L1過剰発現のヒト非小細胞肺癌細胞株HCC827(中科院上海セルバンク)を96穴プレートに接種し、一連の濃度のAB12M1、AB12M3、AB12M4またはhuIgGを添加して、10:1のエフェクタ:ターゲット比で抗CD3抗体とIL−2で活性化されたT細胞を添加し、48h培養し、培地でプレートを洗浄し、大部分のT細胞を除去し、CCK−8細胞増殖キット(Dojindo公司製)でHCC827細胞の生存情況を測定し、殺傷率を算出する。その結果が表5で示され、AB12M3、およびAB12M4は、T細胞が腫瘍細胞に対する殺傷を強化する能力を備える。
【0120】
【表5】
【0121】
7.4、 抗PD−1ヒト型化抗体がヒト型化PD−1マウス体内皮下で大腸がんMC38細胞を移植するモデルにおける薬力研究
北京奥賽図生物技術有限公司により構築したB−hPD−1ヒト型化マウスで抗ヒトPD−1抗体の体内薬力評価を行い、当該マウスはC57BL/6背景を用い、遺伝ターゲット技術でマウスPD−1遺伝子のIgV構造ドメイン部位を含んだ2番目のエキソン部分に対してヒト型化改良を行う。改良が成功したマウスに、細胞外部分がhPD−1で、細胞内部分がmPD−1であるヒトマウスキメラPD−1を有する。このようなキメラPD−1構造は、PD−1の正常なシグナル伝送に影響せず、マウスまたはヒトPD−L1配位子がこのPD−1受容体に結合した後、T細胞活性を抑制することができる。
【0122】
MC38マウス大腸がん細胞(舜冉上海生物科学技術有限公司)を5×10個/0.1mLで雄B−hPD−1ヒト型化マウスの右側の前肋骨部の皮下に接種し、腫瘍が約150mmに成長したと、腫瘍体積に応じて無作為に抽出し、群ごとに8匹、合計3群、それぞれ(1)溶剤照合群(PBS群)、(2)AB12M4処理群および(3)Keytruda照合群(Merck公司製、ロット番号:5SNL80505)であり、群(2)および群(3)の投薬量が20mg/kgであり、投薬体積が10ml/kgである。すべての群の投薬方法は、いずれも腹腔注射であり、3日ずつ1回投薬し、連続して6回投薬し、実験が接種の28日に進行して終了する。
【0123】
ノギスで腫瘍の長径(L)と短径(W)を測定し、算式V=1/2(L×W)で腫瘍体積(V)を計算し、週3回測定し、それと同時に、マウスの体重を測定する。
【0124】
図14に示すように、実験が終了する場合、溶剤照合群の平均腫瘍体積が3405.2mmである。AB12M4処理群の平均腫瘍体積が277.4mmであり、Keytruda投薬群の平均腫瘍体積が249mmである。AB12M4は著しい腫瘍阻害作用を有し、その腫瘍阻害効果がKeytrudaと相当であることが表明されて入る。また、実験過程全体において、動物の健康状態がよく、亡くなる動物がない。実験が終了する場合、各群の動物の体重が向上し、AB12M4処理群の動物は、溶剤照合群の動物と比べ、体重に著しい差異がないため(p>0.05)、動物のAB12M4に対する耐性がよく、実験動物に対して明らかな毒性作用が発生しないことが表明されている。
【0125】
本発明に言及されているすべての文献は、各文献が単独で参照として援用されるように、本出願において参照として援用される。また、本発明に記載される内容を閲読した後、当業者にとって、本発明に対して行われる各種の変更または修正、及びこれらの等価形態は本願に添付された特許請求の範囲により限定される範囲に含まれることを理解すべきである。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]