特許第6908801号(P6908801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908801
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】ルーズフランジ及び管継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 23/032 20060101AFI20210715BHJP
【FI】
   F16L23/032
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2021-512045(P2021-512045)
(86)(22)【出願日】2020年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2020014213
(87)【国際公開番号】WO2020203846
(87)【国際公開日】20201008
【審査請求日】2021年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2019-68995(P2019-68995)
(32)【優先日】2019年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 博昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 啓司
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−096387(JP,A)
【文献】 特開2012−219917(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0069279(US,A1)
【文献】 実開昭58−042028(JP,U)
【文献】 実開昭60−112781(JP,U)
【文献】 実開昭56−176821(JP,U)
【文献】 特開2006−292058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 23/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタブエンドの外周に回転可能に嵌められて、接合相手のフランジと接合される、繊維強化樹脂からなるルーズフランジであって、
環状のフランジ本体と、
前記フランジ本体の1又は周方向に離れた複数箇所に形成されたウェルド部と、
前記フランジ本体の前記各箇所に、前記ウェルド部を跨ぐように設けられたウェルド位置リブと、
を備えたことを特徴とするルーズフランジ。
【請求項2】
前記ウェルド位置リブが、前記フランジ本体における前記接合相手のフランジとは反対側を向く背面から突出されていることを特徴とする請求項1に記載のルーズフランジ。
【請求項3】
前記ウェルド位置リブが、前記フランジ本体の径方向に延びていることを特徴とする請求項2に記載のルーズフランジ。
【請求項4】
前記ウェルド位置リブが、前記フランジ本体の内周面及び外周面に達していることを特徴とする請求項3に記載のルーズフランジ。
【請求項5】
前記フランジ本体の径方向から見た前記ウェルド位置リブの幅方向の両側の側端面と、前記フランジ本体の背面とによって一対の入隅コーナー部が形成されており、これら入隅コーナー部の間に前記ウェルド部が挟まれるように配置されていることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載のルーズフランジ。
【請求項6】
前記周方向に沿う、前記ウェルド位置リブの幅が、10mm以上20mm以下である請求項1〜5の何れか1項に記載のルーズフランジ。
【請求項7】
前記軸方向に沿う、前記ウェルド位置リブの前記フランジ本体からの突出高さが、2mm以上10mm以下である請求項1〜6の何れか1項に記載のルーズフランジ。
【請求項8】
前記フランジ本体には周方向に互いに離れて複数のリブが形成されており、前記リブの少なくとも一部が、前記ウェルド部上に配置されて前記ウェルド位置リブを構成していることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のルーズフランジ。
【請求項9】
前記フランジ本体には、前記ウェルド位置リブから周方向に離れてボルト穴が形成されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のルーズフランジ。
【請求項10】
前記フランジ本体内における前記繊維強化樹脂の強化繊維が、前記ウェルド部では実質的に周方向と交差する方向へ配向され、前記ウェルド部から周方向に離れた箇所では実質的に周方向へ配向されていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のルーズフランンジ。
【請求項11】
スタブエンドの外周に回転可能に嵌められて、接合相手のフランジと接合される、繊維強化樹脂からなるルーズフランジであって、
環状のフランジ本体と、
前記フランジ本体の1箇所又は周方向に離れた複数箇所に設けられたウェルド位置リブと、
を備え、前記フランジ本体内における前記繊維強化樹脂の強化繊維が、前記ウェルド位置リブの配置箇所では実質的に周方向と交差する方向へ配向され、前記ウェルド位置リブから周方向に離れた箇所では実質的に周方向へ配向されていることを特徴とするルーズフランジ。
【請求項12】
1の管の管端部に設けられて接合相手と接合される管継手であって、
前記管端部が挿入される筒状の管挿入部、及び前記管挿入部における接合相手側の端部から外周側へ突出するように設けられた環状のフレア部を含むスタブエンドと、
繊維強化樹脂からなり、前記スタブエンドの外周に回転可能に嵌められるルーズフランジと、
を備え、前記ルーズフランジが、
環状のフランジ本体と、
前記フランジ本体の1箇所又は周方向に離れた複数箇所に形成されたウェルド部と、
前記フランジ本体の前記各箇所に、前記ウェルド部を跨ぐように設けられたウェルド位置リブと、
を備えたことを特徴とする管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管どうしの接合に用いられるルーズフランジ及びルーズフランジ付きの管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場配管などの各種の管の端部には、他の管との接合用のフランジが設けられている。2つの管のフランジどうしがボルトなどで連結される。このとき、これらフランジのボルト穴どうしを一致させる必要があるところ、管全体を回すことでフランジを角度調節するのは容易でない。そこで、少なくとも一方の管のフランジとして、ルーズフランジが用いられる(特許文献1など参照)。ルーズフランジは、管の端部のスタブエンドの外周に回転可能に遊嵌される。
【0003】
従前の工場配管の多くは金属製であり、ルーズフランジにおいても金属製のものが多かった。一方、近年の樹脂合成技術の進歩によって、樹脂の機械強度、耐候性、耐薬品性、耐震性等が改良されたのに伴い、工場配管が金属管から、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の樹脂管に置き換わりつつある。これに応じて、樹脂製のルーズフランジが要望されている。
特許文献2には、フランジ付きの繊維強化樹脂短管を、繊維強化樹脂管の端部に接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−280674号公報
【特許文献2】特開2001−205707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者等は、樹脂製ルーズフランジの開発を進める中で、例えばポリ塩化ビニルなどの一般的な樹脂で成形しただけでは、該樹脂製ルーズフランジのボルト穴の付近がボルトの締め付けトルクによって破断されやすいという問題に直面した。そこで、ガラス繊維強化樹脂(GFRP;glass fiber reinforced plastics)を用いて射出成形を試行したところ、該GFRP製ルーズフランジにおいては、ボルト締め付けトルクを付与した時、ウェルド部において破断されやすいとの、新たな課題が生じた。ウェルド部においては、強化繊維の配向が、射出成形時の樹脂の流れ方向と直交する方向へ向けられるためと考えられる。
本発明は、かかる知見及び考察に基づくものであり、機械的強度が高く、ボルト締め付けトルクに耐え得る、繊維強化樹脂からなるルーズフランジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明は、スタブエンドの外周に回転可能に嵌められて、接合相手のフランジと接合される、繊維強化樹脂からなるルーズフランジであって、
環状のフランジ本体と、
前記フランジ本体の1又は周方向に離れた複数箇所に形成されたウェルド部と、
前記フランジ本体の前記各箇所に、前記ウェルド部を跨ぐように設けられたウェルド位置リブ(保護リブ)と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
ルーズフランジを繊維強化樹脂製とすることによって、ルーズフランジの剛性が高まる。
該ルーズフランジは、好ましくは射出成形によって製造される。すなわち、強化繊維が混入された原料樹脂の溶融体をゲートからルーズフランジ成形用環状キャビティへ供給する。溶融体は、ゲートから環状キャビティの周方向の2方向に分かれて流れる。ゲートから周方向に離れた所定位置で、前記2方向の溶融体どうしが合流され、ウェルド部が形成される。
強化繊維は、溶融体の流れに沿うために、ウェルド部から離れた非ウェルド部では概略周方向へ配向される。ウェルド部では周方向と交差する向きへ配向される。
該ウェルド部を跨ぐようにウェルド位置リブを設けることによって、応力が分散され、ウェルド部への応力集中が緩和される。これによって、繊維強化樹脂からなるルーズフランジの機械強度が高まり、ボルト締め付けトルク、管内圧、熱応力などによるウェルド部の割れが防止される。
【0008】
前記ウェルド位置リブが、前記フランジ本体における前記接合相手のフランジとは反対側を向く背面から突出されていることが好ましい。
これによって、ウェルド位置リブが、接合の邪魔にならないようにできる。ルーズフランジにおける前記接合相手のフランジを向く前面は平坦面にできる。
【0009】
前記ウェルド位置リブが、前記フランジ本体の径方向に延びていることが好ましい。
これによって、ウェルド位置リブをウェルド部に沿わせることができる。
【0010】
前記ウェルド位置リブが、前記フランジ本体の内周面及び外周面に達していることが好ましい。
これによって、ウェルド位置リブをウェルド部の延び方向の全域に被せることができる。
【0011】
前記フランジ本体の径方向から見た前記ウェルド位置リブの幅方向の両側の側端面と、前記フランジ本体の背面とによって一対の入隅コーナー部が形成されており、これら入隅コーナー部の間に前記ウェルド部が挟まれるように配置されていることが好ましい。
これによって、ボルト締め付け等によって、入隅コーナー部でも応力集中が起き得る。つまりは、ウェルド部に集まろうとする応力が、その両側直近の入隅コーナー部に分散される。これによって、ウェルド部が割れるのを確実に防止できる。
【0012】
前記周方向に沿う、前記ウェルド位置リブの幅は、10mm以上20mm以下であることが好ましく、13mm以上16mm以下であることがより好ましい。
これによって、ウェルド位置リブによる、ウェルド部からの応力分散効果ひいてはウェルド部での応力集中の抑制効果を確実に発揮できる。ウェルド位置リブの幅が狭すぎるとウェルド部での応力集中抑制効果が低下する。幅が広すぎると応力集中抑制効果が低下するうえに材料費が嵩む。
【0013】
前記軸方向に沿う、前記ウェルド位置リブの前記フランジ本体からの突出高さは、2mm以上10mm以下であることが好ましく、4mm以上6mm以下であることがより好ましい。
ウェルド位置リブの突出高さが小さ過ぎると、ウェルド部での応力集中抑制効果があまり得られない。突出高さが大き過ぎると応力集中抑制効果が低下するうえに材料費が嵩む。
【0014】
前記フランジ本体には周方向に互いに離れて複数のリブが形成されており、前記リブの少なくとも一部が、前記ウェルド部上に配置されて前記ウェルド位置リブを構成していることが好ましい。
ウェルド部の位置は、射出成形のゲートの位置に応じて決まる。したがって、ゲートの位置に応じて、ウェルド位置リブの配置を設定することが好ましい。
リブは、周方向に等間隔置きに配置されていることが、より好ましい。
【0015】
前記フランジ本体には、前記ウェルド位置リブから周方向に離れてボルト穴が形成されていることが好ましい。
ウェルド位置リブは、隣接する2つのボルト穴の中間部に配置されていることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、スタブエンドの外周に回転可能に嵌められて、接合相手のフランジと接合される、繊維強化樹脂からなるルーズフランジであって、
環状のフランジ本体と、
前記フランジ本体の1箇所又は周方向に離れた複数箇所に設けられたウェルド位置リブと、
を備え、前記フランジ本体内における前記繊維強化樹脂の強化繊維が、前記ウェルド位置リブの配置箇所では実質的に周方向と交差する方向へ配向され、前記ウェルド位置リブから周方向に離れた箇所では実質的に周方向へ配向されていることが好ましい。
ウェルド部にウェルド位置リブを設けることによって、ウェルドに加えて強化繊維の配向変化があっても、機械強度の低下を回避できる。
【0017】
また、本発明は、1の管の管端部に設けられて接合相手と接合される管継手であって、
前記管端部が挿入される筒状の管挿入部、及び前記管挿入部における接合相手側の端部から外周側へ突出するように設けられた環状のフレア部を含むスタブエンドと、
繊維強化樹脂からなり、前記スタブエンドの外周に回転可能に嵌められるルーズフランジと、
を備え、前記ルーズフランジが、
環状のフランジ本体と、
前記フランジ本体の1箇所又は周方向に離れた複数箇所に形成されたウェルド部と、
前記フランジ本体の前記各箇所に、前記ウェルド部を跨ぐように設けられたウェルド位置リブと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、機械的強度が高く、ボルト締め付けトルクに耐え得る繊維強化樹脂製ルーズフランジを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る管継手構造の側面断面図である。
図2図2は、前記管継手構造の分解側面断面図である。
図3図3(a)は、前記管継手構造における1の管継手のスタブエンドの平面図である。図3(b)は、前記スタブエンドの側面図である。
図4図4は、前記管継手の一部を拡大して示す断面図である。
図5図5は、前記管継手のルーズフランジの正面図である。
図6(a)】図6(a)は、前記ルーズフランジの第1態様を示す背面図である。
図6(b)】図6(b)は、前記ルーズフランジの第2態様を示す背面図である。
図6(c)】図6(c)は、前記ルーズフランジの第3態様を示す背面図である。
図7図7(a)は、図6(b)のVIIa−VIIa線に沿う断面図である。図7(b)は、図6(b)のVIIb−VIIb線に沿う断面図である。
図8図8は、図6(a)のVIII−VIII線に沿う断面図である。
図9図9は、本発明の第2実施形態に係るルーズフランジの断面図である。
図10図10は、実施例2の解析結果を示し、ウェルド位置リブの幅寸法とウェルドに作用する応力との関係を示すグラフである。
図11図11は、実施例2の解析結果を示し、ウェルド位置リブの高さ寸法とウェルドに作用する応力との関係を示すグラフである。
図12図12は、ルーズフランジの射出成形時の繊維強化樹脂溶融体の流動解析の結果を示す解説図である。
図13図13は、図12の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態>
図1は、工場配管における1の管10と相手管20との接合構造を示す。管10,20の材質は、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)その他の樹脂であり、強度、耐候性、耐薬品性等の観点から好ましくはPVCである。2つの管10,20が、管軸L上に一列に並んで配置され、管継手構造1によって接合されている。
【0021】
管継手構造1は、管継手13,23と、ボルト60及びナット61と、パッキン50を含む。各管10,20における対向端部12,22に管継手13,23が設けられている。これら管継手13,23のフランジ40,24どうしが、パッキン50を挟んで突き当てられ、かつボルト60及びナット61からなる締結具によって連結されている。
【0022】
図2に示すように、1の管10に設けられた管継手13は、筒状のスタブエンド30と、環状のルーズフランジ40を含む。
スタブエンド30の材質は、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)その他の樹脂であり、管10との接着性などを考慮して、管10と同じ材質であることが好ましい。管10がPVC製である場合、スタブエンド30の材質は、好ましくはPVCである。
【0023】
図3(a)及び同図(b)に示すように、スタブエンド30は、管挿入部31と、フレア部32を一体に有している。図2に示すように、管挿入部31は、挿入穴33を有する筒状に形成されている。挿入穴33は、前方(接合相手との対向側)へ向かって縮径するテーパ状になっている。管挿入部31の外周面には、抜け止め突起35が形成されている。管挿入部31の前端部(接合相手側の端部)には、フレア部32が設けられている。フレア部32は、厚肉の環状に形成され、管挿入部31から外周側へ突出されている。
図1に示すように、挿入穴33に管端部12が挿入される。更に、管挿入部31と管端部12とは樹脂用接着剤(図示省略)で接着される。
【0024】
図2に示すように、スタブエンド30の外周にルーズフランジ40が設けられている。ルーズフランジ40は、スタブエンド30に対して回転可能に遊嵌されている。
ルーズフランジ40の材質は、樹脂及び強化繊維を含む繊維強化樹脂である。ルーズフランジ40を構成する樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)その他の熱可塑性樹脂が挙げられ、好ましくはPE、PPなどのポリオレフィンであり、より好ましくはポリプロピレン(PP)である。
【0025】
ルーズフランジ40の強化繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維などが挙げられる。強化繊維の直径は、10μm〜15μm程度が好ましい。強化繊維の長さは、200μm〜1000μm程度が好ましい。強化繊維によって、ルーズフランジ40の剛性が高められている。
【0026】
図4図6(c)に示すように、ルーズフランジ40は、環状のフランジ本体41と、複数のリブ44を有している。図2に示すように、フランジ本体41は、フレア部32より大径の円環板状に形成されている。フランジ本体41の中心穴41cにスタブエンド30が通されている。図5及び図7(a)に示すように、中心穴41cの内周面には、ルーズフランジ40をスタブエンド30に装着する際に抜け止め突起35を越えるための逃げ凹部41gが形成されている。
中心穴41cの前側部(接合相手側の部分)には、フレア部32が収容される環状凹部42が形成されている。
【0027】
図5に示すように、フランジ本体41には、複数(例えば8つ)のボルト穴43が形成されている。これらボルト穴43は、ルーズフランジ40の周方向に間隔を置いて、好ましくは等間隔で配置されている。図4に示すように、各ボルト穴43は、フランジ本体41の接合相手側を向く前面41aから反対側の背面41bへ、厚み方向(管軸方向)に貫通している。
【0028】
図1に示すように、ルーズフランジ40が、相手管20(接合相手)の端部に設けられた管継手23のフランジ24とパッキン50を挟んで対向され、各ボルト穴43が、フランジ24のボルト穴25と位置合わせされている。これらボルト穴43,25にボルト60が通されて、ナット61で締め付けられている。これによって、管継手13,23どうしがボルト接合され、ひいては管10,20どうしが接合されている。
【0029】
図6(a)〜図6(c)に示すように、フランジ本体41の背面41b(接合相手のフランジ24とは反対側を向く面)には、複数(例えば4つ)のリブ44(後記ウェルド位置リブ44Aを含む)が形成されている。リブ44は、ルーズフランジ40の周方向に間隔を置いて配置されている。ルーズフランジ40全体の重量バランスや意匠性の観点から、リブ44は、ルーズフランジ20の周方向に沿って等間隔で配置されていることが好ましい。
【0030】
図7(a)に示すように、各リブ44は、背面41bから突出されるとともに、ルーズフランジ40の径方向(図7(a)において上下)へ延びている。好ましくは、リブ44の両端部は、ルーズフランジ40の外周面及び内周面に達している。
図6(a)〜図6(c)に示すように、リブ44は、ボルト穴43から周方向に離れて配置されている。すなわち、ルーズフランジ40におけるリブ44とボルト穴43の配置角度が互いにずれている。90°離れた2つのリブ44の間に、2つのボルト穴43が配置されている。
【0031】
図7(b)に示すように、さらに、フランジ本体41の背面41bには、複数の肉抜き凹部45が周方向に間隔を置いて形成されている。図6(a)〜図6(c)に示すように、各肉抜き凹部45は、隣接する2つのボルト穴43の間に配置されている。一部の肉抜き凹部45の配置角度がリブ44の配置角度と重複している。該重複する肉抜き凹部45は、リブ44によって二つに分割されている。
肉抜き凹部45によって、ルーズフランジ40が軽量化されている。
なお、肉抜き凹部45は省略してもよい。
【0032】
ルーズフランジ40は射出成形品である。
図6(a)〜図6(c)に示すように、ルーズフランジ40(フランジ本体41)の1又は周方向に離れた複数箇所には、射出成形によるウェルド部47が形成されている。ウェルド部47は、ルーズフランジ40の周方向と略直交する非平坦な断層面状である。
ルーズフランジ40においては、前記リブ44の少なくとも一部(以下「ウェルド位置リブ44A」と称す)が、ウェルド部47の形成箇所に配置されている。見方を変えると、ルーズフランジ40におけるウェルド部47の形成箇所の厚みが、その周辺の非ウェルド部の厚みより大きい。
【0033】
図6(a)〜図6(c)に示すように、ウェルド位置リブ44A(保護リブ)は、対応するウェルド部47を跨いでいる。
図8に示すように、ウェルド部47は、フランジ本体41からウェルド位置リブ44A内に入り込んで、ウェルド位置リブ44Aの突出端面44eに達している。好ましくは、ウェルド位置リブ44A内のウェルド部47は、ウェルド位置リブ44Aの幅方向の中央部に配置されている。
【0034】
図6(a)〜図6(c)に示すように、ウェルド位置リブ44の内周側端面は、フランジ本体41の内周面と面一をなしている。かつウェルド部47の内周側端部が、これらフランジ本体41の内周面及びウェルド位置リブ44Aの内周側端面に達している。
ウェルド位置リブ44の外周側端面は、フランジ本体41の外周面と面一をなしている。かつウェルド部47の外周側端部が、フランジ本体41の外周面及びウェルド位置リブ44Aの外周側端面に達している。
【0035】
図7(a)に示すように、ウェルド位置リブ44Aは、ルーズフランジ40の径方向(図7(a)において上下)に沿って一定の高さになっている。ルーズフランジ40の周方向から見たウェルド位置リブ44Aの断面形状は、長辺と短辺の比が大きい矩形状である。
図8に示すように、ルーズフランジ40の径方向から見たウェルド位置リブ44Aの断面形状は、長辺と短辺の比が前記周方向から見た比より小さい矩形状である。
【0036】
図8に示すように、ルーズフランジ40の径方向から見たウェルド位置リブ44Aの幅方向の両側の側端面44fと、フランジ本体41の背面41bとによって、一対の入隅コーナー部44gが形成されている。2つの入隅コーナー部44gの間にウェルド部47が挟まれるように配置されている。
入隅コーナー部44gの角度θ44gは、好ましくは60°以上100°以下であり、より好ましくは90°程度である。
【0037】
ウェルド位置リブ44Aの突出端面44eと両側の側端面44fとによって、一対の出隅コーナー部44hが形成されている。出隅コーナー部44hの角度θ44hは、好ましくは60°以上100°以下であり、より好ましくは90°程度である。
【0038】
図8に示すように、ウェルド位置リブ44Aの幅W44(ルーズフランジ40の周方向に沿う寸法)は、好ましくは10mm以上20mm以下であり、より好ましくは13mm以上16mm以下である。幅W44が小さ過ぎると、入隅コーナー部44gがウェルド部47に近すぎるために、ウェルド部47からの応力分散効果が低下する。幅W44が大き過ぎると、入隅コーナー部44gがウェルド部47から離れすぎるために、ウェルド部47からの応力分散効果が低下するうえに、材料費が嵩む。
フランジ本体41の背面41bからのウェルド位置リブ44Aの突出高さH44(管軸L方向に沿う寸法)は、好ましくは0.5mm以上30mm以下であり、より好ましくは2mm以上10mm以下であり、一層好ましくは4mm以上6mm以下である。高さH44が小さ過ぎると、ウェルド部47での応力集中抑制効果があまり得られない。高さH44が大き過ぎると、ウェルド部47での応力集中抑制効果が低下するうえに、材料費が嵩む。
【0039】
図6(a)〜図6(c)に示すように、ウェルド部47の形成箇所は、射出成形のゲート位置46に応じて決まる。
例えば、図6(a)に示すルーズフランジ40Aにおいては、該ルーズフランジ40Aの外周における1のリブ44の配置箇所に、白抜き矢印にて示すゲート位置46が1つだけ配置されている。ウェルド部47は、前記1つのゲート位置46に対して180°反対側のリブ44Aと同じ箇所に形成されている。
【0040】
図6(b)に示すルーズフランジ40Bにおいては、該ルーズフランジ40Bの内周における、互いに180°離れた2つのリブ44の配置箇所に、2つのゲート位置46が配置されている。これら2つのリブ44と90°離れた2つのリブ44Aと同じ箇所に、2つのウェルド部47が形成されている。
【0041】
図6(c)に示すルーズフランジ40Cにおいては、該ルーズフランジ40Cの内周面における、各リブから45°離れた4つの箇所にゲート位置46が配置されている。ゲート位置46どうしは90°間隔で配置されている。各ゲート位置46は、隣接する2つのボルト穴43の中間部に配置されている。4つのリブと同じ箇所に、4つのウェルド部47が形成されている。4つのリブがすべてウェルド位置リブ44Aとなっている。
何れのルーズフランジ40A,40B,40Cにおいても、ウェルド部47及びウェルド位置リブ44Aは、ボルト穴43から周方向に離れて配置されている。
ルーズフランジ40B,40Cのようにゲート位置46が複数ある場合は、周方向に隣接する2つのゲート位置46の中間地点がウェルド部47となる。
ウェルド位置リブ44Aとそれ以外のリブ44との寸法及び形状は同一であるが、異なっていてもよい。
【0042】
図12に示すように、ルーズフランジ40の射出成形時には、強化繊維を含む原料樹脂の溶融体が、ゲート位置46からルーズフランジ40の周方向の両側に分かれて、ウェルド部となる位置へ向けて、概略周方向に沿って流れる。そして、ウェルド部となる位置で合流される。強化繊維は、溶融体の流れ方向に沿って配向される。
このため、図13に示すように、ルーズフランジ40内(フランジ本体41内)におけるウェルド位置リブ44Aから周方向に離れた箇所、すなわち非ウェルド部では、繊維強化樹脂の強化繊維が実質的に概略周方向へ配向されている。ウェルド部47では、繊維強化樹脂の強化繊維が実質的に概略径方向(周方向と交差する方向)へ配向されている。さらに、ウェルド部47では、強化繊維どうしの絡み合いが少ない場合もある。
【0043】
2つの管10,20は、次のようにして接合される。
図2に示すように、まず、スタブエンド30の外周にルーズフランジ40を嵌めて、管継手13を組み立てておく。
該管継手13の管挿入部31に管端部12を差し込む。好ましくは、管挿入部31の内周面又は管端部12の外周面には接着剤を予め塗布しておき、管挿入部31に管端部12を接着する。
【0044】
このようにして管継手13を取り付けた1の管10と、管継手23を別途取り付けた相手管20とを一列に並べ、管継手13,23どうしをパッキン50を挟んで互いに向き合わせる。
続いて、管継手13のボルト穴43が管継手23のボルト穴25と合わさるように、ルーズフランジ40を角度調整する。ルーズフランジ40が回転可能であるために、ボルト穴43,25どうしを容易に合わせることができる。更に、パッキン50のボルト穴53を前記ボルト穴43,25と合わせる。
そして、ボルト60をボルト穴43,53,25に通して、ナット61で締め付ける。これによって、管継手13,23どうしが接合され、ひいては管10,20どうしが接合される。
【0045】
前記ボルト締め付けによって、ルーズフランジ40内に応力が発生する。特に、ウェルド位置リブ44Aにおいては、ウェルド部47だけでなく、該ウェルド部47を挟んで両側の入隅コーナー44g等でも応力集中が起き得る。このため、ウェルド部47に集まろうとする応力を分散させることができ、ウェルド部47における応力集中を緩和できる。要するに、ウェルド部47においては、射出成形樹脂のウェルドが形成されているだけでなく、強化繊維の配向が周囲と異なり、強化繊維どうしの絡み合いも少ないおそれがあるところ、それによる機械特性の低下を抑制できる。
この結果、ボルト締め付けトルクに対するルーズフランジ40の耐力が高まり、ボルト締め付け時にウェルド部47が割れるのを防止できる。更に、管内圧、熱応力などに対するルーズフランジ40の耐力をも高めることができる。
【0046】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の実施形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を簡略化する。
<第2実施形態>
図9に示すように、第2実施形態においては、ルーズフランジ40の周方向(図9において紙面直交方向)から見たウェルド位置リブ44Bの断面形状が、三角形状(山形)になっている。ウェルド位置リブ44Bの頂部44dは、ルーズフランジ40の内周と外周との中間部よりも内周側に偏って配置されている。
【0047】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。
例えば、ウェルド部47及びウェルド位置リブ44Aの数は、1つ、2つまたは4つに限らず、3つでもよく、5つ以上でもよい。
スタブエンド30は、管10と一体的に形成されていてもよい。
接合相手は、ルーズフランジ40と結合されるフランジを備える部材であって、管20の他、継手、タンクおよびポンプなどが挙げられる。
【実施例1】
【0048】
実施例について述べる。本発明は以下の実施例に限定されない。
図6(a)に示すように、1個のウェルド位置リブ44Aを有する繊維強化樹脂製ルーズフランジ40を射出成形によって作製した。ルーズフランジ40を構成する樹脂はポリプロピレン(PP)であり、強化繊維はガラス繊維であった。
該ルーズフランジ40をスタブエンド30の外周に嵌め込み、管継手13を作製した。スタブエンド30の材質はポリ塩化ビニル(PVC)であった。
かかる管継手13を相手側管継手23と向かい合わせて、パッキン50を挟んでボルト締めすることで管継手構造1を形成した。締め付けトルクは200N・mであった。
結果、ルーズフランジ40には全く破損部分がみられなかった。
【0049】
[比較例1]
実施例1に対する比較例1として、ウェルド位置リブ44Aを持たない繊維強化樹脂製ルーズフランジを射出成形によって作製した。該ルーズフランジを構成する樹脂はポリプロピレン(PP)であり、強化繊維はガラス繊維であった。これをスタブエンド30の外周に嵌め込み、管継手を作製した。スタブエンド30の材質はポリ塩化ビニル(PVC)であった。
かかる管継手を相手側管継手23と向かい合わせて、パッキン50を挟んでボルト締めすることで管継手構造を形成した。締め付けトルクは80N・mであった。
結果、ルーズフランジのウェルド部に沿って破損が確認された。
【0050】
[比較例2]
比較例2として、ウェルド部47及びウェルド位置リブ44Aを持たず、かつ強化繊維を含まない樹脂製ルーズフランジを用意した。該ルーズフランジを構成する樹脂はポリプロピレン(PP)であった。これをスタブエンド30の外周に嵌め込み、管継手を作製した。スタブエンド30の材質はポリ塩化ビニル(PVC)であった。
かかる管継手を相手側管継手23と向かい合わせて、パッキン50を挟んでボルト締めすることで管継手構造を形成した。締め付けトルクは120N・mであった。
結果、ルーズフランジのボルト穴近傍で破損が確認された。
実施例1によれば、比較例1−2に比べて、剛性が高く機械特性に優れたルーズフランジ、およびルーズフランジ付き管継手を得ることがわかった。
【実施例2】
【0051】
実施例2では、コンピュータシミュレーションによって、繊維強化樹脂製ルーズフランジにおけるウェルド位置リブ44Aの幅及び高さと、ウェルド部47に生じる応力との関係を解析した。
解析モデルとして、図6(a)に示す1個のウェルド位置リブ44Aを有するルーズフランジ40Aを適用した。
対応管10の口径は、50A〜200Aとした(表1及び表2)。
ウェルド位置リブ44Aの幅は、11.0mm〜17.0mmとした(表1)。
ウェルド位置リブ44Aの背面41bからの高さは、4.0mm〜6.0mmとした(表2)。
ウェルド位置リブ44Aを挟んで両側の2つのボルト穴43にそれぞれ通したボルト60の締め付けによって、これらボルト穴43の間の部分が、ウェルド位置リブ44Aを中心にして後方(図6(a)において紙面手前側)へ反るように変形しようとしたときの、ウェルド部47で発生する応力を解析した。
【0052】
ウェルド位置リブ44Aの幅に応じた応力の解析結果を表1及び図10に示す。
ウェルド位置リブ44Aの高さに応じた応力の解析結果を表2及び図11に示す。
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
ウェルド位置リブ44Aには、口径に応じて、ウェルド部47での応力を最小にする幅及び高さが存在することが確認された。
ウェルド位置リブ44Aの幅が10mm以上20mm以下であればウェルド部47での応力が許容範囲に収まると言える。
ウェルド位置リブ44Aの高さが2mm以上10mm以下であればウェルド部47での応力が許容範囲に収まると言える。
50A〜200Aの一般的な口径の場合、ウェルド位置リブ44Aの幅は13.0mm〜16.0mm程度がより好適であり、ウェルド位置リブ44Aの高さは4.0mm〜6.0mm程度がより好適であることが確認された。
【0055】
さらに、コンピュータシミュレーションによって、強化繊維含有樹脂の溶融体の射出成形時の流動による強化繊維の配向を解析した。
解析モデルとして、図6(a)に示す1個のゲート位置47と1個のウェルド位置リブ44Aを有するルーズフランジ40Aを適用した。
フランジ本体11の厚みは25mmに設定した。
リブ44の幅は、13mmに設定した。
リブ44の高さは、5mmに設定した。
結果を図12に示す。図13は、図12におけるウェルド位置リブ44Aの周辺部分を拡大したものである。
ウェルド部から離れた非ウェルド部では、強化繊維がルーズフランジの概略周方向に配向され、ウェルド部の近傍では、強化繊維がルーズフランジの概略径方向に配向されることが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1 管継手構造
10 1の管
12 管端部
13 管継手
20 相手管(接合相手)
24 フランジ
30 スタブエンド
31 管挿入部
32 フレア部
33 挿入穴
40 ルーズフランジ
40A,40B,40C ルーズフランジ
41 フランジ本体
41a 前面
41b 背面
44 リブ
44A ウェルド位置リブ(保護リブ)
44f 側端面
44g 入隅コーナー部
44e 突出端面
44h 出隅コーナー部
47 ウェルド部
46 ゲート位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13